(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086064
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240620BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240620BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200949
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 慎平
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA22
3J027FA23
3J027FA24
3J027FA29
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE01
3J027GE05
3J027GE14
3J027GE25
3J027GE29
3J063AA27
3J063AB15
3J063AC01
3J063BA11
3J063XD03
3J063XD22
3J063XD44
3J063XD62
3J063XF01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的の一つは、偏心部の潤滑不足を改善可能な偏心揺動型減速機を提供することにある。
【解決手段】偏心揺動型減速機100は、外歯歯車14と、外歯歯車14を揺動させる偏心部12fを有するクランク軸12と、外歯歯車14と偏心部12fとの間に周方向に複数配置されたころ34aと、を有する。複数のころ34aは互いに周方向に接触可能で、偏心部12fに、溝部12eを有する偏心揺動型減速機であって、溝部12eから外側に移動した潤滑剤Jを偏心部12fに案内する案内構造5を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、前記外歯歯車と前記偏心部との間に周方向に複数配置されたころと、を有し、
前記複数のころは互いに周方向に接触可能で、
前記偏心部に、溝部を有する偏心揺動型減速機であって、
前記溝部から外側に移動した潤滑剤を偏心部に案内する案内構造を有する偏心揺動型減速機。
【請求項2】
前記案内構造は、前記溝部を形成する壁部の前記ころと軸方向に対向する対向面側に形成された径方向に延びる案内溝を含む、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項3】
前記案内溝は、径方向外側に行くにしたがって幅が大きくなる、請求項2に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項4】
前記案内構造は、前記外歯歯車の前記ころが配置される配置部よりも軸方向外側かつ、前記外歯歯車の中心からオフセットした位置で前記外歯歯車に設けられる複数の貫通孔よりも径方向内側に、前記配置部よりも内径が大きい内径拡大部を含む、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項5】
前記溝部を形成する壁部のうち軸方向で最も軸方向外側の特定壁部の外周部に、当該外周部から径方向に突出する突出部が設けられ、
前記突出部は、軸方向前記ころ側に向かうにしたがって外径が減少する外径減少部と、を有し、
前記案内構造は、前記外径減少部を含む、請求項1に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項6】
前記案内構造は、前記外歯歯車の前記ころが配置される配置部よりも軸方向外側かつ、前記外歯歯車の中心からオフセットした位置で前記外歯歯車に設けられる複数の貫通孔の内接円よりも径方向内側に、前記配置部よりも内径が大きい内径拡大部を含み、
前記外歯歯車は、前記外径減少部と径方向に重なる部分に、前記内径拡大部を有する、請求項5に記載の偏心揺動型減速機。
【請求項7】
前記案内構造は、前記外歯歯車の前記ころが配置される配置部よりも軸方向外側かつ、前記外歯歯車の中心からオフセットした位置で前記外歯歯車に設けられる複数の貫通孔の内接円よりも径方向内側に、前記配置部よりも内径が大きい内径拡大部を含み、
前記特定壁部は、前記ころと軸方向に対向する対向面側に径方向に延びる案内溝を有し、
前記外歯歯車は、前記案内溝と径方向に重なる部分に、前記内径拡大部を有する、請求項5に記載の偏心揺動型減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
