(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085809
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】研削装置及び研削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 5/18 20060101AFI20240620BHJP
B24B 5/307 20060101ALI20240620BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20240620BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240620BHJP
B24B 49/04 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B24B5/18 D
B24B5/307
B24B41/06 J
B24B49/10
B24B49/04 A
B24B49/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200551
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勝基
(72)【発明者】
【氏名】大矢 純
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034AA05
3C034BB77
3C034BB79
3C034BB92
3C034CA02
3C034CB01
3C034CB14
3C034CB15
3C034DD07
3C043AA08
3C043CC03
3C043DD02
3C043DD05
3C043DD06
3C043EE04
(57)【要約】
【課題】加工完了時の偏心量を可能な限り小さくし、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制する。
【解決手段】主軸2と、電磁チャック5と、一対のシュー7,8と、砥石車11を備え、工作物Wが偏心位置で一対のシューに押し付けられて保持された状態で電磁チャックの回転方向に回転することにより、砥石車が工作物の外周面又は内周面を研削する研削装置であって、シューの位置を移動させることで、工作物のシューへの押し付け力を制御し、工作物の中心線から回転中心線までの偏心量を変化させる制御部40を有し、制御部は、第1偏心位置と第2偏心位置とを記憶し、加工開始時の第1偏心位置から、加工中に所定の速度で前記シューを移動させることで前記偏心量を減少させ、第1偏心位置よりも回転中心線に近接した第2偏心位置において加工を完了させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状工作物の外周面及び内周面を研削する研削装置であって、
主軸と、
前記主軸に装着され、前記工作物の中心線が該主軸と平行になるように該工作物の一端面を吸着させる吸着面を有し、該吸着面に直交する回転中心線周りに回転する電磁チャックと、
前記工作物の外周側に設けられ、前記工作物の中心線が前記回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を回転自在に保持する一対のシューと、
前記工作物の外周面又は内周面に接触して研削する砥石車と、を備え、
前記工作物が前記偏心位置で前記一対のシューに押し付けられて保持された状態で前記電磁チャックの回転方向に回転することにより、前記砥石車が前記工作物の外周面又は内周面を研削する研削装置であって、
前記シューの位置を移動させることで、前記工作物の該シューへの押し付け力を制御し、前記工作物の前記中心線から前記回転中心線までの偏心量を変化させる制御部を有し、
前記制御部は、第1偏心位置と第2偏心位置とを記憶し、加工開始時の前記第1偏心位置から、加工中に所定の速度で前記シューを連続的に移動させることで前記偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した前記第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする研削装置。
【請求項2】
環状工作物の外周面及び内周面を研削する研削装置であって、
主軸と、
前記主軸に装着され、前記工作物の中心線が該主軸と平行になるように該工作物の一端面を吸着させる吸着面を有し、該吸着面に直交する回転中心線周りに回転する電磁チャックと、
前記工作物の外周側に設けられ、前記工作物の中心線が前記回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を回転自在に保持する一対のシューと、
前記工作物の外周面又は内周面に接触して研削する砥石車と、を備え、
