IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIエアロスペースの特許一覧 ▶ 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構の特許一覧

特開2024-85558推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体
<>
  • 特開-推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体 図1
  • 特開-推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体 図2
  • 特開-推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085558
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/46 20060101AFI20240620BHJP
   F02K 9/56 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
F02K9/46
F02K9/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200133
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】杉村 文隆
(72)【発明者】
【氏名】長田 泰一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高圧ガスを用いずにメインエンジンとスラスタに液体推進薬を供給することができ、スラスタのみを使用する場合でも容易に制御できる推進薬供給装置を提供する。
【解決手段】推進薬タンク12、電動ポンプ14、減圧器16、圧力保持ライン18、低圧ライン20及び制御器30を備える。推進薬タンクは、推進薬Lを保有し大気圧以下の減圧空間において排出する。電動ポンプは、推進薬を供給圧力まで加圧する。減圧器は、供給圧力より低い低圧まで減圧する。圧力保持ラインは、電動ポンプの吐出口14bと減圧器の流入口16aとを直接連結する。低圧ラインは、減圧器の流出口16bと電動ポンプの吸引口14aとを直接連結する。制御器は、電動ポンプを流量制御又はオンオフ制御し、供給圧力を所定の範囲に維持する。推進薬タンクは、低圧ラインに連結され、メインエンジン50及びスラスタ60は、圧力保持ラインにそれぞれ連結される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に大推力を発生するメインエンジンと、相対的に小推力を発生するスラスタとに液体の推進薬を供給する推進薬供給装置であって、
内部に前記推進薬を保有し大気圧以下の減圧空間において前記推進薬を排出可能な中空の推進薬タンクと、
電動ポンプの吐出口と減圧器の流入口とを直接連結し、その間に所定の供給圧力の前記推進薬を保持可能な圧力保持ラインと、
前記減圧器の流出口と前記電動ポンプの吸引口とを直接連結し、その間に前記供給圧力より低い低圧の前記推進薬を保持可能な低圧ラインと、
前記電動ポンプを制御する制御器と、を備え、
前記電動ポンプは、前記低圧ラインの前記推進薬を前記供給圧力まで加圧し、
前記減圧器は、前記圧力保持ラインの前記推進薬を前記低圧まで減圧し、
前記推進薬タンクの排出口は、前記低圧ラインに連結されており、
前記メインエンジン及び前記スラスタの推進薬供給口は、前記圧力保持ラインにそれぞれ連結されている、推進薬供給装置。
【請求項2】
前記減圧器は、オリフィス又は固定絞りである、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項3】
前記減圧器は、前記電動ポンプの停止時に、加圧された前記推進薬を前記圧力保持ラインから前記低圧ラインに流し、前記圧力保持ラインと前記低圧ラインの圧力を、前記推進薬タンクの前記推進薬と同じ圧力にする、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項4】
前記推進薬タンクは、内部がダイアフラム又はベローズで2室に仕切られた低圧タンクであり、
