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特開2024-8617成形用樹脂組成物、誘電体基板およびマイクロストリップアンテナ
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  • 特開-成形用樹脂組成物、誘電体基板およびマイクロストリップアンテナ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008617
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】成形用樹脂組成物、誘電体基板およびマイクロストリップアンテナ
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240112BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08G59/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110629
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛志
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002BK00Y
4J002CA00Y
4J002CC03X
4J002CC04X
4J002CC05X
4J002CC07X
4J002CC18X
4J002CD02W
4J002CD03W
4J002CD04W
4J002CD05W
4J002CD06W
4J002CD07W
4J002CD11W
4J002CD13W
4J002CE00Y
4J002CF04X
4J002DE186
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD090
4J002FD116
4J002FD14X
4J002FD150
4J002FD160
4J002FD200
4J002GQ02
4J002GR00
4J036AC02
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD12
4J036AD21
4J036AE05
4J036AF05
4J036AF06
4J036AF08
4J036AF15
4J036AH00
4J036AJ08
4J036DA01
4J036DC26
4J036DC41
4J036DC46
4J036FA03
4J036FA05
4J036FA12
4J036FA13
4J036FB02
4J036FB06
4J036FB07
4J036FB11
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】高誘電率および低誘電正接を実現できる成形用樹脂組成物に関する技術を提供する。
【解決手段】本発明の成形用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、高誘電率充填剤(C)および以下の式(D1)で示される構造単位を有するインデン樹脂(D)を含む。
【化1】
(一般式(D1)中、RからRはそれぞれ独立して、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、高誘電率充填剤(C)および以下の一般式(D1)で示される構造単位を有するインデン樹脂(D)を含む、成形用樹脂組成物。
【化1】
(一般式(D1)中、RからRはそれぞれ独立して、水素または炭素数1以上3以下の有機基を表す。)
【請求項2】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
当該成形用樹脂組成物の硬化物の1MHzにおける誘電率(Dk:εr)が10~30であり、当該成形用樹脂組成物の硬化物の1MHzにおける誘電正接(Df:tanδ)が0.0020~0.0050である、成形用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
以下の手順で測定される260℃での曲げ弾性率が、50N/mmMPa以上である、成形用樹脂組成物。
(手順)当該成形用樹脂組成物を、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形したのち、175℃、4時間の条件で後硬化させて試験片を作製する。当該試験片を用いて、JIS K 6911に準拠して、260℃での曲げ弾性率を測定する。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)の含有量が、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、4質量部以上50質量部以下である、成形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)の重量平均分子量Mwは400~4000である、成形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)中の前記一般式(D1)で示される構造単位のモル含有量が50%以上である、成形用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記高誘電率充填剤(C)がチタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記高誘電率充填剤(C)の含有量は、前記成形用樹脂組成物全量に対して、50~90質量%である、成形用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
175℃におけるゲルタイムが30~100秒である、成形用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
硬化剤(B)が、活性エステル系硬化剤および/またはフェノール系硬化剤を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
カップリング剤(E)をさらに含む、成形用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
硬化触媒(F)をさらに含む、成形用樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物であって、
アンテナを形成する材料として用いられる、成形用樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物の硬化物。
【請求項16】
請求項1または2に記載の成形用樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板。
【請求項17】
請求項16に記載の誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用樹脂組成物、誘電体基板およびマイクロストリップアンテナに関する。より詳細には、本発明は、成形用樹脂組成物およびその硬化物、これを用いた誘電体基板およびマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信が高速化され、さらに使用される通信機器に対して高性能化および小型化が求められている。さらに、近年、無線通信の容量が急激に増大してきており、それに伴う伝送信号の使用周波数の広帯域化、高周波化が急速に進行している。そのため、通信機器の使用周波数帯は、従来使用されてきたマイクロ波帯だけでは対応できず、ミリ波帯にまで拡大されつつある。そのような背景から通信機器に搭載されるアンテナヘの高性能化が強く求められている。
【0003】
通信機器は、通信機器内部に組み込まれたアンテナ材料(誘電体基板)の誘電率が高くなると、より一層の小型化が図れる。また、誘電体基板の誘電正接が小さくなると、低損失になり、高周波化に有利となる。従って、誘電率が高く、誘電正接が小さい誘電体基板を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図ることができる。
【0004】
特許文献1には、フッ素樹脂とガラスクロスとを含む複合材料である誘電体基板と、フッ素樹脂に接する面の二次元粗度Raが0.2μm未満であるアンテナとの積層体である回路用基板を有するアンテナが開示されている。当該文献には、1GHzにて測定された回路用基板の誘電率および誘電正接が記載されている。
【0005】
特許文献2には、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂と高誘電率充填剤とエポキシ樹脂とを含み、25℃、1MHzにおける硬化物の比誘電率が15以上である樹脂組成物が開示されている。当該文献の実施例には、この高誘電率充填剤としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【0006】
