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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085782
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240620BHJP
   B60T 8/42 20060101ALI20240620BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240620BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/42
B60T13/138 A
B60T13/122 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200512
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉内 貴司
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB01
3D048BB25
3D048CC54
3D048HH18
3D048HH66
3D048HH68
3D048RR06
3D246GA01
3D246GA04
3D246GB37
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246JB05
3D246JB10
3D246KA13
3D246LA04Z
3D246LA10Z
3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA57Z
3D246LA63Z
3D246LA73Z
3D246MA16
(57)【要約】
【課題】目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfに基づくFB制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合であっても、運転者に与える違和感を可及的に抑制する。
【解決手段】車両用制動装置11は、所要の昇圧要求に従う目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfに基づいてACT作動量を調整するFB制御を行い、当該調整後のACT作動量を用いて自車両の制動制御を行う制動制御部77と、目標液圧Ptgの変化に応じたACT作動量に係る規範特性、及び当該規範特性を超える臨界特性とによって画定されるACT作動量に係る調整領域の情報を記憶する記憶部75とを備え、制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る調整領域を記憶部75より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内でFB制御を基調としてACT作動量を調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置と、
所要の昇圧要求に従う電動アクチュエータの作動によって二次液圧を発生するモータシリンダ装置と、
前記二次液圧である現在液圧の情報を取得する情報取得部と、
所要の昇圧要求に従う目標液圧及び前記情報取得部により取得した現在液圧の間の差分を算出する算出部と、
前記算出部により算出した前記差分に基づいて前記電動アクチュエータに係る作動量を調整するフィードバック制御を行い、当該調整後の作動量を用いて自車両の制動制御を行う制動制御部と、を備えて構成される車両用制動装置であって、
前記目標液圧の変化に応じた前記電動アクチュエータの作動量に係る規範特性及び当該規範特性を超える臨界特性によって画定される当該作動量に係る調整領域の情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制動制御部は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧に対応する前記作動量に係る調整領域を前記記憶部より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内で当該作動量を調整する
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置であって、
前記マスタシリンダ装置及び前記モータシリンダ装置の間を連通する液圧路に介在するように設けられ、当該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の電磁弁をさらに備え、
前記制動制御部は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に基づき前記電磁弁に係る閉弁過渡特性を用いて静音制御を行う
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用制動装置であって、
前記昇圧要求は、運転者による制動操作にかかわらず生じた昇圧要求である
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか一項に記載の車両用制動装置であって、
前記作動量に係る調整領域は、所定の基準勾配路において自車両を静止保持するための目標液圧の値である静止保持目標液圧値を含む範囲に設定されている
ことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用制動装置であって、
前記作動量に係る調整領域は、自車両が走行中である際に適用される走行中調整領域、及び自車両の停車時に適用される停車時調整領域がそれぞれ設定され、
前記停車時調整領域は、前記走行中調整領域を包含しており、
前記制動制御部は、自車両の運行状態に応じて、前記走行中調整領域及び前記停車時調整領域を切り替えて用いる
ことを特徴とする車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に制動力を付与する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車では、油圧系統を媒介して制動力を付与する既存のブレーキシステムに加えて、電気系統を媒介して制動力を発生させるバイワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムが採用されている。バイワイヤ式のブレーキシステムでは、運転者のブレーキペダルの操作量を電気信号に変換して、スレーブシリンダ(以下、「モータシリンダ装置」という。)のピストンを駆動する電動アクチュエータに与える。
【0003】
すると、電動アクチュエータの作動に伴うピストンの駆動によってモータシリンダ装置に制動液圧が発生する。こうして発生した制動液圧によりホイールシリンダを作動させることで車両に制動力を付与する(例えば、特許文献1の車両用ブレーキ装置を参照)。
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置によれば、電気系統を媒介して、車両に制動力を付与することができる。
【0004】
