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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085616
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20240620BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240620BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20240620BHJP
   B60C 3/04 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C9/00 M
D07B1/06 A
B60C3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200222
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王子 拓也
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
【Fターム(参考)】
3B153AA07
3B153AA15
3B153CC29
3B153CC52
3B153FF16
3B153GG07
3D131AA08
3D131AA39
3D131AA46
3D131BA18
3D131BB03
3D131BC01
3D131BC05
3D131BC22
3D131BC25
3D131BC31
3D131BC47
3D131CA03
3D131CB11
3D131CB12
3D131DA01
(57)【要約】
【課題】カーカスコード62の防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる、タイヤ22の提供。
【解決手段】このタイヤ22は、一対のビード30と、カーカス32と、インナーライナー42とを備える。カーカス32はカーカスコード62を含む。カーカスコード62はスチールコードである。カーカスコード62はその外周面をなす外側シース68を備える。外側シース68は複数の外側シース線66sを含む。複数の外側シース線66sはカーカスコード62の外周に沿って並び、隣接する外側シース線66sの間隔の総和が、外側シース線66sの外径よりも小さい。インナーライナー42の空気透過係数は、12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、前記一対のビードの、第一のビードと第二のビードとの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備え、前記カーカスがカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードを含む、タイヤであって、
前記カーカスコードがスチールコードであり、
前記カーカスコードがその外周面をなす外側シースを備え、
前記外側シースが複数の外側シース線を含み、複数の前記外側シース線が前記カーカスコードの外周に沿って並び、
隣接する前記外側シース線の間隔の総和が、前記外側シース線の外径よりも小さく、
前記インナーライナーが前記タイヤの内面を構成し、
前記インナーライナーの空気透過係数が、12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である、
タイヤ。
【請求項2】
前記カーカスコードがトッピングゴムで覆われ、
前記カーカスコードにおける前記トッピングゴムの浸入率が30%未満である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけていない状態において、
前記タイヤの断面高さの、前記タイヤの断面幅に対する比率が90%以上である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記カーカスコードが、前記外側シースの内側に中間シースを備え、
前記中間シースが複数の中間シース線を含み、複数の前記中間シース線が前記外側シースに沿って並び、
前記中間シースにおける中間シース線のより方向が、前記外側シースにおける外側シース線のより方向と同じである、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスコードが、前記カーカスコードの中心にコアを備え、
前記中間シースが、前記コアと前記外側シースとの間に位置し、
前記コアが1本の心線からなり、
前記中間シースに含まれる中間シース線の本数が6本であり、
前記外側シースに含まれる外側シース線の本数が12本であり、
前記芯線、前記中間シース線及び前記外側シース線が同じ外径を有する、
請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスコードと前記タイヤの内面との間に位置するゴム成分の厚さが4.5mm以上である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。詳細には、本発明は、カーカスコードとしてスチールコードを採用したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのカーカスは少なくとも1枚のカーカスプライで構成される。カーカスプライは多数のカーカスコードを含む。トラックやバス等に用いられる重荷重用タイヤの場合、カーカスコードに通常、スチールコードが用いられる。
【0003】
図5はカーカスコード2の一例を示す。図5のカーカスコード2は層撚り構造を有する。カーカスコード2はコア4、中間シース6及び外側シース8を備える。コア4はストランドである。コア4は3本の素線10(以下、芯線10c)からなる。中間シース6は8本の素線10(以下、中間シース線10m)を含む。外側シース8は13本の素線10(以下、外側シース線10s)を含む。図5に示されたカーカスコード2では、芯線10c、中間シース線10m及び外側シース線10sは同じ外径を有する。
