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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085661
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】有機溶媒の回収方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20240620BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20240620BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240620BHJP
   C02F 1/04 20230101ALI20240620BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D61/58
C02F1/44 D
C02F1/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200304
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】寺師 亮輔
【テーマコード(参考)】
4D006
4D034
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA25
4D006KA01
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA57
4D006KB12
4D006KB14
4D006KE13P
4D006KE19P
4D006MC18
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB12
4D006PB70
4D034AA26
4D034BA03
4D034CA12
(57)【要約】
【課題】スクラバーにおいて有機溶媒を含む気体と水とを接触させることにより有機溶媒を回収するときに、スクラバーにおける純水の使用量を低減しつつスクラバーからの処理ガスに含まれる有機成分の量も低減する。
【解決手段】スクラバー1において有機溶媒を含む気体と水とを接触させて有機溶媒と水との混合液を得て、浸透気化装置3などの分離装置において混合液から有機溶媒と水とを分離する。分離された水を逆浸透膜6で処理して逆浸透膜6を透過した水をスクラバー1に供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含む気体から前記有機溶媒を回収する回収方法であって、
前記気体と水とを接触させて前記有機溶媒と水との混合液を得る接触工程と、
前記混合液から前記有機溶媒と水とを分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された水を逆浸透膜で処理する水処理工程と、
を有し、
前記逆浸透膜を透過した水を前記接触工程に供給する回収方法。
【請求項2】
前記分離工程は、浸透気化または蒸留により前記有機溶媒と水とを分離する工程である、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記水処理工程は、
前記分離工程で分離されて前記有機溶媒の濃度が閾値未満である水を貯槽に供給する工程と、
前記貯槽内に貯えられた液体を逆浸透膜装置によって処理して透過水と濃縮水とに分離し、前記逆浸透膜装置からの濃縮水の少なくとも一部を前記貯槽に供給する工程と、
前記貯槽内の液体における前記有機溶媒の濃度が閾値濃度以上となったときに、前記貯槽内の液体の少なくとも一部を濃縮液貯槽に移送する工程と、
前記濃縮液貯槽内に貯えられた液体を濃縮用逆浸透膜装置によって処理して透過水と濃縮水とに分離し、前記濃縮用逆浸透膜装置からの濃縮水を前記濃縮液貯槽に循環させ、前記濃縮用逆浸透膜装置からの透過水を前記貯槽に供給する工程と、
を有する、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記分離工程で分離された水における前記有機溶媒の濃度が前記閾値濃度以上であるときは、当該分離された水は前記濃縮液貯槽に直接供給される、請求項3に記載の回収方法。
【請求項5】
前記分離工程で分離された水は、前記有機溶媒より低沸点である有機物と、前記分離工程において水に混入した前記有機溶媒とを含み、
前記逆浸透膜により前記有機物と前記有機溶媒とを除去して前記逆浸透膜を透過した水が前記接触工程に供給する、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項6】
有機溶媒を含む気体から前記有機溶媒を回収する回収システムであって、
前記気体と水とを接触させて前記有機溶媒と水との混合液を排出するスクラバーと、
前記混合液から前記有機溶媒と水とを分離する分離装置と、
逆浸透膜と、
を有し、
前記分離装置において分離された水が前記逆浸透膜に供給され、前記逆浸透膜を透過した水が、有機溶媒との接触のために前記スクラバーに供給される、回収システム。
【請求項7】
前記分離装置は、浸透気化膜を備えて前記有機溶媒と水とを分離する浸透気化装置、または、前記有機溶媒と水とを分離する蒸留装置である、請求項6に記載の回収システム。
【請求項8】
前記逆浸透膜を備える逆浸透膜装置を備え、
前記逆浸透膜装置は、前記分離装置において分離された水が供給される第1段目の貯槽を備える低濃度処理部と、濃縮液貯槽と、前記濃縮液貯槽内の液体が供給される濃縮用逆浸透膜ユニットと、を備え、
前記低濃度処理部は、前記第1段目の貯槽内の液体が供給される第1段目の逆浸透膜ユニットを少なくとも備え、前記第1段目の逆浸透膜ユニットからの濃縮水の少なくとも一部は前記第1段目の貯槽に供給され、
