(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086151
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
G02B6/44 366
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201131
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】梁 國雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX13
2H201AX22
2H201AX24
2H201BB06
2H201BB08
2H201BB22
2H201BB25
2H201BB60
2H201BB67
2H201BB75
2H201BB76
2H201BB98
2H201DD12
2H201DD14
2H201KK17
2H201KK22C
2H201KK28C
2H201KK34C
2H201KK36C
2H201KK71
2H201MM14
2H201MM15
(57)【要約】
【課題】光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性をより適切に両立させることができる光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】複数の光ファイバをまとめた集合コアと、前記集合コアの周囲に設けられたケーブル外被と、を備え、前記集合コアの断面積に対する前記複数の光ファイバの断面積の割合である前記光ファイバの実装密度は53%以下であり、前記ケーブル外被に対する前記集合コアの引き抜き力は3N/40cm以上15N/40cm以下である、スロットレス型の光ファイバケーブル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバをまとめた集合コアと、
前記集合コアの周囲に設けられたケーブル外被と、を備え、
前記集合コアの断面積に対する前記複数の光ファイバの断面積の割合である前記光ファイバの実装密度は53%以下であり、
前記ケーブル外被に対する前記集合コアの引き抜き力は3N/40cm以上15N/40cm以下である、スロットレス型の光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記引き抜き力は5N/40cm以上10N/40cm以下である、請求項1に記載のスロットレス型の光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、光ファイバ心線と、光ファイバ心線の周囲にヤーンを集合して形成された緩衝層と、緩衝層の外側に設けられた外被と、を備えた光ファイバケーブルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性は、トレードオフの関係にあり、両者を両立させる必要がある。光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性は、光ファイバケーブルに備わる集合コアの断面積に対する集合コア内に実装される光ファイバの断面積の割合である実装密度を調整することで、両立を図ることが多い。しかし、当該実装密度の調整では、光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性を適切に両立させることができないことがありうる。
【0005】
本開示は、光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性をより適切に両立させることができる光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るスロットレス型の光ファイバケーブルは、
複数の光ファイバをまとめた集合コアと、
前記集合コアの周囲に設けられたケーブル外被と、を備え、
前記集合コアの断面積に対する前記複数の光ファイバの断面積の割合である前記光ファイバの実装密度は53%以下であり、
前記ケーブル外被に対する前記集合コアの引き抜き力は3N/40cm以上15N/40cm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性をより適切に両立させることができる光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る光ファイバケーブルの断面図である。
【
図2】
図2は、実装密度と伝送ロス値の関係を例示する図である。