図示されないが、コア4における素線10のより方向はSよりである。中間シース6における素線10のより方向はSよりである。外側シース8における素線10のより方向はZよりである。
【0004】
図5に示されるように、中間シース6において隣接する中間シース線10mの間には隙間が存在する。外側シース8において隣接する外側シース線10sの間には隙間が存在する。コア4と中間シース6との間、そして中間シース6と外側シース8との間にも隙間が存在する。
カーカスコード2はその内部に空間を含む。図示されないが、タイヤにおいてカーカスコード2はゴムで覆われる。カーカスコード2の内部にはゴムが浸入する。
【0005】
図5に示されたカーカスコード2では、隣接する外側シース線10sの間隔の総和は外側シース線10sの外径よりも大きい。このカーカスコード2はオープンコードとも呼ばれる。これに対して、外側シース線10sの間隔の総和が外側シース線10sの外径よりも小さいスチールコードは、クローズコードとも呼ばれる。オープンコードでは、クローズコードよりもその内部にゴムが浸入しやすい。
【0006】
タイヤの内側には空気が充填される。空気には水分が含まれる。この水分がタイヤの内部に浸透し、カーカスコードの内部に浸入した場合、カーカスコードに錆が生じる恐れがある。前述したように、オープンコードにはゴムが浸入しやすい。そこで、カーカスコードの防錆効果を高めるために、オープンコードをカーカスコードとして用い、カーカスコードの内部にゴムを浸入させて、水の浸入を防ぐ対策が施されている。このようなカーカスコードを用いたタイヤが下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-127160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、オープンコードの初期伸度はクローズコードのそれに比べて大きい。そのため、オープンコードをカーカスコードとして用いた場合、タイヤのショルダー部に溝を設け、その厚さを減じると、溝を設けた部分とそうでない部分とでカーカスコードの長さに違いが生じることが懸念される。カーカスコードの長さの違いは、タイヤを膨張させたときに、サイド部表面に凹凸(アンジュレーションとも呼ばれる。)として現れる。アンジュレーションはタイヤの外観品質を損ねる。
【0009】
例えばサイドウォールに厚いサイドウォールを採用すれば、アンジュレーションの発生を抑制できる。しかしこの場合、タイヤの質量が増加する。質量の増加は車両の燃費性能を低下させる。そのため、サイドウォールを厚くすることなくアンジュレーションの発生を抑制できる技術の確立が求められている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる、タイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一対のビードと、前記一対のビードの、第一のビードと第二のビードとの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備え、前記カーカスがカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードを含む、タイヤである。前記カーカスコードはスチールコードである。前記カーカスコードはその外周面をなす外側シースを備える。前記外側シースは複数の外側シース線を含む。複数の前記外側シース線は前記カーカスコードの外周に沿って並び、隣接する前記外側シース線の間隔の総和が、前記外側シース線の外径よりも小さい。前記インナーライナーは前記タイヤの内面を構成し、前記インナーライナーの空気透過係数は、12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる、タイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る重荷重用タイヤの一部を示す断面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3】カーカスコードの構成を示す断面図である。
図4】カーカスコードの構成を示す斜視図である。
図5】従来のカーカスコードの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0015】
本発明のタイヤはリムに組まれる。タイヤの内側には空気が充填され、タイヤの内圧が調整される。リムに組まれたタイヤはタイヤ-リム組立体とも呼ばれる。タイヤ-リム組立体は、リムと、このリムに組まれたタイヤとを備える。
【0016】
本発明において、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0017】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0018】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0019】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0020】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0021】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
トレッド部の中央部分はクラウン部分とも呼ばれる。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも呼ばれる。トレッド部とサイドウォール部との境界部分はバットレスとも呼ばれる。
【0022】
