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特開2024-85583p-クレゾール産生抑制剤、飲食物、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085583
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】p-クレゾール産生抑制剤、飲食物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20240620BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240620BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20240620BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240620BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
A61K36/82
A23L33/105
A61K31/353
A61P39/02
A61P13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200171
(22)【出願日】2022-12-15
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(71)【出願人】
【識別番号】514287742
【氏名又は名称】学校法人東京家政学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海野 知紀
(72)【発明者】
【氏名】一谷 正己
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD59
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF12
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC37
4C088AB45
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA14
4C088CA05
4C088NA14
4C088ZA81
4C088ZC37
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、尿毒症物質であるp-クレゾール量の生成を抑制し、生体内濃度を効果的に低減することができる、p-クレゾール産生抑制剤を提供する。
【解決手段】茶カテキン、特にエピガロカテキンガレートを有効成分として含有する、p-クレゾール産生抑制剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶カテキンを有効成分として含有する、p-クレゾール産生抑制剤。
【請求項2】
茶カテキンがエピガロカテキンガレートである、請求項1に記載のp-クレゾール産生抑制剤。
【請求項3】
体重1kg当たり12.35mg以上のエピガロカテキンガレートを経口投与する用である、請求項1に記載のp-クレゾール産生抑制剤。
【請求項4】
血漿中のp-クレゾール量を低下させることができる、請求項1に記載のp-クレゾール産生抑制剤。
【請求項5】
尿中のp-クレゾール量を低下させることができる、請求項1に記載のp-クレゾール産生抑制剤。
【請求項6】
茶カテキンが、Clostridiales目の占有率を低下させることに起因してp-クレゾールの産生を抑制することができる、請求項1に記載のp-クレゾール産生抑制剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のp-クレゾール産生抑制剤を含有する飲食物。
【請求項8】
請求項7に記載の飲食物の製造方法であって、茶を抽出して得られた茶抽出組成物を飲食物に添加することを特徴とする、飲食物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌が産生するチロシン由来の尿毒素の一種であるp-クレゾールの生体内濃度を低減させることができるp-クレゾール産生抑制剤、これを含んだ飲食物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿毒素の蓄積が、慢性腎臓病、内皮機能障害、インスリン抵抗性、認知障害などの全身性疾患の発症と関連し、死亡率の上昇とクオリティー・オブ・ライフ(QOL)の低下につながることが知られている。
フェノールとp-クレゾールは、腸内細菌によりアミノ酸のチロシンから産生される代表的な尿毒素である。これらは、血中に取り込まれた後、肝臓で硫酸抱合あるいはグルクロン酸抱合を受ける。
p-クレシル硫酸は、慢性腎臓病患者における心血管疾患の潜在的要因であると考えられている。その作用機序としては、内皮細胞における炎症および酸化ストレスを誘発し、内皮機能不全および動脈硬化の一因となることと理解されている。
p-クレシル硫酸の排泄は主に腎臓における尿細管輸送体系に依存しているが、慢性腎臓病患者では腎臓における排出が制限されるため、血液中に蓄積する。p-クレシル硫酸は血漿タンパク質と高い親和性で結合するため、透析によって除去されにくい。慢性腎臓病患者においては腎機能を維持するだけでなく、腸内細菌によるp-クレゾールの産生を阻害することも、全身性疾患の発症予防の観点から有用な方法であるといえる。
【0003】
このように、慢性腎臓病患者においては、p-クレゾールの生体内濃度を低下させることが要求される。
