(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085538
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】鋳型の製造方法、鋳型の製造システム、及び鋳物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/12 20060101AFI20240620BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20240620BHJP
B22C 1/18 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B22C9/12 H
B22C1/10 C
B22C1/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200102
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】西川 和之
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 正則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】青木 知裕
(72)【発明者】
【氏名】善甫 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲司
【テーマコード(参考)】
4E092
4E093
【Fターム(参考)】
4E092AA18
4E092BA04
4E093RD05
(57)【要約】
【課題】水ガラスを含む鋳型の注湯時における変形を低減できる技術を提供する。
【解決手段】鋳型の製造方法は、水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造方法である。この鋳型の製造方法は、鋳型を造型する工程と、造型された鋳型を抜型する工程と、抜型された鋳型を脱水処理する工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造方法であって、
前記鋳型を造型する工程と、
造型された前記鋳型を抜型する工程と、
抜型された前記鋳型を脱水処理する工程と、
を備える、鋳型の製造方法。
【請求項2】
前記脱水処理する工程では、抜型された前記鋳型を熱処理する、
請求項1に記載の鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理する工程では、200℃以上、かつ、280℃以下の温度で前記熱処理を行う、
請求項2に記載の鋳型の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理する工程では、5分間以上、かつ、25分間以下の時間で前記熱処理を行う、
請求項2に記載の鋳型の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の鋳型の製造方法を含む鋳物の製造方法であって、
脱水処理された前記鋳型に注湯する工程を備え、
前記注湯する工程では、注湯温度が1000℃以上の金属が注湯される、
鋳物の製造方法。
【請求項6】
水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造システムであって、
前記鋳型を造型する造型部と、
造型された前記鋳型を抜型する抜型部と、
抜型された前記鋳型を熱処理する熱処理部と、
前記造型部と、前記抜型部と、前記熱処理部と、熱処理された前記鋳型に注湯する注湯部とを接続している搬送経路に沿って前記鋳型を搬送する搬送部と、
を備え、
前記搬送経路において、前記熱処理部は、前記抜型部の下流、かつ、前記注湯部の上流に配置されている、
鋳型の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳型の製造方法、鋳型の製造システム、及び鋳物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、無機コーテッドサンドを用いた鋳型の製造方法を開示する。無機コーテッドサンドは、耐火性骨材と、耐火性骨材の表面を被覆した水ガラスから構成されたバインダとを有する。バインダはカルシウム化合物を含有する。無機コーテッドサンドは、加熱された成形金型に充填されて造型される。水ガラスとカルシウム化合物とは、鋳造時に溶融金属の熱で反応し、高融点結晶に結晶化する。高融点結晶は溶融金属の熱に曝されても溶融しないため、鋳型の変形が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の製造方法は、水ガラスにカルシウム化合物を添加する必要がある。より簡易な手法で鋳型の注湯時における変形を抑制するために、改善の余地がある。本開示は、水ガラスを含む鋳型を用いて寸法精度の高い鋳物を得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る製造方法は、水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造方法である。この鋳型の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備える。
