(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085542
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】車高調整方法及び車高調整装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/017 20060101AFI20240620BHJP
B60G 17/018 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60G17/017
B60G17/018
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200109
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 真丈
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA48
3D301AB16
3D301DA08
3D301DA14
3D301DA31
3D301DB25
3D301DB30
3D301DB38
3D301EA05
3D301EA54
3D301EB09
3D301EB16
3D301EC01
3D301EC37
(57)【要約】
【課題】ジャッキが車体から外れることを抑制できる車高調整方法及び車高調整装置を提供する。
【解決手段】懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置30は、車両40が停車している場合に、少なくとも一つの車輪の懸架装置のストローク量が、設定された車高モードにおける所定ストローク量より大きく、且つ、ストローク量の最大値より小さいと判定したときは、ストローク量の調整を禁止する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置により実行される車高調整方法において、
前記車高調整装置は、
車両が停車している場合に、検出された前記ストローク量が、設定された前記車高モードにおける所定ストローク量より大きく、前記ストローク量の最大値より小さい所定値以上であるか否かを判定し、
少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であると判定した場合は、前記ストローク量の調整を禁止する、車高調整方法。
【請求項2】
前記車高調整装置は、
変速機のシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであるか否かを判定するとともに、検出された前記ストローク量が前記所定値以上である状態が所定時間より長く継続しているか否かを判定し、
少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であり、前記シフトポジションが前記ニュートラルポジション又は前記パーキングポジションであり、且つ、前記状態が前記所定時間より長く継続していると判定した場合は、前記ストローク量の調整を禁止する、請求項1に記載の車高調整方法。
【請求項3】
前記車高調整装置は、
それぞれ異なる車高が設定される複数の前記車高モードが存在する場合は、前記所定値を、前記所定ストローク量のうち最大のストローク量より大きな値に設定する、請求項1に記載の車高調整方法。
【請求項4】
前記車高調整装置は、
複数の前記車高モードごとに前記所定ストローク量を予め設定する、請求項3に記載の車高調整方法。
【請求項5】
複数の前記車高モードは、ユーザが前記車両に乗り降りしやすくするために前記車高を下げるモード、悪路を走破するために前記車高を上げるモード、高速走行時に空気抵抗を減らすために前記車高を下げるモードを含む、請求項4に記載の車高調整方法。
【請求項6】
前記車高調整装置は、
第1車高が設定される第1車高モードと、前記第1車高より低い第2車高が設定される第2車高モードとが存在する場合は、前記第2車高モードにおける前記所定値を、前記第2車高モードにおける前記所定ストローク量より大きく、且つ、前記第1車高モードにおける前記所定ストローク量以下の値に設定する、請求項1~5のいずれか一項に記載の車高調整方法。
【請求項7】
懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置であって、
