(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085711
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】トルクセンサ装置及びトルクセンサ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20240620BHJP
G01L 3/10 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B62D5/04
G01L3/10 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200383
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰伸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 之
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB13
3D333CC14
3D333CC28
3D333CD06
3D333CD17
3D333CD44
3D333CE10
(57)【要約】
【課題】フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めること。
【解決手段】出力軸82bに固定されるステータ44と、内側に出力軸82bとステータ44とを配置するハウジング20と、出力軸82bをハウジング20に対して回転自在に支持する軸受60と、を備え、軸受60は、ハウジング20に固定される外輪61と、出力軸82bに固定される内輪62と、外輪61と内輪62との間に配置される複数の転動体63とを有しており、ハウジング20と出力軸82bは、外輪61がハウジング20に固定されて内輪62が出力軸82bに固定される状態において、外輪61と内輪62とに対して軸方向予圧を付与し、少なくとも1つの軸受60は、ハウジング20と出力軸82bとのいずれか一方から径方向予圧が付与されることにより、軸受60が他方に固定されていない状態における外輪61や内輪62と転動体63との残留隙間が0以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに固定されるステータと、
前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、
内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、
前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、
を備え、
前記軸受は、前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有しており、
前記ハウジングと前記シャフトは、前記外輪が前記ハウジングに固定されて前記内輪が前記シャフトに固定される状態において、前記外輪と前記内輪とに対して前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与し、
少なくとも1つの前記軸受は、前記ハウジングと前記シャフトとのいずれか一方から前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧が付与されることにより、前記軸受が他方に固定されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間が0以下である、トルクセンサ装置。
【請求項2】
前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記内輪を前記シャフトに圧入することにより、前記外輪が前記ハウジングに固定されていない状態における前記残留隙間が0以下である請求項1に記載のトルクセンサ装置。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記外輪に対して前記軸方向予圧を付与する段部を備え、
前記段部は、内周面が前記外輪の外周面に対向する大径部と、内径が前記大径部の内径よりも小さい小径部と、前記大径部と前記小径部とを接続し、前記軸方向における前記外輪の側面に対向する接続部とを有し、
前記段部は、前記外輪の前記側面に対して前記接続部が当接することにより、前記外輪に対して前記軸方向予圧を付与する請求項2に記載のトルクセンサ装置。
【請求項4】
前記小径部の内径は、前記ステータの外径より大きく、且つ、前記外輪の外径より小さい請求項3に記載のトルクセンサ装置。
【請求項5】
前記シャフトは、前記内輪を圧入する部分に対して前記径方向における外側に突出する径方向凸部を有し、
前記シャフトは、前記径方向凸部が前記軸方向における前記内輪の側面に当接することにより、前記内輪に対して前記軸方向予圧を付与する請求項2に記載のトルクセンサ装置。
【請求項6】
前記シャフトは、ステアリングホイールが連結される入力軸と、トーションバーを介して前記入力軸に連結される出力軸と、を有し、
前記磁石と前記ステータとは、一方が前記入力軸に固定され、他方が前記出力軸に固定され、
前記出力軸には、電動モータで発生する補助操舵トルクを出力する駆動ギヤに噛み合うことにより前記補助操舵トルクを前記出力軸に伝達する被動ギヤが固定され、
前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記出力軸を回転自在に支持する請求項1に記載のトルクセンサ装置。
【請求項7】
前記ハウジングは、前記入力軸を収容する第1ハウジングと、前記第1ハウジングに連結され前記出力軸を収容する第2ハウジングとを有し、
前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとには、前記軸受がそれぞれ固定され、
前記軸方向予圧は、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとが連結されることにより、前記第1ハウジングに固定される前記軸受と前記第2ハウジングに固定される前記軸受とに対してそれぞれ付与される請求項6に記載のトルクセンサ装置。
【請求項8】
前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記外輪を前記ハウジングに圧入することにより、前記内輪が前記シャフトに固定されていない状態における前記残留隙間が0以下である請求項1に記載のトルクセンサ装置。
【請求項9】
シャフトに固定されるステータと、
前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、
内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、
前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、
を備え、
前記軸受は、前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有しており、
前記ハウジングと前記シャフトは、前記外輪が前記ハウジングに固定されて前記内輪が前記シャフトに固定される状態において、前記外輪と前記内輪とに対して前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与し、
少なくとも1つの前記軸受は、前記ハウジングと前記シャフトとのいずれか一方から前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧が付与されることにより、前記軸受が他方に固定されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間が0以上であり、且つ、前記軸受が他方に固定されている状態であって前記シャフトが回転している状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である有効隙間が0以下であり、
前記軸受に前記径方向予圧が付与されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との間の前記径方向の隙間を内部隙間とする場合に、前記残留隙間と前記内部隙間との差分が、前記有効隙間と前記残留隙間との差分より大きい、トルクセンサ装置。
【請求項10】
シャフトに固定されるステータと、
前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、
内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、
前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有し、前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、
を備えるトルクセンサ装置の製造方法において、
前記シャフトを少なくとも1つの前記軸受の前記内輪に圧入することにより、前記軸受に対して前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧を付与し、前記軸受の前記外輪が前記ハウジングに固定されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間を0以下にする第1工程と、
前記第1工程の後で、前記軸受の前記外輪を前記ハウジングに固定することにより、前記ハウジングと前記シャフトとによって前記軸受の前記外輪と前記内輪とに対して、前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与する第2工程とを含む、トルクセンサ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トルクセンサ装置及びトルクセンサ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操舵をアシストする操舵装置では、運転者による操舵トルクをトルクセンサによって検出し、検出した操舵トルクに応じてモータの出力を出力軸に伝達することにより、運転者の操舵のアシストを行う。例えば、特許文献1に記載された動力舵取装置では、ウォームホイールが一体回転可能に結合される操舵軸を転がり軸受によって回転自在に支持し、モータの回転軸に連結されるウォーム軸をウォームホイールと噛み合わせてモータの出力を操舵軸に伝えることにより、モータを用いて補助操舵力を得ている。また、特許文献1では、転がり軸受の内輪をウォームホイールに当接させてウォームホイールに軸方向の予圧を与えることにより、ウォーム軸とウォームホイールとの間のバックラッシを抑制し、ラトル音による騒音の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、運転者による操舵トルクをトルクセンサは、トーションバーを介して連結される一対のシャフトのうち、一方のシャフトに固定される磁石と、他方のシャフトに固定されるステータと、ステータからの磁束を集磁する集磁ヨークとを有しており、集磁ヨークで集磁した磁束に基づいてトルクの検出を行う。集磁ヨークは、ステータが有するフランジ部に対してギャップを有して重なって配置されているが、集磁ヨークとステータとのギャップが変化すると、トルクセンサでトルクを検出した際の出力特性が変化する。例えば、シャフトが外力を受けて軸方向に移動すると、シャフトに固定されるステータもシャフトと共に軸方向に移動するため、ステータと集磁ヨークとのギャップが変化し、トルクセンサの出力特性が変化してしまう。
【0005】
集磁ヨークとステータとのギャップの変化を抑制してトルクセンサの出力特性の変化を抑制するためには、ステータが固定されるシャフトを軸受によって支持する際における、軸方向の支持剛性を高める必要がある。軸方向の支持剛性を高めてシャフトを支持する方法としては、例えば、シャフトを支持する軸受に軸方向に予圧をかけて、軸受の外輪と内輪との軸方向の相対移動を抑えることにより、シャフトの軸方向の移動を抑制する手法が考えられる。
【0006】
つまり、軸受は、外輪や内輪と転動体との間の隙間である内部隙間を有しているため、外輪と内輪とに対して軸方向において互いに反対方向の予圧をかけた状態で配置することにより、外輪や内輪と転動体と接触させ続けることができ、外輪と内輪との軸方向の相対移動を抑制することができる。これにより、シャフトが軸方向に移動することを抑制することができ、トルクセンサの出力特性の変化を抑えることができる。
【0007】
