(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086007
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】濾過装置および濾過方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/28 20060101AFI20240620BHJP
C12M 1/12 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C12M1/28
C12M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200850
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】有福 賢人
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029HA02
4B029HA05
4B029HA06
(57)【要約】
【課題】回収容器からの濾過装置の脱落を抑制でき、細胞および細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液から濾過対象物を短時間で濾し取って細胞を回収できるとともに、濾過対象物の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる濾過装置および濾過方法を提供する。
【解決手段】細胞100および濾過対象物110を含む懸濁液をピペット30から供給されて濾過対象物110を濾し取り、細胞100を含む懸濁液を遠沈管20に移送する濾過装置10であって、流路41が形成される本体40と、ピペット30のノズル31を差し込み可能であり、ノズル31と気密に密着可能であり、上流側の流路41と連通する差し込み部60と、差し込み部60よりも下流側に配置される濾過部50と、濾過部50よりも下流側に配置されて遠沈管20に連結可能な連結部80と、流路41の濾過部50よりも下流側の圧力を外部へ逃がす圧力緩衝部90と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞および前記細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液を供給容器から供給されて前記濾過対象物を濾し取り、前記細胞を含む懸濁液を回収容器に移送する濾過装置であって、
前記懸濁液が供給される上流側から前記懸濁液を放出する下流側まで延びる流路が内部に形成される本体と、
前記供給容器のノズルを差し込み可能であり、前記ノズルと気密に密着可能な密封部を備え、上流側の前記流路と連通する差し込み部と、
前記流路の前記差し込み部よりも下流側に前記流路内に配置されて前記濾過対象物を捕集する濾過部と、
前記回収容器に連結可能な連結部と、
前記流路の前記濾過部よりも下流側の圧力を前記本体の外部へ逃がす圧力緩衝部と、を有する濾過装置。
【請求項2】
前記濾過部は、第1ストレーナーと、前記第1ストレーナーよりも下流側に配置される第2ストレーナーと、を有する請求項1に記載の濾過装置。
【請求項3】
前記圧力緩衝部は、前記流路の前記濾過部よりも下流側にて開口する内側開口部と、前記内側開口部と連通して前記本体の外部へ開口する外側開口部と、を有する請求項1また2に記載の濾過装置。
【請求項4】
前記外側開口部は、前記本体の外部で下流側へ向かって開口する請求項3に記載の濾過装置。
【請求項5】
前記圧力緩衝部は、無菌フィルタが配置される請求項3に記載の濾過装置。
【請求項6】
前記流路の前記濾過部よりも下流側に配置されて口径が下流側へ向かって減少する漏斗部を有する請求項1または2に記載の濾過装置。
【請求項7】
細胞および細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液を供給容器から供給されて前記濾過対象物を濾し取り、前記細胞を含む懸濁液を回収容器に移送する濾過装置による濾過方法であって、
前記回収容器の開口部に前記濾過装置を連結し、
前記濾過装置の前記懸濁液が供給される差し込み部に前記供給容器のノズルを気密に密着するように差し込み、前記供給容器から押し込み圧を作用させて前記懸濁液を前記差し込み部から前記濾過装置内の流路に供給し、
