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特開2024-86058電動モータ、および電動モータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086058
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電動モータ、および電動モータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/215 20160101AFI20240620BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20240620BHJP
   H02K 1/278 20220101ALI20240620BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H02K11/215
G01D5/245 110M
H02K1/278
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200943
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】ニデックプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】連記 宏徳
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 智久
【テーマコード(参考)】
2F077
5H611
5H622
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077AA45
2F077CC02
2F077NN03
2F077NN04
2F077NN17
2F077NN25
2F077PP12
2F077PP14
2F077QQ07
2F077QQ10
2F077TT33
2F077TT44
2F077TT57
2F077UU11
2F077UU15
2F077UU20
2F077VV33
5H611AA01
5H611BB01
5H611BB06
5H611PP05
5H611QQ03
5H611RR02
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622PP05
(57)【要約】
【課題】磁気センサの信号波形に特徴を与える。
【解決手段】電動モータは、ロータに設けられる複数の永久磁石からなる磁石群を有する。前記電動モータは、前記磁石群の近傍に配置され、磁界を検出する複数の磁気センサを有する。前記永久磁石の少なくとも何れか1つは、前記磁気センサ側の表面に局所的な減磁部を有している。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを備える電動モータであって、
前記ロータに設けられる複数の永久磁石からなる磁石群と、
前記磁石群の近傍に配置され、磁界を検出する複数の磁気センサと、
を有し、
前記永久磁石の少なくとも何れか1つは、前記磁気センサ側の表面に局所的な減磁部を有している、
電動モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動モータにおいて、
前記複数の永久磁石は、前記ロータの周方向に並べて配置されており、
前記複数の永久磁石のそれぞれは、前記ロータの軸方向の一方に位置する第1端面と、前記ロータの軸方向の他方に位置する第2端面と、を有しており、
前記減磁部は、前記第1端面に設けられている、
電動モータ。
【請求項3】
請求項1に記載の電動モータにおいて、
前記減磁部として、第1減磁部と第2減磁部とがあり、
前記第1減磁部と前記第2減磁部との磁束密度は、互いに相違している、
電動モータ。
【請求項4】
請求項1に記載の電動モータにおいて、
前記減磁部は、加熱痕を有している、
電動モータ。
【請求項5】
請求項4に記載の電動モータにおいて、
前記加熱痕は、レーザ照射痕である、
電動モータ。
【請求項6】
請求項1に記載の電動モータにおいて、
前記複数の磁気センサから出力される信号に基づいて、前記ロータの回転位置を算出する位置算出装置、を有する、
電動モータ。
【請求項7】
磁石群が設けられる電動モータの製造方法であって、
前記磁石群を構成する複数の永久磁石の少なくとも何れか1つの表面を加熱し、前記表面に局所的な減磁部を形成する加熱工程と、
複数の磁気センサが設けられた基板と、前記磁石群が設けられたロータとを、ハウジングに組み付ける組付工程と、
を有し、
前記組付工程では、前記磁石群を前記磁気センサの近傍に配置し、かつ前記減磁部を備えた前記表面を前記基板に対向させる、
