(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085516
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】塩素含有粉体の水洗処理方法及び塩素含有粉体の水洗処理システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/80 20220101AFI20240620BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240620BHJP
C04B 7/60 20060101ALI20240620BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20240620BHJP
【FI】
B09B3/80 ZAB
C04B7/38
C04B7/60
B09B101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200056
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仙石 大洋
(72)【発明者】
【氏名】新島 瞬
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AB06
4D004AC04
4D004BA02
4D004CA40
4D004CB21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】塩素含有粉体の水洗処理をより効率的に行う方法を提供する。
【解決手段】塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置に導入して混合する混合工程と、前記連続式固液混合装置から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水工程と、を備え、前記連続式固液混合装置には、該装置に導入される前記塩素含有粉体と前記水とを収容するための混合処理域が備わり、前記混合工程における前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域における前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行う、塩素含有粉体の水洗処理方法を提供するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置に導入して混合する混合工程と、
前記連続式固液混合装置から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水工程と、を備え、
前記連続式固液混合装置には、該装置に導入される前記塩素含有粉体と前記水とを収容するための混合処理域が備わり、
前記混合工程における前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域における前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行う、塩素含有粉体の水洗処理方法。
【請求項2】
前記混合工程における前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域に敷設された回転翼により行う、請求項1記載の塩素含有粉体の水洗処理方法。
【請求項3】
前記脱水工程を経て得られた脱水物に水を加えて洗浄する洗浄工程を備える、請求項1記載の塩素含有粉体の水洗処理方法。
【請求項4】
前記塩素含有粉体は、焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗処理方法。
【請求項5】
塩素含有粉体と水とを混合するための連続式固液混合装置と、
前記連続式固液混合装置から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水装置と、を備え、
前記連続式固液混合装置には、該装置に導入される前記塩素含有粉体と前記水とを収容するための混合処理域が備わり、
前記連続式固液混合装置は、前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域における前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行うよう構成されたものである、塩素含有粉体の水洗処理システム。
【請求項6】
前記連続式固液混合装置は、前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域に敷設された回転翼により行うよう構成されたものである、請求項5記載の塩素含有粉体の水洗処理システム。
【請求項7】
前記脱水装置は、得られた脱水物に水を加えて洗浄することができるよう構成される、請求項5記載の塩素含有粉体の水洗処理システム。
【請求項8】
前記塩素含有粉体は、焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体であり、前記脱水装置による脱水の工程又は洗浄の工程を経て得られた結果物をセメント製造設備に搬送する搬送装置を備える、請求項5~7のいずれか1項に記載の塩素含有粉体の水洗処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有粉体の水洗処理方法及び塩素含有粉体の水洗処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ焼却施設から生じる焼却灰等の廃棄物については、セメント原料等として資源化することが行われている。セメント原料化による廃棄物のリサイクル処理において、塩素を含有する廃棄物は、その塩素によってセメント製造設備の閉塞等の問題を引き起こすおそれがあるため、必要に応じて水洗処理により含有塩素濃度を低減してから利用するようにしている。一方、近年には、種々の廃棄物の処理により、リサイクル処理の対象とされる塩素含有粉体の発生量が増加する傾向にある。
