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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008599
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240112BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240112BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110595
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功史
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 豊大
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隼希
(72)【発明者】
【氏名】岩名 毅
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC32
3D232CC44
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA19
3D232DE09
3D232EA01
3D232EB08
3D232EC29
3D232EC30
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CD59
3D333CE36
3D333CE47
(57)【要約】
【課題】正常に動作している制御回路がリセットされたとき、適切に対処することができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、反力モータを制御する2系統の反力制御回路と、転舵モータを制御する2系統の転舵制御回路とを有する。たとえば、第2系統の反力制御回路および転舵制御回路のみで反力モータおよび転舵モータを制御している状態で、反力制御回路がリセットされた場合(ステップS101,S102でYES)、反力制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する(ステップS104)。また、反力制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、反力モータの駆動を停止させる(ステップ103)。リセットされることなく正常に動作している第2系統の転舵制御回路は、リセットされた反力制御回路に同期するかたちで、転舵モータの駆動を停止させる(ステップ103)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータと、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータとを、互いに連携して制御するように構成される複数の制御回路を有し、
正常に動作している複数の前記制御回路のうち少なくとも1つの前記制御回路がリセットされた場合、リセットされた前記制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、前記車両の走行を停止させるための処理を実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
リセットされた前記制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である前記反力モータまたは前記転舵モータの駆動を停止させるための処理を実行するように構成され、
リセットされることなく正常に動作している前記制御回路は、リセットされた前記制御回路に同期するかたちで、自己の制御対象である前記転舵モータまたは前記反力モータの駆動を停止させるための処理を実行するように構成される請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記反力モータおよび前記転舵モータは、2系統の巻線群を有し、
複数の前記制御回路は、
前記反力モータの前記巻線群に対する給電を制御する2系統の反力制御回路と、
前記転舵モータの前記巻線群に対する給電を制御する2系統の転舵制御回路と、を含み、
前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動モードとして、2系統のうちいずれか一方の系統の前記反力制御回路および前記転舵制御回路のみで前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する片系統駆動モードを有し、
前記駆動モードが前記片系統駆動モードである場合、正常に動作している複数の前記制御回路のうち少なくとも1つの前記制御回路がリセットされたとき、前記の処理を実行するように構成されている請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記転舵モータを制御対象とする前記制御回路は、前記ステアリングホイールの回転操作量に応じて前記転舵輪が転舵するように前記転舵モータを制御するように構成され、
前記反力モータを制御対象とする前記制御回路は、起動時、定められた準備処理を実行するように構成され、
前記準備処理は、前記反力モータの駆動を通じて前記ステアリングホイールを自動回転させることにより前記ステアリングホイールの操舵中立位置を学習する中点学習処理と、
前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する回転位置となるように前記ステアリングホイールの回転位置を補正する舵角同期処理と、を含む請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御回路は、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したかどうかを示す情報を記憶するように構成され、
前記制御回路は、起動時において、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されている場合にはリセットされていないと判定する一方、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されていない場合にはリセットされたと判定するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。たとえば、特許文献1のステアバイワイヤシステムは、反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータを有している。反力アクチュエータは、ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する。転舵アクチュエータは、転舵輪を転舵させる転舵力を発生する。
【0003】
反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータは、それぞれ冗長的に設けられた2つの制御演算部、および冗長的に設けられた2つのモータ駆動部を有している。制御演算部は、モータの駆動制御に関する演算を行う。モータ駆動部は、自己に対応する制御演算部により生成される駆動信号に基づきトルクを発生する。
【0004】
反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータのうちいずれか一方の第1系統または第2系統に異常が発生したとき、異常系統の各アクチュエータの制御演算部は、モータの駆動制御を停止する。また、第1系統または第2系統の系統間通信に異常が発生したとき、異常系統の各アクチュエータの制御演算部は、モータの駆動制御を停止する。各アクチュエータにおける正常系統の制御演算部は、モータの駆動制御を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-70431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正常系統の制御演算部によりモータの駆動制御が継続されている場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、たとえば電源電圧の低下などに起因して、正常系統の制御演算部がリセットされることがある。この場合、リセットされた制御演算部の制御対象であるモータの適切な制御が阻害されるおそれがある。このため、制御演算部のリセットに対して、適切に対処することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータと、前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータとを、互いに連携して制御するように構成される複数の制御回路を有している。正常に動作している複数の前記制御回路のうち少なくとも1つの前記制御回路がリセットされた場合、リセットされた前記制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、前記車両の走行を停止させるための処理を実行するように構成される。
【0008】
複数の制御回路により反力モータおよび転舵モータの制御が行われている場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、たとえば電源電圧の低下などに起因して、正常に動作している少なくとも1つの制御回路がリセットされることがある。この場合、リセットされた制御回路の制御対象である反力モータまたは転舵モータの適切な制御が阻害されるおそれがある。
