(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085576
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】締付式アンカー及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
F16B 13/06 20060101AFI20240620BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
F16B13/06 A
E04B1/41 503E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200158
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(71)【出願人】
【識別番号】396010188
【氏名又は名称】株式会社中外精工
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 正人
(72)【発明者】
【氏名】窪田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
【テーマコード(参考)】
2E125
3J025
【Fターム(参考)】
2E125AA76
2E125AF01
2E125AG13
2E125BA14
2E125CA05
3J025AA07
3J025BA05
3J025CA01
(57)【要約】
【課題】ナットの締付動作の初期からテーパボルトと拡開部材の空回り、ナットとテーパボルトの共回りを防止できる。
【解決手段】軸部21の前側に小径部22とテーパ部24が順に設けられ、軸部21の後側に雄ねじ部25が設けられているテーパボルト2と、テーパ部24の引き込みに応じて拡開する拡開羽根31が軸方向に延びる溝部で区分されて形成され、小径部22に外嵌されていると共にコンクリート躯体10の削孔11に摩擦接触する拡開部材3と、雄ねじ部25に螺合される緩み止めナット4等のナットを備える締付式アンカー1であり、テーパ部24のテーパ面241に軸方向に延びる係合溝26が形成され、拡開羽根31の非拡開状態において、拡開部材31の前端部に設けられた内方突起35が係合溝26に係合されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の前側に前記軸部より小径の小径部とテーパ部が順に設けられ、前記軸部の後側に雄ねじ部が設けられているテーパボルトと、
前記テーパ部の引き込みに応じて拡開する拡開羽根が軸方向に延びる溝部で区分されて形成され、前記小径部に外嵌されていると共にコンクリート躯体の削孔に摩擦接触する拡開部材と、
前記雄ねじ部に螺合されるナットを備える締付式アンカーであって、
前記テーパ部のテーパ面に軸方向に延びる係合溝が形成され、
前記拡開羽根の非拡開状態において、前記拡開部材の前端部に設けられた内方突起が前記係合溝に係合されていることを特徴とする締付式アンカー。
【請求項2】
前記ナットが、前記雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットであることを特徴とする請求項1記載の締付式アンカー。
【請求項3】
前記拡開部材に半径方向外向きに突出する点状の外方突起が周方向に離間して複数箇所に形成され、
前記外方突起が前記コンクリート躯体の削孔に摩擦接触すると共に、
前記外方突起として、前記拡開部材の拡開しない基部に形成された第1外方突起と、前記拡開羽根に形成された第2外方突起とが設けられていることを特徴とする請求項1記載の締付式アンカー。
【請求項4】
前記拡開部材が断面視略C字形で形成され、
前記溝部が、前記拡開部材の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝と、前記拡開部材を軸方向に分断する分断溝で構成されると共に、
前記拡開羽根のぞれぞれの前端部に設けられた前記内方突起が、前記テーパ部の対応する前記係合溝に係合されていることを特徴とする請求項1記載の締付式アンカー。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の締付式アンカーの施工方法であって、
アンカー設置対象のコンクリート躯体に削孔を形成する第1工程と、
前記小径部に前記拡開部材が外嵌された前記テーパボルトを前記テーパ部を先端にして前記削孔に挿入し、前記テーパ部が孔奥近傍に配置されるまで前記テーパボルトを打ち込む第2工程と、
