(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008567
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】パッチアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
H01Q13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110541
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】513299683
【氏名又は名称】芦塚 哲也
(71)【出願人】
【識別番号】513299694
【氏名又は名称】飯田 孝一
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 孝一
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA04
5J045AA11
5J045CA01
5J045CA04
5J045DA10
5J045EA08
5J045GA00
5J045NA06
5J045NA07
(57)【要約】
【課題】所望の動作特性を容易に実現できるパッチアンテナを提供すること。
【解決手段】パッチアンテナは、グランドパターンと、グランドパターンに対向して配置されるパッチパターンと、グランドパターンとパッチパターンとの間に配置される誘電部材と、を備え、誘電部材は、パッチパターンからグランドパターンに向かう方向から見て、パッチパターンの一部と重なるように配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランドパターンと、
前記グランドパターンに対向して配置されるパッチパターンと、
前記グランドパターンとパッチパターンとの間に配置される誘電部材と、
を備え、
前記誘電部材は、前記パッチパターンから前記グランドパターンに向かう方向から見て、前記パッチパターンの一部と重なるように配置される、
パッチアンテナ。
【請求項2】
前記誘電部材は、四角形状の前記パッチパターンの少なくとも1つの辺に沿って配置される、
請求項1に記載のパッチアンテナ。
【請求項3】
前記誘電部材は、四角形状の前記パッチパターンの少なくとも1つの角において配置される、
請求項1に記載のパッチアンテナ。
【請求項4】
前記角に配置される誘電部材の位置によって、当該パッチアンテナの帯域、左旋偏波、又は、右旋偏波が設定される、
請求項3に記載のパッチアンテナ。
【請求項5】
前記誘電部材は、ゴムである、
請求項1に記載のパッチアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
平面アンテナの1つにパッチアンテナがある。パッチアンテナは、回路と一体設計が可能であり、例えば、ミリ波レーダ又は全球測位衛星システムといった通信装置に用いられる。
【0003】
アンテナには、例えば、共振周波数、帯域、及び、偏波いった動作特性がある。パッチアンテナでは、複数のパラメータに基づいて、動作特性が決定される。例えば、パッチアンテナでは、エッチング等によって基板に形成されたパッチパターンの形状、基板の誘電率、基板の厚さ(パッチパターンとグランドパターンとの距離)、給電点の位置、及び、給電点の数といった複数のパラメータに基づいて、動作特性が決定される。
【0004】
なお、特許文献1には、給電点のインピーダンス調整を容易に行うことが可能なパッチアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、パッチアンテナの動作特性は、複数のパラメータに基づいて決定される。そのため、パッチアンテナにおいて、所望の動作特性を得るには、例えば、上記した複数のパラメータを変更し、手間がかかる。
【0007】
本開示の非限定的な実施例は、所望の動作特性を容易に実現できるパッチアンテナの提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施例に係るパッチアンテナは、グランドパターンと、前記グランドパターンに対向して配置されるパッチパターンと、前記グランドパターンとパッチパターンとの間に配置される誘電部材と、を備え、前記誘電部材は、前記パッチパターンから前記グランドパターンに向かう方向から見て、前記パッチパターンの一部と重なるように配置される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施例によれば、パッチアンテナにおいて、所望の動作特性を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るパッチアンテナを側方から見た図である。
【
図3】
図1とは異なるパッチアンテナを側方から見た図である。
【
図4】
図3のパッチアンテナの動作例を説明する図である。
【
図5】パッチアンテナの基本動作例を説明する図である。
【
図6】
図5に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【
