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特開2024-8564アミノ酸および/または有機酸を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008564
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】アミノ酸および/または有機酸を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/04 20060101AFI20240112BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240112BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20240112BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20240112BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
C12P13/04
C12N15/31
C12P7/42
C12N1/13
C12N15/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110536
(22)【出願日】2022-07-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「ラン藻芳香族代謝工学技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
(72)【発明者】
【氏名】秀瀬 涼太
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大林 龍胆
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD01
4B064AD41
4B064AE03
4B064CA08
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC06
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA19Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB14
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC09
4B065BC11
4B065BC26
4B065BC48
4B065CA05
4B065CA17
4B065CA29
(57)【要約】
【課題】 アミノ酸および/または有機酸を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本開示は、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程を含む、方法を提供する。また本開示は、二酸化炭素を原料として、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、(a)二酸化炭素の存在下で、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程と、(b)工程(a)の培養液からアミノ酸および/または有機酸を得る工程とを含む、方法を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、
グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ppGpp合成酵素をコードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10に記載の方法によって製造されたアミノ酸を、p-クマル酸に変換する工程を含む、p-クマル酸を製造する方法。
【請求項12】
二酸化炭素を原料として、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、
(a)二酸化炭素の存在下で、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程と、
(b)工程(a)の培養液からアミノ酸および/または有機酸を得る工程と
を含む、方法。
【請求項13】
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ppGpp合成酵素コードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、請求項12~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項12~21のいずれか一項に記載の方法によって製造されたアミノ酸を、p-クマル酸に変換する工程を含む、p-クマル酸を製造する方法。
【請求項23】
二酸化炭素を原料として、アミノ酸含有またはアミノ酸ベースの化成品を製造する方法であって、
(a)二酸化炭素の存在下で、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程と、
(b)工程(a)の培養液からアミノ酸を得る工程と、
(c)該アミノ酸を原料として化成品を製造する工程と
を含む、方法。
【請求項24】
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ppGpp合成酵素コードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、請求項23~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、請求項23~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、請求項23~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記化成品は、バイオプラスチック原料、食品添加物、化粧品添加物、および/または細胞培養の栄養源を含む、請求項23~32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法に関する。より特定すると、本開示は、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を用いてアミノ酸および/または有機酸を製造する方法に関し、そのアミノ酸/または有機酸を原料として化成品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、アミノ酸を工業的に生産し、調味料、飼料、医薬品、サプリメントなど広く利用されている。このような工業的なアミノ酸の生成においては、代表的には、コリネ菌などの微生物を用いたアミノ酸の発酵生産が行われているが、炭素源としてグルコースなどの糖類を供給する必要があるため、その生産コストが高価なものとなっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を用いることで、様々なアミノ酸が細胞外に多く放出されることを見出した。この知見に基づき、本開示は、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を用いて、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法を提供する。
【0004】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、
グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程を含む、方法。
(項目2)
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、上記項目に記載の方法。
(項目3)
