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特開2024-86167蛋白質組成物の製造方法および蛋白質組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086167
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】蛋白質組成物の製造方法および蛋白質組成物
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/02 20060101AFI20240620BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C12P1/02
C12N1/14 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201157
(22)【出願日】2022-12-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業研究支援センター、「イノベーション創出強化研究推進事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、および、令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム 社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】萩原 大祐
(72)【発明者】
【氏名】大津 厳生
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA05
4B064CC03
4B064CD13
4B064CD30
4B064DA10
4B065AA57X
4B065BB40
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】麹菌の培養により生成される蛋白質組成物について、培養の条件を選択することで蛋白質組成物中の特定の機能性関与成分の含有量を高めることのできる、蛋白質組成物の製造方法およびそれにより得られた蛋白質組成物を提供する。
【解決手段】蛋白質成分及び機能性成分を含む蛋白質組成物の製造方法であって、糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、前記機能性成分はアミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物である、蛋白質組成物の製造方法および蛋白質組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質成分及び機能性成分を含む蛋白質組成物の製造方法であって、
糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、
前記機能性成分はアミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物である、蛋白質組成物の製造方法。
【請求項2】
前記麹菌は麹菌RIB40株である、請求項1に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項3】
前記機能性成分が、
(a)テアニン、GABA、ALAまたは必須アミノ酸
(b)ナリンゲニン、ナリンギン、ピニトール、シトルリン、オルニチンまたはキナ酸
(c)茶カテキン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、またはサラシノール
のいずれかである、請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項4】
前記機能性成分が、テアニン、GABAまたはALAである、請求項3に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項5】
前記栄養組成物が、
(α)玄米粉
(β)酒粕および粗糖
(γ)イーストエキストラクトおよび粗糖
のいずれかである、請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項6】
前記機能性成分がフェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物が玄米粉である、
請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項7】
前記機能性成分がナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物が酒粕および粗糖である、
請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項8】
前記機能性成分がトレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物がイーストエキスストラクトおよび粗糖である、
請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の蛋白質組成物の製造方法により得られた蛋白質組成物であって、
(i)フェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上
(ii)ナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上
(iii)トレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上
