(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085638
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ、パスマスクの生成方法、及びマルチパス方式の印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240620BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240620BHJP
B41J 2/205 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/21
B41J2/01 451
B41J2/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200259
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慶成
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB58
2C056EC71
2C056EC75
2C056EC79
2C056FA10
2C057AF39
2C057AL31
2C057AM28
2C057AN01
2C057CA05
2C057DA05
2C057DB03
(57)【要約】
【課題】 マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現する。
【解決手段】 マルチパス方式のインクジェットプリンタは、各パスマスク113に設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置に基づいて生成された印刷データに基づいてインクの吐出を制御するインク吐出制御部131を有し、各パス用のパスマスクの各々は、(1)その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、(2)所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、(3)各パスマスクを重ね合わされた場合に、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、
前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、
前記ノズル列に対応して、複数のパス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタであって、
前記各パス用のパスマスクの各々におけるインク吐出可能画素に基づいて生成された印刷データに基づいてインクの吐出を制御するインク吐出制御部を有し、
前記各パス用のパスマスクの各々は、
(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、
(2)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、
(3)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、
を有する、
インクジェットプリンタ。
【請求項2】
複数の色のインクを吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望のカラー印刷を行うと共に、
前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、
前記ノズル列に対応して、複数のパス毎に各色用のパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によって各色のインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタであって、
前記各色の各パス用のパスマスクの各々におけるインク吐出可能画素に基づいて生成された各色の印刷データに基づいて各色のインクの吐出を制御するインク吐出制御部を有し、
前記各色の各パス用のパスマスクの各々は、
(1)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、
(2)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、
(3)各色成分の二次元の広がりを示すデータ構造をプレーンと称する場合において、同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その色のプレーンにおいて、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、
(4)複数のインクとして、第1色~第m色のインクが使用される場合において、各色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各色のプレーンが統合された場合においても、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第4の構成、
を有する、
インクジェットプリンタ。
【請求項3】
印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、
前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、
各パス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタにおける、前記パスマスクの生成方法であって、
(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計される、という基本方針の下で所定の領域を印刷するのに必要なパス数を含む印刷条件を設定するステップと、
(2)各パスマスクに対して、副走査方向に、所定の濃度分布を設定するステップと、
(3)前記ノズル列の前記所定数のノズルが対応付けされ、前記濃度分布が設定される第1のマスクパターンの設計の場において、
各パスマスクにおいて、インク吐出可能画素の一次候補点を設定し、
各一次候補点について、疎/密の評価値を算出し、
その疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが上位の1つまたは複数の二次候補点を抽出するステップと、
(4)前記(1)のステップにて設定されたパス数をj(jは2以上の自然数)とする場合において、
1パス目~jパス目に対応する前記二次候補点を、第2のマスクパターン設計のための場に集約し、
前記第2のマスクパターン設計の場における各二次候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが最も高い点を、インク吐出可能画素として特定するステップと、
(5)前記(4)において特定されたインク吐出可能画素が、前記(3)における前記第1のマスクパターンの設計の場において、何パス目のパスマスクにおける、どの箇所に該当するかを特定し、
その特定の際、該当する箇所が複数ある場合は、予め定められた所定条件に従って、該当箇所の一つを特定し、
その特定されたインク吐出可能画素に関する情報を記憶するステップと、
(6)前記(2)~(5)に記載される各処理を、各パスに対応した各パスマスクにおける、必要なすべてのインク吐出可能画素が特定されるまで繰り返すと共に、
前記(3)のステップを実施するに際しては、既にインク吐出可能画素が設定されたパスマスクについては、その設定されたインク吐出可能画素を除いて、必要な数の前記一次候補点を設定し、
(7)前記(2)~(6)に記載される各処理の繰り返しが終了すると、記憶されているインク吐出可能画素に関する情報に基づいて、各パスマスクにおけるマスクパターンを決定するステップと、
を含む、パスマスクの生成方法。
【請求項4】
前記(3)、(4)の各処理において、
各パスマスクの何れにおいても、インク吐出可能画素が一点も設定されていない場合には、
各点にランダムな評価値を付与することで、疎密の評価値に実質的な差異を生じさせる、
請求項3に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項5】
前記(3)、(4)の各処理において、
各パスマスクの何れかにおいて、インク吐出可能画素が少なくとも一点、設定されている場合には、
平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する、
請求項3に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項6】
前記(4)の処理において、
1つの点が、重複して抽出されている場合には、その重複回数に応じて、その点における疎/密の評価値を重み付けする、
請求項3に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項7】
前記平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する処理は、
既に設定されたインク吐出可能画素を含む仮のマスクパターンに対して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを用いてフィルタ処理を実施するステップと、
フィルタ処理の結果毎に、疎/密の程度を示す一次評価値を求めるステップと、
前記一次評価値に基づいて、総合的な疎/密の程度を示す総合評価値を算出し、算出された総合評価値を、前記疎/密の評価値とするステップと、
を含む、
請求項5に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項8】
印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、
前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、
各色のインクの各パス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によって各色のインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタにおける、前記パスマスクの生成方法であって、
(1)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計される、という基本方針の下で所定の領域を印刷するのに必要なパス数を含む印刷条件を設定するステップと、
(2)各パスマスクに対して、副走査方向に、第1色~第m色(mは2以上の自然数)の各色成分の濃度分布を設定するステップと、
(3)前記ノズル列の前記所定数のノズルが対応付けされ、前記濃度分布が設定される第1のマスクパターンの設計の場において、
各パスマスクにおいて、インク吐出可能画素の一次候補点を設定し、
各一次候補点について、疎/密の評価値を算出し、
その疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが上位の1つまたは複数の二次候補点を抽出するステップと、
(4)各色成分の二次元的な広がりを示すデータ構造をプレーンと称し、前記(1)のステップにて設定されたパス数をj(jは2以上の自然数)とする場合において、
各色のプレーンにおける1パス目~jパス目に対応する前記二次候補点を、プレーン毎に設けられる第2のマスクパターン設計のための場に集約し、
前記第2のマスクパターン設計の場における各二次候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが高い1つまたは複数の点を、各プレーンにおけるプレーン候補点として抽出するステップと、
(5)前記各プレーンにおけるプレーン候補点を、各プレーンを統合した第3のマスクパターンの設計の場において集約し、
前記第3のマスクパターンの設計の場における各プレーン候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが最も高い点をインク吐出可能画素として特定するステップと、
(6)前記(5)において特定されたインク吐出可能画素が、前記(3)における前記第1のマスクパターンの設計の場において、どのプレーンの、何パス目のパスマスクにおける、どの箇所に該当するかを特定し、
その特定の際、該当する箇所が複数ある場合は、予め定められた所定条件に従って、該当箇所の一つを特定し、
その特定されたインク吐出可能画素に関する情報を記憶するステップと、
(7)前記(2)~(6)に記載される各処理を、各プレーンの、各パスに対応した各パスマスクにおける、必要なすべてのインク吐出可能画素が特定されるまで繰り返すと共に、
前記(3)のステップを実施するに際しては、既にインク吐出可能画素が設定されたパスマスクについては、その設定されたインク吐出可能画素を除いて、必要な数の前記一次候補点を設定し、
(8)前記(2)~(7)に記載される各処理の繰り返しが終了すると、記憶されているインク吐出可能画素に関する情報に基づいて、各色の各パスマスクにおけるマスクパターンを決定するステップと、
を含む、パスマスクの生成方法。
【請求項9】
前記(3)、(4)、(5)の各処理において、
各色の各パスマスクの何れにおいても、インク吐出可能画素が一点も設定されていない場合には、
各点にランダムな評価値を付与することで、疎密の評価値に実質的な差異を生じさせる、
請求項8に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項10】
前記(3)、(4)、(5)の各処理において、
各色の各パスマスクの何れかにおいて、インク吐出可能画素が少なくとも一点、設定されている場合には、
