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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085971
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】量子コンピュータ装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/20 20220101AFI20240620BHJP
   H10N 60/10 20230101ALI20240620BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G06N10/20
H10N60/10 K ZAA
G06F7/38 510
G06F7/38 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200784
(22)【出願日】2022-12-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】山口 愛子
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC06
4M113AC45
4M113AD23
4M113AD32
4M113CA12
4M113CA13
4M113CA14
4M113CA16
(57)【要約】
【課題】量子ビットや結合器の検査や較正を行う場合の配線数の削減を可能とした量子アニーリングに適用して好適な量子コンピュータ装置の提供。
【解決手段】量子コンピュータ装置は、複数の量子ビットと、複数の結合器と、第1の信号線と、前記第1の信号線に接続された第1のセレクタと、を備え、各量子ビットは、前記複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、前記第1のセレクタには、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、前記第1のセレクタに接続される前記少なくとも2つ以上の量子ビットは、互いに異なる前記結合器にそれぞれ接続されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の量子ビットと、
複数の結合器と、
第1の信号線と、
前記第1の信号線に接続された第1のセレクタと、
を備え、
各量子ビットは、前記複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、
前記第1のセレクタには、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、
前記第1のセレクタに接続される前記少なくとも2つ以上の量子ビットは、互いに異なる前記結合器にそれぞれ接続されている、
量子回路。
【請求項2】
4本の前記第1の信号線を備え、
各結合器には4つの前記量子ビットが接続されており、
前記4つの量子ビットは、互いに異なる前記第1の信号線に接続されており、
前記4つの量子ビットのうちの少なくとも1つの前記量子ビットは、前記第1のセレクタを介して前記第1の信号線に接続されている、
請求項1に記載の量子回路。
【請求項3】
前記第1のセレクタに接続される前記量子ビットは、第1のサーキュレータを介して前記第1のセレクタに接続され、
前記第1のサーキュレータを介して前記量子ビットに接続する第2の信号線をさらに備えている、
請求項1または2に記載の量子回路。
【請求項4】
複数の前記量子ビットがLHZ方式で配置される、請求項1または2に記載の量子回路。
【請求項5】
前記量子ビットは、少なくとも二つのジョセフソン接合を含むループ回路を有する共振器を含む、
請求項1または2に記載の量子回路。
【請求項6】
複数の量子ビットと、少なくとも1つの結合器と、第1の信号線と、第2のセレクタと、を備え、
前記量子ビットは、前記少なくとも1つの結合器の中の1つの結合器または複数の結合器に接続され、
前記複数の量子ビットの中の1つは、前記第2のセレクタを介して前記第1の信号線に接続され、
前記複数の結合器の中の少なくとも1つは、前記第2のセレクタに接続されている、
量子回路。
【請求項7】
前記第2のセレクタと、前記第1の信号線とは、第2のサーキュレータを介して接続されている、
請求項6に記載の量子回路。
【請求項8】
請求項3に記載の量子回路と、
前記第1の信号線と前記第2の信号線とを、測定システムに接続する第1の接続状態と、前記第1の信号線と前記第2の信号線とを、入出力装置群に接続する第2の接続状態とを切替える切替部と、
を備える量子コンピュータ装置。
【請求項9】
前記切替部は、
測定の対象の前記量子ビットを選択するサンプル切替部と、
測定のモードを切り替える測定切替部と、
を備え、
前記測定切替部は、
前記測定システムの第1の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記測定システムの第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に出力する第1の測定モードと、
前記測定システムの前記第1の信号出力部と前記第2の信号出力部からの信号を合わせた信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に供給する第2の測定モードと、
前記測定システムの前記第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を前記測定システムの第2の信号入力部に供給する第3の測定モード、
のうちの少なくとも2つのモードの間での切り替えを行う、請求項8に記載の量子コンピュータ装置。
【請求項10】
前記測定切替部は、前記第2の信号出力部と、前記第1の信号出力部と前記第1の信号入力部を含むネットワークアナライザと、前記第2の信号入力部を含むスペクトラムアナライザと、を含む前記測定システムと、前記サンプル切替部との間に配設されている、請求項9に記載の量子コンピュータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピュータ装置に関し、特に超伝導素子を用いた量子回路あるいは量子コンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導素子を用いた量子コンピュータ装置として、例えば非特許文献1には、SQUID (Superconducting Quantum Interference Device)ループを含むジョセフソンパラメトリック発振器を量子ビットとして用いた量子アニーリング装置が開示されている。また、非特許文献2には、量子ビットの結合について、LHZ(Lechner, Hauke, Zoller)方式と呼ばれる結合方法が提案されている。
【0003】
量子コンピュータ装置を正しく動作させるために、例えば各量子ビットが発振しているか、共振周波数が正しい値であるか等について動作確認や特性評価(検査・評価)等を行うことが好ましい。また、複数の量子ビットにそれぞれ供給される複数の信号の強度を正しく設定することが好ましい。なお、信号の強度は信号電力を、lmW(milliwatt)を基準とする比率をデシベル(dB)で表したものである。
【0004】
ジョセフソンパラメトリック発振器を用いた量子コンピュータ装置では、量子ビットは冷凍機で極低温に冷却される。量子ビットに入力信号を供給する信号出力部は室温(常温)に設置される。信号出力部から量子ビットの入力ノード(ポート)までの間の信号伝送路には、例えば高周波同軸ケーブルやサーキュレータなどが含まれる。量子ビットに供給される入力信号には伝送損失が発生するが、伝送損失量(減衰量)は厳密に求めることは困難である。このため、量子ビットに適切な信号電力を供給するには信号出力部からどのような電力値の入力信号を出力すればよいかについて求めることで、最子ビットの入力ノードに適切な入力信号を供給することができる。このような較正は、量子ビットヘの入力信号に対する反射信号や透過信号の測定に基づき行われる(非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Puri, et al., “Quantum annealing with all-to-all connected nonlinear oscillators,” Nature Comm., 2017
【非特許文献2】W.Lechner,et al.,“A quantum annealing architecture with all to-all connectivity from local interactions,” Science Advances 23, 2015, Vol. 1, no. 9, e1500838
【非特許文献3】T.Yamaji, et al,“Spectroscopic observation of the crossover from a classical Duffing oscillator to a Kerr parametric oscillator,” Phys. Rev. A 105, 023519(2022)
【非特許文献4】S. Masuda, et al.,“Theoretical study of reflection spectroscopy for superconducting quantum parametrons,” New J. Phys.23 093023 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、配線数の削減を可能とした量子回路あるいは量子コンピュータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、複数の量子ビットと、複数の結合器と、第1の信号線と、前記第1の信号線に接続された第1のセレクタと、を備え、各量子ビットは、前記複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、前記第1のセレクタには、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、前記第1のセレクタに接続される前記少なくとも2つ以上の量子ビットは、互いに異なる前記結合器にそれぞれ接続されている量子回路、あるいはこれを用いた量子コンピュータ装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、量子回路あるいは量子コンピュータ装置の配線数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態を説明する図である。
図2】LZH方式の接続例を説明する図である。
図3】本開示の実施形態の四体相互作用を行う量子ビットを説明する図である。
図4】本開示の実施形態の量子コンピュータ装置を説明する図である。
図5A】本開示の実施形態の検査・較正時の接続の一例を説明する図である。
図5B】本開示の実施形態の演算時の接続の一例を説明する図である。
図6】本開示の実施形態の演算・測定切替部を説明する図である。
図7】(a)は本開示の実施形態の4つの量子ビットと結合器の基本ユニットの一例、(b)は、(a)の量子ビットの構成の一例、(c)は結合器の構成の一例を説明する図である。
図8】本開示の実施形態における冷凍機内部で4つの量子ビットと結合器の基本ユニットの接続の例を説明する図である。
図9】本開示の実施形態における較正・演算切替部の構成例を説明する図である。
図10A】本開示の実施形態における較正・演算切替部の較正時の接続を説明する図である。
図10B】本開示の実施形態における測定モードの一例を説明する図である。
