(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086035
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】鉱物粒子回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240620BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240620BHJP
B03D 1/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C22B23/00 101
C22B1/00 101
B03D1/02 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200896
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 竜大
(72)【発明者】
【氏名】リフィルウェ サンドラ マグワネン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA06
4K001BA03
4K001CA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】尾鉱から有用鉱物を効率よく回収することができる方法を提供する。
【解決手段】第1の鉱物粒子を含む尾鉱、第2の鉱物粒子、及び水を含有するスラリーに浮選剤を添加し、又は、第1の鉱物粒子を含む尾鉱及び水を含有するスラリーに第2の鉱物粒子を添加し、第1の鉱物粒子を選択的に浮上させて選鉱する鉱物粒子回収方法であり、第2の鉱物粒子が第1の鉱物粒子と同等の鉱物を含有し、第2の鉱物粒子の代表粒径が、第1の鉱物粒子の代表粒径よりも大きい、鉱物粒子回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鉱物粒子を含む尾鉱、第2の鉱物粒子、及び水を含有するスラリーに浮選剤を添加し、又は、第1の鉱物粒子を含む尾鉱及び水を含有するスラリーに第2の鉱物粒子を添加し、第1の鉱物粒子を選択的に浮上させて選鉱する鉱物粒子回収方法であり、
前記第2の鉱物粒子が前記第1の鉱物粒子と同等の鉱物を含有し、
前記第2の鉱物粒子の代表粒径が、前記第1の鉱物粒子の代表粒径よりも大きい、鉱物粒子回収方法。
【請求項2】
前記同等の鉱物が黄鉄鉱である、請求項1に記載の鉱物粒子回収方法。
【請求項3】
前記第1の鉱物粒子がコバルトを含む、請求項1又は2に記載の鉱物粒子回収方法。
【請求項4】
前記第1の鉱物粒子が25μm以下の黄鉄鉱粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記スラリーのpHを2~12の範囲に調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物粒子回収方法に関する。特に、鉱山の尾鉱から希少金属を含有する鉱物粒子を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山における鉱石の採掘の際に、選鉱によって生じた鉱石精製残渣は、尾鉱として取り扱われ、尾鉱ダムへ送られて廃棄される。
【0003】
このような、通常、廃棄される尾鉱から有用鉱物を効率よく回収することができれば、資源確保や環境保全の観点から好ましい。このため、尾鉱から希少金属を含有する鉱物を効率よく回収する技術が求められている。
【0004】
鉱物粒子の選鉱方法としては、浮遊選鉱(浮選)が知られている。例えば、非特許文献1には、浮選を用いて微細な黄銅鉱粒子を回収する際に、キャリアとして粗大な黄鉄鉱粒子を用いて浮選を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Minerals Engineering, Volume 180, April 2022, p.107518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