【0009】
この点、上記の操舵制御装置によれば、正常に動作している複数の制御回路のうち少なくとも1つの制御回路がリセットされた場合、リセットされた制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。このため、反力モータまたは転舵モータの適切な制御が阻害された状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、リセットされた前記制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である前記反力モータまたは前記転舵モータの駆動を停止させるための処理を実行するように構成されてもよい。リセットされることなく正常に動作している前記制御回路は、リセットされた前記制御回路に同期するかたちで、自己の制御対象である前記転舵モータまたは前記反力モータの駆動を停止させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0011】
上記の操舵制御装置によれば、正常に動作している複数の制御回路のうち少なくとも1つの制御回路がリセットされた場合、リセットされた制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である反力モータまたは転舵モータの駆動を停止させる。また、リセットされることなく正常に動作している制御回路は、自己の制御対象である転舵モータまたは反力モータの駆動を停止させる。このため、ステアリングホイールおよび転舵輪の意図しない挙動を抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記反力モータおよび前記転舵モータは、2系統の巻線群を有し、複数の前記制御回路は、前記反力モータの前記巻線群に対する給電を制御する2系統の反力制御回路と、前記転舵モータの前記巻線群に対する給電を制御する2系統の転舵制御回路と、を含んでいてもよい。この場合、複数の前記制御回路は、前記反力モータおよび前記転舵モータの駆動モードとして、2系統のうちいずれか一方の系統の前記反力制御回路および前記転舵制御回路のみで前記反力モータおよび前記転舵モータを制御する片系統駆動モードを有していてもよい。また、複数の前記制御回路は、前記駆動モードが前記片系統駆動モードである場合、正常に動作している複数の前記制御回路のうち少なくとも1つの前記制御回路がリセットされたとき、前記の処理を実行するように構成されてもよい。
【0013】
片系統駆動モードで動作している第1系統または第2系統の反力制御回路および転舵制御回路のうち少なくとも一方がリセットされた場合、リセットされた反力制御回路または転舵制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。このため、片系統駆動モードで動作している場合において、反力モータまたは転舵モータの適切な制御が阻害された状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0014】
また、片系統駆動モードで動作している第1系統または第2系統の反力制御回路および転舵制御回路のうち少なくとも一方がリセットされた場合、リセットされた反力制御回路または転舵制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である反力モータまたは転舵モータの駆動を停止させる。また、リセットされることなく正常に動作している第2系統または第1系統の反力制御回路および転舵制御回路は、自己の制御対象である転舵モータまたは反力モータの駆動を停止させる。このため、ステアリングホイールおよび転舵輪の意図しない挙動を抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0015】
上記の操舵制御装置において、前記転舵モータを制御対象とする前記制御回路は、前記ステアリングホイールの回転操作量に応じて前記転舵輪が転舵するように前記転舵モータを制御するように構成されてもよい。前記反力モータを制御対象とする前記制御回路は、起動時、定められた準備処理を実行するように構成されてもよい。前記準備処理は、前記反力モータの駆動を通じて前記ステアリングホイールを自動回転させることにより前記ステアリングホイールの操舵中立位置を学習する中点学習処理と、前記ステアリングホイールの回転位置が前記転舵輪の転舵位置に対応する回転位置となるように前記ステアリングホイールの回転位置を補正する舵角同期処理と、を含んでいてもよい。
【0016】
反力モータを制御対象とする制御回路がリセットされることが考えられる。この場合、反力モータを制御対象とする制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、定められた準備処理を実行する。準備処理には、中点学習処理および舵角同期処理が含まれている。これら処理の実行中には、ステアリングホイールが自動回転するおそれがある。このとき、転舵モータを制御対象とする制御回路は、通常通り、転舵モータを制御する。すなわち、転舵モータを制御対象とする制御回路は、ステアリングホイールの回転操作量に応じて転舵輪が転舵するように転舵モータを制御する。このため、ステアリングホイールの自動回転に伴い、転舵輪が自動的に転舵するおそれがある。したがって、車両の運転者は、ステアリングホイールおよび転舵輪の意図しない挙動に対して違和感を覚えることが懸念される。
【0017】
この点、上記の操舵制御装置によるように、反力モータを制御対象とする制御回路がリセットされた場合、リセットされた反力モータを制御対象とする制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。このため、再起動に伴う準備処理の実行により、ステアリングホイールおよび転舵輪が意図せず動作する状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0018】
また、反力モータを制御対象とする制御回路がリセットされた場合、リセットされた制御回路は、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である反力モータの駆動を停止させる。また、転舵モータを制御対象とする制御回路は、反力モータを制御対象とする制御回路に同期するかたちで、自己の制御対象である転舵モータの駆動を停止させる。このため、再起動に伴う準備処理の実行に起因する、ステアリングホイールおよび転舵輪の意図しない挙動を抑制することができる。また、再起動に伴う準備処理の実行により、ステアリングホイールおよび転舵輪が意図せず動作する状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、制御回路のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0019】
上記の操舵制御装置において、前記制御回路は、車両電源のオフに伴って制御を停止したかどうかを示す情報を記憶するように構成されてもよい。前記制御回路は、起動時において、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されている場合にはリセットされていないと判定する一方、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されていない場合にはリセットされたと判定するように構成されてもよい。
【0020】
制御回路は、車両電源がオフされる前にリセットされることにより、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報を記憶することができない。このため、上記の操舵制御装置によるように、制御回路は、起動時において、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されているかどうかに基づき、リセットされたかどうかを判定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の操舵制御装置によれば、正常に動作している制御回路がリセットされたとき、適切に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】操舵制御装置の一実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成図である。
図2】一実施の形態の反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
図3】一実施の形態の反力制御装置および車両制御装置の起動シーケンスを示すタイムチャートである。
図4】(a),(b),(c)は、反力制御装置および転舵制御装置の状態遷移の比較例を示す構成図である。
図5】一実施の形態の反力制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
図6】(a),(b)は、一実施の形態の反力制御装置および転舵制御装置の状態遷移の一例を示す構成図である。
図7】一実施の形態の反力制御装置および転舵制御装置の状態遷移の他の例を示す構成図である。
