(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000859
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】印刷装置、及び、フラッシング情報取得方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20231226BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B41J2/165 209
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099808
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 紫門
(72)【発明者】
【氏名】萩森 普
(72)【発明者】
【氏名】小林 康彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陽
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EA25
2C056EC24
2C056EC54
2C056EC69
2C056FA04
2C056FA10
2C056JB04
(57)【要約】
【課題】インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、無駄なインク消費を低減する。
【解決手段】所定の色のインクを吐出可能な複数のインクノズルが並んだノズル列を複数有する印刷装置であって、複数の前記ノズル列のうち少なくとも一つのノズル列を複数の範囲に分割した分割範囲毎に設定されたフラッシング情報を記憶する記憶部を備え、前記フラッシング情報は、複数の前記ノズル列がクリーニングされた後に前記分割範囲に含まれる全ての前記ノズルから前記インクを吐出したときに印字される色が、前記所定の色と一致するまでに吐出する必要のある前記インクの量に対応した情報であり、前記クリーニングが実行された後で、前記ノズル列は前記分割範囲ごとに設定された前記フラッシング情報に応じてフラッシングを実行する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色のインクを吐出可能な複数のインクノズルが並んだノズル列を複数有する印刷装置であって、
複数の前記ノズル列のうち少なくとも一つのノズル列を複数の範囲に分割した分割範囲毎に設定されたフラッシング情報を記憶する記憶部を備え、
前記フラッシング情報は、複数の前記ノズル列がクリーニングされた後に前記分割範囲に含まれる全ての前記ノズルから前記インクを吐出したときに印字される色が、前記所定の色と一致するまでに吐出する必要のある前記インクの量に対応した情報であり、
前記クリーニングが実行された後で、前記ノズル列は前記分割範囲ごとに設定された前記フラッシング情報に応じてフラッシングを実行する、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
所定の色のインクを吐出可能な複数のインクノズルが並んだノズル列を複数有する印刷装置であって、
複数の前記ノズル列のうち少なくとも一つのノズル列を複数の範囲に分割した分割範囲毎に設定されたフラッシング情報を記憶する記憶部を備え、
複数の前記ノズル列のクリーニングが実行されなかった場合は、前記ノズル列は、前記ノズル列に含まれる全てのノズルについて一律にフラッシングを実行し、
複数の前記ノズル列のクリーニングが実行された場合は、前記クリーニングが実行された後で、前記ノズル列は、前記分割範囲ごとに設定された前記フラッシング情報に応じてフラッシングを実行する、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記記憶部は、複数の前記ノズル列の各々について、前記分割範囲ごとに設定されたフラッシング情報を記憶している、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
複数の前記ノズル列には、或る色のインクを吐出する第1ノズル列と、前記或る色とは異なる色のインクを吐出する第2ノズル列が含まれており、
前記第1ノズル列を複数の範囲に分割する分割範囲と、前記第2ノズル列を複数の範囲に分割する分割範囲とが異なっている、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記フラッシング情報は、前記ノズルから前記インクを吐出する回数に基づいて決定される、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記分割範囲は、前記ノズル列に含まれる全ての前記ノズルを均等な数毎に分割した範囲である、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記分割範囲は、前記ノズル列に含まれる全ての前記ノズルを個々のノズル毎に分割した範囲である、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
