(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086088
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】偏心揺動型歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201001
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】長崎 央雅
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC13
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
(57)【要約】
【課題】異物の侵入を抑制できる偏心揺動型歯車装置を提供する。
【解決手段】偏心揺動型歯車装置は、偏心体と、前記偏心体により揺動される第1揺動歯車および第2揺動歯車と、前記第1揺動歯車と前記第2揺動歯車の間に軸方向に挟まれて配置されるスペーサー部材と、前記第1揺動歯車および前記第2揺動歯車に設けられたピン孔に挿通されたピンと、を備える。前記スペーサー部材は、前記ピンの径方向外方の領域から前記ピンの径方向内方の領域に渡って配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心体と、前記偏心体により揺動される第1揺動歯車および第2揺動歯車と、前記第1揺動歯車と前記第2揺動歯車の間に軸方向に挟まれて配置されるスペーサー部材と、前記第1揺動歯車および前記第2揺動歯車に設けられたピン孔に挿通されたピンと、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記スペーサー部材は、前記ピンの径方向外方の領域から前記ピンの径方向内方の領域に渡って配置される
偏心揺動型歯車装置。
【請求項2】
複数の前記ピンが間隔を置いて周方向に配列され、前記スペーサー部材が環状板部材とされ、前記スペーサー部材に形成された複数の挿通孔が間隔を置いて周方向に配列され、複数の前記ピンが複数の前記挿通孔にそれぞれ挿通される
請求項1に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項3】
前記第1揺動歯車と前記偏心体との間に配置される第1偏心体軸受と、前記第2揺動歯車と前記偏心体との間に配置される第2偏心体軸受と、を更に備え、
前記スペーサー部材は、前記第1偏心体軸受と前記第2偏心体軸受との間に軸方向に挟まれて配置される
請求項1または2に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項4】
偏心体を有する偏心体軸と、前記偏心体により揺動される揺動歯車と、前記揺動歯車と前記偏心体との間に配置される偏心体軸受と、前記偏心体軸を支持する入力軸受と、前記入力軸受の外輪を支持するキャリア部材と、前記入力軸受と偏心体軸受の間に配置され、偏心体軸受の軸方向の移動を規制する規制部材と、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記規制部材は、前記入力軸受の前記外輪の径方向外方に位置する前記キャリア部材と軸方向に対向する径方向延在部を有する
偏心揺動型歯車装置。
【請求項5】
前記規制部材は、前記偏心体の最大偏心方向において、前記偏心体軸受よりも径方向外方まで延在する
請求項4に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項6】
前記規制部材と前記キャリア部材の間の径方向隙間は、前記規制部材と前記キャリア部材の軸方向隙間より小さい
請求項4に記載の偏心揺動型歯車装置。
【請求項7】
偏心体を有する偏心体軸と、前記偏心体により揺動される揺動歯車と、前記揺動歯車と偏心体との間に配置される偏心体軸受と、前記偏心体軸を支持する入力軸受と、前記入力軸受の外輪を支持するキャリア部材と、前記入力軸受と前記偏心体軸受の間に配置され、前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制する規制部材と、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記規制部材は、前記入力軸受の前記外輪の径方向外方に位置する前記キャリア部材または前記入力軸受の前記外輪に向けて突出する突出部を有する
偏心揺動型歯車装置。
【請求項8】
前記突出部は、前記入力軸受の前記外輪および前記キャリア部材の両方と軸方向に対向する
