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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085667
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/01 401
B41J2/01 129
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200314
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】岡戸 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】数馬 杏子
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慶成
(72)【発明者】
【氏名】八木 猛
(72)【発明者】
【氏名】瀧元 光太
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EC08
2C056EC28
2C056EC71
2C056EC72
2C056EC74
2C056EE18
(57)【要約】
【課題】 特殊インクとカラーインクを吐出するインクジェットプリンタにおける、印刷の品質と生産性とを両立させる。
【解決手段】 インクジェットプリンタ1の制御部20は、特殊インクの吐出を第1の濃度特性線Q1に従って制御し、カラーインクの吐出を第2の濃度特性線Q2に従って制御し、第1の濃度特性線Q1では、特殊インクの吐出を許可する特殊インク吐出許可範囲が、第1のノズル列Nzlの上流側又は下流側の一部において設定され、第2の濃度特性線Q2は、特殊インク吐出許可範囲と、第1の方向において部分的に重複し、その重複範囲S1においては、第1のノズル列Nzlのノズル使用率が、第2のノズル列Nzk(Nzc~Nzy)のノズル使用率よりも高い範囲R2が存在する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メディアに特殊インクを吐出する第1のノズル列と、前記メディアにカラーインクを吐出する第2のノズル列とを含む印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドと前記メディアとを相対的に、第1の方向、及び前記第1の方向に交差する第2の方向に移動させる移動機構と、
前記印刷ヘッドと前記移動機構を制御して、前記メディアにマルチパス方式の印刷を行う制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記第1のノズル列に含まれる複数のノズルの各々からの前記特殊インクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す第1の濃度特性線に従って制御すると共に、
前記第2のノズル列に含まれる、複数のノズルの各々からの前記カラーインクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す、前記第1の濃度特性線とは独立に設定される第2の濃度特性線に従って制御し、
かつ、
前記第1の濃度特性線では、
前記特殊インクの吐出を許可する特殊インク吐出許可範囲が、前記第1のノズル列の一部において設定され、
前記第2の濃度特性線は、
前記特殊インク吐出許可範囲と、前記第1の方向において部分的に重複し、
その重複範囲においては、
前記第1のノズル列のノズル使用率が、前記第2のノズル列のノズル使用率よりも高い範囲が存在する、
インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記第1の濃度特性線は、
前記第1の方向において、一方側から他方側へとノズル使用率が階段状に変化する部分を備える四角型の形状、
又は、
前記第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に増すように変化する、一方側の第1の部分と、
前記第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に減少するように変化する、他方側の第2の部分と、
を備える、三角型の形状、又は、台形型の形状、
を有する、
請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記第2の濃度特性線は、
前記第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に増すように変化する、一方側の第3の部分と、
前記第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に減少するように変化する、他方側の第4の部分と、
を備える、三角型の形状、又は、台形型の形状を有する、
請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記移動機構によって、前記印刷ヘッドに対して前記メディアが第1の方向に沿って相対移動される場合には、前記メディアの移動元の方向を一方側とし、移動先の方向を他方側とし、
前記移動機構によって、前記メディアに対して前記印刷ヘッドが第1の方向に沿って相対移動される場合には、前記印刷ヘッドの移動先の方向を一方側とし、移動元の方向を他方側とし、
前記特殊インクが、前記カラーインクの下地である前記メディアに塗布することが意図される下地塗布型の特殊インクである場合には、
前記特殊インク吐出許可範囲は、前記第2の濃度特性線の一方側において部分的に重複するように設定され、
前記特殊インクが、前記カラーインクの上に塗布することが意図されるコーティング型の特殊インクである場合には、
前記特殊インク吐出許可範囲は、前記第2の濃度特性線の他方側において部分的に重複するように設定される、
請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記特殊インク吐出許可範囲と前記第2の濃度特性線とが重複する前記重複範囲において、
前記第2の濃度特性線は、その一部に、ノズル使用率が0%である範囲を含む、
請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記特殊インク、及び前記カラーインクは、光硬化性のインクであり、
吐出済みの前記特殊インク及び前記カラーインクに光を照射する光照射装置が設けられている、
請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記制御部は、
前記第1、第2の各濃度特性線を用いて、前記第1、第2の各ノズル列における特殊インク、カラーインクの吐出を、1つのノズル単位で制御可能である、
請求項1乃至6の何れか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クリアインクとカラーインクを同時に吐出してマルチパス方式の印刷を実施するインクジェットプリンタが示されている(例えば、明細書の[0054]、図2図5等)。
【0003】
特許文献2には、インクと、水を含む処理液とを同時に吐出してマルチパス(シリアル方式)の印刷を行うと共に、インクを吐出するノズル、及び処理液を吐出するノズルの各々に、ノズル使用率を示す特性線である濃度特性線(言い換えれば「濃度カーブ」)を適用し、各ノズルからのインク、及び処理液の吐出を個別に制御することが記載されている(例えば、明細書の[0171]、図4図9等)。
なお、上記のノズル使用率を示す特性線については、以下の説明では、「濃度特性線」という表現を使用する。
【0004】
特許文献3には、クリアインクを吐出するノズル列に含まれるノズルを、上流側のノズルと下流側のノズルに2分割し、上流側、下流側の各々のノズルに対して、異なる濃度特性線を適用することが記載されている(例えば、明細書の[0035]、図3図6図7等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-10609号公報
【特許文献2】特開2021-6390号公報
【特許文献3】特開2022-121833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、特殊インク、カラーインクの各々の吐出を、各インクに対応して独立に設定される濃度特性線によって制御することを検討し、その結果、以下の知見を得た。
特許文献2に示されるように、第1の方向(副走査方向)における2つの濃度特性線の全範囲にわたる重複を許容する場合、その重複する範囲で、特殊インクのドットとカラーインクのドットとが競合することになり、このとき、特殊インクの着弾に失敗することも想定されるため、その重複する範囲が広範囲になるほど、特殊インクの無駄も増え、また例えば、特殊インクの大量の吐出は、色ムラの一因ともなり得る。
【0007】
また、特許文献3に示されるように、ノズル列に含まれる複数のノズルを、第1方向(副走査方向)において2分割し、分割されたノズル群に各インク用の濃度特性線を設定すれば、濃度特性線の重複はないため、各インクのドットの競合は無くなり、上記のインクの無駄や色ムラ等は抑制されるが、しかし、その一方で、カラー画像の形成に使用されるノズルの数が半減するため、その画像の印刷を完了させるための時間が長くなり、印刷の生産性(印刷のスループット)は低下する。
このように、従来の技術は、印刷の品質と、印刷の生産性とを両立させることについては、改善の余地がある。
