(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086065
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法
(51)【国際特許分類】
B21C 47/24 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B21C47/24 F
B21C47/24 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200952
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】比護 剛志
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山田 豪
(72)【発明者】
【氏名】井本 琢也
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
【テーマコード(参考)】
4E026
【Fターム(参考)】
4E026AA02
4E026BA04
4E026BA12
4E026BA13
4E026BC01
4E026BC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、内巻き垂れの発生を抑制することが可能な、金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る金属帯の巻取り方法は、金属帯の製造において、金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、コイルの中心軸とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように金属帯を巻き取る。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯の製造において、前記金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、前記コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、前記コイルの中心軸と前記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように前記金属帯を巻き取る、金属帯の巻取り方法。
【請求項2】
前記コイルが巻きついた前記マンドレルを回転させる、又は、コイル積載移動装置が備える保持ロールを回転させることにより、前記なす角を-90~+90°の範囲とする、請求項1に記載の金属帯の巻取り方法。
【請求項3】
ラッパーロールと前記マンドレルとの間に前記先端が噛みこむ際に生じる荷重変化に基づいて、前記先端の位置を把握する、請求項1又は2に記載の金属帯の巻取り方法。
【請求項4】
前記コイルの外周側の先端部を前記コイルの巻取り方向と同方向に曲げ、前記先端部の曲率半径を前記コイルの最外周半径よりも小さくする、請求項1又は2に記載の金属帯の巻取り方法。
【請求項5】
前記金属帯の前記マンドレルへの巻付きが完了した後、前記コイルの外周側の先端部をラッパーロールで押圧する、請求項1又は2に記載の金属帯の巻取り方法。
【請求項6】
金属帯が巻き付けられてコイルが製造されるマンドレルを備え、前記マンドレルへの前記金属帯の巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、前記コイルの中心軸と前記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように前記金属帯を巻き取る、金属帯の巻取り装置。
【請求項7】
前記コイルを保持する保持ロールを有するコイル積載移動装置の少なくともいずれかを備え、
前記マンドレル又は前記保持ロールの少なくともいずれかは、前記なす角が±90°の範囲になるように回転可能である、請求項6に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項8】
前記マンドレルと共に回転しながら前記金属帯を挟み込んで前記マンドレルに前記金属帯を巻き付ける複数のラッパーロールと、前記ラッパーロールに作用する荷重を検出する荷重検出装置と、を備え、
前記荷重検出装置は、前記ラッパーロールと前記マンドレルとの間に前記先端が噛みこむ際に生じる荷重変化を検出する、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項9】
前記金属帯の進行方向を前記マンドレルの方向に変更するピンチロールを備え、
前記ピンチロールは、前記金属帯の先端を噛み込んだ時の噛み込み信号を出力し、
前記噛み込み信号と、前記ピンチロールの回転速度と、前記ピンチロールから前記マンドレルまでの距離と、に基づいて、前記先端の位置を求める、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項10】