前記テーパボルトの前記雄ねじ部に螺合された前記ナットをさらに回転させ、前記内方突起が係合状態の前記係合溝の前方に移動するようにして前記テーパ部を前記拡開羽根の内側に引き込み、前記拡開羽根を拡開させる第3工程を備えることを特徴とする締付式アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット締めでテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込んで拡開羽根を拡開させ、コンクリート躯体に設置される締付式アンカー及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナット締めによってテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込み、拡開羽根を拡開させる締付式アンカーとして特許文献1の締付式アンカーがある。この締付式アンカーには、テーパボルトの軸部の前側に設けられた小径部に拡開部材が外嵌され、テーパボルトの軸部の後側に設けられた雄ねじ部に雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられた緩み止めナットが螺合され、テーパボルトのテーパ部のテーパ面に係合突起が形成されている。そして、テーパ部の拡開部材への引き込みに応じて係合突起が拡開羽根を区分する溝部に入り込んで係合することにより、緩み止めナットとテーパボルトの共回りが防止され、拡開羽根の拡開が適正に行なわれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の締付式アンカーは、テーパボルトのテーパ部が拡開部材に引き込まれる動作に応じて、テーパ部の係合突起が拡開部材の溝部に係合し、この係合状態によってナットとテーパボルトの共回りを防止する構成になっている。そのため、ナットの締付動作の初期における拡開羽根の非拡開状態の時には、テーパ部の係合突起が拡開部材の溝部に係合するまで、ナットとテーパボルトが若干共回りしてテーパボルトと拡開部材が空回りし、テーパ部の拡開部材への引き込みがスムーズに行われないという問題がある。特に、特許文献1のように雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットはフリクション片がテーパーボルトの雄ねじ部に食い込んでプリベリングトルクが発生しているため、ナットとボルトが一体化して共回りが生じやすく、共回りしている間はテーパ部が拡開部材に引き込まれる拡開動作に支障が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、ナットの締付動作の初期からテーパボルトと拡開部材の空回り、ナットとテーパボルトの共回りを防止し、テーパボルトのテーパ部の拡開部材への引き込みをスムーズ且つ確実に行うことができる締付式アンカー及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の締付式アンカーは、軸部の前側に前記軸部より小径の小径部とテーパ部が順に設けられ、前記軸部の後側に雄ねじ部が設けられているテーパボルトと、前記テーパ部の引き込みに応じて拡開する拡開羽根が軸方向に延びる溝部で区分されて形成され、前記小径部に外嵌されていると共にコンクリート躯体の削孔に摩擦接触する拡開部材と、前記雄ねじ部に螺合されるナットを備える締付式アンカーであって、前記テーパ部のテーパ面に軸方向に延びる係合溝が形成され、前記拡開羽根の非拡開状態において、前記拡開部材の前端部に設けられた内方突起が前記係合溝に係合されていることを特徴とする。
これによれば、コンクリート躯体の削孔に摩擦接触する拡開部材とし、拡開羽根の非拡開状態において拡開部材の前端部の内方突起をテーパ部の係合溝に係合することにより、ナットの締付動作の初期からテーパボルトと拡開部材の空回り、ナットとテーパボルトの共回りを防止し、テーパボルトのテーパ部の拡開部材への引き込みをスムーズ且つ確実に行うことができる。従って、締付式アンカーをコンクリート躯体に確実に定着することができる。
【0007】
本発明の締付式アンカーは、前記ナットが、前記雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットであることを特徴とする。
これによれば、拡開部材の前端部の内方突起とテーパ部の係合溝との係合により、ナットの締付動作の初期からテーパボルトと拡開部材の空回り、ナットとテーパボルトの共回りを防止できることから、テーパボルトの雄ねじ部にフリクション片が係合する緩み止めナットを適用しても、スムーズ且つ確実にテーパボルトのテーパ部の拡開部材への引き込み、拡開部材の拡開を行うことができる。即ち、フリクション片がテーパーボルトの雄ねじ部に食い込んでプリベリングトルクが発生し、ナットとボルトが一体化して共回りが生じやすい緩み止めナットを用いても、拡開部材を確実に拡開させることができる。
【0008】
本発明の締付式アンカーは、前記拡開部材に半径方向外向きに突出する点状の外方突起が周方向に離間して複数箇所に形成され、前記外方突起が前記コンクリート躯体の削孔に摩擦接触すると共に、前記外方突起として、前記拡開部材の拡開しない基部に形成された第1外方突起と、前記拡開羽根に形成された第2外方突起とが設けられていることを特徴とする。
