(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086164
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60B 21/02 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B60B21/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201154
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】503318150
【氏名又は名称】スバルテクニカインターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰己 英治
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 眞史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿
(57)【要約】
【課題】転舵開始時に車輪が傾斜したキングピン軸周りに回動することに起因したタイヤの接地面積の増加を促進することにより、操舵の応答性を向上する。
【解決手段】ホイールを有する複数の車輪と、車輪のうち前輪を、鉛直方向に対して車両内側に傾斜したキングピン軸又は仮想キングピン軸周りに転舵させる操舵機構と、を備え、ホイールのリムフランジの形を表すフランジ記号がJであり、ホイールのリムフランジの高さの規格値Gが17.5mmであり、車輪のうち少なくとも前輪のホイールは、外側リムフランジ432aの高さGoutが規格値Gに対して調整された特殊仕様のホイールであり、特殊仕様のホイールの外側リムフランジ432aの高さGoutが、規格値G未満であり、かつ、16.5mm以上、17.25mm以下であり、かつ、内側リムフランジ432bの高さGinよりも低い。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールを有する複数の車輪と、
前記車輪のうち前輪を、鉛直方向に対して車両内側に傾斜したキングピン軸又は仮想キングピン軸周りに転舵させる操舵機構と、
を備え、
前記ホイールのリムフランジの形を表すフランジ記号がJであり、
前記ホイールのリムフランジの高さの規格値Gが17.5mmであり、
前記車輪のうち少なくとも前記前輪の前記ホイールは、2つのリムフランジのうち車両外側のリムフランジである外側リムフランジの高さGoutが前記規格値Gに対して調整された特殊仕様のホイールであり、
前記特殊仕様のホイールの前記外側リムフランジの高さGoutが、前記規格値G未満であり、かつ、16.5mm以上、17.25mm以下であり、かつ、前記2つのリムフランジのうち車両内側のリムフランジである内側リムフランジの高さGinよりも低い、
車両。
【請求項2】
前記特殊仕様のホイールの前記外側リムフランジの高さGoutが、17.0mmである、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記特殊仕様のホイールの前記内側リムフランジの高さGinが、前記規格値Gに対して調整されておらず、17.25mm超、18.0mm以下である、
請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記特殊仕様のホイールの前記内側リムフランジの高さGinが、17.5mmである、
請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記特殊仕様のホイールは、前記車輪のうち前記前輪のみに設けられる、
請求項1に記載の車両。
【請求項6】
前記特殊仕様のホイールは、前記車輪のうち前記前輪および後輪に設けられる、
請求項1に記載の車両。
【請求項7】
前記特殊仕様のホイールには、当該特殊仕様のホイールを他の形状のホイールと識別するための識別マークが設けられる、
請求項1に記載の車両。
【請求項8】
前記識別マークは、前記特殊仕様のホイールの前記外側リムフランジの全周に亘って環状に形成された切削輪である、
請求項7に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両でドライバが操舵を行い、車両が旋回する場合、操舵の開始に伴いタイヤが変形し、タイヤの接地面積が変動する。詳しくは後ほど
図4~
図7を用いて詳述するが、車両が旋回する場合、操舵の開始に伴いタイヤの接地面積が増大するようにタイヤが変形する。
【0003】
図16は、タイヤの荷重と摩擦係数との関係を示すグラフである。
図16に示すように、タイヤの荷重が増大するほど、タイヤの摩擦係数が減少する。反対に、タイヤの荷重が減少するほど、タイヤの摩擦係数が増大する。つまり、同じ荷重が付与される場合、接地面積は大きい方が、タイヤはより大きな摩擦力を発生する。したがって操舵開始時のタイヤの接地面積の変化は、操舵に伴ってタイヤが発生する摩擦力、すなわち車両の応答性に大きな影響を及ぼす。そのため、操舵の応答性の向上を目的とした、タイヤの変形を制御するホイールのリムフランジ形状が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車輪のうち転舵される前輪は、キングピンの中心軸であるキングピン軸または仮想キングピン軸(以下合わせてキングピン軸と称す。)を中心として回動可能に構成されている(
図4、
図5参照)。キングピン軸は、一般に前輪中心よりも車両内側に位置し、キングピン軸は、鉛直方向に対し車両内側に傾斜している(
図5参照)。車両を運転するドライバが、ハンドルを切って前輪を転舵させると、前輪は、傾斜したキングピン軸周りに回動する。このため、転舵した前輪のホイールは車両内側に向けて移動し(
