(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085801
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離材、二酸化炭素を分離または回収する方法
(51)【国際特許分類】
C07D 241/04 20060101AFI20240620BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240620BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20240620BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240620BHJP
【FI】
C07D241/04 CSP
B01D53/14 100
B01D53/047
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200539
(22)【出願日】2022-12-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/大気中からの高効率CO2分離回収・炭素循環技術の開発」委託事業(事業期間、2020年度から2022年度)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリ フィロツ アラム
(72)【発明者】
【氏名】ブ ティ クェン
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】余語 克則
【テーマコード(参考)】
4D012
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA03
4D012CB02
4D012CD07
4D012CD10
4D012CF03
4D012CF04
4D012CF10
4D012CG01
4D012CG02
4D012CG03
4D020AA03
4D020BA16
4D020BB01
4D020BC01
4D020BC02
4D020CA03
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB04
4D020DB20
4G146JA02
4G146JB09
4G146JB10
4G146JC06
4G146JC07
4G146JC08
4G146JC28
4G146JC30
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着することができるポリアミンを含む二酸化炭素分離材を提供する。
【解決手段】ピペラジン環を有する環含有ポリアミンを含み、前記ピペラジン環の2つの窒素原子は、それぞれ水素原子と結合しており、前記ピペラジン環の4つの炭素原子のうちの3つが水素原子と結合しており、残りの1つが-CH
2NH-R1または-CH
2NH(A1-NH)
m-R2で表される鎖状置換基と結合しており、R1は、イソプロピル基、-CH
2CH
2OH、-CH
2CH(OH)CH
3、-CH
2CH
2CH
2NH
2、または-CH
2CH(OH)CH
2(OH)を示し、R2は、水素原子、イソプロピル基、-CH
2CH
2OH、-CH
2CH(OH)CH
3、-CH
2CH
2CH
2NH
2、または-CH
2CH(OH)CH
2(OH)を示し、mは、1~2の整数を示し、A1は、炭素数2~6のアルキレン基を示し、複数あるA1は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい、ポリアミン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペラジン環を有する環含有ポリアミンを含み、
前記ピペラジン環の2つの窒素原子は、それぞれ水素原子と結合しており、
前記ピペラジン環の4つの炭素原子のうちの3つが水素原子と結合しており、残りの1つが
-CH2NH-R1
または
-CH2NH(A1-NH)m-R2
で表される鎖状置換基と結合しており、
R1は、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)を示し、
R2は、水素原子、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)を示し、
mは、1~2の整数を示し、
A1は、炭素数2~6のアルキレン基を示し、
複数あるA1は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい、ポリアミン。
【請求項2】
m=1であり、
A1は、炭素数2のエチレン基(-CH2CH2-)または炭素数3のプロピレン基(-CH2CH2CH2-)である、請求項1に記載のポリアミン。
【請求項3】
下記式(1):
【化1】
下記式(2):
【化2】
下記式(3):
【化3】
下記式(4):
【化4】
下記式(5):
【化5】
および下記式(6):
【化6】
で表される環含有ポリアミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のポリアミン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミンと、前記ポリアミンを担持する支持体と、を含むポリアミン担持体を含む、二酸化炭素分離材。
【請求項5】
前記支持体が、シリカ、ポリメチルメタクリレート、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、コージェライト、マグネシア、ジルコニア、ゼオライト、ゼオライト類縁化合物、天然鉱物、廃棄物固体、活性炭、セルロースおよびカーボンモレキュラーシーブからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項6】
前記支持体が、比表面積(BET)が50m2/g以上1000m2/g以下であり、かつ、細孔容積が0.1cm3/g以上2.3cm3/g以下である、請求項4に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項7】
処理対象のガスを請求項4に記載の二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および
前記第1工程において二酸化炭素を吸収した前記二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、
を含む二酸化炭素を分離または回収する方法であって、
前記第2工程が
(A)前記二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、
(B)前記二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、および
(C)前記二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)
のいずれか一つ以上を含む、二酸化炭素を分離または回収する方法。
【請求項8】