前記金属帯の先端の通過を検知する通過検知センサーを備える、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項11】
前記コイルにおける最外周の接線方向よりも巻き方向側に前記コイルの外周側の先端を配する、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項12】
前記金属帯の進行方向を前記マンドレルの方向に変更するピンチロールを備え、
前記ピンチロールは、前記コイルの巻取り方向と同方向であって、前記コイルの外周側の先端の曲率半径が前記コイルの最外周半径よりも小さくなるように、前記金属帯の先端を曲げることが可能である、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項13】
前記マンドレルと共に回転しながら前記金属帯を挟み込んで前記マンドレルに前記金属帯を巻き付ける複数のラッパーロールを備え、
前記ラッパーロールは、前記金属帯の前記マンドレルへの巻付きが完了した後のコイルの外周側の先端部を押圧する、請求項6又は7に記載の金属帯の巻取り装置。
【請求項14】
金属帯の製造において、前記金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、前記マンドレルが引き抜かれた前記コイルを横穴の状態で配置し、前記コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、前記コイルの中心軸と前記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように前記コイルを維持する、コイルの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属帯、例えば、鋼帯の製造において、熱間圧延後の鋼帯は、ランアウトテーブルと呼ばれる搬送装置で搬送され、巻取り装置によりマンドレルに巻き取られてコイルとされる。ランアウトテーブルによる鋼帯の搬送中に、冷却装置により鋼帯は冷却される。このような熱延鋼帯の製造について様々な技術開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ランナウトテーブル上で鋼帯に発生した温度誤差(過冷却)を解消し、鋼帯を長手方向で均一な温度で巻き取るために、熱延鋼帯の巻取りにおいて、ダウンコイラーとその手前のピンチロールの間、および/または、ダウンコイラーにて巻き取られるコイル外周に近接させて、鋼帯を加熱する誘導加熱装置を備えたことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、巻取り後のコイルからマンドレルを抜き取られた後、自重によって潰れたコイルの形状を簡易的に矯正するために、横長に変形したコイルを回動させて縦長にした状態で、コイルの外周面を上方から圧下してコイルを所定の内径に成形し、当該コイルを前記マンドレルに挿入することを特徴とする、コイル挿入方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-110375号公報
【特許文献2】特開2016-215219号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Naoki Hikida, Yuta Yamamoto, Kenichi Oshita, and Shigeru Nagaki, ”Experimental Investigation of Transformation Plastic Behavior under Tensile-Compressive-Torsional Stress in Steel” Key Engineering Materials Vol. 626(2015) pp426-431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、マンドレルから抜き取られたコイルの内周部では、内巻き垂れが生じることがある。内巻き垂れとは、
図1に示すように、コイルの内周部における高強度鋼帯が垂れ下がる現象である。内巻き垂れが発生すると、巻直し又は内巻き垂れ箇所の切断が必要になるため、工程増やガスカットによる歩留まり低下につながる。そのため、内巻き垂れのないコイルの巻取り方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、内巻き垂れの発生を抑制することが可能な、金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