前記2室の一方に前記推進薬が充填され、他方に大気圧以下の前記減圧空間において前記推進薬を加圧可能な低圧ガスが充填されている、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項5】
前記電動ポンプは、吐出流量を可変調節可能な可変流量ポンプであり、
前記制御器は、前記圧力保持ラインの圧力に応じて、前記電動ポンプを流量制御又はオンオフ制御し、前記供給圧力を所定の範囲に維持する、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項6】
前記制御器は、加圧された前記推進薬が前記圧力保持ラインから前記減圧器を通って前記低圧ラインに流れ、前記電動ポンプに戻る循環流れを形成する、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項7】
前記圧力保持ラインに設置され、前記推進薬の圧力の脈動を吸収するサブタンクを有する、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項8】
前記電動ポンプの吐出口側に設置され、前記推進薬の逆流を防止するチェック弁を有する、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項9】
前記減圧器の流入口側に設置され、前記推進薬の流れを遮断可能な制御弁を有する、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項10】
前記推進薬タンクと前記メインエンジン及び前記スラスタを結ぶ前記推進薬の流路が、遮断弁、前記電動ポンプと制御弁、及び主流量調節弁と副流量調節弁の三重のバルブ又はポンプで仕切られ、三重冗長の安全性が確保されている、請求項1に記載の推進薬供給装置。
【請求項11】
前記電動ポンプを起動する際に、圧力計で圧力計測をしながら、所定の圧力に達するまで前記制御弁を閉じたままとすることで、圧力の安定した運転を能動的に実現する、請求項9に記載の推進薬供給装置。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の推進薬供給装置と、
前記圧力保持ラインに主流量調節弁を介して直結された前記メインエンジンと、
前記圧力保持ラインに副流量調節弁を介して直結された前記スラスタと、を備えた宇宙飛行体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙飛行体用の推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間で使用する例えば人工衛星や宇宙機(以下、「宇宙飛行体」)の推進系には、主として推進用に用いられるメインエンジンと、主として姿勢制御に用いられるスラスタとが通常搭載されている。
メインエンジンとスラスタは、通常、同一の液体推進薬(例えば、一液式推進薬、液体酸化剤、液体燃料、以下、「推進薬」)を使用し、メインエンジンは相対的に大流量の推進薬により大推力を発生し、スラスタは相対的に小流量の推進薬により小推力を発生する。
【0003】
従来、上述した宇宙飛行体の推進系は、メインエンジンに高圧ガスで大流量の推進薬を供給し、スラスタに小流量の推進薬を分岐して圧送する方式(以下、「高圧圧送式」)を採用している。
この場合、メインエンジンとスラスタは、それぞれ個別にバルブ(流量調節弁又は開閉弁)を有しており、必要に応じて開閉し推力を得るようになっている。
【0004】
しかし、高圧圧送式の推進系の場合、推進薬を内部に保有する推進薬タンクを加圧するために高圧ガスを内部に保有する気蓄器(以下、「高圧ガス容器」)が不可欠となる。
高圧ガス容器は、高い安全性と信頼性が要求されるため、安全対策や安全審査に多大な手間と経費を要し、かつ重量が大きくなり、高コストとなる。
【0005】
そこで、高圧ガスを用いない宇宙飛行体の推進系として、例えば、特許文献1,2が提案されている。
【0006】
特許文献1の「ターボポンプ式エンジンシステム」は、燃料供給系から延びる燃料供給ラインと、酸化剤供給系から延びる酸化剤供給ラインと、それらの供給ラインにそれぞれ介装された対をなすターボポンプとを備える。ターボポンプは燃料供給ラインおよび酸化剤供給ラインと接続されたガス発生器によって駆動される。燃料供給ラインおよび酸化剤供給ラインの先端は、調量弁が介装された分岐ラインを介して推力用のスラスタに接続される。