しかし、軸受に対して軸方向の予圧をかけた場合、予圧によって軸受のフリクションが増加し、シャフトが回転する際のフリクションが増加する可能性がある。このため、軸受によってシャフトを支持する際における軸方向の支持剛性を、シャフトの回転時のフリクションを増加させることなく高めるのは、大変困難なものとなっていた。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることのできるトルクセンサ装置及びトルクセンサ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のトルクセンサ装置は、シャフトに固定されるステータと、前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、を備え、前記軸受は、前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有しており、前記ハウジングと前記シャフトは、前記外輪が前記ハウジングに固定されて前記内輪が前記シャフトに固定される状態において、前記外輪と前記内輪とに対して前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与し、少なくとも1つの前記軸受は、前記ハウジングと前記シャフトとのいずれか一方から前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧が付与されることにより、前記軸受が他方に固定されていない状態における前記外輪や前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間が0以下である。
【0010】
この構成によれば、ハウジングとシャフトは、軸受の外輪がハウジングに固定されて内輪がシャフトに固定される状態において、外輪と内輪とに対して軸方向予圧を付与するため、ステータが固定されるシャフトを軸受によって支持する際における軸方向の支持剛性を高めることができる。また、軸受は、径方向予圧が付与されることにより残留隙間が0以下になっている。これにより、軸受の外輪と内輪とが転動体を介して相対回転をする際のフリクションを、軸方向予圧が付与されている状態において小さくすることができるため、シャフトが回転をする際におけるフリクションを低減することができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0011】
望ましい形態として、前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記内輪を前記シャフトに圧入することにより、前記外輪が前記ハウジングに固定されていない状態における前記残留隙間が0以下である。
【0012】
この構成によれば、軸受の内輪をシャフトに圧入することにより、外輪がハウジングに固定されていない状態における残留隙間を0以下にするため、軸受の残留隙間が0以下となる状態を容易に実現することができる。これにより、軸受に軸方向予圧が付与されている状態における軸受のフリクションを低減することができるため、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0013】
望ましい形態として、前記ハウジングは、前記外輪に対して前記軸方向予圧を付与する段部を備え、前記段部は、内周面が前記外輪の外周面に対向する大径部と、内径が前記大径部の内径よりも小さい小径部と、前記大径部と前記小径部とを接続し、前記軸方向における前記外輪の側面に対向する接続部とを有し、前記段部は、前記外輪の前記側面に対して前記接続部が当接することにより、前記外輪に対して前記軸方向予圧を付与する。
【0014】
この構成によれば、ハウジングは、軸受の外輪の側面に対して段部の接続部を当接させることにより軸方向予圧を付与するため、外輪の側面に接続部を当接させた軸受の外輪と転動体、及び転動体と内輪とを、それぞれ接触させた状態にすることができる。この結果、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0015】
望ましい形態として、前記小径部の内径は、前記ステータの外径より大きく、且つ、前記外輪の外径より小さい。
【0016】
この構成によれば、段部の接続部によって外輪に対して軸方向予圧を付与することを可能にしつつ、ステータが組み付けられたシャフトの周囲にハウジングを配置する際に、小径部がステータに当接することを抑制することができる。この結果、組み立て性を確保しつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0017】
望ましい形態として、前記シャフトは、前記内輪を圧入する部分に対して前記径方向における外側に突出する径方向凸部を有し、前記シャフトは、前記径方向凸部が前記軸方向における前記内輪の側面に当接することにより、前記内輪に対して前記軸方向予圧を付与する。
【0018】
この構成によれば、シャフトにおける軸受の近傍に他の部材が配置される際に、当該他の部材が僅かに位置ずれをして配置された場合でも、当該他の部材の配置状態に関わらず、径方向凸部によって内輪に対して軸方向予圧を付与することができる。従って、径方向凸部に対して内輪の側面を当接させて圧入した軸受の内輪と転動体、及び転動体と外輪とを、それぞれ接触させた状態にすることができる。この結果、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0019】
望ましい形態として、前記シャフトは、ステアリングホイールが連結される入力軸と、トーションバーを介して前記入力軸に連結される出力軸と、を有し、前記磁石と前記ステータとは、一方が前記入力軸に固定され、他方が前記出力軸に固定され、前記出力軸には、電動モータで発生する補助操舵トルクを出力する駆動ギヤに噛み合うことにより前記補助操舵トルクを前記出力軸に伝達する被動ギヤが固定され、前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記出力軸を回転自在に支持する。
【0020】
この構成によれば、被動ギヤに補助操舵トルクが伝わることにより、被動ギヤからシャフトに対して軸方向の力が作用する場合でも、軸受はシャフトの軸方向の移動を抑制すると共に、フリクションが小さい状態でシャフトを回転自在に支持することができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0021】
望ましい形態として、前記ハウジングは、前記入力軸を収容する第1ハウジングと、前記第1ハウジングに連結され前記出力軸を収容する第2ハウジングとを有し、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとには、前記軸受がそれぞれ固定され、前記軸方向予圧は、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとが連結されることにより、前記第1ハウジングに固定される前記軸受と前記第2ハウジングに固定される前記軸受とに対してそれぞれ付与される。
【0022】
この構成によれば、ハウジングは、第1ハウジングと第2ハウジングとを有し、第1ハウジングと第2ハウジングとには、軸受がそれぞれ固定される。軸方向予圧は、これらのように軸受が固定される第1ハウジングと第2ハウジングとが連結されることにより、第1ハウジングに固定される軸受と第2ハウジングに固定される軸受とに対してそれぞれ付与されるため、複数の軸受に対して容易に軸方向予圧を付与することができる。この結果、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0023】
望ましい形態として、前記径方向予圧が付与される前記軸受は、前記外輪を前記ハウジングに圧入することにより、前記内輪が前記シャフトに固定されていない状態における前記残留隙間が0以下である。
【0024】
この構成によれば、軸受の外輪をハウジングに圧入することにより、内輪がシャフトに固定されていない状態における残留隙間を0以下にするため、軸受の残留隙間が0以下となる状態を容易に実現することができる。これにより、軸受に軸方向予圧が付与されている状態における軸受のフリクションを低減することができるため、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0025】
本開示のトルクセンサ装置は、シャフトに固定されるステータと、前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、を備え、前記軸受は、前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有しており、前記ハウジングと前記シャフトは、前記外輪が前記ハウジングに固定されて前記内輪が前記シャフトに固定される状態において、前記外輪と前記内輪とに対して前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与し、少なくとも1つの前記軸受は、前記ハウジングと前記シャフトとのいずれか一方から前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧が付与されることにより、前記軸受が他方に固定されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間が0以上であり、且つ、前記軸受が他方に固定されている状態であって前記シャフトが回転している状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である有効隙間が0以下であり、前記軸受に前記径方向予圧が付与されていない状態における前記外輪と前記内輪と前記転動体との間の前記径方向の隙間を内部隙間とする場合に、前記残留隙間と前記内部隙間との差分が、前記有効隙間と前記残留隙間との差分より大きい。
【0026】
この構成によれば、軸受の残留隙間と内部隙間との差分が、有効隙間と残留隙間との差分より大きいため、軸受に径方向予圧が付与されて軸方向予圧が付与されていない状態における外輪と内輪と転動体との径方向における距離を極力小さくすることができ、外輪と転動体、及び内輪と転動体の軸方向におけるガタを小さくすることができる。このため、径方向予圧が付与された状態の軸受は、ハウジングとシャフトとの双方に固定されて軸方向予圧が付与された際に、外輪と転動体と内輪とが互いに軸方向に大きく相対移動することなく、軸受の径方向において大きく近づいた状態で互いに接触する。これにより、軸受は、外輪や内輪の溝部の軸方向における中央付近の位置と、軸方向における転動体の中心付近の位置とが接触する状態が維持されやすくなるため、軸受のフリクションを小さくすることができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0027】
本開示のトルクセンサ装置の製造方法は、シャフトに固定されるステータと、前記ステータに対向して配置された円筒状の磁石と、内側に前記シャフトと前記ステータと前記磁石とを配置するハウジングと、前記ハウジングに固定される外輪と、前記シャフトに固定される内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体とを有し、前記シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に支持する軸受と、を備えるトルクセンサ装置の製造方法において、前記シャフトを少なくとも1つの前記軸受の前記内輪に圧入することにより、前記軸受に対して前記軸受の径方向に付与される予圧である径方向予圧を付与し、前記軸受の前記外輪が前記ハウジングに固定されていない状態における前記外輪や前記内輪と前記転動体との前記径方向の隙間である残留隙間を0以下にする第1工程と、前記第1工程の後で、前記軸受の前記外輪を前記ハウジングに固定することにより、前記ハウジングと前記シャフトとによって前記軸受の前記外輪と前記内輪とに対して、前記シャフトの軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を付与する第2工程とを含む。
【0028】