偏心部の偏心運動を、偏心体軸受を介して外歯歯車に伝達する歯車装置が知られている。例えば、特許文献1には、入力軸に対して偏心する偏心部と、ニードルベアリングを介して偏心部に回転可能に外装される外歯歯車と、外歯歯車に外装され、外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、外歯歯車を挟むように配置されるキャリヤと、を備える減速機が記載されている。この減速機は、入力軸に入力された回転を減速して、キャリヤまたは内歯歯車から出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機のニードルベアリングは、ころを所定の位置に保持する保持器を有しない総ころ仕様で、入力軸にころの軸方向移動を規制する規制壁が設けられている。また、入力軸には規制壁と偏心部との間に周溝(周方向溝)が設けられている。この構成では、偏心部が回転すると、その回転で発生する遠心力により、周溝の潤滑剤が外周側に移動する。外周側に移動した潤滑剤は、遠心力がなくなっても周溝に再度供給されにくく、偏心部の潤滑が不十分になる問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、偏心部の潤滑不足を改善可能な偏心揺動型減速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速機は、外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心部を有するクランク軸と、外歯歯車と偏心部との間に周方向に複数配置されたころと、を有する。複数のころは互いに周方向に接触可能で、偏心部に、溝部を有する偏心揺動型減速機であって、溝部から外側に移動した潤滑剤を偏心部に案内する案内構造を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏心部の潤滑不足を改善可能な偏心揺動型減速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る偏心揺動型減速機を示す側面断面図である。
【
図2】
図1の案内構造の周囲を示す側面断面図である。
【
図4】
図1の案内構造の第2の例を示す側面断面図である。
【
図5】
図1の案内構造の第3の例を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る偏心揺動型減速機100(以下、単に「減速機100」と表記することがある)の構成を説明する。
図1は、減速機100を概略的に示す側面断面図である。減速機100の用途に限定はなく、この例の減速機100は、例えばロボット等の多様な用途に使用できる。
【0013】
減速機100は、遠心力によりクランク軸12の溝部12e、12g、12j、12mから外側に逃げた潤滑剤Jを偏心部12f、12kに案内する案内構造5を有する。案内構造5については後に詳述する。先に減速機100の全体構成を説明する。減速機100の構成に限定はないが、この例の減速機100は、クランク軸12の回転により、偏心体軸受34、36を介して外歯歯車14、15を揺動させ、内ピン38を介して外歯歯車14、15の自転をキャリヤ18、20に伝達するセンタークランク型の遊星歯車装置である。減速機100は、クランク軸12と、外歯歯車14、15と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24と、クランク軸軸受30、32と、偏心体軸受34、36と、内ピン38とを主に備える。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。このような方向の表記は、減速機100の使用姿勢を制限するものではなく、減速機100は、任意の姿勢で使用されうる。
【0015】
クランク軸12は、中心にホロー部Hを有する中空円筒状を有する。例えば、クランク軸12の入力側の端部にモータ軸が連結される。クランク軸12は、位相が180°ずれた2つの偏心部12f、12kを有する。偏心部12f、12kは、第1偏心部12fと、第1偏心部12fの入力側に設けられる第2偏心部12kとを含む。偏心部の数は、2に限られず、1または3以上であってもよい。
【0016】
クランク軸12は、クランク軸軸受30、32を介してキャリヤ18、20およびケーシング22に支持される。クランク軸12は、クランク軸軸受30、32に支持される軸支部12c、12pを有する。第1軸支部12cには後述する第1クランク軸軸受30が外嵌され、第2軸支部12pには第2クランク軸軸受32が外嵌される。
【0017】
クランク軸軸受30、32は、外歯歯車14、15の反入力側に配置される第1クランク軸軸受30と、外歯歯車14、15の入力側に配置される第2クランク軸軸受32とを含む。クランク軸軸受30、32の構成に制限はないが、この例のクランク軸軸受30、32は深溝玉軸受である。
【0018】
偏心体軸受34、36は、偏心部12f、12kと外歯歯車14、15との間に配置される。偏心体軸受34、36は、第1偏心部12fの外周に配置される第1偏心体軸受34と、第2偏心部12kの外周に配置される第2偏心体軸受36とを含む。偏心体軸受34、36は、転動体として複数のころ34a、36aを有する総ころ軸受である。ここで、総ころ軸受とは、周方向に隣接するころところの周方向の接触を規制する(各ころの周方向位置を規制する)保持器(リテーナ)を有さない軸受をいう。
