(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085625
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】トロイダル無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
F16H15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200234
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】世古口 直也
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢司
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051BA03
3J051BD01
3J051BE09
3J051CB04
3J051EA06
3J051EB03
3J051FA01
(57)【要約】
【課題】トロイダル無段変速機において、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、当該軸力が高トルク域で過剰になるのを防止する。
【解決手段】トロイダル無段変速機のローディングカムは、回転軸線周りに回転可能なカム板であって、ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を有するカム板と、前記ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含む。前記カム板の前記カム面は、前記カム板の周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、カムリードが増加するように湾曲した凹面を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、
前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備え、
前記ローディングカムは、
前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を含む対向面を有するカム板と、
前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含み、
前記カム板の前記カム面は、前記カム板の周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、カムリードが増加するように湾曲した凹面を含む、トロイダル無段変速機。
【請求項2】
前記凹面は、前記カム板の前記カム面の全体である、請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項3】
前記カム板の前記カム面は、前記断面において、カムリードが一定となるように直線的に傾斜した傾斜面を更に含み、
前記周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記断面において、前記凹面は、前記傾斜面のうち前記周方向の前記終端側の端に隣接している、請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項4】
前記断面において、前記傾斜面は、前記凹面のうち前記傾斜面に連続する端における接線が延びる方向に延びている、請求項3に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項5】
前記周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記断面において、前記カム板の前記対向面は、前記カム面のうち前記周方向の前記終端側の端に連続して前記周方向に向いたストッパ面を含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項6】
回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、
前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備え、
前記ローディングカムは、
前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を含む対向面を有するカム板と、
前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含み、
前記カム面の周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、前記カム板の前記対向面は、前記カム面のうち前記周方向の前記終端側の端に連続して前記周方向に向いたストッパ面を含み、
前記断面において、前記ストッパ面の曲率は、前記ローラの外周面の曲率以下である、トロイダル無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トロイダル無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