この構成によれば、第1工程で軸受に径方向予圧を付与することによって残留隙間を0以下するため、軸受の外輪と内輪とが転動体を介して相対回転をする際のフリクションを低減することができる。また、第2工程でハウジングとシャフトとによって、軸受の外輪と内輪とに対して軸方向予圧を付与するため、ステータが固定されるシャフトを軸受によって支持する際における軸方向の支持剛性を、フリクションを抑えたまま高めることができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示に係るトルクセンサ装置及びトルクセンサ装置の製造方法は、フリクションの増加を抑えつつ、シャフトの軸方向の支持剛性を高めることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、実施形態に係る操舵装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るトルクセンサ装置の要部断面図である。
【
図3】
図3は、トルク検出部が有するマグネットとステータ及び集磁ヨークの概要を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すトルク検出部と軸受が配置されている位置の拡大断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す軸受が配置されている位置の拡大断面図である。
【
図6】
図6は、軸受が出力軸に圧入され、ハウジングに固定されていない状態の説明図である。
【
図7】
図7は、軸受に径方向予圧が付与されていない状態の説明図である。
【
図8】
図8は、軸受に径方向予圧が付与された状態の説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るトルクセンサ装置において軸受の径方向予圧が付与された状態を示す説明図である。
【
図10】
図10は、残留隙間が0より大きい軸受に軸方向予圧が付与された状態を示す説明図である。
【
図11】
図11は、残留隙間が0以下の軸受に軸方向予圧が付与された状態を示す説明図である。
【
図12】
図12は、フリクションの試験を行う際の出力軸周りの断面図である。
【
図13】
図13は、軸方向予圧量とフリクションとの関係を示す説明図である。
【
図14】
図14は、残留隙間とフリクションとの関係を示す説明図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係るトルクセンサ装置の変形例であり、軸受に径方向予圧が付与された状態における軸受の詳細図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係るトルクセンサ装置の変形例であり、図に示す軸受に軸方向予圧が付与された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0032】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る操舵装置80の模式図である。
図1に示すように、操舵装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、トルクセンサ装置10と、電動モータ91と、減速装置92と、ユニバーサルジョイント84と、中間シャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、を備えピニオンシャフト87に接合されている。以下の説明においては、ステアリングシャフト82の中心軸AXに沿った方向を「軸方向」と称し、軸方向に交差(直交)する方向を「径方向」と称する。
【0033】
トルクセンサ装置10は、ステアリングシャフト82と、トルク検出部40と、を含む。ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、トーションバー82c(
図2参照)と、を備える。トルクセンサ装置10については、詳細に後述する。
【0034】
中間シャフト85は、ユニバーサルジョイント84とユニバーサルジョイント86とを連結している。中間シャフト85は、一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87は、一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。ユニバーサルジョイント84及びユニバーサルジョイント86は、例えばカルダンジョイントである。ステアリングシャフト82の回転が中間シャフト85を介してピニオンシャフト87に伝わる。従って、中間シャフト85はステアリングシャフト82と共に回転可能である。
【0035】
ステアリングギヤ88は、ピニオンギヤ88aと、ラックバー88bとを備える。ピニオンギヤ88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラックバー88bは、ピニオンギヤ88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオンギヤ88aに伝達された回転運動をラックバー88bで直進運動に変換する。ラックバー88bは、タイロッド89に連結される。ラックバー88bが移動することで車輪の角度が変化する。即ち、操舵装置80は、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置である。
【0036】
操舵装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、車速センサ95と、を更に備える。電動モータ91、車速センサ95及びトルク検出部40は、ECU90と電気的に接続される。減速装置92は、電動モータ91に取り付けられる。トルク検出部40は、入力軸82aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、操舵装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0037】
ECU90は、電動モータ91の動作を制御する。ECU90は、トルク検出部40及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ91へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ91の誘起電圧の情報または電動モータ91に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が電動モータ91を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0038】
次に、トルクセンサ装置10について説明する。
図2は、実施形態に係るトルクセンサ装置10の要部断面図である。トルクセンサ装置10は、
図2に示すように、第1のシャフトである入力軸82aと、第2のシャフトである出力軸82bと、トーションバー82cと、トルク検出部40と、ハウジング20と、軸受60、65とを備える。入力軸82a、出力軸82b及びトーションバー82cは、同一の中心軸AXを有する。入力軸82aと出力軸82bとは、軸方向において連結され、トーションバー82cは、入力軸82aと出力軸82bの内側に配置される。
【0039】
入力軸82aは、例えば中実状のシャフトである。入力軸82aは、中心軸AXの軸回り方向に回転可能である。入力軸82aにおける出力軸82bに連結される側の反対側の端部には、スプライン軸部(図示省略)が形成されており、スプライン軸部にはステアリングホイール81(
図1参照)が直接または、他の軸を介して連結される。入力軸82aの径方向における内側には、出力軸82bに連結される側の端部から軸方向に延びる挿入孔82aaが形成されている。
【0040】
出力軸82bは、径方向における内側に、軸方向に延びる貫通孔82baと連結孔82bbとを有する筒状部材である。出力軸82bは、入力軸82aにおける挿入孔82aaが形成される端部が位置する側に入力軸82aに対して位置する。出力軸82bは、中心軸AXの軸回り方向に回転可能である。連結孔82bbは、貫通孔82baよりも内径が大きくなっており、出力軸82bにおける入力軸82aが連結される側の端部から、入力軸82aが位置する側の反対側に向かって所定の深さで形成されている。貫通孔82baは、出力軸82bにおける連結孔82bbの端部から、入力軸82aが位置する側の反対側に向かって延びている。連結孔82bbの内側には、入力軸82aの端部付近の部分が挿入される。
【0041】
電動モータ91(
図1参照)で発生した駆動力は、減速装置92が有するウォーム93とウォームホイール94を介して出力軸82bに伝達される。即ち、電動モータ91で発生した駆動力は、ウォーム93を介してウォームホイール94に伝達され、ウォームホイール94を回転させる。ウォーム93は、電動モータ91で発生する補助操舵トルクを出力する駆動ギヤになっている。ウォームホイール94は、ウォーム93に噛み合うことにより補助操舵トルクを出力軸82bに伝達する被動ギヤになっている。ウォーム93及びウォームホイール94は、電動モータ91で発生した駆動力の回転速度を減速し、トルクを増加させる。
【0042】
ウォームホイール94は、芯金部94aと、ホイール歯部94bとを有している。芯金部94aは、例えば、金属材料からなり、略円環状の形状で形成されている。ホイール歯部94bは、例えば、樹脂材料からなり、芯金部94aと一体となって芯金部94aの外周に配置される。ウォームホイール94は、ウォームホイール94は、芯金部94aが出力軸82bに圧入されることにより、出力軸82bに固定されている。ウォーム93は、ウォームホイール94のホイール歯部94bと噛み合っている。このため、減速装置92は、電動モータ91で発生した駆動力を、トルクを増大させて出力軸82bに伝達し、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。即ち、本実施形態に係る操舵装置80は、ステアリングシャフト82に補助操舵トルクが付与されるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置になっている。
【0043】
トーションバー82cは、軸方向に延びる中実状の弾性部材である。トーションバー82cは、軸方向における一方側の端部が、入力軸82aの挿入孔82aaに挿入される。トーションバー82cにおける入力軸82aの挿入孔82aaに挿入される側の端部には、径方向に貫通する貫通孔が形成される。また、入力軸82aにおける、軸方向においてトーションバー82cの貫通孔が形成される位置にも、径方向に貫通する貫通孔が形成される。トーションバー82cに形成される貫通孔と、入力軸82aに形成される貫通孔とは、互いに連通する。トーションバー82cに形成される貫通孔と入力軸82aに形成される貫通孔とには、ピン100が挿入される。これにより、トーションバー82cにおける入力軸82aの挿入孔82aaに挿入される側の端部は、ピン100を介して入力軸82aに固定される。
【0044】
トーションバー82cの軸方向における他方側の端部は、出力軸82bに形成される貫通孔82baに圧入される。これにより、トーションバー82cは出力軸82bに固定される。即ち、トーションバー82cは、一方側の端部が入力軸82aに固定され、他方側の端部が出力軸82bに固定されるため、入力軸82aと出力軸82bとは、トーションバー82cを介して連結される。
【0045】
ステアリングシャフト82は、少なくとも一部がハウジング20の内側に配置される。ハウジング20は、トルクセンサ装置10における筐体になっており、第1ハウジング21と第2ハウジング31とを有している。第1ハウジング21は、軸方向における入力軸82a寄りに位置し、入力軸82aと出力軸82bとのうち主に入力軸82aを収容する。第2ハウジング31は、軸方向における出力軸82b寄りに位置しており、入力軸82aと出力軸82bとのうち主に出力軸82bを収容する。これらの第1ハウジング21と第2ハウジング31とは、軸方向において連結される。第2ハウジング31は、内側にウォーム93とウォームホイール94とを配置する空間を有しており、第2ハウジング31は、ギヤボックスとしても設けられている。
【0046】
ハウジング20とステアリングシャフト82との間には、軸受60、65が介在しており、ステアリングシャフト82は、軸受60、65によってハウジング20に対して回転自在に支持されている。軸受60は、出力軸82bを第1ハウジング21に対して回転自在に支持する第1の軸受として設けられている。軸受65は、出力軸82bを第2ハウジング31に対して回転自在に支持する第2の軸受として設けられている。
【0047】
軸受60と軸受65は、出力軸82bにおける、ウォームホイール94が固定されている位置の軸方向における両側に配置されている。軸受60は、出力軸82bにおけるウォームホイール94の芯金部94aが固定されている位置に対して、軸方向における入力軸82aが位置する側に配置され、軸受65は、ウォームホイール94の芯金部94aが固定されている位置に対して、軸方向における入力軸82aが位置する側の反対側に配置されている。即ち、軸受65は、軸方向においてウォームホイール94に対して軸受60が位置する側の反対側に配置されている。