【0019】
外歯歯車14、15は、第1偏心体軸受34の外周に配置される第1外歯歯車14と、第2偏心体軸受36の外周に配置される第2外歯歯車15とを含む。キャリヤ18、20は、外歯歯車14、15の反入力側に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14、15の入力側に配置される第2キャリヤ20とを含む。
【0020】
外歯歯車14、15は、偏心体軸受34、36を介して対応する偏心部12f、12kに回転自在に支持される。外歯歯車14、15は、外歯歯車14、15の中心に設けられ、軸方向に貫通する中心孔14c、15c有する。外歯歯車14、15は、外歯歯車14、15の中心からオフセットされた位置に設けられ、軸方向に貫通する複数の内ピン孔14h、15h有する。
図1の例では、6つの内ピン孔14h、15hが周方向に所定の間隔(例えば60°)で配置される。内ピン孔14h、15hには内ピン38が挿通される。外歯歯車14、15の外周に形成された歯が、内歯歯車16の歯と噛み合いながら回転することで、外歯歯車14、15が揺動する。
【0021】
内歯歯車16は、外歯歯車14、15と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22の内周側に一体化された内歯歯車本体16bと、内歯歯車本体16bに回転自在に支持される外ピン16a(ピン部材)とで構成される。外ピン16aは、内歯歯車16の内歯を構成する。内歯歯車16の内歯数(外ピン16aの数)は、外歯歯車14、15の外歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0022】
第1キャリヤ18は、第1クランク軸軸受30を介してクランク軸12の反入力側を支持する。第1キャリヤ18は、第1クランク軸軸受30を支持する径方向中央孔18hと、中心軸線Laから径方向にオフセットした位置に、周方向に所定の間隔(例えば60°)で設けられる複数の貫通孔18pとを有する。
【0023】
第2キャリヤ20は、第2クランク軸軸受32を介してクランク軸12の入力側を支持する。第2キャリヤ20は、第2クランク軸軸受32を支持する径方向中央孔20hと、複数の貫通孔20pと、中心軸線Laから径方向にオフセットした位置に周方向に所定の間隔(例えば60°)で設けられる複数の貫通孔20pとを有する。
【0024】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置(不図示)に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は減速機100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。本実施形態において、出力部材は第1キャリヤ18であり、被固定部材はケーシング22である。第1キャリヤ18の反入力側の端面に、被駆動装置(不図示)が連結される。
【0025】
複数の内ピン38は、周方向に所定の間隔(例えば60°)で配置される。
図1では、1つの内ピン38を示す。内ピン38は、中心軸線Laから径方向にオフセットした位置において、内ピン孔14h、15hを軸方向に貫通する。内ピン38は、貫通孔18pと貫通孔20pに嵌合することにより第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とを連結する。
【0026】
内ピン38の外周には、スリーブ38sが回転可能に嵌合する。スリーブ38sは、内ピン孔14h、15hに隙間を有する状態で挿通される。内ピン38は、スリーブ38sを介して内ピン孔14h、15hの一部と当接する。内ピン38は、外歯歯車14、15の自転を拘束し、その揺動のみを許容する。この構成により、キャリヤ18、20は、内ピン38を介して、外歯歯車14、15の自転と同期して運動する。
【0027】
ケーシング22は、減速機100の外殻を構成する中空円筒状の部材である。ケーシング22は、反入力側から入力側に向かってこの順で積層される第1ケーシング22a、第2ケーシング22b、第3ケーシング22cおよび第4ケーシング22dを含む。第4ケーシング22dは、径方向中央に軸受支持孔22hを有する。
【0028】
第1ケーシング22aおよび第2ケーシング22bは、主に第1キャリヤ18を環囲する。第3ケーシング22cは、主に外歯歯車14、15を環囲する。第3ケーシング22cの内周面には内歯歯車16が設けられる。第4ケーシング22dは、主に第2キャリヤ20の外周面および入力側側面を覆う。第4ケーシング22dの軸受支持孔22hは、第2クランク軸軸受32を支持する。第1ケーシング22a、第2ケーシング22b、第3ケーシング22cおよび第4ケーシング22dは、所定の連結手段により一体化される。
【0029】
