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特開2024-85800表面温度測定方法及び表面温度測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085800
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】表面温度測定方法及び表面温度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/04 20060101AFI20240620BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20240620BHJP
   G01J 5/05 20220101ALI20240620BHJP
【FI】
G01J5/04
G01J5/00 101B
G01J5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200538
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】知北 大輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 竜二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 雅人
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC11
2G066BA30
2G066BB15
(57)【要約】
【課題】測温の阻害因子を排除して被測温鋼材の表面温度を安定して測定することを可能にする。
【解決手段】放射温度計により被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定方法であって、放射温度計は、光学窓を有する筐体内に配置され、放射温度計の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度を60°以下とし、光学窓は、放射温度計の光軸上に配置されており、重力方向に対する傾斜角度を30°以上90°以下として、光学窓を、当該光学窓の上方から下方へ流動する液体の膜で被覆して、被測温鋼材の表面温度を測定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射温度計により被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定方法であって、
前記放射温度計は、
光学窓を有する筐体内に配置され、
前記放射温度計の光軸と前記被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度を60°以下とし、
前記光学窓は、
前記放射温度計の光軸上に配置されており、
重力方向に対する傾斜角度を30°以上90°以下として、
前記光学窓を、当該光学窓の上方から下方へ流動する液体の膜で被覆して、前記被測温鋼材の表面温度を測定する、表面温度測定方法。
【請求項2】
前記液体の膜は、水膜である、請求項1に記載の表面温度測定方法。
【請求項3】
前記光学窓の上方から下方へ流動する液体の流速は、0.03m/sec以上0.20m/sec以下である、請求項1または2に記載の表面温度測定方法。
【請求項4】
前記放射温度計は、当該放射温度計の光軸と前記筐体の中心線とを平行にして、前記筐体内に配置されている、請求項1または2に記載の表面温度測定方法。
【請求項5】
被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定装置であって、
放射温度計と、
前記放射温度計を収容し、光学窓を有する筐体と、
前記光学窓に液体の膜を形成する液体膜形成機構と、
を備え、
前記光学窓は、
前記放射温度計の光軸上に配置され、
重力方向に対する傾斜角度が30°以上90°以下であり、
前記液体膜形成機構は、前記光学窓に対して液体を供給し、前記光学窓を当該光学窓の上方から下方へ流動する液体の膜で被覆する、表面温度測定装置。
【請求項6】
前記液体膜形成機構は水を供給し、前記光学窓を水膜で被覆する、請求項5に記載の表面温度測定装置。
【請求項7】
前記光学窓の上方から下方へ流動する液体の流速は、0.03m/sec以上0.20m/sec以下である、請求項5または6に記載の表面温度測定装置。
【請求項8】