尾鉱は選鉱工程において不用とされたもの、もしくは有用であっても回収できなかったものの集合体であり、慣用的な操作によって、尾鉱から改めて有用な鉱物を回収することは非常に困難であることから、更なる改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は通常廃棄される尾鉱から有用鉱物を効率よく回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、尾鉱中の微細な希少金属を含有する鉱物粒子を回収する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 第1の鉱物粒子を含む尾鉱、第2の鉱物粒子、及び水を含有するスラリーに浮選剤を添加し、又は、第1の鉱物粒子を含む尾鉱及び水を含有するスラリーに第2の鉱物粒子を添加し、第1の鉱物粒子を選択的に浮上させて選鉱する鉱物粒子回収方法であり、
前記第2の鉱物粒子が前記第1の鉱物粒子と同等の鉱物を含有し、
前記第2の鉱物粒子の代表粒径が、前記第1の鉱物粒子の代表粒径よりも大きい、鉱物粒子回収方法。
[2] 前記同等の鉱物が黄鉄鉱である、[1]に記載の鉱物粒子回収方法。
[3] 前記第1の鉱物粒子がコバルトを含む、[1]又は[2]に記載の鉱物粒子回収方法。
[4] 前記第1の鉱物粒子が25μm以下の黄鉄鉱粒子である、[1]~[3]のいずれかに記載の回収方法。
[5] 前記スラリーのpHを2~12の範囲に調整する、[1]~[3]のいずれかに記載の回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、鉱山の尾鉱から希少金属を含有する鉱物を効率よく回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の回収方法の工程の一例を示すフロー図である。
【
図2】試験試料(尾鉱)中の黄鉄鉱粒子ならびにキャリア黄鉄鉱粒子の粒径分布である。
【
図3】実施例1及び2並びに比較例1及び2で浮鉱に回収されたコバルト成分の重量割合(回収率)を浮選時間に対してプロットした図である。
【
図4】実施例2~4及び比較例2で浮鉱に回収されたコバルト成分の重量割合(回収率)を浮選時間に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の回収方法は、尾鉱にキャリアを添加したスラリーから、希少金属を含有する鉱物を選択的に回収する方法である。
本実施形態の回収方法の工程の一例をフロー図として
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態の回収方法では、尾鉱とキャリアとを含む混合物に水を加えてスラリーを形成する工程(スラリー形成工程:S1)、スラリーのpHを調整する工程(pH調整工程:S2)、浮選剤をスラリーに添加する工程(コンディショニング工程:S3)、及び希少金属を含有する鉱物を選択的に浮上させて選鉱する工程(浮選工程:S4)を備える。なお、本実施形態においては、第1の鉱物粒子を含む尾鉱、第2の鉱物粒子、及び水を含有するスラリーに浮選剤を添加してもよく、又は、第1の鉱物粒子を含む尾鉱及び水を含有するスラリーに第2の鉱物粒子を添加してもよい。尾鉱には浮選剤が既に含まれている場合があることから、その場合には後者の態様でも可能となる。
【0014】
本実施形態の回収方法は、スラリー形成工程S1において、尾鉱とキャリアを含む混合物に水を加えてスラリーを形成する。
【0015】
本実施形態において、尾鉱は、第1の鉱物粒子を含む。第1の鉱物粒子とは、25μm以下の黄鉄鉱粒子である。
本実施形態において、尾鉱に含まれる希少金属を含有する第1の鉱物粒子の粒径は、後述するキャリアである第2の鉱物粒子の粒径よりも小さく、一例として網下積算分布50%の粒径が、25μmである。本実施形態において、第1の鉱物粒子の代表粒径は、鉱物単体分離度解析装置(Mineral Liberation Analyzer:MLA)による粒子観察画像の画像解析によって測定されるものと定義し、上記の網下積算分布50%の粒径を、代表粒径と称する。
【0016】
キャリアとは、後述する浮選工程において、単独では浮上しにくい微細な粒子に付着して、あたかも当該粒子が粗大化したかのように振る舞い、気泡への付着に寄与して、当該粒子の選択的な浮上を助ける役割を果たすものを指す。本実施形態において、キャリア粒子を第2の鉱物粒子と称することがあり、第2の鉱物粒子は、第1の鉱物粒子と同等の鉱物である。
【0017】
本実施形態において、キャリアである第2の鉱物粒子の粒径は、前述した尾鉱に含まれる希少金属を含有する第1の鉱物粒子の粒径よりも大きく、一例として75μm~106μmであり、網下積算分布50%の粒径が、約80μmである。本実施形態において、第2の鉱物粒子の代表粒径は、鉱物単体分離度解析装置(Mineral Liberation Analyzer:MLA)による粒子観察画像の画像解析によって測定されるものと定義し、上記の網下積算分布50%の粒径を、代表粒径と称する。