前記第1段目の貯槽内の液体における前記有機溶媒の濃度が閾値濃度以上となったときに、前記第1段目の貯槽内の液体の少なくとも一部が前記濃縮液貯槽に移送され、前記濃縮液貯槽内の液体が前記濃縮用逆浸透膜ユニットに供給され、前記濃縮用逆浸透膜ユニットからの濃縮水は前記濃縮液貯槽に循環し、前記濃縮用浸透膜ユニットからの透過水は前記第1段目の貯槽に供給され、
前記低濃度処理水から排出される透過水が前記スクラバーに供給される、請求項6または7に記載の回収システム。
【請求項9】
前記分離装置において分離された水における前記有機溶媒の濃度が前記閾値濃度以上であるときは、当該分離された水は前記濃縮液貯槽に直接供給される、請求項8に記載の回収システム。
【請求項10】
前記低濃度処理部は、nを1以上の整数として、第n段目の逆浸透膜ユニットの透過水が第n+1段目の貯槽を介して第n+1段目の逆浸透膜ユニットに供給されるように接続された複数の逆浸透膜ユニットを備え、前記第n段目の逆浸透膜ユニットからの濃縮水の少なくとも一部は、前記第1段目から前記第n段目までの貯槽の少なくとも1つに供給される、請求項8に記載の回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒蒸気と水とを接触させる工程を含む有機溶媒の回収方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒を使用したとき、使用後の有機溶媒を回収する必要がある。有機溶媒を使用する工程から有機溶媒が気体の形態で排出される場合、その有機溶媒が水に溶解しやすいものであるときは、有機溶媒蒸気と水とを接触させて有機溶媒を水に溶け込ませて有機溶媒と水との混合液を取得し、その後、混合液から水と有機溶媒とを分離させる方法がしばしば用いられる。有機溶媒蒸気と水との接触には一般にスクラバーが用いられる。混合液からの水と有機溶媒の分離には、例えば、蒸留、あるいは浸透気化(PV)などが用いられる。特に浸透気化を用いる方法によれば、1気圧での沸点が100℃を超える有機溶媒と水との混合液から有機溶媒を回収するときに、高純度の有機溶媒を小さなエネルギー消費量で回収することができる。
【0003】
有機溶媒の回収の一例として、リチウムイオン二次電池の製造工程からのN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPとも記す)の回収がある。NMPは、水に溶解しやすい性質を有する。リチウム二次イオン電池の製造工程では、NMPに電極活物質の粒子を分散させてスラリーとし、電極集電体上にこのスラリーを塗布して乾燥させて電極を形成する。スラリーを乾燥させる際にNMPは気化し、気化したNMPは水スクラバーを用いて回収される。回収されたNMPは、水とNMPとの混合液の形態となっている。特許文献1は、水とNMPとの混合液を浸透気化膜モジュールに供給して水とNMPとを分離し、その際に得られた水を水スクラバーに供給してNMPの回収に再利用することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-141793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スクラバーにおいて有機溶媒蒸気と水とを接触させて有機溶媒を回収するとき、スクラバーに供給される水の純度が問題となる。特許文献1に記載されるようにスクラバーで有機溶媒を回収したことによって得られた有機溶媒と水との混合液を浸透気化膜で処理して有機溶媒と水とを分離した場合、浸透気化膜によって分離された水には、浸透気化膜をリークした有機溶媒のほかに、低沸点の有機酸やアミンが含まれている。そのような水をスクラバーで再利用すると、スクラバーと浸透気化膜モジュールの間で循環する水において不純物である有機酸やアミン濃度が上昇し、その結果、スクラバーから放出される処理ガスに有機酸やアミンが含まれるようになったり、スクラバーにおける有機溶媒の回収率が低下して処理ガス中に有機溶媒が含まれるようになったりする。スクラバーで回収した有機溶媒と水との混合液から蒸留によって有機溶媒と水とを分離する場合、有機溶媒の沸点が水の沸点よりも高いときは水は蒸留塔から塔頂ガスとして排出されるが、塔頂ガスには、少量の有機溶媒のほかに、低沸点の有機酸やアミンが含まれる。そのため、塔頂ガスを凝縮させて得た水をスクラバーで再利用するときも同様の問題が生じる。
【0006】
有機溶媒や有機酸、アミンを総称して有機成分と呼ぶこととして、環境中への有機成分の放出を避けるためには、浸透気化膜や蒸留塔によって分離された水を再利用するのではなく、純水装置を用いて生成した純水をスクラバーで用いることが考えられる。しかしながら純水装置を生成した純水によって、スクラバーで用いる水の全量を賄う場合には、大量の消耗品やエネルギーなどが必要となり、また、浸透気化膜モジュールや蒸留塔で大量に発生する水から有機成分を除去する処理を行う必要が生じる。
【0007】
本発明の目的は、スクラバーにおいて有機溶媒を含む気体と水とを接触させることにより有機溶媒を回収するときに、スクラバーにおける純水の使用量を低減しつつスクラバーからの処理ガスに含まれる有機成分の量も低減できる回収方法及び回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の回収方法は、有機溶媒を含む気体から有機溶媒を回収する回収方法であって、気体と水とを接触させて有機溶媒と水との混合液を得る接触工程と、混合液から有機溶媒と水とを分離する分離工程と、分離工程で分離された水を逆浸透膜で処理する逆浸透工程と、を有し、逆浸透膜を透過した水を接触工程に供給する。
【0009】