前記放射温度計の光軸と前記筐体の中心線とは平行である、請求項5または6に記載の表面温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計により被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定方法及び表面温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインの仕上圧延工程等において、パスライン上を移動する鋼板の測温は、蒸気や水滴、スケール破片、機械油等が阻害因子となり容易ではない。このため、従来から、これらの影響を排除し、被測温鋼材の表面温度を測定する方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、放射温度計によりスプレーゾーンでの熱間圧延材裏面を測温する温度測定装置が開示されている。特許文献1の温度測定装置は、鋼板の下方でかつ搬送テーブルローラ間において、鋼板裏面に高圧空気を吹き付けて測温する。また、特許文献2には、水冷熱処理における鋼板の表面温度を測定する際に、光路に水柱を形成して水以外の影響を排除し、悪環境下での測温を実現する、鋼板の表面温度測定装置が開示されている。さらに、特許文献3には、被測温鋼材の下面に対向配置され、上端開口部から水を放出するノズルと、ノズル内に配置され、水を介して被測温鋼材の下面から放射された熱放射光を検出する放射温度計と、ノズルに配置され、放射温度計を水から隔離するための光学窓と、を備える表面温度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平06-028665号公報
【特許文献2】特開平09-316544号公報
【特許文献3】特開2012-021827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1のように高圧空気を用いて阻害因子を排除した場合、排除できる阻害因子の量に限界があり、正確な測温は難しい。また、上記特許文献2に記載の装置では、表面温度測定装置と被測温鋼材との距離を近づける必要があり、装置の設置に制約がある。また、鋼板の水柱が当たっている場合にはその部分が過冷却され、安定した測温が難しい。さらに、上記特許文献3に記載の表面温度測定装置では、ノズルの上端開口部から水を放出するため、水面の揺らぎにより視野がばらつく可能性がある。このため、安定した測温は難しい。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、測温の阻害因子を排除して被測温鋼材の表面温度を安定して測定することが可能な、表面温度測定方法及び表面温度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、放射温度計により被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定方法であって、放射温度計は、光学窓を有する筐体内に配置され、放射温度計の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度を60°以下とし、光学窓は、放射温度計の光軸上に配置されており、重力方向に対する傾斜角度を30°以上90°以下として、光学窓を、当該光学窓の上方から下方へ流動する液体の膜で被覆して、被測温鋼材の表面温度を測定する、表面温度測定方法が提供される。
【0008】
液体の膜は、水膜であってもよい。
【0009】
また、光学窓の上方から下方へ流動する液体の流速は、0.03m/sec以上0.20m/sec以下としてもよい。
【0010】
放射温度計は、当該放射温度計の光軸と筐体の中心線とを平行にして、筐体内に配置されてもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被測温鋼材の表面温度を測定する表面温度測定装置であって、放射温度計と、放射温度計を収容し、光学窓を有する筐体と、光学窓に液体の膜を形成する液体膜形成機構と、を備え、放射温度計の光軸と筐体の中心線とは平行であり、光学窓は、放射温度計の光軸上に配置され、重力方向に対する傾斜角度が30°以上90°以下であり、液体膜形成機構は、光学窓に対して液体を供給し、光学窓を当該光学窓の上方から下方へ流動する液体の膜で被覆する、表面温度測定装置が提供される。
【0012】
液体膜形成機構は水を供給し、光学窓を水膜で被覆してもよい。
【0013】
光学窓の上方から下方へ流動する液体の流速は、0.03m/sec以上0.20m/sec以下としてもよい。
