(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085758
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置および電気駆動車両
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240620BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200465
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】谷口 峻
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】安島 俊幸
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA06
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】制御周期をインバータ周波数に同期しない制御を行う場合において、6n次の高調波電流成分による電流の振動をより簡便に抑制することができるモータ制御装置および電気駆動車両を提供すること。
【解決手段】出力電圧指令値に基づいて交流モータに印加する電圧を出力するモータ制御装置であって、交流モータの基本波周波数と電流制御のカットオフ周波数とに応じて、制御周期を決定する制御周期決定部と、制御周期決定部で決定した制御周期に基づいて、制御割り込みを決定する制御割り込み部と、制御割り込み部で決定した制御割り込みに基づいて、出力電圧指令値を制御する電流制御部と、電流制御部で制御する出力電圧指令値に応じたPWMによって電圧の出力を制御するPWM制御部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧指令値に基づいて交流モータに印加する電圧を出力するモータ制御装置であって、
前記交流モータの基本波周波数と電流制御のカットオフ周波数とに応じて、制御周期を決定する制御周期演算部と、
前記制御周期演算部で決定した制御周期に基づいて、制御割り込みを決定する制御割り込み生成部と、
前記制御割り込み生成部で決定した制御割り込みに基づいて、出力電圧指令値を制御する電流制御部と、
前記電流制御部で制御する出力電圧指令値に応じたPWMによって電圧の出力を制御するPWM制御器と
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記制御周期演算部は、前記制御周期を基本波周波数の6n次±電流制御のカットオフ周波数の10倍の範囲よりも大きくなるように決定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のモータ制御装置において、
前記制御周期演算部は、前記PWM制御器のスイッチング周期が一定でない場合にのみ、前記制御周期を基本波周波数の6n次±電流制御のカットオフ周波数の10倍の範囲よりも大きくなるように決定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記制御周期演算部は、前記交流モータの基本波周波数と電流制御のカットオフ周波数と変調率とに応じて、制御周期を決定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記電流制御部は、前記制御割り込み生成部で決定した制御割り込みと、カットオフ周波数とに基づいて、電流制御のゲインを変更することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
交流モータを搭載した電気駆動車両車であって、
前記交流モータに印加する電圧を出力する、請求項1~5の何れか1項に記載のモータ制御装置を備えることを特徴とする電気駆動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置および電気駆動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気駆動車両などに搭載される交流モータの制御システムにおいては、インバータの電圧利用率を向上するために、インバータの出力電圧指令が正弦波で出力可能な最大出力レベルを上回る過変調モード(所謂、過変調領域)で動作させる技術や、PWMパルスをインバータ出力周波数に同期して出力させる同期PWMなどの技術が知られている。
【0003】
一方で、過変調領域や同期PWMにおいては、インバータのスイッチングに起因して、ベクトル制御で用いるdq軸座標系の電流に6n次(ただし、nは自然数)の高調波電流が含まれており、この高調波電流によって電流の振動が発生するという問題がある。
【0004】
このような高調波電流の抑制に係る技術としては、例えば、特許文献1,2に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1には、交流電力負荷を駆動させるための電圧を印加する電力変換主回路と、電圧の変調率および位相角の指令値をそれぞれ出力する電圧指令値生成手段と、変調率および位相角の指令値に基づくPWM制御信号を生成して電力変換主回路に出力するPWM制御信号生成手段と、交流電力負荷に供給される電流を検出し、電流に対応した電流信号を出力する電流検出手段と、電流信号に基づく電流検出値をサンプルホールドして第1のサンプルホールド値を出力するサンプリング手段とを備え、サンプリング手段は、サンプリングタイミングとなる所定の位相角が設定された電圧位相角設定手段を含み、位相角の指令値が所定の位相角の設定値と同値となるタイミングで電流検出値をサンプルホールドする同期PWM電力変換器の電流検出装置が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、過変調領域において重畳する外乱成分に対する電流制御系の感度を低減することによる制御性能劣化の防止を目的として、フィルタを用いたアプローチを基盤とするフィルタ設計法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中山陽介、道木慎二 「インバータ過変調領域でのPMSMベクトル制御を可能とする帯域除去フィルタの設計」電気学会論文誌D,Vol.138,No.11,pp.884-893(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、キャリア周波数をインバータ出力周波数に同期させて高調波電流がゼロになるタイミングで電流を検出することにより高調波電流の抑制を図っている。しかしながら、例えば、急加減速を実現する必要がある自動車のようなアプリケ-ションへの適用においては、制御周期が周波数によって頻繁に変更されるため、制御周期をインバータ周波数に同期させることが困難である。