本発明の回収システムは、有機溶媒を含む気体から有機溶媒を回収する回収システムであって、気体と水とを接触させて有機溶媒と水との混合液を排出するスクラバーと、混合液から有機溶媒と水とを分離する分離装置と、逆浸透膜と、を有し、分離装置において分離された水が逆浸透膜に供給され、逆浸透膜を透過した水が、有機溶媒との接触のためにスクラバーに供給される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スクラバーにおいて有機溶媒を含む気体と水とを接触させることにより有機溶媒を回収するときに、スクラバーにおける純水の使用量を低減しつつスクラバーからの処理ガスに含まれる有機成分の量も低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態の回収システムを示す図である。
図2】回収システムの別の例を示す図である。
図3】回収システムの別の例を示す図である。
図4】回収システムの別の例を示す図である。
図5】本発明の別の実施の形態の回収システムを示す図である。
図6】回収システムの別の例を示す図である。
図7】NMP濃度と逆浸透膜におけるNMP漏洩率との関係を示すグラフである。
図8】回収システムで用いることができる逆浸透膜装置の構成の一例を示す図である。
図9】逆浸透膜装置の構成の別の例を示す図である。
図10】逆浸透膜装置の構成の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明の回収システムは、水に溶解する性質を有する有機溶媒を回収するものであって、その有機溶媒を含む気体と水とを接触させて有機溶媒と水との混合液を排出するスクラバーと、スクラバーから排出される混合液から有機溶媒と水とを分離する分離装置と、を備え、分離装置で分離された水を気体との接触のためにスクラバーで再利用しようとするものである。以下の説明においては、水に溶解する性質を有する有機溶媒が例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)であるものとするが、本発明が適用可能な有機溶媒はNMPに限られるものではない。気化しやすいすなわち有機溶媒蒸気となりやすい有機溶媒であって、スクラバーにおいて水に吸収させることができる有機溶媒であれば、任意の有機溶媒に対して本発明を適用することができる。
【0013】
図1は本発明の実施の一形態の回収システムを示す図である。図1に示す回収システムは、浸透気化膜4を備える浸透気化装置3を分離装置として用いるものであり、1気圧における沸点が100℃よりも高い有機溶媒(一例としてNMP)に対して好適に用いることができるものである。回収システムでは、有機溶媒を含むガスと水とを接触させて有機溶媒を水に吸収させるスクラバー1と、水道水などの原水が供給されて純水を生成する純水装置2とが設けられている。スクラバー1の内部では、有機溶媒を含むガスが下部から吹き込まれ、ガスと接触させるための水が上部から噴霧される。スクラバー1内で有機溶媒は水に溶解し、水と有機溶媒との混合液がスクラバー1の底部から排出される。有機溶媒が除去されたガスは、処理ガスとしてスクラバー1の頂部から排出される。
【0014】
スクラバー1から排出される混合液は、有機溶媒と水のほかに不純物を含んでいる。この混合液は、浸透気化装置3に供給される。水は浸透気化膜4を透過しやすいのに対して有機溶媒は浸透気化膜4を透過しにくいので、浸透気化装置3の濃縮側からは有機溶媒が排出される。浸透気化膜4を透過した成分すなわち透過液は、浸透気化装置3の透過側から排出される。透過液は主として水からなり、これに、浸透気化膜4をリークした有機溶媒やその他の不純物が含まれている。浸透気化装置3の透過液に含まれる有機溶媒の濃度は、例えば20質量%未満であり、8質量%未満であることが好ましい。有機溶媒がNMPであれば、透過液に含まれる不純物は、例えば、低沸点の有機酸やアミンである。通常、透過液には塩類などの不揮発性不純物は含まれない。このような不純物を含む透過液をそのままスクラバー1において有機溶媒を吸収するための水として再利用すると、スクラバー1と浸透気化装置3との間で循環する水に含まれる不純物濃度が上昇し、その結果、スクラバーから放出される処理ガスに有機酸やアミンが含まれるようになったり、スクラバーにおける有機溶媒の回収率が低下して処理ガス中に有機溶媒が含まれるようになったりする。
【0015】
有機酸やアミンなどの不純物を含む水がスクラバー1で使用されないようにするために、浸透気化装置3からの透過液を処理する逆浸透膜装置5が設けられている。逆浸透膜装置5には逆浸透膜6が設けられており、浸透気化装置3からの透過液に含まれる有機溶媒や不純物は逆浸透膜6を透過できないので逆浸透膜装置5の濃縮側から濃縮液として排出される。水は逆浸透膜6を透過できるので、逆浸透膜装置5の透過側から透過水として排出される。この透過水は、純水装置2からの純水と混合されて、スクラバー1において有機溶媒蒸気を吸収するために用いられる。
【0016】
このように図1に示す回収システムでは、有機溶媒を吸収するためにスクラバー1で用いられる水を回収して再利用するので、純水装置2で生成すべき純水の量を減らすことができ、純水製造に用いられる消耗品や純水製造に必要なエネルギーを大幅に削減することができる。また、逆浸透膜6の透過水には有機溶媒や不純物はほとんど含まれないので、スクラバー1から排出される処理ガスにおける有機溶媒濃度や不純物濃度を低く抑えることができ、システム全体として有機溶媒を精度よく分離することができる。
【0017】
ところで、スクラバー1に供給する純水を生成する純水装置は、スクラバー1内でのスケールの発生を防止するために無機イオン、特にカルシウムイオンやマグネシウムイオンを除去できることが求められる。そのため、フィルターや活性炭装置の後段に逆浸透膜を備えた構成とされることが多い。逆浸透膜を備える純水装置が用いられるのであれば、浸透気化装置3からの透過液を処理する逆浸透膜装置5を設けることなく、純水装置そのものにおいて浸透気化装置3からの透過液を処理することができる。図2はそのように構成された回収システムを示している。図2に示す回収システムは、原水から純水を生成する純水装置として、逆浸透膜を有する純水装置7を備えており、浸透気化装置3からの透過液は純水装置7に送られている。この場合、分離装置において分離された水、すなわち浸透気化装置3からの透過液は、純水装置7において逆浸透膜の前段の位置に供給される。必要に応じ、中継槽を設けたり、純水装置7における原水タンクに浸透気化装置3からの透過液を供給したりしてもよい。図2に示すように構成しても、浸透気化装置3からの透過液にはイオン性不純物がほとんど含まれていないので、純水装置における消耗品の消費量が増加することはなく、コスト上昇がもたらされることはない。