p-クレゾールの産生を制御するいくつかの方法が評価されている。例えば、ある種のプロバイオティクス、プレバイオティクス、およびそれらの併用の使用は、p-クレシル硫酸の血漿中濃度を低下させることに注目が集まっている。
一般に、プレバイオティクスおよびプロバイオティクスによる治療は、腸内細菌叢を調節することを目的としており、細菌の糖分解活性を増大させ、大腸におけるタンパク質分解活性を制限するという概念に基づいている。
腸内細菌によるp-クレゾールの産生を抑制させるための戦略は、慢性腎臓病の合併症を軽減するための代替治療として大きな有望性を示す。
【0004】
例えば特許文献1には、(-)-エピガロカテキン -3-O-ガレートを有効成分として含有することを特徴とする尿毒症物質低減用組成物が開示されている。
また、特許文献2には、エピガロカテキンガレート(EGCG)を有効成分とする、高脂肪食摂取時の腸内細菌叢改善剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-360831号(特許第2649296号)
【特許文献2】特開2018-184363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、腸内細菌が産生するチロシン由来の尿毒素の一種であるp-クレゾール量の産生を抑制し、生体内濃度を効果的に低減することができる、p-クレゾール産生抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の第1の態様は、茶カテキンを有効成分として含有する、p-クレゾール産生抑制剤である。
[2]本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、茶カテキンがエピガロカテキンガレートである、p-クレゾール産生抑制剤である。
【0008】
[3]本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、体重1kg当たり12.35mg以上のエピガロカテキンガレートを経口投与する用である、p-クレゾール産生抑制剤である。
【0009】
[4]本発明の第4の態様は、前記第1~第3の何れか1の態様において、血漿中のp-クレゾール量を低下させることができる、p-クレゾール産生抑制剤である。
[5]本発明の第5の態様は、前記第1~第4の何れか1の態様において、尿中のp-クレゾール量を低下させることができる、p-クレゾール産生抑制剤である。
[6]本発明の第6の態様は、前記第1~第5の何れか1の態様において、前記茶カテキンが、Clostridiales目の占有率を低下させることに起因してp-クレゾールの産生を抑制することができる、p-クレゾール産生抑制剤である。
【0010】
[7]本発明の第7の態様は、前記第1~第6の何れか1の態様におけるp-クレゾール産生抑制剤を含有する飲食物である。
【0011】
[8]本発明の第8の態様は、前記第7の態様における飲食物の製造方法であって、茶を抽出して得られた茶抽出組成物を飲食物に添加することを特徴とする、飲食物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案するp-クレゾール産生抑制剤によれば、慢性腎臓病患者におけるp-クレゾールの産生を抑制し生体内濃度を低下させることができる。これにより、生体内にp-クレゾール濃度の増加により引き起こされる様々な病態、疾患、症状の発生、悪化のリスクを低減させることが可能となる。
また、本発明が提案するp-クレゾール産生抑制剤の有効成分は、緑茶に含有されている茶カテキンであるから、安全性に優れたものである。
よって、腎不全患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)改善に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】EGCG加水分解物をタンナーゼ処理し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)での分析結果を示したグラフである。
図2】実験1で採取した尿中のフェノール及びp-クレゾール濃度を示したグラフである。
図3】実験1で採取した血漿中のフェノール及びp-クレゾール濃度を示したグラフである。
図4】実験1で採取した尿中のフェノール,p-クレゾールに関する遊離型,グルクロン酸抱合型,硫酸抱合型の比率を示したグラフである。
図5】実験2で採取した尿中のフェノール及びp-クレゾール濃度を示したグラフである。
図6】実験2で採取した血漿中のフェノール及びp-クレゾールの濃度を示したグラフである。
図7】実験2で採取した盲腸内容物中のp-クレゾール濃度と、血漿中のp-クレゾール濃度との関係を示したグラフである。
図8】実験2で採取した糞中の門レベルの菌叢組成を示したグラフである。
図9】実験2で採取した糞中の門レベルの細菌について、各種飼料を投与した後の相対割合を示したグラフである。
図10】実験2で採取した糞の腸内細菌叢について,PC1とPC2を対比させた主成分分析の結果を示したグラフである。
図11】実験2で採取した糞中の目レベルの菌叢組成を示したグラフである。
図12】実験2で採取した糞中の目レベルの細菌について、各種飼料を投与した後の相対割合を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<本発明クレゾール産生抑制剤>
本発明の実施形態の一例に係るp-クレゾール産生抑制剤(「本発明クレゾール産生抑制剤」と称する)は、茶カテキンを有効成分として含有するものである。
【0016】
本発明において「茶カテキンを有効成分とする」とは、本発明クレゾール産生抑制剤の作用が阻害しなければ、その他の成分、すなわち、茶カテキン以外の成分を含んでいてもよい、という意を包含するものである。