車両が停車している場合に、検出された前記ストローク量が、設定された前記車高モードにおける所定ストローク量より大きく、前記ストローク量の最大値より小さい所定値以上であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部が、少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であると判定した場合に、前記ストローク量の調整を禁止する調整部と、を備える、車高調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車高調整方法及び車高調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を乗り降りするユーザが複数存在する場合に、ユーザの身長に関する情報を含む身体情報を取得し、取得した身体情報に基づき、ユーザが車両に乗り降りする前に、最も身長の低いユーザに合わせて車高を調整する、車高調整装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ジャッキにより車体を支持している間も車高の調整が行われるため、ジャッキが車体から外れてしまい、ジャッキを車体に付け直さなければならないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ジャッキが車体から外れることを抑制できる車高調整方法及び車高調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置が、車両が停車している場合に、少なくとも一つの車輪の懸架装置のストローク量が、設定された車高モードにおける所定ストローク量より大きく、且つ、ストローク量の最大値より小さいと判定したときは、ストローク量の調整を禁止することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジャッキが車体から外れることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る車高調整システムの実施形態の一例を示す、車両の平面図である。
【
図2A】
図1の車両の懸架装置の一例を示す模式図である。
【
図2B】
図2Aの空気ばねが動作した状態を示す模式図である。
【
図3A】
図1の車両の懸架装置の他の例を示す模式図である。
【
図3B】
図3Aの空気ばねが動作した状態を示す模式図である。
【
図4】
図1の車高調整システムの機能ブロック図の一例である。
【
図5】
図2Aの懸架装置の最大ストローク量を示す模式図である。
【
図6】
図1に示す車高調整システムにおける処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[車高調整システムの構成]
図1は、本発明に係る車高調整システム1を示す、車両40の平面図である。車高調整システム1は、車両の懸架装置のストローク量を調整するシステムである。懸架装置は、サスペンションとも言い、スプリングとショックアブソーバ(ダンパー)を含む。懸架装置のストローク量とは、管軸方向に可動するショックアブソーバの管軸方向の伸縮量のことを言う。ストローク量を調整するとは、懸架装置が、ある基準状態にあるときのストローク量に対してストローク量を増加又は減少させることを言う。
【0011】
懸架装置は、コイルばねとショックアブソーバの代わりに空気ばねを用いるエアサスペンションであってもよい。この場合、懸架装置のストローク量は、空気ばねの管軸方向の伸縮量となる。また、スプリングとショックアブソーバからなる懸架装置に、空気ばねなどの伸縮機構が設けられていてもよい。この場合は、懸架装置のストローク量は、ショックアブソーバの伸縮量と、伸縮機構の伸縮量との和となる。
【0012】
図1に示すように、車高調整システム1は、ハイトセンサ11~14、通信ケーブル15~18、空気ばね21~24、車高調整装置30、右前輪41、左前輪42、右後輪43、左後輪44、ポンプ50、タンク51及び配管60~64を備える。なお、
図1では、図面上側が車両40の前方に対応し、図面下側が車両40の後方に対応し、図面右側が車両40の右方に対応し、図面左側が車両40の左方に対応している。
【0013】
ハイトセンサ11~14は、車高を検出する装置であり、車高センサとも言う。ハイトセンサ11~14は、車両の各車輪の懸架装置の近傍に配置され、例えば、超音波又はレーザーを用いてハイトセンサ11~14と路面との距離を直接計測する。またこれに代え、ハイトセンサ11~14は、懸架装置のストローク量から間接的に車高を計測してもよい。ハイトセンサ11~14は、例えば、乗員が乗車していない及び荷物が積載されていない状態の車両が水平な路面に停車している場合のストローク量を基準量とし、当該基準量との差を算出する。
【0014】
