(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086129
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】シェル型の作製方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20240620BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201094
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000168115
【氏名又は名称】KTX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】樫下 拓司
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202CA01
4F202CA09
4F202CA11
4F202CA15
4F202CA17
4F202CB01
4F202CD12
4F202CD14
4F202CD18
4F202CD26
4F202CD28
4F202CK88
4F202CP01
(57)【要約】
【課題】シェル型の全体を均一な厚さに形成する。
【解決手段】マンドレルを作製するステップと、マンドレルの三次元形状を測定してマンドレル三次元測定データD3を作成するステップと、マンドレルに接した状態のシェル型2を溶射又は電鋳により作製するステップと、シェル型2の裏面をマンドレル三次元測定データD3により切削するステップとを含むシェル型の作製方法。さらに、作製したシェル型の裏面の所定位置にレーザー光を照射することによりシェル型を貫通した真空吸引孔を形成するステップを含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルを作製するステップと、
マンドレルの三次元形状を測定してマンドレル三次元測定データを作成するステップと、
マンドレルに接した状態のシェル型を溶射又は電鋳により作製するステップと、
シェル型の裏面をマンドレル三次元測定データにより切削するステップと
を含むシェル型の作製方法。
【請求項2】
作製したシェル型の裏面の所定位置にレーザー光を照射することによりシェル型を貫通した真空吸引孔を形成するステップを含む請求項1記載のシェル型の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用金型に用いられるシェル型の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂シートを型面に真空吸引して成形品とする機能を有する成形用金型は、複数の真空吸引孔を有する比較的薄いシェル型と、シェル型をバックアップするとともに真空吸引孔と連通する通気路を有するバックアップ型とを含み構成されたものが多い。比較的薄いシェル型には、複数の真空吸引孔を形成しやすいからである。また、成形品の形状及び模様と同一の形状及び模様を備えたマンドレルに溶射又は電鋳を行うことにより、成形品の形状及び模様を転写したシェル型を容易に作製することができる利点もある。以下、溶射により作製したシェル型を「溶射シェル型」といい、電鋳により作製したシェル型を「電鋳シェル型」ということがある。溶射シェル型とバックアップ型とを含む成形用金型の例としては、次の特許文献1~3がある。また、電鋳シェル型とバックアップ型とを含む成形用金型の例としては、次の特許文献4,5がある。
【0003】
特許文献1には、キャビティ面を形成する多孔質の金属溶射層と、該金属溶射層を保持する多孔質のバックアップ層とを備えた成形用金型が記載されている。バックアップ層は、アルミグリッド等の金属粒子を熱硬化性樹脂で結合させ、金属粒子間に孔が形成されてなるものである。成形用金型は表皮材を成形するための真空型である。
【0004】