電動モータの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電動モータの製造方法において、
前記加熱工程では、前記ロータに前記磁石群を取り付けた状態のもとで、前記永久磁石の少なくとも何れか1つの前記表面を加熱する、
電動モータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ、および電動モータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータは、複数の永久磁石を備えたロータを有している(特許文献1および2参照)。また、電動モータは、ロータ回転時の磁界変化を検出するため、ロータ近傍に複数の磁気センサを有している。これらの磁気センサから出力される信号波形を用いることにより、ロータの回転角度を算出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-306727号公報
【特許文献2】特開2014-42421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁気センサから出力される信号波形には、ロータの回転角度に応じて固有の特徴が存在している。この信号波形に存在する固有の特徴は、電動モータの製造過程における各種バラツキに起因するものと考えられる。そして、信号波形に存在する固有の特徴を利用することにより、ロータの回転角度の算出精度を高めることが考えられている。しかしながら、信号波形に存在する固有の特徴は、様々な要因によって定まるものであることから、偶然に、異なった回転角度における信号波形の特徴が互いに似てしまう虞がある。このように、異なる回転角度での信号波形が互いに似ていた場合には、回転角度の算出精度を高めることが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、磁気センサの信号波形に特徴を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る電動モータは、ロータを備える電動モータであって、前記ロータに設けられる複数の永久磁石からなる磁石群と、前記磁石群の近傍に配置され、磁界を検出する複数の磁気センサと、を有し、前記永久磁石の少なくとも何れか1つは、前記磁気センサ側の表面に局所的な減磁部を有している。
【0007】
一実施形態に係る電動モータの製造方法は、磁石群が設けられる電動モータの製造方法であって、前記磁石群を構成する複数の永久磁石の少なくとも何れか1つの表面を加熱し、前記表面に局所的な減磁部を形成する加熱工程と、複数の磁気センサが設けられた基板と、前記磁石群が設けられたロータとを、ハウジングに組み付ける組付工程と、を有し、前記組付工程では、前記磁石群を前記磁気センサの近傍に配置し、かつ前記減磁部を備えた前記表面を前記基板に対向させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、磁気センサの信号波形に特徴を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】一実施形態に係る電動モータを示す斜視図である。
図1B】一実施形態に係る電動モータを示す斜視図である。
図2】電動モータの内部構造を示す分解斜視図である。
図3図1AのIII-III線に沿う断面図である。
図4】電動モータに設けられる制御系の一例を示す図である。
図5A】ベース部材に対するロータの組付過程を示す斜視図である。
図5B】ベース部材に組み付けられたロータを示す斜視図である。
図6図5Bの矢印VI方向からロータおよび磁気センサを示す図である。
図7】ロータ回転時におけるU相信号、V相信号およびW相信号の一例を示す図である。
図8】ロータ回転時におけるU相信号、V相信号およびW相信号の一例を示す図である。
図9】電動モータの製造工程の一例を示す図である。
図10】レーザ照射工程の実行状況の一例を示す図である。
図11】レーザ光が照射されたロータを第1端面側から示す図である。
図12】レーザ光が照射されたロータを回転させたときのU相信号の一例を示す図である。
図13】レーザ光が照射された他のロータを第1端面側から示す図である。
図14】レーザ光が照射された他のロータを回転させたときのU相信号の一例を示す図である。
図15】レーザ光が照射された他のロータを第1端面側から示す図である。
図16】レーザ光が照射された他のロータを第1端面側から示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0011】
<電動モータの概要>