【0017】
(茶カテキン)
有効成分である茶カテキンとは、茶から抽出されるカテキン及びそれが熱異性化してなるカテキンを包含する意であり、具体的には(-)カテキン(C)、(-)カテキンガレート(CG)、(-)ガロカテキン(GC)、(-)ガロカテキンガレート(GCG)、(-)エピカテキン(EC)、(-)エピカテキンガレート(ECG)、(-)エピガロカテキン(EGC)、(-)エピガロカテキンガレート(EGCG)からなる群から選ばれる一種、又は、二種以上の組み合わせからなる共重合体、又は、これら二種以上の組み合わせからなる混合物を挙げることができる。
【0018】
上記カテキンの中でEC、EGC、ECG及びEGCGは、天然物、特に茶葉中に多く含有されているから、従来公知の方法或いは今後公知となる方法によって抽出及び精製などによって得ることができる。
他方、これらのエピマーであるC、GC、CG及び GCGは、茶葉を含めて天然植物中にはほとんど存在しないが、EC、EGC、ECG及びEGCGのそれぞれ或いはこれら二種類以上の組み合わせからなる混合物を加熱処理することにより熱異性化(エピマー化)させて得ることができる。例えば、精製したEC、EGC、ECG及びEGCGのそれぞれ或いはこれら二種類以上の組合わせからなる混合物、例えば茶の抽出液や浸出液などを、好ましくはpH5~6に調整した上で、80℃以上の加熱処理することによりカテキンの熱異性化を促してC、GC、CG及びGCGの含有濃度を高め、このような加熱処理後物からC、GC、CG及びGCGのそれぞれ或いはこれら二種類以上の組み合わせからなる混合物を分離・精製して得ることができる。
この際、カテキンを熱異性化(エピマー化)させるための加熱処理としては、カテキンを含有する溶液(カテキン溶液)を少なくとも80℃以上に加熱処理する必要がある。例えば、100℃×15分間加熱、115℃×20分間加熱、120℃×3~30分間加熱、123℃×10分間加熱、131℃×30秒間加熱、133℃×45秒間のいずれにおいてもカテキンの熱異性化が認められている。
カテキン溶液をpH5~6に調整した上で加熱処理するのが好ましいとするのは、pH4.5以下ではカテキンはほとんど熱異性化しないことが報告されているためである(末松伸一ら、:日食工誌、39,178(1992))。
【0019】
なお、カテキンの分離・精製方法は、従来公知の方法或いは今後公知となる方法によって行えばよい。例えば、茶の抽出液を、例えば水-アセトニトリル-リン酸の混合液を移動相とした逆相HPLCにかけ、アセトニトリル濃度でグラジエントをかけることによってそれぞれ分離できることが知られている。
【0020】
(エピガロカテキンガレート(EGCG))
本発明クレゾール産生抑制剤の有効成分としては、上記茶カテキンの中でも、エピガロカテキンガレート(EGCG)が最も好適である。
【0021】
EGCGは、緑茶に含まれるカテキン類の中でも最も含有割合の高いカテキンであり、エピガロカテキンと没食子酸とのエステルである。
なお、EGCGは、EGCGの薬学的に許容可能な塩であってもよい。例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属とEGCGとの塩、EGCGのアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などを挙げることができる。
また、EGCGは、生体内においてEGCGを放出するプロドラッグであってもよい。
【0022】
(本発明クレゾール産生抑制剤の投与方法)
本発明クレゾール産生抑制剤は、経口投与剤または非経口投与剤(筋肉注射、静脈注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、経鼻投与など)として使用することができ、それぞれの投与に適した配合及び剤型とするのが好ましい。
【0023】
<本発明クレゾール産生抑制組成物>
本発明の実施形態の一例に係るp-クレゾール産生抑制組成物(「本発明クレゾール産生抑制組成物」と称する)、すなわち、p-クレゾール産生抑制作用を有する組成物は、茶カテキンを含有する組成物である。
【0024】
本発明クレゾール産生抑制組成物において、茶カテキン、特にEGCGの含有量は、本発明クレゾール産生抑制組成物100質量部に対して10~100質量部であるのが好ましく、中でも30質量部以上或いは90質量部以下、その中でも40質量部以上或いは50質量部以下、その中でも70質量部以上或いは80質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
本発明クレゾール産生抑制組成物における茶カテキンは、C、CG、GC、GCG、EC、ECG、EGC又はEGCGの純品であってもよいし、また、これらのうちの2種類以上の混合物であってもよいし、また、茶カテキンを含む組成物であってもよい。
【0026】
前記茶カテキンを含む組成物としては、例えば、緑茶の抽出物やその精製物などを挙げることができる。具体的な一例としては、緑茶を熱水抽出処理して得た抽出物を、水と低・高濃度アルコールを使って吸着カラムにて分離し乾燥させ、茶ポリフェノール濃度を約85~99.5%に調製してなる緑茶抽出物を例示することができる。例えば、「テアフラン90S(商品名;伊藤園社製)」などは好ましい例である。このテアフラン90Sは、カテキン類の総量に対するエステル型カテキン類の量が50~90質量%であり、EGCGの量がカテキン総量の40~90質量%であり、カフェイン含有量が同じくカテキン総量に対して0~2質量%である。
【0027】
<効果>