特許文献2には、エポキシ樹脂からなる母型に、ホワイトメタルや亜鉛系材料等の溶射材料をアーク溶射して溶射皮膜を形成し、溶射皮膜に対して母型にまで達する貫通孔(真空吸引孔)をボール盤等を用いて多数形成し、溶射皮膜の上にアルミ粒子とエポキシ樹脂との混合物を充填して該エポキシ樹脂を硬化させることてにより、アルミ粒子同士がエポキシ樹脂で接着された多孔性の裏打ち層を設ける、成形用金型の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、モデルの表面に金属製のピンを一部挿入して突出するように立て、モデルの表面に金属材料(亜鉛合金)を溶射してシェルを形成し、ピンをシェルから取り外してシェルを貫通する通気孔(真空吸引孔)を形成し、シェルをモデルから取り外し、シェルの背面を、(ア)多孔質裏込め媒体で支持する(
図5A,5B)か又は、(イ)エポキシ系補強層で積層してエッグクレート構造の筐体で支持してなる(
図6A,6B)、真空成形金型が記載されている。
【0006】
特許文献4には、孔の無い電鋳殻表面層を電鋳形成し、該電鋳殻表面層に微小真直孔をレーザー加工し、該電鋳殻表面層の裏面に電鋳殻裏面層を電鋳形成するとともに微小真直孔から拡径成長した拡径孔を形成して多孔質電鋳殻を製造する方法と、該多孔質電鋳殻を、支持板、粒状体等のバックアップ部材で補強することが記載されている。
【0007】
特許文献5には、特許文献4の方法等により形成された真空吸引孔を有する電鋳シェル型と、表面が電鋳シェル型の裏面と合致する形状をなし、表面に複数の受け面を残して通気溝が凹設された鋼材製のバックアップ型とを含む表皮インサート射出成形型が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-178091号公報
【特許文献2】特開2019-104194号公報
【特許文献3】米国特許出願公開2006-0086474号明細書
【特許文献4】特開平9-249987号公報
【特許文献5】特開2021-53920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[1]シェル型に関する問題
特許文献1の金属溶射層は、溶射時に生じた溶射金属粒子間の空隙がつながって多孔質となったものであり、通気性が低く詰まりやすい。また、特許文献2のように溶射皮膜にボール盤等を用いて真空吸引孔を形成する場合、ドリル刃の制約から真空吸引孔の孔直径が0.2mm超となるため、真空吸引時に樹脂シートに真空吸引孔の跡が付く。よって、これらの技術は採用しにくい。
【0010】
特許文献3のように溶射シェル型にピンを用いて真空吸引孔を形成すれば、真空成形品に跡が付かない孔直径0.1mm前後の孔とすることができる。しかしながら、同方法を実際に行うには、モデルに特殊なドリルで微細な孔を面直にあけ、その中に直径0.1mm前後のステンレス鋼製のピンを挿入する必要があり、しかもその数は成形品にもよるが1000箇所を越える場合もあり、孔形成に手間と時間がかかる(問題1)。また、孔直径0.1mm前後のストレートな孔は、樹脂シートの真空吸引時に通気抵抗が大きいため、真空吸引力が弱く、減圧するのに時間もかかる(問題2)。
【0011】
特許文献4,5のように電鋳シェル型にレーザー加工による孔直径0.1mm前後の微小真直孔と電鋳で成長した拡径孔とからなる真空吸引孔を形成すれば、真空吸引時に樹脂シートに跡が付かず、かつ通気抵抗が低い、優れた真空吸引孔となる。しかしながら、レーザー加工と電鋳を併用するので、孔形成に手間と時間がかかる(問題1)。
【0012】
仮に、シェル型にレーザー加工のみにより孔直径0.1mm前後のストレートな真空吸引孔を形成した場合は、特許文献3と同様に通気抵抗が大きくなる(問題2)。また、レーザー加工をシェル型の表面(成形面)側から行うと、真空吸引孔のシェル型表面での開口部が焼けて汚れる(問題3)。レーザー加工をシェル型の裏面側から行うと、真空吸引孔のシェル型表面での開口部の焼けは起きないが、真空吸引孔のシェル型表面での孔直径がばらつき(問題4)、例えば孔直径0.1mmを狙っても0.05mmになるものや0.2mmになるものがある。
【0013】
いずれの特許文献の溶射シェル型又は電鋳シェル型も、その全体を均一な厚さに形成することは困難であるため、厚さが不均一になり、強度不足の部分が生じたり、真空吸引孔のシェル型表面での孔直径のばらつきにつながったりすることがあった(問題5)。
【0014】
[2]バックアップ型に関する問題
