(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085594
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240620BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240620BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240620BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M12/08 K
H01M12/08 S
H01M4/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200187
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 実紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018DD01
5H018DD08
5H018EE06
5H018EE12
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH05
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS12
5H032CC16
5H032EE05
5H032EE13
5H032EE15
5H032HH01
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA20
5H050CA12
5H050CB16
5H050DA16
5H050EA24
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】、従来よりも放電電圧を高めることに貢献することができる空気極、及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含む電極群10と、電極群10をアルカリ電解液82とともに収容している容器4と、を備え、空気極16は、空気極用芯体と、空気極用芯体に保持された空気極合剤と、を備えており、空気極合剤は、少なくともビスマス、ルテニウム、及び酸素を含むビスマスルテニウム酸化物からなる空気極用触媒と、界面活性剤とを含んでおり、この界面活性剤は、ポリカルボン酸塩である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極用芯体と、
前記空気極用芯体に保持された空気極合剤と、を備えており、
前記空気極合剤は、少なくともビスマス、ルテニウム、及び酸素を含むビスマスルテニウム酸化物からなる空気極用触媒と、界面活性剤とを含んでおり、
前記界面活性剤は、ポリカルボン酸塩である、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸塩は、ポリカルボン酸アンモニウムである、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸アンモニウムは、前記ビスマスルテニウム酸化物に対して1wt%以上含まれている、請求項2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項4】
前記空気極合剤は、黒鉛及びフッ素樹脂を含んでいる、請求項1~3の何れかに記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項5】
容器と、
前記容器内に配設された電極群と、
前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、
前記空気極は、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極である、空気二次電池。
【請求項6】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項5に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0008】
上記した反応式(I)、(II)に示される空気極における反応は、過電圧が比較的高い。空気二次電池においては、エネルギー効率の向上や高出力化を図るため、空気極の充放電反応における過電圧を低減することが望まれている。上記した空気二次電池の正極である空気極としては、上記した充放電反応を促進させるために酸素発生と酸素還元の両方に対して優れた活性を有する触媒が必要とされている。そこで、空気極に用いられる触媒となる材料に関しては、過電圧の低減に有効な材料の検討がなされている。そのような過電圧の低減に有効な材料としては、種々の金属酸化物が有望である。そのような金属酸化物のなかでも、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物は、充電反応においても放電反応においても過電圧を低減することができるとともに、電位窓が広く安定であり、高い充放電サイクル耐性を有する酸素還元と酸素発生の「2元機能」を有しているため、空気極用触媒として特に有効であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、空気二次電池は、様々な用途への応用が期待されていることから、更なる高出力化が望まれている。更なる高出力化のためには、特に放電電圧を現状よりも高める必要がある。
【0011】
空気二次電池においては、放電反応における過電圧を低減し放電電圧を高めることを企図してパイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を含む空気極を採用してはいるものの、十分な放電電圧の向上効果は未だ得られていないのが現状である。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも放電電圧を高めることに貢献することができる空気極、及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、空気極用芯体と、前記空気極用芯体に保持された空気極合剤と、を備えており、前記空気極合剤は、少なくともビスマス、ルテニウム、及び酸素を含むビスマスルテニウム酸化物からなる空気極用触媒と、界面活性剤とを含んでおり、前記界面活性剤は、ポリカルボン酸塩である、空気二次電池用の空気極が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、空気極用芯体と、前記空気極用芯体に保持された空気極合剤と、を備えており、前記空気極合剤は、少なくともビスマス、ルテニウム、及び酸素を含むビスマスルテニウム酸化物からなる空気極用触媒と、界面活性剤とを含んでおり、前記界面活性剤は、ポリカルボン酸塩である。界面活性剤としてポリカルボン酸塩を含んでいることにより、空気極中でビスマスルテニウム酸化物が均等に分散し、触媒活性を十分に発揮できるようになる。このため、本発明に係る空気極を用いた空気二次電池は、従来の空気二次電池よりも放電電圧が向上する。よって、本発明によれば、従来よりも放電電圧を高めることに貢献することができる空気極、この空気極を含む空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】実施例1に係る空気極の反射電子像を示した図面代用写真である。
【
図3】比較例1に係る空気極の反射電子像を示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0018】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0019】