前記工作物が前記偏心位置で前記一対のシューに押し付けられて保持された状態で前記電磁チャックの回転方向に回転することにより、前記砥石車が前記工作物の外周面又は内周面を研削する研削装置であって、
前記シューの位置を移動させることで、前記工作物の該シューへの押し付け力を制御し、前記工作物の中心線から前記回転中心線までの偏心量を変化させる制御部と、
前記工作物の内周面又は外周面の加工寸法を計測する寸法検知部と、を有し、
前記制御部は、加工中に前記寸法検知部によって計測された前記工作物の加工寸法に基づいて目標とする偏心位置を算出し、加工開始時の偏心位置である第1偏心位置から前記目標とする偏心位置へ、前記シューを連続的に移動させることで前記偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した第2偏心位置で加工を完了させることを特徴とする研削装置。
【請求項3】
環状工作物の一端面を電磁チャックの吸着面に電磁力で吸着させ、前記工作物の中心線が前記吸着面に直交する回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を外周側に設けられた一対のシューで回転自在に保持し、前記回転中心線周りに前記電磁チャックを回転させて前記工作物を前記偏心位置で回転させることにより、前記工作物の外周面又は内周面に接触する砥石車によって前記工作物の外周面又は内周面を研削する環状工作物の研削方法であって、
第1偏心位置と第2偏心位置とを記憶し、
前記第1偏心位置から加工を開始し、
加工中、前記第1偏心位置から前記第2偏心位置へ、所定の速度で前記シューを連続的に移動させることで前記回転中心線までの偏心量を減少させ、
前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した前記第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする研削方法。
【請求項4】
環状工作物の一端面を電磁チャックの吸着面に電磁力で吸着させ、該工作物を外周側に設けられた一対のシューで該工作物の中心線が前記吸着面に直交する回転中心線に対してずれた偏心位置において回転自在に保持し、前記回転中心線周りに前記電磁チャックを回転させて前記工作物を前記偏心位置で回転させることにより、前記工作物の外周面又は内周面に接触する砥石車によって該工作物の外周面又は内周面を研削する環状工作物の研削方法であって、
前記工作物の内周面又は外周面の加工寸法を計測し、
計測された前記工作物の前記加工寸法に基づいて目標とする偏心位置を算出し、
加工の開始位置である第1偏心位置から前記目標とする偏心位置へ、前記シューを連続的に移動させることで前記回転中心線までの偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置及び研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環状の工作物の外周面又は内周面を研削する装置として、シュー式のセンタレス研削装置が知られている(例えば、特許文献1)。この研削装置は、工作物の一端を先端の吸着面に吸着させる電磁チャックと、工作物の外周面を支持する一対のシューと、砥石車とを備える。一対のシューにより工作物を支持した状態で電磁チャックを回転させると、工作物の外周面又は内周面を砥石車が研削するように構成されている。また、シューは、工作物を、中心線が電磁チャックの回転中心線に対して偏心した偏心位置で保持することにより、研削中に工作物がシューに押し付けられて該シューによって安定的に支持されるように構成される。
【0003】
ところで、このようなシュー式のセンタレス研削装置では、工作物をシューに押し付けながら加工するため、工作物の中心線と回転中心線との間の偏心量(オフセット)を取り代以上に設けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、偏心量を大きくすると、工作物のシューへの押し付け力が強くなるため、工作物が変形しやすく、真円度が低下する要因となる。また、例えば、外周面の加工では、加工により外径が小さくなるに従い偏心量が大きくなるため、真円度が大きく低下するおそれがある。このような問題に対して、従来の研削装置は、加工中に偏心量を変化させることができなかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、工作物の寸法変化に基づいて、加工中に適切な偏心量へ変化させることで、加工完了時の偏心量を可能な限り小さくし、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、加工中の工作物の加工寸法の変化に伴い、偏心量を減少させながらシューを連続的に移動させるようにした。
【0008】
具体的には、第1の発明は、環状工作物の外周面及び内周面を研削する研削装置であって、
主軸と、
