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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085962
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】フッ素系溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20240620BHJP
   C11D 7/30 20060101ALI20240620BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C11D7/50
C11D7/30
C11D7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200766
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛徳
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 未希
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003DA05
4H003DA12
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB37
4H003ED13
4H003ED26
4H003FA04
4H003FA45
(57)【要約】
【課題】 優れた洗浄効果を有し、かつ安全性にも優れた新規な組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 トランスジクロロエチレン及びヘキサメチルジシロキサン、並びにデカフルオロペンタン、ヘプタフルオロシクロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、メトキシパーフルオロヘプテン、及びテトラデカフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種を含む組成物、およびこれを用いて物品を洗浄する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)トランスジクロロエチレン、(b)ヘキサメチルジシロキサン、並びに(c)デカフルオロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、メトキシパーフルオロヘプテン、及びパーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種のフッ素系溶媒を含む組成物。
【請求項2】
(a)トランスジクロロエチレンが、(E)-1,2-ジクロロエチレンである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(c)フッ素系溶媒がデカフルオロペンタンであり、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタンである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(c)フッ素系溶媒がヘキサフルオロ-2-ブテンであり、Z-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、E-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(c)フッ素系溶媒がメトキシパーフルオロヘプテンであり、(Z)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、(E)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、あるいはこれらの混合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
(c)フッ素系溶媒がパーフルオロヘプテンであり、2-パーフルオロヘプテン、3-パーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物にシリコーンオイルを溶解したコーティング用組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物からなる、シリコーンオイル除去用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジクロロエチレン、ヘキサメチルジシロキサン、並びにデカフルオロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、メトキシパーフルオロヘプテン及びテトラデカフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種を含む新たな溶剤組成物に関する。本発明の溶剤組成物は、特にシリコーンオイルの溶解性に富むものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスやエラストマーからなる医療用機器類/部材の表面にシリコーン(ポリアルキルシロキサン)、特に、ポリメチルシロキサンのような常温で液状のシリコーンオイルをコーティングし、該機器類/部材の摺動性や撥水撥油性能を向上させることが広く使用されている。
そのようなシリコーン、シリコーンオイルでのコーティングを行うに際して、それらを良好に溶解するための溶媒として、フッ素系溶媒、特に、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類が広く用いられている(特許文献1)。そのようなHCFC類の代表的なものとして、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC-225)などを挙げることができる。