負極12は、三次元網目構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、前記した空孔内及び負極芯体の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極芯体としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0020】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末、カーボンブラック粒子の集合体であるカーボンブラック粉末等を用いることができる。
【0021】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgaNib-c-dAlcMd・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0022】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0023】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0024】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0025】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極芯体に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が保持された負極芯体はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされる。これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0026】
次に、空気極16は、三次元網目構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極芯体と、前記した空気極芯体に担持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極芯体としては、例えば、発泡ニッケルを用いることができる。
【0027】
空気極合剤は、酸素触媒(空気極用触媒)、導電材、撥水剤、結着剤、及び界面活性剤を含む。
酸素触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有している。
【0028】
本実施形態におけるビスマスルテニウム酸化物は、少なくともビスマス、ルテニウム、及び酸素を含んでいる。
【0029】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物は、従来の方法により製造され、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0030】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備する。そして、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとをそれぞれが所定量となるように計量する。
【0031】
次に、計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。そして、この混合水溶液と、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液とを反応容器に同時に滴下する。混合水溶液及びNaOH水溶液は、反応容器がオーバーフローするまで滴下される。このとき、反応容器内では、前駆体が形成される。そして、反応容器内に蓄えられた混合水溶液及びNaOH水溶液は、撹拌容器に移され、撹拌される。
【0032】
この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって12時間~48時間行う。撹拌操作の終了後、沈殿物を回収し、乾燥させて沈殿物の乾燥物を得る。次に、得られた乾燥した沈殿物を粉砕し、粉末を得る。そして、この粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより焼成処理を施す。焼成処理が終了した粉末は、水洗後、乾燥処理が施される。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物が得られる。このビスマスルテニウム酸化物は、Bi2-xRu2O7-z(ただし、xは0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表される。
【0033】
次に、得られたビスマスルテニウム酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0034】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。より好ましくは、2mol/L以下とする。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上に設定することが好ましい。
【0035】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム酸化物は、洗浄後に乾燥処理が施される。
【0036】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。
【0037】
以上のようにして副生成物が除去されたビスマスルテニウム酸化物の粒子の集合体であるビスマスルテニウム酸化物の粉末が得られる。
【0038】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸化還元触媒の担体として用いられる。
【0039】
このような導電材としては、例えば、黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末やニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。上記した黒鉛粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、空気極に所望の導電性を付与できる大きさとすることが好ましい。
【0040】
上記した導電材は、空気極合剤中において、例えば、20wt%以上含有させることが好ましい。この導電材の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から45wt%以下とすることが好ましい。
【0041】
次に、撥水剤について説明する。撥水剤は、空気極に適切な撥水性を付与する働きをする。空気極においては、放電の反応場である3相界面を形成する必要がある。空気極がアルカリ電解液で完全に濡れた状態となると、良好な3相界面を形成することができないので、放電反応が阻害されるおそれがある。そこで、撥水剤を添加することにより、空気極に適度な撥水性を付与し空気極がアルカリ電解液で完全に濡れた状態となることを回避する。このような撥水剤としては、例えば、フッ素樹脂を用いることが好ましく、当該フッ素樹脂としては、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることが好ましい。
【0042】
上記した撥水剤は、空気極合剤中において、例えば、15wt%以上含有させることが好ましい。この撥水剤の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から35wt%以下とすることが好ましい。
【0043】
次に、結着剤について説明する。結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いることが好ましい。
【0044】
上記した結着剤は、空気極合剤中において、例えば、0.1wt%以上含有させることが好ましい。この結着剤の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から5wt%以下とすることが好ましい。
【0045】