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置では、運転者の制動操作等に基づく昇圧要求が生じると、この昇圧要求に従う目標液圧と、ブレーキ液圧センサにより検出した現在液圧との差分を算出する。こうして算出した差分が小さくなるようにフィードバック制御を行い、電動アクチュエータがピストンを駆動させる。
【0005】
特許文献1に係るバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置によれば、前記のフィードバック制御を行うことによって、目標液圧に現在液圧を追従させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-083432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係るバイワイヤ式車両用ブレーキ装置では、目標液圧及び現在液圧の差分に基づくフィードバック制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合、制動力の過剰又は不足を生じる結果、運転者に違和感を抱かせるおそれがあった。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、目標液圧及び現在液圧の差分に基づくフィードバック制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合であっても、運転者に与える違和感を可及的に抑制可能な車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置と、所要の昇圧要求に従う電動アクチュエータの作動によって二次液圧を発生するモータシリンダ装置と、前記二次液圧である現在液圧の情報を取得する情報取得部と、所要の昇圧要求に従う目標液圧及び前記情報取得部により取得した現在液圧の間の差分を算出する算出部と、前記算出部により算出した前記差分に基づいて前記電動アクチュエータに係る作動量を調整するフィードバック制御を行い、当該調整後の作動量を用いて自車両の制動制御を行う制動制御部と、を備えて構成される車両用制動装置であって、前記目標液圧の変化に応じた前記電動アクチュエータの作動量に係る規範特性及び当該規範特性を超える臨界特性によって画定される当該作動量に係る調整領域の情報を記憶する記憶部をさらに備え、前記制動制御部は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧に対応する前記作動量に係る調整領域を前記記憶部より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内で当該作動量を調整することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用制動装置によれば、目標液圧及び現在液圧の差分に基づくフィードバック制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合であっても、運転者に与える違和感を可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用制動装置に備わるESB-ECU及び統合ECUの周辺を含む構成を表すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図4】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の動作説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図において、共通の機能を有する部材間、又は、相互に対応する機能を有する部材間には、原則として共通の参照符号を付するものとする。また、説明の便宜のため、部材のサイズ及び形状は、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0013】
〔本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の要旨〕
はじめに、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の要旨について説明する。
車両用制動装置11は、所要の昇圧要求に従う目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)に基づいてブレーキモータ72(図2参照)に係るACT作動量を調整するフィードバック制御(「FB制御」と省略する場合がある。)を行い、当該調整後のACT作動量を用いて自車両の制動制御を行う制動制御部77と、目標液圧Ptgの変化に応じたACT作動量に係る規範特性、及び当該規範特性を超える臨界特性とによって画定される作動量に係る調整領域の情報を記憶する記憶部75とを備え、制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る調整領域を記憶部75より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内でFB制御を基調としてACT作動量を調整する。
これにより、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfに基づくFB制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合であっても、運転者に与える違和感を可及的に抑制することができる。
以下、車両用制動装置11の詳細について、順次説明する。
【0014】
〔車両用制動装置11の概略構成〕
次に、車両用制動装置11の概略構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動装置11の概略構成図である。
車両用制動装置11は、油圧系統を媒介して制動力を発生する既存のブレーキシステムに加えて、電気系統を媒介して制動力を発生する、バイワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムを備えている。
【0015】
車両用制動装置11は、図1に示すように、マスタシリンダ装置14と、モータシリンダ装置16と、ビークル・スタビリティ・アシスト装置18(以下、「VSA装置18」と呼ぶ。ただし、VSAは登録商標)と、液圧制動機構24FR,24RL,24RR,24FLと、を備えて構成されている。
なお、液圧制動機構24FR,24RL,24RR,24FLを総称する際には「液圧制動機構24」と省略する。
【0016】
マスタシリンダ装置14は、自車両(不図示)の運転者によるブレーキペダル12を介する制動操作に従う一次液圧を発生する機能を有する。かかる機能を実現するために、マスタシリンダ装置14は、ブレーキペダル12を介して入力される運転者の制動操作を一次液圧に変換するマスタシリンダ34、運転者によって踏込み操作されるブレーキペダル12に対して擬似的な反力を創りだすストロークシミュレータ64、及び、第1~第3遮断弁60a,60b,62を備えて構成される。
第1及び第2遮断弁60a,60bは、本発明の「電磁弁」に相当する。第1及び第2遮断弁60a,60bの機能について、詳しくは後記する。
【0017】