図11】本開示の実施形態における較正・演算切替部の演算時の接続を説明する図である。
図12】本開示の実施形態の8つの量子ビットと3つの結合器からなる基本ユニットの一例を説明する図である。
図13】本開示の実施形態における冷凍機内部での8つの量子ビットと3つの結合器からなる基本ユニットの接続の例を説明する図である。
図14A】本開示の実施形態における較正・演算切替部の構成例を説明する図である。
図14B】本開示の実施形態における較正・演算切替部の構成例を説明する図である。
図15A】本開示の実施形態における較正・演算切替部の較正時の接続を説明する図である。
図15B】本開示の実施形態における較正・演算切替部の較正時の接続を説明する図である。
図16A】本開示の実施形態における較正・演算切替部の演算時の接続を説明する図である。
図16B】本開示の実施形態における較正・演算切替部の演算時の接続を説明する図である。
図17】本開示の実施形態における43個の量子ビットと28個の結合器からなる基本ユニットの一例を説明する図である。
図18A】非特許文献1の図4のbを引用した図であり、N=5の論理スピンの全結合イジング問題を説明する模式図である。
図18B】非特許文献1の図4のcを引用した図であり、図18AのN=5の論理スピンをN(N-1)/2個の物理スピンにマッピングしたLHZ配置を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
量子ビットの検査や較正を、複数の量子ビットに対して行う場合、配線の問題が存在する。特に、量子ビットを冷凍機で冷凍する場合には次のような問題が存在する。例えば、量子ビットからの反射信号の測定を行う場合、室温の信号出力部から入力信号を量子ビットに入力したうえで、量子ビットからの反射または透過信号を冷凍機内で増幅して取り出す。量子ビットが複数存在する場合、量子ビット分の信号ラインが必要となることがある。この場合、信号ラインは、量子ビットを備えた量子チップやインターポーザを搭載するPCB(Printed Circuit Board)等に実装される同軸コネクタの大きさから、設置できる数が制限される。特に、信号の出力ラインに配置される増幅器、サーキュレータ、アイソレータ等は高価なコンポーネントであることから、これらを大量に用意することは、コストの観点からも望ましくない。
【0011】
また、検査や較正等に用いるネットワークアナライザ等の測定器を、量子ビットそれぞれに用意することは、コストの点から望ましくない。このため、複数(N本)の信号ライン(配線)を、Nよりも少数の測定器につなぎ変えればよく、例えば1台(1組)の測定ユニットに対して複数の配線を用意し、冷凍機内部で配線の切り替えを行えばよいようにも思われる。しかしながら、LHZ方式の量子アニーリング装置では、ピラミッド状に配置した全量子ビットのうち、最終的には最底辺の量子ビットの状態をまとめて読み出す。また、各結合器の四体相互作用の調整には最低でも4ビットの一括読み出しが必要となる。このため、この条件を満たしたうえで、配線数を減らすことが課題となる。上記課題は一つの例であるが、本発明は上記に限らず、たとえば冷却機能のないチャンバー内に配線する場合など、様々な場面で量子回路あるいは量子コンピュータ装置の配線数を削減することができる。上記の課題は一つの例であるが、本発明は上記に限らず、様々な場面で量子回路あるいは量子コンピュータ装置の配線数を削減することができる。
【0012】
本開示の実施形態の一例について説明する。本開示によれば、LHZ配置での最低辺の量子ビットの数または4のうち大きい数と同数の出力ライン(読み出し用ライン)と、全量子ビット数と同数の入力ラインとポンプラインを有し、冷凍機内部と室温部にそれぞれスイッチを有することで、量子アニーリングの演算と全量子ビットの較正を行うことが可能である。スイッチを、冷凍機内部と室温の両方に配置することで、冷凍機内部に設置する出力ラインの本数を削減可能としている。同時読み出しを行う量子ビット数が3の場合、読み出し用ラインの本数は4本、同時読み出しを行うビット数が8の場合、出力ライン(読み出し用ライン)の本数は8本となる。
【0013】
本開示で使用される量子アニーリングマシンの一例について説明する。図1は、量子アニーリングマシンとして動作する量子コンピュータ装置の一例を説明する図である。図1に示した構成では、各四体相互作用の結合器21はそれぞれ、ジョセフソンパラメトリック発振器(Josephson parametric oscillator, JPO)からなる量子ビット20と4個ずつ接続している。なお、個々のJPO、結合器を指示する場合を除いて、JPOと結合器は、それぞれ符号20、21で参照される。
【0014】
量子コンピュータ装置に含まれる量子回路1は、4つのJPO20と結合器21からなる単位構造(基本ユニット)を複数有し、少なくとも1個のJPO20は、4個の四体相互作用の結合器21に接続されている。図1では、ピラミッド型に配置された底辺のJPO20-7、20-8、20-9、20-10が並列に読み出される。JPO20-11、20-12、20-13は固定ビットとされる。
【0015】
LHZ方式は、最適化問題が、多数のイジング(Ising)スピン間の長距離相互作用の制御を要するという課題を、局所相互作用のグラフにマッピングすることで解決している。N個の論理スピンの対は、K=(N-1)/2個の物理スピンにマッピングされる。一対の論理スピン(両方のスピンは、|0,0> 又は|1,1>(あるいは、|0,1> 又は|1,0>)にアラインされる。論理スピン対Ji,j(i≠j=1,…,N)は物理スピンJk(k=1,…,K)に符号化される。図18Aに、N=5の論理スピンの全結合(fully connected, あるいはall-to-all connected)型イジング問題を示す。図18Bは、図18AのN=5の論理スピンの全結合(fully connected)型イジング問題をK=N(N-1)/2K=10の物理スピンにマップした図である。〇は結合器を表し、これに接続する4つの長方形は量子ビット(JPO)が基本ユニットを構成している。物理スピンのハミルトニアンは以下で与えられる。
H=ΣK k=1Jkσz,k<i,j,k,l>z,iσz,jσz,kσz,l
・・・(1)
【0016】
<i,j,k,l>は、守るべき制約が課せられた4つの最近接スピン(基本ユニットのスピン)に対応している。Cは4つの物理スピンの結合定数である。図18Bにおいて、最底辺の下の3つの物理ビットは固定ビット(スピン固定)である。固定ビットを除いた最底辺の物理ビットが表している元の論理ビットの組み合わせとしては、(i, j)=(1,2), (2,3), (3, 4), (4,5), (5, 6)である。このため、最底辺を読み出すことで、論理ビット1に対して論理ビット2以降が同じ状態なのか逆の状態なのかの組み合わせが分かる。なお、図18Bの構成は、図1の構成に対応している。
【0017】
LHZ方式の結合器と量子ビットの接続形態の例について図2を参照してさらに説明する。図2では、説明の容易化のため、図1の各量子ビット(JPO)として4つのアーム(電極)を備えた平面形状を有するものとする。2次元平面内に配置されている各結合器(21-1~21-6)は4つの端を有するものとし、それぞれの端を、反時計回りにA, B, C, Dとする。各量子ビット(20-1~20-13)も4つの端を有するものとし、反時計回りにa, b, c, dとする。ここで、説明のため、各量子ビットと各結合器のそれぞれの端aと端Aは、時計の0時(12時)の位置にあるものとする。面内のある方向(図2では、図面の上から下方向)に量子ビットが、N個(Nは2以上の整数)(図2では、4段)並んでいる。これをn段目(図2では、n=1,…,4)の量子ビットと呼ぶ。n段目は、n個の量子ビットとn-1個の結合器とから成り、これらの量子ビットと結合器は交互に配置される。すなわち、i番目(i=1,…, n-1)の結合器の端Bは、i番目の量子ビットの端d(i番目の結合器の端Bに左側から対向する端)と接続されており、i番目の結合器の端D(i番目の結合器の端Bと反対側の端)は、i+1番目の量子ビットの端b(i番目の結合器の端Dに右側から対向する端)と接続される。より具体的に書き下すと、n段目において、1番目の量子ビットの端dと1番目の結合器の端Bとが接続されており、1番目の結合器の端Dと2番目の量子ビットの端bとが接続されており(中略)、n-1番目の結合器の端Dとn番目の量子ビットの端bが接続されている。このように、n段目において、結合器の左端と右端には必ず量子ビットが配置される。この構造が、n=1,2,…,M段(M>2の正整数)存在する。n段目は(n-1)段目の量子ビットの端cと結合器の端Cに対向する側に配置されている。
【0018】
次に、段間での接続に関して、2段目の1番目の結合器21-1の端Aは1段目の量子ビット20-1の端cに接続され、端Cは、3段目の2番目の量子ビット20-5の端aに接続されている。3段目の1番目の結合器21-2の端Aは、2段目の1番目の量子ビット20-2の端cに接続され、端Cは、4段目の2番目の量子ビット20-8の端aに接続されている。3段目の2番目の結合器21-3の端Aは、2段目の2番目の量子ビット20-3の端cに接続され、端Cは、4段目の3番目の量子ビット20-9の端aに接続されている。4段目の1番目の結合器21-4の端Aは、3段目の1番目の量子ビット20-4の端cに接続され、端Cは、対向する量子ビット20-11の端aに接続されている。4段目の2番目の結合器21-5の端Aは、3段目の2番目の量子ビット20-5の端cに接続され、端Cは、対向する量子ビット20-12の端aに接続されている。4段目の3番目の結合器21-6の端Aは、3段目の3番目の量子ビット20-6の端cに接続され、端Cは、対向する量子ビット20-13の端aに接続されている。このように、n(2,…,M)段目のi(1,2,…,n-1)番目の結合器の端Aは(n-1)段目のi番目の量子ビットの端cと接続されており、 (n-1)段目のi番目の結合器の端Cはn段目の(i+1)番目の量子ビットの端aと接続されている。M段目の(M-1)個の結合器のそれぞれの端Cには量子ビットが接続されている。図2では、4段目の3個の結合器21-4~21-6の端Cにそれぞれ接続される端aを有するJPO20-11、20-12、20-13が接続されている。上記M段目の量子ビットを「最底辺のビット」と呼ぶ。図2では、最底辺のビットは、4段目のJPO20-7~20-10である。
【0019】
図3は、図1の量子回路1における4つのJPO20と結合器21の接続の一例を説明する図である。図3では、図1の結合器21に接続する最近接の4つのJPOを、符号20A、20B、20C、20Dとしている。JPO20A~JPO20Dの結合器接続部24A~24Dと、結合器21とは、それぞれキャパシタ(結合キャパシタ)31A~31Dを介して容量結合している。JPO20A~JPO20Dの読み出し回路接続部22A~22Dは、それぞれキャパシタ32A~32Dを介して、読み出し回路(信号入力部)40A~40Dに容量結合している。JPO20A~JPO20Dは、JPO20A~JPO20Dの不図示のSQUIDループを貫く磁束を生成するためのポンプ信号(マイクロ波信号)を生成する信号出力部50A~50Dに制御ライン23A-23Dを介してそれぞれ接続されている。結合器21の非線形素子210は、ジョセフソン接合(JJ)を非線形インダクタンスとした非線形LC共振器とみなせる素子である。非線形素子210は、複数のジョセフソン接合(JJ)を含むSQUIDであってもよい。
【0020】