トロイダル無段変速機では、入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラが挟まれ、パワーローラを傾転させることで変速比が連続的に変更される。トロイダル無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとが互いに近づくように作用する軸力を発生するローディングカムを備える。ローディングカムは、ディスクの背面(カム面)に対向するカム板と、ディスクのカム面とカム板のカム面との間に挟まれるローラと、を有する。ローディングカムにおける伝達トルクの増加に伴って、カム作用によってディスクがカム板から離れるように付勢され、入力ディスク及び出力ディスクによってパワーローラが十分な接触圧で挟まれる。
【0003】
特許文献1に開示されたローディングカムでは、カム板は、一定の傾斜角を有する第1カム面と、その第1カム面に隣接した第2カム面であって第1カム面の傾斜角よりも大きく且つ一定の傾斜角を有する第2カム面と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のローディングカムでは、第1カム面及び第2カム面のいずれも傾斜角は一定である。即ち、このローディングカムでは、ディスク単位回転当たりの軸線方向進み量であるカムリードは、第1カム面及び第2カム面のいずれにおいても一定である。
【0006】
カム面の傾斜角が大きいと、ローラからカム面に付加される荷重が周方向に向く傾向になるため、当該荷重の軸方向分力が小さくなる。それゆえ、高トルク域でなくてもローディングカムの軸力が低下し、状況によっては軸力が十分でない場合が生じ得る。他方、カム面の傾斜角が小さいと、ローラからカム面に付加される荷重が軸方向に向く傾向になるため、当該荷重の軸方向分力が大きくなる。それゆえ、高トルク域においてローディングカムの軸力が過剰になり、ディスク及びパワーローラに過負荷が生じ得る。
【0007】
本開示の一態様は、トロイダル無段変速機において、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、当該軸力が高トルク域で過剰になるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るトロイダル無段変速機は、回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備える。前記ローディングカムは、前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を有するカム板と、前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含む。前記カム板の前記カム面は、前記カム板の周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、カムリードが増加するように湾曲した凹面を含む。
【0009】
本開示の他態様に係るトロイダル無段変速機は、回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備える。前記ローディングカムは、前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を含む対向面を有するカム板と、前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含む。前記カム面の周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とする。前記周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、前記カム板の前記対向面は、前記カム面のうち前記周方向の前記終端側の端に連続して前記周方向に向いたストッパ面を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、トロイダル無段変速機において、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、当該軸力が高トルク域で過剰になるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るトロイダル無段変速機を備える駆動機構一体型発電装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のローディングカムを軸線方向から見た側面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線断面図であってローディングカムの断面図である。
【
図4】
図4は、
図3のローディングカムの高トルク時における断面図である。
【
図5】
図5は、
図3のローディングカムの伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係るローディングカムの断面図である。
【
図7】
図7は、
図6のローディングカムの伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係るローディングカムの断面図である。