モータシリンダ装置16は、ブレーキモータ(電動アクチュエータ)72の作動により目標制動力(目標制動トルク)に応じた二次液圧を発生する機能を有する。かかる機能を実現するために、モータシリンダ装置16は、ブレーキモータ72の回転駆動力を受けて二次液圧を発生する一対のスレーブピストン88a,88bを備える。
【0018】
VSA装置18は、自車両の挙動を安定化させる支援を行う機能を有する。詳しく述べると、VSA装置18は、図1に示すように、自車両の挙動に応じてポンプモータ79を作動させ、この作動に伴うポンプ135の駆動によって二次液圧を増減(調整)させるように機能する。
かかる機能の発揮により、VSA装置18は、二次液圧を周期的に増減させることで制動操作時の車輪ロックを抑制するABS機能、加速時等の車輪空転を抑制するTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、及び、旋回時の横すべりを抑制する機能を有する。
【0019】
液圧制動機構24は、自車両に備わる四輪(不図示)をそれぞれ制動する機能を有する。液圧制動機構24は、キャリパ27FR,27RL,27RR,27FLとを含んで構成される。
なお、キャリパ27FR,27RL,27RR,27FLを総称する際には「キャリパ27」と省略する。
キャリパ27は、マスタシリンダ装置14で発生した一次液圧、又はモータシリンダ装置16で発生した二次液圧によって、四輪のそれぞれに設けられたディスク(不図示)を挟み込むことで四輪を制動する。
【0020】
なお、符号Pm,Pp,Phは、液圧路22a~22fの各部を流通する制動液(ブレーキ液)の圧力を検出するブレーキ液圧センサである。ブレーキ液圧センサPpは、「二次液圧である現在液圧Pnw」を検出する。
【0021】
前記のように構成された車両用制動装置11では、第1及び第2遮断弁60a,60bは、特許文献1(特開2012-131438号公報の図3参照)に示すバルブと同様に、バルブに連結されたプランジャをリターンスプリング(いずれも不図示)のばね力に抗して閉弁位置に向けて駆動する形式の電磁弁である。
【0022】
第1及び第2遮断弁60a,60bは、マスタシリンダ装置14及びモータシリンダ装置16の間を連通する液圧路22a,22dに介在するように設けられている。第1及び第2遮断弁60a,60bは、液圧路22a,22dを開放又は閉止するように動作する常時開型の電磁弁により構成されている。
【0023】
車両用制動装置11では、昇圧要求が生じた際に、ESB-ECU29及び統合ECU31(図2参照;詳しくは後記)は、運転者の制動操作に従ってマスタシリンダ装置14で発生する一次液圧を第1及び第2遮断弁60a,60bを用いて遮断する。それと同時に、制動操作量に応じた二次液圧をモータシリンダ装置16のブレーキモータ72を用いて発生させる。
【0024】
要するに、車両用制動装置11では、昇圧要求が生じた際に、ESB-ECU29及び統合ECU31は、第1及び第2遮断弁60a,60bを遮断(閉止)する。すると、遮断された第1及び第2遮断弁60a,60bを境界にして、上流側であるマスタシリンダ装置14の側で一次液圧が発生する一方、下流側であるモータシリンダ装置16の側で二次液圧が発生する。
【0025】
昇圧要求が生じていない際の車両用制動装置11の動作は次に通りである。すなわち、昇圧要求が生じていない際に、ESB-ECU29及び統合ECU31は、第1及び第2遮断弁60a,60bへの電力の供給を行わない。その結果、第1及び第2遮断弁60a,60bは開放される。すると、運転者の制動操作に従って、上流側であるマスタシリンダ装置14の側で発生した一次液圧が、開放された第1及び第2遮断弁60a,60bを通して、下流側であるモータシリンダ装置16の側へと伝えられる。
【0026】
車両用制動装置11では、二次液圧を調整する機能を有する部材が二系統ある。
1つ目は、ブレーキモータ72の回転駆動力を用いた一対のスレーブピストン88a,88bのスライド位置を調整することで二次液圧を調整する第1系統である。
2つ目は、ポンプモータ79の作動に伴うポンプ135の駆動によって二次液圧を調整する第2系統である。
二次液圧の調整機能に関し、一般に、ブレーキモータ72を用いる第1系統に比べて、ポンプモータ79を用いる第2系統の方が、高い応答性を有する。
【0027】
〔本明細書において用いる用語の定義〕
ここで、車両用制動装置11を説明する際に本明細書において用いる用語を定義する。
「静音制御」とは、第1及び第2遮断弁60a,60bに備わるプランジャ(不図示)を閉弁位置に向けて駆動する際に、ソレノイドへの供給電流を時間的に緩慢に漸増させる(経時変化特性の傾斜(変化率)を緩やかにする)ことにより、プランジャが閉弁位置に到達した際にケースとの間で生じる衝突音を抑制する制御を意味する。
【0028】
「昇圧要求」が生じる場面は大きく分けて二通りある。一つ目は、運転者の制動操作に従って生じる昇圧要求である。二つ目は、運転者の制動操作にかかわらず、自車両の運転状況に係る情報に基づく統合ECU31の制御によって生じる昇圧要求である。具体的には、例えば、統合ECU31は、適応巡航制御(ACC)に係る定速走行制御を行っている際に自車両の車速が設定値を超えるか、ACCに係る追従走行制御を行っている際に先行車との車間距離が設定値を下回るシーンが出現した場合に、所要の大きさの昇圧要求を出力する。
【0029】
目標液圧Ptgとは、昇圧要求が生じた際に、この昇圧要求の大きさに従う目標制動力を得るために必要な二次液圧を意味する。
現在液圧Pnwとは、ブレーキ液圧センサPpにより検出される二次液圧を意味する。
【0030】
フィードバック制御(FB制御)とは、目標液圧Ptgに対して現在液圧Pnwが不足又は過剰な場合に、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)に基づいてブレーキモータ72に係る作動量(「ACT作動量」と省略する場合がある。)を調整する制御を意味する。
具体的には、目標液圧Ptgに対して現在液圧Pnwが不足(Pdf>0)であるケースでACT作動量を増加する調整を行う一方、目標液圧Ptgに対して現在液圧Pnwが過剰(Pdf<0)であるケースでACT作動量を減少する調整を行う。ちなみに、ACT作動量に係る情報は、ホールセンサ127によって検出される。ESB-ECU29は、ホールセンサ127によって検出されたACT作動量に基づいて時々刻々と変化するACT作動量を監視しつつACT作動量の調整を管理する。これについて、詳しくは後記する。
なお、本実施形態の説明において、ACT作動量としてブレーキモータ72に係る作動量を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。二次液圧を増減調整するためのACT作動量として、モータシリンダ装置16に備わるスレーブピストン88a,88bのストローク量、又は、ポンプモータ79の作動量を採用しても構わない。
【0031】
「目標液圧の変化に応じた電動アクチュエータの作動量に係る規範特性」とは、図4に点線L1で示すように、目標液圧Ptgの変化に対するACT作動量に関し規範となる特性(目標液圧PtgとACT作動量との相関を表す関数)をいう。FB制御に係る系統が正常に動作しているケースでは、通常、目標液圧Ptgの変化に対するACT作動量は規範特性に従う。
【0032】
