(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085959
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】水性インキセット及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20240620BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240620BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20240620BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/322
B41M1/30 D
B41M5/00 100
B41M5/00 132
B41M5/00 134
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200759
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 正貴
(72)【発明者】
【氏名】服部 和昌
【テーマコード(参考)】
2H113
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA00
2H113BB07
2H113BB08
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2H186AB02
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2H186BA08
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2H186FB57
4J039AD03
4J039AD10
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC09
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4J039EA38
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4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非浸透性基材への印刷で混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、保存安定性の良好なオーバーコート液による優れた耐水擦過性、密着性を付与する水性インキセットおよび印刷物を提供すること。
【解決手段】凝集剤(A)を含む前処理液(I)と、顔料分散樹脂(B)を含むインクジェットインキ(II)と、コアとシェルとを乳化重合により形成してなるコアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含み、コアがポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位を含む共重合体であり、シェルがジメチルシロキサン構造を含まない共重合体であり、コアとシェルとの質量比が60/40~90/10であり、コアシェル型樹脂エマルジョン(C)の酸価が10~65であり、エチレン性不飽和単量体(D)のジメチルシロキサン単位のくり返し数nは5~100であるオーバーコート液(III)とを含む水性インキセット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液(I)とインクジェットインキ(II)とオーバーコート液(III)とを含むインキセットであって、
前記前処理液(I)が凝集剤(A)を含み、
前記インクジェットインキ(II)が顔料分散樹脂(B)を含み、前記オーバーコート液(III)がコアとシェルとを乳化重合により形成してなるコアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含み、前記コアがポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位を含む共重合体であり、前記シェルがジメチルシロキサン構造を含まない共重合体であり、前記コアとシェルとの質量比が60/40~90/10であり、かつコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の酸価が10~65であり、前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)のジメチルシロキサン単位のくり返し数nは5~100である、水性インキセット。
【請求項2】
前記コアシェル型樹脂エマルジョン(C)の全質量に対する前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位の質量比が5~20質量%である、請求項1に記載の水性インキセット。
【請求項3】
前記コアシェル型樹脂エマルジョン(C)のコアの全質量に対する架橋性エチレン性不飽和単量体由来の構成単位の質量比が0.1~2質量%である、請求項1に記載の水性インキセット。
【請求項4】
請求項1~3いずれかに記載の水性インキセットを用いる軟包装用水性インクジェットインキ印刷物の製造方法であって、
記録媒体に、前処理液(I)を付与する工程と、前処理液(I)を付与した部分に、インクジェットインキ(II)を付与する工程と、オーバーコート液(III)を付与する工程とを含む、
軟包装用水性インクジェットインキ印刷物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3いずれかに記載の水性インキセットを記録媒体に印刷してなる軟包装用水性インクジェットインキ印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理液、インクジェットインキ、オーバーコート液、及び、それを用いてなる印刷物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷の小ロット化やニーズの多様化に伴い、デジタル印刷方式の普及が急速に進んでいる。デジタル印刷方式では、版を必要としないことから、小ロット対応、コストの削減、印刷装置の小型化が実現可能である。
【0003】
デジタル印刷方式の一種であるインクジェット印刷方式とは、記録媒体に対してインクジェットヘッドからインキの微小液滴を飛翔及び着弾させて、前記記録媒体上に画像や文字(以下総称して「印刷物」ともいう)を形成する方式である。他のデジタル印刷方式と比べて、印刷装置のサイズ及びコスト、印刷時のランニングコスト、フルカラー化の容易さなどの面で優れており、近年では産業印刷用途においても利用が進んでいる。
【0004】
インクジェット印刷方式に使用されるインキとしては、油系、溶剤系、活性エネルギー線硬化系、水系など多岐に渡る。これまで、産業印刷用途では、溶剤系や活性エネルギー線硬化系のインキが使用されてきた。しかし近年の、環境や人に対する有害性への配慮・対応といった点から、水系インキの需要が高まっている。
【0005】
また近年では、インクジェット印刷方式の用途拡大の要望の中で、産業印刷用途に加えて、紙器、ラベル、包装フィルムといったパッケージ用途への展開が求められている。その場合、コート紙やアート紙のような低浸透性の基材、及び、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような非浸透性の基材に対して、実使用に耐えられる特性を有する印刷物の形成が要求されることになる。
【0006】
軟包装材料を製造するためにインクジェット印刷を利用する場合、フィルム基材に対する画像形成が必須となる。これまでに存在する、インクジェット印刷で用いる水性インキは、普通紙や専用紙(例えば、写真光沢紙)のような浸透性の高い基材に対して画像形成するためのものであり、フィルム基材のような非浸透性の基材に対して印刷した場合、着弾した後のインキ液滴が、基材中に全く浸透しないため、浸透による乾燥が起きず、混色滲みや色ムラが発生し、印刷画質が損なわれる、色材である顔料が基材表面に付着されている状態のため摩擦に対する耐性が低い、といった問題が発生する。
【0007】
印刷画質が損なわれる課題に対しては、非浸透性の基材に対する前処理液が知られている。一般に、水性インクジェットインキ用の前処理液として、前記水性インクジェットインキ中の液体成分を吸収し乾燥性を向上させる層(インキ受容層)を形成するもの(特許文献1~2参照)と、色材や樹脂など、前記水性インクジェットインキ中に含まれる固体成分を意図的に凝集させることで液滴間の滲みや色ムラを防止し印刷画質を向上させる層(インキ凝集層)を形成するもの(特許文献3~4参照)の2種類が知られている。しかしながら、どちらの方法を採用したとしても、前処理剤液のみでは摩擦に対する耐性を改善することは難しい。