図1Aおよび図1Bは、一実施形態に係る電動モータ10を示す斜視図である。なお、図1Aには電動モータ10がカバー部材11側から示されており、図1Bには電動モータ10がベース部材12側から示されている。図1Aおよび図1Bに示すように、電動モータ10は、カバー部材11およびベース部材12からなるハウジング13を有している。ハウジング13内には、シャフト14を備えたロータ15が回転可能に収容されている。なお、電動モータ10にはフレキシブルプリント基板16(以下、プリント基板と記載する。)が設けられており、このプリント基板16はハウジング13の隙間から外部に延びている。
【0012】
図2は電動モータ10の内部構造を示す分解斜視図であり、図3図1AのIII-III線に沿う断面図である。図2および図3に示すように、電動モータ10は、ベース部材12に組み付けられる環状のステータ20と、ベース部材12に回転自在に支持される円盤状のロータ15と、を有している。ベース部材12のほぼ中央には、シャフト14を回転自在に支持する筒状のホルダ21が設けられている。ホルダ21の一方の開口部にはスプリングワッシャ22および軸受23が挿入されており、ホルダ21の他方の開口部には軸受24が挿入されている。ホルダ21内の軸受23,24にはシャフト14が挿入されており、ホルダ21から突出するシャフト14の先端部にはピニオン25が圧入されている。
【0013】
プリント基板16には3つの磁気センサ30,31,32が実装されており、このプリント基板16はベース部材12とステータ20との間に設けられている。また、プリント基板16とステータ20との間には、プリント基板16の一部を覆う絶縁シート33が設けられている。なお、ベース部材12には複数の凹部34が形成されており、ステータ20には凹部34に噛み合う複数の凸部35が形成されている。また、ベース部材12には係合溝36が形成されており、カバー部材11には係合溝36に噛み合う係合爪37が形成されている。
【0014】
<ロータ>
図2および図3に示すように、ロータ15は、シャフト14が固定されたロータハブ40を有している。また、ロータ15は、ロータハブ40の外周面に固定された磁性材料からなる環状のロータコア41と、ロータコア41の外周面に固定された複数の永久磁石42からなる磁石群43と、を有している。図3に示すように、複数の永久磁石42のそれぞれは、ロータ15の軸方向D1の一方に位置する第1端面44と、ロータ15の軸方向D1の他方に位置する第2端面45と、を有している。永久磁石42の第1端面44は、プリント基板16に対向する永久磁石42の表面、つまり磁気センサ30~32側の表面である。
【0015】
図示する例では、ロータ15の周方向D2に並べられた10個の永久磁石42によって、磁石群43が構成されている。なお、10個の永久磁石42によって磁石群43を構成しているが、これに限られることはなく、磁石群43を構成する永久磁石42の個数を変更しても良い。
【0016】
<ステータ>
ステータ20は、積層された複数の電磁鋼板からなるステータコア50を有している。また、ステータ20は、ステータコア50の各ティース51に巻き付けられるステータコイル52を有している。ステータコイル52は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルによって構成されている。図3に示すように、ティース51とステータコイル52との間には、絶縁材料からなるインシュレータ53が設けられている。後述する制御系60からステータコイル52に三相交流電流を供給することにより、ステータ20に回転磁界を発生させることができる。なお、図示する例では、ステータコア50に12個のティース51およびスロット54を形成しているが、これに限られることはなく、ステータコア50に形成されるティース51およびスロット54の個数を変更しても良い。
【0017】
<制御系>
電動モータ10の制御系60について説明する。図4は電動モータ10に設けられる制御系60の一例を示す図である。また、図5Aはベース部材12に対するロータ15の組付過程を示す斜視図であり、図5Bはベース部材12に組み付けられたロータ15を示す斜視図である。図6図5Bの矢印VI方向からロータ15および磁気センサ30~32を示す図である。なお、以下の説明では、複数の永久磁石42について詳細に説明するため、符号42を用いて永久磁石を説明する他に、符号42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jを用いて永久磁石を説明する。
【0018】
図4に示すように、電動モータ10の制御系60は、磁界検出装置61、増幅装置62、位置算出装置63、減算器64、制御装置65および駆動装置66を有している。本実施形態において、磁界検出装置61、増幅装置62、位置算出装置63、減算器64、制御装置65および駆動装置66は、プリント基板16や図示しない他の制御基板にハードウェアやソフトウェアとして実装される。