図8】一実施の形態の反力制御装置および転舵制御装置の状態遷移の他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト13を有している。転舵シャフト13の両端には、それぞれタイロッド14を介して転舵輪15が連結される。転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト13は車両の操舵機構を構成する。なお、図1では片側の転舵輪15のみを図示する。
【0024】
操舵装置10は、反力モータ21および減速機構22を有している。反力モータ21は、操舵反力の発生源である。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。反力モータ21の回転軸は、減速機構22を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ21のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0025】
反力モータ21は、たとえば三相のブラシレスモータである。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12を有している。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の電気的な特性は同等である。
【0026】
操舵装置10は、転舵モータ31および減速機構32を有している。転舵モータ31は転舵力の発生源である。転舵力とは、転舵輪15を転舵させるための動力をいう。転舵モータ31の回転軸は、減速機構32を介してピニオンシャフト33に連結されている。ピニオンシャフト33のピニオン歯33aは、転舵シャフト13のラック歯13aに噛み合わされている。転舵モータ31のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト33を介して転舵シャフト13に付与される。転舵モータ31の回転に応じて、転舵シャフト13は車幅方向に沿って移動する。
【0027】
転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22を有している。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22は、共通のステータ(図示略)に巻回される。第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の電気的な特性は同等である。
【0028】
操舵装置10は、反力制御装置40を有している。反力制御装置40は、制御対象である反力モータ21の駆動を制御する。反力制御装置40は、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ21に発生させる反力制御を実行する。反力制御装置40は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき目標操舵反力を演算する。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12に設けられている。反力制御装置40は、ステアリングシャフト12に付与される実際の操舵反力を目標操舵反力に一致させるべく反力モータ21への給電を制御する。反力制御装置40は、反力モータ21における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0029】
反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第1系統の巻線群N11に対する給電を制御する。第2系統回路42は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第2系統の巻線群N12に対する給電を制御する。
【0030】
反力制御装置40と車載の車両制御装置60との間は、車載ネットワーク61を介して相互に接続されている。車載ネットワーク61は、たとえばCAN(Controller Area Network)である。反力制御装置40と車載の車両制御装置60とは、車載ネットワーク61を介して、互いに情報を授受する。車両制御装置60は、車両の走行を制御する。具体的には、車両制御装置60は、たとえば車両のパワートレインを制御する。パワートレインは、車両の走行用駆動源および動力伝達機構を含む。走行用駆動源は、たとえばエンジンあるいはモータを含む。動力伝達機構は、走行用駆動源が発生する動力を駆動輪に伝達するための機構である。反力制御装置40は、車両制御装置60との間で授受される情報に基づき反力モータ21の駆動を制御する。
【0031】
操舵装置10は、転舵制御装置50を有している。転舵制御装置50は、制御対象である転舵モータ31の駆動を制御する。転舵制御装置50は、操舵状態に応じて転舵輪15を転舵させるための転舵力を転舵モータ31に発生させる転舵制御を実行する。転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwを取り込む。操舵角θsは、ステアリングホイール11の回転操作量を示す状態変数である。ストロークXwは、転舵シャフト13の中立位置を基準とする変位量であって、転舵角θwが反映される状態変数である。舵角センサ24は、ステアリングシャフト12のトルクセンサ23と減速機構22との間に設けられている。ストロークセンサ34は、転舵シャフト13の近傍に設けられている。
【0032】
転舵制御装置50は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。目標転舵角は、たとえば、検出される操舵角θsに対して、舵角比を乗算することにより得ることができる。舵角比は、操舵角θsに対する転舵角θwの比率である。舵角比は、製品仕様などに応じて予め設定される値である。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。転舵制御装置50は、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に一致させるべく転舵モータ31への給電を制御する。転舵制御装置50は、転舵モータ31における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0033】
転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第1系統の巻線群N21に対する給電を制御する。第2系統回路52は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第2系統の巻線群N22に対する給電を制御する。
【0034】
なお、反力制御装置40と反力モータ21とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の反力アクチュエータを構成してもよい。また、転舵制御装置50と転舵モータ31とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の転舵アクチュエータを構成してもよい。反力制御装置40および転舵制御装置50は、操舵制御装置を構成する。
【0035】
<反力制御装置>
つぎに、反力制御装置の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42を有している。第1系統回路41は、第1の反力制御回路41Aおよびモータ駆動回路41Bを有している。第2系統回路42は、第2の反力制御回路42Aおよびモータ駆動回路42Bを有している。
【0036】
第1の反力制御回路41Aは、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種の処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成される。プロセッサはCPU(central processing unit)を含む。また、プロセッサはRAM(random-access memory)およびROM(read-only memory)などのメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0037】
第1の反力制御回路41Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第1系統の巻線群N11に対する第1の電流指令値を演算する。ただし、第1の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。第1の反力制御回路41Aは、第1系統の巻線群N11へ供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路41Bに対する駆動信号(PWM信号)を生成する。
【0038】
モータ駆動回路41Bは、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。モータ駆動回路41Bは、第1の反力制御回路41Aにより生成される駆動信号に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路41Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第1系統の巻線群N11に供給される。これにより、第1系統の巻線群N11は第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0039】