【0018】
図1または図2に示す回収システムでは、浸透気化装置3の透過液に含まれる有機成分(有機溶剤や有機酸、アミン)を逆浸透膜により除去し、これらの有機成分、特に有機酸やアミンがスクラバー1に循環しないようにしている。しかしながら、システム内をそれらの有機成分が循環してその濃度が高くなることを防止するためには、逆浸透膜の透過水の水質を測定し、それらの有機成分が含まれていないことを確認することが有用である。図3に示す回収システムは、図1に示す回収システムにおいて、逆浸透膜装置5の透過水に含まれる有機成分の濃度を測定する不純物濃度測定装置9を設けたものである。図4に示す回収システムは、図2に示す回収システムにおいて、純水装置7に接続して純水装置7内の逆浸透膜の透過水に含まれる有機成分の濃度を測定する不純物濃度測定装置9を設けたものである。図3及び図4のいずれの回収システムにおいても、不純物濃度測定装置9は、例えば、比抵抗計、TOC(全有機炭素;Total Organic Carbon)濃度計、屈折率計などによって構成することができる。不純物濃度測定装置9は、逆浸透膜をリークして透過水に含まれることとなった有機溶媒と、有機溶剤よりも低い沸点を有して透過水に含まれている有機物との少なくとも一方の濃度を測定できるものであることが好ましい。
【0019】
本発明に基づく回収システムでは、有機溶媒と水との混合液から有機溶媒と水とを分離する分離装置として、蒸留装置を用いることもできる。図5は、図1に示す回収システムにおいて、浸透気化装置の代わりに蒸留装置8を設けたものである。ここでは、2段の蒸留塔8A,8Bからなる蒸留装置が用いられている。有機溶媒の沸点が水の沸点よりも高いとすれば、スクラバー1からの混合液を蒸留装置に供給して蒸留したときに。水は、1段目の蒸留塔8Aの塔頂ガスとして排出される。1段目の蒸留塔8Aの塔底成分を2段目の蒸留塔8Bに供給することにより、2段目の蒸留塔8Bの塔頂から有機溶媒が得られ、塔底から高沸点成分からなる不純物が排出される。1段目の蒸留塔8Aの塔頂ガスを凝縮して得られる塔頂液は、水を主成分として若干の有機溶媒のほかに低沸点の有機酸やアミンを含んでいる。塔頂液には塩類などの不揮発性不純物を含まない。1段目の蒸留塔8Aの塔頂ガスを凝縮して得られる塔頂液に含まれる有機溶媒の濃度は、例えば20質量%未満であり、8質量%未満であることが好ましい。このような不純物を含む塔頂液をそのままスクラバー1において有機溶媒を吸収するための水として再利用すると、スクラバー1と蒸留装置8との間で循環する水に含まれる不純物濃度が上昇し、その結果、スクラバーから放出される処理ガスに有機酸やアミンが含まれるようになったり、スクラバーにおける有機溶媒の回収率が低下して処理ガス中に有機溶媒が含まれるようになったりする。そこで図5に示す回収システムにおいても逆浸透膜装置5が設けられており、塔頂液を逆浸透膜装置5で処理して得られた透過水をスクラバー1に供給するようにしている。この回収システムにおいても図1に示す回収システムと同様に、純水製造に用いられる消耗品や純水製造に必要なエネルギーを大幅に削減することができ、スクラバー1から排出される処理ガスにおける有機溶媒濃度や不純物濃度を低く抑えることができ、システム全体として有機溶媒を精度よく分離することができる。
【0020】
図5に示す回収システムにおいても、スクラバー1に供給する純水を生成する純水装置として逆浸透膜を備えたものを用いる場合には、逆浸透膜装置5を別途設けることなく、蒸留装置8からの塔頂液を純水装置そのものにおいて処理することができる。図6はそのような回収システムを示しており、純水装置として、逆浸透膜を有する純水装置7が用いられるとともに、塔頂ガスを凝縮して得た塔頂液が純水装置7に送られている。
【0021】
次に、上述した各回収システムにおいて用いられる逆浸透膜装置5の構成の一例を説明する。分離装置として浸透気化装置を単段で設けた場合には、浸透気化装置の透過液には数質量%から十数質量%で有機溶媒が含まれることがある。蒸留装置を用いる場合であっても、蒸留装置から得られる水には数百ppm程度の有機溶媒が含まれることがある。そこで、逆浸透膜装置5として、それぞれが逆浸透膜を備える複数の逆浸透膜ユニットを、前段の逆浸透膜ユニットの透過水が後段の逆浸透膜ユニットに供給されるように、直列に接続し、かつ、各段の逆浸透膜ユニットからの濃縮水が初段の逆浸透膜ユニットの入口側に戻されるようにしたものを用いることができる。このような構成の逆浸透膜装置5を使用すれば、複数段にわたって逆浸透膜を透過することにより有機溶媒や不純物の濃度が極めて低くなった水が得られるとともに、初段の逆浸透膜ユニットの入口側から有機溶媒濃度が高められた液体すなわち濃縮液を得ることができる。
【0022】
ここで有機溶媒がNMPであるとして、本発明者らが得た知見を説明する。浸透気化装置3の透過液を逆浸透膜によって処理し、NMP濃度が高められた濃縮水と、NMPが除去された透過水とを得ることを計画した。そこで、NMPと水との混合液を逆浸透膜に共有することとして、混合液におけるNMP濃度と、逆浸透膜におけるNMPの阻止率とを求めた。逆浸透膜としては、ポリアミドからなる高圧用の逆浸透膜SWC5-LD-4040(Hydranautics社製)を用い、逆浸透膜への混合液の供給圧を6MPaとした。結果を図7に示す。図7では、NMPの阻止率の代わりに、1から阻止率を減算した値である漏洩率によって結果が示されている。図7に示されるように、混合液におけるNMP濃度が希薄濃度側から80g/kg(すなわち8質量%)程度までの濃度範囲では、NMP濃度が高くなるにつれて徐々にNMP漏洩率が低下した。すなわち、NMP阻止率が上昇した。これに対し、NMP濃度が80g/kg程度を超えると、急激にNMP漏洩率が上昇した。このことは、NMP阻止率の低下を意味する。NMP濃度が80g/kgではNMP阻止率は99.2%であったのに対し、NMP濃度が200g/kg(すなわち20質量%)ではNMP阻止率は81.6%となった。