なお、実施形態において、結合器21、JPO20A~JPO20Dは、例えば、基板上に超伝導体により形成した線路(配線)により実現される。基板はシリコン(Si)が用いられるが、サファイアや化合物半導体材料(IV族、III-V族、II-VI族)等の他の電子材料を用いてもよい。また、基板は単結晶である方が望ましいが、多結晶やアモルファスであってもよい。線路の材料(超伝導配線材料)として、例えばNb(ニオブ)又はAl(アルミニウム)が用いられるが、これらに限定されるものでなく、ニオブ窒化物、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、レニウム(Re)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、タンタル窒化物、及び、これらのうちの少なくともいずれかを含む合金等、極低温に冷却すると超伝導状態となる任意の金属が用いられてもよい。また、超伝導状態を実現するために、冷凍機により実現される10mK(milli-Kelvin)程度の温度環境において結合器の回路は利用される。
【0021】
図4は、実施形態の量子コンピュータ装置300の構成の一例を説明する図である。量子回路1において、図1図3等を参照して説明したように、JPOからなる量子ビットを複数備え(量子ビット群11)、複数の結合器(不図示)と、第1の信号線701と、第1の信号線701に接続されたセレクタ12(第1のセレクタ)を備えている。図1図3等を参照して説明したように、量子ビットは、前記1つまたは複数の結合器に接続される。セレクタ12には、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、セレクタ12に接続されている量子ビットは、それぞれ異なる結合器に接続されている。
【0022】
切替部110は、較正等の測定時には、量子回路1に測定システム80を接続し、アニーリング演算等の演算動作時には、量子回路1に入出力装置群60を接続する。切替部制御部140Aは第1の制御信号151(制御信号1)により、切替部110における較正と演算の切替え制御、サンプル(測定対象の量子ビット)の選択制御、測定システム80による測定モードの切替制御を行う。極低温環境下に配設される量子回路1と、室温(常温)環境の切替部110との間は伝送系(複数の伝送線路)70で接続される。量子回路1内において、伝送線路は超伝導線路を含む構成としてもよい。
【0023】
セレクタ12(第1のセレクタ)は、一側で量子ビット群11の中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、2つ以上の量子ビットを第1の信号線701(伝送系70の伝送路)の一端に接続する。第1の信号線701の他端は、切替部110に接続する。
【0024】
セレクタ制御部140Bは、第2の制御信号152(制御信号2)により、セレクタ12での第1の信号線701に接続する量子ビットの選択を制御する。なお、図4では、量子回路1内において、セレクタ12を一つ含む例が示されているが、複数のセレクタを含む構成としてもよいことは勿論である。この場合、セレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152は、各セレクタ12の選択を制御する第2の制御信号152の束となり、複数のセレクタ12はそれぞれ複数の第1の信号線701に接続する構成とされる。
【0025】
制御部130は、入出力装置群60、測定システム80を制御し、測定、演算のいずれかを実行し、測定時において、測定のためのパラメータ等を測定システム80に対して設定し、サンプル対象の量子ビットの設定や測定モードを、切替部制御部140Aを介して切替部110に設定する。制御部130は、測定システム80からの測定結果(例えば量子ビットの反射測定結果等)を受け、理論計算等に基づき較正データを求める処理を行う構成としてもよい。
【0026】
また、制御部130は、アニーリング演算時における入出力装置群60の信号発生器等に対して較正データに基づき測定パラメータ(信号周波数等)を設定する構成としてもよい。アニーリング演算時におけるイジング模型(ハミルトニアン)は例えば以下で表される。

・・・(2)
ただし、σ:2行2列の行列(パウリ行列)である。
式(2)において、右辺第1項は量子ゆらぎを引き起こす横磁場項であり、右辺第2項は通常の古典的イジング模型(最小化するべき目的関数)である。
Sは時間を表す変数(全計算時間をT、途中の経過時間をtとすると、 s=t/T)、
A(s)は時間sとともに有限値から0まで減少する関数、
B(s)は0から有限値まで増加する関数である。なお、上記イジング模型はスピン表現であるが、量子ビット(JPO)は昇降演算子で表現される。制御部130は、問題に対応したイジング模型にパラメータ(初期値)をセットし、実質的に、量子効果(横磁場A(s))を表す項を時間変化させることで、最適解を探索する。例えば、最初は第1項(横磁場項)で大きな量子ゆらぎによりあらゆる可能性を重ね合わせて出発し、次第に目標とする目的関数(第2項)の重みを大きくしていき、最後に後者だけが残って最適解(イジング模型の基底状態)にたどり着くことになる。
【0027】
図5Aは、本実施形態の量子コンピュータ装置において、アニーリング演算として動作時におけるJPOの接続の一例を示す図である。図5Aでは、一つのJPO20-1が図示されているが、他のJPOも同様とされる。JPO20-lは、二つのジョセフソン接合JJ1とJJ2をループに含むSQUIDを備えている。SQUIDの一端(ジョセフソン接合JJ1とJJ2の一端)はグランドに接続され、SQUIDの他端(ジョセフソン接合JJ1とJJ2の他端)は、超伝導材料からなる電極(導体)に接続されている。L1は該電極のインダクタンスを表し、Clは該電極とグランド間の容量を表している。JPO20-1の結合器接続部24はキャパシタ31を介して結合器21に接続し、読み出し回路接続部22はキャパシタ32を介してサーキュレータ75のポート2に接続する。端子i-1に接続する入力ライン71-1(高周波同軸ケープル等)はサーキュレータ75のポート1に接続する。サーキュレータ75は受動部品からなりポート1からの信号入力は反時計回りにポート2に伝播出力し、ポート2からの信号入力は反時計回りにポート3に伝播出力し、逆向き(時計周り)には信号はほとんどあるいは全く流れない。入出力装置60の信号出力部61から出力された信号は、端子i-1から入力ライン71-1に伝送され、サーキュレータ75のポート1から反時計回りにポート2に伝播出力される。また、JPO20-1の読み出し回路接続部22からキャパシタ32を介してサーキュレータ75のポート2に伝送された信号(読み出し信号)は、反時計回りにポート3に伝播され、ポート3から出力ライン72-1(高周波同軸ケーブル等)に伝播出力され、低域通過フィルタ又(Low Pass Filter: LPF)や帯域通過フィルタ(Band Pass Filter: BPF)、アイソレータ78、HEMT(High Electron Mobility Transistor)増幅器79等を経て端子o-1に出力され、信号入力部62に入力される。入力ライン71-1には、各設定温度範囲に減衰器(Attenuator: Att.)を備えている。なお、サーキュレータ75は反時計周りのかわりに、時計回りの構成であってもよい。また、端子o-1と信号入力部62の間に増幅器(マイクロ波増幅器)等を備えた構成としてもよい。
【0028】
ポンプ信号を生成する信号出力部63からのポンプ信号(マイクロ波信号)は、端子p-1から、ポンプライン(高周波同軸ケーブル等)73-1を介してバイアスT(バイアス・ティ)回路76に入力される。またDCバイアス源64からのDC(Direct Current)信号は、ツイストペア等のDCライン74-1からバイアスT回路76に入力される。ポンプライン73-1には各設定温度範囲に減衰器(Attenuator: Att.)を備えている。DCライン74-1には低域通過フィルタ(LPF)が設けられている。バイアスT回路76は、一端がポンプライン73-1に接続されたキャパシタC2と、一端がDCライン74-1に接続されたインダクタL3(チョークコイル)の他端同士の接続点が、制御ライン23に接続されている。バイアスT回路76は、高周波だけが流れるキャパシタC2と、直流や所定周波数より低い周波数の信号を通し所定周波数より高い信号を阻止するインダクタL3(チョークコイル)を組み合わせて直流バイアス信号(電流)を高周波信号(マイクロ波信号)に重畳して供給する。バイアスT回路76において、DC信号は信号出力部63に対してキャパシタC2が直列に接続されているため、信号出力部63にはDC電圧は印加されず、信号出力部63に影響を与えることなく、制御ライン23に直流バイアス信号を印加する。制御ライン23の端部のインダクタL2は、制御ライン23に流れる電流(直流バイアス電流+マイクロ波電流)によりJPO20-1のSQUIDループ(ジョセフソン接合JJ1、JJ2を含むループ)と鎖交する磁束(直流)バイアス磁束+交流バイアス磁束)を生成する。なお、インダクタL2は制御ライン23の端部を構成し、一端がグランドに接続された伝送線路であってもよいし、SQUIDループに対向して配置される平面型のスパイラルインダクタ等であってもよい。
【0029】
JPO20の共振角周波数ωの2倍程度の角周波数のポンプ信号を信号出力部63から供給することで、JPO20は角周波数ωでパラメトリック発振する。
【0030】
図5Bは、量子コンピュータ装置の較正時におけるJPOの接続の一例を示す図である。なお、図面では、簡単のため、検査(評価)や較正を、単に「較正」と表記している。図5Bを参照すると、較正用の信号を、測定対象として選択されたJPO20-1に出力する信号出力部81と、JPO20-1からの信号(JPO20-1からの出力信号(出力シグナル波)あるいはJPO20-1への入力信号(入力シグナル波)に対する反射信号(反射波))を入力する信号入力部82と、JPO20-1の制御ライン23にポンプ信号を出力する信号出力部83を含む測定システム80を備えている。測定システム80は、サンプル切替部90で較正対象として選択されたJPO20-kを選択し、選択されたk番目のJPO20-kに接続する端子i-k、o-k、p-kに、それぞれ、信号出力部81、信号入力部82、信号出力部83を接続する。図5Bでは、サンプル切替部90において1番目(k=1)のJPO20-1が選択されたものとする。端子i-1と端子o-1は、検査や較正のための測定時には、信号出力部81に接続され、端子o-1は信号入力部82に接続される。JPO20-1の状態の読み出しは、例えば、信号出力部81からの入力信号をサーキュレータ75のポート1から入力しポート2を介してJPO20-1に印加し、JPO20-1からの反射信号をサーキュレータ75のポート2から入力しポート3を介して出力ライン72-1から信号入力部82に伝送することで行われる。なお、端子o-1と信号入力部82の間に増幅器(マイクロ波増幅器)等を備えた構成としてもよい。
【0031】
図6は、4つの量子ビットに対して演算モードと較正モードの切り替えを行う構成を説明する図である。較正・演算切替部100において、スイッチSW#1は、切替部制御部140A(図4参照)からの動作切替信号#1に基づき、演算モードの場合、JPO20-1と入出力装置60-1とを接続し、較正時には、JPO20-1とサンプル切替部(セレクタ)90のポート1とを接続する。
【0032】
スイッチSW#2は、切替部制御部140Aからの動作切替信号#2に基づき、演算モードの場合、JPO20-2と入出力装置60-2とを接続し、較正時には、JPO20-2とサンプル切替部90のポート2とを接続する。
【0033】
スイッチSW#3は、切替部制御部140Aからの動作切替信号#3に基づき、演算モードの場合、JPO20-3と入出力装置60-3とを接続し、較正時には、JPO20-3とサンプル切替部90のポート3とを接続する。
【0034】