(1)鋳型を造型する工程。
(2)造型された鋳型を抜型する工程。
(3)抜型された鋳型を脱水処理する工程。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、水ガラスを含む鋳型を用いて寸法精度の高い鋳物を得る技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る鋳型の製造システムの一例を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る鋳型の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3の(A)は、実施例及び比較例に用いられる鋳型の寸法構成を示す断面図である。
図3の(B)は、鋳型の寸法構成を示す断面図である。
図3の(C)は、実施例及び比較例に用いられた鋳物の変形量を示す断面図である。
【
図4】
図4の(A)は、実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図4の(B)は、実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
【
図5】
図5の(A)は、別の実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図5の(B)は、別の実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
【
図6】
図6の(A)は、更に別の実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図6の(B)は、更に別の実施例での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
【
図7】
図7の(A)は、実施例での熱処理時間と変形量との関係を示すグラフである。
図7の(B)は、実施例での熱処理時間と変形量との関係を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0009】
(条項1) 本開示の一側面に係る鋳型の製造方法は、水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造方法である。この鋳型の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備える。
(1)鋳型を造型する工程。
(2)造型された鋳型を抜型する工程。
(3)抜型された鋳型を脱水処理する工程。
【0010】
条項1に係る鋳型の製造方法では、抜型された鋳型は脱水処理される。脱水処理によって鋳型に含まれる水ガラスの結合水は除去されるので、鋳型に含まれる結合水の量は減少する。注湯時において、鋳型から発生する水蒸気の量が減少することで、バインダの結合力が水蒸気によって低下することが抑制される。つまり、この製造方法では、注湯時において変形しにくい鋳型が製造される。よって、この製造方法によれば、水ガラスを含む鋳型を用いて寸法精度の高い鋳物を得ることができる。
【0011】
(条項2) 条項1に記載の鋳型の製造方法において、脱水処理する工程では、抜型された鋳型を熱処理してもよい。熱処理によって鋳型に含まれる水ガラスの結合水は蒸発するので、鋳型に含まれる結合水の量は減少する。
【0012】
(条項3) 条項2に記載の鋳型の製造方法において、熱処理する工程では、200℃以上、かつ、280℃以下の温度で熱処理を行ってもよい。
【0013】
(条項4) 条項2又は条項3に記載の鋳型の製造方法において、熱処理する工程では、5分間以上、かつ、25分間以下の時間で熱処理を行ってもよい。
【0014】
(条項5)
本開示の更に別の側面に係る鋳物の製造方法は、条項1~条項4の何れか一項に記載の鋳型の製造方法を含む鋳物の製造方法である。この鋳物の製造方法は、脱水処理された鋳型に注湯する工程を備える。注湯する工程では、注湯温度が1000℃以上の金属が注湯される。従来の水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型では、注湯温度が1000℃以上の金属が注湯されたときの鋳型の変形が大きいので、鋳物の寸法精度が低下するおそれがある。この鋳物の製造方法では、上述したように、注湯時に鋳型から発生する水蒸気の量が減少するので、注湯温度が1000℃以上の金属が注湯されたときの鋳型の変形を低減できる。したがって、この鋳物の製造方法は、鋳物の寸法精度の低下を抑制できる。
