(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086150
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 11/065 20060101AFI20240620BHJP
F16K 51/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
F16K11/065 Z
F16K51/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201130
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
【テーマコード(参考)】
3H066
3H067
【Fターム(参考)】
3H066AA03
3H066BA38
3H067AA15
3H067CC59
3H067DD03
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA02
3H067EA05
3H067ED04
3H067FF11
3H067GG23
3H067GG24
(57)【要約】
【課題】本発明は、弁座シール面と弁体シール部との間における異物の噛み込みを抑制し、弁漏れを防止するスライド式切換弁を得ることを目的とする。
【解決手段】スライド式切換弁1は、内部に弁室10aを有する弁本体10と、弁座部30と、弁室10aにて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体40と、弁体40をスライド駆動する駆動部50と、を備えている。弁本体10には、弁体40を軸線L方向に沿って案内する弁体ガイド部14が設けられ、弁体40は、弁座部30に対向する弁体シール部412と、弁体ガイド部14に摺接して案内される被ガイド部414と、を有している。弁座部30は、少なくとも一つの弁ポート31、32、33と、弁体シール部412が摺接する弁座シール面34と、を有している。弁体ガイド部14と弁座部30との間には、溝状の異物逃がし部Sが設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に弁室を有する弁本体と、前記弁本体に設けられる弁座部と、前記弁室にて軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、
前記弁本体には、前記弁体を前記軸線方向に沿って案内する弁体ガイド部が設けられ、
前記弁体は、前記弁座部に対向する弁体シール部と、前記弁体ガイド部に摺接して案内される被ガイド部と、を有し、
前記弁座部は、少なくとも一つの弁ポートと、前記弁体シール部が摺接する弁座シール面と、を有し、
前記弁体ガイド部と前記弁座部との間には、溝状の異物逃がし部が設けられていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記弁体ガイド部は、前記弁座シール面に直交する直交方向と前記軸線方向とを含む平面に沿った壁状に設けられるとともに、前記弁座シール面よりも高い位置から低い位置まで延びて設けられ、
前記異物逃がし部は、前記弁座シール面よりも低い位置にある前記弁体ガイド部の壁面と、前記弁座部の前記軸線方向に沿った端面と、の間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記弁体ガイド部と前記被ガイド部との隙間であるガイドクリアランスは、前記弁体シール部の前記軸線方向に沿った端面と前記弁座シール面の前記軸線方向に沿った端縁との距離である弁座余長距離よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記弁体は、前記弁体ガイド部に対向する側壁部を備え、
前記被ガイド部は、前記側壁部から突出した突部で構成されるとともに、前記突部の底面が前記弁体シール部よりも高い位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルなどにおいて冷媒の流路を切り換える切換弁として、筒状の弁本体と、弁本体内部にスライド自在に設けられた弁体と、弁本体に設けられる弁座部と、弁体を軸線方向にスライド駆動する駆動部(マグネットロータ及びステータコイル)と、を備えたスライド式切換弁が知られている。弁体は、椀状凹部と、その開口端縁に沿った弁体シール部と、を有し、弁座部は、複数の弁ポートと、弁体シール部が摺接する弁座シール面(弁座面)と、を有して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のスライド式切換弁では、冷凍サイクル内で発生した異物が弁本体内部に侵入した場合、弁座シール面と弁体シール部との間に異物が噛み込むと、弁漏れが発生する可能性がある。
