(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086089
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201002
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 洋斗
(57)【要約】
【課題】ラックハウジングに対するラックバーの回転をより抑制することが可能な操舵装置を提供すること。
【解決手段】操舵装置は、第1段差部を有するラックバーと、第1段差部に対応する第2段差部を有するラックブッシュと、を備える。ラックバーの第1段差部は、第1外周面部と、第1外周面部から内周側に向けて延びる第1側面部と、を有する。ラックブッシュの第2段差部は、第1外周面部に沿って延びる第1内周面部と、第1内周面部から内周側に向けて延び且つ第1側面部に対して周方向で対向する第2側面部と、を有する。ラックブッシュに対してラックバーが周方向に回転する場合に、第1側面部と第2側面部とが当接可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の軸方向に延び且つ外周面に第1段差部を有するラックバーと、
前記ラックバーの外周側に配置され且つ内周面に前記第1段差部に対応する第2段差部を有するラックブッシュと、
前記ラックブッシュの外周側に配置され且つ前記ラックブッシュを保持するラックハウジングと、を備え、
前記ラックバーの前記第1段差部は、前記中心軸の軸回りの周方向に沿って延びる第1外周面部と、当該第1外周面部から内周側に向けて延びる第1側面部と、を有し、
前記ラックブッシュの前記第2段差部は、
前記ラックバーの前記第1外周面部の外周側に位置し且つ当該第1外周面部に沿って延びる第1内周面部と、当該第1内周面部から内周側に向けて延び且つ前記第1側面部に対して周方向で対向する第2側面部と、を有し、
前記ラックブッシュに対して前記ラックバーが周方向に回転する場合に、前記第1側面部と前記第2側面部とが当接可能である、
操舵装置。
【請求項2】
前記中心軸に交差する断面において、
前記第1段差部および前記第2段差部は、
前記中心軸を通る第1直線を挟んだ一方側と他方側とにそれぞれ設けられる、
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記中心軸に交差する断面において、
前記一方側の前記第2段差部の前記第2側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離は、前記一方側の前記第1段差部の前記第1側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離よりも小さく、
前記他方側の前記第2段差部の前記第2側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離は、前記他方側の前記第1段差部の前記第1側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい、
請求項2に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーステアリング装置は、例えば、筒状のハウジングと、ハウジングの内周側に挿入され且つラック歯を有するラックバーと、ラック歯に噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸と、ピニオン軸に連結されるステアリングシャフトと、ステアリングシャフトに連結されるステアリングホイールと、を備える。ラックバーは中心軸の軸方向に延びている。ステアリングホイールを操舵してステアリングシャフトおよびピニオン軸を回転させることにより、ラックバーを車幅方向(車両の左右方向)に移動させて車輪を傾かせる。
【0003】
例えば、ラックバーに外力が加わり、ハウジングに対してラックバーが中心軸の周方向に回転すると、ラック歯とピニオン歯との噛み合い部分に、より大きい力が掛かるため、ラック歯またはピニオン歯が損傷を受ける可能性がある。
【0004】
そこで、特許文献1のステアリング装置では、ラックバーの回転を抑制する構造が採用される。具体的には、ハウジングとラックバーとの間に、環状のラックブッシュを介在させている。ラックブッシュは、ハウジングの内周に圧入され、ラックブッシュの内周側にラックバーを挿入している。ラックバーの外周面は、中心軸の周方向に沿う第1平坦部を有し、ラックブッシュの内周面は、第1平坦部に当接する第2平坦部を有する。これにより、ラックブッシュに対してラックバーが回転する場合、第1平坦部が第2平坦部から摩擦力を受けるため、ラックバーの回転が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両を操舵する際、ラックバーは車幅方向(車両の左右方向)に移動する。従って、特許文献1に記載のステアリング装置では、操舵のたびにラックブッシュとラックバーとの摩擦が生じる。このため、ラックブッシュまたはラックバーが摩耗してしまい、第1平坦部と第2平坦部との間に間隙が生じる。この場合、ラックバーが回転する際に、ラックバーの回転の抑制が低下する可能性がある。
