IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東工器株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-衝撃工具 図1
  • 特開-衝撃工具 図2
  • 特開-衝撃工具 図3
  • 特開-衝撃工具 図4
  • 特開-衝撃工具 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086090
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】衝撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/24 20060101AFI20240620BHJP
   B25D 9/04 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201003
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】森 寛大
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 史雄
【テーマコード(参考)】
2D058
【Fターム(参考)】
2D058AA12
2D058BA13
2D058CA03
2D058CB04
2D058CC04
2D058DA14
(57)【要約】
【課題】打撃機構の振動がハウジングにより伝わりにくいようにした衝撃工具を提供すること。
【解決手段】衝撃工具100は、筒状のハウジング110と、ハウジング110内に少なくとも部分的に配置された可動部112と、可動部112とハウジング110との間に配置された第1スプリング114及び第2スプリング116と、を備える。可動部112は、ニードル102を保持するニードルホルダ126と、ニードル102及びニードルホルダ126を往復動させるためのシリンダ120、ピストン122、及びアンビル124を備える。可動部112は、少なくとも打撃機構が駆動しておらず且つ可動部112に径方向での力が作用していない状態において可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとが直接接触しないようにして、第1及び第2スプリング114、116によって支持されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に少なくとも部分的に位置し、前記ハウジングに対して前記ハウジングの長手軸線の方向に変位可能に配置された可動部であって、先端工具を保持する先端工具保持部、及び前記先端工具保持部に取り付けられた先端工具に対して前記ハウジングの長手軸線に沿った前後方向での打撃力を加える打撃機構を有する、可動部と、
前記可動部と前記ハウジングとの間に配置されて、前記可動部を前方側に付勢する第1スプリングと、
前記可動部と前記ハウジングとの間に配置されて、前記可動部を後方側に付勢する第2スプリングと、
を備え、
前記可動部は、少なくとも前記打撃機構が駆動しておらず且つ前記可動部に前記長手軸線に垂直な径方向での力が作用していない状態において前記可動部の外周面と前記ハウジングの内周面とが直接接触しないようにして、前記第1及び第2スプリングによって支持されている、衝撃工具。
【請求項2】
前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記ハウジングの内径と前記可動部の外径との差が1mm以上である、請求項1に記載の衝撃工具。
【請求項3】
前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記第1スプリングと前記第2スプリングとのうちの少なくとも一方の内径と前記可動部の外径との差が、前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記ハウジングの内径と前記可動部の外径との差よりも小さくなるようにされた、請求項1又は2に記載の衝撃工具。
【請求項4】
前記打撃機構の駆動中に前記先端工具に一定以上の負荷が作用していないときには、前記可動部の外周面と前記ハウジングの内周面とが接触しないようにされた、請求項1に記載の衝撃工具。
【請求項5】
前記打撃機構の駆動中に前記先端工具に一定以上の負荷が作用したときに前記可動部の外周面が前記ハウジングの内周面に接触して、前記可動部の前記径方向への変位が制限されるようにされた、請求項4に記載の衝撃工具。
【請求項6】
