(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085787
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240620BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240620BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240620BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200519
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】井上 将来
(72)【発明者】
【氏名】盛池 孝直
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】一態様において、安定した研磨性能を有する研磨液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有する研磨液組成物又はその濃縮物であって、研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウムイオン量が125ppm以下である、研磨液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有する研磨液組成物又はその濃縮物であって、
研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウムイオン量が125ppm以下である、研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項2】
研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウム含有粒子(成分A)1gあたりのセリウムイオン量は25ppm以下である、請求項1に記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項3】
成分Aが、酸化セリウム粒子である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項4】
成分Aが、湿式法で粉砕又は解砕された粒子である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項5】
成分Aが、湿式高圧ジェットミルで粉砕又は解砕された粒子である、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項6】
成分Bは、芳香族化合物である、請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項7】
成分Bは、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスフィン酸基及びヒドロキシル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する、請求項1から6のいずれかに記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項8】
成分Bは、2-ヒドロキシピリジンN-オキシド、フェニルホスフィン酸、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から7のいずれかに記載の研磨液組成物又はその濃縮物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の研磨液組成物の製造方法であって、
セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有し、セリウムイオン量が125ppm以下である研磨液組成物の濃縮物を希釈する工程を含む、研磨液組成物の製造方法。
【請求項10】
成分Aは、湿式法で粉砕又は解砕された粒子である、請求項9に記載の研磨液組成物の製造方法。
【請求項11】
成分Aは、湿式高圧ジェットミルで粉砕又は解砕された粒子である、請求項9又は10に記載の研磨液組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の研磨液組成物、又は、請求項9から11のいずれかに記載の研磨液組成物の製造方法により製造された研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の研磨液組成物、又は、請求項9から11のいずれかに記載の研磨液組成物の製造方法により製造された研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物又はその濃縮物、これらを用いた半導体基板の製造方法及び基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)技術とは、加工しようとする被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で研磨液をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面凹凸部分を化学的に反応させると共に機械的に除去して平坦化させる技術である。
【0003】
現在では、半導体素子の製造工程における、層間絶縁膜の平坦化、シャロートレンチ素子分離構造の形成、プラグ及び埋め込み金属配線の形成等を行う際には、このCMP技術が必須の技術となっている。近年、半導体素子の多層化、高精細化が飛躍的に進み、半導体素子の歩留まり及びスループット(収量)の更なる向上が要求されるようになってきている。それに伴い、CMP工程に関しても、研磨傷フリーで且つより高速な研磨が望まれるようになってきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、砥粒と、芳香族複素環を有する化合物と、水と、を含有し、前記砥粒が4価金属元素(例えば、4価セリウム)の水酸化物を含み、前記芳香族複素環が、水素原子と結合していない環内窒素原子を有し、Mers-Kollman法を用いて得られる前記環内窒素原子の電荷が-0.50以下である、研磨液が提案されている。