図1に示すハイトセンサ11~14は、各車輪の懸架装置のストローク量を検出する。ハイトセンサ11~14は、それぞれ、通信ケーブル15~18により車高調整装置30と接続され、車高調整装置30は、必要に応じてハイトセンサ11~14の検出結果を取得する。懸架装置のストローク量を測定する方法としては、例えば、車体の懸架装置取り付け部分(例えばフロントインサイドパネル)とサスペンションメンバとの間にリンク機構を設け、ストローク量の変化に伴う、リンク機構のジョイントの回転角度を計測する方法が挙げられる。ジョイントの回転角度がストローク量と比例するため、回転角度からストローク量が算出できる。リンク機構は、車体の懸架装置取り付け部分(例えばリアクロスメンバ)とサスペンションアームとの間に設けてもよい。なお、ハイトセンサ11~14でストローク量を検出する場合は、ハイトセンサ11~14が検出可能なストローク量の範囲は、懸架装置(具体的にはショックアブソーバ)の可動範囲に限られる。
【0015】
空気ばね21~24は、空気圧を用いて車高を変化させる装置であり、例えば空気圧シリンダである。シリンダは、複筒式と単筒式のいずれであってもよい。また、空気ばねに代わり、油圧を用いて車高を変化させる油圧シリンダを用いてもよい。空気ばね21~24は、懸架装置と一体となっていてもよく、懸架装置と別体であってもよい。懸架装置と別体である場合は、空気ばね21~24は、車体フレーム(例えばクロスメンバ)とサスペンションメンバとの間などに配置される。車高調整装置30は、必要に応じてポンプ50を作動させ、空気ばね21~24の動作を制御する。
【0016】
図1に示す車両40は、右前輪41の懸架装置と一体となった空気ばね21を備え、その近傍のサスペンションメンバ上に、車両40の右前側の車高を測定するハイトセンサ11が設けられている。同様に、車両40は、左前輪42の懸架装置と一体となった空気ばね22を備え、その近傍のサスペンションメンバ上には、車両40の左前側の車高を測定するハイトセンサ12が設けられている。また、車両40は、右後輪43の懸架装置の近傍にハイトセンサ13及び空気ばね23を備え、左後輪44の懸架装置の近傍にハイトセンサ14及び空気ばね24を備える。
【0017】
車高調整装置30は、車高調整システム1を構成する装置を協働させ、懸架装置のストローク量を調整する装置である。車高調整装置30は、それぞれ異なる車高が設定される複数の車高モードを有し、ユーザにより設定された車高モードに応じてストローク量を増減させる。車高モードとしては、基準となる車高を維持するモードのほか、ユーザが車両に乗り降りしやすくするために車高を下げるモード、悪路を走破するために車高を上げるモード、高速走行時に空気抵抗を減らすために車高を下げるモードなどが挙げられる。
【0018】
車高調整装置30と一体であるポンプ50は、配管60を介し、圧縮空気が入ったタンク51と連通している。また、ポンプ50は、配管61~64を介し、それ自体が伸縮する空気ばね21~24と連通している。ポンプ50は、空気ばね21~24に空気を送出し、空気ばね21~24から空気を回収する。また、配管60~64は、流路の開閉を切り替えるソレノイドバルブ(図示しない)を備える。車高調整装置30は、ソレノイドバルブの開閉とポンプ50の動作を制御することで、空気ばね21~24への空気の供給を制御する。
【0019】
図1に示す車高調整システム1では空気圧により空気ばね21~24を作動させるが、空気圧に代えて油圧によりシリンダを作動させてもよい。また、スプリングとショックアブソーバからなる懸架装置に、空気ばねなどの伸縮機構が設けられている場合は、伸縮機構が空気ばねとなり、当該伸縮機構が空気圧又は油圧で作動される。
【0020】
図1に示す車高調整システム1では、車両40の左右方向の中心を通る、車両40の前後方向の断面(以下、基準面とも言う)に対し、ハイトセンサ11の位置とハイトセンサ12の位置は対称であるものとする。同様に、ハイトセンサ13の位置とハイトセンサ14の位置は、基準面に対して対称であるものとする。また、空気ばね21の位置と空気ばね22の位置は、基準面に対して対称であり、空気ばね23の位置と空気ばね24の位置は、基準面に対して対称であるものとする。
【0021】
車両40の懸架装置の構造について、
図2Aを用いて説明する。
図2Aは、右前輪41の懸架装置の要部を示す模式図であり、懸架装置の縦断面図を含む。
図2Aに示す懸架装置は、空気ばね21、ショックアブソーバ71及びラバーマウント72を含み、ショックアブソーバ71の一端が右前輪41のハブキャリア(図示しない)に装着され、他端がラバーマウント72を介して車両40のフロントインサイドパネルに取り付けられている。
【0022】