図7】パッチアンテナの共振周波数の設定例を説明する図である。
【
図8】
図7に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【
図9】パッチアンテナの共振周波数の複数化の一例を説明する図である。
【
図10】
図9に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【
図11】パッチアンテナの共振周波数における広帯域化の一例を説明する図である。
【
図12】
図11に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【
図13】パッチアンテナの円偏波例を説明する図である。
【
図14】
図13に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【
図15】パッチアンテナの円偏波例を説明する図である。
【
図16】
図15に示すパッチアンテナの周波数特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
図1は、実施の形態に係るパッチアンテナ1を側方から見た図である。
図1に示すように、パッチアンテナ1は、基板11と、基板21と、スペーサ31と、誘電部材41と、を有する。パッチアンテナ1は、マイクロストリップパッチアンテナ、又は、マイクロストリップアンテナと称されてもよい。
【0013】
図1には、パッチアンテナ1の他に、RF(無線)回路51が示してある。なお、パッチアンテナ1がRF回路51を有してもよい。例えば、RF回路51は、基板21に形成されてもよい。
【0014】
基板11には、パッチパターン12が形成される。パッチパターン12は、基板11の基板21と対向する面とは反対側の面(上面)に形成される。パッチパターン12は、例えば、基板11の上面において、全面にわたって形成される。又は、パッチパターン12は、基板11の上面の一部において、形成される。パッチパターン12は、パッチ導体、放射パターン、又は、平面放射素子と称されてもよい。
【0015】
給電点13は、パッチパターン12に形成され、RF回路51と接続される。給電点13とRF回路51とは、例えば、基板11,21に形成されたスルーホールを介して接続される。
【0016】
基板21は、基板11に対向するように配置される。基板21には、グランドパターン22が形成される。グランドパターン22は、基板21の基板11と対向する面とは反対側の面(下面)に形成される。グランドパターン22は、例えば、基板21の下面において、全面にわたって形成される。又は、グランドパターン22は、基板21の下面の一部において、形成される。グランドパターン22は、グランド導体と称されてもよい。
【0017】
スペーサ31は、基板11と基板21との間に挟まれ、基板11と基板21とを固定する。基板11及び基板21は、対向し、平行となるようにスペーサ31に固定される。スペーサ31は、例えば、ねじ、又は、両面テープであってもよい。誘電損失等を考慮し、スペーサ31には、例えば、誘電率の低いものを用いるのが好ましい。
【0018】
誘電部材41は、基板11と基板21との間に挿入される。誘電部材41は、例えば、直方体形状を有する。誘電部材41の厚さは、例えば、基板11と基板21との間の距離、又は、その距離より小さい。誘電部材41は、基板11と基板21との間のスペーサ31が無い空間において、自在に配置可能である。
【0019】
誘電部材41は、高誘電率の部材である。誘電部材41は、例えば、ニトリルゴムといったゴムである。
【0020】
後述するが、パッチアンテナ1の共振周波数、帯域、及び、偏波いった動作特性は、誘電部材41の位置によって変わる。誘電部材41は、例えば、パッチアンテナ1の所望の動作特性(設計した動作特性)が得られた後、所望の動作特性が得られた位置において、基板11及び基板21の両方又は一方に固定される。
【0021】
図2は、パッチアンテナ1を上方から見た図である。
図2において、
図1と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
【0022】
図2に示す一点鎖線A2bは、基板11と基板21との間に配置されたスペーサ31を示す。
図2に示す点線A2cは、基板11と基板21との間に配置された誘電部材41を示す。
【0023】
基板11は、例えば、四角形状を有する。パッチパターン12は、上記したように、基板11の上面において、全面にわたって形成され、又は、基板11の上面の一部において、面状に形成される。以下では、パッチパターン12は、基板11の上面において、全面にわたって形成されているとする。
【0024】
基板21は、例えば、四角形状を有する。グランドパターン22(
図2には図示せず)は、上記したように、基板21の下面において、全面にわたって形成され、又は、基板21の下面の一部において、面状に形成される。以下では、グランドパターン22は、基板21の下面において、全面にわたって形成されているとする。
【0025】
パッチパターン12は、グランドパターン22に重なるように配置される。例えば、パッチパターン12は、その全体がグランドパターン22の外周内に収まるように配置される。