平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する、
請求項8に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項11】
前記(4)、(5)の各処理において、
1つの点が、重複して抽出されている場合には、その重複回数に応じて、その点における疎/密の評価値を重み付けする、
請求項8に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項12】
前記平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する処理は、
既に設定されたインク吐出可能画素を含む仮のマスクパターンに対して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを用いてフィルタ処理を実施するステップと、
フィルタ処理の結果毎に、疎/密の程度を示す一次評価値を求めるステップと、
前記一次評価値に基づいて、総合的な疎/密の程度を示す総合評価値を算出し、算出された総合評価値を、前記疎/密の評価値とするステップと、
を含む、
請求項10に記載のパスマスクの生成方法。
【請求項13】
請求項3乃至12の何れか1項に記載のパスマスクの生成方法により生成された、パスマスクを用いて印刷データを生成し、
生成された印刷データに基づいて、メディアに印刷を実施する、マルチパス方式の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ、パスマスクの生成方法、及びマルチパス方式の印刷方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マルチパス記録における調整を柔軟に行えるようにしたマルチパス方式のインクジェットプリンタが示されている。
【0003】
特許文献1のインクジェットプリンタは、マスクデータに基づき、マルチパス方式により印刷される印刷画像の画素毎の打滴可否を設定し、その設定に基づいてインクの吐出を制御する(例えば、明細書の[0006]等)。
【0004】
特許文献1では、マスクパターンは互いに補完関係にあり、複数のマスクパターンを重ね合わせると、マスクパターンの全画素が打滴可能画素となることを前提に設計されている(例えば、請求項3、明細書の[0038]、[0039]等)。
【0005】
また、特許文献1の明細書の、例えば[0058]には、走査毎の打滴画素位置を最大限分散させるために、分散性に優れた高周波特性のマスク(FMマスク)を用いてハーフトーン処理を実施することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パス毎に設定される複数のマスクが補完関係にあるということは、言い換えれば、各マスクをすべて用いてインクが吐出された場合は、メディアの、所定サイズの画像形成領域内のすべての画素にインクを1回は吐出できる、という条件が課せられているということである。
【0008】
この場合、マスクパターンは、パスごとに形成する画像がそれぞれ補完関係になるように画像を間引くためのパターンとなり、補完関係を考慮すると、主走査方向、及び主走査方向に直交する副走査方向の各々についての画像の間引きの程度には制約が生じるのは否めない。
【0009】
また、例えば、1回目のパスでのインク吐出位置と、2回目のパスのインク吐出位置とが画像領域内で部分的に一致(重複)する部分の大きさや形状等、あるいは、その一致(重複)する部分での濃度プロファイル等の印刷条件についても、ある程度の制約を受けざるを得ない。
【0010】
また、その印刷条件を満たすためには、パス数や、パス毎の副走査方向におけるメディアの送り量等についても、ある範囲内で決めざるを得なくなり、設計の自由度が制限されることになる。
【0011】
したがって、現状のマルチパス方式の印刷には一定の限界があり、画像の印刷品質と印刷速度(印刷に要する時間)とはトレードオフの関係にある。すなわち、一方を向上させれば、他方を低下させる必要が生じる。
【0012】
よって、画質を低下させずに印刷速度をさらに向上させたり、印刷速度を維持しつつ画質をさらに向上させたり、あるいは、画質と印刷速度の双方をさらに向上させたりすることは、現状では実現が困難である。
【0013】
本発明の1つの目的は、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度のさらなる向上を実現することである。
【0014】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0016】
本発明に従う態様において、インクジェットプリンタは、インクを吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、前記ノズル列に対応して、複数のパス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタであって、前記各パス用のパスマスクの各々におけるインク吐出可能画素に基づいて生成された印刷データに基づいてインクの吐出を制御するインク吐出制御部を有し、前記各パス用のパスマスクの各々は、(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、(2)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、(3)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、を有する。
【0017】
本態様によれば、パスマスクは、補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成を備えることで、補完関係を前提とする場合の制限がなくなり、より自由に、印刷条件を選ぶことが可能となる。例えば、従来よりも印刷速度を向上させたいという要求があるとき、その要求を満足させ得るような印刷条件の自由な設定が可能である。
【0018】
また、パスマスクが、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成を備えることで、設定された所定の濃度分布を忠実に再現することができる。
【0019】
但し、補完関係を前提とする条件を外したことから、上記第1、第2の構成のみでは、バンディング(横筋)等に対する対策がなされていないため、所望の画質を担保することができない。
【0020】
そこで、高度なバンディング対策を実施する。この結果として、パスマスクは、さらに第3の構成を有する。
【0021】
第3の構成に関して、各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する。これにより、インク吐出可能画素の分布の分散性が確保され、バンディング等の発生が抑制される。
【0022】
具体的には、例えば、パスとパスの境界付近において生じるバンディングを軽減する効果が得られる。
【0023】
また、ノズル抜け、ノズルのヨレ、あるいはノズルの個体差等に起因するバンディングを軽減する効果が得られる。
【0024】
また、設計の自由度が向上するため、例えば、任意の濃度分布に従い、かつ、バンディングを軽減するといった効果が得られる。
【0025】
また、例えば、印刷画像の画像品質と、印刷速度と、濃度のバランスを、より自由に設定できるという効果が得られる。
【0026】
このように、本態様によれば、画質を良好に保ちつつ、マスクパターンの作成自由度を高めることができる。例えば、一定水準の画質を担保しつつ印刷速度を早めるのに適したマスクパターンを作成することができる。また、各パスでノズル使用率(濃度カーブ)が異なっていても、一定水準の画質が担保されたマスクパターンを作成することも可能である。
【0027】
よって、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現することができる。
【0028】
なお、「インク」という用語は広義に解釈することができる。例えば、「液体」と表現することもできる。例えば、「インクジェットプリンタ」という用語は、「液体吐出装置」と表現することも可能である。
【0029】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】インクジェットプリンタ、及びパスマスク生成装置として機能するコンピュータ本体を含む印刷システムの例を示す図である。
【
図2】パスマスクを用いて印刷データを生成し、マルチパス方式の印刷を実施するインクジェットプリンタの構成の一例を示す図である。
【
図3】印刷ヘッドにおけるノズル列の配置の一例を示す図である。
【
図4】コンピュータ本体に構築されるパスマスク生成装置の構成の一例、及びパスマスクの生成手順の概要を示す図である。
【
図5】ノズルマスクフィールド(階層化された複数のパスマスク設計の場における、最下層の設計の場であり、ここでは4個のノズルを含むノズル列が割り当てられ、パス数が4である場合を想定する)におけるマスクパターンの範囲等を示す図である。
【
図6】パス数が4であるマルチパス方式の印刷における、各パスの印刷範囲、及び各印刷範囲の重なりの態様を示す図である。
【
図7】階層化された複数のパスマスク設計の場(最下層のノズルマスクフィールド(第1のマスクパターンの設計の場)、中位層のプレーンフィールド(第2のマスクパターンの設計の場)、及び、最上位層のプレーン統合フィールド(第3のマスクパターンの設計の場))を用いた、パスマスク設計の手順の概要を示す図である。
【
図8】第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの一次候補点の生成の一例を示す図である。
【
図9】第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの二次候補点の抽出の一例を示す図である。
【
図10】第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける5パス目~8パス目のマスクパターンでの二次候補点の抽出の一例を示す図である。
【
図11】第1のプレーンの、プレーンフィールドにおけるマスクパターンでのプレーン候補点の抽出の一例を示す図である。
【
図12】第1~第mのプレーンの各々における、抽出されたプレーン候補点を示す図である。
【
図13】プレーン統合フィールドにおける、マスクパターンでのインク吐出可能画素位置の特定を示す図である。
【
図14】第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンの、1パス目~4パス目の各マスクパターン上での、インク吐出可能画素(一点目)の位置の特定を示す図である。
【
図15】第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの一次候補点の生成の一例を示す図である。
【
図16】第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの二次候補点の生成の一例を示す図である。
【
図17】第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンの、1パス目~4パス目の各マスクパターン上での、インク吐出可能画素(二点目)の位置の特定を示す図である。
【
図18】平滑化フィルタを用いて評価値を算出する評価値算出装置の構成の一例を示す図である。
【
図19】用意されるすべての平滑化フィルタの例、及び、インク吐出可能画素の分布の濃度に対応して使用する平滑化フィルタを選択する場合における、使用する平滑化フィルタの例を示す図である。
【
図20】サイズが異なる、17個の平滑化フィルタ(ガウシアンフィルタ)の例を示す図である。
【
図21】確定済みドットが2点存在するマスクパターンにおける評価値(ここでは総合評価値)の算出の一例を示す図である。
【
図22】付与された評価値(総合評価値)に基づいて、複数の候補点の中から最も疎である一点を特定する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0032】
以下の説明では、「インク」という用語を使用するが、この用語は広義に解釈することができる。例えば、「液体」と表現することもできる。例えば、「インクジェットプリンタ」という用語は、「液体吐出装置」と表現することもできる。
【0033】
まず、
図1を参照する。
図1は、インクジェットプリンタ、及びパスマスク生成装置として機能するコンピュータ本体を含む印刷システムの例を示す図である。
【0034】
印刷システム150は、コンピュータ本体10と、モニタ20と、キーボードを備える操作部32と、マウスを備える入力装置34と、フォルダ42、43と、インクジェットプリンタ(印刷装置)100と、を有する。
【0035】
フォルダ42、43には、印刷対象画像のデータ等が記憶され得る。
【0036】
コンピュータ本体10は、パスマスク生成用のプログラムPRGを有する。このプログラムPRGに従ってプロセッサ(不図示)が動作することで、マルチパス方式の印刷用のパスマスクが生成される。
【0037】
このパスマスクは、所望の濃度分布に対応したマスクパターン(
図1では不図示)を備える。このマスクパターンは、インク吐出可能画素(インク吐出を許可するパスマスク上の画素)の分布が高度の分散性を有し、これによって、バンディング等が抑制され得る(詳細は後述する)。
上記の濃度分布は、パスマスクの設計者が任意に設定することができる。
【0038】
インクジェットプリンタ(印刷装置)100は、紙等のメディア(記録媒体)70上に画像Aに対応した印刷画像72を形成する。