本発明において、ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる、未架橋状態の基材ゴムを含む組成物である。架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られる、ゴム組成物の架橋物である。架橋ゴムは基材ゴムの架橋物を含む。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0023】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。本発明においては、特に言及がない限り、タイヤにおいて一般的に使用されるゴム組成物が用いられる。
【0024】
本発明において、タイヤの構成要素のうち架橋ゴムからなる要素の空気透過係数は、JIS K6275-1の規定に準拠して測定される。測定条件は以下の通りである。本発明の空気透過係数は、60度の環境下において差圧法で測定される空気透過係数である。
装置=株式会社ヤナコ計測製のガス透過率測定装置「G2700」
試験気体=空気
試験温度=60度
【0025】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤは、一対のビードと、前記一対のビードの、第一のビードと第二のビードとの間を架け渡すカーカスと、前記カーカスの内側に位置するインナーライナーとを備え、前記カーカスがカーカスプライを備え、前記カーカスプライがカーカスコードを含む、タイヤであって、前記カーカスコードがスチールコードであり、前記カーカスコードがその外周面をなす外側シースを備え、前記外側シースが複数の外側シース線を含み、複数の前記外側シース線が前記カーカスコードの外周に沿って並び、隣接する前記外側シース線の間隔の総和が、前記外側シース線の外径よりも小さく、前記インナーライナーが前記タイヤの内面を構成し、前記インナーライナーの空気透過係数が、12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0026】
このようにタイヤを整えることにより、タイヤ全体にわたって、カーカスコードの長さに違いが生じにくい。例えばタイヤのショルダー部分にカーカスコードに沿う方向にのびる溝を設けても、溝を設けた部分とそうでない部分とでカーカスコードの長さに違いが生じにくい。このタイヤは、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。アンジュレーション発生防止のために、例えばサイドウォールのような要素の厚みを増す等の処置も不要である。インナーライナーが低い空気透過係数を有するので、このタイヤはカーカスコードに錆が発生することも抑制できる。このタイヤは、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0027】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤにおいて、前記カーカスコードがトッピングゴムで覆われ、前記カーカスコードにおける前記トッピングゴムの浸入率が30%未満である。
このようにタイヤを整えることにより、カーカスコードがアンジュレーションの発生を抑制することに効果的に貢献できる。
【0028】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤにおいて、前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけていない状態において、前記タイヤの断面高さの、前記タイヤの断面幅に対する比率が90%以上である。
このようにタイヤを整えることにより、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生が効果的に抑制される。
【0029】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記カーカスコードが、前記外側シースの内側に中間シースを備え、前記中間シースが複数の中間シース線を含み、複数の前記中間シース線が前記外側シースに沿って並び、前記中間シースにおける中間シース線のより方向が、前記外側シースにおける外側シース線のより方向と同じである。
このようにタイヤを整えることにより、中間シースにおける中間シース線のより方向が外側シースにおける外側シース線のより方向と逆であるカーカスコードに比べて、中間シース線と外側シース線とが十分に接触する。カーカスコード全体としての強度が高まるので、このタイヤはサイドウォールコンカッションの発生を抑制できる。しかもカーカスコードの内部空間がさらに低減されるので、このカーカスコードは、アンジュレーションの発生を抑制することに、より効果的に貢献できる。インナーライナーが低い空気透過係数を有するので、このカーカスコードを用いても、カーカスコードに錆が発生することが十分に抑制される。このタイヤは、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0030】
[構成5]
より好ましくは、前述の[構成4]に記載のタイヤにおいて、前記カーカスコードが、前記カーカスコードの中心にコアを備え、前記中間シースが、前記コアと前記外側シースとの間に位置し、前記コアが1本の心線からなり、前記中間シースに含まれる中間シース線の本数が6本であり、前記外側シースに含まれる外側シース線の本数が12本であり、前記芯線、前記中間シース線及び前記外側シース線が同じ外径を有する。
このようにタイヤを整えることにより、中間シースにおける中間シース線のより方向が、外側シースにおける外側シース線のより方向と同じである場合、カーカスコードを構成する素線がよりコンパクトに束ねられ、内部空間が小さいカーカスコードが構成される。このカーカスコードは、アンジュレーションの発生抑制に効果的に貢献できる。インナーライナーが低い空気透過係数を有するので、このカーカスコードを用いても、カーカスコードに錆が発生することが十分に抑制される。このタイヤは、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0031】