【0026】
スペーサ31は、一点鎖線A2bに示すように、例えば、四角形状を有する。スペーサ31は、その面積がパッチパターン12の面積より小さく、パッチパターン12に重なるように配置される。例えば、スペーサ31は、その全体がパッチパターン12の外周内に収まるように配置される。
【0027】
これにより、パッチアンテナ1は、パッチパターン12とグランドパターン22との間において、誘電部材41(
図2の点線A2c)が配置される空間を有する。別言すれば、誘電部材41は、基板11と基板21と間において、パッチパターン12とグランドパターン22とに重なるように、配置可能となる。
【0028】
図1の例では、誘電部材41は、給電点13から最も離れた、パッチパターン12の一辺に沿って、パッチパターン12とグランドパターン22との間に形成された空間に配置される。
【0029】
なお、基板11,21、パッチパターン12、グランドパターン22、スペーサ31、及び、誘電部材41の形状は、四角形状に限られない。これらの形状は、例えば、円形状であってもよい。
【0030】
図3は、
図1とは異なるパッチアンテナ60を側方から見た図である。
図3に示すように、パッチアンテナ60は、基板61と、RF回路65と、を有する。
【0031】
基板61の上面には、パッチパターン62が形成される。基板61の下面には、グランドパターン64が形成される。
【0032】
パッチパターン62には、給電点63が形成される。給電点63は、RF回路65と接続される。
【0033】
図4は、
図3のパッチアンテナ60の動作例を説明する図である。
図4の(A)には、上方から見たパッチパターン62が示してある。
図4の(B)には、側方から見たパッチアンテナ60が示してある。
図4において、
図3と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
【0034】
RF回路65から給電点63に信号が供給されると、
図4の点線矢印A4aに示すように、パッチパターン62の長さ方向(
図4の左右方向)に電流が流れる。電流は、パッチパターン62の中心付近において大きくなり、パッチパターン62の長さ方向の両端に向かって小さくなる。一方、電圧は、パッチパターン62の中心付近において小さくなり、パッチパターン62の長さ方向の両端に向かって大きくなる。これにより、
図4の矢印A4bに示すように、パッチパターン62の端部周辺において電界が発生し、電波が出射される。
【0035】
パッチアンテナ60には、例えば、共振周波数、帯域、及び、偏波といった動作特性がある。パッチアンテナ60において、所望の動作特性を得るには、例えば、パッチパターン62の形状、基板61の誘電率、基板61の厚さ(パッチパターン62とグランドパターン64との距離)、給電点63の位置、及び、給電点63の数といったパラメータを変更する。
【0036】
基板61の表裏にパッチパターン62及びグランドパターン64が形成されるパッチアンテナ60では、所望の共振周波数を得るのに、上記のパラメータを変更し、手間がかかる。
【0037】
これに対し、
図1及び
図2に示すパッチアンテナ1は、以下で説明するように、誘電部材41の位置によって、動作特性が変更される。これにより、パッチアンテナ1は、所望の動作特性を容易に実現できる。
【0038】
以下、パッチアンテナ1の動作特性の実現方法について説明する。
【0039】
<基本動作例>
図5は、パッチアンテナ1の基本動作例を説明する図である。
図5の(A)には、側方から見たパッチアンテナ1が示してある。
図5の(B)には、上方から見たパッチパターン12が示してある。
図5において、
図1及び
図2と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。なお、
図5では、
図1及び
図2に示した一部構成要素の図示を省略している。
【0040】
図5に示すパッチアンテナ1では、誘電部材41が配置されていない。
図5の(B)に示す矢印A5aは、パッチパターン12に流れる電流を示す。
【0041】
図6は、
図5に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図6の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図6の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
【0042】
図6の(A)に示すように、誘電部材41が無いときのパッチアンテナ1の共振周波数は、f0である。
【0043】
図6の(B)に示すように、パッチアンテナ1の共振周波数f0における位相は、0となる。
図6の(B)に示すように、共振周波数f0より小さい周波数では、信号源(RF回路65)の電流の位相に対し、パッチアンテナ1に流れる電流の位相が進みC性を有する。共振周波数f0より大きい周波数では、位相が遅れL性を有する。
【0044】
<共振周波数の設定例>
図7は、パッチアンテナ1の共振周波数の設定例を説明する図である。
図7の(A)には、側方から見たパッチアンテナ1が示してある。
