(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085842
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】木質パネルの接合部構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240620BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
E04B1/58 601E
E04B2/56 632A
E04B2/56 632J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200604
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓
(72)【発明者】
【氏名】麻生 直木
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆之
【テーマコード(参考)】
2E002
2E125
【Fターム(参考)】
2E002EA01
2E002EA02
2E002FA02
2E002FB07
2E002JA01
2E002JA02
2E002JB02
2E125AA13
2E125AA54
2E125AC15
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG41
2E125BB18
2E125BD01
2E125BE02
2E125CA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】木質パネルの設計施工において、水平力に対する合理的な設計でき、接合、設置時における施工精度を要しない接合部構造を提供する。
【解決手段】少なくとも一面が鉛直側面20Vとなる切欠部20がパネル下面の隅角部の二面を切欠いて形成され、梁3上に起立して支持される木質パネル2と、切欠部20内に収容可能な寸法で、切欠部20に対応する位置の梁3上に固定され、切欠部20の鉛直側面20Vに密接可能な側面を有する角形鋼管11と、切欠部水平面20Hから先端が突出し、他端が木質パネル2内に定着され、角形鋼管11を鉛直側面20Vに密接保持する固定ボルト30とを備え、鉛直側面20Vと鋼管側面とを密接させて切欠部20内に収容された角形鋼管11を介して木質パネル2に作用する水平せん断力を梁3に伝達させるようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面が鉛直側面となる切欠部がパネル下面の隅角部の二面を切欠いて形成され、梁部材上に起立して支持される木質パネルと、
前記切欠部内に収容可能な寸法で、前記切欠部に対応する位置の前記梁部材上に固定され、前記切欠部の鉛直側面に密接可能な側面を有する接合金物と、
前記切欠部下面から先端が突出し、他端が前記木質パネルの一部に定着され、前記接合金物を前記切欠部の鉛直側面に密接可能に保持可能な固定ボルトと、
を備え、
前記鉛直側面と前記側面とを密接させて前記切欠部内に収容された前記接合金物を介して前記木質パネルに作用する水平せん断力を前記梁部材に伝達させたことを特徴とする木質パネルの接合部構造。
【請求項2】
パネル下面の三面を切欠いて切欠部が形成され、梁部材上に起立して支持される木質パネルと、
前記切欠部内に、周囲に隙間を設けて収容可能な寸法で、前記切欠部に対応する位置の前記梁部材上に固定された接合金物と、
前記切欠部下面から先端が突出し、他端が前記木質パネルの一部に定着され、前記接合金物を前記切欠部内に保持可能な固定ボルトと、
を備え、
前記切欠部内に収容された前記接合金物の周囲の隙間が充填固化材で満たされ、固化した前記充填固化材と前記接合金物とを介して前記木質パネルに作用する水平せん断力を前記梁部材に伝達させたことを特徴とする木質パネルの接合部構造。
【請求項3】
前記接合金物は、角形鋼管を前記木質パネルのパネル厚の長さに切断加工した角筒形状体である請求項1または請求項2に記載の木質パネルの接合部構造。
【請求項4】
前記固定ボルトは、前記他端にガセット板を有し、前記ガセット板が前記木質パネル内に挿入保持されて定着された請求項1または請求項2に記載の木質パネルの接合部構造。
【請求項5】
前記固定ボルトは、前記他端にネジ部が形成され、前記ネジ部が前記木質パネルに形成された開口空間内に突出してナット定着された請求項1または請求項2に記載の木質パネルの接合部構造。
【請求項6】
前記木質パネルの鉛直側面に密着可能な押圧プレートが前記接合金物の側面に付加された請求項1に記載の木質パネルの接合部構造。
【請求項7】
前記梁部材の上面に施工されたコンクリートスラブ上に起立支持された前記木質パネルの前記切欠部の相当位置に前記接合金物を配置させた請求項1または請求項2に記載の木質パネルの接合部構造。
【請求項8】
