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特開2024-85847樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法
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  • 特開-樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085847
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240620BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20240620BHJP
【FI】
B32B27/34
C01B32/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200610
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山岡 友洋
(72)【発明者】
【氏名】金城 永泰
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
【Fターム(参考)】
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA13
4F100JJ01
4F100JN18A
4F100JN18B
4F100YY00A
4F100YY00B
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD20
4G146BA15
4G146BA42
4G146BC03
4G146BC04
4G146BC36A
4G146BC36B
(57)【要約】
【課題】熱拡散率に優れるグラファイトシートの原料として、熱キュアを用いて得られるポリイミドフィルムを利用すること。
【解決手段】複屈折が0.095以上である第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、熱キュアを用いて得られうる、単層フィルムにおける複屈折が0.095未満である第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを利用することにより、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムであって、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルム。
【請求項2】
前記多層構造が、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、直接積層されている多層構造である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記複屈折Aに対する前記複屈折Bの比(複屈折B/複屈折A)が、0.01以上、0.8以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みが5μm以上である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)が、1.0以上、15.0以下である、請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の樹脂フィルムを原料として含む、グラファイトシート。
【請求項7】
熱拡散率が、4.0cm/s以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項8】
厚みが、15μm以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項9】
密度が1.8g/cm以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載の樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む、グラファイトシートの製造方法。
【請求項11】
第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で得られた積層体を、加熱してポリアミド酸をイミド化し、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する熱イミド化工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法であって、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトシートは、優れた熱伝導性を有することから、コンピュータなどの各種電子機器、電気機器に搭載される半導体素子およびその他の発熱部品などに、放熱用の部材として使用されている。
【0003】
このようなグラファイトシートを製造する方法としては、ポリイミドフィルムに対して、不活性ガス中において、例えば、2400℃以上の高温で熱処理を行い、当該ポリイミドフィルムを構成するポリイミドを炭化・黒鉛化、すなわちグラファイト化した後、任意で圧延処理を行う方法が知られている。
【0004】
また、近年は、膜厚(厚み)が小さいグラファイトシートに比べて熱受容量の面で有利な膜厚の大きいグラファイトシートの需要が増大している。ここで、膜厚の大きいグラファイトシートを製造する方法としては、例えば、原料として、2層以上のポリイミドフィルムが積層してなる積層ポリイミドフィルムを使用する方法が知られている(特許文献1および2、等を参照)。
【0005】
一般的なポリイミドフィルムの製造方法としては、以下の(1)および(2)に示す方法が知られている。
【0006】
(1)ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸および溶媒を含む溶液をフィルム状にキャストしてポリアミド酸の層を得る。前記ポリアミド酸の層に対して、加熱処理を行い、当該ポリアミド酸を脱環化させると共に、当該ポリアミド酸の層を脱溶媒させることにより、ポリイミドフィルムを得る方法(いわゆる「熱キュア」)。
【0007】
(2)ポリアミド酸および溶媒のほかに、環化触媒および脱水剤を含む溶液に対して、当該ポリアミド酸を科学的に脱環化させながら、当該溶液をフィルム状にキャストする操作を行い、ゲルフィルムを作製する。続いて、前記ゲルフィルムに対して、加熱処理を行い、当該ゲルフィルムを脱溶媒することによりポリイミドフィルムを得る方法(いわゆる「ケミカルキュア」)。
【0008】
ここで、グラファイトシートを放熱用の部材として使用するためには、当該グラファイトシートが熱拡散率に優れることが求められる。一般的に、ケミカルキュアの方が、熱キュアと比較して、得られるポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの、結晶配向性が良好であり、かつ、熱拡散率が優れていることが知られている。そのため、通常、放熱用の部材として使用されるグラファイトシートとしては、ケミカルキュアを用いて得られたポリイミドフィルムを原料として製造されるグラファイトシートが使用される(特許文献1および2、等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-114098号公報
【特許文献2】特表2022-512190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ケミカルキュアには、熱キュアと比較して、得られるポリイミドフィルムの設計(例えば、ポリイミドの種類および厚み等)の自由度が低いとの問題が存在する。また、ケミカルキュアは、環化触媒および脱水剤を使用しており、かつ、そのことにより、溶媒のリサイクルも困難となっている。それゆえ、ケミカルキュアには、熱キュアと比較して、コスト面および環境面でも不利であるとの問題も存在する。
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題点を解決するために、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造するための、熱キュアを利用する方法を開発することを目的としている。
【0012】
より詳細には、本発明の一実施形態は、熱拡散率に優れるグラファイトシートの原料として、熱キュアを用いて得られうるポリイミドフィルムを含む樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することを目的としている。また、本発明の一実施形態は、前記樹脂フィルムを用いて製造されるグラファイトシートおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、複屈折が高い第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、熱キュアによって得られうる、複屈折が低い第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを原料として製造されるグラファイトシートが、驚くべきことに、熱キュアによって得られる非熱可塑性ポリイミド層のみを原料として製造されるグラファイトシートよりも、顕著に熱拡散率に優れることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
したがって、本発明の一実施形態は、第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムであって、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルムに関する。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布する塗布工程と、前記塗布工程で得られた積層体を、加熱してポリアミド酸をイミド化し、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する熱イミド化工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法であって、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、通常は、熱拡散率に優れるグラファイトシートの原料には適さない、熱キュアを用いて得られうる複屈折率が低いポリイミドフィルムを含む一方で、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができる樹脂フィルムを提供することができる。また、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムを利用することにより、従来よりも、ポリイミドフィルムの設計の自由度を向上させて、および/または、製造コストを低く抑えて、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの一例の分子配向性および当該樹脂フィルムから製造されるグラファイトシートの結晶配向性を表す模式図である。
図2】本発明の実施例9に記載のグラファイトシートにおける、(a)第2の非熱可塑性ポリイミド層の第1の非熱可塑性ポリイミド層との界面付近、(b)第1の非熱可塑性ポリイミド層の内部および(c)第2の非熱可塑性ポリイミド層の表面部分、の結晶構造を表すTEM画像である。
図3】本発明の比較例2に記載のグラファイトシートの内部の結晶構造を表すTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0019】
<1.本発明の技術的思想>
グラファイトシートの熱拡散率は、当該グラファイトシートの結晶配向性に依存し、当該結晶配向性が高い場合に、グラファイトシートの熱拡散率は向上する。従来は、結晶配向性の高いグラファイトシートを製造するために、ケミカルキュアによって得られうる、配向性が高いポリイミドフィルムが原料として使用されてきた。配向性が高いポリイミドフィルムは、炭化・黒鉛化する場合に、結晶化が良好に進行する。その結果、配向性が高いポリイミドフィルムから、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを製造することができる。
【0020】
しかしながら、前述の通り、ケミカルキュアには、得られるポリイミドフィルムの設計(例えば、ポリイミドの種類および膜厚等)の自由度が低く、かつ、コストの面で不利であるとの問題が存在する。
【0021】
このような状況にあって、本発明者らは、配向性が高い、すなわち複屈折が高い第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、熱キュアによって得られうる、配向性が低い(複屈折が低い)第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを原料として製造されるグラファイトシートが、熱キュアによって得られる非熱可塑性ポリイミド層のみを原料として製造されるグラファイトシートよりも、顕著に熱拡散率に優れることを見出した。
【0022】
これは、配向性が高い非熱可塑性ポリイミド層上に、配向性が低い非熱可塑性ポリイミド層を積層させてなる樹脂フィルムを、炭化・黒鉛化してグラファイトシートとすることにより、当該配向性が高い非熱可塑性ポリイミド層の影響を受け、配向性が低い非熱可塑性ポリイミド層においても、配向性が低い非熱可塑性ポリイミド層の単層からなる樹脂フィルムを炭化・黒鉛化する場合よりも、結晶化がより良好に進行する。その結果、配向性が低い非熱可塑性ポリイミド層も、配向性が高い非熱可塑性ポリイミド層と同様、炭化・黒鉛化により、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートに変化する。