【0008】
本発明の1つの目的は、特殊インクとカラーインクを吐出するインクジェットプリンタにおける、印刷の品質と生産性とを両立させることである。
【0009】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
本発明に従う態様において、インクジェットプリンタは、メディアに特殊インクを吐出する第1のノズル列と、前記メディアにカラーインクを吐出する第2のノズル列とを含む印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドと前記メディアとを相対的に、第1の方向、及び前記第1の方向に交差する第2の方向に移動させる移動機構と、前記印刷ヘッドと前記移動機構を制御して、前記メディアにマルチパス方式の印刷を行う制御部と、を有し、前記制御部は、前記第1のノズル列に含まれる複数のノズルの各々からの前記特殊インクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す第1の濃度特性線に従って制御すると共に、前記第2のノズル列に含まれる、複数のノズルの各々からの前記カラーインクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す、前記第1の濃度特性線とは独立に設定される第2の濃度特性線に従って制御し、かつ、前記第1の濃度特性線では、前記特殊インクの吐出を許可する特殊インク吐出許可範囲が、前記第1のノズル列の一部において設定され、前記第2の濃度特性線は、前記特殊インク吐出許可範囲と、前記第1の方向において部分的に重複し、その重複範囲においては、前記第1のノズル列のノズル使用率が、前記第2のノズル列のノズル使用率よりも高い範囲が存在する。
【0011】
本態様では、特殊インクの吐出を制御する第1の濃度特性線と、カラーインクの吐出を制御する第2の濃度特性線を、各々独立に、かつ独自の形状に設計することで、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
【0012】
特殊インクの吐出については、使用するノズルの数を減らす(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数未満とする)ことで、無駄な特殊インクの吐出を抑制し、また塗布ムラや色ムラを抑制する。
【0013】
一方、カラーインクの吐出については、使用するノズルについては制限を付さない、あるいは制限を軽くする(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数を超えるノズルを使用し、さらに好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの全部を使用する)ことで、所望レベルの印刷の生産性を確保する。
【0014】
また、特殊インクを吐出するノズルの数は減るが、その一方、特殊インクが吐出されるノズルのノズル使用率を高く(例えば100%に)設定することで、第1、第2の濃度特性線の重複範囲では、ノズル使用率に関して、特殊インクを優勢とする。
【0015】
これによって、特殊インクのドットとカラーインクのドットとが競合する場合に、仮に、その競合するドットの全部において、特殊インクの着弾に失敗したとしても、ドットの競合が生じない範囲では、特殊インクの着弾が確実に成功する。
【0016】
この特殊インクの着弾に成功する画素の数が、ある程度多ければ、その部分で、カラーインクとメディアとの密着性、あるいは、カラーインクの光沢性は確保でき、印刷の品質の極端な低下は確実に抑制され、所望のレベルの印刷の品質は確保される。
【0017】
本態様では、第1、第2の濃度特性線を、従来に比べてはるかに高い自由度で、各々独立に設計することができる。よって、特殊インク、カラーインクの各々を吐出するノズルにおけるノズル使用率を、印刷物の用途、印刷に求められる機能性等の種々の状況に応じて細かく設計することができる。
【0018】
これにより、例えば、特殊インクとカラーインクの同時吐出を許容するマルチパス方式の印刷において、求められる印刷の品質と生産性を両立させることが可能となる。
【0019】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、インクジェットプリンタの構成の一例を示す図である。
図2図2は、キャリッジを上方から見た場合の、UVランプ、及び第1、第2のサブヘッドの構成と配置の一例を示す透視平面図である。
図3図3は、プリンタの要部のシステム構成の一例を示す図である。
図4図4は、ノズル使用率を示す濃度特性線を用いて、第2の方向(主走査方向)における画像の濃度を制御してマルチパス方式の印刷を行う場合の、濃度特性線の設定例、及び、その濃度特性線に基づくインク吐出の制御例を示す図である。
図5図5(A)は、濃度特性線の好ましい一例(三角型又は台形型)を示す図であり、図5(B)は、濃度特性線の他の例を示す図である
図6図6は、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線の一例を示す図である。
図7図7は、本発明を適用したマルチパス方式の印刷の一例(特殊インクとしてプライマーインクを使用する例)を示す図である。
図8図8(A)、図8(B)は各々、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線の他の例(変形例)を示す図である。
図9図9(A)、図9(B)は各々、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線のさらに他の例(他の変形例)を示す図である。
図10図10は、本発明を適用したマルチパス方式の印刷の他の例(特殊インクとしてグロスインクを使用する例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0022】
なお、本明細書において「インクジェットプリンタ」には、従来公知のインクジェット技術による印刷方法、例えば、2値偏向方式あるいは連続偏向方式等の連続方式や、サーマル方式、あるいは圧電素子方式等の各種のオンデマンド方式を利用したプリンタ全般を含めることができる。
【0023】
また、「プリンタ(印刷装置)」には、2次元の画像を印刷する2Dプリンタと、3次元の造形物を造形する3Dプリンタ(3次元造形装置)とを含めることができる。
【0024】
また、「インク」という用語は広義に解釈することができる。例えば、「液体」と表現することもできる。例えば、「インクジェットプリンタ」という用語は、「液体吐出装置」と表現することも可能である。
【0025】
また、マルチパス方式の印刷において、第1の方向(副走査方向)と交差する(好ましくは直交する)第2の方向(主走査方向)における、印刷ヘッドの1回の走査(1回の駆動)を「パス」と称する。マルチパス方式の印刷では、複数のパスを用いて所定の印刷領域における印刷を完成させる。なお、パスが更新されると、例えば、メディアは、第1の方向(副走査方向)の下流側に所定の画素数分だけ移動される。
【0026】
また、仮にメディアが第1の方向に沿って移動(搬送)されることを想定したとき、メディアの搬送元の方向を「上流」とし、搬送先の方向を「下流」とすることができる。
言い換えれば、移動機構によって、印刷ヘッドに対してメディアが第1の方向に沿って相対移動される場合には、メディアの「移動元」の方向を「上流側」、あるいは「一方側」とし、「移動先」の方向を、「下流側」、あるいは「他方側」としてもよい。
また、例えば、移動機構によって、メディアに対して印刷ヘッドが第1の方向に沿って相対移動される場合には、印刷ヘッドの「移動先」の方向を「上流側」、あるいは「一方側」とし、「移動元」の方向を、「下流側」、あるいは「他方側」としてもよい。
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1を参照する。図1は、インクジェットプリンタの構成の一例を示す図である。図1のプリンタ(印刷装置)1は、マルチパス方式の印刷に対応したプリンタである。マルチパス方式の印刷については後述する。
【0029】
プリンタ1は、2Dプリンタである。なお、以下の説明において、左、右、上、下とは、プリンタ1の正面にいるユーザ(プリンタ1の使用者)から見た左、右、上及び下をそれぞれ意味し、プリンタ1からユーザに近づく方を前方、遠ざかる方を後方とする。
【0030】
また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは各々、前(前方)、後(後方)、左、右、上、下を表す。プリンタ1の後方Rrは、メディア2とキャリッジ10が相対的に副走査方向に移動する場合における上流側に相当するため、図1では、「Rr(上流)」、「F(下流)」と表記されている。
【0031】
図中の符号Xは、第1の方向(副走査方向、あるいは前後方向)を表し、符号Yは、第1の方向に交差する(好ましくは直交する)第2の方向(主走査方向、あるいは左右方向)を表す。以下の説明では、「第1の方向(副走査方向)X」、「第1の方向X」と記載する場合があり、また、「第2の方向(主走査方向)Y」、「第2の方向Y」と記載する場合がある。
【0032】
また、符号Zは、上下方向を表す。なお、上下方向は、メディア(記録媒体)2、及びメディア2に形成される画像の厚み方向ということもできる。
【0033】