[構成6]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成5]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記カーカスコードと前記タイヤの内面との間に位置するゴム成分の厚さが4.5mm以上である。
このようにタイヤを整えることにより、タイヤとリムとの間の空間に存在する水分がタイヤの内部に浸透することが抑制される。カーカスコードが水分と接触する機会が低減されるので、カーカスコードに錆が発生することが抑制される。
【0032】
[本発明の実施形態の詳細]
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ22の一部を示す。このタイヤ22はトラック、バス等の車両に装着される。このタイヤ22は重荷重用タイヤである。
【0033】
図1は、タイヤ22の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ22の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。図1において、左右方向はタイヤ22の軸方向であり、上下方向はタイヤ22の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。図1において径方向に延びる一点鎖線CLはタイヤ22の赤道面を表す。
【0034】
図1においてタイヤ22はリムR(正規リム)に組まれている。図1において軸方向に延びる実線BBLは、ビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0035】
このタイヤ22は、トレッド24、一対のサイドウォール26、一対のチェーファー28、一対のビード30、カーカス32、ベルト34、一対のクッション層36、一対のスチール補強層38、一対の層間ストリップ40、インナーライナー42及びインスレーション44を備える。
【0036】
トレッド24はカーカス32の径方向外側に位置する。トレッド24はトレッド面46において路面と接地する。トレッド24には溝48が刻まれる。トレッド24は架橋ゴムからなる。
【0037】
図1において符号PCで示される位置は赤道である。赤道PCはトレッド面46と赤道面との交点である。このタイヤ22のように赤道面上に溝48が位置する場合、溝48がないと仮定して得られる仮想トレッド面に基づいて赤道PCが特定される。
正規状態のタイヤ22において得られる、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離がこのタイヤ22の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0038】
それぞれのサイドウォール26はトレッド24の端に連なる。サイドウォール26はトレッド24の径方向内側に位置する。サイドウォール26はカーカス32の軸方向外側に位置する。サイドウォール26は架橋ゴムからなる。
【0039】
符号PWで示される位置はタイヤ22の軸方向外端(以下、外端PW)である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。タイヤ22は外端PWにおいて最大幅を示す。外端PWは最大幅位置とも呼ばれる。
正規状態のタイヤ22において得られる、第一の外端PWから第二の外端PW(図示されず)までの軸方向距離が、このタイヤ22の断面幅(JATMA等参照)である。
このタイヤ22の正規状態において、タイヤ22の断面高さの、タイヤ22の断面幅に対する比率は90%以上である。
【0040】
それぞれのチェーファー28はサイドウォール26の径方向内側に位置する。チェーファー28はリムRと接触する。チェーファー28は架橋ゴムからなる。
【0041】
それぞれのビード30はチェーファー28の軸方向内側に位置する。ビード30はサイドウォール26の径方向内側に位置する。ビード30は、ビードコア50と、エイペックス52とを備える。
【0042】
ビードコア50は周方向にのびる。図示されないが、ビードコア50は周方向に巻き回されたスチール製のワイヤを含む。エイペックス52はビードコア50の径方向外側に位置する。エイペックス52はビードコア50から径方向外向きにのびる。エイペックス52は外向きに先細りである。エイペックス52は硬質な架橋ゴムからなる。
【0043】
カーカス32は、トレッド24、一対のサイドウォール26、及び一対のチェーファー28の内側に位置する。カーカス32は一対のビード30の間、すなわち、一対のビード30の、第一のビード30と第二のビード30(図示されず)との間を架け渡す。このタイヤ22のカーカス32はラジアル構造を有する。
【0044】
カーカス32は少なくとも1枚のカーカスプライ54を備える。このタイヤ22のカーカス32は1枚のカーカスプライ54で構成される。カーカスプライ54はビード30で折り返される。
【0045】
カーカスプライ54はプライ本体56と一対の折り返し部58とを備える。プライ本体56は一対のビード30の間を架け渡す。それぞれの折り返し部58は、プライ本体56に連なり、ビード30で折り返される。このタイヤ22の折り返し部58は、軸方向内側から外側に向かってビード30で折り返される。折り返し部58の端はエイペックス52の外端の径方向内側に位置する。
【0046】
ベルト34は径方向においてトレッド24とカーカス32との間に位置する。このタイヤ22のベルト34はカーカス32に積層される。
【0047】
ベルト34は、径方向に並ぶ複数のベルトプライ60を備える。このタイヤ22のベルト34は4枚のベルトプライ60を備える。4枚のベルトプライ60は、第一ベルトプライ60A、第二ベルトプライ60B、第三ベルトプライ60C及び第四ベルトプライ60Dである。4枚のベルトプライ60のうち、第一ベルトプライ60Aが径方向において最も内側に位置する。
このタイヤ22では、第二ベルトプライ60Bが最も広い幅を有し、第四ベルトプライ60Dが最も狭い幅を有する。
【0048】