所定の色のインクを吐出可能な複数のインクノズルが並んだノズル列を複数有する印刷装置についてのフラッシング情報を取得する方法であって、
前記フラッシング情報は、フラッシングを行う際に複数の前記ノズル列のうち少なくとも一つのノズル列を複数の範囲に分割した分割範囲毎に吐出されるインクの量に対応した情報であり、
複数の前記ノズル列のクリーニングを行うクリーニング処理と、
前記クリーニング処理の終了後に、前記ノズル列に含まれるノズルからインクを吐出させるインク吐出処理と、
前記インク吐出処理の終了後に、前記ノズル列に含まれるノズルを用いてテストパターンを印刷するテストパターン印刷処理と、
を有し、
前記インク吐出処理において吐出されるインクの量を変更しながら、前記クリーニング処理及び前記インク吐出処理及び前記テストパターン印刷処理を繰り返して、前記分割範囲毎に前記フラッシング情報を決定する、ことを特徴とするフラッシング情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び、フラッシング情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いて印刷を行う際に、或る色のインクを吐出するノズルに他の色のインクが付着することに起因して生じた混色を解消するために、ノズルから所定量のインクを吐出させるフラッシングに関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、複数色のインクを吐出するノズル列ごとにフラッシング回数を個別に設定することで、各色ノズル列から吐出されるインクの消費量を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、フラッシングを行う際に、ノズル列ごとにインクの吐出量が一律に決定されているため、ノズル列中で問題が無いノズル(混色が生じていないノズル)からも無駄にインクを吐出させることになる。特に、各色のノズル列において、混色の発生しやすい位置はインクの色やノズルの位置に応じて変化するため、特許文献1を含む従来のフラッシング方法では、無駄なインクの消費を低減することは難しい。
【0005】
本発明は、インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、無駄なインク消費を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、所定の色のインクを吐出可能な複数のインクノズルが並んだノズル列を複数有する印刷装置であって、複数の前記ノズル列のうち少なくとも一つのノズル列を複数の範囲に分割した分割範囲毎に設定されたフラッシング情報を記憶する記憶部を備え、前記フラッシング情報は、複数の前記ノズル列がクリーニングされた後に前記分割範囲に含まれる全ての前記ノズルから前記インクを吐出したときに印字される色が、前記所定の色と一致するまでに吐出する必要のある前記インクの量に対応した情報であり、前記クリーニングが実行された後で、前記ノズル列は前記分割範囲ごとに設定された前記フラッシング情報に応じてフラッシングを実行する、ことを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、無駄なインク消費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、ヘッドユニット40の構成の説明図である。
【
図3】或るノズル列のフラッシングを行う際のインク吐出量に関するフラッシング情報を決定するためのフロー図である。
【
図4】印刷されるテストパターンの一例を表す図である。
【
図5】混色が発生した場合のテストパターンの一例を表す図である。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、フラッシング時のインク吐出量(発数)の決定方法について具体的に説明する図である。
【
図7】本実施形態において、フラッシング情報を決定するためのフロー図である。
【
図8】本実施形態のフラッシング時のインク吐出量(発数)の決定方法について具体的に説明する図である。
【
図9】ユーザーが印刷装置1を用いて印刷を行う際のフラッシング動作について説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===実施形態===
<基本構成>
図1A及び
図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。
図1Aは、印刷装置1の外観の概略説明図である。
図1Bは、印刷装置1のブロック図である。
【0011】