のいずれかを含む、蛋白質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌を培養して得られる蛋白質組成物、特に代用食用肉となる蛋白質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な人口の増加により、近い将来に食料不足が予想されており、特に食肉生産の不足や魚類の資源枯渇等の問題から、蛋白質供給の停滞が懸念されている。このような状況から、食肉や魚類に代わる代替蛋白質となる素材の開発が進められている。
【0003】
食肉や魚類に代わる代替蛋白質としては、低カロリーや低脂肪等の健康的な利点から、植物性の蛋白質が広く用いられている。例えば、大豆や、キノコなどの菌類がすでに広く用いられている。
特に菌類から産生される蛋白質(マイコプロテイン)は、生育速度が速く短期間で生産可能で、利用する資源(水や土地)が少ないため環境負荷が低く、天然の線維構造のため食加工が容易で、栄養成分が豊富なことから注目されている。
菌類の中でも、麹菌、麹発酵物を用いた食品の技術も開発されている。麹菌は伝統的な和食の様々な用途に長期間使用されて信頼性が高く、また健康的でクリーンなイメージも持たれている。
【0004】
特許文献1は、適当な窒素源および糖源を有する液体培地において、麹菌を液体培養することで、大量の麹菌体を得、その後、洗浄した麹菌体と各種調味料または小麦、パン粉等の食品素材を混合し加工することによって挽肉様食品を得る技術を開示している。この技術は、液体培地で麹菌を培養開始後、増殖した菌体を回収および洗浄する工程を含む、食肉代替用麹菌体の製造方法で、前記麹菌が、アスペルギルス・オリゼーであるものを含む。この技術は、簡便な方法により麹菌を液体培養後、集菌洗浄した麹菌体を主原料として用い、挽肉様食品を提供しようとするものである。
【0005】
特許文献2は、麹菌を培養開始時に1%(w/v)以上のアミノ酸を含む液体培地で培養して得られる、pHが4.0~8.0の範囲内にあり、かつ、アンモニウムイオンを0.2%(w/v)以上含む液体麹を開示している。また、液体培地が小麦、大豆、米またはトウモロコシを含む場合も開示している。この技術は、酸を用いてpHを調整しつつ、アミノ酸を添加した液体培地で麹菌を培養することで、塩味増強に効果のあるアンモニウムイオンを多く含む液体麹を製造できることを見出し、塩味増強に効果のある液体麹を提供すること、また、該液体麹を用いて無塩または低塩条件下にも関わらず、塩味が強く、かつ総合的な嗜好性に優れた調味液を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-23172号公報
【特許文献2】特許第6223727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大豆や菌類等の既存の植物中の蛋白質をそのまま抽出、加工し利用する代替蛋白質に対して、麹菌などの培養によって蛋白質を製造する場合、培養等の条件によって、代替蛋白質の性質を調整できることが期待される。
例えば、培養により生成される、蛋白質を含む蛋白質組成物が、他に特定の栄養素等の成分を含有することで、消費者がより健康効果を受けることが期待できる。
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術を含め、従来の培養方法では、生成される蛋白質組成物の特定の機能性関与成分の含有量を高めるという方法は見出されていない。
【0009】
特許文献2の技術では、培地の成分を酸、pHの調整や、アミノ酸や特定の栄養成分を含有させることで、アンモニウムイオンを含有する液体麹を得ることができるが、その目的は機能的効果を高める成分の含有ではなく風味の改善であり、また、その他の機能性関与成分の含有量を高める効果については開示されていない。
【0010】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、麹菌の培養により生成される蛋白質組成物について、培養の条件を選択することで蛋白質組成物中の特定の機能性関与成分の含有量を高めることのできる、蛋白質組成物の製造方法およびそれにより得られた蛋白質組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
本発明の第1の態様は、
蛋白質成分及び機能性成分を含む蛋白質組成物の製造方法であって、
糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、
前記機能性成分はアミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物である、蛋白質組成物の製造方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、
前記麹菌は麹菌RIB40株である、蛋白質組成物の製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記第1または第2の態様において、
前記機能性成分が、
(a)テアニン、GABA、ALAまたは必須アミノ酸
(b)ナリンゲニン、ナリンギン、ピニトール、シトルリン、オルニチンまたはキナ酸
(c)茶カテキン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、またはサラシノール
のいずれかである、蛋白質組成物の製造方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、前記第3の態様において、
前記機能性成分が、テアニン、GABAまたはALAである、蛋白質組成物の製造方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、前記第1から第4のいずれかの態様において、