主軸受24は、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される。主軸受24の構成に制限はないが、この例の主軸受24は、クロスローラベアリングである。主軸受24の外輪は、第1ケーシング22aおよび第2ケーシング22bと一体的に形成される。主軸受24の内輪は、第1キャリヤ18と一体的に形成される。主軸受24は、第1キャリヤ18をケーシング22に対して回転自在に支持する。
【0030】
減速機100の動作を説明する。クランク軸12に回転が伝達されると、クランク軸12の偏心部12f、12kがクランク軸12を通る回転中心線周りに回転し、偏心体軸受34、36を介して外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15が揺動すると、外歯歯車14、15と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車14、15と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14、15および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、内ピン38を介して、外歯歯車14、15の自転と同期する第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0031】
図1、
図2、
図3を参照して、本開示の案内構造5を説明する。
図2は、案内構造5の周囲を示す側面断面図である。クランク軸12には、第1軸支部12cと第2軸支部12pとの間に、反入力側から入力側に向かって、第1壁部12d、第1溝部12e、第1偏心部12f、第2溝部12g、第2壁部12h、第3溝部12j、第2偏心部12k、第4溝部12m、および第3壁部12nが軸方向にこの順で設けられる。一例として、実施形態の溝部12e、12g、12j、12mは、周状の溝である。
【0032】
実施形態の壁部12d、12h、12nは、クランク軸12の周方向周りに設けられる周状の壁部である。壁部12d、12h、12nは、径方向に延出し、ころ34a、36aの側部の一部と重なり、ころ34a、36aの軸方向移動を規制する。例えば、壁部12d、12h、12nは、中心軸線Laと同軸に設けられる。第1壁部12dは、第1クランク軸軸受30と第1ころ34aとの間に位置し、第1ころ34aの入力側への移動を規制する。第2溝部12gは、第1ころ34aと第2ころ36aの間に位置する。第3壁部12nは、第2ころ36aと第2クランク軸軸受32との間に位置し、第2ころ36aの反入力側への移動を規制する。
【0033】
溝部12e、12g、12j、12mは、クランク軸12の周方向周りに設けられ、径方向に凹む周状の溝である。例えば、溝部12e、12g、12j、12mは、中心軸線Laと同軸に設けられる。溝部12e、12gは、第1偏心部12fを軸方向に挟んで第1偏心部12fの両側に設けられる。換言すると、第1溝部12eは、第1壁部12dと第1偏心部12fの間に設けられ、第2溝部12gは、第1偏心部12fと第2壁部12hの間に設けられる。溝部12e、12gおよび第1偏心部12fの外周側には、第1ころ34aが配置される環状空間である第1配置部33が形成される。
【0034】
溝部12j、12mは、第2偏心部12kを軸方向に挟んで第2偏心部12kの両側に設けられる。換言すると、第3溝部12jは、第2壁部12hと第2偏心部12kの間に設けられ、第4溝部12mは、第2偏心部12kと第3壁部12nの間に設けられる。溝部12j、12mおよび第2偏心部12kの外周側には、第2ころ36aが配置される環状空間である第2配置部35が形成される。
【0035】
このように、クランク軸12が溝部12e、12g、12j、12mを有する場合、偏心部12f、12kの潤滑剤Jは、遠心力が作用すると溝に沿って外周方向に移動する。遠心力がなくなっても、外側に移動した潤滑剤は、偏心部12f、12kの元の領域には戻りにくく、偏心部12f、12kと、ころ34a、36aとの間の潤滑が不十分になるおそれがある。そこで、実施形態の減速機100は、遠心力によりクランク軸12の溝部12e、12g、12j、12mから外側に移動した潤滑剤Jを偏心部12f、12kに案内する案内構造5を有する。
【0036】
(第1の例)
図2、
図3を参照して、案内構造5の第1の例を説明する。
図3は、案内構造5の第1の例を示す図である。第1の例では、案内構造5は、溝部12e、12g、12j、12mを形成する壁部12d、12h、12nのころ34a、36aと軸方向に対向する対向面12q、12r、12s、12tで径方向に延びる案内溝51、52、53、54を含む。以下、案内溝51、52、53、54のうち、第1壁部12dの案内溝51を主に説明するが、案内溝51の説明は、他の案内溝52、53、54にも適用できる。
図3は、第1壁部12dを入力側から視た図であり、案内溝51が示されている。案内溝51は、周方向に所定の間隔で複数(例えば、24個)配置される。
【0037】