【0039】
次に、
図2を参照する。
図2は、パスマスクを用いて印刷データを生成し、マルチパス方式の印刷を実施するインクジェットプリンタの構成の一例を示す図である。なお、以下の説明では、印刷対象の画像を、「画像A」とし、その画像データを「画像Aのデータ」と記載する。
【0040】
図2のA-1は、
図1におけるインクジェットプリンタ(印刷装置)100を再掲したものである。
【0041】
図2のA-2は、マルチパス方式の印刷を実施可能なインクジェットプリンタ(印刷装置)100の内部構成の一例を示している。
【0042】
インクジェットプリンタ100は、操作パネル120と、ROM122と、RAM124と、印刷装置の画像メモリ126(印刷対象の画像Aのデータが記憶されている)と、通信インタフェース(I/F)128と、制御部110と、印刷ヘッド(記録ヘッド)130と、メディア70を移動させる搬送モータ132と、印刷ヘッド130を備えたキャリッジを移動させるキャリッジモータ134と、キャリッジモータ134の回転情報を制御部110(具体的にはキャリッジ駆動処理部119)に供給するエンコーダ136と、を有する。
【0043】
制御部110は、マルチパス印刷制御部111を有する。このマルチパス印刷制御部111は、マスク記憶部112(各色用の、各パス毎のパスマスク113を記憶している)と、印刷データ生成部117を備える印刷処理部115と、搬送処理部118と、キャリッジ駆動処理部119と、を有する。
【0044】
印刷処理部115の印刷データ生成部117は、各色用の、各パス毎のパスマスク113を使用して印刷データを生成する。生成された印刷データは、印刷ヘッド130に供給される。印刷ヘッド130のインク吐出制御部131は、印刷データに基づいて、画像をメディア70上に画像72を印刷する。なお、コンピュータ本体10が、マスク記憶部112および印刷データ生成部117を有していてもよい。コンピュータ本体10で生成された印刷データをインクジェットプリンタ100の印刷処理部115に送信し、インクジェットプリンタ100の印刷処理部115は受信した印刷データに基づいて画像72を印刷してもよい。
【0045】
印刷ヘッド130は、複数の色のインクを吐出可能である。インクジェットプリンタ100は、主走査方向(X方向)、及び主走査方向に直交する副走査方向(Y方向)に、印刷ヘッド130とメディア70とを相対的に移動させながら、マルチパス方式によってメディア70に所望のカラー印刷を行う。
【0046】
マルチパス方式では、印刷ヘッド130が主走査方向に繰り返し走査される。その1回の走査をパスと称する。
【0047】
印刷に際しては、パス毎にパスマスク113が用意される。そのパスマスク113のマスクパターンに対応した画像が、パス毎に形成される。そして、各パスの画像の少なくとも一部同士が重ね合わされることで、所望の画像がメディア70上に形成される。
【0048】
次に、
図3を参照する。
図3は、印刷ヘッドにおけるノズル列の配置の一例を示す図である。
【0049】
印刷ヘッド130は、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズル3を含むノズル列を有する。
図3の例では、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色のインクを吐出可能なノズル列が設けられている。ノズル列の数やインクの色の種類はこれに限定されるものではない。
【0050】
図3の例では、各色のインクに対応して、2列のノズル列が用意されている。各ノズル列では、複数のノズル3が副走査方向(Y方向)に所定間隔で配置されている。
【0051】
ノズル列NC1、NC2は、C(シアン)のインクを吐出するノズル列であり、ノズル列NM1、NM2は、M(マゼンタ)のインクを吐出するノズル列であり、ノズル列NY1、NY2は、Y(イエロー)のインクを吐出するノズル列であり、ノズル列NK1、NK2は、K(ブラック)のインクを吐出するノズル列である。
【0052】
ノズル3の副走査方向(Y方向)に沿う配置間隔を1ピッチとすると、ノズル列NC1とNC2、ノズル列NM1とNM2、ノズル列NY1とNY2、ノズル列NK1とNK2の一方は、他方に対して、副走査方向に1/2ピッチずれて配置されている。但し、これは一例であり、この例に限定されるものではない。
【0053】
次に、
図4を参照する。
図4は、コンピュータ本体に構築されるパスマスク生成装置の構成の一例、及びパスマスクの生成手順の概要を示す図である。
【0054】
パスマスク生成装置の構成と生成手順の概要を説明する前に、本発明の基礎的な設計方針と、設計事項等について簡単に説明する(詳細は後述する)。
【0055】
以下の説明において、「プレーン」は、各色の面、あるいは各色の面の構造を指す用語である。具体的には、「プレーン」は、各色の画像成分の二次元的な広がりを示すデータ構造を示すものである。
【0056】
例えば、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色のインクを使用するときは、Cプレーン、Mプレーン、Yプレーン、Kプレーンの4つのプレーンを定義することができる。
【0057】
また、各色のプレーンを細分化(断片化)して得られる、所定サイズの領域を「プレーンチップ」と称する。パスマスクの設計に際しては、各色のプレーンチップ毎にマスクパターンが設定される。
【0058】
「プレーンチップ」には、
図3で示したノズル列における所定の個数のノズルが割り当てられる。プレーンチップの副走査方向における長さは、割り当てられたノズルの個数で定まり、主走査方向の長さは、例えば、マスクパターンのデータを記憶する記憶装置の容量等に基づいて定まる。
【0059】
各プレーンチップに設定されるパスマスクには多数の画素(ドット)が含まれるが、そのドットの数は、インクジェットプリンタ100における主走査方向、副走査方向の解像度によって定まる。
【0060】
パスマスクの設計のために、複数の、階層化されたフィールド(パスマスクを設計するための場)が設定される。
【0061】
複数のフィールドを設けるのは、以下の理由による。すなわち、1つのパスマスクを設計する際、そのパスマスクの内部におけるインク吐出可能画素(単にドットという場合がある)を適切に分散させ、バンディングの原因となる規則性を抑制するのが好ましい。このパターン設計は、最下層のフィールドである「ノズルマスクフィールド(第1のマスクパターンの設計の場)」にて実施される(
図8~
図10参照)。
【0062】
但し、ノズルマスクフィールドにおけるパターン設計だけでは不十分である。例えば、1つのマスクパターンの範囲と、その範囲に隣接する他のマスクパターンの範囲との間においても規則性が生じる可能性がある。
【0063】
よって、隣接するマスクパターンの範囲間においても、各ドットの配置が分散されているのが好ましい。このパターン設計は、中位層のフィールドである「プレーンフィールド(第2のマスクパターンの設計の場)」にて実施される(
図11、
図12参照)。
【0064】
また、各色のプレーンにおいてドットの適切な分散ができたとしても、各色のプレーンが重ね合わされた場合に規則性が生じる場合があるため、このことに対しても対策する必要がある。
【0065】
複数の色のドットが集合した場合においても分散性が確保できるようにするパターン設計は、最上位層のフィールドである「プレーン統合フィールド(第3のマスクパターンの設計の場)」にて実施される(
図13~
図17参照)。
【0066】
また、パスマスクのマスクパターンを設計するに際しては、まず、最下層のフィールドである「ノズルマスクフィールド(第1のマスクパターンの設計の場)」にて、例えば、プレーンチップ毎に副走査方向に濃度分布(ノズルの使用率)を設定し、設定された濃度分布(ノズルの使用率)に応じた個数の一次候補点を設定し、各候補点に評価値(ボイド値)を付与し、その評価値に基づいて、複数の二次候補点を抽出する(
図9、
図10参照)。
【0067】
なお、上記の例では、濃度分布を、副走査方向に一次元的に設定しているが、これに限定されるものではなく、主走査方向も含めて二次元的に濃度分布を設定してもよい。
【0068】
ここで、評価値(ボイド値)は、注目するドット(画素)が、すでに確定しているインク吐出可能画素(確定済みドット)から受ける影響の度合いを示す指標という意味をもち、評価が「疎」であるほど、確定済みのドットから受ける影響が少なく、規則性が生じにくい。
【0069】
評価値(ボイド値)は、例えば、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタ(例えばガウシアンフィルタ)によるフィルタリング処理の結果を用いて取得することができる(
図18~
図22参照)。但し、評価値は、単一のフィルタサイズの平滑化フィルタによるフィルタリング処理の結果を用いて取得してもよい。
【0070】
但し、確定したドットが一つもない状態では、各一次候補点の評価値は同じとせざるを得ない。この場合は、ランダムに順位を付与し、順位の高いものから順に所定個の2次候補点を抽出する(
図9、
図10参照)。ランダムに順位を付与することで、実質的に、評価値に差異が生じたことになる。言い換えれば、順位の付与によって実質的に差が生じた評価値に基づいて、複数個の二次候補点が抽出されたことになる。
【0071】
それ以降は、例えば、複数の平滑化フィルタを用いる手法にて評価値を算出し、評価値に基づく二次候補点の抽出を実施する。例えば、1つのパスマスクにおいて、10点のインク吐出可能画素(10点の一次候補点)の配置を特定する必要があるとき、1個のインク吐出可能画素が特定されている場合は、他の9個の一次候補点に評価値を付与し、その評価値に基づいて、疎の度合いが高い所定個の一次候補点を抽出する。この抽出された候補点が2次候補点となる。
【0072】
次に、例えば、ノズルマスクフィールド(第1のマスクパターンの設計の場)における複数のマスクパターンの範囲の各々で抽出された二次候補点を、プレーンフィールド(第2のマスクパターンの設計の場)におけるパスマスクの設計領域に集約し、ここで、再び評価値を参照して、疎の度合いが高い複数個の「プレーン候補点」を、各色のプレーン毎に抽出する。
【0073】
次に、各色のプレーン毎のプレーン候補点を、プレーン統合フィールド(第3のマスクパターンの設計の場)におけるパスマスクの設計領域に集約し、ここで、再び評価値を参照し、疎の度合いが最も高い点(画素、ドット)を特定する。
【0074】
このようにして特定されたプレーン統合フィールド上のドット位置に対応する、ノズルマスクフィールド上の点(画素、ドット)に、インク吐出可能画素を設定する(これが確定済みのドットとなる)。
【0075】
但し、ノズルマスクフィールドには、パス数に対応する複数のパスマスクが存在するため、プレーン統合フィールド上のドット位置に対応する点が、ノズルマスクフィールド上において複数、存在する場合があり得る。
【0076】
この場合には、所定条件(詳細は後述する)により一点を選び、その選ばれた一点に、インク吐出可能画素を設定する。
【0077】
また、ノズルマスクフィールド(第1のマスクパターン設計の場)にて、一点のドットが確定されると、これに対応して、プレーンフィールド(第2のマスクパターン設計の場)、及び、プレーン統合フィールド(第3のマスクパターン設計の場)の各々においても、対応する位置に確定された1点のドットが設定される。
【0078】
以上の手順を繰り返し、マスクパターンにおいて必要なインク吐出画素をすべて特定する。インク吐出画素(確定済みドット)が特定される毎に、その位置情報が記憶される。
記憶された確定済みドットの位置情報に基づいて、パスマスクのマスクパターンが決定される。決定されたマスクパターンは、そのパスマスクに対応付けられて記憶される。
【0079】
このとき、そのマスクパターンが、どのパスマスクに対応するかの情報が記憶される。このとき、必要に応じて、1回のパス走査における、主走査方向、副走査方向の各々における何回目のインク吐出に対応するかの情報も記憶される。
【0080】
所定の領域を印刷するのに必要なパスの数だけパスマスクを設定し、マスクパターン情報を記憶する。設定されたパスマスクを繰り返し適用することで、印刷対象の画像の全領域についてのマルチパス印刷が可能となる。
【0081】
以上、本発明の基礎的な設計方針と、設計事項等について簡略化して説明した。次に、
図4を参照して、パスマスク生成装置の構成例について説明する。
【0082】
図4において、コンピュータ本体10は、情報取得部35と、パスマスク生成装置21と、を有する。パスマスク生成装置21は、パスマスク生成部22と、制御部(プロセッサ)50と、パスマスク生成用のプログラムPRGを記憶しているプログラム記憶部51と、を有する。
【0083】
パスマスク生成部22は、設定された所定の濃度分布に対応した各プレーンの一次候補点の生成部24と、一次候補点の評価値(ボイド値)算出部26と、評価値に基づく二次候補点の抽出部28と、二次候補点の集約、及び評価値に基づくプレーン候補点の生成部29と、プレーン統合フィールドにおける各プレーン候補点の集約部31と、評価値に基づく最も疎のドットの決定部33と、パスマスク取得部36と、を有する。
【0084】
一次候補点の評価値(ボイド値)算出部26は、確定したドットが無い場合の評価値算出部25と、確定したドットが有る場合の評価値算出部27と、を有する。
【0085】
確定したドットが無い場合は、一次候補点の各々の評価値には差がないため、各候補点についてランダムに順位付けを行い、これによって実質的に評価値に差異を設ける。言い換えれば、順位付け処理を含めると、異なる値の評価値が算出されたことになる(
図9、
図10参照)。
【0086】
確定したドットが有る場合は、複数の平滑化フィルタで評価値を算出する(