【0015】
(条項6) 本開示の別の側面に係る鋳型の製造システムは、水ガラスから構成されるバインダを含む鋳型の製造システムである。この鋳型の製造システムは、造型部、抜型部、熱処理部及び搬送部を備える。造型部は、鋳型を造型する。抜型部は、造型された鋳型を抜型する。熱処理部は、抜型された鋳型を熱処理する。搬送部は、造型部と、抜型部と、熱処理部と、注湯部とが接続されている搬送経路に沿って鋳型を搬送する。注湯部は、熱処理された鋳型に注湯する。搬送経路において、熱処理部は、抜型部の下流、かつ、注湯部の上流に配置されている。
【0016】
条項6に係る鋳型の製造システムでは、鋳型は、抜型部、熱処理部、及び注湯部を接続している搬送経路に沿って搬送される。搬送経路において、熱処理部は、抜型部の下流、かつ、注湯部の上流に配置されている。したがって、製造システムで搬送される鋳型は、抜型の後、かつ、注湯の前に熱処理をされ得る。上述したように、注湯時において鋳型から発生する水蒸気の量が減少するので、この製造システムは、注湯時における変形を低減した鋳型を製造し得る。よって、この製造システムは、水ガラスを含む鋳型を用いて寸法精度の高い鋳物を得ることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0018】
図1は、実施形態に係る鋳型の製造システム1の一例を概略的に示す構成図である。鋳型の製造システム1は、鋳型Mを製造する。鋳型Mは、砂鋳型である。鋳型Mは、骨材及びバインダを含む。本実施形態では、バインダは、水ガラスから構成される。水ガラスとは、ケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液である。本実施形態では、水ガラスに含まれる無水ケイ酸(SiO
2)、酸化ソーダ(Na
2O)、及び水(H
2O)との間の混合比は限定されない。以下では、骨材にバインダを加えて混錬したものを鋳物砂と呼ぶ場合がある。
【0019】
鋳型の製造システム1は、造型部10、抜型部20、熱処理部30、及び搬送部40を備える。抜型部20と熱処理部30との間には、中子セット場21が設けられていてもよい。
図1に示されるように、鋳型の製造システム1は、鋳物の製造システム1Aの一部であってもよい。鋳物の製造システム1Aは、注湯部50を更に備える。
【0020】
造型部10は、鋳枠Fを用いて鋳型Mを造型する。鋳型Mは、自硬性鋳型、熱硬化性鋳型、及びガス硬化性鋳型のうち何れかであればよい。鋳型Mが自硬性鋳型である場合には、鋳物砂に混錬された硬化剤の作用により、鋳物砂は、時間経過で硬化する。鋳型Mが熱硬化性鋳型である場合には、鋳物砂は、所定の温度に加熱されることで硬化する。鋳型Mがガス硬化性鋳型である場合には、鋳物砂は、所定のガスを通気されることで硬化する。以下では、鋳型Mが自硬性鋳型である実施形態について説明する。
【0021】
鋳型Mは、一対で構成される上型及び下型の何れか一方、又は中子である。以下では、鋳型Mが上型又は下型である場合について説明する。造型部10は、パターン(模型)が配置された鋳枠F内に鋳物砂を充填し、鋳枠F内の鋳物砂を加圧して固める。固められた鋳物砂は、時間経過で硬化する。時間経過で硬化した鋳物砂は、鋳型Mを形成する。形成された鋳型Mは、搬送部40によって、抜型部20に搬送される。
【0022】
搬送部40は、搬送経路に沿って鋳型Mを搬送する。搬送経路は、造型部10と、抜型部20と、中子セット場21と、熱処理部30と、注湯部50とを接続している。搬送部40は、造型部10、抜型部20、熱処理部30、注湯部50の順番で鋳型Mを搬送する。搬送経路において、造型部10の側が上流であり、注湯部50の側が下流である。搬送経路において、熱処理部30は、抜型部20の下流、かつ、注湯部50の上流に配置されている。
【0023】
搬送部40は、例えば、ローラコンベヤ、駆動ローラ、レール、鋳型M及び鋳枠Fが載置されレール上を走行する台車、造型部10側に配置されたプッシャ装置、及び注湯部50の側に配置されたクッション装置などを有してもよい。搬送部40は、ローラコンベヤ又はレール上に等間隔で配列された複数の鋳型M及び鋳枠Fを造型部10から順次搬送する。搬送部40は、間欠駆動し、鋳型M及び鋳枠Fを所定の枠分ずつ搬送する。所定の枠分は1枠でもよいし複数枠でもよい。
【0024】
抜型部20は、造型された鋳型Mを鋳枠F及びパターンから抜型する。抜型部20は、例えば、昇降機を有する。昇降機は、鋳枠F又はパターンを持ち上げることで、鋳型Mを抜型する。抜型された鋳型Mは、搬送部40によって、中子セット場21に搬送される。造型部10及び抜型部20は、一体に構成されていてもよい。
【0025】
中子セット場21には、作業者が駐留しており、鋳型Mに中子をセットする。または、装置が鋳型Mに中子を自動でセットしてもよい。中子をセットされた鋳型Mは、搬送部40によって、熱処理部30に搬送される。
【0026】
