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特開2024-86097バッテリーパック用耐火断熱部材およびその製造方法
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  • 特開-バッテリーパック用耐火断熱部材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086097
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】バッテリーパック用耐火断熱部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/04 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
C09K21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201032
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597047163
【氏名又は名称】日本モウルド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】日比野 委茂
(72)【発明者】
【氏名】中西 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】星野 智也
【テーマコード(参考)】
4H028
【Fターム(参考)】
4H028AA07
4H028AA10
4H028AA12
(57)【要約】
【課題】 電気絶縁性、断熱性および耐火性を有し、所望の形状への成形が容易なバッテリーパック用耐火断熱部材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 バッテリーパック用耐火断熱部材は、セルロース繊維と、無機繊維と、難燃性無機粒子と、耐火性無機粒子と、バインダー樹脂と、を有し、有機物の含有質量は、該難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下である。バッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法は、セルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂と水とを混合してスラリーを準備するスラリー準備工程と、該スラリーを成形型に収容し加熱下で圧縮成形する圧縮成形工程と、を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、無機繊維と、難燃性無機粒子と、耐火性無機粒子と、バインダー樹脂と、を有し、
有機物の含有質量は、該難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下であることを特徴とするバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項2】
前記有機物の含有質量は、バッテリーパック用耐火断熱部材の全体を100質量%とした場合の40質量%以上である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項3】
前記難燃性無機粒子、前記耐火性無機粒子、および前記バインダー樹脂の合計含有質量は、前記セルロース繊維および前記無機繊維の合計含有質量の2/3以下である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項4】
前記セルロース繊維の含有質量は、前記無機繊維の含有質量以下である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項5】
前記無機繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、およびシリカ繊維から選ばれる一種以上である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項6】
前記無機繊維の繊維径は1μm以上20μm以下、長さは13mm以上25mm以下である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項7】
前記難燃性無機粒子は、ポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウムから選ばれる一種以上である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項8】
前記耐火性無機粒子は、タルク、マイカ、カオリナイト、シリカ、およびアルミナから選ばれる一種以上を有する請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項9】
前記バインダー樹脂は、融点が200℃以下の熱可塑性樹脂である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項10】
前記バインダー樹脂は、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびビニルエステル樹脂から選ばれる一種以上である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項11】