以下の説明では、キャリッジ21の移動方向を「走査方向」と呼ぶことがある。また、媒体Mの移動方向を「搬送方向」と呼び、媒体Mの供給側を「上流(上流側)」と呼び、媒体Mの排出側を「下流(下流側)」と呼ぶことがある。
【0012】
印刷装置1は、媒体M(印刷用紙、印刷フィルムなど)に画像を印刷する装置である。具体的には、印刷装置1は、インクジェットプリンタである。印刷装置1は、キャリッジユニット20と、搬送ユニット30と、ヘッドユニット40と、クリーニングユニット50と、コントローラー60と、を有する。
【0013】
キャリッジユニット20は、キャリッジ21を走査方向に移動させるユニットである。キャリッジユニット20は、キャリッジ21と、キャリッジ用モーター22とを有する。キャリッジ21は、走査方向に往復移動する部材であり、ヘッド(後述するインクヘッド41)を搭載する。キャリッジ用モーター22は、キャリッジ21を走査方向に移動させるためのモーター(駆動部)である。
【0014】
搬送ユニット30は、媒体Mを搬送方向に搬送するユニットである。搬送対象となる媒体Mは、ロール紙のような長尺状の印刷媒体でも良いし、単票用紙でも良い。また、媒体Mは、紙に限られるものではなく、フィルムや布などでも良い。搬送ユニット30は、例えば搬送ローラー31と搬送用モーター32とを有する。搬送ローラー31は、回転することによって媒体Mを搬送方向に搬送する部材である。搬送用モーター32は、搬送ローラー31を回転させるためのモーター(駆動部)である。なお、搬送ユニット30は、搬送ローラー31を用いた構成に限られるものではない。例えば、搬送ユニット30は、搬送台(フラットベッド)を有し、この搬送台を移動させることによって媒体Mを搬送方向に搬送するように構成されても良い。
【0015】
図2は、ヘッドユニット40の構成の説明図である。ヘッドユニット40は、媒体Mに液体(インク)を吐出するためのユニットである。ヘッドユニット40は、インクヘッド41を有する。
【0016】
インクヘッド41は、インクを吐出する複数のノズル(インクノズル45)を有するヘッドである。インクは、画像(インク画像;カラー画像)を構成するドット(インクドット)を媒体Mに形成するための液体である。インクは、カラーインクやプロセスインクなどと呼ばれることもある液体である。インクヘッド41は、複数のインクノズル列44を有する。複数のインクノズル列44は、走査方向に並んで配置されている。本実施形態の印刷装置1において、インクヘッド41は、例えば、シアンインクを吐出するシアンインクノズル列44Cと、マゼンタインクを吐出するマゼンタインクノズル列44Mと、イエローインクを吐出するイエローインクノズル列44Yと、ブラックインクを吐出するブラックインクノズル列44Kとを有している。これら4色のインクノズル列44C,44M,44Y,44Kは、
図2に示されるように走査方向に並んで配置されている。なお、インクヘッド41から吐出されるインクの色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色に限られるものでは無い。また、複数のインクヘッド41や複数のインクノズル列44が搬送方向に並んで配置されていてもよい。
【0017】
インクノズル列44は、それぞれ搬送方向に等間隔(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有する。ここでは、各色のインクノズル列44C~44Kは、それぞれ千鳥配置された複数のノズル(インクノズル45C~45K)によって構成されている。つまり、各々のインクノズル列44は、第1ノズル群と第2ノズル群とにより構成されており、第1ノズル群は、搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有しており、第2ノズル群は、第1ノズル群のノズル(インクノズル45)に対して搬送方向に半ピッチPだけずれた状態で搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有している。但し、それぞれのインクノズル列44は、搬送方向に1列に並ぶ複数のインクノズル45によって構成されても良い。
【0018】
図1Bに示すように、ヘッドユニット40は、ヘッド駆動部42を有する。ヘッド駆動部42は、インクヘッド41の各ノズルからの液体(インク)の吐出/非吐出を行わせる駆動部である。ヘッド駆動部42は、例えばヘッドがピエゾ式であればピエゾ素子である。コントローラー60は、ヘッド駆動部42を制御することによって、それぞれのノズルからの液体の吐出/非吐出を制御することになる。
【0019】
