(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085650
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】グリシジルエーテル、可撓性付与剤、反応性希釈剤、エポキシ樹脂用組成物およびグリシジルエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/331 20060101AFI20240620BHJP
C08G 59/04 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C08G65/331
C08G59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200287
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】熊木 広和
(72)【発明者】
【氏名】前川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山下 聖二
【テーマコード(参考)】
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4J005BD00
4J005BD03
4J036AB10
4J036AD08
4J036DB21
4J036DC13
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA07
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できるグリシジルエーテルを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオキシアルキレン基を有し、数平均分子量(Mn)が250~5000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10であるグリシジルエーテル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン基を有し、数平均分子量(Mn)が250~5000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10であるグリシジルエーテル。
【請求項2】
塩素含量が500ppm以下である請求項1記載のグリシジルエーテル。
【請求項3】
エポキシ当量が40~6250(g/eq.)である請求項1または2記載のグリシジルエーテル。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン基が一般式(1)で表される請求項1または2記載のグリシジルエーテル。
【化1】
(式中Rは水素、メチル基またはエチル基、nは3以上の整数である。)
【請求項5】
分子内のグリシジル基数が1~6である請求項1または2記載のグリシジルエーテル。
【請求項6】
請求項1または2記載のグリシジルエーテルを含む可撓性付与剤。
【請求項7】
請求項1または2記載のグリシジルエーテルを含む反応性希釈剤。
【請求項8】
主剤と、請求項6記載の可撓性付与剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物。
【請求項9】
主剤と、請求項7記載の反応性希釈剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物。
【請求項10】
下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載のグリシジルエーテルの製造方法。
(i)ポリオキシアルキレン基を有するアルコールと、アルカリ金属水酸化物と、を含む液にハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテルを製造する工程。
(ii)前記アリルエーテルと、過酸化水素と、ニトリル化合物と、をアルカリ性溶液中で反応させ、グリシジルエーテルを製造する工程。
【請求項11】
前記ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10である請求項10記載のグリシジルエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシジルエーテル、可撓性付与剤、反応性希釈剤、エポキシ樹脂用組成物およびグリシジルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、耐久性・耐水性・耐熱性・耐薬品性に優れ、さらに接着力も強く、とりわけ金属・ガラス・木材への付着が強いことが特長である。このような特長から、塗料、接着剤、封止剤など様々な分野で使用されている。一般的なエポキシ樹脂であるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂は25℃での粘度が10000mPa・s以上と高粘度であるものが多い。そのため、作業性向上のために反応性希釈剤として低粘度のグリシジルエーテルが用いられる。反応性希釈剤として使用されるグリシジルエーテルは、硬化後エポキシ樹脂の架橋分子構造内に組み込まれるため、ポリオキシアルキレン基を含むグリシジルエーテルを用いることでエポキシ樹脂に可撓性を付与することができる。可撓性を付与することで、例えば、エポキシ樹脂を金属の接着剤として使用した場合、金属の膨張や収縮に樹脂が追従することができるようになり、接着剤の耐久性を向上することができる。当然、グリシジル基を持たない不純物などはエポキシ樹脂の分子構造には組み込まれないため、樹脂物性(樹脂強度)に大きく影響を及ぼす。
【0003】
グリシジルエーテルを製造する方法としては、アルコールとエピクロロヒドリンをアルカリの存在下で反応させる一段法(例えば特許文献1、2)が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01-151567号公報
【特許文献2】特開平05-163260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記一段法で製造したグリシジルエーテルは、エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の物性(樹脂強度)を低下させるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できるグリシジルエーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリオキシアルキレン基を有し、数平均分子量(Mn)が250~5000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10であるグリシジルエーテル;上記グリシジルエーテルを含む可撓性付与剤;上記グリシジルエーテルを含む反応性希釈剤;主剤と、上記可撓性付与剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物;主剤と、上記反応性希釈剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物;下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴とする上記グリシジルエーテルの製造方法である。