請求項7に記載の偏心揺動型歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2は、偏心揺動型歯車装置を開示する。このよう偏心揺動歯車装置においては、偏心体軸が入力軸受を介してハウジングまたはキャリア等に支持され、偏心体軸の偏心体が偏心体軸受を介して揺動歯車に装着され、揺動歯車が噛合歯車に噛み合っている。偏心体軸が駆動されると、揺動歯車が偏心体によって揺動されながら自転し、揺動歯車の自転運動がキャリアに伝達される。揺動歯車と噛合歯車の噛み合い部等からは、摩耗粉等の異物が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-115323号公報
【特許文献2】特開2022-82891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異物が軸受またはその転動面に浸入すると、軸受および偏心体軸等が早期に損傷してしまう。
【0005】
本発明は、異物の侵入を抑制できる偏心揺動型歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る偏心揺動型歯車装置は、
偏心体と、前記偏心体により揺動される第1揺動歯車および第2揺動歯車と、前記第1揺動歯車と前記第2揺動歯車の間に軸方向に挟まれて配置されるスペーサー部材と、前記第1揺動歯車および前記第2揺動歯車に設けられたピン孔に挿通されたピンと、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記スペーサー部材は、前記ピンの径方向外方の領域から前記ピンの径方向内方の領域に渡って配置される。
【0007】
本発明の一態様に係る偏心揺動型歯車装置は、
偏心体を有する偏心体軸と、前記偏心体により揺動される揺動歯車と、前記揺動歯車と前記偏心体との間に配置される偏心体軸受と、前記偏心体軸を支持する入力軸受と、前記入力軸受の外輪を支持するキャリア部材と、前記入力軸受と偏心体軸受の間に配置され、偏心体軸受の軸方向の移動を規制する規制部材と、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記規制部材は、前記入力軸受の前記外輪の径方向外方に位置する前記キャリア部材と軸方向に対向する径方向延在部を有する。
【0008】
本発明の一態様に係る偏心揺動型歯車装置は、
偏心体を有する偏心体軸と、前記偏心体により揺動される揺動歯車と、前記揺動歯車と偏心体との間に配置される偏心体軸受と、前記偏心体軸を支持する入力軸受と、前記入力軸受の外輪を支持するキャリア部材と、前記入力軸受と前記偏心体軸受の間に配置され、前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制する規制部材と、を備える偏心揺動型歯車装置であって、
前記規制部材は、前記入力軸受の前記外輪の径方向外方に位置する前記キャリア部材または前記入力軸受の前記外輪に向けて突出する突出部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異物の侵入を抑制できる偏心揺動型歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係る偏心揺動型歯車装置を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すII-IIに沿った面の断面図である。
【
図3】
図1に示すIIIの領域の拡大断面図である。
【
図4】実施形態2に係る偏心揺動型歯車装置を示す断面図である。
【
図6】実施形態3に係る偏心揺動型歯車装置の要部の拡大断面図である。
【
図7】実施形態3に係る偏心揺動型歯車装置の要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、1つ以上の実施形態について説明し、実施形態の特徴および技術的な効果が以下の詳細な説明および図面から理解される。ただし、本発明の範囲は、以下に開示された実施形態に限定されない。図面は例示のみのために提供されるため、本発明の範囲は図面の例示に限定されない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。「第1」および「第2」などのような序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、これらの用語の序数は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、これらの用語の序数によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
(実施形態1)
図1は、偏心揺動型歯車装置100の断面図である。
図2は、