【0023】
このような、配向性が低い非熱可塑性ポリイミド層から、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートが得られることは、従来知られておらず、驚くべき知見である。
【0024】
<2.樹脂フィルム>
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルム(以下、本樹脂フィルムと称する場合がある。)について詳説する。本樹脂フィルムは、第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムであって、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である樹脂フィルムである。なお、本明細書中において、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層および前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を、「ポリイミドフィルム」とも称する。
【0025】
本樹脂フィルムは、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満と低く、熱キュアを用いて得ることができる第2の非熱可塑性ポリイミド層を備える。よって、本樹脂フィルムは、熱キュアを用いて製造することができる。
【0026】
また、本樹脂フィルムは、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上と高い第1の非熱可塑性ポリイミド層を備える。図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの一例の分子配向性および当該樹脂フィルムから製造されるグラファイトシートの結晶配向性を表す模式図である。図1中の曲線および直線は、樹脂フィルム中のポリイミド分子の配向性およびグラファイトシート中のグラファイトの結晶配向性を表す。図1の左側には本樹脂フィルムの一例が示されている。当該樹脂フィルムは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層に該当する、ケミカルキュアによって得られる非熱可塑性ポリイミド層(ケミキュアPI)上に、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層に該当する、熱キュアによって得られる非熱可塑性ポリイミド層(熱キュアPI)が積層されてなる。図1に示すように、前記熱キュアPIは配向性が低く、前記ケミキュアPIは配向性が高い。一方、当該樹脂フィルムを炭化・黒鉛化した場合に、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層における結晶化の良好な進行に沿って、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層における結晶化も良好に進行する。その結果、本樹脂フィルムを炭化・黒鉛化することにより、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを製造することができる。また、複数の本樹脂フィルムを接着層で介して積層した後に炭化・黒鉛化することで、単独のグラファイトシートよりも厚みのあるプレート状のグラファイト(グラファイトプレート)とすることも可能である。
【0027】
このように、本樹脂フィルムは、熱キュアを用いることにより、ポリイミドフィルムの設計の自由度を向上させて、および/または、製造コストを低く抑えて、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを製造することができるとの効果を奏する。
【0028】
<2.1.第1の非熱可塑性ポリイミド層>
(複屈折)
本樹脂フィルムを構成する前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上である。ここで、「単層フィルムにおける複屈折A」とは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を単層として形成したときのその単層の複屈折を意味する。「単層フィルムにおける複屈折A」は、例えば、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を積層する前の前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を対象として複屈折を測定することによって決定することができる。
【0029】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を積層した場合であってもその配向性が変化しないことから、その複屈折も実質的に変化しない。よって、多層構造を有する本樹脂フィルムにおいて、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の「単層フィルムにおける複屈折A」は、例えば、本樹脂フィルムから前記第2の非熱可塑性ポリイミド層等を除去した後、残留する前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を対象として複屈折を測定することによって決定することができる。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記複屈折Aは、JIS K0062:1992に記載の方法によって測定することができる。具体的には、前記複屈折Aは、市販の屈折率測定装置を使用して測定することができ、より詳細には、後述の実施例に記載の方法によって、測定することができる。
【0031】
前記複屈折Aが高い場合、炭化・黒鉛化により、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が、より結晶配向性が高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートに変化する。よって、より結晶配向性が高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造するとの観点から、前記複屈折Aが高い方が好ましい。具体的には、前記複屈折Aは、0.1以上であることがより好ましい。また、通常、前記複屈折Aは、0.2以下であり得、0.16以下であることが好ましい。
【0032】
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の組成)
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、非熱可塑性ポリイミドを含む層であれば、その組成は、特に限定されない。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、酸二無水物成分と、ジアミン成分とを、主原料とする非熱可塑性ポリイミド樹脂を含むことが好ましい。
【0033】
(酸二無水物成分)
前記酸二無水物成分は、特に限定されない。前記酸二無水物成分は、前記酸二無水物成分の総量100モル%中、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」とも称する)を50モル%以上含むことが好ましい。前記酸二無水物成分が含むPMDAの量は、前記酸二無水物成分の全量100モル%に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは、70モル%以上である。前記酸二無水物成分が、PMDAを50モル%以上含むことにより、適度な配向性および複屈折を有する前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を提供することができる。前記酸二無水物成分が含むPMDAの量は、80モル%以上であってもよく、90モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよく、100モル%であってもよい。
【0034】
前記非熱可塑性ポリイミドは、前記酸二無水物成分として、前記PMDA以外のその他の酸二無水物を含んでもよい。前記その他の酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」と称する)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、「ODPA」と称する)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,1-(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)およびそれらの類似物を挙げることができる。前記その他の酸二無水物としては、これらの酸二無水物を単独で使用してもよく、これら酸二無水物の複数種類を任意の割合で混合することもできる。
【0035】
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記酸二無水物成分における、前記その他の酸二無水物の含有量は、前記酸二無水物成分の総量100モル%中、50モル%以下であり得、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは、20モル%以下であり、よりさらに好ましくは10モル%以下である。
【0036】
(ジアミン成分)
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記ジアミン成分は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(以下、「ODA」と称する)を50モル%以上含むことが好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記ジアミン成分が含むODAの量は、前記ジアミン成分の全量100モル%に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは、70モル%以上である。前記非熱可塑性ポリイミドが、ODAを50モル%以上含むことにより、適度な配向性および複屈折を有する前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を提供することができる。前記ジアミン成分が含むODAの量は、80モル%以上であってもよく、90モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよく、100モル%であってもよい。
【0038】
中でも、前記ジアミン成分として、ODAを50モル%以上含み、前記酸二無水物成分として、PMDAを50モル%以上含むことが好ましい。かかる構成によれば、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の配向性および複屈折が向上し、その結果として、最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好となる。
【0039】
前記非熱可塑性ポリイミドは、前記ジアミン成分として、前記ODA以外のその他のジアミンを含んでもよい。前記その他のジアミンとしては、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、「BAPP」と称する)、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を挙げることができる。前記その他のジアミンとしては、これらのジアミンを単独で使用してもよく、これらジアミンの複数種類を任意の割合で使用することもできる。
【0040】
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記ジアミン成分における、前記その他のジアミンの含有量は、前記ジアミン成分の総量100モル%中、50モル%以下であり得、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは、20モル%以下であり、よりさらに好ましくは10モル%以下である。
【0041】
前記非熱可塑性ポリイミドは、実質的に当モル量の前記酸二無水物成分と、前記ジアミン成分と、を原料とする非熱可塑性ポリイミドである。なお、本明細書において、実質的に等モル量とは、それぞれ異なる2種類以上の物質(例えば、前記酸二無水物成分と前記ジアミン成分)のモル量の比率が、100:98~100:102の範囲内であり、好ましくは100:100であることを意図する。
【0042】
(有機リン系化合物)
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の全量100重量%中、有機リン系化合物を、0.1~5.0重量%含んでもよい。
【0043】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層における有機リン系化合物の含有量は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の全量100重量%中、0.1~5.0重量%であることが好ましく、0.2~3.0重量%であることがより好ましく、0.3~1.5重量%であることがさらに好ましい。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層における有機リン系化合物の含有量が0.1重量%以上である場合、密度の高いグラファイトシートを提供でき、5.0重量%以下である場合、黒鉛化時の発泡率が低減され、より生産性よくグラファイトシートを提供できるという利点がある。また、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、上記の範囲で有機リン系化合物を含むことにより、(1)微粘着フィルムからの引き剥がし性に優れるグラファイトシートを提供できる、(2)黒鉛化工程における炭素質フィルムの融着を防ぐことができるため、より生産性よくグラファイトシートを提供できる、等の利点をも有する。