前記流路を隔てるように配置されて前記濾過対象物を捕集する濾過部よりも上流側の前記流路を陽圧としつつ、前記濾過部よりも下流側の前記流路を前記濾過装置の外部に逃がして前記濾過部により前記濾過対象物を濾し取り、前記濾過部を通過した前記細胞を含む懸濁液を前記回収容器に回収する、濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液から濾過対象物を濾過する濾過装置および濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患による心不全の改善のために、患者自身から採取して培養した細胞をシート状に形成した医療用シートを作成し、患者の心臓等の患部に移植することが行われている。
【0003】
特許文献1には、細胞を回収する遠沈管の開口部に取り付けられて、患者から採取した筋肉から分離した細胞を含む懸濁液から、組織片等の濾過対象物を濾し取るストレーナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ストレーナーは、濾過時に詰まりやすく、濾過に多くの時間を要するとともに、詰まることで懸濁液がこぼれる可能性がある。また、濾過時にはストレーナーをピンセット等で保持しながら作業する場合があるが、ストレーナーが遠沈管に固定されていない場合には、ストレーナーが遠沈管から脱落する可能性がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、回収容器からの濾過装置の脱落を抑制でき、細胞および細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液から濾過対象物を短時間で濾し取って細胞を回収できるとともに、濾過対象物の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる濾過装置および濾過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
【0008】
(1) 本発明に係る濾過装置は、細胞および前記細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液を供給容器から供給されて前記濾過対象物を濾し取り、前記細胞を含む懸濁液を回収容器に移送する濾過装置であって、前記懸濁液が供給される上流側から前記懸濁液を放出する下流側まで延びる流路が内部に形成される本体と、前記供給容器のノズルを差し込み可能であり、前記ノズルと気密に密着可能な密封部を備え、上流側の前記流路と連通する差し込み部と、前記流路の前記差し込み部よりも下流側に前記流路を隔てるように前記流路内に配置されて前記濾過対象物を捕集する濾過部と、前記前記回収容器に連結可能な連結部と、前記流路の前記濾過部よりも下流側の圧力を前記本体の外部へ逃がす圧力緩衝部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)に記載の濾過装置は、回収容器に連結可能な連結部を有するため、回収容器から脱落することを抑制できる。さらに、濾過装置は、供給容器からの押し込み圧を利用して濾過部よりも上流側の流路内の懸濁液を陽圧にできるため、濾過部により濾過対象物を短時間で濾し取って細胞を回収できるとともに、濾過部における濾過対象物の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。
【0010】
(2) 上記(1)に記載の濾過装置において、前記濾過部は、第1ストレーナーと、前記第1ストレーナーよりも下流側に配置される第2ストレーナーと、を有してもよい。これにより、濾過装置は、濾過対象物の濾過を第1ストレーナーおよび第2ストレーナーに分散して行うため、詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生をさらに抑制できる。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)に記載の濾過装置において、前記圧力緩衝部は、前記流路の前記濾過部よりも下流側にて開口する内側開口部と、前記内側開口部と連通して前記本体の外部へ開口する外側開口部と、を有してもよい。これにより、濾過装置は、濾過部の下流側を略大気圧とし、濾過部よりも上流側の流路内の陽圧の懸濁液を、効果的に濾過部へ押し付けて濾過することができる。
【0012】
(4) 上記(3)に記載の濾過装置において、前記外側開口部は、前記本体の外部で下流側へ向かって開口してもよい。これにより、濾過装置は、回収容器内への外側開口部からの濾過対象物の混入を抑制できる。
【0013】
(5) 上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の濾過装置において、前記圧力緩衝部は、無菌フィルタが配置されてもよい。これにより、濾過装置は、回収容器内への圧力緩衝部からの菌の混入を抑制できる。