なお、以下に示されるメディア2とキャリッジ10とは、第1の方向(副走査方向)Xに関して、相対的に移動する。言い換えれば、メディア2が第1の方向Xに沿って上流側から下流側へと搬送されてもよく、あるいは、メディア2は移動せずに、キャリッジ10が第1の方向Xに沿って移動してもよい。
【0034】
以下の説明では、メディア2が第1の方向(副走査方向)Xに沿って搬送される例について説明する。
【0035】
図1のA-1、A-2に示されるプリンタ1は、プラテン3と、ガイドレール4と、ケーシング9と、キャリッジ10と、キャリッジ移動機構11と、印刷ヘッド12と、UVランプ17と、制御部20と、を有する。
【0036】
ケーシング9は、プリンタ1の筐体である。ケーシング9は、第2の方向(主走査方向Y)に延びている。ケーシング9の右端部には、操作パネル9Aが設けられている。操作パネル9Aには、操作状態等を表示する表示部と、ユーザによって操作される入力キー等と、が設けられている。ユーザは、操作パネル9Aを操作することで、例えばマルチパス方式の印刷に必要な各種の条件の設定等を行うことができる。
【0037】
プラテン3上には、メディア2が載置される。プラテン3の上方には、メディア2を上から押さえるピンチローラ5Aが設けられている。プラテン3におけるピンチローラ5Aと対向する位置には、グリッドローラ5Bが設けられている。グリッドローラ5Bは、フィードモータ(図1では不図示、図3の符号5C)に連結されている。フィードモータ5Cは、制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって動作が制御される。
【0038】
グリッドローラ5Bは、フィードモータ5Cの駆動力を受けて回転可能に構成されている。ピンチローラ5Aとグリッドローラ5Bとの間にメディア2が挟まれた状態でグリッドローラ5Bが回転すると、メディア2が第1の方向(副走査方向X)に搬送される。
【0039】
本実施形態では、ピンチローラ5Aとグリッドローラ5Bとフィードモータ5Cとが、メディア2を、第1の方向(副走査方向)Xに移動させる搬送機構を構成する。
【0040】
ガイドレール4は、ケーシング9に設けられ、第2の方向(主走査方向Y)に延びている。ガイドレール4には、キャリッジ10がスライド可能に係合している。
【0041】
キャリッジ10には、印刷ヘッド12と、光照射装置としてのUVランプ17とが搭載されている。キャリッジ10は、キャリッジ移動機構11によって第2の方向(主走査方向Y)に沿って移動可能である。
【0042】
キャリッジ移動機構11は、ガイドレール4の左右に配置されたプーリ6L、6Rと、このプーリ6L、6Rに巻き掛けられた無端状のベルト7と、プーリ6Rに連結されたキャリッジモータ8と、を備える。
【0043】
キャリッジ10は、ベルト7に固定されている。キャリッジモータ8は、制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって制御される。キャリッジモータ8が駆動すると、プーリ6Rが回転してベルト7が走行する。これにより、キャリッジ10と、キャリッジ10に搭載されている印刷ヘッド12とUVランプ17とが一体となって、ガイドレール4に沿って第2の方向(主走査方向)Yに移動する。
【0044】
印刷ヘッド12は、有色の光硬化性インク(以下、単に「カラーインク」と称する場合がある)を吐出する第1のサブヘッド121と、光硬化性の特殊インク(以下、単に「特殊インク」と称する場合がある)を吐出する第2のサブヘッド122と、を有する。なお、特殊インクは、クリアインクを含んでもよい。第1、第2の各サブヘッド121、122は、第2の方向(主走査方向)Yに沿って並置されている。
【0045】
本実施形態において、第1、第2の各サブヘッド121、122は、キャリッジ10に搭載されている。ただし、各サブヘッド121、122は、別々のキャリッジに搭載されてもよい。
【0046】
図2を参照する。図2は、キャリッジを上方から見た場合の、UVランプ、及び第1、第2のサブヘッドの構成と配置の一例を示す透視平面図である。
【0047】
印刷ヘッド12は、第2の方向(主走査方向)Yに沿って、左右の2つのUVランプ17、17に挟まれて配置されている。但し、この構成は一例であり、この構成に限定されるものではない。
【0048】
第1のサブヘッド121は、プロセスカラー(K)インク(例えば黒インク)を吐出する第1のヘッド部12Kと、シアン(C)インクを吐出する第2のヘッド部12Cと、マゼンタ(M)インクを吐出する第3のヘッド部12Mと、イエロー(Y)インクを吐出する第4のヘッド部12Yと、を備える。第1のサブヘッド121は、この他にホワイトインクを吐出するヘッド部を備えていてもよい。
【0049】
第2のサブヘッド122は、特殊(CL)インクを吐出する第5のヘッド部12CLを備える。
【0050】
特殊インクは、例えば、カラーインクの下地への塗布を意図する下地塗布型の特殊インクと、カラーインクや基材(メディア)の上への塗布を意図するコーティング型の特殊インクとに分類され得る。
【0051】
下地塗布型の特殊インクの例としては、例えば、カラーインクの下地にあらかじめ塗布して、カラーインクと下地となる基材(例えばメディア)との密着性を確保するために使用される「プライマーインク」やカラーインクの下地となる画像を形成するための「ホワイトインク」をあげることができる。プライマーインクは有色であっても、無色であってもよい。なお、プライマーインクを用いて、インクジェットプリンタによるマルチパス方式の印刷を行う例については、図6図9を用いて後述する。
【0052】
また、コーティング型の特殊インクとしては、カラーインクや基材(メディア)上に塗布して表面光沢を確保するために使用される「グロスインク」やカラーインク上に塗布する画像を形成するための「ホワイトインク」をあげることができる。グロスインクは無色であることが好ましい。なお、「グロスインク」を用いて、インクジェットプリンタによるマルチパス方式の印刷を行う例については、図10を用いて後述する。
【0053】
第1のヘッド部12Kは、第1の方向Xに沿って配置される、複数のインク吐出用ノズル(以下、単に「ノズル」と称する)NK1~NKm(mは、例えば300程度に設定され得る)を備える。
同様に、第2のヘッド部12Cは、ノズルNC1~NCmを備え、第3のヘッド部12Mは、ノズルNM1~NMmを備え、第4のヘッド部12Yは、ノズルNY1~NYmを備える。第5のヘッド部12CLも同様に、ノズルNL1~NLmを備える。
【0054】
なお、上記の構成は一例であり、これに限定されるものではなく、ノズルの数や配置等については、種々の構成を採用することができる。図2では、第1のサブヘッド121および第2のサブヘッド122は、第1の方向Xにおいて完全に重なる位置に配置されているが、第1のサブヘッド121と第2のサブヘッド122とが第1の方向Xにおいてずれた位置に配置されていてもよい。使用するカラーインクや特殊インクの数なども、適宜、増減が可能である。
【0055】
次に、図3を参照する。図3は、プリンタの要部のシステム構成の一例を示す図である。制御部(印刷制御装置)20は、印刷信号受信部21と、メディア2の搬送を制御するフィード制御部22と、キャリッジ10の走査を制御するスキャン制御部23と、第1のサブヘッド121の各ノズルからのカラーインクの吐出、及び第2のサブヘッド122の各ノズルからの特殊インクの吐出を個別に制御可能な吐出制御部24と、UVランプ(光照射装置)17のUV光の照射動作を制御する照射制御部25と、プリンタ1におけるマルチパス方式の印刷動作等を制御するプログラム(不図示)が記憶されている記憶部(メモリ)26と、を備えている。
【0056】
なお、上述の吐出制御部24は、第1~第4の各ヘッド部12K、12C、12M、12Yにおける各ノズルからのカラーインクの吐出を、好ましくはノズル毎に個別に制御できる第1の吐出制御部241と、第5のヘッド部12CLにおけるノズルからの特殊インクの吐出を、好ましくはノズル毎に個別に制御できる第2の吐出制御部242と、を有している。
【0057】
また、制御部20には、フィードモータ5Cと、キャリッジ移動機構11の構成要素であるキャリッジモータ8と、印刷ヘッド12のアクチュエータ16と、UVランプ17とが通信可能に接続されている。
【0058】
フィードモータ5Cによる、メディア2の第1の方向(副走査方向)Xにおける搬送動作は、制御部20のフィード制御部22により制御され得る。
【0059】
また、キャリッジモータ8による、印刷ヘッド12の第2の方向(主走査方向)Yにおける走査は、制御部20のスキャン制御部23によって制御され得る。
【0060】
また、アクチュエータ16による、印刷ヘッド12におけるインク吐出動作は、制御部20の吐出制御部24によって制御され得る。
【0061】
また、UVランプ(光照射装置)17のUV光の照射動作は、制御部20の照射制御部25によって制御され得る。
【0062】
次に、図4を参照する。図4は、ノズル使用率を示す濃度特性線を用いて、第2の方向(主走査方向)における画像の濃度を制御してマルチパス方式の印刷を行う場合の、濃度特性線の設定例、及び、その濃度特性線に基づくインク吐出の制御例を示す図である。なお、図4において、ノズル列、及びノズルのインク吐出可能範囲は、上方から見た透視平面図にて示している。
【0063】
図4のA-1には、一例として、先に図2に示した、プロセスカラー(K)インク(ここでは黒インクとする)を吐出する第1のヘッド部12Kにおける、9つのノズル(ここでは、説明の便宜上、符号NK1~NK9を付してある)を含むノズル列Nzkが示されている。なお、符号Nzkの「Nz」はノズル列を表し、「k」は、K色(以下、黒色として説明する場合がある)のインクについてのノズル列であることを表している。