【0010】
また、非特許文献1においては、過変調領域において電流の6次成分の除去を図っており、制御周期を一定として実現することができる。しかしながら、高調波を取り除くために用いられている帯域除去フィルタは、インバータ出力周波数に応じて変更することが必要であり、狙った周波数を除去するためには高速な演算周期に対応する必要がある。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、制御周期をインバータ周波数に同期しない制御を行う場合において、6n次の高調波電流成分による電流の振動をより簡便に抑制することができるモータ制御装置および電気駆動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、出力電圧指令値に基づいて交流モータに印加する電圧を出力するモータ制御装置であって、前記交流モータの基本波周波数と電流制御のカットオフ周波数とに応じて、制御周期を決定する制御周期決定部と、前記制御周期決定部で決定した制御周期に基づいて、制御割り込みを決定する制御割り込み部と、前記制御割り込み部で決定した制御割り込みに基づいて、出力電圧指令値を制御する電流制御部と、前記電流制御部で制御する出力電圧指令値に応じたPWMによって電圧の出力を制御するPWM制御部とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御周期をインバータ周波数に同期しない制御を行う場合において、6n次の高調波電流成分による電流の振動をより簡便に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図2】三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るルックアップテーブルの一例を示す図である。
【
図4】ルックアップテーブルの第1の変形例を示す図である。
【
図5】ルックアップテーブルの第2の変形例を示す図である。
【
図6】ルックアップテーブルの第3の変形例を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図8】三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
【
図9】第2の実施の形態に係るルックアップテーブルの一例を示す図であり
【
図10】三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
【
図11】第3の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図12】第3の実施の形態に係る制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【
図13】第3の実施の形態に係るルックアップテーブルの一例を示す図である。
【
図14】第4の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図15】第4の実施の形態に係る制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【
図16】第5の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図17】第5の実施の形態に係る制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【
図18】第6の実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【
図19】三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
【
図20】モータ制御装置により制御される交流モータを搭載した電気駆動車両の駆動系を制御システムとともに抜き出して模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、モータ制御装置の制御対象として交流モータの永久磁石同期モータ(PMSM: Permanent Magnet Synchronous Motor)を例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、シンクロリラクタンスモータや永久磁石同期発電機、巻線型同期機、誘導モータ、誘導発電機といった交流機であれば本発明を適用して同様の効果を得ることができる。また、インバータ装置の半導体スイッチング素子としてIGBTを例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、MOSFETや他の電力用半導体素子を用いた場合でも本発明を適用して同様の効果を得ることができる。
【0016】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1~
図6、及び、
図20を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。また、
図20は、モータ制御装置により制御される交流モータを搭載した電気駆動車両の駆動系を制御システムとともに抜き出して模式的に示す図である。
【0018】
図20に示すように、本実施の形態におけるモータ制御装置100は、直流電圧源9(例えば、バッテリ)から電力変換器2(インバータ)を介してPMSM1に供給される電力を制御するものである。
【0019】
PMSM1は、トランスミッション101及びディファシャルギアルギア103を介してドライブシャフト105に接続されており、車輪107に動力を供給する。
【0020】
なお、本実施の形態においては、PMSM1からの動力をトランスミッション101を介して伝達する場合を例示して説明するが、これに限られず、例えば、PMSMを直接ディファレンシャルギアに接続する構成や、前輪及び後輪がそれぞれPMSM及びインバータを有する構成とする場合においても本発明を適用することが可能である。
【0021】
図1に示すように、モータ制御装置100は、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7,11、電流読込部8、PWM制御器12、制御周期演算部15、制御割り込み生成部17、及び、電流制御部19から概略構成されている。なお、座標変換部7,11、及び、電流制御部19は、制御演算部13を構成している。