図4、
図5参照)、前輪のタイヤはホイールの外側リムフランジからの荷重を受け、タイヤの側部が全体的に変形する(
図6参照)。このとき、タイヤの側部の変形は当該前輪ホイールの外側リムフランジの形状に従う。そのため、ホイールの外側リムフランジの形状は、転舵開始時のタイヤの接地面積変化と車両の応答性に大きな影響を及ぼす。
【0006】
ここで、ホイールリムフランジの形状でタイヤの変形を制御する例として、特許文献1を挙げる。特許文献1には、車輪のホイールにおいて、車両内側のリムフランジの高さを車両外側のリムフランジの高さよりも高くすることについて開示がある。特許文献1に記載の発明によれば、車両が旋回し、車両の旋回方向における外輪側の車輪に遠心力がかかるような場合においても、タイヤにおける車両内側のビード部が車両外側のビード部に比して大きく変形することを抑制することが可能となる。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、車両が旋回する際の遠心力によるタイヤの変形に起因して、操縦安定性が低下することを防止するために、ホイールのリムフランジの高さを変更している。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上記のような転舵開始時に前輪が傾斜したキングピン軸周りに回動する際のタイヤの接地面積の変化が操舵の応答性に及ぼす影響については、何ら考慮していない。
【0008】
そこで、本発明は、転舵開始時に車輪が傾斜したキングピン軸周りに回動することに起因したタイヤの接地面積の増加を促進することにより、操舵の応答性を向上することが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る車両は、ホイールを有する複数の車輪と、車輪のうち前輪を、鉛直方向に対して車両内側に傾斜したキングピン軸又は仮想キングピン軸周りに転舵させる操舵機構と、を備え、ホイールのリムフランジの形を表すフランジ記号がJであり、ホイールのリムフランジの高さの規格値Gが17.5mmであり、車輪のうち少なくとも前輪のホイールは、2つのリムフランジのうち車両外側のリムフランジである外側リムフランジの高さGoutが規格値Gに対して調整された特殊仕様のホイールであり、特殊仕様のホイールの外側リムフランジの高さGoutが、規格値G未満であり、かつ、16.5mm以上、17.25mm以下であり、かつ、2つのリムフランジのうち車両内側のリムフランジである内側リムフランジの高さGinよりも低い。
【0010】
特殊仕様のホイールの外側リムフランジの高さGoutが、17.0mmであってもよい。
【0011】
特殊仕様のホイールの内側リムフランジの高さGinが、規格値Gに対して調整されておらず、17.25mm超、18.0mm以下であってもよい。
【0012】
特殊仕様のホイールの内側リムフランジの高さGinが、17.5mmであってもよい。
【0013】
特殊仕様のホイールは、車輪のうち前輪のみに設けられてもよい。
【0014】
特殊仕様のホイールは、車輪のうち前輪および後輪に設けられてもよい。
【0015】
特殊仕様のホイールには、当該特殊仕様のホイールを他の形状のホイールと識別するための識別マークが設けられてもよい。
【0016】
識別マークは、特殊仕様のホイールの外側リムフランジの全周に亘って環状に形成された切削輪であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、転舵開始時に車輪が傾斜したキングピン軸周りに回動することに起因したタイヤの接地面積の増加を促進することにより、操舵の応答性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両の構成を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る車輪の基本構成を説明するための概略断面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係るホイールのリム近傍を拡大した概略断面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る前輪を上側から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る前輪を前後方向から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る転舵時の内輪側前輪のタイヤの変形を説明するための概略断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す外側リムフランジの高さを低くした場合における転舵時の内輪側前輪のタイヤの変形を説明するための概略断面図である。
【
図8】
図8は、同実施形態に係る前輪のホイールのリムフランジの高さについて説明するための概略断面図である。
【
図9】
図9は、実施例1および比較例1の車両を走行させた際の評点を示す表である。
【
図10】
図10は、実施例2、実施例3および比較例2の車両を走行させた際の評点を示す表である。
【
図11】
図11は、比較例1の車両の転舵時におけるヨー角のばらつきを示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例1の車両の転舵時におけるヨー角のばらつきを示すグラフである。
【
図13】
図13は、同実施形態に係る前輪および後輪を上側から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
【
図14】
図14は、同実施形態に係る前輪のホイールの概略側面図である。
【
図16】
図16は、タイヤの荷重と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る車両100の構成を示す概略構成図である。