コイルの最内周部における内巻き垂れの発生について本発明者らが検討したところ、本発明者らは、内巻き垂れは高張力鋼帯の製造時の巻取りにおいて頻繁に発生するという知見を得た。高張力鋼帯のコイルにおける内巻き垂れの発生機構について、本発明者らは以下のように考えている。普通鋼や590MPa級の高張力鋼では、ランアウトテーブルによる搬送中の冷却によって変態が完了し、ランアウトテーブルによる搬送時に高強度鋼帯に付与された張力により、高強度鋼帯は平坦に拘束されたまま巻き取られる。一方、例えば780MPa級以上の高張力鋼では、ランアウトテーブルにおいて変態が完了しておらず、巻取り及びその後においても徐冷されることで変態が完了していることが分かった。金属組織の変態時には高強度鋼帯の変形抵抗が著しく低下する。巻取り完了後、マンドレルをコイルから引き抜いた後、コイルの内周部に位置する高強度鋼帯には自重により応力が作用するため、コイル内周部の変態が完了していない高強度鋼帯に変態塑性変形が生じる。その結果、内巻き垂れが生じると考えられる。
【0010】
本発明者らが、上記考察に基づき、変態塑性変形を考慮した熱変形解析を実施したところ、コイルの軸方向が水平方向になるように配されたコイルをその軸方向から見た場合に、コイルの内周側の基端の位置が所定の範囲の位置に配されるようにコイルを巻き取ることで、内巻き垂れを抑制可能であることがわかった。
【0011】
上記知見に基づきなされた本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係る金属帯の巻取り方法は、金属帯の製造において、上記金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、上記コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、上記コイルの中心軸と上記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように上記金属帯を巻き取る。
[2] 上記[1]に記載の金属帯の巻取り方法では、上記コイルが巻きついた上記マンドレルを回転させる、又は、コイル積載移動装置が備える保持ロールを回転させることにより、上記なす角を-90~+90°の範囲としてもよい。
[3] 上記[1]又は[2]に記載の金属帯の巻取り方法は、ラッパーロールと上記マンドレルとの間に上記先端が噛みこむ際に生じる荷重変化に基づいて、上記先端の位置を把握してもよい。
[4] 上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属帯の巻取り方法では、上記コイルの外周側の先端部を上記コイルの巻取り方向と同方向に曲げ、上記先端部の曲率半径を上記コイルの最外周半径よりも小さくしてもよい。
[5] 上記[1]~[4]のいずれかに記載の金属帯の巻取り方法では、上記金属帯の上記マンドレルへの巻付きが完了した後、上記コイルの外周側の先端部をラッパーロールで押圧してもよい。
【0012】
[6] また、本発明の別の態様に係る金属帯の巻取り装置は、金属帯が巻き付けられてコイルが製造されるマンドレルを備え、上記マンドレルへの上記金属帯の巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、上記コイルの中心軸と上記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように上記金属帯を巻き取る。
[7] 上記[6]に記載の金属帯の巻取り装置は、上記コイルを保持する保持ロールを有するコイル積載移動装置の少なくともいずれかを備え、上記マンドレル又は上記保持ロールの少なくともいずれかは、上記なす角が±90°の範囲になるように回転可能であってもよい。
[8] 上記[6]又は[7]に記載の金属帯の巻取り装置は、上記マンドレルと共に回転しながら上記金属帯を挟み込んで上記マンドレルに上金属帯を巻き付ける複数のラッパーロールと、上記ラッパーロールに作用する荷重を検出する荷重検出装置と、を備え、上記荷重検出装置は、上記ラッパーロールと上記マンドレルとの間に上記先端が噛みこむ際に生じる荷重変化を検出してもよい。
[9] 上記[6]~[8]のいずれかに記載の金属帯の巻取り装置は、上記金属帯の進行方向を上記マンドレルの方向に変更するピンチロールを備え、上記ピンチロールは、上記金属帯の先端を噛み込んだ時の噛み込み信号を出力し、上記噛み込み信号と、上記ピンチロールの回転速度と、上記ピンチロールから上記マンドレルまでの距離と、に基づいて、上記先端の位置を求めてもよい。
[10] 上記[6]~[9]のいずれかに記載の金属帯の巻取り装置は、前記金属帯の先端の通過を検知する通過検知センサーを備えていてもよい。
[11] 上記[6]~[10]のいずれかに記載の金属帯の巻取り装置は、上記コイルにおける最外周の接線方向よりも巻き方向側に上記コイルの外周側の先端を配してもよい。
[12] 上記[6]~[11]のいずれかに記載の金属帯の巻取り装置は、上記金属帯の進行方向を上記マンドレルの方向に変更するピンチロールを備え、上記ピンチロールは、上記コイルの巻取り方向と同方向であって、上記コイルの外周側の先端の曲率半径が上記コイルの最外周半径よりも小さくなるように、上記高強度鋼帯の先端を曲げることが可能であってもよい。
[13] 上記[6]~[12]のいずれかに記載の金属帯の巻取り装置は、上記マンドレルと共に回転しながら上記金属帯を挟み込んで上記マンドレルに上記金属帯を巻き付ける複数のラッパーロールを備え、上記ラッパーロールは、上記金属帯の上記マンドレルへの巻付きが完了した後のコイルの外周側の先端部を押圧してもよい。