【0044】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含み得る有機リン系化合物としては、リン酸エステル類、ホスフィンオキシド類、亜リン酸エステル類、ホスフィン類、ホスホン酸エステル類、ホスフィン酸エステル類、等が挙げられる。これらの有機リン系化合物の1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。例示した有機リン系化合物の中でも、空気中で安定であるという利点があることから、リン酸エステル類が好ましく、リン酸トリフェニルが特に好ましい。
【0045】
安定性の観点から、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含む有機リン系化合物としては、リンの価数が5価である有機リン系化合物が好ましい。すなわち、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、有機リン系化合物として、リンの価数が5価である有機リン系化合物を含むことが好ましく、リンの価数が5価である有機リン系化合物のみを含むことがより好ましい。
【0046】
リンの価数が5価である有機リン系化合物としては、リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル等が挙げられる。
【0047】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含み得る有機リン系化合物としては、TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含む有機リン系化合物の、TG-DTAの測定における重量減少率が5%となる温度が200℃以上であれば、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を製膜する炉の汚れを軽減することができる。
【0048】
TG-DTAの測定において、重量減少率が5%となる温度が、200℃以上である有機リン系化合物としては、リン酸トリフェニル、トリフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0049】
(無機粒子)
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、無機粒子(フィラー)を含んでもよい。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が無機粒子を含む場合、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、滑り性に優れる非熱可塑性ポリイミド層となる。このような滑り性に優れる非熱可塑性ポリイミド層は、当該非熱可塑性ポリイミド層の搬送中のキズの発生を抑制でき、また、黒鉛化工程における炭素質フィルムの融着を防ぐことができる。
【0050】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含み得る無機粒子としては、炭酸カルシウム(CaCO)、シリカ、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸カルシウム(Ca)などを挙げることができる。これらの無機粒子のなかでも、リン酸水素カルシウムおよびリン酸カルシウム等のリンを含む無機粒子が好ましい。
【0051】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が含み得る無機粒子の平均粒子径の上限は、特に限定されないが、2.5μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることが好ましい。無機粒子の平均粒子径が2.5μm以下である場合、黒鉛化後のフィルム内部に発生する空隙を小さくできるため、圧縮後に密度に優れるグラファイトシートを得られ、特に、1.0μm以下であることにより、さらに密度に優れたグラファイトシートを提供し得る。また、無機粒子の平均粒子径の下限は、特に限定されないが、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.7μm以上であることがよりさらに好ましい。
【0052】
なお、本明細書において、無機粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径を意図し、ジメチルホルムアミド中に分散した無機粒子について、microtrac社製粒子径分布測定装置MT3000IIを用いて測定される値である。
【0053】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が無機粒子を含む場合、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層における無機粒子の含有量の下限は、特に限定されないが、0.01重量%以上であることが好ましく、0.02重量%であることがより好ましく、0.03重量%以上であることがさらに好ましい。無機粒子の含有量の上限は、特に限定されないが、0.30重量%以下であることが好ましく、0.20重量%以下であることがより好ましく、0.15重量%以下であることがさらに好ましく、0.10重量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0054】
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の物性)
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、5μm以上であることにより、本樹脂フィルムを炭化・黒鉛化した場合に、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の影響により、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層における結晶化をより良好に進行させることができる。
【0055】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きすぎる場合、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の調製に必要なコストの過剰な増大、および/または、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の生産性の低下、等の問題が発生するおそれがある。その問題の発生を回避するとの観点から、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、75μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0056】
前記第1の非可塑性ポリイミド層は、前記第2の非可塑性ポリイミド層が積層する面に対して、粗面化処理を行っていないことが好ましい。具体的には、前記第1の非可塑性ポリイミド層の、前記第2の非可塑性ポリイミド層が積層する表面における算術平均粗さ(Ra)は、0.10μm以下であることが好ましい。なお、本発明における算術平均粗さRaは、JIS B0601:2001に従って測定することができる。
【0057】
<2.2.第2の非熱可塑性ポリイミド層>
本樹脂フィルムを構成する前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である。ここで、「単層フィルムにおける複屈折B」とは、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を単層として形成したときのその単層の複屈折を意味する。「単層フィルムにおける複屈折B」は、例えば、後述する、第1の非熱可塑性ポリイミド層上に前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体溶液を塗布し、当該第1の非熱可塑性ポリイミド層上において当該第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する、本樹脂フィルムの製造方法において、前記前駆体溶液を、非熱可塑性ポリイミド層の配向性に実質的に影響を与えない支持体上に塗布すること以外は、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する方法と同一の方法で調製される非熱可塑性ポリイミド層の複屈折を測定することによって決定することができる。なお、非熱可塑性ポリイミド層の配向性に実質的に影響を与えない支持体としては、一般に、非熱可塑性ポリイミド層の調製に使用できる支持体を使用することができる。前記支持体は、例えば、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等であり得る。
【0058】
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が前記第1の非熱可塑性ポリイミド層上に積層される場合、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の配向性が、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の高い配向性の影響を受けて、向上する場合がある。言い換えると、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の複屈折は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層上に積層されている状態では、前記「単層フィルムにおける複屈折B」よりも大きくなり得る。
【0059】
従って、多層構造を有する本樹脂フィルムにおいて、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の、「単層フィルムにおける複屈折B」は、以下の(a)~(e)に示す方法にて「単層フィルムにおける複屈折B」を決定する。
【0060】
(a)対象となる本樹脂フィルムから、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を取り出して、組成、例えば、非熱可塑性ポリイミドのモノマー組成、添加剤を含む場合はその種類および含有量等を分析する。前記組成の分析は、例えば、FT-IR及びNMRの方法で行うことができる。
【0061】
(b)(a)の分析で得られた前記非熱可塑性ポリイミドのモノマー組成から、その前駆体であるポリアミド酸の種類を特定する。
【0062】
(c)(b)で特定されたポリアミド酸と、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が添加剤を含む場合は、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層における添加剤と同一の種類、含有量の添加剤と、を含む前駆体溶液を調製する。
【0063】
(d)(c)で調製された前駆体溶液を前記支持体上に塗布し、(i)100℃にて20分間、(ii)130℃にて30分間、(iii)200℃にて30分間、(iv)300℃にて30分間、(v)350℃にて20分間の順番で加熱して、非熱可塑性ポリイミド層を調製する。
【0064】
(e)(d)で調製された非熱可塑性ポリイミド層の複屈折を測定し、測定された複屈折を、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折B」とする。
【0065】
前記複屈折Bは、前記複屈折Aと同一の方法で測定することができる。
【0066】
前記複屈折Bの前記複屈折Aに対する比(複屈折B/複屈折A)は、0.01~0.8であることが好ましく、0.1~0.5であることがより好ましい。前記複屈折Bの前記複屈折Aに対する比が、前述の範囲内である場合、最終的に得られるグラファイトシートにおける前記第2の非熱可塑性ポリイミド層から変化した部分の結晶配向性を好適に向上させることができ、その結果、熱拡散性により優れたグラファイトシートを得ることができる。
【0067】
前記複屈折Bは、0.095未満であればよいが、0.09以下であり得、0.06以下であり得る。また、前記複屈折Bは、0.01以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。
【0068】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層上に積層された状態の前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の複屈折(以下、「複屈折C」と称する)は、0.04以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。前記複屈折Cは、後述の熱キュアを用いて前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する場合、上限値には限界があり、通常、0.15以下であり得、0.12以下であることが好ましい。
【0069】
前記複屈折Bおよび前記複屈折Cが、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを製造するために不適であることが従来から知られている前述の上限値以下の範囲であっても、本発明によれば、炭化・黒鉛化により、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートに変化する。また、前記複屈折Bおよび前記複屈折Cが前述の好ましい下限値以上であることによって、より結晶配向性が高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造することができる。