前記可動部の外周面から径方向外側に突出した回転防止部材をさらに備え、前記回転防止部材が前記ハウジングに対して周方向で係合することにより、前記可動部が前記ハウジングに対して前記周方向に回転することが防止されるようにした、請求項1に記載の衝撃工具。
【請求項7】
前記第1スプリングと前記第2スプリングのばね定数が同じである、請求項1に記載の衝撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針タガネやチゼルなどの先端工具による振動を伴う打撃により被加工物の表面加工を行なうようにした衝撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃工具は、通常、シリンダ内に配置されたピストンを圧縮空気で往復動させ、そのピストンで針タガネやチゼルなどの先端工具又はそれらを保持する部材を打撃して、先端工具に打撃力を与えるようになっている。このような衝撃工具は、駆動中に、ピストンの往復動、ピストンによる打撃、先端工具が被加工物から受ける衝撃などによって、振動する。衝撃工具全体の振動が大きくなると、それを把持する作業者の作業性が低下したり、衝撃工具を保持する装置が損傷したりする虞がある。そのため、そのような外部に伝わる振動を低減するようにした衝撃工具が開発されている。例えば特許文献1及び2には、筒状のハウジング内にシリンダを前後方向に摺動可能に収容し、そのシリンダを2つのコイルスプリングで前後方向から支持するようにした構成が開示されている。ピストンの往復動に伴ってシリンダがその往復動方向(前後方向)に振動したときに2つのコイルスプリングによってその振動がある程度吸収されることにより、ハウジングに伝わる振動が低減されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平2-7026号公報
【特許文献2】米国特許第6192997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来の衝撃工具においては、シリンダの外周面とハウジングの内周面とが常に接触した状態でシリンダがハウジングに対して前後方向に摺動するようになっている。そのため、シリンダやピストンを含む打撃機構の振動は、スプリングによってある程度は低減されるものの、その一部はシリンダの外周面とハウジングの内周面との接触部分からハウジングに直接的に伝わることになる。特に衝撃工具をロボットアームに装着して使用する場合には、その振動によりロボットアームの動作に支障が出たり、ロボットアームが損傷したりする虞もある。そのため、ハウジングに伝わる振動を可能な限り低減させることが望ましい。
【0005】
そこで本発明は、打撃機構の振動がハウジングにより伝わりにくいようにした衝撃工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に少なくとも部分的に位置し、前記ハウジングに対して前記ハウジングの長手軸線の方向に変位可能に配置された可動部であって、先端工具を保持する先端工具保持部、及び前記先端工具保持部に取り付けられた先端工具に対して前記ハウジングの長手軸線に沿った前後方向での打撃力を加える打撃機構を有する、可動部と、
前記可動部と前記ハウジングとの間に配置されて、前記可動部を前方側に付勢する第1スプリングと、
前記可動部と前記ハウジングとの間に配置されて、前記可動部を後方側に付勢する第2スプリングと、
を備え、
前記可動部は、少なくとも前記打撃機構が駆動しておらず且つ前記可動部に前記長手軸線に垂直な径方向での力が作用していない状態において前記可動部の外周面と前記ハウジングの内周面とが直接接触しないようにして、前記第1及び第2スプリングによって支持されている、衝撃工具を提供する。
【0007】
当該衝撃工具においては、少なくとも打撃機構が駆動しておらず且つ可動部に径方向での力が作用していない状態において可動部の外周面とハウジングの内周面とが直接接触しないようにして、可動部が第1及び第2スプリングによって支持されている。そのため、駆動状態においても、可動部とハウジングは接触しないか又は接触したとしても従来の常に接触して摺動するようにされたものに比べて接触圧の小さな一時的な接触とすることができるため、可動部からハウジングに伝わる振動を小さくすることが可能となる。
【0008】
また、前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記ハウジングの内径と前記可動部の外径との差が1mm以上であるようにすることができる。
【0009】