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記ppGpp合成酵素をコードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造されたアミノ酸を、p-クマル酸に変換する工程を含む、p-クマル酸を製造する方法。
(項目A1)
二酸化炭素を原料として、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、
(a)二酸化炭素の存在下で、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程と、
(b)工程(a)の培養液からアミノ酸および/または有機酸を得る工程と
を含む、方法。
(項目A2)
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A3)
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記ppGpp合成酵素コードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A11)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造されたアミノ酸を、p-クマル酸に変換する工程を含む、p-クマル酸を製造する方法。
(項目B1)
二酸化炭素を原料として、アミノ酸含有またはアミノ酸ベースの化成品を製造する方法であって、
(a)二酸化炭素の存在下で、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程と、
(b)工程(a)の培養液からアミノ酸を得る工程と、
(c)該アミノ酸を原料として化成品を製造する工程と
を含む、方法。
(項目B2)
前記ラン藻が、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B3)
前記ラン藻が、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B4)
前記グリコーゲン合成に寄与する酵素が、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)またはその類似酵素、およびグリコーゲンシンターゼ(GlgA)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B5)
前記グリコーゲン分解に寄与する酵素が、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)またはその類似酵素を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B6)
前記ラン藻が、ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を誘導発現可能なラン藻である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B7)
前記ppGpp合成酵素コードする遺伝子が、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のyjbM遺伝子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B8)
前記アミノ酸および/または有機酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B9)
前記アミノ酸および/または有機酸が、芳香族アミノ酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B10)
前記ラン藻が、炭素源として二酸化炭素を消費する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B11)
前記化成品は、バイオプラスチック原料、食品添加物、化粧品添加物、および/または細胞培養の栄養源を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
【0005】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0006】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ラン藻が光合成によってアミノ酸を生産し、様々なアミノ酸を細胞外に多く放出するため、従来のアミノ酸発酵法に比べて大幅に環境負荷が少ないアミノ酸生産システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ラン藻におけるグリコーゲン生合成経路を示す模式図である。
図2図2は、本開示の一実施形態における、グリコーゲン合成を不活性化したラン藻株の導入コンストラクトを示す模式図である。
図3図3は、本開示の一実施形態において、本開示のラン藻の培養方法を示す模式図である。
図4図4は、本開示の一実施形態におけるラン藻の細胞増殖とグリコーゲン蓄積量を示すグラフである。
図5図5は、本開示の一実施形態において、本開示のラン藻から排出されたアミノ酸量を示すグラフである。
図6図6は、本開示の一実施形態において、本開示のラン藻から排出されたアミノ酸量を示すグラフである。
図7図7は、本開示の一実施形態において、本開示のラン藻から排出された有機酸量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
本明細書において、「アミノ酸」とは、広義に解釈され、1分子内にアミノ基(-NH)とカルボキシ基(-COOH)とを有する化合物をいう。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」には、アミノ基(NH)とカルボキシル基(COOH)とを有する有機化合物が、塩の形態であるもの、アミノ基および/またはカルボキシル基が結合(例えば、アミド結合、エステル結合)に利用されているもの(例えば、タンパク質中のもの)、およびアミノ基に替えてイミノ基を含むもの(例えば、プロリン)が含まれる。ある実施形態においては、「アミノ酸」は、アミノ基およびカルボキシル基が同一の炭素原子に結合する、α-アミノ酸であってもよい。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」としては、生物内で見られるタンパク質を主に構成するアミノ酸(アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン)が包含される。アミノ酸は、側鎖の種類に基づいて分類することが可能であり、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性アミノ酸(アスパラギン、アラニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、システイン、スレオニン、セリン、チロシン、フェニルアラニン、プロリン、バリン、メチオニン、ロイシン)、芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)、および含硫アミノ酸(システイン、メチオニン)等が挙げられる。本開示のアミノ酸は、天然のアミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と同様の形で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体も包含する。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基などを有する化合物を指す。このような類似体は、修飾R基(例えば、ノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持する。アミノ酸模倣体とは、アミノ酸の一般的な化学構造と異なる構造を有するが、天然のアミノ酸と同様の形で機能する化学化合物を指す。