スイッチSW#4は、切替部制御部140Aからの動作切替信号#4に基づき、演算モードの場合、JPO20-4と入出力装置60-4とを接続し、較正時には、JPO20-4とサンプル切替部90のポート4とを接続する。
【0035】
サンプル切替部90は、切替部制御部140Aからのサンプル選択信号に基づき、較正対象として選択された一つのJPOと、測定システム80とを接続する。切替部制御部140Aは、較正時に、例えばJP020-1からJPO20-4まで順番(巡回的に)に選択するようサンプル切替部90の切替を制御するようにしてもよい。
【0036】
測定切替部120は、切替部制御部140Aからの測定切替信号に基づき、測定システム80での測定モード(測定システム80からの信号の組み合わせ等)を切り替える。
【0037】
図6において、動作切替信号#1~#4、サンプル選択信号、測定切替信号は、図4の第1の制御信号151に含まれる制御信号である。なお、4つのJPOを四体相互作用で結合する結合器21(図3等参照)は、演算時には、入出力装置60-1~60-4には接続されない。また、後述するように、較正時には、結合器21は、4つのJPOの一つのJPOと較正・演算切替部100との間の伝送線路を共有しているため、図6では、図示されていない。
【0038】
以下では、4ビットアニーリングマシンの例を挙げて説明する。この場合、四体相互作用の調整のために4ビット分の同時読み出し(並列読み出し)が必要となる。較正を行う対象は4つの量子ビットと1つの結合器である。結合器の較正では、例えば結合器の反射測定を行うことにより結合器の共振周波数を同定する。4つの量子ビットに接続された4組の信号線のうちの一つを、冷凍機内部のスイッチ(マイクロ波スイッチ)にて、結合器への接続に切り替えることで、信号線を共有し、結合器の反射測定に利用することで、4本の信号線で4つの量子ビットと1つの結合器の較正を行うことが可能である。較正のあとに、較正・演算切替部を切り替えて、例えば演算前調整が行われる。演算前調整では、4本の信号線にそれぞれ接続されている4つの量子ビットの同時読み出しを行い、四体相互作用を調整する。
【0039】
本開示の実施形態の一つは、複数の量子ビットと、少なくとも1つの結合器と、第1の信号線と、第2のセレクタと、を備え、前記量子ビットは、前記少なくとも1つの結合器の中の1つの結合器または複数の結合器に接続され、前記複数の量子ビットの中の1つは、前記第2のセレクタを介して前記第1の信号線に接続され、前記複数の結合器の中の少なくとも1つは、前記第2のセレクタに接続されている、量子回路である。ここで、第1の信号線は、出力ラインであり得る。
【0040】
図7(a)は、4つの量子ビットJPO20-1~JPO20-4と結合器21の一例を模式的に説明する図である。4つの量子ビットJPO20-1~JPO20-4と結合器21は、量子チップの基板(例えばシリコン基板)上の超伝導材料を成膜しパターニングして形成される。図7(a)では、超伝導材料からなる電極は、4つの等しい長さのアームが中央で互いに直角に交差する十字型形状とされる。結合器21の制御信号の入出力ポートIO-c1は、較正時、結合器21に制御信号を入力し結合器21からの信号(反射信号)をモニタするためのポートである。
【0041】
図7(b)は、図7(a)のJPO20-2と結合器21との接続、及び、図7(a)のJPO20-2の十字型の電極において白丸で示すポート(誘導結合ポート)B-2と色付き丸で示すポート(入出力ポート:容量結合ポート)IO-2を説明する図である。なお、図7(a)のJPO20-1、20-3、20-4は、JPO20-2と同様の構成とされる。図7(b)を参照すると、JPO20-2の十字型の電極26の一つのアーム(第1のアーム)の端部である結合器接続部24は、結合器21とキャパシタ31を介して接続する。JPO20-2の十字型の電極26の別のアーム(第2のアーム)の端部には、SQUIDループが接続される。SQUIDループは、一端がグランドに接続され他端が該別のアーム(第2のアーム)の端部に並列に接続された二つのジョセフソン接合JJ1、JJ2を有する。このSQUIDループには、制御ライン23-2に供給されるポンプ信号により生成された磁場(磁束)が印加される。ポートB-2は、JPO20-2のSQUIDと一端がグランドに接続された制御ライン23-2(インダクタL2)との誘導結合を表している。JPO20-2の十字型の電極26のさらに別のアーム(第3のアーム)の端部(読み出し回路接続部22)の入出力ポートIO-2は、キャパシタ32を介してサーキュレータ75のポート2(図5A図5B参照)に接続される。JPO20-2の十字型の電極26の各アームは、その両側を、間隙を介してグランド面(グランドパタン)で囲むようにしてもよい。読み出し回路接続部22にキャパシタ32を介して接続する伝送路25-2や制御ライン23-2は、それぞれの両側が間隙を介してグランド面(グランドパタン)で囲まれたコプレーナ線路としてもよい。量子チップの配線層の伝送路25-2は、量子チップの各端子に接続する端子を有する不図示のPCB(Printed Circuit Board)等に設けられた同軸コネクタ等を介して対応するサーキュレータ75(図5A図5B)のポート2に接続するようにしてもよい。
【0042】
図7(c)を参照すると、結合器21は、対向する二つの電極211、212間に並列に接続された二つのジョセフソン接合JJ21、JJ22と、シャントキャパシタC21を備えている。ジョセフソン接合JJ21、電極211、ジョセフソン接合JJ22、電極212はSQUIDループを形成している。シャントキャパシタC21は、電極211、212間のキャパシタンスである。電極211は、JPO20-1、JPO20-2の電極と容量結合する対向部211Aを備え、さらに入出力ポートIO-c1として、制御信号の伝送路27とキャパシタ33を介して容量結合する対向部211Cを備えている。電極212は、JPO20-3、JPO20-4の電極と容量結合する対向部212A、212Bを備えている。ジョセフソン接合JJ21、JJ22を含むSQUIDループには、不図示の制御ラインのインダクタに供給されるDC電流により生成された磁場(磁束)を印加するようにしてもよい。この場合、図5A図5BのDCバイアス源51とDCライン74-1が、結合器21に対して設けられることになる。あるいは、結合器21は、対向する二つの電極211、212間に、一つのジョセフソン接合を接続し、これと並列にキャパシタ(シャントキャパシタ)を接続する構成としてもよい(この場合、制御ラインは設けられない)。
【0043】
図7(c)では、結合器21の電極として対向する略L字型の電極211、212が例示されているが、電極のパタンはかかる構成に制限されるものでないことは勿論である。結合器21の対向する二つの電極211、212は、その周りを間隙を介してグランド面(グランドパタン)で囲むようにしてもよい。伝送路27は、両側を間隙を介してグランド面(グランドパタン)で囲んだコプレーナ線路として構成してもよい。伝送路27は、不図示のPCB等の同軸コネクタ等を介して対応するスイッチ(セレクタ)77(図8)を介してサーキュレータ75-3(図8)のポート2に接続する。
【0044】
図8は、図7(a)の4つのJPO20-1~20-4と結合器21と、伝送系70(図6)との接続の一例を模式的に例示する図である。図8を参照すると、結合器21の制御信号の入出力ポートIO-c1と、JPO20-3の信号の入出力ポートIO-3と、サーキュレータ75-3との間に接続されたスイッチ(セレクタ)77を備えている。スイッチ77は、図4のセレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152に基づき、JPO20-3の入出力ポートIO-3又は結合器21の入出力ポートIO-c1をサーキュレータ75-3のポート2に接続する。サーキュレータ75-1、75-2、75-4は、それぞれのポート1を、一端が端子i-1、i-2、i-4にそれぞれ接続された入力ライン71-1、71-2、71-4の他端に接続し、それぞれのポート3を、一端が端子O-1、O-2、O-4にそれぞれ接続された出力ライン72-1、72-2、72-4に接続し、それぞれのポート2を、伝送路25-1、25-2、25-4を介してJPO20-1、20-2、20-4の入出力ポートIO-1、IO-2、IO-4に接続している。バイアスT回路76-1~76-4は、JPO20-1~20-4のポートB-1~B-4のSQUIDループに印加する磁場を生成する信号(直流信号が重畳したマイクロ波信号)を、それぞれ、制御ライン23-1~23-4に供給する。
【0045】
本開示の実施形態の1つは、上述した量子回路1(図4)と、前記第1の信号線と前記第2の信号線とを測定システムに接続する第1の接続状態と、前記第1の信号線と前記第2の信号線とを入出力装置群に接続する第2の接続状態とを切替える切替部110(図4)と、を備える量子コンピュータ装置である。ここで、第1の信号線は出力ラインであり得る。第2の信号線は入力ラインであり得る。切替部110(図4)は、較正・演算切替部(図6の100)を含み得る。また、切替部110(図4)は、サンプル切替部(図6の90)を含み得る。さらに、切替部110(図4)は、測定切替部(図6の120)を含み得る。
【0046】
図9は、図6の詳細な回路図に対応している。図6で用いた交差を表す記号は、図9のように混んだ配線では、煩雑となりかえって図面を見にくくなるため、図9では使用しない。図9の較正・演算切替部100において、端子i-1、p-i、o-1に接続するスイッチSW11、SW6、SW1は、図6のスイッチSW#1を構成している。
【0047】
端子i-2、p-2、o-2に接続するスイッチSW12、SW7、SW2は、図6のスイッチSW#2を構成している。
【0048】
端子i-3、p-3、o-3に接続するスイッチSW14、SW9、SW4は、図6のスイッチSW#3を構成している。
【0049】
端子i-4、p-4、o-4に接続するスイッチSW15、SW10、SW5は、図6のスイッチSW#4を構成している。
【0050】
サンプル切替部90のスイッチSW13、SW8、SW3は、較正時、不図示の選択信号に基づき、端子i-1~i-4、端子p-1~p-4、端子o-1~o-4のうちいずれかを選択し、第1端子セット(i-1、p-1、o-1)、第2端子セット(i-2、p-2、o-2)、第3端子セット(i-3、p-3、o-3)、第4端子セット(i-4、p-4、o-4)のいずれかの端子セットを、測定システム80に接続する。
【0051】
本開示の実施形態の1つは、測定の対象の前記量子ビットを選択するサンプル切替部(例えば図9の90)と、測定のモードを切り替える測定切替部(例えば図9の120)とを前記切替部(図4の110)の内部に備えている。前記測定切替部(図9の120)は、前記測定システム(図9の80)の第1の信号出力部(図9の81A)からの信号を、前記サンプル切替部(図9の90)で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記測定システム(80)の第2の信号出力部(図9の83)からの信号を、前記サンプル切替部(90)で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システム(80)の第1の信号入力部(図9の81Aのch2)に出力する第1の測定モードと、前記測定システム(80)の前記第1の信号出力部(図9の81Aのch1)と前記第2の信号出力部(83)からの信号を合わせた信号を、前記サンプル切替部(90)で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記サンプル切替部(90)で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システム(80)の第1の信号入力部(図9の81Aのch2)に供給する第2の測定モードと、前記測定システム(80)の前記第2の信号出力部(83)からの信号を、前記サンプル切替部(90)で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記サンプル切替部(90)で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を前記測定システム(80)の第2の信号入力部(図9の84)に供給する第3の測定モード、のうちの少なくとも2つのモードの間での切り替えを行う、前述の量子コンピュータ装置である。ここで、第1の信号線は、出力ラインまたは入出力ラインであり得る。第2の信号線は、入力ラインまたは入出力ラインであり得る。