前記処理対象のガスが温度10℃~60℃かつ二酸化炭素分圧1.0kPa以下のガスである請求項7に記載の二酸化炭素を分離または回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素分離材および二酸化炭素を分離または回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、窒素原子上に少なくとも2つイソプロピル基を有するポリアミンを支持体に担持したポリアミン担持体を含有する二酸化炭素分離材および当該二酸化炭素分離材を用いた二酸化炭素の分離または回収方法を提案している。
【0003】
特許文献2は、水素および触媒の存在下でのカルボニル系化合物とヒドロキシルアルキルアミンとの反応を含む、アルキルアルカノールアミン類の調製方法を提案している。
【0004】
特許文献3は、アミン化合物が固定化された多孔質支持体をコアとして有し、二酸化硫黄による不活性化に耐性を有するアミン層をシェルとして有し、アミンの酸化分解を抑制し、酸素および二酸化硫黄に耐性のあるキレート剤を含むコアシェル型アミン系二酸化炭素吸着剤を提案している。
【0005】
特許文献4は、変性ポリアミンおよび固体支持体を含み、空気を含むガス混合物から二酸化炭素を吸着するための再生可能な固体収着剤を提案している。変性ポリアミンは、アミンとエポキシドとの反応生成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/208712号
【特許文献2】特表2012-530771号公報(特許第5678050号)
【特許文献3】米国特許第10654025号明細書
【特許文献4】米国公開特許2019/0168185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように二酸化炭素を吸着するための複数の材料が開発されているが、性能の更なる向上が求められている。例えば、近年、大気中の二酸化炭素を直接回収して利用する技術「Direct Air Capture(DAC)」の検討が行われている。DACに適用し得る材料には、二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着する性能が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ピペラジン環を有する環含有ポリアミンを含み、
前記ピペラジン環の2つの窒素原子は、それぞれ水素原子と結合しており、
前記ピペラジン環の4つの炭素原子のうちの3つが水素原子と結合しており、残りの1つが
-CH2NH-R1
または
-CH2NH(A1-NH)m-R2
で表される鎖状置換基と結合しており、
R1は、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)を示し、
R2は、水素原子、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)を示し、
mは、1~2の整数を示し、
A1は、炭素数2~6のアルキレン基を示し、
複数あるA1は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい、ポリアミンに関する。
【0009】
本発明の別の側面は、上記のポリアミンと、前記ポリアミンを担持する支持体と、を含む、二酸化炭素分離材に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、処理対象のガスを上記の二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および
前記第1工程において二酸化炭素を吸収した前記二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、
を含む二酸化炭素を分離または回収する方法であって、
前記第2工程が
(A)前記二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、
(B)前記二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、および
(C)前記二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)
のいずれか一つ以上を含む、二酸化炭素を分離または回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るポリアミンは、二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】二酸化炭素の分圧が4kPaまでの二酸化炭素の分圧と40℃における吸着量との関係を示す図である。
【
図2】二酸化炭素の分圧が1kPaまでの二酸化炭素の分圧と30℃における吸着量との関係を示す図である。
【
図3】二酸化炭素の分圧が100kPaまでの二酸化炭素の分圧と吸着量との関係を示す図である。
【
図4】二酸化炭素分離材の酸化劣化試験前後の二酸化炭素の吸着量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る二酸化炭素分離材について説明するが、二酸化炭素分離材は、以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかを任意に組み合わせることができる。複数の材料が例示される場合、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
以下、「ポリアミン」という用語は、単独のアミン化合物からなるポリアミンを意味する場合と、複数のアミン化合物の混合物を意味する場合がある。また、本発明において、「~を含有する」もしくは「~を含む」という用語は、「~を含有する(もしくは含む)」、「実質的に~からなる」および「~からなる」を包含する表現である。
【0015】
本開示に係るポリアミン(以下、「ポリアミン(P)」とも称する。)は、少なくとも、ピペラジン環を有する環含有ポリアミンを含む。ピペラジン環の2つの窒素原子は、それぞれ水素原子と結合している。ピペラジン環の4つの炭素原子のうち3つは水素原子と結合しており、残りの1つは鎖状置換基と結合している。
【0016】
鎖状置換基は、-CH2NH-R1、または-CH2NH(A1-NH)m-R2で表される。R1は、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)である。また、R2は、水素原子、イソプロピル基、-CH2CH2OH、-CH2CH(OH)CH3、-CH2CH2CH2NH2、または-CH2CH(OH)CH2(OH)である。mは、1~2の整数を示す。A1は、炭素数2~6のアルキレン基を示す。複数あるA1は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。以下、上記特徴を有する環含有ポリアミンを「環含有ポリアミン(PP)」とも称する。
【0017】
ポリアミン(P)は、二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着することができる。したがって、ポリアミン(P)は、例えば、大気中の二酸化炭素を直接回収して利用する技術(DAC)に使用し得る。
【0018】
二酸化炭素を吸着する材料は、酸素を含む雰囲気(特に空気)中、例えば60℃程度の温度での使用が想定される場合がある。そのため、二酸化炭素を吸着する材料は、酸化劣化に対する高い耐性を示すことが望ましい。ピペラジン環を有する環含有ポリアミン(PP)は、酸化劣化に対する高い耐性を示す。
【0019】