【0070】
(第2の非熱可塑性ポリイミド層の組成)
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満以であり、非熱可塑性ポリイミドを含む層であれば、その組成は、特に限定されない。前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の組成としては、前記(第1の非熱可塑性ポリイミド層の組成)項に記載された組成を採用することができる。
【0071】
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の組成としては、前述の(第1の非熱可塑性ポリイミド層の組成)に記載の組成を採用することによって、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の配向性を好適な範囲に制御することができる。よって、本樹脂フィルムから最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散性および柔軟性を良好とすることができる。
【0072】
(第2の非熱可塑性ポリイミド層の物性)
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みが100μm以下であることにより、炭化・黒鉛化する際に、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の結晶化の良好な進行の影響が、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層全体に及ぶ。そのため、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の結晶化の影響を受けて、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層全体における結晶化が良好に進行し、結晶配向性がより高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造することができる。
【0073】
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みが10μm以上であることにより、熱受容量の面で有利な厚みの大きいグラファイトシートを好適に製造することができる。
【0074】
また、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)は、1.0以上、15.0以下であることが好ましく、1.0以上、5.0以下であることがより好ましい。ここで、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層に「隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層」とは、複数の第1の非熱可塑性ポリイミド層および複数の第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている場合、当該第1の非熱可塑性ポリイミド層に最も近い位置に積層されている第2の非熱可塑性ポリイミド層をいう。したがって、例えば、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている場合は、いずれの第2の非熱可塑性ポリイミド層との間においても、前記比が前述の範囲内であることが好ましい。また、「隣り合う」とは、第1の非熱可塑性ポリイミド層と第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、例えば後述する接着層を介して積層されている場合も含む。
【0075】
前記(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)の比が前述の好ましい上限値以下であることにより、炭化・黒鉛化する際に、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の結晶化の良好な進行に沿って前記第2の非熱可塑性ポリイミド層全体における結晶化が良好に進行し、結晶配向性がより高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造することができる。また、前記(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)の比が前述の好ましい下限値以上であることにより、熱受容量の面で有利な厚みの大きいグラファイトシートを好適に製造することができる。
【0076】
前記第1の非可塑性ポリイミド層は、前記第2の非可塑性ポリイミド層側の面に対して、粗面化処理を行っていないことが好ましい。具体的には、前記第1の非可塑性ポリイミド層の前記第2の非可塑性ポリイミド層側の表面における算術平均粗さ(Ra)は、0.10μm以下であることが好ましい。さらに、前記第1の非可塑性ポリイミド層の、前記第2の非可塑性ポリイミド層が積層する表面における算術平均粗さ(Ra)と、前記第2の非可塑性ポリイミド層の前記第1の非可塑性ポリイミド層側の表面における算術平均粗さ(Ra)との合計値が、0.10μm以下であることがより好ましい。
【0077】
<2.3.本樹脂フィルムの構造>
本樹脂フィルムは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有していればよく、特に限定されない。本樹脂フィルムにおける前記多層構造は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、直接積層されている多層構造であることが好ましい。ここで、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、直接積層されているとは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層との間に、例えば接着層等の他の層が存在しないことを意味する。
【0078】
前記多層構造は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、直接積層されている多層構造であることにより、炭化・黒鉛化する際に、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の結晶化の良好な進行に沿って前記第2の非熱可塑性ポリイミド層全体における結晶化が良好に進行し、結晶配向性がより高く、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造することができる。
【0079】
前記多層構造は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層のほかに、別の層を含んでいてもよく、例えば、3層構造および4層構造であってもよい。別の層としては、例えば、別の第1の非熱可塑性ポリイミド層および別の第2の非熱可塑性ポリイミド層等を挙げることができる。
【0080】
よって、例えば、本樹脂フィルムは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の一方の面に前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層し、かつ、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と積層している面の反対側の面に、別の第1の非熱可塑性ポリイミド層が積層した3層構造(第1の非熱可塑性ポリイミド層/第2の非熱可塑性ポリイミド層/別の第1の非熱可塑性ポリイミド層)であり得る。また、前記3層構造における、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層または前記別の第1の非熱可塑性ポリイミド層の、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層している面の反対側の面に、別の第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層した4層構造(例えば、第1の非熱可塑性ポリイミド層/第2の非熱可塑性ポリイミド層/別の第1の非熱可塑性ポリイミド層/別の第2の非熱可塑性ポリイミド層)であり得る。
【0081】
さらに、本樹脂フィルムは、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の一方の面に前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層し、かつ、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の前記第2の非熱可塑性ポリイミド層と積層している面の反対側の面に、別の第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層した3層構造(第2の非熱可塑性ポリイミド層/第1の非熱可塑性ポリイミド層/別の第2の非熱可塑性ポリイミド層)であり得る。加えて、前記3層構造における、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層または前記別の第2の非熱可塑性ポリイミド層の、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層が積層している面の反対側の面に、別の第1の非熱可塑性ポリイミド層が積層した4層構造(例えば、第2の非熱可塑性ポリイミド層/第1の非熱可塑性ポリイミド層/別の第2の非熱可塑性ポリイミド層/別の第1の非熱可塑性ポリイミド層)であり得る。
【0082】
また、本樹脂フィルムは、前述の3層構造および4層構造に限らず、さらに、第1、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層された多層構造を有していてもよい。
【0083】
<3.グラファイトシート>
本発明の一実施形態において、本樹脂フィルムを原料として含むグラファイトシートを提供する。本発明の一実施形態に係るグラファイトシート(以下、本グラファイトシートと称する)は、本樹脂フィルムを熱処理してなるグラファイトシートであるとも言える。本グラファイトシートは、本樹脂フィルムを原料として含むため、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れる。なお、本明細書において、本グラファイトシートとは、後述する圧延工程に供する前のグラファイトシート(圧延前のグラファイトシート)および圧延工程に供した後のグラファイトシート(圧延後のグラファイトシート)、の両方を意図するが、特に言及のない場合は、圧延後のグラファイトシートを意図する。
【0084】
本グラファイトシートの密度は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.8g/cm以上であることがより好ましく、1.9g/cm以上であることがさらに好ましく、2.0g/cm以上であることがよりさらに好ましい。密度の上限は特に限定されないが、通常、グラファイトシートの密度は2.2g/cm以下である。密度が1.8g/cm以上であるグラファイトシートは、密度が高いグラファイトシートであると言え、効率的な放熱を実現することができ、電子機器等の優れた放熱性を要求される分野において、放熱部材として好適に使用できる。また、複数の本グラファイトシートを、樹脂層を介して積層して立方体や直方体などのブロック状の形状としたグラファイトプレートとすることもできる。当該グラファイトプレートは、ワイヤーソーなどを用いて所望の形状の異方性グラファイトが作製可能である。なお、グラファイトシートの密度の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0085】
(熱伝導率)
本明細書において、グラファイトシートの熱伝導率は、グラファイトシートの熱拡散率により評価することができる。本グラファイトシートの熱拡散率は、2.0cm/s以上であればよく、4.0cm/s以上であることが好ましく、7.0cm/s以上であることがより好ましく、8.5m/s以上であることがさらに好ましく、9.0cm/s以上であることがよりさらに好ましい。熱拡散率が4.0cm/s以上であるグラファイトシートは、熱伝導率に優れるものである。換言すると、放熱性に優れるものであり、電子機器の等の優れた放熱性を要求される分野において、放熱部材として好適に利用できる。なお、グラファイトシートの熱拡散率の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0086】
本グラファイトシートの厚みの下限は、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。また、圧延後のグラファイトシートの厚みの上限としては、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。グラファイトシートの厚みが15μm以上であれば、当該グラファイトシートは、十分な厚みを有するグラファイトシートであると言え、効率的な放熱が可能である。また、本グラファイトシートの厚みが150μm以下であれば、空間に余裕の少ない薄型電子機器内等にも搭載可能であるという利点を有する。
【0087】
<4.グラファイトシートの製造方法>