図1に示すII-IIに沿った面を矢印方向に見て示す断面図である。
図3は、
図1に示すIIIの領域を拡大して示す拡大図である。
【0013】
偏心揺動型歯車装置100の全体構成について説明する。偏心揺動型歯車装置100は、偏心体軸12、揺動歯車14,15、噛合歯車16、キャリア20、ケーシング22、主軸受24、オイルシール25、入力軸受30,32、偏心体軸受34,35、内ピン38、間座51、規制部材53,55およびスペーサー部材61を備える。
【0014】
偏心体軸12(特に、そのシャフト本体12a)、噛合歯車16およびキャリア20は同軸状とされている。偏心体軸12(特に、そのシャフト本体12a)、噛合歯車16およびキャリア20に共通した中心軸C1に沿う方向を「軸方向」といい、その中心軸C1を中心としてその中心軸C1の回りの方向を「周方向」といい、その中心軸C1に直交する方向を「径方向」といい、その中心軸C1に直交する半径に沿って中心軸C1に向かう方向を「径方向内方」といい、その中心軸C1に直交する半径に沿って中心軸C1から離れる方向を「径方向外方」という。中心軸C1が
図1中の左右に延びており、
図1中の右側が軸方向の一方側であり、それを「入力側」という。
図1中の左側が軸方向における他方側であり、それを「反入力側」という。以上のような方向の表記は、偏心揺動型歯車装置100の使用姿勢を制限するものではなく、偏心揺動型歯車装置100は、任意の姿勢で使用され得る。
【0015】
偏心揺動型歯車装置100は、偏心体軸12の回転を減速的にキャリア20またはケーシング22の回転に変換する減速装置である。偏心揺動型歯車装置100は、偏心体軸12の回転により揺動歯車14,15を揺動させることによって、揺動歯車14,15と噛合歯車16のうち一方を自転させ、その自転成分をキャリア20またはケーシング22から出力する。
噛合歯車16は、揺動歯車14,15と噛み合う歯車である。揺動歯車14,15と噛合歯車16のうちの一方は外歯歯車であり、他方は外歯歯車の外周側に配置される内歯歯車である。本実施形態では、偏心揺動型歯車装置100は、揺動歯車14,15を外歯歯車とする外歯揺動タイプの偏心揺動型歯車装置である。但し、本発明は、揺動歯車を内歯歯車とする内歯揺動タイプの偏心揺動型歯車装置に適用されてもよい。
本実施形態では、偏心揺動型歯車装置100は、揺動歯車14,15を揺動させるための偏心体軸12が揺動歯車14,15の中央に配置されるセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置である。但し、偏心揺動型歯車装置100は、揺動歯車14,15を揺動させるための複数の偏心体軸12が揺動歯車14,15の中央から外れた位置に配置される振り分けタイプの偏心揺動型歯車装置であってもよい。
【0016】
ケーシング22は、偏心揺動型歯車装置100の外殻を構成する。ケーシング22は、中空を有する。ケーシング22は、反入力側へ順に積み重ねられた第1ケーシング部材22a、第2ケーシング部材22bおよび第3ケーシング部材22cを有する。第1ケーシング部材22aおよび第3ケーシング部材22cが複数のボルトによって第2ケーシング部材22bに固定されている。第1ケーシング部材22aは、板状に設けられているとともに、その中央に支持孔22eを有する。第2ケーシング部材22bは、筒状に設けられているとともに、その中央に中空を有する。第3ケーシング部材22cは、筒状に設けられているとともに、その中央に中空を有する。第1ケーシング部材22aの支持孔22e、第2ケーシング部材22bの中空および第3ケーシング部材22cの中空は互い連通している。
【0017】
キャリア20は、ケーシング22の反入力側の部位においてケーシング22の内側に収容されて、ケーシング22に対して相対的に回転可能に設けられている。キャリア20は、入力側から反入力側へ順に積み重ねられた第1キャリア部材20aおよび第2キャリア部材20bを有する。これらキャリア部材20a,20bはボルトによって互いに固定される。キャリア部材20a,20bは円筒状に設けられている。
【0018】
複数の内ピン38は、キャリア20、特に第1キャリア部材20aに一体化されている。これら内ピン38は、間隔を置いて周方向に配列されている。内ピン38は、第1キャリア部材20aから入力側へ突出している。内ピン38がローラー39にそれぞれ挿入され、ローラー39が内ピン38の回りを回転する。
【0019】
主軸受24は、ケーシング22の内周、より具体的には第3ケーシング部材22cの内周と、キャリア20の外周、より具体的には第1キャリア部材20aの外周との間に配置されている。主軸受24は、キャリア20をケーシング22に回転可能に支持する。主軸受24は、例えばローラーベアリングおよびボールベアリング等のような転がり軸受であり、より具体的にはクロスローラーベアリングである。主軸受24は、他の種類のベアリングであってもよい。