アミンは、適当な条件下、二酸化炭素と反応する。すなわち、二酸化炭素とNは化学的に結合し得る。例えば、ポリアミン(P)中の-NH-基は、以下のような反応でカルバメートを生成してもよい。
2=NH + CO2 → =NH2+ + =NCOO-
【0020】
二酸化炭素分離材が環含有ポリアミン(PP)を含むことにより、少ないエネルギー(例えば低温)で二酸化炭素が脱離できるようになる。したがって、二酸化炭素の回収を効率的に行うことができるようになる。
【0021】
鎖状置換基-CH2NH(A1-NH)m-R2において、m=1であってもよい。このとき、A1は、炭素数2のエチレン基(-CH2CH2-)または炭素数3のプロピレン基(-CH2CH2CH2-)であってもよい。
【0022】
ポリアミン(P)は、環含有ポリアミン(PP)として、例えば下記式(1)~(6)で表される環含有ポリアミンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0023】
【0024】
以下、上記式(1)~(6)のいずれかで表される6種の環含有ポリアミン(PP)を、環含有ポリアミン(PP6)とも総称する。
【0025】
ポリアミン(P)は、環含有ポリアミン(PP)以外のポリアミンを含み得る。ただし、二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着するためには、ポリアミン(P)中の環含有ポリアミン(PP)の含有率が高いことが望ましい。ポリアミン(P)中の環含有ポリアミン(PP)の含有率は、30質量%以上でもよく、55質量%以上でもよい。
【0026】
また、環含有ポリアミン(PP6)中では、式(1)で表されるポリアミンが主成分であってもよく、式(2)で表されるポリアミンが主成分であってもよく、式(3)で表されるポリアミンが主成分であってもよく、式(4)で表されるポリアミンが主成分であってもよく、式(5)で表されるポリアミンが主成分であってもよく、式(6)で表されるポリアミンが主成分であってもよい。
【0027】
ここで、主成分とは、含有率が50質量%以上である成分をいう。ポリアミン(P)に含まれる環含有ポリアミン(PP)の全量に占める環含有ポリアミン(PP6)の含有率は、50質量%以上が望ましく、更には70質量%以上でもよい。あるいは、ポリアミン(P)中の式(1)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよく、ポリアミン(P)中の式(2)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよく、ポリアミン(P)中の式(3)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよく、ポリアミン(P)中の式(4)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよく、ポリアミン(P)中の式(5)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよく、ポリアミン(P)中の式(6)で表されるポリアミンの含有率が50質量%以上、更には70質量%でもよい。
【0028】
環含有ポリアミン(PP)の合成方法は、特に限定されない。例えば、原料として、2-(アミノエチル)ピペラジンを用いて合成し得る。例えば、2-(アミノエチル)ピペラジンの-NH2基と、ケトン化合物、環状エーテル化合物、ニトリル化合物などの反応物とを所定の条件下で反応させてもよい。反応物は、アセトン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、アクリロニトリルなどであってもよい。
【0029】
例えば、式(1)で表されるポリアミンは、2-(アミノメチル)ピペラジンと、アセトンとを反応させて合成してもよい。式(2)で表されるポリアミンは、例えば、2-(アミノメチル)ピペラジンと、エチレンオキシドとを反応させて合成してもよい。式(3)で表されるポリアミンは、例えば、2-(アミノメチル)ピペラジンと、プロピレンオキシドとを反応させて合成してもよい。式(4)で表されるポリアミンは、例えば、2-(アミノメチル)ピペラジンと、アクリロニトリルとを反応させた後、シアノ基を還元して合成してもよい。
【0030】
式(5)で表されるポリアミンは、例えば、式(4)で表されるポリアミンと、アセトンとを反応させて合成してもよい。式(6)で表されるポリアミンは、例えば、式(4)で表されるポリアミンと、プロピレンオキシドとを反応させて合成してもよい。
【0031】
ポリアミン(P)は、環含有ポリアミン(PP)以外に、鎖状ポリアミンを含んでもよい。鎖状ポリアミンは、X-(A2-NR3)n-Xで表される構造を有してもよい。ここで、nは、2~50の整数を示す。A2は、炭素数2~6のアルキレン基を示す。複数あるA2は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。R3は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルキルアミノ基である。複数あるR3は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。ただし、少なくとも1つのR3は水素原子または炭素数1~6のアルキルアミノ基である。Xは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルキルアミノ基である。2つあるXは、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。
【0032】
以下、上記特徴を有する鎖状ポリアミンを「鎖状ポリアミン(CP)」とも称する。
【0033】
鎖状ポリアミン(CP)において、Xは、例えば、水素原子またはイソプロピル基であってもよい。イソプロピル基の導入により、NとCO2との化学的結合が緩やかになり、少ないエネルギー(例えば低温)で二酸化炭素分離材から二酸化炭素が脱離できるようになる。よって、二酸化炭素の回収を効率的に行うことができるようになる。
【0034】
鎖状ポリアミン(CP)において、nは、2~6の整数であってもよく、2~4であってもよい。
【0035】
複数あるA2が同一である場合、A2は炭素数2のエチレン基(-CH2CH2-)または炭素数3のプロピレン基(-CH2CH2CH2-)であってもよい。
【0036】
複数あるR3が同一である場合、R3は水素原子であってもよい。すなわち、-NR3-基は-NH-基であってもよい。
【0037】
鎖状ポリアミンへのイソプロピル基の導入も、式(1)で表されるポリアミンの合成と同様にして行うことができる。例えば、原料となる鎖状ポリアミンの-NH2基とアセトンとを所定の条件下で反応させることにより、鎖状ポリアミンにイソプロピル基を導入し、鎖状ポリアミン(CP)を得ることができる。
【0038】
ポリアミン(P)の沸点は、760mmHgにおいて320℃以上であることが望ましい。この場合、二酸化炭素分離材を高い温度(例えば、60℃程度)でも安定して使用できる。760mmHgで320℃以上の沸点を有していれば、減圧(例えば、0.2Pa程度)によって沸点が低下しても、ポリアミン(P)が支持体に担持された状態を維持することができる。そのため、ポリアミン(P)を用いることにより、使用温度を常温よりも高い温度とし、効率的に二酸化炭素の脱離を行うことができる。ポリアミン(P)の沸点の上限としては、特に限定されないが、例えば、760mmHgで500℃程度であればよい。