図19~
図22参照)。
【0087】
パスマスク取得部36は、ドット位置記憶部37と、パスマスク作成部38と、パスマスク記憶部39と、を有する。
【0088】
次に、パスマスクの生成手順の概要について説明する。
図4に示される矢印には、S1、S2・・・という符号が付されているが、これが、パスマスクの生成についての手順(ステップ)を示す。
【0089】
まず、情報取得部35に、パスマスクの設計に必要な基礎情報を入力する。このとき、例えば、必要な印刷速度が達成されるように、種々の条件を自由に設定する。例えば、情報取得部35に、所定の領域において、主走査方向、副走査方向の各々にてインクを何回に分けて吐出するか等の情報を入力する(ステップS1)。
情報取得部35が取得した基礎情報は、パスマスク生成部22に供給される(ステップS2)。
【0090】
次に、パスマスク生成部22において、プレーンチップ(ノズルマスクフィールドにおいて、所定の個数のノズルが割り当てられる所定サイズの領域であり、この領域にてマスクパターンが設計される)において、副走査方向に濃度分布(ノズル使用率)を設定し、その濃度分布に対応して、複数個の一次候補点が設定される。これがステップS3である。例えば、ノズル使用率が20%であれば、主走査方向のランダムな位置に2個の一次候補点が設定される。
【0091】
次に、一次候補点の各々に評価値が付与される。確定されたドットが無い場合には、ランダムな順位付けによって実質的に差異が生じた評価値が付与される。
【0092】
ここで、確定されたドットが無い場合において、評価値に基づく判断をせず、任意の位置に、インク吐出可能画素を設定することも考えられる。本発明では、このような場合も排除はしない。
【0093】
しかし、好ましくは、確定されたドットが有る場合と同様の手順を経て、濃度分布を考慮して、慎重に、インク吐出可能画素の位置(最初の確定済みの一点のドット)を特定するのがよい。
【0094】
これは、その一点を、例えば各色の濃度分布が集中する箇所に設定してしまうと、他の点との関連性が生じ易くなることを考慮したものである。つまり、最初の一点の位置によって、その後に設定される点の分散性に影響が生じるため、できるだけ、疎となる配置が実現され易いように、最初の一点の位置を決めるのがよい。
【0095】
よって、好ましい実施形態では、上記のとおり、最初の一点を決める場合でも、濃度分布を考慮した、評価値を用いた処理が実施される。
【0096】
言い換えれば、好ましい実施形態では、確定されたドットが無い場合、有る場合の双方において、評価値に基づく同様の処理が実施されることになる。但し、確定されたドットが無い場合と有る場合とでは、評価値(ボイド値)の算出方法に差異がある(この点については後述する)。
【0097】
次に、ステップS5において、評価値に基づいて二次候補点が抽出される。
【0098】
次に、ステップS6において、隣接する複数のマスクパターンの範囲の各々における二次候補点が、プレーンフィールド上のマスクパターン設計のための領域に集約され、評価値に基づいて、複数のプレーン候補点が生成される。
【0099】
次に、ステップS7において、各色のプレーンにおけるプレーン候補点が、プレーン統合フィールド上のマスクパターン設計のための領域に集約され、そして、評価値に基づいて、最も疎であるドット(ドットの位置)が特定される。
但し、複数色のインクの吐出を前提としない場合は、上記のステップS6における複数のプレーン候補点について、評価値に基づいて、最も疎であるドット(ドットの位置)が特定される。
【0100】
ステップS8では、ステップS3に戻って、以下、同様の処理を繰り返し実施する。
【0101】
ステップS9では、特定されたドットの位置が記憶され、ステップS10では、記憶されたドットの位置を示すデータに基づいて、パスマスクのマスクパターンが決定され、これによって、パスマスクが作成される。
【0102】
ステップS11では、パスマスクのデータが記憶(保存)される。
【0103】
次に、
図5を参照する。
図5は、ノズルマスクフィールド(階層化された複数のパスマスク設計の場における、最下層の設計の場であり、ここでは4個のノズルを含むノズル列が割り当てられ、所定の領域を印刷するのに必要なパス数が4である場合を想定する)におけるマスクパターンの範囲等を示す図である。
【0104】
図5では、1パスに対応するパスマスクをPM1、2パスに対応するパスマスクをPM2、3パスに対応するパスマスクをPM3、4パスに対応するパスマスクをPM4と表記している。
【0105】
各パスマスクPM1~PM4では、副走査方向に、4個のノズル3a~3d(ここでは、これらはノズル列NC1の構成要素であるものとする)が対応付けされている。各パスマスクPM1~PM4では、副走査方向に8個のドット(画素)DTが割り当てられ、主走査方向に10個のドット(画素)DTが割り当てられ、これによって、合計80個のドット(画素)からなるドット(画素)マトリクスが構成されている。
【0106】
1パスの走査毎に、印刷ヘッド130とメディア70とが副走査方向に相対的に2ドット(2画素)分だけ移動される。
【0107】
図5の右側に、4パス(1パス目~4パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲RSと、この範囲RSに対して副走査方向に隣接する、4パス(5パス目~8パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲RS’が示されている。範囲RS、RS’のサイズは、各パスマスクPM1~PM4と同じである。
【0108】
次に、
図6を参照する。
図6は、所定の領域を印刷するのに必要なパス数が4であるマルチパス方式の印刷における、各パスの印刷範囲、及び各印刷範囲の重なりの態様を示す図である。
図6において、
図5と共通する箇所には同じ符号を付している。
【0109】
図6のA-1において、4パス(1パス目~4パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲RSに対応するメディア70上の領域Z1において、パスマスクPM1を用いて画像が形成される。
図6のA-2において、範囲RSに対応するメディア70上の領域Z2において、パスマスクPM2を用いて画像が形成される。
図6のA-3において、範囲RSに対応するメディア70上の領域Z3において、パスマスクPM3を用いて画像が形成される。
図6のA-4において、範囲RSに対応するメディア70上の領域Z4において、パスマスクPM4を用いて画像が形成される。
【0110】
各領域Z1~Z4の画像を重ね合わせることで、範囲RSにおけるカラー画像が形成される。
ここで、1パス~4パスの各々に対応する上記のパスマスクPM1~PM4は、主走査方向に繰り返し適用され得る。
【0111】
次に、
図7を参照する。
図7は、階層化された複数のパスマスク設計の場(最下層のノズルマスクフィールド(第1のマスクパターンの設計の場)、中位層のプレーンフィールド(第2のマスクパターンの設計の場)、及び、最上位層のプレーン統合フィールド(第3のマスクパターンの設計の場))を用いた、パスマスク設計の手順の概要を示す図である。
【0112】
先に説明したように、パスマスクの設計のために、複数の、階層化されたフィールド(パスマスクを設計するための場)が設定される。
【0113】
図7の左側(かつ上側)に示されるように、第1のプレーン(例えば、第1色であるC(シアン)のプレーン)のノズルマスクフィールド60には、1パス目~4パス目でカバーされるマスクパターンの範囲RSと、5パス目~8パス目でカバーされるマスクパターンの範囲RS’とが含まれる。なお、各範囲RS、RS’における評価値の分布は同じであるため、ノズルマスクフィールド60では、範囲RSにおける評価値の分布を算出すれば、範囲RS’における評価値の分布を導出することができる。したがって、ノズルマスクフィールド60では範囲RSにおける評価値の分布のみを算出すればよい。
【0114】
各範囲RS、RS’において、評価値に基づいて、マスクパターンの候補(インク吐出画素の候補)としての複数の一次候補点の中から、疎の度合いが高い二次候補点が抽出される。
【0115】
抽出された二次候補点は、第1のプレーンのプレーンフィールド(マスクパターン設計の場)63に集約される。
【0116】
同様に、
図7の左側(かつ下側)に示されるように、第2のプレーン(例えば、第2色であるM(マゼンタ)のプレーン)のノズルマスクフィールド65には、1パス目~4パス目でカバーされるマスクパターンの範囲(符号は付していない)と、5パス目~8パス目でカバーされるマスクパターンの範囲(符号は付していない)が含まれる。
【0117】
各範囲において、評価値に基づいて、マスクパターンの候補(インク吐出画素の候補)としての複数の一次候補点の中から、疎の度合いが高い二次候補点が抽出される。抽出された二次候補点は、第2のプレーンのプレーンフィールド65に集約される。
【0118】
以下、同様であり、第mのプレーン(ここでは、mは3以上の自然数)のプレーンフィールド67には、第m色のノイズマスクフィールドにおいて抽出された2次候補点が集約される。
【0119】
第1のプレーンのプレーンフィールド63では、集約された、第1のプレーンにおける複数の2次候補点の中から、評価値に基づいて、疎の度合いが高い順に複数(所定の数)の候補点が抽出され、この抽出によって、第1のプレーンにおけるプレーン候補点が生成される。
【0120】
同様に、第2のプレーンのプレーンフィールド65では、集約された、第2のプレーンにおける複数の2次候補点の中から、評価値に基づいて、疎の度合いが高い順に複数(所定の数)の候補点が抽出され、この抽出によって、第2のプレーンにおけるプレーン候補点が生成される。
【0121】
以下、同様である。第mのプレーンのプレーンフィールド67では、集約された、第mのプレーンにおける複数の2次候補点の中から、評価値に基づいて、疎の度合いが高い順に複数(所定の数)の候補点が抽出され、この抽出によって、第mのプレーンにおけるプレーン候補点が生成される。
【0122】
第1、第2、・・・第mのプレーン候補点は、各プレーンを統合したマスクパターン設計の場であるプレーン統合フィールド69に集約される。ここでは、評価値に基づいて、最も疎である点を特定する。
【0123】
特定された最も疎である一点に対応する、ノズルマスクフィールドにおける、何れかのパスのパスマスク内の一点が、確定したドット(確定されたインク吐出可能画素)となる。但し、対応する点が複数ある場合は、所定の条件(後述)に従って、一点を特定(選択)する。このようにして、インク吐出画素の位置(ドット位置)が特定される。
【0124】
以上の動作を、ノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンのすべてにおいて、必要な数のドット(インク吐出可能画素)のすべてが特定されるまで、繰り返す。このようにして、各パスに対応したパスマスクのマスクパターンが設計される。
【0125】
次に、
図8を参照する。第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの一次候補点の生成の一例を示す図である。
【0126】
図8のA-1~
図8のA-4に示されるように、4つのパスの各々に対応するパスマスクPM1~PM4には、4個のノズル3a~3d(ノズル列NC1の構成要素)が割り当てられており、各パスマスクには、80個(=8×10)の画素(ドット)DTが含まれる。
【0127】
各パスマスクPM1~PM4には、副走査方向(ノズル列NC1の延在方向)に沿って、第1のプレーン(例えばC(シアン)のプレーン)における濃度分布(ノズル使用率)を示す特性線(濃度曲線、あるいは濃度カーブと称することもできる)Q1~Q4が設定されている。ここでは、説明の便宜上、特性線Q1~Q4は同一の形状を有し、各特性線Q1~Q4によって示される濃度分布は同じであるものとする。
【0128】
なお、濃度分布(ノズル使用率)は、1パス当たりの、1個のノズルからのインク吐出の回数を示すものである。
【0129】
図8のA-5~A-8に示されるように、各パスマスクPM1~PM4において、各特性線Q1~Q4が示す濃度分布に従って、仮のマスクパターン(仮のドットパターン)DP1~DP4が設定される。
【0130】
なお、仮のマスクパターン(仮のドットパターン)DP1~DP4を構成する画素(ドット)は、模様が付された丸にて示されている。この模様が付された丸が、各パスマスクPM1~PM4における、仮のマスクパターンの構成要素である一次候補点を示す。
【0131】
一次候補点は、以下のように設定してもよい。例えば、ノズル使用率が10%なら、主走査方向に並ぶ10個の画素の中から1つの画素(ドット)がランダムに選ばれ、ノズル使用率が20%なら、主走査方向に並ぶ10個の画素の中から2つの画素(ドット)がランダムに選ばれ、ノズル使用率が50%なら、主走査方向に並ぶ10個の画素の中から5つの画素(ドット)がランダムに選ばれる。なお、ランダムな選択には、例えば乱数を用いることができる。
この方法が採用される場合は、各パスマスクにおいて、ノズル使用率(濃度分布)に対応するように、インク吐出可能画素の一次候補点が設定される。
【0132】
一次候補点は、以下のようにして設定してもよい。ノズル使用率(濃度分布)を満たす数だけ確定したドットが無い場合に、主走査方向に並ぶ画素全てを一次候補点として設定してもよい。
例えば、ノズル使用率(濃度分布)が10%であり、確定したドットが無い場合には、主走査方向に並ぶ10個の画素全てを一次候補点として設定する。1個の画素が確定したドットとして設定された場合には、ノズル使用率10%が満たされるため、その後、一次候補点は設定しない。
【0133】
次に、
