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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085713
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】性能予測システムおよび性能予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/15 20200101AFI20240620BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240620BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240620BHJP
   G01N 3/20 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G06F30/15
G06F30/10 100
G06F30/27
G01N3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200386
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】上杉 浩史
【テーマコード(参考)】
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB01
2G061CA01
2G061CB01
2G061DA11
2G061EA01
2G061EA02
5B146AA05
5B146DC03
5B146DE03
5B146DJ02
5B146DL08
5B146EA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自動車用の各種パネルの構成部品による影響度を考慮した高度な性能予測を行える性能予測システムを提供する。
【解決手段】性能予測システムにおいて、記憶部は、パネル上の降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群の点群座標データとその点群を構成する各点の材質および板厚とを関連付けた部品単位の説明変数に対して、負荷点を押した際の荷重変位情報である目的変数を、負荷点毎に紐づけたデータセットを記憶部に記憶する。制御部は、機械学習部が、データセットを用いて性能予測点の荷重変位情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成し、性能予測部が、性能予測点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質及び板厚とを組み合わせた入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて性能予測点における荷重変位情報を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体を構成する金属製のパネルの性能を予測する性能予測システムにおいて、
前記パネル上の降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらに前記パネルを構成する部品単位に分類した入力データ、を説明変数とし、当該説明変数と負荷点を押した際のF-S線図に関する情報である目的変数とを負荷点毎に紐づけたデータセットを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段から読み出したデータセットを用いて、前記領域内の任意の位置である性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、
性能予測点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらに前記パネルを構成する部品単位に分類した入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて、性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測手段と、
予測結果である前記F-S線図に関する情報に基づいて、性能予測点におけるF-S線図を作成するF-S線図作成手段と、
を備える、
ことを特徴とする性能予測システム。
【請求項2】
前記F-S線図に関する情報を、
既知の手法で予め取得しておいた負荷点のF-S線図から抽出した前記降伏点を含む複数の変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量、である荷重変位情報とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の性能予測システム。
【請求項3】
前記機械学習のアルゴリズムとして畳み込みニューラルネットワークを採用することとし、
前記パネルを構成する部品単位に特徴量を抽出する中間層を有し、さらに、予測値と各部品との相関関係に応じて部品単位に前記中間層の深さを決定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の性能予測システム。
【請求項4】
自動車の車体を構成する金属製のパネルの性能を予測する性能予測方法であって、
前記パネル上の降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらに前記パネルを構成する部品単位に分類した入力データ、を説明変数とし、当該説明変数と負荷点を押した際のF-S線図に関する情報である目的変数とを負荷点毎に紐づけたデータセットをメモリに記憶するデータセット記憶ステップと、
前記メモリから読み出したデータセットを用いて、前記領域内の任意の位置である性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成するモデル生成ステップと、
性能予測点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらに前記パネルを構成する部品単位に分類した入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて、性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測ステップと、