【0005】
本発明は、弁座シール面と弁体シール部との間における異物の噛み込みを抑制し、弁漏れを防止するスライド式切換弁を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のスライド式切換弁は、内部に弁室を有する弁本体と、前記弁本体に設けられる弁座部と、前記弁室にて軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、前記弁本体には、前記弁体を前記軸線方向に沿って案内する弁体ガイド部が設けられ、前記弁体は、前記弁座部に対向する弁体シール部と、前記弁体ガイド部に摺接して案内される被ガイド部と、を有し、前記弁座部は、少なくとも一つの弁ポートと、前記弁体シール部が摺接する弁座シール面と、を有し、前記弁体ガイド部と前記弁座部との間には、溝状の異物逃がし部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、冷凍サイクルシステム内の部品摩耗等で発生した異物が弁本体内部に侵入し、弁体のスライド移動とともに弁座シール面上を移動したとしても、その異物を異物逃がし部に逃がして収容することができる。このため、弁座シール面上で異物の行き場がなくなることが防止され、異物に弁体が乗り上げることがなくなる。したがって、弁座シール面と弁体シール部との間における異物の噛み込みを抑制し、弁漏れを防止するスライド式切換弁を得ることができる。
【0008】
また、この際、前記弁体ガイド部は、前記弁座シール面に直交する直交方向と前記軸線方向とを含む平面に沿った壁状に設けられるとともに、前記弁座シール面よりも高い位置から低い位置まで延びて設けられ、前記異物逃がし部は、前記弁座シール面よりも低い位置にある前記弁体ガイド部の壁面と、前記弁座部の前記軸線方向に沿った端面と、の間に設けられていることが好ましい。このような構成によれば、弁座シール面よりも低い位置にある弁体ガイド部の壁面と、弁座部の軸線方向に沿った端面と、の間に設けられた異物逃がし部に異物を収容することで、弁座シール面と弁体シール部との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【0009】
また、前記弁体ガイド部と前記被ガイド部との隙間であるガイドクリアランスは、前記弁体シール部の前記軸線方向に沿った端面と前記弁座シール面の前記軸線方向に沿った端縁との距離である弁座余長距離よりも小さいことが好ましい。このような構成によれば、例えば弁体がスライド移動する際に、振動等によってガイドクリアランスを埋める方向に変位することがあったとしても、その変位する距離は弁座余長距離を超えることはない。このため、変位した弁体シール部が弁座シール面を超えて異物逃がし部内に位置することがない。したがって、弁体が変位したとしても、弁座シール面に対する弁体シール部の摺接が解除されることがなく、弁体シール部が弁座シール面からはみ出すことが防止される。そして、これにより、例えば弁座部が板状に形成されていた場合などに、弁座シール面からはみ出した弁体シール部が弁座部の角部で削られて損傷すること等が防止される。そして、当該損傷を原因とする弁漏れや当該損傷によって生じた摩耗紛が弁体シール部と弁座シール面との間に噛み込まれること等が防止される。
【0010】
また、前記弁体は、前記弁体ガイド部に対向する側壁部を備え、前記被ガイド部は、前記側壁部から突出した突部で構成されるとともに、前記突部の底面が前記弁体シール部よりも高い位置に設けられていることが好ましい。このような構成によれば、突部の底面が弁体シール部よりも高い位置に設けられていることで、弁体は弁座シール面よりも高い位置で弁体ガイド部によりガイドされることとなる。すなわち、弁体をガイドする位置を、異物逃がし部から離すことができる。このため、異物と弁体との干渉を避けやすくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弁座シール面と弁体シール部との間における異物の噛み込みを抑制し、弁漏れを防止するスライド式切換弁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るスライド式切換弁の軸線方向に沿った断面図。
【
図3】スライド式切換弁の軸線方向に直交する方向に沿った断面図。
【