図7の(B)には、上方から見たパッチパターン12が示してある。
図7において、
図5と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
【0045】
図7に示すパッチアンテナ1では、パッチパターン12とグランドパターン22との間に誘電部材41が配置される。例えば、誘電部材41は、
図7の(B)の点線A7bに示す位置に配置される。具体的には、誘電部材41は、パッチパターン12の長さ方向(
図7の左右方向)にある2つの辺のうち、給電点13から遠い方の辺であって、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置される。そして、誘電部材41は、パッチパターン12の幅方向(
図7の上下方向)にわたって配置される。
【0046】
図8は、
図7に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図8の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図8の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
図8には、誘電部材41が無い場合(基本動作)の共振周波数f0も示してある。
【0047】
図7に示したように、パッチパターン12とグランドパターン22との間に誘電部材41が配置された場合、パッチアンテナ1の共振周波数が下がる。例えば、
図8の(A)のf0’に示すように、パッチアンテナ1の共振周波数は、誘電部材41が無い場合(基本動作)の共振周波数f0よりも下がる。
【0048】
誘電部材41が、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置されることによって、
図7の(B)の矢印A7aに示す電流の波長は、誘電部材41が配置されない場合よりも波長圧縮がかかる。これにより、パッチアンテナ1の共振周波数が下がる。
【0049】
パッチアンテナ1の共振周波数は、誘電部材41の位置を変えることにより、様々な値に設定できる。例えば、パッチアンテナ1の共振周波数を、より下げる場合には、
図7に示した誘電部材41を、電界が強くなるパッチパターン12の開放端側に向けて移動させる。誘電部材41を、パッチパターン12の開放端側に向けて移動させることにより、矢印A7aに示す電流の波長が長くなり、パッチアンテナ1の共振周波数が下がる。
【0050】
また、パッチアンテナ1の共振周波数は、例えば、誘電部材41の幅(
図7の(A)の左右方向の長さ)を変えることにより、様々な値に設定できる。例えば、パッチアンテナ1の共振周波数を、より下げる場合には、
図7に示した誘電部材41の幅を広くする。誘電部材41の幅を広くすることにより、誘電部材41の電界に対する作用面積が大きくなり、矢印A7aに示す電流の波長が長くなって、パッチアンテナ1の共振周波数が下がる。特に、電界が強くなるパッチパターン12の開放端側における誘電部材41の幅を大きくする(伸ばす)ことにより、パッチアンテナ1の共振周波数は大きく下がる。
【0051】
このように、誘電部材41の位置又は幅(大きさ)を変えることによって、容易にパッチアンテナ1の共振周波数を設定できる。
【0052】
なお、誘電部材41は、パッチパターン12の4つの辺のうち、少なくとも1つの辺に沿って(1つの辺と平行に)、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置されてもよい。
【0053】
なお、パッチパターン12の電流と直交する辺は、電界及び電圧が大きい。従って、電流と直交する辺に沿ってパッチパターン12を配置した場合、パッチアンテナ1の共振周波数を大きく変えることができる。すなわち、電流と直交する辺に沿ってパッチパターン12を配置した場合、粗調整ができる。また、パッチパターン12の電流と平行する辺は、電界及び電圧が小さい。従って、電流と平行する辺に沿ってパッチパターン12を配置した場合、パッチアンテナ1の共振周波数を小さく変えることができる。すなわち、電流と平行する辺に沿ってパッチパターン12を配置した場合、微調整ができる。
【0054】
<共振周波数の複数化>
パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、共振周波数が複数化される。例えば、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、共振周波数が2周波化される。
【0055】
図9は、パッチアンテナ1の共振周波数の複数化の一例を説明する図である。
図9の(A)には、側方から見たパッチアンテナ1が示してある。
図9の(B)には、上方から見たパッチパターン12が示してある。
図9において、
図5と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
【0056】
図9に示すパッチアンテナ1では、誘電部材41が配置される。例えば、誘電部材41は、