【0064】
マルチパス方式の印刷を行うためには、所定サイズの、各パス用のパスマスクを設計する必要がある。各パスマスクは、マスクパターンを有し、このマスクパターンは、インクの吐出の可否を決定する吐出許可画素/吐出不許可画素(いずれも不図示)の二次元の配置によって決定される。
【0065】
パスマスクの設計においては、パスマスクの設計の場が用意され、ここでは、1つのパスマスクに、所定の個数のノズルが割り当てられると共に、各ノズルのノズル使用率を示す濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線、言い換えれば濃度カーブ)が設定される。なお、上記の所定の個数の各ノズルは、現実のノズル列におけるノズルに対応付けされる。
【0066】
図4のA-1において、ノズル列Nzkには、便宜上、9個のノズルNK1~NK9が含まれるものとして表記している。
【0067】
これは、プロセスカラー(K)インクについてのパスマスクの設計において、1つのパスマスクに9個のノズルが割り当てられ、各ノズルが、図2で示した第1のヘッド部12Kにおいて上流に位置する、実際のノズルNK1~NK9の各々に対応付けられていることを示している。
【0068】
但し、一例であり、これに限定されるものではない。1つのノズル列に含まれるノズルの数は、マルチパス印刷の条件や、使用される印刷ヘッドの構成等に応じて、適宜、変更され得る。
【0069】
また、図4のA-1では、一例として、プロセスカラー(K)インクを吐出するノズル列Nzkが示されているが、ノズル列は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のカラーインクを吐出するノズル列Nzc、Nzm、Nzyであってもよく、また、特殊インクを吐出するノズル列Nzlであってもよい。
【0070】
また、図4のA-1では、9個のノズルにNK1~NK9の符号を付しているが、これは説明の便宜上の一例であり、図2で示したNK1~NKmのノズルの中から、例えば連続する9個のノズルを任意に抽出し、これをマスクパターンの設計に使用するノズルとして割り当てることもできる。
【0071】
また、図4のA-1では、ノズルNK1に関して、第2の方向(主走査方向)Yに沿って延在する帯状の領域200が示されている。この領域200は、ノズル列Nzkが、メディア2に対して1回、相対移動したときの、ノズルNK1のインク吐出可能範囲を示している。
【0072】
図4のA-2では、図4のA-1における領域200(インク吐出可能範囲)における、実際にインクが吐出される領域202が示されている。領域202を、領域200上において、どのように分散して配置するかは、例えば、乱数を用いてランダムに決定され得る。図4のA-2および後述する図4のA-3では、説明の便宜上、領域202が所定の長さを有しているが、実際には微小な領域202が領域200上に分散している。
【0073】
領域200の全体の長さに対する、インクが吐出される領域202の合計の長さの割合を、濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線)で示すことができる。ここで、ノズル使用率は、例えば「所定の印刷条件において、1パスにおけるノズル1個の最大インク打込量を100%としたときの、印刷時のインク打込量の割合(パーセンテージ)」のことである。
【0074】
例えば、領域200の全体の長さを100とし、インクが吐出される領域202の合計の長さを40としたとき、ノズル使用率は40%となる。
【0075】
図4のA-3では、ノズルNzkに含まれる9個のノズルNK1~NK9の各々におけるノズル使用率を示す濃度特性線Q20の例が示されている。
【0076】
この濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線)Q20の形状は、電気信号の三角波の形状に似ているため、以下の説明では、「三角型形状」という場合がある。なお、三角型形状の濃度特性線(及び、台形型の濃度特性線)を用いると、バンディング(スジ状の色ムラ)を低減する効果が得られる(この点については、図5にて説明する)。
【0077】
濃度特性線Q20の縦軸は、第1方向(副走査方向)に沿って所定間隔で並ぶ9個のノズルNK1~NK9の各位置(言い換えればノズル番号)を示す軸である。横軸は、0%~100%の間で変化する濃度を示す軸である。
【0078】
図4のA-3の右側に示されるように、濃度特性線Q20に基づいて、9個のノズルNK1~NK9の各々について、実際にインクが吐出される領域202を決定することができる。
【0079】
上記の説明では、ノズル使用率を、インク吐出可能範囲を示す領域200に対する、実際にインクが吐出される領域202の割合で示したが、ノズル使用率は、所定数の画素に対する、実際にインクが吐出される画素の数によって表わすこともできる。
【0080】
図4のA-4では、ノズル使用率を、第2の方向(主走査方向)Yに沿って配置された複数(ここでは10個とする)の画素(ドット)における、インクが吐出された画素(図中、模様を付した丸にて示している)の個数にて表している。
【0081】
図4のA-4では、濃度特性線Q40が使用されている。この濃度特性線Q40では、説明の便宜上、濃度の上限を50%としている。
【0082】
図4のA-4では、例えば、ノズルNK1のノズル使用率は10%であるため、第2方向(主走査方向)Yに並ぶ10個の画素(ドット)のうち、1個の画素が、インクが吐出される画素となる。また、例えば、ノズルNK2のノズル使用率は20%であるため、10個の画素(ドット)のうち、2個の画素が、インクが吐出される画素となる。他のノズルについても、インクが吐出される画素の数が、濃度特性線Q40に従って決定される。
【0083】
なお、後述する図6図10においては、図4のA-4の方式、すなわち、濃度特性線に基づいて、実際にインクが吐出される画素の数を適切に制御する方式を例にとって説明する。
【0084】
次に、図5を参照する。図5(A)は、濃度特性線の好ましい一例(三角型又は台形型)を示す図であり、図5(B)は、濃度特性線の他の例を示す図である。
【0085】
図5(A)のA-1では、2つの三角型の濃度特性線Q0、Q0’が示されている。ここでは、例えば、上流側の濃度特性線Q0が、マルチパス方式の印刷における1パス目のノズル使用率を示し、下流側の濃度特性線Q0’が、2パス目のノズル使用率を示す。
【0086】
上流側の濃度特性線Q0における点U1では、ノズル使用率は、最低値である0%である。点U1から第1の方向(副走査方向)Xに沿ってD/2だけ離れた点U2では、ノズル使用率は、最大値である100%に達する。点U2から、さらにD/2だけ離れた点U3では、ノズル使用率は0%に戻る。
【0087】
下流側の濃度特性線Q0’は、上流側の濃度特性線Q0を、D/2だけ下流側にシフトしたものである。
【0088】
濃度特性線Q0とQ0’は、点U2~点U3の範囲において重複する。すなわち、この各濃度特性線の重複部分の輪郭形状は、三角形状となる。一方、その重複部分と同じ大きさの三角形状の非重複部分が存在しているため、その重複部分と非重複部分とを合わせると、実質的には、図5のA-2に示されるような台形型の濃度特性線Q0’’が形成される。
【0089】
この台形型の濃度特性線Q0’’の点U2~点U3の範囲では、濃度(ノズル使用率)が最高(ここでは100%)であり、この範囲では、実質的に、均一な濃度分布の画像が形成される。よって、バンディング(スジ状の色ムラ)の発生を抑制することが可能である。
【0090】
例えば、図5(B)では、濃度特性線Q0の形状として、ノズル使用率が直線状ではなく、折れ線状に変化するような三角形状を採用している。このような変形は、適宜、なし得る。
【0091】
濃度特性線の形状は、直線で構成されてもよく、曲線で構成されてもよく、直線と曲線が組み合わされて構成されてもよい。
【0092】
次に、図6を参照する。図6は、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線の一例を示す図である。なお、図6において、ノズル列は上方から見た透視平面図にて示している。
【0093】
図6のA-1では、一例として、第2の方向(主走査方向)Yに沿って、左(L)から右(R)に向かって、特殊インクを吐出するノズル列Nzlと、K(プロセルカラー:ここでは黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のカラーインクを吐出するノズル列Nzk、Nzc、Nzm、Nzyの各々とが、第2の方向に所定間隔で配置されている。
【0094】
図6のA-1では、一例として、各ノズル列におけるノズルの数は共に9個である。但し、これは一例であり、これに限定されるものではない。
【0095】
図6のA-2には、特殊インクを吐出するノズル列Nzl、及び、K(黒)色のインクを吐出するノズル列Nzk(但し、これはカラーインクを吐出するノズル列の一例であり、他の色のインクを吐出するノズル列であってもよい)の各々についての、濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線)の設定例が示される。
【0096】
図6のA-2の左側に示されるように、ノズル列Nzlは、9個のノズルNL1~NL9を含む。それらのノズルの内、最も上流に位置するノズルNL1を、ノズル列Nzlにおける第1のノズルとし、最も下流に位置するノズルNL9を第9のノズルとする。