厚さは、1mm以上5mm以下である請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材。
【請求項12】
請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法であって、
水にセルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂を分散させて分散液を準備する分散液準備工程と、
該分散液に抄き型を浸漬し、該抄き型を通して該分散液を吸引することにより該抄き型の表面に中間成形体を形成する中間成形体形成工程と、
該中間成形体を加熱し乾燥して成形体とする乾燥工程と、
を有することを特徴とするバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法であって、
セルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂と水とを混合してスラリーを準備するスラリー準備工程と、
該スラリーを成形型に収容し加熱下で圧縮成形する圧縮成形工程と、
を有することを特徴とするバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のバッテリーセルが収容されるバッテリーパックに用いられる耐火断熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、複数のバッテリーセルを収容したバッテリーパックが搭載される。バッテリーパックにおいては、複数のバッテリーセルが積層されてなるバッテリーモジュールが、積層方向の両側から締結部材により固定された状態で筐体内に収容される。バッテリーモジュールにおいては、あるバッテリーセルの温度が過度に上昇して熱暴走すると、その熱が隣接するバッテリーセルに伝達されて、熱暴走の連鎖が生じるおそれがある。熱暴走の連鎖を抑制するためには、隣り合うバッテリーセル間に断熱部材を配置することが有効である(例えば特許文献1参照)。また、バッテリーモジュールの上面には、バスバーモジュールが配置される。バスバーモジュールは、バッテリーセルの電極端子同士を電気的に接続する配線部品であり、バスバーやハーネスが樹脂ケースに収容されている。バッテリーセルの熱暴走が生じると、内部から高温のガスが噴出する場合がある。この場合、電極端子間の短絡や、バスバーモジュールの樹脂ケースが溶解するなどしてトラッキングが発生するおそれがある。噴出する高温のガスを遮断し、周辺部材への伝熱を遮断するためには、バッテリーセルのガス排出弁やバスバーモジュールを覆うように、カバー部材を配置することが有効である。このカバー部材には、高い耐火性、断熱性、電気絶縁性などが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/159527号
【特許文献2】特開2020-191274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐火性および電気絶縁性を有する材料としては、マイカなどの無機鉱物が知られている。しかしながら、この種の材料の多くは比較的厚い平板状を呈しており、曲げ加工などの加工性が悪い。このため、複雑な形状に成形することが難しく、バッテリーパック内の限られたスペースには適用しにくい。
【0005】
例えば、特許文献2には、バッテリーパックにおいて、バッテリーセルの熱暴走を抑制する熱暴走抑制耐火シートが記載されている。熱暴走抑制耐火シートは、ガラス繊維、湿熱接着性バインダー繊維、およびフィブリル化セルロース繊維を有する基材と、無機粒子層と、により構成される。特許文献2には、シートの耐火性の観点から、基材に対する無機粒子層の含有割合は記載されているが、無機粒子の保持力とシートの難燃性および断熱性とを両立させるという観点から、無機粒子に対する有機物の含有割合の検討はされていない。また、特許文献2に記載されている熱暴走抑制耐火シートは、まず繊維材料から湿式抄造法により基材を製造し、それに無機粒子を含む塗液をサイズプレスなどにより塗工して製造される。熱暴走抑制耐火シートは、シート状に製造されるため、配置場所に応じた立体形状に成形して使用する形態には不向きである。また、繊維材料と無機粒子とを混合して製造されるものと比較して、無機粒子層が基材の表層に配置されやすく、シート全体において各成分により発揮される効果が均一になりにくい。このように、特許文献2に記載されている熱暴走抑制耐火シートでは、バッテリーパックのカバー部材に要求される特性を満足することはできない。
【0006】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電気絶縁性、断熱性および耐火性を有し、所望の形状への成形が容易なバッテリーパック用耐火断熱部材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材(以下、単に「本開示の耐火断熱部材」と称す場合がある)は、セルロース繊維と、無機繊維と、難燃性無機粒子と、耐火性無機粒子と、バインダー樹脂と、を有し、有機物の含有質量は、該難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下であることを特徴とする。
【0008】
本開示の耐火断熱部材は、セルロース繊維および無機繊維を含む繊維材料と、難燃性無機粒子および耐火性無機粒子と、バインダー樹脂と、が混合した成形体である。本開示の耐火断熱部材は、成形性、加工性に優れるため、立体形状に成形することが容易であり、バッテリーパック内の限られたスペースに適用しやすい。