【0014】
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の濾過装置において、前記濾過装置は、前記流路の前記濾過部よりも下流側に配置されて口径が下流側へ向かって減少する漏斗部を有してもよい。これにより、濾過装置は、濾過部を通過した細胞および液体を、連結部と回収容器との間の連結個所から漏らさずに、回収容器内へ効果的に回収できる。
【0015】
(7) 本発明に係る濾過方法は、細胞および細胞よりも大きな濾過対象物を含む懸濁液を供給容器から供給されて前記濾過対象物を濾し取り、前記細胞を含む懸濁液を回収容器に移送する濾過装置による濾過方法であって、前記回収容器の開口部に前記濾過装置を連結し、前記濾過装置の前記懸濁液が供給される差し込み部に前記供給容器のノズルを気密に密着するように差し込み、前記供給容器から押し込み圧を作用させて前記懸濁液を前記差し込み部から前記濾過装置内の流路に供給し、前記流路を隔てるように配置されて前記濾過対象物を捕集する濾過部よりも上流側の前記流路を陽圧としつつ、前記濾過部よりも下流側の前記流路を前記濾過装置の外部に逃がして前記濾過部により前記濾過対象物を濾し取り、前記濾過部を通過した前記細胞を含む懸濁液を前記回収容器に回収する。
【0016】
上記(7)に記載の濾過方法は、濾過装置を回収容器に連結するため、濾過装置が回収容器から脱落することを抑制できる。さらに、本濾過方法は、回収容器からの押し込み圧を利用して濾過部よりも上流側の流路内の懸濁液を陽圧にすることで、濾過部により濾過対象物を短時間で濾し取って細胞を回収容器に回収できるとともに、濾過部における濾過対象物の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る濾過装置を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る濾過装置を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る濾過装置を遠沈管に取り付けて使用している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
本実施形態に係る濾過装置10は、
図3に示すように、遠沈管20(回収容器)に連結して、ピペット30(供給容器)から注がれる細胞100および細胞100よりも大きな濾過対象物110を含む懸濁液から濾過対象物110を分離し、所望の細胞100を液体とともに遠沈管20に通して回収するデバイスである。濾過対象物110は、例えば組織片等の固形成分である。遠沈管20に回収された細胞100は、培養して医療用シートの作成に使用される。なお、回収された細胞100の用途は、これに限定されない。
【0020】
回収容器である遠沈管20は、
図1~3に示すように、底のある円筒形状の容器であり、上端に開口部21を有している。開口部21の外周面には、螺合により蓋(図示せず)を連結可能な容器側ねじ部22が形成される。遠沈管20は、例えばガラスや樹脂により形成される。なお、濾過装置10が連結される回収容器は、細胞100を液体とともに回収可能な容器であれば、遠沈管20に限定されない。
【0021】
供給容器であるピペット30は、細胞100や濾過対象物110を含む懸濁液を吸い込んだり、放出したりするノズル31を有している。なお、懸濁液を供給する供給容器は、ピペット30に限定されず、例えばシリンジ等であってもよい。
【0022】
濾過装置10は、懸濁液が流れる流路41が形成される略筒状の本体40と、流路41に配置されるストレーナー50と、ピペット30を差し込み可能な差し込み部60と、本体40の内側で濾過部50の下流側に配置される漏斗部70と、遠沈管20に連結可能な連結部80と、遠沈管20の内部の圧力を逃がすための圧力緩衝部90とを有する。
【0023】
本体40は、内部に流路41が形成される周壁42と、流路41の上流側の開口端を塞ぐように周壁42の上端に連結される閉鎖部43とを有する。周壁42は、円筒形状に形成されて、内周面に濾過部50が固定されている。なお、周壁42の形状は、内部に流路41を形成可能であれば、円筒形状に限定されない。閉鎖部43は、流路41の上流側の開口端を塞ぐように平板状に形成される。なお、閉鎖部43は、周壁42の上端から滑らかに連続するように半球状に形成されてもよい。本実施形態において、上流側は、流路41の懸濁液が供給される側であり、下流側は、流路41の懸濁液を放出する側である。濾過装置10は、開口部21を上側として配置される遠沈管20に連結されて使用されるため、使用状態において、上流側は上側と略一致し、下流側は下側と略一致する。