【0003】
従来、このような塩素含有粉体の水洗処理においては、所定容量を備えた撹拌機付き溶解槽を用いることが通常であった。すなわち、撹拌機付き溶解槽に塩素含有粉体と水とを投入して撹拌し、スラリー液相中に塩素分を溶出させて、その後の脱水により塩素分を除去していた。例えば、特許文献1には、セメント原料化処理方法に係る発明が開示されており、処理対象物1及び懸濁用水2が撹拌槽3に投入されて懸濁液となり、このとき、処理物に含まれている塩化物が水に溶出するものとされている(特許文献1の段落0023、
図1)。また、特許文献2には、焼却施設から排出される飛灰の処理方法に係る発明が開示されており、飛灰を飛灰撹拌槽1に供給し、洗浄用水を加えてスラリー化し、水溶性の塩を溶出させるものとされている(特許文献2の段落0045、
図1)。また、特許文献3には、焼却灰及び/又はセメントキルンダストの水洗脱水方法に係る発明が開示されており、20kgの焼却飛灰1に5倍量の水100リットルを添加し、スラリー貯槽2において撹拌混合するものとされている(特許文献3の段落0017、
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-100243号公報
【特許文献2】特開2002-316119号公報
【特許文献3】特開2006-110508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、撹拌機付き溶解槽を用いた方法では、所定の処理量を満たすよう槽容量を備えるためには相応サイズの設備を要し、また、粉体と水との混合やそれにともなうスラリーの形成に相応の時間を要するという問題があった。
【0006】
上記従来技術に鑑みて、本発明の目的は、塩素含有粉体の水洗処理をより効率的に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意研究したところ、塩素含有粉体と水との混合に連続式固液混合装置を用いることで、その塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーを効率的に調製することができ、塩素の除去効率も従来の撹拌機付き溶解槽を用いた方法と遜色ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記目的を達成するため、本発明は、第1に、
塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置に導入して混合する混合工程と、
前記連続式固液混合装置から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水工程と、を備え、
前記連続式固液混合装置には、該装置に導入される前記塩素含有粉体と前記水とを収容するための混合処理域が備わり、
前記混合工程における前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域における前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行う、塩素含有粉体の水洗処理方法を提供するものである。
【0009】
上記の塩素含有粉体の水洗処理方法によれば、塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置に導入して、その装置に備わる混合処理域における滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして固液混合を行うので、塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーを効率的に調製することができる。そして、これを脱水することにより、スラリーの液相に溶出した塩素分を取り除くことができる。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、第2に、上記塩素含有粉体の水洗処理方法において、前記混合工程における前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域に敷設された回転翼により行う、該水洗処理方法を提供するものである。
【0011】
上記の構成によれば、連続式固液混合装置に導入した塩素含有粉体と水との混合を、その装置に備わる混合処理域に敷設された回転翼により行うので、塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーの調製を、より確実に行うことができる。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、第3に、上記塩素含有粉体の水洗処理方法において、前記脱水工程を経て得られた脱水物に水を加えて洗浄する洗浄工程を備える、該水洗処理方法を提供するものである。
【0013】
上記の構成によれば、脱水工程を経て得られた脱水物に水を加えて洗浄するので、塩素含有粉体からの塩素分の除去を、より確実に行うことができる。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、第4に、上記塩素含有粉体の水洗処理方法において、前記塩素含有粉体は、焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体である、該水洗処理方法を提供するものである。