(i)ポリオキシアルキレン基を有するアルコールと、アルカリ金属水酸化物と、を含む液にハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテルを製造する工程。
(ii)上記アリルエーテルと、過酸化水素と、ニトリル化合物と、をアルカリ性溶液中で反応させ、グリシジルエーテルを製造する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できるグリシジルエーテルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<グリシジルエーテル>
本発明のグリシジルエーテルは、ポリオキシアルキレン基を有し、数平均分子量(Mn)が250~5000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10である。
【0010】
本発明のグリシジルエーテルは、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールのグリシジルエーテルである。言い換えると、本発明のグリシジルエーテルは、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールのヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルである。
【0011】
ポリオキシアルキレン基を有するアルコールとしては、炭素数1~18で、1~6価のアルコールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0012】
1価のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の飽和脂肪族アルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール、オレイルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール;ベンジルアルコール等の芳香族アルコール等が挙げられる。
【0013】
2価のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキシレングリコール等の脂肪族アルコール;またはグリセリンモノラウリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル等3価アルコールのモノアルキル(炭素数1~18)エーテル等が挙げられる。
【0014】
3価以上のアルコールとしてはグリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール等の脂肪族アルコール;フェノールノボラック、アルキルフェノールノボラックビスフェノールA等が挙げられる。
【0015】
ポリオキシアルキレン基を有するアルコールにおける、アルキレンオキサイド付加モル数は2以上であってよい。
【0016】
ポリオキシアルキレン基は、一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン基が好ましい。
【化1】
(式中Rは水素、メチル基またはエチル基、nは3以上の整数である。)
【0017】
一般式(1)において、Rは水素、メチル基またはエチル基である。エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、Rはメチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0018】
一般式(1)において、nは3以上の整数である。エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、nは3以上150以下の整数であることが好ましく、3以上50以下の整数であることがより好ましく、3以上20以下の整数であることがさらに好ましく、3以上10以下の整数であることが特に好ましい。
【0019】
一般式(1)に示すポリオキシアルキレン基は、n個のオキシアルキレン基が重合しているが、n個のオキシアルキレン基は同一であってもよく、異なっていてもよい。n個のオキシアルキレン基は同一であることが好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールとしては、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのプロピレンオキサイド付加物がより好ましく、プロピレングリコールのプロピレンオキサイド付加物、つまり、ポリプロピレングリコールがさらに好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、グリシジルエーテルは、分子内のグリシジル基数が1~6であることが好ましい。分子内のグリシジル基数は、1~3であることがより好ましく、1~2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0022】
グリシジルエーテルが、ポリオキシアルキレン基を有する多価アルコールのヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルである場合、多価アルコールのすべてのヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わっていてもよく、一部のヒドロキシ基のみがグリシジル基に置き換わっていてもよい。
【0023】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、グリシジルエーテルとしては、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのアルキレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルが好ましく、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルがより好ましく、プロピレングリコールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテル、つまり、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルがさらに好ましい。