【0024】
濾過部50は、流路41の上流側と下流側を隔てるように本体40の内周面に連結された第1ストレーナー51および第2ストレーナー52を有する。第1ストレーナー51は、第2ストレーナー52よりも上流側に、第2ストレーナー52から所定の間隔を空けて配置される。第1ストレーナー51および第2ストレーナー52は、いずれも、流路41の上流側と下流側とを隔てるように配置される。
【0025】
第1ストレーナー51は、第2ストレーナー52よりも先に流路41を流れる懸濁液に接触し、大きな濾過対象物111を濾し取って捕集するメッシュ構造を有している。第1ストレーナー51は、メッシュ構造を支持して補強するリブ等の構造を有してもよい。第1ストレーナー51のメッシュ構造の穴の寸法は、所望の細胞100および大きな濾過対象物111よりも小さな濾過対象物112を通過させることができ、かつ大きな濾過対象物111を通過させずに濾し取ることができる大きさであり、例えば100μm、500μm、または1000μm等である。第1ストレーナー51のメッシュ構造の材料は、例えばナイロン、ポリアセタール、ポリエチレンまたはポリプロピレン等である。
【0026】
第2ストレーナー52は、第1ストレーナー51の後に流路41を流れる懸濁液に接触し、小さな濾過対象物112を捕集するメッシュ構造を有している。第2ストレーナー52は、メッシュ構造を支持して補強するリブ等の構造を有してもよい。第2ストレーナー52のメッシュ構造の穴の寸法は、第2ストレーナー52のメッシュ構造の穴の寸法よりも小さく、かつ所望の細胞100を通過させることができる大きさである。第2ストレーナー52のメッシュ構造の穴の寸法は、例えば1μm、70μm、または100μm等である。第2ストレーナー52のメッシュ構造の材料は、例えばナイロン、ポリアセタール、ポリエチレンまたはポリプロピレン等である。
【0027】
なお、本実施形態では、濾過部50は、第1ストレーナー51および第2ストレーナー52の2つのストレーナーを有するが、ストレーナーは1つのみであってもよく、または3つ以上であってもよい。ストレーナーが3つ以上ある場合、ストレーナーの各々は、流路41の上流側から下流側へ向かって間隔を空けつつ、流路41の上流側と下流側とを隔てるよう配置される。そして、下流側のストレーナーの方が、上流側のストレーナーよりも、穴の寸法が小さいメッシュ構造を有することが好ましい。
【0028】
差し込み部60は、閉鎖部43を貫通するように形成されて、閉鎖部43および周壁42により形成された内部空間へ、供給容器であるピペット30を差し込まれる部位である。差し込み部60は、閉鎖部43から上方へ延びる円筒形状の差し込み筒61と、差し込み筒61の上端に配置されてピペット30と密着する密封部62とを有する。密封部62は、柔軟で接触対象であるピペット30に気密に密着できる材料により形成されるリング状のパッキンである。密封部62の材料は、柔軟で接触対象に密着しやすいゴムや樹脂であることが好ましく、例えばシリコーンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、またはウレタンゴム等である。
【0029】
漏斗部70は、第2ストレーナー52の下流側で本体40の内周面に連結されて、下流側へ向かって口径を減少させつつ延びる管状の部位である。漏斗部70の最下端には、最も口径が減少した出口71が形成される。漏斗部70は、第1ストレーナー51および第2ストレーナー52を通って濾過された細胞100を含む液体を、外部へ漏れることなく効率的に遠沈管20へ誘導する。出口71の外径は、遠沈管20の内壁面の内径よりも小さいことが好ましい。出口71は、連結部80の上端(連結部80を遠沈管20に連結した際の遠沈管20の開口部21の位置)よりも下流側に位置することが好ましいが、これに限定されない。
【0030】
連結部80は、本体40の漏斗部70が連結された部位よりも下側に配置されて、遠沈管20に取り付けられる部位である。連結部80の内周面には、遠沈管20の容器側ねじ部22と螺合可能な装置側ねじ部81が形成される。
【0031】