クリーニングユニット50は、インクヘッド41のクリーニングを行うユニットである。クリーニングユニット50は、ワイパー51と、クリーニング駆動部52とを有する。ワイパー51は、インクヘッド41に設けられたインクノズル列44と対向する位置にて走査方向または搬送方向に往復移動することで、インクノズル列44の表面に付着したインク等の汚れを清掃する刷毛状の部位である。クリーニング駆動部52は、ワイパー51を駆動するためのモーター(駆動部)である。また、クリーニングユニット50は、ワイパー51以外にも他のクリーニング機構を備えていても良い。例えば、インクヘッド41やインクノズル45を保護するキャップに滞留したインクを吸引するための吸引機構などが設けられていても良い。
【0020】
コントローラー60は、印刷装置1の制御を司る制御部であり、少なくとも記憶部61を有している。コントローラー60は、外部のコンピューターからの印刷指令に基づいて、印刷装置1の駆動部(キャリッジ用モーター22、搬送用モーター32、ヘッド駆動部42、及びクリーニング駆動部52等)を制御する。また、後述するように、コントローラー60は、画像印刷を行う際に、インクヘッド41の各インクノズル列44からそれぞれ所定量のインクを吐出させるフラッシング動作を制御する。フラッシングは、コントローラー60に設けられる記憶部61に記憶されたフラッシング情報に基づいて実行される。
【0021】
<従来のフラッシングについて>
従来、インクジェットプリンタで画像を印刷する際に行われているフラッシングについて説明する。インクジェットプリンタを用いて画像の印刷を行う際に、インクヘッドのうち或る色を吐出するノズル列に、異物が付着していた場合、当該ノズル列から吐出されたインクによって形成される画像の画質が悪化する場合がある。例えば、ノズル列を構成しているインクノズルに他の色のインクが付着していた場合、当該インクノズルが吐出するべきインクに他の色のインクが混ざって(混色)、正確な画像を形成できなくなるおそれがある。そこで、画像印刷を行う前に、各ノズル列から所定量のインクを吐出させる「フラッシング」を実施し、ノズル列に付着した異物を取り除き、各ノズル列が本来吐出するべき色のインクを正確に吐出可能な状態とする必要がある。
【0022】
フラッシングを行う際にノズル列から吐出されるインクの量は、フラッシング情報として、予めインクジェットプリンタの記憶部等に記憶されている。このフラッシング情報は以下のようにして決定することができる。
図3は、或るノズル列のフラッシングを行う際のインク吐出量に関するフラッシング情報を決定するためのフロー図である。なお、
図3では、フラッシング情報としてのインク吐出量を、インクの吐出回数(発数)として決定する場合のフローを表している。
【0023】
先ず、ヘッドユニットに設けられた各ノズル列をクリーニングするクリーニング処理が行われる(S101)。ノズル列のクリーニングとしては、上述したクリーニングユニット50のワイパー51と同等の機構を用いてワイピングが行われる。このとき、或る色のインクを吐出するノズル列から拭き取られた或る色のインクが、他の色を吐出するノズル列に付着する場合があり、これにより混色が発生しやすい状態となる。
【0024】
次いで、各ノズル列から実際にインクを吐出するインク吐出処理(フラッシング)が行われる(S102)。インク吐出処理は、各ノズルについて、予め決定されている所定の吐出量でn回(発数)のインクを吐出させることによって行われる。例えば、最初はn=50000発のインク吐出を行う。
【0025】
次いで、インク吐出処理が行われたノズル列を用いてテストパターンを印刷するテストパターン印刷処理が行われる(S103)。
図4は、印刷されるテストパターンの一例を表す図である。テストパターンは、各ノズル列から吐出されるインクの色数に応じて複数列のパターンが印字され、S102のインク吐出処理(フラッシング)を行った結果、ノズル列の混色が解消されたか否かを調べるために利用される。
図4では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを用いて4列のテストパターンが形成されている。各色のパターンは、それぞれの色のインクを吐出するノズル列に設けられた個々のインクノズルによって形成される。例えば、本実施形態の印刷装置1を用いてテストパターンを印刷する場合、K列のテストパターンは、ブラック(K)インクを吐出するブラックインクノズル列44Kに設けられた45K1,45K2,…,45Kxのx個のブラックインクノズル45Kを用いて形成される。
【0026】
次いで、印刷されたテストパターンにおいて、混色が発生しているか否かが判定される(S104)。混色の有無の判定は、テストパターンを撮像したデータを画像解析することによって行うことができる。また、公知の測色器を用いて各色のパターン毎に色差を測定することによって行っても良い。例えば、印刷されたテストパターンのY(イエロー)列の或る点について測色器を用いて(L1*,a1*,b1*)値を測定する。同様に、テストパターンのY(イエロー)列の異なる点について測色器を用いて(L2*,a2*,b2*)値を測定する。そして、CIE76による色差値ΔE=((L1*-L2*)2+(a1*-a2*)2+(b1*-b2*)2)1/2を算出し、ΔEの値が2.5以上(ΔE≧2.5)である場合は、混色が発生したものと判定する。(X-Riteホームページ「色知識、17.色差について」参照、インターネット<URL:https://www.xrite.co.jp/colorknowledge-blog/436-17.html>)