【0019】
磁界検出装置61は、磁界の強さつまり磁界強度を検出する3つの磁気センサ30,31,32を有している。各磁気センサ30~32は、ロータ15に設けられた磁石群43の近傍に配置されている。図5A図5Bおよび図6に示すように、各磁気センサ30~32は、磁石群43の内周部の近傍に配置されている。また、プリント基板16に実装される3つの磁気センサ30,31,32は、磁石群43に沿って周方向D2に等間隔で配置されている。なお、磁界変化を電気信号に変換して出力する磁気センサ30~32として、例えば、ホール素子や磁気抵抗効果素子を用いることが可能である。本実施形態においては、磁気センサ30~32としてホール素子が用いられている。
【0020】
図6に示すように、ロータ15に設けられる永久磁石42a~42jのそれぞれは、内周面と外周面との磁極が互いに異なるように着磁されている。また、複数の永久磁石42a~42jのうち互いに隣接する一対の永久磁石においては、それぞれの外周面の磁極が互いに異なるように着磁されるとともに、それぞれの内周面の磁極が互いに異なるように着磁されている。つまり、図6の拡大部分に示すように、永久磁石42cの外周面にN極が現れている場合には、永久磁石42cの内周面にS極が現れている。また、永久磁石42cの外周面にN極が現れている場合には、これに隣接する永久磁石42b,42dの外周面にS極が現れている。同様に、永久磁石42cの内周面にS極が現れている場合には、これに隣接する永久磁石42b,42dの内周面にN極が現れている。
【0021】
これらの永久磁石42a~42jを備えたロータ15が回転すると、磁石群43の近傍に位置する磁気センサ30~32は周期的な磁界変化を検出する。つまり、各磁気センサ30~32は、互いに隣接する一対の永久磁石からなる磁石対の磁界変化を検出し、この磁界変化に起因する差動信号を出力する。後述するように、磁気センサ30の差動信号に基づくU相信号Hu1、磁気センサ31の差動信号に基づくV相信号Hv1、磁気センサ32の差動信号に基づくW相信号Hw1は、互いに電気角で120°位相のずれた信号となっている。なお、各磁気センサ30~32が磁界変化を検出する磁石対として、永久磁石42a,42bからなる磁石対M1があり、永久磁石42c,42dからなる磁石対M2があり、永久磁石42e,42fからなる磁石対M3があり、永久磁石42g,42hからなる磁石対M4があり、永久磁石42i,42jからなる磁石対M5がある。
【0022】
磁気センサ30から出力された差動信号は、増幅装置62を介してアナログ信号であるU相信号Hu0に変換される。磁気センサ31から出力された差動信号は、増幅装置62を介してアナログ信号であるV相信号Hv0に変換される。磁気センサ32から出力された差動信号は、増幅装置62を介してアナログ信号であるW相信号Hw0に変換される。なお、本実施形態において、磁気センサ30からの出力信号をU相と記載し、磁気センサ31からの出力信号をV相と記載し、磁気センサ32からの出力信号をW相と記載する。
【0023】
位置算出装置63は、U相信号Hu0、V相信号Hv0およびW相信号Hw0に基づいて、ロータ15の回転位置つまり回転角度を算出する処理装置である。位置算出装置63は、変換部67、演算部68および記憶部69を有している。変換部67は、アナログ信号をデジタル信号に変換する機能を有している。つまり、変換部67は、アナログ信号のU相信号Hu0をデジタル信号のU相信号Hu1に変換する。変換部67は、アナログ信号のV相信号Hv0をデジタル信号のV相信号Hv1に変換する。変換部67は、アナログ信号のW相信号Hw0をデジタル信号のW相信号Hw1に変換する。
【0024】
後述するように、位置算出装置63の演算部68は、U相信号Hu1、V相信号Hv1およびW相信号Hw1の大小関係に基づいて、現在のロータ回転角に対応するセクションを電気角で1周期の範囲から特定する。また、位置算出装置63の演算部68は、記憶部69から取得した区間波形の特徴量に基づいて、現在のロータ回転角に対応するセクションを機械角で1周期の範囲から特定する。そして、位置算出装置63の演算部68は、各信号Hu1,Hv1,Hw1のデジタル積算値に基づいて、現在のロータ回転位置つまりロータ回転角を推定する。
【0025】
また、制御系60の減算器64には、位置算出装置63から現在のロータ回転角が入力されるとともに、外部装置70からロータ15の位置指令値が入力される。減算器64は、ロータ回転角と位置指令値との偏差を制御装置65に出力する。制御装置65は、偏差に基づいてモータ駆動用の電圧指令値を生成し、この電圧指令値を駆動装置66に出力する。インバータ等からなる駆動装置66は、電圧指令値に基づいて三相交流電流を生成し、この三相交流電流をステータコイル52に供給する。これにより、外部装置70からの位置指令値に合わせてロータ15を回転させることができる。