【0014】
放射温度計の光軸と筐体の中心線とは平行であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、測温の阻害因子を排除して被測温鋼材の表面温度を安定して測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る表面温度測定装置の一設置例を示す説明図である。
図2】同実施形態に係る表面温度測定装置の構成を示す概略断面図である。
図3】測定角度θの定義を示す説明図である。
図4】熱延鋼板における測定角度θと放射率との一関係例を示すグラフである。
図5】光学窓の傾斜角度αと放射温度計の測定誤差との一関係例を示すグラフである。
図6】光学窓の傾斜角度αが30°未満の場合における、光学窓を被覆する液体の膜の様子を示す模式図である。
図7】光学窓の傾斜角度αが90°付近の場合における、光学窓を被覆する液体の膜の様子を示す模式図である。
図8】光路図を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[1.温度測定装置]
まず、図1及び図2に基づいて、本発明の一実施形態に係る表面温度測定装置100の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係る表面温度測定装置100の一設置例を示す説明図である。図2は、本実施形態に係る表面温度測定装置100の構成を示す概略断面図である。
【0019】
本実施形態に係る表面温度測定装置100は、被測温鋼材の表面温度を測定する装置である。表面温度測定装置100は、例えば、熱間圧延ラインの仕上圧延工程において、パスライン上を移動する鋼板の下面の表面温度を測定する。仕上圧延工程では、複数の圧延スタンドからなるタンデム圧延機によって鋼板を圧延する。
【0020】
例えば図1に示すように、タンデム圧延機の一部を構成する圧延スタンドA、Bは、圧延方向に配列され、それぞれ一対のワークロール11、12と一対のバックアップロール13、14とを備えている。圧延スタンドA、Bの間には、テーブルロール21、22が配置されている。鋼板Sは、圧延スタンドAのワークロール11、12間を通過した後、テーブルロール21、22に支持されながら後段の圧延スタンドBへ搬送される。本実施形態に係る表面温度測定装置100は、例えばテーブルロール21、22間のパスライン下側に設置され、パスライン上を移動する鋼板Sの下面の表面温度を測定する。表面温度測定装置100が設置されるタンデム圧延機のパスライン下側では、冷却水や機械油等が飛散している。
【0021】
本実施形態に係る表面温度測定装置100は、図2に示すように、放射温度計110と、筐体120と、液体膜形成機構130と、を備える。
【0022】
放射温度計110は、非接触式の温度センサである。放射温度計110は、被測温鋼材の表面から放出される赤外線等の熱放射光を受光部115から受光し、検出素子にて熱放射光のエネルギーを検出することにより、被測温鋼材の表面を測定する。放射温度計110として、例えば、水の影響を受けにくい波長で構成された放射温度計を用いてもよい。
【0023】
筐体120は、放射温度計110を収容し、冷却水や機械油等から放射温度計110を保護する。筐体120は、例えばステンレス鋼からなる。放射温度計110は、例えば、その光軸が筐体120の中心線Cと平行となるように、筐体120の内部に固定される。後述するように、光学窓125が筐体120の中心線C上にあることから、放射温度計110の光軸と筐体120の中心線Cとを平行にすることで、測温が可能となる。また、被測温鋼材の表面に対する筐体120の中心線Cの角度を調整すれば、被測温鋼材の表面に対する放射温度計110の光軸の角度も同様の角度となるため、表面温度測定装置100の設置位置を容易に調整することができる。
【0024】
筐体120の中心線C上にある上面121には、光学窓125が設けられている。光学窓125は、例えば石英ガラス等からなり、筐体120の内部の放射温度計110の光軸上に配置されている。これにより、筐体120の内部の放射温度計110が、光学窓125を介して、被測温鋼材の表面から放出される熱放射光を受光部115にて受光することができる。光学窓125の厚さは、光学窓125の耐久性や光の吸収性等を考慮して適宜設定すればよい。例えば、光学窓125の厚さは、5mm程度であってもよい。光学窓125は、表面温度測定装置100が被測温鋼材の測温位置に設置された状態で、重力方向gに対して30°以上90°以下の傾斜角度αを有している。
【0025】