特許文献1~3におけるバックアップ型は、いずれも溶射シェル型の裏面に全面が接着固定されていることから、通常、真空吸引孔の追加や清掃等のメンテナンスは、溶射シェル型の表面側からのみとなり、十分に行えないことがある。敢えて真空吸引孔のメンテナンスを溶射シェル型の表面側から行う場合には、バックアップ型の接着固定を全部外さなければならず、それには金型自体に高熱をかけたり溶剤を使ったりする必要があり、金型を歪ませたり表面の意匠面を溶かしたりする原因になる(問題6)。
【0015】
特許文献5における表面が電鋳シェル型の裏面と合致する形状をなすバックアップ型は、電鋳シェル型の裏面に接着固定されていないため、容易に電鋳シェル型を取り外して、真空吸引孔の追加や清掃等を行うことができる。しかしながら、バックアップ型の表面全体を電鋳シェル型の裏面全体と精度良く合致する形状に形成することは困難であるため、電鋳シェル型から浮く部分や電鋳シェル型を強圧する部分が生じて、バックアップ機能を十分に果たせなかったり、電鋳シェル型が変形したりする可能性があった(問題7)。
【0016】
また、特許文献5の電鋳シェル型とバックアップ型は、真空吸引孔が通気溝に連通するが、すべての真空吸引孔が通気溝に連通するとは限らず、一部の真空吸引孔を受け面が完全に塞ぐことがあるため、全体の真空吸引効率を低下させることがあった(問題8)。
【0017】
そこで、本発明の目的は、上記の問題5を解決し、シェル型の全体を均一な厚さに形成することにある。さらに、好ましくは上記の問題4を解決し、レーザー加工で形成する真空吸引孔のシェル型表面での孔直径のばらつきを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[1]マンドレルを作製するステップと、
マンドレルの三次元形状を測定してマンドレル三次元測定データを作成するステップと、
マンドレルに接した状態のシェル型を溶射又は電鋳により作製するステップと、
シェル型の裏面をマンドレル三次元測定データにより切削するステップと
を含むシェル型の作製方法。
【0019】
[2]作製したシェル型の裏面の所定位置にレーザー光を照射することによりシェル型を貫通した真空吸引孔を形成するステップを含む上記[1]記載のシェル型の作製方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シェル型の全体を均一な厚さに形成することができる。さらに、レーザー加工で形成する真空吸引孔のシェル型表面での孔直径のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は実施例1におけるモデルを示し、(a)は切削時の断面図、(b)はシボシートを貼着した時の断面図である。
【
図2】
図2は同じくシリコン型を示し、(a)はモデルから作製する時の断面図、(b)はモデルから外した時の断面図である。
【
図3】
図3は同じくマンドレルを示し、(a)はシリコン型から作製する時の斜視図、(b)はシリコン型から外して3次元測定している時の断面図である。
【
図4】
図4は同じく溶射シェル型を示し、(a)はマンドレルへの溶射時の断面図、(b)は溶射後の断面図である。
【
図5】
図5は同じく溶射シェル型を示し、裏面を切削加工する時の断面図である。
【
図6】
図6は同じく溶射シェル型を示し、(a)は裏面の荒加工時の斜視図、(b)は中仕上げ加工時の斜視図、(c)は仕上げ加工時の斜視図である。
【
図7】
図7は同じく溶射シェル型を示し、マンドレルを取り外した(レジンアウト)時の断面図である。
【
図8】
図8は同じく溶射シェル型を示し、(a)は実施例の断面図、(b)は比較例の断面図である。
【
図9】
図9は同じく溶射シェル型を示し、(a)は1回目のレーザー加工で下穴が形成された時の部分拡大断面図、(b)は2回目のレーザー加工で真空吸引孔が形成された時の部分拡大断面図、(c)はレーザー加工後の断面図である。
【
図10】
図10は同じく溶射シェル型を示し、(a)は裏面側の斜視図、(b)は部分拡大斜視図である。
【
図11】
図11は同じく溶射シェル型を示し、(a)は表面側の斜視図、(b)は部分拡大斜視図である。
【
図12】
図12は同じくバックアップ型を示し、(a)は表面を切削加工した時の断面図、(b)は通気溝と通気穴を加工し温度調節用配管と底板を取り付けた時の断面図である。