【0022】
電力変換器2は、直流電圧源9(例えば、バッテリ)からの直流電力をPWM制御器12からのゲート信号に従って交流電力に変換し、出力してPMSM1を駆動する。
【0023】
相電流検出器3は、例えば、ホールCT(Current Transformer)等から構成されており、電力変換器2からPMSM1に流れる3相電流のU相、V相、W相のそれぞれの電流波形Iud,Ivd,Iwdを検出する。
【0024】
磁極位置検出器4は、例えば、レゾルバ等から構成されており、PMSM1の磁極位置を検出して磁極位置情報θ*として出力する。
【0025】
周波数演算部5は、磁極位置検出器4で検出された磁極位置情報θ*から、例えば微分演算によって角速度を算出し、速度情報ω1*としてを出力する。
【0026】
電流読込部8は、相電流検出器3で検出した電流波形Iud,Ivd,Iwdを制御割り込み生成部17からの電流読込信号clがONになったタイミングで読み込み、三相電流Iuc,Ivc,Iwcとして制御演算部13の座標変換部7に出力する。
【0027】
座標変換部7は、電流読込部8で読み込んだ三相電流Iuc,Ivc,Iwcを磁極位置検出器4で検出した磁極位置情報θ*に基づいて座標変換することでdq軸電流検出値Idc,Iqcを算出し出力する。
【0028】
電流制御部19は、dq軸電流指令値Id*,Iq*と座標変換部7からのdq軸電流検出値Idc,Iqcとが一致するように、dq軸電圧指令値Vd*,Vq*を演算し出力する。
【0029】
座標変換部11は、電流制御部19からのdq軸電圧指令値Vd*、Vq*を磁極位置検出器4で検出した磁極位置情報θ*に基づいて座標変換することで三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出し出力する。
【0030】
制御周期演算部15は、周波数演算部5で演算された速度情報ω1*に基づいて制御周期tcを算出し出力する。
【0031】
制御割り込み生成部17は、制御周期演算部15からの制御周期fcに基づいて制御割り込み信号intと電流読込信号clとを生成する。なお、本実施の形態においては、制御割り込み信号intと電流読込信号clとは同期しており、完全に同一の信号である。
【0032】
制御演算部13を構成する座標変換部7、座標変換部11、及び、電流制御部19は、制御割り込み生成部17からの制御割り込み信号intの呼び出しに応じて動作する。
【0033】
直流電圧検出装置6は、直流電圧源9の電圧を検出し、検出結果を直流電圧情報Vdcとして出力する。
【0034】
PWM制御器12は、座標変換部11からの三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と直流電圧検出装置6からの直流電圧情報Vdcとに基づいてDuty信号を演算し、演算したDuty信号とキャリア波とを比較することでゲート信号を生成し出力する。
【0035】
ここで、本発明の基本原理について説明する。
【0036】
まず、交流モータの過変調領域や同期PWMでの制御における電流振動の発生原理について説明する。
【0037】
図2は、三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
【0038】
交流モータ制御において、過変調領域では6n次の成分がdq軸電流に発生することが知られており(例えば、非特許文献1参照)、制御周期fcがインバータ出力周波数の6n倍(nは自然数)近傍になると電流の振動が発生する。
【0039】
図2には、三相基本派電流61、dq軸6次高調波電流63、及び、読み込みタイミングと、6n次の成分のうちn=1の6次の成分が制御に及ぼす影響とを示している。本実施の形態では、電流読込部8が制御演算部13と同期して制御周期fcで電流を読み込む。
図2では、制御周期fcがインバータ出力周波数f0の6倍からΔfずれた場合(すなわち、fc=6f0+Δfの場合)を示している。このとき、各点で検出される6次高調波成分i’h6は、下記(式1)~(式4)で求められる。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
上記(式1)~(式4)により、周波数(6f0+Δf)で電流を検出しているので、dq座標で見ると周波数(-Δf)で電流が振動しているように見える。この時の振幅は、高調波電流の振幅Ihである。
【0045】
ここで、周波数Δfが電流制御の応答帯域であると、実際には6次で振動しているはずの電流がの周波数Δfで振動している電流と見做され、周波数Δfの振動を打ち消すように電流制御が作用する。この周波数Δfの振動は、本来発生していないので、電流制御が作用すると、電流制御によってΔfの振動が発生することになる。これが電流の振動発生のメカニズムである。
【0046】
そこで、本実施の形態においては、制御周期演算部15の制御により、電流の振動の発生を抑制する。以下、その基本原理および詳細について説明する。
【0047】
制御周期演算部15は、速度情報ω1*を入力とし、制御周期fcを出力とするルックアップテーブルで構成されている。
【0048】
図3は、制御周期演算部で用いるルックアップテーブルの一例を示す図であり、横軸に速度情報ω1*を、縦軸に制御周期fcを示している。
【0049】
図3に示すように、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51)は、上限53と下限55とで規定される選択禁止帯域を避けるような形で選択される。ここでは、速度情報ω1*<角速度a、又は、角速度b≦速度情報ω1*の範囲では制御周期fc=f1とし、角速度a≦速度情報ω1*<角速度bの範囲では制御周期fc=f2とする場合を例示している。ただし、角速度aはfc=f1と選択禁止帯域の上限53とが交わるときの角速度であり、角速度bはfc=f1と選択禁止領域の下限55とが交わるときの角速度である。
【0050】
選択禁止帯域の上限53および下限55は、下記(式5)により決定される。
【0051】
【0052】
ここで、上記(式5)において、f0はインバータ出力周波数、facrは電流制御部19のカットオフ周波数をそれぞれ表している。また、変数mは正の値であり、その設定方法について以下に説明する。
【0053】