図1では、車両100を基準として、左右および前後が矢印で示されている。車両100は、駆動源200と、動力伝達系300と、車輪400と、操舵機構500とを備える。
【0021】
車両100は、複数の車輪400を有し、本実施形態では、4つの車輪400を有する4輪自動車である。車輪400は、2つの前輪400Aと、2つの後輪400Bをと含む。以下、前輪400Aと後輪400Bをまとめて車輪400とも呼ぶ場合がある。なお、以下では、各車輪400において、車両100の内側を単に内側、車両100の外側を単に外側と呼ぶ場合がある。
【0022】
駆動源200は、エンジンおよびモータの少なくとも一方を含む。つまり、駆動源200は、エンジン単体で構成されてもよいし、モータ単体で構成されてもよいし、エンジンおよびモータの双方により構成されてもよい。なお、本実施形態の車両100は、前後輪駆動する4WD(4輪駆動)走行と、前輪または後輪のみを駆動する2WD(2輪駆動)走行とのいずれの駆動状態も可能とする。
【0023】
動力伝達系300は、トランスミッション310と、プロペラシャフト320と、フロントデファレンシャルギア330Aと、フロントドライブシャフト340Aと、リアデファレンシャルギア330Bと、リアドライブシャフト340Bとを含む。以下、フロントドライブシャフト340Aとリアドライブシャフト340Bをまとめてドライブシャフト340と呼ぶ場合がある。
【0024】
トランスミッション310は、駆動源200から出力された駆動力の回転数、回転方向を調整し、プロペラシャフト320に伝達する。プロペラシャフト320は、トランスミッション310から伝達された駆動力を、フロントデファレンシャルギア330Aを介してフロントドライブシャフト340Aに伝達する。また、プロペラシャフト320は、トランスミッション310から伝達された駆動力を、リアデファレンシャルギア330Bを介してリアドライブシャフト340Bに伝達する。
【0025】
フロントドライブシャフト340Aは、プロペラシャフト320から伝達された駆動力を前輪400Aに伝達する。リアドライブシャフト340Bは、プロペラシャフト320から伝達された駆動力を後輪400Bに伝達する。操舵機構500は、不図示のハンドルを含み、車輪400のうち前輪400Aを、鉛直方向に対して車両内側に傾斜したキングピン軸460周りに転舵可能に構成させる。操舵機構500は、車両100を運転するドライバがハンドルを切った際、前輪400Aを傾斜したキングピン軸460周りに回動させることができる。なお、操舵機構500は、本実施形態ではキングピンを有している操舵機構を例に説明するが、キングピンを有していない操舵機構(例えば、ダブルピボットの操舵機構)であってもよい。その場合、キングピンを有していない操舵機構は、車両100を運転するドライバがハンドルを切った際、前輪400Aを、鉛直方向に対して車両内側に傾斜した仮想キングピン軸周りに回動させることができる。
【0026】
前輪400Aは、フロントドライブシャフト340Aから伝達された駆動力を路面に伝達する。また、後輪400Bは、リアドライブシャフト340Bから伝達された駆動力を路面に伝達する。このように、車輪400から路面に駆動力が伝達されることで、車両100を走行させることができる。なお、以下では、路面を接地面と呼ぶ場合がある。つぎに、車輪400の基本構成について説明する。
【0027】
図2は、車輪400の基本構成を説明するための概略断面図である。
図2に示すように、車輪400は、ホイール410と、タイヤ420とを有する。ホイール410は、タイヤ420を支持するリム430と、ドライブシャフト340(
図1参照)とハブ(不図示)を介して連結するハブ取付面440と、リム430とハブ取付面440を連結するホイールディスクまたはスポーク450とを備える。以下では、ホイールディスクまたはスポーク450を、まとめてホイールディスク450と称す。
【0028】
タイヤ420は、トレッド部422と、タイヤサイド部424と、ビード部426とを備える。トレッド部422は、タイヤ420のうち路面と接する部分である。タイヤサイド部424は、トレッド部422に連なり、トレッド部422のタイヤ径方向内側に位置する。
【0029】
ビード部426は、タイヤサイド部424に連なり、タイヤサイド部424のタイヤ径方向内側に位置する。ビード部426は、リム430の径方向外側端のリムフランジ432に係止される。
【0030】
図3は、ホイール410のリム430近傍を拡大した概略断面図である。
図3に示すように、リムフランジ432は、車両外側に位置する外側リムフランジ432aと、車両内側に位置する内側リムフランジ432bとを有する。
【0031】
リム径φDは、タイヤ420を嵌め込む部分のホイール410の直径を指す。リム径φDは、リムフランジ432を含まないホイール410の直径とも言える。リム幅Wは、タイヤ420を嵌め込む部分のホイール410の横幅を指す。リム幅Wは、リムフランジ432を含まないホイール410の横幅とも言える。
【0032】
ここで、通常、ホイール410には、JATMA(Japan Automobile Tyre Manufacturers Association)の規格(JATMA規格)による規格値や、JIS(Japanese Industrial Standards)の規格(JIS規格)による規格値が定められている。
【0033】
JIS規格には、ホイール410の5°深底リムの輪郭および寸法について定められている。なお、JIS規格と同様にJATMA規格にも、ホイール410の5°深底リムの輪郭および寸法について定められている。具体的に、JISの規格番号「JIS D4218:2021」では、5°深底リムの輪郭および寸法について定められている。本実施形態におけるホイール410の基本構成は、JIS規格の5°深底リムの輪郭および寸法について定められたものである。ただし、これに限定されず、本実施形態におけるホイール410の基本構成は、JATMA規格の5°深底リムの輪郭および寸法について定められたものであってもよい。