空気ばね21は、ショックアブソーバ71の円板部分とラバーマウント72との間に配置されている。空気ばね21は、配管61を介して、アクチュエータであるポンプ50から送出される空気により図面の上下方向(鉛直方向)に伸縮する。一例として、車高調整装置30は、ポンプ50を制御し、配管61を介して空気ばね21に空気を供給し、
図2Bに示すように空気ばね21を鉛直方向に伸長させ、懸架装置のストローク量(すなわち空気ばね21とショックアブソーバ71の伸縮量)を増加させる。これにより、車両40の車高が上昇する。
【0023】
車両40のフレームには、ブラケット45を介してハイトセンサ11が取り付けられており、ハイトセンサ11には、サスペンションメンバ(図示しない)との間にリンク機構80が設けられている。ハイトセンサ11は、
図2Aに示す場合は、ジョイント部分の角度αに対応するストローク量を算出し、
図2Bに示す場合は、ジョイント部分の角度βに対応するストローク量を算出する。車高調整装置30は、通信ケーブル15を介してハイトセンサ11から懸架装置のストローク量を取得する。
【0024】
一方、
図3Aは、右後輪43の懸架装置の要部を示す模式図であり、懸架装置の縦断面図を含む。
図3Aに示す懸架装置は、空気ばね23、ショックアブソーバ73及びラバーマウント74を含む。ショックアブソーバ73は、その一端が右後輪43のハブキャリア(図示しない)に装着され、他端がラバーマウント74を介して車両40のリアサイドメンバに取り付けられている。
【0025】
空気ばね23は、空気ばね21と異なり、図示しないマウントを介して車両40の車体フレームとサスペンションメンバとの間に取り付けられている。空気ばね23は、配管63を介して、アクチュエータであるポンプ50から送出される空気により鉛直方向に伸縮する。一例として、車高調整装置30は、ポンプ50を制御し、配管63を介して空気ばね23から空気を回収し、
図3Bに示すように空気ばね23を鉛直方向に収縮させ、懸架装置のストローク量(すなわち空気ばね23とショックアブソーバ73の伸縮量)を減少させる。これにより、車両40の車高が低下する。
【0026】
車両40のリアサイドメンバには、ブラケット46を介してハイトセンサ13が取り付けられており、車高調整装置30は、通信ケーブル17を介してハイトセンサ13から懸架装置のストローク量を取得する。なお、ハイトセンサ13にも、ハイトセンサ11と同様に、図示しないリンク機構が設けられているものとする。また、ハイトセンサ12及び空気ばね22は、ハイトセンサ11及び空気ばね21と同様に動作し、ハイトセンサ14及び空気ばね24は、ハイトセンサ13及び空気ばね23と同様に動作するものとする。
【0027】
[各機能ブロックの機能]
車高調整装置30は、例えばコンピュータであり、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)と、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)とを備える。車高調整装置30のROMには、車高調整を実現するプログラムが格納され、CPUがROMに格納されたプログラムを実行することで車高調整を行う。
図4には、車高調整を実現する機能ブロックである判定部31及び調整部32を、便宜的に抽出して示す。
【0028】
車高調整装置30は、パンタジャッキ、フロアジャッキなどのジャッキを用いて車両40の車体を持ち上げるシーンにおいてジャッキが車体から外れないようにするため、所定の条件を満たす場合に空気ばね21~24を用いた車高調整を禁止する。以下、パンタジャッキを用いて、
図1に示す車両40の右前側を持ち上げるシーン(以下、単に本シーンとも言う)を例として、判定部31及び調整部32の機能について説明する。
【0029】
判定部31は、検出された懸架装置のストローク量が所定値以上であるか否かを判定する機能を有する。所定値は、設定された車高モードにおける所定ストローク量より大きく、ストローク量の最大値より小さい値を設定する。所定ストローク量とは、車両40の車高が、車高モードごとに設定された車高となる場合のストローク量であり、当該ストローク量は車高モードごとに予め設定されていてもよい。懸架装置のストローク量の最大値とは、懸架装置の全ての伸縮機構が最大長さとなった時のストローク量であり、例えば、懸架装置のショックアブソーバの最大長に対応する値、空気ばねの最大長に対応する値などである。
【0030】
車高調整装置30は、ハイトセンサ11~14から各車輪の懸架装置のストローク量を取得し、少なくとも一つのストローク量が所定値以上であるか否かを判定する。本シーンであれば、車高調整装置30は、ハイトセンサ11~14から、各車輪の懸架装置のストローク量を取得する。例えば、車両40の右前側がジャッキアップされ、