【0007】
特許文献2の「推進薬供給装置」は、中空の金属箔タンクと電動ポンプとを有する。金属箔タンクは、重ね合わされ外周縁が互いに溶着された複数の金属箔からなり、推進薬の排出管を有し、内部に充填した推進薬を大気圧以下の減圧空間において排出可能である。電動ポンプは、排出管から排出された推進薬を圧送圧力まで加圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平6-18198号公報
【特許文献2】特開2021-167580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1,2の手段を、主として推進用に用いられるメインエンジンと主として姿勢制御に用いられるスラスタとが搭載されている宇宙飛行体の推進系に適用する場合、以下の問題点があった。
【0010】
特許文献1の手段には、以下の問題点があった。
(1)燃焼反応が必要なガス発生器によってターボポンプを駆動するため、構造が複雑となる。また、ターボポンプの始動時に高圧ガスが必要であり、高圧ガスの使用を完全に無くすことはできない。
(2)ターボポンプの最大流量は、メインエンジンとスラスタの両方に必要な最大流量に設定する必要がある。一方、スラスタの必要流量は、ターボポンプよりも大幅に少ない(例えば1/100以下)。そのため、メインエンジンは使用せず、スラスタのみ使用する場合には、ターボポンプの駆動条件を大きく低減させる必要があり、ターボポンプの制御(例えば、低速運転)が困難となる。
またターボポンプで大流量の推進薬を供給し、スラスタで小流量のみを利用した場合、供給した推進薬の大部分(例えば90%以上)が無駄となる。
【0011】
特許文献2の手段には、以下の問題点があった。
(3)ベローズタンクのガス室に加圧ガスを供給する加圧ガス供給装置を必要とする。加圧ガスは、推進薬の供給圧力(例えば1MPa~2MPa)以上の高圧ガスであり、高圧ガスの使用を完全に無くすことはできない。
(4)仮に、加圧ガス供給装置を省略し、電動ポンプを用いてメインエンジンとスラスタの両方に必要な最大流量を供給可能にした場合、スラスタのみ使用する際に電動ポンプの流量を大きく低減させる必要があり、電動ポンプの制御が困難となる。
【0012】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、高圧ガスを用いずにメインエンジンとスラスタに液体推進薬を供給することができ、推薬消費量の少ないスラスタのみを使用する場合でも容易に制御できる推進薬供給装置とこれを備えた宇宙飛行体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、相対的に大推力を発生するメインエンジンと、相対的に小推力を発生するスラスタとに液体の推進薬を供給する推進薬供給装置であって、
内部に前記推進薬を保有し大気圧以下の減圧空間において前記推進薬を排出可能な中空の推進薬タンクと、
電動ポンプの吐出口と減圧器の流入口とを直接連結し、その間に所定の供給圧力の前記推進薬を保持可能な圧力保持ラインと、
前記減圧器の流出口と前記電動ポンプの吸引口とを直接連結し、その間に前記供給圧力より低い低圧の前記推進薬を保持可能な低圧ラインと、
前記電動ポンプを制御する制御器と、を備え、
前記電動ポンプは、前記低圧ラインの前記推進薬を前記供給圧力まで加圧し、
前記減圧器は、前記圧力保持ラインの前記推進薬を前記低圧まで減圧し、
前記推進薬タンクの排出口は、前記低圧ラインに連結されており、
前記メインエンジン及び前記スラスタの推進薬供給口は、前記圧力保持ラインにそれぞれ連結されている、推進薬供給装置が提供される。
【0014】
また本発明によれば、上記の推進薬供給装置と、
前記圧力保持ラインに主流量調節弁を介して直結された前記メインエンジンと、
前記圧力保持ラインに副流量調節弁を介して直結された複数の前記スラスタと、を備えた宇宙飛行体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電動ポンプが低圧ラインの推進薬を所定の供給圧力まで加圧するので、圧力保持ラインの圧力を供給圧力に保持することができる。これにより、高圧ガスを用いずに、圧力保持ラインにそれぞれ連結されているメインエンジン及びスラスタの推進薬供給口に供給圧の推進薬を供給することができる。