【0013】
[14] また、本発明の別の態様に係るコイルの管理方法は、金属帯の製造において、上記金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、上記マンドレルが引き抜かれた上記コイルを横穴の状態で配置し、上記コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、上記コイルの中心軸と上記コイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように上記コイルを維持する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内巻き垂れの発生を抑制することが可能な、金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】高強度コイルに生じる内巻き垂れを示す模式図である。
【
図2】FEM解析モデルを説明するための概念図である。
【
図3】FEM解析により得られた各条件での変態後の鋼帯の形状を示す図である。
【
図4】巻き数を2巻きとした場合のFEM解析により得られた各条件での変態後の鋼帯の形状を示す図である。
【
図5】内巻き垂れの発生メカニズムを説明するための概念図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る巻取り装置を備える熱間圧延設備の構成の概略を示す概略構成図である。
【
図7】同実施形態に係る巻取り装置の概略を示す概略構成図である。
【
図8】同実施形態におけるラッパーロールの動作を説明するための概念図である。
【
図9】熱間圧延工程で巻き取られたコイルを次工程まで搬送する搬送経路の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<金属帯の巻取り方法>
金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにし、コイルからマンドレルが引き抜かれた後も変態が継続して進行し、高強度鋼板そのものの自重によって変態塑性現象が生じて剛性が低下することで内巻き垂れが生じると本発明者らは推定し、コイル最内周部に自重を加えて変態塑性現象を再現することで内巻き垂れのFEM(Finite Element Method;有限要素法)解析を行った。具体的にはコイルを構成する高強度鋼板同士の接触がなければ、摩擦を考慮しても計算は安定するので、クーロン摩擦係数μ=0.2として剛体壁との摩擦を考慮し、変位拘束をする位置の角度を0°とし、そこからθ=30°毎にコイル長を360°まで伸ばしたコイル内周部を仮定して、FEMにより解析を行った。
図2は、FEM解析モデルを説明するための概念図である。
図2に示すように、鋼板の一端を固定し、鋼板の巻方向を左巻きとして、当該一端から上方向に鋼帯を巻くものとした。また、解析条件は以下の通りとした。
【0018】
(解析条件)
・解析ソルバ:MSC.Marc2014(2次元弾性、クリープ解析、接触解析)
・鋼帯のヤング率:205GPa
・鋼帯厚:3mm
・コイル直径:760mm
・鋼帯一端:固定端、鋼帯他端:自由端
【0019】
FEM解析においては鋼帯の自重を考慮するものとした。すなわち、コイルの軸方向が水平方向となるようなモデル、言い換えると、横穴状態のコイルを想定した。また、鋼帯には時間に対して線形に変態が進行するものとし、60秒で0%から100%に変態するものとした(すなわち、変態速度1/60(秒)とした)。変態塑性モデルには、下記(1)式で表されるG.W.Greenwood and R.H.Johnsonの式を用いた。
【0020】
【0021】
FEM解析により得られた各条件での変態後の鋼帯の形状を
図3に示す。
図3に示すように、コイル中心と拘束位置(コイルの一端)とを結ぶ線分と、コイル中心とコイルの自由端(コイルの他端)とを結ぶ線分と、のなす角を120~240°とした場合に、内巻き垂れが発生することが確認された。なお、この結果では上記なす角が90°の場合に内巻き垂れが発生しているように見えるが、今回の計算では鋼帯の長さが短いため0°における鋼帯の拘束が強く、拘束点近傍の変形が集中的に大きくなったことに起因すると考えられる。
図3に示すように、上記なす角を120°又は240°とした場合の鋼帯の形状と比較すると、上記なす角が90°の場合の内巻き垂れは小さい。
【0022】
次いで、クーロン摩擦係数μ=0とし、上記解析における剛体を鋼帯に代えて、FEM解析を行った。言い換えると、鋼帯で形成されるコイルを2回巻きとし、内周側の鋼帯の一端(先端)を自由端とし、鋼帯の他端(基端)を0°に固定し、FEM解析を行った。これら以外の解析条件は、上記の解析条件と同一とした。
【0023】
巻き数を2巻きとした場合のFEM解析により得られた各条件での変態後の鋼帯の形状を
