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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086099
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】締切構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201034
(22)【出願日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・「ナムグム第一水力発電所拡張工事」 竣工・引渡(令和4年1月31日)
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小山 正人
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、種々の問題を抱える水密モルタルを充填することなく、荷重伝達機能と水密機能を併せ持つ締切構造を提供することである。
【解決手段】本願発明の締切構造は、ダム上流に締切空間を形成するための構造であって、側壁と背面壁、水密構造、荷重伝達構造を備えたものである。水密ゴムを含む水密構造は、締切空間への水の浸入を抑制する構造であり、支圧材を含む荷重伝達構造は、水平荷重をダム堤体に伝達する構造である。水密構造は側壁とダム堤体との間であって側壁の外縁に沿って配置され、荷重伝達構造は側壁とダム堤体との間であって水密構造よりも締切空間側に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダム上流に締切空間を形成するための構造であって、
左右に配置され、下流側でダム堤体に当接する側壁と、
前記側壁より上流側に配置され、該側壁に連結される背面壁と、
水密ゴムを含み、前記締切空間への水の浸入を抑制する水密構造と、
支圧材を含み、水平荷重を前記ダム堤体に伝達する荷重伝達構造と、を備え、
前記水密構造は、前記側壁と前記ダム堤体との間であって、該側壁の外縁に沿って配置され、
前記荷重伝達構造は、前記側壁と前記ダム堤体との間であって、前記水密構造よりも前記締切空間側に配置された、
ことを特徴とする締切構造。
【請求項2】
底部に配置され、下流側で前記ダム堤体に当接する底版を、さらに備え、
前記水密構造は、前記底版と前記ダム堤体との間であって、該底版の下縁に沿って配置され、
前記荷重伝達構造は、前記底版と前記ダム堤体との間であって、前記水密構造よりも上方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の締切構造。
【請求項3】
頂部に配置され、下流側で前記ダム堤体に当接する頂版を、さらに備え、
前記水密構造は、前記頂版と前記ダム堤体との間であって、該頂版の上縁に沿って配置され、
前記荷重伝達構造は、前記頂版と前記ダム堤体との間であって、前記水密構造よりも下方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の締切構造。
【請求項4】
前記水密構造は、当接板をさらに含み、
前記当接板が前記ダム堤体に取り付けられるとともに、前記水密ゴムが該当接板と前記側壁との間に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の締切構造。
【請求項5】
前記水密構造は、シール状の水膨張性ゴムをさらに含み、
前記水膨張性ゴムは、前記当接板と前記ダム堤体との間に設置され、
前記水膨張性ゴムによって、不陸が生じた前記ダム堤体の表面が平坦にされた状態で、前記当接板が該ダム堤体に取り付けられた、
ことを特徴とする請求項4記載の締切構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、供用中のダムにおける締切構造に関するものであり、より具体的には、従来用いられていた水密モルタルを伴う戸当たりを設けることなく、締切空間の水密性を保ちつつダム堤体に荷重を伝達することができる締切構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダムや堰は、利水や治水などを目的として河川等の水を堰止める構造物である。なお我が国の河川法では、堤高が15m以上の堤防はダムに分類され、堤高が15m未満の堤防は堰に分類される。治水用のダムや堰(以下、これらを総称して「ダム等」という。)は、洪水調整を行う(洪水の一部を貯める)ことで大雨等による下流の洪水被害を軽減することを主な目的として構築される。一方、利水用のダム等は、水道用水や工業用水、田畑へのかんがい用水を安定的に提供すること、あるいは水力発電を行うことを目的として構築される。いずれにしろダム等によって河川等の水を堰止める結果、上流側には貯水池(ダム湖)が形成される。
【0003】