【0026】
<ロータ回転角の算出手順の概要>
位置算出装置63によるロータ回転角の算出手順の一例について簡単に説明する。なお、ロータ回転角の算出手順については、以下の算出手順に限られることはなく、他の算出手順を用いても良いことはいうまでもない。図7および図8は、ロータ回転時におけるU相信号Hu1、V相信号Hv1およびW相信号Hw1の一例を示す図である。図7には電気角で1周期分の信号Hu1,Hv1,Hw1が示されており、図8には機械角で1周期分の信号Hu1,Hv1,Hw1が示されている。
【0027】
図7に示すように、各信号Hu1,Hv1,Hw1には、基準値(0)と交差するゼロクロス点が存在するとともに、各信号Hu1,Hv1,Hw1が互いに交差する交点が存在する。そして、各ゼロクロス点と各交点との間が、セクションS1~S12として設定される。つまり、電気角で1周期分の範囲においては、12分割されたセクションS1~S12が設定される。これら複数のセクションS1~S12のうち、現在のロータ回転角に対応するセクションについては、各信号Hu1,Hv1,Hw1の大きさに基づき判定可能である。例えば、V相信号Hv1がW相信号Hw1よりも大きく、W相信号Hw1がU相信号Hu1よりも大きく、かつW相信号Hw1が基準値(0)よりも大きい場合には、符号αで示すように、現在のロータ回転角がセクションS10であると判定される。
【0028】
ところで、図6に示すように、ロータ15には5つの磁石対M1~M5が設けられることから、図8に示すように、機械角で1周期分の信号波形には、電気角で5周期分E1~E5の信号波形が含まれている。つまり、ロータ回転角がセクションS10であると判定された場合であっても、図8に符号αで示すように、磁石対M1~M5毎にセクションS10が存在するため、5つのセクションS10から現在のセクションS10を特定することが必要である。そこで、位置算出装置63は、記憶部69から取得した区間波形の特徴量に基づいて、5つのセクションS10から現在のセクションS10を特定する。これにより、現在のロータ回転角が含まれるセクションS10を特定することができ、直近のゼロクロス点までのデジタル積算値に現在のデジタル値を加算することにより、現在のロータ回転角を算出することができる。
【0029】
位置算出装置63の記憶部69に格納される区間波形の特徴量は、製造過程で電動モータ10毎に学習させた区間波形の特徴量、つまり電動モータ10毎に相違する区間波形の特徴量である。この区間波形の特徴量として、例えば、磁界強度の検出値を三相二相変換して得られる合成ベクトルの長さを用いることができる。前述したように、各信号Hu1,Hv1,Hw1の波形には、ロータ回転角に応じた固有の特徴が存在している。しかしながら、信号波形に存在する固有の特徴は、センサ特性やセンサ位置等の様々な要因によって定まるものであることから、偶然に、信号波形の特徴が互いに似てしまう虞がある。つまり、互いに異なるロータ回転角において信号波形の特徴が互いに似ていた場合には、前述のセクションS1~S12を特定することが困難であり、ロータ回転角の算出精度を低下させてしまう虞がある。
【0030】
そこで、後述するように、本実施形態の電動モータ10においては、ロータ回転角の算出精度を高める観点から、ロータ15の磁石群43に対して局所的な減磁部を設けている。このように、磁石群43に対して局所的な減磁部を設けることにより、各信号Hu1,Hv1,Hw1の波形に対して、ロータ回転角に応じた固有の特徴を与えることができる。
【0031】
<モータ製造工程>
一実施形態に係る電動モータ10の製造方法つまり製造工程について説明する。図9は電動モータ10の製造工程の一例を示す図である。図9に示すように、電動モータ10の製造工程として、ロータハブ40の外周面にロータコア41を取り付けるとともに、ロータコア41の外周面に複数の永久磁石42を取り付けるロータ組立工程S100がある。また、電動モータ10の製造工程として、ロータ15の磁石群43に対してレーザ照射を行うレーザ照射工程(加熱工程)S110がある。
【0032】
また、電動モータ10の製造工程として、電磁鋼板を積層してステータコア50を形成するとともに、ステータコア50にステータコイル52を巻き付けるステータ組立工程S120がある。さらに、電動モータ10の製造工程として、ベース部材12に、プリント基板16、ステータ20およびロータ15を取り付けるモータ組立工程(組付工程)S130がある。このモータ組立工程S130が、ハウジング13のベース部材12にプリント基板(基板)16およびロータ15を組み付ける組付工程に相当する。また、図5Aおよび図5Bに示されるように、モータ組立工程S130においては、ロータ15に設けられる磁石群43が磁気センサ30~32の近傍に配置され、後述する減磁部を備えた永久磁石42の表面44をプリント基板16に対向させている。