特許文献3には、エポキシ樹脂、誘電体粉末、ノニオン性界面活性剤、および活性エステル系硬化剤を含有する樹脂組成物が開示されている。当該文献には、この樹脂組成物を、高周波領域で使用される電子部品の高誘電率絶縁材料や、指紋センサー用の高誘電率絶縁材料として用いることができると記載されている。当該文献の実施例には、この誘電体粉末としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【0007】
特許文献4には、エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン酸カルシウム粒子およびチタン酸ストロンチウム粒子を所定の量で含む無機充填剤と、を含み、前記無機充填剤が、シリカ粒子およびアルミナ粒子からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有し、高周波デバイスにおける電子部品の封止に用いられる成形用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-41998号公報
【特許文献2】特開2004-315653号公報
【特許文献3】特開2020-105523号公報
【特許文献4】特許第6870778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、高誘電率の樹脂組成物の各種特性について要求される技術水準は、ますます高くなり、特許文献1~4に記載の成形用樹脂組成物や誘電体基板であっても、高誘電率および低誘電正接を両立する点で改善の余地があった。なかでも、アンテナ構造物に用いた際の良好な機械的強度を保持しつつ高誘電率および低誘電正接を実現する点で顕著であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、高誘電率かつ低誘電正接を実現する新たな材料の開発に着目し、検討を進めた結果、特定の構造を有するインデンオリゴマーを用いることが有効であることを知見した。
【0011】
本発明によれば、以下の成形用樹脂組成物、誘電体基板およびマイクロストリップアンテナに関する技術が提供される。
【0012】
[1] エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、高誘電率充填剤(C)および以下の一般式(D1)で示される構造単位を有するインデン樹脂(D)を含む、成形用樹脂組成物。
【化1】
(一般式(D1)中、RからRはそれぞれ独立して、水素または炭素数1以上3以下の有機基を表す。)
[2] [1]に記載の成形用樹脂組成物であって、
当該成形用樹脂組成物の硬化物の1MHzにおける誘電率(Dk:εr)が10~30であり、当該成形用樹脂組成物の硬化物の1MHzにおける誘電正接(Df:tanδ)が0.0020~0.0050である、成形用樹脂組成物。
[3] [1]または[2]に記載の成形用樹脂組成物であって、
以下の手順で測定される260℃での曲げ弾性率が、50N/mmMPa以上である、成形用樹脂組成物。
(手順)当該成形用樹脂組成物を、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形したのち、175℃、4時間の条件で後硬化させて試験片を作製する。当該試験片を用いて、JIS K 6911に準拠して、260℃での曲げ弾性率を測定する。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)の含有量が、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、4質量部以上50質量部以下である、成形用樹脂組成物。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)の重量平均分子量Mwは400~4000である、成形用樹脂組成物。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記インデン樹脂(D)中の前記一般式(D1)で示される構造単位のモル含有量が50%以上である、成形用樹脂組成物。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記高誘電率充填剤(C)がチタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
[8] [1]乃至[7]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記高誘電率充填剤(C)の含有量は、前記成形用樹脂組成物全量に対して、50~90質量%である、成形用樹脂組成物。
[9] [1]乃至[8]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
175℃におけるゲルタイムが30~100秒である、成形用樹脂組成物。
[10] [1]乃至[9]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
[11] [1]乃至[10]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
硬化剤(B)が、活性エステル系硬化剤および/またはフェノール系硬化剤を含む、成形用樹脂組成物。
[12] [1]乃至[11]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
カップリング剤(E)をさらに含む、成形用樹脂組成物。
[13] [1]乃至[12]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
硬化触媒(F)をさらに含む、成形用樹脂組成物。
[14] [1]乃至[13]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物であって、
アンテナを形成する材料として用いられる、成形用樹脂組成物。
[15] [1]乃至[13]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物の硬化物。
[16] [1]乃至[13]いずれか一つに記載の成形用樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板。
[17] [16]に記載の誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高誘電率および低誘電正接を実現できる成形用樹脂組成物に関する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のマイクロストリップアンテナを模式的に示す上面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比等は、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0016】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値および上限値と任意に組み合わせられる。
【0017】
本明細書に例示する各成分および材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
本実施形態の成形用樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」とも称する。)は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、高誘電率充填剤(C)および以下の式(D1)で示される構造単位を有するインデン樹脂(D)を含む。
本実施形態の樹脂組成物によれば、成形用材料としての良好な加工性を保持しつつ、高誘電率および低誘電正接を実現できる。
【0019】
【化2】
(一般式(D1)中、RからRはそれぞれ独立して、水素または炭素数1以上3以下の有機基を表す。)
【0020】
以下、本実施形態の樹脂組成物に含まれる各成分について説明する
【0021】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂の中から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂(A)の含有量は、本発明の効果を得る観点から、樹脂組成物全体に対して、3質量%以上20質量%以下、好ましくは7質量%以上12質量%以下とすることができる。
【0023】