第2の反力制御回路42Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の反力制御回路42Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき反力モータ21に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第2系統の巻線群N12に対する第2の電流指令値を演算する。ただし、第2の電流指令値は、反力モータ21に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の反力制御回路42Aは、第2系統の巻線群N12へ供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路42Bに対する駆動信号を生成する。
【0040】
モータ駆動回路42Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路42Bは、第2の反力制御回路42Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して反力モータ21の第2系統の巻線群N12に供給される。これにより、第2系統の巻線群N12は第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。反力モータ21は、第1系統の巻線群N11が発生するトルクと第2系統の巻線群N12が発生するトルクとをトータルしたトルクを発生する。
【0041】
なお、製品仕様によっては、反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係があってもよい。この場合、たとえば第1系統回路41がマスター、第2系統回路42がスレーブとして機能してもよい。また、製品仕様によっては、第1系統回路41と第2系統回路42とは対等の関係であってもよい。
【0042】
<転舵制御装置>
つぎに、転舵制御装置50の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52を有している。第1系統回路51は、第1の転舵制御回路51Aおよびモータ駆動回路51Bを有している。第2系統回路52は、第2の転舵制御回路52Aおよびモータ駆動回路52Bを有している。
【0043】
第1の転舵制御回路51Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第1の転舵制御回路51Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。第1の転舵制御回路51Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する第3の電流指令値を演算する。ただし、第3の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第1の転舵制御回路51Aは、第1系統の巻線群N21へ供給される実際の電流の値を第3の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路51Bに対する駆動信号を生成する。
【0044】
モータ駆動回路51Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第1の転舵制御回路51Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路42Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に供給される。これにより、第1系統の巻線群N21は第3の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0045】
第2の転舵制御回路52Aは、基本的には第1の反力制御回路41Aと同様の構成を有している。第2の転舵制御回路52Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置50は、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。第2の転舵制御回路52Aは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ31に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に対する第4の電流指令値を演算する。ただし、第4の電流指令値は、転舵モータ31に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の転舵制御回路52Aは、第2系統の巻線群N22へ供給される実際の電流の値を第4の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータ駆動回路52Bに対する駆動信号を生成する。
【0046】
モータ駆動回路52Bは、基本的にはモータ駆動回路41Bと同様の構成を有している。モータ駆動回路51Bは、第2の転舵制御回路52Aにより生成される駆動信号に基づき、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。モータ駆動回路52Bにより生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路を介して転舵モータ31の第2系統の巻線群N22に供給される。これにより、第2系統の巻線群N22は第4の電流指令値に応じたトルクを発生する。転舵モータ31は、第1系統の巻線群N21が発生するトルクと第2系統の巻線群N22が発生するトルクをトータルしたトルクを発生する。
【0047】
なお、製品仕様によっては、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係があってもよい。この場合、たとえば第1系統回路51がマスター、第2系統回路52がスレーブとして機能してもよい。また、製品仕様によっては、第1系統回路51と第2系統回路52とが対等の関係であってもよい。
【0048】
<通信経路>
つぎに、反力制御装置40および転舵制御装置50の内部の通信経路、ならびに反力制御装置40と転舵制御装置50との間の通信経路について説明する。
【0049】
図2に示すように、第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、通信線L1を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第2の反力制御回路42Aあるいはモータ駆動回路41B,42Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第2の反力制御回路42Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して反力モータ21の駆動を制御する。
【0050】
第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L2を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の転舵制御回路51A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路51B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の転舵制御回路51Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき協調して転舵モータ31の駆動を制御する。
【0051】
第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、通信線L3を介して互いに情報を授受する。情報には、第1の反力制御回路41A、第1の転舵制御回路51A、およびモータ駆動回路41B,51Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第1の反力制御回路41Aと第1の転舵制御回路51Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0052】
第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、通信線L4を介して互いに情報を授受する。情報には、第2の反力制御回路42A、第2の転舵制御回路52Aあるいはモータ駆動回路42B,52Bの異常情報が含まれる。また、情報には、各種の状態を示すフラグの値が含まれる。第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとは、互いに授受される情報に基づき連携して動作する。
【0053】
<モータの駆動モード>
つぎに、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードを説明する。駆動モードは、協調駆動モード、独立駆動モード、および片系統駆動モードを含む。
【0054】
協調駆動モードは、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52が正常に動作している通常時の駆動モードである。第1系統回路41および第2系統回路42は、指令値および制限値などの情報を互いに共用して、反力モータ21の第1系統の巻線群N11および第2系統の巻線群N12の双方に同等のトルクを発生させる。第1系統回路51および第2系統回路52は、指令値および制限値などの情報を互いに共用して、転舵モータ31の第1系統の巻線群N21および第2系統の巻線群N22の双方に同等のトルクを発生させる。
