(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085824
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ドアホールシール
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20240620BHJP
B60R 13/06 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
B60R13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200573
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】江盛 真一郎
【テーマコード(参考)】
3D201
【Fターム(参考)】
3D201AA01
(57)【要約】
【課題】スリット部の端部を起点とした破れに起因する水漏れが生じ難いドアホールシールを実現する。
【解決手段】ドアホールシール(1)は、ドアホール(D2)を車内側から塞ぐ第1シート(10)と、第1シート(10)に接着する、第2スリット(21)が形成された第2シート(20)と、を備え、第1シート(10)は、第2スリット(21)よりも鉛直上側の位置に形成された第1スリット(11)と、外的作用によって引き裂かれる破断部(12)と、を有し、第1スリット(11)の少なくとも一端(111)が破断部(12)の一端(123)と接続しており、引き裂かれた後の破断部(12)の他端(124)が第2スリット(21)よりも鉛直上側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアのドアインナーパネルに形成されたドアホールに取り付けられるドアホールシールであって、
前記ドアホールを車内側から塞ぐ第1シートと、
前記第1シートにおける車外側の面に接着する、第2スリットが形成された第2シートと、を備え、
前記第1シートは、
前記第2スリットよりも鉛直上側の位置に形成された、少なくとも1つ以上の第1スリットを含むスリット部と、
外的作用によって引き裂かれる破断部と、を有し、
前記スリット部の少なくとも一端が、前記破断部の一端と接続しており、
引き裂かれた後の前記破断部の他端が、前記第2スリットよりも鉛直上側に位置するドアホールシール。
【請求項2】
前記破断部が、2つ以上の第3スリットを含む、請求項1に記載のドアホールシール。
【請求項3】
前記スリット部は、前記車両の前後方向に延伸しており、
前記破断部は、前記スリット部の延伸方向に引き裂かれる、請求項2に記載のドアホールシール。
【請求項4】
前記第2シートは、接着部によって前記車外側の面に接着されており、
前記接着部の一部は、前記第2スリットよりも鉛直上側に位置するとともに、前記破断部の延伸方向の延長線上に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載のドアホールシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアホールシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のドアのドアインナーパネルに形成されたサービスホールを塞ぐために、ドアホールシールが使用されている。ドアホールシールは、その種類によってスリットが形成されており、スリットには、ワイヤハーネスが車外側から車内側に挿通される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ワイヤハーネスを抜き出すための、第一スリットを有するスリット機構を設けたドアホールシールが開示されている。第一スリットには、端部にスリット巾よりも直径の大きい丸穴形状の部位が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドアホールシールに形成されたスリットにワイヤハーネスを抜き差しするときに、スリットの周縁部に力が掛かると、スリットの端部を起点としてドアホールシールが破れてしまう虞がある。さらに、スリットの周縁部に掛かる力が下方向の力の場合、スリットおよび破れた部分がともに下方向に開口してその開口部から水漏れが発生する虞がある。