前記栄養組成物が、
(α)玄米粉
(β)酒粕および粗糖
(γ)イーストエキストラクトおよび粗糖
のいずれかである、蛋白質組成物の製造方法である。
【0016】
本発明の第6の態様は、前記第1から第5のいずれかの態様において、
前記機能性成分がフェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物が玄米粉である、蛋白質組成物の製造方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、前記第1から第5のいずれかの態様において、
前記機能性成分がナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物が酒粕および粗糖である、蛋白質組成物の製造方法である。
【0018】
本発明の第8の態様は、前記第1から第5のいずれかの態様において、
前記機能性成分がトレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上であり、
前記栄養組成物がイーストエキスストラクトおよび粗糖である、蛋白質組成物の製造方法である。
【0019】
本発明の第9の態様は、前記第1から第5のいずれかの態様の蛋白質組成物の製造方法により得られた蛋白質組成物であって、
(i)フェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上
(ii)ナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上
(iii)トレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上
のいずれかを含む、蛋白質組成物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、麹菌の培養により生成される蛋白質組成物について、培養の条件を選択することで蛋白質組成物中の特定の機能性関与成分の含有量を高めることのできる、蛋白質組成物の製造方法およびそれにより得られた蛋白質組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施例の蛋白質組成物に含まれる機能性成分に依存する相関関係のプロットを示すグラフ図である。
図2図1の分析に用いた、プロットの位置ごとに含まれる機能性成分を示すプロットを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る蛋白質組成物の製造方法および蛋白質組成物について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
(蛋白質組成物の製造方法)
本実施形態の蛋白質組成物の製造方法は、蛋白質成分及び機能性成分を含む蛋白質組成物の製造方法であって、糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、前記機能性成分はアミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物である。
【0024】
蛋白質組成物は、蛋白質成分及び機能性成分を含むものである。
蛋白質成分は、蛋白質であればどのようなものでも構わないが、主に麹菌の培養により製造されるものである。
【0025】
機能性成分は、生物の体内で機能性を発揮する成分を広く指す。機能性とは、栄養素として働く、体調の変化(特に改善)などの効果を有する、または導き得るものを広く指す。特に生物はヒトであり、機能性は食品として摂取した際に栄養や、健康などの体調改善効果である。機能性成分としては、例えば、消費者庁に機能性表示食品に関して登録されている機能性関与成分などが挙げられる。
【0026】
機能性成分は、アミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物を含んでいる。アミノ酸は必須アミノ酸や、それ以外の機能性を有するものを指す。ビタミンは、栄養素以外に含まれ生物の代謝や機能を補助する役割を果たす成分を広く指す。炭化水素化合物は、主に前記アミノ酸やビタミン以外に機能性の化合物として働く有機化合物を指す。
【0027】
機能性成分としては、具体的には
(a)テアニン、GABA、ALAまたは必須アミノ酸
(b)ナリンゲニン、ナリンギン、ピニトール、シトルリン、オルニチンまたはキナ酸
(c)茶カテキン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、またはサラシノール
が挙げられる。蛋白質組成物に含まれる機能性成分は、このうち2以上であることが好ましく、3以上であることがさらに好ましい。
【0028】
機能性成分は、テアニン、GABAまたはALAであることも好ましい。また、このうち2以上であることもさらに好ましい。テアニン、GABA、ALAはいずれも体調改善の効果を有し、健康食品等に含まれ安全性と効果が確認されている。
【0029】
蛋白質組成物は、蛋白質成分及び機能性成分の他、適宜他の成分を含んでいてもよい。本実施形態では、蛋白質組成物は代用肉などの食用に用いるものなので、他の成分は、食品に含まれ得るものであることが好ましい。
【0030】
麹菌は、酒類、味噌、醤油などの食品製造において従来用いられてきた麹菌をそのまま利用することができる。麹菌の多くは安全性が確認されており、そのような麹菌には、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus
kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)などが知られている。