【0009】
繊維材料のうち、セルロース繊維は、繊維骨格を形成し、無機粒子の保持力を高める役割を果たす。無機繊維は、耐火断熱部材の強度および耐火性を高める役割を果たす。難燃性無機粒子は、加熱時に自身が分解することにより燃焼を抑制する無機材料の粒子である。耐火性無機粒子は、加熱時に燃焼しにくい無機材料の粒子である。バインダー樹脂は、繊維材料同士、繊維材料と無機粒子とを結合する役割を果たす。本開示の耐火断熱部材は、無機繊維、難燃性無機粒子および耐火性無機粒子を有するため、電気絶縁性、断熱性および耐火性に優れる。セルロース繊維およびバインダー樹脂は、有機物に含まれる。有機物の含有質量を難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下にすることにより、セルロース繊維による粒子保持力およびバインダー樹脂による結合力を確保しつつ、所望の難燃性および断熱性を実現している。
【0010】
(2)上記構成において、前記有機物の含有質量は、バッテリーパック用耐火断熱部材の全体を100質量%とした場合の40質量%以上である構成としてもよい。本構成によると、無機粒子の保持力や、無機粒子と繊維材料、および繊維材料同士の結合力を高めることができる。
【0011】
(3)上記いずれかの構成において、前記難燃性無機粒子、前記耐火性無機粒子、および前記バインダー樹脂の合計含有質量は、前記セルロース繊維および前記無機繊維の合計含有質量の2/3以下である構成としてもよい。本構成によると、繊維材料により骨格が緻密に形成されるため、耐火断熱部材の強度が高まり、無機粒子の保持力も向上する。
【0012】
(4)上記いずれかの構成において、前記セルロース繊維の含有質量は、前記無機繊維の含有質量以下である構成としてもよい。セルロース繊維の含有割合を大きくすると、無機粒子の保持力は向上するが、燃焼しやすくなる。燃焼を抑制するためには、難燃性無機粒子の含有質量を多くすればよいが、その分だけ耐火断熱部材が重くなる。本構成によると、セルロース繊維の含有質量を制限することにより、難燃性無機粒子の含有質量を増やすことなく、所望の難燃性および断熱性を実現することができる。
【0013】
(5)上記いずれかの構成において、前記無機繊維は、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維から選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成によると、比較的安価で入手しやすい材料により、耐火断熱部材の強度および耐火性を高めることができる。
【0014】
(6)上記いずれかの構成において、前記無機繊維の繊維径は1μm以上20μm以下である構成としてもよい。本構成によると、無機繊維の脱落を抑制しつつ、耐火断熱部材の強度および耐火性を高めることができる。上記いずれかの構成において、前記無機繊維の長さは13mm以上25mm以下である構成としてもよい。本構成によると、無機繊維の脱落を抑制しつつ、耐火断熱部材の強度および耐火性を高めることができる。
【0015】
(7)上記いずれかの構成において、前記難燃性無機粒子は、ポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウムから選ばれる一種以上である構成としてもよい。これらの材料は、無機難燃剤として知られている材料であり、加熱時に自身が分解することにより水などを放出したり、不燃性の炭化被膜層を形成する。本構成によると、耐火断熱部材の難燃性および断熱性を高めることができる。
【0016】
(8)上記いずれかの構成において、前記耐火性無機粒子は、タルク、マイカ、カオリナイト、シリカ、およびアルミナから選ばれる一種以上を有する構成としてもよい。本構成によると、耐火断熱部材の耐火性向上に効果的である。
【0017】
(9)上記いずれかの構成において、前記バインダー樹脂は、融点が200℃以下の熱可塑性樹脂である構成としてもよい。本構成によると、バインダー樹脂を比較的低温で溶融させることができるため、製造しやすい。
【0018】
(10)上記いずれかの構成において、前記バインダー樹脂は、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびビニルエステル樹脂から選ばれる一種以上である構成としてもよい。
【0019】
(11)上記いずれかの構成において、厚さは、1mm以上5mm以下である構成としてもよい。本構成によると、バッテリーパック内の限られたスペースに適用しやすい。
【0020】
(12)本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材の第一の製造方法(以下、単に「本開示の第一の製造方法」と称す場合がある)は、上記いずれかの構成のバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法であって、水にセルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂を分散させて分散液を準備する分散液準備工程と、該分散液に抄き型を浸漬し、該抄き型を通して該分散液を吸引することにより該抄き型の表面に中間成形体を形成する中間成形体形成工程と、該中間成形体を加熱し乾燥して成形体とする乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