図9の(B)に示す位置に配置される。具体的には、誘電部材41は、パッチパターン12の2つの対角線のうち、一方の対角線であって、その対角線の端部におけるパッチパターン12とグランドパターン22との間に配置される。別言すれば、誘電部材41は、パッチパターン12の角部において、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置される。
【0057】
図10は、
図9に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図10の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図10の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
【0058】
図9に示したように、対角線上において、パッチパターン12とグランドパターン22との間に誘電部材41が配置された場合、パッチパターン12の電界が歪み、また、パッチパターン12に流れる電流が分流される。例えば、パッチパターン12に流れる電流は、
図9の(B)の矢印A9a,A9bに示すように、パッチパターン12の対角線方向において2つに分流される。このため、
図9に示したパッチアンテナ1は、
図10の(A)に示すように、2つの共振周波数f1,f2を有する。また、パッチアンテナ1は、
図10の(B)に示すように、共振周波数f1,f2において、位相が0となる。
【0059】
図9の(B)の矢印A9aに示す電流の波長は、誘電部材41によって、矢印A9bに示す電流の波長より、波長圧縮がかかる。これにより、矢印A9aに示す電流の共振周波数f1は、矢印A9bに示す電流の共振周波数f2より低くなる。
【0060】
パッチアンテナ1の2つの共振周波数f1,f2の間隔は、誘電部材41の位置を変えることにより、変更できる。例えば、パッチアンテナ1の2つの共振周波数f1,f2を、より離すには、
図9に示した誘電部材41を、電界が強くなるパッチパターン12の開放端側(対角線の端)に向けて移動させる。誘電部材41を、パッチパターン12の開放端側に向けて移動させることにより、共振周波数f1がより下がる。共振周波数f1が下がることによって、共振周波数f1に対応する位相0の周波数も下がる。
【0061】
また、パッチアンテナ1の2つの共振周波数f1,f2は、例えば、誘電部材41の幅(パッチパターン12の対角線方向における長さ)を変えることにより、変更できる。例えば、2つの共振周波数f1,f2を、より離すには、
図9の(B)に示した誘電部材41の、パッチパターン12の対角線方向における幅を広くする。誘電部材41の幅を広くすることにより、誘電部材41の電界に対する作用面積が大きくなり、矢印A9aに示す電流の波長が長くなって、共振周波数f1が下がる。特に、電界が強くなるパッチパターン12の開放端側における誘電部材41の幅を大きくする(伸ばす)ことにより、パッチ共振周波数f1は大きく下がる。
【0062】
なお、
図9では、2つの対角線のうちの1つの対角線において、誘電部材41を配置したが、2つの対角線の両方に誘電部材41を配置してもよい。この場合、2つの共振周波数f1,f2それぞれを変更できる。また、誘電部材41は、パッチパターン12の4角に配置されてもよい。
【0063】
このように、パッチパターン12の対角線上に誘電部材41を配置することによって、パッチアンテナ1の共振周波数を複数化できる。また、誘電部材41の位置又は大きさを変えることによって、複数化した共振周波数を容易に変更できる。
【0064】
<広帯域化>
図9及び
図10で説明したように、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、共振周波数が複数化される。また、複数化された共振周波数は、誘電部材41の位置によって、その共振周波数が変更される。従って、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、複数化された共振周波数を近づけることにより、広帯域化される。
【0065】
図11は、パッチアンテナ1の共振周波数における広帯域化の一例を説明する図である。
図11において、
図9と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
【0066】
図11に示すパッチアンテナ1は、
図9と同様に、誘電部材41が対角線上に配置される。ただし、
図11に示すパッチアンテナ1は、
図9に示したパッチアンテナ1に対し、誘電部材41が、パッチパターン12との重なりが小さくなるように配置される。
【0067】
図12は、
図11に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図12の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図12の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
【0068】
図11に示すパッチアンテナ1は、2つの共振周波数を有する。ただし、
図11に示すパッチアンテナ1の2つの共振周波数は、