図4】(A)は、弁座部と変位前の弁体の拡大断面図であり、(B)は、弁座部と変位後の弁体の拡大断面図。
【
図5】スライド式切換弁が用いられる冷凍サイクルシステムの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を
図1~5に基づいて説明する。本実施形態に係るスライド式切換弁1は、冷凍サイクルなどにおいて圧縮機、蒸発器、凝縮器と接続され、これらの機器に流れる冷媒の流路を切り換える切換弁である。
【0014】
なお、本実施形態のスライド式切換弁1は、軸線L方向の一方側に駆動部50を有し、軸線L方向他方側に後述する入口ポートAを有するので、軸線L方向の一方側を駆動部50側と記し、軸線L方向の他方側を入口ポートA側と記す場合がある。そして、軸線L方向に直交する方向のうち、後述する弁体40の幅方向を左右方向Xとする。また、左右方向Xの一方側を左側X1とし、他方側を右側X2とする。そして、左右方向Xに直交する方向のうち、弁体40の深さ方向を高さ方向Zとする。また高さ方向Zの一方側を上側Z1とし、他方側を下側Z2とする。
【0015】
これはあくまでも説明の便宜のためであり、必ずしもスライド式切換弁1の実際の使用状態における方向と一致するとは限らず、スライド式切換弁1の実際の使用状態における各方向を限定するものではない。
【0016】
スライド式切換弁1は、内部に弁室10aを有する弁本体10と、弁本体10を収容するハウジング20と、弁本体10に設けられる弁座部30と、弁室10aにて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体40と、弁体40をスライド駆動する駆動部50と、を備えている。
【0017】
弁本体10は、本実施形態では、先端部が駆動部50側に延びるように、樹脂成形により有底筒状に形成され、その内部が弁室10aを構成している。すなわち、弁本体10は、内部に弁室10aを有して構成されている。弁本体10の底壁10bには、弁室10aの内外に連通する入口ポートAが形成されている。入口ポートAは、軸線L方向に延びる入口接続流路A1を介して不図示の圧縮機の吐出口と連通するポートである。この入口ポートAは、圧縮機から送られる高圧の冷媒が弁室10aに流入する際の入口を構成している。
【0018】
弁本体10の側壁10cには、弁室10aの内外に連通する複数の円筒状の流路として、第1接続流路11、出口接続流路12、第2接続流路13が、駆動部50側からこの順に軸線L方向に沿ってそれぞれ形成されている。第1接続流路11は、後述する第1ポート31と連通する流路である。この第1接続流路11は、凝縮器(または蒸発器)と接続されて凝縮器(または蒸発器)と弁室10aとの間に流れる流体の流路を構成している。
【0019】
出口接続流路12は、後述する出口ポート32と連通する流路である。この出口接続流路12は、圧縮機の吸入口に接続されるようになっており、第1接続流路11(または第2接続流路13)を通って弁室10aに戻ってきた低圧の冷媒が圧縮機に送られる際の流路を構成している。第2接続流路13は、後述する第2ポート33と連通する流路である。この第2接続流路13は、蒸発器(または凝縮器)と接続されて蒸発器(または凝縮器)と弁室10aとの間に流れる流体の流路を構成している。
【0020】
弁本体10の内壁面において、第1接続流路11、出口接続流路12、および第2接続流路13の左右方向X両側には、
図3に示すように、高さ方向Z(後述する弁座シール面34に直交する直交方向)に立ち上がる段状の弁体ガイド部14が形成されている。弁体ガイド部14は、高さ方向Zと軸線L方向とを含む平面に沿った壁状に設けられている。
【0021】
弁体ガイド部14の左右方向X内方を向く壁面14aは、弁座シール面34よりも上側Z1から下側Z2まで(弁座シール面34よりも高い位置から低い位置まで)延びて設けられており、それぞれ軸線L方向に沿って延びている。この壁面14aは、後述する弁体40の被ガイド部414が摺接できるように設けられており、これによって弁体40を軸線L方向に沿って案内する。すなわち、弁本体10には、弁体40を軸線L方向に案内する弁体ガイド部14が設けられている。
【0022】
図1に示すように、弁本体10の駆動部50側の端部には、金属製の筒状のケース15が弁本体10とのインサート成形にて固定され、ケース15の駆動部50側の端部には、後述のガイド部521の外周にインサート成形により固定され、ケース15の開口を閉じる金属製で略円盤状の固定蓋16が溶接等で固定されている。
【0023】