図5に示すように右前輪41が路面90から浮いている状態である場合は、右前輪41の懸架装置のストローク量は、空気ばね21の最大長とショックアブソーバ71の最大長の和に対応する値となっているため、ストローク量が所定値以上であると判定される。
【0031】
また、車高調整装置30は、ストローク量が所定値以上であると判定した懸架装置以外の懸架装置について、検出されたストローク量が所定ストローク量未満であるか否かを判定してもよい。例えば、
図1に示す左後輪44の懸架装置のストローク量が所定値以上であると判定した場合は、車両40の中心に対して点対称の位置にある右前輪41の懸架装置のストローク量を取得し、所定ストローク量未満であるか否かを判定する。ジャッキアップされた部分と点対称の部分は、車高が低くなる(つまり、ストローク量が小さくなる)ため、この判定により、ジャッキが車体を支持する部分をより正確に把握できる。
【0032】
判定部31は、変速機のシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであるか否かを判定する機能を有する。変速機は、自動変速機と手動変速機のいずれであってもよい。自動変速機は、ギアによる段階的な変速を自動で行う変速機であっても、ベルトとプーリーにより変速比を連続的に変更する無段変速機であってもよい。
【0033】
自動変速機の場合は、変速機は、シフトポジションの設定に基づいてシフトアップ、シフトダウンなどの変速状態を制御する。シフトポジションとしては、車両40を前進させるドライブポジション(D)、車両40を後退させるリバースポジション(R)、車両40の停車時に変速機を固定するパーキングポジション(P)、駆動機構から車輪への駆動力の伝達を遮断するニュートラルポジション(N)などが挙げられる。車高調整装置30は、変速機の制御装置(図示しない)からシフトポジションの情報を取得し、シフトポジションがニュートラルポジション(N)又はパーキングポジション(P)であるか否かを判定する。
【0034】
一方、手動変速機の場合は、ドライバーがシフトポジションを変更し、変速状態を制御する。シフトポジションとしては、複数の前進ギア(例えば1速ギア~5速ギア)に対応するシフトポジションと、後進ギアに対応するシフトポジションと、いずれのギアも噛み合っていないシフトポジション(つまりニュートラルポジション)とが挙げられる。車高調整装置30は、例えば、シフトポジションセンサ(図示しない)からからシフトポジションの情報を取得し、シフトポジションがニュートラルポジションであるか否かを判定する。
【0035】
例えば、
図5に示す車両40の変速機が自動変速機であり、本シーンにおいて車体をジャッキアップする前にシフトポジションをパーキングポジション(P)に設定したものとすると、車高調整装置30は、自動変速機の制御装置からシフトポジションの情報を取得し、シフトポジションがパーキングポジション(P)であると判定する。
【0036】
判定部31は、検出されたストローク量が所定値以上である状態が所定時間より長く継続しているか否かを判定する機能を有する。所定時間は、車両40の車体がジャッキアップされていることを確認できる範囲内で適宜の時間を設定でき、例えば5~15秒である。車高調整装置30は、例えば、少なくとも一つの懸架装置のストローク量が所定値以上となった時刻を記録し、当該時刻から所定時間が経過した時刻までの間、ストローク量が所定値以上の状態が継続しているか否かを判定する。
【0037】
例えば、本シーンにおいて、ハイトセンサ11により検出されたストローク量が所定値を超えてから10秒経過している場合は、車高調整装置30は、右前輪41の懸架装置のストローク量が所定値以上である状態が、所定時間より長く継続していると判定する。
【0038】
調整部32は、車高調整装置30と一体となっているポンプ50により空気ばね21~24を作動させ、車両40の車高を調整する機能を有する。車高調整装置30は、設定された車高モードにおける所定ストローク量と、ハイトセンサ11~14から取得したストローク量とを比較し、懸架装置のストローク量が目標ストローク量となるようにポンプ50及び配管60~64のソレノイドバルブ(図示しない)を制御し、空気ばね21~24を伸縮させる。
【0039】