しかしながら、これらのHCFC類はオゾン層破壊係数が高いため、オゾン層保護の観点から、先進国では2020年までに、また、途上国では2030年までに原則全廃することとなっている。
【0003】
そこで、HCFC類の代替物として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのようなハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)類や塩素系溶剤などが提案されている。しかしながら、HCFO類は、シリコーンオイルを良好に溶解するという目的を達成可能にするものであるが、エラストマー類へのダメージが大きい(すなわち、エラストマー類へのケミカルアタック性が強い)(特許文献2)ので、エラストマーを伴う部材をシリコーンコーティングする用途においては、必ずしもHCFC類の代替物にはなりえないものである。また、塩素系溶剤は、人の健康への影響(毒性)が広く知られているため、その取り扱いには困難さを伴っている(非特許文献1)。
さらに、HCFC類の代替品として、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロエーテル(HFE)類も開発されているが、シリコーンオイルを溶解する能力が極めて低いため、HCFC類の代替としてのそれらの使用は実質的に困難である。
【0004】
また、シリコーンやシリコーンオイルは、その撥水性や潤滑性という特性から、工業製品での潤滑剤や離型剤としても広く使用されている。潤滑剤や離型剤としてシリコーンやシリコーンオイルを用いた際には、該工業製品のメンテナンス時など、該工業製品の表面に残留したシリコーン、シリコーンオイルを除去、洗浄することが必要となる。
そのようなシリコーン、シリコーンオイルの除去、洗浄の目的で、HCFC類、塩素系溶剤、ジメチルシロキサン、臭素系溶剤等を使用することが知られている。HCFC類、塩素系溶剤の使用についての問題点は前記のとおりであり、また、ジメチルシロキサンは、引火点が低く引火の危険性が強く、使用時に注意が必要であるし、臭素系溶剤も塩素系溶剤と同様に毒性の点で問題がある。
ちなみに、引火点がなく、毒性が低く、さらにオゾン破壊係数がゼロで地球温暖化係数が低い溶剤として、パーフルオロヘプテン(PFH)が知られているが、シリコーンの溶解性が乏しいため、これをシリコーン、シリコーンオイルの除去、洗浄の目的で使用することができない。
【0005】
また、フッ素系溶剤と各種溶剤とからなる組成物(特許文献3~7)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/078350号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/082998号明細書
【特許文献3】特表2020-519710号公報
【特許文献4】特表平6-501949号公報
【特許文献5】特表2013-514444号公報
【特許文献6】特表2012-528922号公報
【特許文献7】特開2017-110035号公報
【特許文献8】特開2017-110035号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.jahcs.org/leaflet/Youzai_Ver.8.1.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する、広範囲の用途に利用できる新規な組成物を提供することを目的とし、特に、シリコーンコーティング工程での使用や、シリコーンの除去、洗浄に有用なフッ素系溶媒組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
具体的には、下記の態様を含むものである。
【0010】
[1](a)トランスジクロロエチレン、(b)ヘキサメチルジシロキサン、並びに(c)デカフルオロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、メトキシパーフルオロヘプテン、及びパーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種のフッ素系溶媒を含む組成物。
【0011】
[2](a)トランスジクロロエチレンが、(E)-1,2-ジクロロエチレンである[1]の組成物。
【0012】
[3](c)フッ素系溶媒がデカフルオロペンタンであり、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタンである[1]の組成物。
【0013】
[4](c)フッ素系溶媒がヘキサフルオロ-2-ブテンであり、Z-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、E-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンから選択される少なくとも1種である[1]の組成物。
【0014】
[5](c)フッ素系溶媒がメトキシパーフルオロヘプテンであり、(Z)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、(E)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、あるいはこれらの混合物である[1]の組成物。
【0015】
[6](c)フッ素系溶媒がパーフルオロヘプテンであり、2-パーフルオロヘプテン、3-パーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種である[1]の組成物。
【0016】
[7][1]の組成物にシリコーンオイルを溶解したコーティング用組成物。
【0017】
[8][1]の組成物からなる、シリコーンオイル除去用組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物は、オゾン層破壊係数(ODP)が0であり、地球温暖化係数(GWP)が約100以下、好ましくは50以下、より好ましくは10以下であり、地球環境に優しいものである。ここで、ODPおよびGWPは、世界気象機関の報告書である「Scientific Assessment of Ozone Depletion,2002」に定義されるものである。また本発明の組成物は、毒性が極めて低く(安全性が高く)、引火性が低く、かつ、ブチルゴム等のポリマーへの適合性に優れた(ポリマーアタック性が抑制された)組成物でもある。