「規範特性を超える臨界特性」とは、図4に実線L2及び一点鎖線L3で示すように、FB制御に係る系統に何らかの失陥が生じた(例えば、ブレーキ液圧センサPpに何らかの失陥が生じた)結果、目標液圧Ptgに対して現在液圧Pnwが不足している状況において、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfを小さくすることを狙いACT作動量を規範特性から定まるものよりも増加するFB制御を行うに際し、目標液圧Ptgに対するACT作動量の上限値を規定する特性をいう。
【0033】
「臨界特性」としては、図4に示すように、停車時の臨界特性(図4の実線L2参照)、及び走行中の臨界特性(図4の一点鎖線L3参照)が規定されている。停車時の臨界特性は、自車両の停車時における目標液圧Ptgに対するACT作動量の上限値を規定する。一方、走行中の臨界特性は、自車両の走行中における目標液圧Ptgに対するACT作動量の上限値を規定する。
【0034】
停車時の臨界特性は、図4に示すように、目標液圧Ptgが0から第1液圧値P1に至る第1区間においてACT作動量が急峻に立ち上がる第1特性部分PT1と、目標液圧Ptgが第1液圧値P1から第2液圧値P2に至る第2区間においてACT作動量が右肩上がりに傾斜する第2特性部分PT2と、目標液圧Ptgが第2液圧値P2を超える第3区間においてACT作動量が右肩上がりに傾斜する第3特性部分PT3と、からなる。第3特性部分PT3における傾斜の度合い(ACT作動量の変化率)は、第2特性部分PT2における傾斜の度合いと比べて急に設定されている。
【0035】
一方、走行中の臨界特性は、図4に示すように、前記第1特性部分PT1と、前記第2特性部分PT2と、目標液圧Ptgが第2液圧値P2から静止保持目標液圧値Pst(詳しくは次述する)に至る第4区間においてACT作動量が右肩上がりに傾斜する第4特性部分PT4と、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstを超える第5区間においてACT作動量が右肩上がりに傾斜する第5特性部分PT5と、からなる。第4特性部分PT4における傾斜の度合い(ACT作動量の変化率)は、第2特性部分PT2における傾斜の度合いと共通に設定されている。また、第5特性部分PT3における傾斜の度合いは、第4特性部分PT4における傾斜の度合いと比べて急に設定されている。
【0036】
停車時の臨界特性は、図4に示すように、目標液圧Ptgが0から第1液圧値P1を経て第2液圧値P2に至る第1及び第2区間において、走行中の臨界特性との間で第1特性部分PT1及び第2特性部分PT2を共有している。ただし、目標液圧Ptgが第2液圧値P2を超える第3区間では、停車時の臨界特性(第3特性部分PT3からなる)は、走行中の臨界特性(第4特性部分PT4及び第5特性部分PT5の組み合わせからなる)と比べて、ACT作動量が概ね大に設定されている。このように停車時の臨界特性を設定したのは、自車両が勾配路に存するケースにおいて、強大なACT作動量の作用によって自車両を確実に静止状態に保持する趣旨である。
【0037】
なお、目標液圧Ptgに対するACT作動量の上限値を規定したのは、例えば、ブレーキ液圧センサPpに何らかの失陥が生じた結果、本来の液圧値と比べて極低い液圧値(例えばゼロ)を現在液圧Pnwとしてブレーキ液圧センサPpが出力するケースにおいて、現在液圧Pnwの過剰な昇圧を未然に回避する趣旨である。
【0038】
「静止保持目標液圧値Pst」とは、図4に示すように、自車両が所定の基準勾配路(特に限定されないが、例えば30%勾配路)に存する場面を想定した場合に、同基準勾配路において自車両を静止状態に保持するために必要な目標液圧Ptgの値である。
なお、静止保持目標液圧値Pstは、車両の重量、サイズ等に応じて車種毎に適宜設定すればよい。
【0039】
「調整領域」とは、図4に示すように、ACT作動量に係る規範特性及び臨界特性によって画定されるACT作動量に係る調整幅を規定する領域(規範特性と臨界特性とに挟まれた領域)をいう。
【0040】
「走行中調整領域」とは、FB制御に係る系統に何らかの失陥が生じている状況で自車両が走行中(エラー走行中)のケースに適用される、ACT作動量に係る調整幅を規定する領域をいう。ここで、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)では、図4に示すように、低部静止保持作動量ACT(PstL)及び中部静止保持作動量ACT(PstM)間の差分(PstM-PstL)が、ACT作動量に係る調整幅に相当する。
走行中調整領域(図4中の格子線を描いた領域A1)は、ACT作動量に係る規範特性(図4の点線L1参照)及び走行中の臨界特性(図4の一点鎖線L3参照:ただし、目標液圧Ptgが0から第2液圧値P2に至る第1及び第2区間では、停車時の臨界特性(図4の実線L2参照)と特性線を共有)によって画定されている。走行中調整領域は、自車両の車速に応じてACT作動量に係る調整幅を適宜増減しても構わない。
【0041】
「停車時調整領域」とは、FB制御に係る系統に何らかの失陥が生じている状況で自車両が停車時(エラー停車時)のケースに適用される、ACT作動量に係る調整幅を規定する領域をいう。ここで、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)では、図4に示すように、低部静止保持作動量ACT(PstL)及び高部静止保持作動量ACT(PstH)間の差分(PstH-PstL)が、ACT作動量に係る調整幅に相当する。
停車時調整領域(図4中の斜線を描いた領域A2及び格子線を描いた領域A1を合算した領域)は、ACT作動量に係る規範特性(図4の点線L1参照)及び停車時の臨界特性(図4の実線L2参照)によって画定されている。停車時調整領域は、自車両が存する勾配路の傾斜角に応じてACT作動量に係る調整幅を適宜増減しても構わない。
なお、停車時調整領域は、走行中調整領域を包含(拡張)するように設定されている。また、停車時調整領域、及び走行中調整領域は、いずれも静止保持目標液圧値Pstを含む範囲に設定されている。
【0042】
ここで、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfに基づくFB制御に係る系統に生じる失陥とは、正常なFB制御を妨げる要因となる事象全般を想定している。具体的には、例えば、ブレーキ液圧センサPpに何らかの失陥が生じた結果、本来の液圧値と比べて極低い液圧値を現在液圧Pnwとしてブレーキ液圧センサPpが出力するケース、ESB-ECU29の算出部73に何らかの失陥が生じた結果、本来の目標値と比べて大幅に外れた目標値を目標液圧Ptgとして算出するケース等を想定している。
【0043】
車両用制動装置11では、特に断らない限り、自車両の運転状況に係る情報に基づいて統合ECU31において昇圧要求が生じたケースを例示して説明する。
【0044】
〔実施形態に係る車両用制動装置11の基本動作〕
次に、実施形態に係る車両用制動装置11の基本動作について説明する。
車両用制動装置11では、モータシリンダ装置16の正常状態下、及びバイワイヤ制御を行うESB-ECU29、統合ECU31(図2参照)の正常状態下において、例えば、運転者がブレーキペダル12を踏むことで制動操作を行うと、バイワイヤ式のブレーキシステムがアクティブになる。なお、モータシリンダ装置16の正常状態下、統合ECU31の正常状態下では、FB制御に係る系統も正常に動作している。