ハウジング20は、軸線Lを中心とする略円筒形状の収容室20aに、弁本体10、ケース15、および固定蓋16を収容する収容部材であり、アルミダイキャストで有底筒状に形成されている。ハウジング20の駆動部50側の端部と固定蓋16との間には、ハウジング20と弁本体10とを抜け止め固定するCリング21が嵌合している。なお、本実施形態で弁本体10は材質をポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂としたが、この他真鍮、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属等、適宜な材質で構成してもよい。
【0024】
ハウジング20の内周壁(もしくは、弁本体10の外周壁)には、所定間隔で軸線L方向の複数の位置に径方向に凹む溝部Gがそれぞれ配置され、当該溝部Gには、Oリング22が嵌め込まれている。このOリング22により、弁本体10とハウジング20との間はシールされる。ハウジング20の底壁20bには、軸線L方向に貫通する入口接続孔23が形成され、入口接続孔23には、入口接続流路A1および入口ポートAを介して弁室10aと圧縮機の吐出口とを連通するD継手管23aが接続されている。
【0025】
ハウジング20の側壁20cには、軸線L方向に直交する方向に貫通する第1接続孔24、出口接続孔25、第2接続孔26が、駆動部50側からこの順に軸線L方向に沿ってそれぞれ形成されている。第1接続孔24には、第1接続流路11および後述する第1ポート31を介して弁室10aと凝縮器(または蒸発器)とを接続するE継手管24aが接続されている。出口接続孔25には、出口接続流路12および後述する出口ポート32を介して弁室10aと圧縮機の吸入口とを連通するS継手管25aが接続されている。第2接続孔26には、第2接続流路13および後述する第2ポート33を介して弁室10aと蒸発器(または凝縮器)とを接続するC継手管26aが接続されている。
【0026】
弁座部30は、弁本体10の側壁10cのうち、第1接続流路11、出口接続流路12、第2接続流路13が形成された側壁10cに設置される部材である。この弁座部30は、薄型金属板で形成され、インサート成形や接着、溶着等により弁本体10の側壁10cに固定されている。弁座部30の板面には、第1接続流路11に連通する第1ポート31、出口接続流路12に連通する出口ポート32、第2接続流路13に連通する第2ポート33がそれぞれ形成されている。各ポート31、32、33は、第1接続流路11、出口接続流路12、第2接続流路13よりも内径の寸法が小さい円筒状に形成され、軸線L方向に所定の間隔を空けながら配置されている。弁座部30における各接続流路11、12、13のある側と反対側の面は、後述する弁体40の弁体シール部412が摺接する弁座シール面34を構成している。
【0027】
なお、本実施形態では、弁座部30には、第1接続流路11、出口接続流路12、および第2接続流路13に対応するように、複数の弁ポート31、32、33が形成されているが弁ポートの数はこれに限られない。例えば、一つの弁ポートを弁体が閉鎖、開放することで流体の流れを制御する場合にも本発明は適用できる。すなわち、弁座部30は、少なくとも一つの弁ポートを有していればよい。
【0028】
弁座部30の左右方向X両側の端面30a(弁座部30の軸線L方向に沿った端面)と、上述した弁本体10の弁体ガイド部14の壁面14aとの間には、
図4(A)に示すように(
図4(A)では、左側X1の端部のみ図示)、上側Z1に向かって開口する溝状の異物逃がし部Sが形成されている。すなわち、弁体ガイド部14と弁座部30との間には、異物逃がし部Sが設けられている。
【0029】
異物逃がし部Sは、具体的には、弁体ガイド部14の壁面14aのうち、弁座シール面34よりも下側Z2(低い位置)にある壁面14aと、弁座部30の左右方向X両側の端面30aと、の間に設けられた空間である。この異物逃がし部Sには、冷凍サイクルシステム内の部品摩耗等で発生し、弁本体10内部に侵入した異物が収容される。
【0030】
すなわち、異物逃がし部Sは、冷凍サイクルシステム内の部品摩耗等で発生した異物が、弁本体10内部に侵入し弁体40のスライド移動とともに弁座シール面34上を移動した場合に、その異物を弁座シール面34上から逃がす逃がし空間として機能している。
【0031】
弁体40は、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂製であり、弁室10aにて軸線L方向にスライド自在に設けられている。この弁体40は、弁座部30に着座して入口ポートA、第1ポート31、出口ポート32、第2ポート33、の各々を連通または遮断する椀状の弁体本体41を備えて構成されている。本実施形態では、弁体本体41は、