【0013】
本明細書において、「芳香族アミノ酸」とは、芳香環及び芳香族複素環を有する疎水性アミノ酸を意味する。芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン等が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物の総称である。「有機酸」には、カルボキシ基を有するカルボン酸、およびスルホ基を有するスルホン酸が包含される。カルボン酸は、分子内のカルボキシ基の数によってさらに分類され、モノカルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、キナ酸等)、ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸等)、トリカルボン酸(例えば、クエン酸、アコニット酸等)等が挙げられる。さらにカルボン酸には、単糖の酸素基がカルボン酸に置換された化合物である、糖酸(例えば、アスコルビン酸、グルコン酸、グルクロン酸、酒石酸等)も包含される。
【0015】
本明細書において、「減少」とは、広義に解釈され、対象となる任意の分子、物質、化合物、組成物、またはそれらの活性が、より少ない量をもたらす任意の負の変化を意味する。例えば、「減少」は、天然の状態または何等かの処理または改変などが施される前よりも少なくなるような変化を含む。「減少」は統計的に有意な量でのいかなる減少を含み、個別の値、中央値、または平均値の減少も含む。したがって、減少は、その減少が統計的に有意である限り、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、または約100%の減少を含む。
【0016】
本明細書において、「酵素活性」とは、広義に解釈され、酵素によって及ぼされる触媒効果を意味する。本明細書において「酵素活性」の変化という場合には、酵素やタンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)に起因する酵素の触媒効果の変化も含む。
【0017】
本明細書において、「抑制」または「欠損」とは、遺伝子発現(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能が、天然の状態または改変前よりも低下していることをいい、酵素活性の抑制または欠損とは、酵素をコードする遺伝子の発現レベル(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能が低下していることをいう。
【0018】
本明細書において、「亢進」とは、遺伝子発現(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能が、天然の状態または改変前よりも増加していることをいい、酵素活性の亢進とは、酵素をコードする遺伝子の発現レベル(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能が増加していることをいう。
【0019】
本明細書において、「改変」とは、細胞内のDNAに塩基配列を挿入すること、または細胞内のDNAの塩基配列を一部欠失すること、またはそれらの組み合わせをいう。
【0020】
本明細書において、「改変生物」とは、基準生物に対して、生物におけるDNAの塩基配列が改変した生物をいう。基準生物としては、天然に存在する生物や、改変した結果はじめて当該生物として認識される生物などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0021】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「DNA」を指すことがある。遺伝子は、対象となる生物において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、対象となる生物以外の他の種の生物、他の属の生物に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などの生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。これらの遺伝子は、各活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換、挿入若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
【0022】
本明細書において、遺伝子の「導入」とは、外来性もしくは内在性の遺伝子、好ましくは機能遺伝子を適宜の導入技術により、その遺伝子を、例えば染色体ゲノム等に導入することをいう。遺伝子の導入には、ファージ、プラスミドなどのベクターを用いて遺伝子を導入することができ、また、自然形質転換法、接合法、プロトプラスト-PEG法やエレクトロポレーション法なども用いることができる。また、当該分野で公知の標的遺伝子組換え法を利用すれば、内在性の機能遺伝子と置換させることによって外来性の機能遺伝子を導入することもできる。なお、外来性の機能遺伝子は、その生物の染色体ゲノムに元来存在しない遺伝子であり、他の生物種由来の遺伝子やPCR等で作製した合成遺伝子等でありうる。遺伝子の導入には、既存のゲノムに対してゲノム編集を行うことで所望の遺伝子に変換することも包含される。
【0023】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0024】
本開示の一局面において、アミノ酸および/または有機酸を製造する方法であって、グリコーゲン含有量が減少したラン藻を培養する工程を含む、方法が提供される。
【0025】
一実施形態において、本開示の方法において、ラン藻の培養は、光栄養条件下または光独立栄養条件下での培養を含む。光栄養条件とは、一般的な意味で使用され、生物が光合成によって二酸化炭素を炭素源として有機物を生産し、生育する条件をいう。光独立栄養条件とは、一般的な意味で使用され、生物が光合成によって二酸化炭素のみを炭素源として有機物を生産し、生育する条件をいう。したがって、本開示の一実施形態において、本開示の方法に用いるラン藻は、炭素源として二酸化炭素を消費するものとすることができる。光栄養条件下の光照射条件は自然光または人工光のいずれであってもよく、その強さは、水性媒体中の藻体密度および培養槽の深さ等によって、適宜調節することができる。例えば、30~2000μmol photons/m/s、好ましくは、30~1000μmol photons/m/s、より好ましくは、50~600μmol photons/m/sの自然光または人工光が用いられ得る。上記範囲であると、ラン藻が光合成を行って順調に増殖し得る。光照射は、連続的であっても周期的であってもよい。屋外の大規模培養については、コストを最小限にし、かつ人工照明の追加費用を回避するために、太陽光のみを光源として用いて、それにより昼夜周期が存在してもよい。
【0026】
培地としては、種培養および/または本培養に使用可能な水溶液であればよく、後述するように窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。具体的には、ラン藻の種類に応じて、水性媒体として人工または天然の海水、あるいは淡水(例えば、蒸留水)を用いてもよい。例えば、BG-11培地(J Gen Microbiol 111: 1-61 (1979));HSM培地及びTAP培地(低温科学,67:17-21(2009))、Cramer-Myers培地(CM培地)等を使用することができる。
【0027】
一実施形態において、本開示の方法において用いるラン藻は、炭素源として二酸化炭素のみを消費して培養することができるため、培地にラクトースやグルコースなどの有機原料を添加する必要はない。
【0028】