上記差を1mm以上とすることにより、駆動状態における可動部とハウジングとの接触をより確実に無くすか又は少なくとも接触がより発生しにくくすることが可能となる。
【0010】
また、前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記第1スプリングと前記第2スプリングとのうちの少なくとも一方の内径と前記可動部の外径との差が、前記長手軸線に垂直な径方向で相互に隣接する位置での前記ハウジングの内径と前記可動部の外径との差よりも小さくなるようにすることができる。
【0011】
上記構成とすることにより、可動部に径方向への負荷が作用して可動部が径方向に変位した際に、可動部がハウジングではなく第1スプリング又は第2スプリングに先に接触するようになる。これにより、可動部が径方向にそれ以上変位することを防止して可動部の不安定な動作を抑制し、結果として当該衝撃工具全体の振動を低減することができる。またそのような場合であっても、可動部の振動はスプリングを介してハウジングに伝達されることになるため、可動部がハウジングに直接接触してその振動がハウジングに直接伝達される場合に比べてハウジングに伝わる振動を低減させることが可能となる。
【0012】
また、前記打撃機構の駆動中に前記先端工具に一定以上の負荷が作用していないときには、前記可動部の外周面と前記ハウジングの内周面とが接触しないようにすることができる。
【0013】
さらに、前記打撃機構の駆動中に前記先端工具に一定以上の負荷が作用したときに前記可動部の外周面が前記ハウジングの内周面に接触して、前記可動部の前記径方向への変位が制限されるようにすることができる。
【0014】
また、前記可動部の外周面から径方向外側に突出した回転防止部材をさらに備え、前記回転防止部材が前記ハウジングに対して周方向で係合することにより、前記可動部が前記ハウジングに対して前記周方向に回転することが防止されるようにすることができる。
【0015】
さらには、前記第1スプリングと前記第2スプリングのばね定数が同じであるようにすることができる。
【0016】
以下、本発明に係る衝撃工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る衝撃工具の断面図である。
図2図1の衝撃工具において、ピストンが前方に移動した状態の断面図である。
図3図2の衝撃工具において、アンビル及びニードルホルダがピストンに打撃されて前方に移動した状態の断面図である。
図4図3の前方環状通路とその周辺の拡大図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る衝撃工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示す本発明の第1の実施形態に係る衝撃工具100は、先端工具として複数のニードル102(針タガネ)が取り付けられ、圧縮空気によってニードル102を往復動させて、その先端で被加工物を打撃して斫り(はつり)作業を行なうものである。当該衝撃工具100は、ロボットアーム等に取り付けられて自動操作で使用されることを想定したものである。
【0019】
当該衝撃工具100は、筒状のハウジング110と、その略全体がハウジング110内に配置された可動部112と、ハウジング110の前方位置において可動部112とハウジング110との間に配置された第1スプリング114と、ハウジング110の後方位置において可動部112とハウジング110との間に配置された第2スプリング116と、を備える。可動部112は、ハウジング110に接触しないようにして長手軸線Lの方向に変位可能に第1スプリング114及び第2スプリング116によって支持されている。
【0020】
可動部112は、筒状本体118と、筒状本体118内に同軸状に取り付けられたシリンダ120と、を備える。可動部112はさらに、シリンダ120内において、後方(図で見て上方)から前方(図で見て下方)に向かって順次配置された、ピストン122、アンビル124、及びニードルホルダ(先端工具保持部)126を備える。ニードルホルダ126は、各ニードル102を筒状本体118の前端に取り付けられた先端キャップ128から前方に延出するように保持している。筒状本体118は、互いに連結された、本体前部118aと、本体中部118bと、本体後部118cとからなる。本体後部118cの後端には圧縮空気を導入するための空気導入部130が設けられている。
【0021】