dq軸電流に見かけ上発生する電流が電流制御の応答帯域内にあることが電流の振動が発生する原因であるため、本実施の形態では、見かけ上のdq軸電流高調波の周波数Δfが電流制御の応答帯域外になるように制御を行う。なお、一般的には、電流制御のカットオフ周波数facrの10倍以上の周波数で電流制御の応答帯域外となるので、例えば、制御周期に対して電流検出回数が1回である場合には、変数m=10と設定すれば、周波数Δfを応答帯域外とすることができる。また、多少の電流振動は許容可能であると考えると、変数m=5程度に設定しても良いと言える。このように、上記(式5)で示した選択禁止帯域を避けるように制御周期を設定することで、過変調領域においてdq軸電流に6次の成分が発生していても電流の低い周波数での振動を回避することができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、6次の成分(すなわち、n=1の場合)について例示して説明したが、12次、18次、24次といった6n次の成分(すなわち、n>1の場合)のすべてにおいて、上記の原理が当てはまる。
【0055】
このように、電流制御に用いる電流が制御割り込みintと一致したタイミングで検知する場合、6次の電流によって振動が発生しないための禁止帯域として6の整数倍を避けることで振動を回避することが可能である。
【0056】
また、本実施の形態においては、制御割り込みintと電流読込信号clが完全に同一である場合を例示して説明したが、これらの信号の周期が同じであればタイミングの多少のズレは許容されて同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、本実施の形態においては、角速度(速度情報ω1*)に応じて制御周期を変更する例示したが、角速度ではなくインバータ出力周波数(誘導機の場合には速度と一致しない)によって周波数を変更する場合に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。また、角速度以外の情報(例えば、トルク)によって周波数を変更する場合であっても、角速度によって決まる禁止帯域を避けるように制御周期を設定すれば、同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、自動車では急加減速性能と振動に対する要求が厳しいアプリケーションであるので、他のアプリケーションよりも本発明の効果が顕著に現れるアプリケーションであると言える。同様に、鉄道においても自動車と同じく急加減速性能と振動に対する要求が厳しく本発明の効果が表れやすいアプリケーションである。すなわち、自動車、鉄道では急加減速性能の向上に適した方式である「制御周期をインバータ周波数に同期しない制御」において本発明を適用することで、6fによる振動を抑制することができ、運転者あるいは乗客の乗り心地を向上することができる。
【0059】
なお、本実施の形態においては、
図3に示したように、選択禁止帯域を矩形的にかつ最小限に避けて制御周期を決定するようなルックアップテーブルを用いる場合を例示して説明したが、これに限られず、例えば、以下の第1~第3の変形例のように、制御周期が選択禁止帯域を避けるようなルックアップテーブルを用いて構成すれば良く、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
図4は、本実施の形態の第1の変形例に係るルックアップテーブルを示す図である。
図4において、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51A)は、選択禁止帯域を矩形的に余裕をもって避けて制御周期を決定するように設定している。ここでは、速度情報ω1*<角速度a、又は、角速度b≦速度情報ω1*の範囲では制御周期fc=f1とし、角速度a≦速度情報ω1*<角速度bの範囲では制御周期fc=f2とする場合を例示している。ただし、角速度a,bおよび制御周期f1,f2は、制御周期f1,f2が選択禁止帯域の上限53上及び下限55上の値をとらないように、すなわち、選択禁止領域から余裕を持った値となるように設定している。
【0061】
図5は、本実施の形態の第2の変形例に係るルックアップテーブルを示す図である。
図5において、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51B)は、選択禁止帯域を階段状にかつ最小限に避けて制御周期を決定するように設定している。ここでは、速度情報ω1*<角速度aの範囲では制御周期fc=f1とし、角速度a≦速度情報ω1*の範囲では制御周期fc=f2とする場合を例示している。ただし、角速度aはfc=f1と選択禁止帯域の上限53とが交わるときの角速度である。
【0062】
図6は、本実施の形態の第3の変形例に係るルックアップテーブルを示す図である。
図6において、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51C)は、上限53と下限55とで規定される選択禁止帯域を避けるような形で選択される。ここでは、速度情報ω1*<角速度a、又は、角速度b≦速度情報ω1*の範囲では制御周期fc=f1とし、角速度a≦速度情報ω1*<角速度bの範囲では制御周期fcを下限55に沿った値とする場合を例示している。ただし、角速度aはfc=f1と選択禁止帯域の上限53とが交わるときの角速度であり、角速度bはfc=f1と選択禁止領域の下限55とが交わるときの角速度である。
【0063】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図7~
図10を参照しつつ説明する。
【0064】
本実施の形態は、電流読込信号が割り込み信号の2倍の周期でONになるように制御し、電流読込信号に応じて読み込んだ2回の三相電流のズレに応じて制御を行う場合を示すものである。
【0065】
本実施の形態では、第1の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、本実施の形態で用いる図面において第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0066】
図7は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0067】
図7に示すように、モータ制御装置100Aは、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7A,11、電流読込部8A、PWM制御器12、制御周期演算部15A、制御割り込み生成部17A、及び、電流制御部19から概略構成されている。なお、座標変換部7A,11、及び、電流制御部19は、制御演算部13Aを構成している。
【0068】
制御割り込み生成部17Aは、電流読込信号clを割り込み信号intの2倍の周期でONになるように生成して出力する。
【0069】