【0048】
詳しくは、出力軸82bは、出力軸82bにおける軸受60や軸受65が配置されている部分に対して径方向における外側に突出する径方向凸部82bcを有している。径方向凸部82bcは、軸方向における幅が、ウォームホイール94の芯金部94aにおける出力軸82bに固定される部分の軸方向における幅と同程度で、芯金部94aの幅よりも僅かに大きくなっている。ウォームホイール94は、芯金部94aが径方向凸部82bcに圧入されることにより、出力軸82bにおける径方向凸部82bcの部分に固定される。
【0049】
軸受60と軸受65は、径方向凸部82bcに対して軸方向における互いに反対側に配置されている。これにより、軸受60と軸受65は、ウォームホイール94に対して軸方向における互いに反対側に配置されている。
【0050】
トルク検出部40は、マグネット41と、ステータ44と、集磁ヨーク51と、回路基板54とを有している。このうち、マグネット41とステータ44とは、ステアリングシャフト82に固定され、集磁ヨーク51と回路基板54とは、ハウジング20に固定されている。
【0051】
図3は、トルク検出部40が有するマグネット41とステータ44及び集磁ヨーク51の概要を説明する模式図である。トルク検出部40が有するマグネット41とステータ44とは、一方が第1のシャフトに取り付けられており、他方が第2のシャフトに取り付けられている。本実施形態では、マグネット41は、第1のシャフトである入力軸82aに取り付けられており、ステータ44は、第2のシャフトである出力軸82bに取り付けられている。このうち、マグネット41は、略円筒状の形状で形成されており、複数のN極とS極とが周方向に交互に配置された多極磁石になっている。なお、ステータ44とマグネット41とは、ステータ44が、入力軸82aまたは出力軸82bのどちらか一方に取り付けられ、マグネット41が、入力軸82aまたは出力軸82bのどちらか他方に取り付けられていればよい。ステータ44とマグネット41とは、入力軸82aと出力軸82bとのうち、互いに異なるシャフトに取り付けられていれば、ステータ44とマグネット41とが、入力軸82aまたは出力軸82bに取り付けられる際の組み合わせは問わない。
【0052】
ステータ44は、フランジ部45と、ティース部46とを有している。フランジ部45は、厚み方向が軸方向となる、円環状の板状の形状で形成されている。ティース部46は、円環状のフランジ部45の内周部分からフランジ部45の軸方向に向かって延出し、板の厚み方向がフランジ部45の径方向となる向きとなる板状の形状で形成されている。また、ティース部46は、複数のティース部46が間隔をあけてフランジ部45の周方向に並んで配置されている。
【0053】
このように形成されるステータ44は、同等の形状で形成される一対のステータ44である第1ステータ44aと第2ステータ44bとを有しており、第1ステータ44aと第2ステータ44bとは、それぞれフランジ部45とティース部46とを有している。即ち、第1ステータ44aは、円環状の第1フランジ部45aと複数の第1ティース部46aとを有しており、第2ステータ44bは、円環状の第2フランジ部45bと複数の第2ティース部46bとを有している。第1ステータ44aと第2ステータ44bとは、双方のフランジ部45が同軸上に位置し、且つ、フランジ部45が他方のステータ44から離れる方向に位置する向きで、いずれも同じ軸に取り付けられ、本実施形態ではいずれも出力軸82bに取り付けられる。
【0054】
つまり、第1ステータ44aは、第1ティース部46aが第1フランジ部45aから第2ステータ44b側に向かって延出する向きで配置され、第2ステータ44bは、第2ティース部46bが第2フランジ部45bから第1ステータ44a側に向かって延出する向きで配置される。その際に、第1ティース部46aと第2ティース部46bとは、いずれも複数が間隔をあけて第1フランジ部45aや第2フランジ部45bに設けられるため、第1ステータ44aと第2ステータ44bとは、周方向において他方のステータ44のティース部46が位置しない部分に、自己のステータ44のティース部46が位置するように組み合わされる。
【0055】
入力軸82aに取り付けられるマグネット41は、このように組み合わされる第1ステータ44aと第2ステータ44bとの、径方向における内側に配置される。また、マグネット41とステータ44とは、軸方向が入力軸82aや出力軸82bの軸方向と一致する向きで配置される。これらのため、マグネット41とステータ44とは、マグネット41の外周面がステータ44のティース部46に対して対向する位置関係となる状態で、入力軸82aと出力軸82bとに取り付けられて配置される。マグネット41とステータ44とは、これらの位置関係で配置されることにより、入力軸82aと出力軸82bとの間でトーションバー82cを介してトルクが伝達されて入力軸82aと出力軸82bとが相対的に微小に回転をした際には、マグネット41とステータ44との相対的な位置関係が変化することに伴って、マグネット41からステータ44に作用する磁束が変化する。
【0056】
また、ステータ44の近傍には、トルク検出部40が有する集磁ヨーク51が配置される。集磁ヨーク51は、マグネット41からステータ44に作用する磁束の変化を検出するための部材になっており、ステータ44が有するフランジ部45の近傍に配置される。ステータ44としては、第1ステータ44aと第2ステータ44bとの一対が設けられているため、これに対応して集磁ヨーク51も、第1集磁ヨーク51aと第2集磁ヨーク51bとの一対が設けられている。即ち、集磁ヨーク51は、第1ステータ44aが有する第1フランジ部45aの近傍には第1集磁ヨーク51aが配置され、第2ステータ44bが有する第2フランジ部45bの近傍には第2集磁ヨーク51bが配置されている。
【0057】
一対の集磁ヨーク51は、ステータ44が有する2箇所のフランジ部45同士の間に位置しており、軸方向において隙間を有してステータ44のフランジ部45と重なっている。つまり、第1集磁ヨーク51aは、第1ステータ44aが有する第1フランジ部45aにおける第2フランジ部45bが位置する面側の近傍に配置され、第2集磁ヨーク51bは、第2ステータ44bが有する第2フランジ部45bにおける第1フランジ部45aが位置する面側の近傍に配置されている。このように、フランジ部45の近傍に集磁ヨーク51が位置することにより、集磁ヨーク51は、入力軸82aと出力軸82bとが相対的に微小に回転をした際における、マグネット41からステータ44に作用する磁束が変化を検出することが可能なっている。
【0058】
さらに、2つの集磁ヨーク51の間には、ホールIC53が配置されている。ホールIC53は、集磁ヨーク51におけるステータ44のフランジ部45の近傍に位置する部分から離れた位置で、集磁ヨーク51同士の間に配置されている。ホールIC53は、2つの集磁ヨーク51に作用する磁束密度の変化を検出し、検出した磁束密度の変化を電気信号に変換して電気信号として出力することが可能になっている。なお、ホールICに代えて、磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果を応用した磁気センサを用いることができる。要するに、集磁ヨーク51の間に生じる磁束密度の変化を、電気信号として出力することができればよい。
【0059】
図4は、
図2に示すトルク検出部40と軸受60、65が配置されている位置の拡大断面図である。マグネット41は、第1スリーブ42によって入力軸82aに取り付けられている。第1スリーブ42は、筒状の部材になっており、第1スリーブ42に対して入力軸82aを圧入することにより、第1スリーブ42は入力軸82aに取り付けられている。マグネット41は、第1スリーブ42の外周面に、例えば接着剤により固定されており、これにより、マグネット41は、入力軸82aと一体となって回転可能になっている。
【0060】
ステータ44は、第2スリーブ47とキャリア48とによって出力軸82bに取り付けられている。第2スリーブ47は、筒状の部材になっており、第2スリーブ47に対して出力軸82bを圧入することにより、第2スリーブ47は出力軸82bに取り付けられている。キャリア48は、筒状の部材になっており、射出成形により第2スリーブ47と一体に形成されている。このため、キャリア48は、第2スリーブ47が出力軸82bに取り付けられることにより、第2スリーブ47と共にキャリア48も出力軸82bに取り付けられる。
【0061】
第2スリーブ47によって出力軸82bに取り付けられるキャリア48は、第2スリーブ47に支持されることにより、出力軸82bから入力軸82a側に向かった位置に配置され、入力軸82aの径方向における外側の位置に配置される。さらに、キャリア48は、軸方向においてマグネット41が位置する位置と同じ位置に配置されており、マグネット41の径方向に外側に配置されている。
【0062】
ステータ44は、このように配置されるキャリア48に取り付けられている。詳しくは、第1ステータ44aと第2ステータ44bとのそれぞれのステータ44は、ティース部46がキャリア48の径方向における内側に位置し、フランジ部45が、キャリア48の径方向における内側から外側に向かって突出する形態で、キャリア48に取り付けられている。これにより、一対のステータ44である第1ステータ44aと第2ステータ44bはいずれも、軸方向においてマグネット41が位置する位置と同じ位置に配置され、マグネット41の径方向に外側に配置される。
【0063】
また、第1ステータ44aと第2ステータ44bとは、出力軸82bに取り付けられる第2スリーブ47と一体に形成されるキャリア48に取り付けられるため、出力軸82bと一体となって回転可能になっている。このように出力軸82bと一体となって回転可能に配置されるステータ44は、換言すると、出力軸82bの径方向における外側に突出するフランジ部45を備え、且つ、出力軸82bに固定されている。
【0064】
これらのように、マグネット41は入力軸82aに固定され、ステータ44は出力軸82bに固定されることにより、マグネット41とステータ44とは、入力軸82aや出力軸82bと共にハウジング20の内側に配置される。本実施形態では、マグネット41とステータ44とは、第1ハウジング21の内側に配置される。
【0065】
一対の集磁ヨーク51は、センサハウジング50に配置されており、センサハウジング50は、第1ハウジング21に取り付けられている。これにより、集磁ヨーク51は、センサハウジング50を介して第1ハウジング21に固定されている。また、ホールIC53(
図3参照)は、回路基板54に実装されており、回路基板54は、一対の集磁ヨーク51の間にホールIC53が配置される位置で、センサハウジング50に配置されている。このため、回路基板54に実装されるホールIC53も、センサハウジング50を介して第1ハウジング21に固定されている。
【0066】
ステアリングシャフト82を回転自在に支持する軸受60と軸受65とは、いわゆる転がり軸受になっている。つまり、軸受60は、ハウジング20に固定される外輪61と、ステアリングシャフト82に固定される内輪62と、外輪61と内輪62との間に配置される複数の転動体63とを有している。同様に、軸受65は、ハウジング20に固定される外輪66と、ステアリングシャフト82に固定される内輪67と、外輪66と内輪67との間に配置される複数の転動体68とを有している。
【0067】
また、ハウジング20とステアリングシャフト82は、軸受60の外輪61がハウジング20に固定されて内輪62がステアリングシャフト82に固定される状態において、軸受60の外輪61と内輪62とに対してステアリングシャフト82の軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を軸受60に対して付与する。ハウジング20とステアリングシャフト82は、軸受65に対しても同様に、軸受65の外輪66がハウジング20に固定されて内輪67がステアリングシャフト82に固定される状態において、軸受65の外輪66と内輪67とに対してステアリングシャフト82の軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧を軸受65に対して付与する。
【0068】