【0024】
本発明のグリシジルエーテルは、数平均分子量(Mn)が250~5000である。数平均分子量(Mn)が上記の範囲であると、グリシジルエーテルをエポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制でき、可撓性も付与することができる。数平均分子量(Mn)は、300~2500であることが好ましく、400~1000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)は後述の方法で測定することができる。
【0025】
本発明のグリシジルエーテルは、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10である。分子量分布(Mw/Mn)が上記の範囲であると、グリシジルエーテルに含まれる不純物が少ない。そのため、エポキシ樹脂に配合した際に、グリシジルエーテルに含まれる不純物がエポキシ樹脂の分子構造に組み込まれないといった問題が起こりにくいので、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の樹脂強度の観点から、分子量分布(Mw/Mn)は、1.01~1.07であることが好ましく、1.01~1.05であることがより好ましい。
【0026】
本発明における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。実施例に示す値は、下記条件で測定した値である。分子量分布(Mw/Mn)は、下記条件で測定した重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から算出することができる。
<GPC測定条件>
装置:「HLC-8420GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn HXL-H」(1本)、「TSKgel GMHXL」(2本)[いずれも東ソー(株)製]をこの順に直列で連結
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:100μl
流量:1ml/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリプロピレングリコール
【0027】
グリシジルエーテルの塩素含量は、500ppm以下であることが好ましい。グリシジルエーテルの塩素含量が上記の範囲内であれば、分子内に塩素を含む不純物が少なくなるので、グリシジルエーテルの分子量分布(Mw/Mn)が小さくなる。この場合、グリシジルエーテルに含まれる不純物がエポキシ樹脂の分子構造に組み込まれないといった問題が起こりにくいため、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。
【0028】
また、塩素は、金属を腐食する因子となる。そのため、グリシジルエーテルの塩素含量が500ppm以下であれば、金属の腐食を抑制できるため、電子材料分野で好適に使用することができる。
【0029】
グリシジルエーテルの塩素含量は、200ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。また、グリシジルエーテルの塩素含量が検出限界以下である場合は、グリシジルエーテルの塩素含量は0ppmであるとみなす。
【0030】
グリシジルエーテルの塩素含量は、蛍光X線分析にて測定できる。本発明においてはグリシジルエーテルの塩素含量は、下記の測定条件で測定した値であり、実施例に示す値は、下記条件で測定した値である。
<蛍光X線分析測定条件>
・装置名:蛍光X線分析装置 Axios[スペクトリス(株)製]
・測定条件:FP法または検量線法
・測定雰囲気:ヘリウム
・X線管球:Rh(ロジウム)
・X線励起設定:2.4kW
・コリメータマスク径:27mm
・クリスタル:Ge 111-C
・コリメータ:700μm
・検出器:Flow
・管球フィルター:なし
・分析線:Kα
・電圧:24kV
・電流:100mA
・角度(2θ):92.7672
【0031】
グリシジルエーテルのエポキシ当量は、40~6250(g/eq.)以下であることが好ましい。エポキシ当量が上記の範囲内であると、グリシジルエーテルをエポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することをより抑制でき、より充分な可撓性も付与することができる。エポキシ当量が40以上であると、硬化後のエポキシ樹脂により充分な可撓性を付与することができる。エポキシ当量が6250以下であると、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することをより抑制できる。エポキシ当量は、JIS K7236:1995、(エポキシ樹脂のエポキシ当量試験法)に準拠して測定することができる。
【0032】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂組成物の作業性の観点から、グリシジルエーテルの粘度(25℃、B型粘度、mPa・s)は、4000以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。粘度は、JIS K7117-1:1999「プラスチック-液状,乳濁状又は分散状の樹脂-ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法」に準拠して測定できる。なお、ローターの回転数は、グリシジルエーテルの粘度に応じて適宜変更する。
【0033】
本発明において、エポキシ樹脂の樹脂強度は、曲げ強度および引張強度を測定することで評価できる。エポキシ樹脂の可撓性は、引張伸びを測定することで評価できる。曲げ強度、引張強度および引張伸びは以下のJISに従い測定することができる。本発明においては、エポキシ樹脂の樹脂強度およびエポキシ樹脂の可撓性は、下記の測定条件で測定され、実施例に示す値は、下記条件で測定した値である。
曲げ強度(3点曲げ):JIS K7171:2022
引張強度・引張伸び:JIS K7139:2009
【0034】
<可撓性付与剤>
本発明の可撓性付与剤は、本発明のグリシジルエーテルを含む。
【0035】
本発明の可撓性付与剤は、ポリオキシアルキレン基を有するグリシジルエーテルを含むため、エポキシ樹脂に配合した際に、可撓性を付与することができる。また、グリシジルエーテル中の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)が所定の範囲内であるため、グリシジルエーテルに含まれる不純物が少なく、エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。
【0036】
可撓性付与剤は、エポキシ樹脂用可撓性付与剤であることが好ましい。
【0037】