【0033】
<レーザ照射工程>
図10はレーザ照射工程の実行状況の一例を示す図である。また、図11はレーザ光が照射されたロータ15を第1端面44側から示す図であり、図12はレーザ光が照射されたロータ15を回転させたときのU相信号Hu1の一例を示す図である。なお、図12には機械角で1周期分のU相信号Hu1が示されている。
【0034】
図10に示すように、レーザ照射工程S110においては、ロータ15の磁石群43に向けてレーザ光を照射するレーザ照射装置80が使用される。レーザ照射装置80は、ロータ15を所定角度で回転させて位置決めする位置決め部81と、レーザ発振器82からレーザ光を照射するレーザ照射部83と、を有している。このようなレーザ照射装置80を用いることにより、磁石群43はレーザ光の照射によって局所的に加熱される。つまり、磁石群43を構成する永久磁石42の表面44は局所的に加熱され、永久磁石42の表面44には局所的なレーザ照射痕が形成される。永久磁石42のレーザ照射痕およびその近傍においては、加熱による減磁や消磁によって磁束密度が低下している。図11の拡大部分に示すように、永久磁石42の表面44には、レーザ照射痕(加熱痕)85を含む局所的な減磁部86が形成されている。この減磁部86は、磁気センサ30~32側の表面である永久磁石42の第1端面44に設けられており、第1端面44の逆側に位置する第2端面45には設けられていない。
【0035】
なお、前述の説明では、レーザ光を照射することで永久磁石42を局所的に減磁させているが、これに限られることはなく、例えば、高温の物体を永久磁石42に接触または接近させても良い。このように、高温の物体によって永久磁石42を加熱した場合であっても、永久磁石42に減磁部86を形成することができる。この場合には、減磁部86の加熱痕として、例えば、永久磁石42のコーティングが熱を受けて変化する加熱痕が残ると考えられる。
【0036】
<減磁部および信号特徴>
以下の説明では、複数の減磁部86について詳細に説明するため、符号86を用いて減磁部を説明する他に、符号a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9,a10,a11,a12,a13,a14,a15,a16,a17,a18,a19,a20を用いて減磁部を説明する。
【0037】
図11に示すように、磁石群43を構成する永久磁石42a~42jのそれぞれには、2つの減磁部86が設けられている。このように、永久磁石42a~42jを局所的に減磁させることにより、前述した各信号Hu1,Hv1,Hw1の波形に対して、ロータ回転角に応じた固有の特徴を与えることができる。つまり、図11に示すように、永久磁石42a~42jに減磁部a1~a20を設けた場合には、図12に示すように、U相信号Hu1の波形に特徴b1~b20を与えることができる。これにより、前述したセクションの判定精度を高めることができ、ロータ回転角の算出精度を高めることができる。なお、図12に示した破線は、磁石群43が減磁部a1~a20を備えていない場合のU相信号Hu1である。
【0038】
図示する例では、減磁部a1によって特徴b1が与えられ、減磁部a2によって特徴b2が与えられ、減磁部a3によって特徴b3が与えられ、減磁部a4によって特徴b4が与えられる。また、減磁部a5によって特徴b5が与えられ、減磁部a6によって特徴b6が与えられ、減磁部a7によって特徴b7が与えられ、減磁部a8によって特徴b8が与えられる。また、減磁部a9によって特徴b9が与えられ、減磁部a10によって特徴b10が与えられ、減磁部a11によって特徴b11が与えられ、減磁部a12によって特徴b12が与えられる。また、減磁部a13によって特徴b13が与えられ、減磁部a14によって特徴b14が与えられ、減磁部a15によって特徴b15が与えられ、減磁部a16によって特徴b16が与えられる。また、減磁部a17によって特徴b17が与えられ、減磁部a18によって特徴b18が与えられ、減磁部a19によって特徴b19が与えられ、減磁部a20によって特徴b20が与えられる。なお、図12にはU相信号Hu1のみが示されているが、V相信号Hv1やW相信号Hw1についても、減磁部a1~a20に起因する特徴が与えられる。
【0039】
<減磁部の磁束密度>