【0097】
第1のノズルNL1と第9のノズルNL9との間の距離をLとする。第1、第9の各ノズルNL1、NL9と、中央に配置されている第5のノズルNL5との距離はL1/2である。
【0098】
図6のA-2の左側には、特殊インクを吐出するノズル列Nzlに含まれる9個のノズルNL1~NL9の各々におけるノズル使用率を示す第1の濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線)Q1の例が示されている。
【0099】
この第1の濃度特性線Q1の形状は、電気信号の方形波(四角波)の形状に似ているため、以下の説明では、「四角型」、「四角型の濃度特性線」という場合がある。但し、濃度特性線Q1の形状として、図9のA-2のように三角型の形状を採用してもよく、また、図5で示したような台形型を採用してもよい。
【0100】
第1の濃度特性線Q1は、点J1~点J2の範囲でノズル使用率が、最大(ここでは100%)となり、他の範囲ではノズル使用率が最低(ここでは0%)となる階段状の形状を有する。
【0101】
ここで、点J1~点J2の範囲(符号S1で示される範囲)は、ノズル使用率が0%ではない範囲であり、言い換えれば、特殊インクの吐出許可範囲である。
【0102】
また、点J3~点J4の範囲では、ノズル使用率は0%であり、よって、点J3~点J4の範囲は、特殊インクが吐出されない範囲(特殊インクの吐出が非許可の範囲)である。
【0103】
第1の濃度特性線Q1において、インクが吐出される範囲S1(点J1~点J2の範囲)は、中央の第5のノズルNL5よりも上流側のL1/2の範囲(但し、第5のノズルNL5は除く)に設定される。
【0104】
このように、第1の濃度特性線Q1では、特殊インクの吐出を許可する特殊インク吐出許可範囲S1が、第1のノズル列Nzlの上流側の一部において設定されている。
【0105】
また、図6のA-2の右側には、ノズル列Nzkに含まれる9個のノズルNK1~NK9の各々におけるノズル使用率を示す第2の濃度特性線(ノズル使用率を示す特性線)Q2の例が示されている。
【0106】
この第2の濃度特性線Q2は、先に示した三角型形状を有する。
【0107】
すなわち、第2の濃度特性線Q2は、点J5においてノズル使用率が0%であり、第2方向(副走査方向)Xの下流側に向かうにつれて、ノズル使用率は直線状に徐々に増加し、点J6にて最大のノズル使用率(ここでは、説明の便宜上50%とする)に達する。さらに、第2方向(副走査方向)Xの下流側に向かうにつれて、ノズル使用率は直線状に徐々に減少し、点J6にて0%に戻る。
【0108】
以下の説明では、第2の濃度特性線Q2における、点J5と点J6を結ぶ直線で示される、ノズル使用率が徐々に増加する部分50を、「第1の部分」と称する場合がある。また、点J6と点J7を結ぶ直線で示されるノズル使用率が徐々に低下する部分60を、「第2の部分」と称する場合がある。
【0109】
第2の濃度特性線Q2の第1の部分50は、特殊インク吐出許可範囲S1と、第1の方向(副走査方向)Xにおいて、部分的に重複する。
【0110】
ここで、第1、第2の各濃度特性線Q1、Q2を平面視で重ね合わせた場合を想定すると、図6のA-2の右下に斜線を施して示す範囲(領域)R1、R2が存在することがわかる。
【0111】
範囲R1は、第1のノズル列Nzlのノズル使用率が、第2のノズル列Nzk(Nzc~Nzy)のノズル使用率と同じである、とみなすことができる範囲である。
【0112】
一方、範囲R2は、第1のノズル列Nzlのノズル使用率が、第2のノズル列Nzk(Nzc~Nzy)のノズル使用率よりも高い範囲である。
【0113】
範囲R1では、特殊インクとカラーインクを例えば同時に吐出したとすると、特殊インクのドットとカラーインクのドットとが競合し、最悪の場合、すべての画素(ドット)において、特殊インクの着弾に失敗する場合も想定され得る
【0114】
例えば、本来は特殊インクが下地のメディア2に着弾すべきところ、カラーインクが下地のメディア2に着弾すれば、その画素における特殊インクの着弾は失敗であり、そして、ドットが競合する画素のすべてにおいて、特殊インクの着弾に失敗する場合もあり得る。
【0115】
しかし、範囲R2においては、特殊インクのドットとカラーインクのドットの競合が生じず、吐出された特殊インクは、確実に着弾に成功する。この特殊インクの着弾に成功する画素の数が、ある程度多ければ、その部分で、カラーインクとメディアとの密着性は確保でき、印刷の品質の極端な低下は確実に抑制され、所望のレベルの印刷の品質は確保される。
【0116】
図6のA-2の例では、特殊インクの吐出を制御する第1の濃度特性線Q1と、カラーインクの吐出を制御する第2の濃度特性線Q2を、各々独立に、かつ独自の形状に設計することで、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
【0117】
特殊インクの吐出については、使用するノズルの数を減らす(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数未満とする)ことで、無駄な特殊インクの吐出を抑制し、また塗布ムラや色ムラを抑制する。
【0118】
一方、カラーインクの吐出については、使用するノズルについては制限を付さない、あるいは制限を軽くする(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数を超えるノズルを使用し、さらに好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの全部を使用する)ことで、所望レベルの印刷の生産性を確保する。
【0119】
また、特殊インクを吐出するノズルの数は減るが、その一方、特殊インクが吐出されるノズルのノズル使用率を高く(例えば100%に)設定することで、第1、第2の濃度特性線の重複範囲では、ノズル使用率に関して、特殊インクを優勢とする。
【0120】
これによって、特殊インクのドットとカラーインクのドットとが競合する範囲(図中の範囲R1)においては、仮に、その競合するドットの全部において、特殊インクの着弾に失敗したとしても、ドットの競合が生じない範囲(図中の範囲R2)では、特殊インクの着弾は確実に成功する。
【0121】
この特殊インクの着弾に成功する画素の数が、ある程度多ければ、その部分で、カラーインクとメディアとの密着性、あるいは、カラーインクの光沢性は確保でき、印刷の品質の極端な低下は確実に抑制され、所望のレベルの印刷の品質は確保される。
【0122】
図6のA-2では、第1、第2の濃度特性線を、従来に比べてはるかに高い自由度で、各々独立に設計することができる。よって、特殊インク、カラーインクの各々を吐出するノズルにおけるノズル使用率を、印刷物の用途、印刷に求められる機能性等の種々の状況に応じて細かく設計することができる。
【0123】
これにより、例えば、特殊インクとカラーインクの同時吐出を許容するマルチパス方式の印刷において、求められる印刷の品質と生産性を両立させることが可能となる。
【0124】
このようにして、図6の例では、カラーインクの吐出と共に、上流側で特殊インクを吐出する印刷において、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
【0125】
また、特殊インクとカラーインクの吐出形態については、以下の(1)~(3)の3つの形態が想定され得る。
(1)特殊インクを複数個のノズルから吐出するとき、その複数個の特殊インクのノズルの各々に対応するカラーインクの各ノズルから、同時にカラーインクを吐出する第1の吐出形態。
(2)特殊インクの複数個のノズルのうち、一部のノズルに対しては、カラーインクを同時に吐出しない第2の吐出形態。例えば、初期期間では、一部のノズルについては、カラーインクの同時吐出は行われず、初期期間が過ぎると、その一部のノズルに対しても、カラーインクが同時に吐出される。
(3)特殊インクとカラーインクの同時吐出を行わない第3の吐出形態。例えば、特殊インクの吐出がすべて終わった後に、カラーインクを吐出する場合があり得る。言い換えれば、レイヤー印刷の技術を、マルチパス方式の印刷にも応用する場合が、これに該当する。
【0126】
なお、上記の(3)の形態の場合、従来技術である同時印刷(レイヤー印刷)では、例えば、特殊インク、カラーインクの各吐出に用いられるノズル数が同じとなるようにしていたことから(例えば、ノズル列に含まれるすべてのノズルの数の半分)、印刷の自由度には制限があった。
本発明によれば、特殊インクとカラーインクの各々についての使用ノズル数を、各々独立に、好ましくはノズル単位で設定でき、印刷の自由度が高い。
上記(1)~(3)の吐出形態のうち、どの形態を用いるかは、印刷の品質、印刷の生産性のバランスを考慮して決定される。
【0127】
次に、図7を参照する。図7は、本発明を適用したマルチパス方式の印刷の一例(特殊インクとしてプライマーインクを使用する例)を示す図である。なお、図7において、ノズル列、及び塗布例については、上方から見た透視平面図にて示している。
【0128】
図7のA-1は、図6のA-2を再掲したものである。図7のA-1においても、特殊インク、カラーインクの各々のノズル使用率を制御する濃度特性線として、先に説明した濃度特性線Q1、Q2が使用される。
【0129】
図7のA-2、A-3では、マルチパス方式の印刷における、1パス目、2パス目のインクの塗布例が示されている。
【0130】