【0007】
本開示は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、ラックハウジングに対するラックバーの回転をより抑制することが可能な操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、一態様に係る操舵装置は、中心軸の軸方向に延び且つ外周面に第1段差部を有するラックバーと、前記ラックバーの外周側に配置され且つ内周面に前記第1段差部に対応する第2段差部を有するラックブッシュと、前記ラックブッシュの外周側に配置され且つ前記ラックブッシュを保持するラックハウジングと、を備え、前記ラックバーの前記第1段差部は、前記中心軸の軸回りの周方向に沿って延びる第1外周面部と、当該第1外周面部から内周側に向けて延びる第1側面部と、を有し、前記ラックブッシュの前記第2段差部は、前記ラックバーの前記第1外周面部の外周側に位置し且つ当該第1外周面部に沿って延びる第1内周面部と、当該第1内周面部から内周側に向けて延び且つ前記第1側面部に対して周方向で対向する第2側面部と、を有し、前記ラックブッシュに対して前記ラックバーが周方向に回転する場合に、前記第1側面部と前記第2側面部とが当接可能である。
【0009】
前述のように、特許文献1に記載のステアリング装置では、操舵のたびにラックブッシュとラックバーとの摩擦が生じる。従って、ラックブッシュまたはラックバーが摩耗してしまい、第1平坦部と第2平坦部との間に間隙が生じ、ラックバーの回転の抑制が低下する可能性がある。
【0010】
これに対して、本開示では、例えばラックバーに外力が加わるときなど、ラックブッシュに対してラックバーが周方向に回転する場合に、第1側面部と第2側面部とが当接する。即ち、通常時には第1側面部と第2側面部とは当接せず、ラックバーが周方向に回転する場合に、第1側面部と第2側面部とが当接する。従って、ラックブッシュまたはラックバーの摩耗量がより低下するため、ラックハウジングに対するラックバーの回転をより抑制することが可能な操舵装置を提供することが可能となる。
【0011】
望ましい態様として、前記中心軸に交差する断面において、前記第1段差部および前記第2段差部は、前記中心軸を通る第1直線を挟んだ一方側と他方側とにそれぞれ設けられる。
【0012】
従って、第1直線を挟んだ一方側と他方側との片方のみに第1段差部および第2段差部が設けられる場合よりも、ラックバーの回転時に、第1側面部と第2側面部とがより当接しやすくなる。このため、ラックハウジングに対するラックバーの回転をより抑制することが可能になる。
【0013】
望ましい態様として、前記中心軸に交差する断面において、前記一方側の前記第2段差部の前記第2側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離は、前記一方側の前記第1段差部の前記第1側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離よりも小さく、前記他方側の前記第2段差部の前記第2側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離は、前記他方側の前記第1段差部の前記第1側面部から前記第1直線までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい。
【0014】
従って、ラックバーが周方向の一方側に回転した場合と他方側に回転した場合との双方において、第1側面部と第2側面部とが当接する。具体的には、時計回り方向にラックバーが回転する場合、第1直線に対して一方側に位置する第1側面部が第2側面部に当接する。反時計回り方向にラックバーが回転する場合、第1直線に対して他方側に位置する第1側面部が第2側面部に当接する。このように、ラックバーが周方向のいずれに回転した場合でも、ラックバーの回転をより抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ラックハウジングに対するラックバーの回転をより抑制することが可能な操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る操舵装置を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、ラックバーの製造工程を示す模式図であり、(a)は下型にブランク材をセットした状態を示す図、(b)は上型を下降させてブランク材を上から押し潰している状態を示す図、(c)は成形が完了したラックバーを示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るラックバーおよびラックブッシュの断面を示す模式図である。