水力発電を行うためのダム等(以下、単に「水力発電ダム」という。)には、ダム湖の水を水車へ送水する取水施設が設けられる。ダム堤体に設けられた取水口からダム湖の水が出水し、導水路を通って落下することによって水車を回転させるわけである。ところで、既に供用している水力発電ダムによる発電力をさらに拡張させることもある。この場合、新たな取水施設(発電ルート)を設置する必要があり、そのためダム堤体に取水口を構築することとなる。上記したように供用中の水力発電ダムの上流にはダム湖があることから、取水口を構築する(ダム堤体に貫通孔を空ける)には、計画された取水口の上流部をドライ(水を抜いた状態)にする必要があり、すなわち仮締切を行う必要がある。
【0004】
図7は、従来の締め切り構造を示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は戸当たり部分を示す部分平面図である。この図に示すようにダム湖における締切構造は、左右に配置される側壁WSと、側壁WSよりも上流に配置される背面壁WB、そして側壁WSと背面壁WBを連結するコーナー壁WCによって構成され、これら壁体とダム堤体で囲まれた領域の水を排出することよって締切空間(ドライな空間)が形成される。締切構造を構成する各壁体は、ダム湖の底に配置される底版に連結され、その水面を超える高さまで立ち上げられ、あるいは水面を超えない高さまで立ち上げるときは上面を封鎖する頂版が配置される。
【0005】
左右の側壁WSはそれぞれ下流側の端面(いわゆる「妻面」)でダム堤体に当接しており、この当接部には「戸当たり」と呼ばれる構造が設置される。当接部は、締切空間内にダム湖の水が流入しない水密機能と、締切構造に作用する水平荷重(主にダム湖の水圧)を当接面において均等になるようにダム堤体に伝達する荷重伝達機能が求められる。そのため従来の戸当たりは、図7(b)に示すように、上流側に支圧木材PWを設置するとともに、外側(つまり、ダム湖側)に止水材RBを設置していた。支圧木材PWによって上流からの水平荷重を吸収しつつ円滑に伝達し(荷重伝達機能)、止水材RBによって締切空間への漏水を防ぐ(水密機能)わけである。
【0006】
また、支圧木材PWよりも下流側には、緩衝用ゴム材CM(非膨潤ゴムや水膨潤ゴムなど)に挟まれた空間に水密モルタルMR(例えば、t=300mm)が充填されていた。荷重伝達機能を確保するためには仮締切構造(側壁WS)とダム堤体の間で一様な当接面が形成されることが望ましく、また水密機能を確保するためにはこの当接面が密着していることが望ましい。したがって、図7(b)に示す空間に水密モルタルMRを充填していたわけである。例えば、特許文献1でも、戸当たりとして荷重伝達用モルタルを充填する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-001927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したとおり、従来の仮締切構造では水密モルタルが充填され、すなわち水密モルタルが硬化した構造(以下、単に「モルタル構造」という。)が構築されていたが、このモルタル構造を構築するにあたってはいくつかの問題点があった。まず、水密モルタルを充填する時点ではまだドライな空間とされていないため、水密モルタルの充填は水中作業となり、したがって作業効率が悪く施工期間が長くなる傾向にあり、さらに潜水作業が長期化するため施工費が高騰化するという問題を指摘することができる。また、水中であってしかも狭隘な空間に水密モルタルを充填する必要があることから、材料分離となる箇所が発生しやすく、材料分離が生じた個所はそのまま漏水経路となるといった問題もある。さらに、水密モルタルがダム湖内に流出することによって、ダム湖の汚染が懸念されるという環境問題もある。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、種々の問題を抱える水密モルタルを充填することなく、荷重伝達機能と水密機能を併せ持つ締切構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、荷重伝達構造と水密構造をそれぞれ独立した構造とすることによって、水密モルタルの充填を回避する、というこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0011】
本願発明の締切構造は、ダム上流に締切空間を形成するための構造であって、側壁と背面壁、水密構造、荷重伝達構造を備えたものである。なお、左右に配置される側壁は下流側でダム堤体に当接し、側壁より上流側に配置される背面壁は側壁に連結される。水密ゴムを含む水密構造は、締切空間への水の浸入を抑制する構造であり、支圧材を含む荷重伝達構造は、水平荷重をダム堤体に伝達する構造である。また、水密構造は側壁とダム堤体との間であって側壁の外縁に沿って配置され、荷重伝達構造は側壁とダム堤体との間であって水密構造よりも締切空間側に配置される。
【0012】