特許文献2には、水、酸化セリウム微粒子及びキレート剤を含む研磨剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-149548号公報
【特許文献2】WO01/080296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化セリウム粒子等のセリウム含有粒子(砥粒)の製造方法として、湿式粉砕法や湿式解砕法等が知られている。しかし、湿式粉砕又は湿式解砕時にセリウム含有粒子からセリウムイオンが溶出することがある。砥粒由来のセリウムイオンが研磨液組成物に混入すると、研磨液組成物の保存中に砥粒由来のセリウムイオンが研磨液組成物中の添加剤と反応して錯体を形成し、析出物の発生や有効な添加剤量の低減による研磨性能の変動(例えば、研磨速度の変動)につながるという問題が生じる。とりわけ、研磨液組成物の濃縮物を製造し、それを希釈して使用する場合には、濃縮物の段階における析出物の発生が問題になる。そのため、研磨液組成物又はその濃縮物には、研磨性能の安定性が求められる。
【0007】
そこで、本開示は、安定した研磨性能を有する研磨液組成物又はその濃縮物、これを用いた半導体基板の製造方法及び基板の研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有する研磨液組成物又はその濃縮物であって、研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウムイオン量は125ppm以下である、研磨液組成物又はその濃縮物に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物の製造方法であって、セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有し、セリウムイオン量が125ppm以下である研磨液組成物の濃縮物を希釈する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物、又は、本開示の研磨液組成物の製造方法により研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法に関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の記載の研磨液組成物、又は、本開示の研磨液組成物の製造方法により研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、一態様において、安定した研磨性能を有する研磨液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、一態様において、所定のセリウム含有粒子とセリウムイオンに配位可能な化合物とを組み合わせることで、保存による析出物の発生を抑制し、又は、研磨速度の低下を抑制し、安定した研磨性能を維持できるという知見に基づく。
【0014】
すなわち、本開示は、一態様において、セリウム含有粒子(成分A)と、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)と、水とを含有する研磨液組成物又はその濃縮物であって、研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウムイオン量が125ppm以下である、研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)又はその濃縮物に関する。
【0015】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
セリウム含有粒子(成分A)は、分散化、粒子径調整を目的として、湿式粉砕が実施される。湿式粉砕は、粒子を溶媒(例えば、水)と混合した状態(スラリー)で粉砕又は解砕する方式であり、ビーズメディアによる衝突、粒子同士の衝突により分散化が進行する。この際、粒子表面は衝突による摩擦熱が発生すると考えられ、その熱によりセリウム含有粒子が溶解し、セリウムイオンがスラリー(セリウム含有粒子分散体)に混入すると考えられる。このようにして得られたセリウム含有粒子分散体を用い、セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)及び水を含有する研磨液組成物又はその濃縮物を作製すると、セリウム含有粒子由来のセリウムイオンと成分Bが研磨液組成物の保存中に徐々に反応し、錯体を形成する。これにより、析出物の発生や有効な添加剤量の低減による研磨性能の変動が発生すると考えられる。
本開示では、セリウムイオン量を所定値以下とすることで、研磨液組成物又はその濃縮物の保存中における析出物の発生や有効な添加剤量の低減による研磨性能の変動の発生を抑制できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
[セリウムイオン量]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウムイオン量は、析出物発生抑制および研磨性能安定性向上の観点から、125ppm以下であって、100ppm以下が好ましく、75ppm以下がより好ましい。セリウムイオン量は、セリウム含有粒子の湿式粉砕時の回転数調整、温度等により調整できる。セリウムイオン量は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0017】
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウム含有粒子(成分A)1gあたりのセリウムイオン量は、析出物発生抑制および研磨性能安定性向上の観点から、25ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましく、15ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が更に好ましい。セリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量は、一又は複数の実施形態において、研磨液組成物又はその濃縮物中のセリウム含有粒子1gあたりの溶存セリウムイオン量である。セリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0018】