本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物を体内に摂取することにより、Clostridiales目の占有率を低下させることに起因してp-クレゾールの産生を抑制することができ、p-クレゾールの生体内濃度、特に血漿中のp-クレゾール量、尿中のp-クレゾール量を低下させることができる。
よって、例えば慢性腎臓病患者や、内皮機能障害、インスリン抵抗性、認知障害などの症状のある方に対して、本発明クレゾール産生抑制剤又は本発明クレゾール産生抑制組成物を投与することにより、p-クレゾールの産生を抑制し生体内濃度を低下させることができ、p-クレゾール濃度の上昇によって引き起こされる様々な病態、疾患、症状の発生、悪化のリスクを低減させることが可能となる。
本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物は、慢性腎臓病患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)改善に大きく寄与するものである。
【0028】
<形態>
本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物は、例えば、経口投与剤としての医薬品、医薬部外品、栄養補助食品(サプリメント)、飲食物などとして提供することができる。
【0029】
この際、本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物の形態としては、例えば液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態を挙げることができる。例えば経口投与剤用としては液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態に調製することができ、非経口投与剤用としては注射剤、アンプル剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤などの形態に調製することができる。
【0030】
本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物は、医薬品、医薬部外品、栄養補助食品に通常用いられている添加剤、例えば賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを含有することが可能である。また、例えばでん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール-クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどの無毒性の添加剤を配合することも可能である。
なお、医薬部外品として調製する場合には、例えば瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0031】
本発明クレゾール産生抑制剤は、医薬品のほか、医薬部外品、薬理効果を備えた健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品、食品添加剤、その他ヒト以外の動物に対する薬剤や餌、餌用添加剤などとして提供することもできる。
例えば、医薬部外品として調製し、これを瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0032】
本発明クレゾール産生抑制剤には、酸化防止剤、乳化剤、保存料、pH調整剤、香料、調味料、甘味料、酸味料、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。例えば、酸化防止剤としてはビタミンC、ビタミンE、システインなどを用いることができ、特にビタミンCを0.005~0.05重量%含有するのがよい。また、例えば甘味料としてはぶどう糖、果糖、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖、大豆オリゴ糖、サイクロデキストリン、アスパルテーム、ラカンカエキスなどを用いることができる。
【0033】
中でも、本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物を、飲食物として提供する場合、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品,いわゆる健康食品(機能性食品、健康補助食品)、清涼飲料水などとして提供することができる。但し、これらに限定するものではない。
この際、カテキン類が有する機能性についての表示を付した飲食物とすることも可能である。
【0034】
飲食物として好ましい形態は、例えば飴、ゼリー、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、冷菓、焼き菓子等を挙げることができる。好ましくは、果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料(緑茶飲料を含む)、コーヒー飲料、スポーツドリンク等の容器詰飲料である。
【0035】
<必要摂取量及び含有量>
本発明クレゾール産生抑制剤の有効成分である茶カテキン、特にEGCGの濃度は、医薬品であれば、EGCGを、乾燥質量換算で0.001~1質量%、中でも0.01質量%以上或いは0.5質量%以下の割合で配合するのが好ましく、飲食品であれば、EGCGを0.001~1質量%、中でも0.01質量%以上或いは0.5質量%以下の割合で配合するのが好ましい。特に飲料の形態とする場合、通常飲用されるお茶の1.4倍~8倍の濃度に調製するのが好ましい。
【0036】
本発明クレゾール産生抑制剤の有効成分の摂取量又は投与量は、上記の効果を得るためには、医薬品であれば、体重1kg当たり12.35mg以上のEGCGを経口投与するのが好ましい。