一実施形態において、本開示のラン藻の培養温度は、通常約15~約40℃、好ましくは約20~約37℃であり、より好ましくは約25℃~約35℃である。水性媒体のpHは、ラン藻の増殖に適した任意のpH、例えば、pH約5~約10、好ましくは、pH約6~約9、より好ましくは、pH約6~約8に調整することができる。pHは、二酸化炭素、塩酸、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどを添加することによって適宜調整することができる。
【0029】
本開示のアミノ酸および/または有機酸の製造方法に関し、本開示の方法に用いるラン藻は予め前培養等することができる。例えば、(1)前々培養、(2)前培養、(3)本培養等のステップを経て培養することができる。いずれの培養段階においても、通気培養を行うことができる。通気培養のために、空気や二酸化炭素を混合した空気を水性媒体に通気することができる。培養期間としては、(1)前々培養では、約4日~約10日、好ましくは約4日~約7日、より好ましくは約5日~約6日(OD750が約1.5~約2.0)、(2)前培養では、約3日~約10日、好ましくは約3日~約6日、より好ましくは約4日~約5日(OD750が約1.5~約2.0)、(3)本培養では、約1日~約20日、好ましくは約4日~約16日、より好ましくは約8日~約14日(OD750が約3~約10)、である。
【0030】
一実施形態において、後述のとおり、グアノシン4リン酸(ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子の発現を促進させたラン藻を用いる場合には、ppGpp合成の誘導を開始するタイミングは、本培養を開始した後、例えば、約48時間(約2日)~約120時間(約5日)の間、より好ましくは約72時間(約3日)~約96時間(約4日)の間とすることができる。
【0031】
上記のような培養を行うことにより、本開示の方法において用いるラン藻から水性媒体中にアミノ酸および/または有機酸が放出される。また一実施形態において、ppGpp合成酵素として、ppGppの合成活性のみを有し、その分解はほとんど触媒しない酵素(例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のYjbMなど)を用いることで、細胞内ppGpp濃度の上昇を介して細胞外に放出されるアミノ酸および/または有機酸を増やすことができる。
【0032】
一実施形態において、ラン藻には様々なラン藻を用いることができる。ラン藻(シアノバクテリア)とは、典型的には単細胞原核生物であって酸素発生型光合成を行うものであり、クロオコッカス目、ネンジュモ目、ユレモ目、プレウロカプサ目、スティゴネマ目等に分類することができる。クロオコッカス目には、アファノカプサ属、アファノテーケ属、カマエシフォン属、クロオコッカス属、クロコスフェラ属、シアノバクテリア属、シアノビウム属、シアノテーケ属、ダクティロコッコプシス属、グロエオバクター属、グロエオカプサ属、グロエオテーケ属、エウハロテーケ属、ハロテーケ属、ヨハネスバプティスチア属、メリスモペディア属、ミクロシスティス属、ラブドデルマ属、シネココッカス属、シネコシスティス属、テルモシネココッカス属等が含まれる。ネンジュモ目には、コレオデスミウム属、フレミエラ属、ミクロケーテ属、レキシア属、スピリレスティス属、トリポスリックス属、アナベナ属、アナベノプシス属、アファニゾメノン属、アウロシラ属、シアノスピラ属、シリンドロスペルモプシス属、シリンドロスペルムム属、ノデュラリア属、ネンジュモ属、リケリア属、カロスリックス属、グロエオトリキア属、スキトネマ属等が含まれる。ユレモ目には、アルスロスピラ属、ゲイトレリネマ属、ハロミクロネマ属、ハロスピルリナ属、カタグニメネ属、レプトリンビャ属、リムノスリックス属、リンビャ属、ミクロコレウス属、ユレモ属、フォルミディウム属、プランクトトリコイデス属、プランクトスリックス属、プレクトネマ属、リムノスリックス属、シュードアナベナ属、スキゾスリックス属、スピルリナ属、シンプロカ属、トリコデスミウム属、チコネマ属等が含まれる。プレウロカプサ目には、クロオコッキディオプシス属、デルモカルパ属、デルモカルペラ属、ミクソサルキナ属、プレウロカプサ属、スタニエリア属、およびキセノコッカス属等が含まれる。スティゴネマ目には、カプソシラ属、クロログロエオプシス属、フィッシェレラ属、ハパロシフォン属、マスチゴクラドプシス属、マスチゴクラドゥス属、ノストクホプシス属、スティゴネマ属、シンフィオネマ属、シンフィオネモプシス属、ウメザキア属、ウェスティエロプシス属等が含まれる。
【0033】
一実施形態において、本開示の方法において用いるラン藻は、同条件で生育した野生型のラン藻と比較して、グリコーゲン含有量が減少するよう遺伝的に改変されているものとすることができる。そのようなラン藻としては、グリコーゲン合成酵素などのグリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解酵素などのグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を挙げることができる。
【0034】
ラン藻におけるグリコーゲンは、図1のラン藻のグリコーゲン生合成経路に示されるように、二酸化炭素からカルビン回路(CBB回路)を経由して合成されるグルコース-1-リン酸がGlgC、GlgA、およびGlgBなどの各酵素によって触媒されて生成される。したがって、本開示の一実施形態において、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)をコードするglgC、グリコーゲンシンターゼ(GlgA)をコードするglgAなどのグリコーゲン合成に寄与する遺伝子を欠損させたラン藻株を作出し、光栄養条件下で培養することにより、アミノ酸および/または有機酸を製造することができる。
【0035】
一実施形態において、グリコーゲン合成に寄与する酵素としては、GlgCやGlgAに加えて、これらと同等の役割を担う類似酵素を含むことができる。
【0036】
図1のラン藻のグリコーゲン生合成経路に示されるように、ラン藻において、カルビン回路(CBB回路)由来のグルコース-1-リン酸から生合成されたグリコーゲンは、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)によってグルコース-1-リン酸に分解される。したがって、一実施形態において、グリコーゲンホスホリラーゼ(GlgP)をコードするglgPなどのグリコーゲン分解に寄与する遺伝子を高発現させたラン藻株を作出し、光栄養条件下で培養することにより、アミノ酸および/または有機酸を製造することができる。
【0037】
一実施形態において、グリコーゲン分解に寄与する酵素としては、GlgPに加えて、その酵素活性と同等の役割を担う類似酵素を含むことができる。GlgPの類似酵素は、GlgPと同等の機能を有する遺伝子によって産生される酵素であればよい。
【0038】
一実施形態において、本開示のGlgPは、その酵素活性が保持される限り、該酵素のアミノ酸配列との同一性が約80%以上のアミノ酸配列を含むあるいはからなるタンパク質であってもよく、約85%以上が好ましく、約90%以上がより好ましく、約95%以上がさらに好ましく、約99%以上がさらに一層好ましい。
【0039】
また、本開示のGlgPは、その酵素活性が保持される限り、該酵素のアミノ酸配列中の1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列に、1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列に1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列中の1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又はそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含む、あるいはそれらのアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。性質の似たアミノ酸(例:グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、さらに多くの個数の置換等があり得る。