【0015】
上記の構成によれば、焼却灰等の焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体について、その資源化のため、効果的な水洗処理を施すことができる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、第5に、
塩素含有粉体と水とを混合するための連続式固液混合装置と、
前記連続式固液混合装置から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水装置と、を備え、
前記連続式固液混合装置には、該装置に導入される前記塩素含有粉体と前記水とを収容するための混合処理域が備わり、
前記連続式固液混合装置は、前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域における前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行うよう構成されたものである、塩素含有粉体の水洗処理システムを提供するものである。
【0017】
上記の塩素含有粉体の水洗処理システムによれば、塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置に導入して、その装置に備わる混合処理域における滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして固液混合を行うので、塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーを効率的に調製することができる。そして、これを脱水することにより、スラリーの液相に溶出した塩素分を取り除くことができる。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は、第6に、上記塩素含有粉体の水洗処理システムにおいて、前記連続式固液混合装置は、前記塩素含有粉体と前記水との混合を、前記混合処理域に敷設された回転翼により行うよう構成されたものである、該水洗処理システムを提供するものである。
【0019】
上記の構成によれば、連続式固液混合装置に導入した塩素含有粉体と水との混合を、その装置に備わる混合処理域に敷設された回転翼により行うので、塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーの調製を、より確実に行うことができる。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明は、第7に、上記塩素含有粉体の水洗処理システムにおいて、前記脱水装置は、得られた脱水物に水を加えて洗浄することができるよう構成される、該水洗処理システムを提供するものである。
【0021】
上記の構成によれば、脱水装置により脱水して得られた脱水物に水を加えて洗浄するので、塩素含有粉体からの塩素分の除去を、より確実に行うことができる。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明は、第8に、上記塩素含有粉体の水洗処理システムにおいて、前記塩素含有粉体は、焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体であり、前記脱水装置による脱水の工程又は洗浄の工程を経て得られた結果物をセメント製造設備に搬送する搬送装置を備える、該水洗処理システムを提供するものである。
【0023】
上記の構成によれば、焼却灰等の焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体について、その資源化のため、効果的な水洗処理を施すことができる。そして、その水洗処理を施した結果物をセメント製造設備に効率的に搬送することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塩素含有粉体を水洗処理するにあたり、連続式固液混合装置を利用して、その処理を効率的に行うことができる。また、焼却灰等の焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体について、その資源化のため、効果的な水洗処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明において行われる水洗処理の一実施形態を説明するフロー図である。
【
図2】本発明において用いられる連続式固液混合装置の一実施形態を表わす概略構成図である。
【
図3】本発明において用いられる連続式固液混合装置の他の実施形態を表わす概略構成図である。
【
図4】
図3に示す実施形態において混合手段として用いられる回転翼部材41の基本的構成を表す概略構成図である。
【
図5】本発明において行われる水洗処理の他の実施形態を説明するフロー図である。
【
図6】本発明において行われる水洗処理の別の実施形態を説明するフロー図である。
【
図7】試験例1において得られた脱水後ケーキの塩素濃度(質量%-dry)の結果を粉体処理量(kg/h)ごとに示す図表である。
【