【0027】
図4の例では、各色のパターンに他の色が混ざっておらず、混色無しと判定される。そして、混色無しと判定された場合は(S104がNo)、インクの発数をn=(n-m)回として(S105)、S101の処理に戻ってヘッドクリーニング等の各処理を繰り返す。なお、インクの発数の減少量mは、プリンターの種類や構成に応じて適宜決定されるが、例えば、50000発,20000発,10000発,5000発,…のようにインクの発数を減少させる。
【0028】
そして、インク発数を変更しながらS101~S103の各処理を繰り返し、或るインク発数でインク吐出処理を行った際のテストパターンにおいて混色が発生した場合には、混色有りと判定される。
図5は、混色が発生した場合のテストパターンの一例を表す図である。同
図5では、イエロー(Y)のインクによって形成されるはずのY列のパターンの一部にブラック(K)のインクによって形成されたパターンが混ざっている。すなわち、イエローインクのノズル列に混色が発生した状態を示している。
【0029】
混色有りと判定された場合(S104がYes)、当該混色が発生したときのインクの発数に基づいて、フラッシング時に必要なインクの吐出量(発数)を決定する(S105)。例えば、インクの発数がn回のときに混色が発生せず、インクの発数がn-m回のときに混色が発生した場合、各ノズル列のインク発数をn回とすれば、混色の発生を抑制することができる。
【0030】
フラッシングを行う際のインク吐出量(発数)は、以下のようにすることで、より精度よく決定することができる。
図6A及び
図6Bは、フラッシング時のインク吐出量(発数)の決定方法について具体的に説明する図である。
図6Aは、上述したようにインク吐出量(発数)n=50000発,20000発,10000発,5000発としたときにそれぞれ印刷されるテストパターンを表している。なお、
図6Aでは、説明の簡略化のため、
図5において混色が発生していたK列とY列についてのみ表示している。そして、
図6Aでは、インク吐出量(発数)n=50000~10000発では混色が発生せず、n=5000発で混色が発生している。つまり、混色の発生を抑制するためのインク吐出量(発数)としては、n=10000発とn=5000発との間の値を取ればよい。
【0031】
そこで、
図3で説明したフローにしたがって、n=10000発~5000発の間で、より細かい範囲でインク吐出量を変更しながら、混色の発生を調べる。
図6Bは、インク吐出量(発数)n=9000発,8000発,7000発,6000発としたときにそれぞれ印刷されるテストパターンを表している。
図6Bでは、n=9000~8000発では混色が発生せず、n=7000発のときに混色が発生している。したがって、少なくともn=8000発のインク吐出量(発数)でフラッシングを行えば、混色の発生を抑制できることがわかる。
【0032】
このようにして、フラッシングを行う際にノズル列から吐出する必要のあるインクの吐出量に関するフラッシング情報が決定される。当該フラッシング情報は、プリンターの製造段階で決定され、コントローラー(記憶部)等に保存される。プリンターを購入したユーザーが印刷を行う際には、保存されているフラッシング情報に基づいてフラッシングが実行される。なお、フラッシング情報は、各ノズルのインクの吐出回数(発数)に基づいて規定されるのではなく、インクを吐出させるためにインクヘッド(ヘッド駆動部)に印加される信号(吐出波形)の形状として規定されるのであっても良い。
【0033】
<本実施形態のフラッシングについて>
上述した従来のフラッシング方法によれば、ノズル列ごとに必要なインク吐出量がフラッシング情報として記憶されており、混色の発生を抑制して、正確な画像印刷を行うことができる。
【0034】
しかしながら、上述の方法では、インクの吐出量がノズル列ごとに一律に決定されるため、無駄なインク消費が生じる場合がある。例えば、
図6Bに示されるテストパターンでは、インクの発数n=7000発及び6000発の条件のときにY列に混色が発生しているが、Y列を形成するイエローインクノズル列に含まれる複数のインクノズルのうち、混色が発生しているのはその一部であり、大部分のインクノズルでは混色が発生していない。このような状態で、イエローインクノズル列に含まれる全てのインクノズルについて一律に8000発のインク吐出(フラッシング)を行うと、混色が発生していない大部分のインクノズルでは無駄にインクを消費することとなる。
【0035】
これに対して、本実施形態の印刷装置1では、インクノズル列44を複数の範囲に分割して、分割された範囲毎にフラッシング時のインク吐出量(フラッシング情報)を適切に決定することにより、インクノズル列44全体として、無駄なインク消費を抑制している。