車高調整装置30は、車高の調整を行う場合に、判定部31の機能による判定の結果を取得し、所定条件を満たすと判定したときは、調整部32の機能によるストローク量の調整を禁止する。例えば、車高調整装置30は、少なくとも一つの車輪の懸架装置のストローク量が所定値以上であると判定した場合は、空気ばね21~24による懸架装置のストローク量の調整を禁止する。これに対し、全ての車輪の懸架装置のストローク量が所定値未満であると判定した場合は、空気ばね21~24による懸架装置のストローク量の調整を禁止しない。これにより、ジャッキアップ中にストローク量が変化し、ジャッキが車体から外れることを抑制できる。
【0040】
またこれに代え、(1)少なくとも一つの車輪の懸架装置のストローク量が所定値以上であり、(2)シフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであり、且つ、(3)検出されたストローク量が所定値以上である状態が所定時間より長く継続している場合は、空気ばね21~24による懸架装置のストローク量の調整を禁止してもよい。これに対し、(1)~(3)の条件のうち少なくとも一つの条件を満たさない場合は、車高調整装置30は、空気ばね21~24による車高調整を禁止しない。
【0041】
例えば、本シーンにおいて、ハイトセンサ11により検出されたストローク量が所定値を超えてから10秒経過している場合は、シフトポジションがパーキングポジション又はニュートラルポジション(手動変速機の場合はニュートラルポジション)であると判定されたときに、調整部32の機能による車高調整を禁止する。
【0042】
車高調整装置30は、それぞれ異なる車高が設定される複数の車高モードが存在する場合は、上述の所定値を、所定ストローク量のうち最大のストローク量より大きな値に設定してもよい。また、車高調整装置30は、複数の車高モードごとに予め所定ストローク量を設定してもよい。特に、第1車高が設定される第1車高モードと、第1車高より低い第2車高が設定される第2車高モードとが存在する場合は、第2車高モードにおける所定値を、第2車高モードにおける所定ストローク量より大きく、且つ、第1車高における所定ストローク量以下の値に設定してもよい。
【0043】
ここまで、パンタジャッキを用いて車両40の右前側を持ち上げるシーンについて説明したが、上述の処理は、フロアジャッキを用いて車体の前側(又は後側)を持ち上げ、
図2の右前輪41と左前輪42(又は右後輪43と左後輪44)の懸架装置のストローク量が所定値以上となる場合にも適用できる。また、リフトジャッキにより車両40の車体全体が持ち上げられた場合についても、上述の処理は適用できる。
【0044】
[車高調整システムにおける処理]
図6を参照して、車高調整装置30が情報を処理する際の手順を説明する。
図6は、本実施形態の車高調整システム1において実行される処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、車高調整装置30が備えるプロセッサ(CPU)により所定の時間間隔で実行される。
【0045】
まず、ステップS1にて、判定部31の機能により、ハイトセンサ11~14からリンク機構の角度データを取得し、ステップS2にて、取得した角度データから、各車輪の懸架装置のストローク量を算出する。続くステップS3にて、少なくとも一つの懸架装置のストローク量が所定値以上であるか否かを判定する。全ての懸架装置のストローク量が所定値未満であると判定した場合は、ステップS8に進み、調整部32の機能により、車高調整装置30による車高調整を禁止せずにステップS1に進む。これに対し、少なくとも一つの懸架装置のストローク量が所定値以上であると判定した場合は、ステップS4に進む。
【0046】
ステップS4にて、判定部31の機能により、ストローク量が所定値以上であると判定した懸架装置以外の懸架装置について、検出されたストローク量が所定ストローク量未満であるか否かを判定する。検出されたストローク量が所定ストローク量以上であると判定した場合は、ステップS8に進む。これに対し、検出されたストローク量が所定ストローク量未満であると判定した場合は、ステップS5に進む。
【0047】
ステップS5にて、変速機のシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであるか否かを判定する。変速機のシフトポジションがニュートラルポジションでもなく、パーキングポジションでもないと判定した場合は、ステップS8に進む。これに対し、変速機のシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであると判定した場合は、ステップS6に進む。
【0048】