図4に示す。コイル中心と拘束位置(コイルの一端)とを結ぶ線分と、コイル中心とコイルの自由端(コイルの他端)とを結ぶ線分と、のなす角を0~90°又は270~360°とした場合、内巻き垂れは小さかった。かかる解析結果は、先の解析と比較して、鋼帯をより長く仮定している点で実態をより反映しているものと考えられ、上記なす角が0~90°又は270~360°である場合に、内巻き垂れを抑制することができることを示している。
【0024】
以上より、内巻き垂れは以下のメカニズムで生じると本発明者らは推察している。すなわち、内巻き垂れは、変態塑性ひずみが曲がり梁形状の鋼帯の先端に自重が作用することで発生する曲げモーメントを緩和する方向に生じることによって発生する。この内巻き垂れの発生感度は、自重によって発生する曲げモーメントの大きさが変化する効果と、1巻き目の鋼帯と2巻き目の鋼帯とが接触することで生じる摩擦の効果と、がコイルの内周側の先端の位置によって変化する。
図5を参照して、より詳細に内巻き垂れの発生メカニズムを説明する。
図5は、内巻き垂れの発生メカニズムを説明するための概念図である。
【0025】
図5に示すように、鋼帯の巻取りの中心を原点Oとし、原点からコイルの基端方向をX軸正方向、X方向に垂直な方向をY軸方向とする。
図5(A)に示すように、原点とコイルの先端とを結ぶ線分と、X軸正方向とのなす角が0~90°、言い換えると、コイルの先端が第一象限にある場合、コイルの自重は固定端だけで支えられることになり、先端位置の角度が0°から90°に増えるに従い、固定端で最大となるように曲げモーメントが発生する。この状態で変態塑性現象が発生すると、曲げモーメントを緩和する方向に変態塑性ひずみが発生して最内周の鋼帯の変形が始まるが、自由端までの距離が短く、曲げモーメントも小さいため変形は小さいため、内巻き垂れは生じない。
【0026】
図5(B)に示すように、上記なす角が90~180°、言い換えると、コイルの先端が第二象限にある場合、コイルの先端が第一象限にある場合と同様に、コイルの自重は固定端だけで支えられることになる。しかしながら、コイルの先端が第二象限にある場合は、第一象限にある場合と比較して著しく大きな曲げモーメントが固定端に生じる。この状態で変態塑性現象が発生すると、著しく大きな曲げモーメントを緩和する方向に変態塑性ひずみが発生して最内周の鋼帯の変形が始まるが、最内周(1巻き目)の鋼帯の変形を抑制する2巻き目の鋼帯との接触がないため、鋼帯の変形は大きな変形となる。その結果、内巻き垂れが生じる。
【0027】
図5(C)に示すように、上記なす角が180~270°、言い換えると、コイルの先端が第三象限にある場合、幾何学的に自重を支える方向に2巻き目の鋼帯と、最内周の鋼帯とが接触するため、鋼帯の変形が抑制され、曲げモーメントは小さくなる効果が期待できる。しかしながら、自重を支える効果よりも、0~180°に位置する鋼帯の自重による曲げモーメント増大の影響の方が大きい。また、鋼帯の自重に起因した曲げモーメントによる変態塑性変形により、第三象限に位置する最内周の鋼帯と2巻き目の鋼帯との接触は外れる、又は最内周の鋼帯において第三象限に位置する部分だけが2巻き目の鋼帯と接触する。そのため、自重を支える効果は小さく、自重によって発生する曲げモーメントが大きい。さらに、最内周の鋼帯と2巻き目の鋼帯との接触面積が小さいため、その接触による摩擦が生じるとしても摩擦応力は小さい。そのため、内巻き垂れが生じる。
【0028】
図5(D)に示すように、上記なす角が270~360°(-90°~0°)、言い換えると、コイルの先端が第四象限にある場合、鋼帯の変形を抑制する2巻き目の鋼帯と最内周の鋼帯とが面接触し、曲げモーメントは小さくなる。コイルの先端が第四象限にある場合は、第三象限にある場合と比較して、自重を支える効果が大きい。また、最内周の鋼帯と2巻き目の鋼帯との接触面積が大きいため、その接触により生じる摩擦応力により、周方向への滑りが抑制される。そのため、内巻き垂れが抑制される。
【0029】
したがって、金属帯の製造において、金属帯を巻取ってコイルにした後、コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、コイルの中心軸とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるように金属帯を巻き取ることで、内巻き垂れが抑制される。上記なす角が、0~85°又は275~360°であれば、曲げモーメントが比較的小さく、かつ、比較的大きな摩擦が生じ、より一層内巻き垂れが抑制される。したがって、コイルの中心軸とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向とのなす角は、好ましくは、0~85°又は275~360°である。なお、以下では、コイルの中心軸とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角を用いて、コイルの内周側の先端の位置を表すことがある。例えば、上記なす角が90°となるときのコイルの内周側の先端の位置を「90°の位置」ということがある。また、コイルの外周側の先端の位置も同様に記載することがある。
【0030】
コイル内周側の先端の位置は、例えば、ラッパーロールと前記マンドレルとの間に前記先端が噛みこむ際に生じる荷重変化に基づいて把握することができる。荷重変化基づきコイル内周側の先端の位置を把握することで、比較的簡便な構成とすることができる。