【0016】
また、減圧器が圧力保持ラインの推進薬を低圧まで減圧するので、低圧ラインの圧力を供給圧力より低い低圧に保持することができる。これにより、圧力保持ラインの余剰の推進薬は減圧器により低圧ラインに流れるので、メインエンジンを使用せず、スラスタのみ使用する場合でも電動ポンプを容易に制御できる。
さらに、推進薬タンクの排出口が低圧ラインに連結されているので、低圧ラインを常に低圧の推進薬で満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による推進薬供給装置の実施形態図である。
図2】推進薬供給装置を備えた宇宙飛行体の全体構成図である。
図3】推進薬供給装置の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明による推進薬供給装置10の実施形態図である。
本発明の推進薬供給装置10は、メインエンジン50とスラスタ60に液体の推進薬Lを供給する装置である。
推進薬Lは、この例では一液式推進薬(例えば、ヒドラジン)である。
【0020】
メインエンジン50とスラスタ60は、内部に触媒を有しており、同一の推進薬Lを反応させて推進ガスJを外部に噴射するようになっている。
メインエンジン50は、相対的に大量の推進薬Lを消費して相対的に大推力を発生する。スラスタ60は、相対的に小量の推進薬Lを消費して相対的に小推力を発生する。
「相対的に大推力」とは、メインエンジン50の推力がスラスタ60と比較してそれより大きいことを意味する。「相対的に小推力」とは、スラスタ60の推力がメインエンジン50と比較してそれより小さいことを意味する。「相対的に大量」「相対的に小量」の意味も同様である。
メインエンジン50は、主として推進用に用いられ、宇宙飛行体の機体に1台又は複数が搭載される。スラスタ60は、主として姿勢制御に用いられ、宇宙飛行体の機体に複数(例えば4台)が通常搭載される。
【0021】
メインエンジン50の推力(大推力)は例えば約500Nであり、スラスタ60の推力(小推力)は例えば約4Nである。
推進薬Lの消費量(「推薬消費量」)は、推力にほぼ比例する。スラスタ60の推薬消費量は例えば約18cc/minであり、推力に比例する場合、メインエンジン50の推薬消費量は例えば約2250cc/min(=18×500/4)である。
【0022】
所定の推力(上述した大推力と小推力)を発生するために、メインエンジン50とスラスタ60には推進薬Lを所定の供給圧力P1で供給する必要がある。供給圧力P1は、例えば1MPa~2MPaの範囲であり、一定であることが好ましいが変動してもよい。
【0023】
メインエンジン50の上流側には、流量調節弁(主流量調節弁52)が設けられ、推薬消費量を可変制御して推力(大推力)を遠隔制御するようになっている。同様に、スラスタ60の上流側には、流量調節弁(副流量調節弁62)が設けられ、推薬消費量を可変制御して推力(小推力)を遠隔制御するようになっている。なお、スラスタ60の上流側にさらに流量制御用のオリフィスを設けることが好ましい。
この遠隔制御は、例えば宇宙飛行体100の上位の制御装置からの指令によるのがよい。
【0024】
図1において、推進薬供給装置10は、推進薬タンク12、電動ポンプ14、減圧器16、圧力保持ライン18、低圧ライン20、及び、制御器30を備える。
【0025】
推進薬タンク12は、中空の低圧タンクであり、内部に推進薬Lを保有し、大気圧以下の減圧空間において推進薬Lを排出可能に構成されている。
この例では、推進薬タンク12は、内部がダイアフラム13で2室に仕切られ、2室の一方に推進薬Lが充填され、他方に大気圧以下の減圧空間において推進薬Lを加圧可能な低圧ガスGが充填されている。なお、ダイアフラム13の代わりにベローズを用いてもよい。
宇宙飛行体(例えば衛星)が飛行する宇宙空間は、大気圧以下の減圧空間であり、その圧力は、例えば、10-5~10Paである。10Paは大気圧に相当する。
【0026】
電動ポンプ14は、推進薬Lを所定の供給圧力P1まで加圧する。供給圧力P1は、例えば1MPa~2MPaの範囲である。