【0039】
二酸化炭素分離材は、ポリアミン(P)と、ポリアミン(P)を担持する支持体と、を含むポリアミン担持体を含んでもよい。
【0040】
<支持体>
支持体は、ポリアミン(P)を担持することができ、二酸化炭素の分離回収の条件に耐え得る材料であればよい。例えば、セラミックス、多孔質材料、炭素材料、樹脂材料などを用い得る。具体的には、シリカ、ポリメチルメタクリレート、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、コージェライト、マグネシア、ジルコニア、ゼオライト、ゼオライト類縁化合物、天然鉱物、廃棄物固体、活性炭、セルロース、カーボンモレキュラーシーブ等が挙げられる。支持体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
支持体は、市販品をそのまま用いてもよいし、公知の方法によって合成した支持体を用いてもよい。市販品としては、シグマアルドリッチ社製のメソ構造シリカMSU-F、エボニック社製のSIPERNAT(登録商標)50S、富士シリシア化学株式会社製のCARiACT(登録商標)Q10、Q30、Q50等が挙げられる。
【0042】
支持体は、ポリアミン(P)を多く担持するために、多孔質で比表面積と細孔容積が大きな材料が好ましい。比表面積(BET)は50m2/g以上2000m2/g以下が望ましく、100m2/g以上1000m2/g以下がより望ましい。細孔容積は0.1cm3/g以上2.3cm3/g以下が望ましく、0.7cm3/g以上2.3cm3/g以下がより望ましい。
【0043】
比表面積および細孔容積は、例えば、定容法を用いて比表面積・細孔径分布測定装置(ASAP2420:株式会社島津製作所製)によって測定することができる。より具体的な比表面積・細孔径分布測定装置を用いたガス吸着測定方法としては、例えば、加熱真空排気により、試料の前処理を行い、サンプル管に測定試料をおよそ0.1g量り取る。その後、40℃まで加熱し、真空排気を6時間行った後、室温まで冷却し、サンプル質量を計量する。測定では液体窒素温度を設定し、圧力範囲を指定する。比表面積、細孔容積および細孔径は、得られた窒素吸着等温線を解析して算出することができる。
【0044】
<ポリアミン担持体>
ポリアミン担持体は、ポリアミン(P)を支持体に担持させた二酸化炭素分離材である。
【0045】
ポリアミン担持体の製造方法は、ポリアミン(P)を準備する工程と、ポリアミン担持体を得る工程とを有する。ポリアミン担持体を得る工程では、ポリアミン(P)を支持体と接触させて、ポリアミン(P)を担持する支持体を生成させればよい。
【0046】
ポリアミン担持体は、例えば、ポリアミン(P)の溶液に、支持体を混合し、例えば室温で撹拌後、溶媒(例えば水、アルコール)を留去することにより製造することができる。溶媒を留去する方法としては、例えば、エバポレーター等で加熱しながら減圧する方法が挙げられる。
【0047】
ポリアミン(P)を支持体に担持させることにより、水溶液の二酸化炭素分離材では適用できない圧力スィング法および温度スィング法に適用することが可能である。圧力スィング法は、二酸化炭素分離材を減圧条件下に置き、二酸化炭素を脱離させる工程を含む。温度スィング法は、二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程を含む。
【0048】
<二酸化炭素分離材>
二酸化炭素分離材は、例えば、ポリアミン担持体と、ポリアミン担持体を造粒するバインダーとを含む。すなわち、二酸化炭素分離材は、バインダーを用いた造粒物としてのポリアミン担持体を含んでもよい。バインダーを用いてポリアミン担持体を造粒することにより、耐振性や耐摩耗性を付与することができ、さらに水中での安定性を向上させることが可能である。ただし、二酸化炭素分離材に含まれるポリアミン担持体は、造粒物に限定されない。例えば、ハニカム構造を形成していてもよい。
【0049】
バインダーとしては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、フッ素樹脂、セルロース誘導体およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いてもよい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチル化澱粉等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられ、エポキシ樹脂の硬化剤(変性ポリアミド樹脂等)との混合物として用いてもよい。その他の高分子(ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド等)等を使用してもよい。これらの化合物は市販品として入手可能であるか、公知の方法によって容易に製造することが可能である。バインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
バインダーとしては、市販品として、日産化学株式会社製のスノーテック30およびAS-200、ダイキン工業株式会社製のポリフロンPTFE D-210C、三晶株式会社製のNEOVISCO MC RM4000、東レ株式会社製のAQナイロン P-70、ナガセケムテックス株式会社製のデナコール EX-421等を用いることができる。
【0051】
バインダーの二酸化炭素分離材における含有量は、特に限定されないが、ポリアミンの含有量の低下を防ぐ点で少量であることが好ましい。
【0052】
バインダーを用いて造粒する場合の造粒物の平均粒径は、ガスを吸着材充填層に供給した時の圧力損失を低減する観点から、0.1mm~2.0mmが好ましい。
【0053】
二酸化炭素分離材に含まれるポリアミン(P)の含有率は、特に限定されない。効率的に二酸化炭素を分離回収する観点から、ポリアミン(P)の含有率は、例えば、15質量%以上が好ましく、20質量%以上が特に好ましい。ポリアミン(P)の含有率は、例えば、70質量%以下でもよい。
【0054】
<二酸化炭素の分離または回収する方法>
二酸化炭素分離(回収)方法の処理対象は、二酸化炭素を含むガスである。処理対象のガスは、二酸化炭素を含む大気であってもよい。すなわち、本開示はDACに適用してもよい。また、処理対象のガスは、密閉空間において人の呼吸、機器のエネルギー変換等で排出される二酸化炭素を含むガスであってもよい。密閉空間としては、潜水調査船、宇宙ステーション、ビル、オフィス等の室内空間等が挙げられる。例えば、大気中の二酸化炭素濃度は約400ppm、密閉空間の二酸化炭素濃度は約1000ppmである。
【0055】
二酸化炭素を含むガスは、より高濃度の二酸化炭素を含んでもよい。二酸化炭素を含むガスは、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鐵所の転炉、各種製造所におけるボイラー、セメント工場におけるキルン等、ガソリン、重油、軽油等を燃料とする自動車、船舶、航空機等の輸送機器から排出される排ガスであってもよい。例えば、煙道ガスの二酸化炭素濃度は1~15体積%である。
【0056】
二酸化炭素分離(回収)方法は、処理対象のガスを二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および、第1工程において二酸化炭素を吸収した二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、を含む。