【
図9】
図9は、
図8のローディングカムの高トルク時における断面図である。
【
図10】
図10は、
図8のローディングカムの伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第4実施形態に係るローディングカムのカム板の断面図である。
【
図12】
図12は、第5実施形態に係るローディングカムのカム板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るトロイダル無段変速機10を備える駆動機構一体型発電装置1の断面図である。
図1に示すように、駆動機構一体型発電装置1(Integrated Drive Generator:以下、「IDG」という)は、航空機の交流電源に用いられるものであって、航空機のエンジンに取り付けられるケーシング2を備える。ケーシング2は、入力構造3と、トロイダル無段変速機10と、動力伝達構造4と、発電機5と、を収容している。
【0014】
変速機10は、同軸上に配置されて相対回転可能な動力伝達軸である変速機入力軸11及び変速機出力軸12を備える。各軸11,12の軸線は回転軸線A1と称し、回転軸線A1が延びる方向は回転軸線方向A1と称する。変速機入力軸11は、入力構造3を介してエンジン回転軸に接続される。入力構造3は、前記エンジン回転軸からの回転力が入力される装置入力軸3aと、装置入力軸3aの回転を変速機入力軸11に伝達するギヤ対3bと、を含む。ギヤ対3bは、装置入力軸3aと一体回転するギヤ3baと、変速機入力軸11と一体回転するギヤ3bbと、を有する。変速機出力軸12は、ギヤ列のような動力伝達構造4を介して発電機5の発電機入力軸5aに接続されている。
【0015】
前記エンジン回転軸から取り出された回転力は、入力構造3を介して変速機入力軸11に入力される。変速機10は、変速機入力軸11の回転を変速して変速機出力軸12に出力する。変速機出力軸12の回転力は、動力伝達構造4を介して発電機入力軸5aに伝達される。発電機入力軸5aが駆動されると、発電機5が交流電力を発生する。変速機10の変速比は、前記エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機入力軸5aの回転速度を一定に保つように連続的に変更される。
【0016】
変速機10は、一例として、ハーフトロイダル型かつダブルキャビティ型であり、ディスク対13及びディスク対14を備える。ディスク対13は、入力ディスク15及び出力ディスク16を有し、ディスク対14も入力ディスク15及び出力ディスク16を有する。入力ディスク15は第1ディスクに相当し、出力ディスク16は第2ディスクに相当する。入力ディスク15は、変速機入力軸11と一体回転するよう変速機入力軸11に嵌合されている。出力ディスク16は、変速機出力軸12と一体回転するよう変速機出力軸12に嵌合されている。
【0017】
入力ディスク15及び出力ディスク16は、回転軸線A1回りに回転するように回転軸線方向A1に隣接配置されている。入力ディスク15と出力ディスク16とは、互いの回転軸線を一致させた状態で回転軸線方向A1に互いに対向配置されている。入力ディスク15と出力ディスク16とは、互いに対向する凹状の接触面15a,16aを有する。入力ディスク15及び出力ディスク16は、接触面15a,16aによって回転軸線A1回りに円環状のキャビティ17を画定する。
【0018】
変速機10は、一例として、中央入力型である。変速機出力軸12は、変速機入力軸11内に挿通され、変速機入力軸11から両側に突出する。2つの入力ディスク15は、変速機入力軸11上で背中合わせに配置されている。2つの出力ディスク16は、2つの入力ディスク15の回転軸線方向A1の外側に配置されている。変速機入力軸11と一体回転するギヤ3bbは、変速機入力軸11の外周面上に設けられ、2つの入力ディスク15間に配置されている。
【0019】
ディスク対13の出力ディスク16は、固定具18によって変速機出力軸12に固定されている。ディスク対14の出力ディスク16は、プリロードバネ19によって対応する入力ディスク15に向けて付勢され、かつ、回転駆動時にはローディングカム30によって対応する入力ディスク15に向けて付勢される。ディスク対14の出力ディスク16は、ローディングカム30を介して動力伝達構造4に動力伝達可能に接続されている。
【0020】
変速機10は、キャビティ17内に配置された複数のパワーローラ20と、複数のパワーローラ20をそれぞれ傾転可能に支持する複数のトラニオン21と、を備える。トラニオン21は、傾転軸線A2回りに傾転可能である。傾転軸線A2は、回転軸線A1とねじれの位置にある。傾転軸線A2が延びる方向は傾転軸線方向A2と称する。トラニオン21は、傾転軸線方向A2に変位可能な状態でケーシング2に支持されている。パワーローラ20は、傾転軸線A2に対して垂直な回転軸線A3回りに回転自在にトラニオン21に支持されている。
【0021】
パワーローラ20は、傾転軸線A2回りに傾転可能な状態で、入力ディスク15の接触面15aと出力ディスク16の接触面16aとの間に挟まれている。パワーローラ20及びトラニオン21が傾転軸線方向A2に変位すると、パワーローラ20の傾転軸線A2回りの前記傾転角が変更される。入力ディスク15の回転力を前記傾転角に応じた変速比で変速して出力ディスク16に伝達する。