【0008】
摩擦に対する耐性が低い課題に対して、例えば特許文献5~8には、インキ中に定着樹脂を使用することで耐擦過性に一定の向上効果が得られることが開示されており、一方で特許文献9には、インキ層の上にオーバーコート層を設けることで、高い耐擦過性が得られることが開示されているが、いずれも湿潤時の摩擦に対する十分な耐性(耐水擦過性)が得られなかった。
【0009】
さらに、オーバーコート層に耐擦過性と撥水性を併せ持たせるために、シリコーン系やフッ素系のエマルジョンが用いられているが、シリコーン系やフッ素系のエマルジョンでは撥水性は得られるが、基材への密着性や耐水擦過性が劣ることが課題となっている。
【0010】
そこで、密着性の高いアクリル系やウレタン系のエマルジョンに、撥水性を高めるシ
リコーン系やフッ素系エマルジョンを混合したり、共重合させることで、密着性にも撥水
性にも優れたエマルジョンを開発する試み(特許文献10~11参照)がなされている。しかしながら、これらの方法では配合時の安定性、基材への密着性や耐水擦過性が必ずしも十分な性能が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-238422号公報
【特許文献2】特開2000-335084号公報
【特許文献3】特開2005-74655号公報
【特許文献4】特開2016-168782号公報
【特許文献5】特開2011-246632号公報
【特許文献6】特開2011-246634号公報
【特許文献7】特開2007-270362号公報
【特許文献8】特開2009-30014号公報
【特許文献9】特開2010-150453号公報
【特許文献10】特開2013-144764号公報
【特許文献11】特開2001-131461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、フィルム基材などの非浸透性基材への印刷においても、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好である前処理液やインクジェットインキ、及び、オーバーコート液による優れた耐水擦過性、密着性を付与する水性インキセットおよび印刷物を提供することである。
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、特定の酸価を有し、かつコア部分にシリコーンがグラフトされたコアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含むオーバーコート液を含むインキセットによって、前記課題が好適に解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、
前処理液(I)とインクジェットインキ(II)とオーバーコート液(III)とを含むインキセットであって、
前記前処理液(I)が凝集剤(A)を含み、
前記インクジェットインキ(II)が顔料分散樹脂(B)を含み、
前記オーバーコート液(III)がコアとシェルとを乳化重合により形成してなるコアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含み、前記コアがポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位を含む共重合体であり、前記シェルがポリジメチルシロキサン構造を含まない共重合体であり、前記コアとシェルとの質量比が60/40~90/10であり、かつコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の酸価が10~65であり、前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)のジメチルシロキサン単位のくり返し数nは5~100である、水性インキセットに関する。
【0015】
また本発明は、前記コアシェル型樹脂エマルジョン(C)の全質量に対する前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位の質量比が5~20質量%である、前記水性インキセットに関する。
【0016】
また本発明は、前記コアシェル型樹脂エマルジョン(C)のコアの全質量に対する架橋性エチレン性不飽和単量体由来の構成単位の質量比が0.1~2質量%である、前記水性インキセットに関する。
【0017】
また本発明は、前記水性インキセットを用いる軟包装用水性インクジェットインキ印刷物の製造方法であって、
記録媒体に、前処理液(I)を付与する工程と、前処理液(I)を付与した部分に、インクジェットインキ(II)を付与する工程と、オーバーコート液(III)を付与する工程とを含む、
軟包装用水性インクジェットインキ印刷物の製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、前記水性インキセットを記録媒体に印刷してなる軟包装用水性インクジェットインキ印刷物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインキセットは、フィルム基材上に混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、印刷物に高い耐水擦過性、密着性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、好ましい形態を上げて、本発明の実施形態である水性インキセットについて説明する。
【0021】
本発明の水性インキセットが有する前処理液(I)は凝集剤(A)を含む。凝集剤はインクジェットインキ中に溶け出すことでインキの凝集析出による画像形成を行うため水に溶解する。そのため、耐水性を発現させることが難しく、軟包装印刷物に必要な耐性が得られず、外観不良を発生してしまう。
【0022】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、前処理液(I)とインクジェットインキ(II)とオーバーコート液(III)とを含むインキセットであって、
前記前処理液(I)が凝集剤(A)を含み、前記インクジェットインキ(II)が顔料分散樹脂(B)を含み、前記オーバーコート液(III)がコアとシェルとを乳化重合により形成してなるコアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含み、前記コアがポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位を含む共重合体であり、前記シェルがポリジメチルシロキサン構造を含まない共重合体であり、前記コアとシェルとの質量比が60/40~90/10であり、かつコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の酸価が10~65であり、前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)のジメチルシロキサン単位のくり返し数nは5~100である、水性インキセットにおいて、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、優れた耐水擦過性、密着性を有する印刷物が得られることを見いだした。詳細なメカニズムは定かではないが、例えば以下を考えている。
【0023】
まず、本発明の水性インキセットにおける、各成分の役割は以下のとおりである。
前処理液(I)の役割は、水性インクジェットインキ(II)の画像形成を補助し印刷画質を向上させること、及び、フィルム基材との接着力を向上させることである。そのメカニズムは、前記前処理液(I)に含まれる凝集剤(A)が、水性インクジェットインキに含まれる顔料分散樹脂(B)を凝集析出させることで、水性インクジェットインキ液滴同士が混ざることで生じる、混色滲みや色ムラを防ぐと考える。
【0024】
また、本発明の水性インキセットにおけるオーバーコート液(III)の役割は、前処理液(I)、及び、水性インクジェットインキ(II)からなる層と水との直接的な接触を防ぐこと、前処理層(Ia)に含まれる余剰の凝集剤(A)をコアシェル型樹脂エマルジョン(C)がトラップし水分の侵入を防ぐことで優れた耐水性を得ると考えられる。凝集剤(A)に対するコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の作用は、凝集剤(A)が金属塩の場合は陽イオンとのキレート形成、カチオン性高分子化合物の場合はカチオン性高分子化合物とのイオン結合による水溶性低下であると考えられる。
【0025】