図2に示すように、上側Z1(弁座部30と反対側)に凹み、弁座部30の弁座シール面34に向かって開口する椀状凹部411を備えている。すなわち、弁体40は、椀状に凹む椀状凹部411を備えている。
【0032】
椀状凹部411の開口端縁は、軸線L方向に長い長円形状に形成され、その弁座シール面34に対向する面は、当該開口端縁に沿った弁体シール部412を構成している。すなわち、弁体40は、弁座部30に対向する弁体シール部412を備えている。椀状凹部411における開口端縁の軸線L方向の寸法は、第1ポート31、出口ポート32、第2ポート33のうち隣り合う2つ分のポートを覆える長さに設定されている。このため、上述の弁座シール面34に弁体シール部412が摺接する際、
図1に示す位置に弁体40がある場合には、出口ポート32と第2ポート33とが椀状凹部411に囲まれて他のポートA、31と遮断される。この結果、出口ポート32と第2ポート33とが連通されるとともに、入口ポートAと第1ポート31とが連通される。
【0033】
そして、この状態から弁体40が駆動部50側にスライド移動すると、第1ポート31と出口ポート32とが椀状凹部411に囲まれて他のポートA、33と遮断される。この結果、第1ポート31と出口ポート32とが連通されるとともに、入口ポートAと第2ポート33とが連通されることとなる。
【0034】
すなわち、弁体40がスライド移動し、弁体シール部412が弁座シール面34に摺接することで、各ポートA、31、32、33同士の連通および遮断が切り換えられる。
【0035】
弁体本体41の左右方向X両端部に位置する側壁41a(弁体40の側壁部)は、上述した弁本体10の弁体ガイド部14に対向し、
図2に示すように、それぞれ軸線L方向に長く形成されている。側壁41aの各々の内面には、不図示の補強部材を設置するための台座413a、嵌合溝413b、抜け止め突起413cで構成された固定部413が形成されている。
【0036】
側壁41aの各々の外面には、
図2に示すように、上述した弁本体10の壁面14aに摺接して案内される被ガイド部414が形成されている。被ガイド部414は、弁体本体41の側壁41aから左右方向X外方にそれぞれ突出した突部で構成されている。被ガイド部414の底面414a(下側Z2を向く面)は、弁体シール部412よりも上側Z1(高い位置)に位置するように調整されている。すなわち、被ガイド部414は、弁体40の側壁41a(側壁部)から突出した突部で構成されるとともに、突部の底面が弁体シール部412よりも高い位置に設けられている。
【0037】
また、
図4(A)に示すように、弁体ガイド部14と被ガイド部414との左右方向Xの隙間をガイドクリアランスS1とし、弁体本体41の側壁41a(弁体シール部412の軸線L方向に沿った端面)と上述した弁座部30の端面30a(弁座シール面34の軸線L方向に沿った端面)との距離を弁座余長距離S2とすると、ガイドクリアランスS1の左右方向Xの幅は、弁座余長距離S2よりも小さくなっている。
【0038】
ここで、弁体40は、後述する爪部417bを後述する雌ねじ軸523に引っ掛けるようにして駆動部50に固定される。このような固定構造を有することから、弁体40は、スライド移動する際に振動等によって左右方向X(ガイドクリアランスS1を埋める方向)に変位する場合がある。しかしながら、上述のようにガイドクリアランスS1および弁座余長距離S2を設定したことで、
図4(B)に示すように、弁体40がガイドクリアランスS1を埋める方向に変位したとしても、その変位する距離は弁座余長距離S2を超えることはない。
【0039】
このため、変位した弁体シール部412が弁座シール面34を超えて異物逃がし部S内に位置することがない。したがって、弁体40が変位したとしても、弁座シール面34に対する弁体シール部412の摺接が解除されることがなく、弁体シール部412が弁座シール面34から左右方向Xにはみ出すことが防止されている。そして、これにより、本実施形態のように弁座部30が板状に形成されていた場合などに、弁座シール面34からはみ出した弁体シール部412が弁座部30の角部で削られて損傷すること等が防止される。そして、当該損傷を原因とする弁漏れや当該損傷によって生じた摩耗紛が弁体シール部412と弁座シール面34との間に噛み込まれること等が防止される。
【0040】
図3に示すように、弁体本体41の上側Z1の端部(頂部)には、弁体本体41を弁座部30側に付勢するばね部材415が設置されている。ばね部材415は、弁体40を弁座部30に向かって押し付けている。