【
図7】
図7は、ラックブッシュに対してラックバーが回転し、ラックバーの第1側面部がラックブッシュの第2側面部に当接する状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係るステアリング装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、同一構造の部位には同一符号を付けて、説明を省略する。なお、中心軸AXの軸方向をX方向とし、軸方向の一方側がX1側(例えば車両右側)であり、軸方向の他方側がX2側(例えば車両左側)である。また、X方向に直交(交差)する方向がY方向である。Y方向は、例えば車両の前後方向であり、Y1側は例えば車両後方側、Y2側は例えば車両前方側である。Z方向は、X方向およびY方向に直交(交差)する。Z1側は例えば車両上方側であり、Z2側は例えば車両下方側である。
【0018】
実施形態に係る操舵装置について説明する。
図1は、実施形態に係る操舵装置を示す模式的な断面図である。
図2は、
図1のA部分を拡大した断面図である。
【0019】
図1に示すように、操舵装置100は、大まかに、ラックバー2と、ラックブッシュ3と、ラックハウジング110と、モータ120と、ギヤ機構130と、を備える。
【0020】
図1に示すように、操舵装置100は、軸方向の一方側(X1側)の操舵側と軸方向の他方側(X2側)のアシスト側とに操舵手段が設けられる。
【0021】
具体的には、X1側においては、
図1に示すように、操舵ピニオン軸150が設けられる。操舵ピニオン軸150のピニオン歯151がラックバー2のラック歯21と噛み合う。また、ラックバー2におけるラック歯21と反対側には、ラックガイド160およびスプリング161が設けられる。即ち、ラックハウジング110には、中心軸AXと交差する方向に延びるラックガイド収容部163が設けられ、ラックガイド収容部163の内部に、ラックガイド160およびスプリング161が収容される。スプリング161は縮んだ状態であるため、ラックガイド160をラックバー2に向けて押圧する。ラックガイド160はラックバー2を操舵ピニオン軸150に向けて押圧する。
【0022】
また、操舵ピニオン軸150は、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールと連結される。操舵ピニオン軸150にステアリングホイールの操舵力が伝達されることにより、
図1の矢印で示すように、ラックハウジング110に対してラックバー2がX方向に移動する。
【0023】
また、X2側には、ウォームホイール140およびウォームシャフト141を含むギヤ機構130が設けられる。ギヤ機構130を介してモータ120の駆動力がラックバー2に伝達される。即ち、モータ120の出力軸にはウォームシャフト141が取り付けられ、ウォームシャフト141はウォームホイール140に噛みあう。ウォームホイール140が取り付けられるアシストピニオン軸88cには、アシストピニオン歯が設けられる。アシストピニオン歯は、ラックバー2のラック歯と噛み合う。
【0024】
従って、モータ120に電流が供給されると、モータ120の出力軸とウォームシャフト141が回転し、ウォームシャフト141に噛み合うウォームホイール140とアシストピニオン軸88cが回転し、アシストピニオン軸88cのアシストピニオン歯がラックバー2のラック歯に対してX方向の力を伝達する。これにより、アシストピニオン軸88cに接続されたラックバー2がX方向に移動するアシスト力が発生する。
【0025】
図2に示すように、ラックハウジング110のX2側の端部には、本体部110Aよりも径が大きい拡径部110Bが設けられる。拡径部110Bの内周側にラックブッシュ3が設けられる。ラックブッシュ3を設ける位置は限定されず、例えば、ラックハウジング110のX方向の中央部でもよい。また、ラックハウジング110およびラックブッシュ3は共に筒状形状を有し、ラックハウジング110の内周にラックブッシュ3が圧入されている。ラックブッシュ3の内周側にはラックバー2が挿入されている。以下、ラックブッシュ3とラックバー2について詳細に説明する。
【0026】
図3は、
図2のIII-III線による断面図である。
図4は、
図3の一部を拡大した断面図である。
図5は、ラックバーの製造工程を示す模式図であり、(a)は下型にブランク材をセットした状態を示す図、(b)は上型を下降させてブランク材を上から押し潰している状態を示す図、(c)は成形が完了したラックバーを示す図である。
【0027】