【0034】
JIS規格の5°深底リムには、リム径φDに対応して推奨されるリムフランジ432の形が定められている。このリムフランジ432の形を識別するために、JIS規格には、リムフランジ432の形を表す記号(以下、フランジ記号とも呼ぶ)がいくつか定められている。また、リムフランジ432のフランジ記号の1つには、「J」がある。
【0035】
フランジ記号「J」に関し、ホイール410のリム径φD、リム幅W、フランジ幅B、フランジ高さG、内側ビードシート幅P、外側ビードシート幅P1、ウエル深さH、ウエル幅L、ウエル位置M、フランジ半径R2の規格値がそれぞれ定められる。具体的に、フランジ記号「J」のホイール410は、リム径φDが14インチ以上、21インチ以下であり、リム幅Wが3インチである場合、フランジ幅Bの最小値が11.0mm、フランジ高さGが17.5±1.0mm、内側ビードシート幅Pの最小値が13.0mm、外側ビードシート幅P1の最小値が13.0mm、ウエル深さHの最小値が17.3mm(ただし、ウエル位置Mの最大値が43mm以下の場合には17.0mmにしてもよい)、ウエル幅Lの最小値が16.0mm、ウエル位置Mの最大値が28.0mm、フランジ半径R2の最小値が9.5mmに定められている。
【0036】
また、フランジ記号「J」のホイール410は、リム径φDが14インチ以上、21インチ以下であり、リム幅Wが3-1/2インチである場合、フランジ幅Bの最小値が11.0mm、フランジ高さGが17.5±1.0mm、内側ビードシート幅Pの最小値が15.0mm、外側ビードシート幅P1の最小値が17.0mm、ウエル深さHの最小値が17.3mm(ただし、ウエル位置Mの最大値が43mm以下の場合には17.0mmにしてもよい)、ウエル幅Lの最小値が19.0mm、ウエル位置Mの最大値が34.0mm、フランジ半径R2の最小値が9.5mmに定められている。
【0037】
また、フランジ記号「J」のホイール410は、リム径φDが14インチ以上、21インチ以下であり、リム幅Wが4インチである場合、フランジ幅Bの最小値が11.0mm、フランジ高さGが17.5±1.0mm、内側ビードシート幅Pの最小値が15.0mm、外側ビードシート幅P1の最小値が17.0mm、ウエル深さHの最小値が17.3mm(ただし、ウエル位置Mの最大値が43mm以下の場合には17.0mmにしてもよい)、ウエル幅Lの最小値が19.0mm、ウエル位置Mの最大値が45.0mm、フランジ半径R2の最小値が9.5mmに定められている。
【0038】
また、フランジ記号「J」のホイール410は、リム径φDが14インチ以上、21インチ以下であり、リム幅Wが4-1/2インチ以上である場合、フランジ幅Bの最小値が11.0mm、フランジ高さGが17.5±1.0mm、内側ビードシート幅Pの最小値が19.5mm、外側ビードシート幅P1の最小値が19.5mm、ウエル深さHの最小値が17.3mm(ただし、ウエル位置Mの最大値が43mm以下の場合には17.0mmにしてもよい)、ウエル幅Lの最小値が22.0mm、ウエル位置Mの最大値が45.0mm、フランジ半径R2の最小値が9.5mmに定められている。
【0039】
また、フランジ記号「J」のホイール410は、リム径φDが22インチ以上であり、リム幅Wが4-1/2インチ以上である場合、フランジ幅Bの最小値が11.0mm、フランジ高さGが17.5±1.0mm、内側ビードシート幅Pの最小値が19.5mm、外側ビードシート幅P1の最小値が19.5mm、ウエル深さHの最小値が22.0mm(ただし、既存リムについては、17.3mmでもよい)、ウエル幅Lの最小値が22.0mm、ウエル位置Mの最大値が45.0mm、フランジ半径R2の最小値が9.5mmに定められている。
【0040】
このように、フランジ記号「J」に関し、リムフランジ432の高さに定められた規格値Gは、17.5mmを基準に定められている。
【0041】
JIS規格あるいはJATMA規格において、フランジ記号「J」で定められた5°深底リムの輪郭および寸法を有するホイール410を、以下では通常仕様のホイールと呼ぶ。
【0042】
ところで、車両100を旋回させる際の操舵(以下、転舵とも呼ぶ)に関し、車両100の操舵の応答性を向上させるためには、前輪400Aのタイヤ420の接地面積を増大させることが重要である。
【0043】
図16を用いて説明したように、タイヤ420は、接地面の単位面積当たりの荷重としての圧力(N/m
2)が小さくなるほど摩擦係数が大きくなる性質を有する。したがって、同じ荷重であれば、タイヤ420の接地面積(m
2)が大きくなるほど、接地面の圧力(N/m
2)を小さくすることができ、摩擦係数を大きくすることができる。タイヤ420の摩擦係数を大きくすることができれば、車両100の操舵の応答性を向上させることができる。
【0044】
図4は、前輪400Aを上側から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
図4では、車両100を左方向に転舵したときの前輪400Aの動作を示している。このとき、2つの前輪400Aのうち車両100の旋回方向の内輪側である左側の前輪400Aを、内輪側前輪400Aaと呼び、旋回方向の外輪側である右側の前輪400Aを外輪側前輪400Abと呼ぶ。
【0045】
図4に示すように、前輪400Aは、キングピンの中心軸であるキングピン軸460と呼ばれる軸を中心に回動するように構成されている。キングピン軸460による前輪400Aの回転角は、左右によって異なるように構成されている。
【0046】