ステアリングシャフト82を回転自在に支持する軸受60と軸受65とのうち、軸受60は、出力軸82bを第1ハウジング21に対して回転自在に支持し、軸受65は、出力軸82bを第2ハウジング31に対して回転自在に支持する。つまり、軸受60は、出力軸82bを回転自在に支持すると共に、第1ハウジング21と出力軸82bとは、軸受60に対して軸方向予圧を付与し、軸受65は、出力軸82bを回転自在に支持すると共に、第2ハウジング31と出力軸82bとは、軸受65に対して軸方向予圧を付与する。
【0069】
図5は、
図4に示す軸受60、65が配置されている位置の拡大断面図である。軸受60の外輪61が固定されるハウジング20である第1ハウジング21は、軸受60の外輪61に対して軸方向予圧を付与する段部22を備えている。第1ハウジング21が有する段部22は、第1ハウジング21の内壁に形成されており、大径部23と、小径部24と、接続部25とを有している。
【0070】
大径部23は、内周面23aの内径が軸受60の外輪61の外径よりも僅かに大きくなって形成されており、第1ハウジング21に軸受60を固定した際に、内周面23aが軸受60の外輪61の外周面61bに対向する部分になっている。軸方向における大径部23の幅は、軸方向における軸受60の幅とほぼ同じ大きさになっている。
【0071】
小径部24は、軸方向において大径部23よりもウォームホイール94が位置する側の反対側に位置しており、内径が大径部23の内径よりも小さくなって形成されている。具体的には、段部22の小径部24の内径は、トルク検出部40(
図4参照)が有するステータ44の外径及び軸受60の内輪62の外径より大きく、且つ、軸受60の外輪61の外径より小さくなっている。
【0072】
接続部25は、軸方向においてウォームホイール94が位置する側に向く円環状の面になっており、径方向に延在して形成されることにより、段部22の大径部23と小径部24とを接続する部分になっている。また、接続部25は、第1ハウジング21に軸受60を固定した際に、軸方向における外輪61の側面61aに対向して形成される。
【0073】
第1ハウジング21に軸受60を固定して第1ハウジング21で軸受60を支持する際には、段部22の大径部23の内側に軸受60を入り込ませる。その際に、軸受60は、外輪61の外周面61bを、大径部23の内周面23aに対向させ、外輪61の軸方向におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面61aを、段部22の接続部25に当接させる。
【0074】
軸受60の外輪61は、このように第1ハウジング21に固定されるのに対し、軸受60の内輪62は、軸受60によって回転自在に支持する出力軸82bに固定される。軸受60の内輪62は、内輪62を出力軸82bに圧入することにより出力軸82bに固定される。軸受60は、出力軸82bが有する、径方向凸部82bcの軸方向における側方に位置する部分に対して内輪62を圧入し、内輪62の軸方向におけるウォームホイール94が位置する側の側面62aを、径方向凸部82bcに当接させる。
【0075】
換言すると、出力軸82bは、軸受60の内輪62を圧入する部分に対して、径方向における外側に突出する径方向凸部82bcを有しており、軸受60の内輪62を出力軸82bに圧入した際には、径方向凸部82bcが軸方向における内輪62の側面62aに当接する。
【0076】
一方、軸受65の外輪66が固定されるハウジング20である第2ハウジング31は、第2ハウジング31の内周面32から径方向における内側に突出する突出部33を有している。第2ハウジング31の内周面32における軸受65が配置される部分は、内径が軸受65の外輪66の外径よりも僅かに大きくなって形成されており、第2ハウジング31に軸受65を固定した際に、内周面32が軸受65の外輪66の外周面66bに対向する。第2ハウジング31の内周面32において、軸受65の外輪66の外周面66bに対向する部分の軸方向における幅は、軸方向における軸受65の幅とほぼ同じ大きさになっている。
【0077】
突出部33は、第2ハウジング31の内周面32における軸受65が配置される部分に対して、軸方向におけるウォームホイール94が位置する側の反対側に形成されている。突出部33は、第2ハウジング31の内周面32から径方向における全周に亘って突出して形成されており、内径が軸受65の外輪66の外径より小さく、且つ、軸受65の内輪67の外径より大きくなっている。突出部33は、第2ハウジング31に軸受65を固定した際に、軸方向における外輪66の側面66aに対向する部分になっている。
【0078】
第2ハウジング31に軸受65を固定して第2ハウジング31で軸受65を支持する際には、第2ハウジング31の内周面32の内側に軸受65を入り込ませる。その際に、軸受65は、外輪66の外周面66bを第2ハウジング31の内周面32に対向させ、外輪66の軸方向におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面66aを、内周面32から突出する突出部33に当接させる。
【0079】
軸受65の外輪66は、このように第2ハウジング31に固定されるのに対し、軸受65の内輪67は、軸受60と同様に、軸受65によって回転自在に支持する出力軸82bに固定される。軸受65の内輪67は、内輪67を出力軸82bに圧入することにより出力軸82bに固定される。軸受65は、出力軸82bにおける、径方向凸部82bcに対して軸方向において軸受60が圧入される側の反対側の側方に位置する部分に対して内輪67を圧入し、内輪67の軸方向におけるウォームホイール94が位置する側の側面67aを、径方向凸部82bcにおける軸受60が当接する側の反対側の部分に当接させる。
【0080】
このように、軸方向における両側が軸受60、65にそれぞれ当接する出力軸82bの径方向凸部82bcは、外径が軸受60の内輪62や軸受65の内輪67の外径より大きく、且つ、軸受60の外輪61や軸受65の外輪66の内径より小さくなっている。
【0081】
ハウジング20は、第1ハウジング21に軸受60が固定され、第2ハウジング31に軸受65がそれぞれ固定された状態で、第1ハウジング21と第2ハウジング31とが連結されることにより、軸受60と軸受65とに対して軸方向予圧を付与する。
【0082】
詳しくは、第1ハウジング21は、軸受60の外輪61におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面61aに段部22の接続部25が当接し、第1ハウジング21に連結される第2ハウジング31は、軸受65の外輪66におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面66aに突出部33が当接する。また、軸受60は、内輪62におけるウォームホイール94が位置する側の側面62aが出力軸82bの径方向凸部82bcに当接し、軸受65は、内輪67におけるウォームホイール94が位置する側の側面67aが出力軸82bの径方向凸部82bcに当接する。
【0083】
ここで、本実施形態では、第1ハウジング21と第2ハウジング31とが連結された状態における、第1ハウジング21の段部22が有する接続部25と、第2ハウジング31の突出部33との軸方向における距離は、出力軸82bの径方向凸部82bcの軸方向における幅と、軸受60の軸方向における幅と、軸受65の軸方向における幅とを足した幅よりも小さくなっている。このため、第1ハウジング21と第2ハウジング31とが連結された状態では、軸受60の外輪61におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面61aと、軸受65の外輪66におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面66aとの軸方向の距離Daは、軸受60の内輪62におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面62aと、軸受65の内輪67におけるウォームホイール94が位置する側の反対側の側面67aとの軸方向の距離Dbよりも小さくなる。
【0084】
従って、軸受60には、外輪61を内輪62よりもウォームホイール94が位置する側に近付かせる方向の付勢力、或いは、内輪62を外輪61よりもウォームホイール94が位置する側の反対側に向かわせる方向の付勢力が、軸方向予圧として付与される。同様に、軸受65には、外輪66を内輪67よりもウォームホイール94が位置する側に近付かせる方向の付勢力、或いは、内輪67を外輪66よりもウォームホイール94が位置する側の反対側に向かわせる方向の付勢力が、軸方向予圧として付与される。
【0085】
つまり、第1ハウジング21の段部22は、軸受60の外輪61の側面61aに対して接続部25が当接することにより、軸受60の外輪61に対して軸方向予圧を付与し、第2ハウジング31の突出部33は、軸受65の外輪66の側面66aに対して突出部33が当接することにより、軸受65の外輪61に対して軸方向予圧を付与する。また、出力軸82bは、径方向凸部82bcが軸方向における軸受60の内輪62の側面62aと軸受65の内輪67の側面67aとにそれぞれ当接することにより、軸受60の内輪62と軸受65の内輪67とに対して、それぞれ軸方向予圧を付与する。
【0086】
換言すると、軸受60、65の外輪61、66と内輪62、67とに対して、軸方向における互いに反対方向に付与する予圧である軸方向予圧は、第1ハウジング21と第2ハウジング31とが連結されることにより、第1ハウジング21に固定される軸受60と第2ハウジング31に付与される軸受65とに対してそれぞれ付与される。これにより、軸受60は、軸方向予圧によって外輪61と内輪62とがそれぞれ転動体63に接触する状態が維持され、軸受65は、軸方向予圧によって外輪66と内輪67とがそれぞれ転動体68に接触する状態が維持される。
【0087】
さらに、軸受60、65には、ハウジング20と出力軸82bとのいずれか一方から、軸受60、65の径方向に付与される予圧である径方向予圧が付与されている。即ち、軸受60、65には、軸方向の予圧である軸方向予圧の他に、径方向の予圧である径方向予圧が付与されている。本実施形態では、出力軸82bを回転自在に支持する軸受60、65には、軸受60、65がそれぞれ出力軸82bに圧入されることにより、出力軸82bから軸受60の内輪62や軸受65の内輪67に対して径方向における外側に向けた方向の径方向予圧が付与されている。
【0088】
図6は、軸受60、65が出力軸82bに圧入され、ハウジング20に固定されていない状態の説明図である。軸受60と軸受65とは、それぞれ出力軸82bに圧入されることにより、軸受60の内輪62や軸受65の内輪67には出力軸82bから径方向予圧が付与され、内輪62、67は、径方向予圧が付与によって直径が大きくなる方向に径方向における大きさが僅かに変化する。
【0089】
軸受60と軸受65とは、内輪62、67の径方向における大きさが変化することにより、内輪62、67の外径が僅かに大きくなり、軸受60の転動体63や軸受65の転動体68は、内輪62、67の径方向における変形に伴って径方向における外側に移動する。このため、軸受60の転動体63や軸受65の転動体68は、それぞれ外輪61、66に近付く方向に径方向に移動する。
【0090】
つまり、軸受60、65は、内輪62、67が出力軸82bに圧入されることにより軸受60、65に径方向予圧が付与され、外輪61、66がハウジング20(
図4参照)に固定されていない状態では、内輪62、67が出力軸82bに圧入される前と比較して、それぞれ転動体63、68が、外輪61、66や内輪62、67に近付いた状態になる。
【0091】
図7は、軸受60に径方向予圧が付与されていない状態の説明図である。
図8は、軸受60に径方向予圧が付与された状態の説明図である。なお、
図7、
図8及び後述する
図9~
図11を用いた説明では、軸受60、65を代表して軸受60を用いて説明しているが、軸受65も軸受60と同様に構成され、軸受60と同様の作用を有する。軸受60は、出力軸82b等のシャフトやハウジング20に固定されず、軸受60に対して径方向予圧が付与されていない状態では、外輪61と転動体63との間や、内輪62と転動体63との間に、径方向の隙間を有している。このように、軸受60に径方向予圧が付与されていない状態における、外輪61と転動体63との間や内輪62と転動体63との間の径方向の隙間を、内部隙間Ciと定義する。
【0092】
