(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085685
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ガス拡散型電解フローセル用のカソード電極、及びガス拡散型電解フローセル
(51)【国際特許分類】
C25B 11/065 20210101AFI20240620BHJP
C25B 11/085 20210101ALI20240620BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240620BHJP
【FI】
C25B11/065
C25B11/085
C25B3/03
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200347
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直柔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】関澤 佳太
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA16
4K011AA68
4K011BA06
4K011DA10
4K021AC02
4K021BA02
4K021DB05
4K021DB16
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C
2+還元生成物の生成量を向上させることが可能なガス拡散型電解フローセル用のカソード電極を提供する。
【解決手段】一酸化炭素を還元して一酸化炭素還元生成物を生成するガス拡散型電解フローセル用のカソード電極22であって、銅原子を有する分子触媒と、アルカリ金属塩と、導電性炭素材料とを有する触媒層26を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素ガスを還元して一酸化炭素還元生成物を生成するガス拡散型電解フローセル用のカソード電極であって、
銅原子を有する分子触媒と、アルカリ金属塩と、導電性炭素材料とを有する触媒層を備えることを特徴とするガス拡散型電解フローセル用のカソード電極。
【請求項2】
前記銅原子を有する分子触媒は前記導電性炭素材料に担持されていることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散型電解フローセル用のカソード電極。
【請求項3】
アノード溶液が供給されるアノード電極と、一酸化炭素ガスが供給されるカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極により挟持されるイオン伝導性ポリマー膜と、を備えるガス拡散型電解フローセルであって、
前記カソード電極は、請求項1又は2に記載のガス拡散型電解フローセル用のカソード電極であることを特徴とするガス拡散型電解フローセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散型電解フローセル用のカソード電極、及びガス拡散型電解フローセルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題、さらに環境問題の観点等から、一酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す技術の開発が進められている。
【0003】
従来、一酸化炭素を還元する方法としては、銅系金属触媒を用いて一酸化炭素を電気化学的に還元する方法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1-4)。そして、特許文献1、非特許文献1、3、4は、アノード電極と、カソード電極と、両電極により挟持されるイオン伝導性ポリマー膜と、を備えるガス拡散型電解フローセルを用いて、一酸化炭素を電気化学的に還元して、一酸化炭素還元生成物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022-0213604号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences, 2021, 118.2, e2010868118
【非特許文献2】ACS Cent. Sci. 2017, 3, 9, 1032-1040
【非特許文献3】Chem. Eur. J. 2022, 28, e202200340
【非特許文献4】Nature Energy, 2022, 7, 170-176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一酸化炭素還元反応において、CO2分子以上から生成するC2+還元生成物(例えば、エチレン、エタノール、プロパノール等)は、エネルギー資源的に有用であることから、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることが望まれている。
【0007】