図8】試験例1において得られたろ過時間(sec/500gスラリー)の結果を粉体処理量(kg/h)ごとに示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明が適用される処理対象としては、塩素を含有する粉体であればよく、特に制限はない。例えば、都市ごみ焼却施設から生じる焼却灰、焼却飛灰、バイオマス発電施設から生じるバイオマス灰、セメント製造工場のキルン排ガスから回収されるクリンカダスト、キルン窯尻から抽気したガスから回収される塩素バイパスダスト等の水洗処理に好適に用いられ得る。従来、これらの廃棄物には塩素(Cl)が10~40質量%程度の濃度で含まれているが、水洗処理を施したうえ、セメント原料として有効に資源化されている廃棄物である。本発明は、これら焼却又は/及び焼成により発生する塩素含有粉体の水洗処理に好適に用いられ得る。
【0027】
本発明によれば、塩素含有粉体の塩素の濃度を3質量%以下程度、より典型的には2質量%以下程度にまで低減し、これを例えばセメント原料等として有効に資源化することができる。塩素含有粉体の塩素の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、ISO 29581-2 Cement-Test methods-Part2:Chemical analysis by X-ray fluorescence、又はセメント協会標準試験方法JCAS I-05「蛍光X線分析によるセメント中の塩素の定量方法」等を準用した、蛍光X線分析法などが好ましく例示される。
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、これら図面により具体的に示される態様に限定されるものではない。
【0029】
図1には、本発明において行われる水洗処理の一実施形態を説明するフロー図を示す。
【0030】
この実施形態に示されるように、本発明による水洗処理は、塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置10に導入して混合する混合工程と、連続式固液混合装置10から排出された前記塩素含有粉体と前記水とを含んでなるスラリーを脱水する脱水工程とを備えるものである。
【0031】
水洗処理の対象となる塩素含有粉体としては、上述したとおりある。
【0032】
水洗処理のための水としては、水道水、工業用水などであってよく、特に制限はないが、その塩素イオン濃度は、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が特に好ましい。使用水の塩素イオン濃度が3質量%よりも大きい場合、塩素含有粉体の塩素含有量によっては塩素含有粉体からの塩素の溶出効率が低下する場合がある。通常、河川水や地下水等を由来とする工業用水の塩素濃度は0.005質量%程度である。
【0033】
本発明においては、
図1に示されるように、塩素含有粉体と水との混合を、連続式固液混合装置10を用いて行う。すなわち、塩素含有粉体と水とを連続式固液混合装置10に導入して混合してスラリー化し、連続式固液混合装置10から排出するようにしている。
【0034】
図2には、本発明において用いられる連続式固液混合装置の一実施形態を表わす概略構成図を示す。
【0035】
この実施形態に係る連続式固液混合装置10aは、粉体を導入するためのホッパー1と、水を導入するための導入管2と、塩素含有粉体と水とを収容するための混合処理域3とを備え、混合処理域3には混合手段として回転翼4が敷設されている。回転翼4は、直立した胴心部4aと胴心部4aの周縁を取り巻くスクリュー状の刃4bからなり、回転翼4の胴心部4aの底部端側(図中の下方側)には、回転動力Mがその回転動力を伝えるよう連通しており、胴心部4aの軸心を中心にして回転するようになっている。この回転翼4の回転にともない、混合処理域3に収容された塩素含有粉体と水とは、これらに共通する流束を生じさせつつ、該流束の全体又は部分領域にわたってスクリュー状の刃4bやその他の障害部からせん断応力を受ける。これにより、塩素含有粉体と水とはすばやく混合されてスラリー状になる。混合により生じたスラリーは、排出管5を通じて装置から排出されるようにしている。
【0036】
本発明においては、上記連続式固液混合装置による塩素含有粉体と水との混合を、装置に備わる混合処理域における塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーの滞留時間が0.1秒以上120秒以下であるようにして行う。ここで、「滞留時間」とは、装置に導入された粉体と水とが混合処理域3でスラリーになって排出されるまでに、該混合処理域に滞留する平均的な時間であるが、実質的には、装置に備わる混合処理域の容量(m3)を装置から排出されるスラリーの時間当たりの容積量(m3/h)で除した値として算出可能である。
【0037】
上記装置に導入される水の量比は、塩素含有粉体の重量の1~10倍量程度であってよく、2~5倍量程度がより好ましい。このような様態の装置であれば、混合処理域3における塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーの滞留時間が、通常、0.1秒以上120秒以下の条件を満たす。滞留時間は、0.1秒以上60秒以下がより好ましく、0.1秒以上30秒以下が特に好ましい。装置の容量(m3)は、塩素含有粉体の時間当たりの投入量と上記の量比を満たす水量を投入した際に、上記のスラリーの滞留時間を満たすような容量であればよい。
【0038】
なお、
図2において説明した実施形態に係る装置としては、例えば、連続式固液混合装置(インライン固液混合装置 MHD 2000/04、IKAジャパン株式会社)などが上市されている。また、ドイツ特許明細書DE19629945C2に開示された方法や装置の構成に沿って実施してもよい。
【0039】