本開示の第一の製造方法によると、パルプモールド法を利用して、本開示の耐火断熱部材を容易に製造することができる。また、耐火断熱部材の生産効率を高めることができる。
【0022】
(13)本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材の第二の製造方法(以下、単に「本開示の第二の製造方法」と称す場合がある)は、上記いずれかの構成のバッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法であって、セルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂と水とを混合してスラリーを準備するスラリー準備工程と、該スラリーを成形型に収容し加熱下で圧縮成形する圧縮成形工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
本開示の第二の製造方法によると、圧縮成形法を利用して、本開示の耐火断熱部材を容易に製造することができる。また、耐火断熱部材を高密度化することができ、耐火断熱部材の寸法精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材は、電気絶縁性、断熱性および耐火性に優れる。本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材は、立体形状に成形しやすいため、バッテリーパック内の限られたスペースに適用しやすい。本開示の製造方法によると、本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】バッテリーパック用耐火断熱部材の一実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、本開示のバッテリーパック用耐火断熱部材およびその製造方法は、以下の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0027】
<バッテリーパック用耐火断熱部材>
本開示の耐火断熱部材は、セルロース繊維と、無機繊維と、難燃性無機粒子と、耐火性無機粒子と、バインダー樹脂と、を有する。
【0028】
[繊維材料]
セルロース繊維は、セルロースを原料とした繊維である。セルロース繊維としては、綿、麻などの植物繊維、レーヨン、リヨセル(登録商標)などの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維が挙げられる。
【0029】
無機繊維は、電気絶縁性、難燃性などを考慮して、ガラス繊維、アルミナ繊維、およびシリカ繊維から選ばれる一種以上であることが望ましい。耐火断熱部材の強度および耐火性を高めるという観点から、無機繊維は比較的太くて長い方が望ましい。例えば、無機繊維の繊維径は1μm以上20μm以下であることが望ましい。また、無機繊維の長さは13mm以上25mm以下であることが望ましい。長さが13mm未満の場合には強度の向上効果が小さくなり、長さが25mmより大きい場合には成形性が低下するおそれがある。
【0030】
無機粒子の保持力と難燃性とのバランスを考慮すると、セルロース繊維の含有質量は、無機繊維の含有質量以下にすることが望ましい。すなわち、セルロース繊維の含有質量は、無機繊維の含有質量と同じ、またはそれよりも少なくすることが望ましい。
【0031】
[難燃性無機粒子]
難燃性無機粒子は、加熱時に自身が分解することにより燃焼を抑制する。難燃性無機粒子としては、無機難燃剤として知られている金属水酸化物、無機リン系難燃剤などの粒子が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。無機リン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。なかでも無機リン系難燃剤は、加熱時に炭化被膜からなる不燃層を形成し、燃焼抑制効果が高いため好適である。
【0032】
[耐火性無機粒子]
耐火性無機粒子は、加熱時に燃焼しにくいため、耐火断熱部材の耐火性の向上に寄与する。耐火性無機粒子としては、建築基準法において、加熱開始から20分間、燃焼しないなどの三要件を満たす「不燃材料」に分類される無機材料の粒子が挙げられる。例えば、タルク、マイカ、カオリナイト、シリカ、アルミナなどを用いればよい。
【0033】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、繊維材料同士、繊維材料と無機粒子とを結合できれば、その種類は特に限定されない。バインダー樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂を用いる場合、その融点が200℃以下であると、比較的低温で溶融させることができ、製造しやすいという利点がある。熱硬化性樹脂を用いると、耐火断熱部材の強度を高める効果が大きい。熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ナイロン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが挙げられる。
【0034】
[他の構成要件]