さらに、コアシェル型樹脂エマルジョン(C)がジメチルシロキサン単位のくり返し数5~100のポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含むシリコーングラフトアクリル共重合体からなるコアと、ジメチルシロキサン構造を有さないエチレン性不飽和単量体の共重合体からなるシェルによって乳化重合により形成されており、オーバーコート液(III)の乾燥成膜時に表層にポリジメチルシロキサンが配向することにより表面エネルギーを低下させ高い撥水性とスリップ性を塗膜表面に付与することで、優れた耐水擦過性を有する印刷物が得られたと考える。また、前記コアシェル型樹脂エマルジョン(C)のコアとシェルの重量比が60/40~90/10にすることで、シロキサン構造を有さないシェル成分によってシリコーンによる密着性低下を防ぎ、オーバーコート液(III)の分散性を向上させ良好な保存安定性を得られたものと考える。
【0026】
以上のように、混色滲みや色ムラがなく印刷画質が良好であり、軟包装印刷物に必要な優れた耐水擦過性、密着性を有する印刷物を得るには、本発明の水性インキセットの構成が必要不可欠である。
【0027】
続いて以下に、本発明の水性インクセットを構成する各成分について、詳細を説明する。
【0028】
<前処理液(I)>
上記の通り、本発明では、前処理液(I)が、凝集剤(A)を含む。
【0029】
<凝集剤(A)>
本発明の前処理液(I)に使用される凝集剤(A)は、水性インクジェットインキ中の成分を凝集及び/または増粘させ混色滲みや色ムラを抑え優れた印刷画質を得る目的で用いられる。前記凝集剤(A)としては、金属塩、カチオン性高分子化合物、及び有機酸を挙げることができる。中でも、金属塩を使用することが好ましく、Ca2+、Mg2+、Zn2+、および、Al3+からなる群から選択される1種以上の多価金属イオンの塩を含むことが特に好ましい。なお、凝集剤として金属塩を使用する場合、その含有量は、前処理液全量に対し、2~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることが特に好ましい。
なお凝集剤は1種類のみ用いてもよく、また2種類以上の凝集剤を混合してもよい。
【0030】
凝集剤(A)としてカチオン性高分子化合物を含む場合、インキ中の顔料の分散機能を低下させ、かつ、好適な溶解性、及び、前処理液中での拡散性を有するものであれば、任意に用いることができる。また、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カチオン性高分子化合物に含まれるカチオン基の例として、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、イミノ基、ヒドラジノ基、-NHCONH2基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の中でも、カチオン性高分子化合物が、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、エピハロヒドリン構造単位から選択される1種類以上の構造単位を含む化合物であることが好ましく、少なくともジアリルアンモニウム構造単位を含むことがより好ましい。カチオン性高分子化合物の含有量は、前処理液全量に対し、1~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。
【0031】
本発明に使用される凝集剤(A)として有機酸を含む場合、カルボキシル基を有する化合物が好適である。具体的には、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等が挙げられる。有機酸の含有量は、前処理液全量に対し、1~12質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることが特に好ましい。
【0032】
前処理液(I)は、フィルム基材に対する密着性、及び、前処理液(I)により形成される前処理層(Ia)の強度の観点から、バインダー樹脂(ただし、上記カチオン性高分子化合物を除く)を含むことが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレタン(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)、ポリオレフィン系樹脂、スチレンブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらは1種類で用いてもよいし、2種類以上の樹脂を混合してもよい。また用いる樹脂の形態は、水溶性樹脂、並びに、非水溶性樹脂であるハイドロゾル、及び、エマルジョンのいずれであってもよい。なお本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを表す。
【0033】
本発明の前処理液(I)が樹脂を含む場合、その配合量は、フィルム基材への塗工性、接着力の観点から、前処理液(I)全量に対し、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本発明の前処理液(I)にはその他、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤などを適宜に添加することができる。
【0035】
<インクジェットインキ(II)>
次に、本発明を構成するインクジェットインキ(II)について説明する。前記インクジェットインキ(II)(以下、単に「水性インキ」「インキ」ともいう)は、顔料、顔料分散樹脂(B)、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含むことが好ましい。
【0036】
<顔料>
本発明のインクジェットインキ(II)に使用される顔料としては、無機顔料、及び有機顔料のいずれも使用でき、特に限定されない。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ぺリレン系、ぺリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリン系、キノフタロン系、アゾメチンアソゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。酸化チタンは、少なくともシリカまたはアルミナで表面被覆された酸化チタンが好ましい。なお、カラーインデックスに収載のC.I.ピグメントとして記載されている顔料を使用することができる。
【0037】
なお、白色顔料として、中空樹脂粒子を使用することも好適である。中空樹脂粒子は、酸化チタン等と比較して比重(見かけ密度)が小さく、経時における沈降を抑制しやすいため、保存安定性に優れたインキが得られる。
【0038】
これらの顔料は1種類、または2種類以上併用して用いることができる。上記顔料はホワイトインキの場合を除き、インキ全量に対して2質量%以上20質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、2.5質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下の範囲で含まれることが特に好ましい。また、ホワイトインキの場合、顔料の含有量は、ホワイトインキ全量に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、8質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有率を2質量%以上(ホワイトインキの場合は5質量%以上)にすることで、1パス印刷であっても十分な発色性(ホワイトインキの場合は隠蔽性)を得ることができる。また、顔料の含有率を20質量%以下(ホワイトインキの場合は40質量%以下)とすることで、インキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができる。
【0039】
<顔料分散樹脂(B)>
顔料を水性インキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じて更に別の顔料分散樹脂や界面活性剤を用いてインキ中に分散させる方法などを挙げることができる。
【0040】
本発明で用いられる水性インキでは、上記のうち(1)または(4)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が好ましく選択される。また、前記顔料分散樹脂(B)が、構成単位として、アニオン基を含むエチレン性不飽和単量体由来の構造を含むことが好ましく、水及び水溶性有機溶剤に対する溶解性が確保できることに加え、前記凝集剤により瞬時に凝集及び/または増粘し、混色滲みや色ムラを低減し印刷画質を特段に向上させることができる。更には、顔料の分散状態が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。また、上記効果がより好適に発現することから、顔料分散樹脂(B)の酸価は、30~375mgKOH/gが好ましく、より好ましくは65~350mgKOH/gであり、更に好ましくは100~300mgKOH/gである。