図12の(A)に示すように、2つの共振周波数f1,f2間の距離が、
図10の(A)に示した2つの共振周波数f1,f2間の距離より小さい。
【0069】
上記したように、
図11に示すパッチアンテナ1は、
図9に示したパッチアンテナ1に対し、誘電部材41が、パッチパターン12との重なりが小さくなるように配置される。そのため、誘電部材41の電界に対する作用面積が小さくなり、2つの共振周波数間の距離が小さくなる。
【0070】
なお、誘電部材41を、例えば、電界が小さくなるパッチパターン12の中心に近づけるにつれ、
図12の(A)に示す実線の波形は、一点鎖線の波形に近づき、やがて1つの波形になる。
図12の(B)に示す位相の波形も同様に1つの波形となる。
【0071】
このように、パッチパターン12の対角線上に配置される誘電部材41の位置又は大きさを調整することによって、パッチアンテナ1の共振周波数を広帯域化できる。
【0072】
<円偏波(左旋)>
図9及び
図10で説明したように、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、共振周波数が複数化される。また、複数化された共振周波数は、誘電部材41の位置によって、その共振周波数が変更され、位相も変更される。従って、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、複数化された共振周波数の位相を調整することにより、円偏波を設定できる。
【0073】
図13は、パッチアンテナ1の円偏波例を説明する図である。
図13において、
図9と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
図13の(B)に示す点線A13aは、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置される誘電部材41を示す。
【0074】
図13に示すパッチアンテナ1は、
図9と同様に、誘電部材41が対角線上に配置される。ただし、
図13に示すパッチアンテナ1は、
図9に示したパッチアンテナ1に対し、2つの振幅周波数特性の交点の周波数における2つの位相の位相差が90度となるように、誘電部材41が配置される。
【0075】
誘電部材41は、パッチパターン12の2つの対角線の4つの端のうち、給電点13から見て遠くにある2つの端であって、左側の端を有する対角線上に配置される。例えば、
図13の(B)において、2つの対角線を示す2つの2点鎖線A13b,A13cの4つの端のうち、給電点13から見て遠くにある2つの端(矢印A13d,A13eに示す端)であって、左側の端(矢印A13dに示す端)を有する対角線上(2点鎖線A13b上)に、誘電部材41は配置される。別言すれば、給電点13から最も離れたパッチパターン12の辺の2つの端(矢印A13d,A13eに示す端)のうち、給電点13から見て、左側の端(角)において、誘電部材41は配置される。これにより、円偏波は、左旋する。
【0076】
また、誘電部材41が、パッチパターン12の2つの対角線の4つの端のうち、給電点13から見て近くにある2つの端であって、右側の端(2点鎖線A13b上の矢印A13dに示す端とは反対側の端)を有する対角線上に配置される場合も、円偏波は、右旋する。
【0077】
図14は、
図13に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図14の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図14の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
【0078】
図13に示すパッチアンテナ1は、
図10に示した周波数特性と同様に、2つの共振周波数を有する。ただし、
図13に示すパッチアンテナ1は、2つの振幅周波数特性の交点の周波数における2つの位相の位相差が90度となる。例えば、
図14の(A)に示すように、2つの振幅周波数特性の交点の周波数は、f0である。周波数f0における2つの位相差が、
図14の(B)に示すように90度となるよう、誘電部材41は、パッチパターン12の2つの対角線のうち、一方の対角線上において配置される。
【0079】
このように、パッチパターン12の対角線上に配置される誘電部材41の位置を調整することによって、左旋円偏波を設定できる。
【0080】
なお、
図14に示す周波数f0(円偏波の周波数)は、変更できる。例えば、
図13の(B)の矢印A13eにて示す端(角)にも、誘電部材41を配置する。2つの角に配置した誘電部材41の位置を変更し、左旋円偏波を実現する。そして、左旋円偏波を維持しながら、2つの角に配置された誘電部材41の位置を変更し、周波数f0を変更する。
【0081】
<円偏波(右旋)>
円偏波を右旋させる場合について説明する。
【0082】
図15は、パッチアンテナ1の円偏波例を説明する図である。
図15において、
図13と同じ構成要素には、同じ符号が付してある。
図15の(B)に示す点線A15aは、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置される誘電部材41を示す。