【0055】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして協調駆動モードが選択されるとき、スレーブはマスターにより演算される指令値を使用して反力モータ21の駆動を制御する。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして協調駆動モードが選択されるとき、スレーブはマスターにより演算される指令値を使用して転舵モータ31の駆動を制御する。
【0056】
独立駆動モードは、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のうちいずれか1つの動作が瞬時的に停止したものの異常が確定しておらず、正常動作へ復帰する可能性がある場合の駆動モードである。独立駆動モードでは、たとえば動作が停止した1つの制御回路に正常動作へ復帰する可能性があるとき、残りの3つの制御回路は、系統間通信による情報を使用することなく自己の演算結果に基づき自己に対応する巻線群にトルクを発生させる。
【0057】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして独立駆動モードが選択されるとき、第1系統回路41と第2系統回路42との間の主従関係は一旦解消される。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして独立駆動モードが選択されるとき、第1系統回路51と第2系統回路52との間の主従関係は一旦解消される。
【0058】
片系統駆動モードは、4つの制御回路(41A,42A,51A,52A)のうちいずれか1つの異常が確定し、正常動作へ復帰する可能性がない場合の駆動モードである。たとえば、第1系統回路41,51の異常が確定したとき、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31にトルクを発生させる。第2系統回路42,52の異常が確定したとき、第1系統回路41,51のみで反力モータ21および転舵モータ31にトルクを発生させる。
【0059】
反力制御装置40の第1系統回路41と第2系統回路42との間に主従関係がある場合、駆動モードとして片系統駆動モードが選択されるとき、第1系統回路41と第2系統回路42との間の主従関係は一旦解消される。また、転舵制御装置50の第1系統回路51と第2系統回路52との間に主従関係がある場合、駆動モードとして片系統駆動モードが選択されるとき、第1系統回路51と第2系統回路52との間の主従関係は一旦解消される。
【0060】
各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、異常が発生していない通常時、協調駆動モードで各モータ(21,31)の駆動を制御する。各制御回路は、駆動モードとして協調駆動モードが選択された状態において、異常判定条件が成立するとき、駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替える。また、各制御回路は、駆動モードとして独立駆動モードが選択された状態において、異常が確定する前に復帰判定条件が成立するとき、駆動モードを独立駆動モードから協調駆動モードへ復帰させる。また、各制御回路は、駆動モードとして独立駆動モードが選択された状態において、異常確定条件が成立するとき、駆動モードを独立駆動モードから片系統駆動モードへ切り替える。
【0061】
なお、異常は、たとえば系統間の通信異常、同一系統内の通信異常、系統間の指令値の乖離、および電流制限値の低下などの回復可能とされる一時的なものを含む。
<起動シーケンス>
つぎに、反力制御装置40および車両制御装置60の起動シーケンスについて説明する。起動シーケンスは、車両電源がオンされることを契機として実行される一連の処理である。車両電源がオフされている期間、反力制御装置40および車両制御装置60は、動作を停止した状態に維持される。車両電源がオンまたはオフすることは、たとえば運転席に設けられる起動スイッチがオンまたはオフすることでもある。起動スイッチは、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作されるものであって、たとえばイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。
【0062】
まず、車両制御装置60の起動シーケンスについて説明する。
図3のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき(時刻T1)、車両制御装置60は、定められた起動準備を実行開始する。起動準備は、車両制御装置60のイニシャルチェック、および車両のパワートレインを始動させるために必要とされる処理を含む。車両制御装置60は、起動準備が完了した後、パワートレイン(主に走行用駆動源)を始動させる。車両制御装置60は、パワートレインの始動処理が実行完了したとき、準備完了信号S1をオンする(時刻T2)。車両制御装置60は、反力制御装置40の状態に関係なく準備完了信号S1をオンする。
【0063】
なお、準備完了信号S1は、パワートレインの始動処理の実行完了を含め、車両の走行準備が完了して車両が走行可能な状態になったかどうかを示す情報である。準備完了信号S1がオンされていることは、車両が走行可能な状態になったことを示す。準備完了信号S1がオフされていることは、車両が走行可能な状態になっていないことを示す。準備完了信号S1は、電気信号として反力制御装置40に伝達される。
【0064】
つぎに、反力制御装置40の起動シーケンスについて説明する。
図3のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき(時刻T1)、反力制御装置40は起動して、イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理を順次実行し、やがてアシスト開始待ち状態に遷移する。イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行開始するために必要とされる一連の準備処理である。
【0065】
イニシャルチェックは、車両電源がオンされたことを契機として実行される初期点検であって、たとえばハードウェアのチェック、CPU(中央処理装置)の初期化、および変数あるいはフラグなどの初期化を含む。
【0066】
中点学習処理は、ステアリングホイール11の操舵中立位置を学習するための処理である。操舵装置10は、ステアリングホイール11の操舵角に限界を設けるためにステアリングホイール11の回転を規制するストッパ機構を有している。ストッパ機構は、たとえばステアリングホイール11の操舵範囲を360°未満に規制する。反力制御装置40は、反力モータ21の制御を通じてステアリングホイール11を第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させる。この後、反力制御装置40は、ステアリングホイール11の反転動作の開始時点および終了時点における反力モータ21の回転角に基づき操舵角の中点を演算する。操舵角の中点は、ステアリングホイール11が操舵中立位置に位置するときの反力モータ21の回転位置であるモータ中点に対応する。反力制御装置40は、操舵角の中点またはモータ中点をステアリングホイール11の操舵中立位置としてメモリに記憶する。
【0067】
反力制御装置40は、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報が消失している場合にステアリングホイール11の操舵中立位置を学習する。これは、たとえば車両に新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両電源がオンされたときが該当する。なぜならば、バッテリの交換作業に伴い車両からバッテリが取り外されたとき、反力制御装置40に電力が供給されなくなることに起因して、反力制御装置40のメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報が消失するからである。
【0068】
なお、製品仕様などによっては、反力制御装置40は、車両電源がオンされる度に中点学習処理を実行するようにしてもよいし、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報の信頼性が低下している場合に中点学習処理を実行するようにしてもよい。
【0069】
舵角同期処理は、ステアリングホイール11の回転位置を補正するための処理である。反力制御装置40は、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置と異なる位置であるとき、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置となるように反力モータ21を駆動させる。
【0070】
たとえば、反力制御装置40は、車両電源がオフされる際、その直前に検出される操舵角θsを基準操舵角として記憶する。基準操舵角は、車両電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準である。反力制御装置40は、車両電源がオンされた直後の操舵角θsが基準操舵角と一致しないとき、車両電源がオンされた直後の操舵角θsと基準操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御する。
【0071】