[セリウム含有粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物は、研磨砥粒として、セリウム含有粒子(以下、単に「成分A」ともいう)を含有する。成分Aは、セリウムを含有する粒子であり、例えば、酸化セリウム(セリア)粒子、水酸化セリウム粒子、酸化セリウム被覆粒子(例えば、セリアコートシリカ)等が挙げられる。成分Aは、1種類でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0019】
成分Aの製造方法、形状、及び表面状態については特に限定されなくてもよい。
成分Aとしては、例えば、コロイダルセリア、不定形セリア、セリアコートシリカ等が挙げられる。
コロイダルセリアは、例えば、特表2010-505735号公報の実施例1~4に記載の方法で、ビルドアッププロセスにより得ることができる。
不定形セリアとしては、例えば、粉砕又は解砕セリアが挙げられる。粉砕又は解砕セリアの一実施形態としては、例えば、炭酸セリウムや硝酸セリウムなどのセリウム化合物を焼成、粉砕又は解砕して得られる焼成粉砕セリアが挙げられる。粉砕又は解砕セリアのその他の実施形態としては、例えば、無機酸や有機酸の存在下でセリア粒子を湿式粉砕又は湿式解砕することにより得られる単結晶粉砕セリア又は解砕セリアが挙げられる。湿式粉砕又は湿式解砕時に使用される無機酸としては、例えば硝酸が挙げられ、有機酸としては、例えば、カルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、具体的には、酢酸、プロピオン酸、ピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。湿式粉砕方法としては、例えば、遊星ビーズミル等による湿式粉砕が挙げられる。湿式解砕法としては、例えば、湿式ビーズミル、湿式高圧ジェットミル等による湿式解砕が挙げられる。
セリアコートシリカとしては、例えば、特開2015-63451号公報の実施例1~14もしくは特開2013-119131号公報の実施例1~4に記載の方法で、シリカ粒子表面の少なくとも一部が粒状セリアで被覆された構造を有する複合粒子が挙げられ、該複合粒子は、例えば、シリカ粒子にセリアを沈着させることで得ることができる。
【0020】
成分Aは、研磨性能安定性の観点から、湿式法で粉砕又は解砕された粒子であることが好ましく、湿式高圧ジェットミルで粉砕又は解砕された粒子であることがより好ましい。
【0021】
成分Aの形状としては、例えば、略球状、多面体状、ラズベリー状が挙げられる。
【0022】
成分Aの遠心沈降法による重量換算での粒子径D50は、研磨速度向上の観点から、50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、70nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ発生抑制の観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、120nm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの遠心沈降法による粒子径D50は、50nm以上200nm以下が好ましく、60nm以上150nm以下がより好ましく、70nm以上120nm以下が更に好ましい。
【0023】
本開示において、D50は、遠心沈降法により得られる重量換算での粒度分布において小径側からの累積頻度が50%となる粒径をいう。本開示において、遠心沈降法は、一又は複数の実施形態において、粒子を沈降速度差によってサイズごとに分級して検出する方法(ディスク遠心沈降光透過法)である。遠心沈降法による粒度分布は、例えば、ディスク遠心式粒子径分布測定装置(CPS Disc Centrifuge)を用いて測定できる。以下の説明において、遠心沈降法による粒度分布は「CPS測定による粒度分布」ということもある。具体的には、実施例に記載の測定方法により算出できる。
【0024】
成分Aの遠心沈降法による粒径分布を調整する方法としては、例えば、セリウム含有粒子の成長過程において、粒子成長時間、反応温度、粒子濃度等を調整する方法が挙げられる。成分Aの遠心沈降法による粒径分布を調整する方法の他の実施形態としては、例えば、その製造段階における粒子の成長過程で新たな核となる粒子を加えることにより所望の粒径分布を持たせる方法、異なる粒径分布を有する2種類以上の粒子を混合して所望の粒径分布を持たせる方法等が挙げられる。
【0025】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上、基板全面の平坦性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上が更に好ましく、そして、研磨傷発生抑制の観点から、5.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.5質量%以下がより好ましく、0.25質量%以上1.0質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0026】
[セリウムイオンに配位可能な化合物(成分B)]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物に含まれるセリウムイオンに配位可能な化合物(以下、単に「成分B」ともいう)は、研磨速度向上の観点から、例えば、芳香族化合物、炭化水素化合物等が挙げられる。芳香族化合物は、芳香族炭化水素であってもよいし、複素芳香族化合物であってもよい。芳香族化合物に含まれる芳香環は、単環でもよいし、2環以上の縮合環であってもよい。炭化水素化合物としては、例えば、飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物、脂環式炭化水素化合物が挙げられる。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0027】