なお、摂取回数又は投与回数は、特に限定されない。目安としては、1日1~3回を想定することができ、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。
【0037】
<安全性>
本発明クレゾール産生抑制剤及び本発明クレゾール産生抑制組成物の有効成分は、長年に渡って人類が経口摂取している成分であるから、安全性は食経験の観点から保証されていると言える。
【0038】
<語句の説明>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0039】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
下記実施例において「%」は、特に言及しなければ「質量%」を示す。
【0040】
<材料および方法>
(化学物質)
フェノール、p-クレゾール、p-クロロフェノールは、富士フィルム和光純薬株式会社(大阪,日本)から購入した。
Helix pomatia由来のβ‐グルクロニダーゼとアワビ内臓由来のスルファターゼは、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社(東京、日本)から購入した。
EGCGは、DSMニュートリションジャパン株式会社(東京、日本)から購入した。
【0041】
EGCG加水分解物(EGCと没食子酸(GA)の混合物)を、以前の手順に従い、EGCGの酵素加水分解により調製した。
麹菌由来のタンナーゼ(0.9%(w/w))、グルコース(99.0%)、及びイノシトール(0.1%)からなる酵素調製物(タンナーゼ‐KTFHR、キッコーマン株式会社、千葉、日本)1gをEGCGの水溶液(10g/L)に添加し、37℃で60分間インキュベートした。反応混合物を凍結乾燥した。タンナーゼ処理後のEGCGの消失は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した(図1)。EGCとGAを除いて、新しく発生したピ-クは検出されなかった。
【0042】
(動物と食餌)
最初の実験(実験1)では、合計12匹の雄ICRマウス(4週齢)を東京実験動物株式会社(東京、日本)から購入し、自動的に制御された12時間明暗サイクルの室内で、22℃の温度環境のもと,ステンレススの代謝ケージで3日間馴化した。馴化期間中、マウスにAIN93G配合飼料を与えた。その後、体重により4群(各群n =3)に分け、それぞれの飼料;対照飼料(control)、0.05% (w/w)EGCG飼料、0.1%EGCG飼料、または0.2%EGCG飼料を与えた(表S1)。実験食と水道水は2週間自由に摂取させた。実験期間を通じて糞を採取し、実験の最後の2日間は尿を採取した。
【0043】
糞は凍結乾燥し、-40℃で保存した。
高濃度の二酸化炭素を吸入させた後、直ちに腹部静脈から血液を採取した。
血しょうは2000×gで10分間遠心分離後、-40℃でプラスチックマイクロチューブに保存した。盲腸を切除し、盲腸内容物を採取し、使用まで-40℃で保存した。
【0044】
次の実験(実験2)では、同じブリーダーから計12匹の雄ICRマウスを再度購入した。3日間の馴化期間の後、マウスを3群(各群n=4)に分け、それぞれの飼料:対照飼料(control)、EGCG飼料、またはEGC+GA飼料(表S1)を2週間与えた。実験1と同様に糞尿を採取した。実験の最終日に血液および盲腸の内容物を採取した。
なお、実験はすべて東京家政学院大学動物実験委員会の承認を得た。
【0045】
【表S1】
【0046】
(尿、血漿及び盲腸内容物中のフェノール及びp-クレゾールの分析)
冷凍保存した尿を解凍し、蒸留水で50倍に希釈した。
フェノール及びp-クレゾール(遊離型、硫酸型及びグルクロン酸抱合型の合計)の総量の測定には、まず希釈尿試料50μLを37℃で0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)0.1mL中のスルファターゼ溶液20単位と2時間反応させ、次に、5mM塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)0.9mL中のβ-グルクロニダーゼ溶液100単位を37℃で15分間反応させた。グルクロン酸抱合体については、希釈尿試料(50μL)を同じリン酸緩衝液0.9mL中のβ-グルクロニダーゼ溶液100単位のみで37℃,15分間反応させた。遊離型については、希釈した尿試料に対する酵素処理を行わなかった。
【0047】
内部標準物質として0.5mMのp-クロロフェノール溶液10μLを加えた後、反応混合物を、水1mL、メタノール1mL、及び水1mLで再びプレコンディショニングしたポリマーベースの固相抽出(SPE)カートリッジ(Strata-X、粒子径33μm、フェノメネックス社製)に直接供した。カートリッジを水1mL及び20%(v/v)メタノール水溶液1mLで洗浄した後、フェノール及びp-クレゾールをメタノール1mLで順次溶出した。0.45μmろ過膜を通過後、得られたろ液10μLをデュアルポンプ(LC-20AD)、オートサンプラー(SIL-10A)、カラムオーブン(CTO-20A)、蛍光検出器 (RF-20A)及びシステムコントローラ(SCL-10A)からなるHPLCシステム(島津製作所社製)に注入した。
分離には分析カラム(Unison UK-3C18,100mm×4.6mm i.d.、Imtakt,Co.,京都,日本)を用いた。
蛍光検出器は励起波長270nm、発光波長305nmに設定した。
