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特開2024-8605木質ペレットの改質方法、木質ペレット及び木質ペレットの膨潤抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008605
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】木質ペレットの改質方法、木質ペレット及び木質ペレットの膨潤抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/44 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C10L5/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110604
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA13
4H015AA20
4H015AB01
4H015AB02
4H015AB09
4H015BA01
4H015BA06
4H015BA08
4H015BA13
4H015BB08
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】木質ペレットの膨潤を抑制し、輸送及び/又は貯蔵時に粉化物の発生を抑制するとともに、輸送時に生じた木質ペレットの粉化物を飛散させることなく回収でき、固形燃料として有効利用することができる木質ペレットの改質方法を提供する。
【解決手段】輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレット改質方法であって、上記木質ペレットと、輸送及び/又は貯蔵時に生じる木質ペレット粉化物とに対して、グリセリン水溶液を含有する改質剤を噴霧することを特徴とする木質ペレット改質方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレット改質方法であって、
前記木質ペレットと、輸送及び/又は貯蔵時に生じる木質ペレット粉化物とに対してグリセリン水溶液を含有する改質剤を噴霧する
ことを特徴とする木質ペレット改質方法。
【請求項2】
木質ペレット重量に対して、グリセリンの添加量が800~30000mg/kgとなるように改質剤を噴霧する請求項1記載の木質ペレット改質方法。
【請求項3】
改質剤のグリセリン濃度が15~80重量%である請求項1記載の木質ペレット改質方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の木質ペレット改質方法で改質されたことを特徴とする木質ペレット。
【請求項5】
輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレットに対して噴霧する際に用いられ、グリセリン水溶液を含有することを特徴とする木質ペレットの膨潤抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送及び/又は貯蔵時における粉化物の発生を抑制でき、発生した粉化物の回収ができ、更に木質ペレットの膨潤を抑制できる木質ペレットの改質方法及びその方法により得られた木質ペレット並びに木質ペレットの膨潤抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木質ペレットは、鋸屑や木材の粉砕物を圧縮成形して粒状にしたものであり、木材に含まれるリグニンや糖類が熱で融解して固着させることでペレット状に成形したものであり、ペレット化することにより、輸送や貯蔵の取り扱いが容易となり、化石燃料の代替燃料として利用されている。
【0003】
木質ペレットは、ばら積み船等での輸送過程において振動や衝撃により擦れ合うことで表面がすり減り一部が粉化してしまうことがあった。木質ペレットの粉化は、輸送時に自重や外圧により折損することでも起こり得る。
輸送時に生じた木質ペレットの粉化物の多くは、荷揚設備からベルトコンベアにより移送する間の振動等で、落下、飛散してしまい、発電所等の燃焼設備に到着する前に消失してエネルギーとして利用できる部位が実質的に減少してしまうものであった。
また、このような木質ペレットの粉化物は、装置内で堆積したり舞い上がったりすることで作業環境を著しく悪化させる原因にもなっていた。
【0004】
輸送時に木質ペレットから生じる粉化物の飛散を抑制する方法として、例えば、特許文献1には噴霧ノズルから噴射されるミストによりハッチの開口にミストの壁を生成し、船倉等の倉で発生した粉塵がハッチの開口から外へ飛散することを抑制する装置が開示されている。