【0022】
ローディングカム30は、出力ディスク16と、カム板31と、出力ディスク16とカム板31との間に挟まれたローラ32と、を備える。カム板31は、軸受35を介して変速機出力軸12に回転自在に支持されている。即ち、カム板31は、回転軸線A1周りに回転可能である。出力ディスク16のトルクが増加すると、ローディングカム30によって出力ディスク16が入力ディスク15に近づく向きに押圧され、入力ディスク15及び出力ディスク16がパワーローラ20を挟む圧力が増加する。出力ディスク16は、回転軸線方向A1における接触面16aとは反対側の面においてカム面41を有する。ローディングカム30は、出力ディスク16と同軸上に回転可能に配置されている。
【0023】
図2は、
図1のローディングカム30を回転軸線方向A1から見た側面図である。
図2に示すように、ローディングカム30は、回転軸線A1周りの周方向Cに並んだ複数のカムセクションS1,S2,S3,S4を有する。各カムセクションS1,S2,S3,S4ごとにローラ32が配置されている。カムセクションS1,S2,S3,S4は互いに同じであるため、以下、1つのカムセクションS1について説明する。
【0024】
図3は、
図2のIII-III線断面図であってローディングカム30の断面図である。即ち、
図3は、ローディングカム30のうち1つのカムセクションS1の断面図であって、周方向Cに延び且つカム板31の径方向から見た断面図である。なお、
図3はローディングカム30の伝達トルクがゼロのときの状態を表している。
図3に示すように、出力ディスク16は、回転軸線方向A1においてカム板31に対向する対向面40を有する。対向面40は、カム面41を含む。カム板31は、回転軸線方向A1において出力ディスク16に対向する対向面50を有する。対向面50は、カム面51を含む。本実施形態では、出力ディスク16のカム面41とカム板31のカム面51とは、互いに対称な形状を有する。ローラ32は、出力ディスク16のカム面41と、カム板31のカム面51との間に回転自在に挟まれている。
【0025】
カム板31のカム面51は、
図3の断面において、カムリードが増加するように湾曲した凹面51aを含む。即ち、カム板31のカム面51は、非線形なカムリードを有する。なお、「カムリード」は、ディスク単位回転当たりの回転軸線方向A1の進み量である。凹面51aは、
図3の断面において、カム面51のうち30%以上100%以下の範囲の領域に配置される。本実施形態では、凹面51aは、カム板31のカム面51の全体である。凹面51aには、曲率が不連続に変化する屈曲点が存在していない。
【0026】
ここで、周方向Cにおいて、ローディングカム30の伝達トルクの増加に伴ってローラ32がカム面51上を移動する向きにある側を終端側とし、カム面51の終端側における端を終端Pと定義する。カム板31のカム面51は、終端P側に向けてカムリードが増加するように湾曲している。凹面51aの曲率は、
図3の断面において、凹面51aに屈曲が生じないように連続的に変化している。例えば、凹面51aの曲率は、
図3の断面において、終端Pに向かうにつれて連続的に増加している。なお、凹面51aの曲率は、
図3の断面において、一定であってもよい。
【0027】
図4は、
図3のローディングカム30の高トルク時における断面図である。
図4に示すように、出力ディスク16からローラ32を介してカム板31に伝達される伝達トルクが増加すると、出力ディスク16がカム板31から回転軸線方向A1に離れるようにローラ32がカム板31の凹面51a上を周方向Cに移動する。カム板31の凹面51aの終端P近傍では、その法線が回転軸線方向A1に対して大きく傾斜することになる。これにより、伝達トルクの増加に伴って、ローラ32からカム板31に伝達される荷重の回転軸線方向A1の分力が小さくなる。よって、ローディングカム30の回転軸線方向A1の押圧力すなわち軸力は、高トルク時には増加しにくくなる。
【0028】
図5は、
図3のローディングカム30の伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
図5において、線L1は、本例のローディングカム30の軸力を示し、線L2は、必要軸力を示し、線L3は、線形なカムリードを有する従来のローディングカムの軸力を示す。伝達トルクが所定値T1以下のときは、プリロードバネ19によって軸力が発生している。伝達トルクが所定値T1を超えて増加すると、ローラ32がカム板31のカム面51上を周方向Cに移動することで、ローディングカム30の軸力が増加する。
【0029】
カム面51はカムリードが増加するように湾曲した凹面であるため、高トルク域では伝達トルクの増加に伴って軸力が増加する割合が低下する。よって、ローディングカム30の軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、高トルク域で過剰になることが防止される。また、
図3の断面においてカム面51には屈曲点がないため、トルク増加に伴う軸力の増加が滑らかになる。よって、トルク変化時におけるディスク15,16とパワーローラ20との間のトルク伝達が安定する。