【0020】
オイルシール25は、ケーシング22の内周、より具体的には第3ケーシング部材22cの内周のうち反入力側の端と、キャリア20の外周、より具体的には第2キャリア部材20bの外周との間において、主軸受24の軸方向外側(反入力側)に配置されている。
【0021】
入力軸受30,32は、これらの間に間隔を置いて、入力側から反入力側へ順に並んでいる。入力軸受30は、ケーシング22の内側に支持されている。より具体的には、入力軸受30は、支持孔22e内において第1ケーシング部材22aに支持されている。入力軸受30は、ケーシング22、より具体的には第1ケーシング部材22aに偏心体軸12を回転可能に支持する。入力軸受32は、キャリア20の内周、より具体的には第1キャリア部材20aの内周に支持されている。入力軸受32は、キャリア20、より具体的には第1キャリア部材20aに偏心体軸12を回転可能に支持する。入力軸受30,32は、ボールベアリングであるが、ボールベアリング以外の転がり軸受であってもよい。入力軸受30および入力軸受32の内輪30a,32aは偏心体軸12と別体形成されているが、入力軸受30もしくは入力軸受32またはこれら両方の内輪30a,32aが偏心体軸12と一体形成されてもよい。入力軸受30の外輪30bは、第1ケーシング部材22aと別体形成されているが、第1ケーシング部材22aと一体形成されてもよい。入力軸受32の外輪32bは、第1キャリア部材20aと別体形成されているが、第1キャリア部材20aと一体形成されてもよい。なお、本実施形態においては、入力軸受30はシールド軸受であるのに対して、入力軸受32はシールド軸受ではないが、これに限定されるものではなく、入力軸受30はシールド軸受でなくてもよいし、入力軸受32はシールド軸受けでもよい。
【0022】
偏心体軸12は、不図示の駆動装置から回転動力を受けて、回転動力によって回転される。駆動装置は、例えばモータ、ギヤモータおよびエンジン等のような原動機である。
【0023】
偏心体軸12は、シャフト本体12aおよび偏心体12b,12cを有する。
シャフト本体12aは軸方向に延びている。シャフト本体12aは駆動装置に連結されていて、駆動装置の回転動力がシャフト本体12aに伝達される。シャフト本体12aは、入力軸受30,32に装着されているとともに、キャリア20および噛合歯車16と同軸状に入力軸受30,32によって回転可能に支持されている。なお、偏心体軸12は、シャフト本体12aの入力側の端面から反入力側の端面まで軸方向に貫通した中空を有してもよい。
偏心体12b,12cは、シャフト本体12aと一体形成されている。偏心体12b,12cは、それらの間に軸方向の間隔を置いて、互いに近接している。第1偏心体12bは、その外周に、中心軸C1から偏心した偏心軸E1を中心軸とした円柱面を有する。第2偏心体12cは、その外周に、中心軸C1から偏心した偏心軸E2を中心軸とした円柱面を有する。偏心軸E1は中心軸C1に関して偏心軸E2の反対側に互いに配置され、中心軸C1から偏心軸E1への偏心方向の位相は、中心軸C1から偏心軸E2への偏心方向の位相から180°ずれている。位相とは、中心軸C1の回りの回転角をいう。なお、中心軸C1から偏心軸E1への偏心方向は第1偏心体12bの最大偏心方向であり、中心軸C1から偏心軸E2への偏心方向は第2偏心体12cの最大偏心方向である。
【0024】
第1揺動歯車14はその中央に円孔を有し、第1偏心体12bが第1偏心体軸受34を介して第1揺動歯車14の円孔に挿入され、第1揺動歯車14が第1偏心体軸受34を介して第1偏心体12bに自転可能に支持されている。第1揺動歯車14が第1偏心体12bと同軸状とされ、第1揺動歯車14の回転軸が中心軸C1から偏心している。第1揺動歯車14と同様に、第2揺動歯車15が第2偏心体軸受35を介して第2偏心体12cに回転可能に支持されている。
【0025】
第1偏心体軸受34は複数の転動体34aを有する。これら転動体34aは、第1揺動歯車14の円孔の内周と第1偏心体12bの外周との間において、第1偏心体12bの外周の円周方向に配列されている。そのため、第1偏心体12bの外周が第1偏心体軸受34の内輪であり、第1揺動歯車14の内周が第1偏心体軸受34の外輪である。転動体34aは第1偏心体12bの外周および第1揺動歯車14の内周を転動する。転動体34aはころである。ころからなる転動体34aは、球体からなる転動体と比較して、第1偏心体軸受34の負荷容量の向上に寄与する。第1偏心体軸受34と同様に、第2偏心体軸受35も、第2揺動歯車15の円孔の内周と第2偏心体12cの外周との間において、第2偏心体12cの外周の円周方向に配列された複数の転動体35aを有する。なお、第1偏心体軸受34および第2偏心体軸受35は、第1揺動歯車14および第2揺動歯車15とは別体の外輪や第1偏心体12bおよび第2偏心体12cとは別体の内輪を有してもよい。