しかしながら、従来のガス拡散型電解フローセルにおいては、アノードやカソードの反応過電圧が大きいこと等に起因して、低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることは困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることが可能なガス拡散型電解フローセル用のカソード電極及びガス拡散型電解フローセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一酸化炭素ガスを還元して一酸化炭素還元生成物を生成するガス拡散型電解フローセル用のカソード電極であって、銅原子を有する分子触媒と、アルカリ金属塩と、導電性炭素材料とを有する触媒層を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記ガス拡散型電解フローセル用のカソード電極において、前記銅原子を有する分子触媒は前記導電性炭素材料に担持されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、アノード溶液が供給されるアノード電極と、一酸化炭素ガスが供給されるカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極により挟持されるイオン伝導性ポリマー膜と、を備えるガス拡散型電解フローセルであって、前記カソード電極は、前記ガス拡散型電解フローセル用のカソード電極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることが可能なガス拡散型電解フローセル用のカソード電極及びガス拡散型電解フローセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るガス拡散型電解フローセルの一例を示す概略構成図である。
【
図2】実施例1の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示す。
【
図3】比較例1の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示す。
【
図4】実施例1及び比較例1の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。
【
図5】実施例2の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示す。
【
図6】比較例2の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示す。
【
図7】実施例2の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。
【
図8】比較例2の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。
【
図9】比較例3~5の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示す。
【
図10】比較例3~5の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るガス拡散型電解フローセルの一例を示す概略構成図である。
図1に示すガス拡散型電解フローセル1は、一酸化炭素ガスがカソード電極22に直接供給される装置である。一酸化炭素ガスとは、一酸化炭素を含むガスであり、好ましくは一酸化炭素及び水蒸気を含むガスである。
図1に示すガス拡散型電解フローセル1は、アノード部10、カソード部12、イオン伝導性ポリマー膜14を備えている。アノード部10は、アノード電極16、アノード溶液流路18を備えている。アノード電極16は、イオン伝導性ポリマー膜14とアノード溶液流路18との間に、それらと接するように配置されている。アノード溶液流路18は、アノード電極16にアノード溶液を供給するものであり、アノード集電板20に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。カソード部12は、カソード電極22、ガス流路24を備えている。カソード電極22は、ガス流路24とイオン伝導性ポリマー膜14との間に配置されている。カソード電極22は、触媒層26を備えている。また、カソード電極22は、ガス拡散層28を備えていることが好ましい。
図1に示すカソード電極22は、イオン伝導性ポリマー膜14側から順に、触媒層26と、ガス拡散層28とを備えている。ガス流路24は、カソード電極22に一酸化炭素ガスを供給するものであり、カソード集電板30に設けられたピット(溝部又は凹部)により形成されている。イオン伝導性ポリマー膜14は、アノード電極16とカソード電極22により挟持されている。すなわち、アノード電極16とカソード電極22とはイオン伝導性ポリマー膜14により分離されている。
【0016】
アノード集電板20には、例えば、溶液導入口と溶液導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、アノード溶液が、溶液導入口を介してアノード溶液流路18内に導入され、アノード電極16と接触しながらアノード溶液流路18内を通り、アノード溶液導出口から排出される。アノード集電板20は、化学反応性が高く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0017】
カソード集電板30には、例えば、ガス導入口とガス導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、一酸化炭素ガスが、ガス導入口を介してガス流路24内に導入され、ガス拡散層28を介して触媒層26に接触しながらガス流路24内を通り、ガス導出口から排出される。カソード集電板30は、アノード集電板20と同様に、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0018】
図1に示す符号32は、アノード電極16とカソード電極22との間を電気的に接続し、電力を供給する電源である。電源32は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池セル等が挙げられる。
【0019】
次に、
図1に示すガス拡散型電解フローセル1の動作例について説明する。
【0020】
アノード電極16とカソード電極22との間に電源32から電流が供給されると、アノード溶液と接するアノード電極16では、例えば、水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成する。
2H2O → 4H++O2+4e- ・・・(1)
【0021】