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、エポキシ樹脂(A)を硬化させるために用いられる。硬化剤(B)としては、公知のものを用いることができるが、活性エステル系硬化剤(b1)および/またはフェノール系硬化剤(b2)を含むことが好ましい。
【0024】
(活性エステル系硬化剤(b1))
活性エステル系硬化剤(b1)としては、1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いることができる。中でも、活性エステル系硬化剤(b1)としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
本実施形態においては、前述のエポキシ樹脂(A)と、活性エステル系硬化剤(b1)とを組み合わせて含むことにより、高誘電率および低誘電正接に優れた誘電体基板を得ることができる。
【0025】
活性エステル系硬化剤(b1)の好ましい具体例としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系硬化剤が挙げられ、少なくとも1種を含むことができる。中でも、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤がより好ましい。
なお「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0026】
本実施形態において、活性エステル系硬化剤(b1)は、例えば、以下の一般式(1)で表される構造を有する樹脂を用いることができる。
【0027】
【化3】
【0028】
式(1)において、Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、Ar’は、置換または非置換のアリール基であり、kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲である。Bは、以下の式(B)で表される構造である。
【0029】
【化4】
【0030】
式(B)中、Arは、置換または非置換のアリーレン基であり、Yは、単結合、置換または非置換の炭素数1~6の直鎖のアルキレン基、または置換または非置換の炭素原子数3~6の環式のアルキレン基、置換または非置換の2価の芳香族炭化水素基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。nは0~4の整数である。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物は、特定の活性エステル系硬化剤(b1)を含むことにより、得られる硬化物は優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接に優れる。
【0032】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる活性エステル系硬化剤(b1)は、式(B)で表される活性エステル基を有する。
エポキシ樹脂(A)と活性エステル系硬化剤(b1)との硬化反応において、活性エステル系硬化剤(b1)の活性エステル基はエポキシ樹脂(A)のエポキシ基と反応して2級の水酸基を生じる。この2級の水酸基は、活性エステル系硬化剤(b1)のエステル残基により封鎖される。そのため、硬化物の誘電正接が低減される。
【0033】
一実施形態において、上記式(B)で表される構造は、以下の式(B-1)~式(B-6)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0034】
【化5】
【0035】
式(B-1)~(B-6)において、
はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基のいずれかであり、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基のいずれかであり、Xは炭素数2~6の直鎖のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基のいずれかであり、n、pはそれぞれ1~4の整数である。
【0036】
上記式(B-1)~(B-6)で表される構造は、いずれも配向性が高い構造であることから、これを含む活性エステル系硬化剤(b1)を用いた場合、得られる樹脂組成物の硬化物は、低誘電正接を有するとともに、金属に対する密着性に優れ、そのため半導体封止材料として好適に用いることができる。
中でも、低誘電正接の観点から、式(B-3)または(B-5)で表される構造を有する活性エステル系硬化剤(b1)が好ましく、さらに式(B-3)のXがエーテル結合である構造、または式(B-5)において二つのカルボニルオキシ基が4,4’-位にある構造を有する活性エステル系硬化剤(b1)がより好ましい。また各式中のRはすべて水素原子であることが好ましい。
【0037】
式(1)における「Ar’」はアリール基であり、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、3,5-キシリル基、o-ビフェニル基、m-ビフェニル基、p-ビフェニル基、2-ベンジルフェニル基、4-ベンジルフェニル基、4-(α-クミル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等であり得る。中でも、誘電正接がより低い硬化物が得られることから、1-ナフチル基または2-ナフチル基であることが好ましい。
【0038】
本実施形態において、式(1)で表される活性エステル系硬化剤(b1)における「A」は、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、このようなアリーレン基としては、例えば、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物と、フェノール性化合物とを重付加反応させて得られる構造が挙げられる。
【0039】
前記1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物は、例えば、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエンの多量体、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、リモネン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、耐熱性に優れる硬化物が得られることからジシクロペンタジエンが好ましい。尚、ジシクロペンタジエンは石油留分中に含まれることから、工業用ジシクロペンタジエンにはシクロペンタジエンの多量体や、他の脂肪族あるいは芳香族性ジエン化合物等が不純物として含有されることがあるが、耐熱性、硬化性、成形性等の性能を考慮すると、ジシクロペンタジエンの純度90質量%以上の製品を用いることが望ましい。
【0040】
一方、前記フェノール性化合物は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、硬化性が高く硬化物における誘電特性に優れる活性エステル系硬化剤(b1)となることからフェノールが好ましい。
【0041】
好ましい実施形態において、式(1)で表される活性エステル系硬化剤(b1)における「A」は、以下の式(A)で表される構造を有する。式(1)における「A」が以下の構造である活性エステル系硬化剤(b1)を含む樹脂組成物は、その硬化物が低誘電正接であり、インサート品に対する密着性に優れる。
【0042】
【化6】
【0043】
式(A)において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基のいずれかであり、lは0または1であり、mは1以上の整数である。
【0044】
式(1)で表される活性エステル系硬化剤(b1)のうち、特に好ましいものとして、以下の式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)で表される樹脂が挙げられ、なかでも好ましいものとして、以下の式(1-3)で表される樹脂が挙げられる。
【0045】
【化7】
【0046】
式(1-1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基のいずれかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、または、芳香核上に炭素数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基あるいはナフチル基であり、lは0または1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0047】
【化8】
【0048】