【0026】
第1揺動歯車14は、中央の円孔の周囲に複数のピン孔14aを有する。これらピン孔14aは、第1揺動歯車14を軸方向に貫通している。これらピン孔14aは、第1揺動歯車14の回転軸を中心とした円周方向に間隔を置いて配列されている。内ピン38とローラー39の組がピン孔14aにそれぞれ挿入されている。内ピン38およびローラー39の外径がピン孔14aの内径よりも小さいところ、ローラー39の外周がピン孔14aの内周に一部接している。第1揺動歯車14と同様に、第2揺動歯車15も複数のピン孔15aを有し、内ピン38およびローラー39の組がピン孔15aにそれぞれ挿入されている。
なお、ローラー39が設けられずに、内ピン38がピン孔14a,15aに挿入され、内ピン38の外周がピン孔14a,15aの内周に部分的に接触してもよい。この場合、内ピン38の外径が上記ローラー39の外径に等しい。
【0027】
第1揺動歯車14は、その外周に形成された複数の外歯を有する。一方、噛合歯車16がケーシング22の内周、具体的には第2ケーシング部材22bの内周に形成され、噛合歯車16は複数の内歯を有し、第1揺動歯車14が噛合歯車16に噛み合っている。第1揺動歯車14と同様に、第2揺動歯車15がその外周に第1揺動歯車14の歯数と同数の外歯を有し、第2揺動歯車15が噛合歯車16に噛み合っている。なお、噛合歯車16の内歯は、第2ケーシング部材22bの内周に一体的に形成されてもよいし、第2ケーシング部材22bの内周に設けられたピン溝に回転自在に配置されたピン部材により構成されてもよい。揺動歯車14,15と噛合歯車16の噛み合い部では、これらから摩耗粉が発生しやすい。
【0028】
第1揺動歯車14および第2揺動歯車15の歯数は、噛合歯車16の歯数よりも少ない。例えば、第1揺動歯車14および第2揺動歯車15の歯数は、噛合歯車16の歯数よりも1または2だけ少ない。偏心体軸12が回転すると、揺動歯車14,15が揺動しながら自転するため、第1揺動歯車14と噛合歯車16の噛み合い位置が周方向に移動し、第2揺動歯車15と噛合歯車16の噛み合い位置が第1揺動歯車14と噛合歯車16の噛み合い位置から180°位相ずれした状態で周方向に移動する。
【0029】
揺動歯車14,15が偏心体軸12の回転により揺動しながら自転すると、内ピン38が中心軸C1の回りに公転し、揺動歯車14,15の自転運動成分が内ピン38によってをキャリア20に伝達される。これにより、減速された回転がキャリア20から取り出される。ローラー39の外径がピン孔14a,15aの内径よりも小さいため、揺動歯車14,15の揺動運動成分がキャリア20に伝達されない。なお、キャリア20を外部部材に固定した場合には、内ピン38の公転および第1揺動歯車14および第2揺動歯車15の自転が拘束され、噛合歯車16およびケーシング22から減速回転が取り出される。つまり、内ピン38は、第1揺動歯車14および第2揺動歯車15の自転成分と同期する部材ということができる。
【0030】
間座51は、ケーシング22の中空において、その中空の入力側の内面に固定されている。具体的には、間座51がリング状に形作られ、間座51の外周が第1ケーシング部材22aと第2ケーシング部材22bの間に挟持されている。間座51は第1ケーシング部材22aと第1揺動歯車14との間に軸方向に挟まれ、第1ケーシング部材22aと第1揺動歯車14との間の隙間が間座51によって埋められている。また、間座51は、ローラー39の軸方向端面と当接している。間座51は、第1ケーシング部材22aよりも硬度の高い素材により構成されており、第1揺動歯車14やローラー39との摺動により第1ケーシング部材22aが摩耗するのを防止する。
【0031】
間座51は、偏心体軸12のシャフト本体12aを周方向に囲うとともに、偏心体軸12のシャフト本体12aの外周から径方向外方に離れている。この間座51の内周とシャフト本体12aの外周との間には、規制部材53が配置されている。
【0032】
規制部材53は、偏心体軸12とは別体であるとともに、偏心体軸12のシャフト本体12aを周方向に囲うようにリング状に設けられている。規制部材53が第1偏心体12bと入力軸受30の内輪30aとの間に軸方向に挟まれ、規制部材53の軸方向の移動が第1偏心体12bおよび入力軸受30によって規制されている。規制部材53が複数の転動体34aの入力側の端面に接触し、第1揺動歯車14の円孔から転動体34aの抜け(軸方向移動)が規制部材53によって防止される。規制部材53は、偏心体軸12のシャフト本体12aに外装される筒状部53aと、筒状部53aの反入力側の端から径方向外方に突出する径方向延在部53bと、を有する。筒状部53aは、径方向延在部53bの内周部から入力側に突出しているとともに、第1偏心体12bと入力軸受30の内輪30aとの間に軸方向に挟まれている。径方向延在部53bは、入力軸受30から離れているともに、転動体34aに接触する。径方向延在部53bはフランジともいう。