圧力緩衝部90は、濾過装置10が遠沈管20に連結された状態で、遠沈管20の内部の圧力を外部へ逃がす部位である。圧力緩衝部90は、閉鎖部43、第1ストレーナー51、第2ストレーナー52および漏斗部70を貫通する管体であり、閉鎖部43から上側へ延びる外側管体91と、閉鎖部43から下側へ延びて第1ストレーナー51、第2ストレーナー52および漏斗部70を貫通する内側管体92とを有する。外側管体91は、閉鎖部43の中央部(本体40の中心軸に近い部位)よりも周壁42側へ偏った位置を貫通して上側へ延び、屈曲部93で約180度折り返すように曲がり、下側へ向かって外部へ開口する外側開口部94に到達する。屈曲部93は、閉鎖部43の中央部(本体40の中心軸に近い部位)に向かって曲がることが好ましい。これにより、外側開口部94は、閉鎖部43の上面に向かって開口する。外側開口部94は、周壁42の外周面の延長面よりも内側(本体40の中心軸に近い側)にあり、周壁42の外周面の延長面から外側へ突出しないことが好ましい。
【0032】
内側管体92は、本体40の中心軸よりも周壁42の内周面側に偏った位置で、閉鎖部43から下側へ延びて第1ストレーナー51、第2ストレーナー52および漏斗部70を貫通し、流路41の第2ストレーナー52よりも下流側で開口する内側開口部95に到達する。内側開口部95は、流路41を流れる懸濁液が接触しにくいように、周壁42と漏斗部70との間(漏斗部70の径方向外側)に配置され、漏斗部70の出口71よりも上流側(上側)に配置されることが好ましいが、これに限定されない。内側管体92が第1ストレーナー51、第2ストレーナー52および漏斗部70と接する部位から懸濁液が漏出せずかつ圧力が逃げないように、内側管体92の外周面は、第1ストレーナー51、第2ストレーナー52および漏斗部70に対して密着して気密に連結される。外側管体91または内側管体92の通路には、無菌フィルタ96が配置されるが、配置されなくてもよい。
【0033】
密封部62を除く差し込み部60、本体40、漏斗部70、連結部80、および圧力緩衝部90の材料は、使用時に形状を安定して維持できるようにある程度の強度を有することが好ましく、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂(例えばテフロン(登録商標))、塩化ビニル等である。密封部62を除く差し込み部60、本体40、漏斗部70、連結部80および圧力緩衝部90は、一体的に形成されても、少なくとも一部が別体として形成されて連結されてもよい。
【0034】
上述のように構成された濾過装置10は、第1ストレーナー51よりも上流側で周壁42、閉鎖部43および第1ストレーナー51により形成される第1収容部11と、周壁42、第1ストレーナー51および第2ストレーナー52により形成される第2収容部12と、第2ストレーナー52よりも下流側で周壁42、漏斗部連結部80および第2ストレーナー52により形成される放出部13とを有する。
【0035】
次に、本実施形態に係る濾過装置10の使用方法を説明する。
【0036】
初めに、使用者は、遠沈管20から蓋を取り外し、遠沈管20の開口部21に濾過装置10の連結部80を被せて、
図2に示すように、容器側ねじ部22に装置側ねじ部81を螺合させる。これにより、濾過装置10が遠沈管20に強固に連結される。このため、濾過装置10は、例えば手やピペット等がぶつかる等によって外部から力を受けても、遠沈管20から脱落することを抑制できる。
【0037】
次に、使用者は、濾過する懸濁液をピペット30にて吸い取り、ピペット30を濾過装置10の差し込み部60に差し込んで、ピペット30を密封部62に密着させる。これにより、ピペット30のノズル31は、差し込み筒61または第1収容部11に位置した状態となる。
【0038】
次に、使用者は、
図3に示すように、ピペット30を摘まんで押圧して懸濁液をノズル31から放出させる。これにより、懸濁液は、第1収容部11に流入する。懸濁液は、自重により下方の第1ストレーナー51側に溜まる。このとき、ピペット30は密封部62に密着しているため、ピペット30と密封部62との間に隙間からは、懸濁液は漏出せず、圧力も逃げない。そして、第1収容部11は、本体40により囲まれており、差し込み部60および第1ストレーナー51以外に外部への通路が存在しない。これにより、第1収容部11の内部は、使用者がピペット30を摘まんで押圧することによるピペット30の押し込み圧(ピペット30の内圧)により、第1ストレーナー51を挟んで隣接する第2収容部12よりも高い陽圧となる。したがって、第1収容部11の内部の懸濁液は、自重および高い陽圧によって第1ストレーナー51に押し付けられるため、第1ストレーナー51により濾過されつつ短時間で第2収容部12へ通過でき、かつ第1ストレーナー51の詰まりや懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。懸濁液の第1ストレーナー51を通過できない大きな濾過対象物111は、第1ストレーナー51に捕集されて第1収容部11に残存する。第1ストレーナー51は、大きい濾過対象物111のみを捕集して小さい濾過対象物112を通過させ、かつ第1収容部11からの陽圧を受ける。このため、第1ストレーナー51は、詰まりの発生を抑制しつつ、短時間で大きい濾過対象物111を捕集できる。