予測結果である前記F-S線図に関する情報に基づいて、性能予測点におけるF-S線図を作成するF-S線図作成ステップと、
前記F-S線図作成ステップにより作成したF-S線図をディスプレイに表示する表示ステップと、
を含む、
ことを特徴とする性能予測方法。
【請求項5】
前記F-S線図に関する情報を、
既知の手法で予め取得しておいた負荷点のF-S線図から抽出した前記降伏点を含む複数の変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量、である荷重変位情報とする、
ことを特徴とする請求項4に記載の性能予測方法。
【請求項6】
前記メモリに、前記パネルの3D設計情報と、当該3D設計情報に関連付けられた前記パネルの材質および板厚の情報とを予め記憶することとし、
さらに、前記性能予測モデルを生成するための前処理として、
前記パネルの3D設計情報に基づいて、前記パネルを3D座標空間上(X座標、Y座標、Z座標)に配置する形状配置ステップと、
負荷点を中心とする前記パネルの複数の断面形状を取得する断面形状取得ステップと、
得られた断面形状を所定角の正方形で区切ることによってその中心点の集まりである前記点群を生成する点群生成ステップと、
点群を形成する各点の座標(X座標、Y座標、Z座標)を取得して前記点群座標データを生成する点群座標データ生成ステップと、
当該点群座標データ生成ステップにおいて生成された点群座標データと、前記パネルの3D設計情報と、当該3D設計情報に関連付けられた前記パネルの材質および板厚の情報と、各負荷点の前記荷重変位情報とに基づいて、モデル生成のための前記データセットを生成するデータセット生成ステップと、
を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の性能予測方法。
【請求項7】
さらに、前記性能予測ステップの前処理として、
前記形状配置ステップと、
性能予測点を中心とする前記パネルの複数の断面形状を取得する前記断面形状取得ステップと、
前記点群生成ステップと、
前記点群座標データ生成ステップと、
当該点群座標データ生成ステップにおいて生成された点群座標データと、前記パネルの3D設計情報と、当該3D設計情報に関連付けられた前記パネルの材質および板厚の情報とに基づいて、性能予測のための前記入力データを生成する入力データ生成ステップと、
を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の性能予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンフードやドア等の金属製の各種パネルを押した際の時系列の荷重変位曲線(F-S線図)を予測する性能予測システムおよび性能予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車のエンジンフードは、多少の衝撃ではへこみや変形が起こらないような剛性が必要であり、高いデント性能が要求されるが、このような要求を満足させるためにはエンジンフードの性能予測が欠かせない。
【0003】
たとえば、エンジンフード等の性能予測の一例として、下記特許文献1には、エンジンフードの測定点に負荷をかけた際の変位を設計図面の情報から算定するデント剛性予測方法が記載されている。
【0004】
具体的には、測定点に荷重をかけた際に測定点の周囲に定義される応力影響領域の面積をタワミ面積として算定し、板部材の測定点の曲率、板部材の測定点の板厚、板部材の材質およびタワミ面積を板部材の剛性を表す因子として、重回帰分析等により所定の関係式を求める。そして、設計図面から、板部材の測定点の曲率、板部材の測定点の板厚、板部材の材質、タワミ面積を取り出すことによって、所定の関係式に基づいて測定点の負荷方向での変位(デント剛性)を、設計の段階で適切に算定する。
【0005】
また、下記特許文献2には、三次元形状をなす対象物の性能を精度良く推定することのできる性能推定装置が記載されている。
【0006】
たとえば、下記特許文献2に記載の性能推定装置は、車両のフードの断面形状を示す画像を入力データとして、学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いて、車両のフードにおける歩行者保護性能を推定する。具体的には、性能推定装置により、車両の歩行者保護性能(詳しくは、頭部保護性能)にかかる情報として、以下の(値A)~(値D)が求められる。
【0007】
[値A]頭部傷害基準値
[値B]歩行者保護試験用の頭部インパクタの車両フードへの侵入量に相当する値
[値C]車両フードへの衝突初期(1ミリ秒)における頭部インパクタの平均加速度に相当する値
[値D]車両フードへの衝突初期(2ミリ秒)における頭部インパクタの平均加速度に相当する値
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-33067号公報
【特許文献2】特開2020-166512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載のデント剛性予測方法においては、相関式(所定の関係式)の導出やたわみ量(デント剛性)の算定において、測定点に負荷をかけた際に測定点の周囲に定義される応力影響領域の曲率、板厚、材質および面積を毎回測定する必要があり、その作業に多大の時間を要する、という問題があった。
【0010】
また、上記特許文献1および上記特許文献2による性能予測においては、たとえば、エンジンフード等の内側の部品が性能に影響を及ぼす場合、その影響を考慮した性能予測ができていない、という問題があった。特に、予測する性能に対して相関の高い部品と相関の低い部品が存在するような場合には、それらの影響を考慮した高度な性能予測は困難である。