(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085745
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240620BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240620BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 E
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200440
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】塙 智史
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 直輝
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505EE56
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ10
5H505JJ16
5H505JJ17
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL43
5H505LL45
5H505LL58
5H770AA07
5H770BA01
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA02
5H770GA19
5H770HA06Z
5H770LB07
5H770LB10
(57)【要約】
【課題】インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置において、冷間時の交流モータの振動を早期に抑制する。
【解決手段】インバータ320を介して交流モータ200を制御するマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の共振周波数を避けたキャリア周波数でインバータ320を駆動する。このとき、マイクロコンピュータ340は、交流モータ200の温度が所定値より低ければ、デフォルトのキャリア周波数を高周波数側へと変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置であって、
前記交流モータの共振周波数を避けたキャリア周波数で前記インバータを駆動するとき、前記交流モータの温度が所定値より低ければ、前記キャリア周波数を高周波数側へと変更する、
モータの制御装置。
【請求項2】
前記交流モータの温度は、当該交流モータの所定箇所に取り付けられた温度センサ、又は推定モデルにより取得される、
請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項3】
前記所定値は、前記交流モータのクリアランスが大きいか又は大きくなる可能性のある低温状態を規定する温度である、
請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
前記キャリア周波数を高周波数側へと変更する変更量が固定値である、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のモータの制御装置。
【請求項5】
前記キャリア周波数を高周波数側へと変更する変更量は、前記交流モータのトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照して設定される、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された3相ブラシレスモータなどの交流モータの回転速度及びトルクを制御するために、任意の周波数及び電圧を有する交流電流に直流電流を変換するインバータが使用されている。交流モータから発生する騒音を低減させるために、特開2002-153096号公報(特許文献1)に記載されるように、インバータを介して交流モータを制御するとき、交流モータの共振周波数を避けたキャリア周波数を使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、交流モータの冷間時には、交流モータの軸受の温度が低くなり易く、軸受と駆動軸との間のクリアランス、軸受内部のクリアランス、及び軸受とモータハウジングとの間のクリアランスが大きくなってしまう。冷間時に交流モータを始動又は停止する場合、このようなクリアランスによって駆動軸が偏心してがたつきが発生し、交流モータの共振周波数近傍で振動が発生し易くなってしまう。しかしながら、特許文献1では、冷間時における交流モータのクリアランスによる不具合について考慮されていないため、冷間時に発生する交流モータの振動を早期に抑制することは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置において、冷間時の交流モータの振動を早期に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置は、交流モータの共振周波数を避けたキャリア周波数でインバータを駆動するとき、交流モータの温度が所定値より低ければキャリア周波数を高周波数側に変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インバータを介して交流モータを制御するモータの制御装置において、冷間時の交流モータの振動を早期に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両に搭載されたモータシステムの一例を示す概要図である。
【
図2】マイクロコンピュータの内部構造の説明図である。
【