【0041】
上記顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、(無水)マレイン酸系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などを使用することができる。中でも、材料選択性の多さや合成の容易さの点で、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂を使用することが特に好ましい。また上記の顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。なお本発明において「(無水)マレイン酸」とは、マレイン酸または無水マレイン酸を表す。
【0042】
なお、顔料を水性インキ中で安定的に分散保持する方法として、顔料分散樹脂(B)に水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、前記顔料分散樹脂(B)中の酸基を塩基で中和することが好ましい。しかしながら過剰に塩基を投入してしまうと、前処理液(I)中の凝集剤(A)が中和されてしまい、十分な効果を発揮することができないため、その添加量には注意を払う必要がある。前処理液(I)の機能を十分に発現させるために、インクジェットインキ(II)のpHが7~11であることが好ましく、7.5~10.5であることがより好ましい。
【0043】
上記の顔料分散樹脂(B)を中和するための塩基としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができる。
【0044】
また、顔料分散樹脂(B)の分子量は、重量平均分子量が1,000以上200,000以下の範囲内であることが好ましく、5,000以上100,000以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、また水性インキに適用した際の粘度調整などが行いやすい。
【0045】
本発明において、顔料分散樹脂(B)の配合量は、顔料に対して1~50質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂(B)の配合量を、顔料に対して1~50質量%とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、前記顔料分散液やインクジェットインキ(II)の粘度安定性・分散安定性が良化するとともに、前処理液と混合した際に速やかな分散機能の低下を引き起こすことができるため好ましい。顔料に対する顔料分散樹脂(B)の配合量としてより好ましくは2~45質量%、更に好ましくは3~40質量%であり、最も好ましくは4~35質量%である。
【0046】
本発明で用いられる顔料分散樹脂(B)は、構成単位として、アニオン基を含むエチレン性不飽和単量体由来の構造を含む場合、「アニオン基」としては、カルボン酸(カルボキシル)基、スルホン酸基、ホスホン酸基等があり、本発明ではいずれを選択してもよい。中でも、水及び水溶性有機溶剤に対する溶解性が確保でき分散安定性に優れることに加え、前記凝集剤により瞬時に凝集及び/または増粘し、混色滲みや色ムラを低減し印刷画質を特段に向上させることができる観点から、カルボキシル基を選択することが好ましい。
【0047】
アニオン基を含むエチレン性不飽和単量体としては、公知の物を使用することができる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシイソ酪酸、メタクリロイルオキシイソ酪酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルホスホン酸、メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、スチレンカルボン酸、スチレンスルホン酸、スチレンホスホン酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらのアニオン基を含むエチレン性不飽和単量体(b1)は、単独、あるいは複数使用可能である。なお本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を表す。
【0048】
<水溶性有機溶剤>
水溶性有機溶剤としては、特に限定されるものでなく、既知のものを任意に用いることができるが、顔料分散樹脂(B)や、必要に応じて添加されるバインダー樹脂、界面活性剤等の材料成分との相溶性・親和性の観点から、グリコールエーテル系溶剤及び/またはアルキルポリオール系溶剤を含有することが好ましい。アルキルポリオール系溶剤としては、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどを挙げることができる。グリコールエーテル系溶剤としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、などのグリコールジアルキルエーテル類などを挙げることができる。
【0049】
これらの水溶性有機溶剤は1種類、または2種類以上併用して用いることができる。上記水溶性有機溶剤は、インキ全量に対して3質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上35質量%であることがより好ましく、8質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の総量を3質量%以上にすることでインキの保湿性、吐出安定性、印刷基材上での水性インキの濡れ性が良好となる。また水溶性有機溶剤の含有量の合計を40質量%以下にすることで、乾燥性及び混色滲みが良好となり、かつ、耐ブロッキング性が良好な印刷物が得られる。
【0050】
<界面活性剤>
本発明で用いられる水性インクジェットインキ(II)は、その表面張力を調整し、フィルム基材及び前処理層(Ia)上の濡れ性を確保し、印刷画質を向上させる目的で、界面活性剤を使用することが好ましい。一方で、表面張力が低すぎると、インクジェットヘッドのノズル面が水性インキで濡れてしまい、吐出安定性を損なうことから、界面活性剤の種類と量の選択は重要である。最適な濡れ性の確保と、インクジェットヘッドからの安定吐出の実現という観点から、シロキサン系、アセチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系等の界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系及び/またはアセチレン系界面活性剤を使用することが特に好ましい。界面活性剤の添加量としては、水性インクジェットインキ(II)全量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。0.05質量%以上とすることで界面活性剤の機能を十分に発揮することができ、また、5.0質量%以下とすることで、水性インキの保存安定性及び吐出安定性を好適なレベルに維持できる。
【0051】
<その他の成分>
本発明のインクジェットインキ(II)にはその他、バインダー樹脂、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤などを適宜に添加することができる。
【0052】
<オーバーコート液(III)>
次に、本発明を構成するオーバーコート液(III)について説明する。前記オーバーコート液(III)は、コアシェル型樹脂エマルジョン(C)を含んでいる。
【0053】
<コアシェル型樹脂エマルジョン(C)>
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)は、ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体の存在下、ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる、シリコーングラフトアクリル共重合体からなるコアを持つ樹脂である。
本発明のオーバーコート液(III)に使用されるコアシェル型樹脂エマルジョン(C)は、グラフトされたポリジメチルシロキサン構造による高い撥水性とスリップ性を塗膜表面に付与することで優れた耐水擦過性を得ることができる。