次に、界面活性剤について説明する。界面活性剤は、上記した酸素触媒や導電材を空気極合剤中で均一に分散させる働きをする。ここで、本願の発明者は、空気水素二次電池の放電特性を高めるべく鋭意研究を行った。具体的には、空気極について研究を重ねた。その研究の過程で、空気極内部において酸素触媒としてのビスマスルテニウム酸化物が一部で凝集し、偏って分布していることを発見した。このように酸素触媒が凝集していると酸素触媒が十分に酸素と接することができず、酸素触媒の機能を十分に発揮できていないために放電特性が低くなっていることが予想された。そこで、酸素触媒を空気極内で均一に分散させるために種々の検討を行った。その結果、界面活性剤を空気極合剤に含有させることが有効であることを見出した。特に界面活性剤としてポリカルボン酸塩を用いると、後述する空気極合剤スラリーの作製時の酸素触媒同士の凝集及び酸素触媒と導電材との凝集を抑制させることができ、このような凝集抑制効果により、スラリーの低粘度化及び高濃度化が図れ、酸素触媒や導電材の沈降も抑制できるとの知見を得た。界面活性剤としてポリカルボン酸塩を用いると、空気極合剤中での酸素触媒の分散性を高めることができ、このように高い分散性を維持したまま空気極作製工程において焼成処理が施されると、得られる空気極においても、酸素触媒は分散した状態を維持でき、その結果、電池の放電特性を高めることができることを見出した。
【0046】
ここで、界面活性剤としては、ポリカルボン酸塩の中でもポリカルボン酸アンモニウムを用いることが好ましい。ポリカルボン酸アンモニウムは、250~400℃程度で焼成処理が施されてもほとんど分解されないので好適である。
【0047】
ポリカルボン酸アンモニウムがビスマスルテニウム酸化物に対して1wt%以上含まれている空気極を備えた空気水素二次電池では、放電電圧の上昇が見られ電池特性が向上する。このため、ポリカルボン酸アンモニウムは、ビスマスルテニウム酸化物に対して1wt%以上含有させることが好ましい。ポリカルボン酸アンモニウムの量は、多ければ多いほど電圧の上昇効果が見込まれる。ただし、ポリカルボン酸アンモニウムは、親水性であるため、過剰に添加してしまうと水との親和性が高くなり水に濡れやすくなる。空気極が水に濡れやすくなると、放電の反応場である3相界面が形成されにくくなるので、放電電圧の低下を招いてしまう。よって、ある程度の上限を設けることが好ましい。ここで、ポリカルボン酸アンモニウムの含有量をビスマスルテニウム酸化物に対して5wt%含ませた態様では、放電電圧の上昇が確認できている。よって、ポリカルボン酸アンモニウムの添加量は、少なくとも5wt%までは、放電特性の向上が見込めるので、ポリカルボン酸アンモニウムは、ビスマスルテニウム酸化物に対して1wt%以上5wt%以下含有させることがより好ましい。
【0048】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としての黒鉛粒子の集合体である導電材粉末、撥水剤、結着剤、界面活性剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、撥水剤、結着剤、界面活性剤及び水を混錬して空気極合剤スラリーを調製する。
【0049】
得られた空気極合剤スラリーは、例えば、シート状の発泡ニッケルに充填される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0050】
次いで、得られた中間製品は、焼成処理炉に投入され焼成処理が施される。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成処理炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この焼成処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム酸化物の粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0051】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0052】
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、
図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0053】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0054】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0055】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0056】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0057】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0058】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0059】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0060】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、
図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0061】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0062】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0063】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、
図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0064】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極用触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備した。そして、原子比でRuが1.000に対し、Biが0.75となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとをそれぞれ計量した。計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oをあわせて70℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。なお、蒸留水は2L準備した。更に、2mol/LのNaOH水溶液を準備した。そして、反応容器の中に、上記した混合水溶液及びNaOH水溶液を同時に滴下した。
【0065】
この実施例1においては、混合水溶液及びNaOH水溶液の反応容器内における平均滞留時間が30分となったらオーバーフローするように滴下時間を調整した。ここで、平均滞留時間とは、平均滞留時間=反応容器の容積[mL]/滴下速度[mL/min]であり、滴下速度=滴下量[mL]/滴下時間[min]で計算している。
【0066】
上記のように混合水溶液とNaOH水溶液とを反応させることにより前駆体を析出させた。その後、上記の前駆体を含む、オーバーフローした後の混合水溶液を撹拌用容器に入れ、撹拌操作を行った。この撹拌操作は、酸素バブリングを行いながら24時間行った。この撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHを11に維持するとともに、温度を70℃に維持した。撹拌操作の終了後、当該混合水溶液を24時間静置した。静置した後、生じた沈殿物を吸引ろ過することにより回収した。回収された沈殿物は、85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。