図3】交流モータ制御処理のメインルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図4】交流モータ制御処理の電費重視モードを実行するサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】交流モータ制御処理の振動抑制重視モードを実行するサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態が適用され得る、自動車などの車両に搭載されたモータシステム100の一例を示している。モータシステム100は、3相ブラシレスモータなどの交流モータ200と、モータコントローラ300と、を備えている。ここで、交流モータ200は、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車などのモータジェネレータとすることができる。なお、交流モータ200としては、3相ブラシレスモータに限らず、当業者にとって周知の各種の交流モータであってもよい。
【0010】
交流モータ200は、U相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wがスター結線されつつ巻き回された略円筒形状のステータ200Sと、ステータ200Sの内周面に回転自由に配置されたロータ200Rと、を備えている。ロータ200Rの回転駆動軸は、ステータ200Sの軸方向の端部から外部へと突出し、ここから外部へと回転駆動力が取り出される。交流モータ200の所定箇所には、基準位置を基点としたロータ200Rの回転角度に応じた角度信号を出力する回転角度センサ220が取り付けられている。回転角度センサ220としては、例えば、エンコーダやレゾルバなどを使用することができる。なお、交流モータ200のステータ200Sは、U相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wがデルタ結線されつつ巻き回された略円筒形状を有していてもよい。また、交流モータ200のロータ200Rは、ステータ200Sの外周面に回転自由に配置されていてもよい。
【0011】
モータコントローラ300は、交流モータ200を駆動する駆動回路としてのインバータ320と、マイクロコンピュータ340と、を備えている。ここで、マイクロコンピュータ340が、モータの制御装置の一例として挙げられる。
【0012】
インバータ320は、車両に搭載されたエネルギ貯蔵システム(ESS)360から供給される直流電流を交流電流に変換し、これを交流モータ200のU相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wに選択的に印加して駆動させる電源回路である。インバータ320は、還流ダイオードを有するNチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)など、スイッチング素子320A~320Fを適宜接続して構成された3相ブリッジ回路である。
【0013】
具体的には、インバータ320は、スイッチング素子320A及び320Bが直列接続されたU相アームと、スイッチング素子320C及び320Dが直列接続されたV相アームと、スイッチング素子320E及び320Fが直列接続されたW相アームと、を有している。なお、スイッチング素子320A~320Fとしては、Nチャネル型のMOSFETに限らず、Pチャネル型のMOSFET、NPN型のトランジスタ、PNP型のトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などであってもよい。
【0014】
U相アームでは、上段のスイッチング素子320Aのドレインがエネルギ貯蔵システム360のプラス端子360Aに接続され、上段のスイッチング素子320Aのソースが下段のスイッチング素子320Bのドレインに接続され、下段のスイッチング素子320Bのソースがエネルギ貯蔵システム360のマイナス端子360Bに接続されている。そして、上段のスイッチング素子320Aと下段のスイッチング素子320Bとの間に位置する電路は、U相駆動ライン320Uを介して交流モータ200のU相コイル200Uに接続されている。
【0015】
V相アームでは、上段のスイッチング素子320Cのドレインがエネルギ貯蔵システム360のプラス端子360Aに接続され、上段のスイッチング素子320Cのソースが下段のスイッチング素子320Dのドレインに接続され、下段のスイッチング素子320Dのソースがエネルギ貯蔵システム360のマイナス端子360Bに接続されている。そして、上段のスイッチング素子320Cと下段のスイッチング素子320Dとの間に位置する電路は、V相駆動ライン320Vを介して交流モータ200のV相コイル200Vに接続されている。
【0016】
W相アームでは、上段のスイッチング素子320Eのドレインがエネルギ貯蔵システム360のプラス端子360Aに接続され、上段のスイッチング素子320Eのソースが下段のスイッチング素子320Fのドレインに接続され、下段のスイッチング素子320Fのソースがエネルギ貯蔵システム360のマイナス端子360Bに接続されている。そして、上段のスイッチング素子320Eと下段のスイッチング素子320Fとの間に位置する電路は、W相駆動ライン320Wを介して交流モータ200のW相コイル200Wに接続されている。
【0017】
下段のスイッチング素子320B,320D及び320Fのソースとエネルギ貯蔵システム360のマイナス端子360Bとを接続する共通電路、即ち、インバータ320の母線には、シャント抵抗320Gが配置されている。このシャント抵抗320Gは、交流モータ200のU相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wのうち、選択的に駆動される2相のコイルに流れる2相電流を検出する。なお、交流モータ200のU相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wのうち、選択的に駆動される2相のコイルに流れる2相電流、又は3相のコイルに流れる3相電流などを検出するために、シャント抵抗320Gに代えて、当業者にとって周知の各種のセンサを使用してもよい。
【0018】
マイクロコンピュータ340は、
図2に示すように、プロセッサ340Aと、不揮発性メモリ340Bと、揮発性メモリ340Cと、通信回路340Dと、入出力回路340Eと、これらを相互通信可能に接続する内部バス340Fと、を内蔵している。
【0019】