【0018】
本実施形態において、第2の鉱物粒子の代表粒径は、25μm~212μmであり、より好ましくは38μm~150μmである。
【0019】
キャリアである第2の鉱物粒子には、市販の鉱物粒子を使用することができ、また、後述する浮選工程で選択的に浮上させて回収した粒子をリサイクルして使用してもよい。
【0020】
尾鉱とキャリアとを含む混合物とは、尾鉱中の鉱物粒子とキャリアである第2の鉱物粒子とが混合されたものであればよい。例えば、粉砕されて微粒化された尾鉱中の微細な鉱物粒子とキャリアである第2の鉱物粒子とが混合された混合物であってもよい。
【0021】
尾鉱とキャリアとを含む混合物における尾鉱とキャリアとの混合比率は、希少金属を含有する鉱物を選択的に回収することができれば特に制限されない。例えば、尾鉱に対するキャリアである第2の鉱物粒子の重量比は、好ましくは1~35%であり、より好ましくは5~15%である。重量比の一例として15%を挙げることができる。
【0022】
本実施形態において、スラリーとは、水溶液中に鉱物粒子が懸濁した流動体を意味する。尾鉱とキャリアとを含む混合物に加える水は、特に制限されず、例えば蒸留水であってもよく、水道水や天然水であってもよい。また、水道水や天然水などをRO膜という超微細な逆浸透膜フィルターでろ過した水(RO水)であってもよい。尾鉱とキャリアとを含む混合物に加える水の添加量は、スラリーが形成されれば特に制限されない。
【0023】
本実施形態の回収方法では、スラリー形成工程S1において形成されたスラリーのpHを調整する(pH調整工程S2)。
【0024】
pH調整剤は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されない。
【0025】
一実施形態として黄鉄鉱を浮選で浮鉱に回収する場合、pH調整工程S2において、調整されるスラリーのpHは12より低いことが好ましく、pH2以上であってもよく、pH10以下であることがより好ましい。本実施形態で用いる黄鉄鉱鉱物は、酸性から弱塩基領域のスラリー中で浮上しやすく、特にpH10以下の弱塩基性領域で化学的吸着性が良好となり所望の鉱物が浮上しやすい傾向にある。
【0026】
スラリーの温度は、所望の鉱物を浮選できる温度であれば特に制限されず、例えば20~25℃の常温でもよい。
【0027】
本実施形態の回収方法では、pH調整工程S2で調整されたスラリーに、浮選剤を添加する(コンディショニング工程S3)。
【0028】
コンディショニング工程S3で用いられる浮選剤として、捕収剤、活性剤、起泡剤が挙げられ、これらの浮選剤の一部又は全部を、それぞれ個別に用いた工程をコンディショニング工程として連続して行うことができる。例えば、活性剤によるコンディショニング、捕収剤によるコンディショニング、及び起泡剤によるコンディショニングをこの順で行ってもよい。
【0029】
捕収剤は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、一例として、Xanthateを挙げることができ、特にPotassium Ethyl Xanthate(PEX)を好適に用いることができる。捕収剤の添加量は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、例えば、鉱石1tあたり1~1000g(1~1000g/t-ore)であってもよい。
【0030】
活性剤は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、一例として、CuSO4を挙げることができ、活性剤の添加量は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、例えば、1~1000g/t-oreであってもよい。
【0031】
起泡剤は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、一例として、Methyl Isobutyl Carbinol(MIBC)を挙げることができ、起泡剤の添加量は、所望の鉱物を浮選するのに効果があるものであれば特に制限されないが、例えば、1~100g/t-oreであってもよい。
【0032】
本実施形態の回収方法においては、添加工程S3で添加剤が添加されたスラリーについて、希少金属を含有する鉱物を選択的に浮上させて回収する(浮選工程S4)。
【0033】