【0057】
第1工程における処理対象のガス中の二酸化炭素含有量および温度は、二酸化炭素分離材が耐え得る条件であれば、特に限定されない。例えば、二酸化炭素分圧は100kPa以下でもよく、温度は-5℃~100℃であってもよい。二酸化炭素分離材をDACに適用する場合、第1工程における処理対象のガスは大気であってもよい。大気の温度は、0℃~40℃の範囲であってもよい。その他、第1工程が行われる条件としては、宇宙ステーション等の密閉空間で想定される使用条件(二酸化炭素分圧:1kPa以下、温度:1~40℃)や、火力発電所等で想定される使用条件(二酸化炭素分圧:3~100kPa、温度:40~80℃)等が挙げられる。処理対象のガスは、大気圧であっても、加圧されていてもよい。
【0058】
第1工程の処理対象のガスは、水蒸気を含んでいてもよい。二酸化炭素分離材は水蒸気を含んでいる処理対象ガスであっても、二酸化炭素の吸着性に優れるため、除湿操作を省略することができる。
【0059】
第2工程における二酸化炭素を脱離させる方法としては、(A)二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、(B)二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方(好ましくは二酸化炭素を含まないガス(もしくは二酸化炭素含有量の低いガス))を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、および(C)二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)などを含む方法が挙げられる。
【0060】
工程(A)を含む方法では、二酸化炭素の脱離量および二酸化炭素分離材の安定性の点で、0.2Pa程度まで圧力を下げることが好ましい。減圧時に二酸化炭素分離材またはこれを含む容器を加熱してもよい。加熱する場合の温度は60℃程度までが望ましく、この場合、0.5Pa程度まで圧力を下げることが好ましい。工程(A)を含む方法は、処理対象のガスが温度10~60℃かつ二酸化炭素分圧100kPa以下である場合に好適である。処理対象のガスの二酸化炭素分圧は、1kPa以下であってもよい。
【0061】
工程(B)を含む方法では、例えば、不活性ガス、水蒸気、二酸化炭素を含まないガスなどを二酸化炭素分離材に接触させることにより、二酸化炭素分圧を下げ、二酸化炭素を脱離させることができる。二酸化炭素分離材に接触させるガスとしては、二酸化炭素分離材がそのガス中で安定であればよく、アルゴンなどの不活性ガスや窒素、水蒸気等が好ましく、減圧された水蒸気がより好ましい。
【0062】
工程(C)を含む方法では、二酸化炭素吸収時よりも温度を上昇させることにより、二酸化炭素を脱離させることができる。この場合における、二酸化炭素吸収時の温度は、例えば、10~40℃であってもよく、二酸化炭素脱離時の温度は、例えば60℃程度であってもよい。
【0063】
[実施例]
次に、本開示について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、ポリアミンの担持量(質量%)は、二酸化炭素を除いた二酸化炭素分離材(ポリアミン担持体)の質量に対するポリアミンの質量を百分率で表したものである(ここではポリアミンと支持体との合計に対するポリアミンの割合)。
【0064】
合成したポリアミンの理化学的性質の測定には以下の機器を用いた。
液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS):日本ウォーターズ株式会社製のAllaiance LC/MS
【0065】
以下において、「IP-AMPZ(29)/Q30」等の記載の「(29)/Q30」は、ポリアミン担持体に含まれるポリアミンの含有率が29質量%であり、かつ支持体がQ30であることを示す。Q30は、富士シリシア化学株式会社製のメソポーラスシリカ(Cariact Q30:比表面積104m2/g、細孔容積1.0mL/g)である。
【0066】
<ポリアミンの合成>
(1)N-(ピペラジン-2-イルメチル)プロパン-2-アミン(IP-AMPZ)の合成
高圧オートクレーブに2-アミノメチルピペラジン(AMPZ)70.0g(0.61mol)を入れ、エタノール200mL、酸化白金(IV)250mgおよびアセトン38.83g(0.67mol)を加えて、350kPaの水素雰囲気で10時間反応させた。セライトカラムで触媒を濾過した後、溶媒を除去し、真空乾燥させることにより、無色の液体であるIP-AMPZ94.4g(純度98%)が得られた。反応スキームを以下に示す。
【0067】
【0068】
IP-AMPZの構造は、核磁気共鳴分光分析(NMR)および液体クロマトグラフィー(LC-MS)で同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 2.97 (1H, br, s), 2.91 (1H, m), 2.82-2.76 (2H, m), 2.75-2.72 (2H, m), 2.67-2.63 (2H, m), 2.62-2.59 (2H, m), 2.46-2.40 (2H, m), 1.60 (2H, br, s), 1.04 (6H, d); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 56.7 (CH), 50.9 (CH2 x 2), 48.9 (CH), 47.0 (CH2), 46.9 (CH2), 23.1 (CH3 x 2); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 158 [M+H]+with respect to the theoretical molecular weight (C8H19N3) 157.
【0069】
(2)2-((ピペラジン-2-イルメチル)アミノ)エタン-1-オール(HE-AMPZ)の合成
高圧オートクレーブにAMPZ115.18g(1.0mol)の50質量%水溶液を入れ、エチレンオキシド22.03g(0.5mol)を加えて、0℃~5℃の温度で反応させた。溶媒を蒸発させ、分留することにより、粘稠な無色のオイルであるHE-AMPZ70.0g(純度44%)が得られた。反応スキームを以下に示す。
【0070】
【0071】
HE-AMPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δHppm: 3.63 (2H, t), 3.03-2.97 (2H, m), 2.93-2.88 (2H, m), 2.80-2.67 (2H, m), 2.63-2.57 (2H, m), 2.55-2.33 (2H, m), 2.18-2.09 (1H, m), 1.87-1.80 (3H, br, s); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 60.5 (CH2), 57.8 (CH2), 57.6 (CH2), 57.1 (CH), 53.9 (CH2), 46.6 (CH2), 45.3 (CH2); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 160 [M+H]+ with respect to the theoretical molecular weight (C7H17N3O) 159.