図7のA-2、A-3において、濃度特性線Q1、Q2に従って、下地(メディア2)上に、特殊インク(ここでは、下地への塗布が意図されるプライマーインクとする)と、カラーインクとが塗布される。
【0131】
図7のA-2の右側に、マルチパス方式の印刷における、1パス目のインク塗布例が示されている。
【0132】
図中、インクが未着弾のドットは、白抜きの丸で示されている。1パス目のカラーインクが着弾したドットは、白抜きのドットと同じ径の模様付の丸(円)で示されている。また、下地(メディア2)上に着弾した特殊インク(プライマーインク)のドットは、白抜きの三角で示されている。
【0133】
また、図中、第1方向(副走査方向)Xに沿って、A~Iの符号を付し、また、第2方向(主走査方向)Yに沿って符号1~10を付している。これによって、ドットマトリクスにおけるドットの位置を特定することができる。
【0134】
例えば、破線の楕円で囲まれる領域PT1において、A行の3列目にカラーインクのドットが形成されているが、このドットは、ドットA3と表記することができる。
【0135】
以下、例えば、B行については、2個のカラーインクのドットB1、B8が形成されている。C行に関しては、3個のカラーインクのドットC2、C5、C10が形成されている。
【0136】
ここで、領域PT1において、カラーインクの6個のドットA3、B1、B8、C2、C5、C10のすべてが、仮に、下地(メディア2)上に着弾したとする。この場合は、これらのドット位置に関しては、特殊インク(プライマーインク)の塗布は失敗したことになる。
【0137】
しかし、先に説明したように、この領域PT1内では、特殊インクのノズル使用率が高く設定されているため、30個のドットのうち、上記の6個のドット以外の24個のドットは、すべて、下地(メディア2)に着弾した特殊インクのドット(図中、白塗りの三角形で示される)となる。よって、この部分で、特殊インクの下地(メディア2)への塗布(インクの着弾)に成功する。
【0138】
次に、図7のA-3を参照する。図7のA-3の右側に、マルチパス方式の印刷における、2パス目のインク塗布例が示されている。なお、図中、2パス目におけるカラーインクのドットは、白抜きのドットよりも小さい径の模様付の丸(円)で示されている。
【0139】
なお、2パス目のカラーインクのドットを示す丸(円)の径を小さくしているのは、1パス目のカラーインクのドットと区別するための便宜上の表記であり、実際のドットの径は、1パス目のドットの径と同じである。
【0140】
図7のA-3では、下地であるメディア2が、第1方向(副走査方向)Xの下流側に、例えば4画素分の距離だけ移動されている。但し、一例であり、移動量は任意に設定することができる。
【0141】
破線の楕円で囲まれる領域PT1では、図7のA-2で示した24個の白塗りの三角形に重ねて、合計で12個の径の小さい模様付の丸(円)が描かれている。それらの丸(円)が、下地(メディア2)に塗布された特殊インク(プライマーインク)上に着弾した2パス目のカラーインクを示している。これらのカラーインクの下には、特殊インクが存在するため、カラーインクと下地(メディア2)との密着性の極端な低下は抑制される。よって、所望のレベルの密着性が確保される。
【0142】
また、図中の、破線の矩形で囲まれる領域PT2内では、先に説明した図7のA-2における領域PT1と同様に、特殊インクのノズル使用率が高く設定されているため、30個のドットのうち、6個の2パス目のカラーインクのドット以外の24個のドットは、すべて、下地(メディア2)に着弾した特殊インクのドット(図中、白塗りの三角形で示される)となっている。よって、この部分で、特殊インクの下地(メディア2)への塗布に成功している。
【0143】
このように、特殊インクの吐出範囲を限定することで、無駄な特殊インクの使用を抑制することができる。
【0144】
また、カラーインクと競合する範囲において、仮に特殊インクの下地(メディア2)への着弾に失敗したとしても、特殊インクの濃度(ノズル使用率)が優勢であるため、インク同士が競合しない範囲においては、特殊インクの着弾(塗布)は、確実に成功する。
【0145】
よって、その成功した部分で、カラーインクと下地(メディア2)との密着性を、確実かつ効果的に向上させることができる。
【0146】
よって、特殊インクの吐出量は少量であっても、極端な密着性の低下を確実に抑制することができ、印刷品質の極端な低下が抑制されるため、所望のレベルの密着性(すなわち、印刷の品質)を確保できるという効果が得られる。
【0147】
また、上述のとおり、カラーインクを吐出するノズルは、特許文献3のように全ノズルの半分の範囲に限定されることなく、それ以上のノズルを使用することができ、好ましくは、全ノズルを使用することができるため、カラー画像の印刷の生産性を高く維持することができる。
【0148】
このようにして、本実施例では、カラーインクの吐出と共に、上流側で特殊インクを吐出する印刷において、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
【0149】
(第2の実施形態)
次に、図8を参照する。図8(A)、図8(B)は各々、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線の他の例(変形例)を示す図である。なお、図8において、ノズル列は、上方から見た透視平面図にて示している。
【0150】
先に説明した図6のA-2(図7のA-1)では、特殊インクについての第1の濃度特性線Q1と、カラーインクについての第2の濃度特性線Q3とは、第1の方向(副走査方向)Xに重複する範囲S1を有しており、この重複範囲S1においては、第2の濃度特性線Q2は0%の範囲を含んでいない。
【0151】
これに対して、図8(A)では、重複範囲S1においては、第1の濃度特性線Q1は、第2の濃度特性線Q3の、ノズル使用率がゼロである範囲51、及び、徐々にノズル使用率が上昇する第1の部分50’の一部と重なりを有している。
【0152】
第2の濃度特性線Q3のノズル使用率がゼロである範囲51においては、カラーインクは吐出されない。よって、特殊インク範囲51では、カラーインクと特殊インクの競合は生じない。
【0153】
よって、図8(A)では、第1の濃度特性線Q1と第2の濃度特性線Q3との実質的な重複範囲は、S2(<S1)ということになる。
【0154】
つまり、範囲51においては、吐出された特殊インク(プライマーインク)は、確実に下地(メディア2)に着弾する。これにより、図8の(A)では、図6のA-2(図7のA-1)と比べて、特殊インクが下地(メディア2)上に塗布される範囲が増大し、この分、カラーインクと下地(メディア2)との密着性(すなわち、印刷の品質)が向上する。
【0155】
次に、図8(B)を参照する。図8(B)では、重複範囲S1においては、第1の濃度特性線Q1は、第2の濃度特性線Q4の、ノズル使用率がゼロである範囲51’のみと重なりを有している。言い換えれば、図8(B)では、第1、第2の濃度特性線Q1、Q4は、実質的には重複範囲が無い、とみなすことができる。
【0156】
範囲51’においては、カラーインクは吐出されない。よって、特殊インク範囲51’では、カラーインクと特殊インクの競合は生じず、吐出された特殊インク(プライマーインク)は、確実に下地(メディア2)に着弾する。
【0157】
図8(B)では、図8(A)と比べて、特殊インクが下地(メディア2)上に塗布される範囲がさらに増大し、この分、カラーインクと下地(メディア2)との密着性(すなわち、印刷の品質)が、さらに向上する。
【0158】
(第3の実施形態)
次に、図9を参照する。図9(A)、図9(B)は各々、マルチパス方式の印刷における、同じパスでのカラーインク、特殊インクの各々について設定される濃度特性線のさらに他の例(他の変形例)を示す図である。なお、図9において、ノズル列は、上方から見た透視平面図にて示している。
【0159】
まず、図9(A)について説明する。先に示した図6のA-2、図7のA-1では、第2の濃度特性線として、三角型の濃度特性線Q2を使用していた。これに対して、図9(A)では、台形型の濃度特性線Q5を使用している。
【0160】
先に図5のA-2にて説明したように、台形型の濃度特性線では、最高濃度(最高のノズル使用率)である範囲が広く、この範囲では、実質的に、均一な濃度分布の画像が形成され、バンディング(スジ状の色ムラ)の発生を抑制することが可能である。したがって、図9(A)のように、三角型に代えて台形型の濃度特性線を使用してもよい。
【0161】
この台形型の濃度分布Q5の使用に際しては、図9(A)に示すように、特殊インクの濃度特性線(四角型の濃度特性線)Q1のノズル使用率が最大の範囲S1と、カラーインクの濃度特性線(台形型の濃度特性線)Q5のノズル使用率が最大の範囲S4とが重複しないように、各濃度特性線を設定するのが好ましい。すなわち、各濃度特性線の最大のノズル使用率の範囲同士が重複すると、各インクを同時に吐出する場合には、各インク同士の競合が増加し、特殊インクの無駄が増え、また、塗布が不均一化して見た目に影響が生じる場合もあり得るため、そのような重複は避けるのが好ましい。
【0162】
次に、図9(B)について説明する。
先に示した図6のA-2、図7のA-1では、第1の濃度特性線として、四角型の濃度特性線Q1を使用していた。これに対して、図9(B)では、四角型の濃度特性線Q1に代えて、ノズル使用率のピーク値が100%である三角型の濃度特性線Q6を使用している。
【0163】