【
図13】
図13は同じくバックアップ型を示し、(a)は斜視図、(b)は部分拡大斜視図である。
【
図14】
図14は同じく完成した成形用金型を示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【
図15】
図15(a)は比較例の成形用金型の要部拡大断面図、(b)は実施例1の成形用金型の要部拡大断面図、(c)は実施例1の成形用金型を別方向で切断した要部拡大断面図である。
【
図16】
図16は実施例1の成形用金型を用いて樹脂シートを真空成形する時の断面図である。
【
図17】
図17は実施例1の成形用金型の溶射シェル型を別の溶射シェル型や電鋳シェル型に取り替えられることを示す説明図である。
【
図18】
図18は実施例2の成形用金型におけるバックアップ型の表面側を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1>シェル型
シェル型に接するマンドレルは、例えば、
成形品三次元形状と等しい形状を有するモデルを作製するステップと、
モデルに対して反転した形状を有する反転型をモデルを用いて作製するステップと、
反転型に対して反転した形状を有するマンドレルを反転型を用いて作製するステップと
により作製することができる。
溶射シェル型又は電鋳シェル型(特に溶射シェル型)は、製造効率が高く、凹凸模様を転写で容易に形成できるため、好ましい。
シェル型の厚さは、特に限定されないが、2~6mmが好ましく、2.5~5mmがより好ましい。一定以上の強度があり、速く作製でき、真空吸引孔を形成しやすいからである。
シェル型の材料としては、特に限定されないが、金属(亜鉛合金、ニッケル、鋼等)、セラミック等を例示できる。
シェル型の表面(型面)に凹凸模様を形成しておくことにより、該表面に真空吸引された表皮の表面に該凹凸模様を転写した凹凸模様を賦形することができる。凹凸模様としては、特に限定されないが、革シボ模様、縫目模様、幾何学的単位模様の複数繰り返し配列等を例示できる。
シェル型は、バックアップ型に対して取り替え可能に取り付けられていることが好ましい。その取り付け構造としては、ネジによる螺着、嵌合形状による嵌合等を例示できる。
【0023】
<2>真空吸引孔
真空吸引孔としては、特に限定されないが、レーザー加工により形成されたもの、特開昭60-152692号公報、特開平9-249987号公報等に記載の方法で電鋳時に形成されたもの、機械加工(ドリル加工等)で形成されたもの等を例示できる。レーザー加工は加工が速い点で好ましい。
真空吸引孔のシェル型表面での孔直径に対してシェル型裏面での孔直径が2倍以上であることが好ましく、2.5倍以上であることがより好ましい。
【0024】
<3>バックアップ型
バックアップ型としては、特に限定されないが、鋳造、切削、放電加工等により形成されたものを例示できる。
バックアップ型の厚さは、特に限定されないが、10mm以上が好ましく、20mm以上がより好ましい。高剛性となるからである。
バックアップ型の材料としては、特に限定されないが、金属(アルミニウム合金、鋼等)、セラミック等を例示できる。
【0025】
<4>通気溝
通気溝は、バックアップ型の表面又はシェル型の裏面のいずれか一方又は両方に形成することができるが、加工効率等の点でいずれか一方のみに形成することが好ましく、型強度低下のおそれが少ない点でバックアップ型の表面のみに形成することがより好ましい。
通気溝としては、機械加工(切削加工等)、放電加工、エッチング加工等により形成されたものを例示できる。
通気溝のパターンとしては、特に限定されないが、1本又は複数本の線状、ネット状(特許文献2に記載の四角格子状、三角格子状、六角格子状、その他)等を例示できる。
後述する筋目の方向に対して交差する方向に延びる通気溝を含むことが好ましい。該通気溝は複数の筋目と連通するからである。
通気溝の深さは、特に限定されないが、0.2~3mmが好ましく、0.2~2mmがより好ましく、0.3~1mmが最も好ましい。通気溝の深さが0.2mm以上であると通気性がよく、3mm以下であるとバックアップ型の強度が低下しにくい。
通気溝の幅(開口幅)は、特に限定されないが、1~7mmが好ましく、1~5mmがより好ましい。通気溝の幅が1mm以上であると通気性がよく、7mm以下であるとバックアップ型の強度が低下しにくい。