図3には、本発明において用いられる連続式固液混合装置の他の実施形態を表わす概略構成図を示す。
【0040】
この実施形態に係る連続式固液混合装置10bは、粉体と水との混合物を導入するための導入管21と、導入した混合物を収容するための混合処理域31とを備え、混合処理域31には混合手段として回転翼部材41が敷設されている。混合処理域31に導入された粉体と水との混合物(懸濁状であってもよい)は、回転翼部材41により混合されて、その後、排出管22を通じて装置から排出されるようにしている。
【0041】
図4には、回転翼部材41の基本的構成を表す概略構成図を示す。
【0042】
この回転翼部材41は、ヘッド6とその一端に接合した柄7とからなり、全体としてスティック形状をしている。柄7の他端(ヘッド6とは反対側の一端)には、図中の上方に配設された回転動力Mがその回転動力を伝えるよう連通しており、柄7の軸心を中心にして、該柄7とともにヘッド6が回転するようになっている。ヘッド6は、全体として柄7の回転軸に対して垂直方向に膨出した形状をなしている。具体的には、上側フランジ部材6aと、リング部材6bと、下側フランジ部材6cと、中軸嵌合部材6dと、キャップ部材6eとから構成されている。筒状をした中軸嵌合部材6dは、上側フランジ部材6aの中央部に設けられた中心穴60と下側フランジ部材6cの中央部に設けられた中心穴61を貫通しつつ、その一端が接合リング部材6f,6fを介してキャップ部材6eに勘合し、その他端が接合リング部材6f,6fを介して、柄7の一端に勘合している。更に、上側フランジ部材6aの図中下方に向けて拡径した斜面の端部である、上側フランジ部材周縁端部601と、下側フランジ部材6cの図中上方に向けて拡径した斜面の端部である、下側フランジ部材周縁端部611とで、リング状をしたリング部材6bを挟み込むようにして勘合し、接合している。両フランジ部材6a,6cの斜面領域の一部には複数のせん断孔600,610が設けられており(図中、上下各4つ)、それらフランジ部材6a,6cに挟まれたリング部材の側面にも、複数のせん断孔620が設けられている。上側フランジ部材6aに設けられたせん断孔600は互いに山笠状の円周方向に沿って等間隔に設けられ、下側フランジ部材6cに設けられたせん断孔610も互いに山笠状の円周方向に沿って等間隔に設けられ、だたし、上下方向から見たとき、少しずれて整合するようにしている。また、リング部材6bに設けられたせん断孔620は、互いにリング状の円周方向に沿って等間隔に設けられ、ただし、図中の上方から順に、第1列目と第2列とは、図中の上下方向にみたときに互いに整合せず、第2列と第3列とは、図中の上下方向にみたときに互いに整合しないように配置されている。また、キャップ部材6eにもせん断孔630が設けられている。
【0043】
以上のように説明したスティック形状の混合手段を、柄7に接合したヘッド6(本発明における「回転翼」に相当するものとする。)が、塩素含有粉体と水と導入され、収容されている容器(本発明における「混合処理域」をなす。)に、ヘッド6が十分に混合処理域3内の内容物に漬かるよう挿入し(
図3参照)、回転動力Mにより回転させると、その回転にともない、混合処理域31に収容された塩素含有粉体と水とは、これらに共通する流束を生じさせつつ(
図4中、矢印参照)、該流束の全体又は部分領域にわたって、両フランジ部材6a,6cに設けられたせん断孔600,610やリング部材6bに設けられたせん断孔620やキャップ部材6eに設けられたせん断孔630やその他の障害部からせん断応力を受ける。これにより、塩素含有粉体と水とがすばやく混合されてスラリー状になる。混合により生じたスラリーは、排出管22を通じて装置から排出されるようにしている(
図3参照)。
【0044】
ここで、
図3及び
図4において説明した態様の装置を用いる場合も、塩素含有粉体の装置への投入量(kg/h)や、粉体に対する使用水の量比(倍量)や、混合処理域の容量(m
3)や、上記滞留時間(秒)などについて、本発明における好ましい条件としては、上述した、
図2において説明した実施形態に係る装置における好ましい範囲と同様である。
【0045】
なお、
図3及び
図4において説明した実施形態に係る装置としては、例えば、連続式固液混合装置(フラッシュブレンド粉/液混合ミキサー、シルバーソン社)などが上市されている。また、米国特許明細書US2002/0118597A1に開示された方法や装置の構成に沿って実施してもよい。
【0046】
本発明においては、上記連続式固液混合装置から排出された塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーを脱水する。そのための脱水装置としては、スラリーの液部を固部から分離して取り除くことができればよく、特に制限はない。例えば、ベルトフィルター、フィルタープレス、遠心分離装置などを使用できる。
【0047】
限定されないが、本発明においては、上記脱水後に得られるケーキの含水率が、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。脱水を経た後のケーキの含水率が80質量%を超えると、スラリー液相に溶出した塩素分を十分に取り除けていない場合がある。
【0048】
図5には、本発明において行われる水洗処理の他の実施形態を説明するフロー図を示す。
【0049】
この実施形態に示されるように、本発明による水洗処理は、限定されない任意の態様においては、上記脱水工程を経て得られた脱水物に水を加えて洗浄する洗浄工程を備えるものであってよい。これによれば、脱水を経た後の脱水物には、水洗処理した塩素濃度の高い付着水が含まれている。これを水で洗浄することにより、付着水中の塩素を除去して、その結果、得られる脱水後ケーキの塩素含有量をより低減させることができる。