液体膜形成機構130は、光学窓125に液体Lの膜を形成する。液体膜形成機構130は、例えば、光学窓125に対して液体Lを供給するノズルと、液体供給装置(図示せず。)から供給される液体Lをノズルへ輸送する配管とからなる。ノズルは、重力方向gに対して傾斜する光学窓125の上部側に配置される。液体膜形成機構130は、光学窓125に対して液体Lを供給して、光学窓125を、当該光学窓125の上方から下方へ流動する液体Lの膜で被覆する。
【0026】
[2.被測温鋼材の表面温度測定方法]
本実施形態に係る被測温鋼材の表面温度測定方法では、図2に示した表面温度測定装置100を用いて、被測温鋼材の表面温度を測定する。このとき、表面温度測定装置100は、筐体120の内部に収容された放射温度計110の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度(以下、測定角度θともいう。)が60°以下となるように設置される。また、筐体120の光学窓125が重力方向に対して30°以上90°以下の傾斜角度αを有するようにする。そして、液体膜形成機構130から液体Lを供給して、光学窓125を、当該光学窓125の上方から下方へ流動する液体Lの膜で被覆し、放射温度計110により被測温鋼材の表面温度を測定する。
【0027】
表面温度測定装置100の光学窓125の表面に常時、流動する液体により液体膜を形成することで、光学窓125を冷却水や機械油等の測温の阻害因子から保護し、悪環境下でも精度の高い測温を長時間行うことを可能にする。以下、本実施形態に係る被測温鋼材の表面温度測定方法の要件について、詳細に説明する。
【0028】
(1)放射温度計の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度(測定角度θ)
まず、放射温度計110の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度(測定角度θ)は60°以下とする。例えば図1に示したように、熱間圧延ラインの仕上圧延工程において、パスライン上を移動する鋼板Sの下面の表面温度を測定する場合、図3に示すように、放射温度計110の光軸と鋼板Sの下面Sbの法線方向Nとのなす角度が、測定角度θとなる。
【0029】
かかる要件は、放射温度計110の特性上必要であり、放射温度計110として単色放射温度計を用いた場合に、測定角度θが60°以下であれば放射率の角度依存性によるズレはほとんど生じないことから、測温精度を確保することができる。なお、放射温度計110として2色放射温度計を用いた場合は、放射率の角度依存性によるズレはより小さい。
【0030】
光学的に滑らかな面の金属放射率の角度依存性は、マクスウェルの電磁理論により理論的に説明できる。金属放射率の角度依存性の一例として、図4に、熱延鋼板における測定角度θと放射率εθ/εnとの関係を示す。εnは垂直放射率(すなわち、測定角度θ=0°での放射率)である。εθは、0~1の値を取る。
【0031】
一般的に金属表面を測温する場合、図4に示すように、放射温度計110の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度によって放射率が変化する。測定角度θが60°を超えると急激に放射率が低下していくことから、測定角度θは60°以下とする。図4に示すように、測定角度θが0°~60°の範囲では放射率に大きな変動はないため、測定角度θはかかる範囲内であればよい。測定角度θは、好ましくは50°以下、さらに好ましくは40°以下である。
【0032】
(2)光学窓の傾斜角度α
光学窓125の傾斜角度αは、30°以上90°以下とする。図5に、光学窓の傾斜角度αと放射温度計110の測定誤差との一関係を示す。放射温度計110の測定誤差は、被測温鋼材の表面温度を熱電対で測定したときの値を正値として、熱電対による測定値と放射温度計による測定値との差分により表している。
【0033】
図5より、例えば図6に示すように光学窓125の傾斜角度αが小さく30°未満の場合には、光学窓125上を流れる液体Lの速度が速くなり、液体Lの膜の安定性が低下する。その結果、液体Lの膜による光学窓125のレンズ保護効果が低下し、表面温度の測定誤差が増大する。一方、光学窓125の傾斜角度αを30°以上とすれば、液体Lの膜が流動し難くなる。例えば図7に示すように、光学窓125の傾斜角度αを大きくして90°に近づけると、光学窓125上に液体Lの膜が安定して形成されるようになる。したがって、光学窓125の傾斜角度αは、30°以上90°以下とする。