【0026】
<5>筋目と突条
筋目と突条は、シェル型の裏面又はバックアップ型の表面のいずれか一方又は両方に形成することができるが、両方に形成すると両型の嵌合精度が低下するため、いずれか一方のみに形成することが好ましく、シェル型の加工量が少なく済む点でシェル型の裏面のみに形成することがより好ましい。
筋目と突条の方向は、これを形成する面(シェル型の裏面又はバックアップ型の表面)の全体において一方向でもよいし、該面に設定した複数の領域の間で方向を変えてもよい。
先端が非平坦なエンドミルとしては、特に限定されないが、ボールエンドミル、ラジアスエンドミル等を例示できる。
該エンドミルの刃径としては、特に限定されないが、15~20mmを例示できる。
複数の筋目は、前記のとおり送りピッチ0.5~5.0mm・加工深さ0.01~0.4mmであるが、より好ましくは送りピッチ1.0~3.0mm・加工深さ0.02~0.15mmである。
送りピッチと加工深さとの関係は、特に限定されないが、送りピッチは加工深さに対して20~50倍であることが好ましい。
【0027】
<6>成形用金型
本発明の成形用金型は、真空吸引機能を利用しながら高分子材料を成形する各種成形(特に限定されず、真空成形、圧空成形、インサート射出成形、ブロー成形、スタンピング成形、プレス成形、スラッシュ成形等を例示できる。)用の金型として具体化することができる。
【実施例0028】
以下、本発明を具体化した実施例について図面を参照して説明する。なお、実施例で記す材料、構成、数値は例示であって、適宜変更できる。
【0029】
[実施例1]
図1~
図17に実施例1を示す。
図14に示す実施例1の成形用金型1は、真空成型用金型である。成形用金型1は、複数の真空吸引孔5を有する溶射シェル型2と、溶射シェル型2をバックアップするバックアップ型10とを含み、溶射シェル型の裏面とバックアップ型の表面とが同一形状をなして嵌合している。
【0030】
溶射シェル型2は、
図9(c)、
図10及び
図11に示すように、溶射により厚さ3mmの殻状に形成されたものであり、メス型(凹形状)のシェル本体部3と、シェル本体部3の周りのフランジ部4とからなる。
【0031】
真空吸引孔5は、シェル本体部3の全域に分散して多数形成されており、フランジ部4には形成されていない。真空吸引孔5は、レーザー加工で形成されたものである。真空吸引孔5の孔直径は、溶射シェル型2の表面側で0.1±0.05mmであり、裏面に向かうにつれて拡径し、溶射シェル型2の裏面側で0.25±0.05mmである。
【0032】
シェル本体部3の表面(型面)には、
図11に示すように、革シボ凹凸模様8が溶射時にマンドレルから転写されることにより形成されている。
【0033】
シェル本体部3の裏面には、
図10に示すように、送りピッチ0.5~5.0mm・加工深さ0.01~0.4mmの複数の筋目6と該筋目間の突条7とが形成されている。この筋目6と突条7は、
図6(a)(b)に示すように、溶射シェル型2の裏面を、先端が非平坦な切削工具33(エンドミル)で切削加工することにより、切削加工跡として形成されたものである。その方法については後で詳述する。
【0034】
バックアップ型10は、
図12及び
図13に示すように、アルミニウム合金で厚さ10~30mmに形成されている。バックアップ型は、その背面側に底板17が取り付けられている。
【0035】
バックアップ型10の表面は、シェル本体部3の裏面の凸形状と同一の凹形状をなしている。バックアップ型10の裏面側には温度調節用配管12が鋳込まれており、温度調節用配管12には温度調節用流体が流せるようになっている。温度調節用配管12には、例えばフレキシブルSUS配管が用いられている。
【0036】
バックアップ型10の表面には、シェル本体部3の裏面を受ける受け面14を残して、例えば四角格子状に繋がる通気溝13が機械加工で凹設されている。この通気溝13は、筋目6の方向に対して平行に延びる通気溝(
図15(b))と、筋目6の方向に対して交差する方向に延びる通気溝(
図15(c))とを含む。例えば、通気溝13は深さ0.2~3mm・幅1~7mmであり、受け面14は5mm平方~20mm平方の四角形群である。