【0045】
正常状態下の車両用制動装置11では、運転者が制動操作を行うと(ただし、運転者の制動操作にかかわらず、自車両の運転状況に係る情報に基づく統合ECU31の制御によって昇圧要求が生じた場合も同様)、第1及び第2遮断弁60a,60bが閉弁遮断される一方、第3遮断弁62が開弁される。マスタシリンダ34で発生した一次液圧は、マスタシリンダ34からストロークシミュレータ64へと逃される。その結果、第1及び第2遮断弁60a,60bが閉弁遮断されていても、一次液圧の緩衝が生じて、運転者の制動操作に従うブレーキペダル12のストロークが生じるようになる。
【0046】
正常状態下の車両用制動装置11では、マスタシリンダ装置14と、モータシリンダ装置16との連通を、第1及び第2遮断弁60a,60bを用いて閉弁遮断した状態で、運転者の制動操作に従う二次液圧をモータシリンダ装置16で発生させ、こうして発生した二次液圧を用いて液圧制動機構24を作動させる。
【0047】
一方、車両用制動装置11では、モータシリンダ装置16、ESB-ECU29、統合ECU31が正常作動しない異常状態下において、運転者が制動操作を行うと、既存の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0048】
異常状態下の車両用制動装置11では、運転者が制動操作を行うと、第1及び第2遮断弁60a,60bが開放された状態で、第3遮断弁62が閉止される。マスタシリンダ34で発生した一次液圧は、所要の液圧路22a~22fを介して液圧制動機構24に伝えられ、液圧制動機構24を作動させる。
【0049】
〔ESB-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成〕
次に、車両用制動装置11に備わるESB(Electrical Servo Brake)-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成について、図2を参照して説明する。図2は、車両用制動装置11に備わるESB-ECU29及び統合ECU31の周辺を含む構成を表すブロック図である。
【0050】
車両用制動装置11には、図2に示すように、ESB-ECU29及び統合ECU31が備わっている。
【0051】
ESB-ECU29、及び、統合ECU31の間は、図2に示すように、通信媒体33を介して相互に情報通信可能に接続されている。通信媒体33としては、例えば、自車両内に構築されるCAN(Controller Area Network)を好適に用いることができる。CANとは、車載機器間の情報通信に用いられる多重化されたシリアル通信網である。
【0052】
〔ESB-ECU29の構成〕
ESB-ECU29には、図2に示すように、入力系統として、イグニッションキースイッチ(以下、「IGキースイッチ」と省略する。)121、車速センサ123、ブレーキペダルセンサ125、ホールセンサ127、及び、ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phがそれぞれ接続されている。
【0053】
IGキースイッチ121は、自車両に搭載された電装部品の各部に、車載バッテリ(不図示)を介して電源電圧を供給する際に操作されるスイッチである。IGキースイッチ121がオン操作されると、ESB-ECU29に電源電圧が供給されて、ESB-ECU29が起動される。
【0054】
車速センサ123は、自車両の車速を検出する機能を有する。車速センサ123で検出された車速に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
【0055】
ブレーキペダルセンサ125は、運転者によるブレーキペダル12の操作量(ストローク量)及び加重(踏力)を検出する機能を有する。ブレーキペダルセンサ125で検出されたブレーキペダル12の操作量及び加重に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
ただし、ブレーキペダルセンサ125は、単にON(踏み込まれている)/OFF(踏み込まれていない)を検出する機能を有するブレーキSWであっても構わない。
【0056】
ホールセンサ127は、ブレーキモータ72の回転角度(一対のスレーブピストン88a,88bの軸線方向における現在位置情報:ACT作動量に係る情報)を検出する機能を有する。ホールセンサ127で検出されたACT作動量に係る情報は、ESB-ECU29へと送られる。
【0057】
ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phは、ブレーキ液圧系統における第1遮断弁60aの上流側液圧、第2遮断弁60bの下流側液圧、VSA装置18内の二次液圧をそれぞれ検出する機能を有する。ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phで検出されたブレーキ液圧系統における各部の液圧情報は、ESB-ECU29へと送られる。また、ブレーキ液圧センサPpで検出された現在液圧Pnwの情報は、ESB-ECU29及び通信媒体33をそれぞれ介して、統合ECU31へと送られる。
【0058】
一方、ESB-ECU29には、図2に示すように、出力系統として、ブレーキモータ72、及び、前記第1~第3遮断弁60a,60b,62がそれぞれ接続されている。
【0059】
ESB-ECU29は、図2に示すように、第1情報取得部71、算出部73、記憶部75、及び、制動制御部77を有して構成されている。
【0060】
第1情報取得部71は、IGキースイッチ121のオン・オフ操作情報、車速センサ123で検出される車速情報、ブレーキペダルセンサ125で検出される制動操作量及び加重に係る制動操作情報、ホールセンサ127で検出されるブレーキモータ72に係る回転角度情報、ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phで検出される各部の制動液圧情報などを取得する機能を有する。
【0061】
算出部73は、運転者によるブレーキペダル12の制動操作量に基づく昇圧要求(要求制動量)に従う目標制動力(目標液圧Ptg)を算出する機能を有する。また、算出部73は、統合ECU31から通信媒体33を介して送られてきた(運転者によるブレーキペダル12の制動操作にかかわらず生じた)昇圧要求(要求制動量)に従う目標制動力(目標液圧Ptg)を算出する機能を有する。
さらに、算出部73は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)を算出する役割を果たす。
【0062】
記憶部75は、目標液圧Ptgの変化に応じたブレーキモータ72の作動量に係る規範特性及び臨界特性によって画定されるACT作動量に係る調整領域(走行中調整領域A1及び停車時調整領域A2の両者を含む:図4参照)の情報を記憶する機能を有する。
また、記憶部75は、前記の静止保持目標液圧値Pst(図4参照)の情報を記憶している。
【0063】
制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に基づき第1及び第2遮断弁60a,60b(電磁弁)に係る閉弁過渡特性を用いて静音制御を行う。