【0040】
一実施形態において、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻、および/またはグリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を作製する場合には、対象となる酵素をコードする遺伝子に変異を導入する方法や、対象となる酵素をコードする塩基配列を他の塩基配列で置換する方法、同種もしくは異種由来の塩基配列を新たに導入する方法などが挙げられる。酵素遺伝子に変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCR反応を利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用してもよい。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
【0041】
一実施形態において、グリコーゲン合成に寄与する酵素活性が抑制または欠損したラン藻を作製する場合には、GlgCやGlgAなどのグリコーゲン合成に寄与する酵素をコードする塩基配列を、ゲンタマイシンなどの薬剤耐性遺伝子で置換することもできる。
【0042】
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本開示においても、グリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を作製する場合に、グリコーゲン分解能が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0043】
一実施形態において、グリコーゲン分解に寄与する酵素活性が亢進したラン藻を作製する場合には、公知の種々の遺伝子工学的手法を用いて形質転換体を作製することができ、目的の酵素活性を達成し得るものであれば特に方法は限られないが、例えば、(1)遺伝子改変の対象となる宿主ラン藻がもともと持っているglgP遺伝子を別のゲノム部位に導入し、より強いプロモーターで発現させる、(2)遺伝子改変の対象となる宿主ラン藻がもともと持っているglgP遺伝子を、酵素活性を強化するような変異を導入したうえで、別のゲノム部位に導入してより強いプロモーターで発現させる、または宿主ラン藻のもともとのglgP遺伝子と置換する、(3)異種生物に由来する酵素活性の強いグリコーゲンホスホリラーゼの遺伝子をゲノムに導入し、強いプロモーターで発現させる、などの方法を採用することもできる。
【0044】
他の実施形態において、glgP遺伝子や、後述するppGpp合成酵素をコードする遺伝子の発現を促進させる方法としては、例えば、上記遺伝子を宿主ラン藻に導入する方法、上記遺伝子をゲノム上に有する宿主ラン藻において、当該遺伝子の発現調節領域(プロモーター、ターミネーター等)を改変する方法などが挙げられる。また、該方法により複数の上記遺伝子を宿主ラン藻に導入してもよく、複数の上記遺伝子の発現調節領域を改変してもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0045】
本明細書において、目的のタンパク質の酵素活性を抑制または欠損したラン藻、目的のタンパク質の酵素活性が亢進したラン藻、または目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させ、あるいは欠損させたラン藻など、遺伝的改変を伴って作出された細胞を「形質転換体」ともいい、遺伝的改変の対象となった細胞を「宿主」、その生物種本来の遺伝子型を持つ細胞を「野生株」ともいう。遺伝的改変においては、野生株だけではなく形質転換体も宿主となりうる。本開示の目的のタンパク質の酵素活性を抑制、欠損、または亢進したラン藻の形質転換体は、本開示のアミノ酸および/または有機酸の製造方法や、p-クマル酸の製造方法に好ましく用いることができる。また、本開示の目的のタンパク質の酵素活性を抑制、欠損、または亢進したラン藻の形質転換体は、1又は複数種の目的のタンパク質の酵素活性を亢進させたラン藻であってもよく、更に他の目的のタンパク質の酵素活性を抑制、または欠損させたものであってもよい。
【0046】
一実施形態において、上記のような形質転換体は、目的の遺伝子を公知の方法によって宿主に導入することで得ることができる。具体的には、目的の遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる組換えベクターや遺伝子発現カセット、目的遺伝子を標的とするゲノム編集コンストラクトやRNAiコンストラクトなどを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製し得る。本開示の目的のタンパク質の酵素活性を抑制または欠損したラン藻、目的のタンパク質の酵素活性が亢進したラン藻、または目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させ、あるいは欠損させたラン藻などの宿主としては、上述したようなラン藻の中から適宜選択することができる。
【0047】
遺伝子発現用プラスミドベクター又は遺伝子発現カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で当該遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、導入する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の複製開始点を有して染色体外で自律複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
【0048】
本開示で用いることができる発現ベクターとしては、具体的には、例えば、pBluescript(pBS)系ベクター(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベ
クター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(メルク社製)、pGEX系ベクター(サイティバ社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(AmericanType Culture Collection)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(Stratagene社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。
【0049】
また、上記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本開示で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、Rubiscoオペロン(rbc)プロモーター、PSI反応中心タンパク質(psaAB)プロモーター、PSIIのD1タンパク質(psbA)プロモーター、c-phycocyaninβサブユニット(cpcB)プロモーター、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子(例えば、チューブリン、アクチン、ユビキチン等の遺伝子)プロモーターが挙げられる。
【0050】
また、目的の形質が得られたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本開示で用いることができる選択マーカーとしては、例えば、ゲンタマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する選択マーカーも使用することもできる。
【0051】
目的のタンパク質をコードする遺伝子のベクターへの導入は、ライゲーション等の常法により行うことができる。また、導入する遺伝子は宿主微細藻におけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。