プロセッサ340Aは、アプリケーションプログラムに記述された命令セットを実行する電子部品であって、例えば、CPU(Central Processing Unit)などからなる。不揮発性メモリ340Bは、電源供給が遮断されてもデータを保持可能な半導体記憶素子であって、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュROM(Read Only Memory)などからなる。揮発性メモリ340Cは、電源供給が遮断されるとデータが消失する半導体記憶素子であって、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)などからなる。
【0020】
通信回路340Dは、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介して他のコントローラと通信するためのデバイスであって、例えば、CANトランシーバなどからなる。入出力回路340Eは、各種のセンサ又はスイッチなどからアナログ信号又はデジタル信号を読み込むとともに、アクチュエータなどにアナログ又はデジタルの駆動信号を出力するデバイスであって、例えば、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、D/Dコンバータなどからなる。内部バス340Fは、各デバイス間でデータを交換するための経路であって、アドレスを転送するためのアドレスバス、データを転送するためのデータバス、アドレスバスやデータバスで実際に入出力を行うタイミングや制御情報を遣り取りするコントロールバスを含んでいる。
【0021】
マイクロコンピュータ340には、その入出力回路340Eを介して、交流モータ200の回転角度センサ220の角度信号、及びインバータ320のシャント抵抗320Gの2相電流信号が夫々入力されている。そして、マイクロコンピュータ340は、通信回路340Dを介して上位のコントローラからの指令を受信し、回転角度センサ220の角度信号、及びシャント抵抗320Gの2相電流信号に応じて、例えば、ベクトル制御や磁界方向制御によって交流モータ200のU相コイル200U、V相コイル200V及びW相コイル200Wの通電を制御する。なお、このような交流モータ200の制御は、当業者にとって周知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0022】
本実施形態におけるモータコントローラ300による交流モータ200の制御では、PWM(Pulse Width Modulation)周期を決定するキャリア周波数を使用した、PWM制御方式が採用されている。このようなPWM制御方式の特徴は、キャリア周波数が高いほど、インバータ320の出力の電流波形が正弦波により近づき、その結果として、交流モータ200で発生する騒音が低下する。
【0023】
図3は、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が起動されたことを契機として、マイクロコンピュータ340が所定時間ごとに繰り返し実行する、交流モータ制御処理のメインルーチンの一例を示している。ここで、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、不揮発性メモリ340Bに格納されたアプリケーションプログラムに従って交流モータ制御処理を実行する。なお、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、
図3に示す交流モータ制御処理に加えて、上述したように、上位のコントローラからの指令に応答して、PWM制御方式によって交流モータ200の駆動を制御する。
【0024】
交流モータ制御処理においては、運転席の近傍に取り付けられたスイッチや音声認識などを介して、車両のドライバによって、交流モータ200の動作モードが任意に選択されている。この動作モードとしては、通常(従来)の交流モータ200の制御を踏襲した「通常モード」、交流モータ200の電費を重視する「電費重視モード」、及び交流モータ200の振動抑制を重視する「振動抑制重視モード」が含まれている。なお、車両のドライバは、任意の時点で、交流モータ200の動作モードを変更することもできる。
【0025】
ステップ10(
図3では「S10」と略記する。以下同様。)では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、例えば、車両の所定箇所に取り付けられた外気温度センサの出力信号を読み込むことで、外気温度を含む外気温度情報を取得する。なお、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、気象情報から外気温度を含む外気温度情報を推定して取得するようにしてもよい。
【0026】
ステップ11では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、例えば、交流モータ200の所定箇所に取り付けられたロータ温度センサの出力信号を読み込むことで、ロータ温度を含むロータ温度情報を取得する。ここで、ロータ温度センサが、温度センサの一例として挙げられる。なお、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、所定の推定モデルを使用して、例えば、交流モータ200のトルク、回転速度、作動開始からの経過時間、作動停止からの経過時間などから、ロータ温度を含むロータ温度情報を推定して取得するようにしてもよい。また、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の周辺に存在する部品の温度が取得可能であれば、所定の推定モデルを使用して、周辺部品の温度からロータ温度を含むロータ温度情報を推定して取得するようにしてもよい。
【0027】
ステップ12では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、例えば、外気温度センサ及びロータ温度センサの故障診断結果、外気温度及びロータ温度の推定機能の故障診断結果などに応じて、外気温度情報及びロータ温度情報を正常に取得できたか否かを判定する。そして、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、外気温度情報及びロータ温度情報が正常に取得できたと判定すれば(Yes)、処理をステップ13へと進める。一方、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、外気温度情報及びロータ温度情報が正常に取得できなかった、即ち、外気温度情報及びロータ温度情報の少なくとも一方が正常に取得できなかったと判定すれば(No)、今回の制御サイクルにおける交流モータ制御処理を終了させる。なお、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、外気温度情報及びロータ温度情報が正常に取得できなかった場合、これらに故障が発生した可能性があるため、例えば、警告灯を点灯させるようにしてもよい。