図3に示すように、ラックバー2は、中心軸AXを有しX方向に延びる中実部材である。ラックバー2は、外周面200にラック歯21と2つの第1段差部20、20Aとを有する。本実施形態では、ラックバー2は、中心軸AXに対してY1側にラック歯21を有し、中心軸AXに対してY2側に第1段差部20、20Aを有する。中心軸AXを通る直線のうちY方向に延びる直線を第1直線170とすると、第1直線170を挟んだ一方側と他方側とに第1段差部20、20Aのそれぞれが配置される。即ち、第1直線170に対してZ1側には第1段差部20が配置され、第1直線170に対してZ2側には第1段差部20Aが配置される。具体的には、第1段差部20と第1段差部20Aとは、第1直線170に対して対称な位置に設けられる。
【0028】
第1段差部20は、第1外周面部22と、第1側面部23と、第2外周面部24と、を有する。第1外周面部22は、中心軸AXの軸回りの周方向に沿って延びる。第1側面部23は、第1外周面部22の周方向の端部からZ2側(内周側)に向けて延びる。第2外周面部24は、第1側面部23の径方向内側の端部から周方向に沿って延びる。第2外周面部24は、第1外周面部22よりも内周側に位置する。換言すると、第2外周面部24の曲率半径は、第1外周面部22の曲率半径よりも小さい。
【0029】
第1段差部20Aは、第1外周面部22Aと、第1側面部23Aと、第2外周面部24と、を有する。第1外周面部22Aは、中心軸AXの軸回りの周方向に沿って延びる。第1側面部23Aは、第1外周面部22Aの周方向の端部からZ1側(内周側)に向けて延びる。第2外周面部24は、第1側面部23Aの径方向内側の端部から周方向に沿って延びる。第2外周面部24は、第1外周面部22Aよりも内周側に位置する。換言すると、第2外周面部24の曲率半径は、第1外周面部22Aの曲率半径よりも小さい。
【0030】
図3に示すように、ラックブッシュ3は、断面が環状の形状を有する。具体的には、ラックブッシュ3は、筒状の形状を有する。前述のように、ラックブッシュ3は、ラックハウジング110の内周に圧入されることにより、ラックハウジング110に保持される。ラックブッシュ3の外周面310は、断面が円形状である。ラックブッシュ3の内周面320は、第1段差部20、20Aに対応する第2段差部30、30Aを有する。第2段差部30は第1段差部20に対応し、第2段差部30Aは第1段差部20Aに対応する。従って、第2段差部30は第1直線170に対してZ1側に配置され、第2段差部30Aは第1直線170に対してZ2側に配置される。
【0031】
第2段差部30は、第1内周面部31と、第2側面部32と、第2内周面部33と、を有する。第1内周面部31は、中心軸AXの軸回りの周方向に沿って延びる。第1内周面部31は、第1外周面部22の外周側に位置し且つ第1外周面部22に沿って延びる円弧状の形状を有する。第2側面部32は、第1外周面部22の周方向の端部からZ2側(内周側)に向けて延びる。第2側面部32は、第1側面部23に沿って延びる。第2側面部32は、第1側面部23に対して周方向で対向配置する。第2内周面部33は、第2側面部32の径方向内側の端部から周方向に沿って延びる。第2内周面部33は、第1内周面部31よりも内周側に位置する。換言すると、第2内周面部33の曲率半径は、第1内周面部31の曲率半径よりも小さい。
【0032】
第2段差部30Aは、第1内周面部31Aと、第2側面部32Aと、第2内周面部33と、を有する。第1内周面部31Aは、中心軸AXの軸回りの周方向に沿って延びる。第1内周面部31Aは、第1外周面部22Aの外周側に位置し且つ第1外周面部22Aに沿って延びる円弧状の形状を有する。第2側面部32Aは、第1外周面部22Aの周方向の端部からZ1側(内周側)に向けて延びる。第2側面部32Aは、第1側面部23Aに沿って延びる。第2側面部32Aは、第1側面部23Aに対して周方向で対向配置する。第2内周面部33は、第2側面部32Aの径方向内側の端部から周方向に沿って延びる。第2内周面部33は、第1内周面部31Aよりも内周側に位置する。換言すると、第2内周面部33の曲率半径は、第1内周面部31Aの曲率半径よりも小さい。なお、第1内周面部31における周方向端部から外周側に向けて接続部35が延び、接続部35の径方向外側の端部から周方向に沿って第3内周面部34が延びている。
【0033】
ここで、第2段差部30の第2側面部32は、第1段差部20の第1側面部23に対して周方向で第1直線170側に位置する。換言すると、中心軸AXに交差する断面において、第2側面部32から第1直線170までの周方向に沿った周方向距離は、第1側面部23から第1直線170までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい。第2段差部30Aの第2側面部32Aは、第1段差部20Aの第1側面部23Aに対して周方向で第1直線170側に位置する。換言すると、第2側面部32Aから第1直線170までの周方向に沿った周方向距離は、第1側面部23Aから第1直線170までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい。なお、
図3に示す距離L10は、第1外周面部22および第1外周面部22Aを通る円の直径である。距離L10は、例えば、33mm以上38mm以下程度が好ましい。