そして、本発明の組成物は、シリコーン/シリコーンオイルの溶解度が高いため、医療用機器類/部材などへのシリコーン/シリコーンオイルのコーティング工程に使用することができ、また、シリコーン/シリコーンオイルの除去、洗浄に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、具体的には、
(a)(E)-1,2-ジクロロエチレンと、
(b)ヘキサメチルジシロキサンと、
(c)デカフルオロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、 メトキシパーフルオロヘプテン、及びパーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種のフッ素系溶媒と
からなる組成物に関するものである。
【0020】
本発明においては、トランスジクロロエチレン及びヘキサメチルジシロキサンの混合物に、引火の危険性を抑えるために、第三成分を添加することが好ましい。第三成分は、デカフルオロペンタン、ヘキサフルオロ-2-ブテン、メトキシパーフルオロヘプテン、及びパーフルオロヘプテンから選択される少なくとも1種で有ることが好ましい。
以下、各成分について説明する。
【0021】
(a)本発明において、ジクロロエチレンとしては1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、及びそれらの異性体が挙げられるが、塩素系の中において毒性が極めて低い(E)- 1 , 2-ジクロロエチレン(沸点48.7℃)であることが好ましい。
(E)-1,2-ジクロロエチレンは、トランス-1,2-ジクロロエチレン(t-DCE)ともよばれる、
【化1】
の構造を有する化合物である。他の塩素系溶剤の中間体や、樹脂・香料・染料の抽出溶剤、洗浄剤として使用されることが知られている。
本発明の組成物において、21%~57%含まれることが望ましい。より好ましくは28%~50%であり、さらに好ましくは、34%~43%である。57%を超えると部材へのアタックが強まるため好ましくなく、また、21%未満であると、シリコーンオイル溶解性の欠如のため好ましくない。
【0022】
(b)ヘキサメチルジシロキサン(1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシロキサン)(HMDS)は、
【化2】
の構造を有する、有機ケイ素化合物の一種である直鎖状シロキサンであって、その沸点が99~101℃である水に不溶で有機溶媒に可溶な揮発性の引火性の高い化合物である。ヘキサメチルジシロキサンの市販品としては、例えば、信越シリコーン(登録商標)KF-96L-0.65CS(信越化学工業株式会社製、沸点100℃)等を使用することができる。本発明の組成物において、0.1%~21%含まれることが望ましい。より好ましくは1.4%~14%であり、さらに好ましくは、1.4%~10%である。21%を超えると、引火性が高まるため、また乾燥性が悪化するため好ましくなく、また、0.1%未満であると、シリコーンオイルの溶解性の欠如のため好ましくない。
【0023】
(c)
(c)-1
デカフルオロペンタンは、C5210で示される化合物であって、他の溶剤と共に、電子機器・部品の洗浄剤や潤滑剤、添加剤として使用されることが知られている(特許文献3)。
デカフルオロペンタンには複数の構造異性体が存在するが、異性体を単品として使用してもよいし、それら異性体の混合物であってもよい。1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(CF3CHFCHFCF2CF3;HFC43-10mee)は、低毒性であり、また、オゾン破壊係数が0であり、沸点が約55℃で不燃性であるため、最も好ましい。これを単独で使用してもよいし、または、これと他のデカフルオロペンタン異性体との混合物を使用してもよい。
本発明の組成物において、デカフルオロペンタンは、40%~60%含まれることが望ましい。より好ましくは45%~55%である。60%を超えると、シリコーンオイル溶解性欠如のため好ましくなく、また、50%未満であると、引火性が高まる、部材へのダメージが大きくなるため好ましくない。
【0024】
(c)-2
ヘキサフルオロ-2-ブテンは、ハイドロフルオロオレフィン化合物(炭素原子、水素原子及びフッ素原子を含み、分子内に二重結合を有する化合物)である。好ましい化合物は、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzzZ)、trans-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzzE)から選択される少なくとも1種である。より好ましい化合物は、HFO-1336mzzZである。市販品としては、「オプテオン(登録商標)SF33」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ 株式会社製)等を例示することができる。
オプテオンSF33のオゾン破壊係数は0であり、地球温暖化係数は2である。本成分の使用によって、本発明の組成物の引火性を低くすることができる。(この点については、後記する実施例4と比較例6との対比から、読み取ることができる。)そして該成分が低沸点であるため、本発明の組成物をリサイクルすることもできる。
本発明の組成物において、ヘキサフルオロ-2-ブテンは、40%~60%含まれることが望ましい。より好ましくは45%~55%である。60%を超えるとシリコーンオイルの溶解性欠如のため好ましくなく、また、45%未満であると、引火性が高まることが懸念され、また、部材へのダメージのため好ましくない。
【0025】
(c)-3