成分Bは、研磨速度向上の観点から、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスフィン酸基及びヒドロキシル基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有することが好ましく、ホスフィン酸基及びヒドロキシル基の少なくとも一方の官能基を有することがより好ましい。
【0028】
成分Bとしては、研磨速度向上の観点から、含窒素複素芳香環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換された窒素含有複素芳香族化合物(以下、「成分B1」ともいう)、及び、ホスフィン酸基を有する芳香族化合物(以下、「成分B2」ともいう)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
(成分B1:窒素含有複素芳香族化合物)
含窒素複素芳香環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換された窒素含有複素芳香族化合物(成分B1)は、研磨速度向上の観点から、少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換された含窒素複素芳香環骨格を含むN-オキシド化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。上記の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
本開示において、N-オキシド化合物とは、一又は複数の実施形態において、N-オキシド基(N→O基)を有する化合物を示す。N-オキシド化合物は、N→O基を1又は2以上有することができ、入手容易性の点からは、N→O基の数は1つが好ましい。
本開示において、「少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換された含窒素複素芳香環骨格」とは、含窒素複素芳香環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換された構造を示す。
本開示において、成分B1の含窒素複素芳香環骨格に含まれる少なくとも1つの窒素原子がN-オキシドを形成する。成分B1に含まれる含窒素複素芳香環としては、一又は複数の実施形態において、単環又は2環の縮合環が挙げられる。成分B1に含まれる含窒素複素芳香環の窒素原子数としては、一又は複数の実施形態において、1~3個が挙げられ、研磨速度向上の観点から、1又は2個が好ましく、1個がより好ましい。
成分B1に含まれる含窒素複素芳香環骨格としては、一又は複数の実施形態において、ピリジンN-オキシド骨格、キノリンN-オキシド骨格等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本開示において、ピリジンN-オキシド骨格とは、ピリジン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。キノリンN-オキシド骨格とは、キノリン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。
成分B1としては、一又は複数の実施形態において、ピリジン環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されたピリジン環を有するN-オキシド化合物、キノリン環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されたキノリン環を有するN-オキシド化合物、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上の観点から、成分B1としては、ピリジン環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されたピリジン環を有するN-オキシド化合物又はその塩が好ましい。成分B1としては、例えば、2-ヒドロキシピリジンN-オキシド又はその塩が挙げられる。
【0030】
(成分B2:ホスフィン酸基を有する芳香族化合物)
ホスフィン酸基(-PH(=O)OH)を有する芳香環化合物(成分B2)としては、アリールホスフィン酸、アルキルアリールホスフィン酸等が挙げられ、溶解性の観点から、アリールホスフィン酸が好ましい。アリールホスフィン酸としては、例えば、フェニルホスフィン酸又はその塩等が挙げられる。上記の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0031】
成分Bは、研磨速度向上の観点から、ピリジン環の少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されたピリジン環を有するN-オキシド化合物又はその塩、及び、アリールホスフィン酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、2-ヒドロキシピリジンN-オキシド、フェニルホスフィン酸、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0032】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度変動抑制の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.0025質量%以上がより好ましく、0.005質量%以上が更に好ましく、そして、成分Aの分散安定性向上の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.0025質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0033】
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物中における成分Aと成分Bとの質量比A/B(成分Aの含有量/成分Bの含有量)は、研磨速度向上の観点から、1以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、そして、500以下が好ましく、250以下がより好ましく、150以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物又はその濃縮物中における質量比A/Bは、1以上500以下が好ましく、2.5以上250以下がより好ましく、5以上150以下が更に好ましい。