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)に使用される、ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体からなるシェル部には、コア部に使用するモノマーを共重合させる高分子界面活性剤の役割がある。そのため適度な親水性を有するアニオン基を含むエチレン性不飽和単量体と、適度な疎水性を有する芳香族エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を使用することが好ましい。
【0054】
前記芳香族エチレン性不飽和単量体としては、公知の物を使用することができる。具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0055】
前記アニオン基を含むエチレン性不飽和単量体としては、公知の物を使用することができる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシイソ酪酸、メタクリロイルオキシイソ酪酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルホスホン酸、メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、スチレンカルボン酸、スチレンスルホン酸、スチレンホスホン酸等が挙げられる。これらのアニオン基を含むエチレン性不飽和単量体は、単独、あるいは複数使用可能である。
【0056】
前記ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体の合成には、さらに他のエチレン性不飽和単量体を使用できる。
【0057】
前記他のエチレン性不飽和単量体としては、公知の物を使用することができる。具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0058】
前記ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体は、エチレン性不飽和単量体100質量%中、芳香族エチレン性不飽和単量体を10質量%~70質量%、アニオン基を含むエチレン性不飽和単量体(b1)を3質量%~40質量%を含むエチレン性不飽和単量体を共重合することが好ましい。エチレン性不飽和単量体をこれらの範囲で使用することで、より前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)との接着力を向上できる。
【0059】
前記ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体の合成には、公知の重合開始剤を使用できる。重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.1~10質量部を使用することが好ましい。なお塊状重合で合成する場合、反応温度を高温にすると重合開始剤を使用せずに共重合ができる場合がある。
【0060】
前記重合開始剤は、有機過酸化物およびアゾ化合物が好ましい。前記有機過酸化物は、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。前記アゾ化合物は、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリルド等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0061】
前記ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体は、重量平均分子量5000~30000が好ましく、7000~20000がより好ましい。重量平均分子量が5000~30000の範囲にあることで、より前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)と、オーバーコート層(IIIa)の接着力を向上できる。更には、コア部の共重合性を向上できる。なお、重量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0062】
また、前記ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体は、市販品は、例えば、BASF社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYLHPD-96J、JONCRYL501J、JONCRYLPDX-6102B、ビックケミー社製DISPERBYK、DISPERBYK180、DISPERBYK187、DISPERBYK190、DISPERBYK191、DISPERBYK194、DISPERBYK2010、DISPERBYK2015、DISPERBYK2090、DISPERBYK2091、DISPERBYK2095、DISPERBYK2155、ゼネカ社製SOLSPERS41000、サートマー社製、SMA1000H、SMA1440H、SMA2000H、SMA3000H、SMA17352H等が挙げられる。
【0063】
<ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)>
本発明に使用されるポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)としては、下記一般式(1)で表されるものを挙げることができる。
一般式(1)
【化1】
【0064】
上記一般式(1)中Xはラジカル重合性基を表す。ラジカル重合性基としては、例えば、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、スチリル基、アリル基、ビニルベンジル基、ビニルエーテル基、アクリルアミド基、ビニルアルキルシリル基又はビニルケトン基等を挙げることができる。
【0065】
上記式(1)中R1は、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、好ましくは炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。R2は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。
【0066】
さらに、ジメチルシロキサン単位のくり返し数nは5~100であり、好ましくは10~65である。5未満では目的とする撥水性、スリップ性が発現し難く、100を超えると密着性や分散安定性が不足する。
【0067】
前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)の具体例としては、例えば、ジメチルポリシロキシプロピルアクリル酸エステル、ジメチルポリシロキシプロピルビニルベンジルエーテル、ジメチルポリシロキシプロピルアクリルアミド、又はジメチルポリシロキシプロピオン酸ビニルベンジレート等を挙げることができる。本発明では、これらのうち、(メタ)アクリレート系モノマーとの共重合性が良好な点でジメチルポリシロキシプロピルアクリル酸エステル、又はジメチルポリシロキシプロピルメタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0068】
また、前記ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)として、市販品は、例えば、信越化学工業社製X-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、JNC社製FM-0711、FM-0721等が挙げられる。
【0069】
前記シリコーングラフトアクリル共重合体からなるコアにはさらに、炭素数1~8のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体、芳香族エチレン性不飽和単量体を含むことが好ましく、前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)との接着力を向上できる。
【0070】
前記炭素数1~8のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体は、例えば、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0071】
芳香族エチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0072】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)のコアの合成には、さらに上記の他のエチレン性不飽和単量体を使用することで親水性・疎水性のバランスの調整、またはエマルジョンの安定性を向上させることができる。
【0073】