本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの製造方法(以下、本グラファイトシートの製造方法と称する場合がある)は、本樹脂フィルムを熱処理し、グラファイトシートを提供できる限り特に限定されない。本グラファイトシートの製造方法は、本樹脂フィルムを2400℃以上に熱処理する工程を含む方法であることが好ましい。本グラファイトシートの製造方法は、本グラファイトシート、すなわち、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを提供できる。以下、本樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む方法を例に挙げて、本グラファイトシートの製造方法について詳説する。以下の説明において、本樹脂フィルムについては、前記<2.樹脂フィルム>項の記載および後述の<5.樹脂フィルムの製造方法>項の記載が適宜援用される。
【0088】
本グラファイトシートの製造方法は、本樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む方法であれば、特に限定されない。本グラファイトシートの製造方法は、本樹脂フィルムを不活性ガス雰囲気下や減圧下で熱処理する、いわゆる高分子熱分解法であることが好ましい。具体的には、本グラファイトシートの製造方法は、本樹脂フィルムを1000℃程度の温度で予備加熱し、炭素化された本樹脂フィルムを得る炭化工程と、炭化工程で作製された炭素化された本樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理(加熱)し、グラファイト化する黒鉛化工程を含む方法であることが好ましい。グラファイトシートの製造方法は、さらに、黒鉛化工程で得られたグラファイトシートを圧延する圧延工程を含んでもよい。なお、本グラファイトシートの製造方法において、炭化工程と黒鉛化工程とは連続して行ってもよく、炭化工程を終了させた後、別途、黒鉛化工程のみを単独で行っても構わない。
【0089】
以下、本グラファイトシートの製造方法の含み得る、炭化工程、黒鉛化工程、および、圧延工程、について詳説する。
【0090】
(炭化工程)
炭化工程は、本樹脂フィルムを1000℃程度の温度まで熱処理し、本樹脂フィルムを炭素化(炭化)する工程である。炭化工程における本樹脂フィルムの炭化方法は特に限定されず、例えば、長方形状の本樹脂フィルムを、黒鉛シートと積層した状態で炭化してもよく、ロール状の本樹脂フィルムをロール状のまま炭化してもよく、ロール状の本樹脂フィルムからフィルムを繰り出して連続的に炭化してもよい。炭化工程は、真空雰囲気下、減圧下もしくは不活性ガス中で行うことが好ましく、不活性ガスとしては窒素が好適に用いられる。なお、本明細書において、炭化工程により得られる炭素化した本樹脂フィルムを、炭素質フィルムと称する場合がある。
【0091】
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭化工程で得た炭素質フィルムを2400℃以上の温度で熱処理し、当該炭素質フィルムを黒鉛化する工程である。黒鉛化工程は、炭素質フィルムを熱処理し、グラファイトシート(圧延前のグラファイトシート)を得る工程であるとも言える。黒鉛化工程において、炭化工程で得た炭素質フィルムを熱処理する際の温度(最高温度)としては、例えば、2400℃以上、2600℃以上、2800℃以上、2900℃以上、または3000℃以上が好ましい。最高温度の上限は特に限定されないが、3300℃以下であることが好ましく、3200℃以下であることがより好ましい。黒鉛化工程において、炭化工程で得た炭素質フィルムを熱処理する際の温度(最高温度)が2400℃以上であれば、得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好となるという利点があり、3300℃以下であれば、黒鉛化炉中の黒鉛部材の昇華を抑制できるという利点がある。なお、黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、またはヘリウムが好適に使用できる。
【0092】
黒鉛化工程では、長方形状の炭素質フィルムを、黒鉛シートと積層した状態で黒鉛化してもよく、ロール状の炭素質フィルムをロール状のまま黒鉛化してもよく、ロール状炭素質フィルムからフィルムを繰り出して連続的に黒鉛化してもよい。
【0093】
黒鉛化工程において、最高温度まで炭素質フィルムを加熱する際の昇温速度は特に限定されないが、生産性よくグラファイトシートを提供する観点から、0.2℃/min以上が好ましく、0.3℃/min以上がより好ましく、0.4℃/min以上がさらに好ましく、0.5℃/min以上がよりさらに好ましい。昇温速度を0.2℃/min以上で熱処理(黒鉛化)した際に、得られるグラファイトシートに過剰な発泡が生じない炭素質フィルムは、生産性に優れる炭素質フィルムであると言え、このような炭素質フィルムを提供できる樹脂フィルムは、生産性に優れる樹脂フィルムであると言える。
【0094】
本樹脂フィルムを炭化してなる炭素質フィルムは、本樹脂フィルムと同様に、ある程度乱れた配向性を有するものとなる。このようなある程度乱れた配向性を有する炭素質フィルムは、黒鉛化工程において、0.2℃/min以上という高い昇温速度で炭素質フィルムを熱処理(黒鉛化)した場合であっても、アウトガスが抜けやすく、得られるグラファイトシートの発泡を抑制できるため、生産性よくグラファイトシートを提供することができる。
【0095】
(圧延工程)
圧延工程は、黒鉛化工程により得られたグラファイトシート(圧延前のグラファイトシート)を、圧延する工程である。圧延工程は、圧延後のグラファイトシートを得る工程であるとも言え、圧縮工程であるとも言える。圧延前のグラファイトシートは、黒鉛化工程により生じるアウトガスの影響等により発泡した状態であり、実施用には不適な過剰な厚みを有する場合があるが、圧延工程を行うことによって、当該グラファイトシートの厚みを調整でき、また、柔軟性を付与することができる。圧延工程において、グラファイトシートを圧延する方法は特に限定されず、例えば、金属ロールなどを用いて圧延する方法が挙げられる。圧延工程は、製造したグラファイトシートを室温に冷却した状態でおこなってもよく、黒鉛化工程と連続して行ってもよい。
【0096】
<5.樹脂フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法(以下、本樹脂フィルムの製造方法と称する場合がある)は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を形成する工程が含まれていれば、特に限定されない。本樹脂フィルムの製造方法は、例えば、予め、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を準備し、当該第1の非熱可塑性ポリイミド層上に、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体溶液であるポリアミド酸溶液を塗布し、当該第1の非熱可塑性ポリイミド層上にて前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する方法を挙げることができる。すなわち、本樹脂フィルムの製造方法は、第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布する塗布工程と、前記塗布工程で得られた積層体を、加熱してポリアミド酸をイミド化し、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する熱イミド化工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法であって、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルムの製造方法であり得る。
【0097】
また、本樹脂フィルムの製造方法における別の方法としては、予め、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を準備し、当該第1の非熱可塑性ポリイミド層上に、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体であるゲルフィルムを積層させて積層体を得、得られた積層体を加熱して、当該ゲルフィルムを前記第2の非熱可塑性ポリイミド層に変化させる方法を挙げることができる。ここで、「前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体であるゲルフィルム」は、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体溶液であるポリアミド酸溶液および当該ポリアミド酸がイミド化してなるポリイミドを含むゲルフィルムである。また、「前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の前駆体であるゲルフィルム」は、後述するi)~iii)工程と同一の工程によって調製され得る。
【0098】
予め、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を準備する方法としては、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層として、複屈折が0.095以上である市販の非熱可塑性ポリイミドフィルムを使用する方法、および、後述の方法にて、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法を採用してもよい。
【0099】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法は、特に限定されないが、例えば、以下のi)~iv)工程を有する方法が好ましい;
i)有機溶媒中で酸二無水物成分と、ジアミン成分とを反応させてポリアミド酸溶液を得る工程、
ii)前記ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して、ポリアミド酸溶液層を形成する工程、
iii)前記ポリアミド酸溶液層を前記支持体上で乾燥(加熱)して、自己支持性を持ったゲルフィルムとし、その後、前記支持体から前記ゲルフィルムを引き剥がす工程、
iv)前記引き剥がしたゲルフィルムを更に加熱して、残ったアミド酸をイミド化し、かつ、前記ゲルフィルムを乾燥することで、ポリイミドフィルムを得る工程。
【0100】
酸二無水物成分と、ジアミン成分とは、共重合体であるポリアミド酸を構成するモノマー単位であるとも言える。本明細書において、酸二無水物成分と、ジアミン成分とを合わせてモノマー成分と称する場合がある。
【0101】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法における、i)工程としては、前記<2.樹脂フィルム>項で詳説した酸二無水物成分およびジアミン成分を重合し(原料とし)、ポリアミド酸を得ることができる限り特に限定されず、例えば、以下の重合方法(1)~(5)のいずれかを好適に使用することができる。
【0102】
(1)ジアミン成分を有機溶媒(有機極性溶媒)中に溶解し、ジアミン成分と、これと実質的に等モル量の酸二無水物成分とを反応させて重合する方法。
【0103】
(2)酸二無水物成分と、これに対して過小モル量のジアミン成分とを有機溶媒中で反応させ、両末端に酸二無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、プレポリマに、酸二無水物成分に対して、重合工程全体の総使用量が実質的に等モル量となるようジアミン成分を重合させる方法。
【0104】
前記(2)の方法の具体例は、ジアミン成分と酸二無水物成分を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに、前記プレポリマの合成に使用したジアミン成分と同様の組成のジアミン成分または異なる組成のジアミン成分を反応させてポリアミド酸を合成する方法が挙げられる。(2)の方法においても、プレポリマと反応させるジアミン成分は、前記プレポリマの合成に使用したジアミン成分と同じ組成のジアミン成分であってよく、異なる組成のジアミン成分であってもよい。
【0105】
(3)酸二無水物成分と、これに対し過剰モル量のジアミン成分とを有機溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、当該プレポリマにジアミン成分を追加添加後に、重合工程全体の酸二無水物成分とジアミン成分との合計の使用量が実質的に等モル量となるように、酸二無水物成分を加え、プレポリマと酸二無水物成分とを重合する方法。
【0106】
(4)酸二無水物成分を有機溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物成分に対して実質的に等モル量になるようにジアミン成分を加えて、酸二無水物成分とジアミン成分とを重合させる方法。
【0107】
(5)実質的に等モル量の酸二無水物成分とジアミン成分との混合物を、有機溶媒中で反応させて重合する方法。
【0108】
i)工程では、酸二無水物成分とジアミン成分とを重合して得られるポリアミド酸溶液に、必要に応じて、有機リン系化合物、無機粒子等の添加物を添加してもよい。
【0109】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法における、ii)~iv)の工程は、前記ポリアミド酸溶液をイミド化し、ポリイミドフィルムを得る工程であるとも言える。ここで、ポリアミド酸をイミド化する方法としては、一般には、(I)イミド化促進剤を使用せずに、ポリアミド酸溶液を加熱してイミド化する熱イミド化法(熱キュア)、または、(II)ポリアミド酸に、無水酢酸等の酸二無水物に代表される脱水剤(脱水閉環剤)、および/または、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類に代表される触媒、等のイミド化促進剤を添加し、当該イミド化促進剤を含むポリアミド酸溶液を加熱することで、ポリアミド酸をイミド化する化学イミド化法(ケミカルキュア)、等が知られている。