空気導入部130から導入された圧縮空気は、筒状本体118の本体後部118cの通路132を通り、本体中部118bの後端貫通孔134を通って本体中部118b内に至る。圧縮空気はさらに、本体中部118bとシリンダ120との間の後方環状通路136を通り、シリンダ120の後方貫通孔138を通ってシリンダ120内に至る。図1のようにピストン122がシリンダ120内の後方側に位置しているときには、圧縮空気はピストン122の通路140を通ってピストン後端面122aとシリンダ後端内面120aとの間に形成されている前進駆動室142に至る。前進駆動室142内に圧縮空気が導入されて前進駆動室142内の圧力が上昇すると、図2に示すように、その圧力によってピストン122が前方に駆動されてアンビル124を後方から打撃する。後方から打撃されたアンビル124は、その前方にあるニードルホルダ126を打撃する。これにより、アンビル124及びニードルホルダ126は、図3に示すように、前方に移動する。図3の状態では、シリンダ120の後方貫通孔138はピストン122の外周面で閉止されており、後方環状通路136はピストン122の通路140及び前進駆動室142には連通していない。よって、ピストン122には前方への力は作用していない。一方で、図4に詳細に示すように、筒状本体118の本体中部118bとシリンダ120との間には後方環状通路136からさらに前方に延びる前方環状通路144が形成されており、この前方環状通路144は、シリンダ120の前方貫通孔146、及びシリンダ120とニードルホルダ126の間の通路147を通って後進駆動室148に連通している。よって、圧縮空気は後進駆動室148に導入されるようになる。後進駆動室148内の圧力が上昇するとニードルホルダ126に後方への力が作用し、ニードルホルダ126は後方に駆動される。ニードルホルダ126が後方に移動することによって、アンビル124も後方に移動する。アンビル124はピストン122に衝突して、ピストン122を後方に移動させる。これにより、図1の状態に戻る。図1の位置にまでニードルホルダ126が後退すると、シリンダ120の前方貫通孔146はニードルホルダ126の外周面によって閉止され、よって前方環状通路144と後進駆動室148との間が閉止される。圧縮空気は再び前進駆動室142に導入されてピストン122が前方に駆動される。上記動作を繰り返すことにより、ニードル102に対してハウジングの長手軸線Lに沿った前後方向での打撃力が繰り返し加えられて、ニードル102が往復動される。
【0022】
可動部112は、その外周面112aとハウジング110の内周面110aとが直接接触しないようにして、第1スプリング114及び第2スプリング116によって支持されている。第1スプリング114は可動部112を前方側に付勢し、第2スプリング116は可動部112を後方側に付勢しており、可動部112は第1スプリング114及び第2スプリング116の付勢力が釣合う位置に保持される。第1スプリング114は、その端部114aにおいて、ハウジング110の第1スプリング支持面110bに径方向外側から支持されて径方向位置が固定されている。同様に、第2スプリング116は、その端部116aにおいて、ハウジング110の第2スプリング支持面110cに径方向外側から支持されて径方向位置が固定されている。なお当該実施形態においては、第1スプリング114と第2スプリング116は、同じばね定数を有する同一形状のものである。可動部112のピストン122、アンビル124、及びニードルホルダ126から構成される打撃機構が駆動されると、それらの前後方向への往復動や各部材間の衝突などによって打撃機構を含む可動部112の全体が振動する。当該衝撃工具100においては、少なくとも打撃機構が駆動しておらず且つ可動部112に径方向での力が作用していない状態においては可動部112の外周面112aがハウジング110の内周面110aと直接接触しないようにして第1スプリング114及び第2スプリング116によって支持されている。そのため、駆動状態においても、可動部112とハウジング110は接触しないか、又は接触したとしても従来の常に接触して摺動するものに比べて接触圧の小さな一時的な接触となる。よって、可動部112の振動の全て又は大部分は、ハウジング110に直接的には伝わらずに第1スプリング114及び第2スプリング116によって減衰されるため、ハウジング110に伝わりにくい。長手軸線Lに垂直な径方向で相互に隣接する位置での可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとの間の隙間D1(図4)の大きさは、衝撃工具100の大きさや可動部112の振動の大きさ、第1及び第2スプリング114、116のバネ定数等を考慮して適宜設定することができるが、少なくともニードル102に負荷が生じていない無負荷の駆動状態においては可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとが接触しないような大きさに設定することが望ましい。