熱処理部30は、抜型された鋳型Mを熱処理する。熱処理部30は、例えば、乾燥炉を有してもよい。鋳型Mは、乾燥炉の内部に搬送される。乾燥炉の内部に搬送された鋳型Mが含む水分は、熱処理によって減少する。鋳型Mが含む水分は、例えば、水ガラスに含まれる結合水、又は鋳型Mの表面に付着している水である。
【0027】
熱処理部30は、鋳型Mを所定の条件で熱処理してもよい。熱処理部30は、200℃以上、かつ、280℃以下の温度で熱処理をしてもよい。熱処理部30は、5分間以上、かつ、25分間以下の時間で熱処理をしてもよい。熱処理の条件は、例えば、熱処理部と通信可能に構成された制御部60が制御してもよい。熱処理された鋳型Mは、搬送部40によって、注湯部50に搬送される。
【0028】
注湯部50は、熱処理された鋳型Mに金属の溶湯を注湯する。溶湯を構成する金属は、例えば、鋳鉄、銅合金、アルミニウム合金、又はマグネシウム合金である。注湯するときの注湯温度は、1000℃以上であってもよい。鋳鉄及び銅合金は、それぞれ1000℃以上の融点を有する。したがって、鋳鉄又は銅合金の溶湯では、注湯温度は、1000℃以上である。注湯温度は、注湯部50と通信可能に構成された制御部60が制御してもよい。溶湯が注湯された鋳型Mは、冷却される。冷却された鋳型Mから、鋳物が取り出される。
【0029】
鋳型の製造システム1では、鋳型Mは、抜型部20、熱処理部30、及び注湯部50を接続している搬送経路に沿って搬送される。搬送経路において、熱処理部30は、抜型部20の下流、かつ、注湯部50の上流に配置されている。したがって、製造システム1で搬送される鋳型Mは、抜型の後、かつ、注湯の前に熱処理をされる。結果として、注湯時に鋳型Mから発生する水蒸気の量が減少するので、鋳型の製造システム1は、注湯時における変形を低減した鋳型Mを製造し得る。よって、鋳型の製造システム1は、水ガラスを含む鋳型Mを用いて寸法精度の高い鋳物を得ることができる。
【0030】
図2は、実施形態に係る鋳型の製造方法MTを示すフローチャートである。上述したように、鋳型Mは、水ガラスから構成されるバインダを含む。鋳型の製造方法MTは、鋳型の製造システム1によって実行されてもよい。鋳型の製造方法MTは、作業者によって実行されてもよい。
【0031】
鋳型の製造方法MTは、鋳型Mを造型する工程(ステップS10)と、造型された鋳型Mを抜型する工程(ステップS20)と、抜型された鋳型Mを熱処理する工程(ステップS30)とを備える。鋳型の製造方法MTは、中子をセットする工程(ステップS21)を備えてもよい。中子をセットする工程(ステップS21)は、造型された鋳型Mを抜型する工程(ステップS20)と、抜型された鋳型Mを熱処理する工程(ステップS30)との間で実行される。鋳型の製造方法MTは、鋳物の製造方法MTAの一部であってもよい。鋳物の製造方法MTAは、熱処理された鋳型Mに注湯する工程(ステップS50)を備える。
【0032】
最初に、鋳型Mを造型する工程(ステップS10)が実行される。鋳型Mを造型する工程(ステップS10)では、パターンが配置された鋳枠F内に鋳物砂が充填され、鋳枠F内の鋳物砂は、加圧によって固められる。
【0033】
鋳型Mを造型する工程(ステップS10)は、自硬性プロセス、熱硬化性プロセス、及びガス硬化性プロセスのうちの何れかを含んでもよい。自硬性プロセスは、自硬性鋳型に対応する。自硬性プロセスでは、鋳物砂に硬化剤が混錬される。鋳型に充填された鋳物砂は、時間経過で硬化する。熱硬化性プロセスは、熱硬化性鋳型に対応する。熱硬化性プロセスでは、鋳型に充填された鋳物砂は、所定の温度に加熱される。ガス硬化性プロセスは、ガス硬化性鋳型に対応する。ガス硬化性プロセスでは、鋳型に充填された鋳物砂は、所定のガスが通気される。以下では、鋳型Mを造型する工程が自硬性プロセスを含む実施形態について説明する。
【0034】
次に、造型された鋳型Mを抜型する工程(ステップS20)が実行される。鋳型Mを抜型する工程(ステップS20)では、造型された鋳型Mは、鋳枠F及びパターンから抜型される。
【0035】
次に、中子をセットする工程(ステップS21)が実行される。中子をセットする工程(ステップS21)では、抜型された鋳型Mに中子がセットされる。
【0036】
次に、抜型された鋳型Mを熱処理する工程(ステップS30)が実行される。熱処理を実行された鋳型Mの含む水分は、熱処理によって減少する。鋳型Mは、所定の条件で熱処理されてもよい。鋳型Mは、200℃以上、かつ、280℃以下の温度で熱処理されてもよい。鋳型Mは、5分間以上、かつ、25分間以下の時間で熱処理されてもよい。熱処理の条件は、例えば、作業者によって設定される。
【0037】
最後に、熱処理された鋳型Mに注湯する工程(ステップS50)が実行される。溶湯を注湯するときの注湯温度は、1000℃以上であってもよい。例えば、1000℃以上の融点を有する鋳鉄又は銅合金の溶湯が注湯されるとき、注湯温度は、1000℃以上である。注湯温度は、作業者によって設定されてもよい。溶湯が注湯された鋳型Mは、冷却される。冷却された鋳型Mから、鋳物が取り出される。
【0038】