具体的に、キングピン軸460による前輪400Aの回転角は、内輪側前輪400Aaの方が外輪側前輪400Abよりも大きくなるように構成されている。これは、内輪側前輪400Aaと外輪側前輪400Abの軌跡が描く半径が異なる分を補正するためのもので、アッカーマンジオメトリと呼ばれている。
【0047】
車両100を運転するドライバがハンドルを切って前輪400Aを転舵させた際、2つの前輪400Aは、キングピン軸460を中心として回動し、
図4中、黒丸で示す内輪側前輪400Aaおよび外輪側前輪400Abの接地中心は、車両100の内側に向かって移動する。
【0048】
このとき、内輪側前輪400Aaの接地中心は、回転角が大きい分、外輪側前輪400Abよりも内側に移動する。つまり、内輪側前輪400Aaの接地中心の移動量Aは、外輪側前輪400Abの接地中心の移動量Bよりも大きくなる。
【0049】
図5は、前輪400Aを前後方向から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
図5では、車両100を基準として、左右および上下が矢印で示されている。
図5では、車両100を右方向に転舵したときの前輪400Aの動作を示している。なお、
図5では、2つの前輪400Aのうち右側の前輪400Aが内輪側前輪400Aaとなり、左側の前輪400Aが外輪側前輪400Abとなる。
図5に示すように、キングピン軸460は、鉛直方向に対し内側に向けて所定の角度で傾斜している。
【0050】
そのため、前輪400Aを転舵した際、内輪側前輪400Aaは、
図5に示す移動量Cだけ接地面側に潜り込むように移動し、外輪側前輪400Abは、
図5に示す移動量Dだけ接地面側に潜り込むように移動する。ここで、
図4を用いて説明したように、転舵時において、内輪側前輪400Aaの接地中心の移動量Aは、外輪側前輪400Abの接地中心の移動量Bよりも大きくなる。そのため、
図5に示す、内輪側前輪400Aaの移動量Cも、外輪側前輪400Abの移動量Dよりも大きくなる。ただし、実際には、前輪400Aは、接地面に潜り込むことはなく、接地面からの反力を受け、タイヤ420が潰れたり、車両100の前輪400A側の車体が僅かに持ち上げられたりする。
【0051】
図6は、転舵時の内輪側前輪400Aaのタイヤ420の変形を説明するための概略断面図である。なお、
図6では、内輪側前輪400Aaに通常仕様のホイールを適用した場合の例について説明する。つまり、
図6において、内輪側前輪400Aaのリムフランジ432の高さは、車両外側のリムフランジ432である外側リムフランジ432aの高さGout、車両内側のリムフランジ432である内側リムフランジ432bの高さGinともに、17.5mmである場合を例として説明する。前輪400Aを転舵した際、
図4で説明したように、内輪側前輪400Aaは、内側に向かって移動する。また、
図5で説明したように、内輪側前輪400Aaは、接地面に潜り込むように、接地面側に向かって移動する。
【0052】
そのため、内輪側前輪400Aaのホイール410のリム430は、内側(
図6中、D1方向)、および、接地面側(
図6中、D2方向)に向かって移動する。このとき、内輪側前輪400Aaのタイヤ420のビード部426は、2つのリムフランジ432のうち車両外側の外側リムフランジ432aにより内側に向かう荷重を受ける。
【0053】
また、内輪側前輪400Aaのタイヤ420のビード部426は、リム430により接地面側に向かう荷重を受ける。その結果、タイヤサイド部424が内側に向かって全体的に変形し、それに伴いトレッド部422と接地面との接地面積が増加する。
図6では、転舵前のトレッド部422と接地面との接地面積(以下、転舵前接地面積と呼ぶ)をE1、転舵時のトレッド部422と接地面との接地面積(以下、転舵時接地面積と呼ぶ)をE2で表している。
【0054】
図6から分かるとおり、転舵時のタイヤ420の変形に伴い、トレッド部422と接地面との接地面積は、転舵前接地面積E1から転舵時接地面積E2に増加する。すなわち、トレッド部422と接地面との接地面積の増加は、タイヤ420のビード部426に荷重を入力するリム430の形状が支配的となる。
【0055】
図7は、
図6に示す外側リムフランジ432aの高さを低くした場合における転舵時の内輪側前輪400Aaのタイヤ420の変形を説明するための概略断面図である。
図7に示すように、
図6に比べて外側リムフランジ432aの高さを低くした場合、外側リムフランジ432aとビード部426との接触面積が小さくなることから、ビード部426に加わる荷重が大きくなるとともに、タイヤサイド部424の変形の自由度も増加する。
【0056】
そのため、
図6に示すタイヤサイド部424に比べ、
図7に示すタイヤサイド部424の変形量が大きくなる。
図6と同様に、タイヤサイド部424の変形に伴い、トレッド部422と接地面との接地面積が増加する。
図7では、転舵前のトレッド部422と接地面との転舵前接地面積をE1、転舵時のトレッド部422と接地面との転舵時接地面積をE3で表している。なお、
図6の転舵前接地面積E1は、
図7の転舵前接地面積E1と同じものとする。
図7では、
図6に比べタイヤサイド部424の変形量が大きくなることにより、タイヤサイド部424とトレッド部422との接続部分であるショルダー部Rは、
図6に比べ
図7の方がより小さい曲率で変形する。
【0057】
その結果、
図7に示すトレッド部422と接地面との転舵時接地面積E3は、
図6に示すトレッド部422と接地面との転舵時接地面積E2よりも大きくなる。このように、ホイール410の外側リムフランジ432aの高さを低くするように調整することで、キングピン軸460とタイヤ420の移動との関係に起因したタイヤ420の接地面積の増加を促すことができる。つまり、転舵開始時に前輪400Aが傾斜したキングピン軸460周りに回動する際に、タイヤ420のタイヤサイド部424の変形によるタイヤ420の接地面積の増加を促進することにより、操舵の応答性を向上させることができる。