【0067】
2)焼成工程
得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。得られた前駆体の粉末を、連続焼成炉を用いて空気雰囲気下で540℃に加熱し3時間保持する焼成処理を施した。当該焼成処理が終了した後の前駆体を、70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間保持して乾燥処理を施した。これにより、ビスマスルテニウム酸化物(空気極用触媒)を得た。
【0068】
3)酸処理工程
焼成工程を経たビスマスルテニウム酸化物を硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。このとき、硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム酸化物の粉末1gに対して20mLの割合となる量とした。また、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0069】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム酸化物の粉末は、70℃に加熱した蒸留水で洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0070】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末、すなわち、空気極用触媒の粉末を得た。
【0071】
(2)空気極の製造
黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末を準備した。この黒鉛粒子は、平均粒径が1~5μmであった。
【0072】
更に、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)ディスパージョン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリカルボン酸アンモニウム(SNディスパーサント5468:サンノプコ社製)、及びイオン交換水を準備した。
【0073】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム酸化物(空気極用触媒)の粉末に、黒鉛粉末、FEPディスパージョン、HPC、ポリカルボン酸アンモニウム及びイオン交換水を加えて混合した。このとき、ビスマスルテニウム酸化物の粉末は50重量部、黒鉛粉末は30重量部、FEPディスパージョンは30重量部、HPCは1重量部、ポリカルボン酸アンモニウムは1重量部、イオン交換水は110重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のスラリーを製造した。
【0074】
次に、別途準備したシート状の発泡ニッケル(厚さが1.6mm、平均孔径が580μm、目付が575g/m2)をロール圧延して0.33mmに厚さ調整した。そして、このように厚さを調整した発泡ニッケルのシートに、上記のようにして得られた空気極合剤のスラリーを充填し、その後、80℃で20分間保持することにより乾燥させた。次いで、空気極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを厚さが0.20mmとなるようにロール圧延した。これにより、空気極の中間製品を得た。
【0075】
次に、空気極の中間製品を焼成処理した。焼成処理の条件は、空気極の中間製品を窒素ガス雰囲気下で250℃の焼成温度に加熱し、この温度で13分間保持した。焼成処理された中間製品は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.20mmであった。ここで、得られた空気極16の重量と未充填時における発泡ニッケルのシートの重量との差から空気極合剤の量を求めた。そして、空気極合剤の固形分比からビスマスルテニウム酸化物の粉末の量を算出した。その結果、得られた空気極16におけるビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極用触媒)の量は0.115gであった。
【0076】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0077】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施し、合金の相の均質化を行った後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。なお、本明細書において平均粒径と記載した場合、特にことわりが無い限りレーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により求めた体積平均粒径(MV)を指すものとする。
【0078】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0079】
ここで、得られた水素吸蔵合金について、電気化学的合金容量の測定を行った。具体的には、上記のようにして得られた水素吸蔵合金粉末の一部を取り分けておいた測定用試料と、ニッケル粉末とを準備した。そして、測定用試料としての水素吸蔵合金粉末0.25gと、ニッケル粉末0.75gとを混合して混合粉末を作製し、当該混合粉末を形成型して直径10mmの円形のペレット電極を作製した。
【0080】
次いで、円筒形の樹脂製の容器内に、8mol/LのKOH水溶液100mLを注入するとともに、容器の中央部で、且つ、KOH水溶液内にペレット電極と酸化水銀参照電極とを配設した。更に、容器の縁に合わせて負極(ペレット電極)に対し容量が十分に大きい水酸化ニッケル対極を配設した。このようにして負極容量規制の電池を形成した。この電池において、0.5Itで200分間充電する充電操作と、0.5Itで酸化水銀参照電極に対して負極電位が-0.3Vになるまで放電する放電操作を行う充放電試験を実施し、電気化学的合金容量を求めた。なお、上記したペレット電極に関する充放電操作においては、合金容量を300mAh/gと仮定して計算した負極容量を1Itとした。
【0081】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン1.0重量部、カーボンブラックの粉末0.3重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0082】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が300g/m2、厚みが1.7mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.75mmであった。また、上記の電気化学的合金容量から計算した負極容量は2500mAhであった。
【0083】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、負極容量規制のニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0084】
この単極セルに対し、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。この充放電サイクルを5回行うことにより負極12の活性化処理を行った。
【0085】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0086】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.2mm(目付量100g/m2)であった。