【0052】
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて、公知の種々の方法より適宜選択することができる。例えば、自然形質転換法、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法、及び接合法が挙げられる。
【0053】
宿主のラン藻に導入した目的遺伝子は、相同組換え等によりラン藻のゲノムに組み込まれていることが好ましい。当該目的遺伝子が組み込まれるゲノム上の位置は適宜設定することができる。
【0054】
目的遺伝子を含むDNA断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用して行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
【0055】
上記の目的遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、前記遺伝子の発現を促進させる方法については、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0056】
「発現調節領域」とは、プロモーターやオペレーター、ターミネーターなどを示し、これらの配列は一般に近接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に上記の目的遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して当該遺伝子の発現を促進させることで、GlgPやppGpp合成酵素等の遺伝子発現を促進させることができる。
【0057】
発現調節領域の改変方法としては、例えば、プロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に上記の各種目的の遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、当該各種の目的遺伝子の発現を促進させることができる。
【0058】
上述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの公知の種々の方法に従って行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片に置換され、プロモーターを改変することができる。このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Besher et al.,Methods in molecular biology,1995,vol.47,p.291-302等の文献を参考に行うことができる。
【0059】
一実施形態において、本開示の方法によって製造されるアミノ酸および/または有機酸は、ラン藻が生合成できるアミノ酸および/または有機酸であれば特に限られないが、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸などを挙げることができる。一実施形態において、本開示の方法によって製造されるアミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどの芳香族アミノ酸を挙げることができる。
【0060】
アミノ酸の代謝経路は例えば、以下のようなものがあり得る。
例えば、芳香族アミノ酸はシキミ酸経路を介して合成される。シキミ酸経路では、ホスホエノールピルビン酸とエリスロース-4-リン酸を縮合して3-デオキシ-D-アラビノ-へプツロソン-7-リンを合成する反応から始まって、コリスミ酸が合成される。そして、コリスミ酸を基質とし、芳香族アミノ酸のフェニルアラニン、チロシンとトリプトファンが合成される。シキミ酸経路を制御すると全ての芳香族アミノ酸、およびこの経路に係わる二次代謝産物も制御される。芳香族アミノ酸合成経路の酵素群は、エリトロース4-リン酸からの芳香族アミノ酸の生合成を触媒する。芳香族アミノ酸合成経路には、ペントースリン酸経路で生合成されたエリトロース4-リン酸からコリスミ酸を経てチロシンやフェニルアラニン、トリプトファン等の芳香族アミノ酸を生合成する酵素群が含まれる。また、ピルビン酸カルボキシラーゼ(例えば、PYC1、PYC2など)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からオキサロ酢酸を生合成する酵素である。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDA1)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からアセチルCoAを合成する複合酵素である。一般に、芳香族アミノ酸合成経路遺伝子として、酵母におけるARO1、ARO2、ARO3、ARO4、ARO7,ARO8,ARO9、TYR1、PHA2、TRP2、TRP3、TRP4、TRP1、TRP3、TRP5などと同様の役割を担う遺伝子が存在しているが、これらのうちARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、TRP5を増強対象とすることが好ましい。
【0061】
コハク酸や2-オキソグルタル酸の合成や代謝に関する経路、またそれらを触媒する酵素などについては、例えば、Nature Catalysis 2, 18-33 (2019)に例示される。
【0062】
またその他のアミノ酸および/または有機酸の合成や代謝に関する経路、またそれらを触媒する酵素などについては、例えば、Eukaryot Cell. 2006 Feb; 5(2): 272-276.、Current Opinion in Microbiology 32, 151-158 (2016)、Annual Review of Plant Biology 67, 153-78 (2016)、Pest Management Science 76(12), 3896-3904 (2020)などに例示されており、一実施形態において、本開示の方法に用いるラン藻は、これらの合成や代謝などができるような改変がなされていてもよい。
【0063】
またラン藻でのL-乳酸からのグルタミン酸からの合成は、L-乳酸をNAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼによってピルビン酸に変換し、ピルビン酸からグルタミン酸に変換する。このような経路は例えば、PLoS One 9(7), e103380 (2014)などに例示されており、一実施形態において、本開示の方法に用いるラン藻は、これらの合成や代謝などができるような改変がなされていてもよい。
【0064】
本開示の他の局面において、上記のような方法によって製造されたアミノ酸を、p-クマル酸に変換する工程を含む、p-クマル酸を製造する方法が提供される。
【0065】
本開示のp-クマル酸の製造方法に関し、該方法は、上述の本開示のアミノ酸および/または有機酸の製造方法により水性媒体中に放出されたアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸を、当該水性媒体中で、p-クマル酸に直接変換してもよい。当該変換は、例えば、芳香族アミノ酸を基質として、p-クマル酸またはその前駆体を生成する反応を触媒する酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ、trans-ケイ皮酸-4-モノオキシゲナーゼ、チロシンアンモニアリアーゼなどをコードする遺伝子をラン藻に導入することで行ってもよく、あるいは水性媒体中に芳香族アミノ酸からp-クマル酸の変換に関与する酵素(例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、trans-ケイ皮酸-4-モノオキシゲナーゼ、チロシンアンモニアリアーゼなど)を添加することで行ってもよい。一般にp-クマル酸のようなフェノール性化合物は、ラン藻の生育を阻害する物質として知られており、上記のように水性媒体中で芳香族アミノ酸などのアミノ酸をp-クマル酸に直接変換した場合、当該変換が進むにつれ、通常であれば、変換効率等が低下する。一実施形態において、本開示の方法に用いるラン藻は、グアノシン4リン酸(ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子の発現を促進させたラン藻とすることができる。これにより、ppGppをラン藻細胞中に蓄積させる方法を採用した場合、ラン藻のp-クマル酸への耐性を向上させることができ、ひいては変換効率の低下の回避に繋がるという効果を得ることができる。