図12に示すように、U相信号Hu1の波形に特徴b1~b20が与えられているが、これらの各特徴b1~b20は互いに相違している。つまり、減磁部a1~a20毎にレーザ光の出力や照射時間が変更されており、各減磁部a1~a20の磁束密度は互いに相違している。換言すれば、磁石群43には第1減磁部と第2減磁部とが設けられており、第1減磁部と第2減磁部との磁束密度は互いに相違している。すなわち、減磁部a1~a20から2つの減磁部を選択した場合に、一方の減磁部が第1減磁部に相当し、他方の減磁部が第2減磁部に相当する。例えば、減磁部a1が第1減磁部に相当し、減磁部a2が第2減磁部に相当する。また、例えば、減磁部a1が第1減磁部に相当し、減磁部a3が第2減磁部に相当する。
【0040】
前述したように、各減磁部a1~a20の磁束密度を互いに相違させることにより、信号波形に固有の特徴を与えることができるため、ロータ回転角の算出精度を高めることが可能である。なお、前述の説明では、全ての減磁部a1~a20の磁束密度を互いに相違させているが、これに限られることはなく、減磁部a1~a20のうちの一部の減磁部の磁束密度を互いに一致させても良く、全ての減磁部a1~a20の磁束密度を互いに一致させても良い。また、磁石群43に設けられる減磁部の数、大きさ、位置および磁束密度については、要求されるロータ回転角の算出精度や適用されるロータ回転角の算出方法に応じて、適宜変更されることはいうまでもない。
【0041】
<減磁部の位置>
図11に示した例では、各永久磁石42における周方向D2の端部に減磁部a1~a20を形成しているが、この減磁部a1~a20は磁極の境界位置から電気角で±30°つまり±30[degE]に含めることが望ましい。ここで、図13はレーザ光が照射された他のロータ100を第1端面44側から示す図であり、図14はレーザ光が照射された他のロータ100を回転させたときのU相信号Hu1の一例を示す図である。なお、図14には機械角で1周期分のU相信号Hu1が示されている。
【0042】
前述した項目「ロータ回転角の算出手順の概要」で説明したように、現在のロータ回転角が含まれるセクションS1~S12を特定する際には、区間波形の特徴量を比較判定することで何れかのセクションが特定される。ここで、図7に符号αで示すように、区間波形とはゼロクロス点と交点との間の波形であり、この区間波形に特徴を与えることが求められている。つまり、図7に示した所定範囲X1内に含まれる信号波形に特徴を与えることにより、ロータ回転角の算出精度を高めることが可能である。なお、所定範囲X1とは、各信号Hu1,Hv1,Hw1の各交点の近傍に配置された一対の境界線によって区画される範囲である。ところで、図7に示すように、電気角で1周期分の範囲においては、12分割されたセクションS1~S12が設定される。つまり、約30[degE]毎にセクションS1~S12が切り替わることから、減磁部a1~a20を磁極の境界位置P1から±30[degE]に含めることにより、所定範囲X1内の区間波形に特徴を与えることができる。
【0043】
図13に示すように、ロータ100の磁石群43を構成する永久磁石42bには、減磁部a30が設けられている。この減磁部a30の少なくとも一部は、磁極の切り替わり位置である境界位置P1から±30[degE]に含まれている。これにより、図14に示すように、特徴b30の一部が所定範囲X1に含まれるように、U相信号Hu1に対して特徴b30を与えることができる。また、図13に示すように、ロータ100の磁石群43を構成する永久磁石42fには、減磁部a31が設けられている。この減磁部a31の少なくとも一部は、境界位置P1から±30[degE]に含まれている。これにより、図14に示すように、特徴b31の一部が所定範囲X1に含まれるように、U相信号Hu1に対して特徴b31を与えることができる。このように、所定範囲X1内の区間波形に特徴b30,b31を与えることができるため、ロータ回転角の算出精度を高めることができる。
【0044】
前述の説明では、減磁部a30,a31を境界位置P1から±30[degE]に含めているが、これに限られることはなく、境界位置P1から±30[degE]を外れた位置に減磁部を設けても良い。図13に示すように、ロータ100の磁石群43を構成する永久磁石42dには、減磁部a32が設けられている。減磁部a32の位置は、境界位置P1から±30[degE]を外れた位置である。この場合であっても、レーザ光の出力等を制御して磁束密度を調整することにより、図14に示すように、特徴b32の一部が所定範囲X1に含まれるように、U相信号Hu1に対して特徴b32を与えることができる。このように、所定範囲X1内の区間波形に特徴b32を与えることができるため、ロータ回転角の算出精度を高めることができる。
【0045】
<他実施形態>