【0033】
規制部材53から反入力側に離れた箇所には、規制部材55が配置されている。規制部材55は、偏心体軸12とは別体であるとともに、偏心体軸12のシャフト本体12aを周方向に囲うようにリング状に設けられている。規制部材55が第2偏心体12cと入力軸受32の内輪32aとの間に軸方向に挟まれ、規制部材55の軸方向の移動が第2偏心体12cおよび入力軸受32によって規制されている。規制部材55が複数の転動体35aの反入力側の端面に接触し、第2揺動歯車15の円孔から転動体35aの抜け(軸方向移動)が規制部材55によって防止される。規制部材55は、偏心体軸12のシャフト本体12aに外装される筒状部55aと、筒状部55aの入力側の端から径方向外方に突出する径方向延在部55bと、を有する。筒状部55aは、径方向延在部55bの内周部から反入力側に突出しているとともに、第2偏心体12cと入力軸受32の内輪32aとの間に軸方向に挟まれている。径方向延在部55bは、入力軸受32から離れているともに、転動体35aに接触する。
【0034】
規制部材53と規制部材55の間には、スペーサー部材61が配置されている。スペーサー部材61は、偏心体軸12とは別体である。スペーサー部材61は、偏心体軸12のシャフト本体12aを周方向に囲うように設けられた環状板部材である。そのため、スペーサー部材61は、偏心体軸12のシャフト本体12aが通される通し孔61bを中央に有する。スペーサー部材61が第1揺動歯車14と第2揺動歯車15との間に軸方向に挟まれ、第1揺動歯車14と第2揺動歯車15との間の隙間がスペーサー部材61によって埋められている。なお、本明細書において、部材(第1揺動歯車14)と部材(第2揺動歯車15)との間に軸方向に挟まれるとは、同部材(第1揺動歯車14および第2揺動歯車15)に接触して挟まれる場合だけでなく、別のスペーサ部材等を介して挟まれる場合も含まれる。
【0035】
スペーサー部材61は複数の挿通孔61aを有し、これら挿通孔61aがスペーサー部材61を軸方向に貫通する。これら挿通孔61aは揺動歯車14,15の回転軸を中心とした円周方向に間隔を置いて配列されている。内ピン38とローラー39の組が挿通孔61aにそれぞれ嵌め込まれているため、スペーサー部材61が内ピン38の径方向外方の領域から内ピン38の径方向内方に渡って配置される。スペーサー部材61は、内ピン38の公転により揺動歯車14,15と一緒に自転するが、揺動しない。
【0036】
スペーサー部材61の通し孔61bの内径は揺動歯車14,15の中央の円孔の内径よりも小さく、スペーサー部材61が揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出している。スペーサー部材61のうち揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出した部分は、第1偏心体軸受34の転動体34aと第2偏心体軸受35の転動体35aとの間に軸方向に挟まれて配置されている。
【0037】
以上のように、スペーサー部材61が内ピン38の径方向外方の領域から内ピン38の径方向内方の領域に渡って配置されているため、揺動歯車14,15の径方向外方で発生した摩耗粉等の異物が、揺動歯車14,15の間の隙間を通って揺動歯車14,15の径方向内方へ浸入し難い。特に、スペーサー部材61の内周部分が第1偏心体軸受34の転動体34aと第2偏心体軸受35は複数の転動体35aとの間に軸方向に挟まれているため、異物が偏心体軸受34,35の転動体34a,35aの周囲の隙間に浸入しにくい。このことは、偏心体軸受34,35及び偏心体12b,12cの損傷の抑制に寄与するとともに、偏心体軸受34,35および偏心揺動型歯車装置100の長寿命化に寄与する。
【0038】
(実施形態2)
図4および
図5を参照して、実施形態2について説明する。
図4は、実施形態2における偏心揺動型歯車装置100の断面図である。
図5は、
図4に示すVの領域を拡大して示す拡大図である。実施形態2が以下の点で実施形態1から変更されており、以下の説明以外については実施形態2と実施形態1が同様である。
【0039】