図9を参照する。
図9は、第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの二次候補点の抽出の一例を示す図である。二次候補点の抽出には、評価値が使用される。
【0134】
図9においては、「評価値」を「ボイド値」と表記している。この点は、後述する
図10~
図13、
図16においても同様である。ここで、「ボイド値」は、点と点との関係において、疎の度合いを示す指標である。
【0135】
図9のA-1、A-5、A-9、A-13は、
図8で示したパスマスクPM1~PM4における仮のマスクパターン(ドットパターン)DP1~DP4を再掲したものである。
【0136】
図9のA-1の仮のマスクパターンDP1には80個のドットDTが含まれ、その内、一次候補点は、模様を付した丸で示されている。
【0137】
図9のA-1に着目すると、マスクパターンを構成するドットマトリクスDP1には、副走査方向にA~Hの符号が付されており、また、主走査方向には1~10の符号が付されている。よって、各一次候補点は、その副走査方向、及び主走査方向における各ドット位置を示す、A~Hと、1~10の組み合わせによって表記可能である。
例えば、
図9のA-1における一次候補点は、「A3、C5、C9、E1、E3、E4、E8、E9、G3、G5」である。
【0138】
図9のA-1に示される各候補点に対して、
図9のA-2では、評価値としてのボイド値が付与される。ここで、上記のとおり、ボイド値は、点と点との関係における疎の度合いを示す指標であり、少なくとも1点の確定したドットがないと、各一次候補点の評価ができない。
【0139】
図9では、確定したドットが無い状態である(言い換えれば、二次候補点の抽出処理における初回の処理である)ため、各一次候補点はすべて疎であり、よって各点のボイド値はすべて「1」となる。
【0140】
なお、評価値(ボイド値)が、「1」に近いほど、疎の度合いが高く、「0」に近いほど、密の度合いが高い。但し、評価値(ボイド値)の上限値が「1」に限定されるものではない。後述するが、一つの候補点が重複抽出される場合は、その重複の回数に応じて評価値(ボイド値)が重み付けされ、この結果として、評価値(ボイド値)が1よりも大きな値となることがある。
【0141】
上記のように、各候補点の評価値(ボイド値)がすべて「1」であれば、評価値(ボイド値)に基づく評価ができない。そこで、
図9のA-3では、各候補点のボイド値(言い換えれば、各候補点自体)をランダムに順位付けし、これによって、実質的にボイド値に差異を設ける。これにより、各一次候補点が順位付けされる。次に、順位の値を正規化する。
【0142】
すなわち、パスによって候補点の数が異なるので、順位の値を正規化して、パス毎の比較ができるようにする。ここでは、順位の値から1を引いた値を、(候補点の数-1)で除した値を、正規化した点数とする。
【0143】
この結果、
図9のA-4では、順位が上位である6点(C5、G3、E9、E1、A3、G5:これらの点は太線の枠にて強調表示されている)が抽出される。これらの抽出された6点が二次候補点となる。
【0144】
なお、候補点の抽出に際しては、正規化された値(正規化値)に対して、所定の閾値を設定し、その閾値より大きい(あるいはその閾値以上)である正規化値をもつ候補点を抽出することができる。必要な個数の候補点を抽出できないときは、閾値を適宜、更新してもよい。
【0145】
同様に、
図9のA-5に関しては、
図9のA-6、A-7の処理を経て、
図9のA-8に示されるように、二次候補点(G2、C8、G7、E5、I3、I8)が抽出される。
【0146】
同様に、
図9のA-9に関しては、
図9のA-10、A-11の処理を経て、
図9のA-12に示されるように、二次候補点(E8、I2、K8、E10、G7、I5)が抽出される。
【0147】
同様に、
図9のA-13に関しては、
図9のA-14、A-15の処理を経て、
図9のA-16に示されるように、二次候補点(M6、K4、M10、G5、I8、I2)が抽出される。
【0148】
次に、
図10を参照する。
図10は、第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおける5パス目~8パス目のマスクパターンでの二次候補点の抽出の一例を示す図である。
【0149】
図10に示される処理は、
図9で説明したものと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0150】
図10のA-1に関しては、
図10のA-2、A-3の処理を経て、
図10のA-4に示すように、二次候補点(K5、O3、M9、M1、I3、O5)が抽出される。
【0151】
同様に、
図10のA-5に関しては、
図10のA-6、A-7の処理を経て、
図10のA-8に示されるように、二次候補点(O2、K8、O7、M5、Q3、Q8)が抽出される。
【0152】
同様に、
図10のA-9に関しては、
図10のA-10、A-11の処理を経て、
図10のA-12に示されるように、二次候補点(M8、Q2、S8、Q10、O7、S5)が抽出される。
【0153】
同様に、
図10のA-13に関しては、
図10のA-14、A-15の処理を経て、
図10のA-16に示されるように、二次候補点(U6、S4、U10、O5、Q8、Q2)が抽出される。
【0154】
次に、
図11を参照する。
図11は、第1のプレーンの、プレーンフィールドにおけるマスクパターンでのプレーン候補点の抽出の一例を示す図である。
【0155】
図11のA-1では、
図9、
図10の処理により抽出された、第1のプレーンのノズルマスクフィールドにおける二次候補点が、第1のプレーンにおけるプレーンフィールド(ノズルマスクフィールドよりも上位の階層に属するマスクパターン設計の場)に集約される。
【0156】
図11のA-2には、プレーンフィールドにおいて集約された二次候補点(言い換えれば抽出点)の配置が示されている。ここで、今、着目しているのは、
図5に示したマスクパターンの範囲RSであり、この範囲RS内の二次候補点において、ボイド値(評価値)を付与する。
【0157】
ボイド値(評価値)の付与の方法は、先に
図9で説明したものと同様である。つまり、確定されたドットが無い状態であるため、各二次候補点はすべて疎と判定され、ボイド値(評価値)は「1」である。
【0158】
但し、
図11のA-2では、二次候補点を集約するに際し、同じ位置の点が二次候補点として複数回、抽出されているときは、その点は、複数のパスにおいて疎であると判定された点であり、より有力な候補点であると判断され得る。
【0159】
よって、その二次候補点については、ボイド値に、その回数の値を乗算して、ボイド値の値を大きくする。すなわち、抽出回数による重み付けが実施される。これによって、その点は、より有力な候補点であると判定され得る。
【0160】
例えば、
図11のA-3では、二次候補点として「G5」が抽出されているが、この「G5」は、先に示した
図9の抽出過程において、
図9のA-4、及び
図9のA-16に登場する。つまり、2回、抽出されている。よって、「G5」のボイド値は2(=1×2回)となる。
【0161】
図11のA-4では、
図9と同様に、ボイド値が同じ各点については、ボイド値(評価値)をランダムに順位付けする。これにより、ボイド値(評価値)に実質的な差異を生じさせる。そして、ボイド値(評価値)に基づいて、二次候補点が順位付けされ、そして、順位の値が正規化される。
【0162】
この結果、
図11のA-5では、第1のプレーンにおけるプレーン候補点(G5、G8、M8、M10、K5、K4)が抽出される。
【0163】
以上の説明では、第1のプレーンについてのみ説明しているが、実際は、第2・・・第mの各プレーンにおいても、同様の処理が実施されて、各プレーンにおけるプレーン候補点が抽出される。
【0164】
次に、
図12を参照する。
図12は、第1~第mの各プレーンの各々における、抽出されたプレーン候補点を示す図である。
図12のA-1は、
図11のA-5の図を再掲したものである。
図12のA-2では、第2のプレーンのプレーン候補点(G5、I9、M3、G3、I4、M1)が示されている。
図12のA-3では、第mのプレーンのプレーン候補点(I7、K3、M9、M2、G5、I2)が示されている。
【0165】
次に、
図13を参照する。
図13は、プレーン統合フィールドにおける、マスクパターンでのインク吐出可能画素位置の特定を示す図である。
【0166】
図12に示した各プレーンのプレーン候補点は、最上位階層のマスクパターンの設計の場であるプレーン統合フィールドに集約される。
【0167】
図13のA-1には、集約されたプレーン候補点が示されている。
図13のA-2には、プレーン統合フィールドにおける、マスクパターンの範囲RS内におけるドットパターンが示されている。模様が付された丸で示される点が、パターンを構成するプレーン候補点であり、これらの各点に、ボイド値(評価値)が付与される。ボイド値(評価値)を付与する方法は、
図11の場合と同じである。
【0168】
確定されたドットが無い状態であるため、各プレーン候補点はすべて疎と判定され、ボイド値(評価値)は「1」である。
【0169】
但し、プレーン候補点を集約するに際し、同じ位置の点がプレーン候補点として複数回、抽出されているときは、その点は複数のプレーンにおいて疎であると判定された点であり、より有力な候補点であると判断され得る。よって、そのプレーン候補点については、ボイド値に、その回数の値を乗算して、ボイド値の値を大きくする。
【0170】
図13のA-3では、プレーン候補点として「G5」が抽出されているが、この「G5」は、抽出過程において3回、抽出されているものとする。したがって、「G5」のボイド値は3(=1×3回)となる。
【0171】
図13のA-4では、ボイド値が同じ各点については、ボイド値をランダムに順位付けする。そして、ボイド値に基づいて順位を決定する。この結果、「G5」が、最も疎である点と判定される。
【0172】
これにより、
図13のA-5では、画素「G5」の位置が、インク吐出可能画素を設定する位置として定まる。
【0173】
次に、
図14を参照する。
図14は、第1のプレーンの、ノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンの、1パス目~4パス目の各マスクパターン上での、インク吐出可能画素(一点目)の位置の特定を示す図である。
【0174】
図14では、
図13のA-5にて定まった、画素「G5」の位置が、ノズルマスクフィールドにおける、何パス目のマスクパターンにおける位置であるのか定める。
【0175】
図14において、画素G5は、1パス目のパスマスクPM1、4パス目のパスマスクPM4の双方に存在する。よって、インクを吐出するのが、1パス目であるのか、4パス目であるのかを決定する必要がある。
【0176】
ここでは、「所定条件」にしたがって決定する。所定条件は、例えば、以下のとおりである。
条件1:最も評価値による順位が高いドットを選択する。同順位の場合は、インク吐出のタイミングが最も早く訪れるドット(最も早く打たれるドット)を選択する。それでも差がないときは、ランダムに選択する。
条件2:インク吐出のタイミングが最も早く訪れるドット(最も早く打たれるドット)を選択する。差がつかない場合は、最も評価値による順位が高いドットを選択する。それでも差がないときは、ランダムに選択する。
条件3:インク吐出のタイミングが最も遅く訪れるドット(最も遅く打たれるドット)を選択する。差がつかない場合は、最も評価値による順位が高いドットを選択する。それでも差がないときは、ランダムに選択する。
【0177】
図14では、条件1を採用する。ここで、先に説明した
図9のA-4を参照すると、1パス目のパスマスクPM1では、画素「G5」の評価値に基づく順位は第6位である。
【0178】
一方、
図9のA-16を採用すると、4パス目のパスマスクPM4では、画素「G5」の評価値に基づく順位は第4位であり、4パス目の方が高い順位である。
【0179】
よって、4パス目のパスマスクPM4における画素「G5」が、インク吐出可能画素として特定される。言い換えれば、画素「G5」の位置に、インク吐出可能画素が設定される。
【0180】
このようにして、所定の濃度分布を満足し(
図8)、かつ、ノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンの設計範囲内においてドットが適切に分散されており(
図9、
図10)、また、複数のマスクパターンの範囲のドットを統合したプレーンフィールドにおいてもドットが適切に分散されており(
図11)、また、複数のプレーンを統合したプレーン統合フィールドにおいてもドットが分散されている(
図12、
図13)という条件をすべて満たすようにして、各パスのパスマスクにおいてインク吐出画素が1点、確定される
【0181】
確定された1点のドットは、ノズルマスクフィールド、プレーンフィールド、及び、プレーン統合フィールドの各々において設定される。
【0182】
この確定された1点のドットは、所定の濃度分布を考慮しつつ、同一色のドットの集団においても、各色のドットが混合された集団においても、最も疎と判定されるドットである。
【0183】
これ以降、この確定された1点を有するマスクパターンにおいて、疎の度合いが高い点を順次、設定していくのであるが、確定された1点は疎の度合いが高いため、それ以降の点も、疎の度合いが高い点として設定し易いという利点がある。このことは、マスクパターンを構成する各ドットの高い分散性を確保することに貢献する。
【0184】
以上説明した例では、ドットの分散性に関して、「ノズルマスクフィールド」、「プレーンフィールド」、及び、「プレーン統合フィールド」の各々における分散性が考慮されている。