【
図3】
図3は、引き抜き力と防水性の関係を例示する図である。
【
図4】
図4は、実装密度と引き抜き力の関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係るスロットレス型の光ファイバケーブルは、
(1)複数の光ファイバをまとめた集合コアと、
前記集合コアの周囲に設けられたケーブル外被と、を備え、
前記集合コアの断面積に対する前記複数の光ファイバの断面積の割合である前記光ファイバの実装密度は53%以下であり、
前記ケーブル外被に対する前記集合コアの引き抜き力は3N/40cm以上15N/40cm以下である。
この構成によれば、光ファイバの実装密度を53%以下とすることで、伝送ロスを適切な範囲で抑制しつつ、ケーブル外被に対する集合コアの引き抜き力を3N/40cm以上15N/40cm以下とすることで走水速度を適切な範囲で抑制することができる。したがって、上記構成に係る光ファイバケーブルにおける光学特性と防水性をより適切に両立させることができる。
【0010】
(2)上記(1)に記載のスロットレス型の光ファイバケーブルにおいて、前記引き抜き力は5N/40cm以上10N/40cm以下であってもよい。
この構成によれば、走水速度に関係するパラメータであるケーブル外被に対する集合コアの引き抜き力を5N/40cm以上10N/40cm以下とすることで、良好な光学特性を維持しつつも、より防水性を高めることができる。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバケーブルの具体例を、以下に図面を参照して説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
図1に例示するように、光ファイバケーブル1はスロットレス型ケーブルである。ただし、本開示は、光ファイバ心線を収納可能なスロットロッド(スペーサともいう)を有したスロット型にも適用可能である。光ファイバケーブル1は、集合コア11と、集合コアの周囲に設けられたケーブル外被13と、を備える。
【0013】
集合コア11は、例えば、丸型である。集合コア11には、複数の光ファイバリボン10が収容されている。光ファイバリボン10は、12心の光ファイバ心線が並列状態から丸められて密集状態にされている。光ファイバリボン10は、並列された全ての光ファイバ心線間が連結されている非間欠型の光ファイバリボンであってもよく、光ファイバ心線の隣接する相互間を連結させた連結領域と光ファイバ心線の隣接する相互間を離隔させた非連結領域とで構成される間欠型の光ファイバリボンであってもよい。集合コア11には、例えば、40心以上1000心以下の光ファイバ心線が収容されている。つまり、40心以上1000心以下の光ファイバ心線が、集合コア11内でまとめられている。なお、本実施形態では、1000心の光ファイバ心線が集合コア11に収容されている。また、本実施形態では、12心の間欠型の光ファイバリボンを使用し、2心毎に連結部と非連結部とが光ファイバ心線の長手方向に間欠的に設けられた、2心間欠型の光ファイバリボンを使用している。非連結部は、例えば、連結部を形成するための連結樹脂の一部を回転刃等で切断することにより形成される。
【0014】
集合コア11は、
図1に例示するように、例えば、複数の光ファイバリボン10の束を、押さえ巻きテープ12で縦添えまたは横巻きして丸型にまとめられている。間欠型の光ファイバリボン10を用いれば、集合コア11内で変形させても伝送ロスが増加しにくいため、細いケーブル外径を維持したまま、光ファイバ心線を高密度に集合させることができる。
【0015】
本実施形態において、集合コア11の断面積に対する複数の光ファイバの断面積の割合である光ファイバの実装密度は47%以上53%以下である。なお、当該実装密度は、集合コア11内に実装される光ファイバの断面積を、押さえ巻きテープ12までの集合コア11の断面積で除すことで求められる。
【0016】
押さえ巻きテープ12の外側は、ケーブル外被13で覆われている。ケーブル外被13は、例えば、ポリエチレン樹脂、難燃性ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等から形成されうる。ケーブル外被13には、長手方向の強度を保持するための2本の抗張力体14と、ケーブル外被13をケーブル長手方向に引き裂くための2本の引き裂き紐15とが、ケーブル外被13の押出成形時に縦添えされて埋設されうる。
【0017】