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、自動車用の各種パネルの性能予測にかかる時間を大幅に短縮するとともに、各種パネルの構成部品による影響度を考慮した高度な性能予測を行える性能予測システムおよび性能予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる性能予測システムは、自動車の車体を構成する金属製のパネルの性能を予測する性能予測システムであって、たとえば、パネル上の降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにパネルを構成する部品単位に分類した入力データ、を説明変数とし、当該説明変数と負荷点を押した際のF-S線図に関する情報(後述する実施形態の荷重変位情報に相当)である目的変数とを負荷点毎に紐づけたデータセットを記憶する記憶手段と、当該記憶手段から読み出したデータセットを用いて、上記領域内の任意の位置である性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、性能予測点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにパネルを構成する部品単位に分類した入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて、性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測手段と、予測結果であるF-S線図に関する情報に基づいて、性能予測点におけるF-S線図を作成するF-S線図作成手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる性能予測システムにおいては、上記F-S線図に関する情報を、既知の手法で予め取得しておいた負荷点のF-S線図から抽出した上記降伏点を含む複数の変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量、である荷重変位情報とすることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明にかかる性能予測システムにおいては、機械学習のアルゴリズムとして畳み込みニューラルネットワークを採用することとし、パネルを構成する部品単位に特徴量を抽出する中間層を有し、さらに、予測値と各部品との相関関係に応じて部品単位に中間層の深さを決定することが望ましい。
【0015】
本発明にかかる性能予測システムによれば、学習済みの性能予測モデルを導入することにより、パネル上の性能予測点を押した際のF-S線図の算定にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、畳み込みニューラルネットワークにおける特徴的な構成により、パネルを構成する各部品の相関関係を考慮した高度な性能予測が可能となる。
【0016】
また、本発明にかかる性能予測方法は、自動車の車体を構成する金属製のパネルの性能を予測する性能予測方法であって、パネル上の降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにパネルを構成する部品単位に分類した入力データ、を説明変数とし、当該説明変数と負荷点を押した際のF-S線図に関する情報である目的変数とを負荷点毎に紐づけたデータセットをメモリに記憶するデータセット記憶ステップと、メモリから読み出したデータセットを用いて、上記領域内の任意の位置である性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成するモデル生成ステップと、性能予測点の周辺に形成される点群の点群座標データと当該点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにパネルを構成する部品単位に分類した入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて、性能予測点を押した際のF-S線図に関する情報を予測する性能予測ステップと、予測結果であるF-S線図に関する情報に基づいて、性能予測点におけるF-S線図を作成するF-S線図作成ステップと、F-S線図作成ステップにより作成したF-S線図をディスプレイに表示する表示ステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる性能予測方法においては、F-S線図に関する情報を、既知の手法で予め取得しておいた負荷点のF-S線図から抽出した降伏点を含む複数の変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量、である荷重変位情報とすることが望ましい。
【0018】
また、本発明にかかる性能予測方法においては、メモリに、パネルの3D設計情報と、3D設計情報に関連付けられたパネルの材質および板厚の情報とを予め記憶することとした。そして、性能予測モデルを生成するための前処理として、パネルの3D設計情報に基づいて、パネルを3D座標空間上(X座標、Y座標、Z座標)に配置する形状配置ステップと、負荷点を中心とするパネルの複数の断面形状を取得する断面形状取得ステップと、得られた断面形状を所定角の正方形で区切ることによってその中心点の集まりである上記点群を生成する点群生成ステップと、点群を形成する各点の座標(X座標、Y座標、Z座標)を取得して上記点群座標データを生成する点群座標データ生成ステップと、当該点群座標データ生成ステップにおいて生成された点群座標データと、パネルの3D設計情報と、3D設計情報に関連付けられたパネルの材質および板厚の情報と、各負荷点の荷重変位情報とに基づいて、モデル生成のためのデータセットを生成するデータセット生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明にかかる性能予測方法においては、性能予測ステップの前処理として、上記形状配置ステップと、性能予測点を中心とするパネルの複数の断面形状を取得する上記断面形状取得ステップと、上記点群生成ステップと、上記点群座標データ生成ステップと、当該点群座標データ生成ステップにおいて生成された点群座標データと、パネルの3D設計情報と、3D設計情報に関連付けられたパネルの材質および板厚の情報とに基づいて、性能予測のための入力データを生成する入力データ生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる性能予測システムによれば、学習済みの性能予測モデルを導入することにより、パネル上の性能予測点を押した際のF-S線図の算定にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、畳み込みニューラルネットワークにおける特徴的な構成により、パネルを構成する各部品の相関関係を考慮した高度な性能予測が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる性能予測システムおよび性能予測方法によれば、自動車用の各種パネルの性能予測にかかる時間を大幅に短縮することができ、さらに、各種パネルの構成部品による影響度を考慮した高度な性能予測を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明にかかる性能予測システムとして動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図2図2は、学習モデル生成処理を実施する制御部の機能を示す機能ブロック図である。