【0072】
(3)1-((ピペラジン-2-イルメチル)アミノ)プロパン-2-オール(PO-AMPZ)の合成
AMPZ50.0g(0.43mol)を100mLの水に溶解させた。プロピレンオキシド25.21g(0.43mol)を気密シリンジで吸引した後、AMPZ水溶液に滴下した。混合物を室温で12時間攪拌した後、温度を60℃に上げて更に2時間反応させた。ロータリーエバポレータで水を除去した後、真空乾燥(<1mmHg)させることにより、PO-AMPZが得られた。反応スキームを以下に示す。
【0073】
【0074】
PO-AMPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 3.85 (2H, m), 3.03-2.88 (2H, m), 2.85-2.76 (2H, m), 2.72-2.55 (2H, m), 2.39-2.27 (2H, m), 2.24-2.07 (2H, m), 2.01-1.96 (1H, m), 1.76-1.51 (3H, br, s), 1.12 (3H, d); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 66.1 (CH2), 62.1 (CH), 58.9 (CH2), 57.3 (CH), 56.2 (CH2), 52.7 (CH2), 45.5 (CH2), 45.2 (CH2), 20.2 (CH3); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 174 [M+H]+ with respect to the theoretical molecular weight (C8H19N3O) 173.
【0075】
(4)N1-(ピペラジン-2-イルメチル)プロパン-1,3-ジアミン(DAPZ)の合成
(4-1)3-((ピペラジン-2-イルメチル)アミノ)プロパンニトリル(CN-AMPZ)の合成
メタノール800mLにAMPZ115.18g(1.0mol)を入れ、室温でアクリロニトリル53.06g(1.0mol)を60分かけて、撹拌しながら添加した。混合物を、続けて室温で16時間攪拌した。メタノールを蒸発させることにより、無色の液体であるCN-AMPZ161g(純度96%)が得られた。
【0076】
CN-AMPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 3.03-2.85 (2H, m), 2.81-2.76 (2H, m), 2.73-2.71 (2H, m), 2.70-2.68 (2H, m), 2.63-2.58 (2H, m), 2.53-2.49 (2H, m), 2.19-2.13 (1H, m), 1.49 (3H, br, s); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 118.8 (>C<), 57.1 (CH2), 56.0 (CH), 53.7 (CH2), 53.4 (CH2), 45.3 (CH2), 45.2 (CH2), 15.6 (CH2); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 169 [M+H]+ with respect to the theoretical molecular weight (C8H16N4) 169.
【0077】
(4-2)DAPZの合成
高圧オートクレーブに(4-1)で合成したモノニトリル化合物であるCN-AMPZ50.0g(0.30mol)を入れ、メタノール200mL、ラネーコバルト25.0gおよび27質量%のアンモニア水溶液100mLを加えて、800kPaの水素雰囲気下、室温で12時間反応させた。セライトカラムで触媒を濾過した後、溶媒を除去し、真空乾燥させることにより、粘稠な無色のオイルであるDAPZ49.0g(純度95%)が得られた。AMPZからCN-AMPZを経由してDAPZを合成する反応スキームを以下に示す。
【0078】
【0079】
DAPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 3.02-2.92 (2H, m), 2.91-2.84 (2H, m), 2.81-2.76 (2H, m), 2.75-2.73 (2H, m), 2.61-2.56 (2H, m), 2.39 (2H, t), 2.03-1.97 (1H, m), 1.68 (2H, qn), 1.64-1.1.62 (1H, br, s), 1.50-1.10 (4H, br, s); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 57.9 (CH2), 57.4 (CH), 56.9 (CH2), 54.3 (CH2), 45.7 (CH2), 45.6 (CH2), 40.8 (CH2), 30.4 (CH2); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 173 [M+H]+ with respect to the theoretical molecular weight (C8H20N4) 172
【0080】
(5)N1-イソプロピル-N3-(ピペラジン-2-イルメチル)プロパン-1,3-ジアミン(IP-DAPZ)の合成
高圧オートクレーブにDAPZ76.0g(0.44mol)を入れ、エタノール200mL、酸化白金(IV)200mgおよびアセトン25.62g(0.44mol)を加えて、350kPaの水素雰囲気で10時間反応させた。セライトカラムで触媒を濾過した後、溶媒を除去し、真空乾燥させることにより、無色の液体であるIP-DAPZ93.0g(純度99%)が得られた。反応スキームを以下に示す。
【0081】
【0082】