【0037】
バックアップ型10には、通気溝13から複数の通気穴15が形成されている。通気穴15の直径は例えば5~10mmである。
【0038】
底板17には、通気穴15に連続して型外部に開口する通気口18が設けられ、型外部の真空吸引装置(図示略)が接続できるようになっている。
【0039】
図14に示すように、シェル本体部3がバックアップ型10に嵌合して当接し、フランジ部4がバックアップ型10の座繰部に嵌合してネジ39で螺着されることにより、溶射シェル型2はバックアップ型10に対して着脱可能及び取替可能に取り付けられている。この取り付け状態で、
図15(b)(c)に示すように、すべての真空吸引孔5が筋目6を介して通気溝13に連通している。
【0040】
以上のように構成された成形用金型1は、次の方法で製造された。
【0041】
[1]モデルの作製
図1(a)に示すように、ワーカブル樹脂20(ウレタン樹脂)を、成形品三次元形状データD1をシボ付シートの厚さ分だけ小さくオフセットしたCAMデータD2により、切削工具21でNC切削加工することにより、モデル基体22を作製した。
【0042】
続いて、
図1(b)に示すように、モデル基体22の表面に、革シボ凹凸模様を備えた模様シート23を貼って、モデル24(シボ貼りモデル)を作製した。モデル24は、成形品三次元形状と等しい三次元形状を有する。
【0043】
[2]シリコン反転型の作製
図2(a)に示すようにモデル24にシリコン材25’を注ぎ、硬化後に脱型することにより、(b)に示すようにシリコン反転型25を作製した。シリコン反転型25は、モデル24に対する反転形状を有するが、その反転形状は硬化時の変形や収縮等によって正しい反転形状に対し誤差のあるものとなる。
【0044】
[2]マンドレルの作製
次に、
図3(a)に示すようにシリコン反転型25にエポキシ樹脂26’を注ぎ、硬化後に脱型することにより、(b)に示すようにマンドレル26を作製した。作製したマンドレル26を、ベークライト製の設置台27の上に設置した。マンドレル26は、シリコン反転型25に対する反転形状を有するが、その反転形状は硬化時の変形や収縮等によって正しい反転形状に対し誤差のあるものとなる。
【0045】
こうして2回の反転による誤差が重なり、マンドレル26の三次元形状は、成形品三次元形状に対し0.1mmを超える(部分的に0.5mmを超える)差異のあるものとなる。
【0046】
[2]マンドレルの測定
図3(b)に示すように、このマンドレル26の三次元形状を三次元測定器28により測定し、マンドレル三次元測定データD3を作成する。
【0047】
[3]溶射シェル型の作製
[3-1]前処理
必要に応じて、マンドレル26の表面に洗浄、脱脂、粗面化等の前処理を行う。
【0048】
[3-2]溶射
図4(a)に示すように、産業用ロボット30に溶射装置31をセットし、マンドレル三次元測定データD3を基にして作製した溶射プログラムをティーチングして、マンドレル26に溶射材料32’を溶射した。溶射プログラムは、溶射距離:400±50mm、トラバーススピード:750±250mm、ピッチ:3~8mmとした。溶射条件は、アーク溶射、電流:120±50A、溶射材料:85%Zn-15%Al、気孔率10±5%とした。
【0049】
徐々に溶射材料32’を堆積していき、
図4(b)に示すように、鎖線で示す所望厚さ3mmの溶射シェル型2に対し厚盛分として約1mm以上の厚さの厚盛溶射シェル型32を作製した。
【0050】
[3-3]裏面切削加工
図5に示すように、厚盛溶射シェル型32の裏面(前記厚盛分)を、マンドレル三次元測定データD3を3mmだけ大きくオフセットしたCAMデータD4により、切削工具33でNC切削加工することにより、所望厚さ3mmの溶射シェル型2を得た。この厚さの均一性については後述する。
【0051】
フランジ部4の裏面のNC切削加工では、
図6(a)に示す荒加工、(b)に示す中仕上げ加工、(c)に示す仕上げ加工、という3ステップを経て最終的に平滑面に近づけ、バックアップ型との嵌合精度を高めた。具体的には、切削工具33として例えば刃径16mmのボールエンドミルを使用し、荒加工では送りピッチP1を5.0mm超として加工深さH1を0.4mm超とし、次の中仕上げ加工では送りピッチP2を0.5~5.0mmとして加工深さH1を0.01~0.4mmとし、次の仕上げ加工では送りピッチP3を0.5mm未満として加工深さH1を0.01mm未満とした。