可撓性付与剤としては、本発明のグリシジルエーテルをそのまま用いてもよい。
【0038】
可撓性付与剤に含まれる水の含有量は、可撓性付与剤の重量に対して、0.1重量%以下であることが好ましい。可撓性付与剤に含まれる水の含有量が上記の範囲内であると、水が溶けずに白濁および分離することを抑制できる。
【0039】
可撓性付与剤は、1種類のグリシジルエーテルのみを含んでいてもよく、2種類以上のグリシジルエーテルを含んでいてもよい。
【0040】
可撓性付与剤は、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのアルキレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルを含むことが好ましく、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルを含むことがより好ましく、プロピレングリコールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテル、つまり、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを含むことがさらに好ましい。
【0041】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂組成物の作業性の観点から、可撓性付与剤の粘度は、1~5000mPa・sであることが好ましく、1~4000mPa・sであることがより好ましく、1~1000mPa・sであることがさらに好ましく、1~100mPa・sであることが特に好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、可撓性付与剤に含まれるグリシジルエーテルは、分子内のグリシジル基数が1~6であることが好ましい。分子内のグリシジル基数は、1~3であることがより好ましく、1~2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0043】
可撓性付与剤は、後述する本発明の反応性希釈剤でもあることが好ましい。
【0044】
<反応性希釈剤>
本発明の反応性希釈剤は、本発明のグリシジルエーテルを含む。
【0045】
本発明の反応性希釈剤は、グリシジルエーテルを含むためエポキシ樹脂に添加した際に、エポキシ樹脂の分子構造に組み込まれる。また、グリシジルエーテル中の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)が所定の範囲内であるため、グリシジルエーテルに含まれる不純物が少なく、エポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。さらに、本発明の反応性希釈剤は、粘度の低いグリシジルエーテルを含むため、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂等の高粘度のエポキシ樹脂組成物の作業性を向上することができる。
【0046】
反応性希釈剤は、エポキシ樹脂用反応性希釈剤であることが好ましく。ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂用反応性希釈剤であることがより好ましい。
【0047】
反応性希釈剤としては、本発明のグリシジルエーテルをそのまま用いてもよい。
【0048】
反応性希釈剤に含まれる水の含有量は、反応性希釈剤の重量に対して、0.1重量%以下であることが好ましい。反応性希釈剤に含まれる水の含有量が上記の範囲内であると、水が溶けずに白濁および分離することを抑制できる。
【0049】
反応性希釈剤は、1種類のグリシジルエーテルのみを含んでいてもよく、2種類以上のグリシジルエーテルを含んでいてもよい。
【0050】
反応性希釈剤は、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのアルキレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルを含むことが好ましく、メタノール、プロピレングリコールまたはソルビトールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテルを含むことがより好ましく、プロピレングリコールのプロピレンオキサイド付加物のヒドロキシ基がグリシジル基に置き換わったグリシジルエーテル、つまり、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを含むことがさらに好ましい。
【0051】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂組成物の作業性の観点から、反応性希釈剤の粘度は、1~5000mPa・sであることが好ましく、1~4000mPa・sであることがより好ましく、1~1000mPa・sであることがさらに好ましく、1~100mPa・sであることが特に好ましい。
【0052】
エポキシ樹脂に配合した際の、エポキシ樹脂の可撓性と樹脂強度の観点から、反応性希釈剤に含まれるグリシジルエーテルは、分子内のグリシジル基数が1~6であることが好ましい。分子内のグリシジル基数は、1~3であることがより好ましく、1~2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0053】
反応性希釈剤は、前述した本発明の可撓性付与剤でもあることが好ましい。本発明の反応性希釈剤および本発明の可撓性付与剤は、本発明のグリシジルエーテルを含むため、エポキシ樹脂に配合した際に、反応性希釈剤としてエポキシ樹脂の分子構造に組み込まれ、かつ、硬化後のエポキシ樹脂に可撓性を付与することができる。さらに、本発明の反応性希釈剤および本発明の可撓性付与剤は、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。
【0054】
<エポキシ樹脂用組成物>
本発明のエポキシ樹脂用組成物は、主剤と、本発明の可撓性付与剤と、を含んでいてもよい。また、本発明のエポキシ樹脂用組成物は、主剤と、本発明の反応性希釈剤と、を含んでいてもよい。本発明のエポキシ樹脂用組成物は、主剤と、可撓性付与剤でもある反応性希釈剤と、を含んでいることが好ましい。以下、主剤と、本発明の可撓性付与剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物の態様、および、主剤と、本発明の反応性希釈剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物の態様、についてまとめて説明する。
【0055】