【0023】
さらに、このようにNMP阻止率が低下した逆浸透膜に対し、NMP濃度が低い混合液(例えば、NMP濃度が10g/kgである混合液)を供給しても、NMP阻止率は回復しなかった。ひとたび高濃度のNMPに逆浸透膜が接触すると、その逆浸透膜は不可逆的に劣化してNMP阻止率が低下することが分かった。複数の逆浸透膜ユニットを直列に接続し、各段の逆浸透膜ユニットからの濃縮水を初段の逆浸透膜ユニットの入口側に戻すことによって、有機溶媒が除去された透過水と有機溶媒濃度が高められた液とを得るようにした逆浸透膜装置において、このようなNMP阻止率の低下が発生すると、逆浸透膜装置全体としての水と有機溶媒との分離性能が低下し、最終的に得られる水における不純物濃度を所定値以下とするために必要な逆浸透膜ユニットの段数が増加したり、処理時間が長くなったりし、処理に必要とされるエネルギーも増加する。特に、初段の逆浸透膜ユニットにおける逆浸透膜の劣化が顕著となる。
【0024】
図8に示す逆浸透膜装置は、複数の逆浸透膜ユニットを直列に接続して構成される逆浸透膜装置であって、高濃度に有機溶媒を含む液による逆浸透膜での有機溶媒阻止率の低下の影響が後段側の逆浸透膜ユニットに及ばないようにして、逆浸透膜装置全体としての水と有機溶媒との分離効率を高めるようにしたものであり、本発明の回収システムにおいて逆浸透膜装置5として好適に用いられるものである。図8に示す逆浸透膜装置は、前段の逆浸透膜ユニットの透過水が後段の逆浸透膜ユニットに供給されるように複数段で逆浸透膜ユニットが直列に接続されて設けられている低濃度処理部10と、低濃度処理部10とは別個に設けられた濃縮用の逆浸透膜ユニット40とを備えている。図示した例では、低濃度処理部10では、4段の直列に接続された逆浸透膜ユニット41~44が設けられている。各逆浸透膜ユニット40~44はその内部に逆浸透膜45を備えている。まず、低濃度処理部10の構成を説明する。
【0025】
低濃度処理部10では、外部からNMPと水との混合液である原液が供給されてこの原液を一時的に貯える貯槽21が設けられており、貯槽21内の液体はポンプ32によって1段目の逆浸透膜ユニット41に供給される。貯槽21は1段目の貯槽である。原液は、浸透気化装置3からの透過液、あるいは蒸留装置8の1段目の蒸留塔8Aの塔頂ガスを凝縮して得られた塔頂液である。逆浸透膜ユニット41において逆浸透膜45を透過した液体すなわち透過水は、2段目の貯槽である貯槽22に一時的に貯えられ、ポンプ32を介して2段目の逆浸透膜ユニット42に供給される。同様に逆浸透膜ユニット42からの透過水は、3段目の貯槽23に一時的に貯えられ、ポンプ33を介して3段目の逆浸透膜ユニット43に供給され、逆浸透膜ユニット43からの透過水は、4段目の貯槽24に一時的に貯えられ、ポンプ34を介して4段目の逆浸透膜ユニット44に供給される。4段目の逆浸透膜ユニット44からの透過水は、NMPをほとんど含まない水であり、例えば純水として利用可能であり、スクラバー1に供給される。1段目の逆浸透膜ユニット41において逆浸透膜45を透過することなく逆浸透膜ユニット41の濃縮側の出口から排出される液体すなわち濃縮水は、配管を経て貯槽21に戻される。同様に逆浸透膜ユニット42~44からの濃縮水も配管を経て貯槽21に戻される。
【0026】
一方、濃縮用の逆浸透膜ユニット40は、NMP濃度が高められた濃縮液の生成に用いられるものである。濃縮用の逆浸透膜ユニット40の前段には濃縮液貯槽20が設けられている。低濃度処理部10の貯槽21内の液体を濃縮液貯槽20に供給するための配管51が設けられ、配管51には弁52が設けられている。濃縮液貯槽20内の液体はポンプ30によって濃縮用の逆浸透膜ユニット40に供給され、この逆浸透膜ユニット40の逆浸透膜45を透過した水すなわち透過液は、低濃度処理部10の貯槽21に供給される。濃縮用の逆浸透膜ユニット40からの濃縮水は、濃縮液貯槽20に戻される。濃縮液貯槽20には、濃縮液貯槽20内の液体を排出するための配管53が接続し、配管53には弁54が設けられている。
【0027】
図7を用いて説明したように、逆浸透膜45におけるNMP阻止率は、NMP濃度が低濃度であるときは、NMP濃度がある値になるまでNMP濃度の上昇とともに増大し、その値を超えてNMP濃度が大きくなると急激に低下する。そして高濃度のNMPに接触した逆浸透膜45は、その後、NMP濃度が低い液体を処理するときにおいても阻止率は低下したままである。NMP阻止率が最大になるNMP濃度を最大阻止率濃度Aとすると、図7に示した例では最大阻止率濃度Aは8質量%程度である。ここで説明する逆浸透膜装置では、安全性を見込んで最大阻止率濃度Aよりも低めに設定された閾値濃度Bを基準として(すなわち0<B<A)、逆浸透膜ユニット41~44を4段直列に接続して構成された低濃度処理部10において閾値濃度Bよりも低濃度にNMPを含む液体を処理し、これとは別に設けられた濃縮用の逆浸透膜ユニット40において、閾値濃度Bよりも高濃度にNMPを含む液体を処理する。ここでは、約8質量%である最大阻止率濃度Aに対応して、閾値濃度Bを5質量%に設定するものとする。
【0028】