特許文献1に記載の第一スリットは、その端部に丸穴形状の部位を設けてドアホールシールを破れ難くすることで水漏れの発生を低減しているが、改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、従来よりも、スリットの端部を起点とした破れに起因する水漏れが生じ難いドアホールシールを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るドアホールシールは、車両のドアのドアインナーパネルに形成されたドアホールに取り付けられるドアホールシールであって、前記ドアホールを車内側から塞ぐ第1シートと、前記第1シートにおける車外側の面に接着する、第2スリットが形成された第2シートと、を備え、前記第1シートは、前記第2スリットよりも鉛直上側の位置に形成された、少なくとも1つ以上の第1スリットを含むスリット部と、外的作用によって引き裂かれる破断部と、を有し、前記スリット部の少なくとも一端が、前記破断部の一端と接続しており、引き裂かれた後の前記破断部の他端が、前記第2スリットよりも鉛直上側に位置する。
【0008】
前記構成によれば、引き裂かれた後の破断部の他端が第2スリットよりも鉛直上側に位置する。そのため、スリット部の周縁部に外力が作用して破断部が引き裂かれたとしても、第2スリットを通過した水が第1スリットまたは引き裂かれた後の破断部から車室内に浸入するのを防ぐことができる。これにより、スリット部の端部を起点とした破れに起因する水漏れが生じ難いドアホールシールを実現できる。
【0009】
本発明の態様2に係るドアホールシールは、前記破断部が、2つ以上の第3スリットを含んでもよい。
【0010】
前記構成によれば、スリット部の周縁部に外力が作用した場合に、隣り合う2つの第3スリットの間に位置する第1シートの一部分が第2スリットよりも鉛直上側で引き裂かれることから、水が車室内に浸入するのを防ぐことができる。
【0011】
本発明の態様3に係るドアホールシールは、前記スリット部は、前記車両の前後方向に延伸しており、前記破断部は、前記スリット部の延伸方向に引き裂かれてもよい。
【0012】
スリット部にワイヤハーネスを挿通する場合、一般的には、スリット部を車両の前後方向に延伸するように形成する。このような場合において、ワイヤハーネスにおけるスリット部からの突出部分が垂れ下がると、スリット部の周縁部に突出部分の重力が作用してスリット部が鉛直下側に開口するとともに、スリット部の少なくとも一端が鉛直下側に引き裂かれる。
【0013】
その点、前記構成によれば、破断部がスリット部の延伸方向に引き裂かれることから、破断部が延伸方向以外の方向に引き裂かれる場合に比べて、突出部分の重力に起因する外的作用を破断部において吸収し易くなる。これにより、第1シートにおける破断部以外の部分が鉛直下側に引き裂かれるのをより低減でき、水が車室内に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【0014】
本発明の態様4に係るドアホールシールは、前記第2シートが、接着部によって前記第1シートと前記車外側の面に接着されており、前記接着部の一部は、前記第2スリットよりも鉛直上側に位置するとともに、前記破断部の延伸方向の延長線上に位置してもよい。
【0015】
前記構成によれば、第1シートにおける破断部の他端よりもさらに先の部分が、接着部の一部に向けて引き裂かれたとしても、引き裂かれた部分の先端が接着部の一部に達した時点でそれ以上の引き裂きを止めることができる。これにより、水が車室内に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、従来よりも、スリット部の端部を起点とした破れに起因する水漏れが生じ難いドアホールシールを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るドアホールシールが取り付けられたドアインナーパネルの車内側の構造を示す模式図である。
【
図2】
図1のドアホールシールにおける、符号Rにより示す範囲の拡大図である。
【
図3】
図1のドアホールシールにおける破断部付近の部分を示す拡大図である。
【
図4】符号401は、スリット部にワイヤハーネスが通った状態における、前記の符号Rにより示す範囲の拡大図である。符号402は、符号401により示す図のA-A線矢視断面図である。
【
図5】スリット部にワイヤハーネスが通った状態において、スリット部の周縁部にワイヤハーネスから下方向の力が掛かったときの、前記の符号Rにより示す範囲の拡大図である。
【
図6】本発明の一実施形態の変形例に係るドアホールシールを車内側から見たときの、スリット部付近の部分を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ドアホールシールの概要および取り付け例〕
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るドアホールシール1の概要および取り付け例について説明する。