主剤は、分子内にエポキシ基を有するものであれば特に限定されないが、公知(たとえば、特開平6-248059号公報、特開平10-130467号公報)の液状エポキシド等が使用でき、これらのうち、ビスフェノールF型液状エポキシド、ビスフェノールA型液状エポキシド、フェノールノボラック型液状エポキシド、ナフタレン型液状エポキシドおよびグリシジルアミン型液状エポキシドが好ましく、さらに好ましくはビスフェノールF型液状エポキシド、ビスフェノールA型液状エポキシドおよびグリシジルアミン型液状エポキシド、特に好ましくはビスフェノールA型液状エポキシドおよびビスフェノールF型液状エポキシドである。主剤は、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテルであってもよい。
【0056】
エポキシ樹脂用組成物は、主剤を、エポキシ樹脂用組成物の重量に対して、20~80重量%含むことが好ましく、40~60重量%含むことがより好ましい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂用組成物は、本発明の可撓性付与剤および本発明の反応性希釈剤のうち少なくとも1つを含むため、本発明のグリシジルエーテルを含む。このため、本発明のエポキシ樹脂用組成物では、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。
【0058】
エポキシ樹脂用組成物において、主剤の重量に対する、本発明のグリシジルエーテルの割合は、エポキシ樹脂の樹脂強度の観点から、1~30重量%であることが好ましく、5~20重量%であることがより好ましく、8~15重量%であることがさらに好ましい。
【0059】
エポキシ樹脂用組成物は、硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤としては、加熱によりエポキシドと反応して硬化体を与えるものであれば制限なく、公知(たとえば、特開2011-6545号公報)のエポキシ樹脂用硬化剤等が使用でき、たとえば、アミン、カルボン酸、カルボン酸無水物、塩基性活性水素化合物、イミダゾール、ポリメルカプタン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂および潜在性硬化剤等が挙げられる。これらの 硬化剤のうち、カルボン酸無水物が好ましく、さらに好ましくは3,4-ジメチル-6-(2-メチル-1プロペニル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物である。
【0060】
エポキシ樹脂用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに必要に応じて(1)硬化促進剤(第三級アミン{DMP-30:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールおよびDBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン等};シアノエチルイミダゾール{2E4MZ-CN:1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび2PZ-CN:1-(2-シアノエチル)-2-フェニルイミダゾール等};ホスフィン{TPP:トリフェニルホスフィン等}等)、(2)接着性付与剤(たとえば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペンーフェノール樹脂、ロジン樹脂およびキシレン樹脂等)、(3)可塑剤(ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、ジエチレングリコールジベンゾエートおよびオレイン酸ブチル等)、(4)非反応性希釈剤(ベンジルアルコール等)、(5)有機充填剤(アラミド繊維粉、ナイロン繊維粉、アクリル繊維粉、アクリル樹脂粉およびフェノール樹脂粉等)、(6)難燃剤(ジメチルホスホネートおよびメチルホスホネート等)、(7)充填剤(炭酸カルシウム、タルクおよびケイ酸マグネシウム等)並びに/または(8)消泡剤(シリコーン型消泡剤、鉱物油型消泡剤およびポリエーテル型消泡剤等)等の添加剤を含有させることができる。
【0061】
<グリシジルエーテルの製造方法>
本発明のグリシジルエーテルの製造方法は、下記(i)および(ii)の工程を含む。
(i)ポリオキシアルキレン基を有するアルコールと、アルカリ金属水酸化物と、を含む液にハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテルを製造する工程。
(ii)前記アリルエーテルと、過酸化水素と、ニトリル化合物と、をアルカリ性溶液中で反応させ、グリシジルエーテルを製造する工程。
【0062】
上記(i)および(ii)の工程を含むグリシジルエーテルの製造方法では、エピクロロヒドリンを使用しないため、エピクロロヒドリン由来の副生物を発生させることがなく、従来の一段法で製造したグリシジルエーテルに比べ、分子量分布を狭くすることができる。このため、製造されたグリシジルエーテルをエポキシ樹脂に配合した際に、硬化後のエポキシ樹脂の樹脂強度が低下することを抑制できる。さらに、製造されたグリシジルエーテルの粘度も低減することができる。
【0063】
上記(i)の反応において、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールおよびその好ましい態様は、上述した本発明のグリシジルエーテルにおけるものと同じである。
【0064】
上記(i)の反応において、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの分子量分布(Mw/Mn)は1.01~1.10であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)が上記の範囲であると、製造されたグリシジルエーテルの分子量分布(Mw/Mn)を小さくすることができる。製造されたグリシジルエーテルの分子量分布(Mw/Mn)の観点から、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの分子量分布(Mw/Mn)は、1.01~1.07であることがより好ましく、1.01~1.05であることがさらに好ましい。
【0065】
上記(i)の反応において、アルカリ金属水酸化物は固形アルカリ金属水酸化物が好ましい。固形アルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムの固形物が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの固形物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムの固形物である。
【0066】
これらの固形アルカリ金属水酸化物は単独でも、2種類以上の混合物であっても良い。これらの固形アルカリ金属水酸化物の形状は、粒状、フレーク状、粉状のいずれでも良い。大きさは、粒状物は好ましくは直径0.5~5mm、フレーク状物は好ましくは0.5~3cm角、粉状物は好ましくは30~100μmであるが、本発明はこれに限定されない。作業従事者の取り扱い上、固形アルカリ金属水酸化物の形状は、粒状が好ましい。