【0034】
[水]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、成分A、成分B、及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0035】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、例えば、pH調整剤、界面活性剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、防腐剤、塩基性物質、研磨速度向上剤等が挙げられる。
【0036】
[研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法]
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物は、一又は複数の実施形態において、少なくとも成分A、成分B及び水を配合してなる。本開示の研磨液組成物又はその濃縮物は、例えば、成分A及び水を含むセリウム含有粒子分散体(スラリー)と、成分Bと、必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。したがって、本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法であって、成分A及び水を含有するセリウム含有粒子分散体(スラリー)を調製する工程を含む、研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法(以下、「本開示の研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法」ともいう)に関する。本開示の研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法は、一又は複数の実施形態において、成分A及び水を含むセリウム含有粒子分散体(スラリー)と、成分Bと、必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を公知の方法で配合する工程を含む。成分Aが複数種類のセリウム含有粒子の組合せである場合、成分Aは、複数種類のセリウム含有粒子をそれぞれ配合することにより得ることができる。成分Bが複数種類の化合物の組合せである場合、成分Bは、複数種類の化合物をそれぞれ配合することにより得ることができる。
本開示において「配合する」とは、成分A、成分B及び水、並びに必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は特に限定されない。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示の研磨液組成物又はその濃縮物の製造方法における各成分の配合量は、上記又は下記の本開示の研磨液組成物又はその濃縮物中の各成分の含有量と同じとすることができる。
【0037】
本開示の研磨液組成物又はその濃縮物の製造に用いられるセリウム含有粒子分散体(スラリー)中のセリウム含有粒子(成分A)1gあたりのセリウムイオン量は、析出物発生抑制および研磨性能安定性向上の観点から、25ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましく、15ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が更に好ましい。本開示において、前記セリウムイオン量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析を用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0038】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。2液型の研磨液組成物としては、例えば、成分Aを含む第1液と、成分Bを含む第2液とから構成され、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第1液と第2液との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。第1液及び第2液はそれぞれ必要に応じて上述した任意成分を含有することができる。
【0039】
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から、1.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましく、そして、成分Aの分散安定性向上の観点から、10以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、7以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物のpHは、1.5以上10以下が好ましく、3以上8.5以下がより好ましく、3.5以上7以下が更に好ましい。本開示において、研磨液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0040】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、研磨時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点での前記各成分の含有量をいう。
【0041】
[研磨液組成物の濃縮物]
本開示の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、必要に応じて水で適宜希釈して研磨工程で使用することができる。濃縮倍率としては、体積基準で、5~100倍が好ましい。
本開示の研磨液組成物の濃縮物は、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B及び水を含有し、セリウムイオン量が125ppm以下である研磨液組成物の濃縮物であり、使用時に各成分の含有量が、上述した含有量(すなわち、使用時の含有量)となるように水で希釈して使用することができる。