【0058】
図8は、本実施形態に係る前輪400Aのホイール410のリムフランジ432の高さについて説明するための概略断面図である。ここで、通常仕様のホイールのリムフランジ432の高さは、外側リムフランジ432aおよび内側リムフランジ432bともに、規格値Gである17.5mmを基準として設定される。
【0059】
図8に示すように、本実施形態に係る前輪400Aのホイール410は、外側リムフランジ432aの高さGoutが、規格値Gに対して調整された特殊仕様のホイールである。外側リムフランジ432aの高さGoutは、内側リムフランジ432bの高さGinよりも低く、規格値G未満であり、本実施形態では、17.0mmである。また、許容差として、+側(上側)の許容差が0.25mm、-側(下側)の許容差が0.5mmに設定され、外側リムフランジ432aの高さGoutは、16.5mm以上、17.25mm以下の範囲内に収まるようにされている。ここで、許容差とは、基準となる寸法に対して許される限界値との差である。このように、外側リムフランジ432aの高さGoutは、規格値Gに対して調整されており、規格値Gに対して0.5mm低い高さ(例えば、17.0mm)を基準とした許容範囲内(例えば、16.5mm以上、17.25mm以下の範囲)である。
【0060】
一方、内側リムフランジ432bの高さGinは、規格値Gに設定される。つまり、本実施形態では、内側リムフランジ432bの高さGinは、17.5mmである。また、許容差として、+側(上側)の許容差が0.5mm、-側(下側)の許容差が0.25mm未満に設定され、内側リムフランジ432bの高さGinは、17.25mm超、18.0mm以下の範囲内に収まるようにされている。このように、内側リムフランジ432bの高さGinは、規格値Gに対して調整されておらず、規格値G(17.5mm)を基準とした許容範囲内(例えば、17.25mm超、18.0mm以下の範囲)である。
【0061】
このように、外側リムフランジ432aの高さGoutを規格値Gより低くするように調整することで、転舵開始時に車輪400が傾斜したキングピン軸460周りに回動することに起因したタイヤ420の接地面積の増加を促進することにより、操舵の応答性を向上させることができる。
【0062】
本実施形態の特殊仕様のホイールとして、通常仕様のホイールから内側リムフランジ432bの高さGinを変更せずに、外側リムフランジ432aの高さGoutを小さくした実施例1~2を作成した。また、本実施形態の特殊仕様のホイールとして、通常仕様のホイールから外側リムフランジ432aの高さGoutおよび内側リムフランジ432bの高さGinを小さくした実施例3を作成した。また、実施例1~3と比較するため、通常仕様のホイールを比較例1~2として用意した。
【0063】
[実施例1]
JIS規格の5°深底リムのフランジ記号「J」の通常仕様のホイールにおいて、内側リムフランジ432bの高さGinを「17.5」mmとし、外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.0」mmにした特殊仕様のホイール410を作成した。この特殊仕様のホイール410を車両100の前輪400Aに設け、車両100の後輪400Bには通常仕様のホイールを設けた。
【0064】
[比較例1]
JIS規格の5°深底リムのフランジ記号「J」の通常仕様のホイール410を車両100の前輪400Aおよび後輪400Bの双方に設けた。
【0065】
図9は、実施例1および比較例1の車両100を走行させた際の評点を示す表である。なお、各項目の評点は、5点満点中の点数で表されているものとする。
図9に示すように、ステアリング応答性、ステアリング手応え、安定性、追従性、ロール感、ロール共振、乗心地の全ての項目において、比較例1よりも実施例1の方が評点が高くなることが確認された。
【0066】
以上の結果から、前輪400Aの外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.5」mmから「17.0」mmに低下させた場合、官能性評価が高くなることが確認された。
【0067】
[実施例2]
JIS規格の5°深底リムのフランジ記号「J」の通常仕様のホイールにおいて、内側リムフランジ432bの高さGinを「17.5」mmとし、外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.0」mmにした特殊仕様のホイール410を作成した。この特殊仕様のホイール410を車両100の前輪400Aおよび後輪400Bの双方に設けた。
【0068】
[実施例3]
JIS規格の5°深底リムのフランジ記号「J」の通常仕様のホイールにおいて、内側リムフランジ432bの高さGinを「17.0」mmとし、外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.0」mmにした特殊仕様のホイール410を作成した。この特殊仕様のホイール410を車両100の前輪400Aおよび後輪400Bの双方に設けた。
【0069】
[比較例2]
JIS規格の5°深底リムのフランジ記号「J」の通常仕様のホイール410を車両100の前輪400Aおよび後輪400Bの双方に設けた。なお、比較例1と比較例2では、通常仕様のホイール410を前輪400Aおよび後輪400Bの双方に設けた車両100の車種が異なる。そのため、官能評価結果も異なったものとなっている。
【0070】
図10は、実施例2、実施例3および比較例2の車両100を走行させた際の評点を示す表である。なお、各項目の評点は、5点満点中の点数で表されているものとする。