図1の例において、紙面向かって上側(上方向)が鉛直上側、下側(下方向)が鉛直下側、右側がフロント側(車両の前側)、左側がリア側(車両の後側)、手前側が車内側(車両の内側)、奥側が車外側(車両の外側)に、それぞれ対応している。これらの方向の規定は、
図2、
図3、
図4の符号401により示す図、
図5および
図6についても同様である。また、
図1は、フロントドアDを車内側から見た図である。
【0019】
なお、前記の各方向の規定は、ドアホールシール1が車両に取り付けられる方向を制限するものではない。ドアホールシール1は、車両に対していかなる方向となるように取り付けられてもよい。
【0020】
フロントドアDは、車両のドアの一例であり、車両のフロントドア用開口部(図示せず)に開閉可能に取り付けられている。
図1に示すように、フロントドアDは、ドアアウターパネル(図示せず)およびドアインナーパネルD1を備えている。また、ドアインナーパネルD1にはドアホールD2が形成されている。ドアホールD2は、例えばフロントドアDの内部に配置された各種部品を組付けするために、作業者が手または工具等を入れるための開口部である。なお、
図1に示すフロントドアDの構造はあくまで一例である。
【0021】
ドアインナーパネルD1の車内側の面には、ドアホールシール1が取り付けられている。具体的には、ドアホールシール1は、ドアインナーパネルD1における車内側の面に接着することで、ドアホールD2を塞ぐように取り付けられている。ドアホールシール1は、ドアホールD2を車内側から塞ぐことで、フロントドアDの内部に浸入した雨水等がドアホールD2から車室内に浸入するのを防ぐ。また、ドアホールシール1は、ドアホールD2を塞ぐことで、フロントドアDの防音性を向上させる。
【0022】
ドアホールシール1は、第1シート10および第2シート20を備えている。第1シート10は、ドアインナーパネルD1の車内側の面に固定され、ドアホールD2を車内側から塞ぐ。第2シート20は、第1シート10における車外側の面に接着している。
【0023】
ドアインナーパネルD1には、ドアホールシール1とドアインナーパネルD1との接着部分としてブチルラインBが形成されている。第2シート20は、車内外方向から見て第1シート10の外形を内包するように、第1シート10における車外側の面と接着している。ドアホールシール1は、第2シート20における車外側の面の、第1シート10と重なる部分よりも外側の周縁部分により、ブチルラインBに接着する。ただし、ドアホールシール1とドアインナーパネルD1との接着態様はブチルラインBによるものに限られず、いかなる態様により接着、または組付けられていてもよい。なお、本明細書において「接着」は、「粘着」、「圧着」および「溶着」等の概念を含む。
【0024】
なお、上述したドアホールシール1の取り付け態様はあくまで一例である。例えば、ドアホールシール1が取り付けられる車両のドアは、
図1の例に示すフロントドアDに限定されず、車両のドアであればどのような種類のドアであってもよい。具体的には、ドアホールシール1は、リアドアまたはスライドドアに取り付けられてもよい。また、ハードトップ車およびコンバーチブル車をはじめとする任意の種類の車両が、ドアホールシール1の取り付け対象となる。
【0025】
〔ドアホールシールの材料〕
ドアホールシール1は、防水性および防音性を備えていることが好ましい。ドアホールシール1の防水性および防音性は主に、第1シート10および第2シート20の各材料により調整できる。
【0026】
第1シート10の材料の例としては、エラストマーおよびエラストマーを含む複合体が挙げられる。エラストマーの例としては、エチレンプロピレンジエン重合ゴム(EPDM)等のゴムおよび熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Elastomer:TPE)が挙げられる。TPEの例としては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Olefinic Elastomer:TPO)が挙げられる。
【0027】
また、第1シート10は、上述のようなエラストマーまたはエラストマーを含む複合体を発泡させた発泡弾性体であることが好ましい。このような構成によれば、第1シート10は、高い防音性および防水性を発揮できる。
【0028】