前記主軸に装着され、前記工作物の中心線が該主軸と平行になるように該工作物の一端面を吸着させる吸着面を有し、該吸着面に直交する回転中心線周りに回転する電磁チャックと、
前記工作物の外周側に設けられ、前記工作物の中心線が前記回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を回転自在に保持する一対のシューと、
前記工作物の外周面又は内周面に接触して研削する砥石車と、を備え、
前記工作物が前記偏心位置で前記一対のシューに押し付けられて保持された状態で前記電磁チャックの回転方向に回転することにより、前記砥石車が前記工作物の外周面又は内周面を研削する研削装置であって、
前記シューの位置を移動させることで、前記工作物の該シューへの押し付け力を制御し、前記工作物の前記中心線から前記回転中心線までの偏心量を変化させる制御部を有し、
前記制御部は、第1偏心位置と第2偏心位置とを記憶し、加工開始時の前記第1偏心位置から、加工中に所定の速度で前記シューを連続的に移動させることで前記偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した前記第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、偏心量を減少させながら所定の速度でシューを連続的に移動させることで、工作物の寸法に適した偏心量で加工を進めることができるため、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【0010】
第2の発明は、環状工作物の外周面及び内周面を研削する研削装置であって、
主軸と、
前記主軸に装着され、前記工作物の中心線が該主軸と平行になるように該工作物の一端面を吸着させる吸着面を有し、該吸着面に直交する回転中心線周りに回転する電磁チャックと、
前記工作物の外周側に設けられ、前記工作物の中心線が前記回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を回転自在に保持する一対のシューと、
前記工作物の外周面又は内周面に接触して研削する砥石車と、を備え、
前記工作物が前記偏心位置で前記一対のシューに押し付けられて保持された状態で前記電磁チャックの回転方向に回転することにより、前記砥石車が前記工作物の外周面又は内周面を研削する研削装置であって、
前記シューの位置を移動させることで、前記工作物の該シューへの押し付け力を制御し、前記工作物の中心線から前記回転中心線までの偏心量を変化させる制御部と、
前記工作物の内周面又は外周面の加工寸法を計測する寸法検知部と、を有し、
前記制御部は、加工中に前記寸法検知部によって計測された前記工作物の加工寸法に基づいて目標とする偏心位置を算出し、加工開始時の偏心位置である第1偏心位置から前記目標とする偏心位置へ、前記シューを連続的に移動させることで前記偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した第2偏心位置で加工を完了させることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、加工中の工作物の加工寸法の変化を寸法検知部により検知し、その加工寸法における適切な偏心位置へと偏心量を減少させながらシューを連続的に移動させることで、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【0012】
第3の発明は、環状工作物の一端面を電磁チャックの吸着面に電磁力で吸着させ、前記工作物の中心線が前記吸着面に直交する回転中心線に対してずれた偏心位置において前記工作物を外周側に設けられた一対のシューで回転自在に保持し、前記回転中心線周りに前記電磁チャックを回転させて前記工作物を前記偏心位置で回転させることにより、前記工作物の外周面又は内周面に接触する砥石車によって前記工作物の外周面又は内周面を研削する環状工作物の研削方法であって、
第1偏心位置と第2偏心位置とを記憶し、
前記第1偏心位置から加工を開始し、
加工中、前記第1偏心位置から前記第2偏心位置へ、所定の速度で前記シューを連続的に移動させることで前記回転中心線までの偏心量を減少させ、
前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した前記第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、加工中の工作物の加工寸法の変化に伴って偏心量を減少させながら所定の速度でシューを連続的に移動させることで、工作物の寸法に適した偏心量で加工を進めることができるため、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【0014】