一方、カソード電極22側では、ガス流路24からガス拡散層28を介して触媒層26に供給された一酸化炭素ガスが、例えば、電源32からカソード電極22に供給される電流に基づく電子(e-)と、イオン伝導性ポリマー膜14を介してアノード電極16からカソード電極22側に移動してきたH+とにより、還元されて、下記の(2)式のように、C2H4が生成する。また、副反応として、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取り、水素が生成する。
2CO+8H++8e- → C2H4+2H2O ・・・(2)
2H++2e- → H2 ・・・(3)
一酸化炭素還元生成物は、上記エチレン(C2H4)以外に、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H7OH)等もある。
【0022】
以下、アノード電極16、カソード電極22、イオン伝導性ポリマー膜14の構成について詳述する。
【0023】
アノード電極16は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備えることが好ましい。Ni、Ti、又はFeの金属材料は、Ni、Ti、Feの金属を少なくとも1つ含む合金も含まれる。また、基材は、イオン伝導性ポリマー膜14とアノード溶液流路18との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造であることが好ましく、例えば、多孔体、メッシュ、又は繊維焼結体であることが好ましい。
【0024】
アノード電極16は、アノード触媒を含むことが好ましい。アノード触媒は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、例えば、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、当該金属を含む酸化物、当該金属を含む水酸化物、当該金属を含むオキシ水酸化物等が挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。アノード触媒を用いる場合には、前述の基材上にアノード触媒を担持することが好ましい。
【0025】
アノード溶液は、例えば、酸化反応を高める点で、水酸化物イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、四ホウ酸イオン、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つのイオンを含むことが好ましい。
【0026】
カソード電極22を構成するガス拡散層28は、触媒層26と電源32との電気的導通を確保し、且つ一酸化炭素ガスを触媒層26に効率よく供給するものであれば特に制限されないが、カソード電極22側から移動してきた水の量を減らすことができる等の点で、疎水性多孔質カーボン基材であることが好ましい。
【0027】
カソード電極22を構成する触媒層26は、前述したように、一酸化炭素ガス中の一酸化炭素の還元反応を促し、一酸化炭素還元生成物等を生成する。触媒層26は、銅原子を有する分子触媒と、導電性炭素材料と、アルカリ金属塩とを含む。また、触媒層26は、イオン伝導体及びバインダーとなる高分子を含むことが好ましい。触媒層26は、一酸化炭素ガスの拡散性を向上させる等の点で、多孔質構造体であることが好ましい。触媒層26の厚みは、例えば5~200μmである。
【0028】
銅原子を有する分子触媒は、中心金属である銅と、配位子とを有する銅錯体触媒等が挙げられる。配位子は、2,2’-ビピリジン、2-フェニルピリジン、1,10-フェナントロリン等の構造を有する二座配位子、2,2’:6’,2”-ターピリジン等の構造を有する三座配位子、ポルフィリン、フタロシアニン、コロール、クロリン、2,2’:6’,2”:6”,2’’’-クオーターピリジン等の構造を有する四座配位子、およびこれら四座以下の配位子を基本骨格とし、有機的にピリジン等の配位性置換基が連結された五座以上の配位子等が挙げられる。具体的な銅錯体触媒としては、例えば、フタロシアニン類似体の構造を有する銅錯体触媒(例えば、Copper-tetrapyridino-porphyrazine、Copper phthalocyanine)等が挙げられる。
【0029】
銅錯体触媒は、例えば、一般式:CuMX2(Y)2L2で表される触媒でもよい。一般式中、Mは、触媒活性が高い点等で、Cu、Ag又はNiであることが好ましく、Cuであることがより好ましい。一般式中、Xはハロゲン原子であれば特に限定されないが、結晶構造の安定性の点等で、Br、Cl及びIから選択されることが好ましく、特にBrが好ましい。
【0030】
一般式中、Yはリン原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-tert.-ブチルホスフィン、トリ-n-ペンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-n-ヘプチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2-フリル)ホスフィン、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリス-(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン等が挙げられる。これらの中では、トリフェニルホスフィン(PPh3)が好ましい。
【0031】