次に、この逆浸透膜装置の運転方法について説明する。逆浸透膜装置では、NMPと水との混合液である原液が、低濃度処理部10での1段目の逆浸透膜ユニット41の入口側に配置された貯槽21に供給される。貯槽21に接続する配管51に設けられた弁52は閉じたままとする。原液におけるNMP濃度は閾値濃度B未満、例えば1質量%である。貯槽21内の原液はポンプ31によって1段目の逆浸透膜ユニット41に供給され、1段目の逆浸透膜ユニット41の透過水はポンプ32によって2段目の逆浸透膜ユニット42に供給され、以下同様にして、4段目の逆浸透膜ユニット44にまで供給され、4段目の逆浸透膜ユニット44からは、排水として、NMPやその他の不純物をほとんど含まない水が排出される。この水をスクラバー1に供給することができる。逆浸透膜ユニット41~44からの濃縮水は貯槽21に戻されるから、低濃度処理部10の運転を継続するにつれて貯槽21内の液体のNMP濃度が上昇し、やがて、閾値濃度Bである5質量%に到達する。貯槽21内の液体のNMP濃度が閾値濃度Bに達したら、弁52を開けて、貯槽21内の液体を濃縮液貯槽20に排出する。濃縮液貯槽20に接続する配管53に設けられた弁54は閉じたままとする。そしてポンプ30を起動して濃縮液貯槽20内の液体を濃縮用の逆浸透膜ユニット40に供給する。濃縮用の逆浸透膜ユニット40の透過水は低濃度処理部10の貯槽21に供給され、濃縮水は濃縮液貯槽20に戻される。その結果、濃縮用貯槽20内の液体のNMP濃度は、最初は上述した閾値濃度Bである5質量%であったが徐々に上昇し、やがて所定の濃度、例えば20質量%に到達する。所定の濃度に到達したら、配管53に設けられた弁54を開け、濃縮液貯槽20内の液体をNMP濃度が20質量%であるNMP濃縮液として外部に排出する。
【0029】
以上の動作を繰り返すことにより、低濃度処理部10の貯槽21から濃縮液貯槽20に対しNMP濃度が5質量%の液体が間欠的に排出され、濃縮液貯槽20からはNMP濃度が20質量%であるNMP濃縮液が間欠的に排出される。その間、低濃度処理部10の4段目の逆浸透膜ユニット44からは純水が排出される。低濃度処理部10においては、その1段目の逆浸透膜ユニット41でのNMP濃度が低濃度処理部10での最大のNMP濃度となるが、閾値濃度Bを5質量%に設定しているので、1段目の逆浸透膜ユニット41におけるNMP阻止率として99%程度を確保できる。濃縮用の逆浸透膜ユニット40に供給される液体におけるNMP濃度の最大値は20質量%であり、そのとき、濃縮用の逆浸透膜ユニット40における逆浸透膜45のNMP阻止率は例えば80%であってその透過水におけるNMP濃度は4%程度となるが、低濃度処理部10の1段目の逆浸透膜ユニット41でのNMP阻止率が十分に高いため、ここで説明する逆浸透膜装置によれば、NMP濃度が高いNMP濃縮液を得ることを可能にしつつ、後段側へのNMPのリーク量を低い値に抑えることができ、逆浸透膜装置全体での水と有機溶媒との分離性能を高く維持できる。その結果、混合液を純水と所望の濃度のNMP濃縮液とに分離するために要する運転時間を短縮でき、ポンプ30~34の駆動などに要する消費エネルギーを低減することができる。なお、逆浸透膜装置に供給される原液におけるNMP濃度が閾値濃度B以上である場合には、その原液は、低濃度処理部10の貯槽21ではなく、図において破線で示すように、濃縮液貯槽20に供給することが好ましい。もっとも、原液のNMP濃度が閾値濃度B以上であってもその原液を低濃度処理部10の貯槽21に供給してもよい。また、図8に示す逆浸透膜装置においては、各段の逆浸透膜ユニット41~44の濃縮水をすべて1段目の貯槽21に戻す必要はなく、その逆浸透膜ユニットの入口よりも前段に位置するいずれかの貯槽に濃縮水を戻してもよい。例えば3段目の逆浸透膜ユニット43の場合であれば、その逆浸透膜ユニット43から排出される濃縮水は、1段目から3段目までの貯槽21~23の少なくとも1つに循環されればよい。なお、濃縮用の逆浸透膜装置40の運転に支障がない場合には、各段の逆浸透膜ユニット41~44の濃縮水の一部を濃縮液貯槽20に供給することも可能である。
【0030】
ところで、図8に示す逆浸透膜装置では、低濃度処理部10において1段目の逆浸透膜ユニット41に対して2段目以降の逆浸透膜ユニット42~44の濃縮水が戻されるので、1段目の逆浸透膜ユニット41での処理液量が大きくなり、透過液量も大きくする必要がある。しかしながら一般に逆浸透膜ユニットの透過液量は逆浸透膜の膜面積や透過流束によって決まるから、必要な分離性能を維持しつつ1段目の逆浸透膜ユニット41における透過液量を大きくすることには、装置の規模やコストなどの点で限界がある。図9に示した逆浸透膜装置は、本発明の回収システムにおいて逆浸透膜装置5として好適に用いられるものであって、低濃度処理部10に設けられる複数の逆浸透膜ユニット41~44の間での処理液量をできるだけ均等化するように構成したものである。以下、図9に示す逆浸透膜装置について説明する。
【0031】
図9に示す逆浸透膜装置は、図8に示す逆浸透膜装置と比べ、低濃度処理部10の構成のみが異なっている。低濃度処理部10には、図8に示すものと同様に、貯槽21~24及びポンプ31~34を介して4段の直列に接続された逆浸透膜ユニット41~44が設けられているが、各段の逆浸透膜ユニット41~44の濃縮側の出口から排出される液体すなわち濃縮水がその段の貯槽21~24にそれぞれ戻される点で、図8に示したものと異なっている。さらに、2段目の貯槽22内の液体を1段目の貯槽に供給するための配管62が設けられ、配管62には弁72が設けられている。同様に、3段目の貯槽23内の液体をその前段である2段目の貯槽に供給するための配管63が設けられ、配管63には弁73が設けられ、4段目の貯槽24内の液体を3段目の貯槽に供給するための配管64が設けられ、配管64には弁74が設けられている。
【0032】