【0034】
図4に示すように、第1外周面部22Aと第1内周面部31Aとの間には、第1間隙G1が設けられる。第1外周面部22Aと第1内周面部31Aとの径方向距離L1は、第1間隙G1の幅と同一である。第1側面部23Aと第2側面部32Aとの間には、第2間隙G2が設けられる。第1側面部23Aと第2側面部32Aとの周方向距離L2は、第2間隙G2の幅と同一である。第2外周面部24と第2内周面部33との間には、第3間隙G3が設けられる。なお、
図2を参照して説明したように、ラックガイド160はラックバー2をY1側に押圧するため、第3間隙G3はほぼ一定の大きさに保たれる。径方向距離L1は、例えば、0.1mm以上0.2mm以下程度が好ましく、周方向距離L2は、例えば、0.05mm以上0.2mm以下程度が好ましい。
【0035】
なお、図示しないが、第2段差部30も第2段差部30Aと同様の間隙を有する。即ち、第1外周面部22と第1内周面部31との間には、第1間隙が設けられる。第1外周面部22と第1内周面部31との離隔距離は、径方向距離L1である。第1側面部23と第2側面部32との間には、第2間隙が設けられる。第1側面部23と第2側面部32との離隔距離は、周方向距離L2である。
【0036】
次に、ラックバーの製造工程を簡単に説明する。ラックバー2は、例えば鍛造によって成形される。
図5に示すように、製造に使用する金型4は、上型41と、下型42と、を備える。上型41の底面411には、凹凸部が設けられる。当該凹凸部によって、ラックバー2のラック歯21が形成される。下型42は、凹部421と、上面422とを備える。凹部421は断面円弧状である。凹部421に、円柱状のブランク材400がセットされる。上面422は、平坦面である。
【0037】
図5(a)に示すように、まず、下型42にブランク材400をセットする。次に、(b)に示すように、上型41を下降させる。すると、上型41の底面411がブランク材400の上側を押し潰してラック歯21が形成される。また、同時に、凹部421の底面に当たる部位は、ラックバー2の第2外周面部24となり、上面422に当たる部位は、第1側面部23、23Aに形成される。なお、第1外周面部22、22Aは、上型41で押された際に左右に膨らむ部位であり、当該部位の外周側には、金型は配置されない。
【0038】
次に、ラックブッシュに対してラックバーが回転する挙動を説明する。
図6は、実施形態に係るラックバーおよびラックブッシュの断面を示す模式図である。
図7は、ラックブッシュに対してラックバーが回転し、ラックバーの第1側面部がラックブッシュの第2側面部に当接する状態を示す模式図である。
【0039】
図6に示すように、例えばラックバー2に対して周方向に大きな負荷がかからない場合などは、ラックバー2の外周面200は、全周において、ラックブッシュ3の内周面320との間に間隙を有する。即ち、ラックバー2とラックブッシュ3とは当接していない。具体的には、前述したように、第1外周面部22と第1内周面部31との間には、第1間隙G1が設けられ、第1外周面部22Aと第1内周面部31Aとの間には、第1間隙G1が設けられる。また、第1外周面部22と第1内周面部31とは径方向距離L1だけ離隔し、第1側面部23と第2側面部32とは周方向距離L2だけ離隔する。さらに、第1外周面部22Aと第1内周面部31Aとは径方向距離L1だけ離隔し、第1側面部23Aと第2側面部32Aとは周方向距離L2だけ離隔する。
【0040】
図7に示すように、例えばラックバー2に対して周方向に大きな負荷がかかり、矢印に示すように時計回り方向にラックバー2がラックブッシュ3に対して回転する場合、第1側面部23が第2側面部32に当接する。これにより、ラックバー2の回転が抑制される。なお、反時計回り方向にラックバー2がラックブッシュ3に対して回転する場合、第1側面部23Aが第2側面部32Aに当接する。これにより、ラックバー2の回転が抑制される。
【0041】
次に、
図1に示す操舵装置100を含むステアリング装置100Aを説明する。
図8は、本実施形態に係るステアリング装置を示す模式図である。
図8に示すように、ステアリング装置100Aは、操舵装置100を含む。操舵装置100の構成は、
図1等を用いて説明した通りである。また、ステアリング装置100Aは、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、インタミシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、シャフト87と、タイロッド89とを備える。また、ステアリング装置100Aは、制御装置(以下、ECU(Electronic Control Unit)という。)102と、トルクセンサ10と、モータ120を備える。車速センサ101は、車両に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU102に出力する。そして、ステアリング装置100Aは、前述したように、操舵側の操舵ピニオン軸150と、ラックバー2と、アシスト側のアシストピニオン軸88cとを備える。操舵ピニオン軸150およびアシストピニオン軸88cは、それぞれラックバー2に噛み合う。