より好ましくは、隙間D1の大きさは、駆動状態においてニードル102に一定以上の負荷が作用していないときには可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとが接触しないように設定される。又は、衝撃工具100の通常の使用状態で想定される範囲内の如何なる負荷がニードル102に作用しても、可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとが接触しないように設定することもできる。
【0023】
上述の隙間D1は、長手軸線Lに垂直な径方向で相互に隣接する位置でのハウジング110の内径と可動部112の外径との差によりもたらされる。このハウジング110の内径と可動部112の外径との差は、具体的には、少なくとも1mm、より好ましくは約2mmとすることができ、又は2mm以上とすることもできる。当該実施形態では、ハウジング110の内径と可動部112の外径との差は2mmに設定されており、よって可動部112がハウジング110の中心に位置しているときには、可動部112の外周面112aとハウジング110の内周面110aとの間の隙間D1は1mmになる。また当該実施形態においては、長手軸線Lに垂直な径方向で相互に隣接する位置での第1スプリング114の内径と可動部112の外径との差が約0.8mmとなるように設定されている。すなわち、第1スプリング114の内周と可動部112の外周面112aとの間の隙間D2(図4)は約0.4mmとなるように設定されている。よって、長手軸線Lに垂直な径方向で相互に隣接する位置での第1スプリング114の内径と可動部112の外径との差は、ハウジング110の内径と可動部112の外径との差よりも小さくなっており、第1スプリング114と可動部112との間の隙間D2の方が、ハウジング110と可動部112との間の隙間D1よりも小さくなっている。
【0024】
可動部112は、径方向への力を受けたときに、第1スプリング114及び第2スプリング116を径方向に変形させながら、径方向にも変位し得る。上述の通り、隙間D2が隙間D1より小さいことにより、例えば、ニードル102に特に横方向での大きな負荷が作用するなどして可動部112が径方向に変位したときには、少なくとも第1スプリング114の周辺では、可動部112はハウジング110ではなく第1スプリング114に接触することになる。可動部112が第1スプリング114に径方向で接触することにより、可動部112は第1スプリング114によってガイドされて径方向に過度に振動することが防止され、可動部112の不安定な動作を抑制することができる。これにより、当該衝撃工具100の全体的な振動を低減することができる。また、そのような状況であっても可動部112の振動は第1スプリング114を介してハウジング110に伝わることになるため、ハウジング110に直接接触する場合に比べてハウジング110に伝わる振動を小さくすることができる。なお、可動部112が第1スプリング114に接触した場合に、可動部112が長手軸線Lに対して斜めになることにより、第1スプリング114から離れた位置では可動部112はハウジング110に直接接触することもある。可動部112の外周面112aがハウジング110の内周面110aに接触することにより、可動部112の径方向への変位、とくに長手軸線Lに対して斜めになるような変位を制限することができる。
【0025】
可動部112の本体後部118cには、リング部材150とナット152が螺合されており、ナット152をリング部材150に対して締め付けることによりリング部材150が本体後部118cに対して固定されるようになっている。リング部材150にはその外周面から径方向外側に突出するように回転防止部材154が取り付けられている。ハウジング110にはその後端から前方に延びる回転防止孔156が形成されており、回転防止部材154は回転防止孔156内に位置している。回転防止部材154が回転防止孔156の側面に周方向で係合することにより、可動部112がハウジング110に対して周方向に回転することが防止されるようになっている。
【0026】