弁52,72~74を閉じたまま逆浸透膜装置を運転すると、各段の貯槽21~24内の液体のNMP濃度が次第に上昇する。1段目の貯槽21については、図8に示した逆浸透膜装置の場合と同様に、貯槽21内の液体のNMP濃度が閾値濃度B(例えば5%)に達したら、弁52を開けて、貯槽21内の液体を濃縮液貯槽20に排出する。2段目以降の貯槽22~24については、その貯槽22~24内の液体のNMP濃度が所定倍に濃縮された時点でそれぞれ弁62~64を開けて、それらの液体を前段の貯槽21~23に排出する。すなわち、前段の貯槽に対する間欠排出を行う。ここでいう所定倍に濃縮されるとは、ある段の貯槽に関し、前回、液体を前段の貯槽に排出した直後のその貯槽における液体のNMP濃度に比べて現在のNMP濃度が所定倍になったことを意味する。所定倍は、例えば10倍であるが、何段目の貯槽であるかによって異ならせてもよい。もちろん、運転開始後であってまだ間欠排出を行っていないときは、運転開始直後での貯槽におけるNMP濃度に比べて現在のNMP濃度がどれだけ上昇したかに応じて、間欠排出を行うかどうかの判断を行う。
【0033】
この逆浸透膜装置においても、低濃度処理部10において閾値濃度Bよりも低濃度にNMPを含む液体を処理し、これとは別に設けられた濃縮用の逆浸透膜ユニット40において、閾値濃度B以上の濃度でNMPを含む液体を処理する。したがって、この逆浸透膜装置に供給される原液は、そのNMP濃度が閾値濃度B未満であるときは、低濃度処理部10の1段目の貯槽21に供給され、NMP濃度が閾値濃度B以上であるときは、濃縮液貯槽20に供給される。
【0034】
図9に示す逆浸透膜装置では、低濃度処理部10の1段目の逆浸透膜ユニット41に対して2段目以降の逆浸透膜ユニット42~44の濃縮水が連続的に供給されることはないので、図8に示す逆浸透膜装置に比べ、1段目の逆浸透膜ユニット41における処理液量を低減することができる。また2段目以降の逆浸透膜ユニット42~44は、少なくともそれ自身の濃縮水を再度処理することとなる。これらのことにより、図9に示す逆浸透膜装置では、低濃度処理部10に設けられる複数の逆浸透膜ユニット41~44の間での処理液量をできるだけ均等化することができる。
【0035】
図8及び図9に示す逆浸透膜装置では、低濃度処理部10において、1段目の逆浸透膜ユニット41の透過水が2段目の貯槽22を経て2段目の逆透過膜ユニット42に供給され、2段目の逆浸透膜ユニット42の透過水が3段目の貯槽23を経て3段目の逆透過膜ユニット43に供給され、というように、1段目の逆浸透膜装置41を先頭として、複数の逆浸透膜ユニットが直列に接続されている。この構成は、iを1以上n以下の整数として、第i段目の逆浸透膜ユニットの透過水が第i+1段目の貯槽を介して第i+1段目の逆浸透膜ユニットに供給されるように接続されて各々が逆浸透膜を備える合計n+1段の逆浸透膜ユニットを備える構成であるといえる。そして、図8及び図9に示す逆浸透膜装置では、各段の逆浸透膜ユニットの透過水の少なくとも一部が、1段目からその段までのいずれか1以上の貯槽に供給される。しかしながら本発明の回収システムにおいて用いられる逆浸透膜装置5では、低濃度処理部10において、直列接続されている合計n+1段の逆浸透膜ユニットとは別系統で逆浸透膜ユニットを設け、直列接続されている合計n+1段の逆浸透膜ユニットのうちの2段目以降の逆浸透膜ユニットのいずれか1つ以上からの濃縮水の少なくとも一部を、別系統の逆浸透膜ユニットにおいて処理するようにしてもよい。図10は、2段目以降のいずれか1つ以上の逆浸透膜ユニットからの濃縮水が別系統の逆浸透膜ユニットにおいて処理される逆浸透膜装置の一例を示している。
【0036】
図10に示す逆浸透膜装置では、低濃度処理部10において、1段目の逆浸透膜ユニット41からn+1段目の逆浸透膜ユニット49までが直列に接続するとともに、この直列接続からは分離しているすなわち別系統の逆浸透膜ユニット82が設けられている。この逆浸透膜装置においてn段目の逆浸透膜ユニット48に注目すると、n段目の逆浸透膜ユニット48の入口側にはn段目の貯槽28が設けられており、この貯槽28内の液体がポンプ38を介してn段目の逆浸透膜ユニット48に供給される。n段目の逆浸透膜ユニット48の透過水は、n+1段目の貯槽29に送られる。同様に、n+1段目の逆浸透膜ユニット49には、n+1段目の貯槽29内の液体がポンプ39を介して供給される。一方、n段目及びn+1段目の逆浸透膜ユニット48,49の濃縮水は、別系統の逆浸透膜ユニット82の入口に設けられている貯槽80に送られる。この貯槽80内の液体は、ポンプ81を介して逆浸透膜ユニット82に供給され、逆浸透膜ユニット82からの濃縮水は貯槽80に戻される。逆浸透膜ユニット82の透過水は、例えば、n+1段目の逆浸透膜ユニット49の透過水とともに排水として排出されてもよい。別系統の逆浸透膜ユニット82の後段にこの逆浸透膜ユニット82の透過水が供給される逆浸透膜ユニットをさらに設けてもよい。貯槽80内の液量が多くなったときや貯槽80内の液体におけるNMP濃度が上昇したときは、弁83を介して貯槽80内の液体を1段目の貯槽21に間欠的に排出してもよい。
【0037】
図10に示す逆浸透膜装置においては、n+1段に直列接続された逆浸透膜ユニット41,…,48,49において、2段目からn-1番目の逆浸透膜ユニットからの濃縮水は、図8に示す逆浸透膜装置のように1段目の貯槽21に供給されてもよいし、図9に示した逆浸透膜装置のように当該段の貯槽に循環されるようにしてもよい。また、n+1段の逆浸透膜ユニット41,…,48,49が直列接続されているときに、貯槽80に対して濃縮水を供給することとなる逆浸透膜ユニットはn段目とn+1段目に限定されるものではなく、これ以外の段の逆浸透膜ユニットの濃縮水が貯槽80に供給されるようにしてもよい。この分離システムでは、少なくとも1つの段の逆浸透膜ユニットの濃縮水の少なくとも一部が、1段目からその段までのいずれか1つ以上の貯槽に供給されていればよい。すなわち、2≦j≦n+1を満たす少なくとも1つの整数jに関し、第j段目の逆浸透膜ユニットからの濃縮水の少なくとも一部が第1段目から第j段目までの貯槽の少なくとも1つに供給されていればよい。
【0038】