図1に示すように、弁体本体41の入口ポートA側の端部には、入口ポートA側に向けて軸線L方向に突出するストッパ416が形成されている。このストッパ416は、その突出端部が弁本体10の底壁10bにおける弁室10a側の面と当接することで弁体40の入口ポートA側への移動を規制する。
【0041】
図1に示すように、弁体本体41の駆動部50側の端部には、駆動部50側に突出する接続爪部417が設けられている。接続爪部417は、弁体40と駆動部50とを接続させるための部分であり、
図2に示すように、軸線L方向に突出する突出部417aと、突出部417aの突出端部から弁座部30のある側と反対側に向けて突出する爪部417bと、を備えて構成されている。爪部417bは、突出部417aの左右方向X両端部からそれぞれ突出し、略水平方向に向けて2叉に分かれるような形状で構成されている。この爪部417bは、軸線L方向に厚みを持ち、後述する雌ねじ軸523に引っ掛けられた状態で、雌ねじ軸523に形成された不図示の接続溝に嵌っている。
【0042】
駆動部50は、弁体40をスライド駆動する部分であり、電動モータとしてのステッピングモータ51と、ステッピングモータ51の回転を直線運動に変換して弁体40に伝達する直動機構52と、を備えている。
【0043】
ステッピングモータ51は、
図1に示すように、固定蓋16の駆動部50側に固定され、弁本体10の弁室10aおよびケース15の内部を密閉する金属製のキャップ511と、このキャップ511内に収容されたマグネットロータ512と、キャップ511を挟んでマグネットロータ512の外周を軸線L方向の周方向に囲むように配置されるステータコイル513と、を備えている。
【0044】
直動機構52は、固定蓋16にインサート成形により固定された上述の有底筒状のガイド部521と、ガイド部521に沿って軸線L方向に進退案内されるロータ軸としての雄ねじ軸522と、雄ねじ軸522の外周面に形成された雄ねじ部522aに螺合する雌ねじ部523aを有する雌ねじ軸523と、を備えている。すなわち、直動機構52は、互いに螺合する雄ねじ部522aおよび雌ねじ部523aを有したねじ送り機構として構成されている。ガイド部521は、先端側(入口ポートA側)が弁室10a内に位置し、底壁側(駆動部50側)が弁室10aの外方に位置する状態で固定蓋16に固定されている。ガイド部521は、内部に雄ねじ軸522および雌ねじ軸523を収容するように設けられており、雌ねじ軸523の外周壁の壁面が摺動する内周壁が断面角筒状に形成されている。
【0045】
雄ねじ軸522は、駆動部50側の端部が固定部材を介してマグネットロータ512の中心部に固定され、入口ポートA側の端部がガイド部521の底壁を貫通して入口ポートA側に向けて軸線Lに沿って延びている。この雄ねじ軸522は、マグネットロータ512と一体となって軸線Lの周方向に回転する。
【0046】
雌ねじ軸523は、断面隅丸角筒状に形成されている。雌ねじ軸523の駆動部50側の端部は、軸線L方向に摺動可能にガイド部521内に収容されている。雌ねじ軸523の中央部には、中心軸が軸線Lと同軸の雌ねじ部523aが形成されている。雌ねじ部523aは、雄ねじ軸522の雄ねじ部522aと螺合し、雄ねじ部522aが回転することにより、ねじ送りされて軸線L方向にスライド移動する。なお、雄ねじ部522aおよび雌ねじ部523aを構成するねじとしては、多条ねじを用いることが望ましい。
【0047】
雌ねじ軸523の入口ポートA側の端部における左右方向X両側の外周面には、上述の爪部417bを嵌め込むための不図示の接続溝がそれぞれ形成されている。接続溝は、爪部417bを嵌め込めるように爪部417bの軸線L方向の寸法と略同じか若干大きな溝幅を備えて、軸線Lと交差する方向に延びている。この接続溝に爪部417bが嵌め込まれると、駆動部50と弁体40とが接続爪部417を介して接続される。この状態では、ステッピングモータ51が雄ねじ軸522を回転させて直動機構52が作動すると、ねじ送りによりスライド移動する雌ねじ軸523とともに弁体40が軸線L方向にスライド移動する。
【0048】
次に、スライド式切換弁1を流路切換弁に用いた冷凍サイクルシステム100について説明する。
図5は実施形態の冷凍サイクルシステム100を示す図であり、空気調和機の冷凍サイクルシステムの例である。空気調和機は、圧縮機200、室外熱交換器300(凝縮器または蒸発器)、膨張弁400、室内熱交換器500(蒸発器または凝縮器)、流路切換弁としてのスライド式切換弁1を有しており、これらの各要素は、それぞれ導管によって図示のように接続され、ヒートポンプ式の冷凍サイクルシステムを構成している。