メトキシパーフルオロヘプテンとして、以下の構造のものを使用することができる。
(1)CF3(CF22CF=CFCF(OCH3)CF3
(2)CF3CF2CF=CF(CF2)2(OCH3)CF3
(3)CF3CF2CF=CFCF(OCH3)CF2CF3
(4)CF3CF=CFCF(OCH3)(CF2)2CF3
(5)CF3CF=CFCF2CF(OCH3)CF2CF3
(6)CF3CF2CF=C(OCH3)(CF22CF3
(7)CF3CF2C(OCH3)=CFCF2CF2CF3
【0026】
上記のそれぞれには、E体、Z体の異性体が含まれるが、単一の異性体を使用してもよいし、異性体の混合物を使用してもよい。メトキシパーフルオロヘプテンとしてより好ましい化合物は、上記の(6)で示される、(Z)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、(E)-1,1,1,2,2,3,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロ-4-メトキシヘプト-3-エン、あるいはこれらの混合物である。市販品としては、「オプテオン(登録商標)SF10」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製)等が挙げられる。「オプテオン(登録商標)SF10」のオゾン破壊係数は0、地球温暖化係数は10未満である。
メトキシパーフルオロヘプテンとして、不燃性の高いものを選択することが望ましい。
メトキシパーフルオロヘプテンは、例えば特表2012-518010号公報に記載されている方法により、製造することができる。
本発明の組成物において、メトキシパーフルオロヘプテンは、40%~60%含まれることが望ましい。より好ましくは45%~55%である。60%を超えると、シリコーンオイルの溶解性欠如のため好ましくなく、また、45%未満であると、引火性が高まることが懸念され、また、部材へのダメージのため好ましくない。
【0027】
(c)-4
パーフルオロヘプテン(PFH)は、C714で示される化合物である。本発明で使用するPFHに特に制限はなく、いかなる構造異性体、立体異性体も使用することができるし、また、単一の異性体でも、それら異性体の混合物であってもよい。好ましくは、1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-3-ヘプテン(パーフルオロ-3-ヘプテン)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-2-ヘプテン(パーフルオロ-2-ヘプテン)、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である。より好ましくは、(Z)-パーフルオロ-3-ヘプテン、(E)-パーフルオロ-3-ヘプテン、あるいはそれらを含む混合物である。特に(Z)-パーフルオロ-3-ヘプテン、あるいはそれを含む混合物が好ましい。市販品としては、「オプテオン(登録商標)SF70」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製)等が挙げられる。
本発明の組成物において、パーフルオロヘプテンは、10%~30%含まれることが望ましい。より好ましくは15%~25%である。30%を超えると、シリコーン溶解性欠如のため好ましくなく、また、10%未満であると、引火性が高まることが懸念されるため好ましくない。
【0028】
本発明の組成物はまた、(a)~(c)の各成分に加えて、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて、アルコ-ル類、ケトン類、エ-テル類、エステル類、炭化水素類、アミン類、グリコ-ルエ-テル類、シロキサン類などの他の成分を含んでもよい。
【0029】
本発明の組成物は、必要に応じて安定化剤として、ニトロアルカン類、エポキシド類、フラン類、ベンゾトリアゾ-ル類、フェノ-ル類、アミン類またはホスフェイト類を1種またはそれ以上含んでもよく、その配合量は、組成物に対して0.01~5.00質量%、好ましくは0.05~0.50質量%である。
【0030】
本発明の組成物をコーティング用途に用いる場合、医療用機器類/部材に対するシリコ
ーン/シリコーンオイルでのコーティングに適している。コーティングされる基材としては、医療用機器類/部材などに用いられるブチルゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、EPDMゴム等のポリマーあるいはステンレススチールなどの金属が挙げられる。本発明の組成物は、シリコーン/シリコーンオイルの溶解性に優れているため、特にブチルゴムを含む医療用機器類/部材に対するシリコーン/シリコーンオイルでのコーティングに適している。ブチルゴムは耐薬品性が高いことから、医薬栓や耐薬品性の必要な部分のシール材等に使われている。
シリコーンとしては、室温(25℃)で液体であるポリオルガノシロキサンが挙げられる。ポリオルガノシロキサンとしては、下記化学式で表される直鎖状ポリオルガノシロキサン、
【化3】
(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の有機基、SH基、水酸基または水素原子を表し、nは、1≦n≦1000000の範囲の整数である。)、或いはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン等の環状ポリオルガノシロキサンが挙げられる。
シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイル、並びに反応性シリコーンオイル及び非反応性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイル、あるいはこれらの混合物が挙げられる。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、及び環状ジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。