本開示の耐火断熱部材において、有機物の含有質量は、難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下である。有機物は、セルロース繊維、バインダー樹脂を含む。有機物の含有質量を難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下に制限することにより、セルロース繊維による粒子保持力およびバインダー樹脂による結合力を確保しつつ、所望の難燃性および断熱性を実現することができる。ここで、無機粒子の保持力や、無機粒子と繊維材料、および繊維材料同士の結合力を高めるという観点から、有機物の含有質量は、耐火断熱部材の全体を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましい。50質量%以上であるとより好適である。
【0035】
また、繊維材料により骨格を緻密に形成し、無機粒子の保持力を高め、ひいては耐火断熱部材の強度を高めるという観点から、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂の合計含有質量は、セルロース繊維および無機繊維の合計含有質量の2/3以下であることが望ましい。ここで「2/3以下」とは、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂の合計含有質量を、セルロース繊維および無機繊維の合計含有質量で除した場合に、0.67以下であることを意味する。割り切れない場合などは、除した値の小数点第三位を四捨五入して、0.67以下であればよい。
【0036】
本開示の耐火断熱部材の厚さは、特に限定されないが、バッテリーパック内の限られたスペースに配置することを考慮すると5mm以下であることが望ましい。他方、耐火断熱部材の耐火性、断熱性などを考慮すると、厚さは1mm以上であることが望ましい。また、本開示の耐火断熱部材は、セルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、バインダー樹脂に加えて、他の成分を含んでいてもよい。
【0037】
[耐火断熱部材の適用例]
本開示の耐火断熱部材は、バッテリーパックにおいて、バッテリーセル間に配置されるセパレータ部材、バスバーモジュールを被覆するカバー部材、バスバーモジュールのケース部材などに使用することができる。本開示の耐火断熱部材の一実施形態として、バスバーモジュールカバーとして具現化した形態を示す。図1に、本実施形態のバスバーモジュールカバーの斜視図を示す。図1において、前後方向は複数のバッテリーセル(図略)の積層方向に、上下方向はバッテリーセルの挿脱方向(電極端子は上側)に、各々対応する。
【0038】
図1に示すように、バスバーモジュールカバー1は、前後方向に延在する長方形板状の上壁部10と、上壁部10の前後方向一辺から下方に90°屈曲して延在する長方形板状の第一側壁部11と、上壁部10の前後方向他辺から下方に傾斜して延在する長方形板状の第二側壁部12と、を有する。バスバーモジュールカバー1は、前後方向に垂直な断面がL字状を呈する立体形状を有している。バスバーモジュールカバー1は、上壁部10がバッテリーセルの積層体の上面に配置されるバスバーモジュールを被覆するように、バッテリーパックの筐体内に配置される。
【0039】
<バッテリーパック用耐火断熱部材の製造方法>
本開示の耐火断熱部材の製造方法は、特に限定されないが、以下に好適な二つの製造方法を説明する。
【0040】
[第一の製造方法(パルプモールド法)]
第一の製造方法は、分散液準備工程と、中間成形体形成工程と、乾燥工程と、を有する。
(1)分散液準備工程
本工程は、水にセルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂を分散させて分散液を準備する工程である。分散液は、水(純水、水道水などを含む、次の圧縮成形法においても同じ。)に耐火断熱部材の構成材料を配合し撹拌して製造すればよい。撹拌は、常温下で行えばよく、羽根撹拌の他、積極的にせん断力を加える方法で行ってもよい。撹拌時間は適宜調整すればよく、例えば0.5~1時間程度でよい。分散液の成分については前述したとおりである。
【0041】
(2)中間成形体形成工程
本工程は、準備した分散液に抄き型を浸漬し、該抄き型を通して該分散液を吸引することにより該抄き型の表面に中間成形体を形成する工程である。抄き型は、耐火断熱部材の形状に応じた型面を有し、当該型面が通水可能な多孔構造を有するものであればよい。抄き型の一面側から分散液を吸引することにより、孔を通して抄き型の他面に中間成形体が形成される。
【0042】
(3)乾燥工程
本工程は、形成した中間成形体を加熱し乾燥して成形体とする工程である。本工程においては、抄き型を分散液から引き上げた後、中間成形体から抄き型を取り外し、加熱して乾燥させればよい。乾燥は、オーブンなどを用いて、100~200℃程度の温度下で行えばよい。
【0043】
[第二の製造方法(圧縮成形法)]
第二の製造方法は、スラリー準備工程と、圧縮成形工程と、を有する。
(1)スラリー準備工程
本工程は、セルロース繊維、無機繊維、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂と水とを混合してスラリーを準備する工程である。スラリーは、水に耐火断熱部材の構成材料を配合し撹拌して製造すればよい。撹拌は、常温下で行えばよく、羽根撹拌の他、積極的にせん断力を加える方法で行ってもよい。撹拌時間は適宜調整すればよく、例えば0.5~1時間程度でよい。スラリーの成分については前述したとおりである。
【0044】
(2)圧縮成形工程