案内溝51は、対向面12qからころ34aとは反対方向に凹む。案内溝51を備えることによって、外側に移動した潤滑剤Jを毛細管現象により偏心部12f側に引き寄せる効果が期待できる。
【0038】
案内溝は、一定であってもよいが、
図3に示すように、実施形態の案内溝51は、径方向外側に行くにしたがって、幅が大きくなっている。この場合、案内溝51が径方向にしたがって大きくなるため、遠心力がなくなったときに径方向外側から落ちてくる潤滑剤Jを回収しやすい。案内溝51の最外周の幅W1(最大幅)は、最内周の幅W2(最小幅)よりも大きい。この場合、案内溝51の外周側の幅大領域の潤滑剤Jを、毛細管現象により内周側の幅小領域に引き寄せて偏心部12fに供給する効果が期待できる。
【0039】
壁部12dのころ34aに対する移動規制機能を害しない観点から、案内溝51の最大幅W1は、ころ34aの案内溝51と対向する領域34sの幅よりも小さく設定される。この場合、ころ34aが、案内溝51に進入する可能性を小さくできる。
【0040】
(第2の例)
図4を参照して、案内構造5の第2の例を説明する。
図4は、案内構造5の第2の例を示す図である。案内構造5は、外側に移動した潤滑剤Jを円滑に偏心部12f、12kに案内できることが望ましい。そこで、第2の例では、
図4に示すように、案内構造5は、外歯歯車14、15のころ34a、36aが配置される配置部33、35よりも軸方向外側に、内径が拡大される内径拡大部14d、15dを含む。内径拡大部14d、15dは、外歯歯車14、15の中心からオフセットした位置で外歯歯車14、15に設けられる複数の貫通孔(内ピン孔14h、15h)よりも径方向内側に設けられる。特に、実施形態では、内径拡大部14d、15dは、外歯歯車14、15の中心からオフセットした位置で外歯歯車14、15に設けられる複数の貫通孔(内ピン孔14h、15h)の内接円よりも径方向内側に設けられる。内径拡大部14d、15dは、第1クランク軸軸受30の外径よりも径方向内側に設けられてもよい。内径拡大部14d、14eは、外歯歯車14の反入力側と入力側の各側部に形成される。内径拡大部15d、15eは、外歯歯車15の反入力側と入力側の各側部に形成される。一例として、外歯歯車14は、案内溝51と径方向に重なる部分に、内径拡大部14dを有してもよい。
【0041】
軸方向で外歯歯車14の内径拡大部14d、14eに挟まれた領域は、当該領域よりも外周側の領域14gよりも軸方向幅が減少する幅減少領域14fである。幅減少領域14fの軸方向幅は、ころ34aの軸方向幅と略同幅であってもよい。軸方向で外歯歯車15の内径拡大部15d、15eに挟まれた領域は、当該領域よりも外周側の領域15gよりも軸方向幅が減少する幅減少領域15fである。幅減少領域15fの軸方向幅は、ころ36aの軸方向幅と略同幅であってもよい。
【0042】
以下、内径拡大部14d、15dのうち、外歯歯車14の内径拡大部14dを主に説明するが、内径拡大部14dの説明は、他の内径拡大部15dにも適用できる。
【0043】
内径拡大部14dは、段状に形成されている。内径拡大部14dを有する場合、内径拡大部14dを有しない場合に比べて、外歯歯車14とその対向部材(第1クランク軸軸受30)との軸方向隙間が大きくなり、潤滑剤Jの移動抵抗が小さくなる。このことにより、外側に移動した潤滑剤Jを内周側に容易に移動させることができ、潤滑剤Jを円滑に偏心部12f、12kに案内できる。また、遠心力により外周方向に移動する潤滑剤Jを、内径拡大部14dの外周段部に留めることができ、遠心力がなくなったときに段部に留めた潤滑剤Jを内周側に供給できる。内径拡大部14dの外周段部は、案内溝51と径方向に対向する。
【0044】
(第3の例)
図5を参照して、案内構造5の第3の例を説明する。
図5は、案内構造5の第3の例を示す図である。外側に移動した潤滑剤Jを効率的に偏心部12f側に誘導できることが望ましい。そこで、第3の例では、壁部12d、12h、12nのうち軸方向で最も外側の特定壁部12dの外周部に、当該外周部から径方向に突出する突出部60が設けられ、案内構造5は、突出部60のころ34aに向かうにしたがって外径が減少する外径減少部62を含む。この場合、遠心力がなくなったときに、外周側の潤滑剤Jが外径減少部62によってころ34a側に案内されるので、潤滑剤Jが効率的に偏心部12fに誘導される。この例では、外径減少部62の外径は外歯歯車14の中心に向かって漸減する。
【0045】
図5の例では、突出部60は、環状の部材である仕切り板6に設けられる。仕切り板6は、例えば、板材からプレス成形により形成できる。仕切り板6は、内周側から順に、円板状の径方向延在部63と、円筒状の軸方向延在部64と、円錐型筒状の外径減少部62と、円板状の径方向延出部65とを有する。この場合、突出部60が、特定壁部12dとは別体に形成されるので、容易に所望の形状を実現できる。また、突出部60を薄型に構成できる。
図5の例では、壁部12nの外周部にも突出部60が設けられる。壁部12nの突出部60は、上述した壁部12dの突出部60と同様の構成を備え、同様の作用を奏する。この構成に関する重複説明を省く。