前記他のエチレン性不飽和単量体は、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらに中でも水酸基含有エチレン性不飽和単量体を使用するとコアシェル型エマルジョンの安定性をより向上できる。これらは1種類または2種以上を併用できる。
【0074】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の合成は、水溶性の重合開始剤の過硫酸塩、過酸化物、およびアゾ化合物を使用できる。具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなどが好ましい。前記水溶性の重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.1~10質量部を使用することが好ましい。
【0075】
また、水溶性の重合開始剤に還元剤を併用することで、重合速度を速めること、あるい
は低い反応温度で重合ができる。前記還元剤は、スコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性の無機化合物が挙げられる前記還元剤は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.05~5質量部使用することが好ましい。
【0076】
本発明ではコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の合成の際、ジメチルシロキサン構造を有さない共重合体からなるシェル部を中和して使用することできる。前記中和によりシェル部を水溶化できる。前記中和は、塩基性化合物を使用できる。
具体的には、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどのアミン類;
水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物塩;等が挙げられる。これらの中でも、塗工後の乾燥での除去が容易なアンモニアが好ましい。
【0077】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の合成に際して、緩衝剤および連鎖移動剤を適宜使用できる。前記緩衝剤は、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また、前記連鎖移動剤は、例えばオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタンが挙げられる。
【0078】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の酸価は10mgKOH/g以上、65mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以上、60mgKOH/g以下がより好ましい。前記アクリル樹脂エマルジョン(C)の酸価を上記範囲内にすることで、前処理層(Ia)に含まれる凝集剤(A)をよりトラップし、前処理層(Ia)への水の染み込みを防ぐことができる。一方、酸価が10mgKOH/g未満であると、凝集剤のトラップ機能が小さく塗膜の耐水性が低下してしまう。さらに、コアシェル型樹脂エマルジョン自体の分散安定性が低く凝集物を生成する場合がある。また、酸価が65mgKOH/gを超えると、凝集剤による凝集、増粘速度が速すぎるため、オーバーコート液(III)のレベリング性が低くなり塗工ムラが発生する。さらに、得られる塗膜の耐水性も低下してしまう。
【0079】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)は、コアとシェルとの質量比が60/40~90/10であり、65/35~85/15が好ましい。上記範囲内にすることで、乳化重合が容易になり、均一なエマルジョンを得ることができることに加え、良好な保存安定性が得られる。さらに、より前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)との密着性を向上できる。
【0080】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の全質量に対して、ポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)由来の構成単位の質量比は5~20質量%が好ましい。5未満では目的とする撥水性、スリップ性が発現し難く、20を超えると密着性や分散安定性が不足するおそれがある。
【0081】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)は、重量平均分子量が200000~1000000が好ましく、300000~600000がより好ましい。重量平均分子量が200000~1000000の範囲にあることで、より前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)との接着力を向上できる。
【0082】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)の含有量は、オーバーコート液(III)全量に対し、5質量%以上40質量%以下の範囲であり、より好ましくは10質量%以上35質量%以下の範囲であり、特に好ましくは15質量%以上30質量%以下の範囲である。前記アクリル樹脂エマルジョン(C)の含有量を上記範囲内にすることで、より前処理層(Ia)と、インキ層(IIa)との接着力を向上できる。
【0083】
本発明のコアシェル型樹脂エマルジョン(C)のポリジメチルシロキサン構造を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含むシリコーングラフトアクリル共重合体からなるコアには架橋性エチレン性不飽和単量体を共重合することができる。
具体的には、例えば、アリル(メタ)アクリレート、1-メチルアリル(メタ)アクリレート、2-メチルアリル(メタ)アクリレート、1-ブテニル(メタ)アクリレート、2-ブテニル(メタ)アクリレート、3-ブテニル(メタ)アクリレート、1,3-メチル-3-ブテニル(メタ)アクリレート、2-クロルアリル(メタ)アクリレート、3-クロルアリル(メタ)アクリレート、o-アリルフェニル(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;
等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用できる。
【0084】
これら架橋性エチレン性不飽和単量体由来の構成単位の含有量は、シリコーングラフトアクリル共重合体からなるコア100質量部に対し0.1~2質量%の範囲であり、より好ましくは0.5~1質量%である。含有量を上記範囲にすることで耐水性、耐アルコール性がより向上する。
【0085】
また、前記オーバーコート液(III)は、基材への密着性向上や、樹脂の常温架橋(ケト基含有の場合)等の目的で、ヒドラジド系添加剤を使用する事ができる。ヒドラジド系添加剤としては、例えば、アジピン酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0086】
<その他の成分>
本発明のオーバーコート液(III)にはその他、水溶性有機溶剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、ワックス、防腐剤などを適宜に添加することができる。
【0087】
本発明の水性インキセットは、軟包装用水性インクジェットインキ印刷物の製造に好適に使用でき、これにより印刷物を得ることができる。例えば、記録媒体に、前処理液(I)を付与する工程と、前処理液(I)を付与した部分に、インクジェットインキ(II)を付与する工程と、オーバーコート液(III)を付与する工程を含む製造方法が挙げられる。インクジェットインキ(II)を付与する工程としては1パス印刷方式が挙げられる。
【0088】
記録媒体としては特に限定されないが、軟包装パッケージに用いられる基材を使用できる。例えば、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような非浸透性の基材が挙げられる。
【0089】
前処理液(I)、オーバーコート液(III)の塗工は、特に限定されず、公知の塗工方法を使用できるが、フレキソ方式およびグラビア方式が好ましい。フレキソ方式とは塗料をアニロックスロールと呼ばれる凹版から一旦樹脂版またはゴム版に転移させ、その樹脂版またはゴム版上のコート剤を原反に転移させる方式である。樹脂版またはゴム版をパターニングすることも可能である。グラビア方式は凹版から直接原反にコート剤を転移させる方式と、凹版から一旦平版に転移させた後原反に転移させる所謂グラビアオフセット方式を含む。凹版をパターニングすることも可能である。グラビア方式の場合は塗工後にスムージングロールによるプレス処理をすることが好ましい。