本実施形態において、ケーブル外被13に対する集合コア11の引き抜き力、すなわち集合コア11をケーブル外被13から引き抜く際に必要な力は、3N/40cm以上15N/40cm以下、好ましくは5N/40cm以上10N/40cm以下である。引き抜き力が高いほど、ケーブル外被13と集合コア11との密着力が高いと言える。
なお、「引き抜き力3N/40cm」とは、40cmの長さの光ファイバケーブル1において、集合コア11をケーブル外被13から引き抜く際の力の最大値が3Nであることを示す。
【0018】
抗張力体14は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)から形成されている。繊維強化プラスチックとしては、例えば、アラミドFRP、ガラスFRP、カーボンFRP等である。なお、抗張力体14は、液晶ポリマーで形成されていてもよい。抗張力体14は、無誘導性であると好ましい。抗張力体14は、例えば、断面視で円形状である。
【0019】
引き裂き紐15は、例えば、2本の抗張力体14の中心を結ぶ線に対して直交する線上の位置に、集合コア11を挟んで両側に1本ずつ設けられている。引き裂き紐15は、例えば、ナイロンやポリエステル等の樹脂材が用いられた断面円形状の紐状部材である。なお、本実施形態では、引き裂き紐15の埋設位置が外部から視認できるように、ケーブル外被13には、2条の突起部16が押出成形時に形成されている。ただし、ケーブル外被13には、1条または3条以上の突起部16が形成されていてもよいし、突起部16が形成されていなくてもよい。
【0020】
突起部16は、光ファイバケーブル1の長手方向に沿って設けられている。各突起部16は、長手方向に沿って連続して設けられていてもよいし、断続的に設けられていてもよい。突起部16の突出方向における表面16aは曲面である。
【0021】
[実装密度と伝送ロス値の関係]
集合コア11の断面積に対する複数の光ファイバの断面積の割合である光ファイバの実装密度が高いほど、集合コア11内に水が通りにくくなるため、防水性は良くなるが、側圧が高くなるため、伝送ロス値(光学特性を示す値の一例)が上昇してしまう。そこで発明者らは、当該実装密度を変化させつつ、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)で伝送ロス値を測定することで、当該実装密度をできるだけ高めつつも良好な光学特性を維持することができる範囲を測定した。なお、本実施形態においては、波長1.55μmにおける各心全長の最大の伝送ロスが0.30dB/km未満のとき、光学特性は良好であるとした。
【0022】
図2は、実装密度と伝送ロス値の関係を例示する図である。
図2に例1から例4として例示するように、光ファイバの実装密度を変化させた複数の光ファイバケーブル1について、伝送ロス値を測定した。なお、
図2の縦軸の伝送ロスの値は、各ケーブルにおける伝送ロスの最大値であり、上記したように、0.30dB/km未満であれば良好である。例1から例4の光ファイバケーブル1のそれぞれにおいて、1000心の光ファイバ心線が集合コア11に収容されており、集合コア11の断面積を変化させることで実装密度を変化させた。例1から例4のうち、
図2のグラフにおいて丸で示した例1から例3は、ケーブル外被13が難燃性ポリエチレン(FR)から構成された光ファイバケーブルであり、四角で示した例4は、ケーブル外被13がポリエチレン(PE)から構成された光ファイバケーブルである。
【0023】
実装密度が51%である例1の光ファイバケーブルにおいては、伝送ロスの最大値は良好値である0.30dB/km未満であり、集合コア11に収容された1000心の光ファイバ心線のうち異常心は0心であった。なお、異常心とは、当該ケーブル中で、部分的に伝送ロスが大きい部分(段差)がある、または伝送ロスが、全長、または部分的に0.30dB/km以上である光ファイバ心線を言い、異常心数の数は、異常心となった光ファイバ心線の数を示す。「異常心が0心であった」、ということは、異常心がなかった、という意味である。実装密度が53.5%である例2の光ファイバケーブルにおいては、伝送ロスの最大値は良好値である0.30dB/km未満であったものの、1000心の光ファイバ心線のうち2心の異常心が発生した。また、実装密度が58%である例3の光ファイバケーブルにおいては、伝送ロスの最大値は不良値である0.30dB/km以上であり、また1000心の光ファイバ心線のうち2心の異常心が発生した。実装密度が55%である例4の光ファイバケーブルにおいては、伝送ロスの最大値は良好値である0.30dB/km未満であったものの、1000心の光ファイバ心線のうち24心の異常心が発生した。