なお、反力制御装置40は、車両電源がオンされた直後の操舵角θsの値と、車両電源がオンされた直後の転舵角θwに対して舵角比の逆数を乗算した値との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御するようにしてもよい。
【0072】
アシスト開始待ち状態は、準備処理の実行完了後、車両制御装置60によるパワートレインの始動処理の実行完了が確認されるのを待っている状態である。反力制御装置40は、車両のパワートレインの始動状態に応じて、アシスト開始待ち状態から通常制御状態への遷移の可否を判定する。反力制御装置40は、車両制御装置60により準備完了信号S1がオンされていないとき、車両のパワートレインの始動処理が実行完了していない旨判定し、アシスト開始待ち状態を維持する。反力制御装置40は、車両制御装置60により準備完了信号S1がオンされているとき、車両のパワートレインの始動処理が実行完了している旨判定し(時刻T3)、アシスト開始待ち状態から通常制御状態へ遷移する。通常制御状態は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行する状態である。反力制御装置40は、通常制御状態であるとき、ステアリングホイール11の操舵状態に応じて反力モータ21の駆動を制御する。
【0073】
なお、図3のタイムチャートでは、車両制御装置60は、一例として中点学習処理の実行中に準備完了信号S1をオンしている。
<制御回路の補足説明>
つぎに、各制御回路(41A,42A,51A,52A)の構成について補足説明する。
【0074】
各制御回路の電源電圧には、動作保証範囲が設定されている。動作保証範囲は、仕様で動作することが保証された電圧の範囲である。各制御回路は、電源電圧が動作保証範囲外の値から動作保証範囲内の値に至ったことを契機として動作を開始して、先の図3のタイムチャートに示される起動シーケンスを実行する。
【0075】
各制御回路は、リセット機能を有している。定められたリセット要因が発生するとき、各制御回路はリセットされる。リセットは、各制御回路の内部状態を初期化するための処理である。リセット要因は、たとえば各制御回路の電源電圧の低下を含む。電源電圧が一時的に低下して、電源電圧の値が動作保証範囲から外れるとき、各制御回路はリセットされる。各制御回路は、リセットが完了したとき、先の図3のタイムチャートに示される起動シーケンスを再び実行する。
【0076】
ただし、各制御回路のリセットに起因して、つぎのようなことが懸念される。
図4(a)に示すように、たとえば、第1系統回路41,51の異常が確定したとき、第2系統回路42,52は、片系統駆動モードで動作する。すなわち、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31の制御が継続される。第1系統回路41,51は、動作を停止した状態に維持される。
【0077】
図4(b)に示すように、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31の制御が継続される状態において、たとえば、第2の反力制御回路42Aがリセットされることが考えられる。
【0078】
図4(c)に示すように、第2の反力制御回路42Aは、リセットが完了した後、先の図3のタイムチャートに示される起動シーケンスを実行する。起動シーケンスには、中点学習処理および舵角同期処理が含まれている。これら処理の実行中には、ステアリングホイール11の操舵中立位置を学習するために、あるいは、ステアリングホイール11の回転位置を補正するために、ステアリングホイール11が自動回転するおそれがある。
【0079】
このとき、第2の転舵制御回路52Aは、通常通り、転舵モータ31の制御を継続する。すなわち、第2の転舵制御回路52Aは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の転舵角θwを制御する。このため、ステアリングホイール11の自動回転に伴い、転舵輪15が自動的に転舵するおそれがある。
【0080】
この事象は、第2系統回路42,52の異常が確定した場合、第1系統回路41,51が片系統駆動モードで動作しているときにも発生する。第1系統回路41,51が片系統駆動モードで動作している場合、第1の反力制御回路41Aがリセットされるとき、ステアリングホイール11の自動回転に伴い、転舵輪15が自動的に転舵するおそれがある。
【0081】
したがって、車両の運転者は、いわゆるセルフステアリングに対して違和感を覚えることが懸念される。セルフステアリングは、運転者が意図していなくても、ステアリングホイール11が自動的に回転すること、あるいは転舵輪15が自動的に転舵することである。
【0082】
そこで、各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、起動時において、各制御回路のリセットに対処するための処理を実行する。
<制御回路の処理手順>
つぎに、各制御回路(41A,42A,51A,52A)が起動時に実行する処理の手順を図5のフローチャートに従って説明する。フローチャートの各処理は、図3のタイムチャートにおいて、車両電源がオンされた後、起動してからイニシャルチェックが終了するまでの期間に実行される。また、フローチャートの各処理は、定められた制御周期で実行される。ただし、起動は、車両電源がオンされたときの起動だけでなく、各制御回路のリセットが完了した後の再起動を含む。ここでは、第1の反力制御回路41Aを例に挙げて説明する。
【0083】
図5のフローチャートに示すように、第1の反力制御回路41Aは、起動した直後、リセットが発生したかどうかを判定する(ステップS101)。
第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオンされた場合、制御を開始したことをメモリに記憶する。また、第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオフされた場合、制御を停止したことをメモリに記憶する。第1の反力制御回路41Aは、たとえば、車両電源の状態に応じて、制御を開始したとき、または制御を停止したとき、フラグを特定の値にセットする。具体的には、第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオンされたことに伴って制御を開始したとき、フラグの値を「1」にセットする。第1の反力制御回路41Aは、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したとき、フラグの値を「0」にセットする。
【0084】
第1の反力制御回路41Aは、次回の起動時、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したことがメモリに記憶されているとき、すなわち、フラグの値が「0」であるとき、リセットは発生していないと判定する。第1の反力制御回路41Aは、次回の起動時、車両電源がオフされたことに伴って制御を停止したことがメモリに記憶されていないとき、すなわち、フラグの値が「1」であるとき、リセットが発生したと判定する。これは、車両電源がオフされる前に第1の反力制御回路41Aがリセットされることにより、制御を停止したことを示す情報をメモリに記憶することができず、フラグの値が「1」のまま維持されるからである。
【0085】
第1の反力制御回路41Aは、リセットが発生したと判定されるとき(ステップS101でYES)、反力モータ21の駆動モードが、自系統(ここでは、第1系統)による片系統駆動モードであるかどうかを判定する(ステップS102)。
【0086】
第1の反力制御回路41Aは、他系統の制御回路の状態、ここでは第2系統である第2の反力制御回路42Aの状態に基づき、自系統の駆動モードを判定する。第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aとの間の通信により、第2の反力制御回路42Aの状態を認識する。第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aが正常に動作しているとき、自系統による片系統駆動モードではないと判定する。第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aの動作が停止しているとき、自系統による片系統駆動モードであると判定する。
【0087】
なお、第1の反力制御回路41Aは、第2の反力制御回路42Aとの間で通信を行うことができない場合、第2の反力制御回路42Aの中間電圧の監視結果に基づき、第2の反力制御回路42Aの状態を認識するようにしてもよい。中間電圧は、第2の反力制御回路42Aの電源リレーと逆接リレーとの間の電圧である。電源リレーおよび逆接リレーは、第2の反力制御回路42Aに対する給電経路に設けられる。第1の反力制御回路41Aは、たとえば第2の反力制御回路42Aの中間電圧が、定められた電圧しきい値未満であるとき、第2の反力制御回路42Aの動作が停止していると判定する。
【0088】
第1の反力制御回路41Aは、自系統による片系統駆動モードであると判定されるとき(ステップS102でYES)、自系統による反力モータ21および転舵モータ31の駆動を停止させるための処理を実行する(ステップS103)。
【0089】
第1の反力制御回路41Aは、自己の動作を停止させる停止制御を実行する。第1の反力制御回路41Aの動作を停止することは、反力モータ21の第1系統の巻線群N11に対する給電を停止させることでもある。第1の反力制御回路41Aは、停止制御の実行開始から、定められた期間だけ経過したとき、自己の電源リレーをオフすることにより、自己に対する給電を遮断する。これにより、第1の反力制御回路41Aは、動作を停止する。