【0066】
一実施形態において、本開示のアミノ酸および/または有機酸の製造方法により製造されたアミノ酸および/または有機酸を回収、精製等し、例えば、上記のような芳香族アミノ酸からp-クマル酸の変換に関与する酵素を用いて、別途変換することもできる。
【0067】
ppGpp合成酵素としては、GDP(又はGTP)を基質とし、ppGpp(又はpppGpp)を合成する酵素であれば特に限定されないが、ppGpp(又はpppGpp)の合成活性のみを有するものが好ましい。ppGppの合成活性のみを有し、その分解はほとんど触媒しない酵素を用いることで、細胞内ppGpp濃度の上昇を介してアミノ酸放出を増やすことができる。具体的には、そのような酵素としては、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のYjbM等のppGpp合成酵素が挙げられる。
【0068】
一実施形態において、本開示のppGpp合成酵素は、その酵素活性が保持される限り、該酵素のアミノ酸配列との同一性が約80%以上のアミノ酸配列を含むあるいはからなるタンパク質であってもよく、約85%以上が好ましく、約90%以上がより好ましく、約95%以上がさらに好ましく、約99%以上がさらに一層好ましい。
【0069】
また、本発明のppGpp合成酵素は、その酵素活性が保持される限り、該酵素のアミノ酸配列中の1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列に、1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列に1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、該酵素のアミノ酸配列中の1~約20個、好ましくは1~約10個、より好ましくは1~数(5、4、3若しくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又はそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含む、あるいはそれらのアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。性質の似たアミノ酸(例:グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、さらに多くの個数の置換等があり得る。
【0070】
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)としては、L-フェニルアラニンを基質とし、trans-ケイ皮酸とアンモニアを生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、EC 4.3.1.24、EC 4.3.1.25の酵素等が挙げられる。
【0071】
trans-ケイ皮酸-4-モノオキシゲナーゼ(C4H)としては、trans-ケイ皮酸を基質として、4-ヒドロキシケイ皮酸(p-クマル酸)を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、EC 1.14.13.11の酵素等が挙げられる。
【0072】
チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)としては、L-チロシンをp-クマル酸に変換する反応を触媒する酵素であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、EC 4.3.1.23、EC 4.3.1.25が挙げられる。
【0073】
p-クマル酸への変換において、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、trans-ケイ皮酸-4-モノオキシゲナーゼ、チロシンアンモニアリアーゼ等をコードする遺伝子の発現が促進されたラン藻を用いる場合、ラン藻に対してこれらの遺伝子を導入することでラン藻細胞内において芳香族アミノ酸をp-クマル酸に変換する、および/またはラン藻を培養する間に、水性媒体中に放出された芳香族アミノ酸をp-クマル酸に変換することもできる。
【0074】
本開示の方法によって生産されたアミノ酸、有機酸、またはp-クマル酸は、必要に応じて、水性媒体から、種々の公知の分離、精製方法により分離、精製することができる。具体的には、限外ろ過膜分離、遠心分離、濃縮等によりラン藻、及びその産生物と分離した後、カラム法、晶析法等の公知の方法で精製し、乾燥させることにより、結晶として採取する方法等が挙げられる。
【0075】
本開示の一実施形態において、本開示の製造方法により製造されるp-クマル酸は、芳香族系ポリマーの原料として利用することができる。
【0076】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0077】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0078】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「いずれか1つ」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0079】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0080】
(実施例1:形質転換体の作製)
ラン藻Synechococcus elongates PCC 7942を用いて以下の形質転換体を作製した。glgC(グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ)遺伝子の欠損株では、図2に示すコンストラクトのように、ゲンタマイシン耐性カセットを用いた。
【0081】
まずこのコンストラクトを保持するプラスミドを用意し、このプラスミドを導入した大腸菌を振盪培養した(培養条件:50mL LB/200mLフラスコ×3本,37℃,160rpm,o/n)。大腸菌からNucleoBond(登録商標)Xtra Midiキットを用いてプラスミドを抽出し、DNA濃度が1μg/μL以上であることをNanoDropで確認した。
【0082】
続いて、使用するラン藻をバイオトロンインキュベーター内でOD750=1.0程度となるまで4~5日間振盪培養した(培養条件:70mL BG-11/リム付き200mL三角フラスコ,50~70μmol/m/s, 30℃, 100rpm,初期OD750=0.1)。ラン藻培養液を1.5mLチューブ3本に100μLずつ分注し、このチューブに1μg以上(例えば3μg,5μg)のプラスミドを添加してピペッティングでよく混合した。このチューブをアルミホイルで包み、ローテーターでゆっくり攪拌しながら24時間室温でインキュベートした。アルミホイルを外して30分間実験台上で静置した後、BG-11寒天培地に置いたメンブレン上に細胞懸濁液の全量を播種した。
【0083】
バイオトロンインキュベーター内で3日間静置培養し(培養条件:50~70μmol/m/s,30℃)、メンブレンをゲンタマイシン入りのBG-11寒天プレートに移動させた。バイオトロンインキュベーター内でコロニーが出現するまで静置培養し(培養条件:50~70μmol/m/s,30℃)、コロニーを単離してバイオトロンインキュベーター内で増殖が見られるまで振盪培養した(培養条件:ゲンタマイシン入り6mL BG-11/6ウェルプレート,50~70μmol/m/s,30℃,100rpm)。PCRによりセグリゲーションチェックを行った。