また、制動制御部77は、液圧制動機構24において作用する現在液圧Pnwが、所要の昇圧要求に従う目標液圧Ptgに追従するように、ACT作動量を増減調整するFB制御を行い、これをもって、自車両の制動制御を行う。
【0064】
さらに、制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る調整領域を記憶部75より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内でFB制御を基調としてACT作動量を調整する。
さらにまた、制動制御部77は、自車両の運行状態(停車/走行中)に応じて、前記停車時調整領域及び前記走行中調整領域を切り替えて用いる。
【0065】
ESB-ECU29は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、ESB-ECU29が有する、各種の情報取得機能、所要の昇圧要求が生じた際の目標液圧Ptg、及び目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)をそれぞれ算出する機能、ACT作動量に係る調整領域の情報を記憶する機能、並びに、ACT作動量を増減調整するFB制御機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
【0066】
〔統合ECU31の構成〕
統合ECU31には、図2に示すように、入力系統として、レーダ151、カメラ153、車輪速センサ155、アクセルペダルセンサ157、ヨーレイトセンサ159、Gセンサ161、及び、傾斜角センサ163がそれぞれ接続されている。
【0067】
レーダ151としては、例えば、レーザレーダ、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、超音波レーダなどを適宜用いることができる。レーダ151は、自車両のフロントグリル裏部などに設けられる。レーダ151による自車両周囲の物標分布情報は、統合ECU31へ送られる。
【0068】
カメラ153は、自車両前方の斜め下方に傾いた光軸を有し、自車両の進行方向の画像を撮像する機能を有する。カメラ153としては、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラやCCD(Charge Coupled Device)カメラなどを適宜用いることができる。カメラ153は、自車両のウインドシールド中央上部などに設けられる。カメラ153により撮像された自車両の進行方向画像情報は、例えばNTSC(National Television Standards Committee)などのインターレース方式により生成される画像信号として統合ECU31へ送られる。
【0069】
車輪速センサ155は、自車両に設けられた各車輪毎の回転速度(車輪速)をそれぞれ検出する機能を有する。車輪速センサ155でそれぞれ検出される各車輪毎の車輪速情報は、統合ECU31へ送られる。
【0070】
アクセルペダルセンサ157は、運転者によるアクセルペダルの操作量(ストローク量)を検出する機能を有する。アクセルペダルセンサ157で検出されたアクセルペダルの操作量情報は、統合ECU31へ送られる。
【0071】
ヨーレイトセンサ159は、自車両に発生しているヨーレイトを検出する機能を有する。ヨーレイトセンサ159で検出されたヨーレイト情報は、統合ECU31へ送られる。
【0072】
Gセンサ161は、自車両に発生している前後G(前後加速度)及び横G(横加速度)をそれぞれ検出する機能を有する。Gセンサ161で検出されたG情報は、統合ECU31へ送られる。
【0073】
傾斜角センサ163は、自車両の姿勢(水平に対する傾斜角)を検出する機能を有する。傾斜角センサ163による傾斜角情報は、統合ECU31へ送られる。
【0074】
また、統合ECU31には、図2に示すように、出力系統として、警報装置76、及びポンプモータ79がそれぞれ接続されている。
【0075】
警報装置76は、例えば、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)が所定の液圧閾値と比べて大きい場合等に、運転者の聴覚、視覚、触覚等を刺激することでFB制御に係る系統失陥の警報を発する機能を有する。
【0076】
ポンプモータ79は、例えば、ABS制御の作動を要する場合等に、統合ECU31において生成された制動制御信号に基づいて回転駆動される。ポンプモータ79の回転駆動に伴うポンプ135(図1参照)の駆動によって、ポンプモータ79は、主として二次液圧の増減調整を行うことができる。
なお、本発明の実施形態に係るACT作動量の増減調整は、ポンプモータ79を用いて行っても構わない。
【0077】
次に、統合ECU31の内部構成にいて説明する。
第2情報取得部171は、レーダ151で検出された物標分布情報、カメラ153で撮像された進行方向画像情報、車輪速センサ155で検出された車輪速情報、アクセルペダルセンサ157で検出されるアクセルペダルの加減速操作量情報、ヨーレイトセンサ159で検出されるヨーレイト情報、Gセンサ161で検出されるG情報、及び、傾斜角センサ163で検出される自車両の傾斜角情報を含む各種情報をそれぞれ取得する機能を有する。
また、第2情報取得部171は、ESB-ECU29から通信媒体33を介して送られてくる、車速センサ123による車速情報、及び、ブレーキペダルセンサ125で検出されたブレーキペダル12の操作量及び加重に係る情報を取得する機能を有する。
【0078】
演算部173は、第2情報取得部171で取得した車速情報、及び、各車輪毎の車輪速情報に基づいて、各車輪毎のスリップ率(スリップ情報)を演算により求める機能を有する。演算部173で求められた各車輪毎のスリップ情報は、統括制御部175において、ABS制御の作動要否を判定する際などに適宜参照される。
【0079】
統括制御部175は、基本的には、演算部173で求められる各車輪毎のスリップ率情報等に基づいて、ABS制御の作動要否を判定する。この判定の結果、ABS制御を作動すべき旨の判定が下された場合、統括制御部175は、各車輪のスリップを抑制するように、VSA装置18による制動液圧調整機能の発揮によって、各車輪毎の制動力を周期的に増減させる制動制御を行う。
【0080】
また、統括制御部175は、レーダ151で検出された物標分布情報、カメラ153で撮像された進行方向画像情報、車速センサ123による車速情報を含む各種情報等に基づいて、予め設定された車速に基づき自車両を定速走行させる定速走行制御、及び自車両の走行車線において進行方向前方を走行する先行車に対し設定された車間距離を保って追従走行させる追従走行制御を含む適応巡航制御(ACC)を行う。
すなわち、統括制御部175は、自車両の車速を目標車速の範囲内に維持した状態で、先行車との車間距離を設定された車間距離に保ちながら、運転者によるアクセルペダルやブレーキペダルの操作を要することなしに、加速制御及び減速制御を含む自車両の適応巡航制御(ACC)を行う。
【0081】