本発明に係る衝撃工具(発明製品)と、可動部とハウジングとの間の隙間が実質的になく可動部がハウジングと常に直接接触して摺動するように設計されている比較対象製品(従来製品)とに対して、種々の駆動状態においてそれぞれのハウジングに伝達される振動の大きさを測定した。その結果を表1に示す。なお、比較対象製品は、上記隙間に関連する構成を除き、当該実施形態に係る衝撃工具100と実質的に同じ構成を有する。また、発明製品として、上記実施形態に示した、長手軸線Lに垂直な径方向で相互に隣接する位置でのハウジング110の内径と可動部112の外径との差を2mm(隙間D1が1mm)とした衝撃工具100に加えて、その差を1mm(隙間が0.5mm)及び4mm(隙間が2mm)とした衝撃工具についても実験を行なった。駆動状態として、往復動するニードル102に被加工物が接触しない状態を「無負荷」とし、ニードル102が完全に後退した状態でニードル102の先端を被加工物に接触させて駆動中に実質的にニードル102が変位しない状態での駆動を「ストローク0mm」とし、ニードル102が完全に後退した位置から前方に5mmの位置でニードル102の先端が被加工物に接触する状態(すなわちニードル102が5mmだけストロークできる状態)での駆動を「ストローク5mm」としている。表1においては、従来製品における各条件での振動値を100%とし、発明製品の振動値はそれに対する割合として示している。表1から分かるように、どの駆動状態においても、発明製品の衝撃工具は、実質的に隙間が無い従来製品に対して、その振動値が大幅に小さくなっている。具体的には、無負荷の駆動状態では、従来製品に対して発明製品は、振動値が62~45%にまで低下している。実際の使用状態に近い「ストローク5mm」の駆動状態では、振動値が75~62%にまで低下している。ニードル102が実質的に変位しないストローク0mmの駆動状態では、振動値は94~90%にまで低下している。なお、ニードル102によって生じる打撃力については、従来製品と各発明製品との間に実質的な相違はなかった。
【表1】
【0027】
図5に示す本発明の第2の実施形態に係る衝撃工具200は、先端工具としてチゼル202が取り付けられるようにされており、圧縮空気によってピストン222を前後方向(図で見て上下方向)に駆動してピストン222によってチゼル202を打撃して振動させ、そのチゼル202の先端で被加工物を打撃して斫り(はつり)作業等を行なうものである。当該衝撃工具200は、作業者が手で把持して手動操作して使用することを想定したものである。
【0028】
当該衝撃工具200は、筒状のハウジング210と、その大部分がハウジング210内に配置された可動部212と、ハウジング210の前方位置において可動部212とハウジング210との間に配置された第1スプリング214と、ハウジング210の後方位置において可動部212とハウジング210との間に配置された第2スプリング216と、を備える。可動部212は、その外周面212aがハウジング210の内周面210aと接触しないようにして、第1スプリング214及び第2スプリング216によって支持されている。当該実施形態においては、第1スプリング214の内径と可動部212の外径との差、及び第2スプリング216の内径と可動部212の外径との差はいずれも、ハウジング210の内径と可動部212の外径の差よりも小さい。よって、第1スプリング214と可動部212との間の隙間D2及び第2スプリング216と可動部212との間の隙間D3は、ハウジング210と可動部212との間の隙間D1よりも小さくなる。このようにすることにより、可動部212に径方向への力が作用して可動部212が径方向に変位した場合であっても、可動部212がハウジング210に直接接触することが実質的にない。
【0029】
可動部212は、筒状本体218と、筒状本体218内に同軸状に配置されたシリンダ220とを備える。可動部212はさらに、シリンダ220内に配置されたピストン222と、チゼル202を保持するチゼルホルダ(先端工具保持部)226とを備える。筒状本体218の後端部には圧縮空気を導入するための空気導入部230が設けられている。また筒状本体218には、通路232を開閉するためのボールバルブ258、ボールバルブ258を操作するための操作軸260、及び操作軸260を操作するためのレバー262が取り付けられている。レバー262をハウジング210に向かって枢動操作することにより操作軸260が押され、それによってボールバルブ258が図示の閉位置から開位置に変位する。ボールバルブ258が開位置になると、空気導入部230から導入された圧縮空気が筒状本体218とシリンダ220との間の環状通路236を通ってシリンダ220内に導入されてピストン222をハウジング210の長手軸線Lに沿った前後方向に往復動させる。
【0030】