電動ポンプ14は、この例では、ポンプ15aと電動機15bからなる。
電動ポンプ14は、吐出流量を可変調節可能な可変流量ポンプであることが好ましい。
電動ポンプ14の可変流量範囲は、最大がメインエンジン50とスラスタ60の両方を同時に使用する際の必要流量以上であり、最小が1又は複数のスラスタ60のみを使用する際の必要流量以上であるのがよい。
また、電動ポンプ14は、その停止時において、吸引口14aと吐出口14bの間が完全に遮断され推進薬Lが流れないようになっている。
【0027】
減圧器16は、供給圧力P1の推進薬Lを供給圧力P1より低い低圧P2まで減圧する。低圧P2は、供給圧力P1より低い範囲で変動してもよい。
減圧器16は、この例では、オリフィスであるが、固定絞りであってもよい。また、オリフィス又は固定絞りと並列に定圧弁(又は減圧弁)を備えてもよい。
【0028】
圧力保持ライン18は、電動ポンプ14の吐出口14bと減圧器16の流入口16aとを直接連結し、その間に供給圧力P1の推進薬Lを保持可能に構成されている。
圧力保持ライン18は、供給圧力P1の圧力に耐える配管である。また、圧力保持ライン18は、好ましくは連続した中空管であり、その一端が吐出口14bに接続し、他端が流入口16aに接続する。圧力保持ライン18の内径は、推進薬Lの圧力変動を低減するために、可能な範囲で大きくかつ均一に設定されているのがよい。
【0029】
図1において、圧力保持ライン18には、圧力計22、サブタンク23、チェック弁25、及び、制御弁29が設置されている。
圧力計22は、圧力保持ライン18の圧力を検出して制御器30にデータを出力する。制御器30は、例えば、コンピュータ(PC)であり、電動ポンプ14を制御する。
この制御は、例えば、圧力計22で検出された圧力保持ライン18の圧力に応じて、電動ポンプ14を流量制御又はオンオフ制御し、供給圧力P1を所定の範囲に維持する。なお、宇宙飛行体の上位の制御装置からの指令により、電動ポンプ14の吐出流量を可変制御してもよい。
【0030】
図1において、サブタンク23は、例えばアキュムレータであり、圧力保持ライン18に設置され、推進薬Lの圧力の脈動を吸収する機能を有する。
チェック弁25は、電動ポンプ14の吐出口側(この例で吐出口14bの近傍)に設置され、吐出口14bから吸引口14aへの推進薬Lの逆流を防止する機能を有する。
制御弁29は、例えば電磁弁であり、減圧器16の流入口側(この例で流入口16aの近傍)に設置され、圧力保持ライン18の流れを遮断可能になっている。
制御弁29の開閉制御は、制御器30、又は宇宙飛行体の上位の制御装置からの指令により、実施する。
【0031】
低圧ライン20は、減圧器16の流出口16bと電動ポンプ14の吸引口14aとを直接連結し、その間に供給圧力P1より低い低圧P2の推進薬Lを保持可能に構成されている。
低圧ライン20の内径は、電動ポンプ14の最大吐出流量を低い圧損で流せるように、可能な範囲で大きくかつ均一に設定されているのがよい。
【0032】
図1において、推進薬タンク12の排出口12aは、推薬補給管24により低圧ライン20に連結されている。また、推薬補給管24には、遮断弁26が設けられ推薬補給管24の流れを開閉できるようになっている。
この構成により、遮断弁26が開いているとき、低圧ライン20と推進薬タンク12の推進薬Lは推薬補給管24を介して連通しており、低圧ライン20の圧力(低圧P2)は推進薬タンク12の推進薬Lの圧力と同じに保持される。
【0033】
図1において、メインエンジン50の主流量調節弁52は、メイン供給管27により圧力保持ライン18に連結(好ましくは直結)されている。メイン供給管27の内径は、メインエンジン50の推薬消費量に適した大きさ(大径)に設定されている。
同様に、スラスタ60の副流量調節弁62は、スラスタ供給管28により圧力保持ライン18に連結(好ましくは直結)されている。スラスタ供給管28の内径は、スラスタ60の推薬消費量に適した大きさ(小径)に設定されている。
【0034】
図2は、上述した推進薬供給装置10を備えた宇宙飛行体100の全体構成図である。
【0035】
この図において、宇宙飛行体100は、推進薬供給装置10とメインエンジン50とスラスタ60とを備える。
メインエンジン50は、圧力保持ライン18に主流量調節弁52を介して直結されている。