【0090】
第1の反力制御回路41Aと同系統である第1の転舵制御回路51Aは、第1の反力制御回路41Aとの間の通信により、第1の反力制御回路41Aの状態を認識する。第1の転舵制御回路51Aは、第1の反力制御回路41Aの停止制御の実行開始が認識されるとき、第1の反力制御回路41Aと同期するかたちで、自己の停止制御を実行開始する。第1の転舵制御回路51Aの動作を停止することは、転舵モータ31の第1系統の巻線群N21に対する給電を停止させることでもある。第1の転舵制御回路51Aは、停止制御の実行開始から、定められた期間だけ経過したとき、自己の電源リレーをオフすることにより、自己に対する給電を遮断する。これにより、第1の転舵制御回路51Aは、動作を停止する。
【0091】
なお、製品仕様によっては、第1の反力制御回路41Aは、第1の転舵制御回路51Aに対して停止制御の実行開始を要求する指令信号を送信するようにしてもよい。この場合、第1の転舵制御回路51Aは、指令信号が受信されるとき、停止制御の実行を開始する。また、製品仕様によっては、第1の反力制御回路41Aは、停止制御の実行を通じて、自己に対する給電を遮断するのではなく、単に、反力モータ21の制御を停止するようにしてもよい。この場合、第1の転舵制御回路51Aは、第1の反力制御回路41Aの状態に基づき、転舵モータ31の制御を停止する。
【0092】
つぎに、第1の反力制御回路41Aは、定められた停車要求処理を実行する(ステップS104)。第1の反力制御回路41Aは、車両制御装置60に対する停車要求信号S2を生成し、生成される停車要求信号S2を、車載ネットワーク61を介して車両制御装置60に送信する。停車要求信号S2は、車両制御装置60に対して、車両を安全に停車させるための処理の実行を要求する電気信号である。
【0093】
なお、第1の反力制御回路41Aは、先のステップS101でリセットが発生したと判定されないとき(ステップS101でNO)、および先のステップS102で自系統による片系統駆動モードであると判定されないとき(ステップS102でNO)、処理を終了する。
【0094】
以上で、第1の反力制御回路41Aの起動時の処理が完了となる。
ちなみに、第2の反力制御回路42A、第1の転舵制御回路51A、および第2の転舵制御回路52Aは、起動時、第1の反力制御回路41Aと同様に、図5のフローチャートの各処理を実行する。
【0095】
<本実施の形態の作用>
つぎに、本実施の形態の作用を説明する。
図6(a)に示すように、たとえば、第1系統回路41,51の異常が確定したとき、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31の制御が継続される。第1系統回路41,51は、動作を停止した状態に維持されている。この状態において、たとえば、第2の反力制御回路42Aのみがリセットされることが考えられる。
【0096】
図6(b)に示すように、第2の反力制御回路42Aは、リセットの完了後、再起動する。ただし、第2の反力制御回路42Aは、再起動した後、即時に停止制御を実行開始する。第2の反力制御回路42Aは、遅くとも起動シーケンスにおける中点学習が実行開始される前までに、すなわちステアリングホイール11の自動回転が開始される前までに動作を停止する。
【0097】
第2の反力制御回路42Aと同一系統である第2の転舵制御回路52Aは、第2の反力制御回路42Aと連携して動作する。第2の転舵制御回路52Aは、第2の反力制御回路42Aと同期するように、停止制御の実行を開始する。第2の転舵制御回路52Aは、遅くとも起動シーケンスにおける中点学習が実行開始される前までに動作を停止する。
【0098】
このように、駆動モードが第2系統による片系統モードである場合、第2の反力制御回路42Aがリセットされたとき、起動シーケンスにおける中点学習処理、および舵角同期処理が実行されない。このため、ステアリングホイール11の自動回転が回避される。また、ステアリングホイール11の自動回転の影響により、転舵輪15の転舵角θwが意図せず変化することが抑制される。
【0099】
ただし、第1系統回路41,51および第2系統回路42,52の全部が停止するため、適切な反力制御、および適切な転舵制御を実行することが困難となる。
そこで、第2の反力制御回路42Aは、リセットの完了後に再起動したとき、動作を停止する前に、車両制御装置60に対して停車要求信号S2を送信する。車両制御装置60は、停車要求信号S2が受信されるとき、車両を安全に停車させるべく定められた停車処理を実行する。停車処理は、たとえば、運転者の運転状態にかかわらず、車両を路肩などの安全な場所に寄せて自動停止させる自動退避処理を含む。停車処理の実行を通じて、車両は安全に停車する。
【0100】
ちなみに、つぎのような状況も想定される。
図7に示すように、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31の制御が継続されている場合において、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aの両方がリセットされることが考えられる。
【0101】
この場合であれ、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aの少なくとも一方が、リセット完了後の再起動時に、先の図5のフローチャートに示される起動時の処理を実行する。これにより、第2系統回路42,52の動作が停止する。また、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aの少なくとも一方が、車両制御装置60に対して停車要求信号S2を送信することにより、車両を安全に停車させることができる。
【0102】
なお、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aの両方がリセットされる場合、いわゆるセルフステアリングにはつながらない。このため、必ずしもリセット系統を停止する必要はないともいえる。しかし、第2の反力制御回路42Aと、第2の転舵制御回路52Aとの両方の起動シーケンスが完了しなければ通常制御に復帰できない。すなわち、反力制御および転舵制御が実行されない状況が、長時間にわたって継続するおそれがある。したがって、リセットが発生した系統の動作を停止することが望ましい。
【0103】
また、つぎのような状況も想定される。
図8に示すように、第2系統回路42,52のみで反力モータ21および転舵モータ31の制御が継続されている場合において、第2の転舵制御回路52Aのみがリセットされる状況も考えられる。
【0104】
この場合であれ、第2の転舵制御回路52Aが、リセット完了後の再起動時に、先の図5のフローチャートに示される起動時の処理を実行する。これにより、第2系統回路42,52の動作を停止させることができる。また、第2の転舵制御回路52Aが、車両制御装置60に対して停車要求信号S2を送信することにより、車両を安全に停車させることができる。
【0105】
なお、第2の転舵制御回路52Aのみがリセットされる場合、いわゆるセルフステアリングにはつながらない。このため、必ずしもリセット系統を停止する必要はないともいえる。しかし、第1系統回路41,51の異常の内容によっては、第2の転舵制御回路52Aの起動シーケンスが正常に終了できないことにより、反力制御および転舵制御が実行されない状況が継続するおそれがある。したがって、リセットが発生した系統を停止することが望ましい。
【0106】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)たとえば、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第2系統による片系統駆動モードである場合、第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aのうち少なくとも一方がリセットされた場合、つぎの処理が実行される。すなわち、リセットされた第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aのうち少なくとも一方は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。
【0107】
このため、片系統駆動モードで動作している場合において、反力モータ21または転舵モータ31の適切な制御が阻害された状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。すなわち、再起動に伴う起動シーケンスの実行により、ステアリングホイール11および転舵輪15が意図せず動作する状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、第2系統による片系統駆動モードで動作している場合において、正常に動作している第2の反力制御回路42Aおよび第2の転舵制御回路52Aのうち少なくとも一方のリセットに対して、適切に対処することができる。
【0108】
なお、反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第1系統による片系統駆動モードである場合、第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aのうち少なくとも一方がリセットされたときにおいても、第2系統による片系統駆動モードの場合と同様の処理が実行される。すなわち、リセットされた第1の反力制御回路41Aおよび第1の転舵制御回路51Aのうち少なくとも一方は、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。したがって、第2系統による片系統駆動モードの場合と同様の効果を得ることができる。