可動部212の筒状本体218に取り付けられた操作軸260は、ハウジング110の後端から前方に向かって延びるように形成された回転防止孔256を通ってハウジング210の外側にまで延在している。この操作軸260が回転防止孔256の側面に周方向で係合することにより、可動部212がハウジング210に対して周方向に回転することが防止されるようになっている。すなわち、操作軸260は回転防止部材としても機能している。
【0031】
当該実施形態においても、打撃機構を有する可動部212がハウジング210と接触しないようにして第1スプリング214及び第2スプリング216によって支持されているため、可動部212の振動が第1スプリング214及び第2スプリング216によって減衰されてハウジング210に伝わりにくくなっている。また、第1スプリング214の内径と可動部212の外径との差、及び第2スプリング216の内径と可動部212の外径との差の両方が、ハウジング210の内径と可動部212の外径の差よりも小さくなっているため、可動部212が径方向に変位した場合でも可動部212はハウジング210には直接接触せずに、第1スプリング214及び第2スプリング216によってガイドされるようになる。これにより、可動部212の径方向への過度の振動を抑えつつ、ハウジング210に伝わる振動を小さくすることが可能となる。
【0032】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。第1の実施形態に係る構成と第2の実施形態に係る各構成は、相互に適用可能である。例えば、第1の実施形態に係る衝撃工具に、第2の実施形態におけるボールバルブ、操作軸、及びレバーの構成を適用して、手持ち用の衝撃工具とすることができる。また、先端工具はニードルやチゼル以外の任意のものとすることができる。さらには、上記実施形態においては、圧縮空気によってピストンを往復動させる構成により打撃機構を構成しているが、電気モータなどの電気部品によって電動式の打撃機構を構成することもできる。可動部を支持するスプリングの大きさや配置、数は任意に変更可能である。また、前方側の第1スプリングではなく後方側の第2スプリングの内径と可動部の外径との差が、ハウジングの内径と可動部の外径との差よりも小さくなるようにすることもできる。なお、第1スプリングの内径と可動部の外径との差と、第2スプリングの内径と可動部の外径との差のいずれかが、ハウジングの内径と可動部の外径との差よりも小さくなっている必要は必ずしもなく、第1スプリング及び第2スプリングが可動部には接触しないように構成することもできる。この場合には、ニードルやチゼルのような先端工具に一定以上の特に径方向への負荷が作用したときに可動部の外周面はスプリングではなくハウジングの内周面に接触し、これにより可動部の径方向への変位が制限されるようになる。上記実施形態は、いずれもロボットアームに取り付けて使用することを想定したものではあるが、作業者がハウジングを直接把持して手持ち用衝撃工具として使用することもできる。その場合には、ハウジングに径方向に延びる把持部を設けたピストル型の手持ち用衝撃工具とすることもできる。
【符号の説明】
【0033】
100 衝撃工具
102 ニードル(先端工具)
110 ハウジング
110a 内周面
110b 第1スプリング支持面
110c 第2スプリング支持面
112 可動部
112a 外周面
114 第1スプリング
114a 端部
116 第2スプリング
116a 端部
118 筒状本体
118a 本体前部
118b 本体中部
118c 本体後部
120 シリンダ
120a シリンダ後端内面
122 ピストン
122a ピストン後端面
124 アンビル
126 ニードルホルダ(先端工具保持部)
128 先端キャップ
130 空気導入部
132 通路
134 後端貫通孔
136 後方環状通路
138 後方貫通孔
140 通路
142 前進駆動室
144 前方環状通路
146 前方貫通孔
147 通路
148 後進駆動室
150 リング部材
152 ナット
154 回転防止部材
156 回転防止孔
200 衝撃工具
202 チゼル(先端工具)
210 ハウジング
210a 内周面
212 可動部
212a 外周面
214 第1スプリング
216 第2スプリング
218 筒状本体
220 シリンダ
222 ピストン
226 チゼルホルダ(先端工具保持部)
230 空気導入部
232 通路
236 環状通路
256 回転防止孔
258 ボールバルブ
260 操作軸
262 レバー
L 長手軸線
D1 ハウジングと可動部との間の隙間
D2 第1スプリングと可動部との間の隙間
D3 第2スプリングと可動部との間の隙間
図1
図2
図3
図4
図5