溶媒A(メタノール-水、25:75v/v)と溶媒B(メタノール)の割合を変えて勾配溶出を行い、流量は1mL/minとした。移動相組成は100%溶媒A(0%溶媒B)で開始し、その後、溶媒Bの比を15分間で50%まで直線的に増加させ、続いて2分間で溶媒Bを70%までさらに増加させた。次いで、組成を2分間かけて初期条件に戻し、次の測定を行った。
測定値は尿中クレアチニン濃度当たりとして補正した。尿中クレアチニン濃度はJaffe法により測定した。
【0048】
(血漿)
冷凍保存した血漿を解凍し、血漿50μLに0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)0.1mLを加え,20単位のスルファターゼによって37℃,2時間反応させた後、5mMの塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)0.9mLを加え,100単位のβ-グルクロニダーゼによって37℃,15分間反応させた。その後のSPEおよびHPLC測定は、尿の場合と同じ手順で行った。
【0049】
(盲腸内容物)
解凍した盲腸内容物の一部に4容量の蒸留水に加え,ホモジネートを調製した。ホモジネート(0.1mL)をメタノール0.4mLに混和した後、2000×g、4℃で10分間遠心分離した。上澄液(0.4mL)を水3.6mLで希釈し、上記の方法に従ってSPE及びHPLC測定を進めた。
【0050】
(16SrRNA遺伝子アンプリコン配列決定)
前記実験で採取した糞からDNAを抽出し、
16S rRNA遺伝子のV3-V4領域を、汎用プライマー341F(5'-CCTACGGGAGGCAGCAG-3')および805R(5'-GGACTACCAGGGTATCTAAT-3')を用い,PCRによって増幅した。
MiSeq試薬キットバージョン3(Illumina,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いたMiseqシ-クエンシングシステム上で、600bpサイクルランに修飾したペアードエンドを用いてシ-クエンシングを行った。
配列の質をチェックし、配列類似性でクラスタリングして分類単位(OTU)解析を行った。微生物同定は,データベースNGS‐DB‐BA 16.0(テクノスルガラボ株式会社)を用いて行った。
【0051】
(統計解析)
0.5未満のP値を有意であるとみなした。
前記実験1では、Dunnett検定により統計解析を行い、対照群との差を比較した。データが正規の分布が認められなかった場合は、Dunnの検定を採用した。
前記実験2では、一元配置分散分析を用いて統計量を算出した後、Tukey検定を行った。微生物叢量の比較は、Dunn検定によった。統計解析はすべてGraphPad Prismバージョン9.03(GraphPad Software,カリフォルニア州サンディエゴ)を用いた。
【0052】
<結果>
(食物摂取量と体重)
実験1、実験2ともに、2週間の給餌期間において、摂餌量、乾燥糞質量に有意差は認められなかった(表1)。最終体重にも有意差はなかったが、0.2%EGCG投与マウスの盲腸内容物重量は統計学的に有意な増加を示した。
【0053】
【表1】
【0054】
(用量依存的な作用)
フェノール及びp-クレゾールの抱合体は、スルファターゼ及びβ-グルクロニダーゼによる酵素加水分解により元の形態に変換し、フェノール及びp-クレゾールの尿中及び血漿中濃度は、それらの遊離型及び硫酸/グルクロン酸抱合体の総濃度として測定した。対照群では、尿中に排泄されたp-クレゾールの平均量がフェノールの4倍であった(図2)。
EGCGの飼料添加は、両化合物の尿中排泄を用量依存的に減少させ、0.2%EGCG飼料を与えたマウスの尿中にはほとんど検出されなかった。
Dunnett検定の結果、0.2%EGCG群は、尿中のフェノール及びp-クレゾールが、対照群と比較して統計学的に有意な減少を示した(いずれもp<0.05)。
【0055】
また、p-クレゾールの血漿中濃度もフェノールより高かった(図3)。
p-クレゾールの平均血漿濃度は、対照群で9.3±2.2μM、0.2%EGCG群で0.2±0.1μMであり、統計学的に有意差が認められた(p<0.05)。血漿中フェノール濃度はEGCGの添加に伴い低下傾向を示したが、統計学的有意差には至らなかった。
【0056】
(硫酸抱合型とグルクロン酸抱合型の比率)
遊離型のフェノールとp-クレゾールは酵素による加水分解反応を行わずに測定した。尿中フェノール及びp-クレゾールの総量に対する遊離型の割合はごくわずかであった(図4)。グルクロン酸抱合型の量は,グルクロニダーゼ処理後に得られたデータから遊離型のデータを差し引いて算出した。
また、グルクロニダーゼ+スルファターゼ処理後に得られたデータから、遊離型及びグルクロン酸抱合型を差し引いて硫酸抱合型の量を算出した。
対照群では、尿中のフェノールの硫酸抱合体が優勢であり、全濃度の77%を占めていた。しかし、p-クレゾールの硫酸抱合型は45%、グルクロン酸抱合型は51%と、フェノールにおけるそれぞれの割合とは異なる傾向を示した。
EGCGを0.05%および0.1%添加した飼料を与えたマウスは、EGCGの添加量にかかわらず、総尿中濃度に対する硫酸抱合型またはグルクロン酸抱合型の割合は、対照飼料を与えたマウスとほぼ一致していた(表2)。
【0057】
【表2】
【0058】
実験2では、0.2%のEGCGの食餌添加によりp-クレゾールの尿中排泄が減少し(p<0.001)、実験1と同様の結果が再現されたが、この効果はEGCGをタンナーゼで加水分解することにより完全に失われた(図5)。
EGCGとその加水分解物(EGCとGAの等モル混合物)の間で、p-クレゾールの尿中濃度に統計的有意差があった(p<0.0001)。一方、フェノールの尿中濃度に関しては、群間で有意差を示さなかった。