【0031】
本実施形態では、麹菌は、アスペルギルス・オリゼーを用いることが好ましい。また、麹菌RIB40株または類似した性質を有する株を用いることがより好ましく、RIB40株を用いることが特に好ましい。
【0032】
栄養組成物は、麹菌を培養する際に添加される、麹菌の培養の栄養となる成分を含む組成物である。栄養組成物は、栄養として炭水化物、特に糖を含んでいる。これらの栄養組成物としては、玄米粉、酒粕、粗糖、またはイーストエキストラクトなどを使用することができる。
【0033】
本実施形態では特に、栄養組成物として、
(α)玄米粉
(β)酒粕および粗糖の組み合わせ
(γ)イーストエキストラクトおよび粗糖の組み合わせ
のいずれかを用いることが好ましい。
【0034】
培養に際して栄養組成物を添加する量は、培養が可能な量であれば適宜使用することができる。通常、玄米粉、酒粕、粗糖、イーストエキストラクトなどは、液体培地を用いる場合、液体培地の全体質量に対して、合計量が10%以下であれば好適に培養することができる。目安としては、それぞれの成分について液体培地の全体質量に対して、0.5~5%、好ましくは1~3%である。
【0035】
本発明者らは、前記麹菌を前記特定の栄養組成物と共に培養することで、麹菌に蛋白質と共に前記機能性成分のいずれか、特定の機能性成分の特定の組み合わせを生成させることができることを見出している。
【0036】
例えば、前記栄養組成物が玄米粉であり、前記機能性成分がフェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上であることが好ましい。また、前記機能性成分が前記群より選ばれた2以上であることもより好ましく、3以上であることもさらに好ましい。
【0037】
また例えば、前記栄養組成物が酒粕および粗糖であり、前記機能性成分がナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上であることが好ましい。また、前記機能性成分が前記群より選ばれた2以上であることもより好ましく、3以上であることもさらに好ましい。
【0038】
また例えば、前記栄養組成物がイーストエキスストラクトおよび粗糖であり、前記機能性成分がトレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上であることが好ましい。また、前記機能性成分が前記群より選ばれた2以上であることもより好ましく、3以上であることもさらに好ましい。
【0039】
麹菌の培養のその他の条件としては、従来知られた手法を用いることができる。例えば、液体培地を使用した培養としては、培地としては、食用として菌糸体培養に用いることができるもので、従来知られたものを使用することができる。例えば、YPD培地、PDA培地、または同等の成分のものを使用することができる。
【0040】
培地には前記栄養組成物以外の成分、特に栄養素が含まれていても良い。例えば、炭素源としては、一般的に菌糸体培養に利用されているものを使用できる。例えば、単糖類や二糖類、三糖以上の多糖類、デンプン、さらに、ショ糖製造時に副産物として生じるモラセス(廃糖蜜)のような混合糖類などを利用でき、特に制限は無い。例えば、グルコース、マルトース、またはラミナリビオースなどを用いても良い。また、通常の麹菌体を液体培養する際に添加されるものを使用してもよい。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ペプトン、イーストエキストラクト(酵母エキス)、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、若しくは肉エキス等の窒素源を添加してもよい。また、カリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、または亜鉛塩等の無機塩を添加してもよい。さらに、前記機能性成分にあたるものやその他のビタミン、アミノ酸などを添加してもよい。
【0041】
本発明の液体培養の条件は、全体として流動性を有していることが好ましい。培地全体として流動性を有していれば、固形物を含んでいても良い。例えば、酵母エキス等の製造により副生される酵母菌体残渣、醸造調味料又は日本酒や焼酎の製造により副生される麹粕などのような液体中に分散する固形物を培地中に添加しても良い。一方で、麹菌の液体培養による酵素生産後に副生される麹菌体残渣を、そのまま素材として用いても良い。
【0042】
培養中の温度は、麹などの菌糸体で一般に採用される温度で培養してよい。培地のpHは、特に一般的な条件を採用でき、例えば約3~8程度に調整し、培養温度も通常採用される条件で良く、約20~40℃、好ましくは約25~35℃程度、培養期間1~10日間、好ましくは3~6日間程度好気的条件下で培養する。
【0043】
本発明は、前記までの培養条件で、培養法としても、一般的な液体培養法で用いられる方法が採用でき、例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的培養法が利用できる。バッチ培養、または連続培養や通電による電気培養法も利用できる。一般的には、通気撹拌培養による振とう培養が採用され、溶存酸素は高いほうがよく、1ppm以上が好ましい。
【0044】
麹菌を液体培養すると、培養により、麹菌が凝集し、球体、略球体、錠剤のような形態となるペレット状、又は線状、線維状のようなファイバー状(フィラメント状)となる場合がある。本実施形態では、培養後の菌糸形態は、特に制限はなく、前述のような、ペレット状、ファイバー状でもよく、また、凝集しない形態であっても良い。さらに、ペレット状、ファイバー状の混合物、ペレット状と凝集していない菌糸体との混合、又はファイバー状と凝集していない菌糸体との混合でもよい。なお、ファイバー状とは、ヌッチェ等で脱水した菌糸体が、完全にシート状になるものなどを指す。対して、ペレット状とは、ヌッチェ等で脱水した後も菌糸塊を一部もしくは完全に保持している形態などを指す。