図示されないが、各ベルトプライ60は並列した多数のベルトコードを含む。これらのベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。このタイヤ22のベルトコードにはスチールコードが用いられる。
【0049】
それぞれのクッション層36は、ベルト34の端において、ベルト34とカーカス32との間に位置する。クッション層36は、軟質な架橋ゴムで構成される。
【0050】
それぞれのスチール補強層38はビード部Bに位置する。スチール補強層38はチェーファー28とカーカス32との間に位置する。スチール補強層38はビード30で折り返される。スチール補強層38は、折り返し部58の径方向内側からビード30の径方向内側部分を包むように配置される。スチール補強層38はその全体が、折り返し部58の端の径方向内側に位置する。
【0051】
図示されないが、スチール補強層38は並列した多数のフィラーコードを含む。これらフィラーコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのフィラーコードは径方向に対して傾斜する。このタイヤ22のフィラーコードにはスチールコードが用いられる。
【0052】
それぞれの層間ストリップ40は軸方向においてチェーファー28とビード30のエイペックス52との間に位置する。層間ストリップ40は、折り返し部58の端とスチール補強層38の外端とを覆う。層間ストリップ40は架橋ゴムからなる。
【0053】
インナーライナー42はカーカス32の内側に位置する。インナーライナー42はタイヤ22の内面を構成する。
【0054】
インナーライナー42は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー42が空気を透過しにくい性質を有することができる観点から、インナーライナー42のためのゴム組成物は基材ゴムとしてブチル系ゴムを含むことが望ましい。
【0055】
ブチル系ゴムとしては、例えば、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)及びブチルゴム(IIR)が挙げられる。ブチル系ゴムの中でも、Cl-IIR及びIIRが特に好ましい。インナーライナーのためのゴム組成物には、1種類のブチル系ゴムが単独で使用されてもよいし、2種類以上のブチル系ゴムが併用されてもよい。
【0056】
インナーライナー42のためのゴム組成物の基材ゴムは、ブチル系ゴム以外のゴム成分も含むことができる。ブチル系ゴム以外のゴム成分としては、例えば、天然ゴムが挙げられる。
【0057】
ゴム組成物の基材ゴムに含まれるブチル系ゴムの含有率は、低い空気透過係数を有するインナーライナー42が得られる観点から、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、85質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
インナーライナー42のためのゴム組成物は、基材ゴム以外に、カーボンブラック、充填剤等の前述した薬品を含むことができる。
【0059】
低い空気透過係数を有するインナーライナー42を得るために、インナーライナー42のためのゴム組成物には、脱気処理が行われてもよい。脱気処理としては、例えば、特許第6438437号公報に記載の、ベント押出機を用いた脱気処理が挙げられる。
【0060】
インスレーション44はインナーライナー42とカーカス32との間に位置する。インスレーション44は接着性に優れた架橋ゴムからなる。インスレーション44はカーカス32と接合し、インナーライナー42とも接合する。このタイヤ22のインナーライナー42は、インスレーション44を介してカーカス32の内面に接合される。
【0061】
図2図1のII-II線に沿った断面を示す。図1においてII-II線は最大幅位置PWを通り、軸方向にのびる。図2は、最大幅位置PWにおけるタイヤ22の断面を示す。
【0062】
図2に示されるように、このタイヤ22のカーカスプライ54は並列した多数のカーカスコード62を含む。これらカーカスコード62はトッピングゴム64で覆われる。図示されないが、それぞれのカーカスコード62は赤道面と交差する。このタイヤ22のカーカスコード62はスチールコードである。
後述するように、このタイヤ22のカーカスコード62には、タイヤのカーカスコードとして一般的な構造を有するスチールコードが用いられるが、その中でも、クローズコードが好適に用いられる。クローズコードの中でもコンパクトコードがカーカスコード62として好適に用いられる。
【0063】
図3はカーカスコード62の断面を示す。カーカスコード62は複数の素線66を含む。図3のカーカスコード62は層撚り構造を有する。言い換えれば、カーカスコード62は層撚り構造のスチールコードである。
【0064】
カーカスコード62は外側シース68を備える。外側シース68はカーカスコード62の外周面をなす。
外側シース68は複数の素線66を含む。外側シース68を構成する素線66は外側シース線66sとも呼ばれる。
図3に示されたカーカスコード62の外側シース68は12本の外側シース線66sを含む。外側シース68に含まれる外側シース線66sの本数は11本以下であってもよく、13本以上であってもよい。外側シース68に含まれる外側シース線66sの本数はカーカスコード62に求められる特性に応じて適宜決められる。
図3に示されるように、複数の外側シース線66sはカーカスコード62の外周に沿って並ぶ。外側シース68は複数の外側シース線66sを含み、複数の外側シース線66sはカーカスコード62の外周に沿って並ぶ。
【0065】
このタイヤ22では、外側シース68において、複数の外側シース線66sは密に並ぶ。隣接する外側シース線66sの間に隙間はないか、隙間があったとしても、その隙間の大きさは、外側シース68における隙間を全て合わせても外側シース68にこれ以上の外側シース線66sを追加できない大きさである。
【0066】