式(1-2)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基のいずれかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、または、芳香核上に炭素数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基あるいはナフチル基であり、lは0または1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0049】
【化9】
【0050】
式(1-3)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0051】
本発明で用いられる活性エステル系硬化剤(b1)は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライドと、芳香族モノヒドロキシ化合物と、を反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0052】
上記フェノール性化合物と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライドと、芳香族モノヒドロキシ化合物と、の反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル系硬化剤(b1)が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライドが有するカルボキシル基または酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0053】
また、活性エステル系硬化剤(b1)の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の樹脂組成物において、活性エステル系硬化剤(b1)とエポキシ樹脂(A)との含有量は、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル系硬化剤(b1)中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル系硬化剤(b1)中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基を指す。
【0055】
本実施形態の組成物において、活性エステル系硬化剤(b1)は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で用いられる。
特定の活性エステル系硬化剤(b1)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、活性エステル系硬化剤(b1)と、後述の高誘電率充填剤(C)とを組み合わせて用いることにより、高誘電率および低誘電正接により優れ、高周波帯においてもこれらの効果に優れる。
上記効果を得る観点から、活性エステル系硬化剤(b1)は、後述の高誘電率充填剤(C)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上15質量部以下となるように含むことができる。
【0057】
(フェノール系硬化剤(b2))
フェノール系硬化剤(b2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミン等でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0058】
フェノール系硬化剤(b2)の含有量は、エポキシ樹脂(A)に対して、好ましくは、20質量%以上70質量%以下の量である。上記範囲の量で硬化剤を使用することにより、優れた硬化性を有する樹脂組成物が得られる。
【0059】
硬化剤(B)が活性エステル系硬化剤(b1)およびフェノール系硬化剤(b2)を含む場合、活性エステル系硬化剤(b1)に対するフェノール系硬化剤(b2)の含有量の比は、好ましくは0.5以上8以下、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1.5以上3以下とすることができる。
活性エステル系硬化剤(b1)およびフェノール系硬化剤(b2)を上記の比で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0060】
本実施形態の組成物において、活性エステル系硬化剤(b1)および/またはフェノール系硬化剤(b2)を含む硬化剤(B)の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上7質量%以下であり、ことさらに好ましくは2質量%以上6.0質量%以下である。
硬化剤(B)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができる。また、硬化剤(B)を上記上限値以下とすることで、誘電正接を一層低下させることができる。
【0061】
[高誘電率充填剤(C)]
高誘電率充填剤(C)は、本実施形態の樹脂組成物の誘電率を効果的に向上させるために用いられる。高誘電率充填剤(C)とは、誘電率が30以上であり、好ましくは70以上、さらに好ましくは100以上の充填剤である。誘電率の上限値は特に限定されないが、たとえば、30000程度であってもよい。
【0062】
高誘電率充填剤(C)としては、金属酸化物からなるものが好ましく、例えば、チタン系金属酸化物およびジルコニア系金属酸化物などが挙げられる。
高誘電率充填剤(C)として具体的には、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウム等の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明の効果を得る観点から、なかでも、高誘電率充填剤(C)としては、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、チタン酸カルシウム、およびチタン酸マグネシウムがさらに好ましい。
【0063】
高誘電率充填剤(C)の形状は、特に限定されず、粒状、不定形、またはフレーク状等であってもよく、これらの混合物であってもよい。
高誘電率充填剤(C)の平均粒子径は、本発明の効果を得る観点や良好な流動性および充填性を得る観点から、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.5μm以上20μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上10μm以下であり、ことさらに好ましくは、1.0μm以上5.0μm以下である。
【0064】
高誘電率充填剤(C)の含有量は、樹脂組成物100質量%中に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上の範囲である。高誘電率充填剤(C)の含有量の上限値は、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。
高誘電率充填剤(C)の含有量が上記範囲であると、得られる硬化物の高誘電率および低誘電正接により優れるとともに、成形品の製造にも優れる。
【0065】
[インデン樹脂(D)]
本実施形態のインデン樹脂(D)は、以下の式(D1)で示される、いわゆるインデンまたはインデン誘導体に由来する構造単位を有する。これにより、良好な機械特性を保持しつつも、樹脂組成物の誘電正接をより低くすることができる。
【0066】
【化10】
(一般式(D1)中、RからRはそれぞれ独立して、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。)
【0067】
上記一般式(D1)における、RからRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1以上3の有機基であり、水素または炭素数1の有機基であることが好ましく、水素であることがさらに好ましい。
また、RからRを構成する有機基は、例えば、有機基の構造に水素および炭素以外の原子を含んでもよい。
からRを構成する有機基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基;アリル基、ビニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基;メチリデン基、エチリデン基等のアルキリデン基;シクロプロピル基等のシクロアルキル基;エポキシ基オキセタニル基等のヘテロ環基等が挙げられる。