図10に示すように、ステアリング応答性、ステアリング手応え、ロール感、ロール共振、乗心地の項目において、比較例2よりも実施例2の方が評点が高くなることが確認された。また、ステアリング応答性、ステアリング手応えの項目において、比較例2よりも実施例3の方が評点が高くなることが確認された。また、ロール感、ロール共振、乗心地の項目において、実施例3よりも実施例2の方が評点が高くなることが確認された。
【0071】
以上の結果から、4輪全てのホイール410の外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.5」mmから「17.0」mmに低下させた場合、官能性評価の高さが一番となることが確認された。また、4輪全てのホイール410の外側リムフランジ432aの高さGoutおよび内側リムフランジ432bの高さGinを「17.5」mmから「17.0」mmに低下させた場合、官能性評価の高さが二番となることが確認された。また、4輪全てのホイール410の外側リムフランジ432aの高さGout「17.5」mmに維持させた場合、官能性評価の高さが三番となることが確認された。
【0072】
このように、実施例1、実施例2、実施例3と、比較例1、比較例2とを比較してわかるとおり、前輪400Aの外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.0」mmと規格値Gより低くすることで、ステアリング応答性を含む官能性評価を高めることができる。また、実施例2と実施例3とを比較してわかるとおり、内側リムフランジ432bの高さGinを低くせずに、規格値Gである「17.5」mmとすることで、ロール感、ロール共振、乗心地を含む官能性評価を高めることができる。
【0073】
なお、外側リムフランジ432aの高さを低くし過ぎると、追従性が悪化するため、外側リムフランジ432aの高さGoutは、16.5mm以上あることが好ましい。また、上述したように外側リムフランジ432aの高さGoutが規格値Gになると、転舵開始時に車輪400が傾斜したキングピン軸460周りに回動することに起因したタイヤの接地面積の増加が不足することから、外側リムフランジ432aの高さGoutは、17.25mm以下であることが好ましい。
【0074】
同様に、内側リムフランジ432bの高さを低くし過ぎると、ロール感、ロール共振、乗心地が悪化するため、内側リムフランジ432bの高さGinは、17.25mmより大きいことが好ましい。また、内側リムフランジ432bの高さを高くし過ぎると、タイヤサイド部424が全体的に変形した際にタイヤの接地面積の増加量が減少することから、内側リムフランジ432bの高さGinは、18.0mm以下であることが好ましい。
【0075】
また、実施例1と比較例1とを比較してわかるとおり、特殊仕様のホイール410を前輪400Aにのみ設けることで、ステアリング応答性を含む官能性評価を高めることができる。なお、実施例2と比較例2とを比較してわかるとおり、特殊仕様のホイール410を前後輪に設けた場合も、前後輪が通常仕様のホイールである場合に比べ、ステアリング応答性を含む官能性評価を高めることができる。
【0076】
図11は、比較例1の車両100の転舵時におけるヨー角のばらつきを示すグラフである。
図12は、実施例1の車両100の転舵時におけるヨー角のばらつきを示すグラフである。
【0077】
図11に示す例では、比較例1の車両100を、前半は一定車速で直進走行させ、後半はステアリングを一定角度で転舵させつつ一定車速で旋回走行させる試験走行を10回行った。
図11に示すように、比較例1の車両100の試験走行を10回行った結果、旋回走行時のヨー角のばらつきは、バラツキ幅Gの範囲となった。
【0078】
図12に示す例でも、
図11と同様に、実施例1の車両100を、前半は一定車速で直進走行させ、後半はステアリングを一定角度で転舵させつつ一定車速で旋回走行させる試験走行を10回行った。
図12に示すように、実施例1の車両100の試験走行を10回行った結果、旋回走行時のヨー角のばらつきは、バラツキ幅G’の範囲となった。
【0079】
図11および
図12を比較して分かるように、実施例1の車両100の旋回走行時のヨー角のバラツキ幅G’は、比較例1の車両100の旋回走行時のヨー角のバラツキ幅Gよりも小さい。このように、前輪400Aの外側リムフランジ432aの高さGoutを「17.0」mmと規格値Gより低くすることで、車両100のステアリングの操舵に対する応答性を向上させることが確認された。
【0080】
図13は、前輪400Aおよび後輪400Bを上側から見た場合の転舵時の動作を説明するための概略構成図である。
図13では、車両100を右方向に転舵したときの前輪400Aおよび後輪400Bの動作を示している。
【0081】
なお、2つの後輪400Bのうち車両100の旋回方向における内輪側である右側の後輪400Bを、内輪側後輪400Baと呼び、旋回方向における外輪側である左側の後輪400Bを外輪側後輪400Bbと呼ぶ。
【0082】
図4で説明したように、車両100を転舵した際、内輪側前輪400Aaは、内側に向かって移動する。また、
図5で説明したように、内輪側前輪400Aaは、接地面に潜り込むように、接地面側に向かって移動する。
【0083】
このとき、車両100の内輪側前輪400Aaの内側および接地面側に向かう移動に伴い、内輪側前輪400Aaから車体の右前側を持ち上げる力F1が働く。車体の右前側を持ち上げる力F1は、車体を伝わり、内輪側前輪400Aaと対角に位置する外輪側後輪400Bbへと伝達される。このとき、外輪側後輪400Bbには、接地面側に向かって押し付けられる力が加わり、その反力F2を接地面から受ける。
【0084】
外輪側後輪400Bbが反力F2を受けることで、内輪側前輪400Aaが車両100を旋回させる力F3を発揮することができる。また、内輪側前輪400Aaが車両100を旋回させる力F3を発揮することで、車体にヨーを発生させ、外輪側後輪400Bbが車両100を旋回させる横力F4を発生させる。