【0034】
(3)液体の膜による光学窓の被覆
本実施形態に係る被測温鋼材の表面温度測定方法では、液体膜形成機構130から液体Lを供給して、光学窓125を、当該光学窓125の上方から下方へ流動する液体Lの膜で被覆し、放射温度計110により被測温鋼材の表面温度を測定する。例えば、表面温度測定装置100が設置されるタンデム圧延機のパスライン下側では、冷却水や機械油、スケール等が飛散している。これらは表面温度測定の阻害因子となる。このような阻害因子を排除するため、光学窓125の表面を液体Lで常時被覆して、冷却水や機械油、スケール等の付着を防止する。また、光学窓125上で液体Lを流動させて常に交換することで、膜を形成する液体Lの清浄度を維持することができる。さらに、光学窓125を液体Lの膜で被覆することで、筐体120が冷却される。その結果、筐体120の内部に収容されている放射温度計110を冷却することができ、放射温度計110の故障を防止することができる。
【0035】
光学窓125の被覆に用いる液体Lは、粘度が0.2~2000mPa.s程度の液体であることが好ましい。また、液体Lは、放射温度計110の測定波長の光を吸収しにくいことが望ましい。液体Lとしては、例えば水を用いてもよい。水は、工業的に供給が容易で安価であるため、使用に適している。
【0036】
また、液体Lの膜の厚み偏差(=液体Lの膜内での膜厚最大値-膜厚最小値)は、視野の安定性につながり、液体Lの膜の厚み偏差は小さいほどよい。筐体120と被測温鋼材の表面の距離が近い状態では、液体Lの膜の厚み偏差が大きいと視野ブレが生じ、放射温度計110の測定値の安定性が低下する。例えば、液体Lの膜の厚み偏差は5mm以下とするのが好ましい。液体Lの膜の厚み偏差を5mm以下とすることで、水膜-空気界面での屈折が顕著となるのを抑制できる。その結果、放射温度計110の測定視野が大きく乱れることなく、測定位置と異なる位置の測定を行うことを防止できる。
【0037】
さらに、光学窓の上方から下方へ流動する液体Lの流速は、0.03m/sec以上0.20m/sec以下とするのがよい。流体Lの流速は、液体Lの膜の安定性に直接影響を及ぼす。液体Lの流速を0.03m/sec以上とすることで、光学窓125が部分的に露出することなく、光学窓125全体に均一に液体Lの膜を形成することができる。その結果、光学窓125を安定的に保護することができる。また、液体Lの流速を0.20m/sec以下とすることで、液体Lの膜の厚み偏差が増大し過ぎることがなく、放射温度計110の測定視野を安定させることができる。液体Lの流速は、例えば、液体膜形成機構130から供給する液体Lの流量、光学窓125の傾斜角度α等により制御することができる。
【0038】
(4)被測温鋼材の表面と放射温度計の距離(検出面積)の関係
一般的に、放射温度計110と被測温鋼材の距離は、測定の目的に応じて決定するのが望ましい。放射温度計110には、機種ごとに、図8に示すような測定距離と視野径(すなわち、放射温度計110により測定可能範囲)との関係を表す光路図が提供されている。当該光路図に基づいて、被測温鋼材の表面から放射温度計110まで距離を設定し、測温することが望ましい。
【0039】
以上、本発明の一実施形態に係る被測温鋼材の表面温度測定方法とこれに用いる表面温度測定装置100について説明した。本実施形態によれば、光学窓125を有する筐体120内に放射温度計110を収容した表面温度測定装置100を、放射温度計110の光軸と被測温鋼材の表面の法線方向とのなす角度が60°以下となるように設置する。このとき、光学窓125は、放射温度計110の光軸上に配置されており、重力方向に対する傾斜角度を30°以上90°以下とする。そして、光学窓125を、当該光学窓125の上方から下方へ流動する液体Lの膜で被覆して、被測温鋼材の表面温度を測定する。これにより、光学窓125が常時、液体Lの膜で被覆され、冷却水や機械油、スケール等の付着を防止することができる。その結果、被測温鋼材の表面温度を安定して測定することができる。
【実施例0040】
熱間圧延ラインの仕上圧延工程において、図1に示したようにパスライン下側に表面温度測定装置を設置し、パスライン上を移動する鋼板の下面の表面温度を測定した。表面温度測定装置は、図2に示したように、筐体の内部に放射温度計を収容し固定した。筐体の上面には傾斜した光学窓を配置し、光学窓の表面を流動する水膜により被覆して、鋼板の下面の表面温度を測定した。水の流速は、0.05m/secとした。
【0041】
<実施例A:表面温度測定装置による表面温度の測定誤差と光学窓の汚染状況>