このタイヤ22では、隣接する外側シース線66sの中心を結ぶ直線に沿って計測される、2つの外側シース線66s間の距離を、隣接する外側シース線66sの間隔としたとき、隣接する外側シース線66sの間隔の総和は、外側シース線66sの外径よりも小さい。カーカスコード62はクローズコードである。このカーカスコード62の初期伸度は、オープンコードのカーカスコードのそれに比べて小さい。そのため、タイヤ22全体にわたって、カーカスコード62の長さに違いが生じにくい。例えばタイヤ22のショルダー部分にカーカスコード62に沿う方向にのびる溝を設けても、溝を設けた部分とそうでない部分とでカーカスコード62の長さに違いが生じにくい。このタイヤ22は、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0067】
アンジュレーション発生防止のために、厚いサイドウォールをサイドウォール26に採用する必要もない。そのため、このタイヤ22は質量を維持できる。仮に質量が増加したとしても、このタイヤ22は質量の増加を最小限に抑えることができる。このタイヤ22は、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0068】
クローズコードの内部空間はオープンコードの内部空間よりも狭い。特に、外側シース68を構成する複数の外側シース線66sは密に並ぶ。そのため、クローズコードであるカーカスコード62には、オープンコードに比べてその内部にゴムは浸入しにくい。そのため、タイヤ22の内側に充填される空気に含まれる水が、カーカスコード62の内部に溜まり、カーカスコード62に錆が発生するという懸念がある。
【0069】
しかしこのタイヤ22のインナーライナー42は空気が透過しにくい架橋ゴムからなる。具体的には、インナーライナー42の空気透過係数が12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。このインナーライナー42はタイヤ22の内部への水分の浸入を抑制する。このタイヤ22のカーカスコード62の内部には水が溜まりにくい。このタイヤ22は、カーカスコード62に錆が発生することを抑制できる。このタイヤ22は、カーカスコード62の防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。
【0070】
前述したように、インナーライナー42の空気透過係数は12×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。カーカスコード62の防錆効果の向上を図ることができる観点から、インナーライナー42の空気透過係数は9.5×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下であるのが好ましい。
【0071】
前述したように、カーカスコード62はトッピングゴム64で覆われる。カーカスコード62はクローズコードであり、クローズコードの内部空間はオープンコードの内部空間よりも狭い。そのため、このカーカスコード62には、オープンコードに比べてその内部にゴムは浸入しにくい。
【0072】
本発明において、カーカスコードにおけるトッピングゴムの浸入率は次のようにして得られる。トッピングゴムが付着した状態で、10cm程の長さを有するカーカスコード(以下、ゴム付きコードとも呼ばれる。)がタイヤから取り出される。ゴム付コードの表面からできる限りゴムを除去した後、その断面からナイフを入れ、外側シースの素線のうちで隣り合う2本の素線が除去される。除去された2本の素線と中間シースとの間に形成されている間隙にゴムが完全に充填されている部分を確認し、この部分の長さが測定される。ゴムが充填されている部分の長さの、全長さに対する比率(以下、ゴム浸入率とも呼ばれる。)が算出される。本発明においては、10本のゴム付きコードがタイヤから取り出され、それぞれのゴム付きコードについてゴム浸入率が得られる。10個のゴム浸入率の平均値が、カーカスコードにおけるトッピングゴムの浸入率として用いられる。
【0073】
このタイヤ22では、カーカスコード62におけるトッピングゴム64の浸入率は30%未満である。このカーカスコード62の内部空間はオープンコードのそれよりもかなり狭い。狭い内部空間はカーカスコード62の初期伸度の低減に貢献する。このカーカスコード62は、アンジュレーションの発生を抑制することに効果的に貢献できる。この観点から、浸入率は25%以下であるのが好ましい。
【0074】
図3に示されるように、カーカスコード62は外側シース68の内側に中間シース70を備える。
中間シース70は複数の素線66を含む。中間シース70を構成する素線66は中間シース線66mとも呼ばれる。
図3に示されたカーカスコード62の中間シース70は6本の中間シース線66mを含む。中間シース70に含まれる中間シース線66mの本数は5本以下であってもよく、7本以上であってもよい。中間シース70に含まれる中間シース線66mの本数はカーカスコード62に求められる特性に応じて適宜決められる。
図3に示されるように、複数の中間シース線66mはカーカスコード62の外側シース68に沿って並ぶ。中間シース70は、複数の中間シース線66mを含み、複数の中間シース線66mは外側シース68に沿って並ぶ。
【0075】
図4は、図3に示されたカーカスコード62の一部を示す。このカーカスコード62では、外側シース68を構成する複数の外側シース線66sは所定の方向によられている。中間シース70を構成する複数の中間シース線66mも所定の方向によられている。
【0076】
図4に示されるように、中間シース70における中間シース線66mのより方向は外側シース68における外側シース線66sのより方向と同じである。これにより、カーカスコード62を構成する素線66がよりコンパクトに束ねられる。このカーカスコード62では、中間シース70における中間シース線66mのより方向が外側シース68における外側シース線66sのより方向と逆であるカーカスコードに比べて、中間シース線66mと外側シース線66sとが十分に接触する。隣接する素線同士の接触面積が増加し、素線同士が互いに支え合うことができるので、カーカスコード62全体としての強度が高まる。タイヤ22のサイド部におけるカーカスコードの破断(サイドウォールコンカッションとも呼ばれる。)の発生が抑制される。しかもカーカスコード62の内部空間がさらに低減されるので、このカーカスコード62はより小さな初期伸度を有する。このカーカスコード62は、アンジュレーションの発生を抑制することにより効果的に貢献できる。低い空気透過係数を有するインナーライナー42がタイヤ内部への水分の浸入を効果的に抑制するので、素線66がよりコンパクトにまとめられた、このカーカスコード62を用いても、カーカスコード62に錆が発生することが十分に抑制される。