(実施形態のまとめ)
鋳型Mに注湯する工程が実行される場合、溶湯は、鋳型Mに含まれる水分を水蒸気に変化させると共に鋳型Mに注湯圧を加える。発生した水蒸気は、鋳型Mのバインダの結合力を低下させる。バインダの結合力が低下している鋳型Mに注湯圧が加わると、鋳型Mが変形し、鋳型Mの鋳物の寸法精度が低下するおそれがある。鋳型の製造方法MTでは、鋳型Mを抜型する工程の後、かつ、鋳型Mに注湯する工程の前に、抜型された鋳型Mに熱処理する工程が実行される。熱処理によって鋳型Mに含まれる水分が蒸発するので、注湯する工程において鋳型Mから水蒸気が発生しづらくなる。結果として、注湯する工程において鋳型Mのバインダの結合力は維持され、注湯圧による鋳型Mの変形が抑制される。したがって、鋳型の製造方法MTは、注湯時において変形しない鋳型M(注湯時において変形量が小さい鋳型M)を製造し得る。よって、鋳型の製造方法MTによれば、水ガラスを含む鋳型Mを用いて寸法精度の高い鋳物を得ることができる。
【0039】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、本開示は上記実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0040】
上記実施形態では、脱水処理として熱処理が例示されたが、脱水処理は熱処理に限定されない。脱水処理は、抜型された鋳型から水分を逃がす処理であってもよいし、抜型された鋳型から水分を除去する処理であってもよい。鋳型の製造システム1は、熱処理部30の代わりに脱水処理部を備えていてもよい。
【実施例0041】
以下、
図3~
図7を参照して、本発明者が実施した実施例及び比較例について説明する。
図3の(A)は、実施例及び比較例に用いられる鋳型Mの寸法構成を示す断面図である。
図3の(A)は、Y方向から見た鋳型Mの断面図である。Y方向は、鋳型Mの短手方向に沿っている。
図3の(B)は、鋳型Mの寸法構成を示す断面図である。
図3の(B)は、Y方向と直交するX方向から見た鋳型Mの断面図である。X方向は、鋳型Mの長手方向に沿っている。
図3の(C)は、鋳物Cの変形量を示す断面図である。
図3の(C)は、Y方向から鋳物Cを見た断面図である。
図3の(A)及び
図3の(B)に示されるように、鋳型Mは、上型、下型及び中子MCを含んでいる。
図3の(C)に示される鋳物Cは、鋳型Mにねずみ鋳鉄(FC250)を注湯して形成された。この注湯時の溶湯の温度は、1400℃であった。
【0042】
図3の(C)に示されるように、鋳物Cは、直方体状を呈する。鋳物Cには、X方向に沿って鋳物Cを貫通する貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hは、中子MCによって形成される。鋳物CのX方向での長さは、140mmである。鋳物CのZ方向での長さは35mmである。鋳物CのY方向での長さは40mmである。貫通孔HのZ方向での長さは15mmである。貫通孔HのY方向での長さは20mmである。
図3に示されるように、実施例及び比較例では、貫通孔HのZ方向における変形量dを測定した。変形量dは、貫通孔Hの開口部のZ方向における端と、貫通孔Hの中央部のZ方向における端との間の最大幅である。変形量dは、鋳物Cの中子MCのZ方向における変形量に相当する。本実施例及び本比較例では、変形量dの評価を行い、鋳型の製造システム1及び鋳型の製造方法MTによる効果を確認した。
【0043】
図4の(A)は、比較例C1,C2及び実施例C3~C7での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図4の(B)は、比較例C1,C2及び実施例C3~C7での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
図4の(A)の元データは、
図4の(B)に対応する。比較例C1,C2及び実施例C3~C7において作製された中子MCは、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダと、骨材(伊藤忠セラテック株式会社製:ナイガイセラビーズ[登録商標]♯650)によって形成された。
【0044】
比較例C1,C2及び実施例C3~C7では、中子MCは、以下に説明する中子造型方法1,2のそれぞれによって形成された。
【0045】
中子造型方法1では、中子MCは、以下の方法で造型された。一定量の骨材をミキサーに投入、次いで、金属シリコン粉(関東金属株式会社製)の規定量(質量%において、骨材100部に対し1.5部)、及び粉末活性炭(フタムラ化学製)0.9部を投入し1分間混合した。その後、水ガラス溶液の規定量(質量%において、骨材100部に対し3.0部)を添加、1分間混練した。次いで、界面活性剤(花王製)1.4部を添加した。その後、ミキサーから混練物を取り出し、模型に充填、押し固めを行い、24時間の静置の後に抜型した。
【0046】