【0028】
ステップ13では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、例えば、外気温度及びロータ温度に応じた共振周波数が設定されたマップを参照し、外気温度情報により特定可能な外気温度、及びロータ温度情報により特定可能なロータ温度に応じた交流モータ200の共振周波数を計算する。ここで、交流モータ200の共振周波数を計算するためのマップは、外気温度及びロータ温度によって交流モータ200のクリアランスが変化することを考慮し、実験やシミュレーションを介して事前に求めて不揮発性メモリ340Bに格納しておくことができる。
【0029】
ステップ14では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、デフォルトのキャリア周波数が交流モータ200の共振周波数の近傍にあるか否かを判定する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の共振周波数を中心として、その両側に所定幅を持たせた所定範囲内にキャリア周波数が入っているか否かを判定する。ここで、共振周波数の両側に所定幅を設ける理由は、例えば、交流モータ200の個体間のバラツキにより、共振周波数が必ずしも同一とならないためである。従って、この所定幅は、例えば、交流モータ200の個体間のバラツキなどを考慮して適宜決定することができる(例えば、0.1[kHz]など)。そして、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、キャリア周波数が交流モータ200の共振周波数の近傍にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ15へと進める。一方、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、キャリア周波数が交流モータ200の共振周波数の近傍にないと判定すれば(No)、今回の制御サイクルにおける交流モータ制御処理を終了させる。
【0030】
ステップ15では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、交流モータ200の動作モードに応じた分岐処理を実行する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の動作モードが「通常モード」であると判定すれば、キャリア周波数を変更する必要がないので、今回の制御サイクルにおける交流モータ制御処理を終了させる。モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の動作モードが「電費重視モード」であると判定すれば、処理をステップ16へと進めて、電費重視モードの処理を実行するサブルーチンをコールする。モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、交流モータ200の動作モードが「振動抑制重視モード」であると判定すれば、処理をステップ17へと進めて、振動抑制重視モードの処理を実行するサブルーチンをコールする。
【0031】
図4は、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が実行する、電費重視モードのサブルーチンの一例を示している。電費重視モードでは、詳細について以下で説明するように、インバータ320のスイッチング素子320A~320Fの単位時間当たりの開閉回数を少なくすることで、スイッチングロスの低減を通して電費改善を図るべく、キャリア周波数を低周波数側へと変更させる。
【0032】
ステップ20では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、キャリア周波数を低周波数側へと変更させるための変更量を設定する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、不揮発性メモリ340Bから、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な固定値である変更量(例えば、0.1[kHz]など)を読み込み、これをキャリア周波数の変更量に設定する。また、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照し、交流モータ200の回転角度センサ220の角度信号、及び所定演算によって求められたトルクに応じた変更量を設定してもよい。このマップには、例えば、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な変更量(低周波数側への変更量)が設定されており、これが不揮発性メモリ340Bに格納されている。従って、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、不揮発性メモリ340Bに格納されたマップを参照することで、キャリア周波数の変更量を求めることができる。
【0033】
ステップ21では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、デフォルトのキャリア周波数に対してステップ20で設定した変更量を加算(又は減算)することで、キャリア周波数を低周波数側へと変更量分だけ変更する。
【0034】
図5は、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が実行する、振動抑制重視モードのサブルーチンの一例を示している。振動抑制重視モードでは、詳細について以下で説明するように、交流モータ200のクリアランスが大きいか又は大きくなる可能性のある低温状態のときに、暖機を促進してクリアランスを短時間で小さくして振動抑制を図るべく、キャリア周波数を高周波数側へと変更する。