これによれば、点状の外方突起をコンクリート躯体の削孔に摩擦接触することにより、締付式アンカー或いはテーパボルトと拡開部材のコンクリート躯体の削孔内への挿入時に、拡開部材が過度に孔壁と干渉して無理やりコンクリートを削りながら強力に叩き込んで挿入する事態が生ずることを防止しつつ、拡開部材と孔壁との間の必要な摩擦抵抗を確保し、挿入作業をより適確に行うことができる。また、拡開部材の基部の第1外方突起と拡開羽根の第2外方突起の双方の摩擦接触により、ナットの締め付け初期におけるナットと、テーパボルト及び拡開部材との共回りを防止することができる。
【0009】
本発明の締付式アンカーは、前記拡開部材が断面視略C字形で形成され、前記溝部が、前記拡開部材の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝と、前記拡開部材を軸方向に分断する分断溝で構成されると共に、前記拡開羽根のぞれぞれの前端部に設けられた前記内方突起が、前記テーパ部の対応する前記係合溝に係合されていることを特徴とする。
これによれば、拡開部材を断面視略C字形とすることにより、拡開部材の中間品を拡開部材の分断溝に対応する開口部からテーパボルトの小径部に押し込み、拡開部材の中間品を丸めるように小径部に巻き付ける容易且つ低コストな取付作業で、拡開部材のテーパボルトの小径部への外嵌め、拡開部材の内方突起のテーパボルトの係合溝への係合を行うことができる。
【0010】
本発明の締付式アンカーの施工方法は、本発明の締付式アンカーを施工する方法であって、アンカー設置対象のコンクリート躯体に削孔を形成する第1工程と、前記小径部に前記拡開部材が外嵌された前記テーパボルトを前記テーパ部を先端にして前記削孔に挿入し、前記テーパ部が孔奥近傍に配置されるまで前記テーパボルトを打ち込む第2工程と、前記テーパボルトの前記雄ねじ部に螺合された前記ナットをさらに回転させ、前記内方突起が係合状態の前記係合溝の前方に移動するようにして前記テーパ部を前記拡開羽根の内側に引き込み、前記拡開羽根を拡開させる第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、テーパボルトの打ち込みにより、拡開部材が外嵌されたテーパボルトを削孔内の所望位置に確実に配置することができると共に、拡開部材を孔壁に摩擦接触することができる。更に、本発明の締付式アンカーと同様の作用効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ナットの締付動作の初期からテーパボルトと拡開部材の空回り、ナットとテーパボルトの共回りを防止し、締付式アンカーのテーパボルトのテーパ部の拡開部材への引き込みをスムーズ且つ確実に行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による第1実施形態の締付式アンカーの平面図。
【
図2】(a)は第1実施形態の締付式アンカーにおける拡開部材が外嵌されたテーパボルトの正面図、(b)はその底面図、(c)はその背面図、(d)はその拡大左側面図、(e)はその拡大右側面図。
【
図3】(a)は
図2(e)のA-A断面図、(b)は
図2(a)のB-B拡大断面図、(c)は
図2(a)のC-C拡大断面図、(d)は
図2(a)のD-D拡大断面図。
【
図4】第1実施形態の締付式アンカーにおける拡開部材が外嵌されたテーパボルトの斜視図。
【
図5】(a)は第1実施形態の締付式アンカーにおけるテーパボルトの正面図、(b)はその右側面図。
【
図6】(a)は第1実施形態の締付式アンカーにおける拡開部材の拡大正面図、(b)はその拡大右側面図。
【
図7】第1実施形態の締付式アンカーにおける緩み止めナットとワッシャーの拡大平面図。
【
図8】(a)~(c)は第1実施形態の締付式アンカーにおけるテーパボルトに拡開部材を外嵌する製造工程を説明する工程説明図。
【
図9】(a)~(e)は第1実施形態の締付式アンカーの施工工程を説明する工程説明図。
【
図10】(a)~(c)は本発明による第2実施形態の締付式アンカーの段落とし部の効果を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態の締付式アンカー〕
本発明による第1実施形態の締付式アンカー1は、
図1~
図4に示すように、テーパボルト2と、テーパボルト2の先端寄りに嵌合して取り付けられる拡開部材3と、テーパボルト2の後部に螺合されるナットの好適例として緩み止めナット4を備える。尚、実施形態の説明において、先端側、前端側、前側は締付式アンカー1の打設方向の前側を意味し、後端側、後側は締付式アンカー1の打設方向の後側を意味する。また、本発明におけるナットには緩み止めナット4以外を用いることも可能であり、第1実施形態の変形例として例えば緩み止めナット4に代えて通常のナットを用いることが可能である。
【0014】
テーパボルト2には、
図1~