【0110】
ケミカルキュアを用いて調製されるポリイミドフィルム(非熱可塑性ポリイミド層)は、配向性が高く、複屈折の値が大きいことが知られている。よって、「単層における複屈折A」が0.095以上と高い、前記第1の非熱可塑性ポリイミドを調製する方法においては、ケミカルキュアを採用することが好ましい。一方、熱キュアを採用する場合であっても、調製されるポリイミドフィルム(非熱可塑性ポリイミド層)の配向性を向上させ得る、すなわち複屈折の値を増大させ得る他の既知の操作を組み合わせることによって、前記第1の非熱可塑性ポリイミドを調製することができる。
【0111】
また、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を調製する場合、原料であるポリアミド酸として、調製される非熱可塑性ポリイミド層の配向性が向上し易いポリアミド酸を使用することが好ましい。調製される非熱可塑性ポリイミド層の配向性が向上し易いポリアミド酸としては、例えば、前述の<2.樹脂フィルム>項で詳説した、好ましい酸二無水物成分および好ましいジアミン成分を重合して得られるポリアミド酸を挙げることができる。
【0112】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法において、ii)工程で使用する支持体としては、前記ポリイミドを含む溶液により溶解することが無く、かつ、前記積層体の乾燥に要する加熱に耐えうる支持体であれば特に限定されず、例えば、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。
【0113】
iii)工程は、より具体的には、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、支持体上に塗布した混合溶液層(ポリアミド酸溶液)に対して、部分的にイミド化または乾燥の少なくとも一方を行った後、前記支持体からゲルフィルムを得る(剥離する)工程である。
【0114】
iv)工程は、より具体的には、前記ゲルフィルム(前記iii)工程で得たゲルフィルム)の端部を固定して、硬化時の収縮を回避した状態で熱処理し、前記ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤等を除去し、かつ、残ったアミド酸(イミド化していないアミド酸)を完全にイミド化して、ポリイミドを含有するフィルム(ポリイミドフィルム)を得る工程である。iv)工程における加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて適宜設定すれば良い。
【0115】
また、iii)工程およびiv)工程における、混合溶液層およびゲルフィルムの乾燥方法は特に限定されず、例えば、熱風オーブン等を用いた熱風処理、および/または、遠赤外線ヒーター等を用いた輻射熱線処理により加熱する方法が挙げられる。乾燥工程における乾燥温度(加熱温度)は、ゲルフィルムまたはポリイミドフィルムを得られる限り特に限定されないが、例えば、熱風処理を行う場合は100℃~140℃であってよく、赤外線ヒーターを用いる場合は、400℃~500℃であってもよい。
【0116】
また、本樹脂フィルムの製造方法は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層上にて、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する方法を含み得る。前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する方法は、第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布する塗布工程と、前記塗布工程で得られた積層体を、加熱してポリアミド酸をイミド化し、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する熱イミド化工程と、を含む方法であり得る。前記第2の非熱可塑性ポリイミド層を調製する方法は、具体的には、前述のi)~iv)工程を有する予め前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を調製する方法と、以下の(A)および(B)に示す事項以外は同一の方法であり得る。
(A)支持体として、予め準備された前記第1の非熱可塑性ポリイミド層を使用すること。
(B)iii)工程およびiv)工程において、支持体から前記ゲルフィルムを引き剥がすことなく、支持体(前記第1の非熱可塑性ポリイミド層)上に積層したゲルフィルムをそのままさらに加熱すること。
【0117】
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、「単層における複屈折B」が、0.095未満と低い。よって、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の調製方法では、調製される非熱可塑性ポリイミド層の配向性の向上、すなわち複屈折の値の増大のための方法、例えばケミカルキュアを採用する必要がなく、熱キュアを採用することができる。また、ケミカルキュアと比較して、熱キュアは、得られるポリイミドフィルムの設計(例えば、ポリイミドの種類および膜厚等)の自由度が高く、かつ、コストの面で有利である。よって、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の調製方法において、熱キュアを採用することが好ましい。
【0118】
また、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の調製方法では、原料として、調製される非熱可塑性ポリイミド層の配向性が向上し易いポリアミド酸を使用する必要がない。よって、前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の調製方法においては、ケミカルキュアを採用する場合であっても、従来のグラファイトシートの原料である樹脂フィルムの全てをケミカルキュアにより調製する場合と比較すると、得られるポリイミドフィルムの設計の自由度が高い。
【0119】
従って、本樹脂フィルムの製造方法は、従来よりも、設計の自由度を向上させて、および/または、製造コストを低く抑えて、熱拡散率に優れるグラファイトシートの原料となる樹脂フィルムを製造することができるとの効果を奏する。
【0120】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0121】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の発明を包含する。
<1>第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムであって、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルム。
<2>前記多層構造が、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層と前記第2の非熱可塑性ポリイミド層とが、直接積層されている多層構造である、<1>に記載の樹脂フィルム。
<3>前記複屈折Aに対する前記複屈折Bの比(複屈折B/複屈折A)が、0.01以上、0.8以下である、<1>または<2>に記載の樹脂フィルム。
<4>前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みが5μm以上である、<1>~<3>の何れか1つに記載の樹脂フィルム。
<5>前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)が、1.0以上、15.0以下である、<1>~<4>の何れか1つに記載の樹脂フィルム。
<6><1>~<5>の何れか1つに記載の樹脂フィルムを原料として含む、グラファイトシート。
<7>熱拡散率が、4.0cm/s以上である、<6>に記載のグラファイトシート。
<8>厚みが、15μm以上である、<6>または<7>に記載のグラファイトシート
<9>密度が1.8g/cm以上である、<6>~<8>の何れか1つに記載のグラファイトシート。
<10><1>~<5>の何れか1つに記載の樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む、グラファイトシートの製造方法。
<11>第1の非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で得られた積層体を、加熱してポリアミド酸をイミド化し、第2の非熱可塑性ポリイミド層を形成する熱イミド化工程と、を含む樹脂フィルムの製造方法であって、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Aが0.095以上であり、
前記第2の非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折Bが0.095未満である、樹脂フィルムの製造方法。
【実施例0122】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0123】
<評価方法>
実施例および比較例における各評価方法について、以下説明する。
【0124】
(厚み)
実施例1~14および比較例1に記載の第1の非可塑性ポリイミド層の厚みを以下に示す方法によって測定した。前記第1の非可塑性ポリイミド層において、当該第1の非可塑性ポリイミド層の角の4箇所および中央の1箇所の厚みを(株)ミツトヨ製マイクロメーターを用いて測定した。ここで、「中央の1箇所」とは、前記第1の非可塑性ポリイミド層において、それぞれの角における4点の測定箇所から対角に位置する測定箇所に対角線を引いた際のその交点の位置を示す。そして、得られた計5箇所(角の4箇所、および中央の1箇所)の厚みの測定値の平均値を、前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みとした。なお、角の4箇所とは、測定対象である前記第1の非可塑性ポリイミド層が長方形の場合、その頂点を意図する。
【0125】
また、比較例2~4に記載の第2の非可塑性ポリイミド層の厚みを、上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。
【0126】
さらに、実施例1~8に記載の、第1の非可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非可塑性ポリイミド層が積層してなる樹脂フィルムの厚みを上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。その後、前記樹脂フィルムの厚みから、当該樹脂フィルムを構成する第1の非可塑性ポリイミド層の厚みを引き、その差を算出した。その結果、算出された差を、前記樹脂フィルムを構成する第2の非可塑性ポリイミド層の厚みとした。
【0127】
さらに、実施例9~14においては、まず、第1の非可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非可塑性ポリイミド層が積層してなる積層体の厚みを上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。その後、前記積層体の厚みから、当該積層体を構成する第1の非可塑性ポリイミド層の厚みを引き、その差を算出した。その結果、算出された差を、前記積層体を構成する第2の非可塑性ポリイミド層の厚みとした。続いて、前記積層体における第1の非可塑性ポリイミド層の第2の非可塑性ポリイミド層が積層している面の反対側の面上に別の第2の非可塑性ポリイミド層が積層してなる樹脂フィルムの厚みを上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。その後、前記樹脂フィルムの厚みから当該樹脂フィルムを構成する前記積層体の厚みを引き、その差を算出した。その結果、算出された差を、前記樹脂フィルムを構成する別の第2の非可塑性ポリイミド層の厚みとした。
【0128】
さらに、実施例1~14および比較例1~4に記載のグラファイトシートの厚みを、上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。
【0129】
(複屈折)
実施例1~14および比較例1に記載の第1の非可塑性ポリイミド層の複屈折を以下に示す方法にて測定した。測定された複屈折を、実施例1~14および比較例1に記載のそれぞれの第1の非可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折A」とした。
【0130】
前記複屈折をメトリコン社製の屈折率・厚み測定システム(型番:2010 プリズムカプラ)を使用して測定した。測定は、23℃の雰囲気下、波長594nmの光源を用い、TEモードとTMモードとで、それぞれのモードにおける屈折率を測定し、「(TEモードにおける屈折率の値)―(TMモードにおける屈折率の値)」を複屈折として測定した。
【0131】
また、比較例2~4に記載の第2の非可塑性ポリイミド層の複屈折を、上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の複屈折の測定方法と同一の方法によって測定した。測定された複屈折を、比較例2~4に記載のそれぞれの第2の非可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折B」とした。
【0132】
さらに、実施例1~14に記載のそれぞれの第2の非可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折B」を、以下に示す方法にて測定した。
【0133】