第2シート20の材料の例としては、合成樹脂が挙げられる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の例としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)およびEVA(エチレンビニルアセテート)が挙げられる。第2シート20がこのような材料で形成されていれば、ドアホールシール1は、高い防水性を発揮できる。
【0029】
ドアホールシール1において、第2シート20は、第1シート10における車内側の略全面を覆うように、大きさおよび第1シート10と接着する位置が設定されていることが好ましい。
【0030】
ドアホールシール1は、第2シート20における車内側の面と、第1シート10における車外側の面とを接着することで製造できる。第1シート10および第2シート20は、それぞれ公知の方法により製造してよい。
【0031】
〔ドアホールシールの構造〕
図2および
図3を参照して、ドアホールシール1の構造について説明する。
図2に示すように、第1シート10には、ワイヤハーネスWを挿通可能な第1スリット11(スリット部)が形成されている。また、第2シート20には、ワイヤハーネスWを挿通可能な第2スリット21が形成されている。ワイヤハーネスWは、ケーブルとも称され、例えば、フロントドアDのドア開閉ハンドル(不図示)と、ドアラッチ(不図示)とを接続する部材であってもよい。また、ワイヤハーネスWは、フロントドアDの内部の、スピーカまたはウインドレギュレータ等の装置(不図示)に電気を供給する部材であってもよい。
【0032】
第1スリット11は、第1シート10を貫通する切込みである。本実施形態では、第1スリット11は、車両の前後方向に直線状に延伸する切込みとなっているが、この形態に限定されない。第1スリット11は、例えば、その一部または全部が円弧形状であってもよいし三角形状であってもよい。また例えば、第1スリット11は、車両の上下方向に延伸する切込みであってもよい。さらには、第1シート10に2つ以上の第1スリット11を含むスリット部が形成されていてもよい。つまり、第1シート10には、少なくとも1つ以上の第1スリット11を含むスリット部が形成されていればよい。
【0033】
第1シート10は、第1スリット11の周縁部に外力が作用することに起因して引き裂かれる破断部12を有している。本実施形態では、破断部12は、2つ以上の第3スリット121を含むスリット部として構成され、
図3の例では3つの第3スリット121を含んだスリット部として構成されている。第3スリット121は、第1シート10を貫通する直線状の切込みであり、第1スリット11に比して大幅に短い。3つの第3スリット121は、略同一の大きさおよび形状になっており、第1スリット11の延伸方向に略同一の間隔で並んでいる。
【0034】
前述のような3つの第3スリット121の大きさ、形状および配置から、破断部12は、第1スリット11の延伸方向に引き裂かれる。そのため、破断部12が第1スリット11の延伸方向以外の方向に引き裂かれる場合に比べて、第1スリット11の周縁部に作用する外力の一部を破断部12において吸収し易くなる。これにより、第1シート10における破断部12以外の部分が鉛直下側に引き裂かれるのをより低減でき、水が車室内に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【0035】
第3スリット121の前後方向の長さLおよび残存部分122の前後方向の幅Wは、それぞれ任意の設計変更が可能であるが、一例として「L:5mm、W:1.5mm」に設定することができる。残存部分122は、隣り合う2つの第3スリット121の間に位置する第1シート10の一部分である。第3スリット121の上下方向の幅は、第1スリット11の幅と略同一である。
【0036】
また、本実施形態では、
図2に示すように第1シート10が2つの破断部12を有しており、2つの破断部12がそれぞれ第1スリット11と接続している。具体的には、
図3に示すように、最内側の第3スリット121におけるスリット側端部123と第1スリット11の先端111(スリット部の少なくとも一端)とが、接続部分13を介して接続している。この接続態様は、本実施形態のような1つの第1スリット11のみならず、第1シート10が例えば2つ以上の第1スリット11を含むスリット部を有している場合であっても同様である。
【0037】
「最内側の第3スリット121」は、3つの第3スリット121のうちの最も第1スリット11側に位置する第3スリット121である。スリット側端部123は、最内側の第3スリット121における最も第1スリット11側に位置する端部であり、第1スリット11の先端111と接続する破断部12の一端に相当する。接続部分13は、第1スリット11と最内側の第3スリット121との間に位置する第1シート10の一部分である。