電流読込部8Aは、電流読込信号clがONになった時に三相電流の電流波形Iud,Ivd,Iwdを読み込む。この時、読み込んだタイミングの電流を三相電流Iuc1,Ivc1,Iwc1として出力し、前回読み込んだ電流を三相電流Iuc2,Ivc2,Iwc2として制御演算部13Aの座標変換部7Aに出力する。
【0070】
座標変換部7Aは、三相電流Iuc1,Ivc1,Iwc1および三相電流Iuc2,Ivc2,Iwc2をそれぞれが読み込んだタイミングのズレ分を回転角に補正してdq座標に座標変換する。そして、座標変換したdq軸電流を加算平均し、dq軸電流検出値Idc,Iqcとして電流制御部19に出力する。
【0071】
ここで、以上のように構成した本実施の形態における動作および作用効果を説明する。
【0072】
図8は、三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
図8には、三相基本派電流61、dq軸6次高調波電流63、及び、読み込みタイミングを示している。
【0073】
図8においては、電流読込部8Aは、制御演算部13Aと同期して2倍の周期fcl=2fcで電流を読み込み、制御周期fcがインバータ出力周波数f0の6倍からΔfずれた場合(すなわち、fcl=2fc=12f0+2Δfの場合)を示している。ことのき、各点で検出される6次高調波成分i’h6は、下記(式6)~(式9)で求められる。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
また、電流制御には2回の検出電流の平均値を用いるので、電流制御に用いる電流に含まれる6次の高調波成分i’h6_cは下記(式10)及び(式11)で求められる。
【0079】
【0080】
【0081】
上記(式10)及び(式11)により、周波数(12f0+2Δf)で電流を検出しているので、dq座標で見ると周波数(-2Δf)で電流が振動しているように見える。この時の振幅は、高調波電流の振幅(Ih×2π×0.5Δf÷(12f0+2Δf))である。振幅としては、制御周期の1周期において1回の電流を検出する場合(第1の実施の形態参照)よりも小さいが、周波数Δfが大きくなると振幅も増加するため、同様に振動が発生する(ただし、振動の周波数と振幅は異なる)。
【0082】
そこで、本実施の形態においては、制御周期演算部15Aからの制御周期fcを速度ω1*に応じて変更することにより、電流の振動の発生を抑制する。
【0083】
制御周期演算部15Aは、速度情報ω1*を入力とし、制御周期fcを出力とするルックアップテーブルで構成されている。
【0084】
図9は、制御周期演算部で用いるルックアップテーブルの一例を示す図であり、横軸に速度情報ω1*を、縦軸に制御周期fcを示している。
【0085】
図9に示すように、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51D)は、上限53Aと下限55Aとで規定される選択禁止帯域、及び、上限53Bと下限55Bとで規定される選択禁止領域を避けるような形で選択される。ここでは、速度情報ω1*<角速度a、角速度b≦速度情報ω1*<角速度c、又は、角速度d≦速度情報ω1*の範囲では制御周期fc=f1とし、角速度a≦速度情報ω1*<角速度bの範囲では制御周期fc=f2とし、角速度c≦速度情報ω1*<角速度dの範囲では制御周期fc=f3とする場合を例示している。ただし、角速度aはfc=f1と選択禁止帯域の上限53Aとが交わるときの角速度であり、角速度bはfc=f1と選択禁止領域の下限55Aとが交わるときの角速度であり、角速度cはfc=f1と選択禁止領域の上限53Bとが交わるときの角速度であり、角速度dはfc=f1と選択禁止領域の下限55Bとが交わるときの角速度である。
【0086】
選択禁止帯域の上限53Aおよび下限55Aは、下記(式12)により決定される。
【0087】
【0088】
ここで、上記(式12)において、f0はインバータ出力周波数、facrは電流制御部19のカットオフ周波数(電流制御カットオフ周波数)をそれぞれ表している。また、変数m1は正の値であり、その設定方法について以下に説明する。
【0089】
電流検出回数が制御周期に対して2回の場合には周波数が1回の場合の2倍になるため、変数m1=5に設定すると、電流制御カットオフ周波数facrの10倍の周波数で電流制御の応答帯域外にとなる。また、多少の電流振動は許容可能であると考えると、変数m1=2.5程度に設定しても良いと言える。
【0090】
また、電流の検出回数が2回の場合、制御周期がインバータ出力周波数の3倍近傍でも同様の振動が発生するため、下記(式13)で決定される上限53Bおよび下限55Bにより規定される設定禁止領域が追加される。
【0091】
【0092】
ここで、上記(式13)において、kは正の値であり、基本的にはk=m1/2で設定する。
【0093】
続いて、制御周期がインバータ出力周波数の3倍近傍でも同様の振動が発生する理由を以下で述べる。
【0094】
図10は、三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
図10には、三相基本派電流61、dq軸6次高調波電流63、及び、読み込みタイミングを示している。
【0095】
図10においては、電流読込部8Aは、制御演算部13Aと同期して2倍の周期fcl=2fcで電流を読み込み、制御周期fcがインバータ出力周波数f0の3倍からΔfずれた場合(すなわち、fcl=2fc=6f0+2Δfの場合)を示している。このとき、各点で検出される6次高調波成分i’’h6は、下記(式14)~(式17)で求められる。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
また、電流制御には2回の検出電流の平均値を用いるので、電流制御に用いる電流に含まれる6次の高調波成分i’’h6_cは下記(式18)及び(式19)で求められる。
【0101】
【0102】
【0103】
上記(式18)及び(式19)により、周波数(6f0+2Δf)で電流を検出しているので、dq座標で見ると周波数4Δfで電流が振動しているように見える。この時の振幅は、高調波電流の振幅Ihである。振幅としては、制御周期の1周期において1回の電流を検出する場合(第1の実施の形態参照)と等しく、同様に振動が発生する。ただし、周波数が2倍であるため、振動を抑制するための禁止帯域は半分で良い。
【0104】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0105】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