図3図3は、学習モデル生成処理の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、F-S線図の一例を示す図である。
図5図5は、エンジンフードの3D画像の一例を示す図である。
図6図6は、断面形状の取得位置を示す図である。
図7図7は、エンジンフードの断面形状の一例および断面形状を点群化した状態のイメージを示す図である。
図8図8は、点群座標データの一例を示す図である。
図9図9は、性能予測モデルを生成するためのデータセットの一例を示す図である。
図10図10は、機械学習部の構成の一例を示す図である。
図11図11は、機械学習によるモデルの評価結果を示す図である。
図12図12は、テスト用データを用いた学習済みの性能予測モデルによる予測結果を示す図である。
図13図13は、性能予測処理を実施する制御部の機能を示す機能ブロック図である。
図14図14は、性能予測処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる性能予測システムおよび性能予測方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本願の明細書および図面において、同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する場合がある。
【0024】
<システム構成>
図1は、本発明にかかる性能予測システムとして動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。本実施形態の性能予測システム1は、自動車用の金属製の各種パネルの所定位置を押した際のF-S線図(時系列の荷重変位曲線)を作成する処理(以下、性能予測処理と呼ぶ。)、およびF-S線図に関する情報(以後、荷重変位情報と呼ぶ)の予測を実行する学習モデルを生成する処理(以下、学習モデル生成処理と呼ぶ。)を行うホストコンピュータとして動作する。
【0025】
図1において、性能予測システム1は、CPU(Central Processing Unit)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される制御部11と、ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等の各種メモリを含む記憶部12と、キーボードおよびマウス等のユーザインタフェースを含む入力部13と、印刷やスキャン等の入出力処理を行うインタフェース(I/F)部14と、ディスプレイである表示部15と、所定のネットワークを介して外部と通信を行う通信部16とを備える。なお、図1では、キーボードおよびマウス等のユーザインタフェースを含む入力部13を備えることとしたが、本実施形態の性能予測システム1は、これに限るものではなく、表示部15にタッチパネルの機能を持たせることによって、入力部13を設けない構成、または入力部13と併用する構成としてもよい。
【0026】
図1において、制御部11は、本実施形態の性能予測システム1による性能予測処理および学習モデル生成処理を実現するために、たとえば、自動車用の各種パネルの所定位置を押した際のF-S線図を作成する性能予測プログラムと、荷重変位情報の予測を実行する学習モデルを生成するための学習モデル生成プログラムと、を実行する。記憶部12は、本実施形態の性能予測処理および学習モデル生成処理にかかるプログラム(性能予測プログラム、学習モデル生成プログラム)および各種情報(各種パネルの形状を示す3D形状データ、材質および板厚や、機械学習のためのデータセット等)や、処理の過程で得られた各種データ(点群座標データ等)等を記憶する。制御部11では、記憶部12に記憶されている各種プログラムを読み出すことにより、本実施形態の性能予測処理および学習モデル生成処理を実行する。なお、記憶部12は、内部メモリに限るものではなく、たとえば、DVD(Digital Versatile Disc)やSDメモリ等の外部記憶媒体であってもよいし、また、内部メモリおよび外部記憶媒体(DVDやSDメモリ等)の両方で構成されることとしてもよい。また、本実施形態の性能予測システム1のハードウェア構成は、説明の便宜上、本実施形態の性能予測処理および学習モデル生成処理にかかわる構成を列挙したものであり、性能予測システム1を構成するコンピュータのすべての機能を表現したものではない。
【0027】
また、本実施形態の性能予測システム1は、デスクトップパソコン、ノートパソコン等の汎用PCを想定しているが、これらに限るものではなく、たとえば、スマートフォン、タブレット端末等の携帯端末であってもよい。
【0028】
<学習モデル生成処理>
つづいて、本実施形態の性能予測システム1における性能予測処理を説明する前に、その前提となる学習モデル生成処理について説明する。図2は、学習モデル生成処理を実施する制御部11の機能を示す機能ブロック図であり、図3は、学習モデル生成処理の一例を示すフローチャートである。
【0029】
図2において、制御部11は、点群座標データ生成部21と、データセット生成部22と、機械学習アルゴリズムを利用して学習モデルを生成する機械学習部23と、既知のCAD(computer-aided design)システム24およびCAE(Computer Aided Engineering)システム25とを有する。本実施形態においては、金属製の各種パネルの一例として、自動車のエンジンフードの3D設計情報を用いて学習モデルを生成する場合について説明する。すなわち、本実施形態においては、学習モデルの一例として、自動車のエンジンフードの所定位置を押した際の荷重変位情報(後述する6つの変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量)を予測する性能予測モデルを生成する。そして、この性能予測モデルは、たとえば、ニューラルネットワーク(CNN:Convolution Neural Network、RNN:Recurrent Neural Network等)等、公知の機械学習アルゴリズムを利用して生成する。