水素および炭素以外の原子としては、具体的には、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。水素および炭素以外の原子としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を含むことができる。
【0068】
インデン樹脂(D)の重量平均分子量Mwの上限値は、例えば、4000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1500以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが一層好ましく、800以下であることがことさら好ましい。これにより、インデン樹脂(D)とエポキシ樹脂(A)との相溶性を高め、樹脂組成物中に適切にインデン樹脂(D)を分散できる。
また、インデン樹脂(D)の重量平均分子量Mwの下限値は、例えば、400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、550以上であることがさらに好ましく、600以上であることが一層好ましい。これにより、樹脂組成物の中にインデン樹脂(D)が適切に分散できる。したがって、インデン樹脂(D)は内部応力の増加を適切に抑制することができる。
【0069】
インデン樹脂(D)の数平均分子量Mnの上限値は、例えば、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが一層好ましく、600以下であることがことさら好ましい。これにより、インデン樹脂(D)とエポキシ樹脂(A)との相溶性を高め、適切にインデン樹脂(D)を分散できる。
また、インデン樹脂(D)の数平均分子量Mnの下限値は、例えば、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、350以上であることがさらに好ましく、400以上であることが一層好ましい。これにより、樹脂組成物の中にインデン樹脂(D)が適切に分散できる。したがって、インデン樹脂(D)は内部応力の増加を適切に抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態に係るインデン樹脂(D)の多分散度の上限値は、インデン樹脂(D)の分子鎖毎の物性を均一にする観点から、例えば、2.50以下であって、2.00以下とするのが好ましく、1.80以下とするのがさらに好ましく、1.70以下とするのが一層好ましい。また、上限値と同様の観点から、共重合体の多分散度の下限値は、例えば、1.00以上とすることができ、1.10以上としてもよい。
なお、多分散度とは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnによって表され、分子量分布の幅を示す分散度を意味するものである。
【0071】
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および多分散度Mw/Mnは、例えば、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いて評価、算出できる。
【0072】
GPC測定の測定条件は、例えば以下の通りである。
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製TSK-GEL Supermultipore HZ-M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0073】
上記一般式(D1)で示される構造単位を含むインデン樹脂(D)としては、具体的には、上記一般式(D1)で示される構造単位を繰り返し単位として有するインデンホモオリゴマーまたはインデンホモポリマーが挙げられる。
【0074】
また、本実施形態のインデン樹脂(D)としては、上記一般式(D1)で示される構造単位と、上記以外の他のモノマーに由来する構造単位と、を繰り返し単位として有するものであってもよく、いわゆる、インデンコオリゴマーまたはインデンコポリマーであってもよい。
他のモノマーに由来する構造単位としては、具体的には、例えば、フェノール系モノマー、スチレン系モノマー、クマロン系モノマー、ベンゾチオフェン系モノマー等のモノマーに由来するものが挙げられるが詳細は後述する。
【0075】
本実施形態において、インデン樹脂(D)としては、インデンコポリマーまたはインデンコオリゴマーであることが好ましく、インデンコオリゴマーであることがより好ましい。これにより、樹脂組成物中に適切にインデン樹脂(D)を分散できる。
【0076】
なお、本実施形態において、オリゴマーとは数平均分子量が10000未満のものを示し、ポリマーとは数平均分子量が10000以上のものを示す。
【0077】
インデン樹脂(D)がインデンコポリマーまたはインデンコオリゴマーである場合、インデン樹脂(D)中の一般式(D1)で示される構造単位のモル含有量の下限値は、例えば、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが一層好ましく、90%以上であることがことさら好ましい。これにより、樹脂組成物の硬化物における機械的強度を良好にできる。また、樹脂組成物を高温保管した場合における内部応力の増加を抑制できる。
また、インデン樹脂(D)がインデンコポリマーまたはインデンコオリゴマーである場合、インデン樹脂(D)中の一般式(D1)で示される構造単位のモル含有量の上限値は、例えば、99.5%以下とすることができる。これにより、一般式(D1)で示される構造単位以外の構造単位が、エポキシ樹脂(A)との相溶性を向上させることができる。したがっての分散状態を適切にでき、樹脂組成物を高温保管した場合における内部応力の増加を抑制できる。
【0078】
次に、上記の他のモノマーに由来する構造単位について詳細を説明する。
フェノール系モノマーに由来する構造単位としては、具体的には、以下の一般式(M1)で表されるものが挙げられる。スチレン系モノマーに由来する構造単位としては、具体的には、以下の一般式(M2)で表されるものが挙げられる。クマロン系モノマーに由来する構造単位としては、具体的には、以下の一般式(M3)で表されるものが挙げられる。ベンゾチオフェン系モノマーに由来する構造単位としては、具体的には、以下の一般式(M4)で表されるものが挙げられる。
【0079】
【化11】
【0080】
(一般式(M1)中、Rは、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。Rは互いに同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0081】
【化12】
【0082】
(一般式(M2)中、Rは、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。Rは互いに同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0083】
【化13】
【0084】
(一般式(M3)中、Rは、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。Rは互いに同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0085】
【化14】
【0086】
(一般式(M4)中、Rは、水素または炭素数1以上3以下の有機基である。Rは互いに同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0087】
上記一般式(M1)~(M4)において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、例えば、有機基の構造に水素および炭素以外の原子を含んでもよい。
水素および炭素以外の原子としては、具体的には、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。水素および炭素以外の原子としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を含むことができる。
【0088】
上記一般式(M1)~(M4)において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、例えば、水素または炭素数1以上3の有機基であり、水素または炭素数1の有機基であることが好ましく、水素であることがさらに好ましい。
【0089】
上記一般式(M1)~(M4)において、R、R、RおよびRを構成する有機基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基;アリル基、ビニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基;メチリデン基、エチリデン基等のアルキリデン基;シクロプロピル基等のシクロアルキル基;エポキシ基、オキセタニル基等のヘテロ環基等が挙げられる。