一般式中、Lは窒素原子を有する配位子であれば特に限定されないが、電極から電子を受け取る最低非占有分子軌道(LUMO)を担う配位子であることが好ましく、例えば、ピリジン誘導体等が挙げられる。ピリジン誘導体としては、例えば、4,4’-ジ(4-ピリジル)ビフェニル、4,4’-ジピリジル、1,2-ジ(4-ピリジル)エタン、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシジイミド、4-(4-ピペリジル)ピリジン、2-メチルピリジン、2-エチルピリジン、4-プロピルピリジン、2-ビニルピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-フェニルピリジン、2-ヒドロキシピリジン、1,5-ナフチリジン、2,2’-ビピリジル、1,3-ジ(4-ピリジル)プロパン、4-ピリジル-4’-メチルピリジルビフェニル、4-メチルピリジン、3-ベンジルピリジン等が挙げられる。これらの中では、例えば、4-フェニルピリジル(4PP)が好ましい。
【0032】
触媒層26に含まれる導電性炭素材料は、例えば、ケッチェンブラックやVULCAN(登録商標)XC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性炭素材料は、一酸化炭素の還元反応性が高められる等の点で、上記銅原子を有する分子触媒が担持される担体として使用されることが望ましい。
【0033】
触媒層26に含まれるアルカリ金属塩は、無機アルカリ金属塩でもよいし、有機アルカリ金属塩でもよいし、これらを併用してもよい。
【0034】
無機アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の各種の無機塩が使用でき、例えば、アルカリ金属の塩化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、あるいは水酸化物等を挙げることができる。また、アルカリ金属を含有する粘土に代表される層状化合物も使用することができる。
【0035】
有機アルカリ金属塩としては、例えば、脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩等の脂肪族有機酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩等の芳香族有機酸のアルカリ金属塩、アルカンの水素をフルオロ化したフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、アルカンスルホン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。アルカンスルホン酸アルカリ金属塩に使用するアルカンスルホン酸の好ましい例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、メチルブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、へプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。またかかるアルキル基の一部または全部がフッ素原子で置換したアルカリ金属塩でもよい。また、芳香族スルホン酸アルカリ金属塩に使用する芳香族スルホン酸としては、モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。アルカリ金属塩としては、アルコールに溶けやすい有機アルカリ金属塩が好ましい。有機アルカリ金属塩が溶解したアルコール溶媒を用いることにより、触媒層26に有機アルカリ金属塩を高分散させることが可能である。
【0036】
アルカリ金属塩の含有量は、例えば、触媒層26に使用する導電性炭素材料の総量に対して、2質量%~75質量%の範囲とすることが好ましい。また、特に重量にこだわらず、導電性炭素材料をアルカリ金属塩が溶解した溶液に浸して乾かすだけでも良い。
【0037】
触媒層26に含まれるイオン伝導体及びバインダーとなる高分子は、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(旭硝子(株)製)等のカチオン交換樹脂、ネオセプタやセレミオン、サステニオン等のアニオン交換樹脂等が挙げられる。
【0038】
触媒層26は、触媒活性を高めることができる点で、フェノール又はその塩を含んでいてもよい。また、アノード電極16は、水の酸化を低電位で進行させることができる等の点で、オキシ水酸化鉄、又はオキシ水酸化ニッケルを含んでいてもよい。
【0039】
イオン伝導性ポリマー膜14としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオン、サステニオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。
【0040】
本実施形態のカソード電極22のように、銅原子を含有する分子触媒を使用することにより、銅の金属触媒を使用した場合よりも、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることができると考えられる。また、本実施形態のカソード電極22のように、アルカリ金属塩と導電性炭素材料が共存することで、カソード電極22の導電性が向上し、一酸化炭素還元に必要な電気エネルギーを小さくすることができると考えられる。また、本実施形態のカソード電極22のように、アルカリ金属塩と銅原子を含有する分子触媒が共存することで、銅原子を含有する分子触媒の耐久性を向上させることができ、高い触媒活性を維持して、一酸化炭素を還元することができると考えられる。また、銅原子を含有する分子触媒がCOと反応する際、アルカリ金属塩(或いはアルカリ金属イオン)がCOの酸素側に特異的に吸着して、活性化エネルギーを下げるため、COの還元反応による過電圧が低減されると推察される。したがって、本実施形態のカソード電極22を使用することで、低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態のガス拡散型電解フローセル1は、COを気体としてカソード電極22に供給しているため、拡散速度の速い気相中で還元反応が進行するので、カソード電極22にCOを溶解した電解液を供給するガス拡散型電解フローセルに比べて、CO還元反応における電流密度の限界を増大させることができ、またH2の副生を抑えることができる。また、本実施形態のガス拡散型電解フローセル1は、両電極に電解液を供給するガス拡散型電解フローセルと比べて、セル全体の抵抗を低減することができる。したがって、本実施形態のカソード電極22を備えたガス拡散型電解フローセル1によれば、低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることができる。