内部隙間Ciを有する軸受60の内輪62を出力軸82b等のシャフトに圧入し、軸受60に径方向予圧Prを付与した場合、内輪62は、直径が大きくなる方向に変形をする。これにより、内輪62と転動体63との間や、外輪61と転動体63との間の径方向の隙間は、軸受60に径方向予圧Prが付与されていない状態の内部隙間Ciよりも小さくなる。このように、軸受60に径方向予圧Prが付与された状態における、外輪61と転動体63との間や内輪62と転動体63との間の径方向の隙間を、残留隙間Ceと定義する。即ち、軸受60を出力軸82b等のシャフトに圧入した場合、残留隙間Ceは内部隙間Ciよりも小さくなる。この場合における内部隙間Ciと残留隙間Ceとの比較は、外輪61と転動体63との間の隙間と内輪62と転動体63との間の隙間とを合わせた隙間同士で、内部隙間Ciと残留隙間Ceとの比較を行う。
【0093】
なお、軸受60は、ハウジング20に外輪61を圧入した場合も、軸受60にはハウジング20から径方向予圧Prが付与され、外輪61は、径方向予圧Prによって直径が小さくなる方向に変形をする。この場合も、軸受60は、外輪61と転動体63との間の径方向の隙間や、内輪62と転動体63との間の隙間が、軸受60に径方向予圧Prが付与されていない状態の内部隙間Ciよりも小さくなる。即ち、軸受60は、ハウジング20に圧入した場合も残留隙間Ceが内部隙間Ciよりも小さくなる。軸受60の残留隙間Ceは、換言すると、軸受60をシャフトやハウジング20に圧入した際において、内部隙間Ciから、軸受60の圧入による、外輪61と転動体63との間や内輪62と転動体63との間の径方向の隙間の減少分を差し引いた大きさになっている。
【0094】
図9は、実施形態に係るトルクセンサ装置10において軸受60の径方向予圧Prが付与された状態を示す説明図である。本実施形態に係るトルクセンサ装置10では、軸受60は、内輪62が出力軸82bに圧入されて軸受60に径方向予圧Prが付与されることにより、外輪61がハウジング20に固定されていない状態における外輪61や内輪62と転動体63との残留隙間Ceが、0以下になる。この場合における「残留隙間Ceが0以下」とは、外輪61と内輪62との双方が、転動体63に対して径方向における外側と内側とから圧力を付与することなくそれぞれ接触する、または、外輪61と転動体63との間と内輪62と転動体63との間で圧力を付与しながらそれぞれ接触する状態をいう。具体的には、「残留隙間Ceが0以下」とは、外輪61の溝部61cと転動体63との間や、内輪62の溝部62cと転動体63との間の径方向における隙間が、それぞれ0μm以下である状態をいう。
【0095】
軸受60の残留隙間Ceを0以下とするために、出力軸82bは、軸受60に圧入される部分の外径が、内輪62の内径に対して、軸受60の内部隙間Ci以上の大きさで大きくなっている。具体的には、軸受60は、出力軸82bの1周に亘って配置されるため、出力軸82bの中心軸AXを含み中心軸AXに沿った断面(
図2参照)で見た場合には、軸受60は、出力軸82bの径方向における両側に配置されることになる。このため、出力軸82bは、軸受60に圧入される部分の外径が、内輪62の内径に対して、軸受60の内部隙間Ciの2倍以上の大きさ大きく形成され、軸受60は、出力軸82bに対して、いわゆる締まりばめによって固定される。これにより、軸受60は、内輪62の径が内部隙間Ci以上の大きさで大きくなり、残留隙間Ceが0以下になって出力軸82bに固定される。
【0096】
換言すると、残留隙間Ceが0となる場合は、出力軸82bにおける軸受60が圧入される部分の外径が、軸受60の内輪62の内径に対して、軸受60の内部隙間Ciの2倍の値を加算した大きさで形成されることを示している。また、残留隙間Ceの符号が負となる場合は、出力軸82bにおける軸受60が圧入される部分の外径が、軸受60の内輪62の内径に対して軸受60の内部隙間Ciの2倍の値を加算し、さらに残留隙間Ceにおける負の符号が付される数値(負の符号を取り除いた数値)の2倍の値を加算した大きさで大きくなって形成されることを示している。
【0097】
このように、軸受60の外輪61や内輪62と転動体63との残留隙間Ceが0以下となる場合、転動体63は、外輪61に形成される、転動体63が入り込む溝部61cや、内輪62に形成される、転動体63が入り込む溝部62cに対して接触する。その際に、転動体63は、外輪61に形成される溝部61cや、内輪62に形成される溝部62cにおける、それぞれ軸方向における中央付近の位置で外輪61の溝部61cや内輪62の溝部62cに接触する。
【0098】
つまり、外輪61の溝部61cは、円周方向に見た断面形状が、
図9に示すように径方向における外側に凸となる溝状の形状で形成され、内輪62の溝部62cは、円周方向に見た断面形状が、
図9に示すように径方向における内側に凸となる溝状の形状で形成されている。このため、軸受60に径方向予圧Prが付与されることにより、残留隙間Ceが0以下となって転動体63が外輪61や内輪62と接触する場合は、転動体63は、外輪61の溝部61cにおける、最も径方向における外側の位置や、内輪62の溝部62cにおける、最も径方向における内側の位置で外輪61や内輪62に接触する。即ち、転動体63は、外輪61の溝部61cにおける溝深さの最も深い位置や、内輪62の溝部62cにおける溝深さの最も深い位置で、外輪61の溝部61cや内輪62の溝部62cに接触する。
【0099】
従って、本実施形態では、軸受60が出力軸82bに圧入されることにより軸受60に径方向予圧Prが付与され、軸受60がハウジング20に固定されていない状態では、転動体63は、径方向における外側の端部が外輪61の溝部61cに接触し、径方向における内側の端部が内輪62の溝部62cに接触する。これにより、出力軸82bに固定される軸受60は、ハウジング20に固定されていない状態において残留隙間Ceが0以下となる。
【0100】
軸受60は、このように径方向予圧Prが付与されることにより残留隙間Ceが0以下となった状態で外輪61がハウジング20に固定される。軸受60が、出力軸82bとハウジング20との双方に固定される際には、軸受60には、出力軸82bとハウジング20とより、軸方向予圧Paが付与される。即ち、軸受60には、外輪61と内輪62とに対して軸方向において互いに反対方向の予圧が付与される。このため、外輪61と内輪62とは、転動体63に対して、軸方向において互いに反対側から接触し易くなるが、本実施形態では、残留隙間Ceが0以下の状態で軸方向予圧が付与される。これにより、外輪61と内輪62とは、転動体63に対して軸方向における中央付近で接触する。
【0101】
換言すると、本実施形態に係るトルクセンサ装置10の製造方法では、まず、出力軸82bを軸受60の内輪62に圧入することにより軸受60に対して径方向予圧Prを付与し、軸受60の外輪61がハウジング20に固定されていない状態における残留隙間Ceを0以下にする。その後、このように軸受60の残留隙間Ceを0以下にした状態で、軸受60の外輪61をハウジング20に固定することにより、ハウジング20と出力軸82bとによって軸受60に対して軸方向予圧Paを付与する。これにより、軸受60の外輪61と内輪62とが、転動体63に対して軸方向における中央付近で接触するようにする。
【0102】
図10は、残留隙間Ceが0より大きい軸受60に軸方向予圧Paが付与された状態を示す説明図である。軸受60の残留隙間Ceが0より大きい状態では、外輪61と内輪62は転動体63との間に隙間を有するため、軸受60に軸方向予圧Paが付与された場合には、軸受60の外輪61と内輪62とは、軸方向予圧Paによって、転動体63との隙間の範囲内で軸方向に相対移動することができる。このため、軸受60の残留隙間Ceが0より大きい状態で軸方向予圧Paが付与された際には、
図10に示すように、外輪61と内輪62は、転動体63に対して、それぞれの溝部61c、62cにおける、軸方向における端部寄りの位置が接触することになる。つまり、転動体63は、外輪61や内輪62に対して、軸受60の軸方向における転動体63の中心の位置から、軸方向における両側に離れた位置で接触することになる。
【0103】
換言すると、外輪61の溝部61cや内輪62の溝部62cに対する転動体63の接触部Aは、軸受60の径方向における転動体63の端部の位置から、軸受60の軸方向における両側にずれた位置に位置することになる。この場合、軸受60に軸方向予圧Paが入力した際の、転動体63にA-A線に沿って作用する転動体荷重が大きくなるため外輪61、内輪62との摩擦抵抗が大きくなり、軸受60のフリクションが大きくなりやすくなる。
【0104】
図11は、残留隙間Ceが0以下の軸受60に軸方向予圧Paが付与された状態を示す説明図である。本実施形態では、軸受60は径方向予圧Prによって残留隙間Ceが0以下であるため、軸受60に軸方向予圧Paが付与された場合でも、軸受60の外輪61と内輪62とは、軸方向に相対移動し難くなっている。つまり、軸受60に径方向予圧Prが付与されることによって軸受60の残留隙間Ceが0以下である場合、転動体63は、外輪61の溝部61cにおける溝深さの最も深い位置や、内輪62の溝部62cにおける溝深さの最も深い位置で、外輪61の溝部61cや内輪62の溝部62cに接触する。即ち、軸受60の残留隙間Ceが0以下である場合は、外輪61や内輪62と、転動体63とは、軸受60の径方向において最も近づいた状態で互いに接触することになる。
【0105】
軸受60の外輪61と内輪62とが、この状態から軸方向に相対移動するためには、外輪61や内輪62が、転動体63に対して径方向に僅かに離れる必要があるが、本実施形態では、軸受60には径方向予圧Prが付与されている。このため、外輪61と内輪62とは、転動体63に対して径方向に離れ難くなっているため、軸受60に軸方向予圧Paが付与された場合でも、外輪61と内輪62は転動体63に対して、それぞれの溝部61c、62cにおける、溝深さが最も深い位置が接触する状態が維持されやすい。
【0106】
つまり、外輪61と内輪62は、
図11に示すように転動体63に対して、それぞれの溝部61c、62cにおける、軸方向における中央付近の位置が接触する状態が維持され、転動体63は、外輪61や内輪62に対して、軸受60の軸方向における転動体63の中心付近の位置で接触する状態が維持されやすい。換言すると、外輪61の溝部61cや内輪62の溝部62cに対する転動体63の接触部Aは、軸受60の径方向における転動体63の端部付近に位置することになる。この場合、転動体63が転がりながら外輪61と内輪62とが相対回転をする際に、接触部Aの位置における転動体63の回転速度と、外輪61や内輪62の回転速度とは、ほぼ同じ速度となるため、外輪61や内輪62と転動体63との摩擦抵抗が小さくなり、軸受60のフリクションが小さくなる。
【0107】
次に、操舵装置80の作用について説明する。操舵装置80が搭載される車両の運転時に、ステアリングホイール81が操作をされた場合は、ステアリングホイール81に付与された操舵力は、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82に伝えられる。ステアリングシャフト82に伝えられた操舵力は、操舵トルクとしてステアリングシャフト82から中間シャフト85に伝達され、中間シャフト85からピニオンシャフト87を経てピニオンギヤ88aに伝達される。これにより、ピニオンギヤ88aを有するステアリングギヤ88は、ピニオンギヤ88aから伝達された回転運動を、ラックバー88bの直線運動に変換し、タイロッド89を動作させる。
【0108】
また、本実施形態に係る操舵装置80は、運転者の操舵をアシストする補助操舵トルクを発生させる電動モータ91を有している。電動モータ91は、ステアリングシャフト82の入力軸82aと出力軸82bと間に亘って配置されるトルク検出部40により検出した操舵トルクに基づいて補助操舵トルクを発生する。
【0109】
トルク検出部40は、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82に付与された操舵トルクを、入力軸82aと出力軸82bとが相対回転した際における相対回転の角度に基づいて検出する。即ち、入力軸82aと出力軸82bとは、トーションバー82cを介して連結されているため、ステアリングシャフト82の入力軸82aに操舵トルクが付与された際には、入力軸82aと出力軸82bとの間では、トーションバー82cを介して操舵トルクが伝達される。その際に、トーションバー82cが僅かに捩じれることにより、入力軸82aと出力軸82bとは、相対回転をする。
【0110】
トルク検出部40は、マグネット41が入力軸82aに取り付けられ、ステータ44が出力軸82bに取り付けられることにより、入力軸82aと出力軸82bとが相対回転をした際には、トルク検出部40が有するマグネット41とステータ44も、相対的に回転をする。マグネット41とステータ44と相対回転の角度は、入力軸82aと出力軸82bとの間で作用する操舵トルクが大きくなるに従って相対回転の角度が大きくなる。