【0030】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係るローディングカム130の断面図である。
図6は、ローディングカム130の周方向Cに延び且つカム板131の径方向から見た断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。
図6に示すように、第2実施形態のローディングカム130では、カム板131の対向面150のカム面151は、傾斜面151a及び凹面151bを有する。凹面151bは、
図6の断面において、カム面151のうち30%以上60%以下の範囲の領域に配置されている。なお、出力ディスク116の対向面140の形状は、カム板131の対向面150の形状と対称な形状を有する。
【0031】
傾斜面151aは、カムリードが一定となるように直線的に傾斜している。凹面151bは、カムリードが増加するように湾曲している。凹面151bは、傾斜面151aのうち周方向Cにおけるカム面151の終端側の端Qに隣接している。即ち、凹面151bは、傾斜面151aよりも高トルク領域側に配置されている。傾斜面151aは、凹面151bのうち傾斜面151aに連続する端Qにおける接線が延びる方向に延びている。そのため、傾斜面151aと凹面151bとの境界には、曲率が不連続に変化する屈曲点が発生していない。
【0032】
図7は、
図6のローディングカム130の伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
図7において、線L1は、本例のローディングカム130の軸力を示し、線L2は、必要軸力を示し、線L3は、線形なカムリードを有する従来のローディングカムの軸力を示す。伝達トルクが所定値T1未満のときは、プリロードバネ19によって軸力が発生している。伝達トルクが所定値T1以上になって増加すると、ローラ32がカム板131のカム面151上を周方向Cに移動することで、ローディングカム130の軸力が増加する。
【0033】
伝達トルクが所定値T1以上かつ所定値T2未満のときは、ローラ32は直線的な傾斜面151aに位置し、伝達トルクの増加に伴って軸力が増加する割合が一定となる。なお、T1<T2であり、所定値T2は
図6の端Qに対応している。伝達トルクが所定値T2以上になると、ローラ32が凹面151b上を移動し、伝達トルクの増加に伴って軸力が増加する割合が低下する。よって、ローディングカム130の軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、高トルク域で過剰になることが防止される。また、
図6の断面においてカム面151には屈曲点がないため、トルク増加に伴う軸力の増加が滑らかになる。よって、トルク変化時におけるディスク15,16とパワーローラ20との間のトルク伝達が安定する。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0034】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態に係るローディングカム230の断面図である。
図8は、ローディングカム230の周方向Cに延び且つカム板231の径方向から見た断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。
図8に示すように、第3実施形態のローディングカム230では、カム板231の対向面250のカム面251は、カムリードが一定となるように直線的に傾斜した傾斜面である。なお、カム面251は、カムリードが増加するように湾曲した凹面であってもよいし、カムリードが一定の傾斜面とカムリードが増加するように湾曲した凹面との組み合わせであってもよい。
【0035】
周方向Cにおいて、ローディングカム230の伝達トルクの増加に伴ってローラ32がカム板231のカム面251上を移動する向きにある側を終端側とする。
図8の断面において、カム板231の対向面250は、カム面251のうち周方向Cの前記終端側の端Rに隣接して周方向Cに向いたストッパ面252を含む。ストッパ面252は、その法線を回転軸線方向A1と周方向Cとに分解したときに周方向Cの方が大きい部分を有する。本実施形態では、ストッパ面252は、ローラ32の外周面の曲率と実質的に同じ曲率を有する湾曲面である。ストッパ面252の曲率は、ローラ32の外面の曲率未満であってもよい。なお、出力ディスク216の対向面240の形状は、カム板231の対向面250の形状と対称な形状を有するが、出力ディスク216にはストッパ面がなくてもよい。
【0036】
図9は、
図8のローディングカム230の高トルク時における断面図である。
図9に示すように、高トルク域でローラ32がストッパ面252に到達すると、ローラ32がストッパ面252に受け止められることで、伝達トルクが増加してもローラ32はカム板231に対して周方向Cに移動しない。また、ローラ32は、ストッパ面252に受け止められることで周方向Cにおいてカム面251を越えてしまうことも防止される。
【0037】
図10は、
図8のローディングカム230の伝達トルクと軸力との間の関係を示すグラフである。