【0031】
また、既存の荷重変動に拠らなくても、後述する、ピンチロール、シュート、又はラッパーロール、の少なくともいずれかの上流又は下流に、鋼板の先端の通過を検知する通過検知センサーを設置し、鋼板通過速度と鋼板の先端が通過検知センサーを通過したときのタイミングを把握することで、鋼板先端がマンドレルのどの位置に巻き付くかを把握することができる。
【0032】
巻取り完了後、コイル内周側の先端の位置が-90~+90°の範囲の位置にない場合には、コイルを回転させてコイル内周側の先端の位置を-90~+90°の範囲の位置に移動させる。例えば、マンドレルを回転して、コイル内周側の先端の位置を-90~+90°の範囲の位置に移動させることができる。また、後述するコイル積載移動装置が備える保持ロールを回転させて、コイル内周側の先端の位置を-90~+90°の範囲の位置に移動させてもよい。
【0033】
巻取り完了後のコイルでは、外周側の先端がコイルの接線方向に延びているため、外周側の先端の位置やコイルのサイズによっては後段でコイルを結束することが難しい場合がある。そのため、コイルの結束時にはコイルの外周側の先端を240°の位置に配置してコイルを結束することが多い。外周側の先端の位置を調整すると、コイルの内周側の先端の位置も変化する。このとき、コイルの内周側の先端の位置が-90~+90°の範囲にある場合、マンドレルをコイルから引き抜く。一方、コイルの外周側の先端を240°の位置に配置したときに、コイルの内周側の先端の位置が-90~+90°の範囲にない場合(-180°以上-90°未満、又は、90°超180°以下の範囲にある場合)、マンドレルを回転してコイルの外周側の先端を0°の位置に移動させた後にマンドレルを引き抜く。コイルの外周側の先端を0°の位置に移動させることで、-90~+90°の範囲に無かった内周側の先端が、当該範囲に移動する確率が高まるため、内巻き垂れの発生を抑制することができる。
【0034】
また、結束を容易にするために、コイルの外周側の先端は、コイルの巻取り方向に沿っているか、コイルの最外周の半径よりもその曲率半径が小さくなっていることが好ましい。言い換えると、コイルの外周側の先端は、コイルの最外周の接線方向よりも内側(巻き方向側)に位置していることが好ましい。コイルの外周側の先端を、コイルの最外周の接線方向よりも内側(巻き方向側)に配する方法は特段制限されない。例えば、ピンチロールでコイルの外周側の先端部をコイルの巻取り方向と同方向に曲げ、先端部の曲率半径をコイルの最外周半径よりも小さくすることや、金属帯のマンドレルへの巻付きが完了した後、コイルの外周側の先端部をラッパーロールで押圧することで、コイルの外周側の先端を、コイルの最外周の接線方向よりも内側に配することができる。
【0035】
本実施形態に係る巻取り方法が適用される金属帯は、高強度の金属帯である。このような金属帯は、例えば、高強度鋼帯であり、ランアウトテーブルにおける冷却で変態が完了しない鋼種の鋼帯であり、例えば、780MPa級以上2000MPa以下の高強度鋼帯であり、好ましくは780MPa級以上1470MPa以下の高強度鋼帯である。
【0036】
<金属帯の巻取り装置>
続いて、
図6、7を参照して、本発明の一実施形態に係る金属帯の巻取り装置の構成例を説明する。
図6は、本実施形態に係る巻取り装置を備える熱間圧延設備の構成の概略を示す概略構成図である。
図7は、本実施形態に係る巻取り装置の概略を示す概略構成図である。
図8は、本実施形態におけるラッパーロールの動作を説明するための概念図である。
【0037】
図6に示す熱間圧延設備10には、加熱炉11から排出され粗圧延機12で粗圧延された鋼帯Sを所定の厚さに熱間圧延する仕上圧延機13、仕上げ圧延後の鋼帯Sを所定温度まで冷却する冷却装置14、冷却された鋼帯Sを巻き取る巻取り装置15が、鋼帯Sの搬送方向にこの順で設けられている。仕上圧延機13と巻取り装置15との間には、鋼帯Sを搬送するランアウトテーブル16が設けられている。仕上圧延機13で圧延された鋼帯Sは、ランアウトテーブル16上で搬送中に冷却装置14によって所定温度まで冷却された後、巻取り装置15に巻き取られて熱延コイルCが製造される。
【0038】
粗圧延機12は、複数の粗圧延スタンド、例えば、
図6に示すように第1スタンドR1~第3スタンドR3の3つの粗圧延スタンドから構成されている。また、粗圧延機12の下流に位置する仕上圧延機13は、複数の仕上圧延スタンド、例えば、
図6に示すように第1スタンドF1~第6スタンドF6の6つの仕上圧延スタンドから構成されている。なお、各圧延スタンドにはそれぞれ上下一対の圧延ロール(ワークロール)やバックアップロール等が設けられているが、これら各圧延スタンド等の構成は公知であるため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0039】
巻取り装置15は、
図7に示すように、ピンチロール151、シュート152、マンドレル153、複数のラッパーロール154、コイル積載移動装置155、荷重検出装置156、及び、制御装置(図示せず。)を備えている。