【0111】
マグネット41とステータ44とが相対回転した場合は、マグネット41からステータ44に作用する磁束が変化する。ステータ44の近傍に配置される集磁ヨーク51は、マグネット41からステータ44に作用する磁束の変化を検出することが可能になっている。このため、入力軸82aと出力軸82bとの相対回転に伴ってマグネット41とステータ44が相対回転をした際には、ステータ44の近傍に配置される集磁ヨーク51は、マグネット41からステータ44に作用する磁束の変化を検出することができる。
【0112】
このように、集磁ヨーク51で検出する、マグネット41からステータ44に対して作用する磁束は、マグネット41とステータ44との相対回転の角度に応じて変化する。ホールIC53は、集磁ヨーク51によって検出したマグネット41とステータ44との相対回転の角度に応じて変化する磁束を、ホール素子で検出すると共に出力回路で電気信号に変換し、トルク検出部40からの出力信号としてECU90に伝達する。つまり、トルク検出部40は、マグネット41からステータ44に作用する磁束の変化を集磁ヨーク51とホールIC53とで検出することにより、入力軸82aに付与された操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクを電気信号としてECU90に伝達する。
【0113】
ECU90は、トルク検出部40から伝達された電気信号に基づいて電動モータ91を作動させ、電動モータ91に補助操舵トルクを発生させる。つまり、トルク検出部40のホールIC53からECU90に伝達された電気信号は、マグネット41とステータ44との相対回転の角度に応じて変化し、入力軸82aと出力軸82bとの間で作用する操舵トルクに基づいて変化する。このため、ECU90は、トルク検出部40のホールIC53から伝達された電気信号を、入力軸82a及び出力軸82bに作用する操舵トルクによって変化する情報として使用し、ホールIC53から伝達される電気信号に基づいて電動モータ91へ供給する電力値を調節し、電動モータ91に補助操舵トルクを発生させる。
【0114】
即ち、ECU90は、トルク検出部40から操舵トルクの信号を取得し、車速センサ95から車両の車速信号を取得し、さらに、電動モータ91に設けられた回転検出装置から電動モータ91の動作情報を取得し、これらの動作情報と操舵トルクと車速信号とに基づいて電動モータ91に補助操舵トルクを発生させる。電動モータ91で発生した補助操舵トルクは、ウォーム93とウォームホイール94を介してステアリングシャフト82の出力軸82bに伝達される。これにより、運転者がステアリングホイール81に付与した操舵力は、電動モータ91で発生した補助操舵トルクによりアシストされる。
【0115】
また、運転者がステアリングホイール81を操舵した際には、ステアリングシャフト82の出力軸82bは、軸受60、65によって支持されながら回転をする。その際に、軸受60には、第1ハウジング21と出力軸82bとより軸方向予圧Paが付与されており、軸受65には、第2ハウジング31と出力軸82bとより軸方向予圧Paが付与されている。このため、軸受60は、外輪61と転動体63、及び転動体63と内輪62とが、それぞれ接触した状態で維持され、軸受65は、外輪66と転動体68、及び転動体68と内輪67とが、それぞれ接触した状態で維持される。
【0116】
これにより、軸受60、65とで出力軸82bを支持する際の軸方向の支持剛性を高めることができ、出力軸82bに固定されるステータ44のフランジ部45と、集磁ヨーク51との軸方向におけるギャップを一定に維持することができる。従って、トルク検出部40によって検出する操舵トルクの出力特性が、ステータ44と集磁ヨーク51とのギャップが変化することに起因して変化することを抑制することができる。
【0117】
また、軸受60、65は、それぞれ外輪61、66と転動体63、68、及び転動体63、68と内輪62、67とが接触した状態で維持されるため、車両の走行時の振動が軸受60、65に伝わった場合でも、外輪61、66と転動体63、68や、転動体63、68と内輪62、67とが衝突しないようになっている。これにより、軸受60、65は、振動が軸受60、65に伝わった場合でも、外輪61、66や内輪62、67と転動体63、68とが衝突した際における騒音を発生することなく、ステアリングシャフト82を回転自在に支持することができる。
【0118】
さらに、軸受60、65は、出力軸82bに圧入されることにより径方向予圧Prが付与され、軸受60、65がハウジング20に固定されていない状態における残留隙間Ceが0以下になっている。このため、軸受60、65は、ハウジング20に固定されることにより軸方向予圧Paが付与される状態においても、外輪61、66と内輪62、67は転動体63、68に対して、それぞれの溝部における、溝深さが最も深い位置が接触する状態が維持される。これにより、軸受60、65は、軸方向予圧Paが付与されている状態においても、外輪61、66や内輪62、67と転動体63、68との摩擦抵抗が小さくなり、軸受60、65のフリクションが小さくなる。従って、軸受60、65によって回転自在に支持をする、ステアリングシャフト82が回転をする際におけるフリクションを低減することができる。
【0119】
次に、残留隙間Ceの大きさごとの軸方向予圧Paとフリクションとの関係について説明する。
図12は、フリクションの試験を行う際の出力軸82b周りの断面図である。発明者らは、軸受60、65の残留隙間Ceの大きさごとに、軸方向予圧Paとフリクションとの関係についての試験を行った。フリクションの測定は、
図12に示すように、出力軸82bの周りから入力軸82aとトーションバー82c、電動モータ91、ウォームホイール94を取り外し、出力軸82bが2つの軸受60、65のみで支持され、他の部品から力を受けない状態で測定する。
【0120】
フリクションの測定は、このように2つの軸受60、65のみで支持する出力軸82bに、トルクメータ付きモータ200を連結部材210によって連結することにより行う。即ち、トルクメータ付きモータ200によって出力軸82bを回転させながら、トルクメータ付きモータ200が有するトルクメータで検出する検出値に基づいて、フリクションの測定を行う。詳しくは、出力軸82bの回転について、下記の式(1)の運動方程式が成り立つ。
【0121】
【0122】
また、出力軸82bを等速で回転させる場合については、下記の式(2)の式が成り立つ。
【0123】
【0124】
即ち、
図12に示すように、2つの軸受60、65のみで支持する出力軸82bにトルクメータ付きモータ200を連結し、出力軸82bを等速で回転させながら、トルクメータ付きモータ200が有するトルクメータによってトルクを検出することで、軸受60、65の摩擦トルクを検出することができる。
【0125】
図13は、軸方向予圧量とフリクションとの関係を示す説明図である。内部隙間Ciが20μmの軸受60、65の残留隙間Ceを、+15μm、0μm、-15μmの3種類の大きさで組み付け、残留隙間Ceごとに軸方向予圧量を変化させながら
図12に示す手法でフリクションを測定すると、
図13に示すような特性が得られる。この場合における軸方向予圧量は、軸受60、65に対して軸方向予圧Paを付与する際における、軸受60、65の外輪61、66や内輪62、67に対する軸方向の押し込み量になっている。軸方向予圧量は、
図5に示す距離Daと距離Dbがそれぞれ基準値となる場合の軸方向予圧量を中央値とし、各部品が公差を有することに伴って、軸方向予圧量も値が大きくなる側と小さくなる側とにそれぞれ公差分のレンジを有している。
【0126】
これらの条件で軸受60、65のフリクションを測定すると、軸方向予圧量が中央値よりも小さい場合は、いずれの残留隙間Ceにおいてもフリクションはあまり大きくならず、軸方向予圧量が中央値よりも大きい場合は、いずれの残留隙間Ceにおいても軸方向予圧量が大きくなるに従ってフリクションは増加する。
【0127】
一方で、異なる残留隙間Ceのフリクション同士を比較すると、軸受60、65の残留隙間Ceが+15μmの場合は、残留隙間Ceが0μmの場合や-15μmの場合と比較して、軸方向予圧量が中央値よりも大きい場合における、軸方向予圧量の増加に対するフリクションの増加の度合いが大幅に大きくなる。即ち、軸受60、65の残留隙間Ceが0μmの場合や-15μmの場合は、残留隙間Ceが+15μmの場合と比較して、軸方向予圧量が大きくなってもフリクションは増加し難くなっている。
【0128】
このため、例えば、軸受60、65のフリクションに、製品として許容できる上限値が設定されている場合、残留隙間Ceが+15μmの軸受60、65では、軸方向予圧量が中央値よりも僅かに大きくなっただけで、フリクションが上限値を超えてしまうことが考えられる。この場合、軸受60、65の軸方向予圧量が公差レンジの範囲内になるように組み立てられていたとしても、フリクションが上限値を超えてしまうことにより、操舵装置80の製品としての要求値を満たすことができなくなる。
【0129】
これに対し、残留隙間Ceが0μmや-15μmの軸受60、65では、軸方向予圧量が中央値より大きくなっても、フリクションの増加が緩やかであるため、フリクションは上限値を超え難くなる。このため、残留隙間Ceが0μmや-15μmの軸受60、65では、軸方向予圧量が公差レンジの範囲内になるように組み立てられていれば、操舵装置80の製品としての要求値を満たし易くなる。
【0130】
図14は、残留隙間Ceとフリクションとの関係を示す説明図である。
図14は、複数の残留隙間Ceで、軸方向予圧量を異ならせた場合におけるフリクションの大きさを示す説明図になっている。残留隙間Ceが0μmより大きい軸受60、65では、軸方向予圧量が大きい場合でも小さい場合でも、フリクションは
図14に示すように、残留隙間Ceが大きくなるに従って大きくなる。特に、軸方向予圧量が大きい場合は、残留隙間Ceが大きくなるに従って、軸受60、65のフリクションは大幅に大きくなる。
【0131】
これに対し、残留隙間Ceが0μm以下の軸受60、65では、軸方向予圧量が大きい場合でも小さい場合でも、
図14に示すようにフリクションは大きくなり難くなる。即ち、残留隙間Ceが小さい軸受60、65では、残留隙間Ceが小さくなるに従って、つまり、外輪61、66や内輪62、67と転動体63、68との径方向の接触圧が大きくなるに従って、フリクションは大きくなる傾向にあるが、大きさの変化の度合いは、残留隙間Ceが0μmより大きい軸受60、65よりも小さくなっている。
【0132】
以上の理由から、軸受60、65の残留隙間Ceを0μm以下にした場合は、残留隙間Ceを0μmより大きくした場合と比較して、軸受60、65に軸方向予圧Paを付与した際におけるフリクションが小さくなる。
【0133】
以上のように、本実施形態に係るトルクセンサ装置10では、ハウジング20と出力軸82bは、軸受60、65の外輪61、66がハウジング20に固定されて内輪62、67が出力軸82bに固定される状態において、外輪61、66と内輪62、67とに対して軸方向予圧Paを付与している。これにより、トルク検出部40のステータ44が固定される出力軸82bを軸受60、65によって支持する際における軸方向の支持剛性を高めることができる。また、軸受60、65は、径方向予圧Prが付与されることにより残留隙間Ceが0以下になっている。これにより、軸受60、65の外輪61、66と内輪62、67とが、転動体63、68を介して相対回転をする際のフリクションを、軸方向予圧Paが付与されている状態においても小さくすることができるため、ステアリングシャフト82が回転をする際におけるフリクションを低減することができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0134】
また、径方向予圧Prが付与される軸受60、65は、内輪62、67を出力軸82bに圧入することにより、外輪61、66がハウジング20に固定されていない状態における残留隙間Ceが0以下になっている。これにより、軸受60、65の残留隙間Ceが0以下となる状態を容易に実現することができ、軸受60、65に軸方向予圧Paが付与されている状態における軸受60、65のフリクションを低減することができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0135】