【0030】
また、自動車のエンジンフードは、たとえば、図2に示すCADシステム24により設計され、3D形状データを含む3D設計情報が予め記憶部12に記憶されていることとする。また、エンジンフードを構成する各部品の材質および板厚等の情報についても、3D設計情報(3D形状データ)に関連付けられた状態で予め記憶部12に記憶されていることとする。
【0031】
また、本実施形態においては、学習モデル生成処理を行う上での前提処理として、エンジンフード上の特定の位置(負荷点:たとえば100か所)を押した際の、各負荷点におけるF-S線図を予め取得しておき、それらのF-S線図を各負荷点に関連付けて予め記憶部12に記憶しておく。具体的には、たとえば、図2に示すCAEシステム25が、エンジンフードの3D設計情報を記憶部12から読み出し、この3D設計情報をもとに有限要素法によるCAE解析を行い、その解析結果として、各負荷点に対応するF-S線図(性能情報)を得る。有限要素法によるCAE解析では、エンジンフードの3D形状をメッシュ状に分割し、負荷点に荷重を加えることによって、分割したメッシュ状の各部分の変位等が解析される。図4は、前提処理により得られるF-S線図の一例を示す図である。
【0032】
なお、上記CADシステム24による3D設計およびCAEシステム25によるCAE解析については、公知の一般的な手法で行われているため詳細な説明を省略する。また、本実施形態においては、3D設計情報をもとに有限要素法によるCAE解析を行うことによって各負荷点(100か所)におけるF-S線図を予め取得しておくこととしたが、これに限るものではなく、既知の手法であればどのような手法で各負荷点におけるF-S線図を取得することとしてもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、一例として、負荷点を100か所としたが、これに限るものではなく、要求される性能予測処理の精度等に応じて、たとえば、100か所以上であることが望ましい。そして、本実施形態において、各負荷点は、上述したエンジンフード上の特定の位置として、たとえば、エンジンフード上の降伏点を有する領域(一定の荷重によって座屈現象が発生する領域)に一様(均一にバラ付いていること)となるように、配置する。具体的にいうと、エンジンフードを構成するアウター上に配置される各負荷点は、真下に、たわみ(変位)によって接合する座面(たとえば、デントR/FやロックR/F等の内部部品)がない領域内に、適宜配置される。すなわち、上述した前提処理においては、エンジンフード上の降伏点を有する領域内の100か所の負荷点に対応するF-S線図を予め取得しておくことになる(図4参照)。
【0034】
また、図2に示す機能ブロックにおいては、CADシステム24およびCAEシステム25を制御部11内に含める構成としたが、この構成に限るものではなく、たとえば、CADシステム24およびCAEシステム25を別構成とし、ネットワークを介して性能予測システム1と接続する構成としてもよい。
【0035】
本実施形態においては、上記のように各種情報が予め記憶部12に記憶されていることを前提として、たとえば、図3に示すように、制御部11が、自動車のエンジンフードの3D設計情報と、そのエンジンフードの材質および板厚の情報と、予め取得しておいた各負荷点におけるF-S線図とを用いて、性能予測モデルを生成する処理(学習モデル生成処理)を実行する。
【0036】
図3において、まず、作業者による入力部13の操作により性能予測モデルの生成が指示された場合、制御部11の点群座標データ生成部21は、記憶部12からエンジンフードの3D設計情報を読み出し、その3D設計情報から得られる3D形状データに基づいてエンジンフード(形状)を3D座標空間上(X座標、Y座標、Z座標)に配置する(ステップS1)。この際、表示部15には、エンジンフードの3D画像が表示される。図5は、エンジンフードの3D画像の一例を示す図である。
【0037】
つぎに、点群座標データ生成部21は、3D設計情報から、負荷点(100か所分)周辺のエンジンフードの断面形状を取得する(ステップS2)。具体的には、負荷点を中心とする、たとえば、前後左右150mm幅のエンジンフードの断面形状を取得する。図6は、断面形状の取得位置を示す図である。本実施形態においては、負荷点を中心とする左右方向150mm幅のエンジンフードの断面形状(図6に示す負荷点Cを中心とするA-A’直線(X軸に平行な直線)参照)と、負荷点を中心とする前後方向150mm幅のエンジンフードの断面形状(図6に示す負荷点Cを中心とするB-B’直線(Y軸に平行な直線)参照)とを、負荷点毎に取得する。
【0038】
図7(a)および(b)は、エンジンフードの断面形状の一例を示す図であり、詳細には、(a)は負荷点CのA-A’断面を示し、(b)は負荷点CのB-B’断面を示している。なお、本実施形態のおいては、一例として、取得する断面形状の幅を150mmとしたが、これに限るものではなく、パネル全体から一様(均一にバラ付いていること)に断面形状が取得できていればよく、たとえば、パネルの形状や、材質および板厚、荷重をかけた際の応力範囲、性能予測の要求精度等に応じて適宜設定可能である。また、本実施形態においては、図6に示すA-A’断面およびB-B’断面のように、直交する2つの断面形状を取得することとしたが、これに限るものではなく、たとえば、性能予測精度向上のために、負荷点を中心とするその他の方向の断面形状をさらに取得することとしてもよい。
【0039】
さらに、点群座標データ生成部21は、負荷点毎に取得した断面形状(150mm幅)を、たとえば、5mm間隔(5mm×5mmの正方形)で区切り、負荷点毎に断面形状の点群(5mm角の中心点の集まり)を生成する(ステップS3)。断面形状を点群にした際の形状表現精度(フィレットR部等)と特徴量の個数バランスから、点群を構成する各点の間隔を5mmとした。そして、点群座標データ生成部21は、3D座標空間上に配置されたエンジンフードの3D形状データに基づき、点群を形成する各点の座標(X座標、Y座標、Z座標)を取得し、負荷点毎に断面形状の点群座標データを生成し(ステップS4)、記憶部12に記憶する。図7(c)および(d)は、たとえば、図6の負荷点Cにおいて取得した断面形状を点群化した状態のイメージを示す模式図であり、詳細には、(c)は負荷点CのA-A’断面の点群化イメージを示し、(b)は負荷点CのB-B’断面の点群化イメージを示している。また、図8は、点群座標データの一例を示す図である。なお、本実施形態のおいては、一例として、点群における各点の間隔を5mmとしたが、これに限るものではなく、たとえば、パネルの形状や、材質および板厚、荷重をかけた際の応力範囲、性能予測の要求精度等に応じて適宜設定可能である。