【実施例0090】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態である水性インキセットについて、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0091】
(酸価)
樹脂固形分1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であ
り、乾燥させた樹脂について、JISK2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム
・エタノール溶液で電位差滴定により算出した。
【0092】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算値であり、樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液に調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム;TSKgel-SuperMultiporeHZ-M分子量測定範囲約2000~約2000000)により重量平均分子量を測定した。
【0093】
(平均粒子径)
マイクロトラック・ベル社製 ナノトラックUPA150を用いて、動的光散乱法による粒子分布測定法で測定し、D50の値を平均粒子径とした。
【0094】
<前処理液1の製造例>
下記材料を、攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)にて1時間混合したのち、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過を行い、前処理液1を得た。
(酢酸カルシウムを凝集剤(A)として使用)
スーパークロンE480T(固形分30%) 16.7部
酢酸カルシウム 5.0部
サーフィノール465 1.0部
プロキセルGXL 0.1部
2-プロパノール 5.0部
イオン交換水 72.3部
・酢酸カルシウム;キシダ化学社製
・スーパークロンE480T;日本製紙社製水系塩素化ポリオレフィン
・サーフィノール465;エアープロダクツ社製アセチレンジオール系界面活性剤
・プロキセルGXL;アーチケミカルズ社製防腐剤
【0095】
<水性インクジェットインキの製造>
<顔料分散樹脂(B)の合成例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール95部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン35部、アクリル酸35部、ベへニルアクリレート30部、及び重合開始剤であるV-601(富士フイルム和光純薬社製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、更に110℃で3時間反応させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを添加して完全に中和したのち、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分濃度が30%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分濃度30%の水性化溶液を得た。顔料分散樹脂の重量平均分子量は28,000、酸価は、273mgKOH/gであった。
【0096】
<顔料分散液(C、M、Y、K)の製造例>
トーヨーカラー社製Lionol Blue 7358G(C.I.PIgment Blue 15:4)を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分濃度30%)を15部、水65部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、顔料分散液C(シアン)を得た。また、上記C.I.PIgment Blue 15:3を、以下に示す顔料にそれぞれ置き換えた以外は顔料分散液Cと同様にして、顔料分散液M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)を得た。
・Magenta:DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RGT
(C.I.PIgment Red 122)
・Yellow:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT-1405G
(C.I.PIgment Yellow 14)
・Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製Printex85
(C.I.PIgment Black 7)
【0097】
<顔料分散液Wの製造例>
石原産業社製CR-90-2(酸化チタン)を40部、顔料分散樹脂の水性化溶液(固形分濃度30%)を30部、水30部を混合し、顔料分散液Cと同様の方法にて分散を行い、顔料分散液Wを得た。
【0098】
<バインダー樹脂1の合成例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン30部、メタクリル酸5部、メタクリル酸メチル50部、ラウリルメタクリレート15部及び重合開始剤であるV-601(富士フイルム和光純薬社製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、更に110℃で3時間反応させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が30%になるように調整した。これより、バインダー樹脂1の固形分30%の水性化溶液を得た。バインダー樹脂の重量平均分子量は18,000であった。またバインダー樹脂1の酸価は32mg/KOHであった。
【0099】
<インクジェットインキの製造例>
下記インクジェットインキC記載の材料をディスパーで攪拌を行いながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行いインキCを得た。また顔料分散液Cの代わりに、顔料分散液M、Y、Kをそれぞれ使用することにより、インキM、インキY、インキKを得た。また、下記インクジェットインキW記載の材料からインキWを得た。合わせて5色からなる各インクジェットインキを得た。
インクジェットインキC
顔料分散液C 25.0部
バインダー樹脂1(固形分濃度30%) 25.0部
1,2-プロパンジオール 20.0部
サーフィノール 465 1.0部
BYK-349 1.0部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 27.95部
インクジェットインキW
顔料分散液W 40.0部
バインダー樹脂1(固形分濃度30%) 25.0部
1,2-プロパンジオール 20.0部
サーフィノール 465 1.0部
BYK-349 1.0部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 12.95部
・BYK-349:ビッグケミー・ジャパン社製シロキサン系界面活性剤
・サーフィノール465:エアープロダクツ社製アセチレンジオール系界面活性剤
【0100】
<シェルポリマー1の合成例>
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール60.7部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度80℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートを準備し、一方に、スチレン30.0部、メタクリル酸メチル39.0部、ブチルアクリレート7.0部、アクリル酸24.0部を仕込み3時間かけて滴下した。他方にはジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート10.0部をイソプロピルアルコール6.0部に溶解させて仕込み、4時間かけて滴下した。滴下完了後、還流温度で10時間反応を継続した後反応を終了した。更に、室温まで冷却した後、濃度25%のアンモニア水を添加して完全に中和したのち、水を150部添加し、水性化した。その後、100℃に加熱し、イソプロピルアルコールを水と共沸させてイソプロピルアルコールを留去し、固形分濃度が30%になるように調整した。これより、固形分濃度30%の水溶性高分子化合物であるシェルポリマー1を得た。シェルポリマー1の重量平均分子量は9000、酸価は187mgKOH/gであった。