統合ECU31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、統合ECU31が有する、各種の情報取得機能、各車輪毎のスリップ情報を演算する機能、ABS制御機能、適応巡航制御(ACC)機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
【0082】
〔車両用制動装置11の概略動作〕
次に、車両用制動装置11の概略動作について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、車両用制動装置11の動作説明に供するフローチャート図である。図4は、車両用制動装置の動作説明に供する図である。
ただし、前提として、IGキースイッチ121は常時オンしているものとする。
【0083】
図3に示すステップS11において、ESB-ECU29の第1情報取得部71は、車速センサ123で検出される車速情報、ブレーキ液圧センサPm,Pp,Phで検出される各部の制動液圧情報を含む各種情報をそれぞれ取得する。
また、統合ECU31の第2情報取得部171は、レーダ151で検出された物標分布情報、傾斜角センサ163で検出される自車両の傾斜角情報を含む各種情報をそれぞれ取得する。
【0084】
ステップS12において、統合ECU31は、適応巡航制御(ACC)に基づく昇圧要求が生じたか否かを調べる。昇圧要求が生じた旨の判定が下されない場合(ステップS12のNo)、統合ECU31は、処理の流れをステップS11に戻す。
一方、昇圧要求が生じた旨の判定が下される(ステップS12のYes)と、統合ECU31は、昇圧要求が生じた旨、及びACCに基づく昇圧要求(要求制動量)の情報をESB-ECU29宛に送ると共に、処理の流れを次のステップS13へ進ませる。
【0085】
ステップS13において、ESB-ECU29の算出部73は、統合ECU31から送られてきたACCに基づく昇圧要求(要求制動量)に従う目標制動力(目標液圧Ptg)を算出する。
【0086】
ステップS14において、ESB-ECU29の算出部73は、ACCに基づく昇圧要求に従う目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)を算出する。
【0087】
ステップS15において、ESB-ECU29は、自車両の運行状態(例えば車速情報)に基づいて、自車両が停車しているか否かを調べる。自車両が停車している旨の判定が下された場合(ステップS15のYes)、ESB-ECU29は、処理の流れを次のステップS16へ進ませる。
一方、自車両が停車していない(走行中である)旨の判定が下される(ステップS15のNo)と、ESB-ECU29は、処理の流れをステップS17へとジャンプさせる。
【0088】
ステップS16において、ESB-ECU29の制動制御部77は、ACCに基づく昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る停車時調整領域(図4のA2参照)を記憶部75より読み出し、当該読み出した停車時調整領域内でFB制御を基調としてACT作動量を調整する。
具体的には、例えば、FB制御に係る系統に何らかの失陥が生じている状況で自車両が停車時(エラー停車時)であり、かつ、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)においては、まず、ACT作動量として低部静止保持作動量ACT(PstL)を用いたFB制御が行われる。このFB制御を所定時間行っても、仮に、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfが埋まらないとする(ただし、Ptg-Pnw>0)。この場合、前記差分Pdfを小さくするように、ACT作動量が増加調整される。このACT作動量の増加調整は、図4に示すように、低部静止保持作動量ACT(PstL)及び高部静止保持作動量ACT(PstH)間の差分(PstH-PstL)で規定されるACT作動量に係る調整幅の範囲内で(ESB-ECU29によるACT作動量の管理下で)FB制御を基調として行われる。
なお、FB制御に係る系統が正常に動作している状況で自車両が停車時(エラー停車時)であり、かつ、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)においても、前記と同様に、ACT作動量として低部静止保持作動量ACT(PstL)を用いたFB制御が行われる。このケースでは、ACT作動量の調整を特段要することなく、規範特性に従うACT作動量(低部静止保持作動量ACT(PstL))を用いて、自車両の制動制御が行われる。
【0089】
ここで、自車両が停車時かつ目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)でのACT作動量に係る調整幅の上限値は高部静止保持作動量ACT(PstH)である。この高部静止保持作動量ACT(PstH)は、目標液圧Ptgが第3液圧値P3であるケース(Ptg=P3)でのACT作動量に係る規範特性(図4の点線L1参照)の線図上に乗っている。
すなわち、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)において、ACT作動量に係る調整幅の上限値である高部静止保持作動量ACT(PstH)に至るまでFB制御を行うことは、目標液圧Ptgを静止保持目標液圧値Pstから第3液圧値P3へと上方修正することと同義である。
要するに、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfを小さくするためのアプローチとして、FB制御に代えて、又は加えて、フィードフォワード制御(FF制御)を行っても構わない。ここで、FF制御とは、目標液圧Ptgを(上方)修正することでACT作動量を調整することにより、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfを小さくするためのアプローチを意味する。
【0090】
ステップS17において、ESB-ECU29の制動制御部77は、ACCに基づく昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る走行中調整領域(図4参照)を記憶部75より読み出し、当該読み出した走行中調整領域内でFB制御を基調としてACT作動量を調整する。
具体的には、例えば、FB制御に係る系統に何らかの失陥が生じている状況で自車両が走行中(エラー走行中)であり、かつ、目標液圧Ptgが第3液圧値P3であるケース(Ptg=P2)においては、まず、ACT作動量として低部静止保持作動量ACT(PstL)を用いたFB制御が行われる。このFB制御を所定時間行っても、仮に、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfが埋まらないとする(ただし、Ptg-Pnw>0)。この場合、前記差分Pdfを小さくするように、ACT作動量が増加調整される。このACT作動量の増加調整は、図4に示すように、低部静止保持作動量ACT(PstL)及び中部静止保持作動量ACT(PstM)間の差分(PstM-PstL)で規定されるACT作動量に係る調整幅の範囲内で(ESB-ECU29によるACT作動量の管理下で)FB制御を基調として行われる。
【0091】
ステップS16又はS17において、ESB-ECU29の制動制御部77は、自車両の運行状態に応じて、走行中調整領域及び停車時調整領域を切り替えて用いる。