実施形態2の規制部材55の径方向延在部55bの外径は実施形態1の規制部材55の径方向延在部55bの外径よりも大きい。つまり、実施形態1では、径方向延在部55bの外周が入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向内方に配置されるのに対して、実施形態2では、径方向延在部55bの外周が入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向外方に配置され、径方向延在部55bが、入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向外方に張り出している。
【0040】
そのため、実施形態2では、径方向延在部55bは、入力軸受32の外輪32bの径方向外方に位置する第1キャリア部材20aと軸方向に対向する。また、径方向延在部55bは、偏心体12bの最大偏心方向において、第2偏心体軸受35よりも径方向外方まで延在する。
【0041】
径方向延在部55bの外周が第1キャリア部材20aの内周から径方向内方に僅かに離間し、それらの間に僅かな隙間56が存在する。隙間56は径方向隙間ともいう。また、径方向延在部55bはそれに軸方向に対向する第1キャリア部材20aの部分から軸方向に離間し、それらの間に隙間57が存在する。隙間57は軸方向隙間ともいう。これらの隙間56,57は、径方向延在部55bと第1キャリア部材20aの間の摩擦抵抗を発生させない。径方向における隙間56の間隔は、軸方向における隙間57の間隔よりも小さい。径方向延在部55bが入力軸受32の外輪32bから軸方向に離間し、径方向延在部55bと入力軸受32の間に摩擦抵抗が発生しない。
【0042】
以上のように、径方向延在部55bは入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向外方に張り出しており、その張り出した部分は入力軸受32の外輪32bの径方向外方に位置する第1キャリア部材20aと軸方向に対向するため、隙間56が小さい。そのため、摩耗粉等の異物が第2揺動歯車15の方から隙間56を通って入力軸受32の方へ移動しにくく、入力軸受32への異物の侵入が防止される。
【0043】
径方向延在部55bが第2偏心体軸受35の転動体35aよりも径方向外方まで延在するため、第2揺動歯車15の中央の円孔への異物の侵入が防止される。
【0044】
実施形態2のスペーサー部材61の内径は実施形態1のスペーサー部材61の内径よりも大きく、スペーサー部材61が揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出していない。その代わりに、フランジ12dが偏心体12b,12cの間において偏心体軸12のシャフト本体12aの外周に形成され、フランジ12dが偏心体12b,12cの外周から径方向外方に張り出している。フランジ12dは、第1偏心体軸受34の転動体34aと第2偏心体軸受35は複数の転動体35aとの間に軸方向に挟まれている。なお、実施形態1と同様に、実施形態2においても、フランジ12dが設けられず、スペーサー部材61が揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出し、その張り出した部分が第1偏心体軸受34の転動体34aと第2偏心体軸受35は複数の転動体35aとの間に軸方向に挟まれてもよい。
【0045】
なお、実施形態1の場合と同様に実施形態2でも、もう一方の規制部材53の径方向延在部53bが入力軸受30の外輪30bの外周よりも径方向外方に張り出していない。それに対して、径方向延在部53bが入力軸受30の外輪30bの外周よりも径方向外方に張り出し、第1ケーシング部材22aと軸方向および径方向に対向させてもよい。この場合、入力軸受30への異物の侵入が防止されるため、入力軸受30がシールドされていない軸受であってもよい。入力軸受30がシールドされていなければ、軸方向における入力軸受30のサイズが小さいので、軸方向における第1ケーシング部材22aのサイズも小さくでき、装置全体を軸方向にコンパクト化できる。
【0046】
(実施形態3)
図6を参照して、実施形態3について説明する。
図6は、実施形態3における偏心揺動型歯車装置の一部の断面図である。
図6に示される領域は、実施形態2おいて
図5に示される領域Vに相当する。実施形態3が以下の点で実施形態1から変更されており、以下の説明以外については実施形態3と実施形態1が同様である。
【0047】
実施形態3では、規制部材55が、筒状部55aおよび径方向延在部55bに加えて、突出部55cを更に有する。突出部55cは、径方向延在部55bの外周に沿ってリング状に設けられているとともに、径方向延在部55bから入力軸受32の外輪32bに向けて軸方向に突出する。突出部55cは、入力軸受32の外輪32bから軸方向に離間した状態で、入力軸受32の外輪32bと軸方向に対向する。そのため、突出部55cと入力軸受32の外輪32bとの間には、隙間58が存在する。隙間58は軸方向隙間ともいう。