【0038】
なお、図示の簡略化の観点から、
図3では2つの破断部12のうちの一方の接続態様しか図示していないが、実際には、2つの破断部12のうちの他方も
図3と同様の接続態様となっている。
【0039】
また、破断部12に含まれる第3スリット121の構成は、本実施形態の例に限定されない。例えば、第3スリット121の個数が4つ以上であってもよい。また、3つの第3スリット121の大きさ、形状および配置も適宜設計変更してよい。第3スリット121の形状としては、本実施形態のような直線状である必要はなく、第1シート10を貫通しているのであればどのような形状であってもよい。例えば、第3スリット121は、矩形状もしくは円状の貫通孔、または貫通点であってもよい。あるいは、破断部12は、第1スリット11の周縁部に作用する外力の一部が破断部12に伝播して引き裂かれる場合に限らず、何らかの外的作用によって引き裂かれる部分であればよい。
【0040】
さらには、破断部12の個数および第1スリット11との接続態様も、本実施形態の例に限定されない。例えば、第1シート10が1つの破断部12しか有しておらず、当該1つの破断部12が第1スリット11における2つの先端111のうちの一方と接続していてもよい。つまり、第1シート10は、少なくとも1つ以上の第1スリット11を含むスリット部について、その少なくとも一端が破断部12の一端と接続するものであればよい。
【0041】
第2スリット21は、第2シート20を貫通する切込みである。本実施形態では、第2スリット21における両端部以外の部分(以下、「直線部分」)が、
図2に示すような車両の前後方向に延伸する直線状の切込みとなっており、平面視で第1スリット11と略平行となるように形成されている。
【0042】
第2スリット21の両端部のうちのフロント側の端部は、直線部分の先端から鉛直下側かつフロント側に向けて延伸する直線状のスリットと、当該直線状のスリットにおける鉛直下側の先端と接続する略円形状のスリットと、で構成されている。一方、第2スリット21の両端部のうちのリア側の端部は、直線部分の先端から鉛直下側かつリア側に向けて延伸する直線状のスリットと、当該直線状のスリットにおける鉛直下側の先端と接続する丸穴形状の部位と、で構成されている。このような丸穴形状の部位が第2スリット21の両端部に設けられていることで、両端部を起点とした破れが生じ難くなっている。
【0043】
なお、
図2は車内側から第1シート10の正面視を示しているため、
図2では、第1シート10によって隠れて見えない第2スリット21を、便宜上破線で示している。また、第2スリット21は、その全部が直線部分で形成されていてもよい。さらには、第2スリット21は、第1スリット11と同様、その一部または全部が円弧形状等であってもよいし車両の上下方向に延伸する切込みであってもよい。
【0044】
車外側にある第2スリット21は、車内側にある第1スリット11よりも鉛直下側の位置に形成されている。言い換えれば、第1スリット11は、第2スリット21よりも鉛直上側の位置に形成されている。これにより、第1スリット11の周縁部に外力が作用しない限りにおいては、フロントドアD内に浸入した水が第2スリット21を通過したとしても、さらに第1スリット11を通過して車室内に浸入することを防ぐことができる。
【0045】
第2シート20は、上側接着部31(接着部)および下側接着部32(接着部)によって、第1シート10における車外側の面に接着されている。本実施形態では、上側接着部31および下側接着部32は、ともに第1シート10と第2シート20とを溶着するものである。
【0046】
上側接着部31は、前後方向に延伸する第1接着部311と、第1接着部311の両端のそれぞれから鉛直下側に延伸する第2接着部312(接着部の一部)と、で構成されている。上側接着部31は、第1接着部311と2つの第2接着部312とで鉛直上側に凸となる略U字形状の溶着ラインを形成し、第1スリット11および2つの破断部12を取り囲むように位置している。また、2つの第2接着部312のそれぞれにおける鉛直下側の先端が、第2スリット21よりも鉛直上側に位置している。下側接着部32は、第2スリット21と略同一形状の溶着ラインを形成し、第2スリット21よりも鉛直下側に位置している。
【0047】
図3に示すように、第2接着部312は、破断部12の延伸方向の延長線EL上に位置している。本実施形態では、延長線ELは、3つの第3スリット121を含む破断部12の平面視の形状を長方形状と見做した場合における、長方形(
図3中の破線で示された長方形)の長辺方向に延伸する仮想的な中心線となる。
【0048】