反応性シリコーンオイルとしては、両末端基型(アミノ変性、エポキシ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、ポリエーテル変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、シラノール変性、アクリル変性、カルボン酸無水物変性等)、側鎖型(アミノ変性、エポキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、メチルハイドロジェン変性等)、片末端基型(エポキシ変性、カルビノール変性、ジオール変性、メタクリル変性、カルボキシル変性等)、及び側鎖両末端型(側鎖アミノ・両末端メトキシ変性、エポキシ変性等)等の反応性シリコーンオイルが挙げられる。
非反応性シリコーンオイルとしては、側鎖型(ポリエーテル変性、アラルキル変性、フロロアルキル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級脂肪酸アミド変性、フェニル変性等)、及び両末端型(ポリエーテル変性等)等の非反応性シリコーンオイルが挙げれれる。
シリコーンオイルはストレートシリコーンオイルが好ましく、より好ましくはジメチルシリコーンオイルである。耐熱性、溶解性、成膜性の観点からストレートシリコーンオイルと他のシリコーンオイルを混合して用いることが望ましい。
【0031】
本発明の組成物は洗浄用途に用いることもできる。その場合、被洗浄物としては、シリコーン/シリコーンオイル、微粒子などの異物等が挙げられる。特にシリコーン/シリコーンオイルの除去、洗浄に適している。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例0032】
実施例、比較例で使用した化合物は、以下のとおりである。
・(E)―1,2-ジクロロエチレン:東京化成工業株式会社製、沸点48℃。

・ヘキサメチルジシロキサン:信越工業株式会社製、信越シリコーン(登録商標)、KF-96L-0.65CS、沸点100℃。

・1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン:三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、バートレル(登録商標)XF、沸点55℃。

・(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン:三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、オプテオン(登録商標)SF33、沸点33℃。

・メトキシトリデカフルオロヘプテン:三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、オプテオン(登録商標)SF10、沸点110℃。

・テトラデカフルオロヘプテン:三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、オプテオン(登録商標)SF70、沸点71.5℃。

・(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン:AGC株式会社製、AMOLEA(登録商標)AS―300、沸点54℃、引火点無し。

・(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン:セントラル硝子株式会社製、CELEFIN(登録商標)1233Z、沸点39℃、引火点無し。
【0033】
各化合物の名称の略称は、以下の表1のとおりである。
【0034】
【表1】
【0035】
[シリコーンオイル溶解性]
シリコーンオイルとして、シリコーン溶液(50質量%シリコーンNA98、40質量%トルエン、10質量%イソプロピルアルコールの混合溶液)と信越シリコーン(登録商標)オイル KF-96-100cs(信越工業株式会社製、粘度100cSt)とを2:1で混合したものを調製し、該オイル1.2gを試験溶剤10mlに混合した。これを2週間室温で静置後、外観検査を行い、均一溶液を維持しているものを溶解性あり(○)と判断した。
【0036】
[ブチルゴムダメージ性]
ブチルゴムの試験片(アズワン株式会社製、バイアル瓶用ゴム栓、型番;スタンダード、直径約14mmΦ)を試験溶剤(150g)に室温で1分浸漬し、105℃で2時間乾燥した。ブチルゴムの試験片の試験前後での重量変化を測定し、重量変化が0.2%以内のものをブチルゴムダメージなし(○)と判断した。
【0037】
[引火性]
クリーブランド開放式カップに溶剤を標線まで入れ、着火源を近づけて火炎伝播の有無を観察した。火炎伝播無しの場合に引火性無し(○)とし、火炎伝播ありの場合に引火性有り(×)とした。
【0038】
[実施例1~6、比較例1~8]
上記化合物を表2に記載の容積比で用いた各種組成物を調製し、そのシリコーンオイル溶解性、ブチルゴムダメージ性、引火性を求めた。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(a)、(b)、(c)のいずれも含む実施例1~6の溶剤組成物は、シリコーンオイ
ル溶解性、ブチルゴムダメージ性、引火性の評価が○であり、引火性の問題なく、医療用機器類/部材などへのシリコーン/シリコーンオイルのコーティング工程に使用することができ、また、シリコーン/シリコーンオイルの除去、洗浄に使用することができることを確認できた。
これに対して、(a)と(b)とだけを含む比較例6、8の溶剤組成物は、引火性に劣るものであった。さらに、(a)と(c)とだけを含む(すなわち、(b)を含まない)比較例1~3、7では、シリコーンオイル溶解性および/またはブチルゴムダメージ性に劣る(ブチルゴムダメージ性が高い)ものであった。また、比較例4、5で使用されているAS300、1233Zは、シリコーンオイル用溶剤として広く知られていて、シリコーンオイルの除去、洗浄の用途に有用ではあるが、ブチルゴムダメージ性が高いことを確認した。