中子造型方法2では、中子MCは、以下の方法で造型された。一定量の骨材をミキサーに投入、次いで、水ガラス溶液の規定量(質量%において、骨材100部に対し3.0部)を投入し1分間混練した。その後、ミキサーから混練物を取り出し、模型に充填、押し固めを行った。次いで、炭酸ガスボンベの配管を通して鋳型に流気して、鋳型に炭酸ガスを圧入し、24時間の静置の後に抜型した。
【0047】
中子造型方法1は、自硬性鋳型の製造方法の一例である。金属シリコン粉は、水ガラスの硬化剤の一例である。中子造型方法2は、ガス硬化性鋳型の製造方法の一例である。
【0048】
各比較例C1,C2の中子MCには、熱処理は行われなかった。
図4の(A)に示される各比較例C1,C2の熱処理温度には、中子MCが静置された際の室温(約25℃)が示されている。比較例C1の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。比較例C1での変形量dは、9.3mmであった。比較例C2の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。比較例C2での変形量dは、6.0mmであった。
【0049】
実施例C3の中子MCには、熱処理温度200℃で5分間の熱処理が行われた。実施例C3の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例C3での変形量dは、6.0mmであった。
【0050】
実施例C4の中子MCには、熱処理温度250℃で5分間の熱処理が行われた。実施例C4の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例C4での変形量dは、3.1mmであった。
【0051】
各実施例C5~C7の中子MCには、熱処理温度280℃で5分間の熱処理が行われた。実施例C5の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例C5での変形量dは、0.1mmであった。実施例C6の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例C6での変形量dは、0.2mmであった。実施例C7の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。実施例C7での変形量dは、2.0mmであった。
【0052】
図5の(A)は、比較例S1~S3及び実施例S4~S7での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図5の(B)は、比較例S1~S3及び実施例S4~S7での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
図5の(A)の元データは、
図5の(B)に対応する。比較例S1~S3及び実施例S4~S7において作製された中子MCは、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダと、骨材(山川産業株式会社製:エスパール[登録商標]♯60)によって形成された。
【0053】
各比較例S1~S3の中子MCには、熱処理は行われなかった。
図5の(A)に示される各比較例S1~S3の熱処理温度には、中子MCが静置された際の室温(約25℃)が示されている。比較例S1の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。比較例S1での変形量dは、3.0mmであった。比較例S2の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。比較例S2での変形量dは、2.2mmであった。比較例S3の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。比較例S3での変形量dは、5.0mmであった。
【0054】
各実施例S4,S5の中子MCには、熱処理温度250℃で5分間の熱処理が行われた。実施例S4の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例S4での変形量dは、1.0mmであった。実施例S5の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例S5での変形量dは、1.5mmであった。
【0055】
各実施例S6,S7の中子MCには、熱処理温度280℃で5分間の熱処理が行われた。実施例S6の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例S6での変形量dは、1.5mmであった。実施例S7の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。実施例S7での変形量dは、0.5mmであった。
【0056】
図6の(A)は、比較例M1~M4及び実施例M5~M8での熱処理温度と変形量との関係を示すグラフである。