本工程は、スラリーを成形型に収容し加熱下で圧縮成形する工程である。成形型は、耐火断熱部材の形状に応じた型面を有するものであればよい。圧縮成形は、100~200℃程度の温度下で行えばよい。なお、本工程の前に、常温下で加圧して水分を除去する一次プレス工程、スラリーを常圧下で加熱して乾燥させる乾燥工程などを実施してもよい。本工程における「スラリー」は、先のスラリー準備工程で得られるスラリーの他、当該スラリーに何らかの処理を施した後のもの(一次成形された前駆体など)も含む概念である。
【実施例0045】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0046】
<耐火断熱部材サンプルの製造>
後出の表1に示す組成の四種類の耐火断熱部材サンプルを、圧縮成形法により製造した。まず、セルロース繊維、無機繊維としてのガラス繊維、バインダー樹脂としてのフェノール樹脂粉末、難燃性無機粒子としてのポリリン酸アンモニウム粉末、および耐火性無機粒子としてのタルク粉末を、羽根攪拌機に投入して、常温下で0.5時間撹拌混合した(スラリー準備工程)。次に、得られたスラリーを成形型に入れ、常温下で加圧して脱水した(一次プレス工程)。続いて、脱水により一次成形された前駆体をオーブンに入れ、常圧下、温度100℃にて1時間乾燥した(乾燥工程)。それから、乾燥後の前駆体を成形型に入れ、温度200℃にて2分間圧縮成形した(圧縮成形工程)。このようにして、縦100mm、横100mm、厚さ4mmの正方形シート状のサンプルを製造した。なお、サンプル3については、難燃性無機粒子を配合せずに製造した。
【0047】
使用した材料の詳細は以下のとおりである。
(a1)セルロース繊維:パルプ用汎用品、繊維径10~100μm、長さ0.5~20mm。
(b1)無機繊維(ガラス繊維):日本電気硝子(株)製「ESC13I-33G」、繊維径10.3μm、長さ13mm。
(a2)バインダー樹脂(フェノール樹脂粉末):エア・ウォーター・ベルパール(株)製「ベルパール(登録商標) S890」。
(b2)難燃性無機粒子(ポリリン酸アンモニウム粉末):BUDENHEIM社製「テラージュ(登録商標) C-30」。
(b3)耐火性無機粒子(タルク粉末):日本タルク(株)製「ミクロエース(登録商標) K-1」。
【0048】
<耐火断熱部材サンプルの評価>
製造したサンプルの耐火性、断熱性、引張強さ、および電気絶縁性を評価した。
【0049】
[評価方法]
(1)耐火性および断熱性
次のようにして接炎試験を実施して、サンプルの耐火性および断熱性を評価した。まず、サンプルの表裏両面に各々熱電対を設置した。次に、サンプルの裏面にブンゼンバーナーの火炎を裏面と垂直に直接当てて、裏面の温度が1000℃になるように火炎を調整しながら接炎状態を10分間継続した。その間、サンプルの表面(接炎面とは反対側の面)の温度を測定した。サンプルの表面温度は、裏面の接炎位置と同じ位置で測定した。
【0050】
接炎試験後に、サンプルの形状が保持されているか否か、および穴あきの有無を調べた。そして、形状が保持されており、かつ穴あきが無い場合を、耐火性良好と評価した。後出の表1においては、形状が保持されている場合を○印で示す。また、サンプルの断熱性が高いほど、接炎試験中の表面温度は低くなる。本試験においては、サンプルの表面温度の最大値が500℃以下の場合を、断熱性良好と評価した。
【0051】
(2)引張強さ
次の条件で引張試験を実施して、サンプルの引張強さを評価した。まず、サンプルを長さ40mm、幅10mm、厚さ2mmの短冊状に切り出して、試験片を作製した。次に、サンプルの長さ方向両端から10mmの部分をジグで把持し、一端を速度1mm/分で引き上げながら、試験片が破断するまでの最大応力を測定して、引張強さを算出した。
【0052】
(3)電気絶縁性
次のようにしてサンプルの体積抵抗率を測定し、電気絶縁性を評価した。体積抵抗率の測定は、サンプルを(株)エーディーシー製「レジスティビティ・チェンバ 12702A/B」に設置し、当該チェンバに同社製「デジタル超高抵抗/微少電流計 8340A」を接続して500Vの電圧を印加して行った。そして、体積抵抗率が1.00×1010Ω・cm以上の場合を、電気絶縁性良好と評価した。
【0053】
[結果]
表1に、サンプルの組成および評価結果を示す。
【表1】
【0054】
表1に示すように、サンプル1においては、有機物の含有質量が難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下であり、セルロース繊維と無機繊維とが同量含有されている。このため、耐火性、断熱性、電気絶縁性の全てが良好であった。また、引張強さも比較的大きく、所望の強度を有することが確認された。これに対して、サンプル2においては、有機物の含有質量が難燃性無機粒子の含有質量の5倍より大きい。このため、接炎試験において穴あきが生じてしまい、耐火性が不充分という結果になった。また、サンプル3は、難燃性無機粒子を含まない。このため、接炎試験において穴あきが生じた他、サンプルの表面温度の最大値が500℃を超え、耐火性および断熱性のいずれも不充分という結果になった。また、引張強さも小さくなった。サンプル4においては、有機物の含有質量が難燃性無機粒子の含有質量の5倍以下であり、難燃性無機粒子、耐火性無機粒子、およびバインダー樹脂の合計含有質量が、セルロース繊維および無機繊維の合計含有質量の2/3([難燃性無機粒子+耐火性無機粒子+バインダー樹脂]/[セルロース繊維+無機繊維]=0.67)である。このため、耐火性、断熱性、電気絶縁性の全てが良好であると共に、サンプル1と比較して引張強さが大きくなった。
【符号の説明】
【0055】
1:バスバーモジュールカバー(バッテリーパック用耐火断熱部材)、10:上壁部、11:第一側壁部、12:第二側壁部。
図1