【0090】
インデン樹脂(D)は、上記具体例のうち、フェノール系モノマーに由来する構造単位またはスチレン系モノマーに由来する構造単位を含むことが好ましく、フェノール系モノマーに由来する構造単位およびスチレン系モノマーに由来する構造単位を含むことがより好ましい。
これにより、エポキシ樹脂(A)と、インデン樹脂(D)との相溶性をより向上することができる。したがって、より分散したインデン樹脂(D)の相を形成でき、樹脂組成物を高温で保管した時の引張弾性率の上昇を抑制できると推測される。
【0091】
インデン樹脂(D)の含有量の下限値は、例えば、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、4質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、12質量部以上であることが一層好ましく、14質量部以上であることがことさら好ましい。これにより、樹脂組成物を高温保管した場合における内部応力の増加を抑制できる。
インデン樹脂(D)の含有量の上限値は、例えば、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましく、38質量部以下であることが一層好ましい。これにより、ポストキュア後における樹脂組成物の硬化物の引張弾性率を適切に維持できる。
【0092】
インデン樹脂(D)の含有量は、本実施形態の樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上8質量%以下である。
インデン樹脂(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、良好な機械特性を保持しつつ、誘電正接をより低くすることができ、また流動性を高めることができる。一方、インデン樹脂(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、良好な低誘電正接を保持しつつ、機械的強度を高めることができる。
【0093】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに以下の成分を含んでもよい。
【0094】
[カップリング剤(E)]
カップリング剤(E)により、高誘電率充填剤(C)および後述する任意の無機充填剤の凝集を抑制し、樹脂組成物の良好な流動性を得ることができる。
カップリング剤(E)としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
【0095】
より具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでもシラン系カップリング剤であることが好ましい。
【0096】
カップリング剤(E)の含有量は、とくに限定されないが、樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。カップリング剤(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物中における無機充填剤等の分散性を良好なものとすることができる。また、カップリング剤(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性の向上を図ることができる。
【0097】
[硬化触媒(F)]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに硬化触媒(F)を含むことができる。
硬化触媒(F)は、硬化促進剤等と呼ばれる場合もある。硬化触媒(F)は、エポキシ樹脂(A)といった熱硬化性樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0098】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物等を挙げることができ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0099】
これらの中でも、硬化性を向上させ、曲げ強度等の機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
【0100】
なかでも上述した一般式(1)で表される活性エステル系硬化剤(b1)と潜伏性を有する硬化触媒とを組み合わせて用いることにより、成形性により優れるとともに、曲げ強度等の機械強度により優れた磁性材料を得ることができる。
【0101】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば以下の一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0102】
【化15】
【0103】
一般式(6)において、Pはリン原子を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。x、yはそれぞれ1~3であり、zは0~3であり、かつx=yである。
【0104】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。
一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR、R、RおよびRがフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール等の単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノール等の縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノール等の多環式フェノール類等が例示される。
【0105】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、以下の一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0106】
【化16】
【0107】
一般式(7)において、Pはリン原子を表す。Rは炭素数1~3のアルキル基、Rはヒドロキシル基を表す。fは0~5であり、gは0~3である。
【0108】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0109】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、以下の一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0110】
【化17】
【0111】
一般式(8)において、Pはリン原子を表す。R10、R11およびR12はそれぞれ、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。R13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0112】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0113】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0114】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0115】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0116】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば以下の一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0117】
【化18】
【0118】
一般式(9)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。R20は、基YおよびYと結合する有機基である。R21は、基YおよびYと結合する有機基である。YおよびYは、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。YおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y、Y、YおよびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。Zは芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0119】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0120】