【0052】
しかし、シェル本体部3の裏面のNC切削加工は、
図6(a)の荒加工と(b)の中仕上げ加工を行った状態で加工を止め、(c)の仕上げ加工を行わないことにより、切削加工跡として送りピッチP2が0.5~5.0mm・加工深さH1が0.01~0.4mmの複数の筋目6と該筋目間の突条7とを該裏面に残した。この切削加工跡を残しても、バックアップ型10との必要な嵌合精度は確保される。
【0053】
[3-4]レジンアウト
図7に示すように、マンドレル26から溶射シェル型2を取り外した(レジンアウト)。レジンアウトは、加熱したマンドレル26から溶射シェル型2を剥がすことにより行うことがてきる。
【0054】
こうして、
図8(a)に示すように、シェル全域にわたり厚さが3.0±0.1mmの精度で均一である溶射シェル型2が完成した。溶射シェル型2の表面はマンドレル26の三次元形状と等しいため、上記[3-3]の裏面切削加工を、マンドレル三次元測定データD3を3mmだけ大きくオフセットしたCAMデータD4により行ったことで、この精度が得られたのである。
【0055】
これに対して、
図8(b)に示す比較例の溶射シェル型90は、上記[3-3]の裏面切削加工を、成形品三次元形状データD1を3mmだけ大きくオフセットしたCAMデータD5により行ったものである。この溶射シェル型90は、表面は実施例と同じくマンドレル26の三次元形状と等しいが、裏面を成形品三次元形状をオフセットしたCAMデータD5により切削したことで、上記[2]で説明した成形品三次元形状とマンドレル26の三次元形状との差異に起因して、厚さが不均一になる。具体的には、所望厚さ3mmよりも0.5mmを超えて厚い部分や、所望厚さ3mmよりも0.5mmを超えて薄い部分が生じることがある。
【0056】
[3-5]真空吸引孔の形成
図9に示すように、レーザー加工機34を用いて、溶射シェル型2に真空吸引孔5を形成した。CO2レーザー(パルス発振、周波数:50Hz、出力:110~140W、ピーク出力・平均出力の差:20%)と、アシストガス(ドロス対策のためN2(1MPa)使用)との作用により穴あけするものであり、本実施例では次の2ステップで行った。
【0057】
まず、
図9(a)に示すように、溶射シェル型2の裏面の所定位置に、第一条件(スポット径:200μm、出力:120W、照射時間:1~2秒)でレーザー光を面直に照射することにより、溶射シェル型2を貫通した、表面での孔直径:0.1±0.05mm、裏面での孔直径:0.15±0.05mmの下穴35が形成された。
【0058】
次に、
図9(b)に示すように、溶射シェル型2の裏面の前記所定位置と同一位置に、前記第一条件とは異なる第二条件(スポット径:200μm、出力:110W、照射時間:1~2秒)でレーザー光を面直に照射することにより、下穴35の孔直径を溶射シェル型2の表面での拡大量よりも裏面での拡大量が大きいように拡大して、表面での孔直径:0.1±0.05mm、裏面での孔直径:0.25±0.05mm真空吸引孔5を形成した。すなわち、本例では、表面での拡大量はゼロであり、裏面での拡大量は0.1mmであった。
【0059】
このように2ステップでレーザー加工したことにより、真空吸引孔5は、溶射シェル型2の表面では成形品に跡を付けない小径を有し、溶射シェル型2の裏面では通気抵抗が低い大径を有するものとなった。
【0060】
また、
図9(c)に示すように、溶射シェル型2のシェル本体部3の全域に分散するように、多数の真空吸引孔5をレーザー加工したが、表面での孔直径及び裏面での孔直径は前記±0.05mmの精度で安定していた。これは、上記[3-4]で説明したように、溶射シェル型2の厚さが3.0±0.1mmの精度で均一であることにより、一定のレーザー加工を繰り返せたことによるものである。複数の真空吸引孔5の孔間ピッチは、例えば溶射シェル型2の平面に近い面は10mmピッチ、角部は5mmピッチにするなど、適宜決めることができる。このレーザー孔加工は、前述のとおり、溶射シェル型以外にも、電鋳シェル型に使うことがてきる。
【0061】
図10は、以上により完成した溶射シェル型2の裏面を示し、表面を