【0067】
固形アルカリ金属水酸化物の使用量は、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの水酸基1当量に対して好ましくは1.1~2.5当量であり、より好ましくは1.3~2.0当量である。固形アルカリ金属水酸化物の使用量が1.1当量以上であると固形アルカリ表面に生成塩が付着せず、アルカリ表面の活性が低下しないため反応が効率的に進行する。固形アルカリ金属水酸化物の使用量が2.5当量以下であると生成物への着色がない。
【0068】
上記(i)の反応において、ハロゲン化アリルとしては、塩化アリル(アリルクロライドともいう)や臭化アリルが挙げられ、好ましくは塩化アリルである。ハロゲン化アリルの使用量は、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの水酸基1当量に対して1~2当量が好ましい。ハロゲン化アリルの使用量が2当量より多いとハロゲン化アリル由来の副生物により塩素含量が高くなる可能性がある。
【0069】
上記(i)の反応は、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。窒素等の不活性ガス雰囲気下において、酸素濃度は、好ましくは1,000ppm以下である。
【0070】
固形アルカリ金属水酸化物やハロゲン化アリルを投入する際には、反応容器に直結した密閉容器中に固形アルカリ水酸化物またはハロゲン化アリルを入れ、不活性ガス雰囲気下にしてから反応容器に徐々に投入していくのが好ましい。固形アルカリ水酸化物を投入する際は、沈降しないよう撹拌しながら投入するのが好ましい。ポリオキシアルキレン基を有するアルコール、固形アルカリ金属水酸化物、ハロゲン化アリルの混合投入の順序は、ポリオキシアルキレン基を有するアルコール中に固形アルカリ金属水酸化物を徐々に投入し、最後にハロゲン化アリルを徐々に投入するのが好ましい。
【0071】
上記(i)の反応では、必要により公知の相間移動触媒を使用してもよい。相間移動触媒としては好ましくは第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級アルソニウム塩等が挙げられ、より好ましくは第4級アンモニウム塩である。第4級アンモニウム塩には、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムハイドロサルフェート、トリオクチルアンモニウムクロライド、n-ラウリルピリジニウムクロライド等が含まれる。第4級ホスホニウム塩には、例えばテトラエチルホスホニウムクロライド、ジメチルジシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムヨーダイドが含まれる。第4級アルソニウム塩には、例えばテトラメチルアルソニウムクロライド、テトラエチルアルソニウムブロマイド、テトラエチルアルソニウムヒドロオキサイドが含まれる。相間移動触媒を混合する方法、時期には特に限定はないが、ポリオキシアルキレン基を有するアルコールと、ハロゲン化アリルとの反応前に添加を行うのが好ましい。
【0072】
上記(i)の反応における反応温度は、低すぎると反応が遅くなり、高すぎるとハロゲン化アリルの重合などが起こりやすくなるため、10~90℃が好ましく、30~60℃がより好ましい。反応時間は短すぎると反応率が低くなり、長すぎるとハロゲン化アリルの重合などが起こりやすくなるため、4~15時間が好ましく、6~10時間がより好ましい。
【0073】
上記(i)の反応後は、必要に応じて、水洗やアルカリ吸着剤でのアルカリ化合物の除去、脱溶剤等の通常の操作を行ってアリルエーテルを得る。
【0074】
上記(ii)の反応は、均一系で行うことが好ましく、必要に応じて溶媒を使用してもよい。溶媒は特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドのようなアミド溶媒;1,2-ジメトキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、水との混和性と安価に入手できるという点で、アルコール溶媒が好ましい。溶媒の使用量は特に限定されないが、アリルエーテル100重量部に対して、10重量部~1000重量部が好ましい。溶媒の使用量が10重量部より少ないと、基質が上手く系内で混和せず反応性が低下する傾向がある。また、溶媒の使用量が1000重量部より多いと、系内の反応基質の濃度が低下し、反応速度が低下する傾向がある。
【0075】
上記(ii)の反応では、アリル基の酸化剤として過酸化水素を用いるが、過酸化水素源としては過酸化水素水溶液が好適に用いられる。過酸化水素水溶液の濃度には特に制限はないが、一般的には1~60質量%が好ましく、より好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。1質量%以上であれば工業的な生産性の観点、および分離の際のエネルギーコストの点で良好であり、60質量%以下であれば経済性、安全性等の点で良好である。
【0076】
上記(ii)の反応において過酸化水素の使用量には特に制限はないが、反応の進行により、過酸化水素は消費されるため、継続的に追補充することにより、反応系内の濃度を一定に維持することが望ましい。アリルエーテルに対して、過酸化水素の反応系内存在濃度を0.01~0.5モル当量、より好ましくは0.02~0.4モル当量の範囲に保持することが好ましい。過酸化水素の系内存在濃度がアリルアルコールに対して0.01モル当量以上であれば生産性が良好であり、0.5モル当量以下であれば溶媒と水の混合組成中でも十分な安全性を確保できる。反応初期に反応系内に一度に多量の過酸化水素を仕込むと反応が急激に進行して危険な場合があるため、後述するように過酸化水素は反応系内にゆっくり添加することが好ましい。
【0077】
上記(ii)の反応に使用されるニトリル化合物は、分子内にニトリル基(シアノ基)があれば特に制限は無く、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ジクロロアセトニトリル、トリクロロアセトニトリル、ヘキサンジニトリル、オクタンジニトリル、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、3-ニトロベンゾニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。中でも、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルが溶解性の観点から好ましく、アセトニトリルがより好ましい。
【0078】