放射温度計の光軸と筐体の中心線との関係、光軸と鋼板の下面の法線方向とのなす角度(測定角度θ)、光学窓の重力方向に対する傾斜角度(傾斜角度α)、光学窓の液体膜被覆の有無について水準を振り、表面温度測定装置を圧延スタンド間に設置し、1週間操業を行った。その後、表面温度測定装置を回収し、放射温度計を収容した筐体を所定の測定角度θに設定した黒体炉で検定した。黒体炉の設定値と放射温度計の測定値との差の絶対値を表面温度の測定誤差として求めた。また、表面温度測定装置を回収したときの光学窓の汚染状況を目視観察により評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
なお、表面温度の測定誤差及び光学窓の汚染状況の評価基準は、以下の通りとした。
(表面温度の測定誤差の評価基準)
測定誤差5℃以内:誤差なし
測定誤差5~10℃:許容範囲
測定誤差10℃以上:誤差あり
(光学窓の汚染状況の評価基準)
汚れあり:光学窓の表面にスケール紛や機械油等が明らかに視認できる
汚れなし:光学窓の表面にスケール紛や機械油等が視認できない
【0043】
【表1】
【0044】
表1より、実施例A1~A8のように、放射温度計の測定角度を60°以下とし、光学窓の傾斜角度を30°以上90°以下として、光学窓を水膜により被覆した状態で測温した場合、表面温度の測定誤差は10℃以下の許容範囲内となり、光学窓の汚染も確認されなかった。
【0045】
一方、比較例a1では、放射温度計の光軸と筐体の中心線とが垂直であり、放射温度計の光軸上に光学窓がないため、鋼板の下面の表面温度の測定ができなかった。また、比較例a2では、放射温度計の測定角度が60°を超えていたため、表面温度の測定誤差が10℃を超えた。比較例a3、a4は光学窓の傾斜角度が30°未満であったため、表面温度の測定誤差が10℃を超え、かつ、光学窓の汚染が確認された。比較例a5では光学窓を水膜により覆わなかったため、表面温度の測定誤差が著しく大きくなり、光学窓の汚染も確認された。
【0046】
<実施例B:光学窓の液体による被覆>
実施例A8の条件において、光学窓を被覆する液体の種類及びその厚み偏差を変化させ、表面温度の測定誤差と光学窓の汚染状況とを評価した。液体としては、アルコールと水を用いた。また、液体として水を用いた場合では、液体の膜の厚み偏差を5mmとした場合と、1mmとした場合とについて評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2より、液体としてアルコールを用いた実施例B1と、水を用いた実施例B2、B3とでは、いずれも表面温度の測定誤差は10℃以内であったが、水の方が小さい結果となった。これは、液体の種類により、熱放射光の吸収波長が異なることに起因する。また、実施例B2よりも水の厚み偏差が小さい実施例B3の方が、さらに表面温度の測定誤差が小さい結果となった。
【0049】
<実施例C:液体の流速>
実施例B2、B3の条件において、光学窓を被覆する液体(水)の流速を0.03~0.20m/secの間で変化させ、表面温度の測定誤差と光学窓の汚染状況とを評価した。その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
実施例C1~C3から、流速を増加させると、水膜が乱れやすくなり、厚み偏差が増加する。実施例C1から、0.03m/sec程度あれば光学窓の汚染保護効果は十分に得られるが、実施例C3に比べると、水膜の安定性は僅かに減少する。表面温度測定装置を長期設置のための水膜の安定性等を考慮すると、液体の流速は0.05m/sec程度が最適と考えられる。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えば、上記実施形態では、表面温度測定装置により被測温鋼材の下面を測定する場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、被測温鋼材が鉛直方向に移動する場合には、被測温鋼材の側面を表面温度測定装置により測定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
11、12 ワークロール
13、14 バックアップロール
21、22 テーブルロール
100 表面温度測定装置
110 放射温度計
115 受光部
120 筐体
121 上面
125 光学窓
130 液体膜形成機構
S 鋼板
L 液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8