図5に示すように、円柱形の軸部21の前側に軸部21よりも小径で形成された小径部22が段差23を介して形成され、小径部22の前側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部24が形成されており、軸部21の前側に小径部22、テーパ部24が順に設けられていると共に、軸部21の後側には雄ねじ部25が設けられている。テーパ部24のテーパ面241には軸方向に延びる係合溝26が形成され、本実施形態では、テーパ部24の先端から小径部22の前端まで係合溝26が延設されている。また、本実施形態の係合溝26はテーパ部24の周方向に離間して複数条設けられ、図示例ではテーパ部24に略等間隔で離間して3本の係合溝26が形成されている。
【0015】
拡開部材3は、テーパボルト2の小径部22に外嵌され、非拡開状態では段差23とテーパ面241の後端近傍との間に定置されている。拡開部材3には、
図1~
図4及び
図6に示すように、テーパ部24の引き込みに応じて拡開する拡開羽根31が溝部で区分して形成されている。本実施形態の拡開部材3は断面視略C字形で形成され、拡開部材3の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝32と、拡開部材3を軸方向に分断する分断溝33が設けられており、スリット溝32と分断溝33で溝部が構成されている。また、拡開部材3のスリット溝32が切り込まれていない後部は、拡開羽根31が拡開した状態でも拡開しない基部34になっている。
【0016】
拡開部材3の前端部には点状で内方に突出する内方突起35が設けられており、本実施形態では各拡開羽根31の前端部に内方突起35がそれぞれ設けられている。内方突起35は、小径部22に外嵌された拡開部材3の拡開羽根31が拡開されていない状態で係合溝26に係合されており、拡開羽根31の非拡開状態において係合溝26の後端付近に係合されている。本実施形態では、拡開羽根31のぞれぞれの前端部に設けられた内方突起35が、テーパ部24の対応する係合溝26にそれぞれ係合されている。
【0017】
拡開部材3には、半径方向外向きに突出する点状の外方突起が周方向に離間して複数箇所に形成されており、外方突起として、拡開部材3の拡開しない基部34に形成された第1外方突起36と、拡開羽根31に形成された第2外方突起37とが設けられている。第2外方突起37は、拡開部材3の軸方向において第1外方突起36と離間して配置されている。また、第1外方突起36と、第2外方突起37は、それぞれ周方向に離間して複数箇所に形成されている。
【0018】
拡開部材3は、コンクリート躯体10の削孔11に摩擦接触するように形成され、本実施形態では、拡開部材3の第1外方突起36と第2外方突起37のそれぞれがコンクリート躯体10の削孔11に摩擦接触するように形成されている。
【0019】
即ち、拡開部材3では、非拡開状態の拡開部材3において周方向に離間する複数の第1外方突起36の最外端で規定される外接円の径が、アンカー設置対象のコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定され、各々の第1外方突起36の最外端がコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に摩擦接触するようになっている。また、拡開部材3では、非拡開状態の拡開部材3において周方向に離間する複数の第2外方突起37の最外端で規定される外接円の径も、アンカー設置対象のコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定され、各々の第2外方突起36の最外端がコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に摩擦接触するようになっている。
【0020】
ここで、アンカー設置対象のコンクリート躯体10の削孔11の削孔径は、削孔11の前端付近を除く或いは前端付近と後端付近を除く略全長に亘って略同一の削孔径が想定されており、非拡開状態の拡開部材3では、第1外方突起36の拡開部材3の中心軸からの高さと、第2外方突起37の拡開部材3の中心軸からの高さは略同一高さになっている。また、テーパボルト2のテーパ部24の最大外径は、複数の第1外方突起36の最外端で規定される外接円の径と、複数の第2外方突起37の最外端で規定される外接円の径と同一か、これらの径未満となっている。
【0021】
緩み止めナット4には、
図7に示すように、雌ねじ部41の螺入方向と逆側に位置する頂部近傍にフリクション片42が内方に突出して内装されている。本実施形態では、雌ねじ部41に、内方に突出する一対のフリクション片42、42が内装され、それぞれのフリクション片42が1/4円環形状をなす板バネで形成されている。緩み止めナット4は、雌ねじ部41がテーパボルト2の雄ねじ部25に螺合された際に、フリクション片42、42が雄ねじ部25への係合で弾性変形してねじ山に噛み付き、緩み止め機能を発揮する。緩み止めナット4は、その特性上、手指の力だけではテーパボルト2の雄ねじ部25にねじ込むことは出来ないため、予め工場で雄ねじ部25の所定位置にワッシャー5と共に螺合されている。従って、締付式アンカー1の搬送中や施工におけるアンカー挿入作業時に緩み止めナット4が分離してしまうことはない。