【0084】
(実施例2:ラン藻の培養)
ラン藻としては、Synechococcus elongates PCC 7942、Synechococcus elongates PCC 7942のglgC欠損株、およびSynechococcus elongates PCC 7942のglgC欠損およびyjbM発現誘導株の計3株を用いた。
【0085】
まず前々培養として、ラン藻の凍結ストックを解凍し、以下の条件でOD750=1.5~2.0程度まで培養し(1週間程度)、その後、OD750=0.1となるように継代した(N=1)。続いて、前培養として、以下の条件でOD750=1.5~2.0となるまで培養(4日間程度)し、OD750=0.1となるように継代した(N=3)。さらに本培養として、以下の条件で10日間培養した。本培養では図3に示す二段式フラスコを用いた。yjbM遺伝子の発現を誘導する場合には、培養3日目に終濃度1mMでIPTGを添加した。
【0086】
培養条件
[前々培養]
培地:70mL BG-11/200mL三角フラスコ
CO濃度:(供給なし)
光条件:~50μmol photons/m/s昼白色蛍光灯
温度:30℃
震盪:100rpm
【0087】
[前培養]
培地:150mL BG-11/500mL三角フラスコ
CO濃度:(供給なし)
光条件:~50μmol photons/m/s昼白色蛍光灯
温度:30℃
震盪:100rpm
【0088】
[本培養]
培地:70mL BG-11/二段式フラスコ
CO濃度:1%
光条件:110~120μmol photons/m/s昼白色蛍光灯
温度:30℃
震盪:100rpm
【0089】
(実施例3:グリコーゲン測定)
実施例2で培養した各ラン藻のグリコーゲン量を測定した。
【0090】
<抽出>
乾燥菌体5mg DWをエッペンチューブに測りとり、30% KOH(w/v) 100μLを添加して90℃で90分間加熱し、その後氷上で冷却した。数分置いて冷却させたのち、300μL 氷冷EtOHを添加し、ボルテックスで攪拌した。1時間静置したのち、遠心分離した(4℃,5000g,5分)。デカンテーションにより上澄みを捨て、氷冷EtOH 300μLを添加したのち、遠心分離した(4℃,10000g,5分)。さらにチップを用いて丁寧に上澄みを捨て、氷冷EtOH 300μLを添加したのち、遠心分離した(4℃,14000g,10分)。さらにチップを用いて丁寧に上澄みを捨て、80℃乾熱器で蓋を開けて30分乾燥させ、-30℃で保管した。
【0091】
<加水分解>
乾固済みのグリコーゲン抽出物にMilliQ水を100μL添加し、マキシマイザーで1800rpm、25℃で10分間振とうした。これをグリコーゲン抽出液とする。振とう後、14,000g、25℃で5分間遠心分離し、このときマキシマイザーを50℃に設定しておく。ロック付の2mLエッペンチューブ(エッペンドルフ製)に、以下の表の試薬を上から順に入れ、混ざる程度に軽くピペッティングした。
【表1】
【0092】
マキシマイザーが50℃になったらサンプルを入れ、200rpmでゆっくり2h振とうして反応させた。このときヒーターを95℃にセットしてスイッチを入れておき、反応終了後、95℃、20分で処理して酵素を失活させた。加熱処理後、サンプルを取り出して室温まで冷ました。14,000g、4℃で5分間遠心分離し、上清をHPLCで分析した。結果を図4に示した。ΔglgC株ではグリコーゲン蓄積が完全になくなっていた。
【0093】
(実施例4:メタボローム解析)
実施例1で作製した形質転換体を用いて、メタボローム解析を行った。培養した各ラン藻の上清500μLにice coldのCHClを500μL添加し、ボルテックスした。遠心分離を行い(4℃、14000g、5min)、上相400μLをアミコンウルトラのフィルター付チューブに移し、さらに遠心した(4℃、14000g、90min)。フィルターを通った液の248μLを別のエッペンに移し、100mM-PIPES、100 mM-Methionine sulfoneをそれぞれ1μL添加した。よくボルテックスして混合し、-80℃で保管し、CE-TOFMSで分析した。結果を図5~7に示した。この結果から、グルタミン酸をはじめとして、チロシン、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、トレオニンを含む多様なアミノ酸が細胞外に多く排出されていることを見出した。またピルビン酸や2-オキソグルタル酸の増加に加えて、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、およびフマル酸についても細胞外濃度の増加が見られた。またこれらのうち、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン以外についてはyjbM遺伝子の発現を誘導することでさらに濃度の増加が見られた。
【0094】
(実施例5:GlgPの活性亢進の例)
他種生物(Corynebacterium callunaeなど)由来の高活性なグリコーゲンホスホリラーゼ遺伝子をtrcプロモーターの下流に繋いだコンストラクトを用意し、ラン藻Synechococcus elongates PCC 7942のゲノムに導入する。
形質転換は実施例1と同様に行う。実施例2と同様の条件において、IPTG添加によりグリコーゲンホスホリラーゼの発現を誘導しながら培養を行う。培養液上清を回収し、実施例4と同様のメタボローム解析により細胞外に放出されたアミノ酸を測定する。
以上により、グリコーゲンホスホリラーゼの活性を亢進した場合にも各種アミノ酸などが増加していることを確認することができる。
【0095】
(実施例6:GlgAの活性抑制の例)
ラン藻Synechococcus elongates PCC 7942のglgA遺伝子(Synpcc7942_2518)上にゲンタマイシン耐性カセットを導入することでglgA欠損株を作製する。
形質転換は実施例1と同様に行う。実施例2と同様の条件においてglgA欠損株の培養を行う。培養液上清を回収し、実施例4と同様のメタボローム解析により細胞外に放出されたアミノ酸を測定する。
以上により、グリコーゲン合成に寄与する酵素の活性を抑制した場合にも各種アミノ酸などが増加していることを確認することができる。
【0096】
(実施例7:アミノ酸および/または有機酸の回収例)
培養液から遠心操作によって細胞を除去したのち、適切なイオン交換樹脂、および/または沈澱剤を用いてアミノ酸を回収することができる。これにより、実施例1~6のようにして製造したアミノ酸や有機酸を回収する。
【0097】
(実施例8:p-クマル酸の製造)
アミノ酸を生産するラン藻に対してチロシンアンモニアリアーゼ遺伝子を導入することで細胞内においてチロシンをp-クマル酸に変換するp-クマル酸生産ラン藻を作製する。もしくは細胞表層にチロシンアンモニアリアーゼを提示する酵母を作製し、ラン藻培養液上清に添加・反応させることで上清に含まれるチロシンをp-クマル酸に変換する。
以上により、本開示の方法によって得られたアミノ酸からp-クマル酸を製造する。
【0098】
(実施例9:p-クマル酸を用いたプラスチック製造例)
p-クマル酸を他の有機酸(カフェ酸、リシノール酸など)と共重合させることで機能性ポリマーを合成する。これにより実施例8のようにして得たp-クマル酸を用いてプラスチックを製造することができる。
【0099】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示によれば、ラン藻を培養するだけで安価な生産コストで多様なアミノ酸を得ることができる。またバイオプラスチック原料、食品添加物、細胞培養の栄養源などに利用可能なアミノ酸を炭素源として二酸化炭素のみから生産することができるため、工業製品や食品産業などの産業分野において応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7