なお、この三角型の濃度特性線Q6に代えて、ピーク値が同じである台形型の濃度特性線を使用しても同様の効果が得られる。
【0164】
(第4の実施形態)
次に、図10を参照する。図10は、本発明を適用したマルチパス方式の印刷の他の例(特殊インクとしてグロスインクを使用する例)を示す図である。なお、図10において、ノズル列、及び塗布例は、透視平面図にて示している。
【0165】
図10の例では、特殊インクとしてグロスインクを用いる。グロスインクは、カラーインクの上に塗布することが意図されるコーティング型の特殊インクである。グロスインクがカラーインク上に塗布することで、例えば印刷物に光沢感を与えることができる。
【0166】
図10のA-1では、特殊インク(グロスインク)の濃度特性線Q7は、先に説明した図6のA-2、図7のA-1と同様に四角型の濃度特性線である。但し、これは一例であり、これに限定されるものではない。特殊インクの濃度特性線Q7は、図9(B)に示した三角形状であってもよい。
【0167】
但し、特殊インクをカラーインク上に塗布する必要があるため、図10のA-1では、濃度特性線Q7の、特殊インクの吐出を許可する吐出許可範囲は、下流側に設けられる。
【0168】
言い換えれば、濃度特性線Q7の、特殊インクの吐出許可範囲は、カラーインクの濃度特性線Q2の、徐々にノズル使用率が低下する部分である第2の部分(但し、最大のノズル使用率に達している部分を除く)60と重なりを有する。
【0169】
なお、カラーインクに関しては、先に、図6のA-2、図7のA-1にて説明した三角型の濃度特性線Q2が用いられる。
【0170】
但し、これは一例である。図10のA-1のカラーインクの濃度特性線の形状として、先に説明した図8の(A)、(B)と同様の形状(重複する範囲にノズル使用率がゼロである範囲が含まれる形状、あるいは、重複する範囲が濃度ゼロの範囲のみである形状)を採用してもよく、また、図9の(A)で示した台形型の濃度特性線と同様の形状を採用してもよい。この場合は、先に説明した例における効果と同様の効果を得ることができる。
【0171】
図10のA-2、A-3には、マルチパス方式の印刷における1パス目、2パス目のインクの塗布例が示されている。ドットの表記は、先に説明した図7のA-2、A-3と同じである。
【0172】
但し、図10のA-3では、2パス目の特殊インクのドットは、1パス目の特殊インクのドットと区別し得るようにするために、より小さな三角形で表記されている。
【0173】
図10のA-2における領域PT10では、カラーインクの6個のドットG3、G5、G7、H6、H8、I10のすべてが、仮に、特殊インク上に着弾したとする。この場合は、これらのドット位置に関しては、特殊インク(グロスインク)の塗布は失敗したことになる。
【0174】
但し、先に説明したように、この領域PT10内では、カラーインクのノズル使用率は低く設定されているため、30個のドットのうち、特殊インク(グロスインク)の着弾に失敗する画素は、上記の6個のみであり、特に問題となることはない。
【0175】
次に、図10のA-3を参照する。図10のA-3の右側に、マルチパス方式の印刷における、2パス目のインク塗布例が示されている。
【0176】
図中、2パス目におけるカラーインクのドットは、白抜きのドットよりも小さい径の模様付の丸(円)で示されており、また、上記のとおり、2パス目における特殊インクのドットは、1パス目と比較してより小さな三角形で表記されている。これらは、1パス目のカラーインクのドットと区別するための便宜上の表記であり、実際のドットは、1パス目のドットと同じである。
【0177】
図10のA-3では、下地であるメディア2は、第1方向(副走査方向)Xの下流側に、例えば4ドット分の距離だけ移動されている。但し、一例であり、相対的な移動量は任意に設定することができる。
【0178】
破線の矩形で囲まれる領域PT20では、1パス目と同様に、6個の2パス目のカラーインクのドット(模様付の小さな円で示される)が形成される。仮に、この6個のドットのすべてにおいて、特殊インク(グロスインク)の塗布が失敗したとしても、他の24個の画素では、特殊インク(グロスインク)が塗布され、この範囲に、1パス目のカラーインクのドットがある場合は、そのドット上に確実に、特殊インク(グロスインク)が塗布される。図中、模様付の大きな径の円(1パス目のカラーインクのドット)に重なるように表記された小さな三角形が、2パス目の特殊インクを示している。
【0179】
図10のA-3における領域PT20では、1パス目のカラーインクのドット上には、2パス目で形成された特殊インク(グロスインク)が存在するため、この部分では、カラー画像の光沢性は確保される。
【0180】
言い換えれば、特殊インク(グロスインク)の塗布量が少量であっても、効率的にカラーインクを特殊インクでコーティングでき、よって、カラー画像についての、極端な光沢性の低下は抑制される。
【0181】
よって、所望のレベルのカラー画像の光沢性(すなわち、画像の品質)を確保することができる。
【0182】
また、上述のとおり、カラーインクを吐出するノズルは、特許文献3のように全ノズルの半分の範囲に限定されることなく、それ以上のノズルを使用することができ、好ましくは、全ノズルを使用することができるため、カラー画像の印刷の生産性を高く維持することができる。
【0183】
このようにして、本実施例では、カラーインクの吐出と共に、下流側で特殊インクを吐出する印刷において、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
【0184】
以上の説明のとおり、本実施形態には、以下の態様が含まれる。
本実施形態の第1の態様では、メディアに特殊インクを吐出する第1のノズル列と、メディアにカラーインクを吐出する第2のノズル列とを含む印刷ヘッドと、印刷ヘッドとメディアとを相対的に、第1の方向、及び第1の方向に交差する第2の方向に移動させる移動機構と、印刷ヘッドと移動機構を制御して、メディアにマルチパス方式の印刷を行う制御部と、を有し、制御部は、第1のノズル列に含まれる複数のノズルの各々からの特殊インクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す第1の濃度特性線に従って制御すると共に、第2のノズル列に含まれる、複数のノズルの各々からのカラーインクの吐出を、各ノズルについてのノズル使用率を示す、第1の濃度特性線とは独立に設定される第2の濃度特性線に従って制御し、かつ、第1の濃度特性線では、特殊インクの吐出を許可する特殊インク吐出許可範囲が、第1のノズル列の一部において設定され、第2の濃度特性線は、特殊インク吐出許可範囲と、第1の方向において部分的に重複し、その重複範囲においては、第1のノズル列のノズル使用率が、第2のノズル列のノズル使用率よりも高い範囲が存在する。
【0185】
本態様では、特殊インクの吐出を制御する第1の濃度特性線と、カラーインクの吐出を制御する第2の濃度特性線を、各々独立に、かつ独自の形状に設計することで、印刷の品質と生産性を両立させることが可能である。
特殊インクの吐出については、使用するノズルの数を減らす(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数未満とする)ことで、無駄な特殊インクの吐出を抑制し、また塗布ムラや色ムラを抑制する。
一方、カラーインクの吐出については、使用するノズルについては制限を付さない、あるいは制限を軽くする(好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの半数を超えるノズルを使用し、さらに好ましくは、ノズル列に含まれるノズルの全部を使用する)ことで、所望レベルの印刷の生産性を確保する。
また、特殊インクを吐出するノズルの数は減るが、その一方、特殊インクが吐出されるノズルのノズル使用率を高く(例えば100%に)設定することで、第1、第2の濃度特性線の重複範囲では、ノズル使用率に関して、特殊インクを優勢とする。
これによって、特殊インクのドットとカラーインクのドットとが競合する場合に、仮に、その競合するドットの全部において、特殊インクの着弾に失敗したとしても、ドットの競合が生じない範囲では、特殊インクの着弾が確実に成功する。
この特殊インクの着弾に成功する画素の数が、ある程度多ければ、その部分で、カラーインクとメディアとの密着性、あるいは、カラーインクの光沢性は確保でき、印刷の品質の極端な低下は確実に抑制され、所望のレベルの印刷の品質は確保される。
このように、第1の態様では、第1、第2の濃度特性線を、従来に比べてはるかに高い自由度で、各々独立に設計することができる。よって、特殊インク、カラーインクの各々を吐出するノズルにおけるノズル使用率を、印刷物の用途、印刷に求められる機能性等の種々の状況に応じて細かく設計することができる。
これにより、例えば、特殊インクとカラーインクの同時吐出を許容するマルチパス方式の印刷において、求められる印刷の品質と生産性を両立させることが可能となる。
また、特殊インクとカラーインクの極端な混色を抑制できるという効果も得られる。
【0186】
第1の態様に従属する第2の態様において、第1の濃度特性線は、第1の方向において、一方側から他方側へとノズル使用率が階段状に変化する部分を備える四角型の形状、又は、第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に増すように変化する、一方側の第1の部分と、第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に減少するように変化する、他方側の第2の部分と、を備える、三角型の形状、又は、台形型の形状、を有してもよい。