【0109】
(2)反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第2系統による片系統駆動モードである場合、たとえば、第2の反力制御回路42Aがリセットされた場合、つぎの処理が実行される。すなわち、リセットされた第2の反力制御回路42Aは、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である反力モータ21の駆動を停止させる。また、リセットされることなく正常に動作している第2の転舵制御回路52Aは、第1の反力制御回路41Aに同期するかたちで、自己の制御対象である転舵モータ31の駆動を停止させる。
【0110】
このため、再起動に伴う起動シーケンスの実行に起因する、ステアリングホイール11および転舵輪15の意図しない挙動を抑制することができる。また、再起動に伴う起動シーケンスの実行により、ステアリングホイール11および転舵輪15が意図せず動作する状態で、車両の走行が継続されることを抑制することができる。したがって、第2系統による片系統駆動モードで動作している場合において、正常に動作している第2の反力制御回路42Aのリセットに対して、適切に対処することができる。
【0111】
なお、つぎの3つの場合A1~A3においても、第2の反力制御回路42Aがリセットされた場合と同様の処理が実行される。したがって、第2の反力制御回路42Aがリセットされた場合と同様の効果を得ることができる。
【0112】
A1.反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第2系統による片系統駆動モードである場合、第2の転舵制御回路52Aがリセットされたとき。
A2.反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第2系統による片系統駆動モードである場合、第2の反力制御回路42Aと第2の転舵制御回路52Aとの両方がリセットされたとき。
【0113】
A3.反力モータ21および転舵モータ31の駆動モードが第1系統による片系統駆動モードである場合、第2の転舵制御回路52Aおよび第2の転舵制御回路52Aのうち少なくとも一方がリセットされたとき。
【0114】
(3)各制御回路(41A,42A,51A,52A)は、起動時において、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されている場合にはリセットされていないと判定する。また、各制御回路は、起動時において、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されていない場合にはリセットされたと判定する。
【0115】
各制御回路は、車両電源がオフされる前にリセットされた場合、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報をメモリに記憶することができない。このため、各制御回路は、起動時において、車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報が記憶されているかどうかに基づき、リセットされたかどうかを判定することができる。車両電源のオフに伴って制御を停止したことを示す情報は、たとえばフラグである。
【0116】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・反力制御装置40は、車両電源がオンされたことを契機として、始動許可判定処理を実行するようにしてもよい。始動許可判定処理は、車両制御装置60にパワートレインの始動を許可するかどうかを判定する処理である。反力制御装置40は、反力制御の準備処理である起動シーケンスが完了したとき、アシスト開始待ち状態へ遷移するとともに、始動許可信号をオンする。反力制御装置40は、起動シーケンスが完了していないとき、始動許可信号をオフする。始動許可信号は、車両制御装置60にパワートレインの始動を許可するかどうかを示す情報である。始動許可信号がオンされていることは、車両制御装置60にパワートレインの始動を許可することを示す。始動許可信号がオフされていることは、車両制御装置60にパワートレインの始動を許可しないことを示す。始動許可信号は、電気信号として車両制御装置60に伝達される。
【0117】
車両制御装置60は、車両電源がオンされたとき、定められた起動準備を実行開始する。車両制御装置60は、起動準備が完了した後、始動許可待ち状態に遷移する。始動許可待ち状態は、反力制御装置40によってパワートレインの始動が許可されること、すなわち始動許可信号がオンされることを待っている状態である。車両制御装置60は、始動許可待ち状態で始動許可信号がオンされた旨認識されるとき、車両のパワートレインを始動させる。車両制御装置60は、パワートレインの始動処理の実行が完了したとき、準備完了信号S1をオンする。反力制御装置40は、アシスト開始待ち状態において、準備完了信号S1がオンされている旨認識されるとき、通常制御状態へ遷移する。反力制御装置40は、ステアリングホイール11の操舵状態に応じて反力モータ21の駆動を制御する。
【0118】
このように、車両制御装置60は、自身の起動準備が完了した場合であれ、反力制御装置40による反力制御の準備処理が完了していないとき、その準備処理が完了するのを待って、車両のパワートレインを始動させる。このため、車両は、反力制御装置40が反力制御を実行可能な状態であるアシスト開始待ち状態に遷移した後でしか走行することができない。したがって、反力制御装置40が準備処理の実行途中であるにも関わらず、車両が走行可能な状態になることが回避される。また、運転者にとってより安全な状態、すなわち運転者の意図する方向へ車両を転向させることができる状態で車両の走行を開始することができる。
【0119】
・反力制御装置40が、前述した始動許可判定処理を実行する機能を有する場合、図5のフローチャートのステップS101において、各制御回路は、(41A,42A,51A,52A)は、つぎのようにして、リセットが発生したかどうかを判定するようにしてもよい。すなわち、各制御回路は、起動した直後に準備完了信号S1がオンした状態であるとき、リセットが発生したと判定する。反力制御装置40は、起動シーケンスが正常に完了した場合のみ、車両制御装置60に対する始動許可信号をオンする。このため、各制御回路が起動した直後に準備完了信号S1がオンとなるのは、各制御回路がリセットされた場合のみである。
【0120】
図5のフローチャートのステップS103およびステップS104は、処理順序を逆にしてもよい。
・製品仕様などによっては、片系統駆動モードである場合、第1系統の2つの制御回路(41A,51A)、または第2系統の2つの制御回路(42A,52A)のうち少なくとも1つの制御回路がリセットされたとき、各制御回路は、反力モータ21および転舵モータ31を停止させるための処理を実行しないようにしてもよい。
【0121】
・本実施の形態において、反力モータ21および転舵モータ31は、2系統の巻線群を有していたが、1系統の巻線群を有するものであってもよい。この場合、反力制御装置40は、第1系統回路41および第2系統回路42のうちいずれか一方のみを有していてもよい。また、転舵制御装置50は、第1系統回路51および第2系統回路52のうちいずれか一方のみを有していてもよい。この場合、第1の反力制御回路41Aまたは第2の反力制御回路42Aは、反力制御回路に相当する。第1の転舵制御回路51Aまたは第2の転舵制御回路52Aは、転舵制御回路に相当する。
【0122】
反力制御装置40が第1系統回路41のみを有する一方、転舵制御装置50が第1系統回路51のみを有している場合、つぎの処理が実行される。たとえば、正常に動作している第1の反力制御回路41Aがリセットされた場合、リセットされた第1の反力制御回路41Aは、リセット完了後に再起動したとき、車両の走行を停止させるための処理を実行する。
【0123】
また、正常に動作している第1の反力制御回路41Aがリセットされた場合、リセットされた第1の反力制御回路41Aは、リセット完了後に再起動したとき、自己の制御対象である反力モータ21の駆動を停止させる。リセットされることなく正常に動作している第1の転舵制御回路51Aは、リセットされた第1の反力制御回路41Aに同期するかたちで、自己の制御対象である転舵モータ31の駆動を停止させる。
【0124】
なお、正常に動作している第1の転舵制御回路51Aがリセットされた場合においても、上記と同様の処理が実行される。製品仕様などによっては、反力モータ21および転舵モータ31を停止させるための処理が実行されないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0125】
11…ステアリングホイール
15…転舵輪
21…反力モータ
31…転舵モータ
40…操舵制御装置を構成する反力制御装置
41A…第1の反力制御回路
42A…第2の反力制御回路
50…操舵制御装置を構成する転舵制御装置
51A…第1の転舵制御回路
52A…第2の転舵制御回路
N11…反力モータの第1系統の巻線群
N12…反力モータの第2系統の巻線群
N21…転舵モータの第1系統の巻線群
N22…転舵モータの第2系統の巻線群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8