【0042】
ガス拡散型電解フローセルにおけるセル電位を低下させる好ましい態様としては、カソード電極側の過電圧を低下させることに加え、アノード電極側の過電圧を低下させることが好ましい。アノード電極側の過電圧を低下させるには、前述したように、アノード電極16に、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を用いたり、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、当該金属を含む酸化物、当該金属を含む水酸化物、当該金属を含むオキシ水酸化物をアノード触媒として用いたりすることが好ましい。
【0043】
アルカリ性のアノード溶液は、例えば、セル電圧の低下等の点で、pH12以上の水溶液であることがより好ましい。イオン伝導性ポリマー膜14は、水素イオン濃度差が形成され易く、ひいてはセル電圧の低下に繋がる等の点で、陰イオン伝導性ポリマー膜であることが好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
[カソード電極]
40mLのジメチルフォルムアミド溶液中にカーボンブラック(VULCAN(登録商標)XC-72R)60mgを添加し、30分間、超音波処理を行った後、銅フタロシアニン錯体触媒(Cupper-tetrapyridino-porphyrazine、以下CuPyPcと称する)1mgを加え、さらに30分間、超音波処理を行った。この溶液を室温で24時間撹拌した後に、ろ過・洗浄を行い、カーボンブラックにCuPyPcを担持した触媒材料を得た(以後、CuPyPc/Cと称する)。そして、0.9mLのエタノール溶液に、CuPyPc/Cを10mg、アルカリ金属塩であるカリウムトリフレート塩(以下、KOtfと称する)を1mg、Nafion溶液を0.1mL添加した。得られた混合溶液を5分間、超音波処理した後、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。この溶液を、ガス拡散層として用いたカーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に塗布し、60℃で乾燥した。このようにして、カーボンペーパー上に触媒層を形成したカソード電極を得た。
【0046】
[アノード電極]
0.1Mの塩化鉄水溶液、0.05Mの硝酸ニッケル水溶液、及びエチレンジアミン塩酸塩水溶液を混合して、pH2.3に調整することで、Niドープβ-FeOOHコロイド溶液を調製した。このNiドープβ-FeOOHコロイド溶液10mLと、0.063Mの塩化ニッケル及び0.055mMの塩化鉄を混合した水溶液10mLと混合した。この混合溶液に、1.13cm2のニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を浸漬させた後、150℃で、8時間乾燥することにより、ニッケルフォームにNiドープβ-FeOOHを担持した。これをアノード電極とした。
【0047】
[ガス拡散型電解フローセル]
陰イオン伝導性樹脂(Sustainion(登録商標) X37-50 Grade)を、アノード電極とカソード電極とで挟持した。カソード電極は、触媒層が陰イオン伝導性樹脂に接触するように配置した。この膜/電極接合体を、反応セル(Complete 5 cm2 CO2 Electrolyzer(Dioxide Materials社製))に設置した。当該反応セルは、ガス流路が形成されたカソードガス集電板とアノード溶液流路が形成されたアノード集電板とを備えている。そして、膜/電極接合体は、カソード集電板のガス流路及びアノード集電板のアノード溶液流路に接するように配置した。これをガス拡散型電解フローセルとした。
【0048】
[一酸化炭素電解]
上記ガス拡散型電解フローセルを用いて、一酸化炭素電解を行った。具体的には、ガス流路に一酸化炭素ガス(CO、99.995%)を10sccmで供給し、アノード溶液流路に1Mの水酸化カリウム水溶液を供給した。そして、電気化学測定システム(Bio-Logic Science Instruments、SP-150)を2極方式でアノード側及びカソード側に接続し、両極に-2.2Vの電圧を印加して、一酸化炭素電解を行った。一酸化炭素電解に伴う生成物の同定及び定量には、オンラインガスクロマトグラフ(SRI Instruments、Multiple Gas Analyzer #5)を使用した。カラムには、MOLECULAR SIEVE SAとHAYESEP-Dを用い、検出器は熱伝導度型検出器(TCD)並びに水素炎イオン化検出器(FID)を使用した。
【0049】
<実施例2>
CuPyPcに代えて、Cu2Br2(PPh3)2(4PP)2を用いてカソード電極を作製したこと以外は、実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。Cu2Br2(PPh3)2(4PP)2は以下のようにして調製した。まず、4-フェニルピリジン(4PP)84mgとトリフェニルホスフィン(PPh3)130mgを混合したアセトン溶液に、臭化銅(CuBr)を溶解したアセトニトリル溶液を加えて、一晩室温で撹拌した。その後、減圧蒸留し、アセトン、エタノールで洗浄後、CH2Cl2100%、CH2Cl299%、CH3CN1%の順で、シリカゲルにより精製し、真空乾燥することにより、Cu2Br2(PPh3)2(4PP)2を合成した。
【0050】
<比較例1>
KOtfを使用しないでカソード電極を作製したこと以外は実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。