前記接合金物は、前記梁部材上に多段に重ねて使用された請求項7に記載の木質パネルの接合部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の木質パネルと梁、または上下に配置した木質パネル相互の接合のために用いられる木質パネルの接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した厚みのある大型の木質系板材であるCLT(Cross Laminated Timber)や、単板積層材LVL(Laminated Venner Lumber)などの各種の大型の積層板材(以後、総称して木質パネルと記す。)を壁部材として用いた中層、高層建築物の建設が行われている。
【0003】
従来、これらの木質パネルと梁部材との接合部では、地震力等による作用曲げモーメントに対しては、木質パネルと梁とをつなぐ鋼棒の引張抵抗と木質パネルの圧縮抵抗で、作用せん断力に対しては、別途設置する鋼板とダボピンにより抵抗させる構造が多く採用されていた。
【0004】
また、高耐力接合部の構造として、鋼管スリーブに接続用ボルトを挿入後、鋼管スリーブ内にグラウトを充填する木製部材の接続構造も提案されている(特許文献1)。特許文献1には、接続構造の試験体として、鋼管スリーブに引張抵抗と併せて水平力伝達機構を付与する目的で、鋼管スリーブ内部と鋼管スリーブの外周部分の空間部分にもグラウトが充填されている。
【0005】
さらに、木質パネル内に挿入されたせん断パネル鋼板を複数本のダボピンで固定する接合構造等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された接続構造では、構造上グラウト充填が必須であり、充填手間とともに充填管理が必要となる。また、鋼管スリーブ内に挿入する鋼棒と鋼管スリーブとは充填されたグラウトを介して接合されるため、鋼管スリーブ内部には付着力を確保するための突起等を設ける必要がある。そのため、鋼管スリーブの製作は複雑な加工を要する。また、鋼管スリーブの外形が円筒形であるため、スリーブ外周面でせん断力を負担させるためには鋼管スリーブを収容する空間内にもグラウト等を充填する必要がある。さらに、円筒形の鋼管スリーブの外周面からグラウトを介して木質パネルに支圧力を作用させると、支圧力によってグラウトと木質パネルとの間に割裂が生じるおそれがある。加えて、継手とシアキーの両機能を有する接合形式におけるせん断伝達の評価方法は明示されていない。
【0008】
また、せん断抵抗パネルとしての鋼板をダボピンで木質パネル内に固定する接合構造では、ダボピンを挿入する木質パネルと鋼板との貫通する取付孔に高い施工精度が求められる。
【0009】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、作用水平力に対する合理的設計が可能で、木質パネルの接合、設置時の施工精度を必要とせず、完成した接合部構造において、水平せん断抵抗を十分確保できるようにした木質パネルの接合部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明の木質パネルの接合部構造は、少なくとも一面が鉛直側面となる切欠部がパネル下面の隅角部の二面を切欠いて形成され、梁部材上に起立して支持される木質パネルと、前記切欠部内に収容可能な寸法で、前記切欠部に対応する位置の前記梁部材上に固定され、前記切欠部の鉛直側面に密接可能な側面を有する接合金物と、前記切欠部下面から先端が突出し、他端が前記木質パネルの一部に定着され、前記接合金物を前記切欠部の鉛直側面に密接可能に保持可能な固定ボルトとを備え、前記鉛直側面と前記側面とを密接させて前記切欠部内に収容された前記接合金物を介して前記木質パネルに作用する水平せん断力を前記梁部材に伝達させたことを特徴とする。
【0011】
第2の発明の木質パネルの接合部構造は、パネル下面の三面を切欠いて切欠部が形成され、梁部材上に起立して支持される木質パネルと、前記切欠部内に、周囲に隙間を設けて収容可能な寸法で、前記切欠部に対応する位置の前記梁部材上に固定された接合金物と、前記切欠部下面から先端が突出し、他端が前記木質パネルの一部に定着され、前記接合金物を前記切欠部内に保持可能な固定ボルトとを備え、前記切欠部内に収容された前記接合金物の周囲の隙間が充填固化材で満たされ、固化した前記充填固化材と前記接合金物とを介して前記木質パネルに作用する水平せん断力を前記梁部材に伝達させたことを特徴とする。
【0012】
第1の発明、第2の発明において、前記接合金物は、角形鋼管を前記木質パネルのパネル厚の長さに切断加工した角筒形状体であることが好ましい。
【0013】
第1の発明において、前記固定ボルトは、前記他端にガセット板を有し、前記ガセット板が前記木質パネル内に挿入保持させて定着され、または第2の発明において、前記他端にネジ部が形成され、前記木質パネルに形成された開口空間内に突出したネジ部がナット定着されることが好ましい。