図6の(B)は、比較例M1~M4及び実施例M5~M8での熱処理温度と変形量との関係を示すデータである。
図6の(A)の元データは、
図6の(B)に対応する。比較例M1~M4及び実施例M5~M8において作製された中子MCは、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダと、骨材(三河珪石株式会社製:三河珪砂R55号)によって形成された。
【0057】
各比較例M1~M4の中子MCには、熱処理は行われなかった。
図6の(A)に示される各比較例M1~M4の熱処理温度には、中子MCが静置された際の室温(約25℃)が示されている。比較例M1の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。比較例M1での変形量dは、8.0mmであった。比較例M2の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。比較例M2での変形量dは、8.2mmであった。比較例M3の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。比較例M3での変形量dは、9.5mmであった。比較例M4の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。比較例M4での変形量dは、4.8mmであった。
【0058】
各実施例M5~M8の中子MCには、熱処理温度280℃で5分間の熱処理が行われた。実施例M5の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例M5での変形量dは、2.0mmであった。実施例M6の中子MCは、中子造型方法1によって造型された。実施例M6での変形量dは、1.2mmであった。実施例M7の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。実施例M7での変形量dは、1.6mmであった。実施例M8の中子MCは、中子造型方法2によって造型された。実施例M8での変形量dは、2.0mmであった。
【0059】
以上、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダと、骨材とを含む鋳型について、注湯の前に熱処理された鋳型の変形量dは、注湯の前に熱処理されていない鋳型の変形量dよりも小さいことが明らかになった。また、当該鋳型は、200℃以上、かつ、280℃以下の温度で熱処理されることで、変形量dが低減することが明らかになった。
【0060】
図7の(A)は、比較例T1及び実施例T2~T4での熱処理時間と変形量との関係を示すグラフである。
図7の(B)は、比較例T1及び実施例T2~T4での熱処理時間と変形量との関係を示すデータである。
図7の(A)の元データは、
図7の(B)に対応する。比較例T1及び実施例T2~T4において作製された中子MCは、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダと、骨材(伊藤忠セラテック株式会社製:ナイガイセラビーズ[登録商標]♯650)によって形成された。
【0061】
比較例T1及び実施例T2~T4の中子MCは、中子造型方法3によって造型された。中子造型方法3では、中子MCは、以下の方法で造型された。一定量の骨材をミキサーに投入、次いで、プロピレンカーボネート液(安土産業製)の規定量(質量%において、骨材100部に対し0.5部)を添加、1分間混合した。その後、水ガラス溶液の規定量(質量%において、骨材100部に対し3.0部)投入し1分間混練した。次いで、ミキサーから混練物を取り出し、模型に充填、押し固めを行い、24時間の静置の後に抜型した。中子造型方法3は、自硬性鋳型の製造方法の一例である。プロピレンカーボネート液は、水ガラスの硬化剤の一例である。
【0062】
比較例T1の中子MCには、熱処理は行われなかった。比較例T1での変形量dは、5.0mmであった。実施例T2の中子MCには、熱処理温度250℃で5分間の熱処理が行われた。実施例T2での変形量dは、1.5mmであった。実施例T3の中子MCには、熱処理温度250℃で15分間の熱処理が行われた。実施例T3での変形量dは、1.8mmであった。実施例T4の中子MCには、熱処理温度250℃で25分間の熱処理が行われた。実施例T4での変形量dは、1.5mmであった。
【0063】
各実施例T2~T4での変形量dは、比較例T1での変形量d(5.0mm)よりも小さい。したがって、水ガラス(富士化学株式会社製:1号水ガラス)から構成されるバインダを含む鋳型について、5分以上、かつ、25分以下の時間で熱処理を行うことで、変形量dが低減することが明らかになった。
1…鋳型の製造システム、1A…鋳物の製造システム、10…造型部、20…抜型部、21…中子セット場、30…熱処理部、40…搬送部、50…注湯部、F…鋳枠、M…鋳型、MC…中子、MT…鋳型の製造方法、MTA…鋳物の製造方法。