【0036】
図7は、本実施形態において、フラッシング情報を決定するためのフロー図である。
図8は、本実施形態のフラッシング時のインク吐出量(発数)の決定方法について具体的に説明する図である。同
図8では、
図6の場合と同様に、Y(イエロー)列においてK(ブラック)インクの混色が発生したものとして、K列及びY列のテストパターンのみを表示している。
【0037】
本実施形態でフラッシング情報を決定する際には、
図3のS101~S103の処理と同様にして、印刷装置1を用いて、先ず、クリーニング処理(S201)、インク吐出処理(S202)、テストパターン印刷処理(S203)の各処理を順番に実施する。なお、
図3の場合と同様に、最初は多めのインク吐出量(発数)でインク吐出処理を行い、テストパターンの印刷結果に応じてインク吐出量(発数)を少なくしていくが、以下では、フラッシング時のインク吐出量(発数)n=8000発~0発の間で、混色が発生することが分かっているものとして説明を行う。
【0038】
次いで、印刷されたテストパターンについて、混色の有無の判定を行う。本実施形態では、インクノズル列44を複数の範囲に分割して、分割された範囲毎に混色の有無を判定する。
図8の例では、イエローインクノズル列44Yによって形成されたY列のテストパターンがGY1~GY4の4つの範囲に均等に分割されている。例えば、インクノズル列44Yに96個のインクノズル45Y1~45Y96が含まれている場合、Y列のテストパターンのうち、インクノズル45Y1~45Y24によって形成された範囲を第1範囲GY1とする。同様に、インクノズル45Y25~45Y48によって形成された範囲を第2範囲GY2,インクノズル45Y49~45Y72によって形成された範囲を第3範囲GY3,インクノズル45Y73~45Y96によって形成された範囲を第4範囲GY4とする。
【0039】
そして、第1範囲GY1から順に、混色の有無の判定を行う(S204)。例えば、
図8のインク吐出量(発数)n=8000発のテストパターンでは、第1範囲GY1において混色が発生していないため混色なしと判定され(S204がNo)、インクの吐出量(発数)を決定することなく、次の第2範囲GY2の判定に移行する(S206)。この動作が第1範囲GY1~第4範囲GY4まで繰り返される(S204~S210)。
図8のインク吐出量(発数)n=8000発では、第1範囲GY1~第4範囲GY4の何れの範囲でも混色が発生していないため、各範囲におけるインクの吐出量(発数)は決定されない。
【0040】
第4範囲GY4まで混色の判定が終了したら、第1範囲GY1~第4範囲GY4の全ての範囲についてインクの吐出量(発数)が決定されているか否かが判断される(S212)。全ての範囲についてインクの吐出量(発数)が決定されていない場合は(S212がNo)、インクの発数をn=(n-m)回に減少させ(S213)、S201の処理に戻ってヘッドクリーニングから一連の処理を繰り返す。
【0041】
ここでは、m=1000として、インク吐出量(発数)を1000回ずつ減少させてフラッシング動作を行う。すなわち、インク吐出量(発数)n=(8000-1000)=7000発として、S201~S203の処理を繰り返した後、再度第1範囲GY1について混色の有無の判定を行う(S204)。その結果、
図8に示されるように、第1範囲GY1において混色が発生した場合(S204がYes)、吐出量を減少させる前のn=8000発を第1範囲GY1のインク吐出量(発数)として決定する(S205)。すなわち、第1範囲GY1に含まれる全てのインクノズル45からインクを吐出したときに印字されるインクの色(例えばイエロー)が、当該インクノズル45から吐出される予定であった元々の色(イエロー)と一致する(混色が無い状態)までに吐出する必要のあるインク量が、インク吐出量(発数)として決定される。決定された吐出量は、コントローラー60の記憶部61に、フラッシング情報として記憶される。
【0042】
同様にして、第2範囲GY2~第4範囲GY4についても、順次混色の判定を行う(S206~S210)。
図8のインク吐出量(発数)n=7000発のテストパターンでは、第2範囲GY2~第4範囲GY4については混色が発生していないため、各範囲のインク吐出量(発数)は決定されず(S212がNo)、インクの発数をn=(7000-1000)=6000発に減少させて(S213)、再度S201からの処理を繰り返す。
【0043】