【0045】
培養液から麹菌を回収する工程としては特に限定されず、回収方法としては、特に限定されず、公知の分離方法、例えば、遠心分離、ろ過分離、または圧搾分離等を適宜用いることができる。
【0046】
麹菌は、蛋白質組成物を多く含むので、回収した麹菌をそのまま、食品(代替肉)として使用することもできる。また、回収した麹菌に含まれる、麹菌内で産生された蛋白質組成物を、抽出して用いてもよい。抽出する方法は、従来の蛋白質抽出方法や食品加工方法を使用することができる。
【0047】
(蛋白質組成物)
本実施形態の蛋白質組成物は、前記の蛋白質組成物の製造方法により得られた蛋白質組成物である。
蛋白質組成物は、
(i)フェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールからなる群より選ばれた1以上
(ii)ナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ピニトール、アセチルコリンおよび3-ヒドロキシチロゾールからなる群より選ばれた1以上
(iii)トレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンからなる群より選ばれた1以上
のいずれかの成分を含む。
【0048】
また、本実施形態の蛋白質組成物は、前記成分のうち2以上を有していることが好ましい。また、前記(i)、(ii)、(iii)の各群から2以上を有していることが好ましく、3以上を有していることがより好ましい。
前記の蛋白質組成物の製造方法において、麹菌を培養する際に、前述した栄養組成物として(α)玄米粉を用いることで(i)の、(β)酒粕および粗糖の組み合わせを用いることで(ii)の、(γ)イーストエキストラクトおよび粗糖の組み合わせを用いることで(iii)の成分を1以上、2以上または3以上有する蛋白質組成物を好適に製造することができる。
上述の成分はいずれも生物に対しての栄養素、または機能性の化合物として働き、したがって、これらを含有する蛋白質組成物は機能性の食品、例えば健康食品などに好適に応用することができる。
【0049】
(蛋白質組成物を用いた食品)
本実施形態の蛋白質組成物は、食品に使用することができる。特に、含有する機能性成分によって、特定の機能を発揮する機能性食品としての使用に適している。
本発明の麹菌は、麹菌をそのまま蛋白質組成物として、食肉代替素材として単独で使用することができるが、大豆やおからなどの根菜類、パン粉などの穀物類、植物性たんぱく質の加水分解物(HVP)などの植物性たんぱく質素材、卵、卵白などを1種以上混合しても良い。さらに、肉代替素材として、食肉を使用しない食品だけでなく、食肉と本願発明の菌糸体を混合しても良い。
【0050】
本発明の麹菌単独又は、前段に例示した成分と混合したものを、例えば、ハンバーグ、ミートボールなどの食肉主体の食品、ギョーザ、シューマイ、肉まんなどの中具、ソーセージ、ハム、ベーコンなどの食肉加工品に使用される畜肉の代替として用いることで、食肉様食品とすることができる。
さらに、例えば、ハンバーグ中の畜肉の一部本発明の麹菌に置き換えるなど、畜肉の挽肉の一部を本発明品に置き換えて、本発明品を挽肉様として使用することもできる。
【0051】
(本実施形態の別の態様)
本実施形態は、別の側面として、以下のような態様も含む。
本実施形態の他の側面は、蛋白質成分及び機能性成分を含む蛋白質組成物の製造方法であって、糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、前記機能性成分はアミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物である、前記蛋白質組成物を含む麹菌の培養方法である。
本実施形態の他の側面は、糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程により得られる、アミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物の機能性成分である。
本実施形態の他の側面は、糖を含有する栄養組成物を含む培地で麹菌を培養して、前記培養した麹菌に前記蛋白質組成物を生成させる工程を含み、アミノ酸、ビタミン又は炭化水素化合物の機能性成分を得る、機能性成分の製造方法である。
本実施形態のさらに他の側面は、前記培養した麹菌である。
本実施形態のさらに他の側面は、前記培養した麹菌の前記食品の製造のための使用である。
本実施形態のさらに他の側面は、前記蛋白質組成物の前記食品の製造のための使用である。
【0052】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、麹菌の培養により生成される蛋白質組成物について、培養の条件を選択することで蛋白質組成物中の特定の機能性関与成分の含有量を高めることのできる、蛋白質組成物の製造方法およびそれにより得られた蛋白質組成物が得られる。
【0053】
従来の技術では、麹菌で生成される蛋白質組成物の成分について、特定の機能性関与成分であって複数の化合物の含有量を同時に高める培養方法は見つかっていない。
本実施形態の蛋白質組成物の製造方法および製造された蛋白質組成物により、複数の機能性成分の含有量を高めることができるため、この蛋白質組成物を健康食品等の機能性食品に用い、消費者が摂取することで、消費者はより健康効果を受けることが期待できる。
【0054】