【0014】
第1の発明において、前記木質パネルの鉛直側面に密着可能な押圧プレートが前記接合金物の側面に付加することが好ましい。
【0015】
第1の発明、第2の発明において、前記梁部材の上面に施工されたコンクリートスラブ上に起立支持された前記木質パネルの前記切欠部の相当位置に前記接合金物を配置させることが好ましい。
【0016】
第1の発明、第2の発明において、前記接合金物は、前記梁部材上に多段に重ねて使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明(第1の発明、第2の発明)によれば、木質パネルを用いた壁構造体の設計段階において、梁部材上に設置された接合金物を介して木質パネルに作用する水平せん断力を梁部材に確実に伝達させるという簡明な設計法とすることができ、また、木質パネル製作時において、比較的寸法許容のある製作精度でパネル製作を行え、さらに、木質パネルによる壁構造体の施工時において、比較的寸法許容のある施工精度で壁構築を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の発明の木質パネルの接合部構造を用いて木質パネルと梁とを接合して構築された建築物の一部を示した部分正面図。
【
図2】
図1に示した木質パネルの接合部構造の一実施形態について、一部を切欠いて示した部分拡大図。
【
図3】第2の発明による接合部構造の一実施形態を示した部分拡大図。
【
図4】第1の発明の接合部構造の接合金物の変形例を示した部分拡大図。
【
図5】第1の発明の接合部構造の固定ボルトの変形例を示した部分拡大図。
【
図6】第1の発明の接合部構造の接合金物の変形例を示した部分拡大図。
【
図7】第1の発明の接合部構造の接合例(木質パネル間)を示した部分拡大図。
【
図8】木質パネルの接合構造における水平せん断力の伝達経路を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の木質パネルの接合部構造の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の木質パネルの接合部構造10を用いて木質パネルと梁3とを接合して構築された建築物の壁構造体1の一部を示している。同図に示したように、各木質パネル2の上下端2a、2bは、梁3のフランジ面に固定支持され、複数枚の木質パネル2を縦横に接合することにより、上下階の梁3U、3Lの間を塞ぐような高さの壁構造体1が構築されている。本実施形態における木質パネル2としては、高さ約2,100mm、幅1,200mm、厚さ210mmの一般的な仕様寸法のCLTパネルが使用されている。本発明の接合部構造10の各部の寸法は、使用される木質パネル2の寸法に適合した耐力が確保可能な仕様になっている。
【0021】
図1の中央に描かれた木質パネル2は、上下端2a、2bが上下位置に架設された梁3U、3L間に挟まれ、下端2bが下側の梁3L上に起立して保持されている。木質パネル2の上下端2a、2bを、上下位置の梁3U、3Lに固定保持するため、接合金物11が使用されている。本発明では、接合金物11として、正面視してロ字形をなす長尺の等辺角形鋼管を切断して製作した加工部材が用いられている。各接合金物11は4本の高張力ボルト12(
図2:以下、ボルト12と記す。)によって木質パネル2の上下に位置する梁3U、3Lの対向するフランジ面上にそれぞれ堅固に固定されている。また、接合金物11の梁3へ固定手段としては、上述した高張力ボルト12による固定の他、フランジ面に直接溶接して固定することもできる。なお、木質パネル2は、下側の梁3Lのフランジ面上に直接載置される場合以外、梁3上に敷設された所定厚さのコンクリートスラブ上5(
図6参照)に載置される場合もある。いずれの場合にも、使用する接合金物11のサイズ(外形寸法、板厚)や、接合金物11の多段使用については、梁3あるいはコンクリートスラブ5上に位置する木質パネル2に形成された切欠部(後述する。)の高さを考慮して設計することが好ましい。
【0022】
接合金物11は、木質パネル2の上下端2a、2bの四隅に、接合金物11の外形寸法よりわずかに大きな寸法の二面で切欠かれた切欠部20内に納まるように位置し、木質パネル2内に定着部を有するアンカー部材としての固定ボルト端にナット締めされ、木質パネル2に固定保持されている。この接合金物11を介して木質パネル2の上下面は、その上下に位置する梁3U、3Lに固定されている。
【0023】
また、
図1にパネル全体が描かれた中央位置の木質パネル2の両側には、同形の木質パネル2が側面を密接させて、同様の固定形式によって梁3と木質パネル2とに接合されている。
【0024】
以下、第1の発明としての接合部構造10の構成について、
図2(a)、(b)を参照して説明する。
図2(a)は、