図8では、インク吐出量(発数)n=3000発のときに第2範囲GY2で混色が発生していることから、第2範囲GY2のインク吐出量(発数)はn=4000発に決定され(S206)、第2範囲GY2についてのフラッシング情報として記憶部61に記憶される。同様に、インク吐出量(発数)n=2000発のときに第3範囲GY3で混色が発生していることから、第3範囲GY3のインク吐出量(発数)はn=3000発に決定され、インク吐出量(発数)n=1000発のときに第4範囲GY4で混色が発生していることから、第4範囲GY4のインク吐出量(発数)はn=2000発に決定される。このようにして、インクノズル列44を分割した全ての範囲GY1~GY4について、それぞれフラッシング時のインク吐出量(発数)が決定され、フラッシング情報として記憶されると(S212がYes)、処理を終了する。
【0044】
なお、インクノズル列44の分割範囲毎にインク吐出量(フラッシング情報)を決定する際に、上記のクリーニング処理、インク吐出処理、及びテストパターン印刷処理が、分割範囲ごとに繰り返して行われるようにしても良い。例えば、分割範囲GY1について、
図7におけるS201~S205を繰り返して、先ず、GY1のインク吐出量を決定する。そして、同様の処理を分割範囲GY2,GY3,GY4について順次繰り返すことで、分割範囲GY1~GY4の各々について最適なインク吐出量(フラッシング情報)を決定するのであっても良い。
【0045】
印刷装置1は、このようにしてノズル列44を分割した複数の範囲毎にフラッシング情報が設定された状態で出荷される。印刷装置1を購入したユーザーが、当該印刷装置1を用いて印刷を行う際には、状況に応じて、適切なフラッシングが行われる。
図9は、ユーザーが印刷装置1を用いて印刷を行う際のフラッシング動作について説明するフロー図である。
【0046】
ユーザーが印刷装置1を用いて印刷を開始するに際して、コントローラー60は、先ず、前回の印刷から所定の期間(例えば1日)が経過したか否かを判断する(S301)。そして所定の期間が経過していた場合は(S301がYes)、クリーニングユニット50を稼働させてインクヘッド41のクリーニングを行う(S302)。クリーニングでは、上述したようにワイパー51によってインクノズル列44に付着した異物を拭き取る動作が行われるが、このとき、或る色を吐出するインクノズル列44(例えばイエローインクノズル列44Y)に他の色のインク(例えばブラックインク)が付着することによって混色が発生しやすい状態となる。そこで、混色の発生を抑制するために、各インクノズル列44についてフラッシングが行われる(S303)。
【0047】
S303の処理で実行されるフラッシングでは、インクノズル列44を複数に分割した範囲毎に設定されたフラッシング情報に基づいて、各範囲から最適化されたインク吐出量でインクが吐出される。すなわち、
図8で説明したように、インクノズル列44の各範囲(
図8ではGY1~GY4)について、混色の発生を抑制するために必要な最小のインク吐出量でフラッシングが行われるため、各範囲から無駄にインクが吐出されることが抑制される。これにより、インクノズル列44全体としてインクの消費量を低減しつつ、混色が生じ難い正確な画像を印刷することが可能となる。
【0048】
一方、S301において、前回の印刷から所定の期間が経過していないと判断された場合は(S301がNo)、ヘッドクリーニングを実行することなく、インクノズル列44のフラッシングを行う(S304)。前回の印刷からあまり時間が経過していない場合には、インクが空気に触れることやインクの溶質成分が沈殿することによるインクの増粘がインクノズル45で生じていない、あるいは軽度のインクの増粘しか生じていない可能性が高いからである。
【0049】
S304で実行されるフラッシングでは、S303で説明したフラッシングとは異なり、インクノズル列44に含まれる全てのインクノズル45から一律のインク吐出量でインクが吐出される。ヘッドクリーニングが行われなければ、或る色を吐出するインクノズル列44に他色のインク等が付着する可能性は低く、混色は生じ難いからである。そのため、各インクノズル列44から最低限の吐出量でインクを一律に吐出するフラッシングを行うだけで、十分正確に画像を印刷することができる。ここで、S304で実行されるフラッシングにおいて各インクノズル列44から吐出されるインク吐出量は、S303で実行されるフラッシングにおいて各インクノズル列44から吐出されるインク吐出量よりも小さいことが望ましい。前回の印刷からあまり時間が経過していない場合は、軽度のインクの増粘しか生じていない可能性が高く、ヘッドクリーニングを行う必要がある場合(S301がYes)ほどインクを多く吐出する必要がないからである。このように、ヘッドクリーニングが実行されたか否かによって、フラッシングの方法を適切に選択することで、インクの消費量を低減しつつ、混色が生じ難い正確な画像を印刷することが可能となる。
【0050】
また、印刷装置1のヘッドユニット40には、それぞれ異なる色のインクを吐出する複数のインクノズル列44が備えられており、記憶部61には、それら複数のインクノズル列44の各々について、分割範囲毎に設定されたフラッシング情報が記憶されている。したがって、多色刷りの印刷を行う場合でも、フラッシング時に各インクノズル列44で無駄に消費されるインクを低減しつつ、混色の生じ難いきれいな画像をより正確に印刷することができる。