一般式(9)において、R20は、YおよびYと結合する有機基である。同様に、R21は、基YおよびYと結合する有機基である。YおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にYおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y、Y、Y、およびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0121】
このような一般式(9)中の-Y-R20-Y-、およびY-R21-Y-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2’-ビフェノール、1,1’-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0122】
一般式(9)中のZは、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
【0123】
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0124】
硬化触媒(F)を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0125】
[無機充填剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、吸湿性低減、線膨張係数低減、熱伝導性向上および強度向上のために、高誘電率充填剤(C)以外に無機充填剤を含むことができる。
【0126】
無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の無機充填剤の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性および金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0127】
高誘電率充填剤(C)以外の無機充填剤の含有量は、成形性、熱膨張性の低減、および強度向上の観点から、樹脂組成物全体に対して、好ましくは10質量%以上30質量%以下、より好ましくは12質量%以上20質量%以下の範囲とすることができる。上記範囲であれば、熱膨張性低減および成形性に優れる。
【0128】
次に、本実施形態の樹脂組成物が備える物性等について説明する。
【0129】
[誘電率、誘電正接]
本実施形態の樹脂組成物は、120℃で4分間プリベークを行い、200℃で90分加熱して得られる硬化物の1MHzにおける誘電率(Dk:εr)が、好ましくは10~30であり、より好ましくは12~25であり、さらに好ましくは15~20である。
また、本実施形態の樹脂組成物は、120℃で4分間プリベークを行い、200℃で90分加熱して得られる硬化物の1MHzにおける誘電正接(Df:tanδ)が、好ましくは0.0020~0.0050であり、より好ましくは、0.0020~0.0035であり、さらに好ましくは0.0020~0.0029である。
【0130】
[機械特性]
(曲げ弾性率)
本実施形態の樹脂組成物は、以下の手順で測定される260℃での曲げ弾性率が、好ましくは50N/mmMPa以上であり、より好ましくは55N/mmMPa以上であり、さらに好ましくは60N/mmMPa以上である。
一方、当該260℃での曲げ弾性率は、好ましくは200N/mmMPa以下であり、より好ましくは150N/mmMPa以下であり、さらに好ましくは110N/mm以下である。これにより、樹脂組成物の良好な成形性を保持できる。
【0131】
(手順)当該成形用樹脂組成物を、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形したのち、175℃、4時間の条件で後硬化させて試験片を作製する。当該試験片を用いて、JIS K 6911に準拠して、曲げ弾性率を測定する。
【0132】
また、上記の手順で測定される室温(25℃)での曲げ強度に対する、260℃での曲げ強度の割合が、好ましくは0.001~0.009であり、より好ましくは0.002~0.006である。
これにより、本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品の機械的強度の温度依存性が低減でき、より安定した機械的強度が得られるようになる。
【0133】
(曲げ強度)
また、上記の手順で測定される260℃での曲げ強度は、好ましくは0.5N/mmMPa以上であり、より好ましくは1.0N/mmMPa以上であり、さらに好ましくは1.5N/mmMPa以上である。
一方、当該260℃での曲げの曲げ強度は、好ましくは20N/mmMPa以下であり、より好ましくは10N/mmMPa以下であり、さらに好ましくは5N/mm以下である。これにより、樹脂組成物の良好な成形性を保持できる。
【0134】
[ゲルタイム]
本実施形態の樹脂組成物は、175℃におけるゲルタイムが30~100秒であることが好ましく、40~80秒であることがより好ましく、45~70秒であることがさらに好ましい。
【0135】
[スパイラルフロー]
本実施形態の樹脂組成物は、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、流動長(cm)を測定したときのスパイラルフローが、80~200cmであることが好ましく、90~180cmであることがより好ましく、100~150cmであることがさらに好ましい。
【0136】
本実施形態の上記特性を満たす樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、高誘電率充填剤(C)およびインデン樹脂(D)を適切に選択して、組み合わせ、その配合割合を調整する等して得ることができる。例えば、誘電率が大きい高誘電率充填剤(C)の含有量を高くするほど、誘電率を向上させやすくなる。また、例えば、インデン樹脂(D)の含有量を高くするほど、誘電正接を低くしやすくなる。
【0137】
[製造方法]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述の各成分を均一に混合することにより製造できる。製造方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。得られた熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、成形条件に合うような寸法および質量でタブレット化してもよい。
【0138】
<硬化物/成形品>
本実施形態の硬化物は、上述した成形用樹脂組成物を165~185℃、90~180秒の条件で熱硬化させることによって得られる。
実施形態の樹脂組成物の成形品は、例えば、射出成形、金属インモールド成形、アウトサート成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱プレス成形、回転成形、積層成形等の成形方法を適用することで所望の成形品に加工できる。
【0139】
本実施形態の硬化物/成形品は、高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れることから、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器等の小型化を図ることができ、マイクロストリップアンテナを形成する材料、誘電体導波路を形成する材料、さらに電磁波吸収体を形成する材料等として好適に用いることができる。
【0140】
<マイクロストリップアンテナ>
図1に示すように、本実施形態のマイクロストリップアンテナ10は、上述の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板12と,誘電体基板12の一方の面に設けられた放射導体板(放射素子)14と、誘電体基板12の他方の面に設けられた地導体板16と、を備える。
【0141】
放射導体板の形状は矩形または円形が挙げられる。本実施形態においては、矩形の放射導体板14を用いた例によって説明する。
【0142】
放射導体板14は、金属材料、金属材料の合金、金属ペーストの硬化物、および導電性高分子のいずれかを含む。金属材料は、銅、銀、パラジウム、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、カドミウム鉛、セレン、マンガン、錫、バナジウム、リチウム、コバルト、およびチタン等を含む。合金は、複数の金属材料を含む。金属ペースト剤は、金属材料の粉末を有機溶剤、およびバインダとともに混練したものを含む。バインダは、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂を含む。導電性ポリマーは、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー等を含む。