以上、本発明の回収システムにおいて利用可能な逆浸透膜装置のいくつかの例について説明したが、逆浸透膜装置において水との分離対象となる有機溶媒はNMPに限定されるものではない。逆浸透膜装置を構成する逆浸透膜は、ポリアミドからなるものでも酢酸セルロースからなるものでもポリスルホンからなるものでもポリイミドからなるものでもよい。特に、本発明において用いられる逆浸透膜としては、海水の淡水化などの使用されて一般に高圧膜と呼ばれている、一次側入口圧力5.5MPa、有効圧力2.7MPa、NaCl濃度32000mg/L、温度25℃における透過流束が、0.1~3.0m/m/dayの範囲、好ましくは0.3~2.0m/m/dayの範囲、より好ましくは0.5~1.7m/m/dayの範囲であり、NaCl阻止率が90%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.6%以上の特性を有する逆浸透膜が例示される。ここで「有効圧力(有効圧)」とは、JIS K3802:2015「膜用語」に記載の、平均操作圧から浸透圧差及び二次側圧を差し引いた、膜に働く有効な圧である。なお、平均操作圧は、膜の一次側における膜供給水の圧力(運転圧力:一次側入口圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値のことであり、
平均操作圧=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2
によって表される。
【0039】
一次側入口圧力5.5MPa、有効圧力2.7MPa、NaCl濃度32000mg/L、温度25℃における透過流束が0.1~3.0m/m/dayの範囲であってNaCl阻止率が90%以上の特性を有し、高圧膜と呼ばれている市販の逆浸透膜としては、例えば、FILMTEC製のSW30シリーズ、SW30HRシリーズ、SW30HRLEシリーズ、SW30ULEシリーズ、SW30XLEシリーズ、SW30XHRシリーズ、SEAMAXXシリーズ、日東電工製のSWC2シリーズ、SWC3シリーズ、SWC4シリーズ、SWC5シリーズ、SWC6シリーズ、東レ製のTM800Cシリーズ、TM800Mシリーズ、TM800Eシリーズ、TM800Rシリーズ、TM800Vシリーズ、TM800Kシリーズ、SU-800シリーズ等が挙げられる。
【0040】
以上の説明では閾値濃度Bを5質量%としたが、閾値濃度Bには、分離対象の有機溶媒の種類、逆浸透膜装置において使用する逆浸透膜の種類などに応じて適切な値が選択される。低濃度処理部10において直列に接続される逆浸透膜ユニットの段数は4に限定されるものではなく、最終的に得られる水の水質要求値などに応じて段数は適宜に定められる。場合によっては低濃度処理部10に1個の逆浸透膜ユニットしか設けない構成とすることもできる。
【0041】
本発明に基づく回収システムは、水に溶解する性質を有する有機溶媒を回収するときに好適に用いられるものである。例えば、リチウムイオン二次電池の製造工程においてNMPを蒸発させたことにより発生するNMP蒸気を処理してNMPを回収するときに好ましく使用することができる。
【実施例0042】
次に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0043】
[実施例1]
図1に示す回収システムのうち、浸透気化装置3及び逆浸透膜装置5の部分を組み立て、有機酸及びアミンを含む有機溶媒水溶液を浸透気化装置3に供給した。浸透気化装置3としては単段構成のものを使用し、逆浸透膜装置5としても単段構成のものを使用した。浸透気化膜4にはA型ゼオライト膜及びCHA型ゼオライトを使用し、逆浸透膜6として高圧型である日東電工製のSWC5を使用し、それぞれの場合について、浸透気化装置3の入口液(PV入口液)の組成、浸透気化装置3の透過液(PV透過液)(すなわち逆浸透膜装置5の入口液)の組成、及び逆浸透膜装置5の透過水(RO透過水)の組成を調べた。浸透気化膜4がA型ゼオライト膜であるときの結果を表1に示し、CHA型ゼオライト膜であるときの結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1及び表2より、浸透気化装置3において有機酸及びアミンの各成分はいずれも透過液の側に移行したが、逆浸透膜装置5の透過水にはほとんど含まれなかった。逆浸透膜装置5の透過水にはNMPもほとんど含まれていなかった。このことから、浸透気化装置の透過液を逆浸透膜で処理することにより、スクラバーにおいて有機溶媒と接触させるときに使用可能な水質の水が得られることが分かった。
【0047】
[実施例2]
図5に示す回収システムのうち、蒸留装置8及び逆浸透膜装置5の部分を組み立て、有機酸及びアミンを含む有機溶媒水溶液を蒸留装置8に供給した。逆浸透膜装置5として単段構成のものを使用した。蒸留装置8の1段目の蒸留塔8Aの塔頂ガスを凝縮して得た水(塔頂液)の組成、及び逆浸透膜装置5の透過水(RO透過水)の組成を調べた。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3より、塔頂液にはNMP、有機酸及びアミンの各成分が含まれているが、逆浸透膜装置5の透過水にはほとんど含まれなかった。このことから、蒸留装置において分離された水(塔頂液)を逆浸透膜で処理することにより、スクラバーにおいて有機溶媒と接触させるときに使用可能な水質の水が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0050】
1 スクラバー
2,7 純水装置
3 浸透気化装置
4 浸透気化膜
5 逆浸透膜装置
6,45 逆浸透膜
8 蒸留装置
8A,8B 蒸留塔
9 不純物濃度測定装置
10 低濃度処理部
20 濃縮液貯槽
21~24 貯槽
30~34 ポンプ
40~44 逆浸透膜ユニット
51,53 配管
52,54,55 弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10