【0051】
なお、インクノズル列44を分割する際の分割範囲は、インクノズル列44毎にそれぞれ異なっていても良い。言い換えると、インクノズル列44毎に個別に分割範囲を設定することが可能であり、例えば、複数のインクノズル列44のうちの第1ノズル列の分割範囲と、第2ノズル列の分割範囲とが異なっていても良い。
図10A及び
図10Bは、ノズル列の分割範囲の変形例について説明する図である。
【0052】
図10Aにおいて、Y列のテストパターンでは、イエローインクノズル列44Yに含まれる複数のインクノズル45Yが、4つの範囲GY1~GY4に分割されている。したがって、
図8で説明したように、4つの範囲毎にフラッシング時のインク吐出量(発数)を最適化することが可能となり、インクノズル列44Yの全体として、無駄なインク消費を低減することができる。一方、K列のテストパターンでは、ブラックインクノズル列44Kに含まれる複数のインクノズル45Kが、2つの範囲GK1~GK2に分割されている。ブラックインクノズル列44Kによって印刷されるK列のテストパターンでは、仮に混色が発生したとしても、Y列のテストパターン等と比較して混色の影響が目立ち難い。そのため、ブラックインクノズル列44Kの分割範囲を大きくしても、十分に混色を抑制することができる。また、インクノズル列44毎に混色の発生しやすい位置が異なる場合があるため、異なる色のインクを吐出するインクノズル列44毎に、分割範囲を適宜変更することで、フラッシング情報をより最適化しやすくすることができる。
【0053】
なお、インクノズル列44を複数の範囲に分割する際には、当該インクノズル列44に含まれる全てのインクノズル45を、均等な数毎に分割することが好ましい。言い換えると、分割された複数の範囲に含まれるインクノズル45の数がそれぞれ等しくなるようにすると良い。インクノズル45を均等に分割することにより、インクノズル列44中で混色が発生し難い位置や逆に混色が発生しやすい位置を特定しやすくすることができる。
【0054】
また、
図10Bでは、Y列のテストパターンが、イエローインクノズル列44Yに含まれる複数のインクノズル45Yの個々について分割されている。例えば、イエローインクノズル列44Yに96個のインクノズル45Y1~45Y96が含まれている場合、それら96個のインクノズル45Yの各々に応じて、イエローインクノズル列44Yが96の範囲に分割されている。このようにすれば、より細かい単位でフラッシング時のインク吐出量を制御することが可能となるため、無駄なインクの消費をより低減することができる。
【0055】
また、本実施形態におけるフラッシング情報は、インクノズル45からインクを吐出する回数(発数)に基づいて決定される。インクの発数で管理することにより、フラッシングを行う際のインク吐出量を制御しやすくすることができる。但し、フラッシング情報はインクの発数以外に基づいて決定されるのであっても良く、例えば、上述したように、インクヘッド41に印加される信号(吐出波形)の形状に基づいて決定されるのであっても良い。
【0056】
また、
図7で説明したように、フラッシング情報を取得する際には、印刷装置1の製造段階において、クリーニング処理(S201)、インク吐出処理(S202)、テストパターン印刷処理(S203)が順次実行される。そして、インク吐出処理で吐出するインクの量を変更しながら、これらの処理を繰り返すことにより、分割範囲毎に必要なインク吐出量を決定する(S204~S211)。これにより、インクノズル列44の分割範囲毎に適切なインク吐出量が決定され、フラッシング情報として記憶部61に記憶された状態で印刷装置1が市場に出荷される。したがって、印刷装置1を購入したユーザーは、予め記憶されているフラッシング情報に基づいて、無駄なインク消費を抑制しつつ、最適なフラッシング動作を行うことができる。
【0057】
===その他の実施形態===
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 印刷装置、
20 キャリッジユニット、21 キャリッジ、22 キャリッジ用モーター、
30 搬送ユニット、31 搬送ローラー、32 搬送用モーター、
40 ヘッドユニット、41 インクヘッド、42 ヘッド駆動部、
44 インクノズル列、
44C シアンインクノズル列、44M マゼンタインクノズル列、
44Y イエローインクノズル列、44K ブラックインクノズル列、
45 インクノズル、
44C シアンインクノズル、44M マゼンタインクノズル、
44Y イエローインクノズル、44K ブラックインクノズル、
50 クリーニングユニット、51 ワイパー、52 クリーニング駆動部、
60 コントローラー、61 記憶部、
GY1 第1範囲(イエロー)、GY2 第2範囲(イエロー)、
GY3 第3範囲(イエロー)、GY4 第4範囲(イエロー)、
M 媒体