図11に示す。溶射シェル型2の表面には、モデル24の模様シート23の革シボ凹凸模様が、シリコン反転型25→マンドレル26→溶射シェル型2の順に転写してなる鮮明な革シボ凹凸模様8が付与されている。
【0062】
[4]バックアップ型の作製
図12(a)に示すように、アルミニウム合金塊37の表面をマンドレル三次元測定データD3により、切削工具38でNC切削加工(型彫り)することにより、バックアップ型10を作製した。このNC切削加工では、前述した
図6(a)に示す荒加工、(b)に示す中仕上げ加工、(c)に示す仕上げ加工、という3ステップを経て最終的に平滑面に近づけ、溶射シェル型2との嵌合精度を高めた。
【0063】
続いて、
図12(b)及び
図13(b)に示すように、バックアップ型10の表面に受け面14を残して通気溝13を切削加工し、通気溝13から裏面側に貫通する複数の通気穴15を切削加工した。
【0064】
続いて、
図12(b)及び
図13(a)に示すように、バックアップ型10の裏面側に温度調節用配管12を組み込み、底板17を取り付けた。
【0065】
[5]成形用金型の完成
図14に示すように、溶射シェル型2をそのフランジ部4においてバックアップ型10にネジ39で着脱可能に取り付け、成形用金型1を完成した。
【0066】
以上のように構成された成形用金型1を用いて、次の方法で樹脂シートを真空成形することができる。
図16に示すように、加熱により軟化させた熱可塑性の樹脂シート40を、成形用金型1に当てがうとともに、オス型41でシェル本体部3の表面に押し込む。続いて、前述した真空吸引装置(図示略)によりバックアップ型10内の空間を減圧し、通気穴15、通気溝13及び筋目6を介して真空吸引孔5により、樹脂シート40をシェル本体部3の表面に真空吸引して成形する。このとき、前述したように真空吸引孔5の通気抵抗が低いことにより吸引効率が高く、樹脂シート40にはシェル本体部3の革シボ凹凸模様8が忠実に転写され、リアリティのある凹凸模様が賦形される。
【0067】
以上説明した実施例1によれば、次の作用効果が得られる。
[ア]裏面からの2回のレーザー加工により、孔形成時の手間と時間を削減し、真空吸引孔5の表面開口の焼けが起きず、真空吸引する樹脂シート40に跡を付けず且つ通気抵抗が低い真空吸引孔5を形成することができる。
[イ]溶射シェル型2の全体を均一な厚さに形成することができる。さらに、レーザー加工で形成する真空吸引孔5のシェル型表面での孔直径のばらつきを低減することができる。
[ウ]溶射シェル型2からバックアップ型10を容易に取り外せるようにして、真空吸引孔5の追加や清掃等のメンテナンスを溶射シェル型2の裏面側から行えるようにし、また、
図17に示すように、溶射シェル型2を別の溶射シェル型2’や電鋳シェル型45に取り替えられるようにすることができる。
[エ]溶射シェル型2のすべての真空吸引孔5をバックアップ型10の通気溝13に連通させて、真空吸引効率を高めることができる。
[オ]溶射シェル型2は溶射時間がさほどかからないため、電鋳シェル型と比べて作製日数が少なくて済み、成形用金型の工期を短縮できる。
【0068】
[実施例2]
次に、
図18に示す実施例2の成形用金型は、バックアップ型10の通気溝13を、筋目6の方向(
図10参照)に対して交差する方向に延びる3本の線状の通気溝13とした点においてのみ実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。各通気溝13は各通気穴15に連通している。この通気溝13も、
図6(c)と同様に、筋目6を介してすべての真空吸引孔5に連通する。よって、実施例2によっても実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0069】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
(1)通気溝13と受け面14はシェル本体部3の裏面に形成してもよい。この場合、バックアップ型10の表面には通気溝と受け面を形成しないことが好ましい。
(2)筋目6と突条7は、バックアップ型10の受け面14に形成してもよい。この場合、シェル本体部3の裏面には筋目と突条を形成しないことが好ましい。