【0050】
この場合、限定されないが、洗浄のための水の量比としては、水洗処理に投入された塩素含有粉体の重量に換算して、その1~10倍量程度であってよく、1~5倍量程度がより好ましい。また、上記ケーキ洗浄後に得られるケーキの含水率が、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。ただし、洗浄を経た後のケーキの含水率が80質量%を超えると、続けて、セメント工場施設に搬送したりするためコストかかったり、倉庫で保管するため取扱性が悪くなったりする場合がある。
【0051】
ここで、上記脱水のための脱水装置20は、得られた脱水物に水を加えて洗浄することができるよう構成されることが好ましい。すなわち、脱水装置20において、上記した脱水工程と水洗工程の両方を行うことができるように構成されていることが好ましい。例えば、上述したように、ベルトフィルター、フィルタープレス、遠心分離装置などを使用できる。
【0052】
図6には、本発明において行われる水洗処理の別の実施形態を説明するフロー図を示す。
【0053】
この実施形態においては、上記脱水工程又は上記洗浄工程を経て得られた結果物をセメント製造設備に搬送するようにしている。この場合、搬送装置30としては、ベルトコンベア等の汎用の搬送手段を利用することができる。
【0054】
なお、本発明により得られた脱水後ケーキ又は洗浄後ケーキをセメント原料として利用する場合、ケーキは乾燥させてもよいが、含水率として50質量%程度の水分が含まれていてもよい。また、上述したような塩素含有粉体の水洗工程と、得られた脱水後ケーキ又は洗浄後ケーキの搬送工程とは、それらをインラインで構成し、塩素含有粉体の水洗処理システムを構成するようにしてもよい。
【実施例0055】
以下、試験例を示しつつ本発明について更に詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、これら試験例により具体化される態様に限定されるものではない。
【0056】
[試験例1]
1)塩素含有粉体
セメント工場で発生した塩素バイパスダスト(蛍光X線分析:塩素含有量23.8質量%)を使用した。
【0057】
2)塩素含有量
蛍光X線分析により測定した。脱水ケーキについては、105℃で乾燥、粉砕したものを測定した。
【0058】
3)固液混合
粉体(塩素バイパスダスト)に対し4倍量(重量比)の水を加えて、実施例もしくは比較例の手段でスラリーを作製した。
実施例の手段としては、連続式固液混合装置(インライン固液混合装置 MHD 2000/04、IKAジャパン株式会社)を使用した。
比較例の手段としては、撹拌機付き溶解槽を使用し、撹拌時間を30分間とした。
【0059】
4)水準
実施例1においては、連続式固液混合装置への粉体(塩素バイパスダスト)の投入量(kg)は、装置での処理の時間(h)当たり10kg/hとした。
比較例1においては、撹拌機付き溶解槽へ投入した粉体(塩素バイパスダスト)の量(kg)は、実施例1の処理時間当たりの量(10kg/h)と同じとした。
実施例2においては、時間当たりの粉体(塩素バイパスダスト)及び水の投入量を、それぞれ実施例1の2倍とし、ただしその固液混合処理の際の装置内での滞留時間が実施例1と同じとなるようにした。
実施例3においては、時間当たりの粉体(塩素バイパスダスト)及び水の投入量を、それぞれ実施例1の3倍とし、同様に、装置内での滞留時間が実施例1と同じとなるようにした。
【0060】
5)脱水・ケーキ洗浄
作製したスラリーの500gを吸引ろ過にかけて脱水し、脱水物であるケーキに対して、更に、吸引ろ過に供したスラリー構成する塩素バイパスダスト当たり2.5倍量(重量比)の水を加えて、吸引し、ケーキ洗浄を実施した。
【0061】
6)評価方法
・脱水ケーキの塩素含有量
脱水・ケーキ洗浄した後の脱水ケーキの塩素含有量を測定した。
・脱水時のろ過時間
作製したスラリーの500gを吸引ろ過器のブフナー型ロートに載置したろ紙上に載せ、吸引を開始してから、スラリーから水分が除かれてケーキが形成した時点で、ケーキ洗浄のため更に水を加えて吸引を続け、その後ケーキ表面から水分が無くなるまでの時間を計測した。
【0062】
【0063】
【0064】
その結果、以下のことが明らかとなった。
(1)水洗処理後のケーキの塩素含有量は、比較例1の1.02質量%と比べて、実施例1では0.80質量%、実施例2では0.78質量%と少なく、実施例3では1.01%と同等であった。
(2)脱水・ケーキ洗浄のためのろ過時間は、比較例1の138.0sec/500gスラリーと比べて、実施例2では92.0sec/500gスラリー、実施例3では90.3sec/500gスラリーと短縮できた。一方、実施例1では148.7sec/500gスラリーと比較例1より長くなった。
(3)実施例1のろ過時間と比較して、実施例2,3のろ過時間の結果にみられるように、粉体の処理量を増やすとろ過時間がより短縮される傾向がみられた。これは、別途、水洗処理後の結果物の粒度を測定したところ、実施例3のほうが比較例1よりも粒径が粗い傾向がみられたことから、連続式固液混合装置による粉体の粉砕効果によって塩素バイパスダストの粒度が細粉化し過ぎると、かえってろ過時間を増加させる効果があるためと考えられた。
(4)以上の結果から、塩素含有粉体と水との混合に連続式固液混合装置を用いることで、その塩素含有粉体と水とを含んでなるスラリーを効率的に調製することができ、塩素の除去効率も従来の撹拌機付き溶解槽を用いた方法と遜色ないことが明らかとなった。