また、本実施形態の蛋白質組成物は、食品として摂取されることの多い蛋白質成分に機能性成分が含まれているので、様々な食品に応用が可能であり、機能性の高い食品としての利用範囲が広い。
【実施例0055】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
(麹菌培養サンプルの機能性成分分析)
(麹菌培養サンプルの調整)
麹菌RIB40株に3種類の栄養組成物群を加えて培養し、蛋白質組成物を生成させ、蛋白質組成物に含まれる機能性成分を分析した。
【0057】
まず、麹菌を培養する培地成分を調整した。培地主原料として以下の成分、
培地1:(α)玄米粉
培地2:(β)酒粕および粗糖
培地3:(γ)イーストエキストラクトおよび粗糖
をそれぞれ加え、この培地を200ml三角フラスコに張り込み、121℃で20分滅菌し、培地成分を得た。
【0058】
得られた培地1、培地2、培地3にそれぞれ麹菌RIB40株の麹菌粉末を植菌した。30℃インキュベーター内、回転数120rpmで96時間または48時間振とう培養を行った。培養終了後、培養液をろ紙を用いてろ過して麹菌体を集菌した。回収した麹菌体は純水で3回洗浄して培地由来の成分を取り除き、最終的に圧搾と吸引により水分を可能な限り取り除くことで、麹菌体を取得した。以降の実験のため、得られた菌体を凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
得られた乾燥麹菌体(粉末状)を、培地1、培地2、培地3から得られた試料をそれぞれ実施例1(BM28-1)、実施例2(BM28-8)、実施例3(BM35-1)とした。麹菌体は蛋白質成分が多く含まれるため、麹菌体をそのまま蛋白質組成物試料とした。
【0059】
(機能性成分分析)
蛋白質組成物試料からの分析用試料を抽出するための反応抽出液を、
10μL 2.5mM CSA(水)
240μL 水(Purified water)
950μL メタノール(計1.2mL)
を混合して調整した。
各実施例の蛋白質組成物試料10mgに対して、準備した前記反応抽出液120μLを添加した。ホモジナイズ棒でよくすりつぶした。得られた試料を遠心分離(15krpm、5分間、4℃)し、90μL上澄みをチューブに回収した。この回収試料を遠心型エバポレーターで一晩乾固した。得られた乾燥試料を70μL超純水で再溶解し、チューブミキサーで5分間攪拌し、再度遠心分離した(15krpm、5分間、4℃)。50μL上清をサンプルカップへ分取した。
この調整した分析用試料に含まれる化合物は、機能性成分分析メソッドを用いてLC MSMS 8050(島津製作所製)で分析を行った。分析用試料は用事希釈し、注入量:3μLとした。
【0060】
実施例1~3のそれぞれの分析用試料について、測定対象の化合物種のうち、消費者庁に登録された機能性関与成分から内部標準化合物(No.4;Camphorsulfonate)を除く、全71種の機能性成分関連化合物種で相対定量を実施した。相対定量には、得られたマスクロマトグラムのピーク面積(内標化合物で標準化)を用いた。その結果、各サンプルにおいて計36種の化合物が検出された。71種のうちの検出されなかった化合物については、検出限界値以下であったと判断した。
検出された機能性成分化合物データに基づく多変量解析に基づく、サンプル間の類似度のマッピング解析(Rソフトveganパッケージを活用)を行った結果を図1図2に示す。
【0061】
図1は実施例1~3の分析用試料に含まれる化合物を示すプロット、図2図1のプロット上における各化合物の寄与を示すグラフ図である。
すなわち、図1図2の縦軸と横軸は、[,1]は多変量解析における第一主成分軸、[,2]は第二主成分軸を示す。化合物の種類によって、多変量解析から導き出した第一、第二種成分軸の値が規定され、多変量解析から導き出した各化合物の相関関数が得られている。
概ね、サンプルがプロットされた位置によって、図2において同じプロットの位置に記載された化合物が、そのサンプルに多く含まれるといえる。
【0062】
図1図2より、実施例1の分析用試料には、栄養組成物として玄米粉の添加により、フェニルアラニン、L-アラニン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、ヘスペリジン、カテキン、ピルビン酸およびサラシノールを含む機能性関与成分が含まれていたことがわかる。
実施例2の分析用試料には、栄養組成物として酒粕および粗糖の添加により、ナリンゲニン、キナ酸、ナリンギン、クエン酸、エルゴチオネイン、シトルリン、オルニチン、硫化ジアリル、D-ビニトール、アセチルコリン、3-ヒドロキシチロゾールを含む機能性関与成分が含まれていたことがわかる。
実施例3の分析用試料には、栄養組成物としてイーストエキスストラクトおよび粗糖の添加により、トレオニン、リジン、ヒスチジン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、4-アミノ酪酸、5-アミノレブリン酸、アルギニンおよびテアニンを含む機能性関与成分が含まれていたことがわかる。
【0063】
本実施例の結果より、麹菌に各種類の栄養組成物を添加して培養することで、各種の機能性関与成分の含有量が高まることが示された。この結果から、添加した栄養組成物の種類によって異なる、複数種の組み合わせの機能性成分が含まれる蛋白質組成物が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、麹菌の培養により生成される蛋白質組成物について、培養の条件を選択することで蛋白質組成物中の特定の機能性関与成分の含有量を高めることのできる、蛋白質組成物の製造方法およびそれにより得られた蛋白質組成物が得られる。
図1
図2