【0035】
ステップ30では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、現在実行されているPWM制御方式に応じた分岐処理を実行する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、現在実行されているPWM制御方式が通常の制御方式、即ち、ランダム制御方式以外の制御方式であると判定すれば、処理をステップ32へと進める。また、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、現在実行されているPWM制御方式がランダム制御方式であると判定すれば、処理をステップ31へと進める。ここで、ランダム制御方式とは、キャリア周波数がランダムに変更される方式のことを言う。
【0036】
ステップ31では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、デフォルトのキャリア周波数を中心として、その両側に所定幅を有する不感帯を設定し、ランダム制御方式においてこの不感帯をとらないようにする。ここで、デフォルトのキャリア周波数の両側に設けられる不感帯の所定幅は、例えば、交流モータ200の個体間のバラツキなどを考慮して適宜決定することができる(例えば、0.1[kHz]など)。その後、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、処理をステップ32へと進める。
【0037】
ステップ32では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、メインルーチンのステップ11で取得されたロータ温度情報により特定可能なロータ温度が第1の閾値未満であるか否かを判定する。ここで、第1の閾値は、交流モータ200のクリアランスが大きいか又は大きくなる可能性のある低温状態にあるか否かを判定するための閾値であって、制御動作や官能評価などによって、例えば、クリアランスによりある程度の振動が発生すると考えられる「-7℃」に設定される。そして、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、ロータ温度が第1の閾値未満であると判定すれば(Yes)、処理をステップ33へと進める。一方、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、ロータ温度が第1の閾値未満でない、即ち、ロータ温度が第1の閾値以上であると判定すれば(No)、処理をステップ35へと進める。
【0038】
ステップ33では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、メインルーチンのステップ10で取得された外気温度情報により特定可能な外気温度が第2の閾値未満であるか否かを判定する。ここで、第2の閾値は、外気温度によって交流モータ200が冷やされてクリアランスが大きくなる可能性のある低温状態にあるか否かを判定するための閾値であって、第1の閾値と同様に、制御動作や官能評価などによって、例えば、クリアランスによりある程度の振動が発生すると考えられる「-7℃」に設定される。そして、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、外気温度が第2の閾値未満であると判定すれば(Yes)、処理をステップ34へと進める。一方、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、外気温度が第2の閾値未満でない、即ち、外気温度が第2の閾値以上であると判定すれば(No)、処理をステップ35へと進める。
【0039】
ステップ34では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、ロータ温度が第1の閾値未満、かつ外気温度が第2の閾値未満であるため低温状態にあると判断し、デフォルトのキャリア周波数を低温状態に適合した高周波数側へと変更するための変更量を設定する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、不揮発性メモリ340Bから、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な固定値である変更量を読み込み、これをキャリア周波数の変更量に設定する。また、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照し、交流モータ200の回転角度センサ220の角度信号、及び所定演算によって求められたトルクに応じた変更量を設定してもよい。このマップには、例えば、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な変更量(高周波数側への変更量)が設定されており、これが不揮発性メモリ340Bに予め格納されている。従って、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、不揮発性メモリ340Bに格納されたマップを参照することで、キャリア周波数の変更量を求めることができる。その後、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、処理をステップ36へと進める。
【0040】