【0048】
このような突出部55cが設けられているため、摩耗粉等の異物が規制部材55の径方向外方から隙間58を通って入力軸受32の方へ移動しにくく、入力軸受32への異物の侵入が防止される。
【0049】
図6に示す例では、突出部55cの外周の外径が入力軸受32の外輪32bの外周の外径よりも小さく、突出部55cの外周が入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向内方に配置されている。それに対して、
図7に示すように、突出部55cの外周の外径が入力軸受32の外輪32bの外周の外径よりも大きく、突出部55cが入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向外方に張り出してもよい。この場合、突出部55cが入力軸受32の外輪32bと軸方向に対向するとともに、入力軸受32の外輪32bの外周の径方向外方においても、突出部55cが入力軸受32の外輪32bの径方向外方に位置する第1キャリア部材20aと軸方向に対向する。また、この場合、実施形態2の場合と同様に、径方向延在部55bが、入力軸受32の外輪32bの外周よりも径方向外方に張り出している。
【0050】
実施形態2と同様に、実施形態3においても、スペーサー部材61が揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出しておらず、フランジ12dが偏心体12b,12cの間において偏心体軸12のシャフト本体12aの外周に形成されている。勿論、実施形態1と同様に、実施形態3においても、フランジ12dが設けられず、スペーサー部材61が揺動歯車14,15の中央の円孔の縁よりも径方向内方に張り出してもよい。
【0051】
なお、規制部材55が突出部55cを有するのと同様に、もう一方の規制部材53が突出部を有してもよい。その突出部は、径方向延在部53bの外周に沿ってリング状に設けられているとともに、径方向延在部53bから入力軸受30の外輪30bに向けて軸方向に突出する。
【0052】
(変形例)
上記各実施形態では、ケーシング22が3体のケーシング部材22a~22bのアセンブリーであったが、ケーシング22が1体の部材から構成されてもよいし、4体の部材のアセンブリーであってもよい。
【0053】
上記各実施形態では、揺動歯車14,15の数が2である例を示した。それに対して、揺動歯車14,15の数が1または3以上であってもよい。
【0054】
第1ケーシング部材22aの代わりに第2キャリアが入力軸受30に外装され、第2キャリアが入力軸受30によって偏心体軸12のシャフト本体12aに対して回転可能に支持されてもよい。この場合、第2キャリアが主軸受によって第2ケーシング部材22bに対して回転可能に支持され、第2キャリアがキャリアピンによって第1キャリア部材20aに連結され、第2キャリアと第1キャリア部材20aが一体的に回転する。キャリアピンは、内ピン38と同様に、内ピン38が配列された円周上に配置されているとともに、揺動歯車14,15およびスペーサー部材61を貫通している。内ピン38が揺動歯車14,15の自転運動の動力を第1キャリア部材20aおよび第2キャリアに伝達するのに対して、キャリアピンは揺動歯車14,15の自転運動の動力を第1キャリア部材20aおよび第2キャリアに伝達しない。ただし、内ピン38とキャリアピンの機能を一体化し、内ピン38に揺動歯車14,15の自転運動を取り出す機能と、第1キャリア部材20aおよび第2キャリアを連結する機能の両方を持たせてもよい。
【0055】
上記各実施形態では、内ピン38が第1キャリア部材20aと一体形成されている。それに対して、内ピン38が第1キャリア部材20aと別体形成され、内ピン38が第1キャリア部材20aに組み付けられてもよい。
【0056】
主軸受24の外輪が第3ケーシング部材22cと一体形成されてもよい。主軸受24の内輪が第1キャリア部材20aと一体形成されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
12 偏心体軸
12a シャフト本体
12b 第1偏心体
12c 第2偏心体
14 第1揺動歯車
15 第2揺動歯車
20 キャリア
20a 第1キャリア部材
20b 第2キャリア部材
30,32 入力軸受
30b,32b 外輪
34 第1偏心体軸受
35 第2偏心体軸受
38 内ピン
53 規制部材
55 規制部材
55a 筒状部
55b 径方向延在部
55c 突出部
56 隙間
61 スペーサー部材
61a 挿通孔