また、例えば、特許文献2には、散水ノズルに接続された送水ホース、送水用ポンプ、送水ホース内の水圧によって開閉される流出防止弁、ホース巻取り機等を備え、アンローダにより船倉等から発塵物を荷揚げする際に、粉塵の発生を防止するアンローダの発塵防止装置が開示されている。
このような従来の技術は、いずれも木質ペレット等の発塵防止を目的としたものであり、発生した粉化物を回収や木質ペレット自体を改質するものではなかった。
【0005】
一方、特許文献3には、木質ペレットの貯蔵搬送設備で発生した粉体を集めた貯蔵ホッパと、前記貯蔵ホッパの前記粉体を受け入れて前記粉体の水分を測定する水分測定ホッパと、前記水分測定ホッパの前記粉体が所定水分量を満たすように加水する加水手段と、前記所定水分量に調整して攪拌された前記粉体を受け入れる成形材保管ホッパと、保管した前記粉体を用いて木質ペレットを製造する成形機とを有する木質ペレットの再生設備が開示されている。
特許文献3に開示の再生設備は木質ペレットから発生した粉化物を再利用可能な設備であるが、極めて大きな設備が必要であり既存の工場などに設置することは難しいという問題があった。
また、木質ペレットは、散水されると急激に吸水して膨潤し脆くなって容易に崩れてしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6881688号
【特許文献2】特開昭63-022488号公報
【特許文献3】特開2020-132718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、木質ペレットの膨潤を抑制し、輸送及び/又は貯蔵時に粉化物の発生を抑制するとともに、輸送時に生じた木質ペレットの粉化物を飛散させることなく回収でき、固形燃料として有効利用することができる木質ペレットの改質方法、該木質ペレットの改質方法で得られた木質ペレット、及び、木質ペレットの膨潤抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、木質ペレットを貯蔵及び/又は搬送する時に生じる粉化物を回収することに着目し、木質ペレットに対し所定の改質剤を噴霧することで、木質ペレットの粉化物の飛散を極力抑え、発生した木質ペレットの粉化物を木質ペレットそのものに定着させることで固形燃料として有効利用することができ、更に木質ペレットの膨潤も抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明(1)は、輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレット改質方法であって、上記木質ペレットと、輸送及び/又は貯蔵時に生じる木質ペレット粉化物とに対して、グリセリン水溶液を含有する改質剤を噴霧することを特徴とする木質ペレット改質方法である。
また、本発明(2)は、木質ペレット重量に対して、グリセリンの添加量が800~30000mg/kgとなるように改質剤を噴霧する本発明(1)記載の木質ペレット改質方法である。
また、本発明(3)は、改質剤のグリセリン濃度が15~80重量%である本発明(1)又は(2)記載の木質ペレット改質方法である。
また、本発明(4)は、本発明(1)~(3)のいずれかに記載の木質ペレット改質方法で改質されたことを特徴とする木質ペレットである。
また、本発明(5)は、輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレットに対して噴霧する際に用いられ、グリセリン水溶液を含有することを特徴とする木質ペレットの膨潤抑制剤である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0011】
本発明は、輸送及び/又は貯蔵時における木質ペレット改質方法である。
上記木質ペレットとしては特に限定されず、従来公知のものが挙げられ、例えば、バークペレット、ホワイトペレット、全木ペレット等が挙げられる。
上記「輸送」とは、上記木質ペレットを公知の手段、例えば、ばら積み船や荷揚設備、トラックやコンテナ等での移送を意味し、「貯蔵」とは上記木質ペレットを公知の手段、例えば、サイロやホッパー等の貯槽に蓄えておくことを意味する。
【0012】
本発明は、上記木質ペレットと、輸送及び/又は貯蔵時に生じる木質ペレット粉化物とに対して改質剤を噴霧する。
本発明において、上記改質剤は、グリセリン水溶液を含有する。
当該工程により、木質ペレットは、その表面がグリセリンによりコーティングされることにより改質され、粉化物の発生が抑制される。また、既に生じていた木質ペレットの粉化物にも上記改質剤を噴霧することで上記粉化物が木質ペレットにそのものに定着され回収することができる。更に、上記改質剤はグリセリン水溶液を含有することで木質ペレットの膨潤を効果的に抑制できるため、膨潤抑制剤としても機能する。このような輸送及び/又は貯蔵時の木質ペレットに対して噴霧する際に用いられ、グリセリン水溶液を含有する木質ペレットの膨潤抑制剤もまた、本発明の一つである。