ニトリル化合物の使用量は、特に限定されず、アリルエーテルの種類、反応条件等によって異なるが、アリルエーテルの炭素-炭素二重結合1当量に対して、1当量~10当量が好ましい。ニトリル化合物の使用量が1当量より少ないと、反応が十分に進行せず、使用量が10当量よりも多いと、反応性が低下する傾向がある。
【0079】
上記(ii)の反応の反応温度は特に限定されないが、比較的低温で反応させることができる。反応温度は、0℃~100℃が好ましく、特に20℃~80℃が好ましく、さらに好ましくは30℃~60℃が好ましい。100℃を超えると、過酸化水素の分解や、生成したエポキシの加水分解が促進される傾向がある。0℃未満であると、十分な反応速度が得られず、反応が完全に進行しない傾向がある。
【0080】
上記(ii)の反応の反応時間は、反応スケール等により異なるが、通常1~72時間の範囲から選択でき、2~24時間がより好ましい。
【0081】
上記(ii)の反応では、アリルエーテルを含む反応液の任意の時点のpHを8~12の範囲とすることが好ましく、より好ましくは9~11、さらに好ましくは9~10の範囲である。pHが8以上であれば反応速度が良好で高い生産性を保つことができ、12以下であれば反応時に十分な安全性および収率を確保することができる。
【0082】
上記(ii)の反応液のpH調整に用いることができるアルカリ化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等の無機塩基塩、およびカリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化テトラメチルアンモニウム等の有機塩基塩が挙げられる。炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、およびナトリウムエトキシドはpH調整が容易である点で好ましい。水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムは水およびアルコールへの溶解性が高く、反応性も良いためより好ましい。反応液が、局所的に高アルカリ濃度とならないように、アルカリ化合物を水溶液として用いるのがさらに好ましい。
【0083】
上記(ii)の反応は、ニトリル化合物とアルカリ化合物の存在下、アリルエーテルと過酸化水素を反応させる。これらの化合物の添加順序は特に限定されないが、通常の反応では、まずアリルエーテルとニトリル化合物、必要に応じて均一化溶剤を反応溶媒中で混合し、ここにアルカリ化合物を加え、混合物の温度に注意しながら過酸化水素水を滴下する。反応後、必要に応じて、水洗やアルカリ吸着剤でのアルカリ化合物の除去、脱溶剤等の通常の操作を行ってグリシジルエーテルを得る。
【0084】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0085】
本開示(1)はポリオキシアルキレン基を有し、数平均分子量(Mn)が250~5000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10であるグリシジルエーテルである。
【0086】
本開示(2)は塩素含量が500ppm以下である本開示(1)記載のグリシジルエーテルである。
【0087】
本開示(3)はエポキシ当量が40~6250(g/eq.)である本開示(1)または(2)記載のグリシジルエーテルである。
【0088】
本開示(4)は前記ポリオキシアルキレン基が一般式(1)で表される本開示(1)~(3)のいずれか1つに記載のグリシジルエーテルである。
【化2】
(式中Rは水素、メチル基またはエチル基、nは3以上の整数である。)
【0089】
本開示(5)は分子内のグリシジル基数が1~6である本開示(1)~(4)のいずれか1つに記載のグリシジルエーテルである。
【0090】
本開示(6)は本開示(1)~(5)のいずれか1つに記載のグリシジルエーテルを含む可撓性付与剤である。
【0091】
本開示(7)は本開示(1)~(5)のいずれか1つに記載のグリシジルエーテルを含む反応性希釈剤である。
【0092】
本開示(8)は主剤と、本開示(6)記載の可撓性付与剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物である。
【0093】
本開示(9)は主剤と、本開示(7)記載の反応性希釈剤と、を含むエポキシ樹脂用組成物である。
【0094】
本開示(10)は下記(i)および(ii)の工程を含むことを特徴とする本開示(1)~(5)のいずれか1つに記載のグリシジルエーテルの製造方法である。
(i)ポリオキシアルキレン基を有するアルコールと、アルカリ金属水酸化物と、を含む液にハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテルを製造する工程。
(ii)前記アリルエーテルと、過酸化水素と、ニトリル化合物と、をアルカリ性溶液中で反応させ、グリシジルエーテルを製造する工程。
【0095】
本開示(11)は前記ポリオキシアルキレン基を有するアルコールの分子量分布(Mw/Mn)が1.01~1.10である本開示(10)記載のグリシジルエーテルの製造方法である。
【実施例0096】
以下、実施例により、本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において、%は重量%を示す。
【0097】
実施例1~7(工程(i))
撹拌装置、温度制御措置を備えた耐圧容器に、表1に示す量のポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)を仕込み、撹拌しながら、表1に示す量の水酸化ナトリウムとテトラブチルアンモニウムブロミドを10~40℃で投入した。容器を密閉後、容器内気相部を窒素で置換し、35~45℃で、表1に示す量のアリルクロライドを0.5~1時間かけて断続滴下した。その後、激しく撹拌しながら35~45℃で6~8時間反応・熟成し、ポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)をアリルエーテル化した。反応終了後、20~30℃まで冷却し、表1に示す量のイオン交換水を20~45℃で投入後、1時間撹拌した。10~45℃で5~12時間静置分液後、下層(水層)を抜き取り、残った上層(有機層)に表1に示す量のキョーワード600(協和化学工業社製;アルカリ吸着剤)を、撹拌しながら投入した。容器を密閉後、容器内気相部を窒素で置換し、50~60℃で0.5~1時間撹拌した。10~30℃まで冷却後、濾紙上にキョーワード700(協和化学工業社製;アルカリ吸着剤)を0.5~1cm厚で敷き詰めたヌッチェで減圧濾過を行った。濾液中に窒素を吹き込みながら、115~125℃で減圧・撹拌を1時間行い、未反応のアリルクロライドや水を留去し、アリルエーテルを得た。なお、表1に記載の数値はいずれも重量部を意味する。
【0098】