図10において、線L1は、本例のローディングカム230の軸力を示し、線L2は、必要軸力を示し、線L3は、線形なカムリードを有する従来のローディングカムの軸力を示す。伝達トルクが所定値T1未満のときは、プリロードバネ19によって軸力が発生している。伝達トルクが所定値T1以上になって増加すると、ローラ32がカム板231のカム面251上を周方向Cに移動することで、ローディングカム230の軸力が増加する。
【0038】
伝達トルクが所定値T1以上かつ所定値T3未満のときは、ローラ32は直線的な傾斜面251に位置し、伝達トルクの増加に伴って軸力が増加する割合が一定となる。なお、T1<T3である。伝達トルクが所定値T3以上になると、ローラ32がストッパ面252に受け止められてカム板231に対して周方向Cに移動しない。そのため、伝達トルクが増加してもローディングカム230の軸力は一定となる。よって、ローディングカム230の軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、高トルク域で当該軸力が過剰になることが防止される。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0039】
(第4実施形態)
図11は、第4実施形態に係るローディングカムのカム板331の断面図である。
図11に示すように、第4実施形態のローディングカムでは、カム板331の対向面350のカム面351は、カムリードが増加するように湾曲した凹面である。なお、カム面351は、カムリードが一定の傾斜面とカムリードが増加するように湾曲した凹面との組み合わせであってもよい。
【0040】
カム板331の対向面350は、カム面351のうち周方向Cの終端側の端Rに隣接して周方向Cに向いたストッパ面352を含む。本実施形態では、ストッパ面352は、ローラ32の外面の曲率と実質的に同じ曲率を有する湾曲面である。ストッパ面352の曲率は、ローラ32の外周面の曲率未満であってもよい。
【0041】
ローディングカムの伝達トルクが増加してローラ32がカム面351上を周方向Cに移動すると、伝達トルクの増加に伴って軸力が増加する割合が低下する。しかも、ローラ32は、最終的にはストッパ面352に受け止められ、伝達トルクが増加しても周方向Cに移動しない。よって、ローディングカムの伝達トルクは、高トルク域では最終的に一定となる。そのため、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、高トルク域で当該軸力が過剰になることが良好に防止される。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0042】
(第5実施形態)
図12は、第5実施形態に係るローディングカムのカム板431の断面図である。
図12に示すように、第5実施形態のカム板431の対向面450は、カム面451の周方向Cの終端側に設けられたストッパ面452を有する。ストッパ面452は、周方向Cに向いた平面である。即ち、ストッパ面452の曲率は、ゼロである。ストッパ面452は、その法線を回転軸線方向A1と周方向Cとに分解したときに周方向Cの方が大きくなる向きに向いている。なお、カム板431の対向面450のカム面451は、カムリードが一定の傾斜面でもよいし、カムリードが増加するように湾曲した凹面であってもよいし、カムリードが一定の傾斜面とカムリードが増加するように湾曲した凹面との組み合わせであってもよい。
【0043】
ローディングカムの伝達トルクが高くなってローラ32がストッパ面452に到達すると、ローラ32はストッパ面452に受け止められる。これにより、ローディングカムの伝達トルクが増加してもローラ32はカム板431に対して周方向Cに移動しない。そのため、伝達トルクが増加してもローディングカムの軸力は一定となる。よって、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、高トルク域で当該軸力が過剰になることが防止される。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0044】
なお、本開示の技術は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、トロイダル無段変速機10は、IDG1の一部として用いられなくてもよく、用途も航空機に限られない。変速機10は、ダブルキャビティ型に限定されず、例えば、シングルキャビティ型でもよい。変速機10は、中央入力型に限定されず、例えば、中央出力型でもよい。入力ディスク15は第2ディスクに相当し、出力ディスク16は第1ディスクに相当してもよい。
【0045】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0046】
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0047】
[項目1]
回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、
前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備え、
前記ローディングカムは、
前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を含む対向面を有するカム板と、