【0052】
測定システム80は、マイクロ波信号を出力する信号出力部83と、ネットワークアナライザ81Aと、スペクトラムアナライザ84を備えている。ネットワークアナライザ81Aは、好ましくは内蔵する信号源と受信機を備え、チャネル1(ch1)から信号を出力し、チャネル2(ch2)で信号を受信する。ネットワークアナライザ81Aの信号源と受信機は図5Bの信号出力部81と信号入力部82に対応し、信号出力部83は、図5Bの信号出力部83に対応させることができる。
【0053】
測定切替部120において、スイッチSW17と、スイッチSW18は、図4の第1の制御信号151(図6の測定切替信号)に基づき、測定モードに応じて、出力端子をA端子、B端子に切り替える。
【0054】
図10Aは、図9の回路構成における較正時の接続を説明する図である。第1測定モードでは、測定切替部120のスイッチSW17は、図6の測定切替信号に基づき、その入力端子をA端子に接続し、ポンプ信号を発生する信号出力部83の出力信号(マイクロ波信号)を、ハイパスフィルタ(HPF)を介してサンプル切替部90のスイッチSW8に供給し、スイッチSW8で選択された端子p-1~p-4のいずれかの端子に供給される。また、ネットワークアナライザ81Aのチャネル1(ch1)からの出力信号は、サンプル切替部90のスイッチSW13に供給され、図6のサンプル選択信号に基づき、スイッチSW13で選択された端子i-1~i-4のいずれかの端子に供給される。
【0055】
測定切替部120のスイッチSW18は、図6の測定切替信号に基づき、出力をA端子に設定し、端子o-1~o-4のうちサンプル切替部90のスイッチSW3で選択された端子に伝送された信号(o-3ではJPO20-3又は結合器21の反射信号のいずれか)をネットワークアナライザ81Aのチャネル2(ch2)に入力する。これにより、例えば端子p-1~p-4のうち較正対象として選択された端子に入力したポンプ信号の較正を行うことができる。また、追加のドライブ無しで測定した反射測定の結果からは、較正対象として選択されたJPOのQ値を求めることができる。
【0056】
第2測定モードでは、測定切替部120のスイッチSW17において、図6の測定切替信号に基づき、出力がB端子に切り替えられ、信号出力部83の出力信号(マイクロ波信号)を、ネットワークアナライザ81Aのチャネル1(ch1)からの出力信号(マイクロ波信号)に方向性結合器CPLで結合させて、サンプル切替部90のスイッチSW13に供給され、端子i-1~i-4のいずれかに供給される。方向性結合器CPLは、受動素子であるため正逆双方向で動作し、図10Aのように、逆方向(INポートとOUTポートが逆)では、素子の方向性と結合度に応じて信号はメインパスの信号(図10Aでは、ネットワークアナライザ81Aのチャネル1(ch1)からの出力信号)と結合し、結合させた信号をサンプル切替部90のスイッチ13に供給し、図6のサンプル選択信号に基づき、スイッチ13で選択された端子i-1~i-4のいずれかの端子に入力する。
【0057】
測定切替部120のスイッチSW18は、図6の測定切替信号に基づき、出力をA端子に設定し、端子o-1~o-4のうちサンプル切替部90のスイッチSW3で選択された端子に伝送された信号(端子oではJPO20-3又は結合器21の反射信号)をネットワークアナライザ81Aのチャネル2(ch2)に入力する。
【0058】
図10Bは、第2の測定モードを説明する図である。図10Bは、サンプル切替部90でJPO20-1を選択した場合に対応している。ネットワークアナライザ81Aからの角周波数ωprobeのマイクロ波信号(プローブ信号:所定周波数範囲で掃引される)と信号出力部83からの角周波数ωのマイクロ波信号(ドライブ信号)を重畳した信号が、端子i-1から入力ライン71-1を介してサーキュレータ75-1のポート1に入力されポート2に伝播出力され、キャパシタ32を介してJPO20-1に伝達され、JPO20-1からの出力信号(反射信号)は、サーキュレータ75-1のポート2に入力されてポート3に伝播出力され出力ライン72-1を介して端子o-1に出力される。
【0059】
さらに、第3の測定モードでは、測定切替部120のスイッチSW17において、図6の測定切替信号に基づき、出力がA端子に切り替えられ、ポンプ信号(角周波数ωp)を出力する信号出力部83の出力信号を、ハイパスフィルタ(HPF)を介して、サンプル切替部90のスイッチSW8に供給する。ネットワークアナライザ81Aのチャネル1(ch)は、サンプル切替部90のスイッチSW13を介して、端子i-1~i-4のいずれかに接続されるが、ネットワークアナライザ81Aのチャネル1(ch)からは信号は出力せず、測定には使用しない。サンプル切替部90のスイッチSW8は、図6のサンプル選択信号に基づき、出力をB端子に設定し、端子o-1~o-4のうちスイッチSW3で選択された端子に伝送された信号(端子o-3ではJPO20-3又は結合器21の反射信号)をスペクトラムアナライザ84に入力する。スペクトラムアナライザ84では、信号出力部83から入力したポンプ信号の1/2の周波数のスペクトルを観測することにより、パラメトリック発振の評価を行うことができる。
【0060】
図11は、図9の回路構成における演算時の接続を説明する図である。較正・演算切替部100のスイッチは、図6の動作切替信号に基づき、B端子に切り替えられ、端子i-1~i-4は、入出力装置60-1~60-4の信号出力部の出力端子(RF OUT)にそれぞれ接続され、端子o-1~o-4は、入出力装置60-1~60-4の信号出力部の入力端子(RF IN)にそれぞれ接続され、端子p-1~p-4は、入出力装置60-1~60-4の信号出力部のポンプ信号出力端子(PUMP OUT)にそれぞれ接続される。
【0061】
本開示の実施形態の1つは、複数の量子ビットと、複数の結合器と、第1の信号線と、前記第1の信号線に接続された第1のセレクタと、を備え、各量子ビットは、前記複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、前記第1のセレクタには、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、前記第1のセレクタに接続される前記少なくとも2つ以上の量子ビットは、互いに異なる前記結合器にそれぞれ接続されている、量子回路である。
【0062】
本開示の実施形態の1つは、4本の前記第1の信号線を備え、各結合器には4つの前記量子ビットが接続されており、前記4つの量子ビットは、互いに異なる前記第1の信号線に接続されており、前記4つの量子ビットのうちの少なくとも1つの前記量子ビットは、前記第1のセレクタを介して前記第1の信号線に接続されている、上記の量子回路である。
【0063】
本開示の実施形態の1つは、前記第1のセレクタに接続される前記量子ビットは、第1のサーキュレータを介して前記第1のセレクタに接続され、前記第1のサーキュレータを介して前記量子ビットに接続する第2の信号線をさらに備えている、上記の量子回路である。
【0064】
上記において、第1の信号線は出力ラインであり得る。第2の信号線は入力ラインであり得る。セレクタは、スイッチであり得る。
【0065】
図12は、8個の量子ビットからなるアニーリングマシンの配置説明する図である。図12には、量子チップ10の配線層の回路パタンの一例が模式的に示されている。量子チップ10の配線層は、基板上に超伝導材料を成膜しパターニングすることで形成される。図12において、JPO20-1~20-4のポートB-1~B-8には、二つのジョセフソン接合をループに備えたSQUID(不図示)が接続され、IO-1~IO-8は、入出力ポートである。I0-c1~I0-c3は、結合器21-1~21-3の制御信号の入出力ポートである。ポートB-1~B-8、IO-1~IO-8、IO-c1~IO-c3は、外部と接続するための端子(パッド)にそれぞれ配線接続されている。特に制限されないが、図12の量子チップ10において、配線層では、JPO20-1~20-8、結合器21-1~21-3、端子、端子とポート間を接続する伝送線路(コプレーナ線路)は、それぞれの縁が間隙を介してグランド面(GND面)の縁と対向して配置されている。図12では、ポートに接続する端子をポートと同じ名前としている。量子チップ10の端子は例えばPCBの基板の対応する端子に接続され、PCBのコネクタから、サーキュレータ等に接続される。なお、図12の回路パタンの例はあくまで説明のための図であり、端子配置、配線接続は、図12の例に制限されるものでないことは勿論である。また、端子は、量子チップ10の配線層の周辺に設けられているが、量子チップ10の配線層の周辺部で囲まれた領域内にパッドを有し、該パッドを量子チップ10と対向して実装される第2の量子チップ(インターポーザ)(不図示)に配線層のパッドに金属突起等のバンプで接続し、第2の量子チップ(インターポーザ)(不図示)の配線層上で配線の引き回し等を行い、第2の量子チップ(インターポーザ)の端子からPCB等に接続を行うようにしてもよい。
【0066】
量子ビットが8ビット、結合器21が3個あるが、4ビット分の同時読み出し配線により、較正と演算前調整とアニーリング動作(演算)が可能である。結合器21-1は、JPO20-1、20-2、20-3、20-4の十字型電極の一つのアームの端部に容量結合している。このため、これらは同時(並列)に読み出すことが必要とされ、それぞれ別のラインに接続できるようにする。同様に、結合器21-2はJPO20-3、20-4、20-7、20-8の十字型電極の一つのアームの端部に容量結合しており、結合器21-3には、JPO20-3、20-5、20-6、20-7の十字型電極の一つのアームの端部に容量結合しており、それぞれが測定できるようにする必要がある。このようにすることにより、4ビット分の同時読み出しによる演算前調整を3つの結合器に対して順次行うことができる。また、演算動作時には、LHZ配置の最底辺の3ビットのJPO20-1、20-3、20-6を、同時に読み出して独立に測定できることが必要である。この場合、LHZ配置の最底辺の量子ビット(JPO)の数3は、4よりも小さいため、出力ライン72は4本に設定される。一方、入力ライン71、ポンプライン73は8本とされる。
【0067】
以上の条件を満たすために、例えば図13に示すような組み合わせで配線を行う。図13には、図12に例示した量子チップ10の8個のJPO20-1~20-8の入出力ポートIO-1~IO-8(端子IO-1~IO-8)、ポートB-1~B-8(端子B-1~B-8)と、3個の結合器21-1~21-3の入出力ポートIO-c1~IO-c3(端子IO-c1~IO-c3)と、端子i-1~端子i-8、端子o-1~端子o-8、端子p-1~端子p-8、端子d-1~端子d-8の接続例が例示されている。
【0068】