本願発明の締切構造は、底部に配置されるとともに下流側でダム堤体に当接する底版を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、水密構造は底版とダム堤体との間であって底版の下縁に沿って配置され、荷重伝達構造は底版とダム堤体との間であって水密構造よりも上方に配置される。
【0013】
本願発明の締切構造は、頂部に配置されるとともに下流側でダム堤体に当接する頂版を、さらに備えたものとすることもできる。この場合、水密構造は底版とダム堤体との間であって底版の上縁に沿って配置され、荷重伝達構造は底版とダム堤体との間であって水密構造よりも下方に配置される。
【0014】
本願発明の締切構造は、水密構造が当接板を含むものとすることもできる。この場合、当接板はダム堤体に取り付けられるとともに、止水材は当接板と側壁との間に配置される。
【0015】
本願発明の締切構造は、水密構造がシール状の水膨張性ゴムを含むものとすることもできる。この場合、水膨張性ゴムは、当接板とダム堤体との間に設置される。そして、水膨張性ゴムによって不陸が生じたダム堤体の表面が平坦にされ、その平坦な状態とされたダム堤体に当接板が取り付けられる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の締切構造には、次のような効果がある。
(1)従来技術のように水密モルタルを充填する水中作業を行う必要がないため、施工期間が短縮される。
(2)また、潜水作業期間が短縮化されるとともに、水密モルタルが削減されることから、施工コストを抑えることができる。
(3)水密モルタルの流出に伴うダム湖の汚染を低減することができる。
(4)従来技術と比べても遜色ない程度の水密機能が確保することができる。本願発明の締切構造を試行した結果、仮締空間内における漏水量が概ね30L/minであって従来技術と同程度であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明の締切構造を模式的に示す平面図。
図2】左側壁がダム堤体の上流側表面に当接する部分を模式的に示す部分平面図。
図3】シール状の水膨張性ゴムが敷設されたダム堤体の表面に、当接板と止水材を設置する状況を模式的に示す部分平面図。
図4】(a)は締切構造パーツを下流側から見た正面図、(b)は締切構造パーツによって形成された締切構造を下流側から見た正面図。
図5】左側壁の端面に19の支圧材を設置して形成された荷重伝達構造を示す正面図。
図6】底版と頂版を備えた締切構造を示す正面図。
図7】(a)従来の締め切り構造を示す平面図、(b)は戸当たり部分を示す部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の締切構造の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本願発明の締切構造100を模式的に示す図であって、上方から見た平面図である。この図に示すように本願発明の締切構造100は、左右に配置される側壁110と、背面壁120、水密構造140、荷重伝達構造150を含んで構成され、さらにコーナー壁130や後述する底版、頂版などを含んで構成することもできる。なお便宜上ここでは、ダム湖側(図では下側)のことを「上流」、その反対側(図では上側)のことを「下流」とし、上流と下流を結ぶ方向(図では上下方向)のことを「主軸方向」ということとする。また、この主軸方向に直交する水平方向(図では左右方向)のことを「副軸方向」ということとし、さらに副軸方向における左右に関しては下流側を見たときの「左側」、「右側」とする。そこで、左側に配置される側壁110のことを特に「左側壁110L」、右側に配置される側壁110のことを特に「右側壁110R」ということとする。
【0020】
左側壁110Lと右側壁110Rは、それぞれ概ね主軸方向となるように配置され、その下流側の端面(いわゆる「妻面」)はダム堤体DBの上流側の表面に当接している。また背面壁120は、側壁110よりも上流であって概ね副軸方向となるように配置され、左側壁110Lと右側壁110Rの上流側で連結される。なお図1では、コーナー壁130を介して側壁110と背面壁120が連結されているが、これに限らず側壁110と背面壁120が直接連結される構成にすることもできる。
【0021】
締切構造100を構成する側壁110と背面壁120は、ダム湖の底に配置される底版に連結されたえうで、その水面を超える高さまで立ち上げられる。あるいは、側壁110と背面壁120をダム湖の水面を超えない高さまで立ち上げることとし、この場合は上面を封鎖する頂版を設置する。そして、堤体DBと側壁110、背面壁120によって囲まれた領域の水を、例えば水中ポンプなどを用いて排出することよって締切空間DS(ドライな空間)が形成される。
【0022】
以下、本願発明の締切構造100を構成する主な要素について詳しく説明する。
【0023】
(水密構造)