このタイヤ22は、カーカスコード62の防錆効果を維持しながら、質量増加を最小限に抑制して、アンジュレーションの発生を効果的に抑制できる。この観点から、カーカスコード62が外側シース68の内側に中間シース70を備える場合、中間シース70が複数の中間シース線66mを含み、複数の中間シース線66mが外側シース68に沿って並び、中間シース70における中間シース線66mのより方向が、外側シース68における外側シース線66sのより方向と同じであるのが好ましい。
【0077】
図3に示されるように、カーカスコード62はその中心にコア72を備える。前述の中間シース70は、コア72と外側シース68との間に位置する。
このカーカスコード62では、コア72と外側シース68との間に一の中間シース70が設けられるが、このコア72と外側シース68との間に、カーカスコード62の径方向に並ぶ複数の中間シースが設けられてもよい。
【0078】
図3に示されるように、コア72は1本の素線66からなる。このタイヤ22では、コア72を構成する素線66は芯線66cとも呼ばれる。このカーカスコード62のコア72は1本の芯線66cからなる。
コア72が2本以上の芯線66cを含むストランドであってもよい。この場合、ストランドは2本以上の芯線66cを撚り合わせて構成される。
このタイヤ22では、カーカスコード62がその中心にコア72を有する場合、コア72は1本の芯線66cからなるのが好ましい。これにより、カーカスコード62を構成する素線66がよりコンパクトに束ねられ、内部空間が小さいカーカスコード62が構成される。このカーカスコード62はアンジュレーションの発生抑制に効果的に貢献できる。
【0079】
このカーカスコード62は、コア72、中間シース70及び外側シース68で構成される。コア72は1本の芯線66cからなり、中間シース70に含まれる中間シース線66mの本数は6本であり、外側シース68に含まれる外側シース線66sの本数は12本である。そして、芯線66c、中間シース線66m及び外側シース線66sは同じ外径を有する。このカーカスコード62のコード構造は「1+6+12」で表される。
【0080】
「1+6+12」で表されるコード構造を有するカーカスコード62において、中間シース70における中間シース線66mのより方向が、外側シース68における外側シース線66sのより方向と同じである場合、カーカスコード62を構成する素線66がよりコンパクトに束ねられ、内部空間が小さいカーカスコード62が構成される。このカーカスコード62は、アンジュレーションの発生抑制により効果的に貢献できる。この観点から、カーカスコード62は、コア72、中間シース70及び外側シース68で構成され、中間シース70における中間シース線66mのより方向が、外側シース68における外側シース線66sのより方向と同じである場合、コア72が1本の芯線66cからなり、中間シース70に含まれる中間シース線66mの本数は6本であり、外側シース68に含まれる外側シース線66sの本数は12本であり、芯線66c、中間シース線66m及び外側シース線66sは同じ外径を有するのが好ましい。
【0081】
図2に示されるように、カーカスコード62とタイヤ22の内面との間には、カーカスプライ54のトッピングゴム64、インスレーション44そしてインナーライナー42が位置する。この図2において両矢印Tで示される長さは、カーカスコード62とタイヤ22の内面との間に位置する、トッピングゴム64、インスレーション44及びインナーライナー42で構成されるゴム成分の厚さである。この厚さTは、カーカスコード62からタイヤ22の内面までの最短距離で表される。
前述したように、図2に示されるタイヤ22の断面は、最大幅位置PWにおけるタイヤ22の断面である。そのため、図2に示されるゴム成分の厚さTは、最大幅位置PWにおける、カーカスコード62とタイヤ22の内面との間に位置するゴム成分の厚さである。
【0082】
このタイヤ22では、カーカスコード62とタイヤ22の内面との間に位置するゴム成分の厚さTは4.5mm以上であるのが好ましい。これにより、タイヤ22とリムRとの間の空間に存在する水分がタイヤ22の内部に浸透することが抑制される。カーカスコード62が水分と接触する機会が低減されるので、カーカスコード62に錆が発生することが抑制される。カーカスコード62とタイヤ22の内面との間に位置するゴム成分は、カーカスコード62の防錆効果の向上に効果的に貢献できる。カーカスコード62が錆びにくいので、カーカスコード62の性状が安定に保持される。このタイヤ22は、耐サイドウォールコンカッション性能の向上も図ることができる。
ゴム成分によるタイヤ22の質量への影響を抑制できる観点から、ゴム成分の厚さTは6.0mm以下であるのが好ましい。
【0083】
図2において両矢印TIで示される長さは、最大幅位置PWにおけるインナーライナー42の厚さである。
低い空気透過係数を有するインナーライナー42がカーカスコード62の防錆効果に効果的に貢献できる観点から、インナーライナー42の厚さTIの、ゴム成分の厚さTに対する比(TI/T)は0.3以上であるのが好ましい。インナーライナー42によるタイヤ22の質量への影響を抑制できる観点から、比(TI/T)は0.5以下であるのが好ましい。