【0022】
第1実施形態の締付式アンカー1を製造する際には、
図8に示すように、平板状の鋼板をプレス加工して拡開羽根31、スリット溝32、内方突起35、第1外方突起36、第2外方突起37等が形成された平板状の拡開部材3の中間品3mを形成し、中間品3mを半分程度丸めて、分断溝33に対応する分断溝33より幅の大きい開口部33nを有する拡開部材3の中間品3nを形成する。そして、中間品3nの開口部33nからテーパボルト2の小径部22を押し込み、中間品3nを丸めるように小径部22に巻き付けて圧着し、最終製品の拡開部材3を形成すると共に拡開部材3をテーパボルト2に取り付けると好適である。これにより、容易且つ低コストな取付作業で、拡開部材3のテーパボルト2の小径部22への外嵌め、拡開部材3の内方突起35のテーパボルト2の係合溝26への係合を行うことができる。
【0023】
第1実施形態の締付式アンカー1を施工する際には、
図9(a)に示すように、締付式アンカー1の非拡開状態の拡開部材3における第1外方突起36で規定される外接円の径、及び第2外方突起37で規定される外接円の径と略同一の径で、アンカー設置対象のコンクリート躯体10に削孔11を形成する。
【0024】
そして、取付物12の取付穴を削孔11に位置決めした状態で、予めテーパボルト2の小径部22に拡開部材3が外嵌され、雄ねじ部25にナットの好適例である緩み止めナット4が螺合された締付式アンカー1を、テーパ部24を先端にして削孔11に挿入し、テーパ部24が孔奥近傍に配置されるまでテーパボルト2をハンマー13で打ち込む(
図9(b)、(c)参照)。テーパボルト2の打込み時には、拡開部材3の第1外方突起36、第2外方突起37、或いは締付式アンカー1は、削孔11の孔壁の摩擦抵抗に抗して孔奥側に移動する。このテーパボルト2の打ち込みにより、拡開部材3が外嵌されたテーパボルト2を削孔11内の所望位置に確実に配置することができると共に、拡開部材3を削孔11の孔壁に摩擦接触することができる。
【0025】
その後、
図9(d)の太線矢印のように、テーパボルト2の雄ねじ部25の所定位置に螺合された緩み止めナット4を手動又は電動の締付具14でさらに回転させていくと、拡開羽根31の前端部の内方突起35が、係合されたテーパ部24の係合溝26の前方に係合状態で相対的に移動するようにして、拡開部材3の拡開羽根31の内側にテーパボルト2のテーパ部24が引き込まれていき、拡開羽根31が拡開して削孔11の孔壁に食い込む。
【0026】
拡開された拡開羽根3及び拡開状態の拡開羽根31の外面に形成された第2外方突起37はコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に食い込み、拡開部材3が高強度で回転不能に削孔11内に定置されると共に、高強度の楔機能を発揮する(
図9(d)、(e)参照)。規程のトルク値になるまで締付具14で緩み止めナット4を締め付けると、拡開部材3の拡開羽根31が完全拡開となり、完全拡開の拡開羽根31及びその外面の第2外方突起37、削孔11の孔壁に深く食い込んで、締付式アンカー1の施工、コンクリート躯体10への設置が完了する(
図9(e)参照)。
【0027】
第1実施形態によれば、コンクリート躯体10の削孔11に摩擦接触する拡開部材3とし、拡開羽根31の非拡開状態において拡開部材3の前端部の内方突起35をテーパ部24の係合溝26に係合することにより、ナットの締付動作の初期からテーパボルト2と拡開部材3の空回り、ナットとテーパボルト2の共回りを防止し、テーパボルト2のテーパ部24の拡開部材3への引き込みをスムーズ且つ確実に行うことができる。従って、締付式アンカー1をコンクリート躯体10に確実に定着することができる。
【0028】
更に、拡開部材3の前端部の内方突起35とテーパ部24の係合溝26との係合により、ナットの締付動作の初期からテーパボルト2と拡開部材3の空回り、ナットとテーパボルト2の共回りを防止できることから、テーパボルト2の雄ねじ部25にフリクション片42が係合する緩み止めナット4を適用しても、スムーズ且つ確実にテーパボルト2のテーパ部24の拡開部材3への引き込み、拡開部材3の拡開を行うことができる。即ち、フリクション片42がテーパーボルト3の雄ねじ部25に食い込んでプリベリングトルクが発生し、ナットとボルトが一体化して共回りが生じやすい緩み止めナット4を用いても、拡開部材3を確実に拡開させることができる。
【0029】