図13(a)を参照すると、端子i-1、i-8、i-5からの信号は、それぞれ、入力ライン71-1、71-8、71-5からサーキュレータ75-1、75-2、75-3のポート1からポート2を介してJPO20-1、20-8、20-5の入出力ポートIO-1、IO-8、IO-5に接続する。また、JPO20-1、20-8、20-5の入出力ポートIO-1、IO-8、IO-5からの信号は、それぞれ、サーキュレータ75-1、75-2、75-3のポート2からポート3を介してスイッチ77-1に入力され、図4のセレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152に基づき、スイッチ77-1で選択された信号が出力ライン72-1から端子o-1に出力される。すなわち、JPO20-1、20-8、20-5の入出力ポートIO-1、IO-8、IO-5は端子o-1を共有している。ここで、JPO20-1、20-8、20-5は、それぞれ、互いに異なる結合器に接続されている。また、JPO20-1、20-8、20-5についてどの2つの組み合わせも(JPO20-1と20-8、JPO20-8と20-5、JPO20-5と20-1のいずれも)、同じ結合器に接続されていない。
【0069】
図13(b)を参照すると、端子i-2、i-7からの信号は、それぞれ、入力ライン71-2、71-7からサーキュレータ75-4、75-5のポート1からポート2を介してJPO20-2、20-7の入出力ポートIO-2、IO-7に入力される。また、JPO20-2、20-7の入出力ポートIO-2、IO-7からの信号は、それぞれ、サーキュレータ75-4、75-5のポート2からポート3を介してスイッチ77-2に入力され、図4のセレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152に基づき、スイッチ77-2で選択された信号が出力ライン72-2から端子o-2に出力される。JPO20-2、20-7の入出力ポートIO-2、IO-7は端子o-2を共有している。ここで、JPO20-7は結合器21-2および結合器21-3に接続されているが、JPO20-2は結合器21-1のみに接続されている。従って、JPO20-7とJPO20-2は同じ結合器に接続されていない。
【0070】
図13(c)を参照すると、端子i-3からの信号は、入力ライン71-3からサーキュレータ75-6のポート1からポート2を介してスイッチ77-3に入力され、JPO20-3の入出力ポートIO-3、結合器21-1、21-2、21-3の制御信号の入出力ポートIO-c1、IO-c2、IO-c3のうち、図4のセレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152に基づき、スイッチ77-3で選択されたポートに入力される。JPO20-3の入出力ポートIO-3、結合器21-1、21-2、21-3の制御信号の入出力ポートIO-c1、IO-c2、IO-c3のうち、スイッチ77-3で選択されたポートからの信号が、サーキュレータ75-6のポート2からポート3を介して出力ライン72-3から端子o-3に出力される。JPO20-3の入出力ポートIO-3と、結合器21-1~21-3の入出力ポートIO-c1~IO-c3は、端子i-3、端子o-3を共有している。スイッチ77-3は、前述の第2のセレクタの1つの実施例である。
【0071】
図13(d)を参照すると、端子i-4、i-6からの信号は、入力ライン71-4、71-6からサーキュレータ75-7、75-8のポート1からポート2を介してJPO20-4、20-6のIOポートIO-4、IO-6に入力される。また、JPO20-4、20-6のIO-4、IO-6からの信号はサーキュレータ75-7、75-8のポート2からポート3を介してスイッチ77-4に入力され、図4のセレクタ制御部140Bからの第2の制御信号152に基づき、スイッチ77-4で選択された信号が、出力ライン72-4から端子o-4に出力される。JPO20-4、20-6の入出力ポートI0-4、I0-6は端子o-4を共有している。ここで、JPO20-4は結合器21-2および結合器21-1に接続されているが、JPO20-6は結合器21-3のみに接続されている。従って、JPO20-4とJPO20-6は同じ結合器に接続されていない。
【0072】
図13(e)を参照すると、端子d-n、p-n(n=1,…,n)からのDC信号とポンプ信号は、バイアスT回路76-nに接続され、JPO20-nのポートB-n(磁場印加部)に供給される。
【0073】
冷凍機内の各スイッチ77の切替制御は公知の手法が用いられる。常温部の較正・演算切替部100、サンプル切替部90、測定切替部120のスイッチもSP6TやSPDT(Single-Pole Double-Throw:単極双投スイッチ)等の高周波電磁式メカニカルリレーを用いてもよい。
【0074】
このように、図13において、並列(同時)読み出しの対象とされない複数のJPOは、端子oを共有し、スイッチ77-1~77-4で切り替えて時分割で読み出すことで、伝送系において、JPOからの出力信号(反射信号)の出力ライン(高周波同軸ケーブル)の本数を4本(o-1~o-4)に削減し、出力ライン上に設けられるサーキュレータ、アイソレータ、HEMT増幅器等の個数を削減している。
【0075】
JPOには演算時に独立の入力ラインが必要になるため、サーキュレータ75-1、75-2、75-3、サーキュレータ75-4、75-5、サーキュレータ75-7~75-8を、それぞれ、スイッチ77-1、スイッチ77-2、スイッチ75-4よりも、サンプル(JPO又は結合器)側に設置する。-方で、結合器21-1~21-3には、較正のときにのみ、ポートIO-cl~IO-c3から信号を入力するため、独立な配線は必要ない。そこで、サーキュレータ75-6とサンプル(JPO20-3、結合器21-1~21-3の制御信号のIOポート)の間にスイッチ77-3を配置することにより、サーキュレータの個数を減らすことができる。このような配線により、室温(冷凍機外部の常温部)では、入力ライン8本、出力ライン4本、ポンプライン8本が存在する。図9と同様、較正・演算切替部100、サンプル切替部90、測定切替部120を備え、上記ラインの切替を行うことで、8個の量子ビットの全てと3個の結合器の全てに対して較正を行うことが可能である。
【0076】
図14A図14Bは、図12に示した8個の量子ビットからなるアニーリングマシンに対して較正・演算切替を行う回路(常温に設置)の構成を説明する図であり、4ビットの図9に対応する8ビットバージョンである。なお、図面作製の都合で二つの図面に分図され、端子a、bで接続されている。
【0077】
較正・演算切替部100の各スイッチSW1、SW2、SW4~SW7、SW9~SW12、SW14、SW15は、端子i-1~i-4、o-1~o-4、p-1~p-ziを較正時には、測定システム80に接続し、演算時には、それぞれ入出力装置60-1~60-4に接続する。
【0078】
較正・演算切替部100の各スイッチSW20~SW23、SW25~SW28は、端子i-5~i-8、p-5~p-8を較正時には、測定システム80に接続し、演算時には、それぞれ入出力装置60-5~60-6に接続する。入出力装置60-5~60-6は、信号出力部(RF OUT)とポンプ信号出力部(PUMP OUT)を備え、信号出力部は備えていない。
【0079】
図15A図15Bは、図14A図14Bに示した構成の較正時の接続を説明する図である。較正・演算切替部100の各スイッチは、図4の第1の制御信号151(図6の動作切替信号)に基づき、A端子に切り替えられ、サンプル切替部90のスイッチSW3、SW8、SW13、SW24、SW29は、端子の組(i-1、o-1、p-1)~(i-4、o-4、p-4)のいずれかを選択し、測定切替部120を介して測定システム80に接続する。
【0080】
サンプル切替部90のスイッチSW18、SW19は、図4の第1の制御信号151(図6のサンプル選択信号)に基づき、端子の組(i-5、p-5)~(i-8、p-8)のいずれかを選択し、測定切替部120を介して測定システム80に接続する。測定切替部120は前述したので説明は省略する。
【0081】
図16A図16Bは、図14A図14Bに示した構成の演算時の接続を説明する図である。較正・演算切替部100の各スイッチは、図4の第1の制御信号151(図6の動作切替信号)に基づき、B端子に切り替えられる。
【0082】
まず、演算前調整を行う。演算前調整は、JPO20-1、20-2、20-3、20-4をそれぞれ入出力装置60-1、60-2、60-3、60-4に接続して行う。すなわち、
JPO20-1の端子IO-1(図12)は、図13(a)のサーキュレータ75-1、セレクタ77-1を介して端子o-1に接続される。
JPO20-2の端子IO-2(図12)は、図13(b)のサーキュレータ75-4、セレクタ77-2を介して端子o-2に接続される。
JPO20-3の端子IO-3(図12)は、図13(c)のセレクタ77-3、サーキュレータ75-6を介して端子i-1、o-3に接続される。
JPO20-4の端子IO-4(図12)は、図13(d)のサーキュレータ75-7、セレクタ77-4を介して端子o-4に接続される。図16Aに示すように、JPO20-1~20-4に接続する端子の組(i-1、p-1、o-1)~(i-4、p-4、o-4)は、それぞれ入出力装置60-1~60-4のRF OUT、RF IN、PUMP OUTに接続される。
【0083】
次に、図13(a)、(b)、(c)、(d)のセレクタ77-1、77-2、77-3、77-4でそれぞれ、図4の第2の制御信号152に基づき、選択されたJPO20-8、20-7、20-3、20-4を対応する入出力装置に接続して演算前調整を行う。すなわち、JPO20-8の端子IO-8は、サーキュレータ75-2、セレクタ77-1を介して端子o-1に接続される。すなわち、JPO20-8に接続する端子の組(i-8、p-8、o-1)のうち、i-8、p-8は、図16Bの入出力装置60-8のRF OUT、PUMP OUTにそれぞれ接続され、o-1は、図16Aの入出力装置60-1のRF INに接続される。
JPO20-7の端子IO-7は、サーキュレータ75-5、セレクタ77-2を介して端子o-2に接続される。JPO20-7に接続する端子の組(i-7、p-7、o-2)のうちi-7、p-7は、図16Bの入出力装置60-7のRF OUT、PUMP OUTにそれぞれ接続され、o-2は、図16Aの入出力装置60-2のRF INに接続される。
JPO20-3の端子IO-3は、端子i-3、o-3にセレクタ77-3、サーキュレータ75-6を介して接続され、端子の組(i-3、p-3、o-3)は、図16Aの入出力装置60-3のRF OUT、PUMP OUT、RF INにそれぞれ接続される。
JPO20-4の端子IO-4は、サーキュレータ75-7、セレクタ77-4を介して端子o-4に接続される。JPO20-4に接続する端子の組(i-4、p-4、o-4)は、図16Aの入出力装置60-4のRF OUT、PUMP OUT、RF INにそれぞれ接続される。
【0084】
次に、図13(a)、(b)、(c)、(d)のセレクタ77-1、77-2、77-3、77-4でそれぞれ選択されたJPO20-5、20-7、20-3、20-6を入出力装置に接続して演算前調整を行う。すなわち、JPO20-5の端子IO-5は、サーキュレータ75-3、セレクタ77-1を介して端子o-1に接続される。JPO20-5に接続する端子の組(i-5、p-5、o-1)のうち、i-5、p-5は、図16Bの入出力装置60-5のRF OUT、PUMP OUTにそれぞれ接続され、o-1は、図16Aの入出力装置60-1のRF INに接続される。
JPO20-7の端子IO-7は、サーキュレータ75-5、セレクタ77-2を介して端子o-2に接続される。JPO20-7に接続する端子の組(i-7、p-7、o-2)のうちi-7、p-7は、図16Bの入出力装置60-7のRF OUT、PUMP OUTにそれぞれ接続され、o-2は、図16Aの入出力装置60-2のRF INに接続される。