【0039】
第2収容部12に流入した懸濁液は、自重により下方の第2ストレーナー52側に溜まる。このとき、そして、第2収容部12は、本体40により囲まれており、第1ストレーナー51および第2ストレーナー52以外に外部への通路が存在しない。このため、第1ストレーナー51から懸濁液が流入することで、第2収容部12の内部は、第2ストレーナー52を挟んで隣接する放出部13よりも高い陽圧となる。したがって、第2収容部12の内部の懸濁液は、自重および高い陽圧によって第2ストレーナー52に押し付けられるため、第2ストレーナー52により濾過されつつ短時間で放出部13へ通過でき、かつ第1ストレーナー51の詰まりや懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。このとき、懸濁液の第1ストレーナー51を通過できたが第2ストレーナー52を通過できない小さな濾過対象物112は、第2ストレーナー52に捕集されて第2収容部12に残存する。第2収容部12には、第1ストレーナー51を通過できなかった大きな濾過対象物111は存在しないため、第2ストレーナー52は、大きな濾過対象物111を捕集する必要がない。さらに、第2ストレーナー52は、第2収容部12からの陽圧を受ける。このため、第2ストレーナー52は、詰まりの発生を抑制しつつ短時間で小さな濾過対象物112を濾し取ることができる。第2ストレーナー52を通過した懸濁液は、濾過対象物110を除去された所望の細胞100および液体を含む状態となる。
【0040】
放出部13および遠沈管20の内部は、圧力緩衝部90により外部と連通しているため、略大気圧となっている。このため、放出部13および遠沈管20の内部の圧力は、第2収容部12の内部の圧力よりも低い。したがって、第2収容部12から第2ストレーナー52を通って放出部13に流入した懸濁液は、放出部13の内部の圧力により妨げられずに自重により下方へ移動し、漏斗部70により誘導されつつ遠沈管20へ流入する。このとき、漏斗部70の出口71は、遠沈管20の開口部21から内部へ入り込み、開口部21よりも下方に配置されるとともに、遠沈管20の内周面から離れた中央部付近に配置される。このため、漏斗部70により誘導された懸濁液は、遠沈管20と濾過装置10との間の連結個所から漏出することなく、遠沈管20へ効率よく流入して収容される。
【0041】
遠沈管20の内部に懸濁液が収容されると、遠沈管20の内部の気体は、押し出されるように圧力緩衝部90を通って外部へ放出される。このとき、圧力緩衝部90の外側開口部94は、下側を向いているため、圧力緩衝部90から菌などを含む異物が遠沈管20の内部へ入り込むことを抑制できる。また、外側開口部94は、閉鎖部43の上面に向かって開口しているため、遠沈管20または濾過装置10の内部から圧力緩衝部90を通って懸濁液の一部等が外部へ放出されても、放出物は閉鎖部43の上に放出される。このため、使用者は、放出物を容易に除去できる。また、外側開口部94は、本体40の周壁42の外周面の延長面よりも内側(本体40の中心軸に近い側)にあり、周壁42の外周面の延長面よりも外側へ突出していない。これにより、使用時に使用者の手やピペット30等の器具が外側管体91に引っ掛かる等の干渉を抑制できる。
【0042】
懸濁液の濾過が完了すると、使用者はピペット30を差し込み部60から引き抜いて取り外し、続いて、容器側ねじ部22と装置側ねじ部81との連結を解除する。次に、使用者は、遠沈管20の開口部21に蓋を取り付けて、細胞100を含む懸濁液から濾過対象物110を除去する手技を完了する。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る濾過装置10は、細胞100および細胞100よりも大きな濾過対象物110を含む懸濁液を供給容器(例えばピペット30)から供給されて濾過対象物110を濾し取り、細胞100を含む懸濁液を回収容器(例えば遠沈管20)に移送する濾過装置10であって、懸濁液が供給される上流側から懸濁液を放出する下流側まで延びる流路41が内部に形成される本体40と、供給容器のノズル31を差し込み可能であり、ノズル31と気密に密着可能な密封部62を備え、上流側の流路41と連通する差し込み部60と、流路41の差し込み部60よりも下流側に流路41に配置されて濾過対象物110を捕集する濾過部50と、回収容器に連結可能な連結部80と、流路41の濾過部50よりも下流側の圧力を外部へ逃がす圧力緩衝部90と、を有する。これにより、濾過装置10は、供給容器からの押し込み圧を利用して濾過部50よりも上流側の流路41内の懸濁液を陽圧にできるため、濾過部50により濾過対象物110を短時間で濾し取って細胞100を回収できるとともに、濾過部50における濾過対象物110の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。また、濾過装置10は、回収容器に連結可能な連結部80を有するため、回収容器から脱落することを抑制できる。