図1に示した木質パネル2の上下端2a、2bの四隅に設けられた接合部構造10の1箇所(一点鎖線で示した範囲)を拡大して示している。この接合部構造10において、木質パネル2は、下端の隅角部を鉛直側面と水平面の二面を切り取るように形成された切欠部20内に、梁3のフランジの所定位置に固定された接合金物11が納まるように、H形鋼からなる梁3(
図2(b))のフランジ面上に載置保持されている。
【0025】
本実施形態の接合金物11は、一辺200mmの等辺の熱間成形継目無角形鋼管(規格品)を、木質パネル2の板厚に略等しい長さ(200mm)で切断加工して製作された角筒状体からなる。各接合金物11は、
図1、
図2各図に示したように、木質パネル2の上下端2a、2bの隅角部に形成された切欠部20と相対する梁3(3U、3L)のフランジ面に、1個あたり4本のボルト12で固定されている。角筒状体からなる接合金物11の一辺の寸法、肉厚、および接合金物11が収容される木質パネル2の切欠部20の空間の寸法は、作用する水平せん断力、1枚の木質パネル2の大きさ等を考慮した設計により決定することが重要である。なお、角筒状体は、所定板厚の鋼材を十分な強度を確保可能な溶接加工によって製作してもよい。さらに角形鋼管内の一部あるいは全体にコンクリートを充填することにより、接合金物としての剛性、耐力をさらに向上させることができる。
【0026】
接合金物11の木質パネル2への取り付け手段について、簡単に説明する。
図2(a)に示したように、木質パネル2の下端2bの隅角部において、角部を一面が鉛直側面、他の面が水平面となるように正面視して等辺に切り取って形成された切欠部20の水平面から固定ボルト30の先端が突出している。この固定ボルト30は、ボルト軸31の他端に定着部としてのガセット板32が取り付けられている。ガセット板32は、複数本のドリフトピン33によってあらかじめ木質パネル2内に固定保持されている。この固定ボルト30の先端を接合金物11の端面に形成された接合孔に挿通して所定の締め付け力によりナット34を締め込むことで、接合金物11を介して木質パネル2を堅固に梁3に固定保持させることができる。
【0027】
固定ボルト30のガセット板32を木質パネル2内に保持させるためには、ガセット板32とボルト軸31とが挿通可能な図示しないスリットとボルト孔とを、パネル下面の切欠部20の水平面20H側からガセット板32の定着位置まで形成し、そのスリットとボルト孔とに沿って固定ボルト30(ガセット板32とボルト軸31)を挿入して装着する。または、木質パネル2の側面から形成されたスリット(図示せず)を介して木質パネル2の側面から固定ボルト30を挿入してもよい。
【0028】
固定ボルト30は、ガセット板32が、
図2(a)、(b)に示したように、複数本のドリフトピン33によって木質パネル2内に固定されて定着部として機能するため、木質パネル2の切欠部20の鉛直側面20Vと接合金物11の側面11Vとを密着させた状態で接合金物11を木質パネル2に固定できる。これにより、接合金物11は木質パネル2に作用する水平せん断力に対する抵抗体として有効に機能する。
【0029】
図3(a)、(b)は、第2の発明としての接合部構造10を示している。第2の発明では、木質パネル2の隅角部近傍の三面を、二面が平行な鉛直側面20V、鉛直側面20Vに挟まれた面が水平面20Hとなるように形成された切欠部20内に接合金物11を収容させ、切欠部20の各面と接合金物11の外周との間の隙間に充填固化材を満たす構成からなる接合部構造10を示している。この接合部構造10において、接合金物11の梁3のフランジ面への固定、木質パネル2側の固定ボルト30の構成は、
図2各図に示した第1の発明の構成と同様である。この接合部構造10では、接合金物11の側面と木質パネル2の鉛直側面との間の隙間21に満たされた充填固化材25を介在させて木質パネル2に作用する水平力に抵抗させることができる。充填固化材25としては、固化後、作用水平力を確実に伝達できる材料を採用することが必要であり、たとえば無収縮モルタル(グラウト)、エポキシ樹脂等が好適である。
【0030】
図4は、木質パネル2の下端を固定保持する2個の接合金物11のうち、一方の接合金物11を
図1に示した構成とした際、他端において木質パネル2と接合金物11との密着度を高めることができる接合金物11の変形例を示している。この接合金物11は、同図に示したように、木質パネル2の切欠部20の鉛直側面20Vに密着可能な押圧プレート17を有している。この押圧プレート17は接合金物11の側面に押圧調整ボルト18の先端に保持されている。押圧プレート17の木質パネル2への密着は、梁3のフランジ面に固定保持されている接合金物11の押圧調整ボルト18のねじ込みにより行うことができる。
【0031】
図5は、上述した木質パネル2側に取り付けられた固定ボルト30の変形例を示している。
図1等では、木質パネル2側の固定ボルト30は、木質パネル2内部に挿入されたガセット板32を定着端とした。これに対して、