図2は、側壁110のうち左側壁110Lがダム堤体DBの上流側表面に当接する部分(以下、「当接部」という。)を模式的に示す図であって、上方から見た部分平面図である。この図に示すように水密構造140は、側壁110とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、側壁110の外縁に沿って配置される。ここで「外縁」とは、側壁110のうち締切空間DSとは異なる側(図では左側)、つまりダム湖側(以下、「外側」という。)であって、鉛直方向(図では紙面奥行方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲である。したがって、図2に示す左側壁110Lについては左側の上下方向が外縁となり、右側壁110Rについては右側の上下方向が外縁となる。
【0024】
水密構造140は、水密ゴム141を含むものであって、締切空間DSへの水の浸入を抑制する機能を有するものである。水密ゴム141としては、水膨張性ゴムを利用することもできるし、非膨張性ゴムを利用することもできる。この水密ゴム141を、ダム湖に近い位置にある外縁部に配置することによって、締切空間DSへの水の浸入を抑制するわけである。
【0025】
水密構造140は、水密ゴム141のみを含むものとし、すなわち側壁110(下流側端面)に水密ゴム141を取り付けるとともに、ダム堤体DM(上流側表面)に水密ゴム141を取り付ける構成とすることができる。あるいは、図2に示すように水密構造140が水密ゴム141と当接板142を含む構成とすることもできる。この当接板142としては、例えば鋼板といった板材を利用することができる。水密構造140が当接板142を含む場合、例えばケミカルアンカー(登録商標)などを利用して当接板142をダム堤体DM(上流側表面)に固定するとともに、水密ゴム141を側壁110(下流側端面)に取り付け、その水密ゴム141を当接板142に接触させる構成にするとよい。当接板142を設置することによって、その当接板142を介して水密ゴム141がダム堤体DM(上流側表面)により密接に接触することとなり、すなわちより水密機能が向上するわけである。
【0026】
ところで、ダム堤体DMの上流側表面に不陸が生じているケースもある。この場合、当接板142を設置したとしても、その不陸によって当接板142がダム堤体DMに密着せずに空隙部が生じてしまい、その空隙部がそのまま漏水経路になるというおそれもある。そこで図3に示すように、不陸が生じているダム堤体DMの表面には、例えば早川ゴム株式会社製の「スパンシール(登録商標)」などシール状の水膨張性ゴム143を敷設したうえで、当接板142を設置するとよい。水膨張性ゴム143を敷設することによって、不陸が生じたダム堤体DMの上流側表面が平坦になり、平坦な状態とされたダム堤体DMに当接板142を設置することができるわけである。この結果、当接板142がダム堤体DMに密着し、さらに当接板142を介して水密ゴム141がダム堤体DMに密接に接触することとなり、すなわちより水密機能が向上することとなる。
【0027】
(荷重伝達構造)
荷重伝達構造150は、上流から締切構造100に作用する水平荷重(主にダム湖の水圧)を吸収しつつ、円滑かつ一様にダム堤体DMに伝達するものであって、支圧材を含むものである。この支圧材としては、例えばベイマツからなる支圧木材を利用することができる。また荷重伝達構造150は、図2に示すように、側壁110とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、水密構造140よりも締切空間DS側に配置される。もちろん荷重伝達構造150は、水密構造140と同様、鉛直方向(図では紙面奥行方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲に配置される。つまり、側壁110とダム堤体DBが当接する「当接部」を平面視すると、外側の水密構造140と締切空間DS側の荷重伝達構造150が左右に並ぶように配置されている。ただし本願発明の締切構造100は、従来技術の「戸当たり」に相当する「当接部」には水密構造140と荷重伝達構造150が配置されるだけであって、水密モルタルが硬化した「モルタル構造」は構築されない。
【0028】
締切構造100は、図4に示すように複数の部材(以下、「締切構造パーツ100P」という。)を上下に積み重ねることによって形成することができる。図4(a)は、締切構造パーツ100Pを下流側から見た正面図であり、図4(b)は、締切構造パーツ100Pによって形成された締切構造100を下流側から見た正面図である。図4(a)に示すように、締切構造パーツ100Pのうち当接部を構成する部分、つまり左側壁110Lと右側壁110Rの端面には、それぞれ水密構造140と荷重伝達構造150が設置される。そして図4(b)に示すように、締切構造パーツ100Pを上下に積み上げることで締切構造100が形成され、すなわち上下に連続する水密構造140と荷重伝達構造150が形成される。この場合、締切構造パーツ100Pに係る側壁110の端面に1つの支圧材151を設置することで部分的な荷重伝達構造150を形成することもできるし、複数の支圧材151を設置することで部分的な荷重伝達構造150を形成することもできる。例えば図5では、締切構造パーツ100Pに係る左側壁110Lの端面に19の支圧材151を設置することで部分的な荷重伝達構造150を形成している。