なお、以下の説明では、特に言及する場合を除き、「改質剤」の説明は、「木質ペレットの膨潤抑制剤」にも該当する。
【0013】
本発明において、上記木質ペレット重量に対して、グリセリンの添加量が800~30000mg/kgとなるように上記改質剤を噴霧することが好ましい。グリセリンの添加量が800mg/kg未満であると、木質ペレットの膨潤が生じてしまい木質ペレットの改質及び粉化物の回収が充分にできないことがあり、30000mg/kgを超えても、想定以上の効果は期待できない。上記グリセリンの添加量のより好ましい下限は1000mg/kg、より好ましい上限は25000mg/kgである。
【0014】
また、上記改質剤のグリセリン濃度が15~80重量%であることが好ましい。15重量%未満であると、木質ペレットが膨潤してしまい木質ペレットの改質及び粉化物の回収が充分にできないことがあり、80重量%を超えると改質剤の粘度が高くなり、噴霧できなくなることがある。上記改質剤のグリセリン濃度のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は60重量%である。
【0015】
本発明において、上記グリセリンとしては、グリセリン及び/又はジグリセリンであればよい。
また、上記グリセリン水溶液を含有する改質剤は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、更に撥水剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤及び増粘剤等を含有していてもよい。
【0016】
上記改質剤の噴霧方法としては、従来から知られている噴霧方法を用いることができ、例えば、ばら積み船等に貯蔵されている木質ペレットに対し、スプレーノズルやレインガン等の噴霧手段を用いて噴霧してもよいし、ベルトコンベア等の移送手段上の木質ペレット等に対して、スプレーノズルのような噴霧手段を用いて噴霧してもよい。
【0017】
本発明の木質ペレットの改質方法は、上述した改質剤を輸送及び/又は貯蔵時に木質ペレット又はその粉化物に噴霧するため、木質ペレットを膨潤させることなく改質することができ、粉化物が発生することを好適に抑制できる。また、既に発生した木質ペレットの粉化物にも上記グリセリン水溶液を噴霧することで該粉化物を木質ペレットに定着させて回収することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、木質ペレットの膨潤を抑制し、輸送及び/又は貯蔵時に粉化物の発生を抑制するとともに、輸送時に生じた木質ペレットの粉化物を飛散させることなく回収でき、固形燃料として有効利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施例を示し、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0020】
木質ペレットを破砕機で粉砕した後、目開き250μmのふるいに通過させて、木質ペレットの粉化物を作製した。
木質ペレット100gに対して作製した木質ペレットの粉化物1gを加えて、模擬試料を準備した。
【0021】
(実施例1)
市販グリセリン(和光純薬社製 試薬特級)60gを脱イオン水40gに溶解、混合して60%グリセリン水溶液を作製し改質剤とした。
模擬試料に対して、市販スプレー瓶を用いて60%グリセリン水溶液を表1に示したグリセリン添加量となるように噴霧した後、10分間静置した、木質ペレット表面に割れや膨張の状態を観察した(膨潤試験)。
グリセリン水溶液を噴霧した模擬試料をモルタルフロー試験液(株式会社関西機器製作所製、KC-24)のフローテーブルの上に置いて、振幅衝撃を100回与えた。
その後、全量を目開き250μmのふるいに通して未定着の木質ペレットの粉化物を採取し、その重量を測定し以下の式により定着率(%)を算出した(定着性試験)。
なお、Blankはグリセリン水溶液を噴霧せず、模擬試料のみで実施した。
【数1】
【0022】
(実施例2~3)
グリセリン水溶液として、表1に示したグリセリン濃度のものを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2~3に係る木質ペレットの改質を行った。
(比較例1)
グリセリン水溶液に代えて水道水を用いた以外は実施例1同様にして比較例1に係る木質ペレットの改質を行った。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に記載の結果から、定着性試験において、実施例1~3は木質ペレットの粉化物が良好に定着する傾向を示した。一方、比較例1(水のみ)はBlankよりも粉化物量が微増した。これは水噴霧により木質ペレットが脆くなり、部分的に崩壊したためと推察される。
膨潤試験において、実施例1~3は膨潤や割れが認められなかったが、比較例1は膨潤や割れが認められた。