【0040】
ピンチロール151は、鋼帯Sの進行方向をマンドレル153の方向に変更する。また、ピンチロール151は、鋼帯Sへの押し込み量を変更することで、鋼帯Sを曲げることが可能である。したがって、ピンチロール151は、コイルCの巻取り方向と同方向であって、コイルCの外周側の先端の曲率半径がコイルCの最外周半径よりも小さくなるように、鋼帯Sの先端を曲げることが可能である。また、ピンチロール151は、鋼帯Sの先端を噛み込んだ時の噛み込み信号を出力することができる。噛み込み信号は制御装置に入力され、制御装置は、ピンチロール151が鋼帯Sの先端を噛み込んだ時刻を把握する。制御装置は、この時刻と、ピンチロール151の回転速度と、ピンチロール151からマンドレル153までの距離と、に基づいて、鋼帯Sの先端又はコイルCの内周側の先端の位置を把握することができる。
【0041】
シュート152は、鋼帯Sをマンドレル153に案内する。鋼帯Sの先端及び尾端には張力が作用せず、ピンチロール151からマンドレル153に移動する際に鋼帯Sの先端及び尾端が大きく振れまわる。シュート152によって先端及び尾端はマンドレル153にガイドするためのものである。
【0042】
鋼帯Sは、マンドレル153に巻き付けられてコイルCとなる。マンドレル153は、複数のラッパーロール154と共に回転しながら鋼板Sを挟み込んで、マンドレル153の外周に鋼帯Sが巻き付けられる。マンドレル153は径を拡大及び縮小することが可能である。
【0043】
ラッパーロール154は、マンドレル153と共に回転しながら鋼帯Sを挟み込んでマンドレル153に鋼帯Sを巻き付ける。
図7に示すように、複数のラッパーロール154がマンドレル153の周方向に配されている。各ラッパーロール154の回転軸とマンドレル153の回転軸は同一方向に延びて配されている。各ラッパーロール154は、
図8に示すように、マンドレル153が配されている方向に移動可能である。したがって、ラッパーロール154は、マンドレル153に巻き付いたコイルCを押圧することができる。よって、ラッパーロール154は、鋼帯Sのマンドレル153への巻付きが完了した後のコイルCの外周側の先端部を押圧することができる。金属帯のマンドレルへの巻付きが完了した後、コイルの外周側の先端部をラッパーロールで押圧することで、コイルの外周側の先端を、コイルの最外周の接線方向よりも内側に配することができ、コイルCの結束を容易にすることができる。
【0044】
コイル積載移動装置155は、マンドレル153からコイルCを引き抜き、引き抜かれたコイルを積載して後述する結束機20に搬送する。コイル積載移動装置155は、複数の保持ロール(図示せず)を有しており、複数の保持ロールにより、コイルCを横穴状態で積載することができる。更に保持ロールは回転可能である。
【0045】
荷重検出装置156は、ラッパーロール154に作用する荷重変化を検出する。荷重検出装置156は、例えばロードセルであり、ラッパーロール154に設けられる。ラッパーロール154に作用する荷重を一定として鋼帯Sを巻き取る場合、ラッパーロール154とマンドレル153との間に先端が噛みこむ際に大きな荷重変化が生じる。したがって、大きな荷重変化はコイルの内周側の先端の噛みこみを意味する。そのため、荷重検出装置156により、複数のラッパーロール154のうちの1つのラッパーロール154に大きな荷重変化が検出されると、巻取り方向において当該ラッパーロールの後段に配されたラッパーロール154との間にコイルの内周側の先端が位置していると判断することができる。したがって、荷重検出装置156により、コイルの内周側の先端の位置を把握することができる。コイル内周側の先端位置を把握することで、コイル内周側の先端の位置が-90~+90°の範囲となるようにコイルを配することが可能となる。
【0046】
制御装置は、巻取り装置の各種機能を制御する。制御装置は、例えば、コンピュータであり、CPUなどの中央演算処理装置と、この中央演算処理装置を機能させるためのプログラムから構成される。
【0047】
巻取り装置15では、鋼帯Sの進行方向をピンチロール151でマンドレル153の方向に変更し、シュート152を通過させる。ここで、鋼帯Sの先端がマンドレル153に到達する前までは、ラッパーロール154は閉、言い換えるとラッパーロール154とマンドレルとが接触しており、互いに鋼帯Sの速度よりも数%増速した速度で回転しながら待機している。そして、鋼帯Sがマンドレル153とラッパーロール154に到達すると、マンドレル153とラッパーロール154で鋼帯Sを挟み込みながら巻き取る。鋼帯Sが所定の巻き数だけ巻き取られると、マンドレル153は拡大を始め、拡大する力と熱延コイルCが巻き締まる力とが釣り合うところで径の拡大を停止し、ラッパーロール154は開となりコイルCから離れていく。
【0048】