【0083】
図15に示すパッチアンテナ1は、
図13と同様に、誘電部材41が対角線上に配置される。ただし、
図15に示すパッチアンテナ1は、
図13に示したパッチアンテナ1に対し、誘電部材41が配置される位置が異なる。
【0084】
誘電部材41は、パッチパターン12の2つの対角線の4つの端のうち、給電点13から見て遠くにある2つの端であって、右側の端を有する対角線上に配置される。例えば、
図15の(B)において、2つの対角線を示す2つの2点鎖線A15b,A15cの4つの端のうち、給電点13から見て遠くにある2つの端(矢印A15d,A15eに示す端)であって、右側の端(矢印A15eに示す端)を有する対角線上(2点鎖線A15c上)に、誘電部材41は配置される。別言すれば、給電点13から最も離れたパッチパターン12の辺の2つの端(矢印A15d,A15eに示す端)のうち、給電点13から見て、右側の端(角)において、誘電部材41は配置される。これにより、円偏波は、右旋する。
【0085】
また、誘電部材41が、パッチパターン12の2つの対角線の4つの端のうち、給電点13から見て近くにある2つの端であって、左側の端(2点鎖線A15c上の矢印A15eに示す端とは反対側の端)を有する対角線上に配置される場合も、円偏波は、右旋する。
【0086】
図16は、
図15に示すパッチアンテナ1の周波数特性を示した図である。
図16の(A)には、電流振幅の周波数特性が示してある。
図16の(B)には、電流位相の周波数特性が示してある。
【0087】
図15に示すパッチアンテナ1は、
図10に示した周波数特性と同様に、2つの共振周波数を有する。ただし、
図15に示すパッチアンテナ1は、2つの振幅周波数特性の交点の周波数における2つの位相の位相差が90度となる。例えば、
図16の(A)に示すように、2つの振幅周波数特性の交点の周波数は、f0である。周波数f0における2つの位相差が、
図16の(B)に示すように90度となるよう、誘電部材41は、パッチパターン12の2つの対角線のうち、一方の対角線上において配置される。
【0088】
このように、パッチパターン12の対角線上に配置される誘電部材41の位置を調整することによって、左旋円偏波を設定できる。
【0089】
なお、
図16に示す周波数f0(円偏波の周波数)は、変更できる。例えば、
図15の(B)の矢印A15dにて示す端(角)にも、誘電部材41を配置する。2つの角に配置した誘電部材41の位置を変更し、右旋円偏波を実現する。そして、右旋円偏波を維持しながら、2つの角に配置された誘電部材41の位置を変更し、周波数f0を変更する。
【0090】
<実施の形態のまとめ>
以上説明したように、パッチアンテナ1は、グランドパターン22と、グランドパターン22に対向して配置されるパッチパターン12と、グランドパターン22とパッチパターン12との間に配置される誘電部材41と、を備える。誘電部材41は、パッチパターン12からグランドパターン22に向かう方向から見て、パッチパターン12の一部と重なるように配置される。
【0091】
これにより、パッチアンテナ1は、所望の動作特性を容易に実現できる。例えば、グランドパターン22とパッチパターン12との間に配置される誘電部材41の位置を変えることにより、所望の動作特性を容易に実現できる。
【0092】
また、パッチアンテナ1は、誘電部材41の位置によって、様々な動作特性が実現される。従って、例えば、求められる様々な動作特性に対し、誘電部材41の位置を決定すればよく、他の部材(基板11、パッチパターン12、給電点13、基板21、グランドパターン22、スペーサ31、及び、誘電部材41)を、求められる動作特性ごとに設計しなくて済む。
【0093】
また、誘電部材41は、パッチパターン12の一部と重なるように、グランドパターン22とパッチパターン12との間に配置される。従って、パッチアンテナ1は、誘電部材41による誘電損失を抑制できる。
【0094】
<変形例1>
上記では、パッチパターン12は基板11に形成され、グランドパターン22は、基板21に形成されるとしたが、これに限られない。パッチパターン12は、例えば、金属板単体で形成されてもよく、基板11に形成されなくてもよい。グランドパターン22は、例えば、金属板単体で形成されてもよく、基板21に形成されなくてもよい。
【0095】
<変形例2>
上記では、誘電部材41は、パッチパターン12とグランドパターン22との間に配置されるとしたが、これに限られない。誘電部材41は、パッチパターン12とグランドパターン22との間でなく、パッチパターン12の周辺に配置されてもよい。パッチパターン12の周辺であっても、電界が及ぶ場所が存在し、そのような場所に誘電部材41が配置された場合、パッチアンテナ1の動作特性を変えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示のパッチアンテナは、例えば、ミリ波レーダ又は全球測位衛星システムといった通信装置に利用できる。
【符号の説明】
【0097】
1 パッチアンテナ
11,21 基板
12 パッチパターン
13 給電点
22 グランドパターン
31 スペーサ
41 誘電部材