JPO20-3の端子IO-3は、セレクタ77-3、サーキュレータ75-6を介して端子i-3、o-3に接続される。JPO20-3が接続する端子の組(i-3、p-3、o-3)は、図16Aの入出力装置60-3のRF OUT、PUMP OUT、RF INにそれぞれ接続される。
JPO20-7の端子IO-4は、サーキュレータ75-7、セレクタ77-4を介して端子o-4に接続される。JPO20-4に接続する端子の組(i-4、p-4、o-4)は、図16Aの入出力装置60-4のRF OUT、PUMP OUT、RF INにそれぞれ接続される。
【0085】
その後、演算のために、最底辺であるJPO20-1、20-3、20-6を入出力装置に接続する。JPO20-1、20-3が接続する端子の組(i-1、p-1、o-1)、(i-3、p-3、o-3)は、それぞれ、図16Aの入出力装置60-1、60-3のRF OUT、RF IN、PUMP OUTに接続される。
JPO20-6の端子IO-6(図12)は、図13(d)のサーキュレータ75-8、セレクタ77-4を介して端子o-4に接続される。JPO20-6に接続する端子の組(i-6、p-6、o-4)のうち、i-6、p-6は、図16Bに示すように、入出力装置60-6のRF OUT、PUMP OUTにそれぞれ接続され、o-4は、図16Aの入出力装置60-4のRF INに接続される。
【0086】
8ビットよりも大きな系として特に、43ビットアニーリングマシンについて説明する。この場合、同時読み出しが必要な量子ビット数は8となり、読み出しラインを8本用意する。図17は、43ビットアニーリングマシンにおいて、どの量子ビットを同じ読み出しラインにまとめるかを模式的に示す図である。JPOの模様(ボックス内の模様)が同じものを、同-の読み出しラインにつながるスイッチに接続する。ここで、ボックスの模様が同じJPO同士では、どの2つの組み合わせにおいても、同じ結合器には接続していない。例えばJPO7は4つの結合器(CP8、CP14、CP9、CP2)に接続しているが、JPO7と同じ模様のJPO2、JPO18、JPO10、JPO23、JPO20は、いずれも該4つの結合器(CP8、CP14、CP9、CP2)のいずれにも接続していない。なお、8ビットより大きな系では、立体配線が必要となり、入出力ポートとポンプポートは取り方が異なるため、具体的なポート位置の表示は省略している。例えば図17のように、規則的に読み出しラインをまとめることにより、これより大きな系においても同様に読み出しラインの本数を減らすことが可能である。結合器の読み出しに関しては、同時読み出しに関する制約がないため、いずれの読み出しラインに接続してもよい。
【0087】
室温での配線は、8ビットまでと同様の較正が適応できる。43ビットの場合には、入力ライン43個、出力ライン8個、ポンプライン43個が存在することになる。これらに対し、較正/演算切替部、サンプル切替部、測定切替部、をそれぞれ用意することで、同様に、全量子ビットと結合器に対して較正を行うことが可能である。JPOの模様が同じものを、同-の読み出しラインにつながるスイッチに接続する。
【0088】
図17において、右斜め斜辺に見ると、2つのラインが交互に現れている。例えば左端の斜辺には、JP01とJP04、JP08とJP013、JPO19とJPO26、JPO34(JPO1と同じ右上がりの対角ストライプ模様であるが、濃淡が異なる)とJPO43(JPO4と同じ点線模様であるが、濃淡が異なる)という具合であり、JPO1、JP08、JPO19、JPO26、JP034の入出力ポートは一つのスイッチに接続されて信号入力部(読み出し回路)に接続し、JPO4、JP013、JP026、JPO34、JPO43の入出力ポートは、JPO1、JPO8、JP019、JP026、JPO43の入出力ポートが接続するスイッチとは別のスイッチに接続されて信号入力部(読み出し回路)に接続する。これに平行な並びは、それと異なるラインが交互に現れている。JP02とJP03、JP07とJP012、JPO18とJPO25、JPO33とJPO42という具合である。同時読み出しを行うJPO1、JPO3、JPO6、JPO10、JPO15、JPO21、JPO28、JPO36は互いに異なる読み出しラインに接続される必要があるが、これ以外のJPOについては、JPOを表す箱の模様(パタン)が同じであれば、薄い網掛けのものと濃い網掛けのもの(例えばJPO8とJPO30)の組み合わせを入れ替えてもよい。
【0089】
JPOのIOポートへの入力信号によるドライブパワーの較正(機器から出力される信
号のパワーを実際にデバイスに加わるドライブ強度に変換する)の一例についてその概略を説明する。
【0090】
一つのJPO(JPO1)のハミルトニアン(量子化したハミルトニアン)Hは例えば次式(3)で与えられる。
・・・(3)
【0091】
式(3)において、
hbarはDirac定数、
al+、a1はマイクロ波光子(フォトン)の生成演算子と消滅演算子、
ω1はJPO1の共振角周波数、
ωp,1はJPO1のポンプ信号の角周波数、
ωd,1はJPO1のドライブ信号の角周波数、
θd,1はドライブ信号の位相、χ1は非線形性、
β1はパラメトリックドライブ強度(ポンプ場の振幅)、
λ1はコヒーレントドライブ強度、
である。
【0092】
式(3)において、β1とλ1は、それぞれ次式(4)、(5)で与えられる。

・・・(4)
【0093】

・・・(5)
【0094】
式(4)、(5)において、
κeは外部ロスレート(loss late)(JPO20からマイクロ波光子が失われていくレート(該光子がロスチャネル(図5Bの伝送路25)へ出ていくレート)、decay rate ともいう)、
df/diは、JPO20の共振周波数fを電流値i(JPO20のポンプポートBに入力している電流値i)で微分した値、
p- d、p- pはそれぞれ、コヒーレントドライブとパラメトリックドライブのパワー、
Zoは、ライン(図5Bの25)の特性インピーダンスである。
JはJoule、HzはHertz、dBmは電力を1ミリワット(mW)を基準値とするデシベル(dB)の値で表した単位であり、0[dBm]=1mW、AはAmpereを表している。
【0095】
式(4)、(5)を用いて、β1とλ1を導出する場合には、κeやdf/diをネットワークアナライザを用いたJPO20の反射測定や、その磁場依存性から求めた上で、ラインの減衰量等も加味して、p- d、p- pを高精度で求める必要がある。特に、入力ラインの減衰量等は、同軸ケーブルの個体差等により、精度良く、あたりを決めることは難しい。このため、反射信号の測定から、このドライブ強度自体を直接決定する手法が提案されている(非特許文献3、4等)。パラメトリックドライブやコヒーレントドライブを入力した場合には、JPO20の共振周波数が変化する。この変化量について理論計算と、測定結果を、不図示のコンピュータで比較することにより、β1とλ1をより正確に求めることが可能とされる。較正の処理を行う不図示のコンピュータは、測定システム80のネットワークアナライザ81A、スペクトラムアナライザ84にGPIB(General Purpose Interface Bus)あるいはUSB(Universal Serial Bus)による接続や、イーサネット等LAN(Local Area Network)を用いて接続しTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)等で通信接続する構成としてもよい。
【0096】
実施形態において、JPO20や結合器21に対する較正とともに(あるいは較正とは別に)、JPO20や結合器21に入力信号を印加しその出力信号(反射信号)から、ネットワークアナライザ81A(ベクトルネットワークアナライザ)で、JPO20や結合器21についてSパラメータ、自己共振周波数、Q値、結合係数等を求め、検査や評価を行うようにしてもよい。検査・評価の場合も較正と同様、較正・演算切替部100の各スイッチはA端子に切り替える。
【0097】
なお、上記実施形態では、量子ビットとして、図7図8図12等に例示したように十字型電極を有する集中定数型のJPOを例に説明したが、電極の平面形状は十字型に制限されるものでないことは勿論である。また、JPOは集中定数型に制限されるものでなく、分布定数型であってもよいことは勿論である。
【0098】
なお、上記の実施形態では、制御部として、セレクタ制御部、切替部制御部、全体を制御する制御部からなる構成を例に説明したが、制御部は、三つで構成する構成に制限されるものでなく、例えば、主制御部と外部制御部に分離する構成としてもよい。ここで、外部制御部とは例えば他のPC(Personal Computer)等である。主制御部と外部制御部の間に、L2スイッチやルータ(L3スイッチ)等が介在させネットワーク接続する構成としてもよい。主制御部がLANやインターネットに接続されて、1人あるいは複数の外部のユーザがこれらのネットワークを経由して操作できるようにしてもよく、その場合には、ジョブ管理サーバが外部ユーザからの要請を受けて、全体のジョブを管理しながら主制御ユニットに指定のコマンドを送るようにしてもよい。
【0099】
また、上記の実施形態では、サンプル切替部90と測定切替部120が、測定システム80と別々のユニットとして構成した例について説明したが、これらを一体で構成してもよいことは勿論である。
【0100】
また、上記の実施形態では、較正と演算を切り替える例を説明したが、この切り替えを行わず検査あるいは較正のみの構成であってもよい。この場合、量子ビットの数と同数の信号入出力部は必ずしも用意しなくてもよい。また、測定システムは検査や較正のためのものに限られず、特性評価や、演算などを行うためのものでもよい。
【0101】
さらに、上記の実施形態では、一つの例として冷凍機内の配線削減について説明してきたが、配線削減効果はそれに限られるものではなく、冷凍機能のないチャンバーを使う場合などにも寄与し得る。
【0102】
上記実施形態は以下のように付記される(ただし、以下に制限されないことは勿論である)。
【0103】
(付記1)
量子回路は、複数の量子ビットと、複数の結合器と、第1の信号線と、前記第1の信号線に接続された第1のセレクタと、を備え、各量子ビットは、前記複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、前記第1のセレクタには、前記複数の量子ビットの中の少なくとも2つ以上の量子ビットが接続され、前記第1のセレクタに接続される前記少なくとも2つ以上の量子ビットは、互いに異なる前記結合器にそれぞれ接続されている。
【0104】
(付記2)
付記1の量子回路において、4本の前記第1の信号線を備え、
前記結合器には4つの前記量子ビットが接続されており、
前記4つの量子ビットは、互いに異なる前記第1の信号線に接続されており、
前記4つの量子ビットのうちの少なくとも1つの前記量子ビットは、前記第1のセレクタを介して前記第1の信号線に接続されている。
【0105】
(付記3)
付記1または2に記載の量子回路において、前記第1のセレクタに接続される前記量子ビットは、第1のサーキュレータを介して前記第1のセレクタに接続され、前記第1のサーキュレータを介して前記量子ビットに接続する第2の信号線をさらに備えている。
【0106】
(付記4)
付記1乃至3のいずれかに記載の量子回路において、複数の前記量子ビットがLHZ方式で配置される。
【0107】
(付記5)
付記1乃至4のいずれかに記載の量子回路において、前記量子ビットは、少なくとも二つのジョセフソン接合を含むループ回路を有する共振器を含む。
【0108】
(付記6)