【0046】
図5では、仕切り板6が独立した部材である例を示したが、これに限定されない。例えば、突出部60は、特定壁部12dの側部に設けられた軸受(第1クランク軸軸受30)のオイルシールと一体化されてもよい。この場合、組立容易性が向上し、突出部60と外歯歯車14との干渉を減らせる。
【0047】
より効率的に潤滑剤Jを偏心部12fに誘導できることが望ましい。そこで、第3の例では、外歯歯車14は、外径減少部62と径方向に重なる部分に、外歯歯車14の中心に向かうにしたがって軸方向幅が減少する幅減少部14jを有する。この場合、遠心力がなくなったときに、外周側の潤滑剤Jが幅減少部14jに沿ってころ34a側に移動するので、潤滑剤Jが効率的に偏心部12fに誘導される。この例では、幅減少部14jの軸方向幅は、外歯歯車14の中心に向かって漸減する。特に、実施形態では、幅減少部14jは、外歯歯車14のころ34aが配置される配置部33よりも軸方向外側かつ、外歯歯車14の中心からオフセットした位置で外歯歯車14に設けられる複数の貫通孔の内接円よりも径方向内側に設けられ、配置部33よりも内径が大きい。
図5の例では、外歯歯車15は幅減少部15jを有する。幅減少部15jは、幅減少部14jと同様の構成を備え、同様の作用を奏する。この構成に関する重複説明を省く。
【0048】
実施形態に係る偏心揺動型減速機100の特徴を説明する。偏心揺動型減速機100は、外歯歯車14と、外歯歯車14を揺動させる偏心部12fを有するクランク軸12と、外歯歯車14と偏心部12fとの間に周方向に複数配置されたころ34aと、を有する。複数のころ34aは互いに周方向に接触可能で、偏心部12fに、溝部12eを有する偏心揺動型減速機であって、溝部12eから外側に移動した潤滑剤Jを偏心部12fに案内する案内構造5を有する。
【0049】
この構成によれば、溝部12eから遠心力によって外側に移動した潤滑剤Jが、案内構造5によって偏心部12fに案内されるので、偏心部12fに潤滑剤Jが戻りやすい。この結果、偏心部12fの潤滑不足の改善を図れる。
【0050】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明するが、そのような表記のない内容にも設計変更が許容される。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0051】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0052】
[変形例]
実施形態の説明では、溝部12e、12g、12j、12mが周状に形成される例を示したが、これに限定されない。溝部12e、12g、12j、12mは、例えばディンプルなどの、不連続な凹部であってもよい。この場合、壁部12d、12h、12nは不連続な壁部であってもよい。
【0053】
実施形態の説明では、案内溝51の幅は、軸方向から見たときの幅(周方向幅)が径方向外側に行くにしたがって大きくなる例を示したが、これに限定されない。案内溝51の幅は、軸方向の幅(溝深さ)が径方向外側に行くにしたがって大きくなっていてもよいし、この周方向幅および溝深さの両方が径方向外側に向かって大きくなっていてもよい。この場合、径方向外側から落ちてくる潤滑剤Jを一層容易に回収できる。
【0054】
減速機100がいわゆるセンタークランク型の遊星歯車装置である例を示したが、これに限定されない。本発明は、例えば、振り分け型等の偏心揺動型減速機にも適用できる。
【0055】
実施形態の説明では、外歯歯車の数が2である例を示したが、外歯歯車の数は、1または3以上であってもよい。
【0056】
キャリヤ18、20を接続するためのピン部材として内ピン38とは別に駆動力の伝達に寄与しないキャリヤピンを備えてもよい。
【0057】
実施形態の説明では、内ピン38が第1キャリヤ18と別体の例を示したが、内ピン38は、第1キャリヤ18と一体的に形成されてもよい。
【0058】
実施形態の説明では、主軸受24の内輪が、キャリヤ18と一体的に形成され、主軸受24の外輪が、ケーシング22と一体的に形成される例を示したが、主軸受の内輪は、キャリヤと別体であってもよいし、外輪は、ケーシングと別体であってもよい。
【0059】
実施形態の説明では、ケーシング22が4部材で構成される例を示したが、ケーシングは、3以下または5以上の部材で構成されてもよい。
【0060】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0061】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0062】
5 案内構造、 12 クランク軸、 12d、12h、12n 壁部、 12f、12k 偏心部、 12e、12g、12j、12m 溝部、 14、15 外歯歯車、 14d,15d 内径拡大部、 14j、15j 幅減少部、 34a、36a ころ、 51、52、53、54 案内溝、 60 突出部、 62 外径減少部、 100 偏心揺動型減速機。