但し、「プレーン統合フィールド」における分散性は省略することもできる。この点について、以下、順を追って説明する。
ここで、各フィールドにおける、ドットの分散性の確保の意義についてまとめると、次のようになる。
(i)「ノズルマスクフィールド(最下層のマスクパターンの設計の場)」におけるドットの分散性を確保することは、言い換えれば、1つの色における、1つのマスクパターンの範囲におけるドットの規則性を抑制することである。
(ii)「プレーンフィールド(中位層のマスクパターン設計の場)」におけるドットの分散性を確保することは、言い換えれば、1つの色における、1つのマスクパターンの範囲と、その範囲に隣接する他のマスクパターンの範囲との間における規則性を抑制することである。
(iii)「プレーン統合フィールド(最上位層のマスクパターンの設計の場)」におけるドットの分散性を確保することは、言い換えれば、各色のプレーンが重ね合わされた場合に規則性が生じる場合がある場合を想定して、複数の色のドットが集合した場合においてもドットの規則性を抑制することである。
【0185】
上記(i)、(ii)は、1つの色のインクが使用された場合を想定している。そして、上記(ii)では、1つのマスクパターンの範囲と、その範囲に隣接する他のマスクパターンの範囲との間のドットの分散性を問題としている。
【0186】
ここで、先に説明した
図5を参照する。
図5では、1パス~4パスに対応する4つのパスマスクPM1~PM4が設定されている。そして、
図5の右側には、4パス(1パス目~4パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲RSが示されている。
ここで、このマスクパターンの範囲RSは、「各パスマスクが重ね合わされた場合のマスクパターンの範囲」を示しており、上記の(i)、(ii)を満足するということは、つまり、「各パスマスクが重ね合わされた場合のマスクパターンの範囲(例えば、
図5の右側に示される範囲RS)」におけるドットの分散性が確保される、ということである。
ここで、上記(iii)は、複数の色のインクが使用された場合を想定して設定される条件である。
よって、複数色のインクの吐出を前提とせず、発明をより広義に把握して、インク(複数のインクでなくても、少なくとも一色のインクであればよい)を吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によってメディアに所望の印刷を行うインクジェットプリンタを想定する場合は、上記(iii)の構成は削除してもよい。
【0187】
この場合、各パス用のパスマスクの各々は、
(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、
(2)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、
(3)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有するという第3の構成、を有する。
また、この場合、先に
図4を用いて説明したパスマスクの生成方法では、ステップS7において、ステップS6で生成される「プレーン候補点」について、評価に基づく最も疎である画素の特定が実施される。
【0188】
1色のインクではなく、「複数の色のインク」を吐出可能な印刷ヘッドを用いてメディアにマルチパス印刷を実施する場合には、上記(iii)の条件が、加重されることになる。
この場合、各色の各パス用のパスマスクの各々は、
(1)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、
(2)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、
(3)各色成分の二次元の広がりを示すデータ構造をプレーンと称する場合において、同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その色のプレーンにおいて、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、
(4)複数のインクとして、第1色~第m色のインクが使用される場合において、各色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各色のプレーンが統合された場合においても、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有するという第4の構成、を有する。
【0189】
次に、
図15を参照する。
図15は、第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの一次候補点の生成の一例を示す図である。
図15は、先に説明した
図8に対応する図である。実施される処理の内容は、
図8で説明したものと同じである。
図15のA-1、A-3、A-5、A-7では、
図14の処理にて確定されたドットは黒丸にて示されている。
【0190】
図15のA-2、A-4、A-6、A-8に示されるように、各パスマスクPM1~PM4において、仮のマスクパターン(ドットパターン)DP1~DP4が設定される。
濃度分布に従うドットの数は合計で10点であるが、既に1点のドットが確定しているため、9点のドットを設定する。確定済みのドットについては、新たなドットを重ねることはしない。すなわち、9点のドットは、未確定のドット位置に設定される。
【0191】
次に、
図16を参照する。
図16は、第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおける1パス目~4パス目のマスクパターンでの二次候補点の生成の一例を示す図である。
図16は、先に説明した
図9に対応する図である。実施される処理の内容は、
図9で説明したものと同じである。但し、
図16のA-2、A-6、A-10、A-14における評価値(ボイド値)は、複数の平滑化フィルタによるフィルタリング処理の結果を利用することで算出される(この点は、
図18~
図22を参照して後述する)。
【0192】
【0193】
次に、
図17を参照する。
図17は、第1のプレーンの、インク吐出可能画素が特定された後のノズルマスクフィールドにおけるマスクパターンの、1パス目~4パス目の各マスクパターン上での、インク吐出可能画素(二点目)の位置の特定を示す図である。
【0194】
図17では、1パス目のパスマスクPM1の画素「E10」が、インク吐出可能画素の位置として特定される。これに伴い、プレーンフィールド、プレーン統合フィールドにおいても、1点のインク吐出可能画素が設定される。
以上説明した処理が、パスマスクのマスクパターンが完成するまで、繰り返し実施される。
【0195】
次に、
図18を参照する。
図18は、平滑化フィルタを用いて評価値を算出する評価値算出装置の構成の一例を示す図である。
図18の例では、複数の平滑化フィルタを使用する。但し、この構成は一例であり、この構成に限定されるものではない。
【0196】
なお、「平滑化フィルタ」は、平均化フィルタ、ぼかしフィルタ等とも称されるものであり、以下の説明では、単に、「フィルタ」と称する場合もある。平滑化フィルタは、画像をぼかして滑らかにする機能を有するフィルタである。平滑化フィルタF1~Fmとしては、例えば、ガウシアンフィルタを用いることができる(但し、これに限定されるものではない)。
【0197】
ガウシアンフィルタは、正規分布を利用して、注目画素(確定されたドット:確定ドット)からの距離に応じて、近傍のドットの輝度値に重み付けをすることで、画像をぼかす機能を有する。
フィルタリングによるぼかし処理の後、輝度値の変化が大きいドットほど、注目画素から受ける影響が大きく、密の程度が高いと判定され、輝度値の変化が小さいドットほど、注目画素から受ける影響が小さく、疎の程度が高いと判定され得る。
【0198】
図18において、評価値算出装置80は、処理対象となるドットパターンを取得するドットパターン取得部81と、フィルタリングによる評価値算出部83と、を有する。
【0199】
フィルタリングによる評価値算出部83は、m個(mは2以上の自然数)の平滑化フィルタF1~Fmを備えるフィルタ部302と、フィルタ選択部304と、疎/密の評価値算出部306と、疎/密の総合評価値算出部308と、を有する。
【0200】
フィルタ部302が備える複数の平滑化フィルタは、各々、フィルタサイズ(標準偏差σの値)が異なる。
【0201】
フィルタ部302は、ドットパターン取得部81から供給される確定ドット情報に基づいて、使用するフィルタの数を可変に制御する。確定したドットが増えるにしたがって、確定したドットの影響が及ぶ範囲が広域化するため、確定したドットの数の増大に対応させて、使用する平滑化フィルタの数を増やすのが好ましい(この点は、後述する)。
【0202】
次に、
図19を参照する。
図19は、用意されるすべての平滑化フィルタの例、及び、インク吐出可能画素の分布の濃度に対応して使用する平滑化フィルタを選択する場合における、使用する平滑化フィルタの例を示す図である。
【0203】
図19のA-1では、フィルタ部302には、サイズ(言い換えれば、標準偏差σ)が異なる10個の平滑化フィルタF1~F10が用意されている(ここでは、m=10)。
【0204】
図19のA-2には、例えば、最小サイズのフィルタF1と最大サイズのフィルタFmの、サイズ(標準偏差σ)の違いの例を示している。最小サイズに対応する標準偏差σ1は、小さすぎると、平滑化処理後も、各画素の輝度値が平滑化前と変わらず、各画素についての疎密の程度の優劣を判定できず、有効な評価値を得られない。
【0205】
また、最大サイズに対応する標準偏差σmは、大きすぎると、各画素の輝度が平滑化され過ぎて、同様に有効な評価値を得ることができない。
【0206】
よって、σ1は、ドットサイズ程度とし、σmは、ドットパターンのサイズ(マスクパターンのサイズ)の(1/6)倍~(1/4)倍程度に設定している。但し、一例であり、これに限定されるものではない。
【0207】
このように、最小サイズのフィルタF1の標準偏差σ1は、例えば、ドットサイズの1倍~3倍程度と微小である。一方、最大サイズのフィルタFmの標準偏差σmは、例えば、ドットパターンのサイズ(マスクパターンのサイズ)の(1/6)倍~(1/4)倍と、かなり大きい。
【0208】
標準偏差σ1、σmのサイズの差が、このように大きい場合には、ドットパターンの濃度(階調)に応じて、実際に使用する平滑化フィルタを、適宜、選択して用いるのが好ましい。
【0209】
例えば、ドットパターンの濃度が低く、ドットが有る画素が少ない状態で、サイズが小さいフィルタ(例えば、ドットサイズ程度の標準偏差をもつ局所的フィルタ)を用いてフィルタ処理を実施しても、ドットパターンをぼかす効果はほとんど得られない。この状態で、疎密の評価を実施すると、ドットがない多数の画素のほとんどが、最も疎と判定されてしまい、有効な評価値は得られない。有効でない多数の評価値をそのまま使用して総合評価値を算出しても、信頼性の高い結果は得られない。
【0210】
そこで、ドットパターンの濃度(階調)が低い場合には、あるサイズ以上の、サイズが比較的大きいフィルタを選択的に用いてフィルタリングを実施し、ドットパターンの濃度が上昇するにつれて、比較的小さいサイズのフィルタも使用するようにして、少しずつ(例えば、段階的に、あるいは連続的に)フィルタの数を増やしていく。
【0211】
図19のA-3では、ドットパターンの濃度(階調)が「低濃度」の場合は、比較的サイズが大きなフィルタF8~F10を使用する。
【0212】
言い換えれば、ドットパターンの濃度が低い場合は、ドットとドットの間隔の平均値が大きく、そのドットパターンは隙間が多い状態であるため、広範囲にわたる「ぼかし」が可能なサイズの大きなフィルタを使用し、ぼかし効果が期待できない、比較的小さなサイズのフィルタは実際の使用から除外する。
【0213】
図19のA-4は、ドットパターンの濃度が「中濃度(低)」の場合を示す。ここではフィルタF4~F10を使用する。使用するフィルタの数が、低濃度のときに比べて4個増えている。
【0214】
図19のA-5は、ドットパターンの濃度が「中濃度(高)」の場合を示す。ここではフィルタF2~F10を使用する。使用するフィルタの数が、中濃度(低)のときに比べて2個増えている。
【0215】
図19のA-6では、ドットパターンの濃度が「高濃度」の場合を示す。ここでは、用意されているすべてのフィルタF1~F10を使用する。使用するフィルタの数が、中濃度(高)のときに比べて1個増えている。
【0216】
このように、ドットパターンの濃度(階調)に応じて、適宜、複数のフィルタの中から適切なサイズのフィルタ(3以上のフィルタであるのが好ましい)を選択し、それらを組み合わせて使用することで、適切なぼかし処理が実現される。
【0217】
ぼかし処理が実施されたときに、輝度値が変化する程度が小さいドットは、確定ドットからの影響の程度が小さく、疎の度合いが高いと判定され得る。適切なぼかし処理がなされることで、適切な評価値が得られ、適切な疎/密の判定が可能となる。
【0218】
次に、
図20を参照する。
図20は、サイズが異なる、17個の平滑化フィルタ(ガウシアンフィルタ)の例を示す図である。
【0219】
図20では、17個のフィルタF1~F17が、そのサイズを比較できるように、間隔をおいて配置されている。また、サイズの違いを分かり易く表現するために、フィルタサイズに相当する正方形の中央部に高輝度の領域を設けている。フィルタのサイズが大きくなるほど、その高輝度の部分も広がり、全体の明るさが増している。最小サイズのフィルタF1と、最大サイズのフィルタF17とを比較すると、その差は歴然である。
【0220】
また、