以上より、集合コア11の断面積に対する複数の光ファイバの断面積の割合である光ファイバの実装密度は53%以下であれば、異常心は生じることが無く、好ましいことが確認できた。なお、実装密度が40%よりも小さいと高密度化が図れないため、実装密度は40%以上であることが好ましい。
【0024】
[引き抜き力と防水性の関係]
次に、発明者らは、引き抜き力が低いほど、集合コア11内に水は通りやすくなり、走水速度が上がる点に着目し、走水速度を測定することで、光ファイバケーブル1の防水性を評価した。なお、本実施形態では、走水速度が0.17m/h未満のときに、防水性は良好であるとした。
なお、走水速度とは、1mの高さから光ケーブル内に水を注入した際、光ケーブル内に浸透する水の走行速度を示す。
【0025】
図3は、引き抜き力と防水性の関係を例示する図である。
図3では、
図2に示す光ファイバの実装密度を変化させた例1から例4の光ファイバケーブル1について、引き抜き力と走水速度とを測定した結果をプロットしている。本例において、引き抜き力は、40cmの長さにわたりケーブル外被13から集合コア11を引き抜くときの力の最大値を測定した。
その結果、
図3に示すように、ケーブル外被13に対する集合コア11の引き抜き力が7.7N/40cmである例1の光ファイバケーブルにおいては、走水速度が0.065m/hであり防水性が良好であった。一方で、引き抜き力が2.8N/40cmである例2の光ファイバケーブルにおいては、走水速度が0.17m/hであり防水性が不良であった。また、引き抜き力が15.2N/40cmである例3の光ファイバケーブルにおいては、走水速度が0.125m/hであり、防水性が良好であった。引き抜き力が例3とほぼ同等の14.8N/40cmである例4の光ファイバケーブルにおいては、走水速度が0.092m/hであり、防水性が良好であった。このように、例1から例4の光ファイバケーブルのうち、引き抜き力が3N/40cm未満である例2の光ファイバケーブルは、防水特性が不良であったが、引き抜き力が3N/40cm以上である例1、例3、例4の光ファイバケーブルは、防水性が良好であることが確認できた。以上より、ケーブル外被13に対する集合コア11の引き抜き力は、3N/40cm以上15N/40cm以下であることが好ましいことが確認できた。なお、引き抜き力は、より防水特性の良好性を確保するためには、5N/40cm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
図4は、実装密度と引き抜き力との関係を例示する図である。
図4では、光ファイバの実装密度を変化させた複数の光ファイバケーブル1について、引き抜き力を測定した。
図4に示すように、実装密度と引き抜き力には相関関係があり、
図3に示したように、引き抜き力が所定の好ましい範囲(3N/40cm以上15N/40cm以下、より好ましくは5N/40cm以上10N/40cm以下)となるように光ファイバの実装密度を調整することで、防水性を満たすことができる。一方で、
図2に示したように、実装密度が53%以下であれば、異常心は生じることが無い。したがって、実装密度と引抜力を、
図4の斜線部の範囲とすることで、光学特性と防水性との両立を満たす光ファイバケーブルを作製できることが確認できた。
なお、
図4より、引き抜き力が3N/40cmのとき、実装密度は47%となる。また、引き抜き力が5N/40cmのとき、実装密度は50%となる。また、引き抜き力が10N/40cmのとき、実装密度は53%となる。したがって、実装密度は、47%以上、より好ましくは50%以上であることが好ましく、上記した伝送ロスの観点から、引き抜き力が10N/40cm(実装密度53%)であることが好ましい。
【0027】
以上のような光ファイバケーブル1によれば、光ファイバの実装密度を53%以下とすることで、伝送ロスを適切な範囲で抑制しつつ、ケーブル外被13に対する集合コア11の引き抜き力を3N/40cm以上15N/40cm以下とすることで走水速度を適切な範囲で抑制することができる。したがって、光ファイバケーブル1によれば、光学特性と防水性をより適切に両立させることができる。
【0028】
また、光ファイバケーブル1によれば、走水速度に関係するパラメータであるケーブル外被13に対する集合コア11の引き抜き力が5N/40cm以上10N/40cm以下であるとき、良好な光学特性を維持しつつも、より防水性を高めることができる。
【0029】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 光ファイバケーブル
10 光ファイバリボン
11 集合コア
12 テープ
13 ケーブル外被
14 抗張力体
15 紐
16 突起部
16a 表面