また、電流制御に用いる電流が制御周期内で均等な間隔で複数回検出され、その加算平均を取ったものである場合、6次の電流によって振動が発生しないための禁止帯域として(6÷電流検出回数)の整数倍を避ける必要がある。本実施の形態においては2回の例を示したが、回数が増えても同様に設定すれば振動を回避することができる。また、制御割り込みintと電流読込信号clは周期が2倍であれば位相がずれても同様の効果を得ることができる。また、禁止帯域を避けるように制御周期fcを設定するようにルックアップテーブルを設定すれば、本実施の形態において
図9で例示したルックアップテーブルと異なっていても同様の効果が得られる。
【0107】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を
図11~
図13を参照しつつ説明する。
【0108】
本実施の形態は、dq軸電圧指令値と直流電圧とから演算した変調率に応じて制御周期を制御する場合を示すものである。
【0109】
本実施の形態では、第1の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、本実施の形態で用いる図面において第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0110】
図11は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0111】
図11に示すように、モータ制御装置100Bは、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7,11、電流読込部8、PWM制御器12、制御周期演算部15B、制御割り込み生成部17、変調率演算部18、及び、電流制御部19から概略構成されている。なお、座標変換部7,11、変調率演算部18、及び、電流制御部19は、制御演算部13Bを構成している。
【0112】
変調率演算部18は、電流制御部19からのdq軸電圧指令値Vd*,Vq*と直流電圧検出装置6からの直流電圧Vdcとに基づいて変調率Mfを演算し、制御周期演算部15Bに出力する。
【0113】
図12は、制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【0114】
図12に示すように、制御周期演算部15Bは、周波数演算部5からの速度情報ω1*と変調率演算部18からの変調率Mfとに基づいて制御周期fcを演算し、制御割り込み生成部17に出力するものであり、制御周期選択部(通常時)21、制御周期選択部23(過変調時)、変調モード判定部25、及び、切換部22から概略構成されている。
【0115】
変調モード判定部25は、変調率Mfに基づいて、PMSM1の制御が過変調領域で行われているか否かを判定する。
【0116】
制御周期選択部(過変調時)23は、過変調領域で制御されている場合に用いる制御周期fcをルックアップテーブルに基づいて選択する。制御周期選択部(過変調時)23では、例えば、第1の実施の形態の
図2で示したルックアップテーブルを用いる。これにより、過変調領域での制御時に発生が懸念される電流の振動を回避する制御周期fcを選択する。
【0117】
制御周期選択部(通常時)21は、過変調領域での制御ではない場合に用いる制御周期fcを
図13に示すルックアップテーブルに応じて選択する。
図13は、制御周期演算部で用いるルックアップテーブルの一例を示す図であり、横軸に速度情報ω1*を、縦軸に制御周期fcを示している。制御が過変調領域ではない範囲で行われている場合には、禁止帯域を考慮する必要が無いため、
図13に示すように、速度情報ω1*と制御周期fcとの関係(線51E)が、速度情報ω1*によらず制御周期fc=f1となるルックアップテーブルを用いる。このときの制御周期f1は、電流の振動抑制を考慮する必要がないため高く設定することができる。
【0118】
切換部22は、変調モード判定部25において過変調領域で制御されていると判定された場合には、制御割り込み生成部17への出力を制御周期選択部(過変調時)23で選択された制御周期fcに切り換える。また、切換部22は、変調モード判定部25において過変調領域での制御ではないと判定された場合には、制御割り込み生成部17への出力を制御周期選択部(通常時)21で選択された制御周期fc(例えば、fc=f1)に切り換える。
【0119】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0120】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0121】
また、本実施の形態においては、通常領域(過変調領域ではない場合)では6fの振動がdq軸電流に発生しないことを考慮して、振動が発生する過変調領域でのみ禁止帯域を回避する制御周期fcを選択するように構成したので、過変調時には振動を抑制することができるとともに、通常時の制御周期fcを高く設定することができ、制御性能を向上することができ。
【0122】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態を
図14及び
図15を参照しつつ説明する。
【0123】
本実施の形態は、同期PWMと非同期PWMの何れの制御であるかに応じて制御周期の演算方法およびPWMの制御方法を変更する場合を示すものである。
【0124】
本実施の形態では、第1の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、本実施の形態で用いる図面において第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0125】
図14は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0126】
図14に示すように、モータ制御装置100Cは、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7,11、電流読込部8、PWM制御器12A、制御周期演算部15C、同期PWM信号生成部16、制御割り込み生成部17、及び、電流制御部19から概略構成されている。なお、座標変換部7,11、同期PWM信号生成部16、及び、電流制御部19は、制御演算部13Cを構成している。
【0127】
同期PWM信号生成部16は、電流制御部19からのdq軸電圧指令値Vd*,Vq*と直流電圧検出装置6からの直流電圧Vdcとに基づいて、同期PWMに用いる点弧角αu*,αv*,αw*を演算し、PWM制御器12Aに出力する。