【0042】
以上説明したように、操舵装置100は、第1段差部20、20Aを有するラックバー2と、第1段差部20、20Aに対応する第2段差部30、30Aを有するラックブッシュ3と、ラックブッシュ3を保持するラックハウジング110と、を備える。第1段差部20、20Aは、第1外周面部22、22Aと、第1側面部23、23Aと、を有する。第2段差部30、30Aは、第1内周面部31、31Aと、第2側面部32、32Aと、を有する。ラックブッシュ3に対してラックバー2が周方向に回転する場合に、第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとが当接可能である。
【0043】
前述のように、特許文献1に記載のステアリング装置では、操舵のたびにラックブッシュとラックバーとの摩擦が生じる。従って、ラックブッシュまたはラックバーが摩耗してしまい、第1平坦部と第2平坦部との間に間隙が生じ、ラックバーの回転の抑制が低下する可能性がある。
【0044】
これに対して、本実施形態では、例えばラックバー2に外力が加わるときなど、ラックブッシュ3に対してラックバー2が周方向に回転する場合に、第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとが当接する。即ち、通常時には第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとは当接せず、ラックバー2が周方向に回転する場合に、第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとが当接する。従って、ラックブッシュ3またはラックバー2の摩耗量がより低下するため、ラックハウジング110に対するラックバー2の回転をより抑制することが可能な操舵装置100を提供することが可能となる。
【0045】
中心軸AXに交差する断面において、第1段差部20、20Aおよび第2段差部30、30Aは、中心軸AXを通る第1直線170を挟んだZ1側(一方側)とZ2側(他方側)とにそれぞれ設けられる。
【0046】
従って、第1直線170を挟んだZ1側(一方側)とZ2側(他方側)との片方のみに第1段差部および第2段差部が設けられる場合よりも、ラックバー2の回転時に、第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとがより当接しやすくなる。このため、ラックハウジング110に対するラックバー2の回転をより抑制することが可能になる。
【0047】
中心軸AXに交差する断面において、第2側面部32から第1直線170までの周方向に沿った周方向距離は、第1側面部23から第1直線170までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい。また、第2側面部32Aから第1直線170までの周方向に沿った周方向距離は、第1側面部23Aから第1直線170までの周方向に沿った周方向距離よりも小さい。
【0048】
従って、ラックバー2が周方向の一方側に回転した場合と他方側に回転した場合との双方において、第1側面部23、23Aと第2側面部32、32Aとが当接する。具体的には、
図7を参照して説明したように、時計回り方向にラックバー2がラックブッシュ3に対して回転する場合、第1側面部23が第2側面部32に当接する。反時計回り方向にラックバー2がラックブッシュ3に対して回転する場合、第1側面部23Aが第2側面部32Aに当接する。このように、ラックバー2が周方向のいずれに回転した場合でも、ラックバー2の回転をより抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0049】
2 ラックバー
3 ラックブッシュ
4 金型
20、20A 第1段差部
21 ラック歯
22、22A 第1外周面部
23、23A 第1側面部
24 第2外周面部
30、30A 第2段差部
31、31A 第1内周面部
32、32A 第2側面部
33 第2内周面部
34 第3内周面部
35 接続部
41 上型
42 下型
100 操舵装置
100A ステアリング装置
110 ラックハウジング
120 モータ
130 ギヤ機構
140 ウォームホイール
141 ウォームシャフト
150 操舵ピニオン軸
151 ピニオン歯
160 ラックガイド
161 スプリング
163 ラックガイド収容部
170 第1直線
200 外周面
310 外周面
320 内周面
400 ブランク材
411 底面
421 凹部
422 上面
AX 中心軸
G1 第1間隙
G2 第2間隙
G3 第3間隙
L1 径方向距離
L2 周方向距離