【0044】
濾過部50は、第1ストレーナー51と、第1ストレーナー51よりも下流側に配置される第2ストレーナー52と、を有する。これにより、濾過装置10は、濾過対象物110の濾過を第1ストレーナー51および第2ストレーナー52に分散して行うため、詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生をさらに抑制できる。
【0045】
圧力緩衝部90は、流路41の濾過部50よりも下流側にて開口する内側開口部95と、内側開口部95と連通して本体40の外部へ開口する外側開口部94と、を有する。これにより、濾過装置10は、濾過部50の下流側を略大気圧とし、濾過部50よりも上流側の流路41内の陽圧の懸濁液を、効果的に濾過部50へ押し付けて濾過することができる。
【0046】
外側開口部94は、本体40の外部で下流側へ向かって開口する。これにより、濾過装置10は、回収容器内への外側開口部94からの異物の混入を抑制できる。
【0047】
圧力緩衝部90は、無菌フィルタが配置される。これにより、濾過装置10は、回収容器内への圧力緩衝部90からの菌の混入を抑制できる。
【0048】
濾過装置10は、流路41の濾過部50よりも下流側に配置されて口径が下流側へ向かって減少する漏斗部70を有してもよい。これにより、濾過装置10は、濾過部50を通過した細胞100および液体を、連結部80と回収容器との間の連結個所から漏らさずに、回収容器内へ効果的に回収できる。
【0049】
また、本実施形態における濾過方法は、細胞100および細胞100よりも大きな濾過対象物110を含む懸濁液を供給容器(例えばピペット30)から供給されて濾過対象物110を濾し取り、細胞100を含む懸濁液を回収容器(例えば遠沈管20)に移送する濾過装置10による濾過方法であって、回収容器の開口部21に濾過装置10を連結し、濾過装置10の懸濁液が供給される差し込み部60に供給容器のノズル31を気密に密着するように差し込み、供給容器から押し込み圧を作用させて懸濁液を差し込み部60から濾過装置10内の流路41に供給し、流路41を隔てるように配置されて濾過対象物110を捕集する濾過部50よりも上流側の流路41を陽圧としつつ、濾過部50よりも下流側の流路41を濾過装置10の外部に逃がして濾過部50により濾過対象物110を濾し取り、濾過部50を通過した細胞100を含む懸濁液を回収容器に回収する。これにより、本濾過方法は、濾過装置10を回収容器に連結するため、濾過装置10が回収容器から脱落することを抑制できる。さらに、本濾過方法は、供給容器からの押し込み圧を利用して濾過部50よりも上流側の流路41内の懸濁液を陽圧にすることで、濾過部50により濾過対象物110を短時間で濾し取って細胞100を回収容器に回収できるとともに、濾過部50における濾過対象物110の詰まりおよび懸濁液のこぼれの発生を抑制できる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、遠沈管20(回収容器)に回収された細胞100の用途は、医療用シートの作成に限定されない。また、圧力緩衝部90は、漏斗部70、濾過部50および閉鎖部43を貫通しなくてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 濾過装置
11 第1収容部
12 第2収容部
13 放出部
20 遠沈管(回収容器)
21 開口部
22 容器側ねじ部
30 ピペット(供給容器)
31 ノズル
40 本体
41 流路
42 周壁
43 閉鎖部
50 濾過部
51 第1ストレーナー
52 第2ストレーナー
60 差し込み部
61 差し込み筒
62 密封部
70 漏斗部
71 出口
80 連結部
81 装置側ねじ部
90 圧力緩衝部
91 外側管体
92 内側管体
93 屈曲部
94 外側開口部
95 内側開口部
96 無菌フィルタ
100 細胞
110 濾過対象物
111 大きな濾過対象物
112 小さな濾過対象物