本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物の濃縮物を希釈する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物の濃縮物の希釈物を用いてもよい。
本開示は、一又は複数の実施形態において、成分Aと成分Bと水とを含有し、セリウムイオン量が125ppm以下である研磨液組成物の濃縮物を希釈する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。
本開示の研磨液組成物が濃縮物である場合、本開示の研磨液組成物の濃縮物中の成分Aの含有量は、輸送コストの観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上が更に好ましく、そして、製品安定性の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物の濃縮物中の成分Aの含有量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、2.5質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
本開示の研磨液組成物の濃縮物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、そして、成分Bの溶解性の観点から、1質量%以下が好ましく、0.75質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物の濃縮物中の成分Bの含有量は、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.75質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。
本開示の研磨液組成物の濃縮物のpHは、研磨速度向上の観点から、1.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましく、そして、成分Aの分散安定性向上の観点から、10以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、7以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物の濃縮物のpHは、1.5以上10以下が好ましく、3以上8.5以下がより好ましく、3.5以上7以下が更に好ましい。本開示において、研磨液組成物の濃縮物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0042】
[被研磨膜]
本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨膜としては、例えば、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜が挙げられる。したがって、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜用研磨液組成物であり、酸化珪素膜の研磨を必要とする工程に使用できる。
一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、半導体基板の素子分離構造を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、層間絶縁膜を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、埋め込み金属配線を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、又は、埋め込みキャパシタを形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨に好適に使用できる。その他の一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元半導体装置の製造に好適に使用できる。
【0043】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水を含むセリウム含有粒子分散体(スラリー)と、成分Bを含む添加剤水溶液と、を相互に混合されない状態で含む、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記セリウム含有粒子分散体と前記添加剤水溶液とは、使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈される。前記セリウム含有粒子分散体に含まれる水は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液には、研磨液組成物の調製に使用する水の一部が含まれていてもよい。前記セリウム含有粒子分散体及び前記添加剤水溶液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(その他の成分)が含まれていてもよい。
本開示の研磨液キットによれば、安定した研磨性能を有する研磨液組成物を得ることができる。
【0044】
[研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物、又は、本開示の研磨液組成物の製造方法により製造された研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法(以下、本開示の研磨方法ともいう)に関する。被研磨膜としては、上述した本開示の研磨液組成物における被研磨膜が挙げられる。本開示の研磨方法を使用することにより、安定した研磨性能を有する研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨できるため、品質が向上した半導体基板の生産性を向上できるという効果が奏されうる。本開示の研磨方法における研磨の方法及び条件は、後述する本開示の半導体基板の製造方法と同じようにすることができる。