図5に示した固定ボルト30は、所定長さのボルト軸35の他端にネジ部が形成され、ネジ部を木質パネル2をくり抜いて設けられた定着開口36内に突出させ、ナット34,37を締め込むことで木質パネル2側に定着させている。ボルト軸35は、パネル下端の切欠部20の上面から定着開口36まで穿孔されたボルト孔38に挿入して装着するか、木質パネル2の側面にボルト径よりわずかに幅広のスリット(図示せず)を形成して木質パネル2の側面から挿入することができる。
【0032】
図6各図は、鉄骨梁3上に所定厚さのコンクリートスラブ5を敷設し、そのスラブ面上に木質パネル2を設置するようにした接合部構造10の構成を示している。この構成おいて、コンクリートスラブ厚tは、
図6(a)に示したように、梁3上に設置された下段接合金物11Lの高さに等しい厚さt=200mmに設定されている。さらに、下段接合金物11Lの上面に上段接合金物11Uが積み重ねられ、接合ボルト19で一体化されている。この上段接合金物11Uは、下段接合金物11Lと同形をなし、コンクリートスラブ5上面に木質パネル2が設置された際、
図1に示した設置状態と同様に、木質パネル2の下端2bの隅角部に形成された切欠部20に納まり、木質パネル2側の固定ボルト30によって梁3のフランジ面に固定保持される。なお、上段接合金物11U、下段接合金物11L内の一部あるいは全体にコンクリートを充填することにより、それぞれの接合金物としての剛性、耐力をさらに向上させることができる。
【0033】
図6(b)は、
図6(a)に示した上段接合金物11Uと下段接合金物11Lとを重ねた2段構成の接合金物11に代えて、正面視して縦長の長方形断面からなる接合金物111を使用した変形例を示している。この接合金物111は、同図に示したように、下面側が梁3のフランジ面にボルト固定され、上面に木質パネル2側の固定ボルト30端が定着されるようになっている。また、
図6(a)に示した2段の接合金物11と同様の剛性を確保するために、接合金物111の内部のほぼ全面あるいは部分的に覆う寸法の補剛プレート112が溶接により取り付けられている。
【0034】
図7(a)は、木質パネル2を上下方向に重ねて接合して壁構造体1を構築する際に、上下の木質パネル2の接合部構造10として、
図6(b)に示した接合金物111とほぼ同形の接合金物113を使用した変形例を示している。
図7に示した接合金物113を上下の木質パネル2U,2Lの接合部位置に用いることで、木質パネル2U,2Lの境界部分において十分なせん断伝達を果たすことができる。
【0035】
図8は、本発明の接合部構造10によって梁3上に固定保持された木質パネル2の水平せん断抵抗機構を模式的に示している。同図に示したように、本発明(一例として第1の発明)の構成モデルによれば、水平せん断力Q
0は木質パネル2を梁3上に固定している接合部構造10が抵抗する。すなわち、
図8で拡大して示したように、木質パネル2の下端隅角部の切欠部20の鉛直側面20Vと接合金物11の側面11Vとが密着接合されているため、接合金物11は、木質パネル2と接合金物11との接触面積A(接触面の高さh×木質パネル2の板厚)と木質パネル2の支圧強度σとの積(A×σ)で水平せん断力Q
0に抵抗する。よって、接合部構造10としての接合金物11の設計は、Q
0<A×σとなるように行う。この場合、施工性の観点から接合金物11の寸法が制限される場合には、梁3のフランジ面に木質パネル2と一体化させた、水平せん断抵抗力Q
eを確保可能な公知構造のせん断抵抗パネル等の付加せん断抵抗要素115を設置することも好ましい。また、この付加せん断抵抗要素として、隅角部に設置した接合金物11と同形の角形鋼管を同様の接合方法で接合させ、せん断力に抵抗させることもできる。この角形鋼管を木質パネルの下端の所定位置に設置することで、角形鋼管を各種設備配管の壁貫通孔として利用することもできる。
【0036】
以上で説明した木質パネル2の水平せん断抵抗機構では、水平せん断力Q
0、接合金物11が負担するせん断抵抗力(A×σ:接触面積A、接触部分の木質パネル2の支圧強度σ)、付加せん断抵抗要素115の水平せん断抵抗力Q
eとした場合、Q
0<(A×σ)+Q
eとなるように設計されている。また、
図8に示したように、木質パネル2に水平せん断力Q
0が作用した際、木質パネル2にはパネル高さに応じた転倒モーメントMが生じるが、この転倒モーメントMに対して木質パネル2と接合金物11とを一体化させている固定ボルト30に引張力、圧縮力が生じる。これらのうち引張力に対して固定ボルト30が十分抵抗できるように設計されている。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1 壁構造体
2(2a,2b) 木質パネル(上端、下端)
3(3U,3L) 梁(上側梁、下側梁)
5 コンクリートスラブ
10 接合部構造
11,111,113 接合金物
12 高張力ボルト
17 押圧プレート
20 切欠部
25 充填固化材
30 固定ボルト
32 ガセット板
31,35 ボルト軸