図11に示した例では、磁石群43を構成する全ての永久磁石42a~42jが減磁部a1~a20を有しているが、これに限られることはなく、永久磁石42a~42jの少なくとも何れか1つに減磁部が設けられていれば良い。ここで、図15および図16はレーザ光が照射された他のロータ200,300を第1端面44側から示す図である。
【0046】
図15に示すように、ロータ200の磁石群43を構成する永久磁石42cには、1つのレーザ照射痕からなる減磁部a40が設けられている。このように、磁石群43を構成する複数の永久磁石42a~42jのうち、一部の永久磁石42a,42b,42d~42jに減磁部が形成されていない場合であっても、各信号Hu1,Hv1,Hw1の波形に対して、ロータ回転角に応じた固有の特徴を与えることができる。これにより、ロータ回転角の算出精度を高めることができる。
【0047】
図16に示すように、ロータ300の磁石群43を構成する永久磁石42a,42c,42e,42g,42iのそれぞれには、1つのレーザ照射痕からなる減磁部a50,a51,a52,a53,a54が設けられている。このように、磁石群43を構成する複数の永久磁石42a~42jのうち、一部の永久磁石42b,42d,42f,42h,42jに減磁部が形成されていない場合であっても、各信号Hu1,Hv1,Hw1の波形に対して、ロータ回転角に応じた固有の特徴を与えることができる。これにより、ロータ回転角の算出精度を高めることができる。
【0048】
なお、ロータ300の磁石群43に設けられる減磁部a50,a51,a52,a53,a54については、磁束密度が互いに同一であっても良く、磁束密度が互いに異なっていても良い。また、磁石群43に設けられる減磁部a50,a51,a52,a53,a54の数、大きさ、位置および磁束密度については、要求されるロータ回転角の算出精度や適用されるロータ回転角の算出方法に応じて、適宜変更されることはいうまでもない。
【0049】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。図示する例では、所定範囲X1内に含まれる特徴を信号波形に付与しているが、信号波形における特徴の付与箇所としては所定範囲X1に限られることはなく、ロータ回転角の算出方法に応じて適宜変更されることはいうまでもない。また、前述の説明では、永久磁石42の第1端面44に減磁部を形成しているが、これに限られることはなく、永久磁石42の他の部位に減磁部86を形成しても良い。例えば、磁石群43の径方向外側に磁気センサが配置されている場合には、永久磁石42の外周面に減磁部を形成することが望ましい。図10に示した例では、ロータ15に磁石群43を取り付けた状態のもとで、永久磁石42の第1端面44を加熱しているが、これに限られることはない。例えば、永久磁石42に減磁部86を形成した後に、ロータ15に対して永久磁石42を取り付けても良い。
【0050】
前述の説明では、電動モータ10に3つの磁気センサ30,31,32を設けているが、これに限られることはなく、電動モータ10に2つの磁気センサを設けても良く、電動モータ10に4つ以上の磁気センサを設けても良い。図3および図6に示した例では、永久磁石42の第1端面44に対して、磁気センサ30~32の一部を対向させているが、これに限られることはない。磁気センサ30~32による磁界強度の検出が可能であれば、永久磁石42の第1端面44に対向させずに磁気センサ30~32を配置しても良い。
【符号の説明】
【0051】
10…電動モータ、11…カバー部材、12…ベース部材、13…ハウジング、14…シャフト、15…ロータ、16…フレキシブルプリント基板(基板)、20…ステータ、21…ホルダ、22…スプリングワッシャ、23,24…軸受、25…ピニオン、30~32…磁気センサ、33…絶縁シート、34…凹部、35…凸部、36…係合溝、37…係合爪、40…ロータハブ、41…ロータコア、42,42a~42j…永久磁石、43…磁石群、44…第1端面(表面)、45…第2端面、50…ステータコア、51…ティース、52…ステータコイル、53…インシュレータ、54…スロット、60…制御系、61…磁界検出装置、62…増幅装置、63…位置算出装置、64…減算器、65…制御装置、66…駆動装置、67…変換部、68…演算部、69…記憶部、70…外部装置、80…レーザ照射装置、81…位置決め部、82…レーザ発振器、83…レーザ照射部、85…レーザ照射痕(加熱痕)、86,a1~a20,a30~a32,a50~a54…減磁部(第1減磁部,第2減磁部)、a40…減磁部、100,200,300…ロータ、M1~M5…磁石対、S1~S12…セクション、S100…ロータ組立工程、S110…レーザ照射工程(加熱工程)、S120…ステータ組立工程、S130…モータ組立工程(組付工程)
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16