【0128】
また、同期PWM信号生成部16は、電流制御部19からのdq軸電圧指令値Vd*,Vq*と直流電圧検出装置6からの直流電圧Vdcとに基づいて変調率を演算し、演算した変調率に基づいて同期PWMの制御(以降、同期PWMモードと称する)であるか非同期PWMの制御(以降、非同期PWMモード)であるかを判定し、いずれのモードであるかを示すPWMモード信号を制御周期演算部15CとPWM制御器12Aとに出力する。
【0129】
PWM制御器12Aは、同期PWM信号生成部16からのPWMモード信号が同期PWMモードを示している場合には、同期PWM信号生成部16からの点弧角αu*,αv*,αw*と磁極位置検出器4からの磁極位置θ*とを比較してゲート信号を生成する。一方、PWM制御器12Aは、同期PWM信号生成部16からのPWMモード信号が非同期PWMモードを示している場合には、座標変換部11からの三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と直流電圧検出装置6からの直流電圧情報Vdcとに基づいてDuty信号を演算し、演算したDuty信号をキャリア波と比較することでてゲート信号を生成して、電力変換器2に出力する。
【0130】
図15は、制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【0131】
図15に示すように、制御周期演算部15Cは、周波数演算部5からの速度情報ω1*と変調率演算部18からの変調率Mfとに基づいて制御周期fcを演算し、制御割り込み生成部17に出力するものであり、制御周期選択部(通常時)21、制御周期選択部24(同期PWM時)、及び、切換部22から概略構成されている。
【0132】
制御周期選択部(同期PWM時)24は、同期PWMモードである場合に用いる制御周期fcをルックアップテーブルに基づいて選択する。制御周期選択部(同期PWM時)24では、例えば、第1の実施の形態の
図2で示したルックアップテーブルを用いる。これにより、同期PWMでの制御時に発生が懸念される電流の振動を回避する制御周期fcを選択する。
【0133】
制御周期選択部(通常時)21は、非同期PWMモードである場合に用いる制御周期fcをルックアップテーブルに応じて選択する。制御周期選択部(通常時)では、例えば、第3の実施の形態の
図13で示したルックアップテーブルを用いる。これにより、電流の振動抑制を考慮する必要がなく、禁止帯域を考慮する必要が無い非同期PWMモードの場合には、制御周期fcを高く設定することができる。
【0134】
切換部22は、同期PWM信号生成部16からのPWMモード信号が同期PWMモードを示している場合には、制御割り込み生成部17への出力を制御周期選択部(同期PWM時)24で選択された制御周期fcに切り換える。また、切換部22は、同期PWM信号生成部16からのPWMモード信号が非同期PWMモードを示している場合には、制御割り込み生成部17への出力を制御周期選択部(通常時)21で選択された制御周期fcに切り換える。
【0135】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0136】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0137】
また、本実施の形態においては、通常領域では6fの振動がdq軸電流に発生しないことを考慮して、振動が発生する過変調領域でのみ禁止帯域を回避する制御周期fcを選択するように構成したので、同期PWM時には振動を抑制することができるとともに、通常時の制御周期fcを高く設定することができ、制御性能を向上することができる。
【0138】
<第5の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態を
図16及び
図17を参照しつつ説明する。
【0139】
本実施の形態は、速度情報に基づいて演算したカットオフ周波数に応じて電流制御のゲインを変更する場合を示すものである。
【0140】
本実施の形態では、第3の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、本実施の形態で用いる図面において第3の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0141】
図16は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0142】
図16に示すように、モータ制御装置100Dは、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7,11、電流読込部8、PWM制御器12、電流制御カットオフ周波数演算部14、制御周期演算部15D、制御割り込み生成部17、変調率演算部18、及び、電流制御部19Aから概略構成されている。なお、座標変換部7,11、変調率演算部18、及び、電流制御部19Aは、制御演算部13Dを構成している。
【0143】
電流制御カットオフ周波数演算部14は、周波数演算部5からの速度情報ω1*に応じて電流制御カットオフ周波数facrを演算・変更し、電流制御部19に出力する。
【0144】
電流制御部19Aは、電流制御カットオフ周波数演算部14からの電流制御カットオフ周波数facrに応じて電流制御のゲインを変更する。
【0145】
図17は、制御周期演算部の処理内容を示す機能ブロック図である。
【0146】
図17に示すように、制御周期演算部15Dは、周波数演算部5からの速度情報ω1*と、変調率演算部18からの変調率Mfと、電流制御カットオフ周波数演算部14からの電流制御カットオフ周波数facrとに基づいて制御周期fcを演算し、制御割り込み生成部17に出力するものであり、変調モード判定部25、及び、制御周期選択部31,33から概略構成されている。
【0147】
変調モード判定部25は、変調率Mfに基づいて、PMSM1の制御が過変調領域で行われているか否かを判定する。
【0148】
制御周期選択部31は、例えば、
図13に示すルックアップテーブルに応じて制御周期fcを選択する。
図13に示したルックアップテーブルは、禁止帯域を考慮する必要が無い場合の制御周期fcを設定したものである。
【0149】
制御周期選択部33は、変調モード判定部25において過変調領域で制御されていると判定された場合には、電流制御カットオフ周波数演算部14からの電流制御カットオフ周波数facrに基づいて、制御周期選択部31からの制御周期(制限前)を禁止帯域(第1の実施の形態の(式5)、
図13等参照)に入らないように変更し、制御周期fcとして制御割り込み生成部17に出力する。