【0087】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0088】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0089】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0090】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0091】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。
【0092】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0093】
(実施例2)
空気極の製造に際し、ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を0.5重量部としたこと及びイオン交換水の添加量を130重量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、実施例2において得られた空気極16のビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極用触媒)の量は0.115gであった。
【0094】
(実施例3)
空気極の製造に際し、ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を2.5重量部としたこと及びイオン交換水の添加量を130重量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、実施例3において得られた空気極16のビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極用触媒)の量は0.121gであった。
【0095】
(比較例1)
空気極の製造に際し、ポリカルボン酸アンモニウムを添加しなかったこと及びイオン交換水の添加量を125重量部としたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、比較例1において得られた空気極16のビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極用触媒)の量は0.120gであった。
【0096】
2.空気極用触媒の分析
実施例1~3、比較例1において得られた空気極用触媒の粉末の分析用サンプルについて、X線回折法(XRD)により分析を行った。XRD分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が15kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られた回折チャートパターンから空気極用触媒は、パイロクロア型の結晶構造及びこれに類似する結晶構造を有するBi2-xRu2O7-z(ただし、xは0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)であることを確認した。
【0097】
3.空気極の分析
実施例1及び比較例1において得られた空気極の分析用サンプルについて、走査型電子顕微鏡(SEM)で反射電子像を観察した。ここでの分析の条件は、加速電圧が15kV、作動距離(working distance,WD)が10mm、倍率が500倍とした。実施例1の空気極の反射電子像を
図2に、比較例1の空気極の反射電子像を
図3にそれぞれ示した。
【0098】
4.電池特性評価
実施例1~3、及び比較例1の空気水素二次電池については、25℃の雰囲気下で、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.1Itで10時間充電し、0.2Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとする充放電を繰り返した。なお、上記した空気水素二次電池の充放電操作においては、負極容量の80%に相当する2.0Ahを1.0Itとした。
【0099】
上記した充放電操作において、充電と放電との間、及び放電と充電との間には、それぞれ10分間の休止期間を設けた。
【0100】
なお、上記した充放電操作において、充電及び放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。通気路30に供給される空気としては、KOH水溶液中をバブリング通気させた空気(CO2濃度が約100ppm)を用いた。
【0101】
上記した充放電のサイクルが3サイクル目の放電時の中間電圧を放電中間電圧[V]として表1に示した。また、空気極合剤中に含まれるビスマスルテニウム酸化物(空気極用触媒)の量に対するポリカルボン酸アンモニウムの量を計算し、その結果を空気極用触媒に対するポリカルボン酸アンモニウムの量[wt%]として表1に併せて示した。更に、空気極に含まれるビスマスルテニウム酸化物の量に関し、空気極の単位面積当たりの重量として表し、その結果を空気極面積触媒量[mg/cm2]として表1に併せて示した。
【0102】
【0103】
5.考察
(1)
図2及び
図3に示された実施例1及び比較例1の空気極の反射電子像において、ビスマスルテニウム酸化物が存在している部分が白い点で表されている。比較例1の空気極においては、白い点は一つ一つが比較的大きく、ビスマスルテニウム酸化物が部分的に凝集していることがわかる。一方、実施例1の空気極においては、白い点が細かく全体的に分布しており、ビスマスルテニウム酸化物が均一に分散していることがわかる。
【0104】
比較例1は、界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム)が添加されていないので、ビスマスルテニウム酸化物が凝集してしまったものと考えられる。
【0105】
一方、実施例1は、界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム)が添加されているので、ビスマスルテニウム酸化物は、均一に分散したものと考えられる。
【0106】
(2)表1より、実施例1~3の電池の放電中間電圧が0.662V~0.679Vであるのに対し、比較例1の電池の放電中間電圧は、0.617Vであり、実施例1~3の電池は、比較例1の電池に比べ放電電圧が高められ放電特性が改善されていることがわかる。実施例1~3の電池は、その空気極に界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム)が含まれている態様であるのに対し、比較例1の電池は、その空気極に界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム)が含まれていない態様である。このことから、空気極に界面活性剤を加えると電池の放電特性を向上させる効果が得られることがわかる。界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム)は、酸素触媒に対して1wt%以上含まれていると放電特性の向上効果が得られるので、界面活性剤は、酸素触媒に対して1wt%以上含ませることが好ましいと言える。
【0107】
実施例1~3のように空気極に界面活性剤が含まれると、酸素触媒が空気極内で均一に分散するので(
図2参照)、酸素触媒が十分に酸素と接することができ、酸素触媒の機能を十分に発揮できる。その結果、電池の放電特性が高くなったものと考えられる。
【0108】
一方、比較例1のように界面活性剤が含まれていないと、酸素触媒が空気極内で所々凝集するので(
図3参照)、酸素触媒が十分に酸素と接することができず、酸素触媒の機能が十分に発揮できない。その結果、電池の放電特性が低くなったものと考えられる。
【0109】
なお、本実施形態では、界面活性剤としてポリカルボン酸アンモニウムを用いたが、他のカルボン酸塩の界面活性剤を用いることで、同様の放電特性の向上効果が得られると考える。
【符号の説明】
【0110】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材