【0187】
第2の態様では、バンディング(スジ状の色ムラ)を抑制するのに好適な、「第1の濃度特性線」の形状の一例を示している。三角型を使用することで、例えば、1つのパスと次のパスとを、?部において重複させることができ、重複する部分を適切に設定することで、バンディングの抑制が可能である。
また、台形型の濃度特性線を使用すると、最高濃度(最高のノズル使用率)である範囲が広く、この範囲では、実質的に均一な濃度分布の画像が形成され、バンディングの発生が抑制され得る。
なお、第2の態様では、「第1の方向における一方側から他方側」という表現が用いられている。この点について補足説明を行う。
第1の方向において、有限の長さの仮想的な線分を想定すると、その線分には2つの端部(端部の点)を想定し得る。この2つの端部(2つの端部の点)のうちの、何れか一方を「一方の端部」とし、何れか他方を「他方の端部」とする場合に、例えば、メディアが第1の方向に沿って移動する際、その移動は、例えば、一方の端部の側から、他方の端部の側への移動と定義することができる。
よって、「何れか一方の端部の側」を上記の「一方側」とすることができ、「何れか他方の端部側」を、上記の「他方側」とすることができる。
また、上記の「一方側」は、例えば「上流側」と言い換えてもよく、上記の「他方側」は、例えば「下流側」と言い換えてもよい。ここで、「上流」、「下流」は、例えば、メディアや印刷ヘッド等が移動する場合、その移動に際しての「移動元の側」を上流側、「移動先の側」を下流側とすることができる。但し、これは一例であり、上記の「一方側」及び「他方側」、あるいは、「上流側」及び「下流側」については、状況に即して柔軟に解釈するのが好ましい。
上記の解釈は、第3、第4の態様等においても、同様に適用され得る。
【0188】
第1の態様に従属する第3の態様において、第2の濃度特性線は、第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に増すように変化する、一方側の第3の部分と、第1の方向における一方側から他方側へとノズル使用率が徐々に減少するように変化する、他方側の第4の部分と、を備える、三角型の形状、又は、台形型の形状を有してもよい。
【0189】
第3の態様では、バンディングを抑制するのに好適な、「第2の濃度特性線」の形状の一例を示している。上記の第2の態様における説明が、本態様においても同様に適用され得る。
【0190】
第1の態様に従属する第4の態様において、移動機構によって、印刷ヘッドに対してメディアが第1の方向に沿って相対移動される場合には、メディアの移動元の方向を一方側とし、移動先の方向を他方側とし、移動機構によって、メディアに対して印刷ヘッドが第1の方向に沿って相対移動される場合には、印刷ヘッドの移動先の方向を一方側とし、移動元の方向を他方側とし、特殊インクが、カラーインクの下地であるメディアに塗布することが意図される下地塗布型の特殊インクである場合には、特殊インク吐出許可範囲は、第2の濃度特性線の一方側において部分的に重複するように設定され、特殊インクが、カラーインクの上に塗布することが意図されるコーティング型の特殊インクである場合には、特殊インク吐出許可範囲は、第2の濃度特性線の他方側において部分的に重複するように設定されてもよい。
【0191】
これにより、下地塗布型の特殊インクを用いる場合、及び、コーティング型の特殊インクを用いる場合の何れにおいても、インクジェットプリンタによるマルチパス方式の印刷が可能となる。
【0192】
第1乃至第4の何れか1つの態様に従属する第5の態様において、特殊インク吐出許可範囲と第2の濃度特性線とが重複する前記重複範囲において、第2の濃度特性線は、その一部に、ノズル使用率が0%である範囲を含んでもよい。
【0193】
第5の態様では、第2の濃度特性線は、その一部に、ノズル使用率が0%である範囲を含むことが許容される。
第2の濃度特性線のノズル使用率がゼロである範囲においては、カラーインクは吐出されない。よって、カラーインクを、仮に、特殊インクと同時に吐出したとしても、その範囲では、カラーインクと特殊インクインク同士の競合は生じない。
言い換えれば、その範囲においては、吐出された特殊インク(ここでは例えばプライマーインクを想定する)は、確実に下地(メディア)に着弾する。これにより、特殊インクが下地(メディア)上に塗布される範囲が増大し、この分、カラーインクと下地(メディア)との密着性(すなわち、印刷の品質)が向上する。
【0194】
第1乃至第5の何れか1つの態様に従属する第6の態様において、特殊インク、及びカラーインクは、光硬化性のインクであり、吐出済みの特殊インク及びカラーインクに光を照射する光照射装置が設けられていてもよい。
【0195】
第6の態様によれば、光(紫外光等)によって光硬化性インクを素早く硬化させることができる。よって、水性インクや溶剤のインクの場合のように、乾燥させる手間を省くことができる。
【0196】
第1乃至第6の何れか1つの態様に従属する第7の態様において、制御部は、第1、第2の各濃度特性線を用いて、第1、第2の各ノズル列における特殊インク、カラーインクの吐出を、1つのノズル単位で制御可能であってもよい。
【0197】
従来技術である同時印刷(レイヤー印刷)では、例えば、特殊インク、カラーインクの各吐出に用いられるノズル数が同じとなるようにしていたことから、印刷の自由度には制限があったが、第7の態様によれば、特殊インクとカラーインクの各々についての使用ノズル数を、各々独立に、1つのノズル単位で設定でき、よって、印刷の自由度を格段に向上させることができる。
【0198】
以上説明したように、本発明によれば、従来のように、例えば、ノズル列に含まれる複数のノズルを上流側と下流側に2分割し、カラーインクと特殊インクの重複を抑制するという制限がなくなり、より自由度の高いマルチパス方式の印刷が可能となる。
【0199】
言い換えれば、好ましくはノズル単位で各インクの吐出を自由に調整できるようになり、マルチパス方式の印刷用のマスクの設計の自由度が向上する。
【0200】
カラーインクの塗布に関しては、例えば、ノズル列に含まれる全部のノズルを使用したカラーインクの吐出も可能となり、この場合は、特殊インクを使用しない場合と同等のカラー画像印刷の生産性が実現され得る。
【0201】
一方、特殊インクの塗布に関しては、上流側、又は下流側のノズル(ノズル使用率が最大となるノズルは除く)において特殊インクが吐出されることになり、使用される特殊インクの量を低減して無駄を減らすことができる。
【0202】
また、特殊インクの吐出を制御する濃度特性線は、カラーインクの吐出を制御する濃度特性線の、例えば、ノズル使用率が徐々に変化する濃度部分(第1の部分、又は第2の部分)と第1の方向(副走査方向)において重複するが、その重複範囲においては、ノズル使用率に関して特殊インクが優勢であり、よって、仮に、特殊インクとカラーインクを同時に吐出したときに、各インク同士が競合する画素位置において特殊インクの塗布に失敗したとしても、その他の画素位置では確実に特殊インクの塗布に成功することができ、よって、極端な密着性の低下や光沢性の低下を確実に抑制することができる。
【0203】
このようにして、本発明によれば、特殊インクとカラーインクを併用するマルチパス方式の印刷において、印刷の品質と生産性とを両立させることが可能である。
【0204】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0205】
1・・・インクジェットプリンタ(プリンタ、印刷装置)、3・・・プラテン、4・・・ガイドレール、5A・・・ピンチローラ、5B・・・グリッドローラ、5C・・・フィードモータ、6L、6R・・・プーリ、7・・・ベルト、8・・・キャリッジモータ、9・・・ケーシング、9A・・・操作パネル(操作部)、10・・・キャリッジ、11・・・キャリッジ移動機構、12・・・印刷ヘッド(インクヘッド)、12K、12C、12M、12Y、12CL・・・第1、第2、第3、第4、第5のヘッド部、16・・・アクチュエータ、17・・・UVランプ(光照射装置)、20・・・制御部、21・・・印刷信号受信部、22・・・フィード制御部、23・・・スキャン制御部、24・・・吐出制御部、25・・・照射制御部、26・・・記憶部(メモリ)、50・・・第1の方向における上流側から下流側へとノズル使用率が徐々に増すように変化する、上流側の第1の部分、60・・・第1の方向における上流側から下流側へとノズル使用率が徐々に減少するように変化する、下流側の第2の部分、Q1、Q6・・・第1の濃度特性線(特殊インクを吐出するノズルのノズル使用率を示す特性線)、Q2、Q4、Q5・・・第2の濃度特性線(カラーインクを吐出するノズルのノズル使用率を示す特性線)、121、122・・・第1、第2のサブヘッド、241、242・・・第1、第2の吐出制御部、Nzl・・・特殊インクを吐出するノズル列、Nzk・・・プロセスカラー(例えば黒)インクを吐出するノズル列、Nzm・・・マゼンタインクを吐出するノズル列、Nzy・・・イエローインクを吐出するノズル列、NL1~NLm・・・特殊インクを吐出するノズル、NC1~NCm・・・シアンインクを吐出するノズル、NM1~NMm・・・マゼンタインクを吐出するノズル、NY1~NYm・・・イエローインクを吐出するノズル。
図1
図2
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図9
図10