【0150】
その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0151】
以上のように構成した本実施の形態においても第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0152】
また、本実施の形態においては、電流制御カットオフ周波数を可変にした場合にも対抗可能であり、速度情報ω1*に応じて電流制御カットオフ周波数facrが変化しても電流の振動を抑制することができる。
【0153】
なお、本実施の形態においては、速度情報ω1*に応じて電流制御カットオフ周波数を変更する構成を例示して説明したが、これに限られず、例えば、トルク指令値のような他の情報応じて電流制御カットオフ周波数を変更する構成としても本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0154】
<第6の実施の形態>
本発明の第6の実施の形態を
図18及び
図19を参照しつつ説明する。
【0155】
本実施の形態は、電流読込信号が割り込み信号の2倍の周期でONになるように制御し、電流読込信号に応じて読み込んだ2回の三相電流のズレに応じて制御を行う場合に、速度情報に基づいて演算したカットオフ周波数に応じて電流制御のゲインを変更する場合を示すものである。
【0156】
本実施の形態では、第2の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、本実施の形態で用いる図面において第2の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0157】
図18は、本実施の形態に係るモータ制御装置を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0158】
図18に示すように、モータ制御装置100Eは、直流電圧源9から電力変換器2を介してPMSM1に供給される電力を制御するものであり、相電流検出器3、磁極位置検出器4、周波数演算部5、直流電圧検出装置6、座標変換部7B,11、電流読込部8A、PWM制御器12、電流制御カットオフ周波数演算部14、制御周期演算部15E、制御割り込み生成部17A、及び、電流制御部19Aから概略構成されている。なお、座標変換部7B,11、及び、電流制御部19Aは、制御演算部13Eを構成している。
【0159】
制御割り込み生成部17Aは、電流読込信号clを割り込み信号intの2倍の周期でONになるように生成して出力する。
【0160】
電流制御カットオフ周波数演算部14は、周波数演算部5からの速度情報ω1*に応じて電流制御カットオフ周波数facrを演算・変更し、電流制御部19に出力する。
【0161】
電流制御部19Aは、電流制御カットオフ周波数演算部14からの電流制御カットオフ周波数facrに応じて電流制御のゲインを変更する。
【0162】
制御周期演算部15Eでは、例えば、
図13に示すルックアップテーブルに応じて制御周期fcを選択する。
図13に示したルックアップテーブルは、禁止帯域を考慮する必要が無い場合の制御周期fcを設定したものである。
【0163】
座標変換部7Bは、周波数演算部5からの速度情報ω1*と、制御周期演算部15Eからの制御周期fcと、電流制御カットオフ周波数演算部14からの電流制御カットオフ周波数facrとに基づいて、制御周期fcが禁止帯域(第2の実施の形態の(式12),(式13)、
図9等参照)に入っているか否かを判定する。
【0164】
座標変換部7Bは、制御周期fcが禁止帯域に入っていないと判定した場合には、三相電流Iuc1,Ivc1,Iwc1および三相電流Iuc2,Ivc2,Iwc2をそれぞれが読み込んだタイミングのズレ分を回転角に補正してdq座標に座標変換し、座標変換したdq軸電流を加算平均し、dq軸電流検出値Idc,Iqcとして電流制御部19Aに出力する。
【0165】
また、座標変換部7Bは、制御周期fcが禁止帯域に入っていると判定した場合には、dq軸電流検出値Idc,Iqcを交互に演算する方式に切り替え、演算したdq軸電流検出値Idc,Iqcを電流制御部19Aに出力する。
【0166】
図19は、三相基本波電流、dq軸6次高調波電流、及び、読み込みタイミングの関係を示す図である。
図19には、三相基本派電流61C、dq軸6次高調波電流63C、及び、読み込みタイミングを示している。
【0167】
図19に示したように、dq軸電流検出値Idc,Iqcを交互に演算する方式では、割込1では(n)の値を用い、割込2では(n+3)の値を用い、割込3では(n+4)の値を用いる。これにより、6次成分はdq軸上で高調波成分に見えるため、電流制御で応答帯域外にすることが可能になる。すなわち、制御周期を一定にすることができ、制御応答を向上することができる。
【0168】
その他の構成は第2の実施の形態と同様である。
【0169】
以上のように構成した本実施の形態においても第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0170】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【0171】
例えば、第3の実施の形態と第4の実施の形態の構成を組み合わせて、同期PWM時または過変調領域時にのみ禁止帯域を回避するように構成しても良い。同期PWM時と過変調領域時との間にはスイッチング周期が一定でないという共通の特徴がある。したがって、同期PWM時と過変調領域時の両方を包含して考えれば、スイッチング周期が一定でない領域でのみ禁止帯域を回避するように構成すれば良いと言える。
【符号の説明】
【0172】
2…電力変換器、3…相電流検出器、4…磁極位置検出器、5…周波数演算部、6…直流電圧検出装置、7,7A,7B…座標変換部、8,8A…電流読込部、9…直流電圧源、11…座標変換部、12,12A…PWM制御器、13,13A,13B,13C,13D,13E…制御演算部、14…電流制御カットオフ周波数演算部、15,15A,15B,15C,15D,15E…制御周期演算部、16…同期PWM信号生成部、17,17A…制御割り込み生成部、18…変調率演算部、19,19A…電流制御部、21,23,24,33…制御周期選択部、22…切換部、25…変調モード判定部、31…制御周期選択部、61,61C…三相基本派電流、63,63C…dq軸6次高調波電流、100,100A,100B,100C,100D,100E…モータ制御装置、101…トランスミッション、103…ディファシャルギアルギア、105…ドライブシャフト、107…車輪