【0085】
内輪側前輪400Aaの応答速度を高めるためには、外輪側後輪400Bbが反力F2を受けるのにかかる時間、および、外輪側後輪400Bbが横力F4を発生させるのにかかる時間を短縮することが重要である。
【0086】
図6および
図7で説明したように、タイヤ420のビード部426に横方向および接地面側に向かう荷重が加わった際、外側リムフランジ432aの高さに応じて、タイヤ420のショルダー部Rの形状が変化する。
【0087】
具体的に、
図6に示すように、外側リムフランジ432aの高さが高い場合、ショルダー部Rの曲率半径が大きくなり、
図7に示すように外側リムフランジ432aの高さが低い場合、ショルダー部Rの曲率半径が小さくなる。
【0088】
ショルダー部Rの曲率半径が小さくなるほど、タイヤサイド部424が局所的に変形するため、タイヤ420の剛性が小さくなる。換言すれば、ショルダー部Rの曲率半径が大きくなるほど、タイヤサイド部424が局所的に変形しないため、タイヤ420の剛性が大きくなる。つまり、ショルダー部Rの曲率半径が大きくなるほど、タイヤ420の剛性を高めることができる。
【0089】
本実施形態では、後輪400Bにおいて、前輪400Aとは異なり、外側リムフランジ432aの高さを低くしないことで、外輪側後輪400Bbのタイヤ420の剛性を高めている。具体的に、外輪側後輪400Bbの外側リムフランジ432aの高さは、内輪側前輪400Aaの外側リムフランジ432aの高さよりも高く設定される。
【0090】
これにより、外輪側後輪400Bbのタイヤ420の剛性を、内輪側前輪400Aaのタイヤ420の剛性よりも高めることができる。本実施形態では、前輪400Aのホイール410として特殊仕様のホイールを採用し、後輪400Bのホイール410として通常仕様のホイールを採用している。これにより、後輪400Bの外側リムフランジ432aの高さを、前輪400Aの外側リムフランジ432aの高さよりも高くすることができる。
【0091】
このように、外輪側後輪400Bbのタイヤ420の剛性を高めることで、外輪側後輪400Bbが反力F2を受けるのにかかる時間が短縮され、横力F4を発生させるまでの応答時間を短縮することができる。
【0092】
図14は、本実施形態に係る前輪400Aのホイール410の概略側面図である。
図15は、
図14に示すホイール410のA-A断面図である。上述したように、本実施形態の前輪400Aのホイール410には、特殊仕様のホイールが採用されている。この特殊仕様のホイールを、例えば、通常仕様のホイールなどの他の形状のホイールと識別するため、
図14および
図15に示すように、前輪400Aのホイール410には、識別マーク480が設けられる。これにより、車両100に取り付ける、あるいは、取り付けられているホイール410が、特殊仕様のホイールであるか、それ以外のホイールであるかを判別し易くすることができる。
【0093】
この識別マーク480は、
図14および
図15に示すように、外側リムフランジ432aの外側面に全周に亘って環状に形成された切削輪により構成される。この切削輪は、外側リムフランジ432aの外側面を全周に亘って環状に切削することで形成される。識別マーク480が切削輪により形成されることで、
図15に示すように、識別マーク480は、外側リムフランジ432aの外面から内面側に向かって窪んだ窪み部として形成される。これにより、外側リムフランジ432aの剛性を低下させることができる。また、例えば、特殊仕様のホイールの外側リムフランジ432aの高さの調整を切削により行う場合に、高さの調整と切削輪の形成を連続して行うことができ、識別マーク480の形成工程を簡略化させることができる。また、識別マーク480である切削輪に着色してもよい。切削輪に色が付けられることで、ホイール410が、特殊仕様のホイールであるか、それ以外のホイールであるかを判別し易くすることができる。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0095】
上記実施形態では、特殊仕様のホイールを前輪400Aのみに適用する例について説明した。しかしながら、これに限定されず、実施例2のように前輪400Aおよび後輪400Bの双方に特殊仕様のホイールを適用するようにしてもよい。その場合においても、前輪400Aのホイール410が特殊仕様のホイールであることにより、キングピン軸460とタイヤ420の移動との関係に起因したタイヤ420の接地面積の増加を促すことができる。その結果、車両100の操舵の応答性を向上させることができる。
【0096】
上記実施形態では、特殊仕様のホイールに設けられる識別マーク480が切削輪により構成される例について説明した。しかしながら、これに限定されず、識別マーク480は、例えば、文字、数字、記号、図形などであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
R ショルダー部
100 車両
200 駆動源
300 動力伝達系
310 トランスミッション
320 プロペラシャフト
330A フロントデファレンシャルギア
330B リアデファレンシャルギア
340 ドライブシャフト
340A フロントドライブシャフト
340B リアドライブシャフト
400 車輪
400A 前輪
400Aa 内輪側前輪
400Ab 外輪側前輪
400B 後輪
400Ba 内輪側後輪
400Bb 外輪側後輪
410 ホイール
420 タイヤ
422 トレッド部
424 タイヤサイド部
426 ビード部
430 リム
432 リムフランジ
432a 外側リムフランジ
432b 内側リムフランジ
440 ハブ取付面
450 ホイールディスクまたはスポーク
460 キングピン軸
480 識別マーク
500 操舵機構