IP-DAPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 3.01-2.97 (1H, m), 2.91-2.86 (2H, m), 2.82-2.78 (2H, m), 2.76-2.72 (2H, m), 2.63 (2H, t), 2.50-2.45 (2H, m), 2.39 (2H, t), 2.04-1.96 (1H, m), 1.68 (2H, qn), 1.62 (1H, br, s), 1.3 (3H, br, s); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 57.9 (CH2), 57.6 (CH), 56.9 (CH2), 55.4 (CH), 54.3 (CH2), 51.0 (CH2), 46.4 (CH2), 45.9 (CH2), 27.2 (CH2), 23.0 (CH3x 2); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 215 [M+H]+with respect to the theoretical molecular weight (C11H26N4) 214
【0083】
(6)1-((3-((ピペラジン-2-イルメチル)アミノ)プロピル)アミノ)
プロパン-2-オール(PO-DAPZ)の合成
DAPZ61.0g(0.35mol)を水100mLに溶解させた。プロピレンオキシド20.23g(0.43mol)を気密シリンジで吸引した後、DAPZ水溶液に滴下した。混合物を室温で12時間攪拌した後、温度を60℃に上げて更に2時間反応させた。ロータリーエバポレータで水を除去した後、真空乾燥(<1mmHg)させることにより、PO-DAPZが得られた。反応スキームを以下に示す。
【0084】
【0085】
PO-DAPZの構造をNMRとLC-MSで同定した。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH ppm: 3.84 (1H, br, s), 3.80-3.72 (1H, m), 3.03-2.98 (2H, m), 2.92-2.86 (2H, m), 2.83-2.79 (2H, m), 2.76-2.72 (2H, m), 2.71-2.64 (2H, m), 2.63-2.55 (2H, m), 2.46-2.36 (2H, m), 2.03-1.97 (1H, m), 1.69-1.62 (2H, m), 1.61 (1H, br, s), 1.3 (2H, br, s), 1.13 (3H, d); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δC ppm: 65.3 (CH), 57.7 (CH2), 57.3 (CH2), 57.2 (CH), 56.8 (CH2), 54.2 (CH2), 45.5 (CH2), 45.4 (CH2), 40.7 (CH2), 26.8 (CH2), 21.3 (CH3); LC-MS (ESI+): actual measured value m/z 231 [M+H]+ with respect to the theoretical molecular weight (C11H26N4O) 230
【0086】
(7)TEPA
市販のTEPAを用いた。TEPAの構造式を以下に示す。
【0087】
【0088】
(8)2.0IP-TEPAの合成
内容量1Lのフラスコに酸化白金触媒2gと市販の無水エタノール100mlを入れ、フラスコ内を水素で置換した後、水素を150kPaになるまで入れ、500rpmで15~20分間撹拌し、酸化白金触媒を還元した。次に、テトラエチレンペンタミン(TEPA)189.31g(1.0mol)、アセトン127.8g(2.2mol)、無水エタノール150mlを還元された触媒が入ったフラスコに入れた。フラスコ内を水素で置換した後、水素を約200kPaになるまで入れ、水素の理論量(2mol)が吸収されて圧力が下がり、その後10時間吸収が無いことが確認されるまで溶液を攪拌した。溶液を濾過して触媒を除去した後、エタノールを40℃で減圧除去し、得られた無色の液体をさらに真空下、50℃で一晩乾燥して、2.0IP-TEPA(1,11-ジイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン)を得た。
【0089】
【0090】
<二酸化炭素分離材(ポリアミン担持体)の調製>
合成したポリアミンを所定量秤量し、容量200cm3のナシ型フラスコに量りとったメタノール(和光純薬工業社製;特級)50mLに溶解させた。その後、別途秤量した15gの支持体Q30をナシ型フラスコに入れ、室温で2時間攪拌した。その後、ロータリーエバポレータ(EYELA社製;N-1000)で40℃に加熱しながら、系内の圧力が30Paになるまで減圧することで、メタノール溶媒を除去し、ポリアミンを支持体に均一に担持させた二酸化炭素分離材を得た。メタノール溶媒の除去は、フラスコと試薬類の合計の重さを予め量り取り、支持体とポリアミンに相当する質量がフラスコ内に残存することが確認できた時点で完了とした。調製した二酸化炭素分離材は評価試験に供するまでナシ型フラスコに栓をしてデシケータ内で保管した。
【0091】
表1に、二酸化炭素分離材の特徴をまとめて示す。実施例1~9の二酸化炭素分離材を分離材E1~E9、比較例1および比較例2の二酸化炭素分離材を分離材R1およびR2と表記する。
【0092】
【0093】
[評価1]
定容法により二酸化炭素分離材に二酸化炭素を吸収させて、各圧力における二酸化炭素の平衡吸着量を測定した。測定には、株式会社島津製作所から購入したマイクロメリテックス社製のハイスループット全自動化学吸着分析装置(Chemisorb HTP)を用いた。0.1gの二酸化炭素分離材のサンプルをサンプルチューブに量り取り、サンプルをヘリウム気流下、80℃で6時間排気する前処理を行った。次いで、サンプルを1℃/分で40℃まで降温し、その温度で維持した。その後、二酸化炭素を徐々にサンプルチューブ内に導入し、平衡が達成される圧力を100kPaまでの範囲で確認するとともに吸着量を測定した。この方法で、二酸化炭素の分圧と吸着量との関係を求めた。得られた吸着等温線から、二酸化炭素の分圧0.1kPa、0.5kPa、1kPa、4kPa、20kPaおよび100kPaにおける、二酸化炭素分離材への二酸化炭素の平衡吸着量を読み取った。結果を表2に示す。また、二酸化炭素の分圧が4kPa以下における吸着等温線を