【0051】
<比較例2>
ガス拡散層として用いたカーボンペーパーの上に、エタノールに溶解したアルカリ金属塩であるトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(以下、KOtfと称する)を0.2mg塗布した後、さらにCu2Br2(PPh3)2(4PP)2を1mg塗布した。これをカソード電極としたこと以外は、実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。
【0052】
<比較例3>
ガス拡散層として用いたカーボンペーパーの上に、エタノールに溶解したアルカリ金属塩であるトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(以下、KOtfと称する)を0.2mg塗布した後、さらにCuを1mg塗布した。これをカソード電極としたこと以外は、実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。
【0053】
<比較例4>
ガス拡散層として用いたカーボンペーパーの上に、エタノールに溶解したアルカリ金属塩であるトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(以下、KOtfと称する)を0.2mg塗布した後、さらにCu2Oを1mg塗布した。これをカソード電極としたこと以外は、実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。
【0054】
<比較例5>
ガス拡散層として用いたカーボンペーパーの上に、エタノールに溶解したアルカリ金属塩であるトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(以下、KOtfと称する)を0.2mg塗布した後、さらにCuOを1mg塗布した。これをカソード電極としたこと以外は、実施例1と同様にガス拡散型電解フローセルを作製し、実施例1と同様に一酸化炭素電解を行った。
【0055】
図2に、実施例1の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示し、
図3に、比較例1の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示し、
図4に実施例1及び比較例1の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。実施例1では、2時間経過時点で、C
2H
4のファラデー効率は、56%であり、H
2のファラデー効率は20%であり、エチレン(C
2+化合物)の生成が高かった。一方、比較例1では、2時間経過時点で、C
2H
4のファラデー効率は28%であり、H
2のファラデー効率は50%であり、水素(副生成物)の生成が高かった。また、実施例1の電流密度は、2時間経過時点で、-100mA/cm
2であったのに対し、比較例1の電流密度は、2時間経過時点で、-50mA/cm
2程度であった。これらの結果から、カソード電極の触媒層にアルカリ金属塩が存在することで、副反応である水素生成を抑えて、C
2+還元生成物の生成量を向上させることができると言える。
【0056】
図5に、実施例2の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示し、
図6に、比較例2の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示し、
図7に実施例2の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示し、
図8に比較例2の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。実施例2及び比較例2共に、2時間経過時点で、C
2H
4のファラデー効率は約40%であり、H
2のファラデー効率は約25%であり、エチレン(C
2+化合物)の生成が高かった。また、実施例2の電流密度は、平均で、-50mA/cm
2であったのに対し、比較例2の電流密度は、平均で、-10mA/cm
2程度であった。これらの結果から、カソード電極の触媒層に導電性炭素材料が存在することで、副反応である水素生成を抑えて、C
2+還元生成物の生成量を向上させることができると言える。
【0057】
また、実施例1及び2は、金属電極を用いた従来のガス拡散型電解フローセル(非特許文献4)のセル電位(2.5V)よりも0.3V低いセル電位で駆動している。したがって、実施例1及び2によれば、従来に比べて低いセル電位で、副反応である水素生成を抑えて、C2+還元生成物の生成量を向上させることが可能となる。
【0058】
図9に、比較例3~5の一酸化炭素電解における生成物(C
2H
4、H
2)のファラデー効率の経時変化を示し、
図10に、比較例3~5の一酸化炭素電解時のカソード電極の電流密度の経時変化を示す。比較例3では、C
2H
4のファラデー効率は、40%であり、H
2のファラデー効率は30%であり、比較例4では、C
2H
4のファラデー効率は30%であり、H
2のファラデー効率は40%であり、比較例5では、C
2H
4のファラデー効率は20%であり、H
2のファラデー効率は70%であった。また、比較例3の電流密度は、-30mA/cm
2であり、比較例4の電流密度は、-20mA/cm
2であり、比較例5の電流密度は、-50mA/cm
2であった。比較例3~5はいずれも、実施例1~2と比べて、C
2H
4のファラデー効率は低く、電流密度も小さい値となった。
1 ガス拡散型電解フローセル10 アノード部、12 カソード部、14 イオン伝導性ポリマー膜、16 アノード電極、18 アノード溶液流路、20 アノード集電板、22 カソード電極、24 ガス流路、26 触媒層、28 ガス拡散層、30 カソード集電板、32 電源。