このような結果は血漿中濃度に関しても一貫して現れた。対照飼料、EGCG飼料、およびEGC+GA飼料を与えたマウスの血漿中のp-クレゾール濃度は、それぞれ10.8±5.2μM、0.2±0.1μM、および12.4±8.0μMであった(図6)。
EGCG群は他の群よりも有意に低かった(対照群に対してp<0.05およびEGC+GA群に対してp<0.01)。血漿中フェノール濃度に関しては,群間で有意差は認められなかった。
【0059】
(フェノール及びp-クレゾールの盲腸内容物中における含有量)
盲腸内容物の湿重量当たりの遊離型フェノール及びp-クレゾールの濃度を表3に示す。
実験1及び実験2のいずれにおいても、0.2%EGCG飼料を与えたマウスの盲腸内容物にはp-クレゾールがほとんど含まれておらず、対照群との間に統計学的有意差が認められた(実験1でp<0.05、実験2でp<0.01)。これに対し、EGCG加水分解物(EGCとGAの等モル混合物) は、p-クレゾールの盲腸内容物中の含有量にほとんど影響を及ぼさなかった。
図7は、盲腸内容物中のp-クレゾールの含有量が、その血漿濃度と密接に相関していたことを示している。
このように、腸内細菌が生息している盲腸内容物中のp-クレゾール濃度が低下していたことから、p-クレゾールの合成阻害に関してEGCGの構造的優位性が認められた。
フェノールの場合、実験1では用量依存的な減少が見られたが、EGCGを食餌に添加しても実験2では統計学的有意差には至らなかった。
【0060】
【表3】
【0061】
実験2において得られた対照マウスにおける糞中の微生物組成は、4つの主要な門(Firmicutes、Bacteroidetes、Actinobacteria、Proteobacteria)が対照マウスの糞便中の配列の98.2%を占めていた(図8)。
対照群のすべてのマウスで、Firmicutes門が最も多かった。
飼料に0.2%のEGCGを添加すると、対照群と比較してFirmicutesの相対量が有意に減少したが(p<0.05)、EGC+GAを配合した飼料では影響がなかった(図9)。
acteroidetes門およびVerrucomicrobia門は逆に増加した(いずれもp<0.05)が、EGCG加水分解物の場合、実際的な影響はなかった。主成分分析(PCA)は、対照飼料及びEGC+GA飼料を給餌したマウスの門分類学的プロファイルは、近傍に位置し、EGCG飼料を給餌したマウスとは異なったプロファイルをもたらした(図10)。
【0062】
レベルでは、対照群の糞便から12目の細菌群が検出され、そのうち96.3%がClostridiales、Lactobacillales、Erysipelotrichales、Bacteroidales、Bifidobacteriales、Eggerthellales、Enterobacteralesに属するものであった(図11)。
シ-クエンスの上位5位の実験群間の比較を図12に示す。
GCG群では、Firmicutes門のメンバーであるClostridiales目の相対的な存在量が低減した一方、Bacteroidetes門のメンバーであるBacteroidales目は増加し、対照群との間に有意差が認められた(Clostridialesについてp<0.01、Bacteroidalesについてp<0.05)。Firmicutes門に属するLactobacillales目とErysipelotrichales目は有意差を示さなかったが、Verrucomicrobialesの相対的な存在比はEGCG群で急激に増加した。
【0063】
<考察>
最近の研究では、ポリフェノールに富む食品は、腸内細菌叢を変化させ,そのことによって腸内細菌が産生する代謝物についても増加もしくは抑制に働くとして、多くの注目を集めている。いったん経口摂取されると、ポリフェノールの一部は大腸に到達し、そこで多様な細菌と直接接触する。ポリフェノールによる細菌群の組成変化の結果として、代謝物の産生増加または産生抑制される可能性がある。短鎖脂肪酸は腸内細菌の代謝産物の一例である。緑茶ポリフェノールは腸内での産生を抑制するが、紅茶ポリフェノールは逆にそれらを増加させる。しかし、緑茶ポリフェノールがフェノールとp-クレゾールの産生に影響を及ぼすかどうかについては検討されていなかった。ここでは、健常マウスの尿および血漿p-クレゾール濃度に対する緑茶中の主要ポリフェノール、EGCGの効果を評価した。
【0064】
尿中及び血漿中のフェノール及びp-クレゾールは大部分が抱合型からなることはよく知られている。本研究では、フェノール及びp-クレゾールの抱合体をスルファターゼ及びβ‐グルクロニダーゼにより加水分解して元の形に戻し、次いで固相抽出法により化合物を精製した。
実験1では、食餌に添加されたEGCGの量に応じて、尿および血漿中のp-クレゾール濃度が低下した。この結果は、EGCGがp-クレゾールの細菌産生の抑制に有益な効果を有するという直接的証拠といえる。特に、盲腸が腸内細菌による尿毒素を産生する主要な臓器の1つであることを考慮すると、0.2%EGCG群でp-クレゾールの盲腸内容物における含有量が有意に減少したという知見は、理論を裏付ける決定的な証拠となりうる。EGCGは腸管腔内でのp-クレゾール産生を低下させることによりp-クレゾールの血漿中および尿中濃度を低下させたと考えるのが妥当である。
【0065】
グルクロン酸抱合と硫酸抱合のそれぞれの比を評価するために、β-グルクロニダーゼのみで加水分解した後に得られたデータから遊離型を差し引いてp-クレシルグルクロニド(グルクロン酸抱合型のp-クレゾール)の尿中濃度を計算した。また、総濃度から遊離型およびグルクロン酸抱合型の濃度を差し引いてp-クレシル硫酸(硫酸抱合型のp-クレゾール)の濃度を算出した。p-クレシルグルクロニドとp-クレシル硫酸は齧歯類でほぼ同等に認められることが報告されている。本研究の実験1でも同様であり、対照群のマウスから採取した尿において,グルクロン酸抱合型および硫酸抱合型の割合がほぼ等しいことが示された。0.1%EGCG飼料を与えたマウスの尿も対照群のマウスと同様のバランスのとれた割合を維持したことから、EGCGが肝臓におけるp-クレゾールの抱合反応にほとんど影響を及ぼさなかったと考えるのは妥当といえる。