第4の発明は、環状工作物の一端面を電磁チャックの吸着面に電磁力で吸着させ、該工作物を外周側に設けられた一対のシューで該工作物の中心線が前記吸着面に直交する回転中心線に対してずれた偏心位置において回転自在に保持し、前記回転中心線周りに前記電磁チャックを回転させて前記工作物を前記偏心位置で回転させることにより、前記工作物の外周面又は内周面に接触する砥石車によって該工作物の外周面又は内周面を研削する環状工作物の研削方法であって、
前記工作物の内周面又は外周面の加工寸法を計測し、
計測された前記工作物の前記加工寸法に基づいて目標とする偏心位置を算出し、
加工の開始位置である第1偏心位置から前記目標とする偏心位置へ、前記シューを連続的に移動させることで前記回転中心線までの偏心量を減少させ、前記第1偏心位置よりも前記回転中心線に近接した第2偏心位置において加工を完了させることを特徴とする。
【0015】
第4の発明では、加工中の工作物の加工寸法を計測し、その加工寸法における適切な偏心位置へと偏心量を減少させながらシューを連続的に移動させることで、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本開示の技術により、工作物の寸法変化に基づいて、加工中に適切な偏心量へ変化させることで、加工完了時の偏心量を可能な限り小さくし、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る研削装置の概略構成を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る研削装置を工作物側から中心線に沿って見た図である。
【
図3】寸法検知部を備える研削装置を工作物側から中心線に沿って見た図である。
【
図4】加工開始時における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。
【
図5】加工中における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。
【
図6】加工完了時における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。
【
図7】加工寸法と偏心量との関係を示すグラフである。
【
図8】制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】ゲージ信号とシューの位置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る研削装置1を示している。この研削装置1は、シューセンタレス方式の研削装置であり、環状工作物Wの外周面を連続的に研削加工するように構成されている。
【0020】
-研削装置の構成-
研削装置1の構成について
図1、
図2及び
図3に基づいて説明する。以下、説明の便宜上、
図1の紙面手前側(
図2及び
図3では左側)を前側、
図1の紙面奥側(
図2及び
図3では右側)を後側とする。
【0021】
図1、
図2及び
図3に示すように、研削装置1は、主軸2と、主軸2を支持する主軸台3と、主軸2を回転駆動する駆動装置4と、電磁チャック5と、一対のシュー7,8と、シュー可動機構10と、砥石車11と、寸法検知部20と、制御部40とを備える。
【0022】
研削装置1は、工作物Wが偏心位置で一対のシュー7,8に押し付けられて保持された状態で電磁チャック5の回転方向に回転することにより、砥石車11が工作物Wの外周面を研削する。
【0023】
図1に示すように、主軸2は、回転中心線Xが水平に延びるように配置された状態で、軸受(図示せず)を介して主軸台3に支持されている。
【0024】
駆動装置4は、モータ及び減速機(共に図示せず)を備え、主軸2を回転駆動する。また、駆動装置4は、主軸2の回転方向を、
図2における反時計回りである正転方向(
図2及び
図3中の矢印A)と、時計回りである逆転方向とに切り換え可能に構成される。
【0025】
図1に示すように、主軸2の先端部には電磁チャック5が装着されている。電磁チャック5は、工作物Wの中心線Yが主軸2と平行になるように工作物Wの中心線方向一端面を吸着して支持する。電磁チャック5は、電磁コイル(図示せず)と、電磁コイルを収容する管状の本体部5aと、本体部5aの端面に配設されたバッキングプレート5bとを備える。電磁コイルは、図示しないが、配線を介して電源装置に接続され、この電源装置から電磁コイルに電流が供給される。
【0026】
バッキングプレート5bは、円環状の磁性金属材料であり、本体部5aに固定されている。バッキングプレート5bの先端面は、工作物Wを吸着する吸着面5cとなる。吸着面5cは、主軸2の回転中心線Xに対し直交して延びる面である。電磁コイルに電流が供給されると、バッキングプレート5bが磁化され、工作物Wの一端面が吸着面5cに吸着される。電磁コイルの磁力の大きさは、バッキングプレート5bの吸着面5cに吸着された工作物Wがバッキングプレート5bの径方向に摺動可能となるように、かつ、主軸2の回転力は工作物Wに伝達されるように、設定されている。
【0027】
図2及び