浮選(浮遊選鉱)は、鉱物粒子を水に懸濁させたスラリーに空気を吹き込むことで、鉱物粒子のうち疎水性粒子が気泡に付着し、浮上する一方、鉱物粒子のうち親水性粒子は、気泡に付着できずスラリー中を滞留することを利用した分離法である。捕収剤は、目的とする鉱物粒子に選択的に吸着する部位と、気泡に付着しやすい疎水基からなっている。
【0034】
本実施形態では、キャリア浮選と呼ばれる技術を用いて浮選を行う。キャリア浮選とは、浮選において、単独では浮上しくい微細な粒子を粗大な粒子(キャリア)に付着させて効率よく回収する技術である。
【0035】
本実施形態において、希少金属を含有する鉱物を選択的に回収するとは、浮選工程で希少金属を含有する鉱物をスラリー溶液から気液界面へ浮上させて選鉱することを意味し、浮上する浮鉱(フロス(froth))には希少金属を含有する鉱物が含まれる。ここで、浮上する浮鉱には希少金属を含有する鉱物だけでなく、他の鉱物、不純物などが含まれていてもよい。
【0036】
本実施形態における回収率は、給鉱中の特定の金属成分i(例えばコバルト)のうち浮鉱に回収された特定の金属成分i成分の重量割合と定義される。すなわち、目的とするi成分の回収率は、浮鉱中のi成分の含有量を、浮鉱中のi成分の含有量と沈鉱中のi成分の含有量の和で除することによって計算される。
【0037】
以上のとおり、本実施形態の回収方法によれば、キャリアを伴う浮選を用いて、単独では浮上しくい微細な粒子からなる尾鉱から有用鉱物を効率よく回収する方法を提供することができる。その結果、通常廃棄される尾鉱を資源化して有効活用することがでる。
【実施例0038】
以下、実施例に基づき、本発明の効果について、更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[手順1:尾鉱の準備及び分析]
試験試料として、銅鉱山の浮選尾鉱を採用した。
ICP分析により算出した尾鉱の元素品位を以下に示す。
Ca 9.25 wt%
Co 0.05 wt%
Cu 0.11 wt%
Fe 11.43 wt%
Mg 0.99 wt%
Zn 0.003 wt%
SiO
2 35.28 wt%
また、MLA(Mineral Liberation Analyzer)を用いた定量分析により算出した尾鉱の鉱物含有率を以下に示す。
カルシウム鉱物 12.36 wt%
チタン酸塩 1.51 wt%
酸化鉄鉱物 22.99 wt%
黄鉄鉱 6.31 wt%
黄銅鉱 0.32 wt%
珪酸塩鉱物 56.28 wt%
付け加えて、MLA(Mineral Liberation Analyzer)を用いた分析により算出したコバルト元素の各鉱物への分布率は黄鉄鉱に100wt%含まれている。
試験試料である尾鉱には、第1の鉱物粒子として黄鉄鉱粒子が含まれている。尾鉱中の黄鉄鉱粒子の粒径分布を、鉱物単体分離度解析装置(Mineral Liberation Analyzer:MLA)による粒子観察画像の画像解析を使用して測定した結果を、
図2に示す。
【0040】
[手順2:キャリアの調製及び分析]
試験試料であるキャリアとして、黄鉄鉱(Pyrite)鉱物標本を採用し、振動ミルを使用して粉砕した後、106μmふるいを通過させ、75μmでふるい分けられたものを用いた。
ICP分析により算出したキャリアの元素品位は以下に示す。
Ca 0.024 wt%
Co 0.03 wt%
Cu 0.045 wt%
Fe 44.86 wt%
Mg 0.0074 wt%
Zn 0.28 wt%
試験試料であるキャリア粒子は、第2の鉱物粒子であり、黄鉄鉱粒子である。キャリア粒子の粒径分布を鉱物単体分離度解析装置(Mineral Liberation Analyzer:MLA)による粒子観察画像の画像解析を使用して測定した結果を、
図2に示す。
【0041】
[実施例1]
浮選による分離評価試験を、以下のフローで、アジテア型浮選試験機を用いて行った。
まず、100gの所定の試験試料(尾鉱)と15gの所定の試験試料(キャリア)にRO水を加えた後、5分間超音波分散して混合し、スラリーを形成した。
次いで、アジテア型浮選試験機用500mLセルに、スラリーを充填し、NaOHを加えてセル内で3分間撹拌し、pHを8に調整した。
次に、浮選剤として、活性剤(CuSO