【0040】
上述のように、点群座標データ生成部21が負荷点毎の点群座標データを生成後、つぎに、データセット生成部22では、記憶部12から、点群座標データと、3D設計情報(エンジンフードを構成する各部品の材質および板厚の情報を含む)と、予め記憶しておいた負荷点毎のF-S線図(性能情報)とを読み出す。そして、点群座標データを形成する各点の座標と、それら各点の材質および板厚と、負荷点毎のF-S線図から得られる荷重変位情報とを紐づけて、機械学習のためのデータセットを生成する(ステップS5)。ここで、本実施形態においては、データセット生成部22が、負荷点毎のF-S線図(図4参照)のそれぞれから、たとえば、降伏点を含む6つの変曲点(たとえば、曲率の大きい順等)を抽出し、これら6つの変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量を荷重変位情報として、機械学習のためのデータセットを生成する。なお、本実施形態においては、一例として、6つの変曲点を抽出することとしたが、これに限るものではなく、抽出した変曲点からF-S線図を導出できればよく、抽出数は任意である。
【0041】
すなわち、機械学習アルゴリズムで使用するデータセットは、1つの負荷点に対応する点群座標データを形成する各点の座標と、それら各点の材質および板厚とを関連付けたデータを説明変数(入力データ)とし、その負荷点に対応する荷重変位情報を目的変数(教師データ)とし、負荷点毎に用意された入力データに対して、各負荷点に対応する教師データを個別に紐づけたものである。
【0042】
また、このデータセットは、負荷点毎に用意された入力データが、データセット生成部22によって、さらにエンジンフードを構成する部品単位に分類(細分化)されることとした。ここで、エンジンフードを構成する部品は、たとえば、アウター、インナー、デントR/F、ロックR/F等である。そして、データセット生成部22は、部品単位に分類された負荷点(C-1,C-2,C-3,C-4,C-5…)毎のデータセットを記憶部12に記憶する。図9は、性能予測モデルを生成するためのデータセットの一例を示す図である。
【0043】
制御部11の機械学習部23は、図9に示す負荷点100か所分のデータセットのうち、性能予測モデルを生成するための89か所分のデータセットを記憶部12から読み出し、たとえば、機械学習アルゴリズムの1つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用して、データセットによる教師あり学習を行わせることにより、自動車のエンジンフードの所定位置を押した際の荷重変位情報を予測する性能予測モデルを生成する(ステップS6)。
【0044】
すなわち、本実施形態においては、機械学習アルゴリズムを利用して、上述した入力データ(説明変数)と教師データ(目的変数)との相関を学習させることにより、自動車のエンジンフードの所定位置を押した際の荷重変位情報を予測する性能予測モデルを生成する。これにより、降伏点を有するエンジンフード上の所定位置における荷重変位情報を予測可能な性能予測モデルが得られる。
【0045】
<機械学習アルゴリズムの一例>
図10は、機械学習を行わせる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に相当する機械学習部23の構成の一例を示す図である。本実施形態において使用する機械学習アルゴリズムは、たとえば、畳み込みニューラルネットワークであり、エンジンフードを構成する部品単位の入力データを入力する入力層を形成する入力部31と、フィルター(重み)を用いた畳み込み演算により特徴量を抽出する複数の中間層を形成することにより層毎に異なる特徴を抽出するように学習する特徴抽出部32と、特徴抽出部32による学習で抽出された特徴を平滑化後に全結合する複数の中間層および上述した荷重変位情報を出力する出力層を有する出力部33と、を備える。出力部33は、一般的な全結合型のニューラルネットワークの中間層および出力層に相当する。
【0046】
本実施形態の機械学習部23において、入力部31には、エンジンフードを構成する部品単位の入力データ(説明変数)を、負荷点毎に入力する。そして、機械学習部23では、出力部33における出力層の出力である予測値(6つの変曲点に対応する荷重と変位量)と教師データ(荷重変位情報)との平均二乗誤差を計算し、この誤差が最小となるように、予め規定するエポック(epoch)数にわたって繰り返し学習を行う。これにより、性能予測モデルが学習される。
【0047】
また、本実施形態の機械学習部23において、特徴抽出部32は、エンジンフードを構成する部品単位(アウター、インナー、デントR/F、ロックR/F等)に特徴量を抽出する構成とし、さらに、予測値と各部品との相関関係(影響の大きさ)に応じて部品単位に中間層の深さ(大きさ)を決定する。たとえば、直接荷重がかかり最も予測値との相関が大きいアウターは中間層を最も深く設定し、その次に相関の大きいインナーは中間層をアウターよりも浅く設定し、これらの部品よりもさら予測値との相関が小さい部品(デントR/F、ロックR/F)については、中間層を最も浅く設定する。本実施形態においては、一例として、アウターの中間層の深さを3とし、各中間層により得られる特徴量をそれぞれ64、32、16とした。また、インナーの中間層の深さを2とし、各中間層により得られる特徴量を32、16とした。また、デントR/Fの中間層の深さを1とし、この中間層により得られる特徴量を32とした。そして、ロックR/Fの中間層の深さを1とし、この中間層により得られる特徴量を16とした。これにより、エンジンフードを構成する各部品の相関関係を考慮した、高度な性能予測が可能となる。
【0048】