【0029】
(底版と頂版)
締切構造100は、図6に示すように底部に配置される底版160を備えたものとすることもできる。図6は、底版160と頂版170を備えた締切構造100を下流側から見た正面図である。この図に示すように、左側壁110Lと右側壁110Rはその下端で底版160に連結され、背面壁120もその下端で底版160に連結される。また底版160は、ダム湖の底面に直接設置されるわけではなく、ダム堤体DM(上流側表面)に取り付けられた「底版台座」の上に載置される。この底版台座は、山形鋼やH型鋼などの鋼材によって組み立てることができる。
【0030】
底版160の下流側の端面(いわゆる「妻面」)は、ダム堤体DBの上流側の表面に当接し、この当接部には水密構造140と荷重伝達構造150が設置される。水密構造140は、底版160とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、底版160の下縁に沿って配置される。ここで「下縁」とは、底版160のうち締切空間DSとは異なる側、つまりダム湖の底面側であって、水平方向(図では左右方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲である。一方、荷重伝達構造150は、底版160とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、水密構造140よりも締切空間DS側(つまり上方)に配置される。もちろん荷重伝達構造150は、水密構造140と同様、水平方向(図では左右方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲に配置される。つまり、底版160とダム堤体DBが当接する「当接部」を正面視すると、下方の水密構造140と上方の荷重伝達構造150が上下に並ぶように配置されている。ただしここでも、従来技術の「モルタル構造」は構築されない。
【0031】
既述したとおり、側壁110と背面壁120の壁高がダム湖の水面を超えない場合、締切構造100(つまり、締切空間DS)の上面を封鎖する頂版170を設置するとよい。この場合、図6に示すように、左側壁110Lと右側壁110Rはその上端で頂版170に連結され、また背面壁120もその上端で頂版170に連結される。
【0032】
頂版170の下流側の端面(いわゆる「妻面」)は、ダム堤体DBの上流側の表面に当接し、この当接部には水密構造140と荷重伝達構造150が設置される。水密構造140は、頂版170とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、頂版170の上縁に沿って配置される。ここで「上縁」とは、頂版170のうち締切空間DSとは異なる側、つまりダム湖の水面側であって、水平方向(図では左右方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲である。一方、荷重伝達構造150は、頂版170とダム堤体DM(上流側表面)との間であって、水密構造140よりも締切空間DS側(つまり下方)に配置される。もちろん荷重伝達構造150は、水密構造140と同様、水平方向(図では左右方向)に伸びる帯状(あるいはライン状)の範囲に配置される。つまり、頂版170とダム堤体DBが当接する「当接部」を正面視すると、上方の水密構造140と下方の荷重伝達構造150が上下に並ぶように配置されている。ただしここでも、従来技術の「モルタル構造」は構築されない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明の締切構造は、重力式コンクリートダムやアーチ式コンクリートダムなど種々の形式のダム等に利用することができ、また利水目的や治水目的など様々な目的のダム等に利用することができる。本願発明によれば容易かつ短期間でダム湖内に締切空間を形成することができることから、発電力拡張など共有中のダム等のさらなる活用や、メンテナンスによるダム堤体の長寿命化につながることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0034】
100 本願発明の締切構造
110 側壁
110L 左側壁
110R 右側壁
120 背面壁
130 コーナー壁
140 水密構造
141 水密ゴム
142 当接板
143 水膨張性ゴム
150 荷重伝達構造
151 支圧材
160 底版
170 頂版
CM 緩衝用ゴム材
DB 堤体
DS 締切空間
MR 水密モルタル
PW 支圧木材
RB 止水材
WB 背面壁
WC コーナー壁
WS 側壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7