図3に示すように、一対のシュー7,8は、工作物Wの外周面を前側且つ下方から支持するフロントシュー7と、砥石車11による加工時に工作物Wの外周面を砥石車11の反対側から支持するリアシュー8とで構成されている。フロントシュー7及びリアシュー8は、シュー保持部材30を介してシュー可動機構10に設けられる。フロントシュー7及びリアシュー8は、工作物Wの中心線Yが回転中心線Xに対してずれた偏心位置において工作物Wを回転自在に保持する。
【0028】
シュー可動機構10は、円筒状の工作物Wの外周側に近接する円弧形状の凹部10aを有し、該凹部にフロントシュー7及びリアシュー8を備える。フロントシュー7及びリアシュー8は、シュー保持部材30が該凹部の円弧形状に沿って移動可能に構成されることにより、工作物Wに対する角度を変更可能である。シュー可動機構10は、加工開始後、制御部40からの信号により、所定の速度でフロントシュー7及びリアシュー8を移動可能に構成されている。シュー可動機構10は、工作物Wに対するシュー7,8の相対位置だけでなく、シュー保持部材30を移動させることで工作物Wに対するシュー7,8の角度も可変可能に構成されている。シュー可動機構10は、シューの位置や角度を調整可能であればどのような構成であっても良い。例えば、シュー可動機構10は、図示しないアクチュエータを備え、アクチュエータは、油圧シリンダや、空気圧シリンダ等であってもよい。
【0029】
砥石車11は、図示しない可動機構に支持され、工作物Wの外周面に接触して研削する接触位置と、工作物Wに接触しない非接触位置との間で移動するように構成されている。砥石車11は、
図2及び
図3中の矢印C方向に回転しながら、工作物Wの外周面を研削する。
【0030】
また、本実施形態では、工作物Wの内周面又は外周面の加工寸法を計測する寸法検知部20を備えてもよい。寸法検知部20には、例えば、回転する工作物Wの外周面と内周面とを接触子21a,21aで挟み込んで工作物Wの外径を計測可能なゲージが用いられる。接触子21a,21aは、先端部を開閉自在に構成されている。寸法検知部20は、接触子21a,21aを有する計測部21を2つ備える。計測部21,21は、シュー7,8及び砥石車11と緩衝しない位置において、工作物Wの中心線Yを挟んだ両側に配置される。
【0031】
制御部40は、研削装置1の各構成要素の動作を制御するように構成されている。具体的には、制御部40は、駆動装置4、電磁チャック5の電源装置、砥石車11の駆動機構、シュー可動機構10を制御するように構成されている。なお、
図1では、制御部40は、主軸台3の側方に配置されているが、設置位置はこれに限られない。主軸台3に内蔵されていてもよく、他の構成要素付近に設置されていてもよい。
【0032】
制御部40は、シュー可動機構10を制御し、加工中にシュー7,8の位置を移動させることで、工作物Wの該シューへの押し付け力を制御し、工作物Wの中心線Yから回転中心線Xまでの偏心量を変化させる。
【0033】
図4は、加工開始時における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。
図4に示すように、加工開始時は、工作物Wが、中心線Yが主軸2の回転中心線Xよりも下方で且つフロントシュー7に近い側に偏心(オフセット)した偏心位置Y1で一対のシュー7,8に押し付けられて保持される。このような加工開始時の偏心位置である第1偏心位置Y1から加工が開始される。
【0034】
図5は、加工中における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。制御部は、
図5に示すように、第1偏心位置Y1から目標とする偏心位置Y’へシュー7,8を連続的に移動させる。
図6は、加工完了時における工作物の偏心位置を説明するための模式図である。加工中にシュー7,8を連続的に移動させることで偏心量を減少させ、
図6に示すように、第1偏心位置Y1よりも回転中心線Xに近接した第2偏心位置Y2で加工を完了させる。
【0035】
制御部40によるシュー位置の制御方法は様々な方法が考えられる。次に制御方法の具体例を説明する。
【0036】
[第1制御方法]
制御部40は、工作物Wの加工前の寸法および加工完了時の寸法を基に決定された所定のシュー移動速度や、加工開始時の第1偏心位置Y1及び加工完了時の第2偏心位置Y2を予め記憶し、数値制御を行うものであってもよい。例えば、
図7中、一点鎖線で示す第1制御方法のように、第1偏心位置Y1から第2偏心位置Y2へ、加工中に所定の速度で偏心量が変化するように、シュー7,8を一定の速度で連続的に移動させる。このようにシュー7,8を移動させ、偏心量を連続的に減少させることで、シューを段階的に移動させていた従来の方法よりも、回転中心線Xに近接した第2偏心位置Y2で加工を完了させることが可能となる。
【0037】
[第2制御方法]