【0143】
本実施形態のマイクロストリップアンテナ10は、図1に示すように、長さL、幅Wの放射導体板14を有しており、Lが1/2波長の整数倍に一致する周波数で共振する。本実施形態のように、高誘電率である誘電体基板12を用いる場合、誘電体基板12の厚さhと放射導体板14の幅Wは波長に対して十分小さくなるように設計される。
【0144】
地導体板16は、銅や銀、金等の導電性の高い金属で構成される薄い板である。その厚さは、アンテナ装置の中心動作周波数に対して十分薄く、中心動作周波数の50分の1波長から1000分の1波長程度であればよい。
【0145】
マイクロストリップアンテナの給電方法としては,背面同軸給電および共平面給電のような直接給電方式や、スロット結合給電および近接結合給電のような電磁結合給電方式が挙げられる。
【0146】
背面同軸給電は、地導体板16と誘電体基板12を貫く同軸線路やコネクタを用いてアンテナ背面から放射導体板14に給電することができる。
共平面給電は、放射導体板14と同一面上に配置されたマイクロストリップ線路(不図示)で放射導体板14に給電することができる。
【0147】
スロット結合給電においては,地導体板16を挟み込む形でさらに別の誘電体基板(不図示)を設け、放射導体板14とマイクロストリップ線路とを別々の誘電体基板に形成する。地導体板16に空けられたスロットを介して,放射導体板14とマイクロストリップ線路とを電磁結合させることによって放射導体板14が励振される。
【0148】
近接結合給電においては、誘電体基板12が積層構造を有し、放射導体板14が形成された誘電体基板と,マイクロストリップ線路のストリップ導体および地導体板16が配置された誘電体基板とが積層されている.マイクロストリップ線路のストリップ導体を放射導体板14の下部に延長し、放射導体板14とマイクロストリップ線路を電磁結合させることにより、放射導体板14が励振される。
【0149】
<誘電体導波路>
本実施形態において、誘電体導波路は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体と、当該誘電体の表面を覆う導体膜と、を備える。誘電体導波路は、電磁波を誘電体(誘電体媒質)中に閉じこめて伝送させるものである。
前記導体膜は、銅等の金属や、酸化物高温超伝導体等から構成することができる。
【0150】
<電磁波吸収体>
本実施形態において、電磁波吸収体は、支持体、抵抗皮膜、誘電体層、および反射層が積層した構造を備える。当該電磁波吸収体は、高い電波吸収性能を備えるλ/4型電波吸収体として用いることができる。
支持体としては樹脂基材等が挙げられる。支持体により、抵抗皮膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることができる。
抵抗皮膜としては、酸化インジウムスズ、モリブデン含有抵抗皮膜等が挙げられる。
誘電体層は本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる。その厚みは、10μm以上2000μm以下程度である。
反射層は電波の反射層として機能し得るものであり、例えば金属膜が挙げられる。
【0151】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0152】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
(1)樹脂組成物の調製
以下の原料を表1に示す配合量で、常温でミキサーを用いて混合した後、70~100℃でロール混錬した。次いで、得られた混錬物を冷却した後、これを粉砕して粉粒状の樹脂組成物を得た。ついで、高圧で打錠成形することにより、タブレット状の樹脂組成物を得た。
【0154】
[原料]
エポキシ樹脂(A)
・エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(NC3000L、日本化薬社製)
【0155】
硬化剤(B)
・硬化剤1:以下の方法で合成した活性エステル硬化剤
(活性エステル硬化剤の合成方法)
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、1,3-ベンゼンジカルボン酸ジクロリド203.0g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。
得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-3)においてR及びRが水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。活性エステル樹脂の繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。
【0156】
高誘電率充填剤(C)
・高誘電率充填剤1:チタン酸カルシウム(平均粒径2.0μm、誘電率135)
【0157】
インデン樹脂(D)
・インデン樹脂1:以下の式(P)で表されるインデン-スチレン-フェノールコオリゴマー(インデン由来の構造単位のモル含有量90%以上99%以下、IP-100、重量平均分子量Mw=710、数平均分子量Mn=420、多分散度Mw/Mn=1.69、日鉄ケミカル&マテリアル社製)
【0158】
【化19】
【0159】
カップリング剤(E)
・カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(CF4083、東レ・ダウコーニング社製)
・カップリング剤2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(サイラエース、JNC社製)
【0160】
硬化触媒(F)
・触媒1:テトラフェニルフォスフォニウム-4,4’-スルフォニルジフェノラート
【0161】
その他
・無機充填剤1:溶融球状シリカ(デンカ社製)
・着色剤1:黒色酸化チタン(赤穂化成)
・離型剤1:グリセリントリモンタン酸エステル(リコルブWE-4、クラリアントジャパン社製)
【0162】
(2)測定・評価
得られた樹脂組成物を用いて以下の測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0163】
[空洞共振器法による誘電率および誘電正接の評価]
まず、樹脂組成物を用いて、以下の手順で、試験片を得た。
上記(1)で調製した各樹脂組成物を、Si基板に塗布し、120℃で4分間プリベークを行い、塗布膜厚12μmの樹脂膜を形成した。これを、窒素雰囲気下、オーブンを用いて200℃で90分加熱し、フッ酸処理(2質量%フッ酸水溶液に浸漬)した。フッ酸から基板を取り出した後に、硬化膜をSi基板から剥離して、これを試験片とした。
測定装置は、ネットワークアナライザHP8510C、シンセサイズドスイーパHP83651AおよびテストセットHP8517B(全てアジレント・テクノロジー社製)を用いた。これら装置と、円筒空洞共振器(内径φ42mm、高さ30mm)とを、セットアップした。
上記共振器内に試験片を挿入した状態と、未挿入状態とで、共振周波数、3dB帯域幅、透過電力比などを、周波数1MHzで測定した。そして、これら測定結果をソフトウェアで解析的に計算することで、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を求めた。なお、測定モードはTE011モードとした。
【0164】
[スパイラルフローの測定(ST)]
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、上記(1)で調製した各樹脂組成物を注入し、流動長(cm)を測定した。
【0165】
[ゲルタイム(GT)]
上記(1)で調製した各樹脂組成物を、175℃に加熱した熱板上で溶融させた後、これをヘラで練りながら硬化するまでの時間(単位:秒)を測定した。
【0166】
[機械強度の評価(曲げ強度/曲げ弾性率)]
上記(1)で調製した各樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの各成形品を得た。
次いで、得られた各成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させ、機械的強度の評価用の試験片とした。
各試験片について、室温(25℃)または260℃における曲げ強度(N/mm)および曲げ弾性率(N/mm)をそれぞれ、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0167】
【表1】
【符号の説明】
【0168】
10 マイクロストリップアンテナ
12 誘電体基板
14 放射導体板
16 地導体板
図1