図20の例では、ドットパターンにおける、どのようなサイズの領域に対しても、適切なサイズの平滑化フィルタが存在することを担保するべく、各フィルタF1~F17のサイズはランダムに決定するのではなく、一定の倍率で相関付けられるものとしている。
【0221】
すなわち、第2のフィルタF2のサイズは、第1のフィルタF1のサイズの所定倍(例えば1.3倍)とし、第3のフィルタF3のサイズは、第2のフィルタF2のサイズの所定倍(例えば、1.3倍)とし、以下、同様に、フィルタサイズを一定の倍率で拡大していく(但し、好ましい一例であり、これに限定されるものではない)。言い換えれば、複数のフィルタ(少なくとも3つの平滑化フィルタ)のサイズは、等倍で異なる。
【0222】
次に、
図21を参照する。
図21は、確定済みドットが2点存在するマスクパターンにおける評価値(ここでは総合評価値)の算出の一例を示す図である。
【0223】
図21のA-1では、ノズルマスクフィールドにおけるパスマスクPMは、64個(=8×8)のドットDTを有する。パスマスクPMには、既に確定されたドットが2点、含まれている。また、8個の一次候補点が設定されている。確定済みのドットは黒丸で示され、一次候補点は模様が付された丸で示されている。
【0224】
図21のA-2は、8×8のドットマトリクスにおける、確定済みのドットパターンを示す。このドットマトリクスに対して、複数の平滑化フィルタ(ガウシアンフィルタ)に基づく平滑化処理が実施される。
【0225】
ここでは3個のフィルタa、b、cを使用するものとし、また、フィルタサイズについては、フィルタa<フィルタb<フィルタcの関係が成立するものとする。
【0226】
図21のA-3には、フィルタaによるフィルタ結果が示されている。
図21のA-4には、フィルタbによるフィルタ結果が示されている。
図21のA-5には、フィルタcによるフィルタ結果が示されている。
【0227】
確定済みの2点のドットの周囲には、濃い模様が付されたドットが存在するが、これらの点が、密の程度が高い(言い換えれば、疎の度合いが低い)ドットである。
【0228】
その密の程度が高いドットの周囲に、斜線が施されているドットが存在するが、これらが、密の程度が中程度(言い換えれば、疎の度合いが中程度)のドットである。
【0229】
模様が施されない白地のドットは、密の程度が低い(言い換えれば、疎の度合いが高い)ドットである。
【0230】
図21のA-6~A-8では、
図21のA-3~A-5における、各ドットの疎密の度合いを、数値化して示している。この数値が、各ドットの評価値(一次評価値)を示している。数値が大きいほど、疎の度合いが低く、数値が小さいほど、疎の度合いが高い。
【0231】
図21のA-9では、
図21のA-6~A-8の各々における各ドットの評価値(一次評価値)の数値がすべて加算される。各ドットに付された加算結果を示す数値が、総合評価値である。このようにして、総合評価値マトリクス430が得られる。
【0232】
総合評価値の数値が小さいものほど、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても疎の度合いが高いと判定され得る。総合評価値による判定の結果として、疎の度合いが高いと判定されたドットは、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても分散性が高く、規則性が生じにくい。よって、バンディングの抑制に貢献する。
【0233】
次に、
図22を参照する。
図22は、付与された評価値(総合評価値)に基づいて、複数の候補点の中から最も疎である一点を特定する例を示す図である。
【0234】
図22のA-1には、
図21のA-9に示した総合評価値マトリクスが再掲されている。
図22のA-1において、最も小さい総合評価値は「3」である(図中、総合評価値が「3」のドットは太線の枠で囲んで強調して示している)。
【0235】
図22のA-2において、総合評価値が「3」であるドットに該当する候補点は、「F3」である。よって、
図22のA-3に示されるように、ドット(画素)「F3」が、評価値による順位付けがなされた場合の、最も高い順位の点となる。
【0236】
なお、図中、ドット(画素)F3については、「F3(dot)」と表記している。これは、
図19、
図20に記載されるフィルタF3と区別するためである。
【0237】
他の評価値(総合評価値)を参照することで、他の候補点についても順位付けが可能である。また、先に説明したように、評価値(総合評価値)の値が同じ候補点については、評価値(総合評価値)をランダムに順位付けすることで、各候補点の順位付けが可能となる。
【0238】
このようにして、評価値(総合評価値)を参照することで、疎の度合いに応じて、各候補点を順位付けることができる。
【0239】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態において、インクジェットプリンタは、インクを吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、前記ノズル列に対応して、複数のパス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタであって、前記各パス用のパスマスクの各々におけるインク吐出可能画素に基づいて生成された印刷データに基づいてインクの吐出を制御するインク吐出制御部を有し、前記各パス用のパスマスクの各々は、(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、(2)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、(3)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、を有する。
【0240】
本実施形態によれば、パスマスクは、補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成を備えることで、補完関係を前提とする場合の制限がなくなり、より自由に、印刷条件を選ぶことが可能となる。例えば、従来よりも印刷速度を向上させたいという要求があるとき、その要求を満足させ得るような印刷条件の自由な設定が可能である。
また、パスマスクが、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成を備えることで、所定の濃度分布を忠実に再現することができる。
但し、補完関係を前提とする条件を外したことから、上記第1、第2の構成のみでは、バンディング(横筋)等に対する対策がなされていないため、所望の画質を担保することができない。
そこで、高度なバンディング対策を実施する。この結果として、パスマスクは、さらに第3の構成を有する。
第3の構成に関して、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各パスマスクが重ね合わされた場合において、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する。これにより、インク吐出可能画素の分布の分散性が確保され、バンディング等の発生が抑制される。
【0241】
具体的には、例えば、パスとパスの境界付近において生じるバンディングを軽減する効果が得られる。また、ノズル抜け、ノズルのヨレ、あるいはノズルの個体差等に起因するバンディングを軽減する効果が得られる。また、設計の自由度が向上するため、例えば、パス間の相対濃度を任意に設定する効果、すなわち、好ましい例では、特定のパスの濃度を個別に制御できるといった効果が得られる。
【0242】
また、例えば、印刷画像の画像品質と、印刷速度と、各パスの濃度のバランスを、より自由に設定できるという効果が得られる。
このように、本実施形態によれば、画質を良好に保ちつつ、マスクパターンの作成自由度を高めることができる。例えば、一定水準の画質を担保しつつ印刷速度を早めるのに適したマスクパターンを作成することができる。また、各パスごとでノズル使用率(濃度カーブ)が異なっていても一定水準の画質が担保されたマスクパターンを作成することも可能である。
よって、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現することができる。
【0243】
なお、「インク」という用語は広義に解釈することができる。例えば、「液体」と表現することもできる。例えば、「インクジェットプリンタ」という用語は、「液体吐出装置」と表現することも可能である。
【0244】
また、第2の実施形態において、インクジェットプリンタは、複数の色のインクを吐出可能な印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望のカラー印刷を行うと共に、前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、前記ノズル列に対応して、複数のパス毎に各色用のパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によって各色のインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタであって、前記各色の各パス用のパスマスクの各々におけるインク吐出可能画素に基づいて生成された各色の印刷データに基づいて各色のインクの吐出を制御するインク吐出制御部を有し、前記各色の各パス用のパスマスクの各々は、(1)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計されたマスクパターンを有するという第1の構成、(2)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、所定の濃度分布に従うマスクパターンを有するという第2の構成、(3)各色成分の二次元の広がりを示すデータ構造をプレーンと称する場合において、同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その色のプレーンにおいて、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第3の構成、(4)複数のインクとして、第1色~第m色のインクが使用される場合において、各色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、各色のプレーンが統合された場合においても、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する、という第4の構成、を有する。
【0245】
第2の実施形態のインクジェットプリンタでは、第1の実施形態で示した第1~第3の構成の他に、第4の構成が追加されている。
第4の構成に関して、各パスマスクは、異なる色のプレーンが統合された場合においても、バンディングが抑制され得る分散性を備えるように設計されたマスクパターンを有する。
これにより、異なる色のインク吐出可能画素の分布を統合的に観察した場合でも、インク吐出可能画素の分布の分散性が確保され、バンディング等の発生が抑制される。このようにして、印刷画像についての所望の画質も担保され得る。
具体的な効果としては、第1の実施形態にて示した効果と同様の効果が得られる。
【0246】
第3の実施形態において、パスマスクの生成方法は、印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、各パス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によってインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタにおける、前記パスマスクの生成方法であって、(1)複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計される、という基本方針の下で所定の領域を印刷するのに必要なパス数を含む印刷条件を設定するステップと、(2)各パスマスクに対して、副走査方向に、所定の濃度分布を設定するステップと、(3)前記ノズル列の前記所定数のノズルが対応付けされ、前記濃度分布が設定される第1のマスクパターンの設計の場において、各パスマスクにおいて、インク吐出可能画素の一次候補点を設定し、各一次候補点について、疎/密の評価値を算出し、その疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが上位の二次候補点を抽出するステップと、(4)前記(1)のステップにて設定されたパス数をj(jは2以上の自然数)とする場合において、1パス目~jパス目に対応する前記二次候補点を、第2のマスクパターン設計のための場に集約し、前記第2のマスクパターン設計の場における各二次候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが最も高い点を、インク吐出可能画素として特定するステップと、(5)前記(4)において特定されたインク吐出可能画素が、前記(3)における前記第1のマスクパターンの設計の場において、何パス目のパスマスクにおける、どの箇所に該当するかを特定し、その特定の際、該当する箇所が複数ある場合は、予め定められた所定条件に従って、該当箇所の一つを特定し、その特定されたインク吐出可能画素に関する情報を記憶するステップと、(6)前記(2)~(5)に記載される各処理を、各パスに対応した各パスマスクにおける、必要なすべてのインク吐出可能画素が特定されるまで繰り返すと共に、前記(3)のステップを実施するに際しては、既にインク吐出可能画素が設定されたパスマスクについては、その設定されたインク吐出可能画素を除いて、必要な数の前記一次候補点を設定し、(7)前記(2)~(6)に記載される各処理の繰り返しが終了すると、記憶されているインク吐出可能画素に関する情報に基づいて、各パスマスクにおけるマスクパターンを決定するステップと、を含む。