ステップS6にて、懸架装置のストローク量が所定値以上である状態が所定時間より長く継続しているか否かを判定する。ストローク量が所定値以上である状態が所定時間より長く継続していると判定した場合は、ステップS7に進み、調整部32の機能により、車高調整装置30による車高調整を禁止する。これに対し、ストローク量が所定値以上である状態が所定時間より長く継続していないと判定した場合は、ステップS8に進む。なお、ステップS4は本発明に必須のステップではなく、必要に応じて追加又は省略してもよい。
【0049】
[本発明の実施態様]
以上のとおり、本実施形態によれば、懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置30により実行される車高調整方法において、前記車高調整装置30は、車両40が停車している場合に、検出された前記ストローク量が、設定された前記車高モードにおける所定ストローク量より大きく、前記ストローク量の最大値より小さい所定値以上であるか否かを判定し、少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であると判定した場合は、前記ストローク量の調整を禁止する、車高調整方法が提供される。これにより、ジャッキアップ中にストローク量が変化し、ジャッキが車体から外れることを抑制できる。
【0050】
また、本実施形態の車高調整方法によれば、前記車高調整装置30は、変速機のシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションであるか否かを判定するとともに、検出された前記ストローク量が前記所定値以上である状態が所定時間より長く継続しているか否かを判定し、少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であり、前記シフトポジションが前記ニュートラルポジション又は前記パーキングポジションであり、且つ、前記状態が前記所定時間より長く継続していると判定した場合は、前記ストローク量の調整を禁止する。これにより、車両40のジャッキアップをより適切に判定できる。
【0051】
また、本実施形態の車高調整方法によれば、前記車高調整装置30は、それぞれ異なる車高が設定される複数の前記車高モードが存在する場合は、前記所定値を、前記所定ストローク量のうち最大のストローク量より大きな値に設定する。これにより、どの車高モードが設定されてもジャッキアップ中にストローク量が変化することを抑制できる。
【0052】
また、本実施形態の車高調整方法によれば、前記車高調整装置30は、複数の前記車高モードごとに前記所定ストローク量を予め設定する。これにより、車高モードごとに適切な所定値を設定でき、車両40のジャッキアップをより適切に判定できる。
【0053】
また、本実施形態の車高調整方法によれば、複数の前記車高モードは、ユーザが前記車両40に乗り降りしやすくするために前記車高を下げるモード、悪路を走破するために前記車高を上げるモード、高速走行時に空気抵抗を減らすために前記車高を下げるモードを含む。これにより、走行シーンごとに適切な車高を設定できる。
【0054】
また、本実施形態の車高調整方法によれば、前記車高調整装置30は、第1車高が設定される第1車高モードと、前記第1車高より低い第2車高が設定される第2車高モードとが存在する場合は、前記第2車高モードにおける前記所定値を、前記第2車高モードにおける前記所定ストローク量より大きく、且つ、前記第1車高モードにおける前記所定ストローク量以下の値に設定する。これにより、低い車高が設定された車高モードに対して相対的に低い所定値を設定でき、車両40のジャッキアップをより適切に判定できる。
【0055】
また、本実施形態によれば、懸架装置のストローク量を車高モードに応じて調整する車高調整装置30であって、車両40が停車している場合に、検出された前記ストローク量が、設定された前記車高モードにおける所定ストローク量より大きく、前記ストローク量の最大値より小さい所定値以上であるか否かを判定する判定部31と、前記判定部31が、少なくとも一つの車輪の前記懸架装置の前記ストローク量が前記所定値以上であると判定した場合に、前記ストローク量の調整を禁止する調整部32と、を備える、車高調整装置30が提供される。これにより、ジャッキアップ中にストローク量が変化し、ジャッキが車体から外れることを抑制できる。
【符号の説明】
【0056】
1…車高調整システム
11,12,13,14…ハイトセンサ
15,16,17,18…通信ケーブル
21,22,23,24…空気ばね
30…車高調整装置
31…判定部
32…調整部
40…車両
41…右前輪
42…左前輪
43…右後輪
44…左後輪
45,46…ブラケット
50…ポンプ
51…タンク
60,61,62,63,64…配管
71,73…ショックアブソーバ
72,74…ラバーマウント
80…リンク機構
90…路面