また、本実施形態では、第2接着部312が、最外側の第3スリット121における接着側端部124から離間した箇所に位置している。「最外側の第3スリット121」は、3つの第3スリット121のうちの最も第2接着部312側に位置する第3スリット121である。接着側端部124は、最外側の第3スリット121における最も第2接着部312側に位置する端部であり、破断部12の他端に相当する。
【0049】
第2接着部312が前述のように位置していることにより、破断部12が、接着側端部124よりもさらに第2接着部312に向けて引き裂かれたとしても、引き裂かれた部分の先端が第2接着部312に達した時点でそれ以上の引き裂きを止めることができる。また、第2接着部312における鉛直下側の先端が第2スリット21よりも鉛直上側に位置することから、引き裂かれた部分の先端が第2接着部312に達した場合において、引き裂かれた部分の先端が第2スリット21よりも鉛直下側に位置することはない。以上より、水が車室内に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【0050】
なお、本実施形態にて示した第1接着部311および第2接着部312の構成はあくまで一例であり、これらの大きさ、形状および配置を適宜設計変更してよい。また、第1シート10と第2シート20とが第1接着部311および第2接着部312によって接着されていることは必須ではなく、例えば単一の接着部によって接着されていてもよい。さらには、第1シート10と第2シート20とが接着部によって接着されていること自体が必須ではなく、何らかの方法、態様で接着されていればよい。
【0051】
〔外力が作用したときの第1スリットおよび破断部の状態〕
図4および
図5を参照して、第1スリット11の周縁部に外力が作用したときの、第1スリット11および破断部12の状態について説明する。
図4について、符号401により示すのは、ドアホールシール1にワイヤハーネスWを通した状態を示す模式図であり、符号402により示すのは、符号401により示す図のA-A線矢視断面図である。
図4の符号402は、紙面向かって上側が鉛直上側、下側が鉛直下側、右側が車内側、左側が車外側、手前側がリア側、奥側がフロント側に、それぞれ対応している。
【0052】
第1シート10は、前述のように発泡弾性体で形成されることが好ましい。このような第1シート10は、外力が作用すると比較的弾性変形し易いという問題がある。そのため、第1スリット11が本実施形態のような車両の前後方向に延伸するスリットの場合において、第1スリット11の周縁部に下方向の外力が作用すると、第1スリット11が下方向に際限なく開口してしまうことがあった。
【0053】
その点、ドアホールシール1は、第1シート10が破断部12を有している。そのため、第1スリット11の周縁部に作用する外力の一部を破断部12の引き裂きによって吸収することができ、第1スリット11の下方向への開口を第2スリット21の鉛直上側の位置で止めることができる。これに加えて、ドアホールシール1は、引き裂かれた後の破断部12の接着側端部124が、第2スリット21よりも鉛直上側に位置する。よって、第1スリット11の周縁部に下方向の外力が作用しても、第2スリット21を通過した水が、さらに第1スリット11または引き裂かれた後の破断部12を通過して車室内に浸入するのを防ぐことができる。
【0054】
一例として、
図4に示すように、ワイヤハーネスWは、車外側から第2スリット21を通り、第1スリット11から車内側に向かって上方向に挿通されることになる。そのため、ワイヤハーネスWを抜き差しする場合、
図5に示すように、第1スリット11の周縁部に下方向の力(ワイヤハーネスWにおける第1スリット11からの突出部分の重力)が作用し易くなる。
【0055】
しかしながら、第1スリット11の周縁部に前述のような下方向の力が作用した場合、
図5に示すように、破断部12の一部または全部が引き裂かれる。
図5の例では、ワイヤハーネスWの突出部分がフロント側に偏って垂れ下がっていることから、2つの破断部12のうち、フロント側の破断部12は全ての残存部分122が引き裂かれる。一方、リア側の破断部12は、第1スリット11側の残存部分122のみが引き裂かれる。
【0056】
このような破断部12の引き裂きにより、第1スリット11の下方向への開口を、
図5に示すように第2スリット21よりも鉛直上側の位置で止めることができる。また、破断部12が引き裂かれる態様は個別のドアホールシール1毎に異なり、例えば、特定のドアホールシール1において破断部12が全く引き裂かれないケースも想定される。したがって、破断部12を設けることなく、代わりに破断部12の延伸方向の全長を含めた切込長さで第1スリット11を設ける場合よりも、ワイヤハーネスW等を挿通した後の第1スリット11の下方向への開口を小さくすることができる。