上記の工程で用いたポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)は以下のとおりである。なお、POはプロピレンオキサイド、BOはブチレンオキサイドを意味する。
実施例1 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約210
実施例2 メタノールPO付加物、数平均分子量(Mn)約300
実施例3 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約390
実施例4 ソルビトールPO付加物、数平均分子量(Mn)約750
実施例5 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約1650
実施例6 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約4900
実施例7 ポリプロピレングリコールBO付加物、数平均分子量(Mn)約1620
(分子量比:ポリプロピレングリコール/BO=170/1450)
【0099】
【0100】
実施例1~7(工程(ii))
撹拌装置、温度制御措置を備えたガラス製四つ口の丸底フラスコに、工程(i)で作製したアリルエーテルを表2に示す量仕込み、続いて表2に示す量のアセトニトリル、イソプロパノール、イオン交換水(1)を投入した。撹拌しながら、表2に示す量の48%水酸化カリウム水溶液(1)を投入し、pHを9~10に調整した。30~40℃で、表2に示す量の35%過酸化水素水溶液を5時間かけて徐々に投入しながら反応し、さらに同温度にて3時間熟成することで、グリシジルエーテル化を行った。反応・熟成は、48%水酸化カリウム水溶液(2)を随時投入し、反応液のpHを常に9~10に調整しながら行った。表2に示す水酸化カリウム水溶液(2)の量は、反応・熟成の8時間のおおよその合計量であり、pHの値によっては増減させてpHの調整を行った。熟成終了後、表2に示す量のトルエンとイオン交換水(2)を投入し、0.5時間撹拌した。10~40℃で5~12時間静置分液後、下層(水層)を抜き取り、表2に示す量のイオン交換水(3)と亜硫酸ナトリウムを投入し、1時間撹拌した。10~40℃で5~12時間静置分液後、下層(水層)を抜き取り、表2に示す量のイオン交換水(4)を投入後、0.5時間撹拌した。10~40℃で5~12時間静置分液後、下層を抜き取り、撹拌しながら表2に示す量のキョーワード1000(協和化学工業社製;アルカリ吸着剤)を投入した。液中に窒素を吹き込みながら、105~115℃で減圧・撹拌を2時間行い、トルエンや水を留去した。10~30℃まで冷却後、キョーワード1000を濾別し、グリシジルエーテルを得た。なお、表2に記載の数値はいずれも重量部を意味する。
【0101】
【0102】
比較例1~4
撹拌装置、温度制御措置を備えたガラス製四つ口の丸底フラスコに、表3に示す量のポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)、エピクロロヒドリン、シクロヘキサンを仕込んだ。窒素雰囲気下、10~31℃で、撹拌しながら、表3に示す量の水酸化ナトリウムを30分かけて徐々に投入した。投入後、26~31℃で14~16時間激しく撹拌しながら反応させ、ポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)をグリシジルエーテル化した。反応終了後、0~15℃まで冷却し、冷却しながら表3に示す量のイオン交換水を0~31℃で投入し、0.5~1時間撹拌した。10~31℃で0.5~12時間静置分液後、下層(水層)を抜き取り、撹拌しながら表3に示す量のキョーワード600(協和化学工業社製;アルカリ吸着剤)を投入した。液中に窒素を吹き込みながら、105~115℃で減圧・撹拌を1時間行い、未反応のエピクロロヒドリン、シクロヘキサン、水を留去した。10~30℃まで冷却後、濾紙上にキョーワード700(協和化学工業社製;アルカリ吸着剤)を0.5~1cm厚で敷き詰めたヌッチェで減圧濾過を行い、グリシジルエーテルを得た。なお、表3に記載の数値はいずれも重量部を意味する。
【0103】
上記の工程で用いたポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)は以下のとおりである。
比較例1 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約150
比較例2 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約4900
比較例3 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約390
比較例4 ポリプロピレングリコール、数平均分子量(Mn)約130
【0104】
【0105】
実施例1~7、比較例1~4
ポリオキシアルキレン基を有するアルコール(原料アルコール)および得られたグリシジルエーテルの分子量(GPC)、粘度(25℃、B型粘度)を測定した。得られたグリシジルエーテルについては、塩素含量(蛍光X線分析)およびエポキシ当量も測定した。また、表4に示す配合物を均一に撹拌混合したエポキシ樹脂用組成物を4mm厚となるように型枠に注入し、80℃で3時間、続いて120℃で6時間かけて加熱し、硬化物を作製し、物性評価を行った。その結果を表5に示した。表4に記載の数値はいずれも重量部を意味する。表5に記載の測定値は、それぞれ、発明を実施するための形態に記載の測定方法により測定した。表5の塩素含量の<50との記載は、塩素含量が50ppm未満であったことを意味する。
【0106】
表4において用いた、主剤、硬化剤および硬化促進剤は下記の通りである。
主剤:jER-828(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、三菱ケミカル株式会社製、エポキシ当量:189)
硬化剤:YH306(3,4-ジメチル-6-(2-メチル-1プロペニル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、三菱ケミカル株式会社製、中和当量:117)
硬化促進剤:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール
【0107】
なお、表5には記載していないが、主剤であるビスフェノールAジグリシジルエーテルのみを硬化させたブランクでは、曲げ強度が130MPa、引張強度が70MPa、引張伸びが6%であった。ブランクでの主剤、硬化剤および硬化促進剤の配合割合は表4に記載している。
【0108】
【0109】
【0110】
表5の結果から各実施例のグリシジルエーテルは下記の特徴を有することがわかる。
(1)エポキシ樹脂に配合した場合、エポキシ樹脂の樹脂強度の低下を抑えつつ、可撓性を付与することができる。
(2)同程度の数平均分子量(Mn)の比較例と比べて、25℃での粘度が低い。
(3)塩素含量が少ない。