【0049】
冷凍サイクルシステムの流路は、スライド式切換弁1の弁体40を上記説明のように駆動させることで、暖房運転および冷房運転の2通りの流路に切換えられるようになっている。
【0050】
図5に示す暖房運転時には、スライド式切換弁1において弁体40が入口ポートA側に移動し、弁体本体41により出口ポート32と第2ポート33とが連通するとともに、入口ポートAと第1ポート31とが連通する。そして、図に点線の矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された冷媒がスライド式切換弁1の入口ポートAに流入して第1ポート31から室内熱交換器500に流入し、室内熱交換器500から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室外熱交換器300に供給される。室外熱交換器300から流出する冷媒は、スライド式切換弁1で第2ポート33から出口ポート32に流れ、出口ポート32から圧縮機200へ循環される。
【0051】
冷房運転時には、スライド式切換弁1において弁体40が駆動部50側に移動し、弁体本体41により出口ポート32と第1ポート31とが連通するとともに、入口ポートAと第2ポート33とが連通する。そして、図に実線の矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された流体としての冷媒がスライド式切換弁1の入口ポートAに流入して第2ポート33から室外熱交換器300に流入し、室外熱交換器300から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室内熱交換器500に供給される。室内熱交換器500から流出する冷媒は、スライド式切換弁1で第1ポート31から出口ポート32に流れ、出口ポート32から圧縮機200へ循環される。
【0052】
なお、この冷凍サイクルシステム100はあくまでも一例であり、例えば、第1ポート31に連通するE継手管24aと室外熱交換器300とを接続させ、C継手管26aと室内熱交換器500とを接続させてもよい。この場合、弁体40の位置と、暖房運転および冷房運転の関係が本実施形態とは逆になる。
【0053】
すなわち、スライド式切換弁1において弁体40が入口ポートA側に移動し、弁体本体41により出口ポート32と第2ポート33とが連通し、入口ポートAと第1ポート31とが連通した状態では、冷媒が、圧縮機200、第1ポート31、室外熱交換器300、膨張弁400、室内熱交換器500、第2ポート33、出口ポート32、圧縮機200の順に流れ、冷房運転となる。反対に、スライド式切換弁1において弁体40が駆動部50側に移動し、弁体本体41により出口ポート32と第1ポート31とが連通し、入口ポートAと第2ポート33とが連通した状態では、冷媒が、圧縮機200、第2ポート33、室内熱交換器500、膨張弁400、室外熱交換器300、第1ポート31、出口ポート32、圧縮機200の順に流れ、暖房運転となる。
【0054】
以上、本実施形態によれば、スライド式切換弁1は、内部に弁室10aを有する弁本体10と、弁本体10に設けられる弁座部30と、弁室10aにて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体40と、弁体40をスライド駆動する駆動部50と、を備えている。弁本体10には、弁体40を軸線L方向に沿って案内する弁体ガイド部14が設けられている。弁体40は、弁座部30に対向する弁体シール部412と、弁体ガイド部14に摺接して案内される被ガイド部414と、を有している。弁座部30は、少なくとも一つの弁ポート31、32、33と、弁体シール部412が摺接する弁座シール面34と、を有している。弁体ガイド部14と弁座部30との間には、溝状の異物逃がし部Sが設けられている。
【0055】
このような構成によれば、冷凍サイクルシステム100内の部品摩耗等で発生した異物が弁本体10内部に侵入し、弁体40のスライド移動とともに弁座シール面34上を移動したとしても、その異物を異物逃がし部Sに逃がして収容することができる。このため、弁座シール面34上で異物の行き場がなくなることが防止され、異物に弁体40が乗り上げることがなくなる。したがって、弁座シール面34と弁体シール部412との間における異物の噛み込みを抑制し、弁漏れを防止するスライド式切換弁1を得ることができる。
【0056】