また、点状の第1外方突起36、第2外方突起37をコンクリート躯体10の削孔11に摩擦接触することにより、締付式アンカー1或いはテーパボルト2と拡開部材3のコンクリート躯体10の削孔11内への挿入時に、拡開部材3が過度に削孔11の孔壁と干渉して無理やりコンクリートを削りながら強力に叩き込んで挿入する事態が生ずることを防止しつつ、拡開部材3と削孔11の孔壁との間の必要な摩擦抵抗を確保し、挿入作業をより適確に行うことができる。また、拡開部材3の基部34の第1外方突起36と拡開羽根31の第2外方突起37の双方の摩擦接触により、ナット締め付け初期における緩み止めナット4等のナットと、テーパボルト2及び拡開部材3との共回りを防止することができる。
【0030】
〔第2実施形態の締付式アンカー〕
本発明による第2実施形態の締付式アンカー1aは、
図10に示すように、テーパボルト2aの雄ねじ部25aの後端寄りの途中位置に雄ねじ部25aのねじ山より小径でねじ溝が形成されていない略円柱状の段落とし部27aが形成されている。テーパボルト2aのその他の構成は第1実施形態におけるテーパボルト2と同一である。また、第2実施形態の締付式アンカー1aは、第1実施形態の締付式アンカー1と同一構成の拡開部材3、ナットの好適例として緩み止めナット4を有し、第1実施形態と同一構成のワッシャー5が用いられる。
【0031】
第2実施形態の締付式アンカー1aは、第1実施形態の締付式アンカー1と基本的に同一の施工手順でコンクリート躯体10に設置され、取付物12が取り付けられる。即ち、締付式アンカー1aを削孔11に挿入後、予め工場で段落とし部27aより前方の雄ねじ部25aに螺合されている緩み止めナット4を、手動又は電動の締付具14でさらに回転させ、拡開羽根31の前端部の内方突起35が、係合されたテーパ部24の係合溝26の前方に係合状態で相対的に移動するようにして、拡開部材3の拡開羽根31の内側にテーパボルト2のテーパ部24を引き込んで拡開羽根31を拡開させ、拡開した拡開羽根3及び第2外方突起37をコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に食い込ませる(
図10(a)、(b)参照)。
【0032】
そして、第2実施形態では、万一、予見し難いような交通振動によって雄ねじ部25aに螺入した緩み止めナット4に緩みが発生した場合、緩み止めナット4が段落とし部27aに落ち込み、雄ねじ部25aから外れて落下することが防止される。従って、緩み止めナット4で螺着されていたワッシャー5、取付物12も、段落とし部27aに落下した緩み止めナット4よりも外側に移動することが妨げられ、ワッシャー5、取付物12の脱落も防止される。尚、第2実施形態でも、緩み止めナット4に代えて通常のナットを用いる変形例とすることが可能である。
【0033】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0034】
例えば第1実施形態の締付式アンカー1では、テーパボルト2のテーパ部24のテーパ面241に周方向に離間する複数の係合溝26を形成し、拡開部材3に複数の内方突起35を周方向に離間して形成し、各々の内方突起35を対応する係合溝26にそれぞれ係合する構成としたが、係合溝の個数と内方突起の個数は本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、テーパボルトの1本の係合溝に拡開部材の1個の内方突起を係合する構成も本発明の締付式アンカーに含まれる。
【0035】
また、本発明における拡開部材は、拡開部材3のように断面視略C字形状にするとテーパボルト2への外嵌がし易く、締付式アンカーの製造工程が容易になって好適であるが、テーパボルト2の小径部22に外挿、押圧して外嵌可能であれば筒状の拡開部材とすることも可能である。
【0036】
また、本発明における拡開部材に、周方向に離間して形成され且つコンクリート躯体の削孔に摩擦接触する複数の点状の外方突起は、第1外方突起36、第2外方突起37のように複数組ではなく、単数組とすることも可能である。また、本発明におけるコンクリート躯体の削孔に摩擦接触する拡開部材は、外方突起ではない部分或いは外周面の略全体がコンクリート躯体の削孔に摩擦接触するものとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ナット締めでテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込んで拡開羽根を拡開させる締付式アンカーに利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1、1a…締付式アンカー 2、2a…テーパボルト 21…軸部 22…小径部 23…段差 24…テーパ部 241…テーパ面 25、25a…雄ねじ部 26…係合溝 27a…段落とし部 3…拡開部材 31…拡開羽根 32…スリット溝 33…分断溝 34…基部 35…内方突起 36…第1外方突起 37…第2外方突起 4…緩み止めナット 41…雌ねじ部 42…フリクション片 5…ワッシャー 10…コンクリート躯体 11…削孔 12…取付物 13…ハンマー 14…締付具 3m、3n…拡開部材の中間品 33n…開口部