【0045】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物、又は、本開示の研磨液組成物の製造方法により製造された研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板の製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板の製造方法は、例えば、本開示の研磨液組成物を用いて、酸化珪素膜の窒化珪素膜と接する面の反対面、例えば、酸化珪素膜の凹凸段差面を研磨する工程を含む、半導体装置の製造方法に関する。本開示の半導体装置の製造方法によれば、安定した研磨性能を有する研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨できるため、半導体装置を効率よく製造できるという効果が奏されうる。
【0046】
酸化珪素膜の凹凸段差面は、例えば、酸化珪素膜を化学気相成長法等の方法で形成した際に酸化珪素膜の下層の凹凸段差に対応して自然に形成されものであってもよいし、リソグラフィー法等を用いて凹凸パターンを形成することにより得られたものであってもよい。
【0047】
本開示の半導体基板の製造方法の具体例としては、まず、シリコン基板を酸化炉内で酸素に晒すことよりその表面に二酸化シリコン層を成長させ、次いで、当該二酸化シリコン層上に窒化珪素(Si3N4)膜又はポリシリコン膜等の研磨ストッパ膜を、例えばCVD法(化学気相成長法)にて形成する。次に、シリコン基板と前記シリコン基板の一方の主面側に配置された研磨ストッパ膜とを含む基板、例えば、シリコン基板の二酸化シリコン層上に研磨ストッパ膜が形成された基板に、フォトリソグラフィー技術を用いてトレンチを形成する。次いで、例えば、シランガスと酸素ガスを用いたCVD法により、トレンチ埋め込み用の被研磨膜である酸化珪素(SiO2)膜を形成し、研磨ストッパ膜が被研磨膜(酸化珪素膜)で覆われた被研磨基板を得る。酸化珪素膜の形成により、前記トレンチは酸化珪素膜の酸化珪素で満たされ、研磨ストッパ膜の前記シリコン基板側の面の反対面は酸化珪素膜によって被覆される。このようにして形成された酸化珪素膜のシリコン基板側の面の反対面は、下層の凸凹に対応して形成された段差を有する。次いで、CMP法により、酸化珪素膜を、少なくとも研磨ストッパ膜のシリコン基板側の面の反対面が露出するまで研磨し、より好ましくは、酸化珪素膜の表面と研磨ストッパ膜の表面とが面一になるまで酸化珪素膜を研磨する。本開示の研磨液組成物は、このCMP法による研磨を行う工程に用いることができる。酸化珪素膜の下層の凹凸に対応して形成された凸部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下であり、凹部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下である。
【0048】
CMPによる研磨では、被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で、本開示の研磨液組成物をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面の凹凸部分を平坦化させる。
なお、本開示の半導体基板の製造方法において、シリコン基板の二酸化シリコン層と研磨ストッパ膜との間に他の絶縁膜が形成されていてもよいし、被研磨膜(例えば、酸化珪素膜)と研磨ストッパ膜(例えば、窒化珪素膜)との間に他の絶縁膜が形成されていてもよい。
【0049】
前記研磨工程において、研磨パッドの回転数は、例えば、30~200rpm/分、被研磨基板の回転数は、例えば、30~200rpm/分、研磨パッドを備えた研磨装置に設定される研磨荷重は、例えば、20~500g重/cm2、研磨液組成物の供給速度は、例えば、10~500mL/分以下に設定できる。研磨液組成物が2液型研磨液組成物の場合、第1液及び第2液のそれぞれの供給速度(又は供給量)を調整することで、被研磨膜の研磨速度を調整できる。
【0050】
前記研磨工程において、被研磨膜(酸化珪素膜)の研磨速度は、生産性向上の観点から、50nm/分以上が好ましく、80nm/分以上がより好ましく、90nm/分以上が更に好ましい。
【実施例0051】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0052】
1.各パラメータの測定方法
[研磨液組成物又はその濃縮物のpH]
研磨液組成物又はその濃縮物の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜電波工業社製、「HM-30G」)を用いて測定した値であり、pHメータの電極を研磨液組成物又はその濃縮物へ浸漬して1分後の数値である。
【0053】
[セリウム含有粒子の遠心沈降法(CPS測定)によるD50の測定方法]
セリウム含有粒子をイオン交換水で希釈し、セリウム含有粒子を0.5質量%含有する分散液を調製して試料とし、下記測定装置を用いて遠心沈降法による粒度分布を測定した。遠心沈降法により得られる重量換算での粒度分布において小径側からの累積頻度が50%となる粒径を平均粒子径とした。
<測定条件>
測定範囲:0.02~3μm
粒子の消衰係数:0.1
粒子の形状因子:1.2 or 1.0
回転数:17,000rpm
測定温度:25℃
【0054】
[セリウムイオン濃度]
各セリウム含有粒子サンプル(表1に示すセリウム含有粒子分散体)20gを高速遠心分離機(ベックマンコールター社製)により、25000rpm、30分の条件で遠心分離し、上澄みを分取した。その後、上澄みを超純水で200倍希釈し、マルチ型ICP発光装置Afilent 5110 ICP-OES(Agilent Technology社製)を用いて下記の条件で測定した。表1中のセリウムイオン濃度は実測値のセリウムイオン濃度を50倍(A-3のみ100倍)にしてセリウムイオン濃度とした。表1に示すセリウムイオン濃度は、セリウム含有粒子濃度を5質量%に希釈した際の溶解セリウムイオン濃度であり、表2に示す研磨液組成物の濃縮物中のセリウムイオン量とみなすことができる。
<測定条件>
測定元素:Ce(418.659nm)
Ce検量線用標準液濃度:0.2、0.5、1.0、5.0、10.0ppm
【0055】
[セリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量]
上記より求めたセリウムイオン濃度を研磨液組成物中のセリウム含有粒子の質量で除することにより、セリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量を算出した。表1に示すセリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量は、表2に示す研磨液組成物の濃縮物中のセリウム含有粒子1gあたりのセリウムイオン量とみなすことができる。
【0056】
2.セリウム含有粒子分散体A-1~A-7の調製
表1に示すセリウム含有粒子分散体A-1~A-7の製造例を以下に示す。
[セリウム含有粒子分散体A-1の製造例]
硝酸セリウムを出発原料として得られた高純度酸化セリウム粉末を200g、酢酸を20g、超純水を780g混合し、下記条件にて湿式ビーズミル(アシザワファインテック製、ラボスターミニ)で分散化処理を実施することにより、セリウム含有粒子分散体A-1を得た。
<解砕条件>
ビーズ:ジルコニア(0.1um)
回転数:8rpm
処理時間:5分
チラー温度:20℃
[セリウム含有粒子分散体A-2の製造例]
湿式ビーズミルの回転数を10rpmすること以外は、セリウム含有粒子分散体A-1と同様の処理を実施し、セリウム含有粒子分散体A-2を得た。
[セリウム含有粒子分散体A-3の製造例]
酸化セリウムの濃度を10質量%にすること以外は、セリウム含有粒子分散体A-1と同様の処理を実施し、セリウム含有粒子分散体A-3を得た。
[セリウム含有粒子分散体A-4の製造例]
硝酸セリウムを出発原料として得られた高純度酸化セリウム粉末を200g、酢酸を20g、超純水を780g混合し、下記条件にて湿式高圧ジェットミル(スギノマシン製、スターバーストラボ)で分散化処理を実施することにより、セリウム含有粒子分散体A-4を得た。
<解砕条件>
圧力:200MPa
パス回数:10回
チラー温度:20℃
[セリウム含有粒子分散体A-5の製造例]
湿式高圧ジェットミルの圧力を150MPaにすること以外は、セリウム含有粒子分散体A-4と同様の処理を実施し、セリウム含有粒子分散体A-5を得た。
[セリウム含有粒子分散体A-6の製造例]
湿式ビーズミルの回転数を10rpm、処理時間を10分にすること以外は、セリウム含有粒子分散体A-1と同様の処理を実施し、セリウム含有粒子分散体A-6を得た。
[セリウム含有粒子分散体A-7の製造例]
湿式ビーズミルの回転数を12rpmすること以外は、セリウム含有粒子分散体A-1と同様の処理を実施し、セリウム含有粒子分散体A-7を得た。
【0057】
【0058】
3.研磨液組成物の調製(実施例1~6及び比較例1~4)
セリウム含有粒子(成分A)の分散体(表1に示すセリウム含有粒子分散体A-1~A-7)、表2に示す化合物(成分B)及び水を混合し、研磨液組成物の濃縮物(濃縮倍率:10倍)を作製した。各濃縮物中の各成分の含有量(有効量、質量%)は、表2に示すとおりである。前記濃縮物中の水の含有量は、成分Aと成分Bとを除いた残余である。前記濃縮物の25℃におけるpHは4.5であった。
その後、超純水にて、研磨液濃縮物を10倍に希釈し、表2に示す実施例1~6及び比較例1~4の研磨液組成物を得た。各研磨液組成物中の各成分の含有量(有効量、質量%)は、表2に示すとおりである。前記研磨液組成物中の水の含有量は、成分Aと成分Bとを除いた残余である。
実施例1~6及び比較例1~4の研磨液組成物の25℃におけるpHは5であった。pH調整は必要に応じてアンモニアもしくは硝酸を用いて実施した。
【0059】
各研磨液組成物の調製に用いた成分Bの詳細は下記に示すとおりである。
B-1:2-ヒドロキシピリジンN-オキシド(東京化成工業株式会社製)
B-2:フェニルホスフィン酸(東京化成工業株式会社社製)
【0060】
4.研磨液組成物(実施例1~6及び比較例1~4)の評価
(1)研磨液組成物の濃縮物の保存安定性
調製した研磨液組成物の濃縮物を透明のポリプロピレン容器に入れ、40℃の恒温槽に1週間静置した。その後、研磨液組成物の濃縮物を取り出し、外観検査を行うと主に、研磨評価を行い、濃縮物の保存安定性の評価を実施した。
【0061】
(2)酸化珪素膜の研磨速度及び変化率
実施例1~6及び比較例1~4の研磨液組成物(作製直後、又は、保存後)を用いて、下記研磨条件で下記試験片を研磨した。なお、「保存後」とは、上記(1)の保存方法で40℃、1週間保存した後の濃縮物を用いて調製した研磨液組成物を示す。「作製直後」とは、濃縮物の保存(40℃、1週間)を行わずに調製した研磨液組成物を示す。
研磨前及び研磨後において、光干渉式膜厚測定装置(SCREENセミコンダクターソリューションズ社製「VM-1230」)を用いて、酸化珪素膜又は窒化珪素膜の膜厚を測定した。結果を表2に示した。
酸化珪素膜(被研磨膜)の研磨速度は下記式により算出した。
酸化珪素膜の研磨速度(nm/分)
=[研磨前の酸化珪素膜厚さ(nm)-研磨後の酸化珪素膜厚さ(nm)]/研磨時間(分)
研磨速度の変化率は下記式により算出した。
変化率(%)=[(保存後の研磨速度)-(作製直後の研磨速度)]/(保存後の研磨速度)×100
【0062】
[試験片]
試験片には、シリコンウェーハの片面に、TEOS-プラズマCVD法で厚さ2000nmの酸化珪素膜(ブランケット膜)を形成したものから、40mm×40mmの正方形片を切り出したものを使用した。
【0063】
[研磨条件]
研磨装置:片面研磨機[TriboLab CMP、Bruker社製]
研磨パッド:硬質ウレタンパッド「IC-1000/Suba400、ニッタ・デュポン社製]
定盤回転数:100rpm
ヘッド回転数:107rpm
研磨荷重:350g重/cm2
研磨液供給量:50mL/分
研磨時間:1分間
【0064】
【0065】
表2に示されるように、濃縮物中のセリウムイオン量が125ppm以下である実施例1~6は、濃縮物中のセリウムイオン量が125ppmを超える比較例1~3に比べて、濃縮物の保存安定性に優れ、研磨性能の変動が少ない(濃縮物の保存による研磨速度の変化率が少ない)ことから、安定した研磨性能を有する研磨液組成物であることがわかった。実施例1は、成分Bを含まない比較例4に比べて、研磨速度を向上でき、安定した研磨性能を有する研磨液組成物であることがわかった。