実施例1~14に記載のそれぞれの第2の非可塑性ポリイミド層の調製方法とは、前駆体であるポリアミド酸溶液(ポリアミド酸ワニス)を塗布する対象を、第1の非可塑性ポリイミド層から、非可塑性ポリイミド層の配向性を実質的に変更しない支持体(アルミシート)上に塗布した以外は、実施例1~14のそれぞれにおける第2の非可塑性ポリイミド層の調製方法と同一の方法にて、単層の第2の非可塑性ポリイミド層を調製した。調製された単層の第2の非可塑性ポリイミド層の複屈折を、上に示す前記第1の非可塑性ポリイミド層の複屈折の測定方法と同一の方法によって測定した。測定された複屈折を、実施例1~14に記載のそれぞれの第2の非可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折B」とした。
【0134】
(密度)
実施例1~14および比較例1~4に記載のグラファイトシートの中央部を、縦:3cm、横:3cmの長方形型に切り抜き、密度測定用サンプルを得た。前記密度測定用サンプルの体積(単位:cm)を、(密度測定用サンプルの体積)=(密度測定用サンプルの縦の長さ)×(密度測定用サンプルの横の長さ)×(グラファイトシートの厚み)の式に基づき算出した。続いて、前記密度測定用サンプルの重量(単位:g)を、重量計(商品名:電磁式はかり、製造会社:研精工業株式会社)を用いて測定した。測定された前記密度測定用サンプルの重量を、前記密度測定用サンプルの体積で除して、グラファイトシートの密度(単位:g/cm)を算出した。ここで、「中央部」とは、グラファイトシートにおいて、幅方向において中央であって、かつ、長手方向においても中央である部分を示す。
【0135】
(熱拡散率)
グラファイトシートの面方向の熱拡散率を以下に示す方法によって測定した。実施例1~14および比較例1~4に記載のグラファイトシートのそれぞれを、30mm×30mmの正方形型に切り抜き、熱拡散率測定用サンプルを得た。前記熱拡散率測定用サンプルのそれぞれについて、(株)ベテル社の「サモウェーブアナライザTA3」を用い、23℃の雰囲気下で10~75Hzの条件下で測定することにより、それぞれのグラファイトシートの熱拡散率(単位:cm/s)を求めた。なお、熱拡散率測定用サンプルは、グラファイトシートの中央部を打ち抜き、作製した。ここで、「中央部」とは、グラファイトシートにおいて、幅方向において中央であって、かつ、長手方向においても中央である部分を示す。
【0136】
(透過型電子顕微鏡(TEM)画像の取得)
収束イオンビーム(FIB)を用いた方法によって透過型電子顕微鏡(TEM)画像取得用の試料を作製した後、当該試料を対象として、走査透過型電子顕微鏡(STEM)による観察を実施し、TEM画像を得た。ここで、具体的には、集束イオンビーム加工装置―走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)としてCarlZeiss社製Crossbeam550を使用して、実施例9にて作製されたグラファイトシートからTEM画像取得用の試料を作製した。また、STEMとして、日立ハイテクノロジーズ社製HD-2700を使用して、実施例9にて作製されたグラファイトシートから得られたTEM取得用の試料の観察を行い、実施例9にて作製されたグラファイトシートの(a)第2の非熱可塑性ポリイミド層の第1の非熱可塑性ポリイミド層との界面付近、(b)第1の非熱可塑性ポリイミド層の内部および(c)表面部分、の結晶構造を表す透過型電子顕微鏡(TEM)画像を取得した。取得したTEM画像を図2に示す。
【0137】
また、同様の方法にて、比較例2にて作製されたグラファイトシートの内部の結晶構造を表すTEM画像を取得した。取得したTEM画像を図3に示す。
【0138】
(ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸ワニス)の調製)
[製造例1]
4,4’―ジアミノジフェニルエーテル(ODA)59.73g(約0.2988mol)を溶解させたジメチルホルムアミド溶液に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をさらに加えて溶解させ、ポリアミド酸を18.5重量%含んでいるポリアミド酸溶液を得た。ここで、PMDAの使用量(モル数)は、ODAの使用量(モル数)の99.7モル%であった。得られたポリアミド酸溶液に、添加剤としてリン酸水素カルシウムを添加し、ポリアミド酸ワニス(ポリアミド酸溶液)を得た。得られたポリアミド酸ワニスを、ポリアミド酸溶液(1)とする。リン酸水素カルシウムの添加量は、ポリアミド酸溶液(1)の固形分に対するリン酸水素カルシウムの濃度が0.15重量%となる量であった。
【0139】
[製造例2]
ODAの30モル%をパラフェニレンジアミン(PDA)に変更した以外は、製造例1と同一の方法にて、ポリアミド酸ワニス(ポリアミド酸溶液)を得た。得られたポリアミド酸ワニスを、ポリアミド酸溶液(2)とする。
【0140】
[製造例3]
ODAの50モル%をパラフェニレンジアミン(PDA)に変更した以外は、製造例1と同一の方法にて、ポリアミド酸ワニス(ポリアミド酸溶液)を得た。得られたポリアミド酸ワニスを、ポリアミド酸溶液(3)とする。
【0141】
[実施例1]
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)を使用した。前記市販のポリイミドフィルムを、第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)とする。
【0142】
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を、クリアランス0.35mmの条件にて、塗工し、塗工物を得た。得られた塗工物を熱風オーブンにて加熱し、乾燥させた。加熱の履歴は、(i)100℃にて10分間、(ii)130℃にて20分間、(iii)200℃にて20分間、(iv)300℃にて20分間、(v)350℃にて5分間、と段階的に加熱処理した。その結果、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(1)とする。
【0143】
(グラファイトシートの作製)
サイズ:50mm×50mmに切り出した樹脂フィルム(1)を、サイズ:60mm×60mm、厚み:200μmの黒鉛シートで挟み込み、積層シートを得た。この時、樹脂フィルム(1)と、黒鉛シートとは、1枚ずつ交互に積層した。得られた積層シートを、窒素雰囲気下にて、1000℃まで昇温し加熱処理して炭化させた。その後、炭化処理後の積層シートを、2900℃まで熱処理温度を昇温させ加熱処理することにより、黒鉛化された樹脂フィルム、すなわちグラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(1)とする。
【0144】
[実施例2]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.40mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(2)とする。
【0145】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(2)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(2)とする。
【0146】
[実施例3]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.50mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(3)とする。
【0147】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(3)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(3)とする。
【0148】
[実施例4]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.50mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(4)とする。
【0149】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(4)を使用したこと、および、黒鉛化の後、黒鉛化された樹脂フィルムを黒鉛シートの間から取り出し、これらを1枚ずつPETフィルムに貼り付け、圧縮成型機によって圧縮処理する操作を追加で実施したこと以外は、実施例1と同一の方法を実施した。その結果、圧縮処理されたグラファイトシートを作製した。作製した圧縮処理されたグラファイトシートを、グラファイトシート(4)とする。
【0150】
[実施例5]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.70mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(5)とする。
【0151】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(5)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(5)とする。
【0152】
[実施例6]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.70mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(6)とする。
【0153】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(6)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(6)とする。
【0154】
[実施例7]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.80mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(7)とする。
【0155】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(7)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(7)とする。
【0156】
[実施例8]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を塗工する場合のグリアランスを0.90mmに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(8)とする。
【0157】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、樹脂フィルム(8)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(8)とする。
【0158】
[実施例9]
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面にポリアミド酸溶液(1)を、クリアランス0.4mmの条件にて、塗工し、塗工物を得た。得られた塗工物を熱風オーブンにて加熱し、乾燥させ、第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の片面上に、ゲルフィルムが積層した積層体を得た。加熱の履歴は、(i)100℃にて10分間、(ii)130℃にて20分間、と段階的に加熱処理した。続けて、得られた積層体における第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の前記ゲルフィルムが積層されている面と反対側の面に、ポリアミド酸溶液(1)を、クリアランス0.4mmの条件にて、塗工し、積層塗工物を得た。得られた積層塗工物を熱風オーブンにて加熱し、乾燥させた。加熱の履歴は、(i)100℃にて10分間、(ii)130℃にて20分間、(iii)200℃にて20分間、(iv)300℃にて20分間、(v)350℃にて5分間、と段階的に加熱処理した。その結果、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(9)とする。
【0159】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(9)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(9)とする。
【0160】
[実施例10]
(樹脂フィルムの作製)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに、ポリアミド酸溶液(2)を使用したこと以外は、実施例9と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(10)とする。
【0161】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(10)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(10)とする。
【0162】
[実施例11]
(樹脂フィルムの作製)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに、ポリアミド酸溶液(3)を使用したこと以外は、実施例9と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(11)とする。
【0163】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(11)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(11)とする。
【0164】