【0084】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量を増加させることなくアンジュレーションの発生を抑制できる、タイヤが得られる。なお、重荷重用タイヤに基づいて本発明を説明したが、カーカスコードとしてスチールコードを使用しているのであれば、本発明が適用されるタイヤに特に制限はない。本発明が適用されるタイヤが、例えば、乗用車用タイヤであってもよく、小形トラック用タイヤであってもよい。本発明は、特に、正規状態において、タイヤ22の断面高さの、タイヤ22の断面幅に対する比率が90%以上である場合に、顕著な効果を奏する。
【実施例0085】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた重荷重用タイヤ(タイヤサイズ=325/95R24)を得た。
図3に示されたスチールコード(クローズコード)をカーカスコードとして使用した。このカーカスコードの構造は「1×0.25+6+12×0.225」であった。
中間シースにおける中間シース線のより方向と、外側シースにおける外側シース線のより方向とは共に「Zより」であった。
インナーライナーは、脱気処理を行ったゴム組成物を用いて形成した。インナーライナーの空気透過係数は、9.5×10-11cc・cm/cm・sec・cmHgであった。このことが、下記の表1の「インナーライナー」の欄に「L」で表されている。
最大幅位置におけるゴム成分の厚さTは4.5mmに設定された。
【0087】
[比較例1]
カーカスコード、インナーライナー及びゴム成分の厚さTを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。
カーカスコードには、図5に示されたスチールコード(オープンコード)を使用した。このカーカスコードの構造は「3+8+13×0.23」であった。
コアにおける心線のより方向と、中間シースにおける中間シース線のより方向とが「Sより」であり、外側シースにおける外側シース線のより方向が「Zより」であった。
このインナーライナーは、脱気処理を行う前のゴム組成物を用いて形成した。このインナーライナーの形成に使用したゴム組成物の組成は、実施例1で使用したゴム組成物のそれと同じである。インナーライナーの空気透過係数は、15×10-11cc・cm/cm・sec・cmHgであった。このことが、下記の表1の「インナーライナー」の欄に「H」で表されている。
最大幅位置におけるゴム成分の厚さTは、インナーライナーの厚さTIを調整して、4.0mmに設定された。
【0088】
[防錆性能]
試作タイヤをリム(サイズ=22.5×24)に組み込み、タイヤの内側に水(約300cc)を入れた後、空気を充填して内圧を1000kPaに調整した。調整後、酸素濃度を60%、温度を80℃に調整した雰囲気で、タイヤを20日間静置した。静置後、タイヤの内側に水(約300cc)を入れ、空気を充填して内圧を900kPaに調整した。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、28.76kNの縦荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。所定距離走行後タイヤを解体し、カーカスコードの錆の発生状況を確認した。その結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に表されている。数値が大きいほど、錆の発生が抑制されている。
【0089】
[アンジュレーション]
試作タイヤをリム(サイズ=22.5×24)に組み込み、空気を充填して内圧を780kPaに調整した。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、39.23kNの縦荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。所定距離走行後タイヤの表面を観察して、アンジュレーションの発生状況を確認した。その結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に表されている。数値が大きいほど、アンジュレーションの発生が抑制されている。
【0090】
[質量]
試作タイヤの質量を計測した。その結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に表されている。数値が大きいほど、タイヤは軽い。
【0091】
[コンカッション]
試作タイヤをリム(サイズ=22.5×24)に組み込み、空気を充填して内圧を800kPaに調整した。カーカスコードが破断するまで、刃のついた錘の高さ位置を変えながらタイヤのバットレスに向けてこの錘を落下させ、カーカスコードに破断が生じた高さを得た。この高さに基づいて破壊エネルギーを算出した。その結果が、比較例1を100とした指数で下記の表1に表されている。数値が大きいほど、耐サイドウォールコンカッション性能に優れる。錘の質量は33kgであった。刃の長さは3cmであった。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示されるように、実施例では、カーカスコードの防錆効果を高めながら、質量を増加させることなくアンジュレーションの発生が抑制されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明された、カーカスコードの防錆効果を維持しながら、質量を増加させることなくアンジュレーションの発生を抑制できる技術は種々のタイヤに適用されうる。
【符号の説明】
【0095】
2、62・・・カーカスコード
4、72・・・コア
6、70・・・中間シース
8、68・・・外側シース
10、66・・・素線
10c、66c・・・芯線
10m、66m・・・中間シース線
10s、66c・・・外側シース線
22・・・タイヤ
24・・・トレッド
26・・・サイドウォール
30・・・ビード
32・・・カーカス
34・・・ベルト
42・・・インナーライナー
44・・・インスレーション
46・・・トレッド面
54・・・カーカスプライ
56・・・プライ本体
58・・・折り返し部
60、60A、60B、60C、60D・・・ベルトプライ
64・・・トッピングゴム
図1
図2
図3
図4
図5