4)、捕収剤(PEX)及び起泡剤(MIBC)を採用し、この順にコンディショニング処理を行った。具体的には、まず活性剤を50g/t-ore添加してセル内で5分間撹拌し、次いで捕収剤を50g/t-ore添加してさらに3分間撹拌し、最後に起泡剤を30g/t-ore添加して0.5分間撹拌した。その後、撹拌を継続し、空気を吹き込み、回転数750rpmの撹拌速度で8分間浮選処理による分離を行った。具体的には、尾鉱中の微細な鉱物粒子はキャリアを伴って気泡に付着して浮上し、浮上した浮鉱(フロス(froth))を、オーバーフローにより回収し、又はへらで掻き取ることにより回収した。回収した浮鉱には、希少金属としてコバルトなどが含まれており、上述した記載の手順に従って、浮選時間0.5分、1分、2分、4分、及び8分後のコバルト(Co)の回収率を測定した。
浮選時間に対するコバルトの回収率を
図3に示す。
【0042】
[比較例1]
試験試料であるキャリア粒子(黄鉄鉱粒子)を用いなかった以外は、実施例1と同様に実験を行った。浮選時間に対するコバルトの回収率を
図3に示す。
【0043】
(結果及び考察)
図3に示すように、回転数750rpmで撹拌しながら浮選を行った場合、キャリアを添加することにより(実施例1)、キャリアを添加しない場合(比較例1)に比べて、浮選時間が8分後のコバルト回収率が約1%向上した。
【0044】
[実施例2]
回転数を750rpmから900rpmに増加して撹拌しながら浮選を行った以外は、実施例1と同様に実験を行った。浮選時間に対するコバルトの回収率を
図3及び
図4に示す。
【0045】
[比較例2]
試験試料であるキャリア粒子(黄鉄鉱粒子)を用いなかった以外は、実施例2と同様に実験を行った。浮選時間に対するコバルトの回収率を
図3及び
図4に示す。
【0046】
(結果及び考察)
図3に示すように、回転数900rpmで撹拌した場合、キャリアとして黄鉄鉱を添加することにより(実施例2)、キャリアを添加しない場合(比較例2)に比べて、浮選時間が8分後のコバルト回収率が約25%も大幅に向上した。これは、キャリアを添加したことによって、単独では浮遊しにくい尾鉱中の微細な黄鉄鉱粒子が、キャリアに付着して浮遊しやすくなったためであると考えられる。
また、
図3に示すように、回転数を750rpm(実施例1)から900rpm(実施例2)に増加して撹拌することにより、コバルト回収率が向上した。これは、回転数を増加することによって、単独では浮遊しにくい尾鉱中の微細な黄鉄鉱粒子がキャリアと接触する機会が増え、キャリアにより付着しやすくなり浮遊しやすくなったためであると考えられる。
なお、キャリアを用いない条件では、回転数を750rpm(比較例1)から900rmp(比較例2)に増加して撹拌すると、逆にコバルト回収率が低下した。このことは、回転数を増加して撹拌しさえすれば、キャリアを用いない従来の尾鉱からの浮選において、よい影響を与えるとは限らないことを示している。
上記の実験結果は、キャリアを用いない場合に比べて、適切なキャリアを用いることにより、コバルト回収率が向上したことを示しているが、回転数をさらに増加させて、尾鉱中の微細な黄鉄鉱粒子がキャリアと接触する機会を増やしたり、捕収剤や活性剤などの浮選剤の量を増やして浮選条件を最適化することにより、キャリアを添加したことによるさらなる優れた効果の発現、ひいてはコバルト回収率のさらなる改善の余地があると考えられる。そこで、さらに以下の実験を行った。
【0047】
[実施例3]
浮選剤として、捕収剤(PEX)の添加量を50g/t-oreから100g/t-oreに増加させ、活性剤(CuSO
4)の添加量を50g/t-oreから200g/t-oreに増加させた以外は、実施例2と同様に実験を行った。浮選時間に対するコバルトの回収率を
図4に示す。
【0048】
[実施例4]
回転数を900rpmからさらに1200pmに増加して撹拌しながら浮選を行った以外は、実施例3と同様に実験を行った。浮選時間に対するコバルトの回収率を
図4に示す。
【0049】
(結果及び考察)
図4に示すように、浮選剤として捕収剤と活性剤の添加量を増加させることにより(実施例3)、添加量を増加させる前(実施例2)に比べて、浮選時間が8分後のコバルト回収率が約9%も向上した。これは、キャリアの添加によってさらに必要とされ、不足していた浮選剤を、浮選剤の添加量の増加によって補うことができたためであると考えられる。
また、
図4に示すように、回転数を900rpm(実施例3)からさらに1200rpm(実施例4)に増加して撹拌することにより、浮選時間が8分後のコバルト回収率がさらに約9%も向上した。これは、回転数を増加することによって、単独では浮遊しにくい尾鉱中の微細な黄鉄鉱粒子がキャリアと接触する機会がさらに増え、キャリアにより付着しやすくなり浮遊しやすくなったためであると考えられる。