ステップ35では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、ロータ温度が第1の閾値以上、又は外気温度が第2の閾値以上であるため低温状態にないと判断し、デフォルトのキャリア周波数を変更するための変更量を設定する。具体的には、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、不揮発性メモリ340Bから、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な固定値である変更量を読み込み、これをキャリア周波数の変更量に設定する。また、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、例えば、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照し、交流モータ200の回転角度センサ220の角度信号、及び所定演算によって求められたトルクに応じた変更量を設定してもよい。このマップには、例えば、実験やシミュレーションなどによって得られた最適な変更量(低周波数側又は高周波数側への変更量)が設定されており、これが不揮発性メモリ340Bに予め格納されている。従って、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、不揮発性メモリ340Bに格納されたマップを参照することで、キャリア周波数の変更量を求めることができる。その後、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340は、処理をステップ36へと進める。
【0041】
ステップ36では、モータコントローラ300のマイクロコンピュータ340が、デフォルトのキャリア周波数に対してステップ34又はステップ35で設定した変更量を加算(又は減算)することで、キャリア周波数を低周波数側へと変更量分だけ変更する。
【0042】
かかる交流モータ制御処理によれば、交流モータ200の外気温度及びロータ温度が正常に取得できたことを前提として、交流モータ200の共振周波数が求められる。そして、デフォルトのキャリア周波数が共振周波数の近傍にあれば、交流モータ200の動作モードに応じて「通常モード」、「電費重視モード」及び「振動抑制重視モード」のいずれかが実行される。一方、デフォルトのキャリア周波数が共振周波数の近傍になければ、共振による振動を考慮する必要がないため、デフォルトのキャリア周波数を使用した交流モータの制御が実行される。
【0043】
「通常モード」では、共振による振動が発生する可能性があるが、車両のドライバの意思を尊重して、デフォルトのキャリア周波数のまま交流モータの制御が実行される。また、「電費重視モード」では、共振による振動が発生する可能性があることを考慮して、共振周波数を避けながら、デフォルトのキャリア周波数が所定の変更量だけ低周波数側に変更される。従って、「電費重視モード」では、キャリア周波数が低周波数側に変更されることで、インバータ320のスイッチング素子320A~320Fの単位時間当たりの開閉回数が減り、スイッチングロスの低減によって電費を改善することができる。このとき、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照して変更量を設定することで、変更量の適正化が図られ、多様な動作状態での電費をより改善することができる。
【0044】
「振動抑制重視モード」では、最初に、交流モータ200のPWM制御方式がランダム制御方式であれば、ランダムに変更するキャリア周波数の不感帯が設定される。このため、交流モータ200をランダム制御方式で制御しても、キャリア周波数が共振周波数近傍となることが回避され、これによって、キャリア周波数が共振周波数近傍になって共振して振動が増長することを抑制できる。
【0045】
その後、ロータ温度が第1の閾値未満、かつ外気温度が第2の閾値未満となる低温状態、即ち、交流モータ200の温度が所定値より低い冷間時であると判定されると、交流モータ200のクリアランスが大きいか又は大きくなる可能性があると判断し、共振周波数を避けながら、キャリア周波数が所定の変更量だけ高周波数側へと変更される。キャリア周波数が高周波数側へと変更されると、交流モータ200のロータ200Rで発生する鉄損が大きくなり、ロータ200Rの温度上昇により交流モータ200の暖機が促進されて、軸受と駆動軸との間のクリアランス、軸受内部のクリアランス、及び軸受とモータハウジングとの間のクリアランスが短時間で小さくなる。このとき、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照して変更量を設定することで、変更量の適正化が図られ、多様な動作状態での振動抑制の実効を図ることができる。
【0046】
また、ロータ温度が第1の閾値未満、かつ外気温度が第2の閾値未満となる低温状態にないと判定されると、交流モータ200のクリアランスが小さいか又は小さくなる高温状態であると判断し、共振周波数を避けながら、キャリア周波数が所定の変更量だけ高周波数側又は低周波数側へと変更される。キャリア周波数が高周波数側へと変更されると、交流モータ200のクリアランスが比較的小さいことから必然的に振動が抑制されつつ、上述したように、交流モータ200のロータ200Rで発生する鉄損が大きくなって暖機を促進することができる。一方、キャリア周波数が低周波数側へと変更されると、交流モータ200のクリアランスが比較的小さいことから必然的に振動が抑制されつつ、上述したように、スイッチングロスの低減によって電費を改善することができる。このとき、交流モータ200のトルク及び回転速度に応じた変更量が設定されたマップを参照して変更量を設定することで、変更量の適正化が図られ、多様な動作状態での電費改善及び振動抑制の実効を図ることができる。
【0047】
「振動抑制重視モード」において、PWM制御方式がランダム制御方式である場合、キャリア周波数の不感帯を設定する代わりに、PWM制御方式を通常の制御方式に変更するようにしてもよい。このようにすれば、キャリア周波数が共振周波数近傍となることが回避され、これによって、キャリア周波数が共振周波数近傍になって共振して振動が増長することを抑制できる。
【0048】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を相互に適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0049】
その一例を挙げると、交流モータ200は、電気自動車やハイブリッド自動車のモータジェネレータに限らず、振動や騒音が認知され易い交流モータであってもよい。また、インバータ320に直流電流を供給する電源は、エネルギ貯蔵システム360の代わりに、車両に搭載されたバッテリであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
200…交流モータ 300…モータコントローラ 320…インバータ 340…マイクロコンピュータ(モータの制御装置)