スラスタ60は、圧力保持ライン18に副流量調節弁62を介して直結されている。
【0036】
メインエンジン50は、この例では宇宙飛行体100の機体に1台が搭載されているが、複数を搭載してもよい。
スラスタ60は、この例では宇宙飛行体100の機体に4台が搭載されているが、4台に限られず、1~3台、又は5台以上でもよい。
また、メインエンジン50及びスラスタ60の宇宙飛行体100の機体への搭載位置は任意である。
【0037】
図3は、推進薬供給装置10の使用方法の説明図である。この図において、(A)は電動ポンプ14の始動前、(B)は電動ポンプ14の始動後を示している。
【0038】
図3(A)において、宇宙飛行体100の打ち上げ時には、電動ポンプ14は停止し、遮断弁26、制御弁29、主流量調節弁52、及び、副流量調節弁62は全て全閉状態であり、推進薬タンク12の推進薬Lは低圧ガスGで加圧されている。低圧ガスGの圧力は、大気圧以下の減圧空間において推進薬Lを加圧可能な圧力であり、推進薬供給装置10の使用時の真空に近い圧力を想定して高圧ガスに該当しない低圧(例えば、大気圧の1~5倍)に予め設定されている。
【0039】
従って、推進薬タンク12とメインエンジン50及びスラスタ60を結ぶ推進薬Lの流路は、遮断弁26、電動ポンプ14と制御弁29、及び主流量調節弁52と副流量調節弁62の三重のバルブ又はポンプで仕切られており、三重冗長の安全性が確保されている。
【0040】
この状態において、電動ポンプ14は停止し、圧力保持ライン18と低圧ライン20は空のまま密閉されている。圧力保持ライン18と低圧ライン20の圧力は打ち上げ時の大気圧が保持される可能性がある。そのため、電動ポンプ14の始動前に、制御弁29と主流量調節弁52又は副流量調節弁62を一旦開き、内部を宇宙空間の真空に近い圧力にすることが好ましい。
【0041】
次いで、主流量調節弁52と副流量調節弁62が全て全閉のまま、宇宙空間において遮断弁26と制御弁29を開く。これにより、図に破線の矢印で示すように、推進薬タンク12の推進薬Lが低圧ライン20に流入し、さらに減圧器16を通って圧力保持ライン18にも流入して、圧力保持ライン18と低圧ライン20の全体が推進薬タンク12で満たされる。この段階において、圧力保持ライン18と低圧ライン20は、低圧ガスGよりも低い圧力になる。また、圧力保持ライン18と低圧ライン20は、推進薬タンク12の推進薬Lと同じ圧力となる。
【0042】
この状態で、電動ポンプ14を起動すると、図3(B)において、図に実線の矢印で示すように、電動ポンプ14で加圧された圧力保持ライン18の推進薬Lが減圧器16を通って低圧ライン20に流れ、電動ポンプ14に戻る循環流れが発生する。
すなわち、制御器30は、加圧された推進薬Lが圧力保持ライン18から減圧器16を通って低圧ライン20に流れ、電動ポンプ14に戻る循環流れを形成する。
この状態において、圧力保持ライン18の圧力は供給圧力P1となり、低圧ライン20の圧力は、推進薬タンク12の推進薬Lと同じ圧力(低圧ガスGより低い圧力)となる。
【0043】
電動ポンプ14の起動時に、制御器30は、圧力計22で検出された圧力に応じて、電動ポンプ14を流量制御又はオンオフ制御し、吐出流量を可能な範囲で最少に設定しかつ供給圧力P1を所定の範囲に維持する。電動ポンプ14の起動は、主流量調節弁52と副流量調節弁62が全閉している状態で実施するのがよい。
なお、電動ポンプ14を起動する際に、圧力計22で圧力計測をしながら、所定の圧力に達するまで制御弁29を閉じたままとすることで、圧力の安定した運転を能動的に実現することができる。
【0044】
次いで、主流量調節弁52又は副流量調節弁62を開いて、メインエンジン50又はスラスタ60に推進薬Lを供給して推進ガスJを噴射する。この際、制御器30は、電動ポンプ14の吐出流量をメインエンジン50及びスラスタ60の推薬消費量以上に設定し、供給圧力P1を所定の範囲に維持する。また、余剰の推進薬Lは、減圧器16で減圧されて低圧ライン20に戻される。また、メインエンジン50又はスラスタ60による推進ガスJの噴射中、サブタンク23(例えばアキュムレータ)により、圧力保持ライン18の圧力脈動が低減される。
なお、電動ポンプ14の起動と、メインエンジン50又はスラスタ60への推進薬Lの供給を実質的に同時に実施してもよい。