付記1乃至5のいずれかに記載の量子回路において、複数の量子ビットと、1つまたは複数の結合器と、第1の信号線と、第2のセレクタと、を備え、前記量子ビットは、前記1つまたは複数の結合器の中の1つまたは複数の結合器に接続され、前記複数の量子ビットの中の1つは、前記第2のセレクタを介して前記第1の信号線に接続され、前記複数の結合器の中の少なくとも1つは、前記第2のセレクタに接続されている。
【0109】
(付記7)
付記6に記載の量子回路において、前記第2のセレクタと、前記第1の信号線とは、第2のサーキュレータを介して接続されており、前記第2のサーキュレータには、第2の信号線が設けられている。
【0110】
(付記8)
量子コンピュータ装置は、付記3または付記7に記載の量子回路と、
前記第1の信号線と前記第2の信号線とを、測定システムに接続する第1の接続状態と、前記第1の信号線と前記第2の信号線とを、入出力装置群に接続する第2の接続状態とを切替える切替部と、を備える。
【0111】
(付記9)
付記8の量子コンピュータ装置において、前記切替部が、測定の対象の前記量子ビットを選択するサンプル切替部と、測定のモードを切り替える測定切替部と、を備え、
前記測定切替部は、
前記測定システムの第1の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記測定システムの第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に出力する第1の測定モードと、
前記測定システムの前記第1の信号出力部と前記第2の信号出力部からの信号を合わせた信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続される前記第2の信号線に供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に供給する第2の測定モードと、
前記測定システムの前記第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットに接続された前記第1の信号線からの信号を前記測定システムの第2の信号入力部に供給する第3の測定モード、
のうちの少なくとも2つのモードの間での切り替えを行う。
【0112】
(付記10)
付記9の量子コンピュータ装置において、前記測定切替部は、前記第2の信号出力部と、前記第1の信号出力部と前記第1の信号入力部を含むネットワークアナライザと、前記第2の信号入力部を含むスペクトラムアナライザと、を含む前記測定システムと、前記サンプル切替部との間に配設されている。
【0113】
(付記11)
付記1乃至7のいずれかに記載の量子回路において、少なくとも1つの量子ビットは、複数の前記結合器に接続され、1つの前記第1のセレクタに接続されている前記量子ビットのうち、どの組み合わせの2つも、同じ結合器に接続されていない。
【0114】
(付記12)
量子回路は、複数の量子ビットと、少なくとも1つの結合器と、第1の信号線と、第2のセレクタと、を備え、
前記量子ビットは、前記少なくとも1つの結合器の中の1つの結合器または複数の結合器に接続され、
前記複数の量子ビットの中の1つは、前記第2のセレクタを介して前記第1の信号線に接続され、
前記複数の結合器の中の少なくとも1つは、前記第2のセレクタに接続されている。
【0115】
(付記13)
付記12の量子回路において、前記第2のセレクタと、前記第1の信号線とは、第2のサーキュレータを介して接続されており、前記第2のサーキュレータには、第2の信号線が設けられている。
【0116】
(付記14)
量子コンピュータ装置は、付記13に記載の量子回路と、
前記第1の信号線と前記第2の信号線とを測定システムに接続する第1の接続状態と、前記第1の信号線と前記第2の信号線とを入出力装置群に接続する第2の接続状態とを切替える切替部と、を備える。
【0117】
(付記15)
量子コンピュータ装置は、4つの量子ビットが結合器を介して四体相互作用で結合する構成の1つ又は複数の単位構造と、同時に読み出される量子ビットの数又は4のうち大きい数と同数の出力ラインと、各量子ビットに対応して設けられ、前記各量子ビットの入出力ポートへの信号を入力する入力ラインと、前記各量子ビットに対応して設けられ、前記各量子ビットへポンプ信号を供給するポンプラインと、前記結合器への信号の入出力を行う入出力ポートと、前記結合器に接続し同時読み出し対象とされない少なくとも一つの前記量子ビットの入出力ポートのうちのいずか一つを選択する第2のセレクタと、を冷凍機内に備え、前記入力ラインと前記出力ラインと前記ポンプラインを、前記量子ビット又は前記結合器の測定のために測定システムに接続するか、量子アニーリングの演算用に信号入出力部に接続するかの切替えを行うスイッチ群を含む切替部を、前記冷凍機外部の室温部に有し、前記1つ又は複数の単位構造の量子ビットの全ビットの検査又は較正のための前記測定と、前記量子アニーリングの演算と、を切替えて実行可能としている。
【0118】
(付記16)
付記15記載の量子コンピュータ装置において、
第1ポートが前記入力ラインに接続され、第3ポートが前記出力ラインに接続されたサーキュレータとして、
第2ポートが、対応する量子ビットの入出力ポートに接続された複数の第1のサーキュレータと、
第2ポートが、対応するセレクタに接続された少なくとも一つの第2のサーキュレータと、を前記冷凍機内に有し、
前記第2のセレクタは、選択した入出力ポートを前記第2のサーキュレータの前記第2ポートに接続し、
前記第1のサーキュレータは、
信号印加時には、前記入力ラインから前記第1ポートに入力した信号を前記第2ポートから出力して前記量子ビットの入出力ポートに供給し、
前記第2のサーキュレータは、
信号印加時には、前記入力ラインから前記第1ポートに入力した信号を前記第2ポートから出力して前記第2のセレクタに供給し、
前記第1のサーキュレータと前記第2のサーキュレータは、
読み出し時には、前記第2ポートから入力した信号を前記第3ポートから前記出力ラインに出力する。
【0119】
(付記17)
付記15又は16記載の量子コンピュータ装置において、同時に読み出し対象とされない複数の前記量子ビットに対して、複数の前記量子ビットの複数の入出力ポートのうちいずれか1つを選択する第1のセレクタを、前記冷凍機内にさらに備え、前記第1のセレクタは、選択した入出力ポートを、対応する前記第2のサーキュレータの前記第2ポートに接続する。
【0120】
(付記18)
付記15乃至17のいずれかに記載の量子コンピュータ装置において、複数の前記結合器の入出力ポートと、前記複数の結合器の少なくとも一つに接続し同時読み出し対象とされない少なくとも一つの前記量子ビットの入出力ポートのうちいずれか1つを選択する第3のセレクタを前記冷凍機内にさらに備え、前記第3のセレクタは、選択した入出力ポートを、対応する前記第2のサーキュレータの前記第2ポートに接続する。
【0121】
(付記19)
付記15乃至18のいずれかに記載の量子コンピュータ装置において、前記測定の対象の前記量子ビットを選択するサンプル切替部を前記室温部に備える。
【0122】
(付記20)
付記19に記載の量子コンピュータ装置において、前記測定のモードを切り替える測定切替部を前記室温部に備え、前記測定切替部は、
前記測定システムの第1の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットの入出力ポートに供給し、前記測定システムの第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記量子ビットの前記入出力ポートからの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に出力する第1の測定モードと、
前記測定システムの前記第1の信号出力部と前記第2の信号出力部からの信号を合わせた信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットの入出力ポートに供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットの前記入出力ポートからの信号を、前記測定システムの第1の信号入力部に供給する第2の測定モードと、
前記測定システムの前記第2の信号出力部からの信号を、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットへポンプ信号として供給し、前記サンプル切替部で選択された前記量子ビットの前記入出力ポートからの信号を前記測定システムの第2の信号入力部に供給する第3の測定モードと、
のうちの少なくとも2つのモードの間での切り替えを行う。
【0123】
(付記21)
付記20に記載の量子コンピュータ装置において、前記測定切替部は、前記第2の信号出力部と、前記第1の信号出力部と前記第1の信号入力部を含むネットワークアナライザと、前記第2の信号入力部を含むスペクトラムアナライザと、を含む前記測定システムと、前記サンプル切替部との間に配設されている。
【0124】
(付記22)
付記15乃至21のいずれかに記載の量子コンピュータ装置において、前記単位構造を複数有し、前記単位構造が、前記単位構造を構成する前記4つの量子ビットのうち少なくとも一つの量子ビットを、一又は複数の他の前記単位構造と共有している。
【0125】
(付記23)
付記15乃至22のいずれかに記載の量子コンピュータ装置において、複数の前記量子ビットがLHZ方式で配置され、前記出力ラインの本数は、最低辺の量子ビットの数または4のうち大きい数と同数とされる。
【0126】
(付記24)
付記15乃至23のいずれかに記載の量子コンピュータ装置において、前記量子ビットは、ジョセフソンパラメトリック発振器を含む。
【0127】
なお、上記の非特許文献1乃至4の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本開示の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本開示の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0128】
1 量子回路
10 量子チップ
11 量子ビット群
12 セレクタ
20-1~20-13、20A~20D 量子ビット(JPO)
21、21-1~21-6 結合器
22A~22D 読み出し回路接続部
23A~23D、23-1~23-4 制御ライン(フラックスライン)
24A~24D 結合器接続部
25、25-2 伝送路
26 電極
27 伝送路
31A~31D キャパシタ(結合キャパシタ)
32A~32D キャパシタ
33 キャパシタ
40A~40D 読み出し回路
50A~50D 信号出力部
60、60-1~60-8 入出力装置(群)
61 信号出力部
62 信号入力部
63 信号出力部
64 DCバイアス源
70 伝送系
71-1~71-8 入力ライン
72-1~72-4 出力ライン
73-1~73-8 ポンプライン
74-1~74-8 DCライン
75、75-1~75-8 サーキュレータ
76、76-1~76-4 バイアスT回路
77、77-1~77-4 スイッチ(セレクタ)
78 アイソレータ
79 HEMT増幅器
80 測定システム
81 信号出力部
81A ネットワークアナライザ
82 信号入力部
83 信号出力部
84 スペクトラムアナライザ
90 サンプル切替部
100 較正・演算切替部
110 切替部
120 測定切替部
130 制御部
140A 切替部制御部
140B セレクタ制御部
151 第1の制御信号
152 第2の制御信号
210 非線形素子
211 第1の電極
211A-211C 対向部
212 第2の電極
212A、212B 対向部
300 量子コンピュータ装置
701 第1の信号線
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B