なお、本実施形態においては、上述したように、機械学習用に100件(負荷点:100か所分)のデータセットを用意した。そのうち、89件を、性能予測モデルを生成するためのデータセットとして使用、すなわち、80件を学習データとして使用し、9件を評価用データとして使用する。そして、残りの11件をテスト用データとして使用する。ここで、学習データは、性能予測モデルの学習に使用されるデータセットであり、評価用データは、モデルの性能を検証するために使用されるデータセットであり、テスト用データは、教師データとの比較でモデルの最終的な評価を行うためのデータセットである。また、学習データは、たとえば、過学習および学習不足が発生することなく、所望の予測精度(たとえば、相関係数Rが0.8以上)が得られるだけの件数を用意する。また、本実施形態における性能予測モデルの性能評価には、評価指標の一例である損失関数(loss)や平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error)を採用する。すなわち、それらの値が小さいほど誤差の少ないモデルといえる。なお、評価指標はこれに限定されるものではない。
【0049】
図11は、機械学習によるモデルの評価結果を示す図であり、(a)は荷重変位情報の1つである荷重(6つの変曲点にそれぞれ対応する荷重:F-S線図の縦軸)に関する学習曲線であり、(b)は荷重変位情報の1つである変位(6つの変曲点にそれぞれ対応する変位:F-S線図の横軸)に関する学習曲線である。ここでは、たとえば、学習の程度(Epochs)に対する損失(損失関数)および平均絶対誤差の推移を示したものである。図11に示すとおり、本実施形態の性能予測モデルは、学習が進むほど損失および平均絶対誤差が小さくなっていることから、学習が順調に進んでいることが確認できる。また、エポック数:30くらいからは損失および平均絶対誤差が十分に小さく、以後、変化が少ないことから、本実施形態においては、性能予測モデルの学習にはエポック数:30程度が適していると言える。
【0050】
また、図12は、テスト用データの11件を用いた、学習済みの性能予測モデルによる予測結果を示す図である。ここでは、性能予測モデルから出力された予測値(荷重変位情報)と、教師データ(実測値:予め取得しておいたF-S線図から得られる荷重変位情報)とをプロットし、その結果を観察した。図12では、丸印のプロットデータを結んだ実測値の直線に対して相関係数R=0.8以上となる範囲を、点線で示している。その結果、性能予測モデルの予測値(△印で示す66(=11(データ個数)×6(変曲点個数))か所の荷重変位情報)の近似曲線は、相関係数R=0.8以上を満たしており、良好な予測結果が得られたと言える。
【0051】
なお、本実施形態においては、機械学習アルゴリズムの一例としてCNNやRNN等のニューラルネットワークを用い、上述した性能予測モデルを生成することとしたが、性能予測モデルを生成するための機械学習アルゴリズムは、これに限るものではない。たとえば、ランダムフォレストやブーステッド決定木等、他の機械学習アルゴリズムを使用することも可能である。
【0052】
<性能予測処理>
つづいて、本実施形態の性能予測システム1における性能予測処理について説明する。図13は、性能予測処理を実施する制御部11の機能を示す機能ブロック図であり、図14は、性能予測処理の一例を示すフローチャートである。
【0053】
図13において、制御部11は、前述した点群座標データ生成部21と、入力データ生成部26と、性能予測モデルとして動作する性能予測部27と、予測値(荷重変位情報)からF-S線図を作成するF-S線図作成部28とを有する。本実施形態においては、上記同様、金属製の各種パネルの一例として、自動車のエンジンフードの3D設計情報を用い、さらに、上記で生成した性能予測モデルを用いて、エンジンフードにおける性能予測点(F-S線図を作成したい位置:上述した所定位置に相当)の荷重変位情報を予測し、その後、得られた荷重変位情報に基づいてF-S線図を作成する場合について説明する。すなわち、本実施形態においては、学習済みの性能予測モデルを用いて自動車のエンジンフードの性能予測点を押した際の荷重変位情報を予測し、この荷重変位情報から性能予測点のF-S線図を作成する。
【0054】
なお、本実施形態において、性能予測点は、たとえば、エンジンフード上の降伏点を有する領域内の任意の位置(一定の荷重によって座屈現象が発生する位置)とする。具体的にいうと、性能予測点は、真下に、たわみ(変位)によって接合する座面(たとえば、デントR/FやロックR/F等の部品)がない領域内の任意の位置とする。
【0055】
図14において、まず、作業者による入力部13の操作により性能予測処理の実行が指示された場合、制御部11の点群座標データ生成部21は、記憶部12からエンジンフードの3D設計情報を読み出し、その3D設計情報から得られる3D形状データに基づいてエンジンフード(形状)を3D座標空間上(X座標、Y座標、Z座標)に配置する(ステップS11)。この際、表示部15には、エンジンフードの3D画像が表示される(図5参照)。
【0056】
つぎに、作業者による入力部13の操作により、エンジンフード上の性能予測点が設定された場合、点群座標データ生成部21は、3D設計情報から、性能予測点周辺のエンジンフードの断面形状を取得する(ステップS12)。具体的には、性能予測点を中心とする、たとえば、前後左右150mm幅のエンジンフードの断面形状を取得する。すなわち、本実施形態においては、性能予測点を中心とする左右方向150mm幅のエンジンフードの断面形状と、性能予測点を中心とする前後方向150mm幅のエンジンフードの断面形状とを取得する(図6および図7参照)。なお、ここで取得する断面形状の幅寸法については、性能予測モデル生成時において取得した断面形状の幅寸法と同じ寸法とする(図3のステップS2参照)。
【0057】
さらに、点群座標データ生成部21は、性能予測点を中心とする前後方向および左右方向の断面形状(150mm幅)を、たとえば、5mm間隔(5mm×5mmの正方形)で区切り、性能予測点における断面形状の点群(5mm角の中心点の集まり)を生成する(ステップS13)。そして、点群座標データ生成部21は、3D座標空間上に配置されたエンジンフードの3D形状データに基づき、点群を形成する各点の座標(X座標、Y座標、Z座標)を取得し、性能予測点における断面形状の点群座標データを生成し(ステップS14)(図7(c)、(d)および図8参照)、記憶部12に記憶する。なお、性能予測点における断面形状の点群を構成する各点の間隔は、性能予測モデル生成時において負荷点毎に取得した断面形状の点群を構成する各点の間隔と同じ間隔とする(図3のステップS3参照)。