[実施例12]
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の作製)
ポリアミド酸溶液(1)を用いて、ケミカルキュアの方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。具体的には、ポリアミド酸溶液(1)75gに対して、希釈溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を25.4g、環化触媒として3,5-イソキノリンを6.0g、脱水剤として無水酢酸を13.6g加えて、混合液(1)を調製した。混合液(1)を、支持体(アルミシート)上に塗布することによって、当該支持体上にて混合液層(1)を形成した。続いて、前記支持体上において、混合液層(1)を加熱して、自己支持性を持ったゲルフィルム(1)を得た。その際の加熱履歴は、130℃で60秒であった。前記ゲルフィルム(1)を前記支持体から引きはがした後、当該ゲルフィルム(1)に対して更なる加熱を行い、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。その更なる加熱の加熱履歴は、250℃で11秒、350℃で11秒、450℃で11秒、500℃で12秒であった。作製された第1の非熱可塑性ポリイミド層を、第1の非熱可塑性ポリイミド層(2)とする。
【0165】
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)の代わりに、第1の非熱可塑性ポリイミド層(2)を使用したこと、および、第2の非熱可塑性ポリイミド層の原料として、ポリアミド酸溶液(1)の代わりに、ポリアミド酸溶液(2)を使用したこと以外は、実施例9と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(12)とする。
【0166】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(12)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(12)とする。
【0167】
[実施例13]
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の作製)
ポリアミド酸溶液(2)を用いて、ケミカルキュアの方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。具体的には、ポリアミド酸溶液(2)75gに対して、希釈溶媒としてDMFを24.1g、環化触媒として3,5-イソキノリンを6.4g、脱水剤として無水酢酸を14.5g加えて、混合液(2)を調製した。混合液(2)を、支持体(アルミシート)上に塗布することによって、当該支持体上にて混合液層(2)を形成した。続いて、前記支持体上において、混合液層(2)を加熱して、自己支持性を持ったゲルフィルム(2)を得た。その際の加熱履歴は、130℃で60秒であった。前記ゲルフィルム(2)を前記支持体から引きはがした後、当該ゲルフィルム(2)に対して更なる加熱を行い、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。その更なる加熱の加熱履歴は、250℃で11秒、350℃で11秒、450℃で11秒、500℃で12秒であった。作製された第1の非熱可塑性ポリイミド層を、第1の非熱可塑性ポリイミド層(3)とする。
【0168】
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(2)の代わりに、第1の非熱可塑性ポリイミド層(3)を使用したこと以外は、実施例12と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(13)とする。
【0169】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(13)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(13)とする。
【0170】
[実施例14]
(第1の非熱可塑性ポリイミド層の作製)
ポリアミド酸溶液(3)を用いて、ケミカルキュアの方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。具体的には、ポリアミド酸溶液(3)75gに対して、希釈溶媒としてDMFを23.0g、環化触媒として3,5-イソキノリンを6.7g、脱水剤として無水酢酸を15.2g加えて、混合液(3)を調製した。混合液(3)を、支持体(アルミシート)上に塗布することによって、当該支持体上にて混合液層(3)を形成した。続いて、前記支持体上において、混合液層(3)を加熱して、自己支持性を持ったゲルフィルム(3)を得た。その際の加熱履歴は、130℃で60秒であった。前記ゲルフィルム(3)を前記支持体から引きはがした後、当該ゲルフィルム(3)に対して更なる加熱を行い、第1の非熱可塑性ポリイミド層を作製した。その更なる加熱の加熱履歴は、250℃で11秒、350℃で11秒、450℃で11秒、500℃で12秒であった。作製された第1の非熱可塑性ポリイミド層を、第1の非熱可塑性ポリイミド層(4)とする。
【0171】
(樹脂フィルムの作製)
第1の非熱可塑性ポリイミド層(2)の代わりに、第1の非熱可塑性ポリイミド層(4)を使用したこと以外は、実施例12と同一の方法にて、第1の非熱可塑性ポリイミド層の両面上に第2の非熱可塑性ポリイミド層が積層されている多層構造を有する樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、樹脂フィルム(14)とする。
【0172】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(4)の代わりに、樹脂フィルム(14)を使用したこと以外は、実施例4と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、グラファイトシート(14)とする。
【0173】
[比較例1]
(樹脂フィルムの作製)
樹脂フィルムとして、第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)を使用した。前記第1の非熱可塑性ポリイミド層(1)を、比較用樹脂フィルム(1)とする。
【0174】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、比較用樹脂フィルム(1)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、比較用グラファイトシート(1)とする。
【0175】
[比較例2]
(樹脂フィルムの作製)
ポリアミド酸溶液(1)を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる支持体上に、コンマコーターを使い塗布して、当該支持体上において、ポリアミド酸溶液層(1)を形成した。続いて、ポリアミド酸溶液層(1)が積層した支持体を、熱風オーブン内に入れ、当該ポリアミド酸溶液層(1)を100℃にて20分間乾燥した後、130℃で20分間乾燥することによって、前記支持体上に積層した、自己支持性を持った比較用ゲルフィルム(1)を得た。比較用ゲルフィルム(1)を、前記支持体から剥離した後、当該比較用ゲルフィルム(1)をステンレス鋼(SUS)製の枠を用いて固定した。固定された比較用ゲルフィルム(1)を熱風オーブン内に入れ、当該比較用ゲルフィルム(1)に対して、200℃にて20分間の加熱を実施した後、300℃にて20分間の加熱を実施した。その結果、第2の非熱可塑性ポリイミド層のみからなる樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、比較用樹脂フィルム(2)とする。
【0176】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、比較用樹脂フィルム(2)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、比較用グラファイトシート(2)とする。
【0177】
[比較例3]
(樹脂フィルムの作製)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに、ポリアミド酸溶液(2)を用いたこと以外は、比較例2と同一の方法にて、第2の非熱可塑性ポリイミド層のみからなる樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、比較用樹脂フィルム(3)とする。
【0178】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、比較用樹脂フィルム(3)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、比較用グラファイトシート(3)とする。
【0179】
[比較例4]
(樹脂フィルムの作製)
ポリアミド酸溶液(1)の代わりに、ポリアミド酸溶液(3)を用いたこと以外は、比較例2と同一の方法にて、第2の非熱可塑性ポリイミド層のみからなる樹脂フィルムを作製した。作製された樹脂フィルムを、比較用樹脂フィルム(4)とする。
【0180】
(グラファイトシートの作製)
樹脂フィルム(1)の代わりに、比較用樹脂フィルム(4)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシートを作製した。作製したグラファイトシートを、比較用グラファイトシート(4)とする。
【0181】
(評価結果)
実施例1~14および比較例1~4で得られた、第1の非熱可塑性ポリイミド層、第2の非熱可塑性ポリイミド層、樹脂フィルムおよびグラファイトシートの物性を評価した結果を以下の表に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
[結論]
表1に示すとおり、実施例1~14に記載のグラファイトシート(1)~(14)は、比較例2~4に記載の比較用グラファイトシート(1)~(4)よりも、熱拡散性が高い。ここで、グラファイトシート(1)~(14)は、第1の非熱可塑性ポリイミド層の片面または両面上に、熱キュア法を利用して作製された第2の非熱可塑性ポリイミド層が多層構造を備える樹脂フィルム(1)~(14)を炭化・黒鉛化して作製されている。一方、比較用グラファイトシート(2)~(4)は、熱キュア法のみを利用して作製された第2の非熱可塑性ポリイミド層のみからなる比較用樹脂フィルム(2)~(4)を炭化・黒鉛化して作製されている。
【0184】
また、図2および図3の記載から、実施例9にて作製されたグラファイトシート(9)は、比較例2にて作製された比較用グラファイトシート(2)と比較して、結晶構造の配向性が高いことが分かった。
【0185】
以上のことから、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムは、熱キュアを利用して製造することができ、かつ、当該樹脂フィルムを原料として、結晶配向性が高く、熱拡散性に優れるグラファイトシートを製造することができることが分かった。
【0186】
従って、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムは、熱キュアを利用して製造することができることから、ポリイミドフィルムの設計の自由度を向上させ、かつ、製造コストを低く抑えて、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができるとの効果を奏することが分かった。
【0187】
また、樹脂フィルム(7)および(8)は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比(第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚み/第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚み)が5.44および7.768である。一方、樹脂フィルム(1)~(6)は、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比が、5.0以下である。そして、樹脂フィルム(7)および(8)から作製されたグラファイトシート(7)および(8)よりも、樹脂フィルム(1)~(6)から作製されたグラファイトシート(1)~(6)は、その熱拡散性が大きく向上している。詳細には、グラファイトシート(1)~(6)は、従来から熱拡散性に優れることが知られているケミカルキュアのみにて作製された樹脂フィルムを原料とする、比較例1に記載の比較用グラファイトシート(1)と同程度の熱拡散性を備えている。
【0188】
よって、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムにおいて、前記第1の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する隣り合う前記第2の非熱可塑性ポリイミド層の厚みの比を、1.0~5.0のより好ましい範囲内に制御することによって、当該樹脂フィルムを原料として、従来の熱拡散性に優れるグラファイトシートと同程度まで、結晶配向性がより向上し、熱拡散性により優れるグラファイトシートを製造することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムを原料とすることによって、ポリイミドフィルムの設計の自由度を向上させ、および/または、製造コストを低く抑えて、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムは、設計の自由度が高く、製造コストが低く、かつ、熱拡散率に優れるグラファイトシートの製造に好適に利用することができる。
図1
図2
図3