【0045】
メインエンジン50及びスラスタ60を同時に使用する場合、電動ポンプ14の吐出流量は大流量となるが、流量制御又はオンオフ制御する吐出流量と推薬消費量の差は、減圧器16に適合する少量に抑えることができる。
【0046】
メインエンジン50を使用せずスラスタ60のみを使用する場合、電動ポンプ14の吐出流量は小流量であり、吐出流量と推薬消費量の差は、減圧器16に適合する少量となる。
従って、メインエンジン50を使用せず、スラスタ60のみ使用する場合でも電動ポンプ14を容易に制御できる。
【0047】
推進ガスJの噴射に伴い低圧ライン20の推進薬Lが減少し、低圧ライン20の圧力が低下すると、推進薬タンク12の推進薬Lが低圧ライン20に流入して補充される。
【0048】
主流量調節弁52及び副流量調節弁62を全閉して、推進ガスJの噴射を終了すると、制御器30は、圧力計22で検出された圧力に応じて、電動ポンプ14を流量制御又はオンオフ制御し、電動ポンプ14の吐出流量を低減又はゼロにする。
次いで、制御弁29を開いたまま電動ポンプ14を停止すると、圧力保持ライン18に残った加圧された推進薬Lは減圧器16を通って低圧ライン20に流れ、圧力保持ライン18と低圧ライン20の圧力は、推進薬タンク12の推進薬Lと同じ圧力(低圧ガスGよりも低い圧力)となる。
【0049】
すなわち、減圧器16は、電動ポンプ14の停止時に、加圧された推進薬Lを圧力保持ライン18から低圧ライン20に流し、圧力保持ライン18と低圧ライン20の圧力を、推進薬タンク12の推進薬Lと同じ圧力にする機能を有する。
なお、電動ポンプ14の停止前に、制御弁29を閉じ、圧力保持ライン18の圧力を保持してもよい。
【0050】
この状態から、再度、電動ポンプ14を起動してメインエンジン50又はスラスタ60から推進ガスJを噴射することができる。
【0051】
上述した本発明の実施形態によれば、電動ポンプ14が低圧ライン20の推進薬Lを所定の供給圧力P1まで加圧するので、圧力保持ライン18の圧力を供給圧力P1に保持することができる。これにより、高圧ガスを用いずに、圧力保持ライン18にそれぞれ連結されているメインエンジン50及びスラスタ60の推進薬供給口に供給圧力P1の推進薬Lを供給することができる。
【0052】
また、減圧器16が圧力保持ライン18の推進薬Lを低圧P2まで減圧するので、低圧ライン20の圧力を供給圧力P1より低い低圧に保持することができる。これにより、圧力保持ライン18の余剰の推進薬Lは減圧器16により低圧ライン20に流れるので、メインエンジン50を使用せず、スラスタ60のみ使用する場合でも電動ポンプ14を容易に制御できる。
さらに、推進薬タンク12の排出口12aが低圧ライン20に直接連結されているので、低圧ライン20を常に低圧の推進薬Lで満たすことができる。
【0053】
特に、メインエンジン50を使用せず、推薬消費量の少ないスラスタ60のみを使用する場合に、制御器30は、電動ポンプ14の吐出流量をスラスタ60の推薬消費量以上に設定し、供給圧力P1を所定の範囲に維持する。また、余剰の推進薬Lは、電動ポンプ14の吐出流量とスラスタ60の推薬消費量の差の少量であり、減圧器16で減圧されて低圧ライン20に戻される。
【0054】
なお推進薬Lは、上述した一液式推進薬に限定されず、液体酸化剤と液体燃料であってもよい。この場合、液体酸化剤と液体燃料のそれぞれに上述した推進薬供給装置10を別個に設ける必要がある。
【0055】
また本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
G 低圧ガス、J 推進ガス、L 推進薬、P1 供給圧力、P2 低圧、
10 推進薬供給装置、12 推進薬タンク、12a 排出口、
13 ダイアフラム(又はベローズ)、14 電動ポンプ、
14a 吸引口、14b 吐出口、16 減圧器(オリフィス又は固定絞り)、
16a 流入口、16b 流出口、18 圧力保持ライン、20 低圧ライン、
22 圧力計、23 サブタンク(アキュムレータ)、24 推薬補給管、
26 遮断弁、27 メイン供給管、28 スラスタ供給管、29 制御弁、
50 メインエンジン、52 主流量調節弁、60 スラスタ、62 副流量調節弁、
100 宇宙飛行体
図1
図2
図3