【0101】
<シェルポリマー2~7の合成例>
表1に示す原料および配合比に変更した以外は、シェルポリマー1と同様に反応することでシェルポリマー2~7を得た。
【0102】
【0103】
<コアシェル型樹脂エマルジョン1の合成例>
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、シェルポリマー1 142.9部、イオン交換水50.0部を仕込み、窒素還流下で温度80℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートを準備し、一方に、スチレン29.0部、メタクリル酸メチル19.0部、ブチルアクリレート38.0部、X-22-174BX14.0部を仕込み2時間かけて滴下した。他方には、濃度20%の過硫酸アンモニウム水溶液5.0部を仕込み2時間かけて滴下した。滴下完了後、80℃で2時間反応を継続した後反応を終了した。次いでイオン交換水で溶液の不揮発分を40%に調整することでコアシェル型樹脂エマルジョン1を得た。コアシェル型樹脂エマルジョン1の重量平均分子量は530000、酸価は56mgKOH/gであった。
【0104】
<コアシェル型樹脂エマルジョン2~14の合成例>
表2に示す原料および配合比に変更した以外はコアシェル型樹脂エマルジョン1と同様に反応することでコアシェル型樹脂エマルジョン2~14を得た。
・St:スチレン
・MMA:メタクリル酸メチル
・BA:ブチルアクリレート
・X-22-174BX:信越化学工業社製 ジメチルシロキサン単位30
・X-22-174ASX:信越化学工業社製 ジメチルシロキサン単位10
・KF-2012:信越化学工業社製 ジメチルシロキサン単位60
・X-22-2404:信越化学工業社製 ジメチルシロキサン単位3
・X-22-2426:信越化学工業社製 ジメチルシロキサン単位160
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
【0105】
【0106】
<オーバーコート液1の製造例>
下記記載の材料をディスパーで攪拌を行いながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径50μmの濾布濾過を行った。
コアシェル型樹脂エマルジョン1(固形分濃度30%) 83.0部
1,2-プロパンジオール 7.0部
サーフィノール 465 1.0部
BYK-349 1.0部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 7.95部
【0107】
<オーバーコート液2~14の製造例>
表3記載の材料を使用する以外はオーバーコート液1と同様の方法により、オーバーコート液2~14を得た。
【0108】
【0109】
<印刷物および評価用塗工物の作製例>
得られた前処理液とインクジェットインキとオーバーコート液を用いて、印刷物および評価用塗工物の作製を次のように行った。
【0110】
松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーを用いて、調整した前処理液(I)をフィルム基材に塗布量が40g/m2となるよう塗工し、70℃のエアオーブンにて3分間の乾燥を行って塗工物を得た。なお、フィルム基材としてフラムラ製OPPフィルム(FOR-AQ、厚さ12μm)を用いた。
【0111】
次に、印刷基材を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B-1200(京セラ社製、解像度1200dpI、最大駆動周波数64kHz)を設置し、上記で作製したインクジェットインキ(II)を上流側から、W(ホワイト)、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の順番に充填した。次いで、前記コンベア上に、上記で作製した、前処理液(I)を塗工物の塗工面を上にして固定したのち、前記コンベヤを50m/分で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、インクジェットインキ(II)を吐出し、印刷を行った。なお印刷時のドロップボリュームは、1.5pL~5pLの範囲で、所望の層の厚さとなるように調整した。そして、速やかに、前記印刷物を70℃のエアオーブンに投入し3分間の乾燥を行って印刷物を得た。
【0112】
次に、得られた印刷物の印刷面上に、松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーを用いて、調整したオーバーコート液(III)を塗工量が60g/m2となるよう塗工し、70℃のエアオーブンにて3分間の乾燥を行って評価用塗工物を得た。
【0113】
各評価用塗工物の作製に用いた、前処理液(I)、インクジェットインキ(II)、オーバーコート液(III)の組合せは、表4に示した通りである。
【0114】
[実施例1~8、比較例1~6]
上記で製造した各評価用塗工物について、以下に示す評価1~7を行った。
【0115】
<評価1:塗工性の評価>
得られた塗工物について、オーバーコート液(III)の塗工ムラの程度を目視で観察することで、塗工性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:目視で塗工ムラが見られなかった
〇:目視で僅かな塗工ムラが見られた
×:目視で明らかな塗工ムラが見られた
【0116】
<評価2:保存安定性の評価>
オーバーコート液(III)について、70℃、6週間の条件下で、粘度の経時変化により液保存安定性の評価を行った。粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製AR-2000)を使用して測定した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:オーバーコート液の粘度変化が±3%未満である
○:オーバーコート液の粘度変化が±3%以上、±5%未満である
△:オーバーコート液の粘度変化が±5%以上、±10%未満である
×:オーバーコート液の粘度変化が±10%以上である
【0117】
<評価3:密着性の評価>
得られた塗工物について、塗工面にニチバン社製セロハンテープ(幅18mm)を指の腹でしっかりと貼りつけた。そして、セロハンテープの先端を持ち、45度の角度を保ちながら瞬間的に引張り剥がした後、塗工層の剥がれた面積の割合から、密着性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。
◎:塗工皮膜の剥がれがない
〇:塗工皮膜の剥がれが10%未満である
△:塗工皮膜の剥がれが10%以上30%未満である
×:塗工皮膜の剥がれが30%以上である
【0118】
<評価4:耐水擦過性の評価>
得られた塗工物について、学振型摩擦堅牢度試験機を使用し、塗工面/含水カナキン3号にて500g/cm2、20回擦り、塗工層の剥がれた面積の割合から耐水擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:塗工皮膜の剥がれがない
〇:塗工皮膜の剥がれが10%未満である
△:塗工皮膜の剥がれが10%以上50%未満である
×:塗工皮膜の剥がれが50%以上である
【0119】
<評価5:耐擦過性の評価>
得られた塗工物について、学振型摩擦堅牢度試験機を使用し、塗工面/カナキン3号にて500g/cm2、100回擦り、塗工層の剥がれた面積の割合から耐擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:塗工皮膜の剥がれがない
〇:塗工皮膜の剥がれが10%未満である
△:塗工皮膜の剥がれが10%以上50%未満である
×:塗工皮膜の剥がれが50%以上である
【0120】
<評価6:耐アルコール性の評価>
得られた塗工物について、塗工面上で水/エタノール混合溶剤(重量比:50/50)を綿棒に浸したものを10往復程ラビングした。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:塗工皮膜に侵食が無く、綿棒にインキが付着していない
○:塗工皮膜僅かな侵食が有るが、綿棒にインキが付着していない
△:塗工皮膜に侵食が有り、綿棒にインキは付着するが、基材表面は見えない
×:綿棒にインキが付着し、基材表面も見える
【0121】
<評価7:光沢>
得られた塗工物について、光沢計(BYK Gardner社製 Micro-TRI-gloss)にて60°光沢を測定した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用可能領域とした。結果は表4に記載した。
◎:光沢80以上である
○:光沢65以上、80未満である
△:光沢50以上、65未満である
×:光沢50未満である
【0122】