また、弁体ガイド部14は、弁座シール面34よりも高い位置から低い位置まで延びて設けられ、異物逃がし部Sは、弁座シール面34よりも低い位置にある弁体ガイド部14の壁面14aと、弁座部30の軸線L方向に沿った端面30aと、の間に設けられている。このため、弁座シール面34よりも低い位置にある弁体ガイド部14の壁面14aと、弁座部30の軸線L方向に沿った端面30aと、の間に設けられた異物逃がし部Sに異物を収容することで、弁座シール面34と弁体シール部412との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【0057】
また、上述したガイドクリアランスS1は、上述した弁座余長距離S2よりも小さいため、例えば弁体40がスライド移動する際に、振動等によってガイドクリアランスS1を埋める方向に変位することがあったとしても、その変位する距離は弁座余長距離S2を超えることはない。このため、変位した弁体シール部412が弁座シール面34を超えて異物逃がし部S内に位置することがない。したがって、弁体40が変位したとしても、弁座シール面34に対する弁体シール部412の摺接が解除されることがなく、弁体シール部412が弁座シール面34から左右方向Xにはみ出すことが防止される。そして、これにより、本実施形態のように弁座部30が板状に形成されていた場合などに、弁座シール面34からはみ出した弁体シール部412が弁座部30の角部で削られて損傷すること等が防止される。そして、当該損傷を原因とする弁漏れや当該損傷によって生じた摩耗紛が弁体シール部412と弁座シール面34との間に噛み込まれること等が防止される。
【0058】
また、弁体40の被ガイド部414は、弁体40の側壁41a(側壁部)から突出した突部で構成されるとともに、突部の底面414aが弁体シール部412よりも高い位置に設けることができる。このような構成によれば、突部の底面414aが弁体シール部412よりも高い位置に設けられていることで、弁体40は弁座シール面34よりも高い位置で弁体ガイド部14によりガイドされることとなる。すなわち、弁体40をガイドする位置を、異物逃がし部S空間から離すことができる。このため、異物と弁体40との干渉を避けやすくすることができる。
【0059】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成を含み、以下に示すような変形例も本発明に含まれる。
図6は、変形例における弁座部30と弁体40の拡大断面図である。変形例では、弁座部30の左右方向X両側の端面30aのうち、下側Z2の部分がそれぞれ左右方向X外方に突出し、突出部30a1
を構成している。この突出部30a1の突出端部は、弁本体10の弁体ガイド部14の壁面14aに当接している。そして、壁面14a、端面30a、および突出部30a1によって囲まれた部分に、異物逃がし部Sが形成されている。
【0060】
このような構成によれば、上述の実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。また、このような構成によれば、突出部30a1を壁面14aに当接させることで弁座部30を弁本体10に固定することもできるので、弁本体10側に弁座部30を固定するための溝等を形成する必要がなくなる。したがって、弁本体10の加工コストを低減し、ひいてはスライド式切換弁の製造コストを低減することができる。
【0061】
また、本実施形態における流路切換弁としてのスライド式切換弁1は、説明のために四方切換弁としたが、これに限らず、二方弁や三方切換弁であっても、本発明を適用することができる。また、本実施形態では、直動機構52は、ねじ送りにより雌ねじ軸523が弁体40とともに軸線L方向にスライド移動する構成としたが、これとは逆に、雄ねじ軸522が弁体40とともに軸線L方向にスライド移動する構成としてもよい。また、そもそも、駆動部50は、弁体40を軸線L方向にスライド駆動させることができればどのような構成でもよく、例えば、本発明のようにステッピングモータ51を用いた電動弁以外に、パイロット電磁弁等を用いて弁体をスライド駆動する構成としてもよい。
【0062】
また、スライド式切換弁1は、例示する冷凍サイクルシステムだけでなく、あらゆる流体装置および流体回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
L 軸線
S 異物逃がし部
1 スライド式切換弁
10 弁本体
14 弁体ガイド部
30 弁座部
31 第1ポート(複数の弁ポート)
32 出口ポート(複数の弁ポート)
33 第2ポート(複数の弁ポート)
34 弁座シール面
40 弁体
412 弁体シール部
414 被ガイド部
50 駆動部