図1に示す。
【0094】
【0095】
実施例の分離材は、二酸化炭素の分圧が低いとき(例えば、1kPa以下)、二酸化炭素に対する高い吸着性を示した。
【0096】
[評価2]
定容法により二酸化炭素分離材に二酸化炭素を吸収させて、各圧力における二酸化炭素の平衡吸着量を測定した。測定には、マイクロトラック・ベル株式会社製の自動ガス/蒸気吸着分析装置(BELSORP MAX II)を用いた。約0.1gの二酸化炭素分離材のサンプルをサンプルチューブに量り取り、サンプルを前処理で6時間真空排気して、サンプルの温度を30℃に維持した。その後、二酸化炭素を徐々にサンプルチューブ内に導入し、平衡が達成される圧力を100kPaまでの範囲で確認するとともに吸着量を測定した。この方法で、二酸化炭素の分圧と吸着量との関係を求めた。このとき得られた吸着等温線から、二酸化炭素の分圧0.04kPa、0.1kPa、0.4kPa、1kPa、4kPa、13kPaおよび100kPaにおける、二酸化炭素分離材への二酸化炭素の平衡吸着量を読み取った。結果を表3に示す。また、二酸化炭素の分圧が1kPa以下における吸着等温線を
図2に示す。
【0097】
【0098】
実施例の分離材は、二酸化炭素の分圧が0.1kPa以下であっても、二酸化炭素に対する高い吸着性を示した。
【0099】
[評価3]
定容法により二酸化炭素分離材に二酸化炭素を吸収させて、各圧力における二酸化炭素の平衡吸着量を測定した。測定には、株式会社島津製作所から購入したマイクロメリテックス社製のハイスループット全自動化学吸着分析装置(Chemisorb HTP)を用いた。0.1gの二酸化炭素分離材のサンプルをサンプルチューブに量り取り、サンプルをヘリウム気流下、80℃で6時間排気する前処理を行った。次いで、サンプルを1℃/分で40℃まで降温し、その温度で維持した。その後、二酸化炭素を徐々にサンプルチューブ内に導入し、平衡が達成される圧力を100kPaまでの範囲で確認するとともに吸着量を測定した。このようにして、二酸化炭素の分圧と吸着量(A)との関係を求めた(First adsorption)。
【0100】
減圧したときにサンプルから放出される二酸化炭素量(回収量)は、二酸化炭素分離材に吸着した二酸化炭素量となる。ここでは、サンプルチューブ内の圧力を1.3Paまで20分間かけて減圧し、二酸化炭素を放出させて二酸化炭素分離材を再生させた。その後、上記の方法で、二酸化炭素を再びサンプルチューブ内に導入し、脱吸着等温線を得た。この方法で、減圧下で放出された二酸化炭素量(B)を求めた。得られた脱吸着等温線から、100kPaにおける、再生後の二酸化炭素分離材への二酸化炭素の平衡吸着量を読み取った。二酸化炭素の分圧と吸着量との関係を求めた結果を
図3に示す(Regeneration)。
【0101】
[評価4]
評価3で得られた脱吸着等温線より、4kPaかつ40℃における、二酸化炭素分離材への二酸化炭素の平衡吸着量を読み取った。二酸化炭素の吸着量(A)および回収量(B)について、結果を表4に示す。
【0102】
【0103】
[評価5]
<二酸化炭素分離材の酸化劣化試験>
充填層反応系を用いて二酸化炭素分離材の酸化劣化試験を行った。温度制御装置を具備するオーブン内に置かれた石英製チューブ(内径7.0mm、外径9.5mm、長さ14cm)に二酸化炭素分離材1.0gを充填した。反応系に予め吸着しているガスを除去するために、二酸化炭素分離材を窒素気流下(流量40cm3/分)、100℃で1時間加熱した。次に、疑似空気(21%O2、バランスガスN2)の気流下(流量40cm3/分)、90℃で42時間加熱して、二酸化炭素分離材を酸化劣化させた。次に、流通ガスを窒素気流(流量40cm3/分)に切り替え、充填層反応系を室温まで冷却し、劣化させた二酸化炭素分離材を回収した。適用した酸化劣化条件は、「空気-温度-酸化時間」のフォーマットで表示した。例えば、「空気-90℃-42時間」は、二酸化炭素分離材を90℃の疑似空気中に42時間暴露したことを示す。
【0104】
<二酸化炭素分離材の酸化劣化試験前後の二酸化炭素吸着量>
定容法により、酸化劣化試験の前後の二酸化炭素分離材に二酸化炭素を吸収させて、各圧力における二酸化炭素の平衡吸着量を測定した。測定には、株式会社島津製作所から購入したマイクロメリテックス社製のハイスループット全自動化学吸着分析装置(Chemisorb HTP)を用いた。0.1gの二酸化炭素分離材のサンプルをサンプルチューブに量り取り、サンプルをヘリウム気流下、80℃で6時間排気する前処理を行った。次いで、サンプルを1℃/分で40℃まで降温し、その温度で維持した。その後、二酸化炭素を徐々にサンプルチューブ内に導入し、平衡が達成される圧力を100kPaまでの範囲で確認するとともに吸着量を測定した。この方法で、二酸化炭素の分圧と吸着量との関係を求めた。得られた吸着等温線から、100kPaかつ40℃における、二酸化炭素分離材への二酸化炭素の平衡吸着量を測定した。次に、二酸化炭素分離材の酸化による劣化の度合いを、下記式に従って計算して求めた二酸化炭素の吸着量の保持率(%)によって評価した。保持率が高いほど、劣化度が小さいことを意味する。
【0105】
保持率(%) = 100×(酸化劣化試験後の分離材の二酸化炭素の吸着量)/(酸化劣化試験前の分離材の二酸化炭素の吸着量)(%)
【0106】
100kPaかつ40℃における、酸化劣化試験の前後における二酸化炭素の吸着量の変化と保持率(%)とを
図4に示す。
【0107】
実施例の二酸化炭素分離材は、酸化劣化試験前後の二酸化炭素の吸着量の変化が小さく、高い保持率を示した。すなわち、実施例の二酸化炭素分離材は、酸化劣化に対する耐性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示に係る二酸化炭素分離材は、二酸化炭素の分圧の低いガスから効率的に二酸化炭素を吸着することができる。このような材料は、大気中の二酸化炭素を直接回収して利用する技術(DAC)に適用することが可能である。