制御部40は、加工中の工作物Wの加工寸法に基づいて、シューの速度を制御してもよい。例えば、制御部40は、寸法検知部20によって計測された工作物Wの加工寸法に基づいて、その加工寸法における適切な偏心位置である目標偏心位置Y’と、目標偏心位置Y’へ到達するシュー移動速度を算出する。そして、制御部40は、シュー可動機構10へ信号を送り、リアルタイムな工作物Wの加工寸法に基づいて算出した目標偏心位置Y’を辿るように連続的にシュー7,8の移動速度を変化させる。そして、
図7中、二点鎖線で示す第2制御方法のように、偏心量を連続的に減少させることで、シューを段階的に移動させていた従来の方法よりも、回転中心線Xに近接した第2偏心位置Y2で加工を完了させることが可能となる。
【0038】
上記第2制御方法については、
図8に基づいてより詳細に説明する。研削工程は、例えば、準急工程、黒皮工程、荒工程、仕上工程及び仕上スパークアウト工程の順に行われる。
【0039】
第2制御方法では、工作物Wの加工が開始されると、ゲージ信号とGEN信号の取り込みが開始される(S1)。ゲージ信号とは、寸法検知部20から出力される信号であり、GEN信号とは、主軸2の電力を監視し、砥石車と工作物の接触の判定結果を出力する信号である。
【0040】
GEN信号がONにされると(S2)、制御部40は、そのGEN信号から取代を算出してシュー荒速度を計算する(S3)。
図9にも示すように、ゲージ信号の取り込み開始後、シュー荒速度が算出されると、シューは、ゲージ信号G2(荒停止点)までそのシュー荒速度で移動する(S4)。
【0041】
制御部は、ゲージ信号G2に到達したか否かを判定し(S5)、シューがシュー荒位置まで到達した場合(S6)、次の仕上工程へ進む。、シューがシュー荒位置まで到達していない場合(S7)、到達するまでシュー荒位置への移動が継続される(S8)。
【0042】
ゲージ信号の取り込み開始から、ゲージ信号G2までシューが到達するまでの工程が、準急工程、黒皮工程および荒工程となる。
【0043】
シュー荒位置まで到達したシューは、仕上工程において、ゲージ信号G1(仕上停止点)まで、シュー仕上速度で移動する(S9)。シューは仕上位置に到達すると、移動を停止する(S10)。シューが移動を停止した状態で、仕上スパークアウト工程が行われ、ゲージ信号G0(仕上完了点)が入力されると(S11)、加工が終了する。
【0044】
なお、準急工程中にGEN信号をONにした場合は、荒加工量は総加工量と仕上加工量の差であり、下記式で表される。
荒加工量(mmφ)=総加工量(mmφ)-仕上加工量(mmφ)
総加工量はGEN信号から算出し、仕上加工量はNC設定値を使用することができる。
【0045】
また、準急工程中にGEN信号をONにしない場合は、荒加工量は黒皮量と荒加工量の和であり、下記式で表される。
荒加工量(mmφ)=黒皮量(mmφ)+荒加工量(mmφ)
黒皮量と荒加工量はNC設定値を使用することができる。
【0046】
シュー荒速度は、荒加工量から下記式で表される。
シュー荒速度(°/mmφ)=荒加工量(mmφ)/(シュー開始位置(°)-シュー荒位置(°))
シュー仕上速度(°/mmφ)=仕上加工量(mmφ)/(シュー開始位置(°)-シュー荒位置(°))
以上説明したように、本実施形態の研削装置1によれば、第1制御方法では、偏心量を減少させながら所定の速度でシューを連続的に移動させることで、工作物の寸法に適した偏心量で加工を進めることができるため、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【0047】
また、第2制御方法では、加工中の工作物の加工寸法の変化を寸法検知部20により検知し、その加工寸法における適切な偏心位置へとリアルタイムに偏心量を減少させることで、加工完了時の偏心量を従来よりも小さくすることが可能となり、工作物の歪みによる真円度の低下を抑制することができる。
【0048】
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0049】
上記実施形態では、研削装置1は、工作物Wの外周面を研削可能に構成されているが、砥石車が工作物Wの内周面に接触する位置に設けられ、工作物Wの内周面を研削するように構成されていてもよい。また、外周面と内周面の両方を研削可能に構成されていてもよい。
【0050】
第1の制御方法では、数値制御により、工作物の種類の情報が読み込まれると、それに対応するシュー移動速度が呼び出されるように構成してもよい。また、
図7中に示すような、第1偏心位置Y1から第2偏心位置Y2までが一定の速度である必要はなく、例えば、NC制御により、荒工程では偏心量が大きく変化するような速度で移動させ、仕上工程では偏心量の変化を小さくするような速度で移動させてもよい。
【0051】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 研削装置
5 電磁チャック
5c 吸着面
7 フロントシュー(シュー)
8 リアシュー(シュー)
10 シュー可動機構
11 砥石車
20 寸法検知部
30 シュー保持部材
40 制御部