【0057】
そして、引き裂かれた後の破断部12の接着側端部124についても、第2スリット21よりも鉛直上側に位置する。よって、ワイヤハーネスWの突出部分から第1スリット11の周縁部に下方向の力が作用しても、第2スリット21を通過した水が、第1スリット11または引き裂かれた後の破断部12を通過して車室内に浸入するのを防ぐことができる。さらには、前述した通り、破断部12を設けた方が第1スリット11の下方向への開口が小さくなることから、車外側からの音の侵入を従来よりも低減できる。
【0058】
なお、車室内への水の浸入を防ぐという目的を達成する限りにおいては、最低限、引き裂かれた後の破断部12の接着側端部124が第2スリット21よりも鉛直上側に位置していればよい。したがって、破断部12が第1スリット11の延伸方向に引き裂かれることは必須ではなく、引き裂かれた後の破断部12の接着側端部124が第2スリット21よりも鉛直上側に位置するのであれば、破断部12が引き裂かれる方向は何ら限定されない。
【0059】
〔変形例〕
図6を参照して、ドアホールシール1の変形例について説明する。ドアホールシール1は、前述した実施形態の例に限らず種々の変形例を想定できる。以下、種々の変形例の中から1つの変形例を取り上げて説明する。なお、説明の便宜上、前述の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0060】
ドアホールシール1の変形例としては、
図6に示すような変形例に係るドアホールシール1aが想定できる。ドアホールシール1aは、第1シート10が破断部12に代わりに破断部12aを有している点において、ドアホールシール1と異なる。
【0061】
破断部12aは、2つ以上の第3スリット121を含むスリット部である点、および第1スリット11の延伸方向に引き裂かれる点では破断部12と同様であるが、最外側の第3スリット121における接着側端部124が第2接着部312と接続している。なお、
図6の例では、破断部12aは、4つの第3スリット121を含むスリット部として構成されている。
【0062】
このような破断部12aによれば、当該破断部12aの全部が第1スリット11の延伸方向に引き裂かれた時点で、それ以降の引き裂きを確実に止めることができる。つまり、接着側端部124よりもさらに先の部分が鉛直下側に引き裂かれるのを確実に止めることができる。これにより、第2スリット21を通過した水が、第1スリット11または引き裂かれた後の破断部12aを通過して車室内に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【0063】
〔付記事項〕
本発明は前述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、実施形態および変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる新たな実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
なお、第2シート20において、領域Rと当該領域R以外の領域(
図1等参照)とは、連続する1枚のシートで構成されていてもよいし、複数のシートで構成されていてもよい。また、領域Rと当該領域R以外の領域(
図1等参照)とは、同一材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。ここで、領域Rは、第2スリット21が形成されているとともに、第1スリット11を取り囲むように第1シート10における車外側の面と接着している、第2シート20の部分である。領域R以外の領域とは、車内外方向から見て第1シート10の外形を内包するように、第1シート10における車外側の面と接着している、第2シート20の部分である。
【符号の説明】
【0065】
1、1a ドアホールシール
10 第1シート
11 第1スリット(スリット部)
12、12a 破断部
13 接続部分
20 第2シート
21 第2スリット
31 上側接着部(接着部)
32 下側接着部(接着部)
311 第1接着部
312 第2接着部(接着部の一部)
111 先端(スリット部の少なくとも一端)
121 第3スリット
122 残存部分
123 スリット側端部(破断部の一端)
124 接着側端部(破断部の他端)
B ブチルライン
D フロントドア(ドア)
D1 ドアインナーパネル
D2 ドアホール
EL 延長線
R 領域(
図1のドアホールシールに示す範囲例)