【0247】
これにより、所定の濃度分布に従うマスクパターンであって、バンディングが抑制され得る分散性を備えるパスマスクを、補完関係を前提とすることなく、より自由な条件の下で設計することが可能である。これによって、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現することができる。
【0248】
第3の実施形態に従属する第4の実施形態では、前記(3)、(4)の各処理において、各パスマスクの何れにおいても、インク吐出可能画素が一点も設定されていない場合には、各点にランダムな評価値を付与することで、疎密の評価値に実質的な差異を生じさせてもよい。
【0249】
第4の実施形態によれば、確定したドットが一つもない状態においても、評価値による候補点の順位付けが可能となる。
【0250】
第3の実施形態に従属する第5の実施形態では、前記(3)、(4)の各処理において、各パスマスクの何れかにおいて、インク吐出可能画素が少なくとも一点、設定されている場合には、平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出してもよい。
【0251】
フィルタリングによるぼかし処理の後、輝度値の変化が大きいドットほど、注目画素から受ける影響が大きく、密の程度が高いと判定され、輝度値の変化が小さいドットほど、注目画素から受ける影響が小さく、疎の程度が高いと判定され得る。よって、フィルタリング後の輝度値の変化に着目して評価値を算出することで、その評価値を用いて、疎の度合いが高いドットを特定することができる。
【0252】
第3の実施形態に従属する第6の態様では、前記(4)の処理において、1つの点が、重複して抽出されている場合には、その重複回数に応じて、その点における疎/密の評価値を重み付けしてもよい。
【0253】
第6の実施形態では、抽出回数による重み付けが実施される。これによって、複数回の抽出がなされている点(ドット)は、より有力な候補点であると判定することができる。
【0254】
第5の実施形態に従属する第7の実施形態において、前記平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する処理は、既に設定されたインク吐出可能画素を含む仮のマスクパターンに対して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを用いてフィルタ処理を実施するステップと、フィルタ処理の結果毎に、疎/密の程度を示す一次評価値を求めるステップと、前記一次評価値に基づいて、総合的な疎/密の程度を示す総合評価値を算出し、算出された総合評価値を、前記疎/密の評価値とするステップと、を含む。
【0255】
第7の実施形態では、フィルタリング処理に際して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを使用する。
これにより、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても疎の度合いが高いと判定され得る候補点、言い換えれば、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても分散性が高く、規則性が生じにくい候補点を選ぶことができる。このことは、バンディングの抑制に貢献する。
【0256】
第8の実施形態において、パスマスクの生成方法は、印刷ヘッドとメディアとを、主走査方向、及び前記主走査方向に直交する副走査方向に、相対的に移動させながら、マルチパス方式によって前記メディアに所望の印刷を行うと共に、前記印刷ヘッドは、副走査方向に配列された、インクを吐出する所定数のノズルを含むノズル列を有し、各色のインクの各パス毎にパスマスクを設け、各パスマスクに設定されるインク吐出可能画素によって各色のインクの吐出位置を特定するインクジェットプリンタにおける、前記パスマスクの生成方法であって、(1)同一色のインクについての、複数のパス毎に設定される各パスマスクは、その各パスマスクを重ねると、その重なりに対応する範囲内のすべての画素がインク吐出可能画素となるという補完関係を前提とすることなく設計される、という基本方針の下で所定の領域を印刷するのに必要なパス数を含む印刷条件を設定するステップと、(2)各パスマスクに対して、副走査方向に、第1色~第m色(mは2以上の自然数)の各色成分の濃度分布を設定するステップと、(3)前記ノズル列の前記所定数のノズルが対応付けされ、前記濃度分布が設定される第1のマスクパターンの設計の場において、各パスマスクにおいて、インク吐出可能画素の一次候補点を設定し、各一次候補点について、疎/密の評価値を算出し、その疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが上位の二次候補点を抽出するステップと、(4)各色成分の二次元的な広がりを示すデータ構造をプレーンと称し、前記(1)のステップにて設定されたパス数をj(jは2以上の自然数)とする場合において、各色のプレーンにおける1パス目~jパス目に対応する前記二次候補点を、プレーン毎に設けられる第2のマスクパターン設計のための場に集約し、前記第2のマスクパターン設計の場における各二次候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが高い点を、各プレーンにおけるプレーン候補点として抽出するステップと、(5)前記各プレーンにおけるプレーン候補点を、各プレーンを統合した第3のマスクパターンの設計の場において集約し、前記第3のマスクパターンの設計の場における各プレーン候補点の疎/密の評価値を用いて、疎の度合いが最も高い点をインク吐出可能画素として特定するステップと、(6)前記(5)において特定されたインク吐出可能画素が、前記(3)における前記第1のマスクパターンの設計の場において、どのプレーンの、何パス目のパスマスクにおける、どの箇所に該当するかを特定し、その特定の際、該当する箇所が複数ある場合は、予め定められた所定条件に従って、該当箇所の一つを特定し、その特定されたインク吐出可能画素に関する情報を記憶するステップと、(7)前記(2)~(6)に記載される各処理を、各プレーンの、各パスに対応した各パスマスクにおける、必要なすべてのインク吐出可能画素が特定されるまで繰り返すと共に、前記(3)のステップを実施するに際しては、既にインク吐出可能画素が設定されたパスマスクについては、その設定されたインク吐出可能画素を除いて、必要な数の前記一次候補点を設定し、(8)前記(2)~(7)に記載される各処理の繰り返しが終了すると、記憶されているインク吐出可能画素に関する情報に基づいて、各色の各パスマスクにおけるマスクパターンを決定するステップと、を含む。
【0257】
第8の実施形態によれば、所定の濃度分布に従うマスクパターンであって、各色のプレーンにおいてバンディングが抑制され得る分散性を備え、かつ異なる色のプレーンが統合された場合においてもバンディングが抑制され得る分散性を備える、各色の各パスのパスマスクを、補完関係を前提とすることなく、より自由な条件の下で設計することが可能である。これによって、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現することができる。
【0258】
第8の実施形態に従属する第9の実施形態では、前記(3)、(4)、(5)の各処理において、各色の各パスマスクの何れにおいても、インク吐出可能画素が一点も設定されていない場合には、各点にランダムな評価値を付与することで、疎密の評価値に実質的な差異を生じさせてもよい。
【0259】
第9の実施形態によれば、確定したドットが一つもない状態においても、評価値による候補点の順位付けが可能となる。
【0260】
第8の実施形態に従属する第10の実施形態では、前記(3)、(4)、(5)の各処理において、各色の各パスマスクの何れかにおいて、インク吐出可能画素が少なくとも一点、設定されている場合には、平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出してもよい。
【0261】
フィルタリングによるぼかし処理の後、輝度値の変化が大きいドットほど、注目画素から受ける影響が大きく、密の程度が高いと判定され、輝度値の変化が小さいドットほど、注目画素から受ける影響が小さく、疎の程度が高いと判定され得る。よって、フィルタリング後の輝度値の変化に着目して評価値を算出することで、その評価値を用いて、疎の度合いが高いドットを特定することができる。
【0262】
第8の実施形態に従属する第11の実施形態では、前記(4)、(5)の各処理において、1つの点が、重複して抽出されている場合には、その重複回数に応じて、その点における疎/密の評価値を重み付けしてもよい。
【0263】
第11の実施形態では、抽出回数による重み付けが実施される。これによって、複数回の抽出がなされている点(ドット)は、より有力な候補点であると判定することが可能となる。
【0264】
第10の実施形態に従属する第12の実施形態では、前記平滑化フィルタを用いたフィルタリングの結果を用いて、疎/密の評価値を算出する処理は、既に設定されたインク吐出可能画素を含む仮のマスクパターンに対して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを用いてフィルタ処理を実施するステップと、フィルタ処理の結果毎に、疎/密の程度を示す一次評価値を求めるステップと、前記一次評価値に基づいて、総合的な疎/密の程度を示す総合評価値を算出し、算出された総合評価値を、前記疎/密の評価値とするステップと、を含んでもよい。
【0265】
第12の実施形態では、フィルタリング処理に際して、フィルタサイズが異なる複数の平滑化フィルタを使用する。
これにより、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても疎の度合いが高いと判定され得る候補点、言い換えれば、局所的な範囲、中程度の範囲、及び、広域の範囲の各々のいずれにおいても分散性が高く、規則性が生じにくい候補点を選ぶことができる。このことは、バンディングの抑制に貢献する。
【0266】
第13の実施形態において、マルチパス方式の印刷方法は、第3乃至第12の何れか1つの実施形態に記載のパスマスクの生成方法により生成された、パスマスクを用いて印刷データを生成し、生成された印刷データに基づいて、メディアに印刷を実施する。
【0267】
これにより、現状の技術の限界を破って、画質や印刷速度がさらに向上されたマルチパス方式の印刷方法が実現される。
【0268】
以上、説明したように、本発明によれば、マルチパス方式の印刷技術における現状の限界を破って、画質や印刷速度の、さらなる向上を実現することができる。
【0269】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0270】
3(3a~3d)・・・ノズル、10・・・コンピュータ本体、20・・・モニタ、21・・・パスマスク生成装置、22・・・パスマスク生成部、24・・・濃度分布に対応した各プレーンの一次候補点の生成部、25・・・確定したドットが無い場合の評価値算出部(ランダムに順位付け)、26・・一次候補点の評価値(ボイド値)算出部、27・・・確定したドットが有る場合の評価値算出部(複数の平滑化フィルタを用いて評価値算出)、28・・・評価値に基づく二次候補点の抽出部、29・・・二次候補点の集約、及び評価値に基づくプレーン候補点の生成部、31・・・プレーン統合フィールドにおける各プレーン候補点の集約部、32・・・操作部、33・・・評価値に基づく、最も疎の画素(ドット位置)の決定部、34・・・入力装置、35・・・情報取得部、36・・・パスマスク取得部、37・・・ドット位置記憶部、38・・・パスマスク作成部、39・・・パスマスク記憶部、42、43・・・フォルダ、50・・・制御部(プロセッサ)、51・・・プログラム記憶部、60・・・第1のプレーンのノズルマスクフィールド、61・・・第2のプレーンのノズルマスクフィールド、63・・・第1のプレーンのプレーンフィールド、65・・・第2のプレーンのプレーンフィールド、67・・・第mのプレーンのプレーンフィールド、69・・・プレーン統合フィールド、70・・・メディア、72・・・印刷画像、80・・・評価値算出装置、81・・・ドットパターン取得部、83・・・フィルタリングによる評価値算出部、100・・・インクジェットプリンタ(印刷装置)、110・・・制御部、111・・・マルチパス印刷制御部、112・・・マスク記憶部、113・・・各色用の、各パス毎のパスマスク、115・・・印刷処理部、117・・・印刷データ生成部、118・・・搬送処理部、119・・・キャリッジ駆動処理部、127・・・画像Aのデータ、130・・・印刷ヘッド(記録ヘッド)、132・・・搬送モータ、134・・・キャリッジモータ、136・・・エンコーダ、150・・・印刷システム、302・・・フィルタ部、304・・・フィルタ選択部、306・・・疎/密の評価値算出部、308・・・疎/密の総合評価値算出部、NC1、NC2、NM1、NM2、NY1、NY2、NK1、NK2・・・ノズル列、PM1~PM4・・・パスマスク(1パス目~4パス目のパスマスク)、RS・・・4パス(1パス目~4パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲、
RS’・・・4パス(5パス目~8パス目)でカバーされるマスクパターンの範囲、DT・・・ドット(画素)、DP1~DP4・・・マスクパターン(ドットパターン)、Q1~Q4・・・濃度分布を示す特性線、濃度カーブ。