通過検知センサー17は、鋼帯Sの先端を検知する。通過検知センサーは、鋼板の先端を検知できれば特段制限されず、例えば、鋼板の先端を撮像するカメラであってもよい。通過検知センサー17は、ピンチロール151、シュート152、又はラッパーロール154の少なくともいずれかの上流又は下流に設置され、通過検知センサー17が設置された位置を通過する鋼板の先端を検知する。鋼板速度と鋼板の先端が通過検知センサーを通過したときのタイミングを把握することで、鋼板先端がマンドレルのどの位置に巻き付くかを把握することができる。
【0049】
なお、鋼帯Sは、本開示における金属帯である。
【0050】
<コイルの管理方法>
続いて、
図9を参照して、本発明の一実施形態に係るコイルの管理方法を説明する。
図9は、熱間圧延工程で巻き取られたコイルを次工程まで搬送する搬送経路の概略を示す説明図である。
【0051】
図9に示すように、マンドレル153に巻き取られたコイルCは、コイル積載移動装置155によってマンドレル153から抜き出され、結束機20によりフープで巻き締められる。その後、コイルCは搬送台車30によって搬送され、さらにクレーン40によってコイルヤード50に置かれる。コイルヤード50では、例えばコイルCを3日間程度置き、当該コイルCを常温まで冷却させる。その後、コイルCはクレーン60によって、搬送台車70に載置され、さらに搬送台車70によって次工程が行われる設備まで搬送される。なお、この搬送経路ではコイルCは穴横の状態で取り扱われる。内巻き垂れは、熱間圧延設備10の巻取り装置15でコイルCが巻き取られてマンドレル153から搬送台車30に搬送された時点から、コイルヤード50においてコイルCが常温に冷却されるまでの間で発生し得る。
【0052】
通常、巻取り装置で製造されたコイルは、回転することなく、言い換えると内周側の先端の位置が変更されることなくコイルヤードまで搬送され、その状態で常温まで冷却される。よって、上述した金属帯の巻取り方法で金属帯が巻き取られてコイルが製造されれば、コイルの内周側の先端の位置は冷却が完了するまで変化しないため、内巻き垂れを抑制することができる。ただし、例外的に、搬送経路において内周側の先端の位置が変更されて、コイル内周側の先端の位置が-90~+90°の範囲外になった場合、内巻き垂れの抑制が十分でない可能性がある。したがって、内巻き垂れをより確実に抑制するために、搬送経路におけるコイル内周側の先端の位置を-90~+90°の範囲にすることが好ましい。よって、本発明の別の実施形態は、金属帯の製造において、金属帯をマンドレルに巻き取ってコイルにした後、マンドレルが引き抜かれたコイルを横穴の状態で配置し、コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、コイルの中心軸とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向と、のなす角が-90~+90°の範囲になるようにコイルを維持する、コイルの管理方法であると言える。
【0053】
ここまで、本発明の実施形態に係る金属帯の巻取り方法、金属帯の巻取り装置、及び、コイルの管理方法を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、上述した態様では、荷重検出装置156により、コイルの内周側の先端位置を把握しているが、目視によりコイルの内周側の先端位置を把握してもよい。
【実施例0055】
続いて、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
仕上げスタンドの出側における板厚が1.0~5.0mmであり、長さが1000mの鋼板を巻取り装置で巻き取った。仕上げスタンドの出側での鋼帯の温度は800~1000℃とした。巻取り装置におけるマンドレルの直径は700~800mmとした。鋼帯には引張強さが780MPa級の鋼帯及び1470MPa級の鋼帯を用いた。
【0057】
巻取り後にマンドレルをコイルから抜き取り、コイルの巻取り方向が左巻きとなる方向から見た場合に、コイル中心とコイルの内周側の先端とを結ぶ線分と、水平方向のうち、巻き方向が上方向となる方向とのなす角θを表1に示す角度となるように、横穴の状態でコイルを静置した。
【0058】
【0059】
各条件で、1000回の巻取り試験を行い、コイルの内周部における鋼帯をガスカットする必要が生じたコイル数が10%未満であった場合、評価結果を優(A)、上記コイル数が10%以上20%未満であった場合、評価結果を良(B)、上記コイル数が20%以上30%未満であった場合、評価結果を不良(C)、上記コイル数が30%超であった場合、評価結果を極めて不良(D)とした。評価結果がA又はBである場合を合格とした。表1に示す「-」は、巻取り試験を行わなかった条件である。引張強さが1470MPa級鋼帯は、変態完了までに780MPa級鋼帯と同程度の時間を要することから、780MPa級鋼帯と同様の結果が得られるため、1470MPa級鋼帯では、なす角θを120~240°とする巻取り試験は行わなかった。
【0060】
表1に示すように、780MPa級鋼帯及び1470MPa級鋼帯のいずれにおいてもなす角θが0~90°及び270~360°(-90~0°)の範囲で合格となった。特になす角θが0~85°又は275~360°(-85~0°)の範囲で評価結果が優となった。