また、第1ハウジング21は、軸受60の外輪61に対して軸方向予圧Paを付与する段部22を備え、段部22は、内周面23aが外輪61の外周面61bに対向する大径部23と、内径が大径部23の内径よりも小さい小径部24と、大径部23と小径部24とを接続し、前記軸方向における外輪61の側面61aに対向する接続部25とを有している。このため、第1ハウジング21は、段部22が有する大径部23の内側に軸受60を配置し、軸受60の外輪61の側面61aに対して段部22の接続部25が当接することにより、外輪61に対して軸方向予圧Paを付与することができる。これにより、段部22が有する大径部23の内側に配置し、外輪61の側面61aに接続部25を当接させた軸受60の外輪61と転動体63、及び転動体63と内輪62とを、それぞれ接触させた状態にすることができる。この結果、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0136】
また、段部22が有する小径部24の内径は、ステータ44の外径より大きく、且つ、外輪61の外径より小さくなっている。これにより、段部22の接続部25によって外輪61に対して軸方向予圧Paを付与することを可能にしつつ、ステータ44が組み付けられた出力軸82bの周囲に第1ハウジング21を配置する際に、小径部24がステータ44に当接することを抑制することができる。この結果、組み立て性を確保しつつ、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0137】
また、出力軸82bは、軸受60、65の内輪62、67を圧入する部分に対して径方向における外側に突出する径方向凸部82bcを有しており、出力軸82bは、径方向凸部82bcが内輪62、67の側面62a、67aに当接することにより、内輪62、67に対して軸方向予圧Paを付与することができる。これにより、軸受60、65の近傍に、例えば、ウォームホイール94が位置する際に、ウォームホイール94が僅かに位置ずれをして配置された場合でも、ウォームホイール94の配置状態に関わらず、径方向凸部82bcによって内輪62、67に対して軸方向予圧Paを付与することができる。従って、径方向凸部82bcに対して内輪62、67の側面62a、67aを当接させて圧入した軸受60、65の内輪62、67と転動体63、68、及び転動体63、68と外輪61、66とを、それぞれ接触させた状態にすることができる。この結果、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0138】
また、ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、トーションバー82cを介して入力軸82aに連結される出力軸82bとを有し、出力軸82bには、ウォームホイール94が固定され、径方向予圧Prが付与される軸受60、65は、出力軸82bを回転自在に支持する。このため、ウォームホイール94に補助操舵トルクが伝わることにより、ウォームホイール94から出力軸82bに対して軸方向の力が作用する場合でも、軸受60、65は、出力軸82bの軸方向の移動を抑制すると共に、フリクションが小さい状態で出力軸82bを回転自在に支持することができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0139】
また、ハウジング20は、第1ハウジング21と第2ハウジング31とを有し、第1ハウジング21と第2ハウジング31とには、軸受60、65がそれぞれ固定され、軸方向予圧Paは、第1ハウジング21と第2ハウジング31とが連結されることにより、軸受60と軸受65とに対してそれぞれ付与される。これにより、複数の軸受60、65に対して容易に軸方向予圧Paを付与することができる。この結果、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0140】
また、本実施形態に係るトルクセンサ装置10の製造方法は、第1工程で出力軸82bを軸受60、65の内輪62、67に圧入することにより、軸受60、65に対して径方向予圧Prを付与し、軸受60、65の外輪61、66がハウジング20に固定されていない状態における軸受60、65の残留隙間を0以下にする。これにより、軸受60、65の外輪61、66と内輪62、67とが転動体63、68を介して相対回転をする際のフリクションを低減することができる。さらに第2工程で、軸受60、65の残留隙間を0以下にした状態で軸受60、65の外輪61、66をハウジング20に固定することにより、ハウジング20と出力軸82bとによって軸受60、65の外輪61、66と内輪62、67とに対して軸方向予圧Paを付与する。これにより、トルク検出部40のステータ44が固定される出力軸82bを軸受60、65によって支持する際における軸方向の支持剛性を、フリクションを抑えたまま高めることができる。この結果、フリクションの増加を抑えつつ、出力軸82bの軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0141】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、軸受60、65を出力軸82bへ圧入することによって径方向予圧Prを付与することにより、残留隙間Ceが0以下になっているが、軸受60、65は、出力軸82bへの圧入以外によって残留隙間Ceが0以下になるようにしてもよい。径方向予圧Prが付与される軸受60、65は、例えば、外輪61、66をハウジング20に圧入することにより、内輪62がステアリングシャフト82に固定されていない状態における残留隙間Ceが0以下であってもよい。軸受60、65は、ハウジング20とステアリングシャフト82とのうち、いずれか一方から径方向予圧Prが付与されることにより、他方に固定されていない状態における軸受60、65の残留隙間Ceが0以下となるように構成されていればよい。
【0142】
また、上述した実施形態では、軸受60と軸受65との双方に径方向予圧Prが付与されることにより、双方の軸受60、65の残留隙間Ceが0以下になっているが、双方の軸受60、65の残留隙間Ceが0以下でなくてもよい。軸受は、ステアリングシャフト82を回転自在に支持する軸受のうち、少なくとも1つの軸受に対して、ハウジング20とステアリングシャフト82とのいずれか一方から径方向予圧Prが付与されることにより、当該軸受が他方に固定されていない状態における残留隙間Ceが0以下となるように構成されていればよい。軸受60、65のサイズが異なり、軸受60、65の内部隙間に差があるような場合には、内部隙間の大きい方の軸受に径方向予圧Prを付与し、残留隙間Ceを減少させておくことが好ましい。
【0143】
また、上述した実施形態では、軸受60、65を出力軸82bへ圧入して径方向予圧Prを付与した際の残留隙間Ceが0以下になっているが、軸受60、65に径方向予圧Prを付与した際の残留隙間Ceは、所定の条件を満たせば0以上であってもよい。
【0144】
図15は、実施形態に係るトルクセンサ装置10の変形例であり、軸受60に径方向予圧Prが付与された状態における軸受60の詳細図である。
図16は、実施形態に係るトルクセンサ装置10の変形例であり、
図15に示す軸受60に軸方向予圧Paが付与された状態を示す説明図である。例えば、軸受60が、
図16に示すようにハウジング20と出力軸82bとの双方に固定されて軸方向予圧Paが付与された状態で出力軸82bが回転している状態における、外輪61と内輪62と転動体63との径方向の隙間を有効隙間Cfと定義する場合に、軸受60は、有効隙間Cfが0以下であり、且つ、残留隙間Ceと内部隙間Ci(
図7参照)との差分が、有効隙間Cfと残留隙間Ceとの差分より大きければ、軸受60が出力軸82bに圧入されてハウジング20に固定されていない状態における残留隙間Ceは、
図15に示すように0以上であってもよい。つまり、軸受60、65は、ハウジング20とステアリングシャフト82との双方に固定されて径方向予圧Prと軸方向予圧Paとが付与されている状態における有効隙間Cfが0以下であり、且つ、残留隙間Ceと内部隙間Ciとの差分が、有効隙間Cfと残留隙間Ceとの差分より大きければ、軸受60、65がハウジング20とステアリングシャフト82とのいずれか一方に固定されていない状態における残留隙間Ceは、0以上であってもよい。
【0145】
軸受60、65は、ハウジング20とステアリングシャフト82とのいずれか一方に固定されていない状態における残留隙間Ceが0以上であっても、有効隙間Cfが0以下であり、且つ、残留隙間Ceと内部隙間Ciとの差分が有効隙間Cfと残留隙間Ceとの差分より大きくなるように構成されることにより、軸受60、65に軸方向予圧Paが付与された際における、外輪61、66と内輪62、67との軸方向の相対移動を抑えことができる。即ち、軸受60、65は、残留隙間Ceと内部隙間Ciとの差分が、有効隙間Cfと残留隙間Ceとの差分より大きくなるように構成されることにより、軸受60、65に径方向予圧Prが付与されて軸方向予圧Paが付与されていない状態における外輪61、66と内輪62、67と転動体63、68との径方向における距離を極力小さくすることができる。このため、軸受60、65は、径方向予圧Prが付与されて軸方向予圧Paが付与されていない状態においても、外輪61、66と転動体63、68、及び内輪62、67と転動体63、68の軸方向におけるガタを小さくすることができる。
【0146】
これにより、径方向予圧Prが付与された状態の軸受60、65は、ハウジング20とステアリングシャフト82との双方に固定されて軸方向予圧Paが付与された際に、外輪61、66と転動体63、68と内輪62、67とは、互いに軸方向に大きく相対移動することなく、軸受60、65の径方向において大きく近づいた状態で互いに接触する。このため、軸受60、65は、外輪61、66や内輪62、67の溝部の軸方向における中央付近の位置と、軸方向における転動体63の中心付近の位置とが接触する状態が維持されやすくなるため、軸受60、65のフリクションを小さくすることができる。従って、フリクションの増加を抑えつつ、ステアリングシャフト82の軸方向の支持剛性を高めることができる。
【0147】
また、上述した実施形態では、操舵装置80は、ステアリングシャフト82にアシスト力が付与されるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置であるが、これに限定されない。操舵装置80は、例えば、ピニオンギヤ88aにアシスト力が付与されるシングルピニオンアシスト方式や、ピニオンギヤ88aとは異なる位置でラックバー88bに噛み合う第2ピニオンギヤ(図示省略)を備え、第2ピニオンギヤにアシスト力が付与されるデュアルピニオン方式の電動パワーステアリング装置でもよい。また、操舵装置80は、ボールネジによりラックバー88bにアシスト力を付与するボールネジ式など、ピニオンを介さずにラックバー88bにアシスト力を付与する種類のラックアシスト式の電動パワーステアリング装置でもよい。操舵装置80は、トルク検出部40のステータ44が固定されるシャフトを回転自在に支持する軸受に径方向予圧Prが付与されることにより軸受の残留隙間Ceが0以下となるように構成されていれば、電動パワーステアリング装置の種類は問わない。
【0148】
以上、本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示は上記の実施形態に記載されたものに限定されない。実施形態や変形例として説明した構成は、適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0149】
10 トルクセンサ装置
20 ハウジング
21 第1ハウジング
22 段部
23 大径部
24 小径部
25 接続部
31 第2ハウジング
32 内周面
33 突出部
40 トルク検出部
41 マグネット
44 ステータ
45 フランジ部
46 ティース部
50 センサハウジング
51 集磁ヨーク
53 ホールIC
54 回路基板
60、65 軸受
61、66 外輪
61a、66a 側面
61b、66b 外周面
61c、62c 溝部
62、67 内輪
62a、67a 側面
63、68 転動体
80 操舵装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
82a 入力軸
82aa 挿入孔
82b 出力軸
82ba 貫通孔
82bb 連結孔
82bc 径方向凸部
82c トーションバー
85 中間シャフト
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオンギヤ
88b ラックバー
89 タイロッド
90 ECU
91 電動モータ
92 減速装置
93 ウォーム
94 ウォームホイール
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置