前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含み、
前記カム板の前記カム面は、前記カム板の周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、カムリードが増加するように湾曲した凹面を含む、トロイダル無段変速機。
【0048】
この構成によれば、第2ディスクからローラを介してカム板に伝達されるトルクの増加に伴って、第2ディスクがカム板から軸線方向に離れるようにローラがカム板の周方向に凹面上を移動する。カム板の周方向における凹面の終端部分では、その垂線の向きが周方向に近くなる。これにより、トルク増加に伴って、ローラからカム板に伝達される荷重の軸線方向分力が小さくなる。よって、トロイダル無段変速機において、ローディングカムの軸力をトルク増加に伴って適切に増加させながらも、当該軸力が高トルク域で過剰になるのを防止できる。
【0049】
[項目2]
前記凹面は、前記カム板の前記カム面の全体である、項目1に記載のトロイダル無段変速機。
【0050】
この構成によれば、カム面に屈曲点が発生しないため、トルク増加に伴う軸力の増加が滑らかになる。よって、トルク変化時におけるディスクとパワーローラとの間のトルク伝達を安定させることができる。
【0051】
[項目3]
前記カム板の前記カム面は、前記断面において、カムリードが一定となるように直線的に傾斜した傾斜面を更に含み、
前記周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記断面において、前記凹面は、前記傾斜面のうち前記周方向の前記終端側の端に隣接している、項目1又は2に記載のトロイダル無段変速機。
【0052】
この構成によれば、傾斜面と凹面とを組み合わせたカム面によって、トルク増加に伴う軸力変化の設計を多様化できる。
【0053】
[項目4]
前記断面において、前記傾斜面は、前記凹面のうち前記傾斜面に連続する端における接線が延びる方向に延びている、項目3に記載のトロイダル無段変速機。
【0054】
この構成によれば、傾斜面と凹面との境界に屈曲点(曲率が不連続に変化する点)が発生しないため、トルク増加に伴う軸力の増加が滑らかになる。よって、トルク変化時におけるディスクとパワーローラとの間のトルク伝達を安定させることができる。
【0055】
[項目5]
前記周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記断面において、前記カム板の前記対向面は、前記カム面のうち前記周方向の前記終端側の端に隣接して前記周方向に向いたストッパ面を含む、項目1乃至4のいずれか1項に記載のトロイダル無段変速機。
【0056】
この構成によれば、高トルク域でローラがストッパ面に到達すると、ローラがストッパ面に受け止められることで、伝達トルクが増加してもローラが周方向に移動しない。よって、高トルク域において、ローディングカムの軸力の増加が抑えられ、ローディングカムの軸力が過剰になるのを防止できる。更に、トルク増加に伴ってカム面上を移動するローラがストッパ面に受け止められるため、ローラが周方向においてカム面を越えてしまうことを防止できる。
【0057】
[項目6]
回転軸線を一致させた状態で対向配置された第1ディスク及び第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、
前記回転軸線が延びる軸線方向において前記第2ディスクを前記第1ディスクに向けて押圧するローディングカムと、を備え、
前記ローディングカムは、
前記回転軸線周りに回転可能なカム板であって、前記第2ディスクに前記軸線方向に対向するカム面を含む対向面を有するカム板と、
前記第2ディスクのカム面と前記カム板のカム面との間に挟まれたローラと、を含み、
前記カム面の周方向において、前記ローディングカムの伝達トルクの増加に伴って前記ローラが前記カム板の前記カム面上を移動する向きにある側を終端側とし、
前記周方向に延び且つ前記カム板の径方向から見た断面において、前記カム板の前記対向面は、前記カム面のうち前記周方向の前記終端側の端に隣接して前記周方向に向いたストッパ面を含み、
前記断面において、前記ストッパ面の曲率は、前記ローラの外周面の曲率以下である、トロイダル無段変速機。
【0058】
この構成によれば、高トルク域でローラがストッパ面に到達すると、ローラがストッパ面に受け止められることで、伝達トルクが増加してもローラが周方向に移動しない。よって、高トルク域において、ローディングカムの軸力の増加が抑えられ、ローディングカムの軸力が過剰になるのを防止できる。更に、トルク増加に伴ってカム面上を移動するローラがストッパ面に受け止められるため、ローラが周方向においてカム面を越えてしまうことを防止できる。
【符号の説明】
【0059】
1 トロイダル無段変速機
15 入力ディスク
16,116,216 出力ディスク
20 パワーローラ
30,130,230 ローディングカム
31,131,231,331 カム板
32 ローラ
50,150,250,350 対向面
51,151,251,351 カム面
51a,151b 凹面
151a,251a 傾斜面
252,352 ストッパ面
A1 軸線方向
C 周方向