【0092】
ステップS18において、ESB-ECU29の制動制御部77は、ステップS16又はS17において増減調整後のACT作動量を用いて制動制御を行う。
【0093】
〔車両用制動装置11の作用効果〕
次に、車両用制動装置11の作用効果について、図4を参照して説明する。
【0094】
第1の観点(請求項1に相当)に基づく車両用制動装置11は、運転者による制動操作に従う一次液圧を発生するマスタシリンダ装置14と、所要の昇圧要求に従うブレーキモータ72及びポンプモータ79(電動アクチュエータ)の作動によって二次液圧を発生するモータシリンダ装置16と、前記二次液圧である現在液圧Pnwの情報を取得する第1情報取得部71と、所要の昇圧要求に従う目標液圧Ptg及び第1情報取得部71により取得した現在液圧Pnwの間の差分Pdf(=|Ptg-Pnw|)を算出する算出部73と、算出部73により算出した前記差分Pdfに基づいて電動アクチュエータに係るACT作動量を調整するフィードバック制御(FB制御)を行い、当該調整後のACT作動量を用いて自車両の制動制御を行う制動制御部77と、を備えて構成される車両用制動装置11である。
目標液圧Ptgの変化に応じた電動アクチュエータのACT作動量に係る規範特性及び当該規範特性を超える臨界特性によって画定されるACT作動量に係る調整領域の情報を記憶する記憶部75をさらに備える。
制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る調整領域を記憶部75より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内でACT作動量を調整する。
【0095】
第1の観点に基づく車両用制動装置11によれば、制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に従う目標液圧Ptgに対応するACT作動量に係る調整領域を記憶部75より読み出し、当該読み出した調整領域の範囲内でFB制御を基調としてACT作動量を調整するため、目標液圧Ptg・現在液圧Pnw間の差分Pdfに基づくFB制御に係る系統に何らかの失陥が生じた場合であっても、運転者に与える違和感を可及的に抑制することができる。
【0096】
第2の観点(請求項2)に基づく車両用制動装置11では、第1の観点に基づく車両用制動装置11であって、マスタシリンダ装置14及びモータシリンダ装置16の間を連通する液圧路22a,22dに介在するように設けられ、当該液圧路を開放又は閉止するように動作する常時開型の第1及び第2遮断弁60a,60b(電磁弁)をさらに備え、制動制御部77は、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に基づき前記電磁弁に係る閉弁過渡特性を用いて静音制御を行う構成を採用しても構わない。
【0097】
所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に基づき前記電磁弁に係る閉弁過渡特性を用いて静音制御を行うと、当該静音制御によってプランジャが閉弁位置に到達する際の速度が抑制されるため、電磁弁の応答性が損なわれる。その結果、液圧路の遮断に時間的な遅れが生じて、目標液圧Ptgに対する現在液圧Pnwの追従性が損なわれてしまう。
【0098】
第2の観点に基づく車両用制動装置11によれば、所要の昇圧要求が生じた際に、当該昇圧要求に基づき前記電磁弁に係る閉弁過渡特性を用いて静音制御を行う場合であっても、目標液圧Ptgに対する現在液圧Pnwの追従性を良好に保つ効果を期待することができる。
【0099】
第3の観点(請求項3)に基づく車両用制動装置11では、第2の観点に基づく車両用制動装置11であって、前記昇圧要求は、運転者による制動操作にかかわらず生じた昇圧要求である。
【0100】
第3の観点に基づく車両用制動装置11によれば、いわゆる自動運転への迅速な適用を踏まえた制動制御技術を提供することができる。
【0101】
第4の観点(請求項4)に基づく車両用制動装置11では、第1~第3の観点のうちいずれかに基づく車両用制動装置11であって、ACT作動量に係る調整領域は、所定の基準勾配路において自車両を静止保持するための目標液圧Ptgの値である静止保持目標液圧値Pstを含む範囲に設定されている。
ちなみに、自車両が停車時(エラー停車時)かつ目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)では、図4に示すように、低部静止保持作動量ACT(PstL)及び高部静止保持作動量ACT(PstH)の間隔(PstH-PstL)が、ACT作動量に係る調整幅に相当する。
【0102】
第4の観点に基づく車両用制動装置11によれば、ACT作動量に係る調整領域は、所定の基準勾配路において自車両を静止保持するための目標液圧Ptgの値である静止保持目標液圧値Pstを含む範囲に設定されているため、目標液圧Ptgが静止保持目標液圧値Pstであるケース(Ptg=Pst)において、例えば自車両が停車時では、ACT作動量に係る調整幅(PstH-PstL)の範囲内において、ACT作動量を増減調整することができる。その結果、自車両を的確に静止保持する効果を期待することができる。
【0103】
第5の観点(請求項5)に基づく車両用制動装置11では、第4の観点に基づく車両用制動装置11であって、ACT作動量に係る調整領域は、自車両が走行中である際に適用される走行中調整領域、及び自車両の停車時に適用される停車時調整領域がそれぞれ設定され、前記停車時調整領域は、前記走行中調整領域を包含しており、制動制御部77は、自車両の運行状態に応じて、前記走行中調整領域及び前記停車時調整領域を切り替えて用いる構成を採用しても構わない。
【0104】
第5の観点に基づく車両用制動装置11によれば、停車時調整領域は、走行中調整領域を包含しており、制動制御部77は、自車両の運行状態に応じて、走行中調整領域及び停車時調整領域を切り替えて用いるため、自車両の運行状態に応じた切り替えられた適切な調整領域によって規定されたACT作動量に係る調整幅の範囲内でFB制御を基調としてACT作動量を調整することができる。
その結果、運転者に与える違和感を可及的に抑制し、快適かつ安全な運転環境を醸成することができる。
【0105】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0106】
例えば、車両用制動装置11が有する各種機能を、ESB-ECU29及び統合ECU31に分けて持たせる例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。
本発明は、車両用制動装置11が有する各種機能をひとつのECUにまとめて持たせる態様を採用しても構わない。
【符号の説明】
【0107】
11 車両用制動装置
14 マスタシリンダ装置
16 モータシリンダ装置
22a,22d 液圧路
60a,60b 第1及び第2遮断弁(電磁弁)
71 第1情報取得部(情報取得部)
72 ブレーキモータ(電動アクチュエータ)
73 算出部
75 記憶部
77 制動制御部
79 ポンプモータ(電動アクチュエータ)
Ptg 目標液圧
Pnw 現在液圧
Pdf 目標液圧・現在液圧間の差分
Pst 静止保持目標液圧値
図1
図2
図3
図4