【0066】
茶ポリフェノールは2つの主なクラスに分けられる。1つはガロイル部分を有するカテキンであり、もう1つはガロイル部分を有さないカテキンである。
ロイル型と非ガロイル型の構造活性相関を明らかにするために、次に別の動物実験を行った(実験2)。マウスは、0.2% 濃度のEGCGを含む食餌、またはEGCとGAの等モル調整物(EGCGの酵素的加水分解により調製)を含む食餌のいずれかを摂取させた。その結果、0.2%EGCG飼料を給餌したマウスは対照飼料と比較して尿および血漿中のp-クレゾール濃度が著しく低かったが、EGC+GA飼料を給餌したマウスは対照飼料を摂取させた群と同等程度のp-クレゾールを尿中に排泄することが明らかとなった。この結果は、フラバン‐3‐オールの構造へのガロイル部分の有無が重要な役割を果たすことを意味する。
【0067】
チロシンは腸内の細菌によって4-ヒドロキシフェニル酢酸に代謝された後、4-ヒドロキシフェニル酢酸デカルボキシラーゼ(4-Hpd)によってp-クレゾールに変換される。
近の研究では-クロストリジウム目の一員であるBlautia ydrogenotrophica、Clostridium ifficile、Romboutsia ituseburensis(NCBI分類データベースによるEubacterialesの異型同義語)、およびCoriobacteriales目の一員であるOlsenella liが主要なp-クレゾール産生菌として同定された。
これら4種のp-クレゾール産生菌は4-Hpdのホモログを保有している。また、Amarettiらは-クロストリジウム目の仲間であるLachnospiraceae科およびRuminococcaceae科がp-クレゾールの産生に関連性があることを見出した。この知見に照らして-クロストリジウム目に属する細菌が腸内でp-クレゾールを産生するのに主要な役割を果たしていることを予測することは妥当であると思われる。EGCGの摂取がp-クレゾール産生菌に効果を誘発するかどうかを見出すために、分類学的カテゴリーに基づいて細菌組成変化も測定した。その結果、飼料中に0.2%のEGCGを添加すると、Firmicutes門の相対量が有意に減少した。Firmicutes門を構成する主要メンバーのうち、EGCG摂取の結果、Clostridiales目のみが統計的に有意な減少を示した。Lactobacillales目とErysipelotrichales目の相対量はEGCGによって影響されなかった。このことは、摂取したEGCGの一部が大腸に到達し-クロストリジウム目の存在量を減少させ、結果的にp-クレゾール産生を抑制したことを説明している。しかし、EGCGが細菌の4‐Hpdの直接阻害を介して酵素反応を妨害するかどうかはまだ分かっていない。
【0068】
フェノール産生能を有する多種多様な細菌が腸内に生息していることが明らかになっている。また、チロシンからフェノールを効果的に生産する能力のある、Clostridiales、Fusobacteriales、及びEnterobacteralesに属するいくつかのタイプのバクテリアを同定されている。これらはそれぞれFirmicutes門、Fusobacteria門、Proteobacteria門に系統発生的に分類される。上記のように、EGCGはFirmicutes門の相対的な存在量を減少させることができたが、Proteobacteriaについては逆の傾向を示した。このようにフェノール生産菌は多様であることから、EGCGはそれ自体ではフェノールの尿中及び血漿中濃度を有意に低下させることはできなかったと考えられた。フェノール産生菌に対するEGCGの役割を調べるためのより詳細な研究が必要である。
【0069】
ポリフェノールを多く含む植物エキスの摂取は、ある種の尿毒素の産生を制御する可能性がある。例えば、赤ワインとブドウ果汁エキスの混合物を4日間摂取すると、結腸における微生物のタンパク質発酵が抑制し,アミノ酸代謝の変化、特に尿中p-クレゾールの減少がもたらされた。
別の研究では-クランベリー乾燥エキス(1日量1000mg)を2カ月間補給しても、非透析慢性腎臓病患者のp-クレシル硫酸の血漿中濃度は低下しなかった。
本研究は、マウスを用いた実験モデルにおいて腸内細菌によるp-クレゾール産生に及ぼす緑茶ポリフェノールの有益な効果の可能性を実証した。EGCGの飼料添加は、糞便微生物叢におけるp-クレゾール産生菌の存在量の減少に伴い、尿中および血漿中p-クレゾール濃度に対して強い減少効果を示した。実験期間を通しての摂餌量に基づいて、0.2%EGCG群のEGCGの1日消費量はマウスの305mg/kg体重と計算された。これは12.35mg/kgでヒト相当量に換算できた。すなわち、体重1kg当たり12.35mg以上のEGCGを経口摂取すれば、有効であると推定される。より多くの量のEGCGが大腸に到達するのを助ける効率的な方法が考案されれば、EGCGの投与量をある程度減らすことが可能になるはずである。
腸内細菌によるp-クレゾールの産生が慢性腎臓病患者における心血管死亡の有意なリスクと関連していることを考慮すると、EGCGは本疾患の治療の薬剤候補となる可能性がある。本研究では、尿毒素制御に焦点を当てて、異なる観点から有益な健康効果を検討した。
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