【0058】
上述のように、点群座標データ生成部21が性能予測点における点群座標データを生成後、つぎに、入力データ生成部26では、記憶部12から、性能予測点における点群座標データおよび3D設計情報(エンジンフードを構成する各部品の材質および板厚の情報を含む)を読み出し、点群座標データを形成する各点の座標と、それら各点の材質および板厚とを紐づけて、性能予測モデルへの入力となる入力データを生成する(ステップS15)。この際、入力データ生成部26は、上記入力データを、さらにエンジンフードを構成する部品単位に分類(細分化)する。ここで、エンジンフードを構成する部品は、たとえば、アウター、インナー、デントR/F、ロックR/F等である。そして、入力データ生成部26は、生成した入力データを性能予測モデルとして動作する性能予測部27に入力する。
【0059】
性能予測部27は、エンジンフードを構成する部品単位に分類された入力データを受け付け、性能予測モデルを用いて、エンジンフードにおける性能予測点の荷重変位情報(上述した6つの変曲点にそれぞれ対応する荷重および変位量)を予測する(ステップS16)。すなわち、本実施形態においては、学習済みの性能予測モデルを用いて、自動車のエンジンフードの性能予測点を押した際の荷重変位情報を予測する。
【0060】
その後、F-S線図作成部28は、性能予測部27による予測値(荷重変位情報)を用いて、1次近似および2次近似等の近似関数により近似することにより、性能予測点におけるF-S線図を作成する(ステップS17)。そして、作成したF-S線図を性能予測結果として表示部15に表示する。
【0061】
<効果>
以上のように、本実施形態の性能予測システム1は、自動車の車体を構成する金属製のパネル(たとえば、自動車のエンジンフード等)の性能の1つである、F-S線図(時系列の荷重変位曲線)を予測するものである。
【0062】
具体的には、エンジンフード上における降伏点を有する領域に一様に設けられた負荷点の周辺に形成される点群(図7参照)の点群座標データ(図8参照)とその点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにエンジンフードを構成する部品単位に分類した入力データ、を説明変数とし、その説明変数(入力データ)と負荷点を押した際の荷重変位情報である目的変数(教師データ)とを負荷点毎に紐づけたデータセット(図9参照)を記憶する記憶部12を備える。そして、機械学習部23が、記憶部12から読み出したデータセットを用いて、性能予測点を押した際の荷重変位情報を予測する性能予測モデルを機械学習により生成する。その後、性能予測部27が、性能予測点の周辺に形成される点群(図7参照)の点群座標データ(図8参照)とその点群を構成する各点の材質および板厚の情報とを関連付けたデータ、をさらにエンジンフードを構成する部品単位に分類した入力データを受け付け、学習済みの性能予測モデルを用いて、性能予測点を押した際の荷重変位情報を予測し、さらに、F-S線図作成部28が、荷重変位情報に基づいて、性能予測点におけるF-S線図を作成する。
【0063】
なお、記憶部12には、エンジンフードの3D設計情報と、3D設計情報に関連付けられたエンジンフードの材質および板厚の情報とを予め記憶することとした。そして、点群座標データ生成部21が、エンジンフードの3D設計情報に基づいて、そのエンジンフードを3D座標空間上(X座標、Y座標、Z座標)に配置する。その後、点群座標データ生成部21は、負荷点または性能予測点を中心とするエンジンフードの複数の断面形状を取得し、取得した断面形状を所定角の正方形で区切ることによってその中心点の集まりである点群を生成し、その点群を形成する各点の座標(X座標、Y座標、Z座標)を取得して点群座標データを生成する。
【0064】
これにより、データセット生成部22が、上記点群座標データ生成部21により生成された点群座標データと、エンジンフードの3D設計情報と、その3D設計情報に関連付けられたエンジンフードの材質および板厚の情報と、予め取得しておいた各負荷点のF-S線図とに基づいて、学習モデル生成のためのデータセットを生成することができる。また、入力データ生成部26が、上記点群座標データ生成部21により生成された点群座標データと、エンジンフードの3D設計情報と、その3D設計情報に関連付けられたエンジンフードの材質および板厚の情報とに基づいて、性能予測のための入力データを生成することができる。
【0065】
また、本実施形態の性能予測システム1は、機械学習アルゴリズムとして畳み込みニューラルネットワークを採用した。そして、機械学習においては、エンジンフードを構成する部品単位に特徴量を抽出する中間層を有し、さらに、予測値(荷重変位情報)と各部品との相関関係に応じて部品単位に中間層の深さを決定することとした。
【0066】
上記のように構成された本実施形態の性能予測システム1によれば、学習済みの性能予測モデルを導入することにより、エンジンフード上の性能予測点を押した際のF-S線図の算定にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、本実施形態の畳み込みニューラルネットワークにおける特徴的な構成により、エンジンフードを構成する各部品の相関関係を考慮した高度な性能予測が可能となる。
【0067】
なお、本実施形態においては、金属製の各種パネルの一例として、自動車のエンジンフードを用いることとしたが、これに限るものではなく、本実施形態の学習モデル生成処理および性能予測処理については、たとえば、エンジンフードの他、フロントフェンダー、ルーフパネル、ドア等、自動車の車体を構成するすべての金属製パネルに対して適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 性能予測システム
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 インタフェース(I/F)部
15 表示部
16 通信部
21 点群座標データ生成部
22 データセット生成部
23 機械学習部
24 CADシステム
25 CAEシステム
26 入力データ生成部
27 性能予測部
28 F-S線図作成部
31 入力部
32 特徴量抽出部
33 出力部
C-1,C-2,C-3,C-4,C-5,… 負荷点


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14